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特開2024-74092ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074092
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/12 20060101AFI20240523BHJP
   G01R 31/34 20200101ALI20240523BHJP
【FI】
H02P6/12
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185161
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曾 徳全
【テーマコード(参考)】
2G116
5H560
【Fターム(参考)】
2G116BA03
2G116BB02
2G116BC05
5H560BB04
5H560BB16
5H560DC20
5H560JJ19
5H560SS07
5H560TT11
5H560TT15
(57)【要約】
【課題】 検出コイルを使用することなく、かつ、交流電圧変動の影響を受けずに故障検出が可能なブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置を提供する。
【解決手段】 ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置は、ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置であって、ブラシレス同期電動機に入力される有効電力値と、無効電力値と、端子電圧値とに基づいて、ブラシレス同期電動機の運転点をアドミタンス座標として演算し、ブラシレス同期電動機の励磁電流演算値を演算する励磁電流演算部と、ブラシレス同期電動機の励磁回路に供給される励磁電流の検出値である励磁電流検出値を取得し、励磁電流演算部によって演算された励磁電流演算値と、取得した励磁電流検出値とを比較し、励磁電流演算値と励磁電流検出値との差分を示す励磁電流差分値を算出する励磁電流差分値算出部と、励磁電流差分値と、許容値とを比較し、励磁電流差分値が許容値以上であれば、回転整流器の故障と判定する故障判定部と、を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置であって、
前記ブラシレス同期電動機に入力される有効電力値と、無効電力値と、端子電圧値とに基づいて、前記ブラシレス同期電動機の運転点をアドミタンス座標として演算し、前記ブラシレス同期電動機の励磁電流演算値を演算する励磁電流演算部と、
前記ブラシレス同期電動機の励磁回路に供給される励磁電流の検出値である励磁電流検出値を取得し、前記励磁電流演算部によって演算された前記励磁電流演算値と、取得した前記励磁電流検出値とを比較し、前記励磁電流演算値と前記励磁電流検出値との差分を示す励磁電流差分値を算出する励磁電流差分値算出部と、
前記励磁電流差分値と、許容値とを比較し、前記励磁電流差分値が前記許容値以上であれば、回転整流器の故障と判定する故障判定部と、
を備えることを特徴とするブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置において、
前記励磁電流演算部は、さらにブラシレス同期電動機の同期インピーダンスに基づいて前記励磁電流演算値を演算する
ことを特徴とするブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置において、
前記励磁電流演算部は、前記同期インピーダンスとして、直軸同期リアクタンスと横軸同期リアクタンスとを使用する
ことを特徴とするブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置。
【請求項4】
請求項2に記載のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置において、
前記励磁電流演算部は、前記同期インピーダンスとして、直軸同期リアクタンスまたは横軸同期リアクタンスのいずれか一方を使用する
ことを特徴とするブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置において、
前記許容値は、前記励磁電流検出値または前記励磁電流演算値に基づいて変動する値である
ことを特徴とするブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシレス同期機の回転整流器故障検出装置は、検出コイルを使用する手法を用いるものと、検出コイルを使用しない手法を用いるものとが存在した(例えば、特許文献1~特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-295252号公報
【特許文献2】特開平11-346499号公報
【特許文献3】特開平4-372559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、検出コイルを使用する従来手法では、構造が複雑になるという問題があり、検出コイルを使用しない従来手法では、交流母線電圧の電圧変動を受けてしまう可能性があるという問題があった。
【0005】
