IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図1
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図2
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図3
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図4
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図5
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図6
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図7
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図8
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図9
  • 特開-研削焼け状態評価装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073876
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】研削焼け状態評価装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 49/10 20060101AFI20240523BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20240523BHJP
   B24B 5/04 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B24B49/10
B24B49/04 A
B24B5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184838
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直規
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034BB92
3C034CA02
3C034CA15
3C034CB20
3C034DD18
3C043AA01
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C043DD05
3C043DD06
(57)【要約】
【課題】研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供する。
【解決手段】研削焼け状態評価装置1は、渦電流センサ20、第1特徴情報取得部41、変曲点算出部44、変曲点時刻抽出部48、研削焼け状態評価部49を備える。渦電流センサ20は、励磁電流により工作物Wの内部に誘導した渦電流により生じる磁界に応じた出力信号を出力する。第1特徴情報取得部41は、渦電流センサによる交流の出力信号を直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値の少なくとも一方と時刻情報とを紐づけてなる第1特徴情報を取得する。変曲点算出部44は、第1特徴情報から複素平面に表された出力信号Pの軌跡における変曲点を算出する。変曲点時刻抽出部48は変曲点の時刻を抽出する。研削焼け状態評価部49は、変曲点時刻に基づいて加工中の工作物Wの被加工部の研削焼け状態を評価する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物における被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価装置であって、
上記工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた交流の出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサにより出力された出力信号を直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値の少なくとも一方と上記工作物を研削した時刻である時刻情報とを紐づけてなる第1特徴情報を取得する第1特徴情報取得部と、
上記第1特徴情報から、上記複素平面に表された上記出力信号の軌跡における変曲点を算出する変曲点算出部と、
上記変曲点を呈する時刻を変曲点時刻として抽出する変曲点時刻抽出部と、
上記変曲点時刻に基づいて、加工中の上記工作物の上記被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価部と、
を備える、研削焼け状態評価装置。
【請求項2】
上記工作物の研削加工は、粗研工程の後に精研工程を行うように構成されており、
上記工作物の寸法情報を取得する寸法情報取得部と、
上記寸法情報取得部により取得された寸法情報と上記時刻情報とを紐づけてなる第2特徴情報を取得する第2特徴情報取得部と、
を備え、
上記研削焼け状態評価部は、上記研削焼け状態の評価結果として、上記第2特徴情報における上記変曲点時刻での上記寸法情報と粗研工程終了時刻での上記寸法情報とに基づいて、上記粗研工程終了時刻において上記工作物に生じた研削焼け深さを算出する、請求項1に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項3】
上記研削焼け状態評価部は、上記第1特徴情報に基づいて粗研工程終了時刻に研削焼けが生じたか否かを判定し、研削焼けが生じたと判定されたときに上記研削焼け状態の評価を行う、請求項2に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項4】
上記研削焼け状態評価部は、上記研削焼け状態の評価結果として、上記第1特徴情報に基づいて研削焼けが生じたかを判定する、請求項1に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項5】
上記第1特徴情報は、上記渦電流センサの出力信号における少なくとも上記複素平面の虚軸の値と上記時刻情報とが紐づけられてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項6】
上記変曲点は、上記複素平面に表される上記渦電流センサにより出力された上記出力信号の軌跡のベクトルの向きが、上記複素平面の虚軸方向において変化する点である、請求項5に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項7】
