(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073955
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】感光性樹脂版の現像廃液の処理方法、及び、感光性樹脂版の現像廃液処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20240523BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20240523BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20240523BHJP
【FI】
C02F1/52 H
B01D21/01 102
C02F1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184957
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】591174391
【氏名又は名称】株式会社タカノ機械製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誠治
(72)【発明者】
【氏名】小林 努
【テーマコード(参考)】
4D015
4D037
【Fターム(参考)】
4D015BA03
4D015BA19
4D015BA23
4D015BB06
4D015CA20
4D015DA08
4D015DA12
4D015DA19
4D015DA23
4D015DA31
4D015DA35
4D015DC04
4D015EA03
4D015EA06
4D015EA10
4D015EA35
4D015FA01
4D015FA02
4D015FA11
4D015FA29
4D037AA13
4D037AB17
4D037BA18
4D037BB01
4D037BB04
4D037BB06
4D037BB09
4D037CA02
4D037CA08
(57)【要約】
【課題】 感光性樹脂版の現像廃液を処理して、環境負担の少ない水、あるいは、感光性樹脂版の洗い出し液として再度利用可能な水とすることを課題とする。
【解決手段】 (a)前記現像廃液を加熱するステップと、(b)前記現像廃液にUV照射するステップと、(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性樹脂版の現像廃液の処理方法であって、
(a)前記現像廃液を加熱するステップと、
(b)前記現像廃液にUV照射するステップと、
(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップと、
を含む、感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項2】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、加熱を継続しながら前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、加熱及びUV照射を継続しながら前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを実施する、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項3】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、及び、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施する、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項4】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、そのあとに、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、そのあとさらに前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施する、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項5】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを同時に実施する、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項6】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップの実施後に、(d)前記現像廃液を濾過するステップをさらに含む、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項7】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップにおいて、加熱温度は50℃~65℃である、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項8】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップにおいて、前記無機凝集剤は金属酸化物を主成分として含む、請求項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
