(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073909
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】変位計測装置の取付構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240523BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240523BHJP
G01B 5/30 20060101ALI20240523BHJP
G01B 5/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
E04H9/02 311
F16F15/04 A
G01B5/30
G01B5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184891
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 正雄
(72)【発明者】
【氏名】八戸 翔太朗
【テーマコード(参考)】
2E139
2F062
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB11
2E139AB13
2E139AB16
2E139AC04
2E139AC22
2E139AC26
2E139AC33
2E139BA16
2E139BD14
2F062AA01
2F062CC26
2F062GG04
2F062GG44
2F062LL01
2F062MM01
2F062MM10
3J048AA02
3J048BD08
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】材軸方向の伸縮に伴って材軸が屈折する可能性のある制振ダンパー2の伸縮量を精度良く計測し得る変位計測装置の取付構造を提供する。
【解決手段】変位計測装置3は、制振ダンパー2を構成する外筒部材21に一端部が取り付けられて、内筒部材22側に延設された定規部材4と、内筒部材22に取り付けられて定規部材4を制振ダンパー2の材軸方向に摺動し得るように保持するガイド部材5と、定規部材4に取り付けられてガイド部材5との当接により定規部材4上を移動し得るように保持される一対の変位記録部材6、6と、を具備する。定規部材4の一端部が制振ダンパー2の材軸方向に対して定規部材4を揺動させ得るピン節点となされるとともに、ガイド部材5が、定規部材4を揺動させ得るように定規部材4を保持する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部が開口した中空状の外筒部材の内部に内筒部材が遊挿され、前記内筒部材と前記外筒部材との重合箇所に減衰部材が介装されて、前記外筒部材と前記内筒部材とが前記減衰部材を変形させながら材軸方向に摺動変位するように構成された制振ダンパーについて、その材軸方向の伸縮量を記録する変位計測装置の取付構造であって、
前記変位計測装置は、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に一端部が取り付けられて、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に向けて延設された定規部材と、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に取り付けられて、前記定規部材を前記制振ダンパーの材軸方向に摺動し得るように保持するガイド部材と、
前記ガイド部材を前記制振ダンパーの材軸方向における両側から挟むようにして前記定規部材に取り付けられ、前記ガイド部材との当接によって前記定規部材上を移動し得るように保持される一対の変位記録部材と、
を具備し、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に取り付けられる前記定規部材の一端部が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るピン節点となされるとともに、
前記ガイド部材が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るように前記定規部材を保持する
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記減衰部材が粘弾性体であることを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記ガイド部材は前記定規部材が遊挿される通孔部を具備し、
前記通孔部の両内側面と前記定規部材の両側縁部との間に前記定規部材の揺動を許容する隙間が設けられている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項4】
請求項3に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材には、その長さ方向に延びるガイド孔が形成されるとともに、
前記ガイド部材には、前記ガイド孔に係合するガイドピンが設けられて、
前記定規部材が前記ガイドピンを支点として揺動し得るように保持されている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項5】
