(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073910
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】チェーンテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/08 20060101AFI20240523BHJP
F02B 67/06 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F16H7/08 B
F02B67/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184892
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】石川 祐一郎
【テーマコード(参考)】
3J049
【Fターム(参考)】
3J049AA08
3J049BB02
3J049BB13
3J049BB26
3J049BB35
3J049CA01
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で、テンショナボディを大型化することなく、圧油室内を十分に満たす容積のオイルをテンショナボディ内に確保可能且つ、圧油室内を迅速にオイルで満たすことが可能なチェーンテンショナを提供すること。
【解決手段】プランジャ収容穴121を有するテンショナボディ110と、プランジャ130と、圧油室144に伸縮自在に収納されプランジャ130を付勢する付勢手段140とを備えたチェーンテンショナ100であって、プランジャ収容穴121は、プランジャ130と摺動するプランジャ収容壁122と、プランジャ収容底面部123とを有し、プランジャ収容壁122の外周側には貯油室145が設けられ、プランジャ収容穴121のプランジャ収容底面部123側の端部には、圧油室144と貯油室145とを接続するチェックバルブユニット141が設けられていること。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴と前記プランジャとで形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを前方側の突出方向に付勢する付勢手段とを備えたチェーンテンショナであって、
前記プランジャ収容穴は、挿入された前記プランジャと直接摺動するプランジャ収容壁と、前記プランジャ収容穴の開放側に対向する位置のプランジャ収容底面部とを有し、
前記プランジャ収容壁の外周側には、筒状の貯油室が設けられ、
前記プランジャ収容穴の前記プランジャ収容底面部側の端部には、前記圧油室と前記貯油室とを開閉可能に接続するチェックバルブユニットが設けられていることを特徴とするチェーンテンショナ。
【請求項2】
前記プランジャ収容壁は、前記プランジャボディとは別体のスリーブによって構成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項3】
前記スリーブは、前記貯油室のうち前記プランジャ収容穴の開放側を閉塞する外周閉塞栓を有することを特徴とする請求項2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項4】
前記スリーブは、前記プランジャ収容底面部と一体形成されていることを特徴とする請求項2に記載のチェーンテンショナ。
【請求項5】
前記貯油室には、前記テンショナボディの外部と前記貯油室とを連通するオイル供給孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項6】
前記オイル供給孔は、前記貯油室のうち、前記プランジャ収容穴の開口部側の端部に形成されていることを特徴とする請求項5に記載のチェーンテンショナ。
【請求項7】
前記プランジャ収容底面部近傍には、前記チェックバルブユニットと前記貯油室とを連通するオイル連通路が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーンテンショナ。
【請求項8】
前記オイル連通路は、前記プランジャ収容底面部近傍に溝状に形成されていることを特徴とする請求項7に記載のチェーンテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、プランジャ収容穴とプランジャで形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを前方側の突出方向に付勢する付勢手段とを備えたチェーンテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チェーン等の張力を適正に保持するためにテンショナを用いることが慣用されており、例えば、エンジンルーム内のクランク軸とカム軸の夫々に設けたスプロケット間に無端懸回したローラチェーン等の伝動チェーンをテンショナレバーによって摺動案内を行うチェーンガイド機構において、チェーン等の張力を適正に保持するために、テンショナによってテンショナレバーを付勢するチェーンテンショナ(油圧式テンショナ100)が特許文献1等で公知である。
