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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073965
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】液体吐出装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20240523BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20240523BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B41J2/015
B41J2/14 607
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184977
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】森 政貴
【テーマコード(参考)】
2C056
2C057
【Fターム(参考)】
2C056EA06
2C056EB03
2C056EB08
2C056EB30
2C056EC03
2C056EC08
2C056EC42
2C056FA04
2C056FA13
2C057AF22
2C057AG14
2C057AG44
2C057AL03
2C057AL25
2C057AM03
2C057AM16
2C057AM18
2C057AN05
2C057BA04
2C057BA14
2C057DB04
2C057DE02
(57)【要約】
【課題】複数の個別流路間での温度差に起因する画質の劣化を効果的に抑制する。
【解決手段】プリンタは、複数の個別流路が形成された流路部材と、各個別流路に対して設けられたアクチュエータを有するアクチュエータ部材と、アクチュエータと電気的に接続されたドライバICと、ドライバICと電気的に接続された制御部とを備えている。制御部は、ドライバICに各アクチュエータに対して駆動電圧を印加させることで個別流路のノズルからインクを吐出させる吐出処理を実行する。制御部は、吐出処理において、各アクチュエータの駆動電圧V1,V2を各個別流路の温度に基づいて変化させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ノズルを有する第1個別流路及び第2ノズルを有する第2個別流路が形成された流路部材と、
前記流路部材に固定されたアクチュエータ部材であって、前記第1個別流路に対して設けられた第1アクチュエータ及び前記第2個別流路に対して設けられた第2アクチュエータを有するアクチュエータ部材と、
前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータと電気的に接続された駆動回路と、
前記駆動回路と電気的に接続された制御部であって、前記駆動回路に前記第1アクチュエータに対して第1駆動電圧を印加させることで前記第1ノズルから液体を吐出させ、かつ、前記駆動回路に前記第2アクチュエータに対して第2駆動電圧を印加させることで前記第2ノズルから液体を吐出させる、吐出処理を実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記吐出処理において、
前記第1個別流路の温度に基づいて前記第1駆動電圧を変化させ、かつ、前記第2個別流路の温度に基づいて前記第2駆動電圧を変化させ、
前記第1駆動電圧が変化するタイミングと前記第2駆動電圧が変化するタイミングとを互いに異ならせることを特徴とする、液体吐出装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記第1個別流路の温度と第1条件とに基づいて、前記第1駆動電圧を変化させ、
前記第2個別流路の温度と前記第1条件とは異なる第2条件とに基づいて、前記第2駆動電圧を変化させることを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記吐出処理の開始時点を含む期間に、前記第1個別流路の温度と前記第1条件とに基づいて前記第1駆動電圧を変化させ、前記第2個別流路の温度と前記第2条件とに基づいて前記第2駆動電圧を変化させることを特徴とする、請求項2に記載の液体吐出装置。
【請求項4】
前記流路部材に、第3ノズルを有する第3個別流路がさらに形成されており、
前記アクチュエータ部材は、前記第3個別流路に対して設けられた第3アクチュエータをさらに有し、
前記駆動回路は、前記第3アクチュエータと電気的に接続され、
前記制御部は、前記吐出処理において、前記駆動回路に前記第3アクチュエータに対して第3駆動電圧を印加させることにより前記第3ノズルから液体を吐出させ、前記第3個別流路の温度に基づいて前記第3駆動電圧を変化させ、