そこで、本件開示は、検出コイルを使用することなく、かつ、交流電圧変動の影響を受けずに故障検出が可能なブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様に係るブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置は、ブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置であって、ブラシレス同期電動機に入力される有効電力値と、無効電力値と、端子電圧値とに基づいて、ブラシレス同期電動機の運転点をアドミタンス座標として演算し、ブラシレス同期電動機の励磁電流演算値を演算する励磁電流演算部と、ブラシレス同期電動機の励磁回路に供給される励磁電流の検出値である励磁電流検出値を取得し、励磁電流演算部によって演算された励磁電流演算値と、取得した励磁電流検出値とを比較し、励磁電流演算値と励磁電流検出値との差分を示す励磁電流差分値を算出する励磁電流差分値算出部と、励磁電流差分値と、許容値とを比較し、励磁電流差分値が許容値以上であれば、回転整流器の故障と判定する故障判定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本件開示によれば、検出コイルを使用することなく、かつ、交流電圧変動の影響を受けずに故障検出が可能なブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係るブラシレス同期電動機システムの全体構成例を示す図である。
図2図1に示すブラシレス同期電動機のP-Q座標による運転点表示例を示す図である。
図3図1に示すブラシレス同期電動機のアドミタンス座標による運転点表示例を示す図である。
図4図1に示すブラシレス同期電動機の直軸同期リアクタンスと横軸同期リアクタンスとが等しいとみなせる場合のアドミタンス座標による運転点表示例を示す図である。
図5】一実施形態の第1変形例に係るブラシレス同期電動機システムの全体構成例を示す図である。
図6図1図5に示した実施形態における回転整流器故障検出装置が有する処理回路のハードウェア構成例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本件開示のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0010】
<一実施形態の構成>
図1は、一実施形態に係るブラシレス同期電動機システム1の全体構成例を示す図である。
【0011】
本実施形態では、本件開示のブラシレス同期電動機の回転整流器故障検出装置が、ブラシレス同期電動機の一例として、ブラシレス同期電動機10に適用された場合の例について説明する。
【0012】
図1に示すとおり、ブラシレス同期電動機システム1は、ブラシレス同期電動機10と、励磁装置60と、回転整流器故障検出装置80とを備える。また、ブラシレス同期電動機システム1において、ブラシレス同期電動機10は、電流変成器71と、電圧変成器72と、上位遮断器73と、受電変圧器74とを介して受電母線75と接続され、励磁装置60は、外部電源66と接続される。また、電流変成器71と、電圧変成器72とは、マルチメータ76を介して回転整流器故障検出装置80と接続される。以下、本明細書において、ブラシレス同期電動機システム1は、単に「同期電動機システム1」とも称される。
【0013】
ブラシレス同期電動機10は、シンクロナスモーター(SM:Synchronous Motor)とも称され、受電母線75に接続される不図示の一次側の主回路入力電源である交流電源の周波数によって決まる同期速度で、その回転軸が回転する電動機である。ブラシレス同期電動機10は、同期電動機本体20と、回転整流器30と、交流励磁機40とを備え、同期電動機本体20の一部構成と、回転整流器30と、交流励磁機40の一部構成とが、回転子50を構成する。以下、本明細書において、ブラシレス同期電動機10は、単に「同期電動機10」とも称される。
【0014】
同期電動機本体20は、同期電動機電機子21と、同期電動機主励磁巻線22とを有する。なお、同期電動機本体20は、「同期電動機本体」の一例である。
【0015】
同期電動機電機子21は、例えば、受電母線75と接続される固定子であり、受電母線75から供給される交流電流によって回転磁界が作られる。同期電動機電機子21は、例えば、円筒状の固定子巻線であり、円筒状の内部には、回転子50である同期電動機主励磁巻線22が挿入される。
【0016】
同期電動機主励磁巻線22は、例えば、円筒状の同期電動機電機子21の内部に挿入される回転子50を構成するものであり、交流励磁機40から供給される励磁電流によって磁束を発生させ、同期電動機電機子21の回転磁界に吸引されて追従し回転する。
【0017】
回転整流器30には、複数の半導体素子31が3相ブリッジにて接続配置され、直流側が同期電動機主励磁巻線22と接続され、交流側が交流励磁機電機子41と接続されて回転する。すなわち、回転整流器30は、回転子50の回転軸と機械的に接続されている。回転整流器30は、後述の交流励磁機電機子41から供給される交流電流を半導体素子31によって直流電流に変換し(整流し)、変換された直流電流を機械的に接続されている同期電動機主励磁巻線22に供給する。
【0018】
半導体素子31は、例えば、短絡(ショート)又は開放(オープン)故障が発生すると、整流の際に通常とは異なる電流リップルおよび電圧リップルを発生させる。発生した電圧リップルは、交流励磁機励磁コイル42に伝搬される。
【0019】
交流励磁機40は、交流励磁機電機子41と、交流励磁機励磁コイル42とを有する。
【0020】
交流励磁機電機子41は、交流励磁機励磁コイル42の磁界内で回転することにより、交流励磁機励磁コイル42から電力を供給される。
【0021】
交流励磁機励磁コイル42は、励磁装置60を介して外部電源66と接続される。交流励磁機励磁コイル42は、励磁装置60によって交流電流から直流電流に変換された励磁電流が流れることで磁界を発生させる。
【0022】
励磁装置60は、例えば、一端が交流励磁機励磁コイル42と接続され、他端が外部電源66と接続される。励磁装置60は、外部電源66から供給される交流電流を整流した励磁電流を交流励磁機励磁コイル42に供給する。励磁装置60は、電流センサ61と、トランスデューサ62と、サイリスタ整流器63と、遮断器64とを有する。
【0023】
電流センサ61は、例えば、交流励磁機励磁コイル42とサイリスタ整流器63との間に配置され、出力端がトランスデューサ62と接続される。電流センサ61は、サイリスタ整流器63から出力される直流電流を検出し、トランスデューサ62に出力する。
【0024】
