(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074004
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
F16J15/34 H
F16J15/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185037
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 貴大
(72)【発明者】
【氏名】喜藤 雅和
(72)【発明者】
【氏名】田中 寛志
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA03
3J041BA04
3J041BD01
3J041DA05
3J041DA16
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】排出口に設けられたシールケース及びハウジングにブランクピースを溶接等により固定せずとも様々な位置の排出口に対してエクスターナル流体の排出が可能なメカニカルシールを提供する。
【解決手段】シールケース12は、排出口31における回転軸2の回転方向下流側に配置される突起144を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体機器のハウジングに取付けられるシールケースと、前記シールケースに固定される静止密封環と、前記ハウジングおよび前記シールケースに挿通される回転軸に固定され前記静止密封環に対して相対回転により摺動する回転密封環と、を備え、前記ハウジングまたは前記シールケースに形成された導入口からエクスターナル流体を導入し前記ハウジングに形成された排出口から前記エクスターナル流体を排出するメカニカルシールであって、
前記シールケースは、該シールケースから軸方向に延び、前記排出口における前記回転軸の回転方向下流側に配置される突起を備えているメカニカルシール。
【請求項2】
前記シールケースは、前記静止密封環を保持する保持体と、前記保持体とは別体の前記突起を有する静止構造体と、を少なくとも有する分割構造である請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記静止構造体と前記シールケースとの相対的な周方向位置を位置決めする位置決め機構を備えている請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記突起の先端部には、前記回転軸の回転方向上流側に向けて延びる返り部が設けられている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記突起における前記回転軸の回転方向上流側の端面は、前記突起の先端部から前記シールケース側に向けて前記回転軸の回転方向下流側に傾斜して延びている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記突起における前記回転軸の回転方向上流側の端面は、内径側から外径側に向けて前記回転軸の回転方向下流側に傾斜している請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
流体機器のハウジングに取付けられるシールケースと、前記シールケースに固定される静止密封環と、前記ハウジングおよび前記シールケースに挿通される回転軸に固定され前記静止密封環に対して相対回転により摺動する回転密封環と、を備え、前記ハウジングまたは前記シールケースに形成された導入口からエクスターナル流体を導入し前記シールケースに形成された排出口から前記エクスターナル流体を排出するメカニカルシールであって、
前記シールケースは、前記排出口が設けられた排出口形成体と、前記排出口形成体とは別体の前記静止構造体と、を少なくとも有する分割構造であり、
前記静止構造体は、前記排出口における前記回転軸の回転方向下流側に配置される突起を備えているメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を軸封するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、流体機器のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着して使用されるものであり、ハウジングに取付けられる固定側ケースに固定される固定環の摺動面と、回転軸に取付けられる回転側ケースに固定され回転する回転環の摺動面とを周方向に摺接させて、摺動面に生じる摩擦を低減するとともに被密封流体の漏れを防ぐ機能を有している。このようなメカニカルシールにあっては、静止密封環の摺動面と回転密封環の摺動面との冷却や洗浄を行うために、被密封流体空間と大気空間との間の中間空間にエクスターナル流体を流し込むことが行われている。
