(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073893
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びマリンホース
(51)【国際特許分類】
C08L 9/02 20060101AFI20240523BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240523BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240523BHJP
C08K 5/13 20060101ALI20240523BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240523BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240523BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20240523BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20240523BHJP
F16L 11/133 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08L9/02
C08K3/04
C08K3/36
C08K5/13
C08K5/17
C08K5/09
C08K3/06
C08K3/22
F16L11/133
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184863
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【弁理士】
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【弁理士】
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】伊海 康一
【テーマコード(参考)】
3H111
4J002
【Fターム(参考)】
3H111AA02
3H111BA12
3H111BA31
3H111BA32
3H111CB01
3H111DA17
3H111DA26
3H111DB08
4J002AC071
4J002DA036
4J002DA048
4J002DE109
4J002DJ016
4J002EF019
4J002EF059
4J002EJ027
4J002EN007
4J002EN047
4J002FD016
4J002FD148
4J002FD207
4J002FD209
4J002FD347
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】ホースの最内層における層間接着性が優れるゴム組成物、及び、マリンホースの提供。
【解決手段】アクリロニトリルブタジエンゴムと、カーボンブラックと、シリカと、レゾルシンと、ヘキサメチレンテトラミンとを含み、脂肪酸の配合量がアクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部であり、105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシートにおける脂肪酸亜鉛析出インデックス(=A÷B)が0.1以下である、ホースの最内層用のゴム組成物、及び、上記ゴム組成物を用いて形成された最内層を有するマリンホース。Aは、全反射赤外分光法によって測定された、ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、1540cm-1付近のピークトップのピーク強度であり、Bは2230cm-1付近のピークトップのピーク強度である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリルブタジエンゴムと、カーボンブラックと、シリカと、レゾルシンと、ヘキサメチレンテトラミンとを含み、
脂肪酸の配合量が前記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部であり、
105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシートにおける脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下である、ホースの最内層用のゴム組成物。
脂肪酸亜鉛析出インデックス=A÷B
A:全反射赤外分光法によって測定された、前記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、1540cm-1付近のピークトップのピーク強度
B:全反射赤外分光法によって測定された、前記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、2230cm-1付近のピークトップのピーク強度
【請求項2】
前記アクリロニトリルブタジエンゴムのアクリロニトリル量が、前記アクリロニトリルブタジエンゴム中の35質量%以上である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が、20~40m2/gである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量が、20~80ml/100gである、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記カーボンブラックの含有量が、前記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、70~100質量部である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記レゾルシンの含有量が、前記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、1.0~5.0質量部であり、
前記ヘキサメチレンテトラミンの含有量が、前記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0.2~2.0質量部である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項7】
さらに、硫黄を含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記シリカの含有量が、前記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、20~40質量部である、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項9】
更に、酸化亜鉛を含む、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項10】
マリンホースの最内層を形成する、請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のゴム組成物を用いて形成された最内層を有する、マリンホース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム組成物及びマリンホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原油等のオイルを、陸上のオイルタンクと海上のオイルタンカーとのような間で輸送するために、マリンホースが利用されている。