トランスデューサ62は、例えば、電流センサ61の出力を入力とし、適切なレベルの信号に変換し、その出力は、回転整流器故障検出装置80や、不図示の励磁電流制御装置と接続される。トランスデューサ62は、電流センサ61から出力される電流信号を計装用信号である励磁電流検出値Ifに変換して回転整流器故障検出装置80に出力する。すなわち、トランスデューサ62は、交流励磁機40に供給される励磁電流の検出値である励磁電流検出値Ifを回転整流器故障検出装置80に出力する。以下、本明細書において、トランスデューサ62は、「TRD(Transducer)62」とも称される。
【0025】
サイリスタ整流器63は、例えば、直流出力の一端が交流励磁機励磁コイル42と接続され、交流入力の他端が遮断器64を介して外部電源66と接続される。サイリスタ整流器63は、外部電源66から供給される交流電流を直流電流に変換し(整流し)、変換(整流)された直流電流を交流励磁機励磁コイル42に供給する。
【0026】
遮断器64は、例えば、外部電源66とサイリスタ整流器63との間に直列に設けられる。遮断器64は、例えば、回転整流器故障検出装置80から出力される動作信号TCに基づいて、外部電源66からサイリスタ整流器63へ流れる電流を遮断し、同期電動機10を停止させる。これにより、遮断器64は、同期電動機10の励磁回路を保護し、同期電動機システム1や同期電動機10が用いられる設備への故障波及を防止する。
【0027】
外部電源66は、例えば、三相交流電源であり、励磁装置60において、遮断器64を介してサイリスタ整流器63と接続されており、サイリスタ整流器63に三相交流電力を供給する。
【0028】
電流変成器71は、例えば、上位遮断器73と同期電動機電機子21との間に配置され、受電母線75から供給される交流電流を、マルチメータ76で検出可能な電流に変換させる。以下、本明細書において、電流変成器71は、「CT(Current Transformer)71」とも称される。
【0029】
電圧変成器72は、例えば、上位遮断器73と同期電動機電機子21との間に配置され受電母線75から供給される交流電圧をマルチメータ76で検出可能な電圧に降圧させる。以下、本明細書において、電圧変成器72は、「VT(Voltage Transformer)72」とも称される。
【0030】
上位遮断器73は、例えば、受電変圧器74と同期電動機電機子21との間に直列に設けられる。上位遮断器73は、例えば、回転整流器故障検出装置80から出力される動作信号TCに基づいて、受電母線75から受電変圧器74を介してサイリスタ整流器63へ流れる電流を遮断し、同期電動機10を停止させる。これにより、上位遮断器73は、同期電動機10を保護し、同期電動機システム1や同期電動機10が用いられる設備への故障波及を防止する。
【0031】
受電変圧器74は、例えば、受電母線75と上位遮断器73との間に配置され、受電母線75から供給される交流電圧を所定の電圧に変換する。
【0032】
受電母線75は、例えば、一端が不図示の三相交流電源と接続され、他端が受電変圧器74と上位遮断器73とを介して同期電動機電機子21と接続されており、同期電動機電機子21に三相交流電源から供給される三相交流電力を供給する。
【0033】
マルチメータ76は、指示計器と変換器とが一体化された計器であり、CT71及びVT72と接続され、CT71及びVT72を介して、受電母線75から同期電動機10に供給される交流電力の電流および端子電圧等の値を測定する。また、マルチメータ76は、有効電力検出器と、無効電力検出器等の機能を有し、測定された電流、電圧等の値に所定の変換等を行って、有効電力、無効電力等の値を検出(算出)する。
【0034】
マルチメータ76によって取得された測定値や検出値は、例えば、不図示の上位装置や制御装置等によって取得され、同期電動機10の運転状態の監視や励磁装置60の出力制御に使用される。また、マルチメータ76によって測定された端子電圧信号の値である端子電圧値Vと、検出(算出)された有効電力信号の値である有効電力値Pと、検出(算出)された無効電力信号の値である無効電力値Qとは、回転整流器故障検出装置80によって取得される。
【0035】
回転整流器故障検出装置80は、例えば、プログラムを実行することにより動作するCPU(Central Processing Unit)等の後述のプロセッサ91(図6参照)を有する。回転整流器故障検出装置80は、例えば、後述のメモリ92(図6参照)に記憶された所定のプログラムを実行することにより後述のプロセッサ91(図6参照)を動作させて、回転整流器30の故障(素子故障)を検出する。回転整流器故障検出装置80は、マルチメータ76から出力される有効電力値Pと、無効電力値Qと、端子電圧値Vと、TRD62から出力される励磁電流検出値Ifとに基づいて回転整流器30の故障を検出する。
【0036】
回転整流器故障検出装置80は、入力部81と、座標変換部82と、励磁電流演算器83と、差分器84と、コンパレータ85と、記憶部86との構成又は機能を有する。
【0037】
<一実施形態の動作>
入力部81は、マルチメータ76から出力される有効電力値Pと、無効電力値Qと、端子電圧値Vとを取得する。入力部81は、取得した有効電力値Pと、無効電力値Qと、端子電圧値Vとを、単位法(Per-Unit method)の値に変換し、座標変換部82に出力する。
【0038】
座標変換部82は、入力部81から取得した有効電力値Pと、無効電力値Qと、端子電圧値Vとを、アドミタンス座標系での値を示すアドミタンス座標値に変換する。なお、以下、アドミタンス座標を「G-B座標」と称することもあり、アドミタンス座標で表した値(運転点)等を「G-B座標値」と称することもある。なお、G-B座標変換の詳細は、後述する(図3、4参照)。座標変換部82は、変換したG-B座標値を、励磁電流演算器83に出力する。なお、G-B座標は、「アドミタンス座標」の一例であり、座標変換部82は、「座標変換部」の一例である。
【0039】
励磁電流演算器83は、座標変換部82から取得したG-B座標値と、記憶部86から取得した同期インピーダンスZsと、比例係数KLとに基づいて、励磁電流演算値Ifを演算し、差分器84に出力する。なお、励磁電流演算器83は、「励磁電流演算部」の一例である。
【0040】
