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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073927
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】加工方法および加工プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/404 20060101AFI20240523BHJP
   B23Q 15/013 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G05B19/404 E
B23Q15/013
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184916
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】509214779
【氏名又は名称】株式会社イワタツール
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】社本 英二
【テーマコード(参考)】
3C001
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA08
3C001KB04
3C001TA02
3C269AB01
3C269BB03
3C269CC02
3C269EF03
3C269EF10
3C269EF39
3C269EF62
3C269EF71
(57)【要約】
【課題】数値制御工作機械において工具を被削材に対して相対的に螺旋軌跡または円軌跡で運動させる場合に、工具軌跡が内回りすることに起因する軌跡誤差を簡易に減少または無くす技術を提供する。
【解決手段】被削材における被加工箇所を加工する方法であって、工具が一定周速で運動する一定周速期間に、工具を用いて被加工箇所を切削し、工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、工具による被加工箇所の切削を行わせない方法を提供する。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具を被削材に対して相対的に螺旋軌跡または円軌跡で運動させる数値制御工作機械を用いて、被削材における被加工箇所を加工する方法であって、
工具が一定周速で運動する一定周速期間に、工具を用いて被加工箇所を切削し、
工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、工具による被加工箇所の切削を行わせない、
ことを特徴とする加工方法。
【請求項2】
被削材は、高い径精度が要求される箇所と、高い径精度が要求されない箇所とを有し、
被加工箇所は、高い径精度が要求される箇所である、
請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
加速期間および/または減速期間に、工具を用いて高い径精度が要求されない箇所を切削する、
請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
加速期間および/または減速期間に、工具を被削材に切り込ませない、
請求項1に記載の加工方法。
【請求項5】
一定周速期間に、(目標半径/半径縮小率)を半径とする指令軌跡で工具を一定周速で運動させて、被削材における被加工箇所を切削し、
半径縮小率は、工具角速度と、円軌跡の内回りを生じさせるフィルタ処理の時定数とを用いて算出される、
請求項1に記載の加工方法。
【請求項6】
数値制御工作機械に搭載されたコンピュータに、
工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、被削材における被加工箇所を切削させず、工具が一定周速で運動する一定周速期間に、被加工箇所を切削させる機能を実現させるための加工プログラム。
【請求項7】
前記コンピュータに、
(目標半径/半径縮小率)を半径とする工具の指令軌跡を与えて、一定周速期間に、被加工箇所を目標半径となるように切削させる機能を実現させるためのプログラムであって、
半径縮小率は、工具角速度と、円軌跡の内回りを生じさせるフィルタ処理の時定数とを用いて算出されている、
請求項6に記載の加工プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、数値制御工作機械を用いて、被削材を加工する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、回転工具を用いたヘリカルミリング加工が、穴あけ加工や円筒面の加工に用いられている。
図1(a)はヘリカルミリング加工の様子を上から見た模式図であり、図1(b)はヘリカルミリング加工の様子を横から見た断面模式図である。ヘリカルミリング加工においては、軸方向に移動する螺旋軌跡でエンドミルを運動させて、エンドミル径に螺旋軌跡の径を加えた径の穴あけ加工や円筒内周面の加工を行う。またヘリカルミリング加工においては、エンドミル径より螺旋軌跡の径を大きく設定して、螺旋軌跡径からエンドミル径を減じた径の円筒外周面の加工を行うこともできる。
【0003】
数値制御(NC)工作機械が、NCプログラムにしたがって螺旋軌跡で工具を運動させることで、工具径以上の径の穴加工(もしくは円筒内周面の加工)を実施でき、または任意の径の円筒外周面の加工を実施できる。ヘリカルミリング加工を用いて穴加工を実施すると、切りくずが分断されやすく、穴内面と工具間のすき間が大きいため、穴加工で問題となる切りくず詰まりが生じにくい。なお、螺旋軌跡ではなく軸方向に移動しない円軌跡でエンドミルを被削材に対して運動させることで、円筒面の内径を増大したり、外径を減少したりする円筒面加工を行うこともできる。
【0004】
また近年、専用の工具を用いたスレッドミリング加工がねじ加工に用いられることがある。
