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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074026
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】位置推定装置及び位置推定方法
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/02 20060101AFI20240523BHJP
   G01C 21/28 20060101ALI20240523BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240523BHJP
【FI】
B61L25/02 G
G01C21/28
B60L3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185071
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】神山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】坂井 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】永沼 泰州
【テーマコード(参考)】
2F129
5H125
5H161
【Fターム(参考)】
2F129AA08
2F129BB22
2F129BB26
2F129BB33
2F129BB50
2F129BB66
5H125AA05
5H125EE51
5H125EE53
5H125EE55
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161BB20
5H161DD01
(57)【要約】
【課題】測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけでも走行中の鉄道車両の位置を推定することができる位置推定装置を提供する。
【解決手段】位置推定装置は、距離と曲率との関係を取得する曲率データ取得部11と、距離とロール角との関係を取得するロール角データ取得部12と、6軸慣性計測装置により各時刻での6軸データを取得する6軸データ取得部13と、を有する。また、当該位置推定装置は、時刻及び位置を表すノードを含むグラフに基づいて、ノード同士を結合するエッジのコストの総和が一定の範囲内に含まれるような経路を探索して、各時刻での鉄道車両の位置を推定する位置推定部14を有する。位置推定部14は、各ノードで表される時刻及び位置での曲率同士及びロール角同士の乖離度に基づいて、エッジのコストを算出する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線路上の第1基準位置から第2基準位置までの間の互いに異なる複数の位置の各々について、前記第1基準位置から前記位置までの距離と、前記位置での前記線路の曲率と、の関係を示す第1データを取得する第1データ取得部と、
前記複数の位置の各々について、前記第1基準位置から前記位置までの前記距離と、前記位置で前記線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示す第2データを取得する第2データ取得部と、
鉄道車両が前記線路上の前記第1基準位置に第1基準時刻に位置した後、前記鉄道車両が前記線路上の前記第2基準位置に第2基準時刻に位置する場合において、前記鉄道車両の互いに交差する3つの方向の各々にそれぞれ沿った3つの加速度の3軸加速度センサによる測定、並びに、前記鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の3軸ジャイロセンサによる測定、を繰り返すことにより、前記第1基準時刻から前記第2基準時刻までの間の互いに異なる複数の時刻の各々について、前記時刻と、前記時刻での前記鉄道車両の前記3つの加速度並びに前記鉄道車両の前記ロール角速度、前記ピッチ角速度及び前記ヨー角速度と、の関係を示す第3データを取得する第3データ取得部と、
前記複数の時刻の各々及び前記複数の位置の各々をそれぞれ表す複数の第1ノードと、前記複数の第1ノードのうち互いに異なるいずれか2つの時刻の各々をそれぞれ表す2つの第1ノードをそれぞれ結合する複数の第1エッジと、を含み、且つ、前記複数の第1エッジの各々が有する第1コストが算出された、第1グラフを作成し、作成された前記第1グラフに基づいて、前記複数の第1ノードのうち前記第1基準時刻及び前記第1基準位置を表す第1基準ノードと、前記複数の第1ノードのうち前記第2基準時刻及び前記第2基準位置を表す第2基準ノードと、の間の第1経路であって、且つ、前記複数の第1ノードのうちの複数の第2ノードと、前記複数の第1エッジのうちの複数の第2エッジと、を含む前記第1経路、に含まれる前記複数の第2エッジの各々がそれぞれ有する複数の前記第1コストの総和が一定の範囲内に含まれるように、前記第1経路を探索し、探索された前記第1経路に基づいて、前記複数の時刻の各々における前記鉄道車両の速度及び位置を推定する位置推定部と、
を有し、
前記位置推定部は、
前記複数の時刻から、第1時刻、及び、前記第1時刻の次の第2時刻、を選択する時刻選択部と、
前記複数の位置から、前記第1基準位置からの前記距離が第1距離である第1位置、及び、前記第1基準位置からの前記距離が前記第1距離以上の第2距離である第2位置、を選択し、
前記第1グラフに含まれる前記複数の第1ノードとして、前記時刻選択部により選択された前記第1時刻及び前記第1位置を表す第3ノード、及び、前記時刻選択部により選択された前記第2時刻及び前記第2位置を表す第4ノードを設定し、
前記第3ノードと前記第4ノードとを結合する第3エッジを設定し、
前記第1時刻、前記第1距離、前記第2時刻及び前記第2距離に基づいて、前記第4ノードにおける前記鉄道車両の速度である第1速度を設定し、
前記第1データ及び前記第2データから、前記第2位置における前記線路の曲率である第1曲率、及び、前記第2位置で前記線路上を走行している時の鉄道車両のロール角である第1ロール角を選択し、
前記第3データから、前記第2時刻での前記鉄道車両の前記3つの加速度並びに前記鉄道車両の前記ロール角速度、前記ピッチ角速度及び前記ヨー角速度を含む第4データを選択し、
選択された前記第4データに基づいて、前記第2時刻に前記鉄道車両が走行している前記線路の曲率である第2曲率、及び、前記第2時刻での前記鉄道車両のロール角である第2ロール角、を算出し、
選択された前記第1曲率と、算出された前記第2曲率と、の乖離度を表す第1指標、及び、選択された前記第1ロール角と、算出された前記第2ロール角と、の乖離度を表す第2指標、を算出し、
算出された前記第1指標、及び、算出された前記第2指標に基づいて、前記第3エッジが有する第2コストを算出する、算出処理を実行するコスト算出部と、
前記第1位置、又は、前記第2位置を変更しながら、前記コスト算出部による前記算出処理を繰り返し、算出された複数の前記第2コストの各々をそれぞれ前記第1コストとして有する複数の前記第3エッジを、前記複数の第1エッジとして含む、前記第1グラフを作成する第1グラフ作成部と、
を含む、位置推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定装置において、
前記コスト算出部は、前記算出処理では、
前記第1時刻に前記第1位置に位置した前記鉄道車両が前記第2時刻に前記第2位置に位置することについての実現可能性を表す第3指標を算出し、
算出された前記第1指標、算出された前記第2指標、及び、算出された前記第3指標に基づいて、前記第2コストを算出する、位置推定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の位置推定装置において、
前記コスト算出部は、
前記第4データに含まれる前記ヨー角速度を前記第1速度で除することにより、前記第2曲率を算出する、位置推定装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の位置推定装置において、
前記コスト算出部は、
前記第4データに含まれる前記ヨー角速度に前記第1速度を乗じて得られた第1値を前記第4データに含まれる前記3つの加速度のうち前記鉄道車両の幅方向の加速度である第1加速度に加えて得られた第2加速度、前記第4データに含まれる前記3つの加速度のうち前記鉄道車両の長さ方向の加速度である第3加速度、前記第4データに含まれる前記3つの加速度のうち前記鉄道車両の上下方向の加速度である第4加速度、並びに、前記第4データに含まれる前記ロール角速度、前記ピッチ角速度及び前記ヨー角速度に基づいて、前記第2ロール角を算出する、位置推定装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の位置推定装置において、
前記第1データ取得部は、前記線路上の前記第1基準位置から前記第2基準位置までの間に互いに等しい第1間隔で配置された前記複数の位置の各々について、前記距離と、前記位置での前記線路の曲率と、の関係を示す前記第1データを取得し、
前記複数の位置の各々について、前記第1データ取得部により取得される前記第1データにより前記距離との関係が示される前記線路の曲率は、前記位置での前記線路の通り変位を2倍して得られる第2値を、前記第1間隔を2乗して得られる第3値で除して得られる第4値に等しい、位置推定装置。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の位置推定装置において、
前記複数の位置の各々について、前記第2データ取得部により取得される前記第2データにより前記距離との関係が示される前記ロール角は、前記位置での前記線路の水準変位に基づいて、算出される、位置推定装置。
【請求項7】
鉄道車両の位置を推定する位置推定装置を用いた位置推定方法において、
(a)線路上の第1基準位置から第2基準位置までの間の互いに異なる複数の位置の各々について、前記第1基準位置から前記位置までの距離と、前記位置での前記線路の曲率と、の関係を示す第1データを、前記位置推定装置により取得するステップ、
(b)前記複数の位置の各々について、前記第1基準位置から前記位置までの前記距離と、前記位置で前記線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示す第2データを、前記位置推定装置により取得するステップ、
(c)鉄道車両が前記線路上の前記第1基準位置に第1基準時刻に位置した後、前記鉄道車両が前記線路上の前記第2基準位置に第2基準時刻に位置する場合において、前記鉄道車両の互いに交差する3つの方向の各々にそれぞれ沿った3つの加速度の3軸加速度センサによる測定、並びに、前記鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の3軸ジャイロセンサによる測定、を前記位置推定装置により繰り返すことにより、前記第1基準時刻から前記第2基準時刻までの間の互いに異なる複数の時刻の各々について、前記時刻と、前記時刻での前記鉄道車両の前記3つの加速度並びに前記鉄道車両の前記ロール角速度、前記ピッチ角速度及び前記ヨー角速度と、の関係を示す第3データを、前記位置推定装置により取得するステップ、
