(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073908
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】金属光沢を発現する膜、その膜を生成する水溶性塗料およびそれらに用いることができる新規なチオフェン共重合体
(51)【国際特許分類】
C09D 181/02 20060101AFI20240523BHJP
C08G 61/12 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C09D181/02
C08G61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184888
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】塚田 学
(72)【発明者】
【氏名】星野 勝義
(72)【発明者】
【氏名】加賀谷 優歩
【テーマコード(参考)】
4J032
4J038
【Fターム(参考)】
4J032BA03
4J032BA04
4J032BB01
4J032BB04
4J032BC03
4J032BC05
4J032BD07
4J038DK001
4J038MA08
4J038NA01
4J038PA18
4J038PB06
4J038PB07
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜、その膜を生成する水溶性塗料およびそれらに用いることができる新規なチオフェン共重合体を提供する。
【解決手段】親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体を含む。例えば、親水性置換基を有するチオフェン誘導体は、2-(3-チエニルオキシ)エタノールであり、チオフェン誘導体は、3-メトキシチオフェンである。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体を含むことを特徴とする金属光沢を発現する膜。
【請求項2】
親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体を含むことを特徴とする金属光沢を発現する膜。
【請求項3】
前記チオフェン共重合体は、ランダム共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項4】
前記親水性置換基を有するチオフェン誘導体は、2-(3-チエニルオキシ)エタノールであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項5】
前記チオフェン誘導体は、3-メトキシチオフェンであることを特徴とする請求項1に記載の金属光沢を発現する膜。
【請求項6】
親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体から実質的になる色材と、水系溶媒とを含むことを特徴とする水溶性塗料。
【請求項7】
前記チオフェン共重合体を0.1~1.0wt%含むことを特徴とする請求項6に記載の水溶性塗料。
【請求項8】
親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材と、水系溶媒とを含むことを特徴とする水溶性塗料。
【請求項9】
前記単独重合体を0.1~1.0wt%含むことを特徴とする請求項8に記載の水溶性塗料。
【請求項10】
下記式(1)で示されるチオフェン共重合体。(ここでX
-は、チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(1)において、l+m=2~900、n=1~500である。)
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属光沢を発現する膜、その膜を生成する水溶性塗料およびそれらに用いることができる新規なチオフェン共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属は、一般に硬く、例えば、家電や自動車等の機械的強度が必要な部品に使用されているだけでなく、金属光沢を有するため、質感に優れ、家具や雑貨等、日常生活のありとあらゆる物品において使用されている。しかしながら、金属は、材料そのものが高価であるだけでなく、加工も容易ではないことから、金属製の物品は高価になる傾向がある。
【0003】
安価に金属光沢を有する物品を製造する方法として、例えば、高分子化合物やガラスから造形された物品の表面に金属の薄膜を被覆する金属めっきや、微粒子またはフレーク状の金属を添加した塗料を物品の表面に塗布する等の表面処理技術が用いられている。
【0004】
しかしながら、金属めっきは、表面処理を行うことができる材質に制限があり、金属を添加した塗料は、塗料中におけるポリマーバインダーと金属との比重の違いにより、金属粒子が沈降し、塗膜にしたときに斑が生じやすくなってしまうといった課題がある。
【0005】
