(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073960
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】電解装置及び電解方法
(51)【国際特許分類】
C25B 1/23 20210101AFI20240523BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240523BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240523BHJP
C25B 9/19 20210101ALI20240523BHJP
C25B 15/08 20060101ALI20240523BHJP
C25B 11/046 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/089 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240523BHJP
【FI】
C25B1/23
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/19
C25B15/08
C25B11/046
C25B11/052
C25B11/089
C25B11/081
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184966
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 友作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千和
(72)【発明者】
【氏名】坂本 淑幸
(72)【発明者】
【氏名】水野 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】植西 徹
(72)【発明者】
【氏名】岡村 和政
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA10
4K011AA31
4K011AA68
4K011AA69
4K011BA07
4K011DA01
4K021AA01
4K021AB25
4K021BA02
4K021BB03
4K021CA06
4K021CA10
4K021CA11
4K021DB18
4K021DB31
4K021DB43
4K021DB53
(57)【要約】
【課題】CO
2、H
2、二酸化炭素還元生成物の生成に必要な両電極間の電位差を低減することが可能な電解装置を提供する。
【解決手段】電解装置1は、第1電極22及び第2電極24を有する電気化学セル10を備え、第1電極22と第2電極24との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極及び第2電極を有する電気化学セルを備え、
前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする電解装置。
【請求項2】
前記電気化学セルは、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられる隔膜を有することを特徴とする請求項1に記載の電解装置。
【請求項3】
前記電気化学セルに、前記電解液を供給する電解液供給装置を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置。
【請求項4】
前記電気化学セルから排出された前記生成物を含む前記電解液を気液分離する気液分離装置を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置。
【請求項5】
前記気液分離装置により気液分離された電解液を前記電気化学セルに循環させる循環装置を備えることを特徴とする請求項4に記載の電解装置。
【請求項6】
前記循環装置により循環される前記電解液に二酸化炭素を含む気体を接触させる気液接触装置を備えることを特徴とする請求項5に記載の電解装置。
【請求項7】
前記第1電極及び前記第2電極は、Au、Pd、Pt、Ag、Cuのうちの少なくともいずれか1つを含む金属又は合金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置。
【請求項8】
前記電解液は、アルカリ金属イオンを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電解装置。
【請求項9】
前記電圧を印加した際の前記第1電極と前記第2電極との間の電位差Eは0.4V以上である、請求項1又は2に記載の電解装置。
【請求項10】
第1電極と第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする電解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解装置及び電解方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1~3、非特許文献1~3には、カソード電極とアノード電極との間を電気的に接続して、電圧を印加することで、炭酸イオン(CO3
2-)や炭酸水素イオン(HCO3
-)を含む電解液を電解し、CO2、H2、二酸化炭素還元生成物(CO等)を生成する電解装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2019/204938号
【特許文献2】国際公開第2021/207857号
【特許文献3】国際公開第2020/223804号
【特許文献4】特許第5750220号公報
【特許文献5】特開2008-100211号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】David A. Vermaas and Wilson A. Smith, “Synergistic Electrochemical CO2 Reduction and Water Oxidation with a Bipolar Membrane”, ACS Energy Lett., 1, 1143-1148(2016)
【非特許文献2】Tengfei Li, Eric W. Lees, Maxwell Goldman, Danielle A. Salvatore, David M. Weekes, and Curtis P. Berlinguette, “Electrolytic Conversion of Bicarbonate into CO in a Flow Cell”, Joule, 3, 1487-1497(2019)
【非特許文献3】Yuguang C. Li, Geonhui Lee, Tiange Yuan, Ying Wang, Dae-Hyun Nam, Ziyun Wang, F. Pelayo Garcia de Arquer, Yanwei Lum, Cao-Thang Dinh, Oleksandr Voanyy, and Edward H. Sargent, “CO2 Electroreduction from Carbonate Electrolyte”, ACS Energy Lett., 4, 1427-1431(2019)
【非特許文献4】Matthew D. Eisaman, Luis Alvarado, Daniel Larner, Peng Wang, Bhaskar Garg, and Karl A. Littau (Palo Alto Research Center), “CO2 separation using polar membrane electrodialysis”, Energy Environ. Sci., 4, 1319-1328 (2011).
【非特許文献5】Alexander P. Muroyama, Alexandra Patru, and Lorenz Gubler, “Review-CO2 Separation and Transport via Electrochemical Methods”, J. Electrochem. Soc., 167, 133504 (2020).
