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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024073976
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C05B 17/00 20060101AFI20240523BHJP
   C05F 7/00 20060101ALI20240523BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C05B17/00
C05F7/00
C02F11/00 C ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022184994
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】500228090
【氏名又は名称】三光株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三輪 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】水谷 農
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正明
【テーマコード(参考)】
4D059
4H061
【Fターム(参考)】
4D059AA03
4D059BB03
4D059BH05
4D059CC01
4D059DA32
4D059DA33
4D059DA70
4H061AA02
4H061BB21
4H061CC51
4H061GG14
4H061GG19
4H061GG21
4H061GG25
4H061GG29
4H061GG41
4H061GG52
4H061KK02
4H061KK05
4H061LL22
4H061LL26
(57)【要約】
【課題】下水汚泥炭から抽出したリンとバイオマス灰を使用した肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭11に酸12を加えてリンを抽出しリン抽出液13を得るリン抽出工程S11と、リン抽出液13にバイオマス灰15を混合し、リンをバイオマス灰15に吸収させてリン吸収灰を得るリン吸収工程S12と、リン吸収灰を脱水して脱水灰を得る脱水工程S13と、脱水灰とバイオマス灰15を混合して水分を調整して水分調整灰を得る水分調整工程S14と、水分調整灰を乾燥する乾燥工程S15とを含んだ肥料の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭に酸を加えてリンを抽出しリン抽出液を得るリン抽出工程と、前記リン抽出液に木質バイオマス発電所から排出される焼却灰を混合し、前記リンを前記焼却灰に吸収させてリン吸収灰を得るリン吸収工程と、前記リン吸収灰を脱水して脱水灰を得る脱水工程と、前記脱水灰と前記焼却灰を混合して水分を調整して水分調整灰を得る水分調整工程と、前記水分調整灰を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする肥料の製造方法。
【請求項2】
下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭に酸を加えてリンを抽出しリン抽出液を得るリン抽出工程と、木質バイオマス発電所から排出される焼却灰を成形して成形灰を得る成形工程と、前記リン抽出液と前記成形灰を混合し、前記リンを前記成形灰に吸収させてリン吸収成形灰を得るリン吸収工程と、前記リン吸収成形灰を脱水して脱水成形灰を得る脱水工程と、前記脱水成形灰を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする肥料の製造方法。
【請求項3】
前記焼却灰または前記成形灰と前記リン抽出液を混合してできる混合液のpHを2以上に調整することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の肥料の製造方法。
【請求項4】
前記成形灰は、0.5mmのスリットを通過せず、且つ16mmのスリットを通過することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の肥料の製造方法。
【請求項5】