そこで、金属以外の非金属物質を用いて金属光沢を発現させることにより、上記課題を解決することが行われており、金属光沢を示す非金属物質に関する技術として、例えば特許文献1に記載の技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6308624号公報(第8頁~第10頁、第11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、例えば酸化剤を用いて3-メトキシチオフェンの重合体を合成し、その重合体をニトロメタン等の油性溶媒に溶解させて塗料とし、それをガラス基板上に塗布することにより、安価かつ汎用性に優れ、金属光沢を有する膜が得られる。このような金属光沢膜には、一層強い光沢(高い反射率)が求められており、さらに環境負荷や取り扱い性の観点から水溶性であることが求められており、発明者らの研究から、金属を用いることなく、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を見出すに至った。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜、その膜を生成する水溶性塗料およびそれらに用いることができる新規なチオフェン共重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一観点に係る金属光沢を発現する膜は、
親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を得ることができる。また、親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェン、他のチオフェン誘導体との組み合わせにより、生成膜の反射率や色調の調整を行いやすい。
【0010】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜は、
親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体を含むことを特徴とする。
この特徴によれば、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を得ることができる。
【0011】
前記チオフェン共重合体は、ランダム共重合体であることを特徴とする。
この特徴によれば、チオフェン共重合体を水系溶媒に溶解させやすくすることができる。
【0012】
前記親水性置換基を有するチオフェン誘導体は、2-(3-チエニルオキシ)エタノールであることを特徴とする。
この特徴によれば、高い反射率を実現できる。
【0013】
前記チオフェン誘導体は、3-メトキシチオフェンであることを特徴とする。
この特徴によれば、高い反射率を実現できる。
【0014】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜を生成する水溶性塗料は、
親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体から実質的になる色材と、水系溶媒とを含むことを特徴とする。
この特徴によれば、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を生成することができる。
【0015】
前記チオフェン共重合体を0.1~1.0wt%含むことを特徴とする。
この特徴によれば、チオフェン共重合体の濃度により水溶性塗料の粘度を調整することができる。
【0016】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜を生成する水溶性塗料は、
親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材と、水系溶媒とを含むことを特徴とする。
この特徴によれば、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を生成することができる。
【0017】
前記単独重合体を0.1~1.0wt%含むことを特徴とする。
この特徴によれば、単独重合体の濃度により水溶性塗料の粘度を調整することができる。
【0018】
本発明の他の一観点に係る金属光沢を発現する膜および金属光沢を発現する膜を生成する水溶性塗料に用いることができるチオフェン共重合体は、
下記式(1)で示されるチオフェン共重合体(ここでX-は、チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、下記式(1)において、l+m=2~900、n=1~500である。)であることを特徴としている。
【0019】
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明により、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜、その膜を生成する水溶性塗料およびそれらに用いることができる新規なチオフェン共重合体を提供することができる。また、金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する水溶性塗料は、上記式(1)に示される新規なチオフェン共重合体から実質的になる色材を用いたものに限らず、チオフェン共重合体を構成するモノマーである親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェン、他のチオフェン誘導体との組み合わせにより、生成膜の反射率や色調の調整が可能であり、生成膜の拡張性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施形態に係るチオフェン共重合体または単独重合体を含む金属光沢膜が形成された物体の断面概略図を示す図である。
【
図2】実施例1において用いた重合装置の概略を示す図である。
【
図3】実施例1において得られたチオフェン共重合体の粉末の層構造のイメージ図である。
【
図4】実施例1において得られた膜の写真図である。
【
図5】実施例1において得られた膜の正反射スペクトルを示す図である。
【
図6】実施例2において得られた膜の写真図である。
【
図7】実施例2において得られた膜の正反射スペクトルを示す図である。