【0003】
このようなメカニカルシールとして、例えば、特許文献1に示されるように、固定環と回転環の中間空間にエクスターナル流体が満たされており、中間空間には、メカニカルシールの外部に設けられる外部流路が接続されている。この外部流路にはエクスターナル流体のタンクやエクスターナル流体を冷やすクーラーが設けられている。また、固定環が固定されるシールケースに外部流路に連通するエクスターナル流体の導入口と排出口とが設けられている。また、回転環の外径側にはパーシャルインペラが固定されている。
【0004】
パーシャルインペラが回転環とともに回転することで、エクスターナル流体がパーシャルインペラの外径側に向けて導かれ、これにより中間空間から外部流路にエクスターナル流体が排出されるとともに、外部流路から中間空間にエクスターナル流体が導入されて循環するようになっている。これにより、ポンプなどを用いずに中間空間に冷却されたエクスターナル流体を順次供給できるようになっている。
【0005】
また、シールケースの内周面には、ブランクピースが設けられている。このブランクピースは、排出口におけるパーシャルインペラの回転方向下流側に内径方向に突出するように溶接等により設けられており、パーシャルインペラの外径側に向けて導かれたエクスターナル流体がブランクピースに当接することにより効率よく排出口へと導かれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-89800号公報(第7頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようなメカニカルシールにあっては、流体機器の仕様により排出口はシールケースに設けられる場合やハウジングに設けられる場合があり、さらにシールケースまたはハウジングに対する排出口の周方向位置や軸方向位置は様々である。様々な位置の排出口に対応する場合、各排出口の適正位置にブランクピースを固定的に設置したシールケースおよびハウジングを用意する必要があり、様々な位置の排出口に対応することが煩雑であった。また、このブランクピースのシールケース及びハウジングへの固定は一般的に溶接により行われているため、特に溶接部に対する耐久性の面でも懸念があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、排出口に設けられたシールケース及びハウジングにブランクピースを溶接等により固定せずとも様々な位置の排出口に対してエクスターナル流体の排出が可能なメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
流体機器のハウジングに取付けられるシールケースと、前記シールケースに固定される静止密封環と、前記ハウジングおよび前記シールケースに挿通される回転軸に固定され前記静止密封環に対して相対回転により摺動する回転密封環と、を備え、前記ハウジングまたは前記シールケースに形成された導入口からエクスターナル流体を導入し前記ハウジングに形成された排出口から前記エクスターナル流体を排出するメカニカルシールであって、
前記シールケースは、該シールケースから軸方向に延び、前記排出口における前記回転軸の回転方向下流側に配置される突起を備えている。
これによれば、突起を排出口に適切に配置できることで、様々な位置の排出口に対してエクスターナル流体の排出が可能となる。尚、突起は溶接しなくても構成できる。
【0010】
前記シールケースは、前記静止密封環を保持する保持体と、前記保持体とは別体の前記突起を有する静止構造体と、を少なくとも有する分割構造であってもよい。
これによれば、シールケースを構成する他の部材を分解せずとも、静止構造体を動かして突起の位置調整や交換ができる。また、シールケースと静止密封環とを組立てやすい。
【0011】
前記静止構造体と前記シールケースとの相対的な周方向位置を位置決めする位置決め機構を備えていてもよい。
これによれば、メカニカルシールの使用時に突起の周方向位置が変わることを防止できる。
【0012】
前記突起の先端部には、前記回転軸の回転方向上流側に向けて延びる返り部が設けられていてもよい。
これによれば、エクスターナル流体が突起の先端部から軸方向に逃げることが抑制され、エクスターナル流体が排出口に効率よく導かれる。
【0013】
前記突起における前記回転軸の回転方向上流側の端面は、前記突起の先端部から前記シールケース側に向けて前記回転軸の回転方向下流側に傾斜して延びていてもよい。
これによれば、エクスターナル流体が突起の先端部から軸方向に逃げることが抑制され、エクスターナル流体が排出口に効率よく導かれる。