【0003】
この特許文献1で公知のチェーンテンショナ(油圧式テンショナ100)は、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴(収容穴112)を有するテンショナボディ(ハウジング110)と、プランジャ収容穴(収容穴112)に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ(120)と、プランジャ収容穴(収容穴112)とプランジャ(120)とで形成される圧油室(油圧室131)に伸縮自在に収納されてプランジャ(120)を前方側の突出方向に付勢する付勢手段(プランジャ付勢用ばね130)とを備えている。
また、プランジャ収容穴(収容穴112)は、挿入されたプランジャ(120)と直接摺動するプランジャ収容壁と、プランジャ収容穴(収容穴112)の開放側に対向する位置のプランジャ収容底面部とを有し、
プランジャ収容穴(収容穴112)のプランジャ収容底面部側の端部には、オイル供給孔(供給油路111)に繋がる弁油路143が形成され、圧油室(油圧室131)と弁油路143とを開閉可能に接続するチェックバルブユニット(逆止弁ユニット140)が設けられている。
【0004】
チェーンテンショナ(油圧式テンショナ100)はプランジャ(120)をプランジャ収容穴(収容穴112)の開放側に向けて付勢手段(プランジャ付勢用ばね130)で常に付勢しており、これによって揺動チェーンガイドを押圧することでタイミングチェーンの張力を適正に保持するとともに振動を抑制することができる。
また、エンジンを始動すると、オイル供給孔(供給油路111)から弁油路143へオイルが供給され、チェックバルブユニット(逆止弁ユニット140)がオイルの圧力で開放されることで圧油室(油圧室131)にオイルが流入する。
これによって、圧油室(油圧室131)がオイルで満たされることで、プランジャ(120)の往復動にともなってプランジャ(120)とプランジャ収容穴(収容穴112)の間のわずかな隙間をオイルが流れ、その流路抵抗によってプランジャ(120)の往復動を減衰させるダンピング効果を得ることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献等で公知のチェーンテンショナは、未だ改善の余地があった。
すなわち、特許文献1で公知のチェーンテンショナは、圧油室内へ供給するオイルを予めテンショナボディ内に貯留する箇所がないため、エンジン始動時等の圧油室内にオイルが供給されていない状態から圧油室がオイルで満たされるまでに時間がかかってしまい、ダンピング効果を迅速に得られずにプランジャの往復動を十分に減衰できず、異音が発生してしまう時間が生じる虞があった。
また、オイルを予めテンショナボディ内に貯留するための貯油室をプランジャ収容底面部近傍やプランジャ内に設けることで、エンジン始動時に圧油室へ迅速にオイルを供給することが可能なチェーンテンショナも公知だが、テンショナボディのプランジャ収容底面部近傍やプランジャ内に貯油室を設ける空間自体が少ないため、空になった圧油室内を十分に満たすほどのオイルを貯留可能な容積を確保できない虞や、貯油室を設けるためのテンショナボディやプランジャの加工コストが増加する虞や、容積の十分な貯油室を確保するためにテンショナボディやプランジャが大型化してしまいエンジン内のスペースに収まらない虞があった。
【0007】
本発明は、これらの問題点を解決するものであり、簡単な構成で、テンショナボディを大型化することなく、圧油室内を十分に満たす容積のオイルをテンショナボディ内に確保可能且つ、圧油室内を迅速にオイルで満たすことが可能なチェーンテンショナを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のチェーンテンショナは、一方が開放した円筒状のプランジャ収容穴を有するテンショナボディと、前記プランジャ収容穴に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャと、前記プランジャ収容穴と前記プランジャとで形成される圧油室に伸縮自在に収納されてプランジャを前方側の突出方向に付勢する付勢手段とを備えたチェーンテンショナであって、前記プランジャ収容穴は、挿入された前記プランジャと直接摺動するプランジャ収容壁と、前記プランジャ収容穴の開放側に対向する位置のプランジャ収容底面部とを有し、前記プランジャ収容壁の外周側には、筒状の貯油室が設けられ、前記プランジャ収容穴の前記プランジャ収容底面部側の端部には、前記圧油室と前記貯油室とを開閉可能に接続するチェックバルブユニットが設けられていることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明のチェーンテンショナによれば、プランジャ収容壁の外周側には、筒状の貯油室が設けられているため、プランジャ収容穴の周囲の肉厚部分に大容量の貯油室を設けることができる。
これによって、圧油室の容積を十分に満たすことのできるオイルを貯油室に予め貯留できるため、エンジン始動時等の圧油室にオイルが供給されていない状態でも、貯油室から迅速且つ確実に圧油室を満たす量のオイルをチェックバルブユニットを介して充填することができ、プランジャ往復動に対するダンピング効果を迅速に得ることができる。
さらに、エンジン始動時のダンピング効果が十分に得られない時間がなくなるため、プランジャが瞬間的に大きく移動することを制限するラチェットを設ける必要がなくなり、部品点数を削減でき、荷重の低い付勢部材を使用しても、エンジン始動時に異音が発生するようなプランジャの振動が発生しない。
また、プランジャ収容底面部側に貯油室を設ける必要がないため、テンショナボディが大型化することがなく、チェーンテンショナがエンジン内のスペースを圧迫することがなく、コストアップを抑制できる。
また、チェックバルブユニットがプランジャ収容底面部側の端部に設けられているため、プランジャ収容底面部からプランジャ収容穴の開放部に向かう方向でオイルが貯油室から圧油室へ供給される。
これによって、プランジャ収容穴の開口部が上方を向くようにチェーンテンショナをエンジンに固定すれば、圧油室内の空気がチェックバルブを通って貯油室へ逆流することを防ぎ、迅速にプランジャとプランジャ収容穴との隙間を通ってプランジャ収容穴外へ排出することができる。
【0010】
請求項2に記載の構成によれば、プランジャ収容壁は、プランジャボディとは別体のスリーブによって構成されているため、例えば、貯油室を円筒形状に形成する際は、プランジャ収容穴と同心円筒状に切削加工するだけでよく、コストアップを抑制できる。
また、スリーブの内径を変えるだけで、様々な外径のプランジャや貯油室の容積等の仕様変更に簡単に対応可能なテンショナボディを形成できる。
請求項3に記載の構成によれば、スリーブは、貯油室のうちプランジャ収容穴の開放側を閉塞する外周閉塞栓を有しているため、例えば、貯油室を円筒形状に形成する際は、プランジャ収容穴と同心円で貯油室と同じ内径の穴を、プランジャ収容穴の開放側から切削加工するだけでよく、より一層コストアップを抑制できる。
また、スリーブに外周閉塞栓が一体成形されているため、部品点数の増加を抑えることができる。
【0011】
請求項4に記載の構成によれば、スリーブは、プランジャ収容底面部と一体形成されているため、プランジャ収容穴の大部分をスリーブ側が構成しており、テンショナボディとの高精度のすり合わせが必要な箇所がほぼなく、プランジャ形状、特にプランジャの長さに合わせた仕様変更がより一層容易に実施できる。
請求項5に記載の構成によれば、貯油室には、テンショナボディの外部と貯油室とを連通するオイル供給孔が設けられているため、エンジン始動時にテンショナボディへのオイル供給を開始すれば、エンジン始動時に貯油室内のオイルを圧油室内に供給しても貯油室内のオイルが空になることがなく、継続的に圧油室を十分に満たすオイルを貯油室内に確保することができる。
【0012】
請求項6に記載の構成によれば、オイル供給孔は、貯油室のうち、プランジャ収容穴の開口部側の端部に形成されているため、プランジャ穴の開放側を上方に向けてテンショナボディを位置固定すれば、エンジン停止中に貯油室内の大部分のオイルがオイル供給孔から漏出することはなく、確実に圧油室を十分に満たすオイルを貯油室内に確保することができる。
請求項7に記載の構成によれば、プランジャ収容底面部近傍には、チェックバルブユニットと貯油室とを連通するオイル連通路が形成されているため、プランジャがプランジャ収容穴の最奥側に押し込まれていてもオイル連通路はプランジャによって閉塞されることがなく、確実に貯油室からチェックバルブユニットを介して圧油室にオイルを供給できる。
【0013】
請求項8に記載の構成によれば、オイル連通路は、プランジャ収容底面部近傍に溝状に形成されているため、プランジャ収容穴の開放側から容易にオイル連通路を形成でき、コストアップを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の断面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、テンショナボディ110の断面図。
【
図3】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、テンショナボディ110の上面図。