前記第1個別流路、前記第2個別流路及び前記第3個別流路が配列方向に配列されており、
前記第1個別流路、前記第2個別流路及び前記第3個別流路に対して前記配列方向の一方及び他方のそれぞれに、前記制御部と電気的に接続された温度センサが配置されており、
前記制御部は、前記温度センサから受信したデータに基づいて、前記第1個別流路の温度、前記第2個別流路の温度及び前記第3個別流路の温度を予測することを特徴とする、請求項1に記載の液体吐出装置。
【請求項5】
前記流路部材に、前記第1個別流路及び前記第2個別流路に液体を供給するための供給口が形成されており、
前記第1個別流路と前記供給口との距離が前記第2個別流路と前記供給口との距離よりも大きいことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
【請求項6】
前記制御部が前記第1駆動電圧を変化させる回数は、前記制御部が前記第2駆動電圧を変化させる回数よりも多いことを特徴とする、請求項5に記載の液体吐出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液体を吐出させる液体吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、各記録素子の予測温度に基づいて、各記録素子に対して印加する吐出パルスを決定することが示されている。これにより、記録素子の温度差に起因する吐出量のばらつきが軽減され、画質の劣化が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-168626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、パルス幅が互いに異なる複数の吐出パルスから、各記録素子の予測温度に適した吐出パルスが選択される。しかしながら、吐出パルスのパルス幅を異ならせるのみでは、複数の個別流路間での温度差に起因する画質の劣化を抑制するには不十分である。
【0005】
本発明の目的は、複数の個別流路間での温度差に起因する画質の劣化を効果的に抑制可能な液体吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液体吐出装置は、第1ノズルを有する第1個別流路及び第2ノズルを有する第2個別流路が形成された流路部材と、前記流路部材に固定されたアクチュエータ部材であって、前記第1個別流路に対して設けられた第1アクチュエータ及び前記第2個別流路に対して設けられた第2アクチュエータを有するアクチュエータ部材と、前記第1アクチュエータ及び前記第2アクチュエータと電気的に接続された駆動回路と、前記駆動回路と電気的に接続された制御部であって、前記駆動回路に前記第1アクチュエータに対して第1駆動電圧を印加させることで前記第1ノズルから液体を吐出させ、かつ、前記駆動回路に前記第2アクチュエータに対して第2駆動電圧を印加させることで前記第2ノズルから液体を吐出させる、吐出処理を実行する制御部と、を備え、前記制御部は、前記吐出処理において、前記第1個別流路の温度に基づいて前記第1駆動電圧を変化させ、かつ、前記第2個別流路の温度に基づいて前記第2駆動電圧を変化させ、前記第1駆動電圧が変化するタイミングと前記第2駆動電圧が変化するタイミングとを互いに異ならせることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るプリンタ100の平面図である。
図2】プリンタ100に含まれるヘッド1の平面図である。
図3図2のIII-III線に沿ったヘッド1の断面図である。
図4】プリンタ100の電気的構成を示すブロック図である。
図5】(a)は、駆動電圧が一定の場合における個別流路の温度変化を示すグラフである。(b)は、駆動電圧を変化させる一例を示すグラフである。(c)は、(b)のように駆動電圧を変化させた場合におけるインク滴の体積変化を示すグラフである。
図6】(a)は、閾値温度が一定の場合における濃度変化を示す模式図である。(b)は、閾値温度がランダムの場合における濃度変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<プリンタの全体構成>
本発明の一実施形態に係るプリンタ100は、図1に示すように、ヘッドユニット1xと、プラテン3と、搬送機構4と、制御部5とを備えている。
【0009】
ヘッドユニット1xは、紙幅方向(鉛直方向と直交する方向)に長尺であり、位置が固定された状態でノズル31(図2及び図3参照)から用紙9に対してインクを吐出するライン式である。ヘッドユニット1xは、4つのヘッド1を含む。4つのヘッド1は、それぞれ紙幅方向に長尺であり、紙幅方向に千鳥状に配列されている。
【0010】
プラテン3は、ヘッドユニット1xの下方に配置され、鉛直方向と直交する方向に延びる平板部材である。プラテン3の上面に、用紙9が支持される。
【0011】