上記第1特徴情報は、少なくとも上記実軸の値と上記時刻情報とが紐づけられてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項8】
上記変曲点は、上記複素平面に表される上記渦電流センサにより出力された上記出力信号の軌跡のベクトルの向きが、上記複素平面の実軸方向において変化する点である、請求項7に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項9】
上記第1特徴情報は、上記虚軸の値及び上記実軸の値と上記時刻情報とが紐づけられてなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項10】
上記変曲点は、上記複素平面に表される上記渦電流センサにより出力された上記出力信号の軌跡のベクトルの向きが、上記複素平面の虚軸方向及び実軸方向において変化する点である、請求項9に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項11】
上記複素平面に表される上記渦電流センサにより出力された上記出力信号の軌跡を表示する表示部を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項12】
評価対象の工作物に付与される励磁電流の周波数を設定する周波数設定部と、
上記励磁電流の周波数ごとに、上記変曲点に到達したか否かを判定するための変曲点判定基準が予め記憶された変曲点判定基準記憶部と、
を備え、
上記変曲点時刻抽出部は、上記評価対象の工作物に付与された励磁電流の周波数に対応する上記変曲点判定基準に基づいて上記変曲点に到達したか否かを判定し、上記変曲点に到達したと判定したときの時刻を上記変曲点時刻として抽出する、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項13】
上記変曲点判定基準は、励磁電流の周波数と、該周波数を有する励磁電流を加工中の変曲点判定基準作成用の工作物に付与して取得された上記第1特徴情報と、該変曲点判定基準作成用の工作物の研削焼け状態との対応関係に基づいて作成される、請求項12に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項14】
上記工作物の研削加工は、上記工作物の中心線を中心として、研削加工を行うための工具に対して相対的に上記工作物を回転させて行われるとともに、上記粗研工程の終了時刻から上記工作物が1回転または所定数回転するごとの時刻を回転時刻として取得する回転時刻取得部を備え、
上記変曲点時刻抽出部は、上記回転時刻取得部に記憶された複数の回転時刻の中から上記変曲点時刻を抽出する、請求項2又は3に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項15】
上記寸法情報取得部により取得された上記変曲点時刻及び上記研削加工の終了時刻における上記寸法情報に基づいて、上記工作物における研削の余裕度を算出する余裕度算出部を備える、請求項2又は3に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項16】
上記研削焼け状態評価部の評価結果に基づいて、上記工作物の研削条件を調整する研削条件調整部を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削焼け状態評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物を研削加工する際、工作物における加工部位の温度が高温になりやすいため、加工条件によっては工作物の表面に研削焼けが生じることがある。研削焼けは工作物の機械的強度を低下させる要因となるおそれがあるため好ましくない。このような研削焼けを検出する方法として、励磁電流により工作物に発生させた渦電流による磁界の変化が研削焼けの有無により異なることを利用して、研削焼けの有無や研削焼けの深さを評価することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の構成では、渦電流センサを用いて周波数の異なる2種類の励磁電流により生じるそれぞれの渦電流の出力信号を比較することで研削焼けの有無を高精度に検出している。また、特許文献2に開示の構成では、渦電流センサを用いて周波数の異なる2種類の励磁電流により生じるそれぞれの渦電流の出力信号を、工作物に残留する残留磁束密度の成分を除去する補正することで、研削焼けの有無の判定精度を向上させている。また、これらの方法とは別に、研削加工終了後の工作物をナイタールなどの腐食液によりエッチング処理して表面状態を観察することで、工作物表面の研削焼け状態を評価することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-106932号公報
【特許文献2】特開2018-189603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示の構成やエッチングによる評価では、研削加工終了後の研削焼け状態を評価するものであるため、研削焼け状態の評価結果を取得するのに、研削加工の終了を待つ必要があり時間を要している。また、加工途中で生じた研削焼けがその後の研削加工によって研削加工終了までに除去できるか否か、すなわち加工終了時に研削焼けが残留するか否かが研削加工の終了まで判断できないため、複数の工作物を連続的に研削加工する場合には、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されてしまう恐れがある。
【0006】
そこで、研削加工中の工作物に励磁電流を付与して渦電流センサにより取得した信号に基づいて加工中の研削焼け状態を評価することが考えられる。しかしながら、加工中の研削熱によって工作物に軟化層を生じない場合においても工作物自体の磁気特性が変化したり、加工変質層(軟化層、再焼入れ層)の違いが渦電流センサの出力に影響を与えたりするため、研削焼け状態を正確に評価することが困難である。
【0007】
本発明は、研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物における被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価装置であって、
上記工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた交流の出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサによる出力信号を直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸及び実軸の少なくとも一方の値と時刻情報とを紐づけてなる第1特徴情報を取得する第1特徴情報取得部と、