【非特許文献6】R. Sharifian, R. M. Wagterveld, I. A. Digdaya, C. Xiang, and D. A. Vermaas, “Electrochemical carbon dioxide capture to close the carbon cycle”, Energy Environ. Sci., 14, 781-814 (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の電解装置では、カソード電極とアノード電極との間に一定の電圧を印加して電解液を電解する定電圧電解を採用しているが、この場合、CO2、H2、二酸化炭素還元生成物の生成には、両電極間の電位差(すなわち、両電極間に印加する電圧)を大きくしなければならないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、CO2、H2、二酸化炭素還元生成物の生成に必要な両電極間の電位差を低減することが可能な電解装置及び電解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る電解装置は、第1電極及び第2電極を有する電気化学セルを備え、前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする。
【0008】
また、前記電解装置において、前記電気化学セルは、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられる隔膜を有することが好ましい。
【0009】
また、前記電解装置において、前記電気化学セルに、前記電解液を供給する電解液供給装置を有することが好ましい。
【0010】
また、前記電解装置において、前記電気化学セルから排出された前記生成物を含む前記電解液を気液分離する気液分離装置を有することが好ましい。
【0011】
また、前記電解装置において、前記気液分離装置により気液分離された電解液を前記電気化学セルに循環させる循環装置を備えることが好ましい。
【0012】
また、前記電解装置において、前記循環装置により循環される前記電解液に二酸化炭素を含む気体を接触させる気液接触装置を備えることが好ましい。
【0013】
また、前記電解装置において、前記第1電極及び前記第2電極は、Au、Pd、Pt、Ag、Cuのうちの少なくともいずれか1つを含む金属又は合金であることが好ましい。
【0014】
また、前記電解装置において、前記電解液は、アルカリ金属イオンを含むことが好ましい。
【0015】
また、前記電解装置において、前記電圧を印加した際の前記第1電極と前記第2電極との間の電位差Eは0.4V以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の電解方法は、第1電極と第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、CO2、H2、二酸化炭素還元生成物の生成に必要な両電極間の電位差を低減することが可能な電解装置及び電解方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る電解装置の一例を示す概略構成図である。
【
図2】実施例で使用した電解装置を示す概略構成図である。
【
図3】実施例1及び比較例1の電解処理の際の電流密度の経時変化を示す図である。
【
図4】実施例1及び比較例1の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
【
図5】実施例1及び比較例1の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムである。
【
図6】実施例2及び比較例2の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
【
図7】実施例3の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
【
図8】実施例で使用した電解装置を示す概略構成図である。
【
図9】実施例4及び5の電解処理の際の電流密度の経時変化を示す図である。
【
図10】実施例4及び5の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
【
図11】実施例4及び5の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムである。
【
図12】比較例3の電解処理の際の電流密度の経時変化を示す図である。
【
図13】比較例3の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
【
図14】比較例3の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムである。
【
図15】(A)は、極性切替直後(電解初期)のカソード、アノード近傍における反応物濃度分布を示す図であり、(B)は、極性切替直後(電解初期)のカソード、アノード近傍における各反応物の平衡電位を示す図である。
【
図16】(A)は、極性切替直前(電解後期)のカソード、アノード近傍における反応物濃度分布を示す図であり、(B)は、極性切替直前(電解後期)のカソード、アノード近傍における各反応物の平衡電位を示す図である。