【0014】
前記突起における前記回転軸の回転方向上流側の端面は、内径側から外径側に向けて前記回転軸の回転方向下流側に傾斜していてもよい。
これによれば、エクスターナル流体が外径側の排出口に向けて効率よく導かれる。
【0015】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
流体機器のハウジングに取付けられるシールケースと、前記シールケースに固定される静止密封環と、前記ハウジングおよび前記シールケースに挿通される回転軸に固定され前記静止密封環に対して相対回転により摺動する回転密封環と、を備え、前記ハウジングまたは前記シールケースに形成された導入口からエクスターナル流体を導入し前記シールケースに形成された排出口から前記エクスターナル流体を排出するメカニカルシールであって、
前記シールケースは、前記排出口が設けられた排出口形成体と、前記排出口形成体とは別体の前記静止構造体と、を少なくとも有する分割構造であり、
前記静止構造体は、前記排出口における前記回転軸の回転方向下流側に配置される突起を備えている。
これによれば、静止構造体の突起を排出口に適切に配置できることで、様々な位置の排出口に対してエクスターナル流体の排出が可能となる。シールケースを動かさず、静止構造体を動かして突起の位置調整や交換ができる。シールケースと静止密封環とを組立てやすい。尚、突起は溶接しなくても構成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールを示す模式断面図である。
【
図2】(a)は静止構造体を示す上面図、(b)はA-A断面図である。
【
図3】(a)はケースと静止構造体との相対回転を規制する手段を示す模式断面図、(b)はケースと静止構造体との軸方向の相対移動を規制する手段を示す模式断面図、ケースと静止構造体との固定手段を示す模式断面図である。
【
図4】パーシャルインペラと静止構造体とを外径側から見た模式図である。
【
図6】本発明の実施例2における突起の形状を示す模式図である。
【
図7】本発明の実施例3における突起の形状を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施例4における突起の形状を示す模式図である。
【
図9】本発明の実施例5におけるメカニカルシールを示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0018】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図5を参照して説明する。以下、
図1の紙面左側を左側、紙面右側を右側として説明する。
【0019】
図1に示されるように、メカニカルシール1は、回転軸2と流体機器のハウジング3との間の環状空間を密封するために用いられる。尚、このメカニカルシール1の軸方向左側には図示しない別のメカニカルシールが設けられており、メカニカルシール1と別のメカニカルシールとの間にはエクスターナル流体が満たされる空間Sが形成されている。さらに尚、空間Sの左側は、被密封流体側空間となっており、空間Sの右側は大気空間となっている。
【0020】
このメカニカルシール1は、回転密封環11と、保持体としてのケース12と、静止密封環13と、静止構造体14と、パーシャルインペラ15と、を主に備えている。
【0021】
回転密封環11は、円環状をなし、回転軸2の外周面に固定される回転軸側部材としてのスリーブ4を用いて取付けられており、回転軸2と共に回転可能となっている。尚、回転密封環11は、回転軸2に直接取付けられていてもよい。
【0022】
ケース12は、筒状の部材であり、回転軸2が挿通されている。このケース12は、図示しない軸方向に延びるボルトにより、ハウジング3の軸方向右側に固定されている。尚、ケース12は、例えばスペーサ部材などのハウジング側部材を用いてハウジング3に取付けられていてもよい。
【0023】
このケース12は、導入口121と、環状の凹溝122と、が設けられている。
【0024】
導入口121は、外部に設けられる流体回路20の端部に接続されている。この流体回路20は、エクスターナル流体を冷却する冷却部と、冷却したエクスターナル流体を貯留するタンクと、を備えている(図示略)。
【0025】
凹溝122は、ケース12の内径側において軸方向左側に開口して設けられる段付き凹溝である。具体的には、凹溝122は、環状の第1凹部122Aと環状の第2凹部122Bとから構成されている。
【0026】
第1凹部122Aは、ケース12の内壁部123と、該内壁部123の右端から外径側に立ち上がる側壁部124と、側壁部124の外径端から左側に延びる外壁部125と、から構成されている。