【請求項9】
請求項6に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法に用いられる、感光性樹脂版の現像廃液処理装置であって、
容器と、撹拌部と、加熱部と、UV照射部と、濾過部を備え、
前記感光性樹脂版の現像廃液は、前記容器に導入され、
前記撹拌部は前記容器に導入された前記現像廃液を撹拌可能であり、前記加熱部は前記容器に導入された前記現像廃液を加熱可能であり、前記UV照射部は前記容器に導入された前記現像廃液に対してUV照射可能であり、
前記濾過部は、前記現像廃液を濾過するように構成された、感光性樹脂版の現像廃液処理装置。
【請求項10】
制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記容器の入口及び出口のバルブの開閉の制御、前記撹拌部の制御、前記加熱部の加熱温度及び加熱時間の制御、前記UV照射部のUV照射強度及びUV照射時間の制御を行うように構成される、請求項9に記載の感光性樹脂版の現像廃液処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性樹脂の現像廃液の処理方法、及び、感光性樹脂版現像廃液の処理装置に関する。具体的には、感光性樹脂の洗い出しにより生じた現像廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感光性樹脂版を用いた製版工程で生じる現像廃液には、感光による反応に使われなかった各種樹脂分(さまざまな分子量のポリマー)、未反応モノマー、重合開始剤、添加剤、界面活性剤、水等が含まれる。
【0003】
現像廃液は通常、繰り返し使用され、製版工程に支障が出るような指標(感光による反応に使われなかった各種樹脂部分を洗い流せないようになることや、樹脂が感光性樹脂版に残存するようになること等)に達すると、廃液処理を行う。
【0004】
所定の指標に達した現像廃液に対しては、廃液貯蔵タンクに移送後、逆浸透膜、限外濾過膜、精密濾過膜のいずれか1種類以上の濾過膜を用いて、液中に分散した樹脂を除去して処理する方法が一例として知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、感光による反応に使われなかった各種樹脂分(ポリマー)等が膜を閉塞させてしまうという問題があった。
【0005】
また、所定の指標に達した現像廃液の水分を除去し、固形物を焼却して処理する方法も行われている。
しかしながら、焼却に用いるエネルギーコストが高いという問題があった。
【0006】
その他、蒸留や電気分解等の方法で処理することが検討されており、また、感光性樹脂版メーカーにおいても、現像廃液の処理方法としてさまざまな方法が検討されてきたが、水に溶けた樹脂(さまざまな分子量のポリマー)や未反応モノマー、重合開始剤、添加剤、界面活性剤を処理する方法に決定打はなく、効率的に水とその他成分を分離する方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、感光性樹脂版の現像廃液を処理して、環境負担の少ない水、あるいは、感光性樹脂版の洗い出し液として再度利用可能な水とすることを課題とする。また、かかる感光性樹脂版の現像廃液を処理可能な現像廃液処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、感光性樹脂版の現像廃液の処理方法、及び、感光性樹脂版の現像廃液処理装置見出した。
【0010】
すなわち、本発明の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法は、(a)前記現像廃液を加熱するステップと、(b)前記現像廃液にUV照射するステップと、(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップと、を含む。
【0011】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、加熱を継続しながら前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、加熱及びUV照射を継続しながら前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを実施してもよい。
【0012】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、及び、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施してもよい。
【0013】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、そのあとに、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、そのあとさらに前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施してもよい。