差分器84は、励磁電流演算器83から、励磁電流演算値Ifを取得するとともに、TRD62から、交流励磁機40に供給される励磁電流の検出値である励磁電流検出値Ifを取得する。そして、差分器84は、取得した励磁電流演算値Ifと励磁電流検出値Ifとを比較し、励磁電流演算値Ifと励磁電流検出値Ifとの差分を示す励磁電流差分値ΔIfを算出する。差分器84は、算出した励磁電流差分値ΔIfを、コンパレータ85に出力する。なお、差分器84は、「励磁電流差分値算出部」の一例である。
【0041】
コンパレータ85は、その出力が、上位遮断器73や遮断器64、あるいは不図示の上位制御装置や表示装置等と接続されていてもよい。コンパレータ85は、差分器84から取得した励磁電流差分値ΔIfと、記憶部86に記憶されている許容値ΔIfthとを比較する。コンパレータ85は、差分器84から励磁電流差分値ΔIfを取得し、記憶部86から許容値ΔIfthを取得し、取得した励磁電流差分値ΔIfと許容値ΔIfthとを比較して、回転整流器30の故障を検出する。
【0042】
回転整流器30が正常な場合は、同期電動機主励磁巻線22に流れる電流は、交流励磁機励磁コイルと交流励磁機40の巻線比や結合比を考慮した励磁電流検出値Ifとほぼ等しくなる。従って、励磁電流演算値Ifと、励磁電流検出値Ifとは、ほぼ等しい値となる。しかし、回転整流器30にて短絡故障が発生した場合は、交流励磁機40の出力電流の一部が短絡部に流れてしまい、短絡電流分だけ同期電動機主励磁巻線22に流れる電流が減少する。従って、励磁電圧が減少するので無効電力の増加や、有効電力の減少が生じ、励磁電流演算値Ifは減少する。よって、励磁電流演算値Ifよりも励磁電流検出値Ifが大きくなり、励磁電流差分値ΔIfが増加する。
【0043】
そして、コンパレータ85は、取得した励磁電流差分値ΔIfが許容値ΔIfth以上である場合、回転整流器30の故障と判定し、例えば、不図示の外部の表示装置や制御装置や上位装置等に回転整流器30の故障を示す情報である故障警報ALを出力する。この場合、例えば、表示装置等に表示された故障警報ALの見た不図示のオペレータの操作や、制御装置等の動作指示によって、同期電動機10が点検又は停止される。また、コンパレータ85は、例えば、不図示の外部の制御装置や上位装置等に対して、或いは上位遮断器73や遮断器64等に直接、上位遮断器73や遮断器64等のトリップ指令等である動作信号TCを出力してもよい。この場合、上位遮断器73や遮断器64等は、例えば、動作信号TCを取得した制御装置等からの指示により、或いは動作信号TCを直接取得することにより、開放(遮断)される。これにより、同期電動機10や励磁装置60へ供給される交流電流が遮断され、同期電動機10は、運転を停止する。
【0044】
一方、コンパレータ85は、取得した励磁電流差分値ΔIfが許容値ΔIfth未満である場合、回転整流器30に故障は発生しておらず、正常と判定し、例えば、不図示の外部の表示装置や制御装置等には、特に何の信号も出力しない。この場合、同期電動機10は、運転を継続する。なお、コンパレータ85は、「故障判定部」の一例である。
【0045】
なお、コンパレータ85の外部出力である故障警報ALの外部出力の前段に、不図示のオンディレイ等の遅延回路を設けてもよい。これにより、コンパレータ85は、同期電動機10の負荷変動時に、同期電動機10の過渡インピーダンス等の影響により励磁電流差分値ΔIfが過渡的に許容値ΔIfthを越えても、この場合は、コンパレータ85は、故障警報ALを出力しないので、回転整流器30の故障であるとの誤判断を防止することが可能となる。遅延回路の時限は、同期電動機10の過渡インピーダンス等を考慮して決定される。
【0046】
記憶部86は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の揮発性又は不揮発性の記憶媒体であり、回転整流器故障検出装置80の動作に必要なプログラムを記憶する。記憶部86は、例えば、回転整流器故障検出装置80による演算で用いられる各種係数、各種演算式、各種閾値、各種グラフ、及び各種テーブル等を記憶する。
【0047】
また、記憶部86は、励磁電流演算器83での演算で用いられる同期電動機10の回転子50の同期インピーダンスZsや比例係数KL等が記憶される。なお、同期インピーダンスZsと比例係数KL等とは、同期電動機10毎に予め設定されて記憶部86に記憶されていてもよく、例えば、不図示のオペレータの操作や上位装置からの指示等に基づいて設定されて記憶部86に記憶されてもよい。
【0048】
なお、同期インピーダンスZsと比例係数KL等とは、例えば、同期電動機10の設計データや、同期電動機10の工場試験(型式試験または出荷試験)のデータ等から計算で求められて設定され、記憶部86に記憶される。なお、例えば、大型の同期電動機10の場合、工場試験にてこれらの値は予め設定された値であることが確認されてから出荷されるが、同一型式の同期電動機10ではこれらの値は基本的に同じ値となるため、試験の一部が省略されることもある。その場合、例えば、記憶部86には、同一型式の同期電動機10の同期インピーダンスZsと比例係数KL等との値が設定されて記憶されていてもよい。複数の値が記憶される場合、不図示のオペレータあるいは上位装置からの指示で自動的に適切な値が呼び出され使用されてもよい。
【0049】
また、記憶部86は、コンパレータ85の判定に用いられる許容値ΔIfthを記憶する。なお、許容値ΔIfthは、予め記憶部86に記憶されていてもよく、例えば、不図示のオペレータの操作や上位装置からの指示等に基づいて記憶部86に記憶されてもよい。また許容値ΔIfthについても同期インピーダンスZsと比例係数KL等と同様に複数の値が記憶され、不図示のオペレータあるいは上位装置からの指示で自動的に適切な値が呼び出され使用されてもよい。また、記憶部86は、運転する1つの電動機の所定の設定値および許容値ΔIfthを1種類のみ記憶するようにしてもよい。
【0050】
なお、記憶部86は、不図示のバス等により、回転整流器故障検出装置80の各部と接続される。また、記憶部86は、回転整流器故障検出装置80の外部に設けられ、有線又は無線で回転整流器故障検出装置80と接続されていてもよく、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disc)等の外部記憶媒体であってもよい。なお、記憶部86は、後述のメモリ92(図6参照)と共通であってもよい。また、記憶部86は、回転整流器故障検出装置80以外の不図示の制御装置等と共用されてもよい。
