(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073971
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 101/04 20060101AFI20240523BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240523BHJP
C10N 20/04 20060101ALN20240523BHJP
C10N 40/08 20060101ALN20240523BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240523BHJP
C10N 30/02 20060101ALN20240523BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240523BHJP
【FI】
C10M101/04
C10N20:02
C10N20:04
C10N40:08
C10N40:04
C10N30:02
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184986
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】398053147
【氏名又は名称】コスモ石油ルブリカンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】及川 裕香
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 源基
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB14A
4H104DA06A
4H104EA02A
4H104EA03A
4H104LA01
4H104LA20
4H104PA02
4H104PA03
4H104PA05
(57)【要約】
【課題】低温特性とせん断安定とに優れた潤滑油組成物を提供すること。
【解決手段】100℃における動粘度をX、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たす植物由来の基油を含有する、潤滑油組成物。関係式(1):Y≧70X+305。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度をX、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たす植物由来の基油を含有する、潤滑油組成物。
関係式(1):Y≧70X+305
【請求項2】
前記植物由来の基油の含有量が、潤滑油組成物の全量に対して、10質量%以上である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
さらに、鉱物油である基油を含有する、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記植物由来の基油と前記鉱物油である基油との含有比率が、質量基準で、10:90~100:0の範囲である請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
粘度指数向上剤を含有しており、潤滑油組成物の全量に対して、前記粘度指数向上剤の含有量をA質量%、前記植物由来の基油の含有量をB質量%としたときに、下記関係式(A1)を満たす、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
関係式(A1):0.01≦A/(A+B)≦0.50
【請求項6】
-40℃におけるBF粘度が、18000mPa・s以下である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
農業機械用潤滑油である、請求項1又は請求項2に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農業機械、建設機械、運搬機械等の各種の産業機械に、潤滑油組成物が適用されている。例えば、農業機械には、整地用作業機としてのトラクター、育成管理用作業機としての田植え機、収穫用作業機としてのバインダー、コンバイン等があり、農業機械の中でもトラクターは最も広く用いられている。
【0003】
このような農業機械では、油圧ポンプ部、変速装置部、パワー・テイク・オフ(PTO)クラッチ部、差動歯車装置部、湿式ブレーキ部等の金属同士の接触箇所を多く備えているのにも関わらず、これら接触箇所に対して、1種類の農業機械用潤滑油が使用されている場合が多い。このため、農業機械に適用される潤滑油組成物には、摩擦特性、耐摩耗性、酸化安定性、さび止め性、有機材料適合性等の多機能の役割が要求されている。これらの性能を確保し、さらに高めるために、従来より様々な検討がなされている(例えば、特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3-20396号公報
【特許文献2】特開2004-59930号公報
【特許文献3】特開2009-144097号公報
【特許文献4】特開2009-144098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、農業機械等の産業機械は冬季の寒冷地においても使用されることから、潤滑油組成物には、低温環境下(例えば-40℃の環境下)であっても潤滑性能が発揮される特性(以下「低温特性」とも称する。)が求められる。しかしながら、従来の潤滑油組成物は、低温環境下における粘度(以下「低温粘度」とも称する。)が高くなり、低温特性に劣る場合がある。特に、鉱油系基油のみを基油として用いた潤滑油組成物は、低温特性に劣る傾向が高い。低温特性に劣る潤滑油組成物の使用は、潤滑油組成物を適用した産業機械の低温環境下における始動性(低温始動性)を低下させる。