【0027】
第2凹部122Bは、第1凹部122Aの開口部を外径側に拡開するように外壁部125の左端に設けられている。この第1凹部122Aと第2凹部122Bとの間に段部が形成されている。
【0028】
静止密封環13は、円環状をなし、ケース12の第1凹部122Aに非回転状態かつ軸方向に移動可能な状態で設けられている。静止密封環13とケース12の側壁部124との間には、弾性部材7が配置されている(
図3(b)参照)。この弾性部材7によって静止密封環13が軸方向左側に付勢される。
【0029】
回転密封環11および静止密封環13は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0030】
パーシャルインペラ15は、環状をなし、スリーブ4における回転密封環11よりも左側の位置に取付けられている。パーシャルインペラ15は、第1部位151と、第2部位152と、から成る有底筒状部を有している。第1部位151は、スリーブ4から外径側に延びている。第2部位152は、第1部位151の外径端縁から軸方向右側に延びている。
【0031】
パーシャルインペラ15における第2部位152は、ハウジング3の内径側に位置している。また、ハウジング3には排出口31が設けられており、この排出口31は外部の流体回路20の端部に接続されている。
【0032】
第2部位152には、径方向に貫通する貫通孔152aが周方向に複数形成されている。この貫通孔152aは内径側から外径側に向かうにつれて軸方向右側に傾斜している。尚、貫通孔152aは少なくとも1つ設けられていればよく、数量や形状は自由に変更できる。
【0033】
パーシャルインペラ15は、回転軸2とともに回転すると、空間S内のエクスターナル流体が外径側に導かれるようになっている。これにより空間Sから流体回路20にエクスターナル流体を排出させるようになっている。尚、回転軸2の回転時におけるエクスターナル流体の流れについては、後に詳しく説明する。
【0034】
静止構造体14は、ハウジング3およびケース12の内径側に配置されている。静止構造体14およびケース12はシールケースを構成している。ハウジング3は流体機器側の構成部材を指し、シールケースはハウジング3に取付けられるメカニカルシール1側の構成部材を指す。シールケースは、1つの部材、若しくは複数の部材の分割構造から構成される。
【0035】
詳しくは、
図2(a)および
図2(b)に示されるように、静止構造体14は、第1筒状部141と、第2筒状部142と、取付段部143と、突起144と、を備えている。
【0036】
第1筒状部141は、第2筒状部142の左側に位置し、該第2筒状部142よりも若干小径に形成されている。
【0037】
また、第2筒状部142の右端部には、左側に凹むように切り欠かれた切欠き部142aが周方向に複数等配されている。切欠き部142aは第2筒状部142を切削加工することにより構成されている。
【0038】
取付段部143は、第1筒状部141と第2筒状部142との境界部において外径側に環状に張り出して形成されている。取付段部143の軸方向右側の外縁は面取りされた傾斜面143aとなっている。
【0039】
突起144は、第1筒状部141の左端部において周方向の一箇所に軸方向左側に突出して設けられる径方向視で略矩形状をなす突起片である。突起144は、第1筒状部141を切削加工することにより構成されている。すなわち、突起144は、第1筒状部141と同一の厚みを有し、かつ軸方向に滑らかに連なっている。このように、溶接を使わずに、突起144を構成できる。
【0040】
図1に戻って、静止構造体14は、第1筒状部141がハウジング3の内径側に挿入され、第2筒状部142がケース12の第1凹部122A内に挿入され、取付段部143がケース12の第2凹部122Bに嵌合して配置されている。
【0041】
第1筒状部141は、ハウジング3の内径側に相対回転可能に配置されている。第1筒状部141とハウジング3との間には僅かに隙間がある。これにより静止構造体14とハウジング3の距離が保たれるようになっている。
【0042】
また、突起144は第1筒状部141に片持ち状態であり、かつ外径方向に隙間があるのでパーシャルインペラ15等から外力を受けても撓むことで損傷しにくくなっている
【0043】
第2筒状部142は、ケース12の外壁部125の内径側に相対回転可能に配置されている。第2筒状部142の外周面はとケース12の外壁部125の内周面は当接している。これにより、第1筒状部141とケース12とが径方向に位置決めされる。
【0044】
取付段部143は、ハウジング3とケース12との間で軸方向に挟持されている。取付段部143とケース12の外壁部125との間にはOリング5が配置されている。取付段部143とハウジング3との間にはOリング6が配置されている。