(d)前記複数の時刻の各々及び前記複数の位置の各々をそれぞれ表す複数の第1ノードと、前記複数の第1ノードのうち互いに異なるいずれか2つの時刻の各々をそれぞれ表す2つの第1ノードをそれぞれ結合する複数の第1エッジと、を含み、且つ、前記複数の第1エッジの各々が有する第1コストが算出された、第1グラフを、前記位置推定装置により作成し、作成された前記第1グラフに基づいて、前記複数の第1ノードのうち前記第1基準時刻及び前記第1基準位置を表す第1基準ノードと、前記複数の第1ノードのうち前記第2基準時刻及び前記第2基準位置を表す第2基準ノードと、の間の第1経路であって、且つ、前記複数の第1ノードのうちの複数の第2ノードと、前記複数の第1エッジのうちの複数の第2エッジと、を含む前記第1経路、に含まれる前記複数の第2エッジの各々がそれぞれ有する複数の前記第1コストの総和が一定の範囲内に含まれるように、前記第1経路を前記位置推定装置により探索し、探索された前記第1経路に基づいて、前記複数の時刻の各々における前記鉄道車両の速度及び位置を、前記位置推定装置により推定するステップ、
を有し、
前記(d)ステップは、
(e)前記複数の時刻から、第1時刻、及び、前記第1時刻の次の第2時刻、を前記位置推定装置により選択するステップ、
(f)前記複数の位置から、前記第1基準位置からの前記距離が第1距離である第1位置、及び、前記第1基準位置からの前記距離が前記第1距離以上の第2距離である第2位置、を前記位置推定装置により選択し、
前記第1グラフに含まれる前記複数の第1ノードとして、前記(e)ステップにて選択された前記第1時刻及び前記第1位置を表す第3ノード、及び、前記(e)ステップにて選択された前記第2時刻及び前記第2位置を表す第4ノードを、前記位置推定装置により設定し、
前記第3ノードと前記第4ノードとを結合する第3エッジを、前記位置推定装置により設定し、
前記第1時刻、前記第1距離、前記第2時刻及び前記第2距離に基づいて、前記第4ノードにおける前記鉄道車両の速度である第1速度を、前記位置推定装置により設定し、
前記第1データ及び前記第2データから、前記第2位置における前記線路の曲率である第1曲率、及び、前記第2位置で前記線路上を走行している時の鉄道車両のロール角である第1ロール角を、前記位置推定装置により選択し、
前記第3データから、前記第2時刻での前記鉄道車両の前記3つの加速度並びに前記鉄道車両の前記ロール角速度、前記ピッチ角速度及び前記ヨー角速度を含む第4データを、前記位置推定装置により選択し、
選択された前記第4データに基づいて、前記第2時刻に前記鉄道車両が走行している前記線路の曲率である第2曲率、及び、前記第2時刻での前記鉄道車両のロール角である第2ロール角、を前記位置推定装置により算出し、
選択された前記第1曲率と、算出された前記第2曲率と、の乖離度を表す第1指標、及び、選択された前記第1ロール角と、算出された前記第2ロール角と、の乖離度を表す第2指標、を前記位置推定装置により算出し、
算出された前記第1指標、及び、算出された前記第2指標に基づいて、前記第3エッジが有する第2コストを、前記位置推定装置により算出するステップ、
(g)前記第1位置、又は、前記第2位置を前記位置推定装置により変更しながら、前記(f)ステップを前記位置推定装置により繰り返し、算出された複数の前記第2コストの各々をそれぞれ前記第1コストとして有する複数の前記第3エッジを、前記複数の第1エッジとして含む、前記第1グラフを、前記位置推定装置により作成するステップ、
を含む、位置推定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置及び位置推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置として、速度発電機が発するパルス信号(速度発電機のパルス)を用いるものがある。或いは、鉄道車両の位置を推定する位置推定装置として、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムを用いるものがある。或いは、鉄道車両の位置を推定する位置推定装置として、自動列車停止装置(Automatic Train Stop:ATS)の地上子(以下、「ATS地上子」とも称する。)又はデータデポ等の、地上に設置された発信機を地上子として用いるものがある。
【0003】
このうち、例えば、衛星測位システムと速度発電機とを併用するものがある。特開2003-294825号公報(特許文献1)には、列車自車位置検出方法において、列車搭載装置に、GPS情報に基づいてGPS位置座標を算出するGPS受信手段と、列車走行時の車体又は台車のヨー角速度を検出するヨー角速度検出手段と、列車の車軸回転数を検出する車軸回転数検出手段と、緯度及び経度と、線路の曲率である既知線路曲率と、距離程とを関係づける線路情報データベースを保存する情報記憶手段と、情報処理手段を設ける技術が開示されている。
【0004】
上記特許文献1に記載された技術では、情報処理手段は、GPS情報の受信時点での信頼性の程度である受信信頼度を表す受信信頼度係数を演算し、受信信頼度が低程度と判別される場合には、情報処理手段は、車軸回転数に基づく距離程を初期値とし、運用走行時の各時点でのヨー角速度と、車軸回転数より得られる列車走行速度から運用走行時の線路曲率である運用時線路曲率を演算し、線路情報データベース内の既知線路曲率との比較を行うことにより、走行区間における列車の現在位置を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-294825号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S.Madgwick, “An efficient orientation filter for inertial and inertial/magnetic sensor arrays”, Technical report, Department of Mechanical Engineering, University of Bristol, Apr. 2010.
【非特許文献2】神谷進、「鉄道曲線」、交友社、1961年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走行中の鉄道車両内で、例えば車両動揺加速度等の何らかの測定値を測定する際に、測定値が測定された時刻ではなく、測定値が測定された地点、即ち位置を推定したい場合がある。例えば、測定後、複数の測定値を整理する際に、複数の測定値の各々が測定された地点、即ち位置を取得する用途がある。或いは、測定者が、測定中に発生した事象を地上設備と関連付けて考察する際の、参考にする用途がある。
【0008】
ところが、従来の鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置は、例えば上記特許文献1に記載された技術等、いずれも複雑なものであり、測定者にとって使いにくいものであり、測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけで、走行中の鉄道車両の位置を推定することは、困難であった。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置において、測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけでも走行中の鉄道車両の位置を推定することができ、簡便で且つ測定者にとって使いやすい位置推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の一態様としての位置推定装置は、線路上の第1基準位置から第2基準位置までの間の互いに異なる複数の位置の各々について、第1基準位置から位置までの距離と、位置での線路の曲率と、の関係を示す第1データを取得する第1データ取得部と、複数の位置の各々について、第1基準位置から位置までの距離と、位置で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示す第2データを取得する第2データ取得部と、を有する。また、当該位置推定装置は、鉄道車両が線路上の第1基準位置に第1基準時刻に位置した後、鉄道車両が線路上の第2基準位置に第2基準時刻に位置する場合において、鉄道車両の互いに交差する3つの方向の各々にそれぞれ沿った3つの加速度の3軸加速度センサによる測定、並びに、鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の3軸ジャイロセンサによる測定、を繰り返すことにより、第1基準時刻から第2基準時刻までの間の互いに異なる複数の時刻の各々について、時刻と、時刻での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度と、の関係を示す第3データを取得する第3データ取得部を有する。また、当該位置推定装置は、複数の時刻の各々及び複数の位置の各々をそれぞれ表す複数の第1ノードと、複数の第1ノードのうち互いに異なるいずれか2つの時刻の各々をそれぞれ表す2つの第1ノードをそれぞれ結合する複数の第1エッジと、を含み、且つ、複数の第1エッジの各々が有する第1コストが算出された、第1グラフを作成し、作成された第1グラフに基づいて、複数の第1ノードのうち第1基準時刻及び第1基準位置を表す第1基準ノードと、複数の第1ノードのうち第2基準時刻及び第2基準位置を表す第2基準ノードと、の間の第1経路であって、且つ、複数の第1ノードのうちの複数の第2ノードと、複数の第1エッジのうちの複数の第2エッジと、を含む第1経路、に含まれる複数の第2エッジの各々がそれぞれ有する複数の第1コストの総和が一定の範囲内に含まれるように、第1経路を探索し、探索された第1経路に基づいて、複数の時刻の各々における鉄道車両の速度及び位置を推定する位置推定部を有する。位置推定部は、複数の時刻から、第1時刻、及び、第1時刻の次の第2時刻、を選択する時刻選択部を含む。また、位置推定部は、複数の位置から、第1基準位置からの距離が第1距離である第1位置、及び、第1基準位置からの距離が第1距離以上の第2距離である第2位置、を選択し、第1グラフに含まれる複数の第1ノードとして、時刻選択部により選択された第1時刻及び第1位置を表す第3ノード、及び、時刻選択部により選択された第2時刻及び第2位置を表す第4ノードを設定し、第3ノードと第4ノードとを結合する第3エッジを設定し、第1時刻、第1距離、第2時刻及び第2距離に基づいて、第4ノードにおける鉄道車両の速度である第1速度を設定し、第1データ及び第2データから、第2位置における線路の曲率である第1曲率、及び、第2位置で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角である第1ロール角を選択し、第3データから、第2時刻での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を含む第4データを選択し、選択された第4データに基づいて、第2時刻に鉄道車両が走行している線路の曲率である第2曲率、及び、第2時刻での鉄道車両のロール角である第2ロール角、を算出し、選択された第1曲率と、算出された第2曲率と、の乖離度を表す第1指標、及び、選択された第1ロール角と、算出された第2ロール角と、の乖離度を表す第2指標、を算出し、算出された第1指標、及び、算出された第2指標に基づいて、第3エッジが有する第2コストを算出する、算出処理を実行するコスト算出部を含む。また、位置推定部は、第1位置、又は、第2位置を変更しながら、コスト算出部による算出処理を繰り返し、算出された複数の第2コストの各々をそれぞれ第1コストとして有する複数の第3エッジを、複数の第1エッジとして含む、第1グラフを作成する第1グラフ作成部を含む。