【
図4】本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ200の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100について、図面に基づいて説明する。
【0016】
本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100は、
図1乃至
図3に示すように、一方が開放した円筒状のボディ穴111を有するテンショナボディ110と、ボディ穴111内にプランジャ収容穴121を形成するスリーブ120と、プランジャ収容穴122に摺動自在に挿入される円筒状のプランジャ130と、プランジャ収容穴121とプランジャ130とで形成される圧油室144に伸縮自在収納されて、プランジャ130を前方側の突出方向に付勢する付勢手段である付勢部材140と、圧油室144から後述する貯油室145へのオイルの逆流を防止するチェックバルブユニット141を備えている。
【0017】
テンショナボディ110は、開口部の内径が最も径大なボディ穴111を貯油壁112と貯油底面部114とで形成し、貯油壁112のボディ穴111開放側近傍には、貯油壁112とテンショナボディ110外とを連通するオイル供給孔113が設けられている。
貯油底面部114には、貯油底面部114よりも深く形成された位置決め部115と、位置決め部115よりも深く形成されるとともに、一端を位置決め部115よりも半径方向外方且つ貯油壁112よりも半径方向内方の位置まで延ばした連通溝116が形成されている。
【0018】
スリーブ120は、プランジャ収容穴121をプランジャ収容壁122とプランジャ収容底面部123とで形成し、プランジャ収容壁122の上端、すなわちプランジャ収容穴121の開放側には、プランジャ収容壁122から半径方向外方に環状に形成された外周閉塞栓126が設けられている。
プランジャ収容底面部123の外径は、プランジャ収容壁122の外径よりも小さく形成されたバルブ固定部124を介してプランジャ収容壁122と接続し、プランジャ収容底面部123の中央付近には、プランジャ収容底面部123を貫通する貫通孔125が形成されている。
【0019】
プランジャ130は、プランジャ収容穴121の内径より僅かに小さい外径のプランジャ本体131と、プランジャ本体131の一端に形成された穴状の被付勢穴132を有している。
チェックバルブユニット141は、スリーブ120のバルブ固定部124に取り付けられており、チェックボール142はスプリング143によって、貫通孔125を介したスリーブ120内外の連通を閉塞するように付勢されている。
【0020】
次に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の組み立てについて、
図1乃至
図3を用いて説明する。
【0021】
まず、テンショナボディ110のボディ穴111に、スリーブ120を挿入する。
このとき、バルブ固定部124を位置決め部115に嵌着することで、連通溝116は後述する圧油室144と貯油室145とを連通するオイル連通路146として機能する。
スリーブ120の外周閉塞栓126は、ボディ穴111の開放側を塞ぐことで、スリーブ収容壁122と貯油壁112との間に貯油室145を形成する。
【0022】
次に、スリーブ120内に取り付けたチェックバルブユニット141の上方から付勢部材140を挿入し、付勢部材140の一端を被付勢穴132内に挿入するようにプランジャ130をスリーブ120のプランジャ収容穴121内に挿入する。
プランジャ本体131の外径は、プランジャ収容穴121の内径よりも僅かに小さく形成されているため、付勢部材140が介在する空間は、プランジャ130とスリーブ120とでほぼ密閉された空間の圧油室144となる。
【0023】
なお、チェーンテンショナ100はエンジン(図示しない)に取り付けられた際、プランジャ130をプランジャ収容穴121の開放側に向けて付勢部材140で常に付勢しており、これによって揺動チェーンガイド(図示しない)を押圧することでタイミングチェーン(図示しない)の張力を適正に保持するとともに振動を抑制しているため、プランジャ130が付勢部材140に付勢され続けていても、プランジャ130がプランジャ収容穴121から抜け落ちることはない。
このように、貯油室145をプランジャ収容穴121の周囲に形成することで、テンショナボディ110全体の形状を変えることなく、大容量の貯油室145を確保することができるため、テンショナボディ110が大型化することなく、チェーンテンショナ100がエンジン内のスペースを圧迫することがない。
【0024】
次に、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100の、エンジン始動時のオイルの供給について説明する。