【0014】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを同時に実施してもよい。
【0015】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップの実施後に、(d)前記現像廃液を濾過するステップをさらに含んでもよい。
【0016】
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップにおいて、加熱温度は50℃~65℃であることが望ましい。
【0017】
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップにおいて、前記無機凝集剤は金属酸化物を主成分として含むことが望ましい。
【0018】
本発明の感光性樹脂版の現像廃液処理装置は、上記感光性樹脂版の現像廃液の処理方法に用いられる、感光性樹脂版の現像廃液処理装置であって、容器と、撹拌部と、加熱部と、UV照射部と、濾過部を備え、前記感光性樹脂版の現像廃液は、前記容器に導入され、前記撹拌部は前記容器に導入された前記現像廃液を撹拌可能であり、前記加熱部は前記容器に導入された前記現像廃液を加熱可能であり、前記UV照射部は前記容器に導入された前記現像廃液に対してUV照射可能であり、前記濾過部は、前記現像廃液を濾過するように構成される、
【0019】
制御部をさらに備え、前記制御部は、前記容器の入口及び出口のバルブの開閉の制御、前記撹拌部の制御、前記加熱部の加熱温度及び加熱時間の制御、前記UV照射部のUV照射強度及びUV照射時間の制御を行うように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、感光性樹脂版の現像廃液を処理して、環境負担の少ない水、あるいは、感光性樹脂版の洗い出し液として再度利用可能な水とする方法を提供することができる。また、かかる感光性樹脂版の現像廃液を処理可能な現像廃液処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】感光性樹脂版の現像廃液処理方法のフローの一例である。
【
図2】感光性樹脂版の現像廃液処理方法のフローの他の一例である。
【
図3】感光性樹脂版の現像廃液処理装置の一例である。
図3(a)は現像廃液処理装置の上面図、
図3(b)は正面図、
図3(c)は右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0023】
(感光性樹脂版)
フレキソ印刷は、凸版印刷の1つで、印刷版の凸部にインクをつけて印刷するものである。フレキソ印刷に使用される印刷版は、感光層を有する感光性樹脂版に所定の情報を転写し、露光し現像したものである。
【0024】
感光性樹脂版に所定の情報を転写する方式として、主にアナログ方式(フィルム製版)とデジタル方式(CTP製版、Computer to Plate製版)がある。アナログ方式は、基板に接着層を形成後、感光層、その上にネガフィルムを載せ塩ビ等のシートで圧着し、真空中でUV露光を行い、現像時の未反応物質の洗い出しを行うものである。一方、デジタル方式は、基板に接着層を形成後、感光層、レーザーアブレーションマスク層(LAM)を載せ、ネガフィルムを使わずにコンピューターから版に直接的に赤外線レーザーで所定の情報を転写し、空気中でUV露光を行い、現像時の未反応物質の洗い出しを行うものである。
いずれの方式においても、洗い出した現像廃液には、水に溶けた樹脂(さまざまな分子量のポリマー)や未反応モノマー、任意の重合開始剤、添加剤、界面活性剤、及び、水等が含まれている。また、現像廃液には、使用された感光性樹脂版や洗い出し水溶液の組成、再使用回数等により、さまざまな種類の化合物がさまざまな濃度で含まれる。
【0025】
感光性樹脂版の感光層は、UV露光にて重合反応するように、かつ、露光されなかった未反応部分が水や界面活性剤を含む水溶液で洗い出されるように、含有される化合物の成分が調製される。
化合物の成分として具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリビニルアルコール誘導体、ジエン系ポリマー、ポリウレタン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、N-ビニルホルムアルデヒド、アクリル酸系ポリマー、アクリル酸エステル系モノマー、メタクリル酸エステル系モノマー、(メタ)アクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジビニルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、パラフィン、ナフテン、カーボンブラック、光重合開始剤(アルキルフェノン類、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン等)、界面活性剤(アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等)、染料、その他添加剤等から任意に選択された混合物が例示される。
【0026】
(感光性樹脂版の現像廃液)