【0012】
また、他の一態様として、コスト算出部は、算出処理では、第1時刻に第1位置に位置した鉄道車両が第2時刻に第2位置に位置することについての実現可能性を表す第3指標を算出し、算出された第1指標、算出された第2指標、及び、算出された第3指標に基づいて、第2コストを算出してもよい。
【0013】
また、他の一態様として、コスト算出部は、第4データに含まれるヨー角速度を第1速度で除することにより、第2曲率を算出してもよい。
【0014】
また、他の一態様として、コスト算出部は、第4データに含まれるヨー角速度に第1速度を乗じて得られた第1値を第4データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の幅方向の加速度である第1加速度に加えて得られた第2加速度、第4データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の長さ方向の加速度である第3加速度、第4データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の上下方向の加速度である第4加速度、並びに、第4データに含まれるロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度に基づいて、第2ロール角を算出してもよい。
【0015】
また、他の一態様として、第1データ取得部は、線路上の第1基準位置から第2基準位置までの間に互いに等しい第1間隔で配置された複数の位置の各々について、距離と、位置での線路の曲率と、の関係を示す第1データを取得してもよい。複数の位置の各々について、第1データ取得部により取得される第1データにより距離との関係が示される線路の曲率は、位置での線路の通り変位を2倍して得られる第2値を、第1間隔を2乗して得られる第3値で除して得られる第4値に等しくてもよい。
【0016】
また、他の一態様として、複数の位置の各々について、第2データ取得部により取得される第2データにより距離との関係が示されるロール角は、位置での線路の水準変位に基づいて、算出されてもよい。
【0017】
本発明の一態様としての位置推定方法は、鉄道車両の位置を推定する位置推定装置を用いた位置推定方法である。当該位置推定方法は、線路上の第1基準位置から第2基準位置までの間の互いに異なる複数の位置の各々について、第1基準位置から位置までの距離と、位置での線路の曲率と、の関係を示す第1データを、位置推定装置により取得する(a)ステップと、複数の位置の各々について、第1基準位置から位置までの距離と、位置で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示す第2データを、位置推定装置により取得する(b)ステップと、を有する。また、当該位置推定方法は、鉄道車両が線路上の第1基準位置に第1基準時刻に位置した後、鉄道車両が線路上の第2基準位置に第2基準時刻に位置する場合において、鉄道車両の互いに交差する3つの方向の各々にそれぞれ沿った3つの加速度の3軸加速度センサによる測定、並びに、鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の3軸ジャイロセンサによる測定、を位置推定装置により繰り返すことにより、第1基準時刻から第2基準時刻までの間の互いに異なる複数の時刻の各々について、時刻と、時刻での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度と、の関係を示す第3データを、位置推定装置により取得する(c)ステップを有する。また、当該位置推定方法は、複数の時刻の各々及び複数の位置の各々をそれぞれ表す複数の第1ノードと、複数の第1ノードのうち互いに異なるいずれか2つの時刻の各々をそれぞれ表す2つの第1ノードをそれぞれ結合する複数の第1エッジと、を含み、且つ、複数の第1エッジの各々が有する第1コストが算出された、第1グラフを、位置推定装置により作成し、作成された第1グラフに基づいて、複数の第1ノードのうち第1基準時刻及び第1基準位置を表す第1基準ノードと、複数の第1ノードのうち第2基準時刻及び第2基準位置を表す第2基準ノードと、の間の第1経路であって、且つ、複数の第1ノードのうちの複数の第2ノードと、複数の第1エッジのうちの複数の第2エッジと、を含む第1経路、に含まれる複数の第2エッジの各々がそれぞれ有する複数の第1コストの総和が一定の範囲内に含まれるように、第1経路を位置推定装置により探索し、探索された第1経路に基づいて、複数の時刻の各々における鉄道車両の速度及び位置を、位置推定装置により推定する(d)ステップを有する。(d)ステップは、複数の時刻から、第1時刻、及び、第1時刻の次の第2時刻、を位置推定装置により選択する(e)ステップを含む。また、(d)ステップは、複数の位置から、第1基準位置からの距離が第1距離である第1位置、及び、第1基準位置からの距離が第1距離以上の第2距離である第2位置、を位置推定装置により選択し、第1グラフに含まれる複数の第1ノードとして、(e)ステップにて選択された第1時刻及び第1位置を表す第3ノード、及び、(e)ステップにて選択された第2時刻及び第2位置を表す第4ノードを、位置推定装置により設定し、第3ノードと第4ノードとを結合する第3エッジを、位置推定装置により設定し、第1時刻、第1距離、第2時刻及び第2距離に基づいて、第4ノードにおける鉄道車両の速度である第1速度を、位置推定装置により設定し、第1データ及び第2データから、第2位置における線路の曲率である第1曲率、及び、第2位置で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角である第1ロール角を、位置推定装置により選択し、第3データから、第2時刻での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を含む第4データを、位置推定装置により選択し、選択された第4データに基づいて、第2時刻に鉄道車両が走行している線路の曲率である第2曲率、及び、第2時刻での鉄道車両のロール角である第2ロール角、を位置推定装置により算出し、選択された第1曲率と、算出された第2曲率と、の乖離度を表す第1指標、及び、選択された第1ロール角と、算出された第2ロール角と、の乖離度を表す第2指標、を位置推定装置により算出し、算出された第1指標、及び、算出された第2指標に基づいて、第3エッジが有する第2コストを、位置推定装置により算出する(f)ステップを含む。また、(d)ステップは、第1位置、又は、第2位置を位置推定装置により変更しながら、(f)ステップを位置推定装置により繰り返し、算出された複数の第2コストの各々をそれぞれ第1コストとして有する複数の第3エッジを、複数の第1エッジとして含む、第1グラフを、位置推定装置により作成する(g)ステップを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様を適用することで、鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置において、測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけでも走行中の鉄道車両の位置を推定することができ、簡便で且つ測定者にとって使いやすい位置推定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態の位置推定方法の概略を示すフロー図である。
図2】実施の形態の位置推定装置を示すブロック図である。
図3】実施の形態の位置推定方法の一部のステップを示すフロー図である。
図4】鉄道車両の3つの加速度、並びに、ロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を示す図である。
図5】時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
図6】時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
図7】軌道検測車により検測された検測データに含まれる通り変位から曲率を算出する方法を模式的に説明する図である。
図8】時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
図9】時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
図10】時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
図11】実施例1の位置推定装置を用いて各時刻における鉄道車両の位置を推定した結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0022】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0023】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0024】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。
【0025】
(実施の形態)
<位置推定方法の概略>
初めに、実施の形態の位置推定方法の概略について説明する。本実施の形態の位置推定方法は、鉄道車両の位置を推定する位置推定装置を用いた位置推定方法である。図1は、実施の形態の位置推定方法の概略を示すフロー図である。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態の位置推定方法では、予め、軌道検測車TM1(後述する図2参照)による等距離サンプリングを実行して、軌道形状に関する検測データを検測しておく(図1のステップS1)。そして、検測された検測データに基づいて、等距離サンプリングを実行した各位置での線路の曲率、即ち等距離サンプリングによる曲率を換算しておき(図1のステップS2)、等距離サンプリングを実行した各位置での鉄道車両のロール角、即ち等距離サンプリングによるロール角を換算しておく(図1のステップS3)。