搬送機構4は、搬送方向(鉛直方向及び紙幅方向と直交する方向)にプラテン3を挟んで配置された2つのローラ対4a,4bを有する。制御部5の制御により搬送モータ4m(図4参照)が駆動されると、ローラ対4a,4bが用紙9を挟持した状態で回転し、用紙9が搬送方向に搬送される。
【0012】
制御部5は、図4に示すように、CPU(Central Processing Unit)91と、ROM(Read Only Memory)92と、RAM(Random Access Memory)93とを含む。ROM92には、CPU91が各種制御を行うためのプログラムやデータが格納されている。RAM93は、CPU91がプログラムを実行する際に用いるデータを一時的に記憶する。CPU91は、外部装置(図示略)やプリンタ100の入力部(スイッチやボタン)から入力された記録指令に基づいて、ROM92やRAM93に記憶されているプログラムやデータにしたがい、処理を実行する。具体的には、制御部5は、搬送モータ4m及び各ヘッド1のドライバIC14(図4参照)と電気的に接続されており、これらを制御することで、搬送機構4による用紙9の搬送と、各ヘッド1による用紙9へのインクの吐出とを行わせ、用紙9上に画像を記録する。
【0013】
<ヘッドの構成>
ヘッド1は、図2及び図3示すように、流路部材21と、アクチュエータ部材22とを含む。
【0014】
流路部材21には、図2に示すように、2本の共通流路29と、複数の個別流路32とが形成されている。
【0015】
各個別流路32は、ノズル31及び圧力室30を有する流路であり、図3に示すように共通流路29の出口から連通路35、圧力室30及び接続路36を介してノズル31に至る流路である。
【0016】
2本の共通流路29は、それぞれ紙幅方向に延び、搬送方向に並んでいる。複数の個別流路32は、各共通流路29に対応するように紙幅方向(配列方向)に配列され、2つの列Rを形成している。各列Rを構成する複数の個別流路32は、1本の共通流路29と連通している。
【0017】
流路部材21は、図3に示すように、鉛直方向に積層された8枚のプレート41~48で構成されている。
【0018】
プレート41には、複数の圧力室30が形成されている。プレート48には、複数のノズル31が形成されている。プレート41の上面が流路部材21の上面、プレート48の下面が流路部材21の下面に該当する。プレート41の上面に複数の圧力室30が開口し、プレート48の下面に複数のノズル31が開口している。
【0019】
プレート43~46には、共通流路29(図2参照)が形成されている。プレート42,43には、圧力室30毎に、圧力室30と共通流路29とを連通させる連通路35が形成されている。プレート42~47には、圧力室30毎に、圧力室30とノズル31とを接続する接続路36が形成されている。
【0020】
各共通流路29から、各列Rに属する複数の個別流路32に、連通路35(図3参照)を介してインクが供給される。そして後述のようにアクチュエータ部材22の各アクチュエータ23が変形することで、圧力室30内のインクに圧力が付与され、接続路36を通ってノズル31からインクが吐出される。
【0021】
流路部材21には、さらに、図2に示すように、インクタンク(図示略)から各共通流路29にインクを供給するための2つの供給口27と、各共通流路29からインクタンクにインクを帰還させる2つの帰還口28とが形成されている。各共通流路29の紙幅方向の一端に供給口27が連通し、各共通流路29の紙幅方向の他端に帰還口28が連通している。供給口27及び帰還口28は、流路部材21の上面におけるアクチュエータ部材22が配置されない領域であって、アクチュエータ部材22に対して紙幅方向の一方及び他方のそれぞれに形成されている。
【0022】
供給口27及び帰還口28は、それぞれ、インクタンクとチューブ等で接続されている。インクタンクから各供給口27に供給されたインクは、各共通流路29に供給される。当該インクは、各共通流路29内を搬送方向に移動し、各帰還口28からインクタンクに戻される。供給口27及び帰還口28には、それぞれ、異物を除去するためのフィルタ25が設けられている。
【0023】
流路部材21の上面に、図2に示すように、2つの温度センサ90が配置されている。2つの温度センサ90は、流路部材21の上面におけるアクチュエータ部材22が配置されない領域であって、アクチュエータ部材22に対して紙幅方向の一方及び他方のそれぞれに形成されている。各温度センサ90は、搬送方向において2つの共通流路29の間に位置している。2つの温度センサ90は、制御部5と電気的に接続されており(図4参照)、検知温度を示すデータを制御部5に送信する。
【0024】