【
図8】実施例3において得られた膜の写真図である。
【
図9】実施例3において得られた膜の正反射スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図9を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示に限定されるものではない。
【0023】
図1は、本実施形態に係る親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体(以下、単に「チオフェン共重合体」と言うこともある。)、または親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体(以下、単に「単独重合体」と言うこともある。)を含む金属光沢膜が形成された物品の断面の概略図である。
【0024】
本実施形態に係る金属光沢膜が形成される物品としては、表面に金属光沢膜が形成できる限りにおいて特に限定されるものではなく、家電や自動車等の電子製品や機械製品およびその部品だけでなく、家具や玩具等の日常生活において用いる雑貨、衣類、紙製品、包装等、ありとあらゆるものを挙げることができるが、材質としては高分子化合物やガラスによって構成されたものであることは、膜の形成しやすさと製造コストを低く抑えることができる観点において好ましい。
【0025】
また、本実施形態において金属光沢膜の厚さとしては、金属光沢を発現することができる限りにおいて限定されるわけではないが、0.1μm以上あれば金属光沢膜とすることができ、1μm以上あればより十分な金属光沢膜となる。
【0026】
また、本実施形態に係る金属光沢膜は、重量平均分子量の分布ピークが100以上100000以下の範囲内にあるチオフェン共重合体、または重量平均分子量の分布ピークが100以上100000以下の範囲内にある単独重合体を含む。また、本実施形態に係る金属光沢膜は、強い金属光沢を発現させる観点から重量平均重合度が4以上20以下の範囲内、好ましくは10以上20以下の範囲内にあるチオフェン共重合体、または重量平均重合度が4以上20以下の範囲内、好ましくは10以上20以下の範囲内にある単独重合体を含む。
【0027】
(チオフェン共重合体)
本実施形態において「チオフェン共重合体」は、親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、無置換のチオフェン(以下、単に「チオフェン」と言う。)および他のチオフェン誘導体の少なくとも1つとが、合計二以上互いに結合して共重合したもの(例えば下記一般式(2)で示される化合物)である。なお、本実施形態において、チオフェン共重合体は、モノマーとして少なくとも親水性置換基を有するチオフェン誘導体を含み、これがチオフェン、他のチオフェン誘導体と共重合したものであればよく、チオフェン共重合体を構成するモノマーの種類は2種類に限らず、3種類以上であってもよい。
【0028】
また、チオフェン共重合体は、後述する水系溶媒への溶解性を向上させる観点からモノマーの組み合わせが無秩序に配列されたランダム共重合体であることが好ましいが、これに限らず、交互共重合体、ブロック共重合体であってもよい。なお、ブロック共重合である場合、1種類のモノマーの配列の連鎖が長くなるとチオフェン共重合体の柔軟性が失われて水系溶媒への溶解性が低下してしまうことから、1種類のモノマーの配列の連鎖が2~5個程度の範囲でバランスよく構成されることが好ましい。
【0029】
【0030】
上記式(2)において、R1~R4は置換基であり、2種類のモノマーが共重合したチオフェン共重合体を例示している。また、上記式(2)において、X-は、チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。また、R3,R4を有するモノマーは、親水性置換基を有するチオフェン誘導体であり、R1,R2を有するモノマーは、チオフェン或いは他のチオフェン誘導体である。なお、R1,R2を有するモノマーが他のチオフェン誘導体である場合、R3,R4を有するモノマー(親水性置換基を有するチオフェン誘導体)と異なる構造のモノマーであればR1,R2の少なくともいずれかが親水性置換基を有していてもよい。また、上記式(2)において、l+m=2~900、n=1~500である。
【0031】
詳しくは、R1~R4は、膜に金属光沢を付与できる限りにおいて限定されるわけではないが、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基、アリール基、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、または、ハロゲンのいずれかであることが好ましく、より確実に金属光沢を得るためにはR3,R4の少なくともいずれかが親水性置換基であるアミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基であり、R1,R2の少なくともいずれかが疎水性置換基であるアルキル基、アルコキシ基、ハロゲンであることが好ましい。
【0032】
なお、上記式(2)中R1~R4がアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基である場合、炭素数は1または2であることが好ましい。炭素数を1または2とすることで、チオフェン共重合体が水溶性となりやすく、かつ層状の配向構造を効果的に発現させて金属光沢膜を得ることができる。
【0033】
また、上記式(2)中R1~R4がアミノ基である場合、アミノ基に炭素が含まれる場合における炭素数も1または2であることが好ましい。
【0034】