上記第1特徴情報から、上記複素平面に表された上記出力信号の軌跡における変曲点を算出する変曲点算出部と、
上記変曲点を呈する時刻を変曲点時刻として抽出する変曲点時刻抽出部と、
上記変曲点時刻に基づいて、加工中の上記工作物の上記被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価部と、
を備える、研削焼け状態評価装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、励磁電流により加工中の工作物の内部に生じた渦電流を渦電流センサにより検出し、渦電流センサにより出力された出力信号を直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値の少なくとも一方と時刻情報とが紐づけられた第1特徴情報を取得する。そして、第1特徴情報から、上記複素平面に表された上記出力信号の軌跡における変曲点を算出し、変曲点を呈する時刻を変曲点時刻として抽出する。本願発明者らは、当該変曲点時刻は、研削加工により工作物に生じた研削焼けを示す加工変質層(軟化層ともいう)がその後の研削加工で除去された時刻に相当することを新たに見出した。したがって、変曲点時刻を抽出することで、加工中の工作物の被加工部における研削焼け状態を評価することができる。このように、複素平面に表示された渦電流センサの出力信号の軌跡における変曲点の時刻を指標として研削焼け状態を評価することにより、高精度に研削焼け状態を評価することができる。そして、研削焼け状態を評価するために工作物の加工が終了するまで待つ必要がないため、複数の工作物を連続的に研削加工する場合でも、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されてしまうことを防止できる。
【0010】
以上のごとく、上記態様によれば、研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態1における、研削焼け状態評価装置を含む研削加工システムの構成を示す概念図。
図2】実施形態1における、研削焼け状態評価装置の構成を示す機能ブロック図。
図3】実施形態1における、定寸装置の構成を示す図。
図4】実施形態1における、渦電流センサにおける同期検波の概要を説明する図。
図5】実施形態1における、(a)第1の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図、(b)第1の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
図6】実施形態1における、(a)第2の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図、(b)変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
図7】実施形態1における、変曲点が描かれない場合の渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
図8】実施形態1における、研削加工のフロー図。
図9】実施形態1における、工作物の寸法情報の時間変化を示す図。
図10】実施形態1における、研削焼け状態評価処理のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
実施形態1の研削焼け状態評価装置1は、加工装置により研削加工される工作物Wの研削焼け状態を評価する。以下、各構成について詳述する。
【0013】
1.加工装置の構成
実施形態1では、加工装置としての図1に示す研削盤2を備える。研削盤2は、工作物Wを中心線Cを中心に回転させ、回転体である工具としての砥石車16を回転させ、かつ、砥石車16を工作物Wに対して工作物Wの軸線に交差する方向に相対的に接近させることにより、工作物Wの外周面または内周面を研削する。研削盤2は、テーブルトラバース型の研削盤、砥石台トラバース型の研削盤などを適用可能である。また、研削盤2は、円筒研削盤、カム研削盤等を適用可能である。
【0014】
本実施形態においては、図1に示すように、工作物Wは、例えば、軸状に形成された部材とし、工作物Wの外周面が被加工部である場合を例にあげる。ただし、工作物Wの形状は、軸状に限られず、内周面を有する筒状など、任意の形状とすることができる。工作物Wが筒状である場合は工作物Wの内周面を被加工部とすることができる。
【0015】
本実施形態においては、工作物Wは、略棒状であって両端において工作物支持部材により支持される。ただし、図1に示す工作物Wは、一例であって、研削盤2は、種々の形状を有する工作物を研削加工の対象とすることができる。
【0016】
処理部3は、研削焼け状態評価装置1と、研削盤2を制御する制御装置31とを備える。研削焼け状態評価装置1は後述するように、工作物Wにおける研削による研削焼け状態を評価し、当該評価結果に基づいて工作物Wにおける研削条件を調整する。制御装置31は、研削盤2を制御することにより、研削加工を制御する。
【0017】
研削焼け状態評価装置1は、研削盤2および制御装置31とは独立したシミュレーション装置として機能させることもできるし、研削盤2および制御装置31と連動して動作するシミュレーション装置として機能させることもできる。前者の場合には、研削焼け状態評価装置1は、例えば、実際の工作物Wの研削加工を行うことなく、最適な研削条件を決定することができる。後者の場合には、研削焼け状態評価装置1は、研削盤2による工作物Wの研削加工と並行して処理することにより、例えば、研削焼けの有無を判定したり、研削条件を調整したり、各種制御に影響を及ぼすように動作したりすることができる。また、研削焼け状態評価装置1は、研削盤2および制御装置31の組込みシステムとすることもできる。
【0018】
2.研削盤2および制御装置31の構成
研削盤2の構成について、図1を参照して説明する。本実施形態1においては、研削盤2は、砥石台トラバース型の円筒研削盤を例にあげる。ただし、研削盤2は、テーブルトラバース型を適用することもできる。研削盤2は、主として、ベッド11、主軸台12、心押台13、トラバースベース14、砥石台15、砥石車16、定寸装置17、砥石車修正装置18、クーラント装置19及び渦電流センサ20を備える。
【0019】
ベッド11は、設置面上に固定されている。主軸台12は、ベッド11の上面において、X軸方向の手前側(図1の下側)且つZ軸方向の一端側(図1の左側)に設けられている。主軸台12は、工作物Wの中心線Cを中心としてZ軸回りに工作物Wを回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台12に設けられたモータ12aの駆動により回転される。心押台13は、ベッド11の上面において、主軸台12に対してZ軸方向に対向する位置、すなわち、X軸方向の手前側(図1の下側)且つZ軸方向の他端側(図1の右側)に設けられている。つまり、主軸台12および心押台13が、工作物Wを回転可能に両端支持する。