感光性樹脂版の洗い出しに使用された現像廃液(廃液)は、通常、複数回繰り返して利用される。製版工程に支障が出るような指標(感光による反応に使われなかった各種樹脂部分を洗い流せないようになることや、樹脂が感光性樹脂版に残存するようになること、CODやBODが所定値以上になること、水分を蒸発させた場合の固形分残渣(TDS)や固形分残渣の対原液残存率が所定値以上になること等)に達すると、廃液処理を行う。
ここで、廃液処理とは、水と、その他成分をできる限り分離することを指すが、処理した廃液を感光性樹脂版の洗い出しに再度利用する場合は、製版工程に支障が出るような指標(感光による反応に使われなかった各種樹脂部分を洗い流せないようになることや、樹脂が感光性樹脂版に残存するようになること)に該当しない状態であることが要求される。すなわち、製版工程に支障が出るような状態でなければ、水溶液に水以外の成分が残存していてもよい。
一方、処理した廃液を下水に流す場合は、水溶液中に残存する成分の濃度とともに、COD(化学的酸素要求量)等も低減させることが要求される。
【0027】
さらに、廃液処理においては、処理時間(特に分離時間)を短縮できること、分離のための濾過部の濾過膜が目詰まりを起こしにくいこと、可能であれば、廃液処理のためのエネルギーコストを抑えられること、スペースを取らないこと等も要求される。
【0028】
(現像廃液の処理方法)
このように、感光性樹脂版の洗い出しに使用された現像廃液には、さまざまな種類・さまざまな分子量・さまざまな官能基を有する樹脂分(ポリマー)、未反応モノマー、重合開始剤、添加剤、さまざまな種類の界面活性剤、水等が含まれるため、また、基本的にこれらの成分は水に溶解又は分散しているため、単純に濾過のみを行ったところで水とその他成分を分離することは困難である。
そこで、本発明の現像廃液の処理方法は、少なくとも、現像廃液を加熱するステップ、現像廃液にUV照射するステップ、現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを含むことを特徴とする。
以下、符号を付して説明するが、この実施形態に限定されるものではない。
【0029】
(現像廃液を加熱するステップ)
現像廃液処理装置1には、必要に応じ、現像廃液7が導入される容器2(処理槽)、現像廃液7を撹拌する撹拌部3(撹拌モーター3a、撹拌シャフト3b、撹拌羽根3c)、現像廃液7を加熱する加熱部4、現像廃液7(あるいは、樹脂凝集部分)にUV照射するUV照射部5、樹脂凝集部分と水を分離するために濾過する濾過部6(濾過槽)、濾過された処理済み廃液8を受ける処理済み液槽9等が含まれる。
容器2(処理槽)に導入された現像廃液7は、加熱部4によって加熱される。加熱温度は現像廃液7に含まれる成分組成によるが、45℃以上70℃以下が好ましく、50℃以上65℃以下、50℃以上60℃以下、55℃以上60℃以下等が例示される。この加熱部4による加熱処理によって、溶解あるいは分散していた樹脂分等の成分の水和度が低下し、樹脂分等が白濁・析出・凝集することが考えられる。また、加熱処理により、成分同士の反応の一部が促進されることも考えられる。
そのため、加熱温度が45℃未満になると、樹脂分等の成分の水和度の低下が少なく、溶解あるいは分散したままの樹脂分が増え、最後に行われる濾過部6での濾過で目詰まりを起こしやすくなったり、濾過後の処理済み廃液8に樹脂分(さまざまな分子量のポリマー)が残存するため、処理済み廃液8を再加熱すると白濁したり、といった問題が生じやすくなる。
また、加熱温度が45℃以上であれば、濾過後の処理済み廃液8を再加熱しても明白な白濁が観察されないため、処理済み廃液8に樹脂分(さまざまな分子量のポリマー)の残存が抑制されていると考えられる。加熱温度をたとえば70℃を超えるように設定してもよいが、エネルギーコストが高くなってしまうといった問題が生じる。
【0030】
加熱部4による加熱処理時間は現像廃液7に含まれる成分組成によるが、10分~120分程度が好ましく、10分~90分、30分~90分、30分~60分等が例示される。他の処理ステップを含めて、濾過後の処理済み廃液8が、所定の指標以下となるように、加熱処理時間が調整されることが望ましい。
【0031】
(現像廃液にUV照射するステップ)
容器2(処理槽)に導入された現像廃液7は、UV照射部5によってUV照射される。UV照射は現像廃液7全体に照射してもよいし、樹脂凝集部分に対して照射してもよい。
UV照射処理の波長は、10nm~400nmの紫外線領域であればよく、特に200mn~380nmの近紫外線領域が好ましく、315nm~380nmのUVA領域がより好ましい。
【0032】
UV照射部5によるUV照射処理によって、現像廃液7に溶解あるいは分散している樹脂分(さまざまな分子量のポリマー、モノマー)のUV硬化反応等が進み、分子量が大きくなった樹脂分等が白濁・析出・凝集することが考えられる。
【0033】
(現像廃液に無機凝集剤を添加するステップ)
容器2(処理槽)に導入された現像廃液7には、無機凝集剤が添加される。
無機凝集剤は、主たる成分として無機物からなる凝集剤である。なかでも、主成分として金属酸化物からなる凝集剤であることが好ましい。金属酸化物としては、SiO2(二酸化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、Na2O(酸化ナトリウム)、K2O(酸化カリウム)、酸化鉄(Fe2O3)、CaO(酸化カルシウム)、MgO(酸化マグネシウム)等が例示される。無機凝集剤は、このような成分を含有する火山灰でもよい。