【
図17】水溶液中の二酸化炭素CO
2、炭酸水素イオンHCO
3
-、炭酸イオンCO
3
2-の存在比率とそのpH依存性の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る電解装置の一例を示す概略構成図である。本実施形態の電解装置1は、電気化学セル10を含んで構成される。また、本実施形態の電解装置1は、
図1に示すように、供給装置12、気液分離装置14、気液接触装置16、循環装置18を備えることが好ましい。
【0021】
本実施形態の電気化学セル10は、第1電極22と第2電極24とを有する。また、本実施形態の電気化学セル10は、
図1に示すように、第1電極22と第2電極24との間に設けられる隔膜30を有していてもよい。また、
図1に示すように、第1電極22と隔膜30との間及び第2電極24と隔膜30との間には、電解液が流れる流路(32a,32b)が設けられることが望ましい。なお、
図1に示す電気化学セル10では、第1電極22及び第2電極24が枠材36により構造的に支持されている。
【0022】
電解装置1は、例えば、電気化学セル10に電解液を安定的に供給することができる点で、電気化学セル10に電解液を供給する供給装置12を備えることが望ましい。供給装置12は、電解液収容タンク38と、電解液供給ポンプ40と、電解液供給ライン42とを備えている。電解液供給ポンプ40は電解液供給ライン42に設置されている。電解液供給ライン42の一端は、電解液収容タンク38に接続され、他端は、流路(32a,32b)に接続されている。
【0023】
電解装置1は、例えば、電解液の電解により生成する生成物(二酸化炭素(気体)、水素(気体)二酸化炭素還元生成物等)を効率的に回収できる点で、電気化学セル10から排出された生成物を含む電解液を気液分離する気液分離装置14を備えることが望ましい。気液分離装置14は、例えば、気液分離器50と、電解液排出ライン52とを備えている。電解液排出ライン52の一端は、流路(32a,32b)に接続され、他端は、気液分離器50に接続される。気液分離器50は、例えば、気体と液体とを分離できる従来公知の装置が適用される。
【0024】
電解装置1は、例えば、電解液を再利用して、電解処理コストの低下を図ることができる点で、気液分離装置14により気液分離された電解液を電気化学セル10に循環させる循環装置18を備えることが好ましい。循環装置18は、例えば、循環ライン54と、循環ポンプ56とを備えている。循環ポンプ56は循環ライン54に設置されている。循環ライン54の一端は気液分離器50に接続され、他端は電解液供給ポンプ40に接続されている。
【0025】
電解装置1は、例えば、循環する電解液中の炭酸イオンや炭酸水素イオンの量を増加させることができる点で、気液接触装置16を備えることが好ましい。気液接触装置16は、例えば、二酸化炭素供給ライン58、気液接触用タンク60、排出ライン62を備える。二酸化炭素供給ライン58は、気液接触用タンク60に接続されている。排出ライン62の一端は、気液接触用タンク60に接続され、他端は、循環ライン54に接続されている。
【0026】
図1に示す符号70は、第1電極22と第2電極24との間に周期的に極性反転する電圧を印加する電源装置である。周期的に極性反転する電圧を印加するとは、第2電極24に対する第1電極22の電位をEとすると、+E→-E→+E→-E・・・のように周期的に印加電圧を切り替えること(絶対値が同じ(|E|)で極性(±)が異なる電圧を周期的に印加すること)を意味する。なお、印加電圧を切り替えるタイミングは適宜設定されればよく、例えば、5秒~60秒の間で設定される。電位+Eおよび-Eに保持する時間は異なっていて良い。極性反転電位の絶対値|+E1|、|-E2|についても異なっていて良い(すなわちE1≠E2でも良い)。
【0027】
次に、
図1に示す電解装置1の動作例について説明する。
【0028】
電解液供給ポンプ40が稼働されると、電解液収容タンク38内に収容された炭酸イオン及び/又は炭酸水素イオンを含む電解液が、電解液供給ライン42を通して、第1電極22側の流路32a及び第2電極24側の流路32bに供給される。
【0029】
電源装置70により、第1電極22と第2電極24との間に周期的に極性反転する電圧が印加されることにより、電解液が電解される。周期的に極性反転する電圧印加により、第1電極22及び第2電極24は周期的にカソードとアノードに切り替えられるが、第1電極22又は第2電極24がアノードになると、水素イオンの作用によりpHが低下して、電解液中の炭酸イオンや炭酸水素イオンが二酸化炭素(気体)に変換される。そして、第1電極22又は第2電極24がカソードになると、生成した二酸化炭素と水の還元により、二酸化炭素還元生成物及び水素(気体)が生成される。二酸化炭素還元生成物は、例えば、一酸化炭素(CO)、蟻酸(HCOOH)、メタン(CH4)、メタノール(CH3OH)、エタン(C2H6)、エチレン(C2H4)、エタノール(C2H5OH)、プロパノール(C3H7OH)等である。このようにして第1電極22及び第2電極24の両電極から、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物が生成される。なお、第1電極22及び第2電極24での電解反応の詳細については後述する。