【0020】
トラバースベース14は、ベッド11の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース14は、ベッド11に設けられたモータ14aの駆動により移動する。砥石台15は、トラバースベース14の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台15は、トラバースベース14に設けられたモータ15aの駆動により移動する。砥石車16は、砥石台15に回転可能に支持されている。砥石車16は、砥石台15に設けられたモータ16aの駆動により回転する。砥石車16は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。
【0021】
定寸装置17は、工作物Wの寸法(径)を測定する検出器として機能する。ただし、検出器は、定寸装置17に限定されず、単一のプローブを有する接触式センサやレーザ変位計などの非接触式センサであってもよい。なお、定寸装置17は図示しない機構を介してトラバースベース14と同期してZ軸方向に移動可能に設けられている。
【0022】
図3に示すように、定寸装置17は、装置本体171と、一対の接触子172a,172bと、一対のフィンガ173a,173bと、差動トランス174とを主に備える。接触子172a,172bは、工作物Wの外周面に対して接触可能に設けられる。具体的に、一対の接触子172a,172bのうち、一方の接触子172aは、工作物Wの外周面に対して上方から接触し、他方の接触子172bは、工作物Wの外周面に対して下方から接触する。フィンガ173a,173bは、接触子172a,172bを保持すると共に、装置本体171に対し、接触子172a,172bを相対変位可能に支持する。具体的に、一対のフィンガ173a,173bのうち、一方のフィンガ173aは、一方の接触子172aを支持し、他方のフィンガ173bは、他方の接触子172bを支持する。
【0023】
差動トランス174は、装置本体171に収容される。差動トランス174は、一対の接触子172a,172bの変位に伴って変位する一対のフィンガ173a,173bの変位を検出し、フィンガ173a,173bの変位に応じた電気信号を制御装置31に出力する。制御装置31は、差動トランス174から出力された電気信号に基づいて、一対の接触子172a,172bが工作物Wの外周面に接触したときのフィンガ173a,173bの位置を検知し、フィンガ173a,173bの位置に基づいて、定寸装置17による工作物Wの外径の測定結果を取得することができる。なお、定寸装置17には、他の検出器として、加速度センサ、マイクロフォン、温度センサなどが取り付けられていてもよい。
【0024】
渦電流センサ20は、センサヘッドが工作物Wの被加工部に対向するように設けられている。なお、渦電流センサ20は後述する研削焼け状態評価装置1の一部を構成している。本実施形態1では、図3に示すように、渦電流センサ20のセンサヘッドが定寸装置17の装置本体171に取り付けられて、工作物Wに対して砥石車16と反対側に位置している。なお、図1及び図3において、符号20はセンサヘッドの位置を図示し、センサ本体は図示を省略する。
【0025】
渦電流センサ20は、励磁電流により工作物Wの内部に渦電流を誘導し、渦電流により生じる磁界に応じた交流の信号を出力するものである。渦電流センサ20は、出力信号の位相を変更可能に構成されているものであってよい。本実施形態では、図2に示すように、渦電流センサ20は、発振部21としてのコイルを有しており、当該コイルに励磁電流を供給することにより、渦電流センサ20のセンサヘッドの先端に設けられたプローブ22に出力信号を印加することにより工作物Wに磁場を印加し、工作物Wの内部に渦電流を誘導する。そして、渦電流センサ20はプローブ22を介して取得したインピーダンスの変化を増幅部23で増幅して検波部24に入力し、発振部21の周波数成分だけを取り出し、信号処理部25において信号の処理を行う。
【0026】
検波部24では、同期検波により信号の検出を行う。図4に示すように、検波部24の入力信号v(t)は,プローブ22の出力を増幅部23で増幅した信号であり、v(t)を以下の式(1)のように定義される。なお、tは時間,Aは振幅,fは渦電流センサ20の内部の発振部21の周波数,θは渦電流センサ20内部の発振部21との位相差である。
【0027】
【数1】
【0028】
そして、増幅部23を通過したv(t)は検波部24において、v(t)に発振部21の周波数fと同じ周波数の正弦波sin2πftを掛ける。これをx(t)とする。同様にcos2πftを掛けた結果をy(t)とする。x(t)とy(t)は次の式(2)、(3)のように表すことができる。
【0029】
【数2】
【0030】
【数3】
【0031】
次に、x(t)とy(t)を十分低いカットオフ周波数fcを持つローパスフィルタに通す。なお、一般にfc<<fの関係を有する。式(2),(3)の第1項はtを含むため交流であるが、第2項はtを含まないため直流である。よってローパスフィルタ後の式(2),(3)はそれぞれ次式(4)、(5)に示す実軸信号X,虚軸信号Yのようになる。
【0032】
【数4】
【0033】
【数5】
【0034】
そして、式(4),(5)から次式(6)、(7)に示すようにv(t)のAとθを得ることができる。
【0035】
【数6】
【0036】
【数7】
【0037】
信号処理部25では、検波部24の実軸信号X、虚軸信号Yに対してゲインや位相の操作を行う。したがって、渦電流センサ20の出力信号は,検波部24から信号処理部25を通って出力され、渦電流センサ20の周波数特性は検波部24と信号処理部25の周波数特性を掛けたものになる。一般に信号処理部25の周波数特性は検波部24の周波数特性以下である。信号処理部25から出力された出力信号においてXは実軸信号、Yは虚軸信号を示す。実軸信号Xは出力信号Pにおける実軸の値を示し、虚軸信号Yを出力信号Pにおける虚軸の値を示す。
【0038】
渦電流センサ20において、上記コイルには周波数の異なる複数の励磁電流を供給できるように構成されている。本実施形態1では、励磁電流の周波数は、後述する周波数設定部52により設定することができる。渦電流の浸透深さはその励磁電流の周波数により異なるため、励磁電流の周波数は目標とする渦電流の浸透深さに応じて設定することができる。目標とする渦電流の浸透深さは研削焼けが発生しうる表層部に一致させるようにし、例えば、加工表面から1~100μmとすることができ、好ましくは1~50μm、より好ましくは10~30μmとすることができる。浸透深さが浅い場合は、渦電流センサの感度が高くなりすぎてSN比が低下し、検出精度が低下する。一方、浸透深さが深い場合は、加工表面から浅い領域において磁気特性変化特性の検出レベルが低下するため検出精度が低下する。