【0034】
無機凝集剤は水や有機溶媒に不溶であるため、粉末状にして撹拌しながら添加することが好ましい。
無機凝集剤の添加量は、現像廃液7に対し、0.1質量%~2.0質量%、好ましくは0.2質量%~1.5質量%、より好ましくは0.3質量%~1.0質量%である。
無機凝集剤の添加によって、現像廃液7に溶解あるいは分散している樹脂分や、水和度が低下して白濁・析出・凝集した樹脂分が、さらに凝集され、大きなフロックとなることが考えられる。
【0035】
(各処理ステップの順序について)
上述した、(a)現像廃液7を加熱するステップ、(b)現像廃液7にUV照射するステップ、(c)現像廃液7に無機凝集剤を添加するステップの各処理ステップの順序は、適宜設定される。
(a)現像廃液7を加熱部4により加熱するステップを実施し、加熱を継続しながら(b)現像廃液7にUV照射部5によりUV照射するステップを実施し、加熱及びUV照射を継続しながら(c)現像廃液7に無機凝集剤を添加するステップを実施してもよい(
図1参照)。
(c)現像廃液7に無機凝集剤を添加するステップのあとに、(a)現像廃液7を加熱部4により加熱するステップ、及び、(b)現像廃液7にUV照射部5によりUV照射するステップを実施してもよい(
図2参照)。
(c)現像廃液7に無機凝集剤を添加するステップのあとに、(a)現像廃液7を加熱部4により加熱するステップを実施し、そのあとに、(b)現像廃液7にUV照射部5によりUV照射するステップを実施し、そのあとさらに(a)現像廃液7を加熱部4により加熱するステップを実施してもよい。
また、(a)現像廃液7を加熱部4により加熱するステップ、(b)現像廃液7にUV照射部5によりUV照射するステップ、及び、(c)現像廃液7に無機凝集剤を添加するステップを同時に実施してもよい。
感光性樹脂版の種類や現像廃液7の組成によるが、現像廃液7に溶解あるいは分散している樹脂分の水和度を下げるために加熱するステップを実施し、ある程度濃縮・凝集した樹脂分等をUV硬化反応するために加熱しながらUV照射ステップを実施し、さらに樹脂分等の凝集を促進するために加熱及びUV照射を継続しながら無機凝集剤を添加するステップを実施することが好ましい場合がある。
また、無機凝集剤は現像廃液7中に分散しにくいことから、最初に無機凝集剤を添加して撹拌してから、加熱とUV照射を実施することが好ましい場合もある。
【0036】
(その他のステップ)
上述した各処理ステップを効果的に実施し、また、処理中の現像廃液7を均一にするため、撹拌部3により現像廃液7を撹拌することが望ましい。
また、各処理ステップ実施後に、現像廃液7を濾過部6により濾過し処理済み廃液8を得ることができる。
【0037】
さらに、各処理ステップは、制御部(図示せず)により容器2の入口及び出口のバルブの開閉の制御、撹拌部3の制御、加熱部4の加熱温度及び加熱時間の制御、UV照射部5のUV照射強度及びUV照射時間の制御を行ってもよい。
【0038】
上述した各処理ステップ実施後に、処理済み廃液8に対してさらに膜処理等の二次処理を行ってもよい。
【0039】
(感光性樹脂版の現像廃液処理装置)
本発明の感光性樹脂版の現像廃液処理装置1は、容器2と、撹拌部3と、加熱部4と、UV照射部5と、濾過部6を備える(
図3参照)。感光性樹脂版の現像廃液7は、容器2に導入され、撹拌部3は容器2に導入された現像廃液7を攪拌可能であり、加熱部4は容器2に導入された現像廃液7を加熱可能であり、UV照射部5は容器2に導入された現像廃液7に対してUV照射可能であり、濾過部6は現像廃液7を濾過するように構成される。
【0040】
濾過部6は、不織布、濾布、濾紙、各種フィルター等をセットすることにより、水とその他成分を分離するように構成される。また、濾過部6により濾過された処理済み廃液8を受ける処理済み液槽9を備えてもよい。
図3に感光性樹脂版の現像廃液処理装置1の一例を示す。サイズは一例であり、現像廃液処理装置1のサイズは、これに限定されない。
【0041】
さらに、制御部(図示せず)を備えることが好ましい。制御部は容器2の入口及び出口のバルブの開閉の制御、撹拌部3の制御、加熱部4の加熱温度及び加熱時間の制御、UV照射部5のUV照射強度及びUV照射時間の制御等、処理に適した条件で制御することが可能である。
【実施例0042】
(評価試験1)
感光性樹脂版(富士フイルム グローバル グラフィック システムズ社製、富士トレリーフWタイプ)を洗い出した現像廃液を処理して、所定の処理条件による処理済み廃液のCODMn(水質汚濁防止法に準拠した化学的酸素要求量)を測定した。洗い出し液には水を使用した。
【0043】
試料1は、現像廃液の原液(廃液A)であり、CODMnは25,900mg/Lであった。
試料2は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Aに対し0.33質量%添加し、45℃で加熱し、15分撹拌し、UV照射せずに濾過した処理済み廃液である。
試料3は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Aに対し0.33質量%添加し、塩析剤(硫酸ナトリウム)を廃液Aに対し0.33質量%添加し、45℃で加熱し、15分撹拌し、UV照射せずに濾過した処理済み廃液である。