【0030】
第1電極22及び第2電極24の両電極で生成された生成物は、電解液と共に、電解液排出ライン52から排出され、気液分離器50に導入される。気液分離器50では、例えば、生成物を含む気体と、気体の生成物が除かれた液体(例えば電解液)とに気液分離され、生成物を含む気体が回収される。循環ポンプ56が稼働されると、気液分離された電解液が、循環ライン54から電気化学セル10に供給(循環)される。また、気液分離された電解液の一部は、気液接触用タンク60に移送されてもよい。そして、二酸化炭素供給ライン58から気液接触用タンク60内に二酸化炭素を含む気体を供給し、電解液と二酸化炭素を含む気体を接触させることで、電解液中の炭酸イオンや炭酸水素イオンの含有量を増やすことができる。気液接触後の電解液は、例えば、排出ライン62、循環ライン54を通って、電気化学セル10に供給される。
【0031】
以下に、極性反転する電圧を印加した際の両電極における電解反応の一例について説明する。以下の電解反応は一例であってこれに限定されない。
【0032】
図15(A)は、極性切替直後(電解初期)のカソード、アノード近傍における反応物濃度分布を示す図であり、
図15(B)は、極性切替直後(電解初期)のカソード、アノード近傍における各反応物の平衡電位を示す図である。また、
図16(A)は、極性切替直前(電解後期)のカソード、アノード近傍における反応物濃度分布を示す図でり、
図16(B)は、極性切替直前(電解後期)のカソード、アノード近傍における各反応物の平衡電位を示す図である。
図15(B)及び
図16(B)の平衡電位図においては、(1)酸化還元対を「酸化体/還元体」と表記し、(2)反応物として電極近傍に高濃度で存在しているものを太字で示し、(3)反応物濃度及び過電圧(電極電位と平衡電位との差)に基づき、反応速度の大小を矢印の太さ(反応速度が大きいほど太い矢印)で表している。なお、平衡電位については、局所pHは考慮しているが、反応物濃度は考慮していない。
図17は、水溶液中の二酸化炭素CO
2、炭酸水素イオンHCO
3
-、炭酸イオンCO
3
2-の存在比率とそのpH依存性の関係を示す図である(
図17は、参考文献:R. Sharifian et al., Energy Environ. Sci., 14, 781 (2021).から抜粋した)。
【0033】
電圧を印加してから所定時間後において、極性反転する電圧を印加する直前(以下、極性切替直前)のアノード近傍(第1電極又は第2電極)では、H
+を伴うO
2生成(2H
2O→O
2+4H
++e
-)が進行する。さらに高濃度H
+によってHCO
3
-→CO
2変換(H
++HCO
3
-→CO
2+H
2O)が進行する(
図12参照)。したがって、極性反転する電圧を印加した直後(以下、極性切替直後)のカソード近傍(第1電極又は第2電極)では、溶媒であるH
2Oの他、反応物であるO
2、H
+、CO
2が高濃度で存在することになる。一方、極性切替直前のカソード近傍では、OH
-を伴うH
2生成(2H
2O+2e
-→H
2+2OH
-)のみが進行し、CO
2還元によるCO生成は進行しない。よって、極性切替直後のアノード近傍には、溶媒であるH
2Oの他、反応物であるH
2、OH
-が高濃度で存在する。
【0034】
ここで、印加電圧が2.0Vのとき、極性切替直後のカソードはおおよそ-0.5V vs.SHE(標準水素電極基準)に、アノードはおおよそ+1.5V vs.SHEになり、極性切替直後のカソード近傍のpHは約1(酸性)、アノード近傍のpHは13(アルカリ性)になると考えられる。このとき、カソードで還元反応を受ける反応物及び還元生成物の酸化還元対に対する平衡電位は、+1.17V vs.SHE(O2/H2O)、-0.06V vs.SHE(H+/H2)、-0.16V vs.SHE(CO2/CO)であり、過電圧はそれぞれ1.67V、0.44V、0.34Vであるから、極性切替直後のカソードではO2還元が優先的に進行すると考えられる。一方、アノードで酸化反応を受ける反応物および酸化生成物の酸化還元対に対する平衡電位は、-0.87V vs.SHE(CO2/CO)、-0.77V vs.SHE(H2O/H2)、+0.46V vs.SHE(O2/OH-)であり、過電圧はそれぞれ2.37V、2.27V、1.04Vであるから、反応物濃度を勘案すると、極性切替直後のアノードではH2酸化が優先的に進行すると考えられる(極性切替直前のカソードでは、CO2還元によるCO生成は進行しないため、極性切替直後のアノード近傍にはCOは存在せず、CO酸化反応は進行しないと考えられる)。
【0035】
電解反応が進行することで、カソードではpHが上がり、アノードではpHが下がるため、各反応物の平衡電位が変化し、また、溶媒であるH
2O以外の反応物は電極近傍での濃度が減少するため、カソード及びアノードの電極電位も変化する。その結果、極性切替直前のカソード近傍のpHは約13、カソードの電位はおおよそ-0.80V vs.SHEとなり、極性切替直前のアノード近傍のpHは約1、アノードの電位はおおよそ+1.20V vs.SHEになるものと考えられる。そして、両極での電解反応に寄与しうる反応物において、カソード近傍及びアノード近傍に高濃度で存在する反応物は溶媒であるH
2Oのみであるため、カソードではH
2O還元によるH
2生成(2H