【0039】
上述の浸透深さに応じた励磁電流の周波数は、20kHz~200MHzの周波数帯に設定することができ、好ましくは100kHz~200MHz、より好ましくは250~2500kHzとすることができる。本実施形態では、渦電流の浸透深さが30μmとなるように励磁電流の周波数を250kHzに設定している。
【0040】
図1に示す砥石車修正装置18は、砥石車16の形状を修正する。砥石車修正装置18は、砥石車16のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置18は、ツルーイングに加えて、または、ツルーイングに代えて、砥石車16のドレッシングを行う装置としてもよい。さらに、砥石車修正装置18は、砥石車16の寸法(径)を測定する機能も有する。
【0041】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車16が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車16を成形する作業、片摩耗によって砥石車16の振れを取り除く作業等である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0042】
クーラント装置19は、クーラントノズルから砥石車16による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置19は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。クーラント装置19は、クーラントの流量や供給タイミングの調整が可能となっている。なお、図1において、符号19はクーラントノズルの位置を図示する。また、図示しないが、検出器として、回収したクーラントの温度を取得する温度センサが備えられていてもよい。
【0043】
制御装置31は、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、研削盤2における砥石車16やクーラント装置19等の駆動を制御することにより工作物Wの研削を行う。特に、制御装置31は、後述する研削条件調整部50により作成された研削条件と、定寸装置17により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状(目標形状)となるまで研削を行う。また、制御装置31は、砥石車16を修正するタイミングにおいて、砥石車修正装置18等を制御することにより、砥石車16の修正(ツルーイングおよびドレッシング)を行う。
【0044】
3.研削焼け状態評価装置1の構成
図2に示すように、研削焼け状態評価装置1は、渦電流センサ20、信号取得部40、第1特徴情報取得部41、時刻記憶部42、変曲点判定基準記憶部43、変曲点算出部44、寸法情報取得部45、第2特徴情報取得部46、回転時刻取得部47、変曲点時刻抽出部48、研削焼け状態評価部49、研削条件調整部50、余裕度算出部51、周波数設定部52を備え、これらは記憶装置又は演算装置により構成される。また、研削焼け状態評価装置1は、研削焼け状態表示部53、複素平面表示部54を備え、これらは所定の表示装置により構成される。
【0045】
信号取得部40は、渦電流センサ20から出力された出力信号Pを取得する。出力信号Pは、直交座標形式の複素平面に表したときに虚軸Yの値及び実軸Xの値を有し、複素平面において図5(b)や図6(b)に示すように表すことができる。
【0046】
第1特徴情報取得部41は、第1特徴情報を取得する。第1特徴情報は、信号取得部40により取得された出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値の少なくとも一方と工作物Wを研削した時刻である時刻情報とを紐づけてなる情報である。本実施形態では、図5(b)に示す複素平面に表された出力信号Pの虚軸の値及び実軸の値の両方が後述の時刻記憶部42により計測された研削加工の開始時から経過時刻が紐づけられている。
【0047】
時刻記憶部42は、研削加工の開始時T0から経過時刻を測定する。なお、本実施形態では、工作物Wの研削加工S1は、図8に示すように、粗研工程S11、精研工程S12、微研工程S13、スパークアウト工程S14を有する。なお、各工程の説明は後述する。
【0048】
図2に示す変曲点判定基準記憶部43は、励磁電流の周波数ごとに、複素平面に表した上記出力信号が後述する変曲点に到達したか否かを判定するための変曲点判定基準が予め記憶されている。本実施形態では、変曲点判定基準は、励磁電流の周波数と、該周波数を有する励磁電流を加工中の変曲点判定基準作成用の工作物に付与して取得された第1特徴情報と、変曲点判定基準作成用の工作物の研削焼け状態との対応関係に基づいて作成することができる。なお、変曲点判定基準作成用の工作物は、図1に示す評価対象の工作物Wと同一形状及び同一素材を有する。
【0049】
変曲点判定基準は、例えば、励磁電流の周波数が250kHzである場合の第1特徴情報と研削焼け状態との対応関係が図5(a)、(b)に示され、励磁電流の周波数が1000kHzである場合の第1特徴情報と研削焼け状態との対応関係が図6(a)、(b)に示される。励磁電流の周波数が250kHzの場合と励磁電流の周波数が1000kHzの場合とを比較すると、複素平面に示される対応関係は、1000kHzの場合は250kHzの場合を-90度回転させたような形状となって表される。
【0050】
次に、複素平面における出力信号Pの軌跡について図5(b)を参照して説明する。図5(b)に示す複素平面において、渦電流センサ20から出力された出力信号Pは、研削加工の開始時刻では符号A1で示す位置にプロットされる。その後、粗研工程S11において、工作物Wに研削焼けが生じるとこれに応じて磁気特性が変化することにより、出力信号Pは時間経過に伴って複素平面上の実軸の値が小さくなるとともに、虚軸の値が若干大きくなる。その後、実軸の値が小さくなるとともに虚軸の値が小さくなり、その後、実軸の値は大きくなるとともに、虚軸の値が小さくなって符号A2の位置に到達して粗研工程S11が終了する。
【0051】