なお、説明のため、チェーンテンショナ100は、プランジャ収容穴121の開口部を上方に向けた状態でエンジン(図示しない)に固定されているものとする。
【0025】
まず、オイル供給孔113から、オイルを貯油室145内に供給する。
このとき、チェーンテンショナ100はプランジャ収容穴121の開口部を上方に向けた状態でエンジン(図示しない)に固定されているとともに、オイル供給孔113は貯油壁112のうち、プランジャ収容穴121の開放側近傍に形成されているため、貯油室145に供給されたオイルの液面がオイル供給孔113に到達するまでの高さで、圧油室144内を満たすのに十分な量のオイルを貯油室145内に貯めておくことができ、エンジン停止時に貯油室145内に貯留されている大量のオイルがオイル供給孔113から漏出することを防ぐことができる。
【0026】
貯油室145内に供給されたオイルは、オイル連通路146を通りチェックバルブユニット141に到達する。
チェックボール142はスプリング143によって付勢されているが、オイル供給孔113から供給されたオイルの圧力またはプランジャ130がプランジャ収容穴の開放側へ進出した際に圧油室144内で発生する負圧でチェックボール142が上方に押し上げられると、圧油室144と貫通孔125(オイル連通路146)との閉塞が解除され、オイルを圧油室144内に供給できる。
【0027】
オイルが圧油室144内に供給されることで、圧油室144内の空気はプランジャ130とプランジャ収容穴121との僅かな隙間を通ってチェーンテンショナ100外へ速やかに排出され、圧油室144内の空間はオイルで満たされる。
これによって、プランジャ130が揺動チェーンガイド(図示しない)を介してタイミングチェーン(図示しない)から押圧される力を受けても、付勢部材140の反発力に加えて、圧油室144内のオイルによってプランジャ130は適正なダンピング特性でダンピングすることができ、振動や異音を抑制できる。
【0028】
なお、プランジャ130が揺動チェーンガイド(図示しない)側から押圧された際、チェックバルブユニット141は閉塞するため、プランジャ130がダンピングする際、圧油室144内の容積が減少してもオイルはオイル連通路146側には移動せずにプランジャ収容穴121とプランジャ130との間から僅かに漏出する。
また、プランジャ130の押圧が解除されると、プランジャ130が僅かにプランジャ収容穴121から抜け出る方向へ移動するため、チェックバルブユニット141が開放されオイル連通路146を介して貯油室145からオイルが圧油室144内に補充される。
【0029】
エンジン(図示しない)が作動している間はプランジャ130のダンピングが繰り返されるとともに、オイル供給孔113からのオイル供給も継続しているため、プランジャ収容穴121とプランジャ130との間からのオイルの僅かな漏出と、貯油室145から圧油室144内へのオイルの供給が継続される。
【0030】
エンジン(図示しない)を停止すると、オイル供給孔113からのオイル供給は止まり、プランジャ130は揺動チェーンガイド(図示しない)からの押圧力と付勢部材140および圧油室144内のオイルによる反発力が拮抗する所定の位置で落ち着く。
このとき、貯油室145内のオイル供給孔113の位置よりも上方の空間のオイルはオイル供給孔113から徐々にチェーンテンショナ100外へ排出されるが、オイル供給孔113は貯油壁112のうち、プランジャ収容穴121の開放側近傍に形成されており、チェーンテンショナ100はプランジャ収容穴121を上方に向けてエンジン(図示しない)に固定されているため、貯油室145内の大部分のオイルを貯油室145内に留めることができる。
【0031】
また、エンジン(図示しない)を停止してから長時間経過すると、チェーンテンショナ100の向きやプランジャ130に継続的にかかる揺動チェーンガイド(図示しない)側からの押圧力によっては、圧油室144内のオイルが徐々に漏出して再び空気が入り込むことがあり、次回エンジン始動直後にはオイルの供給が間に合わず、プランジャ130が適正なダンピング特性を得られずしばらくバタつき異音等を発生する虞がある。
しかしながら、本発明の一実施形態に係るチェーンテンショナ100は、十分に容積の大きな貯油室145がプランジャ収容穴121の周囲に形成されるとともに、オイル供給孔113が貯油壁112のうちプランジャ収容穴121の開放側近傍に形成されているため、予め貯油室145内に十分なオイルを貯留しておくことで、オイル供給孔からのオイル供給がなくても、エンジン始動直後に迅速かつ確実に貯油室145内のオイルを圧油室144内に供給でき、プランジャ130のダンピング特性を迅速に適正化し、異音等の発生を抑制することができる。
【0032】