2O+2e
-→H
2+2OH
-、0.77V vs.SHE、過電圧0.03V)が進行し、アノードではH
2O酸化によるO
2生成(2H
2O→O
2+4H
++4e
-、+1.17V vs.SHE、過電圧0.03V)が進行するものと考えられる。また、既述の通り、アノードではO
2生成と共にH
+生成が進行し、このH
+が炭酸イオン種のCO
2への変換を促進する(
図12参照)。
【0036】
通常の定電圧印加による電解方法では、上記の極性切替直前(電解後期)の状況が続くため、過電圧がごく小さくなり、電流が流れなくなる。しかし、周期的極性反転する電圧を印加する本実施形態の電解方法では、極性を切り替えて水電解生成物O2、H2を電解反応物として可逆的に利用するので、両電極間の電位差を低減でき、電解電流を流し続けられる。また、極性切替直前のアノードで生成したCO2を極性切替後のカソードで還元することでCOを生成することができるが、この生成したCOは、可逆的に酸化・還元されるO2、H2とは異なり、電極近傍の濃度分布及び平衡電位からCO2に再酸化され難くいため、高効率で回収できる。このように、周期的極性反転する電圧を印加する本実施形態では、定電圧印加による電解方法に比べて、CO2(気体)、H2(気体)、CO等の二酸化炭素還元生成物の生成に必要な両電極間の電位差を低減でき、電解電流及び処理速度の向上を図ることが可能となる。そして、周期的極性反転する電圧を印加する本実施形態では、両電極においてCO2(気体)、H2(気体)、CO等の二酸化炭素還元生成物を生成できる。
【0037】
<本実施形態において、カソードで進行しうる反応例>
カソードでの反応はいずれも、OH-が生成されたりH+が消費されたりするので、pHが上昇する反応となる。
(1)H2O(H+)還元によるH2生成
2H2O+2e-→H2+2OH-
2H++2e-→H2
(2)CO2、H2O(H+)還元によるCO生成(CO生成は一例であり、CO以外の二酸化炭素還元生成物が生成される場合もある)
CO2+H2O+2e-→CO+2OH-
CO2+2H++2e-→CO+H2O
(3)O2、H2O(H+)還元によるH2O(OH-)生成
O2+2H2O+4e-→4OH-
O2+4H++4e-→2H2O
【0038】
<本実施形態において、アノードで進行しうる反応例>
アノードでの反応はいずれも、OH-が消費されたりH+が生成されたりするので、pHが低下する反応となる。
(1)H2酸化によるH2O(H+)生成
H2+2OH-→2H2O+2e-
H2→2H++2e-
(2)CO酸化によるCO2、H2O(H+)生成
CO+2OH-→CO2+H2O+2e-
CO+H2O→CO2+2H++2e-
(3)H2O(OH-)酸化によるO2、H2O(H+)生成
4OH-→O2+2H2O+4e-
2H2O→O2+4H++4e-
【0039】
以下、第1電極22及び第2電極24、隔膜30、電解液について詳述する。
【0040】
第1電極22及び第2電極24の材料は、例えば、金属又は合金等の金属材料、炭素材料、導電性金属酸化物、金属錯体等が挙げられるが、例えば、電解反応時の高酸化条件に対して高い耐性を有する導電性材料であることが好ましく、具体的には、Au、Pd、Pt、Ag、Cuのうちの少なくともいずれか1つを含む金属又は合金であることが好ましい。第1電極22と第2電極24の材質は異なっていても良い。また、第1電極22及び第2電極24の構造は、例えば、液体流動性の点で、多孔質体やメッシュであることが好ましい。
【0041】
電気化学セル10において隔膜30は必須の構成ではない。第1電極22及び第2電極24は周期的にアノード、カソードに切り替えられるため、隔膜30を設置しなくても、電極近傍に水素イオンを供給でき、二酸化炭素分子や二酸化炭素還元生成物を生成できる。したがって、隔膜30を設置しない電気化学セルの方が、隔膜30を設置した電気化学セルより、イオン伝導抵抗による電位差を低減できるため、CO2、H2、二酸化炭素還元生成物の生成に必要な両電極間の電位差をより低減できる場合がある。しかし、電気化学セルを小型化・薄型化するために、第1電極22と第2電極24との距離を出来るだけ近づけたい場合には、両電極の短絡を防ぐためにも、両電極間に隔膜30を設置することが好ましい。隔膜30は、電気化学セルの両電極間に配置される公知の膜が適用でき、例えば、カチオン交換膜、アニオン交換膜、バイポーラ―膜、半透膜、絶縁性多孔質膜等が挙げられる。
【0042】
本実施形態で使用する電解液において、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存していれば、対となる陽イオンは特に限定されない。陽イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン等が挙げられるが、これらの中では、例えば、炭酸イオンや炭酸水素イオンの電離を促して、溶存状態を安定化させる等の点で、電解液中にアルカリ金属イオンを含むことが好ましい。このような電解液としては、例えば、炭酸水素リチウム(LiHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸水素セシウム(CsHCO3)のようなアルカリ金属炭酸水素塩やアルカリ金属炭酸塩を含む水溶液が挙げられる。電解液中のアルカリ金属イオン濃度は、電解処理速度を向上させる点、電解処理を長時間継続的に行うことが可能となる点で、例えば、0.1M~3Mの範囲であることが好ましい。