請求項3に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材の一端部が前記外筒部材の開口端部近傍に取り付けられるとともに、
前記ガイド部材が前記内筒部材に取り付けられる
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項6】
請求項1または2に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材が鉄その他の強磁性材料により形成されるとともに、
前記変位記録部材が永久磁石により形成されて前記定規部材に磁着され、
前記ガイド部材が非磁性材料により形成されている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【請求項7】
請求項1または2に記載された変位計測装置の取付構造において、
少なくとも左右一対の直立材と上下一対の横架材とを矩形に枠組みして形成される軸組フレーム内に、前記変位計測装置を取り付けた制振ダンパーがブレースとして組み付けられ、
前記軸組フレームの屋外側に張設される外壁材または屋内側に張設される内壁材に、すくなくとも前記変位計測装置の前記ガイド部材周辺に臨む点検口が設けられている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願が開示する発明は、ブレース型の制振ダンパーに対する変位計測装置の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨造建物の躯体を構成する軸組フレーム内に制振(制震)ダンパーを組み付けて、地震等による躯体の振動を減衰させる技術が公知である。本出願人も、粘弾性体を用いたブレース型の制振ダンパーを軸組フレーム内に組み付ける建物構造を実用化して、特許文献1、2等に開示している。
【0003】
また、地震等による躯体の損傷度を判定するため、躯体に生じた変形量の最大値を記録する技術も公知である(例えば特許文献3~5等)。
【0004】
図1は、本出願人が実用化している制振ダンパーを組み付けた軸組フレーム1の例を示している。この軸組フレーム1は、軽量鉄骨構造の住宅等に採用されるものであり、溝形鋼等からなる左右一対の直立材11、11と、上下一対の横架材12、12と、直立材11、11の中間部同士を連結する中桟材13とを含んで構成され、中桟材13によって区画された上半部及び下半部の対角線上に制振ダンパー2、2が上下対称となるように配置された、いわゆるK字ブレース型のフレームとなっている。
【0005】
制振ダンパー2は、
図1中のX-X断面図に示すように、一端部が開口した中空状の外筒部材21と、外筒部材21よりも断面寸法がひと周り小さく形成されて外筒部材21の内部に遊挿される内筒部材22と、外筒部材21と内筒部材22との重合箇所に介装される減衰部材23と、を組み合わせて構成される。例示した外筒部材21及び内筒部材22には、軸組フレーム1内での設置厚さを小さくするために扁平な六角形断面が採用されているが、これら両部材の断面は長矩形や長円形等であってもよい。外筒部材21は、例えば略台形状に屈曲させた一対の半割体を抱き合わせて内筒部材22に被せられ、各半割体の両側縁に延設したフランジ同士をボルト・ナット締着するなどして形成されている。減衰部材23には、例えばスチレンゴムやブチルゴム等からなる粘弾性体が用いられて、この減衰部材23が互いに重合する外筒部材21の内周面と内筒部材22の外周面とに密着する。互いに重合しない外筒部材21及び内筒部材22の他端部側には、適宜の取付金具24、25が溶接等によって結合され、それらの取付金具24、25が軸組フレーム1の入隅部に溶接されたガセットプレート14等にボルト・ナット締着される。
【0006】
この軸組フレーム1に面内方向の水平力が作用すると、軸組フレーム1が平行四辺形に変形しようとする。これに応じて制振ダンパー2の外筒部材21と内筒部材22とが材軸方向に摺動変位し、そのエネルギーを減衰部材23が吸収することで軸組フレーム1の損傷が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008-031700号公報
【特許文献2】特開2008-240814号公報
【特許文献3】特開2010-249711号公報
【特許文献4】特開2017-128896号公報
【特許文献5】特開2014-109160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
躯体の変形量(水平変位、層間変位)を計測するには、例えば特許文献3に記載されているように、躯体構面の中央付近に変位計測装置を設置できるのが望ましい。しかし、躯体は外壁と内壁に挟まれて内部スペースが狭いので、躯体構面の中央付近に変位計測装置を設置するとなると、ブレースや中桟材等との干渉を避けるために躯体の厚さを大きくする必要が生じる。住宅等の小規模な建物では、躯体を含む各部の納まり全般について省スペース性が要求されることから、居住空間を狭くするおそれのある前述のような設置形態は、あまり実用的ではない。
【0009】
そこで、