マリンホースは一般的に大型であり、マリンホースの最内層には通常、耐油性が優れるアクリロニトリルブタジエンゴムが使用される。
【0003】
一方、ディーゼルエンジンのコモンレールの噴射ノズルの目詰まりを防止することを目的として、アクリロニトリルブタジエンゴム、亜鉛華、酸化マグネシウム等を含有し、脂肪酸は必須成分としない、硫黄加硫系のゴム組成物で、燃料系ホースの内管を形成して、燃料浸漬時の脂肪酸亜鉛の生成を削減すること等が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
マリンホースの生産方式としては、例えば、複数のゴムシートをマンドレル上に周方向に積層して積層体を成形し、その後加硫缶内で積層体にスチームで熱や圧力を加えて加硫する方法が挙げられる。加硫時の熱や圧力によって、ゴム等が溶融し、ゴムシートは層間で融着して一体化することができる。
上述のとおりマリンホースは大型なので、上記生産方法においてマリンホースの最内層用のゴム組成物の加硫を効果的に完結させるために、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム及び硫黄を含有するゴム組成物に、加硫促進剤、酸化亜鉛、及びステアリン酸を配合することが一般的に行われている。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、マリンホースを製造する際、アクリロニトリルブタジエンゴムに、ステアリン酸のような脂肪酸、酸化亜鉛等を配合するゴム組成物でマリンホースの最内層を形成すると、最内層内部のゴム層(ゴムシート)の間で接着不良が発生する場合があることを本発明者は見出した。
本発明者は、上記接着不良の原因の1つは、加硫前のゴム組成物から、上記脂肪酸と酸化亜鉛との反応生成物である脂肪酸亜鉛がブルームして(具体的には例えば、ゴム組成物を圧延したゴムシートの表面の少なくとも一部が脂肪酸亜鉛で覆われ)、ゴム組成物の表面状態が悪化することであると考えた。
また、マリンホースは上述のとおり大型なので、マリンホースの製造の際に加熱や加圧をしても、製造時の加熱や加圧は最内層に伝わり難くい。このため、加硫前にゴム組成物から脂肪酸亜鉛がブルームした場合、上記接着不良は、小型のホース等に比べて、より発生しやすいと考えられた。
【0007】
そこで、本発明は、ホースの最内層における層間接着性が優れるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、アクリロニトリルブタジエンゴムと、カーボンブラックと、シリカと、レゾルシンと、ヘキサメチレンテトラミンとを含み、脂肪酸の配合量が上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部であり、後述する脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下である、ゴム組成物によれば、所望の効果が得られることを見出した。
本発明は上記知見等に基づくものであり、具体的には以下の構成により上記課題を解決するものである。
【0009】
[1] アクリロニトリルブタジエンゴムと、カーボンブラックと、シリカと、レゾルシンと、ヘキサメチレンテトラミンとを含み、
脂肪酸の配合量が上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部であり、
105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシートにおける脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下である、ホースの最内層用のゴム組成物。
脂肪酸亜鉛析出インデックス=A÷B
A:全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、1540cm-1付近のピークトップのピーク強度
B:全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、2230cm-1付近のピークトップのピーク強度
[2] 上記アクリロニトリルブタジエンゴムのアクリロニトリル量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム中の35質量%以上である、[1]に記載のゴム組成物。
[3] 上記カーボンブラックの窒素吸着比表面積が、20~40m2/gである、[1]又は[2]に記載のゴム組成物。
[4] 上記カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量が、20~80ml/100gである、[1]~[3]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[5] 上記カーボンブラックの含有量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、70~100質量部である、[1]~[4]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[6] 上記レゾルシンの含有量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、1.0~5.0質量部であり、
上記ヘキサメチレンテトラミンの含有量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0.2~2.0質量部である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[7] さらに、硫黄を含む、[1]~[6]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[8] 上記シリカの含有量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、20~40質量部である、[1]~[7]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[9] 更に、酸化亜鉛を含む、[1]~[8]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[10] マリンホースの最内層を形成する、[1]~[9]のいずれか1つに記載のゴム組成物。
[11] [1]~[9]のいずれか1つに記載のゴム組成物を用いて形成された最内層を有する、マリンホース。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴム組成物は、ホースの最内層における層間接着性が優れる。
本発明のマリンホースは、最内層における層間接着性が優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例3で製造された、105℃の条件下でのプレス前のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
【
図2】
図2は、実施例3で製造された、105℃の条件下で10分間プレス後のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
【
図3】
図3は、
図2に示したピーク3を含む部分を拡大した拡大図である。
【
図4】
図4は、