具体的には、上記式(2)において、R3,R4を有するモノマー、すなわち親水性置換基を有するチオフェン誘導体は、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3-チオフェンメタノール、2-(3-チエニル)エタノール、2-(3-チエニルオキシ)エタノール等を例示することができる。
【0035】
また、上記式(2)において、R1,R2を有するモノマーは、チオフェン、3-メトキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3-メチルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3-エチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-メチルアミノチオフェン、3-ジメチルアミノチオフェン等を例示することができる。
【0036】
なお、R3,R4を有するモノマーは、R3,R4の少なくとも一方が親水性置換基であり、他方が水素原子であることが好ましい。また、R1,R2を有するモノマーは、R1,R2の少なくとも一方が疎水性置換基であり、他方が水素原子であることが好ましい。
【0037】
具体的に、好ましくは、R3,R4を有するモノマー、すなわち親水性置換基を有するチオフェン誘導体が2-(3-チエニルオキシ)エタノールであるチオフェン共重合体とすることにより、水溶性でありながら、高い反射率を有する金属光沢を発現する膜が得られやすい。さらに好ましくは、2-(3-チエニルオキシ)エタノールと、R1,R2を有するモノマーすなわち他のチオフェン誘導体として3-メトキシチオフェンがランダム共重合した新規なチオフェン共重合体(上記一般式(1)参照)とすることにより、水溶性でありながら、より高い反射率を有する金属光沢を発現する膜が得られやすい。これは、2-(3-チエニルオキシ)エタノールの親水性置換基(ヒドロキシエトキシ基)と3-メトキシチオフェンの疎水性置換基(メトキシ基)の長さを近づけることにより、チオフェン共重合体としたときにバランスが取れた結晶構造となり、層状の配向構造を形成しやすくなるためであると推測される。
【0038】
また、本実施形態において、「チオフェン共重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、いわゆるオリゴマーであることが好ましい。
【0039】
(単独重合体)
本実施形態において「単独重合体」は、親水性置換基を有する1種類のチオフェン誘導体が重合したもの(例えば下記一般式(3)で示される化合物)である。また、下記式(3)において、X-は、単独重合体にドーパントとして組み込まれる任意のアニオンである。
【0040】
【0041】
上記式(3)において、R3,R4は置換基であり、R3,R4の少なくともいずれかが親水性置換基であるアミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基であればよく、残りの置換基は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基、アリール基、シアノ基、ホルミル基、ニトロ基、または、ハロゲンのいずれかであることが好ましい。また、上記式(3)において、m=2~900、n=1~500である。
【0042】
なお、上記式(3)中R3,R4がアルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアルコキシ基である場合、炭素数は1または2であることが好ましい。炭素数を1または2とすることで、単独重合体が水溶性となりやすく、かつ層状の配向構造を効果的に発現させて金属光沢膜を得ることができる。
【0043】
また、上記式(3)中R3,R4がアミノ基である場合、アミノ基に炭素が含まれる場合における炭素数も1または2であることが好ましい。
【0044】
具体的には、上記式(3)において、R3,R4を有するモノマー、すなわち親水性置換基を有するチオフェン誘導体は、3-アミノチオフェン、3,4-ジアミノチオフェン、3-ヒドロキシチオフェン、3,4-ジヒドロキシチオフェン、3-チオフェンメタノール、2-(3-チエニル)エタノール、2-(3-チエニルオキシ)エタノール等を例示することができる。
【0045】
なお、R3,R4を有するモノマーは、R3,R4の少なくとも一方が親水性置換基であり、他方が水素原子であることが好ましい。具体的に、好ましくは、2-(3-チエニルオキシ)エタノールの単独重合体(下記一般式(4)参照)とすることにより、高い反射率を有する金属光沢を発現する膜が得られやすい。また、下記式(4)において、m=2~900、n=1~500である。
【0046】
【0047】
また、本実施形態において、「単独重合体」の分子量としては、金属光沢を有するものとすることができ、膜として形成できるものである限りにおいて限定されるわけではないが、いわゆるオリゴマーであることが好ましい。
【0048】
(化学重合法)
本実施形態において、上記チオフェン共重合体または単独重合体は、金属光沢膜とすることができる限りにおいて限定されるわけではないが、化学重合法によって重合されたものであることが好ましい。ここで「化学重合法」とは、酸化剤を用いて液相および固相の少なくともいずれかにおいて行う重合をいう。
【0049】