試料4は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Aに対し0.33質量%添加し、45℃で加熱し、15分撹拌し、60分UV照射し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。なお、UV照射時は、一定温度に保てないため、液温は45℃から38℃となった。
評価試験1の結果を、表1に示す。
【0044】
【0045】
表1より、UV照射をした試料4は、UV照射をしなかった試料2、3に比べ、CODMnの値が0.5~0.6程度に下がることが分かった。
なお、塩析剤を添加した試料3においては、濾過においていわゆる「水切れ」が悪く、約1日という長い濾過時間を要し、濾過効率が悪いことが分かった。塩析剤を添加しない本発明の実施形態においては、濾過時間は数秒~10分程度である。
塩析剤は、アニオン系界面活性剤による樹脂分の水中分散を抑制する効果が知られているが、金属酸化物に代表される無機凝集剤と組み合わせると、無機凝集剤の凝集効果も抑制してしまう可能性があり、かつ、濾過性を低下させる可能性があることが分かった。
【0046】
(評価試験2)
感光性樹脂版(富士フイルム グローバル グラフィック システムズ社製、富士トレリーフWタイプ)を洗い出した現像廃液を処理して、所定の処理条件による処理済み廃液の固形分残渣(TDS)、固形分残渣の対原液残存率、CODMn(水質汚濁防止法に準拠した化学的酸素要求量)を測定した。洗い出し液には水を使用した。
【0047】
試料5は、現像廃液の原液(廃液B)であり、固形分残渣は3.05質量%、CODMnは25,900mg/Lであった。
試料6は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Bに対し0.33質量%添加し、55℃で加熱し、10分撹拌し、60分UV照射し、55℃で再度加熱し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。なお、UV照射時は、一定温度に保てないため、液温は55℃から37℃となった。
評価試験2の結果を、表2に示す。
【0048】
【0049】
表2より、処理済み廃液の試料6は、現像廃液(原液)の試料5に対し、固形分残渣の対原液残存率が24.5%と下がり、また、CODMnの値が約1/4程度に下がることが分かった。
【0050】
(評価試験3)
感光性樹脂版(富士フイルム グローバル グラフィック システムズ社製、富士トレリーフWタイプ)を洗い出した現像廃液を処理して、所定の処理条件による処理済み廃液の固形分残渣(TDS)、固形分残渣の対原液残存率、CODMn(水質汚濁防止法に準拠した化学的酸素要求量)を測定した。洗い出し液には水を使用した。
【0051】
試料7は、現像廃液の原液(廃液C)であり、固形分残渣は7.55質量%、CODMnは85,200mg/Lであった。
試料8は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Cに対し0.33質量%添加し、55℃で加熱し、10分撹拌し、60分UV照射し、55℃で再度加熱し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。なお、UV照射時は、一定温度に保てないため、液温は55℃から37℃となった。
試料9は、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Cに対し0.83質量%添加し、55℃で加熱し、10分撹拌し、60分UV照射し、55℃で再度加熱し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。なお、UV照射時は、一定温度に保てないため、液温は55℃から37℃となった。
評価試験3の結果を、表3に示す。
【0052】
【0053】
表3より、試料8に比べ、試料9は無機凝集剤の添加率を増やした条件で処理したものであるが、試料8と試料9の固形分残渣の対原液残存率はどちらも約23%、CODMnの値はどちらも約12,000と変わらないことが分かった。
【0054】
(評価試験4)
感光性樹脂版(富士フイルム グローバル グラフィック システムズ社製、富士トレリーフWタイプ)を洗い出した現像廃液を処理して、所定の処理条件による処理済み廃液の固形分残渣(TDS)、固形分残渣の対原液残存率を測定した。洗い出し液には水を使用した。
【0055】
試料10は、現像廃液の原液(廃液D)であり、固形分残渣は1.21質量%であった。
試料11は、55℃で加熱し、40分UV照射し、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Dに対し0.3質量%添加し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。
評価試験4の結果を、表4に示す。
【0056】
【0057】
表4より、処理済み廃液の試料11は、廃液(原液)の試料10に対し、固形分残渣の対原液残存率が24.0%と下がり、また、透明度が高くなることが分かった。
【0058】
(評価試験5)
感光性樹脂版(富士フイルム グローバル グラフィック システムズ社製、富士トレリーフWタイプ)を洗い出した現像廃液を処理して、所定の処理条件による処理済み廃液の固形分残渣(TDS)、固形分残渣の対原液残存率を測定した。洗い出し液には水を使用した。