【0051】
<座標変換部および励磁電流演算器の動作>
図2は、図1に示す同期電動機10の運転点を有効電力軸と無効電力軸の直交座標系で表した所謂P-Q座標による運転点表示の一例を示す図である。縦軸である無効電力を意味するQ軸と横軸である有効電力を意味するP軸とは互いに直交している。P軸は、受電変圧器74を経由して受電母線75から同期電動機10に入力される有効電力Pであり、図上の右方向を正(力行)としている。Q軸は受電変圧器74を経由して受電母線75から同期電動機10に入力される遅相の無効電力Qであり、図上の上方向を正(遅相)としている。図2において、破線は、同期電動機10の端子電圧は一定かつ入力電流が一定時の運転点の軌跡であり、直線L0と横軸(P軸)とがはさむ角θ0は、運転点A0(P0,Q0)における力率角である。
【0052】
まず、入力部81は、マルチメータ76から、有効電力値Pと無効電力値Qとを取得する。そして、入力部81は、取得した有効電力値Pと無効電力値Qとを、同期電動機10の運転点として、P-Q座標の値として取得し、同期電動機10を基準とした単位法(Per-Unit method)の値に変換する。さらにマルチメータ76から端子電圧値Vを取得し、単位法の値に変換する。ここで、基準値1PUは、同期電動機10の定格容量および定格電圧であることが望ましい。その理由は、同期インピーダンスZsが電動機の定格ベースの単位法でカタログや試験成績書等に記載されていることが多いためである。
【0053】
次に、座標変換部82は、入力部81から単位法で換算されたP-Q座標値(すなわち同期電動機10の入力有効電力Puおよび入力無効電力Qu)、及び端子電圧値Vuを取得する。そして、座標変換部82は、入力部81から取得したP-Q座標値を、アドミタンス座標値に変換する。すなわち、例えば、同期電動機10の端子電圧が端子電圧値Vuである場合、Pu/Vuが同期電動機10のコンダクタンス分(G分)となり、Qu/Vuが同期電動機のサセプタンス分となる。このため、横軸(G軸)を(Pu/Vu)に、縦軸(B軸)を(Qu/Vu)にすることで、P-Q座標値をG-B座標値に変換することができる。ここで、無効電力は遅相を正としている。
【0054】
ここで、同期電動機10の運転点がPU換算端子電圧Va1にてPU換算有効電力Pa1、PU換算無効電力Qa1とすると、その運転点A1は座標(A1g,A1b)と表現することができ、このとき、A1gは後述の式(1)であり、A1bは式(2)である。
【0055】
ここで、同期インピーダンスZsは電機子抵抗Rsと同期リアクタンスXsに分けられるが、一般的に電機子抵抗Rsによる電圧降下は同期リアクタンスXsによる電圧降下に比較し十分小さいので無視してもよい。よって、以下では同期リアクタンスXsのみで評価した場合について説明する。
【0056】
図3は、図1に示すブラシレス同期電動機10のアドミタンス座標による運転点表示例を示す図である。二反作用法により同期リアクタンスを磁極中心軸(直軸またはd軸と称す)成分の直軸同期リアクタンスXdと、磁極間軸(横軸またはq軸と称す)成分の横軸同期リアクタンスXqとに分けて、同期電動機10の運転点をG-B座標系で表現した一例が図3である。
【0057】
座標変換部82は、同期電動機10が突極機である場合、入力部81によって変換されたP-Q座標値を、端子電圧値Vとキルヒホッフの法則とにより、図3に示すG-B座標に変換する。図3において、縦軸(B軸)は、サセプタンスBu=Qu/Vuであり、誘導性の値が上向きである。横軸(G軸)は、コンダクタンスGu=Pu/Vuである。B軸とQ軸とは互いに直交している。
【0058】
同期電動機10が突極機である場合、直軸同期リアクタンスXdより横軸同期リアクタンスXqの方が小さい。このため、図3に示すとおり、内部誘起電圧がゼロの運転点の軌跡は、B軸上の点Cの座標(0,1/Xd)の点とB軸上の点Dの座標(0,1/Xq)を直径とする円Sで表すことができる。なお、破線は、端子電圧Vが一定の場合の同期電動機10の皮相電力が一定の場合の運転点の軌跡を表している。ここで、同期電動機10の運転点がPU換算端子電圧Va1にてPU換算有効電力Pa1、PU換算無効電力Qa1とすると、その運転点A1、すなわち座標(A1g,A1b)は、式(1)、(2)で表される。
【0059】
【数1】
【0060】
【数2】
【0061】
ここで、点A1と原点Oを結ぶ直線とG軸とのなす角θ1が運転点A1における力率角となる。点A1と点Dを結ぶ直線と点Dと原点を結ぶ直線のなす角δ1が内部操作角であり、点A1と点Dとを結ぶ直線と円Sとの交点を点B1とすると、点A1と点B1とを結ぶ直線の長さL1が運転点A1における励磁電流演算値Ifa1に比例する値となる。そして、同期電動機10の横軸同期サセプタンスをB軸上に示す点Dすなわち座標(0,1/Xq)、と同期電動機10の運転点A1を示す座標とを結ぶ直線と、内部誘起電圧がゼロの運転点の軌跡を示す線である円Sとの交点をB1とする。このとき、点A1と点B1との間の座標上の長さL1を、励磁電流演算値Ifa1に比例する値として演算することが出来る。
【0062】
ここで、点B1の座標を(B1g,B1b)とし、円と直線の交点を求める方程式を立てると、B1gを未知数とする2次方程式である式(3)が成立し、簡単な計算で、その解を求めることができる。
【0063】
【数3】
【0064】
ここで、a~cは、以下の式(4)から式(6)のとおりである。
【0065】
【数4】
【0066】
【数5】
【0067】
【数6】
【0068】
ここで、k1~k4は、以下の式(7)から式(10)のとおりである。
【0069】
【数7】
【0070】
【数8】
【0071】
【数9】
【0072】
【数10】
【0073】
式(3)の解は、式(11)または式(12)となる。
【0074】
【数11】
【0075】
【数12】
【0076】
ここで、式(11)は、1/Xqであるので、B1gは、式(12)で求められる。すなわち、以下の式(13)である。
