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特開2024-73948下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073948
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/12 20230101AFI20240523BHJP
   C02F 3/06 20230101ALI20240523BHJP
   C02F 3/10 20230101ALI20240523BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 M
C02F3/12 J
C02F3/06
C02F3/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184947
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】301031392
【氏名又は名称】国立研究開発法人土木研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100080115
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 和壽
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋正
(72)【発明者】
【氏名】北村 友一
【テーマコード(参考)】
4D003
4D028
【Fターム(参考)】
4D003AA01
4D003AB02
4D003BA04
4D003DA29
4D003EA18
4D003FA05
4D028BB02
4D028BB06
4D028BC12
4D028BC24
4D028BD06
4D028CB03
4D028CC07
4D028CD00
(57)【要約】
【課題】 下水処理水に残存するアンモニア性窒素の酸化と同時に抗菌剤の一つであるレボフロキサシンを低減することにより、下水処理水放流先河川の水生生物を保全することができ、かつ設備費、運転費を安価にできる下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置を提供する。
【解決手段】 この下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法は、下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体Sが収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽2,3に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体Sに担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体Sに担持させ、レボフロキサシンを同時に低減することを特徴とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、下水処理水中のレボフロキサシンを同時に低減することを特徴とする下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法。
【請求項2】
下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、レボフロキサシンを同時に低減する装置であって、
縦向きの筒型を呈し、内部に前記微生物担持体が収容され、各下部が下水処理水を連通可能に接続された複数の生物反応槽と、
前記生物反応槽のそれぞれに下部から空気を送り込む空気圧送手段と、
前記空気圧送手段から送られる空気で曝気させる曝気手段と、を備えたことを特徴とする下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減装置。
【請求項3】
前記微生物保持担体は、シート状繊維担体を筒状に丸めた形状からなり、それぞれ上端を窄めて固定、下端を非固定で筒状の末広がり状に配置して、生物反応槽内の軸方向に設けた支持部材の長さ方向に複数個、多段にわたり設置されている請求項2に記載の下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減装置。
【請求項4】
