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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074111
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/50 20060101AFI20240523BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240523BHJP
   F16C 33/56 20060101ALI20240523BHJP
   B29C 45/00 20060101ALI20240523BHJP
   F03D 80/70 20160101ALI20240523BHJP
【FI】
F16C33/50
F16C19/36
F16C33/56
B29C45/00
F03D80/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185184
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】西田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】堀 径生
(72)【発明者】
【氏名】福留 翔吾
【テーマコード(参考)】
3H178
3J701
4F206
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA40
3H178AA43
3H178BB35
3H178CC25
3H178DD08X
3H178DD50X
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA45
3J701BA49
3J701BA50
3J701DA14
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA04
3J701FA44
3J701FA46
3J701GA24
3J701GA60
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB19
3J701XB26
4F206AA32
4F206AB25
4F206AH14
4F206JA07
4F206JL02
(57)【要約】
【課題】保持器材料の使用量を抑えつつ、保持器の強度を大きくすることができる円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受の保持器セグメント20は、軸方向に延びる複数の柱部23と、周方向に延びて複数の柱部23をそれぞれ連結する一対の弧状部21,22とを備える。複数の柱部23と一対の弧状部21,22とで隣り合う柱部23,23間に円すいころを保持するポケット16が形成される。弧状部21,22または柱部23のうちポケット16を構成する面sfは、保持器セグメント20のポケット16における径方向に対して傾斜する。ポケット16における隅部Crの一部または全部に、径方向一方または他方に向かうに従って大きくなるR形状を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪と、これら内外輪間に介在される複数の円すいころと、これら円すいころを保持する保持器とを備え、この保持器が環状に配列された複数個の保持器セグメントを含み、
前記保持器セグメントは、軸方向に延びる複数の柱部と、周方向に延びて前記複数の柱部をそれぞれ連結する一対の弧状部とを備え、前記複数の柱部と前記一対の弧状部とで隣り合う柱部間に前記円すいころを保持するポケットが形成される円すいころ軸受であって、
前記弧状部または前記柱部のうち前記ポケットを構成する面は、前記保持器セグメントの前記ポケットにおける径方向に対して傾斜し、前記ポケットにおける隅部の一部または全部に、径方向一方または他方に向かうに従って大きくなるR形状を有する円すいころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円すいころ軸受において、前記保持器セグメントは樹脂製である円すいころ軸受。
【請求項3】