前記酸はモル濃度が0.5mol/L以上であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の肥料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭からリンを抽出して木質バイオマス発電所から排出される焼却灰に吸収させる肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年地球温暖化に対する関心が高まるにつれてその原因の一つである温室効果ガスの排出抑制が重要な課題となってきており、炭酸ガス排出量が多い石炭火力発電所等の廃止が進められている。一方で木質バイオマス発電所から排出される炭酸ガスは燃料である木質燃料が大気中から吸収したものであり、新たに排出される炭酸ガスは実質「0」とされ、日本では電力固定価格買取制度(FIT)の対象になっており、木質バイオマス発電所の新設が進められているが、木質バイオマス発電所から排出される大量の焼却灰(以下、バイオマス灰ともいう。)はそのリサイクル方法が確立されておらず、その多くが埋め立て処分されている。
【0003】
一方バイオマス灰は、間伐材等の木質燃料を使用していることからカリウム、カルシウム、リン、鉄等の木質由来の植物の栄養素を含み、さらにまた木質バイオマス発電所の多くで使用されている流動層炉の流動媒体である砂由来の硅素を含んでいることから肥料への利用が検討されている。
【0004】
特に珪素の施肥を目的とした肥料に関して、例えば特許文献1(特開2021-14394号公報)には、バイオマス灰を用いてKOを1.0質量%以上、およびSiOを20重量%以上含むカリウム源に、マグネシウム源および/またはカルシウム源を、Mg/Caモル比が0.25~1.0および/またはCa/Siモル比が1.25~1.95になるように混合した混合材料を、1275~1400℃で焼成した後、毎分30℃以下の速度で冷却して珪酸質肥料を製造する方法が開示されており、メルビナイト及びモンティセライトの合計の含有率が30%以上である珪酸質肥料であり、水-弱酸性陽イオン交換樹脂法により測定した水溶性珪酸の水溶率が13%以上、溶性加里が0.5%以上の肥料が示されている。
【0005】
また特許文献2(特開2019-85319号公報)には、長石を含む砂を流動媒体として用いた流動層ボイラーによりバイオマス燃料を燃焼させて排出される焼却灰を含むイネ科植物用肥料が示されている。流動媒体中の長石に含まれる珪酸は比較的水に溶出し易く、これらの微粉が焼却灰と混ざって排出されるため、このバイオマス灰を肥料としたイネ科植物の肥料が開示されている。
【0006】
またバイオマス灰に含まれるリンは、植物の三大栄養素のひとつであり、リン鉱石から得られるリンの多くが化学肥料として使用されているが、近年リン資源の枯渇が世界的に問題となってきており、輸出を制限する産出国も出てきたため、ほぼ100%を輸入に頼っている日本においてはその安定的な入手はより重要な課題となっている。このためバイオマス灰を肥料にすることでバイオマス灰中のリンを肥料として利用できるが、バイオマス灰に含まれるリンの含有率は1%(リン酸換算4.6%)程度であり、リンの施肥効果は十分ではない。
【0007】
一方生活排水にはリンが含まれており、有用なリン資源として注目されている。生活排水は主に下水処理場において処理されたのち、固液分離されて脱水液はさらにMAP法またはHAP法等のリン回収方法によりリンが回収され肥料とされる場合もあるが、リンの多くは固形分側に濃縮され、炭化処理または焼却処理を施されてその多くは埋め立て処分されており、一部下水汚泥炭や焼却灰から酸、またはアルカリ処理によりリンを抽出、回収することも検討されている。
【0008】
例えば特許文献3(特開2007-246361号公報)では、下水汚泥焼却灰を50℃以上のアルカリ性溶液(NaOHまたはKOH)と接触させてリン酸を抽出したのち、固液分離しリン酸溶液にカルシウム源(生石灰、消石灰、ドロマイト)を添加し、生成されたリン酸カルシウムを回収することでリン酸の含有率が安定した肥料が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-14394号公報
【特許文献2】特開2019-85319号公報
【特許文献3】特開2007-246361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載の肥料の製造方法は、バイオマス焼却灰にその他の薬剤を加え、さらに1275~1400℃の高温で焼成する必要があり、製造コストが高くなる問題がある。
【0011】
また上記特許文献2では、アルカリ分が多いバイオマス灰をそのまま肥料として使用しており、これを施用すると土壌のpH(水素イオン濃度)が高くなるが、主に水田への施用が想定されているため、水田中の多量の水によってアルカリ分が薄められ、土壌のpHは高くならず問題とならない。
【0012】
一方、同様にイネ科植物である芝生のように湛水栽培を行わない植物の肥料として使用する場合、そのまま使用すると土壌のpHが高くなり、植物の生育不良の原因となる場合がある。