図2(a)は、雄ねじを形成するスレッドミリング加工の様子を横から見た模式図であり、図2(b)は、雌ねじを形成するスレッドミリング加工の様子を横から見た断面模式図である。図2(a)、図2(b)に示す例では、一つのねじ溝を加工する切れ刃を備えた専用工具を使用し、当該専用工具を、必要なねじ溝の回転回数以上の螺旋軌跡で運動させて、ねじ加工している。この専用工具を使用すると、任意のピッチのねじ加工を実施できる。なお、複数回転分のねじ溝を同時に加工する複数の切れ刃を備えた別の専用工具を用いると、1回転以上(最も少ない場合に1回転)の螺旋運動でねじ加工できる。スレッドミリング加工を用いると、工具径以上の径の雌ねじ加工を実施でき、また任意の径の雄ねじ加工を実施できる。
【0005】
ヘリカルミリング加工および/またはスレッドミリング加工では、NC工作機械が工具を螺旋軌跡または円軌跡で運動させる。近年のNC工作機械は、指令軌跡からの追従誤差を減少させるために、フィードバック制御にフィードフォワード要素を加える機能を備えており、制御時の追従誤差は非常に小さく抑制されている(例えば数ミクロン以内)。しかしながら、モータトルクに起因する加速度限界を守る必要性と、工作機械自身を加振しないための加速度変化抑制のため、NCプログラムにより指令される軌跡(ここでは「NC指令軌跡」と呼ぶ)に対して各種フィルタ(ここでは「加減速フィルタ」と呼ぶ)処理が行われる結果、NC工作機械が実際に指令する工具の移動軌跡は、NC指令軌跡に対して内回りとなる。
【0006】
フィルタ処理に起因する内回り量は、軌跡の曲率半径が小さく、移動速度が高く、フィルタ時定数が大きいほど大きくなり、実用的な条件で例えば数百ミクロンオーダの大きな値ともなることが知られている。この内回り量により、ヘリカルミリング加工による穴径や、スレッドミリング加工によるねじ径は小さくなり、設計値(目標半径)に対する誤差が生じる。特に高能率化を目指して移動速度を増加すると、内回り量が大きくなって、径精度が劣化するという問題がある。
【0007】
内回りに起因する目標半径からの誤差を低減するために、非特許文献1は、NC指令軌跡を補正する手法を提案している。
図3(a)は、工具を左回り(反時計回り)に一周させるNCプログラムによる軌跡を示す。図3(a)において、実線で示される目標半径10mmの基準軌跡Aは、NCプログラムにより指令される軌跡(NC指令軌跡)であり、点線で示される移動軌跡Bは、NC工作機械がNCプログラムにもとづいて生成する軌跡である。NC工作機械がNC指令軌跡に対して加減速フィルタ処理を行うことで、NC工作機械が実際に生成する移動軌跡Bには軌跡誤差(内回り誤差)が生じている。そこで非特許文献1は、軌跡誤差にもとづいて、NC指令軌跡の径を半径方向に大きくするようにNCプログラムを補正して、基準軌跡Aの目標半径を実現する手法を提案している。
【0008】
図3(b)は、補正したNCプログラムによる軌跡を示す。図3(b)において、一点鎖線で示されるNC指令軌跡Cは、補正したNCプログラムにより指令される軌跡であり、破線で示される移動軌跡Dは、補正したNCプログラムにもとづいてNC工作機械が生成する軌跡である。図示されるように、補正したNC指令軌跡Cの径は、周速が一定となる一定周速期間における基準軌跡(補正前のNC指令軌跡)Aの径を、軌跡誤差にもとづいて半径方向に大きくしたものである。NC工作機械が、補正したNC指令軌跡Cに対して加減速フィルタ処理を実施した結果、生成される移動軌跡DがNC指令軌跡Cに対して内回りすることで、一定周速期間における移動軌跡Dが基準軌跡Aにほぼ一致するようになっている。
【0009】
非特許文献1は、さらに軌跡の最初に位置する加速期間と、軌跡の最後に位置する減速期間(以下、「加減速期間」とも呼ぶ)における軌跡誤差を減少する手法を提案している。非特許文献1では、各NC指令に対して補間処理を実行して加減速期間におけるサンプリング間隔毎の指令軌跡点を算出し、それらに対して加減速フィルタ処理を実行してフィルタ処理後の各軌跡点を算出し、さらにフィルタ処理の前後間の軌跡誤差を算出して、その軌跡誤差と角速度情報に基づいて各指令軌跡点を補正している。
【0010】
図3(b)に示す例で、基準軌跡Aと移動軌跡Dを比べると、加減速期間においては、わずかに軌跡誤差が残っているものの、移動速度が一定で、一定の内回り誤差が生じる一定周速期間においては、内回り誤差を完全に無くすことに成功している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kousuke Ishizaki, Eiji Shamoto, 「A new real-time trajectory generation method modifying trajectory based on trajectory error and angular speed for high accuracy and short machining time」,Precision Engineering 76 (2022) 173-189, 2022年3月2日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
工具が一定の周速で円軌跡上を移動する場合、NC工作機械における内回り誤差は、加減速フィルタの特性によって一意に定まる。そのため、その内回り誤差を無くすためのNC指令軌跡の半径増分を求めることができる。例えば、単純移動平均フィルタをM回繰り返す加減速フィルタの場合、m回目のフィルタ時定数をτmとし、移動する角速度をωとすれば、加減速フィルタに依存する円軌跡の半径縮小率H(ω)は、(式1)により求められる。
【数1】
このため、半径縮小率H(ω)の逆関数kc(ω)は、(式2)により求められる。
【数2】
この逆関数kc(ω)を用いて、予めNC指令軌跡の半径を補正(増大)しておくことにより、図3(b)に示されるように、一定周速期間における内回り誤差を無くして、目標半径10mmの移動軌跡を実現できる。