請求項2に記載の円すいころ軸受において、前記保持器セグメントは、炭素繊維またはガラス繊維を含む樹脂製である円すいころ軸受。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の円すいころ軸受において、前記保持器セグメントは射出成形で形成される円すいころ軸受。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の円すいころ軸受において、風力発電装置に使用される外径1m以上の大型軸受である円すいころ軸受。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の円すいころ軸受において、前記円すいころを前記保持器セグメントの内径側からポケット内に挿入可能な案内爪が、隣り合う前記柱部の外径側に設けられ、複数個の前記保持器セグメントを連結する連結部材が、前記各保持器セグメントにそれぞれ設けられた係合部に着脱自在に設けられている円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円すいころ軸受に関し、例えば、風力発電装置の主軸用または産業機械用の特に外径が1mを超える大型の円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受において、転動体を保持する保持器は、通常、環状の一つの部品で構成される。前記保持器は、金属製のプレス保持器、切削保持器、溶接保持器または樹脂製保持器等が、用途および特性により使い分けられている。風力発電装置の主軸を支持する転がり軸受は、大きな荷重を受けるために大型になり、部材の生産および組み立てが困難となる。このような大型の転がり軸受において、保持器の生産、組み立てを容易にするために、保持器を分割可能とした樹脂製保持器セグメントが提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】欧州特許第1408248号明細書
【特許文献2】特開2009-52476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
樹脂製保持器セグメントは射出成形で製造され、射出成形時に金型を抜くための勾配を保持器セグメントに設ける必要がある。この勾配により保持器セグメントの弧状部または柱部を薄くする必要があるため、保持器強度が低下する。また一般的に樹脂材料は炭素鋼と比較して引張強度および引張弾性率が低い。一方で外径が1mを超える大型ころ軸受の保持器には、大きな荷重と長期間の稼働に耐える強度が必要となる。
また、保持器セグメントには、樹脂材料としてPEEK樹脂等の高価な材料が用いられる。これらのことから、材料の使用量を抑えつつ、強度を大きくする保持器セグメントの構造が求められる。
【0005】
本発明の目的は、保持器材料の使用量を抑えつつ、保持器の強度を大きくすることができる円すいころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の円すいころ軸受は、内外輪と、これら内外輪間に介在される複数の円すいころと、これら円すいころを保持する保持器とを備え、この保持器が環状に配列された複数個の保持器セグメントを含み、
前記保持器セグメントは、軸方向に延びる複数の柱部と、周方向に延びて前記複数の柱部をそれぞれ連結する一対の弧状部とを備え、前記複数の柱部と前記一対の弧状部とで隣り合う柱部間に前記円すいころを保持するポケットが形成される円すいころ軸受であって、
前記弧状部または前記柱部のうち前記ポケットを構成する面は、前記保持器セグメントの前記ポケットにおける径方向に対して傾斜し、前記ポケットにおける隅部の一部または全部に、径方向一方または他方に向かうに従って大きくなるR形状を有する。
前記「隅部」とは、前記ポケットにおける、前記柱部と前記弧状部とが円弧状に繋がる部分である。
【0007】
この構成によると、ポケットにおける隅部の一部または全部に、径方向一方または他方に向かうに従って大きくなるR形状を有するため、一般的な保持器セグメントよりも応力集中が低減される。ポケットの隅部は、軸受稼働時に大きな応力が発生する部分であり、隅部の応力集中を低減することで、一般的な保持器セグメントよりも保持器セグメントの強度が向上する。これにより軸受運転時の異常リスクが低減される。また保持器セグメントの強度が向上するため保持器セグメントの薄肉化が実現できる。これにより、一般的な保持器セグメントよりも保持器材料を低減し、製造原価を低減することが可能となる。
【0008】
前記保持器セグメントは樹脂製であってもよい。この場合、各保持器セグメントを金型等により成形することができ、円すいころ軸受の大型化および量産化に容易に対応し得る。
【0009】
前記保持器セグメントは、炭素繊維またはガラス繊維を含む樹脂製であってもよい。炭素繊維またはガラス繊維は繊維状であるため、効率的に熱による線膨張係数、すなわち熱膨張係数を低下させることができる。したがって、膨張時にセグメント同士の隙間が零になることを防止し得る。これにより保持器の不具合を未然に防止することができる。
【0010】
前記保持器セグメントは射出成形で形成されるものでもよい。この場合、保持器セグメントを射出成形で形成するためには金型の抜き方向に勾配を設ける必要がある。保持器セグメントの径方向に金型を抜く場合、保持器セグメントの弧状部または柱部のうちポケットを構成する面は、金型を抜く方向に広がるように勾配を設ける。この勾配を利用して前記隅部のR形状を容易に設けることができる。
