(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073877
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】研削焼け状態評価装置
(51)【国際特許分類】
B24B 49/04 20060101AFI20240523BHJP
B24B 49/10 20060101ALI20240523BHJP
B24B 5/04 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B24B49/04 A
B24B49/10
B24B5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184839
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直規
(72)【発明者】
【氏名】河原 徹
(72)【発明者】
【氏名】村上 慎二
【テーマコード(参考)】
3C034
3C043
【Fターム(参考)】
3C034AA01
3C034BB74
3C034BB92
3C034CA02
3C034CB20
3C034DD18
3C043AA01
3C043CC03
3C043DD01
3C043DD03
3C043DD05
3C043DD06
(57)【要約】
【課題】研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供する。
【解決手段】研削焼け状態評価装置1では、渦電流センサ20は励磁電流により工作物Wの内部に渦電流を生じさせて出力信号を出力する。第1対応関係記憶部41は渦電流センサ20の粗研工程の出力信号と粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係(第1の対応関係)を予め記憶する。第2対応関係記憶部43は渦電流センサ20の粗研工程の出力信号と、研削焼けありの工作物の粗研工程終了時の研削焼け深さとの対応関係(第2の対応関係)を予め記憶する。研削焼け状態評価部42は渦電流センサの出力信号と第1の対応関係とに基づいて粗研工程終了時の研削焼けの有無を評価する。研削焼け深さ評価部44は粗研工程終了時の研削焼けありと判定された工作物Wの出力信号Pと第2の対応関係とに基づいて粗研工程終了時の研削焼けの深さを評価する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗研工程と該粗研工程の後に精研工程を行って工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物における被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価装置であって、
評価対象の工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記評価対象の工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサによる出力信号を取得する信号取得部と、
対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、上記対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である第1の対応関係を予め記憶する第1対応関係記憶部と、
対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、研削焼けを有する対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さとの対応関係である第2の対応関係を予め記憶する第2対応関係記憶部と、
上記信号取得部により取得された上記出力信号と上記第1の対応関係とに基づいて、上記評価対象の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無を評価する研削焼け状態評価部と、
上記研削焼け状態評価部により粗研工程終了時の研削焼けありと判定された上記評価対象の工作物について上記信号取得部により取得された上記出力信号と上記第2の対応関係とに基づいて、上記評価対象の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さを評価する研削焼け深さ評価部と、
を備える研削焼け状態評価装置。
【請求項2】
上記第1の対応関係は、粗研工程における上記渦電流センサの出力信号が初期値からの変化量が最大となる最大変化量と、粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である、請求項1に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項3】
上記第2の対応関係は、粗研工程における上記渦電流センサの出力信号が上記最大変化量を示した時点から上記初期値の値に近づくように変化したときの戻り変化量と、粗研工程終了時の研削焼けの深さとの対応関係である、請求項2に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項4】
上記第1の対応関係及び上記第2の対応関係の少なくとも一方は、上記対応関係作成用の工作物の被加工部に対応して配置された対応関係作成用の渦電流センサを用いて励磁電流により上記工作物の内部に誘導した渦電流により生じる磁界に応じて出力された交流の出力信号を複素平面に表して、当該複素平面における当該交流の出力信号の軌跡における変曲点を呈する時刻である変曲点時刻に基づいて予め作成されたものである、請求項1に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項5】
上記評価対象の工作物の寸法情報を取得する寸法情報取得部と、
上記研削焼け深さ評価部による評価結果として得られた粗研工程終了時の研削焼け深さと、上記評価対象の工作物の研削加工終了時刻における上記評価対象の工作物の寸法情報とに基づいて、上記評価対象の工作物における研削の余裕度を算出する余裕度算出部と、を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の研削焼け状態評価装置。
【請求項6】