担体処理水貯留槽を備え、この貯留槽にオンラインアンモニアセンサ又はオンライン溶存酸素センサ、あるいは前記両センサが設置され、担体処理水のアンモニア性窒素の値又は溶存酸素の値をフィードバックさせる方式により各生物反応槽内へ送風する前記空気圧送手段の送風量を制御する制御手段が設置されている請求項3に記載の下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減装置。
【請求項5】
前記空気圧送手段は、送風機である請求項4に記載の下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減装置。
【請求項6】
前記送風機は、インバータ対応の送風機である請求項5に記載の下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置に関し、詳しくは、下水に浄化処理を施し有機物は減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水においてアンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させて減少させるとともに、下水処理水中のレボフロキサシンを低減させる技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
水中のアンモニアは、水生生物に悪影響があることから下水処理水中のアンモニア性窒素の低減について今後議論されるところである。こうした背景から全国54箇所の小規模下水処理施設の下水処理水中のアンモニア性窒素を測定したところ全体の44%の処理施設で下水処理水中のアンモニア性窒素濃度が2mg-N/L以上であり、環境施策上、放流水中の濃度の目標値が低く設定された場合は、多くの下水処理施設で低減対策が必要となる。特に、既設の浄化処理の運転方法を変更することで対応できない下水処理施設では、アンモニア性窒素のための新たな低減施設が必要となる。
【0003】
下水処理水中に残留するアンモニア性窒素の酸化には、流動型微生物保持担体法の利用が可能と考えられるものの、アンモニア性窒素を90%以上低減するのに3時間程度の時間を要すること、また送風量が多く必要となることが問題となる。
【0004】
それに加え、下水にはヒトが使用した抗菌剤が含まれており、通常の下水処理施設ではこのような抗菌剤の低減は限定的である。抗菌剤の中でもレボフロキサシンは、出荷量が多く下水中の濃度は他の抗菌剤よりも高いことがわかっている。抗菌剤は藻類の増殖を阻害することが知られており、水生生物保全のためには、下水処理水中の抗菌剤を低減する必要がある。この抗菌剤の低減にはオゾンにより抗菌剤を分解する方法(オゾン処理法)も知られているが、この方法は高圧電源を有するオゾン発生装置を設けなければならず、設備費、運転費ともに高価になるという問題がある。
【0005】
前記のような技術に関して出願人の調査によれば、先行技術文献として、下記の特許文献1-3があった。これらには下水処理水を反応槽で曝気することでアンモニア性窒素を除去する技術(特許文献1)、アンモニア含有の下水処理水を硝化槽で亜硝酸に酸化する技術(特許文献2)、アンモニア性窒素を含む下水処理水を硝化槽(曝気槽)に入れ酸化処理する技術(特許文献3)が開示されている。
【0006】
しかし、これら文献にはレボフロキサシンをも低減する技術は開示されていない。つまり、レボフロキサシンを低減する技術は依然、未解明のままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】再表2011-136043号公報
【特許文献2】特開2009-136725号公報
【特許文献3】再表2004-74191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこでこの発明は、前記従来の問題を解決し、アンモニア性窒素の酸化と同時に抗菌剤の一つであるレボフロキサシンを低減することにより、下水処理水放流先河川での水生生物を保全することができ、かつ設備費、運転費を安価にできる下水処理水中のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置を提供とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させる(アンモニア性窒素酸化工程)とともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、下水処理水中のレボフロキサシンを同時に低減する(レボフロキサシン低減工程)ことを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明は、下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、レボフロキサシンを同時に低減する装置であって、縦向きの筒型を呈し、内部に前記微生物保持担体が収容され、各下部が下水処理水を連通可能に接続された複数の生物反応槽と、前記生物反応槽のそれぞれに下部から空気を送り込む空気圧送手段と、前記空気圧送手段から送られる空気で曝気させる曝気手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2において、前記微生物保持担体は、シート状繊維担体を筒状に丸めた形状からなり、それぞれ上端を窄めて固定、下端を非固定で筒状の末広がり状に配置して、生物反応槽内の軸方向に設けた支持部材の長さ方向に複数個、多段にわたり設置されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3において、担体処理水貯留槽を備え、この貯留槽にオンラインアンモニアセンサ又はオンライン溶存酸素センサ、あるいは前記両センサが設置され、担体処理水のアンモニア性窒素の値又は溶存酸素の値をフィードバックさせる方式により各生物反応槽内へ送風する前記空気圧送手段の送風量を制御する制御手段が設置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項4において、前記空気圧送手段は、送風量一定型の送風機であることを特徴とする。請求項6記載の発明は、請求項5において、前記送風機は、送風量可変型のインバータ対応の送風機であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、抗菌剤であるレボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、レボフロキサシンを同時に低減する方法であるため、下水処理水中のアンモニア性窒素を低減でき、放流先河川の水生生物を保全することが可能となると同時に、繊維状微生物保持担体に担持された微生物により、レボフロキサシンの低減を促進することができる。また、従前から要請のあった省スペース、省エネルギー型の処理装置としても応じられる。
【0015】
通常、下水処理水は病原細菌の不活化のために塩素消毒の後に放流されているが、アンモニア性窒素が存在すると塩素がクロラミンなどの消毒副生物質の生成に費やされてしまい、塩素が消毒に回らなくなる。アンモニア性窒素が低減すれば、結果として、塩素消毒処理の際の塩素注入率を減ずることが可能となる。さらに、レボフロキサシンは放流先河川の藻類の増殖を阻害する可能性があることから、放流先河川の水生生物の保全に資することが可能である。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、下水に浄化処理を施し有機物が減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水を、繊維状微生物保持担体が収容されて複数直列に接続された筒型生物反応槽に通水し、これら生物反応槽の下部から空気を送り込んで曝気させることにより、アンモニア性窒素を酸化させる微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、アンモニア性窒素を硝酸イオンに酸化させるとともに、レボフロキサシンの吸着、分解に関与する微生物を自然発生的に前記微生物保持担体に担持させ、レボフロキサシンを同時に低減する装置であって、縦向きの筒型を呈し、内部に前記微生物保持担体が収容され、各下部が下水処理水を連通可能に接続された複数の生物反応槽と、前記生物反応槽のそれぞれに下部から空気を送り込む空気圧送手段と、前記空気圧送手段から送られる空気で曝気させる曝気手段と、を備えているので、装置としても複雑な構成となることなく、下水処理施設の簡素化を実現することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、シート状繊維担体からなる微生物保持担体の取り付けや配置が容易になり、該担体への微生物の担持を効率的に行うことができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、縦向きの生物反応槽が複数直列に接続する構成からなるので、オンラインアンモニアセンサ又はオンライン溶存酸素センサ、あるいは前記両センサを設置し、担体処理水のアンモニア性窒素の値又は溶存酸素の値をフィードバックさせる方式による送風量制御が容易に実施可能となる。オンラインアンモニアセンサによるフィードバック方式による送風量制御では担体処理水中のアンモニア性窒素の値を任意に制御可能となり、かつ、送風量削減により運転費を安価にすることが可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、空気圧送手段が送風量一定型の送風機であるので、取り扱いが容易である。請求項6記載の発明によれば、送風機がインバータ対応の送風機であるので、送風量が連続的に可変可能となり、担体処理水中のアンモニア性窒素の値の安定化が図れ、省エネにも貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施の形態に係わる下水処理水のアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減方法及び装置の概要を示す概略図である。