【0013】
そこで本発明者らは、下水汚泥炭およびバイオマス灰に含まれる植物の栄養素を有効に活用すべく鋭意検討を行った結果、下水汚泥炭からリンを抽出し、バイオマス灰に混合することでバイオマス灰中のリン含有率を高くすることができ、且つ中和によりpHを下げることができることに想到し、本発明に至ったものである。
そこで本発明の目的は、下水汚泥炭に含まれるリンを利用してバイオマス灰中のリンの含有率を高めた肥料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様の肥料の製造方法は、下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭に酸を加えてリンを抽出しリン抽出液を得るリン抽出工程と、前記リン抽出液に木質バイオマス発電所から排出される焼却灰を混合し、前記リンを前記焼却灰に吸収させてリン吸収灰を得るリン吸収工程と、前記リン吸収灰を脱水して脱水灰を得る脱水工程と、前記脱水灰と前記焼却灰を混合して水分を調整して水分調整灰を得る水分調整工程と、前記水分調整灰を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の第2の態様の肥料の製造方法は、下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭に酸を加えてリンを抽出しリン抽出液を得るリン抽出工程と、木質バイオマス発電所から排出される焼却灰を成形して成形灰を得る成形工程と、前記リン抽出液と前記成形灰を混合し、前記リンを前記成形灰に吸収させてリン吸収成形灰を得るリン吸収工程と、前記リン吸収成形灰を脱水して脱水成形灰を得る脱水工程と、前記脱水成形灰を乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の第3の態様の肥料の製造方法は、第1または第2のいずれかの肥料の製造方法であって、前記焼却灰または前記成形灰と前記リン抽出液を混合してできる混合液のpHを2以上に調整することを特徴とする。
【0017】
本発明の第4の態様の肥料の製造方法は、第2または第3のいずれかの肥料の製造方法であって、前記成形灰は、0.5mmのスリットを通過せず、且つ16mmのスリットを通過することを特徴とする。
【0018】
本発明の第5の態様の肥料の製造方法は、第1~4のいずれかの肥料の製造方法であって、前記酸はモル濃度が0.5mol/L以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の態様の肥料の製造方法によれば、有効に利用されていなかった下水汚泥炭に含まれるリンと廃棄物処理されていたバイオマス灰を原料とし、リンの含有率を高めた肥料を製造することができる。
【0020】
本発明の第2の態様の肥料の製造方法によれば、リン吸収後の脱水装置が簡略化できるうえ、リン吸収前に成形を行うことで成形する際に粘結剤を必要としない。
【0021】
本発明の第3の態様の肥料の製造方法によれば、下水汚泥炭から抽出したリンをバイオマス灰に多く吸収させることができるため、リン含有率の高い肥料が得られる。
【0022】
本発明の第4の態様の肥料の製造方法によれば、成形灰の中心部までリンが浸透するため、リン含有率の高い肥料が得られる。
【0023】
本発明の第5の態様の肥料の製造方法によれば、下水汚泥炭から十分なリンを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態1に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
図2】本発明の実施形態2に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
図3】硫酸の濃度とリン抽出率の関係を示すグラフである。
図4】リン抽出液とバイオマス灰の混合液のpHとリン含有率の関係を示すグラフである。
図5】成形灰の大きさとリン含有率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して本発明の実施形態に係る肥料の製造方法について説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具現化するための肥料の製造方法を例示するものであって、本発明をこれに特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適用し得るものである。
【0026】
[実施形態1]
図1を参照して、実施形態1に係る肥料の製造方法を説明する。なお、図1は本発明の実施形態1に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