本実施形態において、化学重合法によって得られたチオフェン共重合体または単独重合体が金属光沢を示す理由は、推測の域ではあるが、チオフェン共重合体または単独重合体を構成する分子が規則的に配向し、層状の配向構造を形成することにより、特定の波長を反射するためであると考えられる。このことは、作製された膜がX線回折において鋭いピークを示すことからも裏付けられる。この詳細は、チオフェン共重合体または単独重合体のX線回折測定において、アモルファスに起因するハローパターンが存在せずチオフェン共重合体の規則的な構造に由来すると考えられるピークが所定の回折角(2θ)の範囲で明確に観測できることを意味する。
【0050】
本実施形態における金属光沢膜は、チオフェン共重合体または単独重合体が空気中において非常に安定であることから、長期間空気中に放置しても劣化が殆どなく、長期間にわたり金属光沢を示すことができる。
【0051】
(金属光沢膜の製造方法)
ここで、本実施形態における金属光沢膜の製造方法(以下単に「本方法」という。)について説明する。
【0052】
本方法は、(1)酸化剤を用いて親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよび他のチオフェン誘導体の少なくとも1つとを共重合してチオフェン共重合体を含む溶液とする工程、(2)チオフェン共重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程、を有する。すなわち、本実施形態では、化学重合を行い、チオフェン共重合体を製造する。なお、単独重合体の製造方法についても、親水性置換基を有するチオフェン誘導体を重合して単独重合体を含む溶液とする工程、単独重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程、を有しており、共重合させない点以外は、チオフェン共重合体の製造方法と略同一であるため、以下、チオフェン共重合体の製造方法について詳細に説明し、単独重合体の製造方法の説明は省略する。
【0053】
まず、本方法では、(1)酸化剤を用いて親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとを共重合し、このチオフェン共重合体を含む溶液を作製する。ここで用いる「親水性置換基を有するチオフェン誘導体」、「他のチオフェン誘導体」および得られる「チオフェン共重合体」は、上記したものである。チオフェン共重合体は、上記の通り、いわゆるオリゴマーの範囲にあることが好ましい。
【0054】
本工程において、酸化剤は、チオフェン共重合体を製造することができる限りにおいて限定されず様々なものを使用することができるが、例えば第二鉄塩、第二銅塩、セリウム塩、二クロム酸塩、過マンガン酸塩、過硫酸アンモニウム、三フッ化ホウ素、臭素酸塩、過酸化水素、塩素、臭素およびヨウ素を挙げることができ、中でも第二鉄塩が好ましい。なお、水和物であってもよい。また、この場合において、この対となるイオンも適宜調整可能であって限定されるわけではなく、例えば塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、クエン酸イオン、シュウ酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン等を挙げることができ、その中でも、塩化物イオンを用いると、金色調~銅色調の金属光沢を得ることができ好ましい。金色調~銅色調の金属光沢を得ることができる理由は、推測の域であるが、塩化物イオンが重合の際、チオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれ、チオフェン共重合体内に生成されるカチオン部位と結合して安定化し、規則正しい構造の形成に寄与するためであると考えられる。実際のところ金属光沢膜を分析するとこれらが安定的に存在することが確認されている。
【0055】
また、本工程において、共重合は溶媒を用い、この溶媒中において行うことが好ましい。用いる溶媒は、上記酸化剤および親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体を十分に溶解し効率的に共重合させることができる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばアセトニトリル、ニトロメタン、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、ニトロメタン、1-メチル-2-ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、2-ブタノン、テトラヒドロフラン、アセトン、メタノール、アニソール、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、トリクロロエチレン、シクロヘキサノン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、エタノール、ブタノール、ピリジン、ジオキサン、およびこれらの混合物等を用いることができる。
【0056】
なお、本工程において、溶媒に対し用いる親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体、酸化剤の量は適宜調整可能であり限定されるわけではないが、溶媒の重量を1とした場合、親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体の重量の合計は0.00007以上7以下であることが好ましく、より好ましくは0.0007以上0.7以下であり、塩化鉄(III)無水物の場合、重量の合計は0.0006以上6以下であることが好ましく、より好ましくは0.006以上0.6以下である。
【0057】