上記研削焼け深さ評価部の評価結果に基づいて、上記評価対象の工作物の研削条件を調整する研削条件調整部を備える、請求項1~4のいずれか一項記載の研削焼け状態評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削焼け状態評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作物を研削加工する際、工作物における加工部位の温度が高温になりやすいため、加工条件によっては工作物の表面に研削焼けが生じることがある。研削焼けは工作物の機械的強度を低下させる要因となるおそれがあるため好ましくない。このような研削焼けを検出する方法として、励磁電流により工作物に発生させた渦電流による磁界の変化が研削焼けの有無により異なることを利用して、研削焼けの有無や研削焼けの深さを評価することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の構成では、渦電流センサを用いて周波数の異なる2種類の励磁電流により生じるそれぞれの渦電流の出力信号を比較することで研削焼けの有無を高精度に検出している。また、特許文献2に開示の構成では、渦電流センサを用いて周波数の異なる2種類の励磁電流により生じるそれぞれの渦電流の出力信号を、工作物に残留する残留磁束密度の成分を除去する補正することで、研削焼けの有無の判定精度を向上させている。また、これらの方法とは別に、研削加工終了後の工作物をナイタールなどの腐食液によりエッチング処理して表面状態を観察することで、工作物表面の研削焼け状態を評価することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-106932号公報
【特許文献2】特開2018-189603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2に開示の構成やエッチングによる評価では、研削加工終了後の研削焼け状態を評価するものであるため、研削焼け状態の評価結果を取得するのに、研削加工の終了を待つ必要があり時間を要している。また、加工途中で生じた研削焼けがその後の研削加工によって研削加工終了までに除去できるか否か、すなわち加工終了時に研削焼けが残留するか否かが研削加工の終了まで判断できないため、複数の工作物を連続的に研削加工する場合には、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されてしまう恐れがある。
【0006】
そこで、研削加工中の工作物に励磁電流を付与して渦電流センサにより取得した信号に基づいて加工中の研削焼け状態を評価することが考えられる。しかしながら、加工中の研削熱によって工作物に軟化層を生じない場合においても工作物自体の磁気特性が変化したり、加工変質層(軟化層、再焼入れ層)の違いが渦電流センサの出力に影響を与えたりするため、研削焼け状態を正確に評価することが困難である。
【0007】
本発明は、研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、粗研工程と該粗研工程の後に精研工程を行って工作物の表面を複数回研削して最終目標形状に加工される工作物における被加工部の研削焼け状態を評価する研削焼け状態評価装置であって、
評価対象の工作物の被加工部に対向して配置されて、励磁電流により上記評価対象の工作物の内部に渦電流を誘導し、上記渦電流により生じる磁界に応じた出力信号を出力する渦電流センサと、
上記渦電流センサによる出力信号を取得する信号取得部と、
対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、上記対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である第1の対応関係を予め記憶する第1対応関係記憶部と、
対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、研削焼けを有する対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さとの対応関係である第2の対応関係を予め記憶する第2対応関係記憶部と、
上記信号取得部により取得された上記出力信号と上記第1の対応関係とに基づいて、上記評価対象の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無を評価する研削焼け状態評価部と、
上記研削焼け状態評価部により粗研工程終了時の研削焼けありと判定された上記評価対象の工作物について上記信号取得部により取得された上記出力信号と上記第2の対応関係とに基づいて、上記評価対象の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さを評価する研削焼け深さ評価部と、
を備える研削焼け状態評価装置にある。
【発明の効果】
【0009】
上記態様によれば、評価対象の工作物の渦電流センサによる出力信号と、予め記憶された第1の対応関係とに基づいて粗研工程終了時の研削焼けの有無を評価する。第1の対応関係は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である。そのため、第1の対応関係は工作物の磁気特性変化の影響を含んだものとなっているため、第1の対応関係を用いることにより当該影響を考慮することなく、研削焼けの有無を高精度に評価することができる。
【0010】
さらに、研削焼けありと評価された工作物について、渦電流センサによる出力信号と第2の対応関係とに基づいて評価対象の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さを評価する。そして、第2の対応関係は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、研削焼けを有する対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さとの対応関係である。そのため、第2の対応関係は工作物の磁気特性変化の影響を含んだものとなっているため、第2の対応関係を用いることにより当該影響を考慮することなく、研削焼け深さを高精度に評価することができる。そして、粗研工程終了時点での研削焼けの有無及び研削焼け深さを評価することができるため、研削終了時に研削焼けが残存するか否かの判断が容易となる。その結果、複数の工作物を連続的に研削加工する場合に、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されることを抑制することができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、研削焼け状態評価装置を含む研削加工システムの構成を示す概念図。
【
図2】実施形態1における、研削焼け状態評価装置の構成を示す機能ブロック図。
【
図3】実施形態1における、定寸装置の構成を示す図。
【