【0013】
一方で、加減速期間においては、内回り誤差が一定ではなく、変化するため、内回り誤差を無くすためのNC指令軌跡の半径増分を単純に求めることができない。そこで非特許文献1は、加減速期間の軌跡誤差を減少させるために、補間処理、加減速フィルタ処理、軌跡誤差計算、指令軌跡点補正を含む大量の高速計算をサンプリング間隔毎に行っている。この手法は、指令軌跡点をほぼ正確に補正できる点で非常に優れているが、計算負荷は大きくなる。
【0014】
本開示はこうした状況に鑑みてなされており、その目的とするところは、工具軌跡が内回りすることに起因する軌跡誤差を簡易に減少または無くす技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明のある態様は、工具を被削材に対して相対的に螺旋軌跡または円軌跡で運動させる数値制御工作機械を用いて、被削材における被加工箇所を加工する方法を提供する。この加工方法は、工具が一定周速で運動する一定周速期間に、工具を用いて被加工箇所を切削し、工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、工具による被加工箇所の切削を行わせない。ここで工具速度は、工具が被削材に対して相対的に移動する速度である。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)および(b)は、ヘリカルミリング加工の様子を示す模式図である。
図2】(a)および(b)は、スレッドミリング加工の様子を示す模式図である。
図3】(a)および(b)は、工具を左回りに一周させるNCプログラムによる軌跡を示す図である。
図4】実施形態の加工システムを示す図である。
図5】NC指令軌跡と、NC指令軌跡に対して内回りとなる移動軌跡とを示す図である。
図6】NC指令軌跡と、NC指令軌跡に対して内回りとなる移動軌跡とを示す図である。
図7】NC指令軌跡と、NC指令軌跡に対して内回りとなる移動軌跡とを示す図である。
図8】従来のNC指令軌跡と、NC指令軌跡に対して内回りとなる移動軌跡とを示す図である。
図9】NC指令軌跡と、NC指令軌跡にもとづいて生成される移動軌跡とを示す図である。
図10】NC指令軌跡と、NC指令軌跡にもとづいて生成される移動軌跡とを示す図である。
図11】NC指令軌跡と、NC指令軌跡にもとづいて生成される移動軌跡とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図4は、実施形態の加工システム1を示す。加工システム1は、加工装置10、制御装置100および加工プログラム生成装置200を備える。加工プログラム生成装置200は、加工品を加工するための加工プログラムを生成し、制御装置100は、加工プログラムにしたがって加工装置10の動作を制御する。実施形態において制御装置100は、数値制御(NC)プログラムを解析して加工装置10の動作を制御する数値制御装置であってよく、加工装置10および制御装置100は、数値制御(NC)工作機械を構成する。加工システム1において加工装置10および制御装置100はケーブル等により接続されてよいが、一体として構成されてもよい。
【0019】
加工装置10は、本体部であるベッド部12およびコラム部14を備える。ベッド部12上には、第1テーブル16および第2テーブル18が移動可能に支持される。第1テーブル16は、ベッド部12に形成されたレール部によりY軸方向に移動可能に支持され、第2テーブル18は、第1テーブル16に形成されたレール部によりX軸方向に移動可能に支持される。第2テーブル18の上面にはワークピース設置面が設けられ、ヘリカルミリング加工またはスレッドミリング加工される被削材62が、ワークピース設置面に固定される。
【0020】
Y軸モータ22はボールねじ機構を回転することで、第1テーブル16をY軸方向に移動し、X軸モータ20はボールねじ機構を回転することで、第2テーブル18をX軸方向に移動する。Y軸センサ32は、第1テーブル16のY軸方向の位置を検出し、X軸センサ30は、第2テーブル18のX軸方向の位置を検出する。
【0021】
第2テーブル18の上方には、工具50が取り付けられる主軸46が設けられる。ヘリカルミリング加工を行う場合、主軸46に設けられたチャックには、エンドミル工具が取り付けられる。スレッドミリング加工を行う場合、チャックには、ねじ加工用の専用工具が取り付けられる。主軸モータ40は主軸46を回転し、主軸センサ42は主軸モータ40の回転速度を検出する。主軸46および主軸モータ40は主軸支持部44に固定される。
【0022】
主軸支持部44は、その背面側でコラム部14に形成されたレール部によりZ軸方向に移動可能に支持される。Z軸モータ24はボールねじ機構を回転することで、主軸46をZ軸方向に移動する。Z軸センサ34は、主軸46のZ方向の位置を検出する。
【0023】
第1傾斜モータ52はギヤ機構を回転することで、主軸支持部44を主軸46およびY軸に垂直な軸線周りに傾斜させる。傾斜センサ56は、主軸46の傾斜角度を検出する。第2傾斜モータ54はギヤ機構を回転することで、主軸支持部44をY軸に平行な軸線周りに傾斜させる。傾斜センサ56とは別の傾斜センサ(図示せず)が、主軸46の傾斜角度を検出する。
【0024】
制御装置100は、加工プログラムを解析して、解析結果にもとづいて加工装置10を駆動制御するコンピュータを搭載する。制御装置100は、1つ以上のプロセッサ(CPU)を備えてよい。具体的に制御装置100は、加工プログラムにしたがってX軸モータ20、Y軸モータ22、Z軸モータ24、第1傾斜モータ52、第2傾斜モータ54および主軸モータ40を駆動制御する。制御装置100は、X軸センサ30、Y軸センサ32、Z軸センサ34、傾斜センサおよび主軸センサ42から、それぞれで検出された検出値を取得し、各モータの駆動制御に反映する。
【0025】