図1のような軸組フレーム1の変形量を計測するに際しては、ブレース型の制振ダンパー2に変位計測装置を添設し、制振ダンパー2の材軸方向の伸縮量を計測して、そこから軸組フレーム1の水平変位を割り出す方法が選択される。しかし、直立材11と横架材12とによって矩形に囲まれた軸組フレーム1の水平変位を、軸組フレーム1の対角線方向に設置された斜材の伸縮量から割り出すには、その伸縮量を高い精度で計測する必要がある。
【0010】
材軸方向に伸縮する制振ダンパー2の伸縮量を計測する装置については特許文献4、5等にも開示されているが、これらの検討過程で本出願人は以下の問題を発見した。すなわち、
図2に示すように、外筒部材21及び内筒部材22の各端部にそれぞれ溶接された取付金具24、25が軸組フレーム1の入隅部に溶接されたガセットプレート14に複数組のボルト・ナットを介して接合される構造では、その接合箇所が剛節点に準じたものになる。すると、軸組フレーム1に水平力が作用して軸組フレーム1が平行四辺形に変形するとき、外筒部材21と内筒部材22とが、同軸上ではなく、互いの材軸をずらす方向に変位しようとする。外筒部材21と内筒部材22との間には粘弾性を有する減衰部材23(
図2中には記載せず)が介装されているので、外筒部材21と内筒部材22とは、図中に黒矢印と白矢印とで示した箇所を近接させるように減衰部材23を変形させながら、材軸を僅かに屈折させた状態で変位することとなる。しかしながら、特許文献4、5等に開示された従来の変位計測装置は、制振ダンパー2の材軸が屈折するような伸縮形態を想定してはいないので、制振ダンパー2の屈折によって変位計測装置自体にも曲げ方向の力が作用し、計測精度が低下してしまうおそれがある。
【0011】
本願が開示する発明は前述の問題に着目してなされたものであり、材軸方向の伸縮に伴って材軸が屈折する可能性のある制振ダンパーの伸縮量を精度良く計測し得る変位計測装置の取付構造を提供することを主たる課題とする。併せて、その取付構造を、外壁と内壁とによって挟まれた躯体内部の狭いスペースにコンパクトに設置できるものとすること、そして、地震後には制振ダンパーの最大伸縮量を迅速かつ容易に確認できるものとすること、を従たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願が開示する発明の変位計測装置の取付構造は、一端部が開口した中空状の外筒部材の内部に内筒部材が遊挿され、前記内筒部材と前記外筒部材との重合箇所に減衰部材が介装されて、前記外筒部材と前記内筒部材とが前記減衰部材を変形させながら材軸方向に摺動変位するように構成された制振ダンパーについて、その材軸方向の伸縮量を記録する変位計測装置の取付構造であって、前記変位計測装置は、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に一端部が取り付けられて、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に向けて延設された定規部材と、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に取り付けられて、前記定規部材を前記制振ダンパーの材軸方向に摺動し得るように保持するガイド部材と、前記ガイド部材を前記制振ダンパーの材軸方向における両側から挟むようにして前記定規部材に取り付けられ、前記ガイド部材との当接によって前記定規部材上を移動し得るように保持される一対の変位記録部材と、を具備し、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に取り付けられる前記定規部材の一端部が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るピン節点となされるとともに、前記ガイド部材が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るように前記定規部材を保持する、ものとして特徴付けられる。
【0013】
この変位計測装置の取付構造においては、前記減衰部材が粘弾性体として特定されてもよい。
【0014】
さらに、この変位計測装置の取付構造は、前記ガイド部材は前記定規部材が遊挿される通孔部を具備し、前記通孔部の両内側面と前記定規部材の両側縁部との間に前記定規部材の揺動を許容する隙間が設けられている、ものとして構成されてもよい。
【0015】
さらに、この変位計測装置の取付構造は、前記定規部材には、その長さ方向に延びるガイド孔が形成されるとともに、前記ガイド部材には、前記ガイド孔に係合するガイドピンが設けられて、前記定規部材が前記ガイドピンを支点として揺動し得るように保持されている、ものとして構成されてもよい。
【0016】
さらに、この変位計測装置の取付構造は、前記定規部材の一端部が前記外筒部材の開口端部近傍に取り付けられるとともに、前記ガイド部材が前記内筒部材に取り付けられる、ものとして構成されてもよい。
【0017】
さらに、この変位計測装置の取付構造は、前記定規部材が鉄その他の強磁性材料により形成されるとともに、前記変位記録部材が永久磁石により形成されて前記定規部材に磁着され、前記ガイド部材が非磁性材料により形成されている、ものとして構成されてもよい。
【0018】
さらに、この変位計測装置の取付構造は、少なくとも左右一対の直立材と上下一対の横架材とを矩形に枠組みして形成される軸組フレーム内に、前記変位計測装置を取り付けた制振ダンパーがブレースとして組み付けられ、前記軸組フレームの屋外側に張設される外壁材または屋内側に張設される内壁材に、すくなくとも前記変位計測装置の前記ガイド部材周辺に臨む点検口が設けられている、ものとして構成されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