図2図1に係わる筒型生物反応槽への繊維状微生物保持担体の収容方法および装置の概略構成を示す説明図であり、(a)はシート状繊維担体、(b)は繊維担体を取付ける支柱等、(c)は取付け状態、(d)は筒型反応タンクに配置した状態をそれぞれ示す。
図3図1に係わるオンラインセンサのフィードバック制御による送風量コントロールの方法及びその装置の概略構成を示す説明図である。
図4】インバータモータ付き送風機による比例制御方式を示す図である。
図5】試験期間中の水温の変化と処理対象下水処理水(活性汚泥処理法による二次処理水であって、以下、「活性汚泥処理水」という。)、繊維状微生物保持担体による担体処理水のアンモニア性窒素(アンモニウムイオンをその窒素量で表したもので一般にNH-Nで表示される。以下、「NH-N」という。)濃度を示すグラフである。
図6】試験開始からの累積送風量(黒色線:送風量制御時、灰色線:最大送風量での一定曝気と仮定したとき)を示すグラフである。
図7】試験期間中のレボフロキサシン濃度を示すグラフである。
図8】効果確認実験2で使用した装置の概要図である。
図9】(A)は嫌気好気ろ床処理工程と繊維状担体処理での有機性炭素(DOC)濃度を示すグラフ、(B)はアンモニア性窒素(NH-N)、硝酸性窒素(NO-N)、亜硝酸性窒素(NO-N)の濃度を示すグラフ、(C)はレボフロキサシン濃度を示すグラフ、(D)は活性汚泥処理工程と繊維状担体処理での有機性炭素(DOC)濃度を示すグラフ、(E)はアンモニア性窒素(NH-N)、硝酸性窒素(NO-N)、亜硝酸性窒素(NO-N)の濃度を示すグラフ、(F)はレボフロキサシン濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、この発明の一実施の形態について説明する。
図1において、1は下水処理施設であり、2は1段目筒型生物反応槽、3は2段目筒型生物反応槽である。
【0022】
下水処理施設1は、一般的な既知の下水処理施設であり、活性汚泥法、嫌気好気ろ床法、その他に生物膜法による浄化処理が施されたものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。活性汚泥法によるものを例に挙げて説明すると、まず、図示しない沈砂池で流入下水中のゴミや土砂を取り除き、次に、最初の沈殿池においてこのゴミ除去後処理水をゆっくり流すことで粒子径の大きな浮遊物質を沈殿させる(一次処理といい、得られた処理水を「初沈越流水」という。)。そして初沈越流水を最初の沈殿池からエアレーションタンクに流入させ、ここで活性汚泥と混合させたのち曝気手段で空気を送り込んで活性汚泥中の(好気的な)微生物群の活動により浄化する。次に、この浄化された処理水と活性汚泥が入り混じった処理水を最終沈殿池に送り、混合後処理水をゆっくり流すことにより活性汚泥を沈めて(二次処理)、浄化処理を施した二次処理水を得る。
【0023】
嫌気好気ろ床法は、前段の嫌気ろ床処理と後段の好気ろ床処理に分けられ、嫌気ろ床処理では、嫌気性細菌により有機物が炭酸ガスとメタンガスに分解され、好気ろ床処理では嫌気ろ床処理で分解されなった有機物の分解と浮遊物質のろ過が行われ、二次処理水を得る。
【0024】
この実施の形態におけるアンモニア性窒素(NH-N)とレボフロキサシンの低減方法及び装置が対象としているのは、このように、一般的な浄化処理を施して有機物がある程度減少しているもののアンモニア性窒素が残留している下水処理水である。また、下水とは、家庭からの生活雑排水や汚水、工場排水、雨水などが混合されたものを指している。
【0025】
図1に示す生物反応槽2,3には、後述するように空気を送り込む空気圧送手段、この空気圧送手段から送り込まれる空気で曝気する曝気手段が設けられている。また、生物反応槽2と生物反応槽3は下部で生物反応槽2の担体処理水が通過するように直列状に連結している。処理対象の下水処理水(二次処理水)は、生物反応槽2の上部開口から供給され、生物反応槽2と生物反応槽3を経て、生物反応槽3の上部に設けた流出口から流出される。各生物反応槽には、アンモニア性窒素の酸化、レボフロキサシンの吸着、分解に係わる微生物を担持可能な繊維状微生物保持担体(以下、「微生物保持担体」という。)Sが該微生物保持担体の充填率が高くなるように収容されており、好気的な条件下で微生物保持担体Sに自然発生的に担持される微生物の生物反応により下水処理水に生物学的な処理を施して浄化するようになっている。この生物反応槽2,3は、それぞれに流入した下水処理水の水理学的滞留時間が45~90分程度となるように調整する。