【0006】
低温粘度の上昇を抑制して低温特性を発揮させる方策として、粘度指数を高めて低温環境下における粘性抵抗を軽減する方策が挙げられる。粘度指数は、粘度指数向上剤(VII:Viscosity Index Improvers)の配合により向上させることが可能である。しかし、VIIの高配合による粘度指数の向上は、潤滑油組成物が機械の摺動部分やギア部などのせん断力を長期間受けた際に粘度を低下させてしまい、潤滑部位に油膜が十分に保持されずに、耐摩擦摩耗性が悪化する可能性がある。即ち、せん断安定性の低下は、VIIの分子鎖が切れて分子量が低下することに起因するためと考えられることから、粘度指数向上剤の増量はせん断安定性をより一層低下させる可能性がある。
【0007】
このように、潤滑油組成物において、低温特性とせん断安定性との両立はトレードオフの関係にあり、粘度指数向上剤の増量に依らない方策が望まれているが、そのような潤滑油組成物は未だ提供されるに至っていないのが現状である。
【0008】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであり、本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、低温特性とせん断安定性とに優れた潤滑油組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> 100℃における動粘度をX、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たす植物由来の基油を含有する、潤滑油組成物。
関係式(1):Y≧70X+305
<2> 上記植物由来の基油の含有量が、潤滑油組成物が含有する基油の全量に対して、10質量%以上である、<1>に記載の潤滑油組成物。
<3> さらに、鉱物油である基油を含有する、<1>又は<2>に記載の潤滑油組成物。
<4> 上記植物由来の基油と鉱物油である基油との含有比率が、質量基準で、10:90~100:0の範囲である<3>に記載の潤滑油組成物。
<5> 粘度指数向上剤を含有しており、潤滑油組成物の全量に対して、上記粘度指数向上剤の含有量をA質量%、上記植物由来の基油の含有量をB質量%としたときに、下記関係式(A1)を満たす植物由来の基油を含有する、<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑油成物。
関係式(A1):0.01≦A/(A+B)≦0.50
<1>~<4>のいずれか1つに記載の潤滑油成物。
<6> -40℃におけるBF粘度が、18000mPa・s以下である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
<7> 農業機械用潤滑油である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の潤滑油組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、低温特性とせん断安定性とに優れた潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各例で用いた基油における、100℃における動粘度と重量平均分子量(Mw)との相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示に係る潤滑油組成物について詳細に説明する。以下に記載する説明は、代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本開示に係る潤滑油組成物は、そのような実施形態に何ら限定されるものではない。
【0013】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する該当する複数の物質の合計量を意味する。
本開示において、「質量%」と「重量%」とは同義である。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、「JIS」は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards)の略称として用いる。
【0014】
[潤滑油組成物]
本開示に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度をX、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たす植物由来の基油を含有する、潤滑油組成物である。
【0015】
関係式(1):Y≧70X+305
【0016】
なお、以下では、「テトラヒドロフラン可溶分」を「THF可溶分」と略称し、「ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定」を「GPC測定」と略称する。
【0017】
本開示に係る潤滑油組成物は、低温特性とせん断安定性とに優れる。本開示に係る潤滑油組成物が、上記効果を奏する作用機序は必ずしも明らかではないが、関係式(1)を満たす植物由来の基油は、関係式(1)を満たさない基油と比較して、イオン間相互作用が小さい、又は、分子鎖の絡み合いが少ないため、同じ粘度帯であっても重量平均分子量(Mw)がより高いと考えられ、このことが低温特性とせん断安定性との両立に寄与しているものと推測している。