図4に示す加工装置10では、被削材62がX軸モータ20およびY軸モータ22によってそれぞれX軸方向およびY軸方向に移動させられ、工具50がZ軸モータ24によってZ軸方向に移動させられるが、これらの移動は、工具50と被削材62との間で相対的であればよい。つまり加工装置10において、工具50がX軸方向およびY軸方向に移動させられ、被削材62がZ軸方向に移動させられてもよい。また加工装置10では、工具50が第1傾斜モータ52および第2傾斜モータ54によって被削材62に対して傾斜させられるが、これらの傾斜モータは、ベッド部12側に設けられてもよい。このように工具50と被削材62は、いずれが動かされるかは問題ではなく、各移動方向および各回転方向において相対的に動作できればよく、工具50と被削材62の相対的な移動を実現するための機構を総称して「送り機構」と呼ぶ。
【0026】
加工プログラム生成装置200は、加工品の3次元形状データ(たとえばCADデータ)にもとづいて、加工プログラム(NCプログラム)を作成する。加工プログラム生成装置200は、CAM(Computer Aided Manufacturing)ソフトウェアを実行するプロセッサ(CPU)を備えてよい。CAMソフトウェアはCADデータにもとづいて、加工品の3次元形状を得るように工具軌跡を設定し、工具軌跡にもとづいて加工プログラムを作成する。
【0027】
実施形態において、加工プログラム生成装置200は、ヘリカルミリング加工やスレッドミリング加工など、主軸46によって回転する工具50を被削材62に対して相対的に螺旋軌跡または円軌跡で運動させる加工プログラムを生成する。このような加工では、加減速フィルタ処理により、工具が、設計された軌跡よりも内回りして、加工径が目標半径より小さくなる。そこで実施形態のCAMソフトウェアは、作成した加工プログラムを補正する機能を備えて、工具が、被削材の被加工箇所を、設計された目標半径で加工できるようにする。なおCAMソフトウェアを用いずに、作業者が直接加工プログラムを作成あるいは修正してもよい。
【0028】
実施形態において、被削材は、高い径精度が要求される箇所と、高い径精度が要求されない箇所とを有する。高い径精度が要求される箇所は、一般に設計図面で加工径を指定されている箇所であり、高い径精度が要求されない箇所は、設計図面で加工径を指定されていない箇所(例えばねじ溝終端の不完全ねじ部や仕上げ加工前の箇所)であってよい。実施形態において被削材の「被加工箇所」は、加工径を指定されている箇所であって、高い径精度が要求される箇所であってよい。
【0029】
まず、工具の内回り軌跡について説明する。以下においては、加工プログラムが、工具を螺旋軌跡で移動させることを制御装置100に指令するが、軸方向に移動しない円軌跡で工具を移動させることを指令してもよい。なお実施形態において円軌跡は、円上を一周移動する軌跡を少なくとも含み、円上を一周以上移動する軌跡や、円上を一周未満移動する軌跡を含んでよい。
【0030】
図5は、半径方向に見たNC指令軌跡110と、NC指令軌跡110に対して内回りとなる移動軌跡112とを示す。NC指令軌跡110は、NCプログラムにより指令される工具の軌跡であって、移動することを指示されている工具の軌跡である。これに対して移動軌跡112は、NC指令軌跡110に加減速フィルタ処理を行うことで、NC指令軌跡110より内回りすることになった工具の軌跡である。
【0031】
NCプログラムは複数のブロックにより構成され、各ブロックには、移動方向、移動の終了位置および/または移動速度などが規定される。NCプログラムにおいて加減速は考慮されていない。NCプログラムに従って、NC工作機械は、工具を静止した状態(速度ゼロ)から規定された移動速度(目標速度)まで加速し(ただし、短い距離のNC指令の場合には目標速度に達しないこともある)、目標速度を維持しながら工具を動かし(ただし、曲率を有する軌跡では内回りする分だけ目標速度より移動速度は低下する)、目標速度から減速して、工具を終了位置まで動かす。したがって工具の運動プロセスは、工具が移動する速度(工具速度)を目標速度まで加速する加速期間と、工具速度を目標速度に維持する一定周速期間と、工具速度を目標速度から減速する減速期間に分けられる。
【0032】
運動プロセスの最初と最後に位置する加速期間および減速期間の長さは、加減速フィルタの時定数(複数回のフィルタ処理を行う場合には全てのフィルタの時定数の総和、これをここでは「総時定数」と呼ぶ)と軌跡に沿った移動速度(周速)に依存する。図3(a)にも示すように、加速期間内では、時間の経過とともに内回り量が徐々に増大し(半径が目標半径より徐々に小さくなり)、一定周速期間内では内回り量が一定となり(半径が一定となり)、減速期間内では、時間の経過とともに内回り量が徐々に減少する(半径が目標半径に徐々に近づく)。
【0033】
実施形態では、目標半径に対する内回り誤差を減少させるために、一定周速期間の角速度と加減速フィルタ特性に基づいて、NCプログラムで指令する径を予め補正(増大)しておき、加工誤差を抑制する手法を提案する。
【0034】
図6は、半径方向に見たNC指令軌跡120と、NC指令軌跡120に対して内回りとなる移動軌跡122とを示す。図6に示すNC指令軌跡120は、たとえば被削材外周側の被加工箇所を加工するヘリカルミリング加工やスレッドミリング加工に好適に適用できる。NC指令軌跡120は、元のNC指令軌跡110の径を増大させた軌跡であり、移動軌跡122は、NC指令軌跡120に加減速フィルタ処理を行うことで、NC指令軌跡120より内回りすることになった工具の軌跡である。
【0035】
NC指令軌跡120の径をNC指令軌跡110の径よりも増大させた結果、図6(または図3(b))に示すように、一定周速期間では移動軌跡122がNC指令軌跡110に一致して、目標半径に対する誤差を無くすことができている。一方で、加減速フィルタ処理の影響を受ける加減速期間では、移動軌跡122の径は、NC指令軌跡110で指令される目標半径より大きくなる。このように一定周速期間において移動軌跡122の径が目標半径に一致するようにNC指令軌跡120を生成することで、加工装置10が、高い径精度が要求される被加工箇所を、目標半径で加工することができる。