図4】実施形態1における、渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図。
【
図5】実施形態1における、第1の対応関係を示す図。
【
図6】実施形態1における、渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図。
【
図7】実施形態1における、第2の対応関係を示す図。
【
図8】実施形態1における、変曲点が描かれない場合の渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
【
図10】実施形態1における、工作物の寸法情報の時間変化を示す図。
【
図11】実施形態1における、研削焼け状態評価処理のフロー図。
【
図12】実施形態1における、渦電流センサにおける同期検波の概要を説明する図。
【
図13】実施形態1における、対応関係作成用の研削焼け状態評価装置において、(a)第1の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図、(b)第1の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
【
図14】実施形態1における、対応関係作成用の研削焼け状態評価装置において、(a)第2の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号と時間の関係を示す図、(b)第2の変曲点判定基準となる渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
【
図15】実施形態1における、対応関係作成処理のフロー図。
【
図16】実施形態1における、変曲点が描かれない場合の渦電流センサの出力信号を複素平面に表した図。
【
図17】実施形態1における、対応関係作成用の工作物の寸法情報の時間変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の研削焼け状態評価装置1は、加工装置により研削加工される工作物Wの研削焼け状態を評価する。以下、各構成について詳述する。
【0014】
1.加工装置の構成
実施形態1では、加工装置としての
図1に示す研削盤2を備える。研削盤2は、工作物Wの中心線Cを中心に工作物Wを回転させ、回転体である工具としての砥石車16を回転させ、かつ、砥石車16を工作物Wに対して工作物Wの軸線に交差する方向に相対的に接近させることにより、工作物Wの外周面または内周面を研削する。研削盤2は、テーブルトラバース型の研削盤、砥石台トラバース型の研削盤などを適用可能である。また、研削盤2は、円筒研削盤、カム研削盤等を適用可能である。
【0015】
本実施形態においては、
図1に示すように、工作物Wは、例えば、軸状に形成された部材とし、工作物Wの外周面が被加工部である場合を例にあげる。ただし、工作物Wの形状は、軸状に限られず、内周面を有する筒状など、任意の形状とすることができる。工作物Wが筒状である場合は工作物Wの内周面を被加工部とすることができる。
【0016】
本実施形態においては、工作物Wは、略棒状であって両端において工作物支持部材により支持される。ただし、
図1に示す工作物Wは、一例であって、研削盤2は、種々の形状を有する工作物を研削加工の対象とすることができる。
【0017】
処理部3は、研削焼け状態評価装置1と、研削盤2を制御する制御装置31とを備える。研削焼け状態評価装置1は後述するように、工作物Wにおける研削による研削焼け状態を評価し、当該評価結果に基づいて工作物Wにおける研削条件を調整する。制御装置31は、研削盤2を制御することにより、研削加工を制御する。
【0018】
研削焼け状態評価装置1は、研削盤2および制御装置31とは独立したシミュレーション装置として機能させることもできるし、研削盤2および制御装置31と連動して動作するシミュレーション装置として機能させることもできる。前者の場合には、研削焼け状態評価装置1は、例えば、実際の工作物Wの研削加工を行うことなく、最適な研削条件を決定することができる。後者の場合には、研削焼け状態評価装置1は、研削盤2による工作物Wの研削加工と並行して処理することにより、例えば、研削焼けの有無を判定したり、研削条件を調整したり、各種制御に影響を及ぼすように動作したりすることができる。また、研削焼け状態評価装置1は、研削盤2および制御装置31の組込みシステムとすることもできる。
【0019】
2.研削盤2および制御装置31の構成
研削盤2の構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態1においては、研削盤2は、砥石台トラバース型の円筒研削盤を例にあげる。ただし、研削盤2は、テーブルトラバース型を適用することもできる。研削盤2は、主として、ベッド11、主軸台12、心押台13、トラバースベース14、砥石台15、砥石車16、定寸装置17、砥石車修正装置18、クーラント装置19及び渦電流センサ20を備える。
【0020】
ベッド11は、設置面上に固定されている。主軸台12は、ベッド11の上面において、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の一端側(
図1の左側)に設けられている。主軸台12は、工作物Wの中心線Cを中心として工作物WをZ軸回りに回転可能に支持する。工作物Wは、主軸台12に設けられたモータ12aの駆動により回転される。心押台13は、ベッド11の上面において、主軸台12に対してZ軸方向に対向する位置、すなわち、X軸方向の手前側(
図1の下側)且つZ軸方向の他端側(
図1の右側)に設けられている。つまり、主軸台12および心押台13が、工作物Wを回転可能に両端支持する。
【0021】
トラバースベース14は、ベッド11の上面において、Z軸方向に移動可能に設けられている。トラバースベース14は、ベッド11に設けられたモータ14aの駆動により移動する。砥石台15は、トラバースベース14の上面において、X軸方向に移動可能に設けられている。砥石台15は、トラバースベース14に設けられたモータ15aの駆動により移動する。砥石車16は、砥石台15に回転可能に支持されている。砥石車16は、砥石台15に設けられたモータ16aの駆動により回転する。砥石車16は、複数の砥粒をボンド材により固定されて構成されている。
【0022】
定寸装置17は、工作物Wの寸法(径)を測定する検出器として機能する。ただし、検出器は、定寸装置17に限定されず、単一のプローブを有する接触式センサやレーザ変位計などの非接触式センサであってもよい。なお、定寸装置17は図示しない機構を介してトラバースベース14と同期してZ軸方向に移動可能に設けられている。