【0027】
また、本実施の形態の位置推定方法では、鉄道車両が線路上を走行する際に6軸慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)IM1(後述する図2参照)による等時間サンプリングを実行し、軌道形状に関する計測データを計測する(図1のステップS4)。そして、計測された計測データに基づいて、等時間サンプリングを実行した各時刻での線路の曲率、即ち等時間サンプリングによる曲率を算出し(図1のステップS5)、等時間サンプリングを実行した各時刻での鉄道車両のロール角、即ち等時間サンプリングによるロール角を算出する(図1のステップS6)。
【0028】
次に、本実施の形態の位置推定方法では、例えば弾性マッチングを実行し(図1のステップS7)、等時間サンプリングによる曲率及びロール角と、等距離サンプリングによる曲率及びロール角と、を照合する。そして、等時間サンプリングを実行した各時刻、即ち各時間と、等距離サンプリングを実行した各位置、即ち各距離と、を対応させる(図1のステップS8)。また、等時間サンプリングのサンプリング間隔と、等距離サンプリングのサンプリング間隔と、を相互に変換する(図1のステップS9)。
【0029】
これにより、後述する図2乃至図6を用いて説明するように、従来用いることが必要であった、地点検知システムを用いる必要がなく、測定者が6軸慣性測定装置を持って乗車するだけで、走行中の鉄道車両の位置を推定することができる。
【0030】
但し、6軸慣性計測装置により計測された計測データには、鉄道車両の走行速度(以下、単に「速度」とも称する。)が含まれないので、6軸慣性計測装置により計測された計測データに基づいて、線路の曲率、及び、ロール角を直接算出することはできない。そのため、以下の具体例を用いて説明する方法、即ち、等時間サンプリングによる曲率の算出(図1のステップS5)、等時間サンプリングによるロール角の算出(図1のステップS6)、及び、等時間サンプリングによる曲率及びロール角と等距離サンプリングによる曲率及びロール角との照合(図1のステップS7)、を組み合わせた方法を用いることができる。これにより、走行中の鉄道車両の位置を推定することができ、且つ、走行中の鉄道車両の速度を推定することができる。
【0031】
<位置推定装置及び位置推定方法>
次に、本実施の形態の位置推定装置、及び、本実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法、の具体例を説明する。
【0032】
図2は、実施の形態の位置推定装置を示すブロック図である。図3は、実施の形態の位置推定方法の一部のステップを示すフロー図である。図4は、鉄道車両の3つの加速度、並びに、ロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を示す図である。図5及び図6は、時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。図5及び図6は、グラフモデルに基づいて、複数の時刻Tの各々における鉄道車両の位置Pを推定するための経路を探索する方法を説明するための図である。
【0033】
図2に示すように、本実施の形態の位置推定装置は、曲率データ取得部11と、ロール角データ取得部12と、6軸データ取得部13と、位置推定部14と、を有する。
【0034】
曲率データ取得部11は、軌道検測車TM1により検測された検測データに基づいて、線路上の基準位置PS(図5参照)から基準位置PG(図5参照)までの間の互いに異なる複数の位置Pの各々について、線路に沿った基準位置PSから位置Pまでの距離Dと、位置Pでの線路の曲率と、の関係を示す曲率データを取得する(図3のステップS11)。なお、線路の曲率半径をR[m]とし、線路の曲率をχ(=1/R)[1/m]とすることができる。
【0035】
ロール角データ取得部12は、軌道検測車TM1により検測された検測データに基づいて、線路上の基準位置PS(図5参照)から基準位置PG(図5参照)までの間の互いに異なる複数の位置Pの各々について、線路に沿った基準位置PSから位置Pまでの距離Dと、位置Pで鉄道車両が線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示すロール角データ、即ち等距離サンプリングによるロール角を取得する(図3のステップS12)。なお、ロール角をφ[°]とすることができる。また、後述する図11のグラフGE1に、実際に取得された等距離サンプリングによるロール角の一例を示す。
【0036】
6軸データ取得部13は、6軸慣性計測装置IM1により測定を一定時間ごとに繰り返すことにより、鉄道車両の3つの加速度、並びに、ロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を含むデータ、即ち6軸データを取得する(図3のステップS13)。
【0037】
このステップS13では、6軸データ取得部13は、鉄道車両が線路上の基準位置PSに基準時刻TS(図5参照)に位置した後、鉄道車両が線路上の基準位置PGに基準時刻TG(図5参照)に位置する場合において、鉄道車両の互いに交差又は好適には直交する3つの方向の各々にそれぞれ沿った3つの加速度の3軸加速度センサによる測定、並びに、鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の3軸ジャイロセンサによる測定、を繰り返すことにより、基準時刻TSから基準時刻TGまでの間の互いに異なる複数の時刻Tの各々について、時刻Tと、時刻Tでの鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度と、の関係を示す6軸データを取得する。
【0038】
なお、図4に示すように、3つの加速度のうち、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1の前後方向(図4のX軸方向)の加速度をa[m/s]とし、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1の幅方向(図4のY軸方向)の加速度をa[m/s]とし、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1の上下方向(図4のZ軸方向)の加速度をa[m/s]とすることができる。また、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1のロール角速度をω[°/s]とし、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1のピッチ角速度をω[°/s]とし、線路RA1上を走行する鉄道車両RC1のヨー角速度をω[°/s]とすることができる。
【0039】
位置推定部14は、複数の時刻Tの各々における鉄道車両の速度及び位置Pを推定する(図3のステップS14)。
【0040】
このステップS14では、位置推定部14は、図5に示すように、複数の時刻Tの各々及び複数の位置Pの各々をそれぞれ表す複数のノードN1と、複数のノードN1のうち互いに異なるいずれか2つの時刻Tの各々をそれぞれ表す2つのノードN1をそれぞれ結合する複数のエッジE1と、を含み、且つ、複数のエッジE1の各々が有するコストC1が算出された、グラフ(グラフモデル)GR1を作成する。なお、図5に示すように、基準位置PSに対応した距離Dは距離DSであり、基準位置PGに対応した距離Dは距離DGである。
【0041】
また、ステップS14では、位置推定部14は、図5に示すように、作成されたグラフGR1に基づいて、複数のノードN1のうち基準時刻TS及び基準位置PSを表す基準ノードNSと、複数のノードN1のうち基準時刻TG及び基準位置PGを表す基準ノードNGと、の間の経路PA1であって、且つ、複数のノードN1のうちの複数のノードN2と、複数のエッジE1のうちの複数のエッジE2と、を含む経路PA1、に含まれる複数のエッジE2の各々がそれぞれ有する複数のコストC1の総和が一定の範囲内に含まれるように、経路PA1を探索する。
【0042】
また、ステップS14では、位置推定部14は、図5に示すように、探索された経路PA1に基づいて、複数の時刻Tの各々における鉄道車両の速度及び位置Pを推定する。このとき、鉄道車両が線路上を走行する際に6軸慣性計測装置IM1(図2参照)による等時間サンプリングを実行し、軌道形状に関する計測データを計測することにより算出されるはずのロール角、即ち等時間サンプリングによるロール角も算出される。なお、鉄道車両の速度をV[m/s]とすることができる。また、後述する図11のグラフGE2に、実際に算出された等時間サンプリングによるロール角の一例を示す。また、後述する図11のグラフGE3に、実際に推定された複数の時刻の各々における鉄道車両の位置を示すグラフの一例を示す。
【0043】
ここで、位置推定部14により鉄道車両の位置を推定する位置推定方法の技術的思想について、説明する。
【0044】
前述したように、グラフGR1に基づいて探索される経路PA1は、基準ノードNSと基準ノードNGとの間の複数の経路のうち、経路に含まれる各エッジが有するコストの総和が最小になる経路である。このような経路PA1の条件について、説明する。
【0045】
鉄道車両が基準位置PSに基準時刻TSに位置した後、鉄道車両が基準位置PGに基準時刻TGに位置する場合、同じ時刻に互いに異なる複数の位置に位置することは、あり得ないが、互いに異なる複数の時刻に同じ位置に位置することは、速度が0の場合にはあり得る。そのため、グラフGR1に基づいて探索される経路PA1は、縦軸方向と平行な方向に進むこと、即ちグラフGR1において垂直方向の真上に向かって進むことはあり得ないが、横軸方向と平行な方向、即ちグラフGR1において水平方向の右に向かって進むことはあり得る。また、鉄道車両が走行している最中は、グラフGR1に基づいて探索される経路PA1は、グラフGR1において斜め右上に進む。但し、鉄道車両の速度には限界があるため、グラフGR1に基づいて探索される経路PA1のグラフGR1中の傾きが大きくなり過ぎることはできない。
【0046】
次に、経路に含まれる各エッジが有するコスト、即ち経路のコストの算出方法について説明する。各ノードごとのデータの差(乖離度)の関数を関数fとし、経路そのもののコストの関数である関数を関数gとすると、経路のコストは、以下の式(1)で表される。
〔経路のコスト〕=Σf(ノードごとのデータの差)+Σg(経路そのもののコスト)
・・・(1)
上記式(1)において、Σは時間に関する総和を表す。
【0047】
また、上記式(1)において、関数fは、等時間サンプリングによる曲率と等距離サンプリングによる曲率との差が大きくなるほど関数fが大きくなるような関数であり、且つ、関数fが、等時間サンプリングによるロール角と等距離サンプリングによるロール角との差が大きくなるほど大きくなるような関数であればよく、限定されない。関数fは、等時間サンプリングによる曲率と等距離サンプリングによる曲率との差(曲率の差)の二乗と、等時間サンプリングによるロール角と等距離サンプリングによるロール角との差の二乗と、の和でもよい。或いは、関数fは、等時間サンプリングによる曲率と等距離サンプリングによる曲率との差の絶対値と、等時間サンプリングによるロール角と等距離サンプリングによるロール角との差の絶対値と、の和でもよい。