図2に示したピーク4を含む部分を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明について以下詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその製造方法について特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
本明細書において、特に断りのない限り、各成分はその成分に該当する物質をそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。成分が2種以上の物質を含む場合、成分の含有量は、2種以上の物質の合計の含有量を意味する。
本発明のゴム組成物において、成分の「配合量」は、アクリロニトリルブタジエンゴムに各成分を添加(使用)する量を指す。成分の「含有量」は、本発明のゴム組成物が含有する成分の量を指す。
本発明において特に断りがない限り、アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対するある成分の含有量を、アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対する上記成分の配合量と同様とすることができる。本明細書では上記を、ある成分の「含有量(又は配合量)」と示す場合がある。
【0013】
[ゴム組成物]
本発明のゴム組成物は、
アクリロニトリルブタジエンゴムと、カーボンブラックと、シリカと、レゾルシンと、ヘキサメチレンテトラミンとを含み、
脂肪酸の配合量が上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部であり、
105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシートにおける脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下である、ホースの最内層用のゴム組成物である。
脂肪酸亜鉛析出インデックス=A÷B
A:全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、1540cm-1付近のピークトップのピーク強度
B:全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、2230cm-1付近のピークトップのピーク強度
以下、本発明のゴム組成物に含有される各成分について詳述する。
【0014】
[アクリロニトリルブタジエンゴム]
本発明のゴム組成物に含有されるアクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)は、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合体、及び/又は、その水素添加物である。
【0015】
(アクリロニトリル量)
NBRのアクリロニトリル量(AN量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性が優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム中の35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、43質量%以上が更に好ましい。
アクリロニトリル量の上限は、50質量%以下とでき、加工性が優れるという観点から、48質量%以下が好ましい。
NBRのアクリロニトリル量(結合アクリロニトリル量)は、JIS K6384:2001に準じてセミミクロケルダール法で測定できる。
【0016】
(ムーニー粘度)
NBRのムーニー粘度は、本発明の効果がより優れるという観点から、45~85であることが好ましく、45~60であることがより好ましい。
本発明において、NBRのムーニー粘度は、JIS K6300-1:2013に準じ、100℃の条件下で測定できる。
【0017】
(分子量分布)
NBRの分子量分布(Mw/Mn:重量平均分子量/数平均分子量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、3.5~6.0であることが好ましく、5.0~6.0であることがより好ましい。
本発明において、NBRの、重量平均分子量、数平均分子量及び分子量分布は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定値をもとにした標準ポリスチレン換算値から求めることができる。
【0018】
・その他のゴム
本発明のゴム組成物は、ゴムとして、上記NBRの他に、更に、NBR以外のゴム成分を含むことができる。
NBR以外のゴム成分(その他のゴム)としては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)等のジエン系ゴムが挙げられる。
【0019】
・NBRの含有量
上記NBRの含有量は、耐油性が優れるという観点から、本発明のゴム組成物におけるゴム成分全量中の80~100質量%であることが好ましく、100質量%がより好ましい。
上記NBRの含有量がゴム成分全量中の100質量%未満である場合、ゴム成分がNBR以外に更に含有できるゴムはジエン系ゴムであれば特に制限されない。
【0020】
[カーボンブラック]
本発明のゴム組成物に含有されるカーボンブラック(CB)は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0021】
(カーボンブラックの窒素吸着比表面積)
CBの窒素吸着比表面積(N2SA)は、本発明の効果がより優れ、耐油性、加工性が優れるという観点から、20~40m2/gが好ましく、20~30m2/gがより好ましい。
カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2:2001「第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定できる。
【0022】
(カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量)
CBのジブチルフタレート吸油量(DBP吸油量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性、加工性が優れるという観点から、20~80ml/100gが好ましく、20~50ml/100gがより好ましい。
カーボンブラックのジブチルフタレート吸油量(DBP吸油量)は、JIS K 6217-4:2008「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む)」に準じて測定できる。
【0023】
CBは、本発明の効果がより優れ、耐油性、加工性が優れるという観点から、FTF(Fine Thermal Furnace)級、GPF(General Purpose Furnace)級、又は、SRF(Semi-Reinforcing Furnace)級のカーボンブラックを含むことが好ましく、FTF級又はSRF級のカーボンブラックを含むことがより好ましく、FTF級のカーボンブラックを含むことがさらに好ましい。
【0024】
(カーボンブラックの含有量)
CBの含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性、加工性が優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、70~100質量部であることが好ましく、75~95質量部がより好ましく、80質量部以上、90質量部未満が更に好ましい。
【0025】
[シリカ]
本発明のゴム組成物に含有されるシリカは特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