【0043】
また、電解液は、メタノール、エタノール、アセトン等のアルコール類を含んでいてもよい。また、電解液は、例えば、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF4
-やPF6
-等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を含んでいてもよい。
【0044】
周期的に極性反転する電圧を印加した際の第1電極22と第2電極24との間の電位差Eは、例えば、電解液の電解を安定して進行させる点で、一方の電極におけるpH0でのH2生成の平衡電位(0V vs.SHE)と他方の電極におけるpH14でのO2生成の平衡電位(0.4V vs.SHE)との差以上であること、すなわち、0.4V以上であることが好ましい。なお、両電極に極性反転しない一定の電圧を印加する場合、アノード電極におけるpH0でのO2生成の平衡電位(1.23V vs.SHE)とカソード電極におけるpH14でのH2生成の平衡電位(-0.83V vs.SHE)との差以上、すなわち、2.06V以上の電圧を両電極に印加する必要がある。
【0045】
また、周期的に極性反転する電圧を印加した際の第1電極22と第2電極24との間の電位差Eは、電解処理速度を向上させる点で、1.0V以上3.0V以下の範囲であることがより好ましく、さらにO2ガスの放出を抑制する点で、1.0V以上2.0V以下の範囲であることがより好ましい。
【0046】
電気化学セル10で生成した二酸化炭素(気体)が電解液中に再溶解して、二酸化炭素(気体)の回収量の低下を抑制する点で、電気化学セル10から気液分離器50までの電解液の送液時間を短くすることが好ましく、例えば、10秒以内とすることが好ましい。
【0047】
「本願発明の構成」
構成1:
第1電極及び第2電極を有する電気化学セルを備え、
前記第1電極と前記第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする電解装置。
構成2:
前記電気化学セルは、前記第1電極と前記第2電極との間に設けられる隔膜を有することを特徴とする上記構成1に記載の電解装置。
構成3:
前記電気化学セルに、前記電解液を供給する電解液供給装置を有することを特徴とする上記構成1又は2に記載の電解装置。
構成4:
前記電気化学セルから排出された前記生成物を含む前記電解液を気液分離する気液分離装置を有することを特徴とする上記構成1~3のいずれか1つに記載の電解装置。
構成5:
前記気液分離装置により気液分離された電解液を前記電気化学セルに循環させる循環装置を備えることを特徴とする上記構成4に記載の電解装置。
構成6:
前記循環装置により循環される前記電解液に二酸化炭素を含む気体を接触させる気液接触装置を備えることを特徴とする上記構成5に記載の電解装置。
構成7:
前記第1電極及び前記第2電極は、Au、Pd、Pt、Ag、Cuのうちの少なくともいずれか1つを含む金属又は合金であることを特徴とする上記構成1~6のいずれか1つに記載の電解装置。
構成8:
前記電解液は、アルカリ金属イオンを含むことを特徴とする上記構成1~7のいずれか1つに記載の電解装置。
構成9:
前記電圧を印加した際の前記第1電極と前記第2電極との間の電位差Eは0.4V以上である、上記構成1~8のいずれか1つに記載の電解装置。
構成10:
第1電極と第2電極との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、炭酸イオン及び炭酸水素イオンのうちの少なくともいずれか一方が溶存する電解液を電解し、二酸化炭素(気体)、水素(気体)、及び二酸化炭素還元生成物のうちの少なくともいずれか1つを含む生成物を生成することを特徴とする電解方法。
【実施例0048】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
図2に示す電解装置2を使用して、電解処理を行った。
図2に示す電解装置2は、電気化学セル10、電解液収容タンク(38a、38b)、電解液供給ポンプ(40a,40b)、電解液供給ライン(42a,42b)、電解液排出ライン(52a,52b)を備えている。電気化学セル10を構成する第1電極22及び第2電極24は金メッシュを使用し、隔膜30はアニオン交換膜(AGCエンジニアリング社製、セレミオンAMVN)を使用した。電解液収容タンク(38a、38b)に溜められた電解液(1MのKHCO
3水溶液)を、電解液供給ポンプ(40a,40b)により、送液速度10mL/minで、電解液供給ライン(42a,42b)から電気化学セル10内の流路(32a,32b)に供給し、流路(32a,32b)から排出された電解液を電解液排出ライン(52a,52b)から電解液収容タンク(38a、38b)に返送した。このように、電気化学セル10内の流路(32a,32b)に電解液を満たした後、電解液収容タンク(38a、38b)内の気相部分に100%Heガスを30mL/minで5分間供給した。その後、電気化学セル10への電解液の供給を維持したまま、電源装置70により、第1電極22と第2電極24との間に周期的に極性反転する電圧を印加して、電解液の電解処理を行った。電解処理条件としては、電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を2.0Vにして、極性反転を10秒毎に行い、電解処理を60分行った。電解処理終了後、直ちに開回路にした。但し、電解終了後5分間は、電気化学セル10への電解液の供給を継続した。電解液の供給を停止した後、電解液収容タンク38aの気相部分に溜まった気体生成物を採取し、ガスクロマトグラフィを用いて気体生成物の同定を行った。