【0018】
(基油)
本開示に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度をX、THF可溶分のGPC測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たす植物由来の基油(以下「特定基油」とも称する。)を含有する。
関係式(1):Y≧70X+305
【0019】
本開示に係る潤滑油組成物が含有する特定基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0020】
特定基油は、100℃における動粘度をX、THF可溶分のGPC測定によって得られる重量平均分子量(Mw)をYとしたときに、下記関係式(1)を満たし、低温特性とせん断安定性との両方により優れる観点から、下記関係式(2)を満たすことが好ましく、下記関係式(3)を満たすことがより好ましい。
【0021】
関係式(1):Y≧70X+305
関係式(2):Y≧70X+320
関係式(3):Y≧70X+335
【0022】
特定基油は、植物由来の基油である。植物由来の基油とは、植物から抽出された油成分及び植物由来の原料を用いて得られた化学合成油から選択された少なくとも1種を含む基油のことを指す。植物の使用部位は、特に限定されず、種子、果実、木部、根部等のいずれであってもよい。植物由来の原料としては、植物から抽出した抽出物、植物の分解物、等が挙げられる。植物由来の基油は、上記の油成分を安定化剤等で変性させたものも含む。
【0023】
特定基油としては、例えば、イソパラフィン、ポリα-オレフィン、α-オレフィンオリゴマー、脂肪酸エステル化合物(ジアルキルジエステル等)、ポリオール化合物、アルキルベンゼン化合物、ポリグリコール化合物、フェニルエーテル化合物、飽和又は不飽和のポリオールエステル、ポリフェニルエーテル、炭化水素等であって、植物から抽出された油成分及び植物由来の原料を用いて得られた化学合成油が挙げられる。
【0024】
植物から抽出された油成分としては、例えば、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、とうもろこし油、メドウフォーム油、菜種油、ヒマシ油、米ぬか油、オリーブ油、パーム油等が挙げられる。
【0025】
本開示に係る潤滑油組成物が、植物由来の基油を含有するか否かは、潤滑油組成物中の放射性炭素14(以下「14C」と称する)の濃度を測定することにより確認することができる。大気中には、一定の割合で14Cが存在し、この割合は大気中の二酸化炭素も同様であることから、光合成により二酸化炭素を固定化した植物中にも14Cが含まれている。したがって、植物由来の基油にも同様に14Cが含まれている。一方、14Cの半減期が5730年であることから石油資源由来の成分(例えば、鉱物油、化学合成油、粘度指数向上剤等の添加剤など)が含む炭素には、14Cは殆ど含まれていない。したがって、潤滑油組成物中の14Cの濃度を測定することにより、潤滑油組成物が植物由来の基油を含有するか否かを確認することができる。
【0026】
潤滑油組成物中の14Cの濃度は、ASTM D6866に準拠した方法により確認することができる。試験方法として、液体シンチレーション計測(LSC)、加速器質量分析(AMS)、及び同位体比質量分析(IRMS)が挙げられる。
【0027】
特定基油の100℃における動粘度Xは、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)に準拠した方法により測定される値である。
【0028】
特定基油は、低温環境下における粘度をより低減する観点から、100℃における動粘度Xとしては、30mm2/s以下であることが好ましく、2mm2/s以上15mm2/s以下であることがより好ましく、3mm2/s以上10mm2/s以下であることがさらに好ましい。なお、基油の動粘度についてカタログ値が確認できる場合には、カタログ値を採用するものとする。
【0029】
特定基油の重量平均分子量(Mw)Yは、THF可溶分のGPC測定により得られる。GPCの測定条件は下記のとおりである。
<条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工(株)製)
カラム:Shodex GPC LF-804(昭和電工(株)製)を3本
検出器:示差屈折検出器、移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1ml/min
試料濃度:約1.0mass%/vol%THF
注入量:100μL
【0030】
特定基油は、低温特性の観点から、重量平均分子量(Mw)Yとしては、2000以下であることが好ましく、300以上1500以下であることがより好ましく、300以上1200以下であることがさらに好ましい。
【0031】
特定基油は、潤滑油組成物においてワックス分が発生することをより低減する観点から、テトラヒドロフラン可溶分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて、極大ピークの半値幅が0.9以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.3以上0.7以下であることがさらに好ましい。
【0032】
極大ピークの半値幅とは、GPCによる縦軸を検出量、横軸を溶出時間(分)としたクロマトグラムにおいて観測される極大ピークの最大ピーク値の1/2の高さにおけるピーク幅(半値全幅:Full width at half maximum)を表す。なお、溶出時間は、ポリスチレン換算したときに分子量が104に到達するまでの時間とする。