【0023】
図4に示すように、定寸装置17は、装置本体171と、一対の接触子172a,172bと、一対のフィンガ173a,173bと、差動トランス174とを主に備える。接触子172a,172bは、工作物Wの外周面に対して接触可能に設けられる。具体的に、一対の接触子172a,172bのうち、一方の接触子172aは、工作物Wの外周面に対して上方から接触し、他方の接触子172bは、工作物Wの外周面に対して下方から接触する。フィンガ173a,173bは、接触子172a,172bを保持すると共に、装置本体171に対し、接触子172a,172bを相対変位可能に支持する。具体的に、一対のフィンガ173a,173bのうち、一方のフィンガ173aは、一方の接触子172aを支持し、他方のフィンガ173bは、他方の接触子172bを支持する。
【0024】
差動トランス174は、装置本体171に収容される。差動トランス174は、一対の接触子172a,172bの変位に伴って変位する一対のフィンガ173a,173bの変位を検出し、フィンガ173a,173bの変位に応じた電気信号を制御装置31に出力する。制御装置31は、差動トランス174から出力された電気信号に基づいて、一対の接触子172a,172bが工作物Wの外周面に接触したときのフィンガ173a,173bの位置を検知し、フィンガ173a,173bの位置に基づいて、定寸装置17による工作物Wの外径の測定結果を取得することができる。なお、定寸装置17には、他の検出器として、加速度センサ、マイクロフォン、温度センサなどが取り付けられていてもよい。
【0025】
渦電流センサ20は、センサヘッドが工作物Wの被加工部に対向するように設けられている。なお、渦電流センサ20は後述する研削焼け状態評価装置1の一部を構成している。本実施形態1では、
図4に示すように、渦電流センサ20のセンサヘッドが定寸装置17の装置本体171に取り付けられて、工作物Wに対して砥石車16と反対側に位置している。なお、
図1及び
図4において、符号20はセンサヘッドの位置を図示し、センサ本体は図示を省略する。
【0026】
渦電流センサ20は、励磁電流により工作物Wの内部に渦電流を誘導し、渦電流により生じる磁界に応じた信号を出力するものである。渦電流センサ20は直流の出力信号、すなわち1軸の信号を出力するものであってもよいし、交流の出力信号、すなわち2軸の信号を出力するものであってもよい。また、渦電流センサ20が交流の信号を出力する場合、出力信号の位相を変更可能に構成されているものであってよい。渦電流センサ20は、図示しないコイルを有しており、当該コイルに励磁電流を供給することにより、コイルは工作物Wに磁場を印加して、工作物Wの内部に渦電流を誘導する。そして、渦電流センサ20は、渦電流が作る磁界によってコイルのインピーダンスの変化を信号として出力する。渦電流の大きさ、ひいては出力信号の大きさは工作物Wの被加工部の状態などに応じて変化する。
【0027】
渦電流センサ20において、上記コイルには周波数の異なる複数の励磁電流を供給できるように構成されている。本実施形態1では、励磁電流の周波数は、後述する周波数設定部52により設定することができる。渦電流の浸透深さはその励磁電流の周波数により異なるため、励磁電流の周波数は目標とする渦電流の浸透深さに応じて設定することができる。目標とする渦電流の浸透深さは研削焼けが発生しうる表層部に一致させるようにし、例えば、加工表面から1~100μmとすることができ、好ましくは1~50μm、より好ましくは10~30μmとすることができる。浸透深さが浅い場合は、渦電流センサの感度が高くなりすぎてSN比が低下し、検出精度が低下する。一方、浸透深さが深い場合は、加工表面から浅い領域において磁気特性変化特性の検出レベルが低下するため検出精度が低下する。
【0028】
上述の浸透深さに応じた励磁電流の周波数は、20kHz~200MHzの周波数帯に設定することができ、好ましくは100kHz~200MHz、より好ましくは250~2500kHzとすることができる。本実施形態では、渦電流の浸透深さが30μmとなるように励磁電流の周波数を250kHzに設定している。
【0029】
図1に示す砥石車修正装置18は、砥石車16の形状を修正する。砥石車修正装置18は、砥石車16のツルーイングを行う装置である。砥石車修正装置18は、ツルーイングに加えて、または、ツルーイングに代えて、砥石車16のドレッシングを行う装置としてもよい。さらに、砥石車修正装置18は、砥石車16の寸法(径)を測定する機能も有する。
【0030】
ここで、ツルーイングは、形直し作業であり、研削によって砥石車16が摩耗した場合に工作物Wの形状に合わせて砥石車16を成形する作業、片摩耗によって砥石車16の振れを取り除く作業等である。ドレッシングは、目直し(目立て)作業であり、砥粒の突き出し量を調整したり、砥粒の切れ刃を創成したりする作業である。ドレッシングは、目つぶれ、目詰まり、目こぼれ等を修正する作業であって、通常ツルーイング後に行われる。
【0031】
クーラント装置19は、クーラントノズルから砥石車16による工作物Wの研削点にクーラントを供給する。クーラント装置19は、回収したクーラントを、所定温度に冷却して、再度研削点に供給する。クーラント装置19は、クーラントの流量や供給タイミングの調整が可能となっている。なお、
図1において、符号19はクーラントノズルの位置を図示する。また、図示しないが、検出器として、回収したクーラントの温度を取得する温度センサが備えられていてもよい。
【0032】
制御装置31は、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて生成されたNCプログラムに基づいて、研削盤2における砥石車16やクーラント装置19等の駆動を制御することにより工作物Wの研削を行う。特に、制御装置31は、後述する研削条件調整部47により作成された研削条件と、定寸装置17により測定される工作物Wの径に基づいて、工作物Wが仕上げ形状(目標形状)となるまで研削を行う。また、制御装置31は、砥石車16を修正するタイミングにおいて、砥石車修正装置18等を制御することにより、砥石車16の修正(ツルーイングおよびドレッシング)を行う。
【0033】
3.研削焼け状態評価装置1の構成
図2に示すように、研削焼け状態評価装置1は、渦電流センサ20、信号取得部40、第1対応関係記憶部41、研削焼け状態評価部42、第2対応関係記憶部43、研削焼け深さ評価部44、寸法情報取得部45、余裕度算出部46、研削条件調整部47を備え、これらは記憶装置又は演算装置により構成される。また、研削焼け状態評価装置1は、所定の表示装置により構成される評価結果表示部48を備える。
【0034】