その後、精研工程S12が開始すると、工作物Wに生じていた研削焼け(加工変質層、軟化層)が徐々に除去されることに伴って、複素平面における出力信号Pは、実軸の値が小さくなるとともに、虚軸の値は徐々に大きくなる。すなわち、精研工程S12が開始時点B1付近では、複素平面における出力信号Pの軌跡における虚軸方向のベクトルの向きは上方向となっている。その後、さらに研削が進み符号B2の位置に到達すると、実軸の値は大きくなるが虚軸の値は引き続き徐々に大きくなる。そして、符号B3で示す位置では、実軸の値は引き続き大きくなるが虚軸の値は小さくなる。すなわち、符号B3において、出力信号Pは精研工程S12での最大値となり、その後から複素平面における出力信号Pの軌跡における虚軸方向のベクトルの向きは下向きに変化する。その後、実軸の値は大きくなるとともに、虚軸の値は小さくなって符号B4の位置に到達して粗研工程S11が終了する。
【0052】
変曲点算出部44は、変曲点判定基準に基づいて変曲点を算出する。変曲点は、虚軸方向または実軸方向において、複素平面における出力信号Pのベクトルの向きが変わる点を示すものとする。したがって、図5(b)に示す励磁電流の周波数が250KHzの場合では、虚軸方向における出力信号Pのベクトルの向きが上向きから下向きに変わる点B3が変曲点として表される。なお、図6(b)に示す励磁電流の周波数が1000KHzの場合でも、虚軸方向における出力信号Pのベクトルの向きが下向きから上向きに変わる点が変曲点B3として表されている。
【0053】
複素平面における出力信号Pの軌跡は、励磁電流の周波数によって変化するため、変曲点の変曲点判定基準も変化することとなる。本実施形態では、変曲点判定基準記憶部43には、変曲点判定基準(マスター)作成用の工作物について、励磁電流の周波数ごとに複素平面における出力信号Pの軌跡が記憶されており、これに基づいて、励磁電流の周波数ごとに変曲点判定基準が記憶される。例えば、上述のように、励磁電流の周波数が250KHzの場合の変曲点判定基準は、図5(b)に示す変曲点判定基準記憶部43に記憶された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが、精研工程S12において虚軸方向において上向きから下向きに変わる点を変曲点とするとのものである。また、励磁電流の周波数が1000KHzの場合の変曲点判定基準は、図6(b)に示す変曲点判定基準記憶部43に記憶された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが、精研工程S12において虚軸方向において下向きから上向きに変わる点を変曲点とするとのものである。
【0054】
さらに、変曲点判定基準記憶部43では、変曲点判定基準作成用の工作物について、第1特徴情報と研削焼け状態との対応関係も記憶されている。図5(b)に示す励磁電流の周波数が250KHzの場合では、精研工程S12において、精研工程開始点B1から変曲点B3までの領域は、工作物Wに研削焼けとなる軟化層が存在している状態を示す。そして、変曲点B3から加工終了点B4の近傍までの領域では、工作物Wに軟化層は存在していないが、軟化層の深層側に形成されていた残留オーステナイト減少層が工作物Wに残留した状態を示す。なお、残留オーステナイト減少層は軟化層に比べて機械特性が母材に近いため、研削焼けに含めない。そして、加工終了点B4では、残留オーステナイト減少層も存在していない状態である。これは、図6(b)に示す励磁電流の周波数が1000KHzの場合でも同様である。
【0055】
図2に示す寸法情報取得部45は、工作物Wの寸法情報を取得する。工作物Wの寸法情報は、本実施形態では、上述の通り、定寸装置17により工作物Wの加工中の寸法を検出することができる。なお、定寸装置17に替えて、制御装置31から出力される工作物Wの切込み軸となるZ軸の座標位置に基づいて工作物Wの寸法情報を間接的に算出して取得することとしてもよい。
【0056】
第2特徴情報取得部46は、第2特徴情報を取得する。第2特徴情報は、寸法情報取得部45により取得された寸法情報と時刻情報とを紐づけてなる情報である。
【0057】
回転時刻取得部47は、粗研工程S11の終了時刻から、工作物Wが1回転または所定数回転するごとに取得した時刻を回転時刻として記憶する。本実施形態では、粗研工程S11の終了時刻から工作物Wが1回転するごとに取得した時刻を回転時刻として記憶する。ここで、研削加工S1において、研削焼けは研削能率の高い粗研工程S11において生じる。したがって、粗研工程S11の終了時刻に砥石車16により研削加工された被加工部は、研削焼けの深さである焼け深さが最も大きくなる。そして、当該回転時刻は、図5(a)において、実軸信号において繰り返し到来する谷形形状の底部の時刻に相当する。なお、各谷形形状の底部をつなぎ合わせることで下側包絡線が描かれる。
【0058】
変曲点時刻抽出部48は、第1特徴情報から、複素平面に表された出力信号の軌跡における変曲点を呈する時刻を変曲点時刻として抽出する。本実施形態では、変曲点時刻は、回転時刻取得部47により取得された複数の回転時刻の中から抽出される。
【0059】
研削焼け状態評価部49は、変曲点時刻抽出部48により抽出された変曲点時刻に基づいて、加工中の工作物Wの被加工部の研削焼け状態を評価する。研削焼け状態の評価は、研削焼けの有無、粗研工程S11の終了時刻において工作物Wに生じていた研削焼けの深さなどを対象とすることができる。
【0060】
研削条件調整部50は、研削焼け状態評価部49の評価結果に基づいて、上記工作物の研削条件を調整する。例えば、研削焼けありとの評価結果の場合は、粗研工程S11における研削能率を低下させて研削焼けが残留しないように、粗研工程S11で生じた研削焼け(軟化層)が、後の精研工程S12において除去されるようにすることができる。また、研削焼けなしとの評価結果の場合は、後述の余裕度を参照して、研削焼けが残留しない範囲内で研削能率を上昇させるようにすることができる。
【0061】
余裕度算出部51は、寸法情報取得部45により取得された変曲点時刻、研削加工の終了時刻のそれぞれにおける工作物Wの寸法情報に基づいて、工作物Wにおける研削の余裕度を算出する。変曲点B3の時刻である変曲点時刻以降では、工作物Wに研削焼け(軟化層)が残存しない状態となる。そのため、図9に示すように、精研工程開始B1の時刻T1から変曲点時刻Taまでに研削した深さD1が、粗研工程S11において工作物Wに発生していた研削焼けの深さを示し、変曲点時刻Taから研削終了時刻Teまで研削した深さD2が研削の余裕度を示す。
【0062】
周波数設定部52は、上述の通り、渦電流センサ20における励磁電流の周波数を設定する。励磁電流の周波数の設定範囲は限定されないが、上述のごとく設定することができる。
【0063】
研削焼け状態表示部53は、研削焼け状態の評価結果を表示する。また、複素平面表示部54は、複素平面に表された上記出力信号Pの軌跡を表示する。
【0064】
4.研削加工処理S1の説明
研削加工処理S1について図8を参照して説明する。上述の通り、研削加工処理S1は、粗研工程S11、精研工程S12、微研工程S13、スパークアウト工程S14を含む。
【0065】