【0048】
図6に示すように、時刻T1及び距離D1(位置P1)を表すノードN3と、時刻T2及び距離D2(位置P2)を表すノードN4と、を結合するエッジE3が、探索される経路に含まれる場合を考える。このような場合、上記式(1)で表されるΣf(ノードごとのデータの差)については、以下の式(2)で表される。
Σf(ノードごとのデータの差)=・・・
+f(ノードN3における曲率の差)+f(ノードN3におけるロール角の差)
+f(ノードN4における曲率の差)+f(ノードN4におけるロール角の差)
+・・・ ・・・(2)
【0049】
また、上記式(1)で表されるΣg(経路そのもののコスト)は、経路のもっともらしさ、即ち実現可能性を表す。例えば、鉄道車両の速度には上限値があり、鉄道車両が上限値よりも速い速度で走行することはあり得ない。そのため、このような上限値よりも速い速度で走行する場合のコストが無限大になるように設定することが望ましい。また、距離D1の位置P1が駅から近い位置である場合には、位置P1を鉄道車両が最高速度で走行することはあり得ないので、このような位置P1を鉄道車両が最高速度で走行する場合のコストが大きくなるように設定することが望ましい。
【0050】
また、時刻T1の前の時刻T、及び、距離D1の前の距離D(位置P1の前の位置P)を設定し、探索される経路が、時刻T1の前の時刻T及び位置P1の前の位置Pを表すノードN1、並びに、時刻T1及び位置P1を表すノードN3を通ることが分かっている場合であって、且つ、時刻T2及び位置P2を表すノードN4を通る場合には、加速度の近似値に相当する2階時間差分は、以下の式(3)で表される。
〔2階時間差分〕=(2Δx-Δx)/(Δt) ・・・(3)
【0051】
上記式(3)において、2Δxは位置P1から位置P2までの距離であり、Δxは距離サンプリングの間隔であり、Δtは時間サンプリングの間隔である。このように2階時間差分が上記式(3)で表される場合、鉄道車両が原則として急な加減速をしないため、上記式(3)で表される2階時間差分が大きくなり過ぎることはできない。
【0052】
このようにして、上記式(1)で表される経路のコストを、適宜設定し、設定された経路のコストを算出し、算出された経路のコストが小さくなって一定の範囲内に含まれるように、好適には最小になるように、経路を探索する。
【0053】
仮に、上記式(1)で表される経路のコストを、g(経路そのもののコスト)が0になるように、設定した場合を考える。このような場合には、等時間サンプリングによる曲率と等距離サンプリングによる曲率との差と、等時間サンプリングによるロール角と等距離サンプリングによるロール角との差を小さくし、且つ、曲率とロール角の差を小さくすることだけを考えた、現実離れした加減速だらけの経路、即ち実現可能性の低い経路が探索されることになる。
【0054】
このような技術的思想に基づくと、位置推定部14による位置推定方法の詳細については、例えば以下のようにすることができる。
【0055】
まず、位置推定装置が有する曲率データ取得部11、ロール角データ取得部12、6軸データ取得部13及び位置推定部14の各々として、例えば、演算部(Central Processing Unit:CPU)及び記憶部(メモリ)を含み、記憶部に記憶されたプログラムであって、且つ、本実施の形態の位置推定方法が有する各ステップを実行するためのプログラム、を演算部により実行するコンピュータ、を用いることができる。また、曲率データ取得部11、ロール角データ取得部12、6軸データ取得部13及び位置推定部14をまとめた位置推定装置全体として、1台のコンピュータを用いることができる。
【0056】
また、位置推定部14は、時刻選択部21と、コスト算出部22と、グラフ作成部23と、を含む。
【0057】
時刻選択部21は、図6に示すように、複数の時刻から、時刻T1、及び、時刻T1の次の時刻T2、を選択する。即ち、時刻T2は、時刻T1よりも後の時刻である。
【0058】
コスト算出部22は、2つのノードN1を結合するエッジのコストを算出する算出処理を行う(図3のステップS21)。
【0059】
コスト算出部22は、算出処理において、図6に示すように、複数の位置Pから、基準位置PSからの距離Dが距離D1である位置P1、及び、基準位置PSからの距離Dが距離D1以上の距離D2である位置P2、を選択する。
【0060】
次に、コスト算出部22は、算出処理において、グラフGR1に含まれる複数のノードN1として、時刻選択部21により選択された時刻T1及び距離D1(位置P1)を表すノードN3、及び、時刻選択部21により選択された時刻T2及び距離D2(位置P2)を表すノードN4を設定する。
【0061】
また、コスト算出部22は、算出処理において、ノードN3とノードN4とを結合するエッジE3を設定する。
【0062】
また、コスト算出部22は、算出処理において、時刻T1、距離D1(位置P1)、時刻T2及び距離D2(位置P2)に基づいて、ノードN3及びノードN4における鉄道車両の速度である速度V1を設定する。
【0063】
また、コスト算出部22は、算出処理において、曲率データ及びロール角データから、位置P2における線路の曲率である曲率CR1、位置P1における線路の曲率である曲率CR2、及び、位置P2で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角であるロール角RL1、及び、位置P1で線路上を走行している時の鉄道車両のロール角であるロール角RL2を選択する。なお、少なくとも位置P2における曲率CR1、及び、位置P2でのロール角RL1を選択すればよく、位置P1における曲率CR2、及び、位置P1でのロール角RL2を選択しなくてもよい。
【0064】
次に、コスト算出部22は、算出処理において、6軸データから、時刻T2での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を含む6軸データである時刻T2での6軸データ、並びに、時刻T1での鉄道車両の3つの加速度並びに鉄道車両のロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度を含む6軸データである時刻T1での6軸データを選択する。なお、少なくとも時刻T2での6軸データを選択すればよく、時刻T1での6軸データを選択しなくてもよい。
【0065】
また、コスト算出部22は、算出処理において、選択された時刻T2での6軸データに基づいて、時刻T2に鉄道車両が走行している線路の曲率である曲率CR3、及び、時刻T2での鉄道車両のロール角であるロール角RL3、を算出する。また、選択された時刻T1での6軸データに基づいて、時刻T1に鉄道車両が走行している線路の曲率である曲率CR4、及び、時刻T1での鉄道車両のロール角であるロール角RL4、を算出する。なお、少なくとも時刻T2での曲率CR3、及び、時刻T2でのロール角RL3を算出すればよく、時刻T1での曲率CR4、及び、時刻T1でのロール角RL4を算出しなくてもよい。
【0066】
また、コスト算出部22は、算出処理において、選択された曲率CR1と、算出された曲率CR3と、の乖離度を表す指標IN1、及び、選択されたロール角RL1と、算出されたロール角RL3と、の乖離度を表す指標IN2、を算出する。また、コスト算出部22は、算出処理において、選択された曲率CR2と、算出された曲率CR4と、の乖離度を表す指標IN3、及び、選択されたロール角RL2と、算出されたロール角RL4と、の乖離度を表す指標IN4、を算出する。なお、少なくとも指標IN1及び指標IN2を算出すればよく、指標IN3及び指標IN4を算出しなくてもよい。
【0067】
また、コスト算出部22は、算出処理において、算出された指標IN1、算出された指標IN2、算出された指標IN3、及び、算出された指標IN4に基づいて、エッジE3が有するコストC2を算出する。なお、指標IN3及び指標IN4には基づかず、指標IN1及び指標IN2のみに基づいて、コストC2を算出してもよい。
【0068】
図6に示すように、グラフ作成部23は、距離D1(位置P1)、又は、距離D2(位置P2)を変更しながら、コスト算出部22による算出処理を繰り返し、算出された複数のコストC2の各々をそれぞれコストC1として有する複数のエッジE3を、複数のエッジE1として含む、グラフGR1(図5参照)を作成する。
【0069】
グラフ作成部23は、繰り返し処理部24と、繰り返し処理部25と、を含む。繰り返し処理部24は、時刻選択部21により選択された時刻T1を保持した状態で、位置P1及び位置P2(図6参照)を変更しながら算出処理を繰り返す繰り返し処理を行う(図6参照)。繰り返し処理部25は、時刻選択部21により選択される時刻T1(図6参照)を順次進めながら、繰り返し処理部24による繰り返し処理を更に繰り返し、グラフGR1(図5参照)を作成する。
【0070】
言い換えれば、グラフ作成部23は、時刻T1及び距離D1(位置P1)を表すノードN3と、時刻T2及び距離D2としての距離D21乃至D23(位置P2としての位置P21乃至P23)の各々をそれぞれ表す複数のノードN4としてのノードN41乃至N43と、の間のエッジE3としてのエッジE31乃至E33、の各々にそれぞれ対応した速度V1としての速度V11乃至V13を設定することになる。また、グラフ作成部23は、設定された速度V11乃至V13を用い、エッジE31乃至E33を経由して到達したときの、ノードN41乃至N43における、等時間サンプリングによる曲率及びロール角を算出する。また、グラフ作成部23は、エッジE31乃至E33即ちノードN41乃至N43の各々にそれぞれ対応した複数のコストC2であるコストC21乃至C23であって、少なくとも、曲率の乖離度、即ち各ノードにおける等時間サンプリングによる曲率と等距離サンプリングによる曲率との差分等、及び、ロール角の乖離度、即ち各ノードにおける等時間サンプリングによるロール角と等距離サンプリングによるロール角との差分等、を表す指標である、コストC21乃至C23を算出することになる。
【0071】
ここで、本願発明が解決しようとする課題について、説明する。走行中の鉄道車両内で、例えば車両動揺加速度等の何らかの測定値を測定する際に、又は、被験者を乗車させて試験を行って何らかの測定値を測定する際に、測定値が測定された時刻ではなく、測定値が測定された地点、即ち位置を推定したい場合がある。推定された地点、即ち位置を用いる用途として、大別すると以下の2種類の用途が挙げられる。
【0072】