前述のように構成される変位計測装置の取付構造は、制振ダンパーの伸縮変位を記録するための定規部材が、制振ダンパーの材軸方向に対して揺動し得るように保持される。したがって、制振ダンパーの伸縮に伴ってその材軸が屈折する場合でも、定規部材と、その定規部材に取り付けられる変位記録部材とは、制振ダンパーの屈折に対して円滑に追従する。これにより、変位計測装置に曲げ方向の不自然な力を受けることなく、高い精度の計測結果を得ることができる。
【0020】
さらに、定規部材の一端部を外筒部材の開口端部近傍に取り付け、定規部材を摺動可能に保持するガイド部材を内筒部材側に取り付けると、変位計測装置自体の厚さの大部分を外筒部材と内筒部材との段差内に納めることができる。これにより、変位計測装置を躯体内部にコンパクトに設置することができる。
【0021】
さらに、制振ダンパーを組み付けた軸組フレームに張設される外壁材または内壁材に、制振ダンパーの定規部材に臨む点検口を設けた場合には、地震後に外壁材や内壁材を取り外さなくても、その点検口を開けて迅速かつ容易に制振ダンパーの最大伸縮量を確認することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本願が開示する発明が適用される制振ダンパーを組み付けた軸組フレームの正面図と、制振ダンパーの材軸直交方向の断面図である。
【
図2】
図1に示した軸組フレームが変形するときの制振ダンパーの挙動を示す説明図である。
【
図3】
図1の制振ダンパーに取り付けられた変位計測装置の正面図である。
【
図4】
図3の変位計測装置のA-A断面図及びB-B断面図である。
【
図5】
図3及び
図4に示した変位計測装置の変形形態を示すA-A断面図である。
【
図6】
図3及び
図4に示した変位計測装置のさらに他の変形形態を示す断面図である。
【
図7】軸組フレームに外壁材を張設して変位計測装置の点検口を設けた形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本願が開示する発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する変位計測装置は、
図1及び
図2に例示した軸組フレーム1において、K字状のブレースを構成している制振ダンパー2の丸囲み部分に設置されるものである。軸組フレーム1及び制振ダンパー2の構成は背景技術欄に記載した通りなので、同一の構成要素には共通の符号を付して、それらの詳細な説明は省略する。
【0024】
また、以下において部位・部材の相対的な位置関係や動作の向きを説明する際には、軸組フレーム1を屋外側から面直方向に見た
図1の視点を正面と定め、その裏側(屋内側)を背面とし、
図1の紙面奥行方向を制振ダンパー2及び変位計測装置の厚さ方向とする。また、制振ダンパー2の材軸方向(伸縮方向)を制振ダンパー2及び変位計測装置の長さ方向とし、正面から見た制振ダンパー2の材軸直交方向を制振ダンパー2及び変位計測装置の幅方向とする。
【0025】
図3及び
図4は変位計測装置と、その取付構造を示している。例示の変位計測装置3は、制振ダンパー2の外筒部材21に一端部が取り付けられて内筒部材22側に延設された定規部材4と、制振ダンパー2の内筒部材22に取り付けられて定規部材4を保持するガイド部材5と、定規部材4に取り付けられる一対の変位記録部材6、6と、を含んで構成される
。なお、
図4中の二点鎖線は、軸組フレーム1の屋外側に張設される外壁材の裏面位置を示している。
【0026】
定規部材4は薄くて細長い等幅の帯板状をなし、その幅方向における中央部分には、長さ方向に延びる等幅のガイド孔41が形成されている。また、定規部材4の両側縁には、制振ダンパー2の伸縮量を読み取るための目盛り42が、ガイド孔41の長さと同程度の範囲にわたって刻設されている。目盛り42の詳細については後述する。
【0027】
定規部材4の一端部(
図3における左端部)は、薄い取付プレート43に突設された取付ピン44に軸着され、その取付プレート43が、例示形態では外筒部材21の開口端部に近接する正面に接合されている。取付ピン44には、頭部の厚さを小さくできるかしめリベットのような部材を好適に使用することができる。このようなピン節点を介して定規部材4の一端部を外筒部材21に取り付けることにより、定規部材4が、軸組フレーム1の構面内で回動し得るように保持される。
【0028】
ガイド部材5は、略直方体のブロック状をなし、薄い取付プレート51を介して内筒部材22の正面に接合されている。ガイド部材5の高さは、制振ダンパー2の内筒部材22と外筒部材21との段差に定規部材4の厚さを加えた寸法よりもやや大きくなるように設定され、ガイド部材5の幅は定規部材4の幅よりも大きくなるように設定されている。ガイド部材5には、制振ダンパー2の材軸方向にガイド部材5を貫通する扁平な断面の通孔部52が、定規部材4の高さに合わせて形成され、この通孔部52に定規部材4が挿入される。通孔部52の幅は定規部材4の幅よりもやや大きくなるように設定されている。
【0029】