さらに、エンジン始動時のダンピング効果が十分に得られない時間がなくなるため、プランジャ130が瞬間的に大きく移動することを制限するラチェットを設ける必要がなくなり、部品点数を削減でき、荷重の低い付勢部材140を使用しても、エンジン始動時に異音が発生するようなプランジャ130の振動が発生しない。
【0033】
また、プランジャ収容壁122はプランジャボディ110とは別体のスリーブ120によって構成されているため、貯油室145をプランジャ収容穴121を中心に配置した円筒形状に形成する場合は、プランジャ収容穴121と同心円筒状にボディ穴111を切削加工してスリーブ120を挿入すればよく、テンショナボディ110およびスリーブ120に高精度の加工を必要としないため、コストアップを抑制できる。
また、スリーブ120の内外径を変えるだけで、テンショナボディ110の形状を変えることなく様々な外径のプランジャ130や貯油室145の容積等の仕様変更に簡単に対応できる。
【0034】
なお、スリーブ120の材質は特に限定されないが、プランジャ収容壁122、貫通孔125(プランジャ収容底面部123)、外周閉塞栓126のいずれも同じ中心軸を持つ円筒形状の組み合わせで形成されているため、プラスチック等の樹脂製であれば成形金型を使用して簡単に大量生産でき、金属製であっても同心円の切削加工のみで簡単に製造でき、コストアップを抑制できる。
また、スリーブ120はプランジャ収容壁122とプランジャ収容底面部123とを一体形成しているため、プランジャ収容穴121の大部分をスリーブ120で構成しており、テンショナボディ110とプランジャ130との高精度なすり合わせが必要な箇所がなく、プランジャ130の形状に合わせた仕様変更により一層容易に対応できる。
【0035】
また、
図4に示すように、外周閉塞栓126をスリーブ120とは別体のリング状に形成してもよく、これによって、スリーブ120の加工がより一層容易になる。
さらに、例えば、外周閉塞栓126をOリング等の弾性を有した別素材で構成すれば、プランジャ収容壁122および貯油壁112と外周閉塞栓126とをより一層強固に密着でき、貯油室145内のオイルのボディ穴111からの漏出をより一層防止できる。
【0036】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0037】
なお、上述した実施形態では、スリーブは、収容壁および収容底面部を有するものとして説明したが、スリーブの構成はこれに限定されず、例えば、円筒状の収容壁のみスリーブとして形成し、ボディ穴の底面部を収容底面部としてもよく、収容壁の外周面に、最外径が貯油壁の内径と同じ螺旋状の突起を設けてもよい。
また、上述した実施形態では、ボディ穴は、ボディ穴の開口部の内径が最も径大になるように形成されているものとして説明したが、ボディ穴の構成はこれに限定されず、例えば、ボディ穴の開口部の内径を貯油壁の内径よりも小さくするとともに収容壁の外径と同じになるように構成してもよく、ボディ穴の開口部の内径を貯油壁の内径よりも小さく形成し、ボディ穴の開口部に、半径方向内方に突出した係止突起を設けて、外周閉塞栓が係止突起を乗り越えて貯油壁と密着するように構成してもよい。
【0038】
また、上述した実施形態では、収容壁部は円筒状に形成されているものとして説明したが、収容壁部の構成はこれに限定されず、例えば、収容壁部にプランジャ収容穴の開放側から収容底面部に向かって延びる凹溝状のオイルリーク溝を形成してもよい。
また、上述した実施形態では、チェーンテンショナは、プランジャ収容穴の開口部が上方を向くようにエンジンに取り付けられているものとして説明したが、チェーンテンショナの取り付け方向はこれに限定されず、例えば、プランジャ収容穴の開口部が側方を向くように配置するとともに、オイル供給孔が貯油壁のうちボディ穴の中心軸よりも上方に位置する箇所に形成され、オイル連通路が貯油室のうちボディ穴の中心軸よりも下方側と連通する向きでチェーンテンショナが取り付けられていてもよい。
【符号の説明】
【0039】
100、200 ・・・ チェーンテンショナ
110 ・・・ テンショナボディ
111 ・・・ ボディ穴
112 ・・・ 貯油壁
113 ・・・ オイル供給孔
114 ・・・ 貯油底面部
115 ・・・ 位置決め部
116 ・・・ 連通溝
120、220 ・・・ スリーブ
121、221 ・・・ プランジャ収容穴
122、222 ・・・ プランジャ収容壁
123、223 ・・・ プランジャ収容底面部
124、224 ・・・ バルブ固定部
125、225 ・・・ 貫通孔
126、226 ・・・ 外周閉塞栓
130 ・・・ プランジャ
131 ・・・ プランジャ本体
132 ・・・ 被付勢穴
140 ・・・ 付勢部材
141 ・・・ チェックバルブユニット
142 ・・・ チェックボール
143 ・・・ スプリング
144 ・・・ 圧油室
145 ・・・ 貯油室
146 ・・・ オイル連通路