なかでも、シリカは、本発明の効果がより優れ、補強性が優れるという観点から、pHが7より小さい酸性シリカを含むことが好ましい。
本発明において、シリカのpHは、JIS K5101-17-2:2004に準じて測定できる。
【0026】
(シリカの含有量)
シリカの含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れ、補強性と層間接着性と加工性とのバランスが優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、20~40質量部であることが好ましく、20~30質量部がより好ましく、23~28質量部が更に好ましい。
【0027】
[レゾルシン]
本発明のゴム組成物に含有されるレゾルシンは、下記構造式で表される化合物(1,3-ベンゼンジオール)である。
【化1】
レゾルシンは、後述するヘキサメチレンテトラミンと反応して、本発明のゴム組成物が有する層間接着性を促進することができる。レゾルシンは、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物のようなレゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂よりも低分子であるため、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂よりも速くゴム組成物の表面に移動し、そこで(上記のゴム組成物の表面で)ヘキサメチレンテトラミンと反応できる。このため、本発明のゴム組成物は、レゾルシン・ホルムアルデヒド樹脂を含有するゴム組成物よりも、層間接着性を促進することができる。
【0028】
(レゾルシンの含有量)
レゾルシンの含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性が優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、1.0~5.0質量部であることが好ましく、1.0~3.0質量部がより好ましい。
【0029】
[ヘキサメチレンテトラミン]
本発明のゴム組成物に含有されるヘキサメチレンテトラミンは、下記構造式で表される化合物である。
【化2】
【0030】
(ヘキサメチレンテトラミンの含有量)
ヘキサメチレンテトラミンの含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性が優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0.2~2.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部がより好ましい。
【0031】
(硫黄)
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れ、耐油性が優れるという観点から、更に、硫黄を含むことが好ましい。
上記硫黄はゴム組成物に使用される硫黄(硫黄単体)であれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0032】
・硫黄の含有量
上記硫黄の含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れ、耐油性又は物性が優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、1.0質量部以上、3.0質量部以下であることが好ましく、1.0質量部以上、2.0質量部以下がより好ましい。
【0033】
(酸化亜鉛)
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより優れるという観点から、更に、酸化亜鉛を含むことが好ましい。
酸化亜鉛はゴム組成物に使用されるものであれば特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
【0034】
・酸化亜鉛の含有量
酸化亜鉛の含有量(又は配合量)は、本発明の効果がより優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、1.0~10.0質量部であることが好ましく、3.0~8.0質量部がより好ましい。
【0035】
[脂肪酸]
本発明において、脂肪酸の配合量は、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0~1.0質量部である。
本発明において、脂肪酸の配合量が上記であることによって、本発明の効果が優れる。
本発明の組成物において、「脂肪酸の配合量」は、アクリロニトリルブタジエンゴムに脂肪酸を添加(使用)する量を指す。上記添加は、例えば、本発明の組成物を製造する際、アクリロニトリルブタジエンゴムに脂肪酸を加えるものであればよい。脂肪酸の配合量が0質量部である場合、アクリロニトリルブタジエンゴムに脂肪酸は添加(使用)されない。
なお、原料としてのNBRが例えば乳化剤として脂肪酸を含む場合があるが、通常、原料としてのNBRに含まれる脂肪酸の量は非常に少ないので、本発明においては原料としてのNBRに含まれる脂肪酸の量を考慮しなくてもよい。
【0036】
本発明において、脂肪酸は、カルボキシ基を1個有する脂肪族炭化水素化合物を指す。脂肪酸が有する脂肪族炭化水素基は特に制限されない。脂肪族炭化水素基は、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基のいずれであってもよい。
【0037】
[脂肪酸の配合量]
脂肪酸の配合量は、金属(例えば鉄。以下同様)に対する接着性が優れ、本発明の効果がより優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0質量部又は0.5質量部未満であることが好ましく、0~0.1質量部がより好ましく、0質量部が更に好ましい。
【0038】
また、脂肪酸の配合量は、共ゴムタッキネスが高く、本発明の効果がより優れるという観点から、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0.5~1.0質量部であることが好ましい。
【0039】
本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合する場合、配合する脂肪酸としては、例えば、脂肪酸組成比が、
C14:1.0~31.0%、
C16:20.0~50.0%、
C18:49.0~79.0%である脂肪酸が挙げられる。
なお、上記「C14:1.0~31.0%」は、脂肪酸全体に対する、全炭素数が14個である脂肪酸が占める割合1.0~31.0質量%であることを意味する。各脂肪酸の脂肪酸組成について上記と同様である。
【0040】
本発明において、脂肪酸組成比は、JIS K3331:2009(工業用硬化油・脂肪酸)に記載の7.10_純度の試験内容に沿って、ガスクロマトグラフィーにて測定された。
【0041】
C14の脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸のような飽和脂肪酸;ミリストレイン酸のような不飽和脂肪酸が挙げられる。
C16の脂肪酸としては、例えば、パルミチン酸のような飽和脂肪酸;パルミトレイン酸のような不飽和脂肪酸が挙げられる。
C18の脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸のような飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸のような不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0042】