ガイド部材5には、通孔部52の中央部分を厚さ方向に貫通するガイドピン53が取り付けられ、このガイドピン53が通孔部52に挿入された定規部材4のガイド孔41に係合する。例示のガイドピン53は、ガイド部材5に形成された雌ねじ孔にねじ込まれるようになっている。これにより、定規部材4は、ガイド部材5に対してガイド孔41の長さ方向に摺動し得るように保持されるとともに、定規部材4の両側縁部と通孔部52の両内側面との間に形成される隙間(クリアランス;
図4のB-B断面参照)の範囲内で、ガイドピン53を支点として揺動もし得るように保持される。
【0030】
定規部材4の目盛り42は、
図3に示したように、ガイド部材5の通孔部52に挿入された定規部材4に外力が作用しない状態で、ガイド部材5の両端面に接する位置をそれぞれゼロ起点とし、そのゼロ起点から制振ダンパー2の材軸方向の正負両側に向けて離れる向きに長さ目盛りが表示されている。
【0031】
変位記録部材6は、ガイド部材5を制振ダンパー2の材軸方向における正負両側から挟むようにして、ガイド部材5に挿入された定規部材4の正面に取り付けられている。例示形態では、定規部材4が鉄その他の強磁性材料によって形成され、その定規部材4に薄板状の磁石を利用した変位記録部材6が磁着されている。なお、ガイド部材5は磁石に付かない非磁性材料により形成されている。そして、定規部材4がガイド部材5に対して摺動すると、ガイド部材5に当接する側の変位記録部材6が押し動かされ、定規部材4が元の位置に復帰すると移動先の位置に「置き駒」として留まる。これにより制振ダンパー2の最大変位が保存されるので、後からその位置の目盛りを読み取ることができる。
【0032】
このように構成された変位計測装置3の取付構造によれば、
図2に示したように、制振ダンパー2の伸縮に伴ってその材軸が屈折すると、それに応じて定規部材4も、ガイド部材5に対して長さ方向に摺動しながら、ガイド部材5の幅方向に揺動する。したがって、変位計測装置3に曲げ方向の不自然な力が作用することなく、高い精度の計測結果を得ることができる。
【0033】
また、例示のように、定規部材4の一端部を外筒部材21の開口端部近傍に取り付け、定規部材4を保持するガイド部材5を内筒部材22側に取り付けた形態を採用すれば、
図4に示したように、変位計測装置3の自体の厚さの大部分を外筒部材21と内筒部材22との段差内に納めることができる。これにより、変位計測装置3を躯体内部にコンパクトに設置することができる。
【0034】
なお、例えば制振ダンパー2と外壁材との間のスペースに余裕がある場合や、ガイド部材5の高さを抑制できる場合は、定規部材4の一端部を内筒部材22側に取り付けてピン節点となし、ガイド部材5を外筒部材21側に取り付けて定規部材4を保持するように、例示形態とは反対向きの配置形態で実施することも可能である。
【0035】
図5は、
図3及び
図4に示した変位計測装置3の変形形態を示している。例示の形態では、定規部材4が、外筒部材21と内筒部材22との段差に合わせて階段状に屈曲形成されている。定規部材4の中間部分に形成された屈曲段部45は、定規部材4の揺動を妨げないように、外筒部材21の開口端部から離れる位置に形成されている。かかる構成を採用した場合には、変位計測装置3を、より薄型に構成することができる。
【0036】
図6は、
図3及び
図4に示した変位計測装置3のさらに他の変形形態を示している。
図6(a)の形態は、ガイド部材5に形成する通孔部52を、正面側が等幅で開口する溝孔状に形成したものである。通孔部52の開口幅は、定規部材4の幅よりも小さくなるように設定されている。また、
図6(b)の形態は、定規部材4に取り付ける変位記録部材6を、磁石ではなく、定規部材4の両側縁部に係着可能な断面形状の部材としている。これらによっても、前述と同様の作用効果を得ることができる。
【0037】
図7は、軸組フレーム1に外壁材7を張設して、その外壁材7に変位計測装置3の点検口71を設けた形態を示している。点検口71は、少なくともガイド部材5を中心にして定規部材4の目盛り42を読み取れる範囲にわたって形成される。例示した点検口71は円形であるが、矩形でも差し支えない。点検口71をいつでも開閉できるように構成しておけば、地震後に外壁材7を取り外さなくても、その点検口71を開けて迅速かつ容易に制振ダンパー2の最大伸縮量を確認することができる。軸組フレーム1の変形量が軽微である場合は、変位記録部材6をガイド部材5に接する位置に戻すリセット操作も可能になる。点検口71は、外壁材7ではなく内壁材に設けることもできる。
【0038】
また、軸組フレーム1に制振ダンパー2が組み付けられた既設の建物についても、外筒部材21と内筒部材22との取合い位置が分かっていれば、その位置で外壁材7または内壁材をくり抜き、そのくり抜き孔部から制振ダンパー2に変位計測装置3を取り付けることができる。そのくり抜き孔部は、開閉可能な点検口71として再度、塞がれる。
【0039】
以上に述べた変位計測装置の取付構造を採用することにより、地震等による躯体の損傷度を判定する作業の精度及び効率を大きく向上させることができる。
【0040】
なお、本願が開示する発明の技術的範囲は、例示した実施形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本願が開示する発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない構成要素の詳細な形状、寸法、構造、材質、数量、他要素との結合形態、相対的な位置関係等を、例示形態と実質的に同等程度以上の作用効果が得られる範囲内で、適宜、改変することが可能である。