【0036】
たとえば図2(a)に示す雄ねじのスレッドミリング加工では、被削材の上方にエアーカット部分を設けることができ、高い径精度が要求される被加工箇所(ねじ部を形成する箇所)の下方に、ねじ径が徐々に変化する(増大する)径変化部分を設けることが許容される(ねじ部の加工には高い径精度が要求されるが、それ以外の箇所に高い径精度は要求されないため)。従って加工装置10は、高い径精度が要求される被加工箇所(ねじ部)は、工具を一定の移動速度(周速)で移動させて目標半径で加工し、エアーカット部分および径変化部分で、工具の加速または減速を行うことで、目標半径のねじ溝を有するねじ部品を形成できる。
【0037】
このように実施形態においては、一定周速期間に、高い径精度が要求される被加工箇所を工具を用いて切削し、加減速期間に、工具による被加工箇所の切削を行わせないことで、被加工箇所を、設計された目標半径で仕上げることが可能となる。なお、スレッドミリング加工における加速期間および減速期間の時間長さは、単純移動平均フィルタの例では総時定数の半分に等しく、その距離はその時間長さと指令速度の積によって求められる。
【0038】
図6に示すNC指令軌跡120は、被削材の外周側を加工する際に好適に適用されるが、たとえばヘリカルミリング加工による穴あけ(図1参照)に適用した場合には、最後の減速期間において目標半径より大きな径でエンドミル加工を行うことになる。そのため、穴加工または円筒内周面加工、雌ねじ加工を行う場合、工具が被削材を切削する可能性のある加減速期間において加工径が目標半径よりも大きくならないように(その加減速期間の径補正が過大にならないように)、NC指令軌跡110を補正する必要がある。
【0039】
図7は、半径方向に見たNC指令軌跡130と、NC指令軌跡130に対して内回りとなる移動軌跡132とを示す。図7に示すNC指令軌跡130は、たとえば被削材内周側の被加工箇所を加工するヘリカルミリング加工やスレッドミリング加工に好適に適用できる。NC指令軌跡130は、NC指令軌跡110の径を増大させた軌跡であり、移動軌跡132は、NC指令軌跡130に対して加減速フィルタ処理を行うことで内回りとなった工具の軌跡である。
【0040】
この例では、NC指令軌跡110を補正するにあたり、加減速期間におけるNC指令軌跡130の径をNC指令軌跡110の径よりも過度に増大させないことで、加減速期間における移動軌跡132の径をNC指令軌跡110の径(目標半径)より小さくなるようにしている。このように補正した移動軌跡132で被削材内周側の加工を行うことで、加減速期間に被削材内周を削りすぎることを防止できる。
【0041】
以上、各種螺旋軌跡を模式的に示したが、具体的な条件を設定して数値シミュレーションを行った結果を図8~11に示す。なお図8~11では、軸方向に見た軌跡が示されており、図8~10においてフィルタ処理後の軌跡として示される円軌跡には、複数回転分の円軌跡が重複している。
【0042】
数値シミュレーションでは、単純移動平均フィルタを2回繰り返す加減速フィルタを使用し、それぞれの時定数を127 msec、94 msecとする。加工プログラムが指令する螺旋軌跡は、Z方向の直線運動と、XY面内の円運動を組み合わせたものであり、円運動の中心(X,Y) = (0, 10) mm、目標半径は10mm、回転方向はZ軸の負方向に見て反時計回りとする。
【0043】
まず、従来のヘリカルミリング/スレッドミリングのNCプログラムにもとづく運動軌跡のシミュレーション結果について説明する。表1において左欄は、プログラム名「O100」のNCプログラムを構成する複数のブロックを示し、右欄は、ブロックの説明文を示す。なお「退避動作」を指令するブロックは省略している。
【表1】
【0044】
このNCプログラム「O100」がNC工作機械に指令する動作概要は、以下のとおりである。なお被削材の上面はZ=0mmに位置し、Z=0mmより下方における工具の運動により被削材が加工される。
(1a)エンドミルを10000rpmで回転する。
(1b)工具を始点(0, 0, 2)まで降下する。
(1c)XY面内で半径10mm、中心位置(0, 10)mm、周速6000mm/minで工具を円運動しながら、Z=2mmから-6mmまで2mm/回転の送り量で降下して、終点(0, 0, -6)まで移動する(螺旋運動)。
(1d)その後退避して運動を終了する。
【0045】
図8は、従来のNC指令軌跡140と、NC指令軌跡140に対して内回りとなる移動軌跡142とを示す。NC指令軌跡140は、NCプログラム「O100」により指令される工具の軌跡であって、移動することを指示されている工具の軌跡である。
【0046】
NCプログラム「O100」を用いて、ヘリカルミリング加工またはスレッドミリング加工を行うと、NC工作機械は、NC指令軌跡140に対して内回りする移動軌跡142で工具を移動させる。このため、加工される円筒面の径は設計値である10mmより小さくなる。またNC工作機械がNCプログラム「O100」を用いて被削材の内周側を加工する場合には、加減速期間における径が一定周速期間における径より大きくなるために、真円度が悪化するという問題も生じる。
【0047】
NCプログラム「O100」により指令される螺旋運動において、工具は、円運動しながら、Z=2mmの高さ位置からZ=-6mmの高さ位置まで、2mm/回転の送り量で降下する(したがって工具は8mm降下する間に4回転する)。螺旋運動の始点は(0, 0, 2)、終点は(0, 0, -6)であり、1回転目の最初に加速期間が、4回転目の最後に減速期間が生じる。
【0048】
この例で角速度ωは、周速F(6000 mm/min = 100 mm/sec)と半径r(10 mm)を用いて、以下のように算出される。
ω=F / r
=100 [mm/sec] / 10 [mm]
=10 [rad/sec]
したがって半径縮小率は、式(1)より
