(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074053
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】キセノンを含有する麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20240523BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240523BHJP
A61P 23/00 20060101ALI20240523BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240523BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240523BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20240523BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240523BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P25/20
A61P23/00
A61K9/107
A61K47/24
A61K47/44
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185105
(22)【出願日】2022-11-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年12月27日に、科学研究費助成事業データベースのウェブサイト(https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-20K23090/、及びhttps://kaken.nii.ac.jp/ja/report/KAKENHI-PROJECT-20K23090/20K230902020hokoku/)にて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】505116781
【氏名又は名称】学校法人東日本学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】岩本 理恵
(72)【発明者】
【氏名】照光 真
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076BB13
4C076CC01
4C076DD38D
4C076DD63F
4C076EE53F
4C076EE54F
4C076FF14
4C076FF43
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA13
(57)【要約】
【課題】より高濃度のキセノンを含有するエマルション製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示は、薬学的に許容されるエマルションを充填した密閉容器内に、0~10℃の温度で、圧力が0.1~1.0 MPaとなるようにキセノンガスを導入し、振盪する工程を含む、麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法を提供する。エマルション製剤は、吸入麻酔薬よりもより少量で麻酔鎮静効果が得られる静脈麻酔薬として利用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容されるエマルションを充填した密閉容器内に、0~10℃の温度で、圧力が0.1~1.0 MPaとなるようにキセノンガスを導入し、振盪する工程を含む、麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法。
【請求項2】
薬学的に許容されるエマルションが、5~35%(W/V)の油脂と、0.3~2.1%(W/V)のリン脂質とを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
薬学的に許容されるエマルションが、大豆油、ココナッツ油、オリーブ油及び魚油よりなる群から選択される少なくとも1種の油とレシチンと等張化剤とを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
薬学的に許容されるエマルションが、10~20%(W/V)の大豆油と0.6%(W/V)の卵黄レシチンとグリセリンとを含む等張性エマルションである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
薬学的に許容されるエマルションが、静脈栄養用の脂肪乳剤である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
圧力が0.4~0.8 MPaとなるようにキセノンガスを導入する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キセノンを含有する麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キセノン(Xe)は、常温常圧では無色無臭の希ガスの一種である。キセノンは、麻酔効果の導入及び覚醒が早い、鎮痛作用を有する、処理中の循環動態が安定しているなどの、麻酔薬として良好な性質を有しており、欧州では吸入麻酔薬として承認されている。しかし、キセノンガスは非常に高価であるため、ガス使用量の多い吸入麻酔薬は臨床的にはあまり普及していない。
【0003】
キセノンが脂溶性であることを利用し、水中油エマルション又はリポソームエマルションを含む脂肪エマルションにキセノンガスを溶解又は分散させた液体製剤を麻酔薬又は鎮静薬として用いることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本発明者らは、特定の条件下でエマルションにキセノンガスを導入して振盪することにより、エマルション中により高濃度にキセノンを含有させることが可能であることを見出した。
【0006】
本開示は以下の発明を提供する。