【0077】
【数13】
【0078】
従って、B1bは、以下の式(14)となる。
【0079】
【数14】
【0080】
従って、三平方の定理を用いると、以下の式(15)からL1を求めることができる。
【0081】
【数15】
【0082】
以上説明したとおり、励磁電流演算器83は、同期電動機10が突極機である場合、図3に示すG-B座標値と直軸同期リアクタンスXdと横軸同期リアクタンスXqとから、上記の式(15)に基づいて、励磁電流演算値Ifを相当する値L1を演算する。さらに、実単位系の励磁電流演算値Ifは式(15)のL1に適切な比例係数KL1を乗算して実際の単位系の値として求められる。すなわち、以下の式(16)である。
【0083】
【数16】
【0084】
比例係数KL1は理論的に計算等で求めてもよく、予め、工場試験等で回転整流器30が健全なときに、同期電動機10をある試験運転点ATにて運転し、有効電力PAT、無効電力QAT、端子電圧VATおよび励磁電流検出値IfATを測定して求めてもよい。すなわち、これらの値を使用して上記の式(15)で求めたL1の値をL1ATとすれば、以下の式(17)によりKL1を求めることができる。
【0085】
【数17】
【0086】
図4は、図1に示すブラシレス同期電動機10の直軸同期リアクタンスXdと横軸同期リアクタンスXqとが等しいとみなせる場合のアドミタンス座標による運転点表示例を示す図である。
【0087】
同期電動機10が円筒機の様に、直軸同期リアクタンスXdと横軸同期リアクタンスXqとを同一とみなすことができる場合、上述の方法で求めてもよいが、より簡単に以下の計算でも求めることが出来る。直軸同期リアクタンスXdと横軸同期リアクタンスXqとが等しければ、図3に示す円Sの直径はゼロとなるので、図4に示すように、PU換算端子電圧Va2にてPU換算有効電力Pa2、PU換算無効電力Qa2とすると、その運転点A2、すなわち座標(A2g,A2b)は、直軸同期リアクタンスXdのみで表すことができる。ここで、A2gとA2bは、以下の式(18)、(19)である。
【0088】
【数18】
【0089】
【数19】
【0090】
ここで、点A2と原点Oを結ぶ直線とG軸とのなす角θ2が運転点A2における力率角となる。G軸上の座標(0,1/Xd)を点B2とすると、点A2と点B2を結ぶ直線と点B2と原点を結ぶ直線のなす角δ2が内部操作角であり、点A2と点B2を結ぶ直線の長さL2が運転点A2における励磁電流演算値Ifa2に比例する値となる。したがって、三平方の定理を用いると、以下の式(20)からL2を求めることができる。
【0091】
【数20】
【0092】
以上説明したとおり、励磁電流演算器83は、同期電動機10の直軸同期リアクタンスと横軸同期リアクタンスとが等しいとみなすことが出来る場合、図4に示すG-B座標値と直軸同期リアクタンスXdとから、上記の式(20)に基づいて、励磁電流演算値Ifに相当する値L2を演算する。さらに、実単位系の励磁電流演算値Ifは式(20)のL2に適切な比例係数KL2を乗算して実際の単位系の値としてもとめられる。すなわち、以下の式(21)である。なお、この場合、直軸同期リアクタンスXdと横軸同期リアクタンスXqとが同じ値とみなせる場合であるので、直軸同期リアクタンスXdの代りに横軸同期リアクタンスXqを使用してもよい。
【0093】
【数21】
【0094】
なお、KL2の求め方は、前述のKL1と同様である。
【0095】
<一実施形態の作用効果>
以上、図1から図4に示す一実施形態によれば、検出コイルを使用せずに、故障の検出が可能なブラシレス同期電動機10の回転整流器故障検出装置80を提供することができる。さらに、単に無効電力や有効電力により、故障を検出する場合は受電母線75の交流電源電圧変動による影響があるが、本実施様態では、G-Bアドミタンス座標系により、励磁回路のアドミタンスを計算することになる。このため、交流電源電圧変動の影響を受けることがない同期電動機10の回転整流器故障検出装置80を提供することができる。
【0096】
<一実施形態の第1変形例>
図5は、一実施形態の第1変形例に係るブラシレス同期電動機システム1Aの全体構成例を示す図である。図5において、図1から図4に示す実施形態と同一又は同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0097】
図5において、図1と異なる点は、回転整流器故障検出装置80Aが、判定値算出部87を有し、さらに、記憶部86は、判定値算出部87へ判定基準補助値ΔKfhを出力する点である。そして、トランスデューサ62から回転整流器故障検出装置80Aへ出力された励磁電流検出値Ifは、差分器84ともに判定値算出部87に入力される。そして、判定値算出部87は、判定基準補助値ΔKfhと励磁電流検出値Ifとに基づいて許容値ΔIfthを決定し、コンパレータ85に出力する点である。なお、図5において、回転整流器故障検出装置80Aは、判定値算出部87を有する点以外の構成については、図1に示す回転整流器故障検出装置80と同一又は同様である。
【0098】
例えば、判定値算出部87は、許容値ΔIfthを、固定値ではなく、判定基準補助値ΔKfhに基づいて励磁電流検出値Ifに応じて変動させて算出する。そして、判定値算出部87は、算出した許容値ΔIfthをコンパレータ85に出力する。
【0099】
例えば、判定値算出部87は、記憶部86から入力され、判定基準補助値ΔKfhと励磁電流検出値Ifの積を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力するようにしてもよい。
【0100】