【0026】
生物反応槽2,3は、図2にも示すように有底の中空円筒型を呈し、水密性を有して、上部が開口している。下部にはタイマー制御可能な電磁弁付き排水口23,33が設けられ、定期的にこれら排水口を開くことにより微生物保持担体Sに過剰に付着した浮遊物質を排出できるようになっている。例えば生物反応槽2の排水口23はタイマーで1日1回、電磁弁を開き、微生物保持担体Sに過剰に付着した浮遊物質を排出する。生物反応槽3の排水口33は通常の運転では使用しない。また、これら生物反応槽2,3の筒型タンク20の下部には曝気手段である散気球22が設けられ、これら散気球22から空気圧送手段(送風手段)としての送風機25,35により空気の気泡を発生させて酸素を供給する。なお、生物反応槽2,3の筒型タンク20の形状としての円筒型は、一例を示したもので、多角形状の角筒型のものを採用してもよい。
【0027】
生物反応槽2,3にはシート状の微生物保持担体Sが円筒状に丸められて筒型タンク20の底盤中央部に立設された支柱21に取り付けられている。この例では支柱21の下端部近くから上端部近くまで6段にわたり取り付けられている。微生物保持担体Sの取り付け量の目安は40~90%(微生物保持担体Sは未圧縮での略体積とした。以下、「嵩容量」という。)で、閉塞が生じない程度の量が取り付けられている。高密度で微生物保持担体Sを取り付ける際の工夫は次のとおりである。すなわち、円筒状に丸めた微生物保持担体Sの上部を窄め、上部のみを支柱21に取付金具27を介して固定する。円筒状に丸めた微生物保持担体Sの下部は固定せず、下部は生物反応槽2,3の内径いっぱいまで広がるように設置する(図2(c)参照)。
【0028】
2枚目の微生物保持担体Sは、1枚目の中間付近内側で、2枚目微生物保持担体Sの上部を固定する。すなわち、1枚目の微生物保持担体Sの下部が2枚目の微生物保持担体Sの上部に外側から重なるようになっている。3枚目以降は同様に設置する。この方法により、筒型タンク20内の水面下から下部まで微生物保持担体Sを設置し、生物反応槽2,3に収容する。これにより微生物保持担体Sを、生物反応槽容積の90%程度(嵩容量)まで収容することが可能となる。なお、微生物保持担体Sの高密度充填方式は上記に限定するものではない。
【0029】
1段目と2段目の生物反応槽2,3に設置した微生物保持担体Sによりアンモニア性窒素とレボフロキサシンの低減が同時に行われる。すなわち、1段目で低減しきれなったものを、2段目でさらに低減するイメージであり、1段目、2段目のどちらもアンモニア性窒素とレボフロキサシンを同時に低減させる。
【0030】
処理対象の下水処理水中に残存しているアンモニア性窒素の濃度レベルであれば2段の生物反応槽で2mg-N/L程度まで低減できる。生物反応槽は複数段設置してもよい。これよりも、下水処理水に含まれるアンモニア性窒素をさらに低減したい場合は、3段目、4段目の生物反応槽の設置で可能となる。下水処理水中に相当量の有機物が含まれている場合は、1段目、2段目で有機物を除去した後で、3段目、4段目でアンモニア性窒素を低減できる。
【0031】
送風機25,35からの空気の送風は、生物反応槽2,3の底部中心部から送風し、微生物保持担体Sの内部に向けて気泡を発し、気泡が微生物保持担体Sに直接接触するようにする。これにより、微生物保持担体Sに絡まるように気泡が上昇し、微生物保持担体Sの内部にまで酸素を供給できる。
【0032】
微生物保持担体Sは、繊維に微生物が付着しやすいものであれば形状および材質については限定されないが、この実施の形態では細い繊維状の樹脂が束ねられ、さらにそれらを束ねたもので形成されている。このように、実施の形態に係わる微生物保持担体Sは繊維状であるため、処理対象の下水処理水との接触面積を体積に比して大きくとることができ、かつ微生物保持担体Sの内部には、高密度で微生物保持担体が充填されているため処理に係わる微生物量を高濃度で維持することができる。そのため、担持している微生物の生物反応が促進される。
【0033】
また、2槽直列に接続された生物反応槽2,3とすることにより、1槽単独型の場合よりも、下水処理水と微生物保持担体Sに担持している微生物との接触時間を長くとることができ、アンモニア性窒素とレボフロキサシンをより減少させることができる。図2(d)において、接続管24は1段目の生物反応槽2と2段目の生物反応槽3を接続する管である。