本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合する場合の脂肪酸としては、具体的には例えば、
脂肪酸組成比が、
C14:1.0~10.0%、
C16:40.0~49.0%、
C18:50.0~59.0%である脂肪酸A;
脂肪酸組成比が、
C14:1.0~16.0%、
C16:20.0~35.0%、
C18:64.0~79.0%である脂肪酸Bが挙げられる。
【0043】
本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合する場合、共ゴムタッキネスが高く、本発明の効果がより優れるという観点から、脂肪酸として脂肪酸Bを配合することが好ましい。
また、本発明のゴム組成物に脂肪酸Bを配合する場合、共ゴムタッキネスが高く本発明の効果がより優れ、得られる加硫ゴムの破断時伸びが高いという観点から、脂肪酸Bの配合量が、上記アクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して、0.5~1.0質量部であることが好ましい。
【0044】
本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合する場合、脂肪酸としては例えば牛脂脂肪酸が挙げられる。
また、本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合する場合、脂肪酸として市販品を使用することができる。上記市販品としては例えば、一般的に、単に「ステアリン酸」と称されC18等の脂肪酸等を含有する脂肪酸、又は、工業用ステアリン酸が挙げられる。工業用ステアリン酸は、通常、C18(例えばステアリン酸、オレイン酸)、C16(例えばパルミチン酸、パルミトレイン酸)、C14(例えばミリスチン酸、ミリストレイン酸)等脂肪酸の混合物である。
【0045】
(添加剤)
本発明のゴム組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、添加剤を更に含むことができる。添加剤としては、例えば、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、加硫促進剤、接着助剤、加硫遅延剤、カーボンブラック及びシリカ以外の充填剤が挙げられる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、マグネシウム化合物を配合しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のゴム組成物は、カルシウム化合物を配合しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
本発明のゴム組成物は、レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物を配合しないことが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0047】
本発明のゴム組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム以外の上述した各成分を、アクリロニトリルブタジエンゴムに配合し、これらを公知の方法、装置(例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等)で混合する方法等が挙げられる。
本発明のゴム組成物を製造する際の混合温度は、例えば、50~140℃であることが好ましい。
【0048】
[脂肪酸亜鉛析出インデックス]
本発明において、本発明のゴム組成物を105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシートにおける脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下である。
【0049】
脂肪酸亜鉛析出インデックスは、本発明の効果がより優れるという観点から、0.0~0.09であることが好ましい。
なお、本発明のゴム組成物に脂肪酸を配合しない(脂肪酸の配合量がアクリロニトリルブタジエンゴム100質量部に対して0質量部である)場合、脂肪酸亜鉛析出インデックスは、0.0であることが好ましい。
【0050】
本発明において、脂肪酸亜鉛析出インデックスは下記式で求められる。
脂肪酸亜鉛析出インデックス=A÷B
上記式中、Aは、全反射赤外分光法(ATR-IR)によって測定された、上記ゴムシート(本発明のゴム組成物を105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシート)の吸光度表示のチャートにおける、1540cm-1付近のピークトップのピーク強度であり、
Bは、全反射赤外分光法(ATR-IR)によって測定された、上記ゴムシート(本発明のゴム組成物を105℃の条件下で10分間プレスした後のゴムシート)の吸光度表示のチャートにおける、2230cm-1付近のピークトップのピーク強度である。
【0051】
(ゴムシートの調製方法)
本発明において、全反射赤外分光法(ATR-IR)に使用されたゴムシートの調製方法は以下のとおりである。
まず、本発明のゴム組成物を、圧延して、厚さ2.1mmのシートに成形し、上記シートを離型紙とポリエチレンシートとの間に挟んで、厚さ2mmのモールドで105℃の条件下で10分間加熱しながら、プレスした。
次いで、上記10分間のプレス後、モールドからゴムシート(ゴムシートの大きさは、縦15cm、横10cm、厚さ2mm)を取り出し、離型紙を剥がして、23℃の条件下に2時間置き、2時間後のゴムシートについて、全反射赤外分光法(ATR-IR)による測定を後述のとおり行った。
上記のようにして得られたゴムシート(圧延シート)は、未加硫の状態である。
【0052】
(全反射赤外分光法による測定)
本発明において、上記のとおり調製されたゴムシートからポリエチレンシートを剥がし、当該剥離面(ポリエチレンシートを剥がした面)において速やかに、全反射赤外分光法(ATR-IR)による測定を下記条件にて行い、上記ゴムシートの表面分析を行った。
(ATR-IR測定条件)
装置:フーリエ変換赤外分光光度計「ALPHA」 ブルカー社製
測定モード:ATR法(プリズム:ゲルマニウム、入射角:30°)
分解能:4cm-1
積算回数:24回
波数範囲:600~4000cm-1
測定温度:23℃
【0053】
上記測定の結果、ゴムシートの吸光度表示のチャートを得た。チャートの縦軸は吸光度、横軸は波数(1/波長。単位cm-1)である。
上記チャートにおいて、1540cm-1付近におけるピークは、脂肪酸亜鉛が有するC=Oに由来する。
上記チャートにおいて、2230cm-1付近におけるピークは、アクリロニトリルブタジエンゴムが有するニトリル結合に由来する。
【0054】
[脂肪酸亜鉛析出インデックスを求める式中のA]
脂肪酸亜鉛析出インデックスを求める式中の「A」は、全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、1540cm
-1付近のピークトップのピーク強度である。1540cm
-1付近のピークトップは、1540cm
-1付近におけるピークにおいて吸光度が最も高い位置を指す。
本発明において、A(ピーク強度A)は、以下の方法で得ることができる。まず、上記チャートの1540cm
-1付近におけるピークの下に、ベースラインを引く。次に、1540cm