また、判定基準補助値ΔKfhは複数の値から構成されてもよい。例えば、判定基準補助値ΔKfhは、第1判定基準補助値ΔKfh1と、第2判定基準補助値ΔKfh2と、第3判定基準補助値ΔKfh3と、第4判定基準補助値ΔKfh4と、第5判定基準補助値ΔKfh5とから構成される。そして、励磁電流検出値Ifが第1判定基準補助値ΔKfh1以下の場合は、第2判定基準補助値ΔKfh2を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力する。励磁電流検出値Ifが第4判定基準補助値ΔKfh4を超える場合は、第5判定基準補助値ΔKfh5を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力する。励磁電流検出値Ifが第1判定基準補助値ΔKfh1を超え且つ第4判定基準補助値ΔKfh4以下の場合は、第3判定基準補助値ΔKfh3と励磁電流検出値Ifとの積を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力してもよい。あるいは励磁電流の飽和特性を考慮した許容値となる様に、許容値ΔIfth=ΔKfh(If)という関数の形で判定値算出部87が許容値ΔIfthを算出する様にしてもよい。
【0101】
以上、図5に示す一実施形態の第1変形例において、上記以外の構成及び動作は、図1から図4に示す一実施形態と同一又は同様であるため、説明を省略する。
【0102】
<一実施形態の第1変形例の作用効果>
以上、図5に示す一実施形態の第1変形例によれば、図1から図4に示す一実施形態と同様の効果を奏する。また、励磁電流検出値Ifによりコンパレータ85の判定基準を変更することにより、回転整流器30の故障を、同期電動機10の各種運転点に対し、より正確に判定可能である。したがって、検出コイルを使用せずに、単純な演算かつ、交流電源の電圧変動の影響を受けることのない同期電動機10の回転整流器故障検出装置80Aを提供することができる。
【0103】
<一実施形態の第2変形例>
第2変形例において、第1変形例と異なる点は、回転整流器故障検出装置80Bが、判定値算出部87の代りに、判定値算出部87Bを有する点である。そして、励磁電流演算器83から出力された励磁電流演算値Ifは、コンパレータ85と判定値算出部87Bとに入力される。そして、判定値算出部87Bは、判定基準補助値ΔKfhbと励磁電流演算値Ifとに基づいて許容値ΔIfthを決定し、コンパレータ85に出力する。これ以外の点は第1変形例と同様であるので図示は省略する。
【0104】
例えば、判定値算出部87Bは、許容値ΔIfthを、固定値ではなく、判定基準補助値ΔKfhに基づいて、励磁電流演算値Ifに応じて変動させ算出する。そして、判定値算出部87Bは、算出した許容値ΔIfthをコンパレータ85に出力する。
【0105】
例えば、判定値算出部87Bは、記憶部86から入力され、判定基準補助値ΔKfhbと励磁電流検出値Ifとの積を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力するようにしてもよい。
【0106】
また、判定基準補助値ΔKfhbは複数の値から構成されてもよい。例えば、判定基準補助値ΔKfhbは、第b1判定基準補助値ΔKfhb1と、第b2判定基準補助値ΔKfhb2と、第b3判定基準補助値ΔKfhb3と、第b4判定基準補助値ΔKfhb4と、第b5判定基準補助値ΔKfhb5とから構成される。そして、判定値算出部87Bは、励磁電流演算値Ifが第b1判定基準補助値ΔKfhb1以下の場合は、第b2判定基準補助値ΔKfhb2を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力する。励磁電流演算値Ifが第b4判定基準補助値ΔKfhb4を超える場合は、第b5判定基準補助値ΔKfhb5を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力する。励磁電流演算値Ifが第b1判定基準補助値ΔKfhb1を超え且つ第b4判定基準補助値ΔKfhb4を以下の場合は、第b3判定基準補助値ΔKfhb3と励磁電流演算値Ifとの積を許容値ΔIfthとしてコンパレータ85に出力してもよい。励磁電流の飽和特性を考慮した許容値となる様に、許容値ΔIfth=ΔKfhb(If)という関数の形で判定値算出部87Bが許容値ΔIfthを算出する様にしてもよい。
【0107】
<一実施形態の第2変形例の作用効果>
以上、一実施形態の第2変形例によれば、図1から図4に示す一実施形態と同様の効果を奏する。また、励磁電流演算値Ifによりコンパレータ85の判定基準を変更することにより、回転整流器30の故障を、同期電動機10の各種運転点に対し、より正確に判定可能である。従って、検出コイルを使用せずに、単純な演算かつ、交流電源の電圧変動の影響を受けることのない同期電動機10の回転整流器故障検出装置80Bを提供することができる。
【0108】
<ハードウェア構成例>
図6は、図1図5に示した実施形態における回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bが有する処理回路90のハードウェア構成例を示す概念図である。
【0109】
上述した各機能は、処理回路90により実現される。一態様として、処理回路90は、少なくとも1つのプロセッサ91と少なくとも1つのメモリ92とを備える。他の態様として、処理回路90は、少なくとも1つの専用のハードウェア93を備える。
【0110】
処理回路90がプロセッサ91とメモリ92とを備える場合、各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、プログラムとして記述される。ソフトウェアおよびファームウェアの少なくとも一方は、メモリ92に格納される。プロセッサ91は、メモリ92に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各機能を実現する。
【0111】
処理回路90が専用のハードウェア93を備える場合、処理回路90は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、又はこれらを組み合わせたものである。各機能は処理回路90で実現される。
【0112】
回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bが有する各機能は、それぞれ一部又は全部がハードウェアによって構成されてもよく、プロセッサが実行するプログラムとして構成されてもよい。すなわち、回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bは、コンピュータとプログラムとによっても実現可能であり、プログラムは、記憶媒体に記憶されることも、ネットワークを通して提供されることも可能である。