信号取得部40は、渦電流センサ20から出力された出力信号Pを取得する。
【0035】
第1対応関係記憶部41は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサ20の粗研工程S11における出力信号と、対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である第1の対応関係を予め記憶する。本実施形態では、対応関係作成用の工作物は、評価対象の工作物Wと同一形状を有し、同一素材からなる。
【0036】
第1の対応関係は、
図4に示すように、粗研工程S11における渦電流センサ20の出力信号(渦電流電圧)Pが、初期値P1からの変化量が最大となる最大変化量V1と、腐食試験により取得した粗研工程終了時刻T1の研削焼けの有無との対応関係であって
図5に示すものである。第1の対応関係は、
図5に示すように、閾値Cよりも最大変化量V1が小さい場合、研削焼けありと判定され、閾値Cよりも最大変化量V1が大きい場合、研削焼けなしと判定される。
【0037】
図5の縦軸の値は研削焼け深さを示しているが、最大変化量V1のみに基づいて算出された研削焼け深さであって、正確な値を示すものとはなっていない。また、
図4には、励磁電流の周波数を250kHzとしたときの渦電流センサ20の出力信号(渦電流電圧)Pを示したが、
図6に示すように、励磁電流の周波数を1000kHzとしたときも、励磁電流の周波数を250kHzとしたときの同様に第1の対応関係を作成することができる。なお、第1対応関係記憶部41は、励磁電流の周波数ごとに複数記憶されていてもよい。
【0038】
研削焼け状態評価部42は、信号取得部40により取得された出力信号Pと第1の対応関係とに基づいて、評価対象の工作物Wにおける粗研工程終了時T1の研削焼けの有無を評価する。当該研削焼けの有無の判定は、上述の通り
図5に示す閾値Cと出力信号Pに基づいて算出されたV1との比較により行う。
【0039】
第2対応関係記憶部43は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサ20の粗研工程S11における出力信号と、研削焼けを有する対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時T1の研削焼けの深さとの対応関係である第2の対応関係を予め記憶する。
【0040】
第2の対応関係は、
図4に示すように、粗研工程S11における渦電流センサ20の出力信号(渦電流電圧)Pが、粗研工程S11における渦電流センサ20の出力信号Pが上記最大変化量V1を示した時点から初期値の値に近づくように変化したときの戻り変化量V2と、腐食試験により取得された粗研工程終了時T1の研削焼けの深さとの対応関係であって、
図7に示すものである。
【0041】
なお、
図7において符号Qで示す一群のデータは、研削焼けなしと判断されたデータである。第2の対応関係は、研削焼けありと判定された工作物Wを処理するものであるから、
図7における符号Qで示す一群のデータは使用されない。第2の対応関係も、第1の対応関係と複数の周波数ごとに作成されていてもよい。
【0042】
研削焼け深さ評価部44は、研削焼け状態評価部42により粗研工程終了時T2の研削焼けありと判定された上記評価対象の工作物について、上記信号取得部40により取得された出力信号Pと第2の対応関係とに基づいて、評価対象の工作物Wにおける粗研工程終了時T1の研削焼けの深さを評価する。
【0043】
寸法情報取得部45は、工作物Wの寸法情報を取得する。工作物Wの寸法情報は、本実施形態では、上述の通り、定寸装置17により工作物Wの加工中の寸法を検出することができる。なお、定寸装置17に替えて、制御装置31から出力される工作物Wの切込み軸となるZ軸の座標位置に基づいて工作物Wの寸法情報を間接的に算出して取得することとしてもよい。
【0044】
余裕度算出部46は、研削焼け深さ評価部44による評価結果として得られた粗研工程終了時T1の研削焼け深さと、研削加工の終了時刻Teにおける評価対象の工作物Wの寸法情報とに基づいて、評価対象の工作物における研削の余裕度を算出する。
図8に示すように、粗研工程終了時T1で評価された研削焼け深さD1が、粗研工程S11において工作物Wに発生していた研削焼けの深さを示し、研削終了時刻Teまでに深さD1以上に研削した深さD2が研削の余裕度を示す。
【0045】
研削条件調整部47は、研削焼け深さ評価部44の評価結果に基づいて、評価対象の工作物Wの研削条件を調整する。例えば、研削焼けが残留するとの評価結果の場合は、粗研工程S11における研削能率を低下させて研削焼けの深さを小さくし、研削焼けが残留しないように、粗研工程S11で生じた研削焼け(軟化層)が、後の精研工程S12において除去されるようにすることができる。また、研削焼けなしとの評価結果の場合は、後述の余裕度を参照して、研削焼けが残留しない範囲内で研削能率を上昇させるようにすることができる。
【0046】
4.研削加工処理S1の説明
研削加工処理S1について
図9を参照して説明する。上述の通り、研削加工処理S1は、粗研工程S11、精研工程S12、微研工程S13、スパークアウト工程S14を含む。
【0047】
粗研工程S11では、制御装置31により、工作物Wの形状、研削条件、砥石車16の形状、クーラントの流量又は供給タイミング情報等の動作指令データに基づいて、砥石車16を所定の速度で回転させて、第1切込み量で工作物Wを研削する。精研工程S12では、制御装置31により工作物Wを第1切り込み量よりも低い第2切り込み量で研削する。微研工程S13では、制御装置31により工作物Wを第2切り込み量よりも低い第3切り込み量で研削する。スパークアウト工程S14では、予め設定された回転数で工作物Wを回転させて微研工程S13における研削残しの分を研削して断面形状を真円形状とする。スパークアウト工程S14における切り込み量はゼロに設定することができる。
【0048】
切り込み量は制御装置31により砥石車16の切込み位置を制御することにより調整できる。各工程S11~S13における第1~第3切込み量は上述の関係を満たす範囲で適宜設定され、スパークアウト工程S14における実切込み量は実質的にゼロとなっている。そして、粗研工程S11での第1切り込み量が最も大きくなっており、各工程S11~S14において粗研工程S11は研削能率が最も高い。そのため、研削焼けは実質的に粗研工程S11でのみ生じることとなる。
【0049】
5.研削焼け状態の評価処理S2
次に研削焼け状態評価装置1による、研削焼け状態の評価処理S2について、
図10のフロー図を参照して説明する。研削焼け状態の評価処理S2は研削加工処理S1と並行して行う。
【0050】