-1付近のピークトップにおける吸光度と、上記ピークトップの波数に対応するベースラインにおける吸光度との差を求める。上記方法で得られた差の値が、A(ピーク強度A)である。
ベースラインの設定方法としては、例えば、ピークの近くに起伏(別のピーク)がある場合は、上記ピークの各両側における例えば、上記ピークの裾となる点、又は、上記ピークとこれに隣接するピークとの間の谷となる点を直線で結ぶ方法;ピークの高波数側のスペクトルがほぼ直線状態である場合は、上記ピークの高波数側のスペクトルからの延長線としてベースラインを設定する方法が挙げられる。
A(ピーク強度A)について添付の図面を用いて以下に説明する。なお、本発明は添付の図面に制限されない。
図2は、実施例3で製造された、105℃の条件下で10分間プレス後のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
図2の1540cm
-1付近においてピーク3を観察することができる。
図3は、
図2に示したピーク3を含む部分を拡大した拡大図である。
実施例3のA(ピーク強度A)は、以下の方法で得た。まず、
図3における1540cm
-1付近におけるピーク3の両側の裾となる点同士を直線で結んでベースライン5を引き、次に、1540cm
-1付近のピークトップにおける吸光度と、上記ピークトップの波数X1に対応するベースラインにおける吸光度との差6を求めた。上記方法で得られた差6が、実施例3のA(ピーク強度A)である。
差6(実施例3のA)は0.0005であった。なお、実施例3において波数X1はおよそ1538cm
-1であった。
【0055】
[脂肪酸亜鉛析出インデックスを求める式中のB]
脂肪酸亜鉛析出インデックスを求める式中の「B」は、全反射赤外分光法によって測定された、上記ゴムシートの吸光度表示のチャートにおける、2230cm
-1付近のピークトップのピーク強度である。2230cm
-1付近のピークトップは、2230cm
-1付近におけるピークにおいて吸光度が最も高い位置を指す。
本発明において、B(ピーク強度B)は、以下の方法で得ることができる。まず、上記チャートの2230cm
-1付近におけるピークの下にベースラインを引く。次に、2230cm
-1付近のピークトップにおける吸光度と、上記ピークトップの波数に対応するベースラインにおける吸光度との差を求める。上記方法で得られた差の値が、B(ピーク強度B)である。
ベースラインの設定方法としては、例えば、ピークの近くに起伏(別のピーク)がある場合は、上記ピークの各両側における例えば、上記ピークの裾となる点、又は、上記ピークとこれに隣接するピークとの間の谷となる点を直線で結ぶ方法;ピークの高波数側のスペクトルがほぼ直線状態である場合は、上記ピークの高波数側のスペクトルからの延長線として設定する方法が挙げられる。
B(ピーク強度B)について添付の図面を用いて以下に説明する。なお、本発明は添付の図面に制限されない。
図2は、実施例3で製造された、105℃の条件下で10分間プレス後のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
図2の2230cm
-1付近においてピーク4を観察することができる。
図4は、
図2に示したピーク4を含む部分を拡大した拡大図である。
実施例3のB(ピーク強度B)は、以下の方法で得た。まず、
図4における2230cm
-1付近におけるピーク4の高波数側(波数が2230cm
-1よりも大きい領域)のほぼ直線状態のスペクトルからピーク4の下に延長線を引き、この延長線をベースライン7とした。次に、2230cm
-1付近のピークトップにおける吸光度と、上記ピークトップの波数X2に対応するベースラインにおける吸光度との差8を求めた。上記方法で得られた差8が、実施例3のB(ピーク強度B)である。実施例3において波数X2はおよそ2235cm
-1であった。
差8(実施例3のB)は0.0060であった。
【0056】
(脂肪酸亜鉛析出インデックスの式)
本発明において、脂肪酸亜鉛析出インデックス(脂肪酸Zn析出インデックス)は下記式で表される。
脂肪酸亜鉛析出インデックス=A÷B
式中、Aは上記のとおり、上記チャートにおける1540cm-1付近のピークトップのピーク強度である。上記Aは、つまり、ゴムシート表面に存在する脂肪酸亜鉛の量を表す。
Bは上記のとおり、上記チャートにおける2230cm-1付近におけるピーク強度である。上記Bは、つまり、ゴムシート表面に存在するニトリル結合の量を表す。
上記から、脂肪酸亜鉛析出インデックスは、ゴムシート表面における、アクリロニトリルブタジエンゴムが有するニトリル結合に対する、脂肪酸亜鉛の量を表す。
本発明において脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下であることは、未加硫のゴム組成物によるゴムシート表面における脂肪酸亜鉛の量が少ないことを表す。
一方、脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1を超えることは、上記ゴムシート表面における脂肪酸亜鉛の量が多いことを表す。ゴムシート表面における脂肪酸亜鉛の量が多いことは、ゴム組成物同士の密着性、又は、層間接着性を阻害すると考えられる。
脂肪酸と酸化亜鉛との反応によって生成し得る脂肪酸亜鉛は、本発明のゴム組成物によるゴムシートを105℃の条件下で10分間プレスした際、ゴムシート(未加硫)中に溶解し得るが、上記のとおり、プレス後のゴムシート(未加硫)を23℃の条件下に2時間置いて、上記ゴムシートが冷えることによって、脂肪酸亜鉛は上記ゴムシートの表面に移行しブルームが生じると考えられる。
このように本発明において脂肪酸亜鉛析出インデックスは、詳細には、本発明のゴム組成物による未加硫ゴムシートを上記のとおり一旦加熱しその後上記未加硫ゴムシートが冷えることによって、未加硫ゴムシートの表面に存在する脂肪酸亜鉛の量を表すと考えられる。
【0057】
本発明のゴム組成物は、従来公知の加硫条件で加硫することができる。本発明において、加硫の際の温度を例えば130~148℃とすることができる。
【0058】
[ホースの最内層用]
本発明のゴム組成物はホースの最内層用のゴム組成物である。
本発明のゴム組成物でホースの最内層を形成できる。
上記ホースとしては、例えば、マリンホースが挙げられる。
なかでも、本発明のゴム組成物が耐油性が優れるという観点から、本発明のゴム組成物でマリンホースの最内層を形成することが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0059】
本発明のゴム組成物で形成された最内層を有するホース(例えばマリンホース)を製造する方法としては、例えば、まず、マンドレルに本発明のゴム組成物のシートを巻き付ける。本発明のゴム組成物のシートをマンドレルに巻き付ける方法は特に制限されないが、例えば、シート同士を一部重ねながら(例えば螺旋状に)巻き付ける方法、及び/又は、本発明のゴム組成物のシートをマンドレル上に複数層巻き付ける方法が挙げられる。次に、本発明のゴム組成物のシートの上には、例えば、樹脂層、補強層、中間ゴム層、浮力材層及び最外層(例えば、カバーゴム層)からなる群から選ばれる少なくとも1種を積層させることができる。上記各種の層は特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。また、上記各種の層について、例えば、材料、ホースにおける配置等は、特に制限されない。
上記のように得られた積層体を加硫等させることによって、最内層が本発明のゴム組成物で形成されたホースを製造できる。
【0060】