ここで、各列Rを構成する複数の個別流路32のうち、紙幅方向において供給口27から最も離隔した個別流路32を第1個別流路32aといい、紙幅方向において供給口27に最も近接した個別流路32を第2個別流路32bといい、紙幅方向において第1個別流路32aと第2個別流路32bとの間に位置する個別流路を第3個別流路32cという。第1個別流路32aのノズル31を第1ノズル31a、第2個別流路32bのノズル31を第2ノズル31b、第3個別流路32cのノズル31を第3ノズル31cという。第1個別流路32aの圧力室30を第1圧力室30a、第2個別流路32bの圧力室30を第2圧力室30b、第3個別流路32cの圧力室30を第3圧力室30cという。
【0025】
紙幅方向において、第1個別流路32aと供給口27との距離は、第2個別流路32bと供給口27との距離よりも大きい。紙幅方向において、第3個別流路32cと供給口27との距離は、第2個別流路32bと供給口27との距離よりも大きく、第1個別流路32aと供給口27との距離よりも小さい。
【0026】
第1個別流路32a、第2個別流路32b及び第3個別流路32cに対して紙幅方向の一方及び他方のそれぞれに、温度センサ90が配置されている。
【0027】
アクチュエータ部材22は、図3に示すように、流路部材21の上面に配置され、流路部材21に固定されている。アクチュエータ部材22は、振動板62と、共通電極52と、圧電体61と、複数の個別電極51とを含む。振動板62は、流路部材21の上面に配置されている。共通電極52は、振動板62の上面に配置されている。圧電体61は、共通電極52の上面に配置されている。複数の個別電極51は、圧電体61の上面に配置されている。
【0028】
振動板62、共通電極52及び圧電体61は、流路部材21に形成された全ての圧力室30を覆っている。一方、個別電極51は、圧力室30毎に設けられており、圧力室30のそれぞれと鉛直方向に重なっている。
【0029】
複数の個別電極51及び共通電極52は、ドライバIC14(図4参照)と電気的に接続されている。ドライバIC14は、共通電極52の電位をグランド電位に維持する一方、個別電極51の電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で変化させる。具体的には、ドライバIC14は、本発明の「駆動回路」に該当するものであり、制御部5からの制御信号に基づいて駆動信号を生成し、信号線14sを介して当該駆動信号を個別電極51に供給する。これにより、個別電極51の電位が所定の駆動電位とグランド電位との間で変化する。このとき、振動板62及び圧電体61において個別電極51と圧力室30とで挟まれた部分(アクチュエータ23)が、圧力室30に向かって凸となるように変形することにより、圧力室30の容積が変化し、圧力室30内のインクに圧力が付与される。当該インクは、接続路36を通ってノズル31から吐出される。これと同時に、共通流路29内のインクが連通路35を通って圧力室30に供給され、また、インクタンクから共通流路29にインクが供給される。
【0030】
アクチュエータ23は、個別電極51毎に設けられており、当該個別電極51に供給される電位に応じて独立して変形可能である。
【0031】
ここで、第1個別流路32a、第2個別流路32b及び第3個別流路32cに対して設けられたアクチュエータ23を、それぞれ第1アクチュエータ23a、第2アクチュエータ23b及び第3アクチュエータ23cという(図2参照)。
【0032】
ヘッド1には、さらに、図4に示すように、6つの電源回路15a~15fが設けられている。電源回路15a~15fは、例えばFET、インダクタ、抵抗、電解コンデンサ等の複数の電子部品で構成されたDC/DCコンバータであり、ドライバIC14と電気的に接続されている。電源回路15a~15fは、制御部5からの制御信号に基づき、互いに異なる電圧をドライバIC14に出力する。制御部5からドライバIC14に出力される制御信号には、各アクチュエータ23に対して6つの電源回路15a~15fのうちの1つを割り当てるための割当信号が含まれる。ドライバIC14は、各個別電極51に対し、割当信号にしたがって割り当てられた電源回路からの電圧によって駆動信号を生成し、信号線14sを介して当該駆動信号を各個別電極51に供給する。
【0033】
<吐出処理>
上述のようなノズル31からのインク吐出に係る制御部5による処理を「吐出処理」という。制御部5は、吐出処理において、ドライバIC14に各アクチュエータ23に対して駆動電圧を印加させることで、ノズル31からインクを吐出させる。
【0034】
吐出処理において、アクチュエータ23は、駆動電圧の印加により発熱し、時間の経過と共に温度が上昇する。ひいては、アクチュエータ23に対応する個別流路32の温度も、時間の経過と共に上昇する(図5(a)参照)。個別流路32の温度は、当該流路内に存在するインクの温度に対応する。
【0035】
図5(a)において、実線で示すT1は第1個別流路32aの温度であり、破線で示すT2は第2個別流路32bの温度である。第2個別流路32bは、環境温度に近いインクが流入する供給口27に近い(図2参照)。そのため、温度T2の上昇は、供給口27に流入する比較的低温のインクによって抑えられ、緩やかになる。一方、第1個別流路32aは、供給口27から遠い。そのため、温度T1の上昇は、供給口27に流入する比較的低温のインクによっては抑えられない。