【0045】
また、
図3(a)に示されるように、任意の切欠き部142aには、ケース12の側壁部124から左側に延びるピン8が嵌合している。これにより、ケース12と静止構造体14との相対的な周方向位置が規定される。すなわち、切欠き部142aおよびピン8は、ケース12と静止構造体14との周方向の位置決め機構として機能している。
【0046】
尚、本実施例では、ピン8がケース12の周方向に1箇所設けられる形態を例示したが、周方向に複数箇所設けられていてもよい。
【0047】
また、
図3(b)に示されるように、ケース12の左端面には、ネジ孔126が周方向に複数設けられている。ネジ孔126に皿ネジ9が螺合されることで、皿ネジ9の頭部が静止構造体14の取付段部143の傾斜面143aに当接し、ケース12と静止構造体14との相対的な軸方向位置が規定される。すなわち、皿ネジ9は、ケース12と静止構造体14との軸方向の位置決め機構として機能している。
【0048】
尚、
図3(a),(b)は、
図1とはそれぞれ周方向に位相が異なる部位を図示している。
【0049】
図4に示されるように、メカニカルシール1の使用状態において、突起144は、ハウジング3の排出口31における回転軸2の回転方向下流側近傍に配置されている。
【0050】
次いで、回転軸2の回転時におけるエクスターナル流体の流れについては、
図5に基づいて説明する。
【0051】
図5に示されるように、回転軸2が回転すると、パーシャルインペラ15も回転する(
図5の白矢印参照)。このとき、各貫通孔152a内のエクスターナル流体に遠心力が作用し、各貫通孔152aの外径側にエクスターナル流体が導かれる。
【0052】
各貫通孔152aの外径側に導かれたエクスターナル流体は、パーシャルインペラ15の回転に追従してハウジング3とパーシャルインペラ15との間を周方向に移動する。そして、当該エクスターナル流体は、静止構造体14の突起144に当接し、これにより外径方向に導かれ、排出口31に排出される。
【0053】
尚、パーシャルインペラ15の貫通孔152aは、従来の溝に比べ圧力差が生じやすいため、よりエクスターナル流体の流体圧を高めることができるため、効率よくエクスターナル流体の排出を行うことができる。
【0054】
また、突起144は軸方向に延びており、従来のブランクピースのように内径方向に張り出さないため、パーシャルインペラ15の径を確保して遠心効果が低下することを抑制できる。
【0055】
以上説明したように、ケース12は、排出口31における回転軸2の回転方向下流側に配置される突起144を有する静止構造体14を備えており、突起144を排出口31に対して適切に配置できることで、様々な位置の排出口31に対してエクスターナル流体の排出が可能となる。
【0056】
また、静止構造体14は、ケース12と別体であるため、静止構造体14を動かして突起144の位置調整や交換ができる。すなわち、ケース12を動かさなくても、突起144と排出口31との相対位置の変更や別の静止構造体14への交換を行える。さらに、突起144と静止密封環13との干渉を回避して、ケース12と静止密封環13とを組立てやすい。
【0057】
また、静止構造体14の切欠き部142aとケース12のピン8との嵌合によりケース12と静止構造体14との周方向の位置決めがされるため、メカニカルシール1の使用時に突起144の周方向位置が変わることを防止できる。
【0058】
また、静止構造体14はケース12からハウジング3側に向けて軸方向に延びており、突起144がハウジング3の内部まで延びるように装着できるので、ハウジング3に設けられた排出口31に対して適切な位置に突起144を配置できる。
【0059】
また、突起144は、第1筒状部141を切削加工することにより構成されており、第1筒状部141と一体形成されているので、溶接等のように径方向に盛り上がる部分が形成されず、軸方向に滑らかに連なるので、径方向寸法を小さくできる。
返り部244bは、突起244の先端部、すなわち基部244aにおける軸方向左側の端部から回転軸2の回転方向上流側に向けて延びている。返り部244bの右面は、径方向視で回転方向下流側に向けて凹むように湾曲している。
これによれば、パーシャルインペラ15の回転に追従してハウジング3とパーシャルインペラ15との間を周方向に移動するエクスターナル流体が返り部244bにより軸方向左側に逃げることが抑制され、エクスターナル流体が排出口31に効率よく導かれる。
尚、本実施例2では、返り部244bが突起244の先端部にのみ設けられる形態を例示したが、例えば、排出口の軸方向両側に配置されるように基部から2つの返り部が延びていてもよい。