研削焼け状態の評価S2では、まず、ステップS21において、渦電流センサ20により工作物Wに渦電流を生じさせて、信号取得部40により渦電流センサ20の出力信号である出力信号Pを取得する。その後、ステップS22において、研削焼け状態評価部42により、信号取得部40により取得された出力信号Pから、初期値P1からの変化量が最大となる最大変化量V1を取得する。
【0051】
そして、ステップS23において、研削焼け状態評価部42により、最大変化量V1が閾値Cより小さいか否か判定することにより、最大変化量V1と第1対応関係記憶部41に記憶された第1の対応関係とに基づいて、評価対象の工作物Wにおける粗研工程終了時T1の研削焼けの有無を評価する。最大変化量V1が閾値Cより小さくないと判定された場合は、ステップS23のNoに進み、ステップS24において、研削焼けなしと評価する。当該評価結果は、評価結果表示部48に表示することができる。そして、当該フローを終了する。
【0052】
一方、ステップS23において、最大変化量V1が閾値Cより小さいと判定され場合は、ステップS25において、粗研工程終了時T1において研削焼けありと評価する。その後、ステップS26において、研削焼け深さ評価部44により、粗研工程S11における出力信号Pが最大変化量V1を示した時点から初期値P1の値に近づくように変化する戻り変化量V2を取得する。
【0053】
そして、ステップS27において、研削焼け深さ評価部44により、戻り変化量V2と第2対応関係記憶部43に記憶された第2の対応関係とに基づいて粗研工程終了時T1における研削焼け深さD1を評価する。当該評価結果は、評価結果表示部48に表示することができる。その後、ステップS28において、寸法情報取得部45により、研削終了時の工作物Wの寸法情報Dwを取得し、ステップS29において、余裕度算出部46により、研削焼け深さD1と工作物Wの寸法情報Dwとの差分である余裕度D2を算出する。
【0054】
その後、ステップS30において、研削条件調整部47により、余裕度D2に基づいて研削条件を調整する。例えば、余裕度D2が0より大きい場合は、研削条件を調整して粗研工程S11における研削能率を上昇させることができる。また、余裕度D2が0より小さい場合、すなわち研削焼けが残留した場合は、研削条件を調整して粗研工程S11における研削能率を低下させたり、ツルーイングを行って砥石車16の切れ味を回復させたりすることができる。そして、研削条件の調整後、当該フローを終了する。
【0055】
6.作用効果
本実施形態1の研削焼け状態評価装置1によれば、評価対象の工作物Wの渦電流センサ20による出力信号Pと、予め記憶された第1の対応関係とに基づいて粗研工程終了時T1の研削焼けの有無を評価する。第1の対応関係は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程S11における出力信号と、対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの有無との対応関係である。そのため、第1の対応関係は工作物Wの磁気特性変化の影響を含んだものとなっているため、第1の対応関係を用いることにより当該影響を考慮することなく、研削焼けの有無を高精度に評価することができる。
【0056】
さらに、研削焼けありと評価された工作物Wについて、渦電流センサ20による出力信号Pと第2の対応関係とに基づいて評価対象の工作物Wにおける粗研工程終了時T1の研削焼けの深さを評価する。そして、第2の対応関係は、対応関係作成用の工作物の被加工部に対向して配置した渦電流センサの粗研工程における出力信号と、研削焼けを有する対応関係作成用の工作物における粗研工程終了時の研削焼けの深さとの対応関係である。そのため、第2の対応関係は工作物Wの磁気特性変化の影響を含んだものとなっているため、第2の対応関係を用いることにより当該影響を考慮することなく、研削焼けの有無を高精度に評価することができる。
研削終了時Teに研削焼けが残存するか否かの判断が容易となる。その結果、複数の工作物Wを連続的に研削加工する場合に、研削焼けが残留した不良品が続けて製造されることを抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態では、第1の対応関係は、粗研工程S11における渦電流センサ20の出力信号Pが初期値P1からの変化量が最大となる最大変化量V1と、粗研工程終了時T1の研削焼けの有無との対応関係である。これにより、第1の対応関係を用いることで、粗研工程終了時T1における研削焼けの有無をより高精度に評価することができる。
【0058】
また、本実施形態では、第2の対応関係は、粗研工程S11における渦電流センサ20の出力信Pが最大変化量V1を示した時点P2から初期値P1の値に近づくように変化したときの戻り変化量V2と、粗研工程終了時T1の研削焼けの深さとの対応関係である。これにより、第2の対応関係を用いることで、粗研工程終了時T1における研削焼け深さをより高精度に評価することができる。
【0059】
また、本実施形態では、評価対象の工作物Wの寸法情報を取得する寸法情報取得部45と、研削焼け深さ評価部44による評価結果として得られた粗研工程終了時T1の研削焼け深さD1と、研削加工の終了時刻Teにおける評価対象の工作物Wの寸法情報とに基づいて、評価対象の工作物Wにおける研削の余裕度を算出する余裕度算出部46と、を備える。これにより、工作物Wの研削加工における余裕度D2を正確に取得することができる。
【0060】
また、本実施形態では、研削焼け深さ評価部44の評価結果に基づいて、評価対象の工作物Wの研削条件を調整する研削条件調整部47を備える。これにより、余裕度を用いて工作物Wの研削条件の調整を行うことができ、不良品の発生を低減できる。また、研削加工の終了前に、終了予定時刻Teでの切り込み量と工作物Wの寸法情報に基づいて余裕度D2を早期に取得すれば、次の工作物Wの研削条件の調整に当該余裕度を用いることができ、不良品の発生を一層低減できる。
【0061】
また、本実施形態1では、渦電流センサ20は、出力信号Pが直流の信号、すなわち1軸の信号を出力するものを採用することができる。これにより、2軸の信号を出力するものを使用する場合に比べて、装置を安価に構成することができるため、製造コストの低減を図ることができる。
【0062】
以上のごとく、本実施形態によれば、研削加工中の工作物の研削焼け状態を高精度に評価することができる、研削焼け状態評価装置1を提供することができる。
【0063】
(実施形態2)
上述の実施形態1では、第1の対応関係及び第2の対応関係は、いずれも腐食試験により取得した研削焼けの有無や研削焼け深さを用いている。これに替えて、本実施形態2では、下記の構成を有する。すなわち、第1の対応関係及び第2の対応関係の少なくとも一方は、