1つ目の用途として、測定後、複数の測定値を整理する際に、複数の測定値の各々が測定された地点、即ち位置を取得する用途がある。この1つ目の用途の具体例としては、車両動揺加速度の測定値を測定した後、測定された測定値について、各測定値が測定された地点に位置する地上設備、特に軌道形状と併記することにより、保守作業を行う際の優先順位を決定する用途が、挙げられる。或いは、軌道形状と車両動揺加速度との応答関数を求め、将来の車両動揺加速度を予想する用途が、挙げられる。或いは、被験者を乗車させて、被験者が「乗り心地が悪い」と感じてスイッチを押す試験を行った後、被験者がスイッチを押した地点に位置する地上設備、即ち被験者による評価が低い地点に位置する地上設備の傾向を取得する用途が、挙げられる。
【0073】
或いは、2つ目の用途として、測定者が、測定中に発生した事象を地上設備と関連付けて考察する際の、参考にする用途がある。
【0074】
ところが、従来の鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置は、以下の複数の種類のうち、いずれか1種類を単独で用いるか、又は、複数の種類を併用するものであった。
【0075】
例えば、位置推定装置として、速度発電機が発するパルス信号(速度発電機のパルス)を用いるものがある。このような場合、速度発電機が発するパルス信号を鉄道車両から取り出す配線を、鉄道車両に設置する必要がある。
【0076】
或いは、位置推定装置として、GPS(Global Positioning System)等の衛星測位システムを用いるものがある。このような場合、鉄道車両が、山間部又はトンネル内等、衛星を測位することができない区間を走行している間は、走行中の鉄道車両の位置を推定することができない。
【0077】
或いは、位置推定装置として、ATS地上子又はデータデポ等の、地上に設置された発信機を地上子として用いるものがある。このような場合、車両の床下に地上子の検知子である車上子を設置する必要があり、地上子が地上設備の工事等の都合で移動されると、走行中の鉄道車両の位置を正確に推定することができない。
【0078】
このように、従来の鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置は、いずれも複雑なものであり、測定者にとって使いにくいものであり、測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけで、走行中の鉄道車両の位置を推定することは困難であった。
【0079】
一方、本実施の形態の位置推定装置は、曲率データ取得部11と、ロール角データ取得部12と、6軸データ取得部13と、位置推定部14と、を有する。また、位置推定部14は、複数の時刻Tの各々及び複数の位置Pの各々をそれぞれ表す複数のノードN1と、複数のノードN1のうち互いに異なるいずれか2つの時刻Tの各々をそれぞれ表す2つのノードN1をそれぞれ結合する複数のエッジE1と、を含むグラフGR1に基づいて、エッジE1が有するコストC1の総和が一定の範囲内に含まれるように経路PA1を探索し、探索された経路PA1に基づいて、複数の時刻Tの各々における鉄道車両の速度V及び位置Pを推定する。
【0080】
言い換えれば、本実施の形態では、6軸慣性計測装置IM1の出力信号(等時間サンプリング)から推定した軌道形状と、軌道検測車TM1により検測された検測データ(等距離サンプリング)から換算した軌道形状と、の弾性パターンマッチングを行う。
【0081】
更に言い換えれば、本実施の形態の位置推定装置は、距離と曲率との関係を取得する曲率データ取得部11と、距離とロール角との関係を取得するロール角データ取得部12と、6軸慣性計測装置により各時刻での6軸データを取得する6軸データ取得部13と、を有する。また、当該位置推定装置は、時刻及び位置を表すノードを含むグラフに基づいて、ノード同士を結合するエッジのコストの総和が一定の範囲内に含まれるような経路を探索して、各時刻での鉄道車両の位置を推定する位置推定部14を有する。位置推定部14は、各ノードで表される時刻及び位置での、等時間サンプリングと等距離サンプリングとの間の曲率同士の乖離度、及び、等時間サンプリングと等距離サンプリングとの間のロール角同士の乖離度、に基づいて、エッジのコストを算出する。
【0082】
これにより、従来用いることが必要であった地点検知システムを用いる必要がなく、測定者が6軸慣性測定装置を持って乗車するだけで、走行中の鉄道車両の位置を推定することができる。例えば、走行中の鉄道車両の位置を推定するために、速度発電機が発するパルス信号を用いる必要がないので、速度発電機が発するパルス信号を鉄道車両から取り出す配線を、鉄道車両に設置する必要がない。また、走行中の鉄道車両の位置を推定するために、衛星測位システムを用いる必要がないので、鉄道車両が山間部又はトンネル内を走行している場合でも、走行中の鉄道車両の位置を正確に推定することができる。また、走行中の鉄道車両の位置を推定するために、ATS地上子等の地上に設置された発信機を地上子として用いる必要がないので、車両の床下に地上子の検知子である車上子を設置する必要がなく、地上子が地上設備の工事等の都合で移動された場合でも、走行中の鉄道車両の位置を正確に推定することができる。
【0083】
また、本実施の形態では、6軸慣性計測装置IM1の出力信号(等時間サンプリング)から推定した軌道形状と、軌道検測車TM1により検測された検測データ(等距離サンプリング)から換算した軌道形状と、の弾性パターンマッチングを実行する際に、照合する軌道形状として、曲率と、ロール角と、を用いる。照合する軌道形状として、曲率とロール角とを用いる利点は、以下の2点である。
【0084】
まず、鉄道車両が高速で走行している場合には、等時間サンプリングから推定した軌道形状として、ロール角よりも曲率の方が、精度が高く信頼性が高い。一方、鉄道車両が低速で走行している場合には、等時間サンプリングから推定した軌道形状として、曲率よりもロール角の方が、精度が高く信頼性が高い。そのため、軌道形状として曲率とロール角とを用いる場合、広い速度範囲に亘って、走行中の鉄道車両の位置を更に高精度で推定することができる。
【0085】
また、軌道検測車TM1により検測データを検測する場合には、曲率は、変位計により検測され、ロール角はジャイロスコープにより検測されるため、軌道検測車TM1により検測された検測データ(等距離サンプリング)から選択される曲率とロール角とは、互いに独立した2つの測定装置により検測されることになる。そのため、曲率とロール角とに対して、同時に大きな雑音が混入する確率が小さくなるため、走行中の鉄道車両の位置を更に高精度で推定することができる。
【0086】
次に、本実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法の好適例を説明する。
【0087】
好適には、コスト算出部22は、算出処理において、時刻T1に位置P1に位置した鉄道車両が時刻T2に位置P2に位置することについての実現可能性を表す指標IN5を算出する。図5では、指標IN5の閾値に対応した速度の上限値であって、基準ノードNSから基準ノードNSよりも1つ後のノードN1へ移動する際の速度の上限値、に対応した傾きを有するエッジESを示している。また、図5では、指標IN5の閾値に対応した速度の上限値であって、基準ノードNGよりも1つ前のノードN1から基準ノードNGへ移動する際の速度の上限値、に対応した傾きを有するエッジEGを示している。
【0088】
また、コスト算出部22は、算出された指標IN1、算出された指標IN2、算出された指標IN3、算出された指標IN4、及び、算出された指標IN5に基づいて、エッジE3が有するコストC2を算出する。なお、指標IN3及び指標IN4には基づかず、指標IN1、指標IN2及び指標IN5のみに基づいて、コストC2を算出してもよい。
【0089】
前述したように、鉄道車両の速度には上限値があり、鉄道車両が上限値よりも速い速度で走行することはあり得ない。そのため、指標IN5を用いることにより、上限値よりも速い速度で走行する場合のコストが無限大になるように、設定することができる。これにより、グラフGR1に基づいて経路を探索する際に、実現不可能な経路を除外しやすくなるので、走行中の鉄道車両の位置を迅速且つ高精度で推定することができる。
【0090】
好適には、コスト算出部22は、算出処理において、時刻T2での6軸データに含まれるヨー角速度ωを速度V1で除することにより、曲率CR3を算出し、時刻T1での6軸データに含まれるヨー角速度ωを速度V1で除することにより、曲率CR4を算出する。なお、少なくとも時刻T2での曲率CR3を算出すればよく、時刻T1での曲率CR4を算出しなくてもよい。
【0091】
このような場合、前述したように、線路の曲率をχ[1/m]とし、鉄道車両の速度V1をV[m/s]としたとき、線路の曲率は、以下の式(4)で表される。
χ=ω/V ・・・(4)
【0092】
これにより、6軸データに含まれるヨー角速度を用いて、各時刻での線路の曲率を容易に算出することができるので、走行中の鉄道車両の位置を容易且つ高精度で推定することができる。
【0093】
好適には、コスト算出部22は、算出処理において、時刻T2での6軸データに含まれるヨー角速度ωに速度V1を乗じて得られた値を時刻T2での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の幅方向の加速度である加速度aに加えて得られた加速度aym、時刻T2での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の長さ方向の加速度である加速度a、時刻T2での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の上下方向の加速度である加速度a、並びに、時刻T2での6軸データに含まれるロール角速度ω、ピッチ角速度ω及びヨー角速度ωに基づいて、ロール角RL3を算出する。
【0094】
また、コスト算出部22は、算出処理において、時刻T1での6軸データに含まれるヨー角速度ωに速度V1を乗じて得られた値を時刻T1での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の幅方向の加速度である加速度aに加えて得られた加速度aym、時刻T1での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の長さ方向の加速度である加速度a、時刻T1での6軸データに含まれる3つの加速度のうち鉄道車両の上下方向の加速度である加速度a、並びに、時刻T1での6軸データに含まれるロール角速度ω、ピッチ角速度ω及びヨー角速度ωに基づいて、ロール角RL4を算出する。なお、少なくとも時刻T2でのロール角RL3を算出すればよく、時刻T1でのロール角RL4を算出しなくてもよい。
【0095】
これにより、6軸データを用いて、各時刻での鉄道車両のロール角を容易に算出することができるので、走行中の鉄道車両の位置を容易且つ高精度で推定することができる。
【0096】
具体的には、コスト算出部22は、算出処理において、ロール角RL3及びロール角RL4を算出する際に、非特許文献1に記載されたMadgwickフィルタを用いることができる。Madgwickフィルタは、例えばドローン等の飛行物体等の移動体に備えられた6軸慣性計測装置により測定された、3つの加速度、ロール角速度、ピッチ角速度及びヨー角速度の各々の6種の測定値、即ち6軸信号を入力することにより、当該移動体のロール角、ピッチ角及びヨー角の各姿勢角を算出して出力するためのフィルタである。