【0036】
このような温度T1,T2の差は、ノズル31からのインクの吐出量のばらつきを引き起こす。具体的には、高温のインクほど、粘度が低く、吐出量が大きくなる。低温のインクほど、粘度が高く、吐出量が小さくなる。このような吐出量のばらつきにより、画質の劣化が生じ得る。
【0037】
そこで、本実施形態において、制御部5は、アクチュエータ23毎に、対応する個別流路32の温度に基づいて、駆動電圧を変化させる(図5(b)参照)。
【0038】
図5(b)において、実線で示すV1は第1アクチュエータ23aの駆動電圧(第1駆動電圧)であり、破線で示すV2は第2アクチュエータ23bの駆動電圧(第2駆動電圧)である。駆動電圧V1が変化するタイミングと駆動電圧V2が変化するタイミングとは、互いに異なる。また、制御部5が駆動電圧V1を変化させる回数(4回)は、制御部5が駆動電圧V2を変化させる回数(1回)よりも多い。制御部5は、駆動電圧V1を段階的に低下させている。本実施形態において、駆動電圧V1,V2の1回当たりの低下量は一定であり、回数が多い分、図5(b)に示す時間全体における駆動電圧V1の低下量は駆動電圧V2の低下量よりも大きい。
【0039】
各アクチュエータ23の駆動電圧を対応する個別流路32の温度に基づいて変化させることで、ノズル31からのインクの吐出量のばらつきを抑えることができる(図5(c)参照)。
【0040】
図5(c)において、実線で示すL1は第1ノズル31aから吐出されるインク滴の体積であり、破線で示すL2は第2ノズル31bから吐出されるインク滴の体積である。図5(b)に示すように駆動電圧V1を段階的に低下させることで、第1アクチュエータ23aの温度上昇が抑制され、インクの粘度低下、ひいては体積L1の増加が抑制される。具体的には、駆動電圧V1を低下させるタイミングで、第1アクチュエータ23aの温度上昇が一旦止まることで、インクの粘度が回復し、体積L1が減少する。その後、時間の経過と共に第1アクチュエータ23aの温度が上昇して体積L1が増加するが、再び駆動電圧V1を低下させることで、体積L1の増加を抑制できる。駆動電圧V2についても同様であり、駆動電圧V2を低下させることで、第2アクチュエータ23bの温度上昇が抑制され、インクの粘度低下、ひいては体積L2の増加が抑制される。
【0041】
各アクチュエータ23の駆動電圧を変化させるにあたり、制御部5は、先ず、温度センサ90(図4参照)から受信した検知温度のデータと、ROM92に記憶された温度分布データとに基づいて、各個別流路32の温度を予測する。温度分布データは、紙幅方向に配列された複数の個別流路32の温度分布を示すデータであり、実験等に基づいて、プリンタ100の製造時にROM92に記憶される。
【0042】
制御部5は、その後、各個別流路32の温度(予測温度)が閾値温度を超えたか否かを判断する。閾値温度は、個別流路32毎に設定されており、複数の個別流路32において互いに異なる。第1個別流路32aの閾値温度は本発明の「第1条件」に該当し、第2個別流路32bの閾値温度は本発明の「第2条件」に該当する。
【0043】
制御部5は、個別流路32の温度(予測温度)が閾値温度を超えたと判断した場合、当該個別流路32に対応するアクチュエータ23の駆動電圧を低下させる。制御部5は、各アクチュエータ23に対して6つの電源回路15a~15fのうちの1つを割り当てることで、各アクチュエータ23の駆動電圧を変化させる。
【0044】
制御部5は、上記のような制御(即ち、各個別流路32の温度と閾値温度とに基づいて駆動電圧を変化させる制御)を、少なくとも吐出処理の開始時点を含む期間に実行する。
【0045】
閾値温度を複数の個別流路32において一定とした場合、各列Rに属する複数の個別流路32(図2参照)のうち、紙幅方向に隣接する個別流路32において、駆動電圧を低下させるタイミングが揃い易い。これは、紙幅方向に隣接する個別流路32では、温度差が小さいためである。特に吐出処理の開始時は、複数の個別流路32において温度差がほとんどないため、上記事象が生じ易い。そのため、閾値温度を複数の個別流路32において一定とした場合、図6(a)に示すように、紙幅方向に配列された複数の個別流路32において、紙幅方向の一方(第1個別流路32a)から他方(第2個別流路32b)に向かって順次、駆動電圧が切り替えられる。これにより、濃度の境目が斜め方向の線となって現れる。
【0046】
これに対し、本実施形態では、閾値温度を複数の個別流路32において異ならせ、ランダムにしている。例えば、各個別流路32の閾値温度を、所定値に乱数を加えた値としている。これにより、図6(b)に示すように、紙幅方向に隣接する個別流路32において駆動電圧を低下させるタイミングが揃うことが抑制され、濃度の境目が斜め方向の線となって現れることがない。