【0113】
<実施形態の補足事項>
以上、図1図6に示す実施形態によれば、本件開示の一態様として、回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bがブラシレス同期電動機システム1に適用された場合について説明した。しかし、これには限られず、回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bは、同期電動機、同期発電機に拘わらず、全てのブラシレス同期電動機に適用可能である。
【0114】
また、図1図6に示す実施形態によれば、コンパレータ85は、故障警報ALと動作信号TCとを出力させたが、これには限られない。コンパレータ85は、不図示の外部の表示装置や制御装置や上位装置等に対し、回転整流器30の故障を示す情報である故障警報ALと、上位遮断器73や遮断器64等のトリップ指令等である動作信号TCとの何れか一方又は両方を出力してもよい。
【0115】
また、図1図6に示す実施形態によれば、同期電動機10は、コンパレータ85からの故障警報ALや動作信号TCが出力されると不図示のオペレータの操作や制御装置等からの従って運転が停止される。しかし、これには限られない。同期電動機10は、コンパレータ85からの故障警報ALや動作信号TCが出力されると自動的に運転が停止されてもよく、故障警報ALや動作信号TCと、不図示の別の保護装置からの信号との両方を受けたときに、自動的に運転が停止されてもよい。
【0116】
また、図1図6に示す実施形態によれば、本件開示の一態様として、ブラシレス同期電動機システム1内に設けられた回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bを例に説明したが、これには限られない。本件開示は、独立の回転整流器故障検出装置や回転整流器故障検出システムとしても実現可能である。
【0117】
また、本件開示は、回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bの各部における処理ステップが行われる回転整流器故障検出方法としても実現可能である。
【0118】
また、本件開示は、回転整流器故障検出装置80、80A及び80Bの各部における処理ステップをコンピュータに実行させる回転整流器故障検出プログラムとしても実現可能である。
【0119】
また、本件開示は、回転整流器故障検出プログラムが記憶された記憶媒体(非一時的なコンピュータ可読記憶媒体)としても実現可能である。回転整流器故障検出プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ等のリムーバブルメディア等に記憶して頒布することができる。なお、これらのプログラムは、同期電動機システム1が有する不図示のネットワークインタフェース等を介してネットワーク上にアップロードされてもよく、ネットワークからダウンロードされ、メモリ92等に格納されてもよい。
【0120】
以上の詳細な説明により、実施形態の特徴点および利点は明らかになるであろう。これは、特許請求の範囲がその精神および権利範囲を逸脱しない範囲で前述のような実施形態の特徴点および利点にまで及ぶことを意図するものである。また、当該技術分野において通常の知識を有する者であれば、あらゆる改良および変更に容易に想到できるはずである。したがって、発明性を有する実施形態の範囲を前述したものに限定する意図はなく、実施形態に開示された範囲に含まれる適当な改良物および均等物に拠ることも可能である。
【符号の説明】
【0121】
1,1A…ブラシレス同期電動機システム(同期電動機システム);10…ブラシレス同期電動機(同期電動機);20…同期電動機本体;21…同期電動機電機子;22…同期電動機主励磁巻線;30…回転整流器;31…半導体素子;40…交流励磁機;41…交流励磁機電機子;42…交流励磁機励磁コイル;50…回転子;60…励磁装置;61…電流センサ;62…トランスデューサ(TRD);63…サイリスタ整流器;64…遮断器;66…外部電源;71…電流変成器(CT);72…電圧変成器(VT);73…上位遮断器;74…受電変圧器;75…受電母線;76…マルチメータ;80,80A,80B…回転整流器故障検出装置;81…入力部;82…座標変換部;83…励磁電流演算器(励磁電流演算部);84…差分器(励磁電流差分値算出部);85…コンパレータ(故障判定部);86…記憶部;87,87B…判定値算出部;90…処理回路;91…プロセッサ;92…メモリ;93…ハードウェア;A0,A1,A2…運転点(点);AL…故障警報;AT…試験運転点;B1,B2…点;Bu…サセプタンス;C…点;D…運転点(点);Gu…コンダクタンス;If…励磁電流検出値;If,Ifa1,Ifa2…励磁電流演算値;IfAT…励磁電流検出値;KL,KL1,KL2…比例係数;L0…直線;L1,L2…長さ(値);O…原点;P…有効電力値(有効電力);Pa1,Pa2…PU換算有効電力;PAT…有効電力;Pu…入力有効電力;Q…無効電力値(無効電力);Qa1,Qa2…PU換算無効電力;QAT…無効電力;Qu…入力無効電力;Rs…電機子抵抗;S…円;TC…動作信号;V…端子電圧値(端子電圧);Va1,Va2…PU換算端子電圧;VAT…端子電圧;Vu…端子電圧値;Xd…直軸同期リアクタンス;Xq…横軸同期リアクタンス;Xs…同期リアクタンス;Zs…同期インピーダンス;δ,δ1,δ2…内部相差角(角);ΔIf…励磁電流差分値;ΔIfth…許容値;ΔKfh…判定基準補助値;ΔKfh1…第1判定基準補助値;ΔKfh2…第2判定基準補助値;ΔKfh3…第3判定基準補助値;ΔKfh4…第4判定基準補助値;ΔKfh5…第5判定基準補助値;ΔKfhb…判定基準補助値;ΔKfhb1…第b1判定基準補助値;ΔKfhb2…第b2判定基準補助値;ΔKfhb3…第b3判定基準補助値;ΔKfhb4…第b4判定基準補助値;ΔKfhb5…第b5判定基準補助値;θ0,θ1,θ2…角
図1
図2
図3
図4
図5
図6