【0059】
試料12は、現像廃液の原液(廃液E)であり、固形分残渣は1.02質量%であった。
試料13は、55℃で加熱し、40分UV照射し、無機凝集剤を添加せず、濾過しないで処理した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。
試料14は、55℃で加熱し、40分UV照射し、無機凝集剤(火山灰「きよまる君」(登録商標)、HALVO技術研究所製)を廃液Dに対し0.33質量%添加し、濾過した処理済み廃液である。UVの波長は365nmであった。
評価試験5の結果を、表5に示す。
【0060】
【0061】
表5より、無機凝集剤を添加した試料14は、無機凝集剤を添加しなかった試料13に比べ、固形分残渣の対原液残存率が36%から29%へと下がることが分かった。また、試料13は白濁していたのに対し、試料14は透明度が高いことが分かった。
【0062】
本発明は以下に示した項目の構成を有し得る。
[項1]
感光性樹脂版の現像廃液の処理方法であって、
(a)前記現像廃液を加熱するステップと、
(b)前記現像廃液にUV照射するステップと、
(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップと、
を含む、感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項2]
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、加熱を継続しながら前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、加熱及びUV照射を継続しながら前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを実施する、上記項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項3]
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、及び、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施する、上記項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項4]
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップのあとに、前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施し、そのあとに、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップを実施し、そのあとさらに前記(a)前記現像廃液を加熱するステップを実施する、上記項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項5]
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップを同時に実施する、上記項1に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項6]
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップ、前記(b)前記現像廃液にUV照射するステップ、及び、前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップの実施後に、(d)前記現像廃液を濾過するステップをさらに含む、上記項1~5いずれか一項に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項7]
前記(a)前記現像廃液を加熱するステップにおいて、加熱温度は50℃~65℃である、上記項1~6のいずれか一項に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項8]
前記(c)前記現像廃液に無機凝集剤を添加するステップにおいて、前記無機凝集剤は金属酸化物を主成分として含む、上記項1~7のいずれか一項に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法。
[項9]
上記項6に記載の感光性樹脂版の現像廃液の処理方法に用いられる、感光性樹脂版の現像廃液処理装置であって、
容器と、撹拌部と、加熱部と、UV照射部と、濾過部を備え、
前記感光性樹脂版の現像廃液は、前記容器に導入され、
前記撹拌部は前記容器に導入された前記現像廃液を攪拌可能であり、前記加熱部は前記容器に導入された前記現像廃液を加熱可能であり、前記UV照射部は前記容器に導入された前記現像廃液に対してUV照射可能であり、
前記濾過部は、前記現像廃液を濾過するように構成された、感光性樹脂版の現像廃液処理装置。
[項10]
制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記容器の入口及び出口のバルブの開閉の制御、前記撹拌部の制御、前記加熱部の加熱温度及び加熱時間の制御、前記UV照射部のUV照射強度及びUV照射時間の制御を行うように構成される、上記項9に記載の感光性樹脂版の現像廃液処理装置。