項1. 薬学的に許容されるエマルションを充填した密閉容器内に、0~10℃の温度で、圧力が0.1~1.0 MPaとなるようにキセノンガスを導入し、振盪する工程を含む、麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法。
項2. 薬学的に許容されるエマルションが、5~35%(W/V)の油脂と、0.3~2.1%(W/V)のリン脂質とを含む、項1に記載の製造方法。
項3. 薬学的に許容されるエマルションが、大豆油、ココナッツ油、オリーブ油及び魚油よりなる群から選択される少なくとも1種の油とレシチンと等張化剤とを含む、項1又は項2に記載の製造方法。
項4. 薬学的に許容されるエマルションが、10~20%(W/V)の大豆油と0.6%(W/V)の卵黄レシチンとグリセリンとを含む等張性エマルションである、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5. 薬学的に許容されるエマルションが、静脈栄養用の脂肪乳剤である、項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
項6. 圧力が0.4~0.8 MPaとなるようにキセノンガスを導入する、項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【0007】
本発明の製造方法は、キセノンを高濃度に含有するエマルション製剤を提供することができる。このエマルション製剤は、吸入麻酔薬よりもより少量で麻酔鎮静効果が得られる静脈麻酔薬として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1のエマルション製剤の体重当たりの投与量に対する回復時間の散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に示す説明は、代表的な実施形態又は具体例に基づくことがあるが、本発明はそのような実施形態又は具体例に限定されるものではない。本明細書において示される各数値範囲の上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。また、本明細書において「~」又は「-」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、その両端の数値を上限値及び下限値として含む範囲を意味する。
【0010】
本開示は、薬学的に許容されるエマルションを充填した密閉容器内に、0~10℃の温度で、圧力が0.1~1.0 MPaとなるようにキセノンガスを導入し、振盪する工程を含む、麻酔又は鎮静用エマルション製剤の製造方法を提供する。
【0011】
薬学的に許容されるエマルションは、薬学的に許容される油成分と水とが薬学的に許容される両親媒性物質によって乳化された、生体に投与可能な、特に血管内に投与可能なエマルションである。
【0012】
油成分としては、薬学的に許容される任意の油脂類を用いることができる。油脂類は、炭素数6~30程度(好ましくは6~22程度)の脂肪酸のグリセリンエステルを含む。脂肪酸の例としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸などの飽和脂肪酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸を挙げることができる。
【0013】
油脂類としては、植物油、魚油、植物油又は魚油の部分水素添加油、エステル交換反応で得られる油脂(単酸基グリセリド又は混酸基グリセリド)などを例示することができる。
【0014】
植物油としては、例えば、大豆油、綿実油、ナタネ油、ピーナッツ油、サフラワー油、ゴマ油、米ヌカ油、コーン胚芽油、ヒマワリ油、ケシ油、ココナッツ油、オリーブ油を挙げることができる。植物油は、好ましくは、大豆油、ココナッツ油又はオリーブ油、より好ましくは大豆油である。
【0015】
本開示において好ましく用いられる油成分は、大豆油、ココナッツ油、オリーブ油及び魚油よりなる群から選択される少なくとも1種の油脂である。油成分は、1種類の油脂であってもよく、複数種類の油脂の混合物であってもよい。
【0016】
エマルションに含まれる油成分の量は、5%(W/V)以上、7.5%(W/V)以上、10%(W/V)以上、12.5%(W/V)以上、15%(W/V)以上、17.5%(W/V)以上、20%(W/V)以上であり得て、また35%(W/V)以下、30%(W/V)以下、25%(W/V)以下、22.5%(W/V)以下、20%(W/V)以下、17.5%(W/V)以下、15%(W/V)以下、12.5%(W/V)以下であり得る。
【0017】
ある実施形態において、エマルションに含まれる油成分の量は、5~35%(W/V)である。別の実施形態において、エマルションに含まれる油成分の量は、10~30%(W/V)である。また別の実施形態において、エマルションに含まれる油成分の量は、10~20%(W/V)である。
【0018】
両親媒性物質としては、薬学的に許容される任意の界面活性剤、合成リン脂質及び天然リン脂質を、それぞれ単独で、又は複数種類の混合物として用いることができる。両親媒性物質は、好ましくは、合成リン脂質又は天然リン脂質である。
【0019】
界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、硬化ヒマシ油ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン誘導体、ポリオキシエチレンソルビトール誘導体、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートを挙げることができる。
【0020】
合成リン脂質としては、例えば、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、オレオイルパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオクタノイルホスファチジン酸、ジデカノイルホスファチジン酸、ジラウロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジヘプタデカノイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、アラキドニルステアロイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルセリンを挙げることができる。