また、本工程において、用いる親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体と酸化剤の比としては親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体の重量の合計を1とした場合、0.1以上1000以下であることが好ましく、1以上100以下であることがより好ましい。
【0058】
また、本工程において、用いる親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体のモル比は適宜調整可能であり限定されるわけではないが、例えばチオフェン、他のチオフェン誘導体と親水性置換基を有するチオフェン誘導体がモル比9:1~1:9で共重合されることが好ましく、より好ましくはモル比7:3~3:7であり、さらに好ましくはモル比1:1である。この範囲であると水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜を生成できる。
【0059】
また、本工程は、親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体と酸化剤を溶媒に一度に加えてもよいが、溶媒に親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体を加えた溶液と、溶媒に酸化剤を加えた溶液の二種類の溶液を別途作製し、これらを加え合わせることで重合反応を行わせてもよい。
【0060】
また、本工程により得られるチオフェン共重合体を含む溶液は、そのまま保存してもよいが、この溶液における溶媒を除去し、溶媒で洗浄した後乾燥させてチオフェン共重合体粉末を得た後、膜を形成する際に、再び水系溶媒を加えてチオフェン共重合体を含む水溶性塗料を作製してもよい。この場合において、用いる水系溶媒は、水に限らず、水を主成分とし上記例示した溶媒等を混合した混合溶媒であってもよい。このようにすれば、重合反応において余剰に加えられ残留したモノマーや酸化剤を除去することができ好ましい。
【0061】
なお、本発明の水溶性塗料は、親水性置換基を有するチオフェン誘導体と、チオフェンおよびチオフェン誘導体の少なくとも1つとが共重合したチオフェン共重合体から実質的になる色材と、水系溶媒を含有するもの、または親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材と、水系溶媒を含有するものあればよく、一般に水溶性塗料に用いられる添加剤等の他の成分が含まれていてもよい。また、チオフェン共重合体から実質的になる色材とは、色材が上記したチオフェン共重合体以外の不可避的不純物を含んでいてもよいことを意味し、チオフェン誘導体の単独重合体から実質的になる色材とは、色材が上記したチオフェン誘導体の単独重合体以外の不可避的不純物を含んでいてもよいことを意味する。
【0062】
また、本方法では、(2)チオフェン共重合体を含む溶液を物品に塗布して乾燥させる工程を有する。本実施形態において、膜を形成する物品は、上記例示した物品である。
【0063】
本工程において、チオフェン共重合体を含む水溶性塗料を物品に塗布する方法としては、塗布できる限りにおいて限定されるわけではないが、例えばスピンコート法、バーコート法、ディップコーティング法、ドロップキャスト法等を採用することができるが、金属光沢を備えさせる程度の厚く形成するためにはドロップキャスト法あるいはディップコーティング法が好適である。
【0064】
以上、本発明により、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する水溶性塗料を提供することができる。また、チオフェン共重合体を構成する親水性置換基を有するチオフェン誘導体、チオフェン、他のチオフェン誘導体の組み合わせにより、生成膜である金属光沢膜の反射率や色調の調整が可能であり、生成膜の拡張性が高い。
【0065】
また、親水性置換基を有するチオフェン誘導体の単独重合体についても、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する水溶性塗料を提供することができる。さらに、単独重合体は、チオフェンや他のチオフェン誘導体の重合体と物理混合した場合であっても、水溶性でありながら強い金属光沢を発現する膜およびその膜を生成する水溶性塗料を提供することができる。
【0066】
また、上記従来の特許文献に示される3-メトキシチオフェンの重合体は、水系溶媒に対して溶けにくいものであった。一方、本発明のチオフェン共重合体または単独重合体を含む水溶性塗料は、チオフェン共重合体または単独重合体を水系溶媒に0.1~1.0wt%の範囲で含んだ状態で、金属光沢を発現する膜を生成することができる。すなわち、本発明の水溶性塗料は、増粘剤等の添加物を加えることなく、チオフェン共重合体または単独重合体の濃度により水溶性塗料の粘度を調整することができるため、塗料としての実用性が高いといった利点もある。
【0067】
なお、本発明による金属光沢膜は電気導電性を有するものでもあり、絶縁性の物品上に本実施形態に係る膜を形成することで導電性を確保することもできるといった利点もある。
【実施例0068】
ここで、上記実施形態に係る実施例1の膜を実際に作製し、その効果を確認した。以下具体的に説明する。
【0069】
(3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体の合成)
まず、酸化剤として塩化鉄(III)無水物のアセトニトリル溶液20ml(濃度0.2M)を調製し、磁気攪拌を行った。
【0070】
次に、他のチオフェン誘導体としての3-メトキシチオフェン(3MeOT)と親水性置換基を有するチオフェン誘導体としての2-(3-チエニルオキシ)エタノール(OH体)をモル比9:1、5:5(1:1)、1:9となるように秤量し、これらを加えたアセトニトリル溶液20ml(濃度0.1M)を調製し、ガラス製のフラスコに入れ、磁気攪拌を行いながらN