本発明の実施形態1に係る肥料の製造方法10Aは、下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭11に酸12を加えてリンを抽出しリン抽出液13を得るリン抽出工程S11と、リン抽出液13にバイオマス灰15を混合し、リンをバイオマス灰15に吸収させてリン吸収灰を得るリン吸収工程S12と、リン吸収灰を脱水して脱水灰を得る脱水工程S13と、脱水灰とバイオマス灰15を混合して水分を調整して水分調整灰を得る水分調整工程S14と、水分調整灰を乾燥する乾燥工程S15とを含んでいる。以下に各工程を詳述する。
【0027】
リン抽出工程S11:
この工程では、下水汚泥炭11に酸12を加えてリンを抽出する。一般的な下水汚泥を炭化してなる下水汚泥炭11において、リンは主にリン酸カルシウム塩の形態で存在しており、酸12を加えることで下水汚泥炭11に含まれるリン酸カルシウム塩は溶出する。これをろ過することでリンを含んだリン抽出液13と抽出残滓14が得られる。
【0028】
使用する酸12は特に限定されるものではないが硫酸または塩酸等の強酸を使用することでリンの溶出率が高くなる。なお、この時使用する酸12の種類によって肥料16の組成が変わるが、詳細は後述する。また、リン抽出液13と同時に得られる抽出残滓14はリンの含有率が低くなっているため、リンを嫌う製鉄関係で使用される保温材等にも利用できる。
なお、下水汚泥炭11の代わりに下水汚泥を焼却して得られる下水汚泥焼却灰を使用してもリン抽出液13が得られ、同様に使用することができる。
【0029】
リン吸収工程S12:
この工程では、リン抽出液13とバイオマス灰15を混合してバイオマス灰15にリンを吸収させる。リン抽出液13は酸性を示すため、バイオマス灰15を混合するとバイオマス灰15中のカリウムおよびカルシウム等のアルカリ分によってリン抽出液13は中和される。このときリン抽出液13中のリンとカルシウムは結合してリン酸カルシウムとして析出し、バイオマス灰15と混合されリン吸収灰となる。
【0030】
リン抽出工程S11において酸12に塩酸を使用する場合、中和により生成される塩は主にリン酸カルシウムのほか塩化カリウムと塩化カルシウムである。このうち塩化カリウムと塩化カルシウムは水溶性を示すため、脱水工程S13で脱水を行うとバイオマス灰15中にはリン酸カルシウムだけが残り、塩化カリウムと塩化カルシウムは殆ど残らないため、肥料16中のリンの含有率はより高くなる。一方、栄養素の一つであるカリウムの含有率が低くなるが水溶性のカリウムは施用しても雨水等によりすぐに流出してしまうため肥料としての効果は低く、バイオマス灰15中に残存する非水溶性のカリウムによってカリウムの肥料効果は失われない。
【0031】
一方、硫酸を使用する場合、生成される塩は主にリン酸カルシウムのほか硫酸カリウムと硫酸カルシウムであり、このうちリン酸カルシウムと硫酸カルシウムは非水溶性で析出し、バイオマス灰15と混合、吸収されるため、リン酸カルシウムによるリンの施肥効果のほか硫酸カルシウムによる硫黄の施肥効果も得られる肥料になる。
【0032】
脱水工程S13:
この工程では、リン吸収灰から水分をある程度除去する。この工程で水分を除去することで水分調整工程S14で混合するバイオマス灰の混合量を減らすことができる。この工程で使用する脱水装置は、フィルタープレス機、ベルトプレス機、加圧・真空ろ過機等の一般的な脱水装置が使用できる。
【0033】
水分調整工程S14:
この工程では、脱水工程S13で脱水した脱水灰にバイオマス灰15を混合して含水率を調整する。混合するバイオマス灰を多くすることで乾燥工程S15を省略できるが、リンの含有率が低下する。反対にこの工程を省略することでリンの含有率を高くし、脱水工程S15で最終含水率に調整しても良い。また、リン吸収工程S12で酸性側にしておき、この工程でバイオマス灰15の混合量を調整して肥料のpHを調整しても良い。
なお、必要に応じて成形を行う場合は、この工程の後に行うとよいが、中和等によって水和に必要なアルカリ分が失われているため、必要に応じて粘結剤を添加するとよい。
【0034】
乾燥工程S15:
この工程では、水分調整工程S14で水分を調整した水分調整灰を乾燥する。この工程で使用する乾燥装置は、温風乾燥機、蒸気乾燥機、真空乾燥機等の一般的な乾燥装置でよく、また送風乾燥および天日乾燥でもよい。なお、この工程の後に水分調整工程S14を行うこともできる。この場合、バイオマス灰を混合することにより含水率が下がることを想定し、最終の含水率より高い含水率までの乾燥でよく、加熱乾燥等する場合、混合するバイオマス灰を加熱するための熱量が不要となるうえ、乾燥機の処理容量を減らすことができる。
【0035】
[実施形態2]