【0021】
天然リン脂質としては、例えば、卵黄レシチン、大豆レシチン、卵黄レシチン又は大豆レシチンの水素添加物組成物を挙げることができる。天然リン脂質は、好ましくは、卵黄レシチンである。
【0022】
エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、0.1%(W/V)以上、0.2%(W/V)以上、0.3%(W/V)以上、0.4%(W/V)以上、0.5%(W/V)以上、0.6%(W/V)以上、0.7%(W/V)以上、0.8%(W/V)以上、0.9%(W/V)以上、1.0%(W/V)以上であり得て、また5%(W/V)以下、4%(W/V)以下、3.5%(W/V)以下、3.0%(W/V)以下、2.7%(W/V)以下、2.4%(W/V)以下、2.1%(W/V)以下、2.0%(W/V)以下、1.9%(W/V)以下、1.8%(W/V)以下、1.7%(W/V)以下、1.6%(W/V)以下、1.5%(W/V)以下、1.4%(W/V)以下、1.3%(W/V)以下、1.2%(W/V)以下であり得る。
【0023】
ある実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、0.3~2.1%(W/V)である。別の実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、0.6~1.8%(W/V)である。また別の実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、0.6~1.2%(W/V)である。
【0024】
エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、油成分の量に対して1%以上、2%以上、3%以上、4%以上、5%以上、6%以上であり得て、また20%以下、15%以下、12%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下であり得る。
【0025】
ある実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、油成分の量に対して2~20%(W/V)である。別の実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、油成分の量に対して4~12%(W/V)である。また別の実施形態において、エマルションに含まれる両親媒性物質の量は、油成分の量に対して4~8%(W/V)である。
【0026】
エマルションは、さらに等張化剤、安定化剤、乳化補助剤、乳化安定剤などの添加剤を含んでもよい。
【0027】
等張化剤としては、例えば、グリセリン、糖アルコール、単糖類、二糖類、アミノ酸、デキストラン、アルブミンを用いることができる。
【0028】
安定化剤としては、例えば、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、ソルビン酸、レチノール)、キレート剤(例えば、クエン酸、酒石酸)を用いることができる。
【0029】
乳化補助剤としては、例えば、炭素数6~30程度の脂肪酸、その塩、そのモノグリセリドを用いることができる。ここで脂肪酸の例としては、カプロン酸、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、エイコサペンタン酸、ドコサヘキサエン酸を挙げることができる。また脂肪酸の塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩を挙げることができる。
【0030】
乳化安定剤としては、例えば、コレステロール、コレステロールエステル、トコフェロール、アルブミン、脂肪酸アミド誘導体、多糖類、多糖類の脂肪酸エステル誘導体を用いることができる。
【0031】
エマルションのpHは概ね中性であればよく、例えば5.5~9.5、好ましくは6.0~9.0、より好ましくは6.5~8.5である。pHは、リン酸、炭酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調節剤によって調節することができる。
【0032】
本開示において用いられる好ましいエマルションは、5~35%(W/V)の油脂と、0.3~2.1%(W/V)のリン脂質とを含む。
【0033】
本開示において用いられる好ましいエマルションは、大豆油、ココナッツ油、オリーブ油及び魚油よりなる群から選択される少なくとも1種の油とレシチンと等張化剤とを含む。ある実施形態において、エマルションは、10~20%(W/V)の大豆油と0.6~1.2%(W/V)の卵黄レシチンとグリセリンとを含む等張性エマルションである。
【0034】
静脈栄養用の脂肪乳剤は、本開示におけるエマルションとして好ましく用いることができる。脂肪乳剤の例としては、Intralipid、イントラリポス、Lipovenoes、Liposyn III、Lipofundin、Structolipid、Omegaven、Clinolipid、ClinOleic、Lipoplus、Lipidm、SMOFlipid(いずれも商標又は登録商標)を挙げることができる。好ましい脂肪乳剤は、イントラリポス輸液10%又は20%である。イントラリポス輸液10%は、10%(W/V)の大豆油、1.2%(W/V)の卵黄レシチン、2.2%(W/V)のグリセリン及び水を含有する、pH6.5~8.5の等張性エマルションである。イントラリポス輸液20%は、20%(W/V)の大豆油、1.2%(W/V)の卵黄レシチン、2.2%(W/V)のグリセリン及び水を含有する、pH6.5~8.5の等張性エマルションである。
【0035】
エマルションは、公知の方法によって、例えば、油成分及び両親媒性物質を含み、さらに等張化剤などの添加剤を含んでもよい混合液と、水とを、乳化機を用いて均質化処理して粗乳液を調製し、必要に応じて水を追加で添加して乳化機を用いて均質化処理した後、フィルターなどの濾過手段で大粒子を除去する方法によって、製造することができる。
【0036】