【0050】
<比較例1>
第1電極22と第2電極24との間に定電圧を印加(第1電極22と第2電極24との間の電位差が2.0V)したこと以外は、実施例1と同様に電解処理を行った。比較例1では、第1電極22をカソード極、第2電極24をアノード極とし、カソード極側で生成した気体生成物を電解液収容タンク38aから採取し、実施例1と同様に同定した。
【0051】
図3に、実施例1及び比較例1の電解処理の際の電流密度の経時変化を示し、
図4に、実施例1及び比較例1の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す。
図3に示すように、定電圧印加により電解処理した比較例1では、時間経過と共に電流値が減少し、0mA/cm
2に漸近するのに対し、周期的極性反転の電圧印加により電解処理した実施例1は、時間経過による電流値の減少は見られなかった。そして、
図4に示すように、実施例1の平均電流密度は1mA/cm
2以上であり、比較例1の10倍以上であった。
【0052】
上記結果から、従来技術である定電圧印加による電解処理では、電解処理に必要な両電極間の電位差が大きく、0.1mA/cm2以上の電流密度で電解処理を継続することが困難であるのに対し、本法である周期的極性反転の電圧印加による電解処理では、電解処理に必要な両電極間の電位差が低減され、その結果、0.1mA/cm2以上の電流密度で電解処理を継続できる。
【0053】
図5は、実施例1及び比較例1の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムを示す。また、比較のために、電圧を印加しない状態で65分間、電気化学セルに電解液を供給した後、電解液収容タンク38aの気相部分から採取した気体のガスクロマトグラムも
図5に示す(図では「電解なし」と標記している)。
図5(a),(b)から、定電圧印加により電解処理した比較例1より、周期的極性反転の電圧印加により電解処理した実施例1の方が、水素、二酸化炭素のピーク強度が高く、生成量が多かった。すなわち、実施例1の方が、比較例1より、水素や二酸化炭素の生成処理速度が高いと言える。
図5(c)において、実施例1及び比較例1のO
2ピーク強度は、電解なしのO
2ピーク強度と同じであるため、実施例1及び比較例1共に明確なO
2生成は見られず、O
2生成処理速度は非常に小さいと判断できる。なお、
図5(c)のO
2ピークは、電解反応で生成しないN
2ピーク強度で規格化している。
【0054】
<実施例2>
電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を1.5Vにしたこと、電解処理時間を5分としたこと以外は、実施例1と同様にして電解処理を行った。
【0055】
<比較例2>
第1電極22と第2電極24との間に定電圧を印加(第1電極22と第2電極24との間の電位差が1.5V)したこと、電解処理時間を5分としたこと以外は、実施例1と同様に電解処理を行った。
【0056】
図6に、実施例2及び比較例2の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す。
図6に示すように、定電圧印加により電解処理した比較例2では、平均電流密度が0.1mA/cm
2を下回り、実質的に電流が流れていないのに対し、周期的極性反転の電圧印加により電解処理した実施例2では、平均電流密度が0.4mA/cm
2であった。この結果から、従来技術である定電圧印加による電解処理では、電解処理に必要な両電極間の電位差が大きく、0.1mA/cm
2以上の電流密度で電解処理を継続することが困難であるのに対し、本法である周期的極性反転の電圧印加による電解処理では、電解処理に必要な両電極間の電位差が低減され、1.5Vの低電圧でも、0.1mA/cm
2以上の電流密度で電解処理を継続できる。
【0057】
<実施例3>
電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を1.5V~3.5Vの範囲で変化させたこと、電解処理時間を5分としたこと以外は、実施例1と同様にして電解処理を行った。
【0058】
図7に、実施例3の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す。
図7に示すように、電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を高くすることで、電解処理の際の平均電流密度を増加させることができる。
【0059】
<実施例4>
図8に示す電解装置を使用して、電解処理を行った。
図8に示す電解装置3は、電気化学セル10、電解液収容タンク38、電解液供給ポンプ40、電解液供給ライン42、電解液排出ライン52を備えている。電気化学セル10を構成する第1電極22及び第2電極24は金メッシュを使用している。