粗研工程S11では、制御装置31により、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて、砥石車16を所定の速度で回転させて、第1切込み量で工作物Wを研削する。精研工程S12では、制御装置31により工作物Wを第1切り込み量よりも低い第2切り込み量で研削する。微研工程S13では、制御装置31により工作物Wを第2切り込み量よりも低い第3切り込み量で研削する。スパークアウト工程S14では、予め設定された回転数で工作物Wを回転させて微研工程S13における研削残しの分を研削して断面形状を真円形状とする。スパークアウト工程S14における切り込み量はゼロに設定することができる。
【0066】
切り込み量は制御装置31により砥石車16の切込み位置を制御することにより調整できる。各工程S11~S13における第1~第3切込み量は上述の関係を満たす範囲で適宜設定され、スパークアウト工程S14における実切込み量は実質的にゼロとなっている。そして、粗研工程S11での第1切り込み量が最も大きくなっており、各工程S11~S14において粗研工程S11は研削能率が最も高い。そのため、研削焼けは実質的に粗研工程S11でのみ生じることとなる。
【0067】
5.研削焼け状態の評価処理S2
次に研削焼け状態評価装置1による、研削焼け状態の評価処理S2について、図10のフロー図を参照して説明する。研削焼け状態の評価処理S2は研削加工処理S1と並行して行う。
【0068】
研削焼け状態の評価S2では、まず、第1の並列処理S21~S24と第2の並列処理S25~S27を行う。第1の並列処理ではステップS21において、周波数設定部52により渦電流センサ20における励磁電流の周波数を設定する。その後、ステップS22において、渦電流センサ20により工作物Wに渦電流を生じさせて、信号取得部40により渦電流センサ20の出力信号である出力信号Pを取得する。その後、ステップS23において、第1特徴情報取得部41により、出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値と、研削開始時刻から経過した時刻情報とを紐づけてなる第1特徴情報を取得する。取得された第1特徴情報は、複素平面表示部54に表示することができる。なお、時刻情報は時刻記憶部42に記憶される。
【0069】
そして、ステップS24において、変曲点算出部44により、変曲点判定基準の設定を行う。変曲点判定基準の設定は、ステップS21で設定された励磁電流の周波数に基づいて行う。本実施形態では、例えば、励磁電流の周波数として250kHzが設定されている場合は、変曲点判定基準として、図5(b)に示す変曲点判定基準記憶部43に記憶された周波数250kHzの場合の判定基準を設定する。すなわち、出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが虚軸において上向きから下向きに変化する点を変曲点とするとの判定基準を設定する。
【0070】
また、第2の並列処理ではステップS25おいて、定寸装置17により工作物Wを測定し、その測定結果を寸法情報取得部45により寸法情報として取得する。その後、ステップS26において、回転時刻取得部47により、精研工程S12において、工作物Wが粗研工程終了時刻以降における各回転時刻を取得する。その後、ステップS27において、第2特徴情報取得部46により、寸法情報取得部45により取得された寸法情報と研削開始時刻から経過した時刻情報とを紐づけてなる第2特徴情報を取得する。
【0071】
その後、ステップS28において、変曲点算出部44により変曲点B3を算出する。変曲点B3が算出できない場合は、ステップS28のNoに進み、ステップS29において、研削焼け状態評価部49は、研削焼けが生じていないと評価し、このフローを終了する。なお、変曲点B3が算出できない場合とは、例えば、図7に示すように、出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときに、出力信号Pの軌跡が変曲点を描かないような場合であって、この出力信号Pの軌跡では、図5(b)における精研工程開始点B1から変曲点B3までの軟化層が存在した状態を示す領域が形成されていないことから、軟化層すなわち研削焼けが生じていないと評価できる。
【0072】
一方、ステップS28において、変曲点B3が算出できた場合は、ステップS28のYesに進む。そして、ステップS30において、ステップS28で算出した変曲点と、ステップS27で取得した第2特徴情報とに基づいて変曲点時刻Taを抽出する。当該変曲点時刻Taは、第2特徴情報における回転時刻の中から抽出する。
【0073】
その後、ステップS31において、研削焼け状態評価部49により、粗研工程終了時T1の研削焼け深さを評価する。粗研工程終了時Teの研削焼け深さは、図9に示すように、粗研工程終了時刻T1の寸法情報と、変曲点時刻Taでの寸法情報との差分D1として算出される。算出された研削焼け深さは、研削焼け状態表示部53に表示することができる。
【0074】
さらに、ステップS32において、余裕度算出部51により、余裕度を算出する。余裕度は、変曲点時刻Taでの寸法情報と研削終了時Teの寸法情報との差分D2として算出される。そして、ステップS33において、研削条件調整部50により、算出された余裕度D2に基づいて、次回以降の工作物Wの研削を行うための研削条件を調整し、当該フローを終了する。
【0075】
6.作用効果
本実施形態1の研削焼け状態評価装置1によれば、励磁電流により加工中の工作物Wの内部に生じた渦電流を渦電流センサ20により検出し、渦電流センサ20により出力された出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値の少なくとも一方と時刻情報とが紐づけられた第1特徴情報を取得する。そして、第1特徴情報から、上記複素平面に表された出力信号Pの軌跡における変曲点B3を算出し、変曲点B3を呈する時刻を変曲点時刻Taとして抽出する。当該変曲点時刻Taは、研削加工により工作物Wに生じた研削焼けを示す加工変質層(軟化層ともいう)がその後の研削加工で除去された時刻に相当するため、変曲点時刻Taを抽出することで、加工中の工作物Wの被加工部における研削焼け状態を評価することができる。このように、複素平面に表示された渦電流センサ20の出力信号Pの軌跡における変曲点B3の時刻Taを指標として研削焼け状態を評価することにより、高精度に研削焼け状態を評価することができる。そして、研削焼け状態を評価するために工作物Wの加工が終了するまで待つ必要がないため、複数の工作物Wを連続的に研削加工する場合でも、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されてしまうことを防止できる。
【0076】