【0033】
本開示に係る潤滑油組成物は、本開示の効果が奏される範囲内で、関係式(1)を満たさない基油を含有していてもよい。
【0034】
関係式(1)を満たさない基油は、関係式(1)を満たさない植物由来の基油であってもよい。また、関係式(1)を満たさない基油は、関係式(1)を満たさない鉱物油又は石油資源由来の原料を用いて得られた化学合成油であってもよい。
【0035】
鉱物油である基油としては、例えば、原油の潤滑油留分を、溶剤精製、水素化精製、水素化分解精製、水素化脱蝋などの精製法を適宜組合せて精製したものが挙げられる。鉱物油は、水素化精製油、触媒異性化油などに溶剤脱蝋又は水素化脱蝋等の処理を施して高度に精製されたパラフィン系鉱油(即ち、高粘度指数鉱油系潤滑油基油)などであってもよい。鉱物油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0036】
石油資源由来の原料を用いて得られた化学合成油である基油としては、例えば、イソパラフィン、ポリα-オレフィン、α-オレフィンオリゴマー、脂肪酸エステル類(ジアルキルジエステル等)、ポリオール化合物、アルキルベンゼン化合物、ポリグリコール化合物、フェニルエーテル化合物、飽和又は不飽和のポリオールエステル、ポリフェニルエーテル、炭化水素等であって、石油資源由来の原料を用いて化学合成により得られた基油が挙げられる。化学合成油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0037】
特定基油の含有量は、先述の関係式(1)~(3)をより満たし易くし、潤滑油組成物の低温特性とせん断安定性とを両立する観点から、潤滑油組成物が含有する基油の全量に対して、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。潤滑油組成物が含有する基油の全量(100質量%)が、特定基油であってもよい。特定基油の含有量は、潤滑油組成物が含有する基油の全量に対して、100質量%以下であってもよく、90質量%以下であってもよく、80質量%以下であってもよい。一態様において、特定基油の含有量は、潤滑油組成物が含有する基油の全量に対して、10質量%~100質量%であることが好ましい。
【0038】
本開示に係る潤滑油組成物が、特定基油以外の基油を含有する場合、供給安定性の観点から、さらに鉱物油である基油を含有することが好ましい。特定基油と鉱物油である基油との含有比率は、質量基準で、10:90~100:0の範囲であることが好ましく、15:85~100:0の範囲であることがより好ましく、20:80~100:0の範囲であることが更に好ましい。
【0039】
(粘度指数向上剤)
本開示に係る潤滑油組成分は、粘度指数向上剤を含有してもよい。本開示に係る潤滑油組成物が含有する粘度指数向上剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用していてもよい。
【0040】
粘度指数向上剤としては、特に制限はなく、ポリアルキル(メタ)アクリレート、オレフィンコポリマー、ポリイソブチレン、ポリアルキルスチレン、スチレン-ブタジエン水素化共重合体、スチレン-イソプレン水素化共重合体、スチレン-無水マレイン酸エステル共重合体及びそれらに分散基を含有するもの等の公知の各種粘度指数向上剤が挙げられる。
【0041】
潤滑油組成物の調製に際しては、粘度指数向上剤は、基油への溶解性、製造時の製造時間短縮の観点、等を考慮して、有効成分である粘度指数向上剤と、希釈剤及びその他任意成分と、を含む液として用いてもよい。
【0042】
なお、上記スチレン-ブタジエン水素化共重合体とは、スチレン-ブタジエン共重合体を水素化して、残存している二重結合を飽和結合に変えたものを指す。上記スチレン-イソプレン水素化共重合体は、スチレン-イソプレン共重合体を水素化して、残存している二重結合を飽和結合に変えたものを指す。
【0043】
これらの中でも、低温で良好な粘度特性を発揮する観点から、粘度指数向上剤としては、オレフィンコポリマー及びポリアルキル(メタ)アクリレートかが好ましく、ポリアルキル(メタ)アクリレートであることがより好ましく、ポリアルキルメタクリレートが更に好ましい。
【0044】
オレフィンコポリマーは、主鎖にオレフィンに由来する構成単位を含むコポリマーであればよい。オレフィンコポリマーとしては、α-オレフィンと他のモノマーとの共重合体が挙げられ、例えば、エチレン-プロピレン共重合体が好ましい。
【0045】
オレフィンコポリマーである粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は10,000以上、1、200、000以下、20,000~1,000,000であることが好ましく、より好ましくは20,000~800,000、更に好ましくは20,000~600,000である。オレフィンコポリマーである粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が20,000~600,000の範囲内にあると、低温始動性及びせん断安定性により優れる傾向がある。
【0046】
ポリアルキル(メタ)アクリレートは、炭素数1~100のアルキル基を有するポリアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数1~80のアルキル基を有することがポリアルキル(メタ)アクリレートより好ましく、炭素数1~50のアルキル基を有することがポリアルキル(メタ)アクリレートが更に好ましい。ポリアルキル(メタ)アクリレートが有するアルキル基は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0047】
ポリアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、メタアクリル酸エステル化物、等が挙げられる。ある態様において、粘度指数向上剤は、ポリメチルメタクリレートを含むことが好ましい。
【0048】
ポリアルキル(メタ)アクリレートである粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、3万~60万であることが好ましく、より好ましくは3万~55万、更に好ましくは4万~50万である。ポリアルキル(メタ)アクリレートである粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)が3万~60万の範囲内にあると、低温始動性及びせん断安定性により優れる傾向がある。
【0049】
本開示において、粘度指数向上剤の重量平均分子量(Mw)は、GPCにより測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量を意味するものである。測定条件は、特定基油の重量平均分子量(Mw)と同様の条件を用いることができる。
【0050】
本開示に係る潤滑油組成物が粘度指数向上剤を含む場合、粘度指数向上剤の含有量としては、潤滑油組成物の全量に対して、0.5質量%~10.0質量%であることが好ましく、1.0質量%~10.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%~8.0質量%であることが更に好ましい。なお、潤滑油組成物の調製に際して、粘度指数向上剤を有効成分として含む液を用いる場合には、上記の含有量は、潤滑油組成物における当該有効成分の含有量である。
【0051】
本開示に係る潤滑油組成物は、粘度指数向上剤の含有量を増加させることなく、低温特性とせん断安定性とを両立することができる。また、粘度指数向上剤の含有量の低減は、せん断安定性の更なる向上に寄与しうる。このため、一態様において、本開示に係る潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全量に対して、粘度指数向上剤の含有量をA質量%、植物由来の基油の含有量をB質量%としたときに、下記関係式(A1)を満たし、低温特性とせん断安定性との両方により優れる観点から、下記関係式(A2)を満たすことが好ましく、下記関係式(A3)を満たすことがより好ましい。
関係式(A1):0.01≦A/(A+B)≦0.50
関係式(A2):0.01≦A/(A+B)≦0.47
関係式(A3):0.01≦A/(A+B)≦0.45
【0052】
(ジアルキルジチオリン酸亜鉛)
本開示に係る潤滑油組成物は、耐摩擦摩耗性の観点から、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有してもよい。ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、例えば、下記式(A)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
【0054】
式(A)中、R9、R10、R11及びR12は、各々独立に、炭素数が3~24のアルキル基を表す。R9、R10、R11及びR12は、炭素数が3~12のアルキル基であることが好ましく、炭素数が6~12のアルキル基であることがより好ましい。また、R9、R10、R11及びR12は、第1級アルキル基のみを有していてもよく、第2級アルキル基のみを有していてもよく、又は、第1級アルキル基及び第2級アルキル基の両方を有していてもよい。摩擦係数安定性の観点からは、R9、R10、R11及びR12は、第一級アルキル基であることが好ましい。
【0055】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量は、潤滑油組成物の全量に対して、亜鉛量換算で0.05質量%~0.2質量%が好ましく、より好ましくは0.07質量%~0.18質量%、さらに好ましくは0.08質量%~0.15質量%である。
【0056】
(金属型清浄剤)
本開示の潤滑油組成物は、金属型清浄剤を更に含有していてもよい。金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属サリシレート等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。
【0057】
エマルジョン生成の抑制と摩擦特性とを両立する観点から、金属型清浄剤としては、アルカリ土類金属スルホネートを好適に使用することができる。金属型清浄剤は、1種単独で用いてもよく、又は、2種以上を併用してもよい。
【0058】
金属型清浄剤としては、炭酸又はホウ酸で過塩基化されたアルカリ土類金属塩であることが好ましい。金属型清浄剤中に含まれるアルカリ土類金属としては、特に制限はなく、カルシウム、バリウム等を用いることができる。これらの中でも、アルカリ土類金属としては、カルシウムが好適である。
【0059】
金属型清浄剤の塩基価としては、JIS K2501:2003の過塩素酸法による塩基価で、好ましくは150mgKOH/g~500mgKOH/gであり、より好ましくは200mgKOH/g~450mgKOH/gであり、更に好ましくは250mgKOH/g~450mgKOH/gである。
【0060】
金属型清浄剤の含有量は、アルカリ土類金属の量として、潤滑油組成物の全量に対して、好ましくは0.05質量%~0.5質量%であり、より好ましくは0.15質量%~0.45質量%である。