【0034】
<変形例1>
図3は、曝気送風量制御のために、オンラインアンモニアセンサ32を設置し、担体処理水のアンモニア性窒素の値をフィードバックさせる方式による送風量制御を可能とするものである。送風量一定の送風機41,42,43,44から1段目の生物反応槽2と2段目の生物反応槽3へ送られる空気の量をオンラインセンサ32の値を用いて変換機(送風量コントローラ)36により別々に制御する例を示すものである。このような方式とすると、担体処理水中のアンモニア性窒素の値での送風量の制御が容易となる。すなわち、1段目の生物反応槽2でアンモニア性窒素を略酸化させ、1段目で酸化されなかったアンモニア性窒素だけを2段目生物反応槽3では酸化すればよく、過不足なく空気を送風することにより省エネルギー運転が可能となる。つまり、オンラインアンモニアセンサ32による送風量制御はフィードバック方式とし、担体処理水貯留槽31を設置し、ここにオンラインセンサ32を設置する。これにより、オンラインセンサ32の値に応じて送風量をフィードバック方式で制御することにより担体処理水中のアンモニア性窒素の値をモニタリングしながら、送風量の制御が可能となる。前記のようにフィードバック制御の方法は、複数台の送風機によるON/OFF制御方式が利用可能となる。
【0035】
フィードバック方式による送風量制御は、前記オンラインアンモニアセンサ32の他に、オンライン溶存酸素センサによる風量制御でも可能である。本装置での担体処理水中の溶存酸素の値とアンモニア性窒素の値との関係を把握したのちに、溶存酸素の値を指標にして、送風機からの送風量を制御することになる。
【0036】
<変形例2>
図4は、インバータモータ付き送風機による比例制御方式とした例を示す。すなわち、図3では送風量の制御は、送風量一定の送風機を4台用いて、風量制御をON-OFF制御で行っているが、インバータ制御可能な送風機46,47で比例制御(アンモニア性窒素の値に応じて、連続的に送風量を増減させる制御)としてもよい。このようにすると、送風機の設置台数を少なくでき、かつ比例制御が可能なので、省エネルギー運転となる。また、担体処理水中のアンモニア性窒素の値が目標設定値付近で安定する効果が期待できる。
【0037】
(効果確認実験1)
図3に示す形態で、オンラインアンモニアセンサ32を担体処理水貯留槽31に設置し、オンラインアンモニアセンサ32の値を用いて送風量をフィードバック制御した条件での活性汚泥処理水に残留するアンモニア性窒素の酸化実験を行った。
送風量制御の条件は次のとおりである。
送風量制御の条件:担体処理水中アンモニア性窒素の値を用いて送風機4台で制御
1段目送風機41は、常時ON
2段目送風機42は、アンモニア性窒素0.5mg-N/L以上でON、それ以下ではOFF
3段目送風機43は、アンモニア性窒素1.0mg-N/L以上でON、それ以下ではOFF
4段目送風機44は、アンモニア性窒素1.5mg-N/L以上でON、それ以下ではOFF
送風機1台の送風量は0.9L/min
活性汚泥処理水流量は、0.9L/min
【0038】
その結果、図5のように、活性汚泥処理水には変動が認められるものの、微生物保持担体処理水中のアンモニア性窒素は、概ね2mg-N/L以下に低減できることが確認された。図6に本実験での実送風量と、送風機4台を全て稼働したと仮定したときの累積送風量を示した。送風量を制御することにより、40%程度の送風量削減を達成できている。
【0039】
次に、レボフロキサシンの低減効果を確認するために、段落0037に記載した活性汚泥処理水と生物反応槽2,3の担体処理水中のレボフロキサシンを測定した。図7は活性汚泥処理水と生物反応槽2,3のレボフロキサシンの濃度を示すグラフである。グラフから明らかなように、1段目、2段目と処理を進めるに従い、レボフロキサシンが低下していることが認められる。
【0040】
その結果、2段目の微生物保持担体処理水のレボフロキサシンは、平均で0.11μg/L程度まで低減できることが認められた。
【0041】
また、微生物によるアンモニア性窒素の酸化は水温が低下すると、酸化能力が低下することが知られている。本法においては、図5に示すとおり水温が14℃付近まで低下しても、アンモニア性窒素の酸化能力の低下は認められない。
【0042】
(効果確認実験2)
嫌気好気ろ床処理法による二次処理水(以下、「嫌気好気ろ床処理水」という。)は、活性汚泥処理水に比べて、アンモニア性窒素と有機物濃度が高くなる傾向がある。本発明が嫌気好気ろ床処理水に対しても適用可能であることを確認するため、嫌気好気ろ床処理水を用いた微生物保持担体処理実験を令和4年2~3月に行った。比較対象のため同時期の活性汚泥処理水を用いた実験も行った。