図11に示すように、対応関係作成用の研削焼け状態評価装置1aに作成されるものであって、対応関係作成用の工作物Waの被加工部に対応して配置された対応関係作成用の渦電流センサ20aを用いて励磁電流により工作物Waの内部に誘導した渦電流により生じる磁界に応じて出力された交流の出力信号を
図13(b)及び
図14(b)に示すように複素平面に表して、複素平面における当該交流の出力信号Pの軌跡における変曲点B3を呈する時刻である変曲点時刻Taに基づいて予め作成されたものである。なお、対応関係作成用の工作物Waは、評価対象の工作物Wと同一形状を有し、同一素材からなる。そして、特に言及しない限り実施形態1の場合と同等の機能を有するものには、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
7.対応関係作成用の渦電流センサ20a
本実施形態2における対応関係作成用の研削焼け状態評価装置1aに備えられた対応関係作成用の渦電流センサ20aについて、以下に詳述する。対応関係作成用の渦電流センサ20aは交流の信号を出力する、いわゆる2軸の信号を出力可能な渦電流センサである。渦電流センサ20aは、例えば、
図11に示す発振部21としてのコイルを有しており、当該コイルに励磁電流を供給することにより、渦電流センサ20aのセンサヘッドの先端に設けられたプローブ22に出力信号を印加することにより対応関係作成用の工作物Waに磁場を印加し、工作物Wの内部に渦電流を誘導する。そして、渦電流センサ20aはプローブ22を介して取得したインピーダンスの変化を増幅部23で増幅して検波部24に入力し、発振部21の周波数成分だけを取り出し、信号処理部25において信号の処理を行う。
【0065】
検波部24では、同期検波により信号の検出を行う。
図12に示すように、検波部24の入力信号v(t)は,プローブ22の出力を増幅部23で増幅した信号であり、v(t)を以下の式(1)のように定義される。なお、tは時間,Aは振幅,fは渦電流センサ20aの内部の発振部21の周波数,θは渦電流センサ20a内部の発振部21との位相差である。
【0066】
【0067】
そして、増幅部23を通過したv(t)は検波部24において、v(t)に発振部21の周波数fと同じ周波数の正弦波sin2πftを掛ける。これをx(t)とする。同様にcos2πftを掛けた結果をy(t)とする。x(t)とy(t)は次の式(2)、(3)のように表すことができる。
【0068】
【0069】
【0070】
次に、x(t)とy(t)を十分低いカットオフ周波数fcを持つローパスフィルタに通す。なお、一般にfc<<fの関係を有する。式(2),(3)の第1項はtを含むため交流であるが、第2項はtを含まないため直流である。よってローパスフィルタ後の式(2),(3)はそれぞれ次式(4)、(5)に示す実軸信号X,虚軸信号Yのようになる。
【0071】
【0072】
【0073】
そして、式(4),(5)から次式(6)、(7)に示すようにv(t)のAとθを得ることができる。
【0074】
【0075】
【0076】
信号処理部25では、検波部24の実軸信号X、虚軸信号Yに対してゲインや位相の操作を行う。したがって、渦電流センサ20aの出力信号は,検波部24から信号処理部25を通って出力され、渦電流センサ20aの周波数特性は検波部24と信号処理部25の周波数特性を掛けたものになる。一般に信号処理部25の周波数特性は検波部24の周波数特性以下である。信号処理部25から出力された出力信号においてXは実軸信号、Yは虚軸信号を示す。実軸信号Xは出力信号Pにおける実軸の値を示し、虚軸信号Yを出力信号Pにおける虚軸の値を示す。
【0077】
8.第1の対応関係及び第1の対応関係の作成
次に、本実施形態2における、第1の対応関係及び第2の対応関係の作成について詳述する。まず、複素平面における出力信号Pの軌跡について
図13(b)を参照して説明する。
図13(b)に示す複素平面において、渦電流センサ20aから出力された出力信号Pは、研削加工の開始時刻では符号A1で示す位置にプロットされる。その後、粗研工程S11において、工作物Wに研削焼けが生じるとこれに応じて磁気特性が変化することにより、出力信号Pは時間経過に伴って複素平面上の実軸の値が小さくなるとともに、虚軸の値が若干大きくなる。その後、実軸の値が小さくなるとともに虚軸の値が小さくなり、その後、実軸の値は大きくなるとともに、虚軸の値が小さくなって符号A2の位置に到達して粗研工程S11が終了する。
【0078】
その後、精研工程S12が開始すると、工作物Wに生じていた研削焼け(加工変質層、軟化層)が徐々に除去されることに伴って、複素平面における出力信号Pは、実軸の値が小さくなるとともに、虚軸の値は徐々に大きくなる。すなわち、精研工程S12が開始時点B1付近では、複素平面における出力信号Pの軌跡における虚軸方向のベクトルの向きは上方向となっている。その後、さらに研削が進み符号B2の位置に到達すると、実軸の値は大きくなるが虚軸の値は引き続き徐々に大きくなる。そして、符号B3で示す位置では、実軸の値は引き続き大きくなるが虚軸の値は小さくなる。すなわち、符号B3において、出力信号Pは精研工程S12での最大値となり、その後から複素平面における出力信号Pの軌跡における虚軸方向のベクトルの向きは下向きに変化する。その後、実軸の値は大きくなるとともに、虚軸の値は小さくなって符号B4の位置に到達して粗研工程S11が終了する。
【0079】
研削焼け状態評価装置1aに備えられた変曲点算出部44aは、変曲点判定基準に基づいて変曲点を算出する。変曲点は、虚軸方向または実軸方向において、複素平面における出力信号Pのベクトルの向きが変わる点を示すものとする。したがって、
図13(b)に示す励磁電流の周波数が250KHzの場合では、虚軸方向における出力信号Pのベクトルの向きが上向きから下向きに変わる点B3が変曲点として表される。なお、
図14(b)に示す励磁電流の周波数が1000KHzの場合でも、虚軸方向における出力信号Pのベクトルの向きが下向きから上向きに変わる点が変曲点B3として表されている。
【0080】
複素平面における出力信号Pの軌跡は、励磁電流の周波数によって変化するため、変曲点の変曲点判定基準も変化することとなる。本実施形態では、研削焼け状態評価装置1aに備えられた変曲点判定基準記憶部43aには、変曲点判定基準(マスター)作成用の工作物について、励磁電流の周波数ごとに複素平面における出力信号Pの軌跡が記憶されており、これに基づいて、励磁電流の周波数ごとに変曲点判定基準が記憶される。例えば、上述のように、励磁電流の周波数が250KHzの場合の変曲点判定基準は、