図2を参照して、実施形態2に係る肥料の製造方法を説明する。なお、図2は本発明の実施形態2に係る肥料の製造方法の工程ブロック図である。
本発明の実施形態2に係る肥料の製造方法10Bは、下水汚泥を炭化して得られる下水汚泥炭11に酸12を加えてリンを抽出しリン抽出液13を得るリン抽出工程S21と、バイオマス灰15を成形して成形灰を得る成形工程S22と、リン抽出液13と成形灰を混合し、リンを成形灰に吸収させてリン吸収成形灰を得るリン吸収工程S23と、リン吸収成形灰を脱水して脱水成形灰を得る脱水工程S24と、脱水成形灰を乾燥する乾燥工程とを含んでいる。以下に各工程を詳述する。
【0036】
リン抽出工程S21:
この工程は、実施形態1の肥料の製造方法のリン抽出工程S11と同じであり、重複を避けるため説明を省略する。
【0037】
成形工程S22:
この工程では、バイオマス灰15に水を加えて所定の形状に成形する。バイオマス灰に含まれるアルカリ分によって水和反応が生じバイオマス灰15は結合するため、新たに粘結剤を添加する必要がなく、十分な強度が得られる。
【0038】
成形灰は0.5mmのスリットを通過せず、且つ16mmのスリットを通過する大きさにする。0.5mmのスリットを通過する場合、脱水工程S24においてリン吸収成形灰と液分の分離にろ過装置等の固液分離装置が必要となり、また固液分離の際にリン成形灰が解砕されてしまう恐れがある。なお、好ましくは2mmのスリットを通過しない大きさにすることでより脱水工程S24での脱水効率が上がる。
【0039】
また16mmのスリットを通過しない大きさに成形すると、リン吸収工程S23においてリン抽出液13が成形灰の中心まで浸透しにくくなりリン含有率が低くなることから、16mmのスリットを通過するように成形するとよく、より好ましくは8mmのスリットを通過する大きさに成形する。詳細は後述する。
【0040】
なお、この工程で使用する成形装置は、プレス成型機、押出成形機等の一般的な成形装置でよく、また転動造粒機、撹拌造粒機等の一般的な造粒装置も使用できる。
【0041】
リン吸収工程S23:
この工程では、リン抽出液13と成形灰を混合し、成形灰にリン抽出液13中のリンを吸収させる。リン抽出液13は酸性を示し、これに成形灰を混合すると、リン抽出液13は成形灰の中に浸透する。成形灰中に浸透したリン抽出液13は成形灰中のアルカリ分によって中和され、リン酸カルシウム等のリン酸塩が析出し、成形灰中に固定される。このとき成形灰の表面付近から反応が進み、リン抽出液13はリンを失いながら内部に浸透するため、成形灰の内部に行くにしたがってリン含有率は低下する。
また成形灰表面から溶出するアルカリ分によって成形灰表面付近もpHが下がるため、成形灰の表面にも微小なリン酸カルシウム(微粉)17が析出する。
【0042】
なお、リン抽出工程S21において使用する酸の種類によって肥料16の組成が変わるが、実施形態1のリン吸収工程S12と同じであり、重複を避けるため説明を省略する。
【0043】
脱水工程S24:
この工程では、リン吸収成形灰と液分を分離する。この工程では成形灰が解砕される可能性があるためろ過装置等の固液分離装置は使用せず、目開き0.5mmの網で濾して液分を分離すればよく、高価な脱水装置を使用しなくてよい。
このとき、リン吸収工程S23で生成される微小なリン酸カルシウム(微粉)17やその他の塩は分離液と一緒にリン吸収成形灰から分離されるが、この分離液をろ過したのちろ過物をバイオマス灰15に混合して成形工程S22において成形することで成形灰の中に取り込むことができる。
【0044】
乾燥工程S25:
この工程では、脱水成形灰を乾燥し肥料16を得る。この工程で使用する乾燥装置は、温風乾燥機、蒸気乾燥機、真空乾燥機等の一般的な乾燥装置でよく、また送風乾燥および天日乾燥でもよい。
【実施例0045】
本発明の実施形態1の肥料の製造方法によって下水汚泥炭から抽出したリンを吸収させたバイオマス灰を作製してリン含有率を測定した。
下水汚泥を600℃で炭化して得られた下水汚泥炭10gをモル濃度の異なる硫酸200mlと混合し1時間撹拌後、ろ過を行い、得られた抽出残滓(試料1~4)のリン含有率を測定しリン抽出率を算出した。その結果を表1および図3に示した。
【0046】
【表1】
【0047】
表1および図3に示した結果から、硫酸のモル濃度が0.5mol/Lでは84.2重量%、1mol/Lでは88.5重量%のリンが抽出できることが判明した。なお、リン抽出率は、モル濃度が1mol/L以上では殆ど変わらないと考えられるうえ、中和に必要なバイオマス灰の量が多くなり、肥料のリン含有率が低下すると考えられる。
【0048】
次に0.5mol/Lの硫酸で抽出したリン抽出液100mlにバイオマス灰を5~50gの間で混合、撹拌したのち、混合液のpHを測定した。その後ろ過を行いリン吸収灰とろ過液とに分離した。分離したリン吸収灰を乾燥機で乾燥させ試料(試料5~12)を作製し、リン含有率を測定した。その結果を表2及び図4に示した。