また、本実施形態1では、工作物Wの研削加工は粗研工程S11の後に精研工程S12を行うように構成されている。そして、研削焼け状態評価装置1は、工作物Wの寸法情報を取得する寸法情報取得部45と、寸法情報取得部45により取得された寸法情報と時刻情報とを紐づけてなる第2特徴情報を取得する第2特徴情報取得部46とを備える。研削焼け状態評価部49は、研削焼け状態の評価結果として、第2特徴情報における変曲点時刻Taでの寸法情報と粗研工程終了時刻T1での寸法情報とに基づいて、粗研工程終了時刻T1において工作物Wに生じた研削焼け深さを算出する。これにより、研削加工の終了を待たずして粗研工程終了時刻T1における研削焼け深さを高精度に算出することができる。
【0077】
また、本実施形態1では、研削焼け状態評価部49は、第1特徴情報に基づいて粗研工程終了時刻T1において研削焼けが生じたか否かを判定し、研削焼けが生じたと判定されたときに研削焼け状態の評価を行う。これにより、粗研工程終了時刻T1において研削焼けが発生していないときに研削焼け状態の評価を行うことを要しないため、演算負荷を低減できる。
【0078】
また、本実施形態1では、研削焼け状態評価部49は、研削焼け状態の評価結果として、第1特徴情報に基づいて研削焼けが生じたかを判定する。これにより、研削焼け発生の有無を早期に検知することができる。
【0079】
また、本実施形態1では、第1特徴情報は、渦電流センサ20の出力信号Pにおける少なくとも複素平面の虚軸の値と時刻情報とが紐づけられてなる。これにより、渦電流センサ20の出力信号Pにおける実軸の値を要しないため、演算負荷を低減できる。
【0080】
そして、本実施形態1では、変曲点Pは、複素平面に表される渦電流センサ20により出力された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが、複素平面の虚軸方向において変化する点である。これにより、変曲点B3の検出を容易かつ正確に行うことができる。
【0081】
なお、上記に替えて、渦電流センサ20の出力信号Pにおける実軸の値を変曲点の指標とすることができる場合は、第1特徴情報は、渦電流センサ20の出力信号Pにおける少なくとも実軸の値と時刻情報とが紐づけられてなるようにしてもよい。この場合は、渦電流センサ20の出力信号Pにおける虚軸の値を要しないため、演算負荷を低減できる。なお、この場合は、変曲点B3は、複素平面に表される渦電流センサ20により出力された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが複素平面の実軸方向において変化する点とすることで、変曲点B3の検出を容易かつ正確に行うことができる。
【0082】
さらに上記に替えて、渦電流センサ20の出力信号Pにおける実軸の値と虚軸の値の両方を変曲点の指標とすることができる場合は、第1特徴情報は、渦電流センサ20の出力信号Pにおける虚軸の値及び実軸の値と時刻情報とが紐づけられてなるにしてもよい。この場合は、変曲点B3は、複素平面に表される渦電流センサ20により出力された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが複素平面の実軸方向及び虚軸方向において変化する点とすることできる。
【0083】
また、本実施形態1では、複素平面に表される渦電流センサ20により出力された出力信号Pの軌跡を表示する表示部として複素平面表示部54を備える。これにより、変曲点B3を可視化することができる。
【0084】
また、本実施形態1では、評価対象の工作物Wに付与される励磁電流の周波数を設定する周波数設定部52と、励磁電流の周波数ごとに、変曲点B3に到達したか否かを判定するための変曲点判定基準が予め記憶された変曲点判定基準記憶部43と、を備える。そして、変曲点時刻抽出部48は、評価対象の工作物Wに付与された励磁電流の周波数に対応する変曲点判定基準に基づいて変曲点B3に到達したか否かを判定し、変曲点B3に到達したと判定したときの時刻を変曲点時刻Taとして抽出する。これにより、励磁電流の周波数に応じて変曲点B3を適切に抽出することができる。
【0085】
また、本実施形態1では、変曲点判定基準は、励磁電流の周波数と、該周波数を有する励磁電流を加工中の変曲点判定基準作成用の工作物に付与して取得された第1特徴情報と、該変曲点判定基準作成用の工作物の研削焼け状態との対応関係に基づいて作成される。これにより、励磁電流の周波数に応じて変曲点判定基準を変更することができ、より正確に変曲点B3を算出することができる。
【0086】
また、本実施形態1では、工作物Wの研削加工は、工作物Wの中心線Cを中心として、研削加工を行うための工具である砥石車16に対して相対的に工作物Wを回転させて行われ、粗研工程S11の終了時刻T1から工作物Wが1回転または所定数回転するごとの時刻を回転時刻として取得する回転時刻取得部47を備える。そして、変曲点時刻抽出部48は、回転時刻取得部47に記憶された複数の回転時刻の中から変曲点時刻Taを抽出する。これにより、工作物Wにおいて研削焼けが最も深くなる同一位相において、研削焼け深さを算出することになるため、材料ばらつきの影響を抑制することができる。
【0087】
また、本実施形態1では、寸法情報取得部45により取得された変曲点時刻Ta及び研削加工の終了時刻Teにおける寸法情報に基づいて、工作物Wにおける研削の余裕度D2を算出する余裕度算出部51を備える。これにより、工作物Wの研削加工における余裕度D2を正確に取得することができる。
【0088】
また、本実施形態1では、研削焼け状態評価部49の評価結果に基づいて、工作物Wの研削条件を調整する研削条件調整部50を備える。これにより、余裕度D2を用いて工作物Wの研削条件を調整することができ、不良品の発生を低減できる。また、研削加工の終了前に、終了予定時刻Teでの切り込み量と工作物Wの寸法情報に基づいて余裕度D2を早期に取得すれば、次の工作物Wの研削条件の調整に当該余裕度D2を用いることができ、不良品の発生を一層低減できる。
【0089】
以上のごとく、上記態様によれば、研削加工中の工作物Wの研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置1を提供することができる。
【0090】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 研削焼け状態評価装置
2 研削盤
3 処理部
17 定寸装置
20 渦電流センサ
40 信号取得部
41 第1特徴情報取得部
42 時刻記憶部
43 変曲点判定基準記憶部
44 変曲点算出部
45 寸法情報取得部
46 第2特徴情報取得部
47 回転時刻取得部
48 変曲点時刻抽出部
49 状態評価部
50 研削条件調整部
51 余裕度算出部
52 周波数設定部
53 研削焼け状態表示部
54 複素平面表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10