【0047】
以上に述べたように、本実施形態によれば、各アクチュエータ23の駆動電圧を各個別流路32の温度に基づいて変化させる。これにより、複数の個別流路32間での温度差に起因する吐出量のばらつきを軽減できる。さらに、各アクチュエータ23の駆動電圧が変化するタイミングを異ならせることで、同じタイミングで駆動電圧を変化させた場合に生じ得る濃度の境目が目立つ問題を抑制し、画質の劣化を効果的に抑制できる(図5(b),(c)参照)。
【0048】
各アクチュエータ23の駆動電圧を同一の条件(閾値温度)に基づいて変化させると、濃度の境目が目立ち得る(図6(a)参照)。この点、本実施形態では各アクチュエータ23の駆動電圧を変化させる条件(閾値温度)を異ならせることで、濃度の境目が目立つ問題を抑制できる(図6(b)参照)。
【0049】
制御部5は、吐出処理の開始時点を含む期間に、各個別流路32の温度と個別流路32毎に設定された閾値温度とに基づいて駆動電圧を変化させる。吐出処理の開始時には、複数の個別流路間において温度差がほとんどなく、各アクチュエータ23の駆動電圧を変化させる条件(閾値温度)を同じにすると、当該条件が満たされるタイミングが揃いやすい。各アクチュエータ23の駆動電圧を同じタイミングで変化させると、濃度の境目が目立ち得る(図6(a)参照)。そこで、吐出処理の開始時点を含む期間に、各アクチュエータ23の駆動電圧を変化させる条件を異ならせることで、濃度の境目が目立つ問題を実効的に抑制できる(図6(b)参照)。
【0050】
制御部5は、複数の個別流路32に対して紙幅方向の一方及び他方のそれぞれに配置された温度センサ90(図2参照)からのデータに基づいて、各個別流路32の温度を予測する。この場合、各個別流路32に対して温度センサ90を設ける場合に比べ、構成の簡素化及びコスト低減を実現できる。
【0051】
供給口27との距離は、複数の個別流路32において互いに異なる(図2参照)。供給口27に近い個別流路32は、供給口27に流入する比較的低温のインクによって、温度上昇が抑えられる。一方、供給口27から遠い個別流路32は、供給口27に流入する比較的低温のインクによって温度上昇が抑えらず、高温になり易い。このような温度差が生じる傾向がある構成において、各アクチュエータ23の駆動電圧を各個別流路32の温度に基づいて変化させる制御を適用することで、複数の個別流路32間での温度差に起因する吐出量のばらつきを軽減し、画質の劣化を効果的に抑制できる。
【0052】
供給口27から遠い第1個別流路32aは、上記のとおり高温になり易い。ここで、第1個別流路32aに対応する駆動電圧V1を急激に変化させると、濃度の境目が目立ち得る。この点、本実施形態では、駆動電圧V1を変化させる回数を比較的多くし、駆動電圧V1を段階的に変化させる(図5(b)参照)。これにより、濃度の境目が目立ち難くなっている。
【0053】
<変形例>
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な設計変更が可能なものである。
【0054】
上述の実施形態では、個別流路が2列に配置されているが、これに限定されず、個別流路が1又は3以上の列に配置されてもよい。
【0055】
アクチュエータは、上述の実施形態では圧電素子を用いたピエゾ方式のものを例示したが、これに限定されず、その他の方式(例えば、発熱素子を用いたサーマル方式、静電力を用いた静電方式等)のものであってもよい。
【0056】
ヘッドは、ライン式に限定されず、シリアル式(紙幅方向と平行な走査方向に移動しつつノズルから吐出対象に対して液体を吐出する方式)であってもよい。
【0057】
吐出対象は、用紙に限定されず、例えば布、基板、プラスチック部材等であってもよい。
【0058】
ノズルから吐出される液体は、インクに限定されず、任意の液体(例えば、インク中の成分を凝集又は析出させる処理液等)であってよい。
【0059】
本発明は、プリンタに限定されず、ファクシミリ、コピー機、複合機等にも適用可能である。また、本発明は、画像の記録以外の用途で使用される液体吐出装置(例えば、基板に導電性の液体を吐出して導電パターンを形成する液体吐出装置)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 ヘッド
5 制御部
14 ドライバIC(駆動回路)
21 流路部材
22 アクチュエータ部材
23 アクチュエータ
23a 第1アクチュエータ
23b 第2アクチュエータ
23c 第3アクチュエータ
27 供給口
31 ノズル
31a 第1ノズル
31b 第2ノズル
31c 第3ノズル
32 個別流路
32a 第1個別流路
32b 第2個別流路
32c 第3個別流路
90 温度センサ
100 プリンタ(液体吐出装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6