【0061】
(無灰型分散剤)
本開示の潤滑油組成物は、無灰型分散剤を含んでいてもよい。無灰型分散剤としては、ポリアルケニル基を有するコハク酸イミド及びそのホウ素誘導体が挙げられる。
【0062】
ポリアルケニル基を有するコハク酸イミドとしては、好ましくは下記式(B)で表される化合物が挙げられる。また、ポリアルケニル基を有するコハク酸イミドのホウ素誘導体としては、下記式(B)で表される化合物を、ホウ酸又はホウ酸誘導体で酸処理した化合物が挙げられる。
【0063】
【0064】
式(B)中、R13及びR14は、それぞれ独立に、ポリアルケニル基を示し、qは0~4の整数を示す。qとしては、好ましくは2~4の整数であり、より好ましくは3~4の整数である。
【0065】
ポリアルケニル基の数平均分子量は、800~2600であることが好ましく、より好ましくは1200~2600であり、更に好ましくは1250~2600であり、特に好ましくは1300~2600である。
【0066】
本開示の潤滑油組成物がポリアルケニル基を有するコハク酸イミドを含む場合、ポリアルケニル基を有するコハク酸イミドの含有量としては、潤滑油組成物の全量に対し、窒素濃度換算で、0.001質量%~0.04質量%であることが好ましく、より好ましくは0.002質量%~0.02質量%である。
【0067】
(その他の添加剤)
本開示に係る潤滑油組成物は、必要に応じて、公知の添加剤(以下「その他の添加剤」ともいう。)を含有していてもよい。
【0068】
その他の添加剤としては、例えば、摩擦調整剤、油性剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛以外の摩耗防止剤、極圧剤、さび止め剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤、着色剤、トラクター作動油用パッケージ添加剤等のその他の添加剤、及び、その他の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有する各種潤滑油用パッケージ添加剤などが挙げられる。
【0069】
摩擦調整剤としては、有機モリブテン化合物、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、アミン化合物、アミド化合物、エーテル化合物、硫化エステル、リン酸エステル、酸性リン酸エステル及びそのアミン塩、ジオール等が挙げられる。
【0070】
油性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸、高級アルコール、脂肪族アミン系化合物、脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物、硫化油脂、酸性リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル等が挙げられる。なお、基油として含有される成分が、油性剤として機能してもよい。
【0071】
摩耗防止剤としては、硫黄化合物、リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性リン酸エステル及びそのアミン塩等が挙げられる。
【0072】
極圧剤としては、炭化水素硫化物、硫化油脂、リン酸エステル、亜リン酸エステル、塩素化パラフィン、塩素化ジフェニル等が挙げられる。
【0073】
さび止め剤としては、カルボン酸及びそのアミン塩、エステル化合物、スルホン酸塩、ホウ素化合物等が挙げられる。
【0074】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0075】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール、アルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。
【0076】
流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート、塩素化パラフィン-ナフタレン縮合物、アルキル化ポリスチレン等が挙げられる。
【0077】
消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン化合物、フルオロシリコン化合物、エステル化合物などが挙げられる。
【0078】
[潤滑油組成物の性状]
潤滑油組成物は、-40℃におけるBF(ブルックフィールド)粘度が、18000mPa・s以下であることが好ましく、17500mPa・s以下であることがより好ましい。
【0079】
潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度が18000mPa・s以下であると、低温環境下での潤滑性が適切に保たれる傾向がある。
【0080】
潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度の下限は、例えば、3000mPa・s以上である。
【0081】
潤滑油組成物の-40℃におけるBF粘度は、ASTM D 2983に準拠した方法により測定される値である。
【0082】
潤滑油組成物は、100℃の動粘度が6.0mm2/s~15.0mm2/sであることが好ましく、7.0mm2/s~13.0mm2/sであることがより好ましく、7.5mm2/s~11.0mm2/sであることが更に好ましい。
【0083】
潤滑油組成物は、40℃の動粘度が20mm2/s~80mm2/sであることが好ましく、20mm2/s~70mm2/sであることがより好ましく、25mm2/s~60mm2/sであることが更に好ましい。