本開示におけるエマルション製剤の製造方法は、上述の薬学的に許容されるエマルションを充填した密閉容器内に、0~10℃の温度で、圧力が0.1~1.0 MPaとなるようにキセノンガスを導入し、振盪する工程を含む。この工程は、例えば、耐圧容器にエマルションを充填して密閉し、容器に設けられたバルブを介してキセノンガスを導入した後、耐圧容器ごと振盪することで行うことができる。
【0037】
キセノンガスは、容器内の圧力が0.1~1.0 MPa、好ましくは0.4~0.8 MPaとなるように導入される。キセノンガスの圧力は、振盪を開始する時点で上記範囲内にあればよいが、振盪の間もキセノンガスを導入して圧力を維持することが好ましい。
【0038】
キセノンガスが導入されたエマルションは、容器ごと振盪に供される。振盪は、エマルションへのキセノンガスの溶解が達成できるように行えばよく、例えば、水平方向の往復振盪を40~250 r/min、好ましくは100~150 r/minの速度で、10~40 mm程度の振幅で、5分間以上、好ましくは10分間以上、20分間以上、又は30分間以上行うことができる。振盪時間の上限に制限はなく、例えば120分間以下、60分間以下、45分間以下、又は30分間以下であり得る。
【0039】
エマルションへのキセノンガスの導入及び振盪は、0~10℃、好ましくは1~4℃の温度で行われる。エマルションの温度は、容器を外側から冷却することで制御してもよく、容器の内部に設けられた温度調節手段によってエマルションを直接冷却することで制御してもよい。
【0040】
この工程を含む方法によって製造されたエマルション製剤は、液体形態の組成物であって、対象の血管、皮下、筋肉内に、点滴、シリンジ、輸液ポンプその他の手段によって注入投与されることで麻酔鎮静効果を発揮することができる。
【0041】
エマルション製剤は、麻酔、鎮静、鎮痛、又は筋弛緩を目的として、全身麻酔、硬膜外麻酔、脊髄くも膜下麻酔、抹消神経ブロックなどの区域麻酔、及び外科治療時や歯科治療時の局所麻酔において、並びに静脈内鎮静法において、単独で利用することができる。また、他の麻酔薬又は鎮静薬に対する補助的な麻酔薬又は鎮静薬としても利用可能である。
【0042】
エマルション製剤によると、浅鎮静、深鎮静のいずれも達成することができる。ここで浅鎮静(light sedation)とは、意識下鎮静(conscious sedation)とも呼ばれ、対象者の意識を消失させない程度で鎮静レベルが保たれた状態を意味する。また、深鎮静(deep sedation)とは、意識下鎮静よりも鎮静レベルが深い状態で、かつ全身麻酔のレベルではない状態を意味する。
【0043】
エマルション製剤のヒトに対する1回当たりの投与量は、使用目的に応じて適宜調節することができる。
【0044】
エマルション製剤は、注入投与が可能である限り、他の任意の生理活性物質を含めることもできる。そのような物質の例としては、バルビタール類、オピオイドなどの麻酔薬、ヒドロモルホン類、コデイン類、モルヒネ類などの鎮痛薬、ダントロレン、ジアゼパムなどの筋弛緩薬、トリアゾラム、ロルメタゼバンなどの鎮静薬を挙げることができる。
【0045】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の理解を助けるためのものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【実施例0046】
(1)エマルション製剤の製造
内径25 mm、長さ140 mmの円筒状のガラス製耐圧容器(容積100 cm3)の両端にフランジ接合によりバルブを連結した。容器内にイントラリポス(登録商標)輸液10%を20ml充填した後、耐圧チューブを介して一方のバルブにデジタル圧力計を、他方のバルブにキセノンガスボンベを接続し、容器を氷上に設置した。両バルブを開いてキセノンガスを、圧力調整器にて内圧が0.5~0.7MPaとなるように調整して導入し、温度0~10℃で、手用又は振盪機(BIO CRAFTラボシェーカー(レシプロ) 型番BC-730)にて振盪することで、キセノンを含有するエマルション製剤を製造した。手用での振盪は、往復(水平)方式で、速度40-50r/min、振幅10-40 mmで10分間行った。振盪機での振盪は、水平往復運動で、速度120-140 r/min、振幅10-40 mmで10分間又は30分間行った。製造したエマルション製剤は、容器から取り出した後5分間以内に以下の試験に用いた。
【0047】
(2)麻酔鎮静試験
Jcl-ICRマウス(雄、週齢5週以降、n=10)を、最低1週間の馴化期間を設けた後、実験に使用した。実験時のマウスの体重は37.0~51.9 gの範囲であった。尻尾の部分のみ自由になる保定器にマウスを保定し、(1)で調製したエマルション製剤0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、又は1.2 mlを、27Gの直針を用いて尾静脈内に単回投与した。投与前後にマウスの行動観察を行い、鎮静深度を、0:なし、1:浅鎮静、2:深鎮静の3段階で麻酔鎮静効果を評価した。さらに、完全回復までの時間(min)についても記録した。
【0048】
マウスの鎮静深度は、投与前の状態と比較して活動量は低下しているが、意識・呼吸はしっかり保たれており、さらに、刺激の有無に関わらず、多少程度動き回ることがある状態を浅鎮静とし、一方、投与前の状態と比較して明らかに活動量が低下しており、じっとしている状態であって、刺激すると多少動き回るものの、すぐにじっとして動かなくなるが、意識は消失しておらず、呼吸も保たれている状態を深鎮静とした。
【0049】
手用振盪により製造したエマルション製剤を投与した群(A群、n=7)の結果を表1に、振盪機で10分間の振盪により製造したエマルション製剤を投与した群(B群、n=9)の結果を表2に、振盪機で30分間の振盪により製造したエマルション製剤を投与した群(C群、n=6)の結果を表3に示す。また、各群について、体重当たりの投与量と回復時間との関係を
図1に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0050】
A群ではエマルション製剤の投与量が15.801 ml/kg以上で、B群では18.018 ml/kg以上で、C群では18.306ml/kg以上で鎮静効果が確認された。回復時間は、A群、B群、C群の順で長くなる傾向があった。