【0011】
円すいころ軸受は、風力発電装置に使用される外径1m以上の大型軸受であってもよい。この場合、保持器セグメントの強度が向上する円すいころ軸受を、風力発電装置に使用される大型軸受に適用することができ、円すいころ軸受のメンテナンス費用等を抑制することができる。
【0012】
前記円すいころを前記保持器セグメントの内径側からポケット内に挿入可能な案内爪が、隣り合う前記柱部の外径側に設けられ、複数個の前記保持器セグメントを連結する連結部材が、前記各保持器セグメントにそれぞれ設けられた係合部に着脱自在に設けられていてもよい。この場合、内輪、円すいころおよび保持器を一体化した内輪アッシーの状態で外輪に組む込む際に、内輪アッシーを反転させても、環状に配列された各保持器セグメントが連結部材によって連結されている。このため、各保持器セグメントがばらけることがなく円すいころ軸受の組立てを容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の円すいころ軸受は、保持器セグメントのうち弧状部または柱部のうちポケットを構成する面が、保持器セグメントの前記ポケットにおける径方向に対して傾斜し、ポケットにおける隅部の一部または全部に、径方向一方または他方に向かうに従って大きくなるR形状を有する。このため、保持器材料の使用量を抑えつつ、保持器の強度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の実施形態に係る円すいころ軸受の縦断面図である。
図2】同円すいころ軸受の保持器セグメントの斜視図である。
図3】同保持器セグメントの部分拡大斜視図である。
図4】同保持器セグメントの断面図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る円すいころ軸受の保持器セグメントの斜視図である。
図6】同保持器セグメントの断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態に係る円すいころ軸受の縦断面図である。
図8】同円すいころ軸受に使用する保持器セグメントの斜視図である。
図9】同保持器セグメントに円すいころを挿入した状態を示す断面図である。
図10】同円すいころ軸受における外輪を外した状態の斜視図である。
図11】同円すいころ軸受における外輪を外した状態の正面図である。
図12】同円すいころ軸受の組立て手順を示す斜視図である。
図13図12の組立て手順を別角度から見た斜視図である。
図14】内輪の大端面を下にした状態で内輪に円すいころを配置した際における円すいころと内輪の大鍔部との関係を示す模式図である。
図15】同円すいころ軸受の組立て途中の状態を示す斜視図である。
図16】同円すいころ軸受の組立て途中の状態を示す斜視図である。
図17図16の組立て途中の円すいころ軸受の縦断面図である。
図18図16の状態から環状治具を外した円すいころ軸受の縦断面図である。
図19】内輪アッシーを反転させて外輪に組込む状態を示す縦断面図である。
図20】内輪アッシーを外輪に組込んだ状態を示す縦断面図である。
図21】内輪軌道面に配置した円すいころの回転状態を示す模式図である。
図22】内輪軌道面に配置した円すいころを回転させたときの内輪の小鍔部の高さと円すいころとの関係を示す模式図である。
図23】本発明のいずれかの実施形態に係る円すいころ軸受を用いた風力発電装置の切欠斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施形態]
本発明の実施形態に係る円すいころ軸受を図1ないし図4と共に説明する。この円すいころ軸受は、例えば、風力発電装置の主軸用または産業機械用の特に外径が1mを超える大型の円すいころ軸受に適用される。
【0016】
<円すいころ軸受の概略構成>
図1のように、円すいころ軸受1は、内外輪11,12と、これら内外輪11,12間に介在される複数の円すいころ15と、これら円すいころ15を保持する保持器17とを備える。内輪11の外周面にテーパ状の軌道面13が設けられ、外輪12の内周面にテーパ状の軌道面(外輪軌道面)14が設けられている。
【0017】
複数の円すいころ15は、軌道面13,14間に転動自在に配置され、各円すいころ15の外周面にテーパ状の転動面が形成されている。保持器17は、複数の円すいころ15を円周方向一定間隔おきに保持する。内輪11の外周面のうち、軌道面13の小径側部分に隣接する部分には小鍔部18が設けられ、軌道面13の大径側部分に隣接する部分には大鍔部19が設けられている。内外輪11,12および円すいころ15は、例えば、軸受鋼またはステンレス鋼等から成る。
【0018】
<保持器>