【0097】
但し、本実施の形態では、Madgwickフィルタに通常入力される6種の測定値、即ち6軸信号のうち、鉄道車両の幅方向の加速度の測定値については、測定値に代えて、ヨー角速度に鉄道車両の速度を乗じて得られた値を鉄道車両の幅方向の加速度の測定値に加えて補正された補正値を用いる。
【0098】
前述したように、本実施の形態において鉄道車両の幅方向の加速度として入力される補正値をaym[m/s]とし、補正前の鉄道車両の幅方向の加速度をa[m/s]とし、鉄道車両のヨー角速度をω[°/s]とし、鉄道車両の速度をV[m/s]としたとき、本実施の形態において鉄道車両の幅方向の加速度として入力される補正値は、以下の式(5)で表される。
ym=a+ω×V ・・・(5)
【0099】
移動体が鉄道車両である場合、鉄道車両である移動体が線路上を移動する際に、線路から幅方向の拘束力を受ける点において、移動体がドローン等の飛行物体等である場合と異なる。そのため、鉄道車両である移動体の姿勢角であるロール角をMadgwickフィルタを用いて算出する場合、鉄道車両の幅方向の加速度として、上記式(5)で表されるように補正された補正値をMadgwickフィルタに入力することにより、ロール角を精度良く算出することができる。
【0100】
図7は、軌道検測車により検測された検測データに含まれる通り変位から曲率を算出する方法を模式的に説明する図である。
【0101】
通り変位から曲率を算出する方法として、例えば非特許文献2に記載された方法を用いることができる。また、好適には、曲率データ取得部11は、線路上の基準位置PSから基準位置PGまでの間に互いに等しい間隔INTで配置された複数の位置Pの各々について、距離Dと、位置Pでの線路の曲率と、の関係を示す曲率データを取得する。また、複数の位置Pの各々について、曲率データ取得部11により取得される曲率データにより距離Dとの関係が示される線路の曲率は、位置Pでの線路の通り変位を2倍して得られる値を、間隔INTを2乗して得られる値で除して得られる値に等しい。
【0102】
図7に示すように、端部EP1及び端部EP1と反対側の端部EP2を有する円弧AR1であって、円弧AR1の半径即ち曲率半径がR[m]である線路を考える。このような場合、円弧AR1の中央部CP1から、端部EP1及び端部EP2を有する弦BS1の中央部CP2に下ろした線である正矢の長さをv[m]とし、弦BS1の中央部CP2と端部EP1との距離、及び、中央部CP2と端部EP2との距離を、軌道検測車による検測が行われた位置同士の間隔INTである間隔p[m]とする。また、前述したように、線路の曲率をχ[1/m]とする。このような場合、曲率χは、以下の式(6)で表される。
χ=1/R=2v/p ・・・(6)
【0103】
また、上記式(6)における正矢の長さに代えて、軌道検測車により検測された通り変位(通り狂い)を用いることができる。このような場合、通り変位をw[m]とすると、曲率χは、以下の式(7)で表される。
χ=1/R=2w/p ・・・(7)
【0104】
これにより、軌道検測車により検測された検測データを用いて、各位置での線路の曲率を容易に換算することができるので、走行中の鉄道車両の位置を容易且つ高精度で推定することができる。
【0105】
好適には、複数の位置の各々について、ロール角データ取得部12により取得されるロール角データにより距離Dとの関係が示されるロール角φは、位置Pでの線路の水準変位(水準狂い)に基づいて、算出される。
【0106】
水準変位は、幅方向における左右両側に敷設されている2つのレールである左側レールと右側レールとの間の高さの差である。鉄道車両の床面が、左側レールの頭頂部と右側レールの頭頂部とを結んだ線と略平行とみなすことができ、このような場合、水準変位によりロール角を算出することができる。
【0107】
水準変位をL[m]とするとき、ロール角φは、以下の式(8)で表される。
φ=arctan(L/α) ・・・(8)
上記式(8)において、αは定数である。なお、αとして、線路の軌間(1067mm又は1435mm)に準じる何らかの値を用いることができる。
【0108】
これにより、軌道検測車により検測された検測データを用いて、各位置での線路の曲率を容易に換算することができるので、走行中の鉄道車両の位置を容易且つ高精度で推定することができる。
【0109】
<弾性マッチングの具体例>
次に、本実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法のうち弾性マッチングの具体例について、詳細に説明する。なお、以下に説明する弾性マッチングの具体例は、一例であって、本実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法のうち弾性マッチングは、以下の具体例によって限定されるものではない。
【0110】
図5に示したグラフGR1に基づいて、経路PA1を探索する場合、グラフGR1として、複数のノードN1のうちの2つのノードN1をそれぞれ結合する複数のエッジE1の全てを含むグラフGR1を作成し、作成されたグラフGR1に基づいて、経路PA1を探索する場合には、想定される全ての経路PA1に含まれる全てのエッジE1が有するコストC1の総和を算出することになる。そのため、経路を探索するための計算量が著しく増大する。
【0111】
一方、弾性マッチングを用いることにより、経路PA1を探索するための計算量を低減することができる。なお、弾性マッチングは、動的計画法(Dynamic Programming:DP)とも称される。以下では、弾性マッチングを用いて経路PA1を探索して鉄道車両の位置を推定する位置推定方法の技術的思想について、説明する。
【0112】
例えば、時刻T2及び位置P22を表すノードN42(図6参照)を経由する経路(以下、「全体経路」とも称する。)は多数存在するものの、その全体経路TP1(図5参照)とは別に、基準ノードNSからノードN42までの多数の経路(以下、「部分経路」とも称する。)のうちコストC1の総和が最小となる部分経路である部分経路PP1(後述する図9参照)を探索することはできる。
【0113】
また、基準ノードNSから基準ノードNGまで到達する多数の全体経路TP1(図5参照)のうちコストC1の総和が最小となる全体経路TP1である全体経路TP11(図5参照)がノードN42(図6参照)を経由する場合には、当該全体経路TP11(図5参照)のうち基準ノードNSからノードN42(図6参照)まで到達する部分経路PP1(後述する図9参照)は、部分経路PP11(後述する図9参照)である。これを、最適性の原理と称する。そのため、ノードN42(図6参照)を経由する全体経路TP11(図5参照)は多数存在するものの、それらを記憶しておく必要はなく、ノードN42(図6参照)と部分経路PP11(後述する図9参照)とを関連付けて記憶しておけばよいことになる。
【0114】
このように、弾性マッチングでは、格子状に配列された全てのノードN1に対して、当該ノードN1を経由し且つ基準ノードNSから基準ノードNGまでの多数の全体経路TP1(図5参照)のうちコストC1の総和が最小となる全体経路TP11(図5参照)における、当該ノードN1よりも1つ前のノードN1とその時のコストC1を記憶する。そして、格子状に配列された全てのノードN1に対して、当該コストC1を記憶する処理を実行することにより、基準ノードNSから基準ノードNGまで到達した後は、
1)「基準ノードNGまで到達し且つコストC1の総和が最小となる全体経路TP11(図5参照)における、基準ノードNGよりも1つ前のノードN1」を探索し、
2)「「基準ノードNGまで到達し且つコストC1の総和が最小となる全体経路TP1(図5参照)における、基準ノードNGよりも1つ前のノードN1」まで到達し且つコストC1の総和が最小となる部分経路PP11(後述する図9参照)における、1つ前のノードN1」を探索し、
3)「「「基準ノードNGまで到達し且つコストC1の総和が最小となる全体経路TP11(図5参照)における、基準ノードNGよりも1つ前のノードN1」まで到達し且つコストC1の総和が最小となる部分経路PP11(後述する図9参照)における、1つ前のノードN1」まで到達し且つコストC1の総和が最小となる部分経路PP11(後述する図9参照)における、1つ前のノードN1」を探索し、
・・・と基準ノードNSに達するまで1つずつ遡ることにより、最適な経路PA1(図5参照)を探索することができる。
【0115】
弾性マッチング自体は、パターンマッチングを実行するための汎用的な方法であるが、本実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法のうち弾性マッチングは、パターンマッチングを実行する対象のデータに、鉄道車両の速度としての「経路の傾き」に対する依存性と、「経路の1つ前のノード」に対する依存性と、を持たせた点に、特徴を有する。
【0116】
このような技術的思想に基づくと、位置推定部14による位置推定方法の詳細については、例えば以下のようにすることができる。以下、図5、及び、図8乃至図10を用いて位置推定部の位置推定方法の一例について説明する。図8乃至図10は、時刻を横軸とし、距離を縦軸としたグラフモデルであって複数のノードと複数のエッジとを含むグラフモデルを示す図である。
【0117】
位置推定部14は、図2に示すように、グラフ作成部31と、グラフ更新部32と、グラフ作成部33と、を含む。グラフ更新部32と、グラフ作成部33とは、グラフ作成部23に含まれている。
【0118】
グラフ作成部31は、コスト算出部22による算出処理の前に、図8に示すように、複数のノードN1を含むグラフGR1を作成する(図3のステップS31)。
【0119】
次に、グラフ更新部32は、グラフ作成部31により作成され、且つ、複数のノードN1を含むグラフGR1を更新する、更新処理を実行する(図3のステップS32)。
【0120】
グラフ更新部32は、更新処理において、図8に示すように、時刻選択部21により選択された時刻T1(図6参照)が基準時刻TSと同時刻であるとき、時刻T1を保持した状態で距離D2(位置P2、図6参照)を変更しながら、コスト算出部22による算出処理を繰り返し、基準ノードNSとしてのノードN31と、複数のノードN44の各々と、をそれぞれ結合する複数のエッジE34の各々がそれぞれ有する複数のコストC21を算出し、複数のノードN44の各々と、基準ノードNSとしてのノードN31と、をそれぞれ結合する複数のエッジE34が、複数のエッジE34としてグラフGR1に含まれるように、グラフGR1を更新する。
【0121】
また、グラフ更新部32は、更新処理において、図8に示すように、時刻選択部21により選択された時刻T1(図6参照)が基準時刻TSよりも後の時刻であるとき、時刻T1を保持した状態で距離D1(位置P1、図6参照)及び距離D2(位置P2、図6参照)を変更しながら、コスト算出部22による算出処理を繰り返し、複数のノードN32の各々と、複数のノードN45の各々と、をそれぞれ結合する複数のエッジE35の各々がそれぞれ有する複数のコストC22をコストC1(図5参照)として算出する。