図8に示す電気化学セル10では、第1電極22と第2電極24との間には隔膜を設置していない。電解液収容タンク38に溜められた電解液(1MのKHCO
3水溶液)を、実施例1と同様の条件で、電気化学セル10内の流路32に供給した。そして、電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を3.0Vにしたこと以外は、実施例1と同様の条件で電解処理を行った。
【0060】
<実施例5>
電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を3.0Vにしたこと以外は、実施例1と同様にして電解処理を行った。すなわち、実施例5では、第1電極22と第2電極24との間には隔膜を設置した電気化学セルを使用した。
【0061】
図9に、実施例4及び5の電解処理の際の電流密度の経時変化を示し、
図10に、実施例4及び5の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す。
図9に示すように、隔膜無しの電気化学セルを使用した実施例4の方が、隔膜を有する電気化学セルを使用した実施例5より、大きな電流が流れた。実施例4の平均電流密度は19.5mA/cm
2であり、実施例5の平均電流密度の約1.6倍であった。この結果から、隔膜無しの電気化学セルを使用することで、電解処理の際の電流密度を増加させることができると言える。
【0062】
図11は、実施例4及び5の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムを示す。また、比較のために、電圧を印加しない状態で65分間、電気化学セルに電解液を供給した後、電解液収容タンク38の気相部分から採取した気体のガスクロマトグラムを
図11に示す(図では「電解なし」と標記している)。
図11に示すように、実施例4及び5共に、CO、H
2、O
2の生成が確認された。
【0063】
実施例1-5の結果から見ると、電解処理により、CO2及びH2を選択的に生成させたい場合には、電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を2.0V以下にすることが望ましく、電流密度を高め、CO等の二酸化炭素還元生成物及びH2を選択的に生成させたい場合には、電圧印加時の第1電極22と第2電極24との間の電位差を2.0V超とすることが望ましい。
【0064】
<比較例3>
第1電極22と第2電極24との間に定電圧を印加(第1電極22と第2電極24との間の電位差が3.0V)したこと以外は、実施例1と同様に電解処理を行った。
【0065】
図12は、比較例3の電解処理の際の電流密度の経時変化を示す図であり、
図13は、比較例3の電解処理の際の平均電流密度(絶対値)を示す図である。
図12に示すように、定電圧印加により電解処理した比較例3では、時間経過と共に電流値が減少した。そして、
図13に示すように、比較例3の平均電流密度は0.91mA/cm
2程度であった。周期的極性反転の電圧印加により電解処理した実施例4及び5と比較すると、比較例3は1/20~1/10の電流しか流れなかった。逆に言えば、実施例4、5のように周期的極性反転の電圧印加による電解処理を適用することで、比較例3と比べて、13.7~21.4倍の電流を流すことができた。
【0066】
図14は、比較例3の電解処理の際に採取した気体生成物のガスクロマトグラムを示す。
図14(a)~(c)では、比較のために、比較例3の試験直前に採取した大気のガスクロマトグラムを示し(図では「大気」と標記している)、
図14(c)では、比較のために、電圧を印加しない状態で65分間、電気化学セルに電解液を供給した後、電解液収容タンク38aの気相部分から採取した気体のガスクロマトグラムを示す(図では「電解なし」と標記している)。さらに、
図14(a)では、水素に帰属されるピークを分離した結果を破線で示している(図では「比較例4(水素)」と標記している)。
【0067】
図14(c)に示すように、比較例3の定電圧電解では、(カソード側で)COは検出されなかった。これは、電解進行でカソード側が高pH条件となり、カソード近傍で溶存する炭素種が炭酸イオンとなること、両電極のpH差が増加することによる最小印加電圧の増加に基づき、カソード過電圧が小さくなったため、両電極間の電位差が3.0VではCOが生成しなかったためであると考えられる。一方、
図11に示すように、周期的極性反転の電圧印加により電解処理した実施例4,5では、両電極間の電位差が3.0VでCOが生成した。これは、極性反転の電圧印加によりアノードとなった電極近傍に中性CO
2を偏在させ、その後、極性反転の電圧印加によりカソードに切り替わることで、CO
2を電解還元したため、COが生成したためであると考えられる。
1~3 電解装置、10 電気化学セル、12 供給装置、14 気液分離装置、16 気液接触装置、18 循環装置、22 第1電極、24 第2電極、30 隔膜、32,32a,32b 流路、36 枠材、38,38a,38b 電解液収容タンク、40,40a,40b 電解液供給ポンプ、42,42a,42b 電解液供給ライン、50 気液分離器、52,52a,52b 電解液排出ライン、54 循環ライン、56 循環ポンプ、58 二酸化炭素供給ライン、60 気液接触用タンク、62 排出ライン、70 電源装置。