H=sin(0.127*10/2)/(0.127*10/2)*sin(0.094*10/2)/(0.094*10/2)
=0.900124
内回り量εは、
ε=(1-H)×r
=(1 - 0.900124)×10
=0.99876 [mm]
と算出される。この内回り量は、一定周速期間における指令半径rとの誤差を示す。
【0049】
また、加速期間Tと減速期間Tは、それぞれ、総時定数(τ1 + τ2)の半分であることから、
Τ=(τ1 + τ2)/2
=(0.127 + 0.094)/2
=0.1105 [sec]
と算出される。
さらに、その期間Tに対応する角度範囲θは、
θ=Τ*ω
=0.1105*10
=1.105 [rad]
=63.3 [deg]
と算出される。
【0050】
以上の解析に基づき、螺旋軌跡の指令半径rを半径縮小率Hの逆数倍、すなわち1/H(=1.110958)倍することで、一定周速期間において内回りする螺旋軌跡の半径を目標半径に一致させることができる。つまり加工プログラム生成装置200は、NCプログラムにおける螺旋軌跡の指令半径を、r×(1/H)(=11.10958mm)と補正し、また同じ角速度を維持するように指令周速を、F×(1/H)(=6666mm/min)と補正することで、一定周速期間における移動軌跡の半径を目標半径に一致させることができる。また、加速期間および減速期間は、それぞれ角度範囲θに対応するため、加工プログラム生成装置200は、工具が被削材における被加工箇所を加工する期間(切削期間)を確保し、その確保した切削期間の前後に、加速期間および減速期間が配置されるように、NCプログラムを補正する。
【0051】
補正されたNCプログラム「O200」は、一定周速期間において工具が被削材の外周側を切削し、加速期間および減速期間において工具が被削材を切削しない運動をNC工作機械に指令する。表2において、左欄は、NCプログラム「O200」を構成する複数のブロックを示し、右欄は、ブロックの説明文を示す。なお「退避動作」を指令するブロックは省略している。
【表2】
【0052】
このNCプログラム「O200」がNC工作機械に指令する動作概要は、以下のとおりである。なお被削材の上面はZ=0mmに位置し、Z=0mmより下方における工具の運動により被削材が加工される。
(2a)エンドミルを10000rpmで回転する。
(2b)工具を始点B(-9.926, 5.010, 2)まで降下する。
(2c)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minで工具を円運動しながら、原点O(0, -1.111, 0)に移動する(加速期間における螺旋運動)。
(2d)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、Z=0mmから-6mmまで2mm/回転の送り量で工具を降下する(一定周速期間における螺旋運動)。
(2e)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、終点D(9.926, 5.010)に移動する(減速期間における螺旋運動)。
(2f)その後退避して運動を終了する。
【0053】
このNCプログラム「O200」により、内回り誤差を補正したヘリカルミリング加工および/またはスレッドミリング加工を行うことができる。
図9は、NC指令軌跡150と、NC指令軌跡150にもとづいて生成される移動軌跡152とを示す。NC指令軌跡150は、NCプログラム「O200」により指令される工具の軌跡であり、図8に示すNC指令軌跡140より大きな半径を有し、高い径精度を要求される被加工箇所を切削する切削期間の前後に、加速期間および減速期間のそれぞれに対応する運動軌跡を追加されている。上記した動作概要において、(2c)の運動軌跡は加速期間に対応し、(2e)の運動軌跡は減速期間に対応して、それぞれの運動軌跡による実質的な加工(高い径精度を要求される加工)は行われない。図9に示す移動軌跡152は、NC指令軌跡150に対して内回り軌跡となることで、一定周速期間において目標半径の加工を実現する。
【0054】
図9に示すように、加速期間と減速期間に挟まれる一定周速期間における移動軌跡152の径は、目標半径10mmに一致する。一方、移動軌跡152の径は、最初の63.3度の加速期間と最後の63.3度の減速期間において、目標半径10mmよりも大きくなり、始点Bと終点Dにおける径は、NC指令軌跡150の指令半径である11.111mmとなる。したがってNCプログラム「O200」は、加速期間および減速期間において切削を行わない加工プロセスに好適に利用可能である。具体的に移動軌跡152は、外周側の円筒面の加工や、雄ねじの加工に適している。
【0055】
以上のように実施形態では、加減速期間が既知であることを利用して、加減速期間で高い径精度を必要とする加工を行わず、一定周速期間に高い径精度を必要とする加工を行うように、加工プログラム生成装置200がNCプログラム「O200」を生成する。図9に示すNC指令軌跡150においては、図8に示すNC指令軌跡140とを比べると、螺旋運動のNC指令開始位置(始点B)を63.3度早く、NC指令終了位置(終点D)を63.3度遅く設定して、被削材の被加工箇所の切削加工を一定周速期間内で完了するようにしている。
【0056】
ヘリカルミリング加工/スレッドミリング加工ではなく、円運動によって円筒外周面の径を減少する加工を行う場合には、上記した螺旋運動の際のZ方向位置の変化を無くして円運動にすればよい。またNCプログラム「O200」は3周の正確な螺旋運動による加工を指令しているが、必要に応じて1周の円運動による円筒面加工を指令してもよい。またNC指令軌跡の前後に、任意の接近動作指令および退避動作指令を追加してよく、それらの動作指令は、加速期間および減速期間だけ切削期間から離れているため、高い径精度が必要な切削期間における軌跡に影響を与えない。逆に、補正後の径と速度を持つ始点Bから原点Oまでの螺旋運動軌跡指令(2c)と、原点Oから終点Dまでの螺旋運動軌跡指令(2e)は、フィルタ処理の影響を受ける期間(総時定数の半分)以上の長さに設定する必要がある。