【0041】
また、本明細書に開示した実施形態その他の事項は、以下の付記に示す技術的思想として把握することもできる。
【0042】
(付記1)
一端部が開口した中空状の外筒部材の内部に内筒部材が遊挿され、前記内筒部材と前記外筒部材との重合箇所に減衰部材が介装されて、前記外筒部材と前記内筒部材とが前記減衰部材を変形させながら材軸方向に摺動変位するように構成された制振ダンパーについて、その材軸方向の伸縮量を記録する変位計測装置の取付構造であって、
前記変位計測装置は、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に一端部が取り付けられて、前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に向けて延設された定規部材と、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか他方に取り付けられて、前記定規部材を前記制振ダンパーの材軸方向に摺動し得るように保持するガイド部材と、
前記ガイド部材を前記制振ダンパーの材軸方向における両側から挟むようにして前記定規部材に取り付けられ、前記ガイド部材との当接によって前記定規部材上を移動し得るように保持される一対の変位記録部材と、
を具備し、
前記外筒部材または前記内筒部材のいずれか一方に取り付けられる前記定規部材の一端部が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るピン節点となされるとともに、
前記ガイド部材が、前記制振ダンパーの材軸方向に対して前記定規部材を揺動させ得るように前記定規部材を保持する
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記2)
付記1に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記減衰部材が粘弾性体であることを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記3)
付記1または2に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記ガイド部材は前記定規部材が遊挿される通孔部を具備し、
前記通孔部の両内側面と前記定規部材の両側縁部との間に前記定規部材の揺動を許容する隙間が設けられている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記4)
付記1、2または3に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材には、その長さ方向に延びるガイド孔が形成されるとともに、
前記ガイド部材には、前記ガイド孔に係合するガイドピンが設けられて、
前記定規部材が前記ガイドピンを支点として揺動し得るように保持されている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記5)
付記1~4のいずれか一項に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材の一端部が前記外筒部材の開口端部近傍に取り付けられるとともに、
前記ガイド部材が前記内筒部材に取り付けられる
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記6)
付記1~5のいずれか一項に記載された変位計測装置の取付構造において、
前記定規部材が鉄その他の強磁性材料により形成されるとともに、
前記変位記録部材が永久磁石により形成されて前記定規部材に磁着され、
前記ガイド部材が非磁性材料により形成されている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
(付記7)
付記1~6のいずれか一項に記載された変位計測装置の取付構造において、
少なくとも左右一対の直立材と上下一対の横架材とを矩形に枠組みして形成される軸組フレーム内に、前記変位計測装置を取り付けた制振ダンパーがブレースとして組み付けられ、
前記軸組フレームの屋外側に張設される外壁材または屋内側に張設される内壁材に、すくなくとも前記変位計測装置の前記ガイド部材周辺に臨む点検口が設けられている
ことを特徴とする変位計測装置の取付構造。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本願が開示する発明は、制振ダンパーが組み付けられる軽量鉄骨造、重量鉄骨造、鉄筋コンクリート造、木造、あるいはそれらの複合構造からなる軸組構造建物において、その躯体構面に生じる変形量を計測するための技術として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 軸組フレーム
11 直立材
12 横架材
13 中桟材
14 ガセットプレート
2 制振ダンパー
21 外筒部材
22 内筒部材
23 減衰部材
3 変位計測装置
4 定規部材
41 ガイド孔
42 目盛り
43 取付プレート
44 取付ピン
45 屈曲段部
5 ガイド部材
51 取付プレート
52 通孔部
53 ガイドピン
6 変位記録部材
7 外壁材
71 点検口