2バブリングを約30分間行った。なお、この場合において用いた装置の概略図を
図2に示しておく。
【0071】
そして、上記3-メトキシチオフェンと2-(3-チエニルオキシ)エタノールのアセトニトリル溶液に、上記塩化鉄(III)無水物のアセトニトリル溶液を加えて混合し、2時間撹拌し、共重合を進行させた。
【0072】
そして、エバポーレーターで溶液を減圧留去し、ここに少量のエタノールを加えた。
【0073】
そして、メンブレンフィルター(ポア径0.1μm)を用いてフラスコ中の溶液および沈殿物を吸引・ろ過した。その際、ろ過器上の残渣はエタノールで十分に洗浄し、酸化剤を除去した。
【0074】
その後、残渣を50℃、真空下で乾燥させ、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=9:1、5:5、1:9)の粉末を得た。3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体は、上記一般式(1)で示される化合物である。また、粉末は黒色であり、金または銅のような金属光沢が散見された。
【0075】
また、チオフェン共重合体の構造のイメージ図を
図3に示しておく。本図で示すように、チオフェン共重合体は、五員環構造におけるSと置換基(詳しくは、疎水性置換基であるメトキシ基におけるO、親水性置換基であるヒドロキシエトキシ基におけるO)との相互作用により、チオフェン共重合体の構造が平面化されるものと推測され、これが強い金属光沢の原因の一つとなっていると考えられる。特に、本実施例においては、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体を構成する2種類のチオフェン誘導体の疎水性置換基と親水性置換基の長さを近いものとしたため、チオフェン共重合体としたときにバランスが取れた結晶構造となり、チオフェン共重合体の構造がより平面化されやすいものと推測される。また、平面化されたチオフェン共重合体は層状に積み重なって規則正しく並んでいるものと推測され、これも金属光沢の原因の一つとなっていると考えられる。
【0076】
さらに、本実施例のチオフェン共重合体にドーパントとして組み込まれる塩化物イオン(Cl-)がチオフェン共重合体内に生成されるカチオン部位と結合して安定化し、規則正しい構造の形成に寄与するものと推測され、これも金属光沢の原因の一つとなっていると考えられる。
【0077】
(2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体の合成)
まず、酸化剤として塩化鉄(III)無水物のアセトニトリル溶液20ml(濃度0.2M)を調製し、磁気攪拌を行った。
【0078】
次に、2-(3-チエニルオキシ)エタノールを加えたアセトニトリル溶液20ml(濃度0.1M)を調製し、ガラス製のフラスコに入れ、磁気攪拌を行いながらN2バブリングを約30分間行った。
【0079】
そして、上記2-(3-チエニルオキシ)エタノールのアセトニトリル溶液に、上記塩化鉄(III)無水物のアセトニトリル溶液を加えて混合し、2時間撹拌し、重合を進行させた。
【0080】
そして、エバポーレーターで溶液を減圧留去し、ここに少量のエタノールを加えた。
【0081】
そして、メンブレンフィルター(ポア径0.1μm)を用いてフラスコ中の溶液および沈殿物を吸引・ろ過した。その際、ろ過器上の残渣はエタノールで十分に洗浄し、酸化剤を除去した。
【0082】
その後、残渣を50℃、真空下で乾燥させ、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体の粉末を得た。
【0083】
(3-メトキシチオフェン単独重合体の合成)
3-メトキシチオフェン単独重合体の合成は、上記2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体の合成と同一手順で行われるため、詳細な説明を省略する。
【0084】
なお、理論値ではあるが、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=9:1、5:5、1:9)、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体、3-メトキシチオフェン単独重合体の分子量、重合度、ドープ率を算出した結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
(金属光沢膜の製造)
上記手順により得た3-メトキシチオフェンの粉末、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=9:1、5:5、1:9)の粉末、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体の粉末、3-メトキシチオフェン単独重合体の粉末をそれぞれ蒸留水に溶解し、濃度が0.3wt%となる水溶性塗料を調製した。なお、この塗料はいずれも濃青色であった。
【0087】
ついで、上記塗料を、スポイトを用いてガラス基板上にそれぞれ塗布した。この場合において、塗料は基板の反対側が透けて見えない程度に厚めに塗布した。
【0088】
次に、上記塗料を塗布した基板を十分に自然乾燥させた。その表面は塗料色である濃青色から3-メトキシチオフェン単独重合体から調製された膜、および3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=9:1、5:5、1:9)から調製された膜は金属光沢をもつ金色調へと変化し、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体から調製された膜は銅色調へと変化した。これらの金属光沢膜の写真図を