ホースがマリンホースである場合、マリンホースは一般的に大型なので、初期段階において、上記積層体を、例えば、100~110℃の範囲で1~1.5時間加熱し、その後、130~148℃の条件で加熱することが好ましい態様の1つとして挙げられる。上記のように130~148℃の条件で加熱することによって、マリンホース全体を加硫することができる。
また、本発明において脂肪酸亜鉛析出インデックスの測定に使用されたゴムシートを調製する際のプレス温度105℃は、上記初期段階の加熱温度に対応する。
【0061】
[マリンホース]
本発明のマリンホースは、本発明のゴム組成物を用いて形成された最内層を有する、マリンホースである。
【0062】
本発明のマリンホースの最内層に使用されるゴム組成物は、本発明のゴム組成物であれば特に制限されない。
本発明のマリンホースは、最内層が上記ゴム組成物を用いて形成されたこと以外、特に制限されない。
【0063】
(最内層)
本発明のマリンホースは、上記ゴム組成物を用いて形成された最内層を有する。
最内層の厚さは、例えば、1.5~8.0mmとできる。
【0064】
本発明のマリンホースは、最内層以外に、更に、補強層、中間ゴム層、最外層、樹脂層及び浮力材層からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することができる。本発明のマリンホースは、補強層を1層又は複数層有することができる。中間ゴム層も同様である。
【0065】
本発明のマリンホースは、例えば、最内層、補強層、最外層を上記の順に有することができる。
上記最内層と上記補強層との間、又は、上記補強層と上記最外層との間に、更に、中間ゴム層を有することができる。
補強層を複数層有する場合、補強層と補強層との間に、更に、中間ゴム層を有することができる。本発明のマリンホースが補強層を複数層有し、補強層と補強層との間に中間ゴム層を有することができる場合、マリンホースの形態としては、例えば、最内層/[中間ゴム層/補強層]n/中間ゴム層/最外層が挙げられる。上記形態において、マリンホースは、[中間ゴム層/補強層]をn層有することができる。nは例えば2~10とできる。[中間ゴム層/補強層]は、例えば、中間ゴム層と補強層との積層体、又は、中間ゴム層がコートゴムとして予め補強層に付与されたものを意味する。
【0066】
(補強層)
本発明のマリンホースが更に有することができる補強層は特に限定されない。
上記補強層の材質としては、例えば、金属、繊維材料(ポリアミド、ポリエステル等)が挙げられる。
上記補強層は表面処理されたものであってもよい。また、上記補強層は、例えば、中間ゴム層がコートゴムとして予め補強層に付与されたものであってもよい。
上記補強層の形態としては、例えば、スパイラル構造および/又はブレード構造に編組されたもの、織布(例えば、帆布)、不織布等が挙げられる。
上記補強層(例えば、1層の補強層)の厚さ(又はコートゴムが予め付与された補強層の厚さ)は、例えば、0.5~1.5mmとできる。
【0067】
(中間ゴム層)
本発明のマリンホースが更に有することができる中間ゴム層は特に限定されない。
上記中間ゴム層に含まれるゴムとしては、例えば、天然ゴム及び/又は合成ゴムが挙げられる。
上記中間ゴム層の厚さは、例えば、2.0~8.0mmとできる。
コートゴムが予め片面又は両面に付与された補強層によって中間ゴム層が形成される場合、上記補強層(コートゴム層を除く)間の中間ゴム層の厚さは、例えば、0.5mm以上とできる。
【0068】
(最外層)
本発明のマリンホースが更に有することができる最外層は特に限定されない。
上記最外層を例えばゴム層とできる。
上記最外層に含まれるゴムとしては、例えば、天然ゴム及び/又は合成ゴムが挙げられる。
上記最外層の厚さは、例えば、2.0~10.0mmとできる。
【0069】
(マリンホース)
本発明のマリンホースの内径は特に制限されない。例えば10~30インチとできる。
本発明のマリンホースの長さは特に制限されない。例えば5~20メートルとできる。
【実施例0070】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されない。
【0071】
[ゴム組成物の製造]
下記第1表の各成分を同表に示す組成(質量部)で配合した。
具体的には、まず、下記第1表に示す成分のうち、硫黄、加硫促進剤及びヘキサメチレンテトラミンを除く成分を、2リットルの密閉型ミキサーで100℃の条件下で5分間混合してマスターバッチを得た。次に、得られたマスターバッチに硫黄、加硫促進剤及びヘキサメチレンテトラミンを加え、これらをオープンロールで50℃の条件下で混合し、ゴム組成物(初期のゴム組成物)を得た。
【0072】
[脂肪酸亜鉛析出インデックス]
上記のとおり製造された各ゴム組成物を用いて、上述した方法に従って各ゴム組成物の脂肪酸亜鉛析出インデックスを算出した。第1表に、A及びBの値、並びに、上記A、Bから算出した脂肪酸Zn析出インデックスの値を示す。
【0073】
[評価]
上記のとおり製造された各ゴム組成物を用いて以下の評価を行った。結果を第1表に示す。
【0074】
(加硫ゴムの引張物性)
上記のとおり製造された各ゴム組成物を148℃のプレス成型機を用い、面圧3.0MPaの圧力下で195分間加硫して、2mm厚の加硫シートを作製した。
JIS K6251:2017に準じて、上記加硫シートからJIS規格の3号ダンベルを打ち抜き、加硫ゴムの試験片を作製した。
加硫ゴムの試験片を用いて、JIS K6251:2017に準拠して、23℃の条件下で引張速度500mm/分で引張試験を行い、破断特性(破断強度(TB)[MPa]、破断時伸び(EB)[%])を測定した。
TBが12.0MPa以上であった場合、又は、EBが450%以上であった場合、加硫ゴムの引張物性が優れると評価した。加硫ゴムの引張物性が優れることは、製品寿命が長いことにつながる。
加硫ゴムの引張物性がより優れる(製品寿命をより長くできる)という観点から、TBが12.0MPaより大きい場合、又は、EBが450%以上より大きい場合が好ましい。TBが14.0MPaより大きく、同程度である場合、EBが450%以上より大きいほど、加硫ゴムの引張強度(製品寿命)がより優れる。
【0075】
(共ゴムタッキネス)
上記のとおり得られた、各ゴム組成物(未加硫)を60℃の条件下で圧延して、長さ150mm、幅100mm、厚さ3mmのシート状物(圧延シート)を2枚作製した。
測定装置(商品名タックテスター、PICMA社製)を用いて、上記圧延シート1枚を上記測定装置の円柱リング(直径100mm、厚さ1cm)の円周上へ巻き付け、もう1枚の圧延シートを上記測定装置の台にセットした。次に、圧延シートが巻き付けられた円柱リングを台上の圧延シートに、荷重500gfで10秒、23℃の条件下で圧着し、その後、30mm/分の引張速度で円柱リングを上向きに引っ張り、ゴム組成物同士(共ゴム)の密着力を測定し、得られた上記密着力を共ゴムタッキネスとした。
タック試験で測定されたゴム組成物同士の密着力を第1表の「共ゴムタッキネス」欄(単位g)に示す。
上記数値が800g以上であった場合、未加硫のゴム組成物同士の密着力が優れると評価した。上記数値が800gより大きかった場合、上記密着力がより優れる。
一方、上記数値が800g未満であった場合、未加硫のゴム組成物同士の密着力が悪いと評価した。
上記密着力が優れることは、加硫前のゴム組成物から、脂肪酸と酸化亜鉛との反応生成物である脂肪酸亜鉛がブルームしていない、又は、ブルームが少ないことを表し、優れた層間接着性に寄与すると考えられる。
【0076】
[マリンホースの製造]
以下の材料を用いて、マリンホースを製造した。
・最内層用材料:上記のとおり製造された各ゴム組成物を60℃の条件下で圧延した、幅30cm、厚さ2.0mmのシート。