図13(b)に示す変曲点判定基準記憶部43aに記憶された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが、精研工程S12において虚軸方向において上向きから下向きに変わる点を変曲点とするとのものである。また、励磁電流の周波数が1000KHzの場合の変曲点判定基準は、
図14(b)に示す変曲点判定基準記憶部43aに記憶された出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが、精研工程S12において虚軸方向において下向きから上向きに変わる点を変曲点とするとのものである。
【0081】
次に対応関係作成用の研削焼け状態評価装置1aによる対応関係作成処理S3について、
図15のフロー図を参照して説明する。対応関係作成処理S3は研削加工処理S1と並行して行う。なお、以下の構成に置いて、実施形態1と同等物には同一の符号を付してその説明を省略する。
【0082】
対応関係作成処理S3では、まず、第1の並列処理S101~S104と第2の並列処理S105~S107を行う。第1の並列処理ではステップS101において、
図11に示す研削焼け状態評価装置1aに備えられた周波数設定部52aにより渦電流センサ20aにおける励磁電流の周波数を設定する。その後、ステップS102において、渦電流センサ20aにより対応関係作成用の工作物Waに渦電流を生じさせて、信号取得部40aにより渦電流センサ20aの出力信号である出力信号Pを取得する。その後、ステップS103において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた第1特徴情報取得部41aにより、出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときの虚軸の値及び実軸の値と、研削開始時刻T0から経過した時刻情報とを紐づけてなる第1特徴情報を取得する。取得された第1特徴情報は、研削焼け状態評価装置1aに備えられた複素平面表示部54aに表示することができる。なお、時刻情報は研削焼け状態評価装置1aに備えられた時刻記憶部42aに記憶される。
【0083】
そして、ステップS104において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた変曲点算出部44aにより、変曲点判定基準の設定を行う。変曲点判定基準の設定は、ステップS101で設定された励磁電流の周波数に基づいて行う。本実施形態では、例えば、励磁電流の周波数として250kHzが設定されている場合は、変曲点判定基準として、
図13(b)に示す変曲点判定基準記憶部43aに記憶された周波数250kHzの場合の判定基準を設定する。すなわち、出力信号Pの軌跡のベクトルの向きが虚軸において上向きから下向きに変化する点を変曲点とするとの判定基準を設定する。
【0084】
また、第2の並列処理ではステップS105において、定寸装置17により工作物Wを測定し、その測定結果を研削焼け状態評価装置1aに備えられた寸法情報取得部45aにより寸法情報として取得する。その後、ステップS106において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた回転時刻取得部47aにより、精研工程S12において、工作物Wが粗研工程終了時刻以降における各回転時刻を取得する。その後、ステップS107において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた第2特徴情報取得部46aにより、寸法情報取得部45aにより取得された寸法情報と研削開始時刻から経過した時刻情報とを紐づけてなる第2特徴情報を取得する。
【0085】
その後、ステップS108において、変曲点算出部44aにより変曲点B3を算出する。変曲点B3が算出できない場合は、ステップS108のNoに進み、ステップS109において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた研削焼け状態評価部49aは、研削焼けが生じていないと評価し、このフローを終了する。なお、変曲点B3が算出できない場合とは、例えば、
図16に示すように、出力信号Pを直交座標形式の複素平面に表したときに、出力信号Pの軌跡が変曲点を描かないような場合であって、この出力信号Pの軌跡では、
図13(b)における精研工程開始点B1から変曲点B3までの軟化層が存在した状態を示す領域が形成されていないことから、軟化層すなわち研削焼けが生じていないと評価できる。
【0086】
一方、ステップS108において、変曲点B3が算出できた場合は、ステップS108のYesに進む。そして、ステップS110において、ステップS108で算出した変曲点と、ステップS107で取得した第2特徴情報に基づいて変曲点時刻を抽出する。当該変曲点時刻は、第2特徴情報における回転時刻の中から抽出する。
【0087】
その後、ステップS111において、研削焼け状態評価部49aにより、粗研工程終了時の研削焼け深さを評価する。粗研工程終了時の研削焼け深さは、
図17に示すように、粗研工程終了時刻T1の寸法情報と、変曲点時刻Taでの寸法情報との差分D1として算出される。算出された研削焼け深さは、研削焼け状態評価装置1aに備えられた焼け状態表示部53aに表示することができる。
【0088】
そして、ステップS112において、研削焼け状態評価装置1aに備えられた対応関係作成部51aにより、上述の第1の対応関係及び第2の対応関係を作成する。第1の対応関係及び第2の対応関係は、いずれも実施形態1の場合と同様であるが、研削焼けの有無及び研削焼け深さは上述の通り、研削焼け状態評価装置1aによって変曲点B3を用いて評価したものを用いる。
【0089】
本実施形態2において作成された第1の対応関係及び第2の対応関係を用いても、実施形態1の場合と同様の作用効果を奏することができる。さらに、上述の実施形態1では対応関係の作成のために腐食試験を行ったが、これに替えて、本実施形態2では変曲点B3を用いて腐食試験をすることなく研削焼けの有無及び研削焼け深さを算出して、第1の対応関係及び第2の対応関係を作成している。これにより、第1の対応関係及び第2の対応関係の作成を容易に行うことができ、作業性が向上する。
【0090】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 研削焼け状態評価装置
2 研削盤
3 処理部
17 定寸装置
20 渦電流センサ
40 信号取得部
41 第1対応関係記憶部
42 研削焼け状態評価部
43 第2対応関係記憶部
45 寸法情報取得部
46 余裕度算出部
47 研削条件調整部
48 評価結果表示部