【0043】
本実験で用いた活性汚泥処理装置と嫌気好気ろ床処理装置の概要を図8に示す。実流入下水を用いて、活性汚泥処理と嫌気好気ろ床処理を行った。活性汚泥処理は、水理学的滞留時間(以下、「HRT」という。)約9時間、送風量を絞った硝化抑制型(アンモニア性窒素が活性汚泥処理水に残る処理方式)の運転条件であった。嫌気ろ床では、ひも状担体(ポリプロピレン+ビニロン混合繊維)約100L(嵩容量)を500L槽に吊り下げ、HRT約21時間で嫌気ろ床処理を行った。後段の好気ろ床では、100Lのステンレスタンク下側に、ろ過材としてアンスラサイトを30L充填し、上側に炭素繊維担体(全長70cm、幅32cm、束数120本)を6本吊り下げ接触材とした。好気ろ床の容積は90Lで、HRTは約3時間であった。
【0044】
図8中の生物反応槽2,3は効果確認実験1で使用した装置(段落0037で使用したもの)とは別のもので、1槽が10Lとなる。各筒型反応槽にはシート状の微生物保持担体Sを円筒状にし、充填率40%程度で充填している。送風量は1段目、2段目とも1.2L/分で底部から曝気した。
【0045】
嫌気好気ろ床処理水を対象とした微生物保持担体実験の水理学的滞留時間は1段目と2段目筒型生物反応槽全体で90分(一段当たりの滞留時間は45分)、活性汚泥処理水を試験水とした比較実験は45分(一段当たりの滞留時間は22.5分)とし、連続処理を行った。両実験ともオンラインアンモニアセンサによる送風量制御を行わない一定曝気量の条件であった。図中の「〇」のカ所で採水し、有機物の指標となる有機性炭素(DOC)、アンモニア性窒素(NH-N)、硝酸性窒素(NO-N)、亜硝酸性窒素(NO-N)とレボフロキサシンの濃度を測定した。
【0046】
図9において(A)は嫌気好気ろ床処理工程と繊維状担体処理での有機性炭素(DOC)濃度である。(D)は活性汚泥処理工程と繊維状担体処理のものである。嫌気好気ろ床処理水のDOC濃度は12mg/L、活性汚泥処理水のDOC濃度は6mg/Lで、繊維状担体処理に流入するDOC濃度は、嫌気好気ろ床処理水で高い。
【0047】
(B)は、嫌気好気ろ床処理工程と繊維状担体処理でのアンモニア性窒素(NH-N)、硝酸性窒素(NO-N)、亜硝酸性窒素(NO-N)の濃度である。(E)は活性汚泥処理工程と繊維状担体処理である。嫌気好気ろ床処理水のアンモニア性窒素濃度は24mg-N/L、活性汚泥処理水のアンモニア性窒素濃度は15mg-N/Lで、繊維状担体処理に流入するアンモニア性窒素濃度は、嫌気好気ろ床処理水で高い。
【0048】
嫌気好気ろ床処理水を対象としたとき、1段目筒型生物反応槽でアンモニア性窒素の46%程度が酸化され、2段目筒型生物反応槽ではさらに酸化が進み、嫌気好気ろ床処理水中のアンモニア性窒素の98%以上の酸化が認められた。このときの繊維状担体処理水中のアンモニア性窒素濃度は0.6mg-N/Lとなった。
【0049】
有機物とアンモニア性窒素の濃度が高い場合の嫌気好気ろ床処理水であっても、処理時間を90分程度にすることで、適用可能であることを確認した。
【0050】
次に、レボフロキサシンの除去効果を確認するために、段落0043に記載した嫌気好気ろ床処理工程と繊維状担体処理の1段目と2段目、および活性汚泥処理工程と両繊維状担体処理の1段目と2段目の担体処理水中のレボフロキサシンを測定した。(C)は嫌気好気ろ床処理工程と繊維状担体処理、(F)は活性汚泥処理工程と繊維状担体処理のレボフロキサシン濃度を示すグラフである。グラフから明らかなように、嫌気好気ろ床処理工程においても、1段目、2段目と微生物保持担体Sの処理を進めるに従い、レボフロキサシンの低下が認められることを確認した。
【0051】
以上のように、この発明の実施形態を説明してきたが、あくまでも一例を示すものである。また、図面で示した各構成の形状や材質も好ましい一例を示すものであり、その実施に際しては特許の請求の範囲に記した範囲内で、任意に設計変更・修正ができるものである。
【符号の説明】
【0052】
1 下水処理施設
2,3 生物反応槽
25,35 送風機(空気圧送手段)
20 筒型タンク
21 支柱(支持部材)
22 散気球(曝気手段)
23,33 電磁弁付き排水口
24 接続菅
27 取付金具
31 担体処理水貯留槽
32 オンラインアンモニアセンサ
36 変換機(送風量コントローラ)
41,42,43,44 送風機
51,53 インバータ対応送風機
S 繊維状微生物保持担体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9