【0049】
【表2】
【0050】
表2および図4に示した結果から、以下のことが判明した。
混合液のpHが1.2(バイオマス灰の重量5g)のとき、リン含有率は0.56重量%と処理前のリン含有率1.16重量%よりも減少した。これは混合液のpHが低すぎてリン酸カルシウムが析出しないうえ、バイオマス灰中のリンも溶出したためと考えられる。pH2.0(重量7.5g)では、リン酸カルシウムの析出が始まりリン含有率が2.28重量%と増加し、pH2.8(重量10g)では、リン含有率は2.87重量%と処理前の2.5倍になった。
【0051】
またpH3.6(重量12.5g)では、リン含有率が2.39重量%と減少に転じ、その後pHが高くなる(混合量が増加する)につれて徐々に減少し、pH9.1(重量50g)では、リン含有率が1.62重量%まで低下したが、処理前の1.4倍に増加することが確認できた。これはリン抽出液中のリンがすべて吸収されるとその後はリンの含有量は増加しないのに対して、リン含有率の低いバイオマス灰の量が増加するためである。
【0052】
なお、混合するバイオマス灰の量がさらに増加するとリン含有率は低下するが、施用する土壌が強い酸性土で土壌のpHを上げる土壌改良材の効果を兼ねるためにバイオマス灰の混合量を増やしても良く、リン含有率は高くはないが、利用されずに処分される下水汚泥炭に含有されるリンを肥料の原料に使用することには変わりなく、必要であればその他のリン化合物等を加えてもよい。
従って、リン抽出液とバイオマス灰の混合液をpH2以上に調整することでリン含有率を高くでき、pH2以上、且つpH9以下とすることでより好ましい肥料が得られる。
【実施例0053】
本発明の実施形態2の肥料の製造方法によって下水汚泥炭から抽出したリンを含有したバイオマス灰による肥料を製作した。
実施例1と同様にして得た下水汚泥炭50gと1mol/L塩酸1Lを混合し、1時間撹拌したのち、ろ過しリン抽出液を得た。またバイオマス灰に水を加えて成形し、網で目開き0.5~2mm、2~4mm、4~8mm、8~16mmの4つの大きさに分級した。
次に各成形灰25gをリン抽出液100mlと混合し、30分と1時間の2条件で撹拌を行ったのち、目開き0.5mmの網で液切りを行ったのち、乾燥機で乾燥し、試料(試料13~22)を得た。 製作した試料をそれぞれ解砕し、リン含有率を測定した。その結果を表3および図5に示した。
【0054】
【表3】
【0055】
表3および図5に示した結果から、以下のことが判明した。
目開き0.5mm以上、2mm未満の試料は、リン含有率が未成形の試料とほぼ同等であったが、2mm以上、4mm未満の試料は、撹拌時間が30分間では若干落ちるが、1時間撹拌すると未成形の試料とほぼ同等であった。一方4mm以上、8mm未満の試料は、1時間撹拌でもリン含有率が1.85重量%と未成形の試料に対して13%減少し、8mm以上、16mm未満の試料は、1.64重量%と23%減少したが、処理前のバイオマス灰の1.16重量%と比べると1.4倍増加した。
【0056】
なお、目開き16mm以上大きくした場合、畑地等に撒くとまばらになりまたムラになり易いため実用的ではないが、湛水栽培、水耕栽培、水生植物の肥料として利用する場合にはリン含有率はあまり高くはならないが、水中に溶出し、拡散するため有効に作用するうえ、特に水流がある場所では大きくすることで流出を防止できる。また、厚みが16mm未満の平板や直径が16mm未満の棒状に成形することで球状に成形した場合と同等にリン抽出液が成形灰に浸透できるため、リン含有率を高くすることができる。
【実施例0057】
本発明の実施形態2の肥料の製造方法によって下水汚泥炭から抽出したリンを含有したバイオマス灰による肥料を製作した。
実施例1と同様にして得た下水汚泥炭50gと0.5mol/L硫酸5Lを混合し、1時間撹拌したのちろ過を行い、リン抽出液を得た。またバイオマス灰に水を加えて造粒し、0.5mmと8mmのスリットで分級したのち、天日乾燥を行い、成形灰を製作した。
次に製作した成形灰1kgとリン抽出液4Lを混合し、1時間撹拌後、目開き0.5mmの網で濾し、その後乾燥機で乾燥して肥料を作製した。
得られた肥料を芝生に施用した結果、芝生は順調に生育し、施用効果が確認できた。
【符号の説明】
【0058】
10A ,10B 肥料の製造プロセス
S11 ,S21 リン抽出工程
S12 ,S23 リン吸収工程
S13 ,S24 脱水工程
S14 水分調整工程
S15 ,S25 乾燥工程
S22 成形工程
11 下水汚泥炭
12 酸
13 リン抽出液
14 抽出残滓
15 バイオマス灰
16 肥料
17 リン酸カルシウム(微粉)
図1
図2
図3
図4
図5