【0057】
次に、内周側の円筒面や雌ねじを加工するための方法について説明する。図1に示すヘリカルミリングによる穴加工や、図2(b)に示すダウンカットのスレッドミリングによる内径(雌ねじ)加工では、上から下へ向かう螺旋軌跡に沿って内周側を加工する。これらの例では、被削材の上面より上側から工具が運動を開始するため、初めの加速期間において螺旋軌跡の径が目標半径より大きくても、加工が行われなければ問題ない。このため加速期間においては、図9に示す移動軌跡152と同様に径を目標半径よりも大きくした位置から工具が運動を開始し、一定周速期間に入った後に被削材に切り込んで目標半径で内周面側の加工を行う。なお減速期間においては、移動軌跡152とは異なり、径を目標半径よりも小さくして、内側に工具が逃げるように移動する軌跡を設定する必要がある。
【0058】
補正されたNCプログラム「O300」は、一定周速期間において工具が被削材の内周側を切削し、加速期間および減速期間において工具が被削材を切削しない運動をNC工作機械に指令する。表3において、左欄は、NCプログラム「O300」を構成する複数のブロックを示し、右欄は、ブロックの説明文を示す。なお「退避動作」を指令するブロックは省略している。
【表3】
【0059】
このNCプログラム「O300」がNC工作機械に指令する動作概要は、以下のとおりである。なお被削材の上面はZ=0mmに位置し、Z=0mmより下方における工具の運動により被削材が加工される。
(3a)エンドミルを10000rpmで回転する。
(3b)工具を始点B(-9.926, 5.010, 2)まで降下する。
(3c)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minで工具を円運動しながら、原点O(0, -1.111, 0)に移動する(加速期間における螺旋運動)。
(3d)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、Z=0mmから-6mmまで2mm/回転の送り量で工具を降下する(一定周速期間における螺旋運動)。
(3e)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、中間点D(9.926, 5.010)に移動する(フィルタ影響期間における螺旋運動)。
(3f)内周側に退避しながら、終点E(6.421, 14.772)に直線移動する(減速期間における直線運動)。
(3g)その後退避して運動を終了する。
【0060】
このNCプログラム「O300」により、内回り誤差を補正したヘリカルミリング加工および/またはスレッドミリング加工を行うことができる。NCプログラム「O300」によると、フィルタ影響期間および減速期間を、目標半径で被加工箇所を切削する切削期間の後に追加していることで、工具が内周側を仕上げた後に径が増大しないように、工具を退避できる。
【0061】
図10は、NC指令軌跡160と、NC指令軌跡160にもとづいて生成される移動軌跡162とを示す。NC指令軌跡160は、NCプログラム「O300」により指令される工具の軌跡であり、図9に示すNC指令軌跡150と比べると、中間点Dから終点Eまでの直線軌跡を追加されている。
【0062】
最初の63.3度の加速期間において、移動軌跡162の径は目標半径より大きいが、この期間は工具が被削材から軸方向に離れているため、切削は行われない。加速期間の後の一定周速期間における移動軌跡162の径は目標半径10mmに一致しており、この切削期間に被削材の被加工箇所が切削される。
【0063】
63.3度のフィルタ影響期間(原点Oから中間点Dまでの期間)においては、半径11.111mmの円運動を継続することで、その直前の原点Oに至るまでの移動軌跡162が内回りすることを防止している。このようにフィルタ影響期間において円運動を維持することで、直前の原点Oに至るまでの移動軌跡162の径が目標半径に維持される(つまり3周の工具軌跡の半径を目標半径に維持できる)。
【0064】
中間点Dから終点Eまでの減速期間においては、終点Eを目標半径の円軌跡の内部に設定することで、工具が半径10mmの円軌跡より内側に移動しながら徐々に減速する。この例では、中間点Dから終点Eまでの直線移動指令にも63.3度の角度範囲を設定しているが、その角度範囲や長さ、軌跡形状に制約はなく、退避する側(半径10mmの内側)に移動する軌跡が指令されていればよい。
【0065】
最後に、工具が穴の中に入り込んだ状態で内周側の円筒面や雌ねじを加工する方法について説明する。この場合、工具は、最初の加速期間において半径10mmの円軌跡の内側から徐々に被削材の内周面に接近しながら、半径10mmの螺旋運動を開始することが望ましい。
【0066】
補正されたNCプログラム「O400」は、一定周速期間において工具が被削材の内周側を切削し、加速期間および減速期間において工具が被削材を切削しない運動をNC工作機械に指令する。表4において、左欄は、NCプログラム「O400」を構成する複数のブロックを示し、右欄は、ブロックの説明文を示す。なお「退避動作」を指令するブロックは省略している。
【表4】
【0067】
このNCプログラム「O400」がNC工作機械に指令する動作概要は、以下のとおりである。なお被削材の上面はZ=0mmに位置し、Z=0mmより下方における工具の運動により被削材が加工される。
(4a)エンドミルを10000rpmで回転する。
(4b)工具を始点A(-6.421, 14.772, -3.648)まで降下する。
(4c)工具を第1中間点B(-9.926, 5.010, -3.648)に直線移動する(加速期間における直線運動)。
(4d)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minで工具を円運動しながら、原点O(0, -1.111, -4)に移動する(フィルタ影響期間における螺旋運動)。