図4に、正反射スペクトルを
図5にそれぞれ示す。
【0089】
図5に示されるように、3-メトキシチオフェン単独重合体から調製された金属光沢膜の正反射スペクトルを測定したところ、630nm付近において最大反射率26.9%の金属光沢が発現した。また、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=9:1、5:5、1:9)から調製された金属光沢膜の正反射スペクトルを測定したところ、モル比9:1の金属光沢膜は620nm付近において最大反射率30.0%の金属光沢が発現し、モル比5:5の金属光沢膜は650nm付近において最大反射率35.0%の金属光沢が発現し、モル比1:9の金属光沢膜は660nm付近において最大反射率39.5%の金属光沢が発現した。また、3-メトキシチオフェン単独重合体から調製された金属光沢膜と比べて、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体から調製された金属光沢膜において、モル比9:1の金属光沢膜は620nm付近において反射率が約4.3%高く、モル比5:5の金属光沢膜は650nm付近において反射率が約5.7%高く、モル比1:9の金属光沢膜は660nm付近において反射率が約3.7%高いものであった。すなわち、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体から金属光沢膜を調製することにより、強い金属光沢が得られることが判明した。なお、3MeOT:OH体=5:5の3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体から調製された金属光沢膜において、最も強い金属光沢が発現した理由は、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体の分子が整列しやすい状態となったためであると推測される。
【0090】
また、
図5に示されるように、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体から調製された金属光沢膜において正反射スペクトルは750nm付近において最大反射率29.2%の金属光沢が発現した。また、3-メトキシチオフェン単独重合体から調製された金属光沢膜と比べて、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体から調製された金属光沢膜は、750nm付近において反射率が約8.0%高いものであった。すなわち、3-メトキシチオフェン単独重合膜とは色調が異なるものの、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体から金属光沢膜を調製することにより、強い金属光沢が得られることが判明した。
【0091】
なお、本実施例において、2-(3-チエニルオキシ)エタノール単独重合体は銅色光沢、それ以外は金色光沢であった。このことから、450nm以上の波長の光を主に反射し、詳しくは正反射スペクトルが450~500nmの範囲で上昇し始め、正反射スペクトルのピークが550~700nmの範囲に出現するものを金色調、500nm以上の波長の光を主に反射し、詳しくは正反射スペクトルが500~550nmの範囲で上昇し始め、正反射スペクトルのピークが700~800nmの範囲に出現するものを銅色調とする。また、「光沢」とは、反射スペクトルが拡散反射成分に対して正反射成分の方が大きくなる関係にある状態のことであり、「強い金属光沢」とは、金属の質感を有し、正反射スペクトルのピークにおける最大反射率が29.0%以上であるものとする。
【0092】
また、チオフェン共重合体または単独重合体を構成するモノマーの種類や、チオフェン共重合体を構成するモノマーのモル比を変更することで色調を金色調~銅色調に適宜調整することができる。
【0093】
また、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体は、ランダム共重合体であるため、3-メトキシチオフェン単独重合膜のように単一のモノマーから形成される場合と比べて、水系溶媒に溶けやすくなっており、ガラス基板上に形成された金属光沢膜における斑の発生を抑制することができる。
なお、前記実施例1において、3-メトキシチオフェン単独重合体の粉末を蒸留水に溶解した濃度0.3wt%の塗料については、僅かに溶け残りを確認した。本実施例において、3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=5:5)の粉末を蒸留水に溶解した濃度0.3wt%の塗料は、溶け残りがなく、全て溶解していることを確認した。また、濃度0.5wt%の塗料は、前記実施例1の3-メトキシチオフェン単独重合体濃度0.3wt%の塗料よりも少量の溶け残りを確認した。また、濃度0.75wt%の塗料は、3-メトキシチオフェン単独重合体濃度0.3wt%の塗料と同等程度の溶け残りを確認した。また、濃度1.0wt%の塗料は、多量の溶け残りによりゲル状となることを確認した。
なお、本実施例においては3-メトキシチオフェン、2-(3-チエニルオキシ)エタノール共重合体(3MeOT:OH体=5:5)の粉末を使用したが、3-メトキシチオフェンと2-(3-チエニルオキシ)エタノールのモル比9:1~1:9の共重合体において、0.1~1.0wt%の範囲で強い金属光沢を発現する金属光沢膜が調製可能であることが確認されている。