【0122】
また、グラフ更新部32は、更新処理において、図9に示すように、時刻選択部21により選択された時刻T1(図6参照)が基準時刻TSよりも後の時刻であるとき、複数のノードN45の各々について、ノードN45と基準ノードNSとの間の部分経路PP1であって、且つ、複数のノードN32のうちのいずれかであるノードN33と、複数のエッジE35のうちノードN45とノードN33とを結合するエッジE36と、既にグラフGR1に含まれている1つ又は複数のエッジE1であってノードN33と基準ノードNSとを結合する1つ又は複数のエッジE1と、を含む部分経路PP1、に含まれるエッジE36及び1つ又は複数のエッジE1の各々がそれぞれ有する複数のコストC1の総和が最小になるように、部分経路PP1を探索する。
【0123】
また、グラフ更新部32は、更新処理において、図9に示すように、時刻選択部21により選択された時刻T1(図6参照)が基準時刻TSよりも後の時刻であるとき、探索された部分経路PP1に含まれるエッジE36と、ノードN45と、ノードN33と、を含む組データGDを取得する。
【0124】
また、グラフ更新部32は、更新処理において、図9に示すように、時刻選択部21により選択された時刻T1(図6参照)が基準時刻TSよりも後の時刻であるとき、複数のノードN45の各々をそれぞれ含む複数の組データGDがグラフGR1に含まれ、且つ、複数の組データGDの各々に含まれるエッジE36がエッジE1としてグラフGR1に含まれるように、グラフGR1を更新する。
【0125】
次に、グラフ作成部33は、図10に示すように、時刻選択部21により選択される時刻T1(図6参照)を、時刻T2(図6参照)が基準時刻TGと同時刻になるまで順次進めながら、更新処理を繰り返し、グラフGR1を作成する(図3のステップS33)。
【0126】
また、位置推定部14は、図2に示すように、組データ選択部41と、組データ選択部42と、を含む。
【0127】
組データ選択部41は、図10に示すように、グラフ作成部33により作成されたグラフGR1に含まれる複数の組データGDのうち、基準ノードNGをノードN45として含む組データGDを被選択組データGD1として選択する第1組データ選択処理を実行する(図3のステップS41)。
【0128】
組データ選択部42は、図10に示すように、組データ選択部41による第1組データ選択処理の後、グラフGR1に含まれる複数の組データGDのうち、選択されている被選択組データGD1である被選択組データGD11とは異なる被選択組データGD12であって、且つ、被選択組データGD12に含まれるノードN45が、被選択組データGD11に含まれるノードN33と同一である被選択組データGD12を、被選択組データGD1として新たに選択し直す第2組データ選択処理を実行する(図3のステップS42)。
【0129】
また、位置推定部14は、図10に示すように、組データ選択部42が、第2組データ選択処理にて選択された被選択組データGD1に含まれるノードN33により表される時刻Tが基準時刻TSになるまで第2組データ選択処理を複数回繰り返すことにより、複数の組データGDのうち、第1組データ選択処理、及び、複数回繰り返された第2組データ選択処理にて被選択組データGD1として選択された全ての組データGDの各々に含まれるエッジE36を含む経路PA1を探索する。
【0130】
これにより、経路PA1を探索するための計算量を低減することができるので、走行中の鉄道車両の位置を迅速且つ高精度で推定することができる。
【0131】
<実施の形態の位置推定方法の第1変形例>
実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法の第1変形例として、以下の例1)のような位置推定方法を実施することができ、例1)として、更に以下の例1-1)及び例1-2)のような位置推定方法を実施することができる。
【0132】
例1)(動揺計としての使用)鉄道設備の保守をする部署にいる使用者が、車両動揺の実態を調査するために営業車両に小型の6軸慣性測定装置だけを持って乗車し、車内で装置を起動する。
【0133】
例1-1)3軸加速度と3軸角速度(等時間サンプリング)を測定して職場に戻る。本発明に基づいて作られたコンピュータシステムである位置推定装置によって、測定データが等距離サンプリングに直され、且つ、線路のキロ程と照合される。これにより、線路上各点での車両動揺などが分かり、地上設備の保守計画の策定の参考になる。
【0134】
例1-2)3軸加速度と3軸角速度の測定中、本発明に基づいて作られたリアルタイムの位置推定システムである位置推定装置によって、測定値が車両位置の推定値と共に表示される。これにより、使用者が自らの体感で動揺が大きいと感じた地点を確認することができる。
【0135】
<実施の形態の位置推定方法の第2変形例>
実施の形態の位置推定装置を用いた位置推定方法の第2変形例として、以下の例2)のような位置推定方法を実施することができ、例2)として、更に以下の例2-1)及び例2-2)のような位置推定方法を実施することができる。
【0136】
例2)(位置推定装置としての使用)走行中の車両の中で何らかの実験を行う使用者が、実験装置に加えて小型の6軸慣性測定装置を持って乗車する。
【0137】
例2-1)自分が測定したい信号と共に、慣性測定装置の出力をデータレコーダに収録する。実験後にデータを整理するとき、本発明に基づいて作られたコンピュータシステムである位置推定装置によって、測定データが等距離サンプリングに直され、且つ、線路のキロ程と照合される。これにより、測定データと地上設備とが対応付けられる。一例として、乗り心地試験で被験者が手持ちスイッチを押した地点が分かる。
【0138】
例2-2)本発明に基づいて作られたリアルタイムの位置推定システムである位置推定装置によって、実験中に現在位置を確認することができる。
【実施例0139】
以下、実施例に基づいて本実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0140】
(実施例1)
図11は、実施例1の位置推定装置を用いて各時刻における鉄道車両の位置を推定した結果の一例を示すグラフである。実施例1の位置推定装置は、実施の形態の位置推定装置である。
【0141】
図11は、グラフGE1、グラフGE2及びグラフGE3を示す。
【0142】
図11のグラフGE1は、軌道検測車TM1(図2参照)により検測された検測データに基づいて、線路に沿った基準位置PSから位置Pまでの距離D(図5参照)と、位置Pで鉄道車両が線路上を走行している時の鉄道車両のロール角と、の関係を示すロール角データ、即ち等距離サンプリングによるロール角として、実際に取得されたロール角の一例を示す。グラフGE1の横軸(図11ではグラフGE1が反時計方向に90°回転しているため縦軸)は、位置を示し、グラフGE1の縦軸(図11ではグラフGE1が反時計方向に90°回転しているため横軸)は、ロール角を示している。
【0143】
図11のグラフGE2は、鉄道車両が線路上を走行する際に、6軸慣性測定装置(図11ではIMUと表記)による等時間サンプリングを実行し、軌道形状に関する計測データを計測することにより算出されるはずのロール角、即ち等時間サンプリングによるロール角として、実際に算出されたロール角の一例を示す。グラフGE2の横軸は、時間を示し、グラフGE2の縦軸は、ロール角を示している。
【0144】
図11のグラフGE3は、弾性マッチングを行って、等時間サンプリングによる曲率及びロール角と、等距離サンプリングによる曲率及びロール角と、を照合し、等時間サンプリングを実行した各時刻、即ち各時間と、等距離サンプリングを実行した各位置、即ち各距離と、を対応させることにより、実際に推定された、複数の時刻の各々における鉄道車両の位置の一例を示す。グラフGE3の横軸は、時間を示し、グラフGE3の縦軸は、位置を示している。
【0145】
図11のグラフGE1に示すように、まず、軌道検測車TM1(図2参照)により検測された検測データに基づいて、等距離サンプリングによる曲率及びロール角を取得した。その後、測定者が6軸慣性測定装置を持って乗車した鉄道車両が線路上を走行する際に、6軸慣性測定装置により等時間サンプリングを実行し、等時間サンプリングによる6軸データを取得し、実施の形態の位置推定装置及び位置推定方法を用いて、複数の時刻の各々における鉄道車両の位置を推定した。
【0146】
その結果、弾性マッチングを行って、等時間サンプリングによる曲率及び等時間サンプリングによるロール角(図11のグラフGE1参照)と、等距離サンプリングによる曲率及びロール角と、を照合することができ、図11のグラフGE2に示すように、等時間サンプリングによるロール角を算出することができ、図11のグラフGE3に示すように、複数の時刻の各々における鉄道車両の位置を推定することができた。また、推定された各時刻における鉄道車両の位置は、別の方法で計測された各時刻における鉄道車両の位置と略一致していた。従って、実施の形態の位置推定装置及び位置推定方法によれば、測定者が簡易な測定装置を持って乗車するだけでも走行中の鉄道車両の位置を容易且つ精度良く推定することができ、簡便で且つ測定者にとって使いやすい位置推定装置を実現することができる。
【0147】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0148】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0149】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、鉄道車両が線路上を走行する際の鉄道車両の位置を推定する位置推定装置及び位置推定方法に適用して有効である。
【符号の説明】
【0151】
11 曲率データ取得部
12 ロール角データ取得部
13 6軸データ取得部
14 位置推定部
21 時刻選択部
22 コスト算出部
23、31、33 グラフ作成部
24、25 繰り返し処理部
32 グラフ更新部
41、42 組データ選択部
AR1 円弧
BS1 弦
C1、C2、C21、C22 コスト
CP1、CP2 中央部
D、D1、D2、D21、DG、DS 距離
E1、E2、E3、E31~E36、EG、ES エッジ
EP1、EP2 端部
GD 組データ
GD1、GD11、GD12 被選択組データ
GE1~GE3、GR1 グラフ
IM1 6軸慣性計測装置
N1、N2、N3、N31~N33、N4、N41~N45 ノード
NG、NS 基準ノード
P、P1、P1、P2、P21~P23 位置
PA1 経路
PG、PS 基準位置
PP1、PP11 部分経路
RA1 線路
RC1 鉄道車両
T、T1、T2 時刻
TG、TS 基準時刻
TM1 軌道検測車
TP1、TP11 全体経路
V1、V11 速度

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11