(4e)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、Z=-4mmから-6mmまで2mm/回転の送り量で降下する(一定周速期間における螺旋運動)。
(4f)XY面内で半径11.111mm、中心位置C(0, 10)mm、周速6666mm/minの円運動を継続しながら、第2中間点D(9.926, 5.010, -6.352)に移動する(フィルタ影響期間における螺旋運動)。
(4g)内周側に退避しながら、終点E(6.421, 14.772)に移動する(減速速期間における直線運動)。
(4h)その後退避して運動を終了する。
【0068】
このNCプログラム「O400」によると、NC工作機械は、穴内部に工具を差し込んだ後に、穴の内周面に徐々に接近させて、被加工箇所を目標半径で切削できる。NC工作機械は、スレッドミリング加工またはヘリカルミリング加工を必要な回転回数分(NCプログラム「O400」では1周分)行い、その後徐々に内側に工具を退避して、加工を終了する。スレッドミリング加工またはヘリカルミリング加工ではなく、円運動によって円筒内周面の径を増大する加工を行う場合には、上記の螺旋運動の際のZ方向位置の変化を無くして円運動にすればよい。
【0069】
図11は、NC指令軌跡170と、NC指令軌跡170にもとづいて生成される移動軌跡172とを示す。NC指令軌跡170は、NCプログラム「O400」により指令される工具の軌跡であり、図10に示すNC指令軌跡160と比べると、始点Aから第1中間点Bまでの直線軌跡を追加されている。
【0070】
NC指令軌跡170においては、高い径精度が必要な切削期間(一周の螺旋運動期間)の前に、63.3度のフィルタ影響期間(加速側)を配置し、切削期間の後に、63.3度のフィルタ影響期間(減速側)を配置している。フィルタ影響期間および切削期間における指令半径は11.111mmである。切削期間の前後にフィルタ影響期間を設けることで、切削期間における内回りを防止して、目標半径10mmの螺旋軌跡を生成できる。またNC指令軌跡170においては、フィルタ影響期間(加速側)の前に、加速期間に対応する直線軌跡ABを設け、フィルタ影響期間(減速側)の後に、減速期間に対応する直線軌跡DEを設けている。これらの直線軌跡により、フィルタ処理後の運動軌跡は、加工開始時には徐々に切込みを増し、加工終了時には徐々に切込みを減らす軌跡となる。この例では、直線軌跡AB、直線軌跡DEにも63.3度の角度範囲を設定しているが、その角度範囲や長さ、軌跡形状に制約はなく、始点Aおよび終点Eを、目標半径より内側に位置するように指令すればよい。
【0071】
以上のように実施形態によると、加工プログラム生成装置200が、簡単な計算により、螺旋軌跡または円軌跡で円筒面やねじの加工を行う際の内回り誤差を防止/抑制する加工プログラムを生成でき、またNC工作機械が、加工プログラムを用いて被削材における被加工箇所を目標半径で切削することができる。
【0072】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0073】
本開示の態様の概要は、次の通りである。
本開示のある態様は、工具を被削材に対して相対的に螺旋軌跡または円軌跡で運動させる数値制御工作機械を用いて、被削材における被加工箇所を加工する方法に関する。この加工方法は、工具が一定周速で運動する一定周速期間に、工具を用いて被加工箇所を切削し、工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、工具による被加工箇所の切削を行わせない。
【0074】
この態様によると、数値制御工作機械が、被削材における被加工箇所を、所望の半径で加工することが可能となる。
【0075】
被削材は、高い径精度が要求される箇所と、高い径精度が要求されない箇所とを有し、被加工箇所は、高い径精度が要求される箇所であってよい。本加工方法においては、加速期間および/または減速期間に、工具を用いて高い径精度が要求されない箇所を切削してよく、または加速期間および/または減速期間に、工具を被削材に切り込ませない。
【0076】
本加工方法は、一定周速期間に、(目標半径/半径縮小率)を半径とする指令軌跡で工具を一定周速で運動させて、被削材における被加工箇所を切削してよい。なお、半径縮小率は、工具角速度と、円軌跡の内回りを生じさせるフィルタ処理の時定数とを用いて算出されてよい。
【0077】
本開示の別の態様は、数値制御工作機械に搭載されたコンピュータに、工具速度が増加する加速期間および/または工具速度が減少する減速期間に、被削材における被加工箇所を切削させず、工具が一定周速で運動する一定周速期間に、被加工箇所を切削させる機能を実現させるための加工プログラムであってよい。
【0078】
この態様によると、数値制御工作機械が、被削材における被加工箇所を、所望の半径で加工することが可能となる。
【0079】
この加工プログラムは、(目標半径/半径縮小率)を半径とする工具の指令軌跡を与えて、一定周速期間に、被加工箇所を目標半径となるように切削させる機能を実現させてよく、半径縮小率は、工具角速度と、円軌跡の内回りを生じさせるフィルタ処理の時定数とを用いて算出されていてよい。
【符号の説明】
【0080】
1・・・加工システム、10・・・加工装置、12・・・ベッド部、14・・・コラム部、16・・・第1テーブル、18・・・第2テーブル、20・・・X軸モータ、22・・・Y軸モータ、24・・・Z軸モータ、30・・・X軸センサ、32・・・Y軸センサ、34・・・Z軸センサ、40・・・主軸モータ、42・・・主軸センサ、44・・・主軸支持部、46・・・主軸、50・・・工具、52・・・第1傾斜モータ、54・・・第2傾斜モータ、56・・・傾斜センサ、62・・・被削材、100・・・制御装置、200・・・加工プログラム生成装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11