【0084】
潤滑油組成物の100℃の動粘度及び40℃動粘度は、JIS K-2283-2000(ASTM D445-19)に準拠した方法により測定される値である。
【0085】
潤滑油組成物の粘度指数は、150以上であることが好ましく、170以上であることがより好ましく、190以上であることが更に好ましい。
【0086】
潤滑油組成物の100℃の動粘度及び粘度指数が上記範囲を満たすと、潤滑性を保持し、かつ、低温特性にもより優れる。
【0087】
潤滑油組成物の粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定される値である。
【0088】
潤滑油組成物の密度は、特に限定されないが、例えば、0.75g/cm3~1.00g/cm3であることが好ましく、0.77g/cm3~1.00g/cm3であることがより好ましく、0.80g/cm3~0.95g/cm3であることが更に好ましい。
【0089】
潤滑油組成物の密度は、JIS K 2249-1:2011に準拠した方法により測定される値である。
【0090】
[潤滑油組成物の調製方法]
本開示に係る潤滑油組成物の調製方法は、特に制限されず、特定基油を含む基油と、必要に応じて添加される先述の各成分を適宜混合すればよい。各成分の混合順序は、特に限定されるものではない。
【0091】
[潤滑油組成物の用途]
本開示に係る潤滑油組成物は、農業機械に使用する態様を含む。即ち、本開示に係る潤滑油組成物の一態様は、農業機械用潤滑油組成物である。農業用機械としては、農業機械である整地用作業機のトラクター、育成管理用作業機の田植え機、収穫用作業機のバインダー、コンバイン等が挙げられる。中でも、本開示に係る潤滑油組成物は、トラクターに好適に使用することができ、油圧ポンプ部、変速装置部、PTOクラッチ部、差動歯車装置部、湿式ブレーキ部等の共用潤滑油として使用することができる。
【0092】
本開示に係る潤滑油組成物は、農業機械用滑油組成物とする以外にも、例えば、内燃機関用、油圧作動油用、及びギヤ油用の潤滑油組成物として適用することができる。
【実施例0093】
本開示に係る潤滑油組成物について、実施例及び比較例により、さらに詳細に説明する。ただし、本開示に係る潤滑油組成物は、以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【0094】
<基油及び添加剤の準備>
(1)基油
鉱物油である基油5種と、特定基油である植物由来の基油6種(表中では「植物油」と表示する。)を準備した。各基油について、先述の測定法により測定された100℃における動粘度(表中「100℃動粘度」と称する)、及び重量平均分子量(Mw)(表中では「Mw」と表示する。)を表1に示す。
【0095】
(2)粘度指数向上剤液X(有効成分量:50質量%)
有効成分:ポリメチルメタクリレート(重量平均分子量:14万、粘度指数向上剤)
【0096】
(3)その他の添加剤
摩擦摩耗防止剤、分散剤、金属型清浄剤、摩擦調整剤、酸化防止剤、流動点降下剤、錆止め剤、シリコーン系消泡剤を含む全ての添加剤の総量をまとめて表1に示す。
【0097】
<実施例1~実施例10及び比較例1~比較例5>
基油、粘度指数向上剤、及びその他の添加剤を、表1に示す配合量(質量%)にて混合して、各例の潤滑油組成物を調製した。
【0098】
表1中、「関係式(1)」、「関係式(2)」及び「関係式(3)」の欄では、関係式(1)~(3)を満たすものを「満」と表記し、満たさないものと「非」と表記した。
【0099】
表1中、「粘度指数向上剤量A/(粘度指数向上剤量A+特定基油量B)」の欄は、粘度指数向上剤の含有量をA[質量%]とし、植物由来の基油の含有量をB[質量%]としたときのA/(A+B)の算出値を示す。「粘度指数向上剤量A」は、粘度指数向上剤液Xに含まれる粘度指数向上剤量、すなわち有効成分量[質量%]に対応する。「特定基油量B」は、植物油1~6(特定基油)の合計含有量[質量%]に対応する。
【0100】
<測定及び評価>
上記にて得られた各例の潤滑油組成物について、以下の測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(1)密度
潤滑油組成物の密度(15℃)は、JIS K 2249-1:2011に準拠した方法により測定した。
(2)動粘度及び粘度指数
潤滑油組成物の動粘度及び粘度指数は、JIS K 2283:2000に準拠した方法により測定した。
(3)BF粘度
潤滑油組成物のBF粘度は、ASTM D 2983に準拠した方法により測定した。BF粘度の値が、18000mPa以下を合格とする。BF粘度が合格であることは、低温特性に優れることを意味する。
【0102】
(4)せん断安定性
SONICせん断安定性試験:JPI-5S-29「潤滑油せん断安定度試験方法」に準拠し、30分後の新油との100℃の動粘度変化率(低下率)を算出した。
得られ結果に基づき、下記の評価基準によってせん断安定性を評価した。
-評価基準-
A:粘度効果率が9%以下である。
B:粘度効果率が9%超12%以下である。
C:粘度効果率が12%超である。
【0103】
【0104】
図1は、各例で用いた基油における、100℃における動粘度と重量平均分子量(Mw)との相関図である。
図1中、各基油のプロットに適用した数値としては、表1に記載の100℃における動粘度及びMwの項目に記載された数値を採用している。
【0105】
表1及び
図1に示す通り、関係式(1)を満たす基油を含む実施例の潤滑油組成物は、関係式(1)を満たす基油を含まない比較例の潤滑油組成物に比べて、低温特性及びせん断安定の両方に優れることが分かる。