・補強層用材料:NR系コートゴム(天然ゴムを含有するコートゴム)が予め両面に被覆されたポリエステルのすだれ(補強層としての厚さはコートゴムを含めて1.5mm。補強層の片面上のコートゴムの層の厚さは0.4mm。補強層の長さ10m)
・最外層用材料:NR系カバーゴム組成物(天然ゴムを含有するゴム組成物)を60℃の条件下で圧延した、幅30cm、厚さ2.0mmのシート。
【0077】
・各マリンホースの製造方法
最内層として、上記のとおり得られた、30cm幅の各シートを、最内層の厚さ(加硫前)が5mmとなるように、シート同士を10cm程度重ねながら、螺旋状に、マンドレル(直径10インチ、長さ10m)へ巻き付けた。
次いで、上記最内層の上に、NR系コートゴム(中間ゴム層)が予め両面に被覆された上記ポリエステル(補強層)3枚を1枚ずつ巻きつけ、中間層として、[中間ゴム層/補強層]3/中間ゴム層を形成した。
最後に、上記中間層の上に、最外層として、上記NR系カバーゴム組成物のシートを、最外層の厚さ(加硫前)が3mmとなるように、シート同士を一部重ねながら、螺旋状に、マンドレルへ巻き付けた。
上記のとおり、口径10インチ、長さ10mに成形したマリンホース(加硫前)を加硫缶へ入れて、148℃の条件下で100分加硫した。
加硫後、マリンホースをマンドレルから外して、マリンホースを得た。
【0078】
[層間接着性]
・試験方法
上記のとおり製造された各マリンホースの両端を塞ぎ、室温の条件下において、真空ポンプを用いて上記マリンホース内から空気を抜いて、上記マリンホースの内部圧力を-0.85barに維持した状態で10分間マリンホースを放置した(真空試験)。
【0079】
10分経過後、マリンホースの内圧を常圧へ戻し、マリンホースの最内層を観察した。最内層の表面に膨れがあった場合、膨れをカッターナイフで切り開いて、膨れの内部が空洞(棚落ち)か否かを確認した。
本発明において、棚落ちがなかった場合、最内層の層間接着性が優れると評価し、これを「〇」と表示した。
一方、棚落ちがあった場合、最内層の層間接着性が悪いと評価し、これを「×」と表示した。
【0080】
[対鉄接着]
鉄板に予めメタロックNT接着剤(東洋化学研究所製)を塗布し、上記鉄板と上記のとおり製造した各ゴム組成物(厚さ4.0mm)とを重ね合わせて、148℃の条件下で、60分加硫接着して、積層体を得た。上記積層体において、加硫接着したゴム片を鉄板に対して90度方向に剥離したときの剥離力(N/mm)を測定した。
剥離力が大きい程、鉄との接着性が優れる。
マリンホースに使用される金属部品(例えば口金)は通常、鉄製である。
【0081】
【0082】
第1表に示した各成分の詳細は以下のとおりである。
・NBR(AN:45質量%):アクリロニトリルブタジエンゴム。Nipol DN005M(AN量:45質量%、100℃の条件下のムーニー粘度:50、分子量分布(Mw/Mn):5.4、日本ゼオン社製)
【0083】
・カーボンブラック(FTF):FTFカーボンブラック(アサヒサーマル、旭カーボン社製品)、窒素吸着比表面積24m2/g、ジブチルフタレート吸油量28ml/100g
【0084】
・シリカ:SiO2(pH:6.4の酸性シリカ、ニップシールAQ、東ソー・シリカ社製)
【0085】
・酸化亜鉛:亜鉛華3号(正同化学工業社)(加硫助剤)
【0086】
・脂肪酸1:ステアリン酸YR(日油社製)。脂肪酸組成比はC14:3.0%、C16:41.7%、C18:55.3%である。
・脂肪酸2:ステアリン酸桐(日油社製)牛脂脂肪酸。脂肪酸組成比はC14:1.7%、C16:26.0%、C18:72.3%である。
【0087】
・レゾルシン:レゾルシノール(住友化学社製)
【0088】
・ヘキサメチレンテトラミン:ノクセラーH、大内新興化学工業社製
【0089】
・レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合体:商品名PENACILITE RESIN B18-S(INDSPEC社製)。上記レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合体は、レゾルシンを含まない。
【0090】
・硫黄:粉末イオウ(細井化学工業社製)
・加硫促進剤CZ:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(ノクセラーCZ、大内新興化学工業社製)
【0091】
第1表に示す結果から明らかなように、脂肪酸の配合量が1.0質量部を超え、脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1を超える比較例1~4は、最内層における層間接着性が悪かった。
レゾルシン及びヘキサメチレンテトラミンを含有しない比較例5は、最内層における層間接着性が悪かった。
脂肪酸の配合量が1.0質量部を超え、脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1を超え、レゾルシンを含有せず、代わりにレゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物を含有する比較例6は、最内層における層間接着性が悪かった。
また、脂肪酸の配合量が1.0質量部を超えた比較例1~4、6は共ゴムタッキネスによって評価された未加硫のゴム組成物同士の密着力が悪く、最内層における層間接着性が悪かった。比較例1~4、6の未加硫のゴム組成物同士の密着力の悪化の原因は、脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1を超える(つまり、未加硫のゴムシートの表面に脂肪酸亜鉛がブルームし、ゴム組成物の表面状態が悪化した)ことにあると考えられる。上記のような未加硫のゴム組成物同士の密着力の悪化が、最内層における層間接着性の悪化につながったと考えられる。
【0092】
これに対して、本発明のゴム組成物は、最内層における層間接着性が優れた。
また、本発明のゴム組成物は未加硫のゴム組成物同士の密着力も良好であった。これは、未加硫のゴムシートから脂肪酸と酸化亜鉛との反応生成物である脂肪酸亜鉛が未加硫のゴムシートの表面にブルームすることがない、又は、ブルームが少ないことを証明すると考えられる。このため、本発明のゴム組成物において、この脂肪酸亜鉛析出インデックスが0.1以下であることが、最内層における層間接着性の向上に寄与すると考えられる。
また、本発明のゴム組成物は、加硫ゴムの引張物性、鉄に対する接着性も優れた。
なお、実施例1(脂肪酸の添加量が0質量部)では脂肪酸亜鉛のブルームは見られなかったことから、本実施例で使用された原料としてのNBRは脂肪酸を含有しなかったか、含有したとしても原料としてのNBR中の脂肪酸の量は非常に少なかったと考えられる。
【0093】
(実施例3)
実施例3で製造されたプレス前後のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートについて、添付の図面を用いて以下に説明する。なお、本発明は添付の図面に制限されない。
図1は、実施例3で製造された、105℃の条件下でのプレス前のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
図1において、ピーク1は1540cm
-1付近のピークであり、ピーク2は2230cm
-1付近のピークである。
図2は、実施例3で製造された、105℃の条件下で10分間プレス後のゴムシートの、全反射赤外分光法によって測定された、吸光度表示のチャートである。
図2において、ピーク3は1540cm
-1付近のピークであり、ピーク4は2230cm
-1付近のピークである。