保持器17は、環状に配列された複数個の保持器セグメント20を含む、外輪案内形式の保持器である。図2の各保持器セグメント20を単にセグメント20という場合がある。各保持器セグメント20は、例えば、合成樹脂から成る同一形状であり、同一の金型により射出成形される。前記樹脂はPEEKとすることが好ましい。PEEK自体の熱による線膨張係数は、4.7×10-5/℃程度であり、他の樹脂素材と比較して熱による線膨張係数が低いため、充填材を含ませて熱による線膨張係数を低下させることが容易になる。前記充填材は、炭素繊維またはガラス繊維を含むことが好ましい。これら炭素繊維またはガラス繊維を含む充填材は、繊維状であるため、効率的に熱による線膨張係数、すなわち熱膨張係数を低下させることができる。
【0019】
各保持器セグメント20は、定められた数(この例では5つ)の円すいころ15(図1)を保持するポケット16を有する。各保持器セグメント20は、軸方向に延びる複数の柱部23と、周方向に延びて複数の柱部23をそれぞれ連結する一対の弧状部21,22とを備える。複数の柱部23と一対の弧状部21,22とで隣り合う柱部23間に円すいころ15(図1)を保持するポケット16が形成される。
【0020】
一対の弧状部21,22はそれぞれ円弧形状であり、円すいころ15の小端面側に配置される一方の弧状部21は、他方の弧状部22よりも小径側に位置する小径側弧状部である。他方の弧状部22は、一方の弧状部21よりも大径側に位置する大径側弧状部である。
隣り合う柱部23の外径側には、円すいころ15(図1)を保持器セグメント20の内径側からポケット16内に挿入可能な案内爪24が設けられている。案内爪24はポケット16に収容された円すいころ15(図1)と外径側で接触する。図4の案内爪24は、ポケット16に挿入した円すいころ15の外径側OSへの抜け出しを防止する。各案内爪24の案内面は、断面円弧状で、円すいころ15の転動面に略沿う形状である。
【0021】
<保持器姿勢安定手段について>
図2のように、保持器セグメント20の軸方向両端部には、保持器17の姿勢を安定化する保持器姿勢安定手段である案内突起29がそれぞれ設けられている。軸方向両端部の案内突起29,29は、柱部23の外周面における軸方向両端部に設けられている。この例では、円周方向両端の柱部23,23と、これら柱部23,23の周方向に隣り合う柱部23,23に、案内突起29,29が設けられている。各案内突起29は、外輪軌道面14(図1)に案内される案内面29aを有する。なお保持器セグメント20において、円周方向両端の柱部23,23を含む任意の柱部23に案内突起29,29を設けてもよい。
【0022】
<応力集中低減手段について>
図3は、図2のIII部分の拡大斜視図である。図2および図3のように、弧状部21,22および柱部23のうちポケット16を構成する面sfは、保持器セグメント20の前記ポケット16における径方向A1に対して傾斜する。換言すれば、弧状部21,22および柱部23のうちポケット16を構成する面sfは、前記ポケット16を成す仮想平面に垂直な直線Cpに対して勾配αを有する。図4のように、円すいころ15を保持するための案内爪24を全て外径側OSに伸ばした本実施形態の構造では、全てのポケット16で内径側ISに向けて柱部23,23間の間隔が広がるように勾配αが設けられている。また図2のように、全てのポケット16において、内径側に向けて一対の弧状部21,22の間隔が広がるように勾配βが設けられている。
【0023】
図3のように、ポケット16における隅部Crの一部に、内径側(径方向一方)ISに向かうに従って大きくなるR形状を有する。同図3の隅部Crには、径方向全体に亘ってR形状を有する。但し、隅部Crのうち内径側ISに向けて大きくなるR形状を有する部分Caは、ポケット16の径方向中間付近部から内径側縁部に至る箇所である。この内径側ISに向かうに従って大きくなるR形状を有する部分Caが、隅部Crの応力集中を低減する応力集中低減手段である。なおポケット16における隅部Crの全部、すなわちポケット16の外径側縁部から内径側縁部に至る径方向全体に亘って、内径側ISに向けて大きくなるR形状を有してもよい。前記R形状を有する部分を「隅R」と称す。
【0024】
一般的なころ軸受用保持器のポケットの隅Rは、ころとの干渉を避けるために、ころの角のRよりも小さいR寸法となる。しかし、保持器の柱部または弧状部のうちポケットを構成する面に傾斜が存在する場合、柱部間の間隔または一対の弧状部の間隔が広がる方向に進む程ころとポケットの隙間が大きくなり、ころの角Rと同等または大きい隅Rを保持器ポケットの隅に設けることができる。
【0025】
樹脂製保持器は一般に射出成形で成形され、射出成形するためには金型の抜き方向に勾配を設ける必要がある。保持器セグメントの径方向に金型を抜く場合、保持器セグメントの弧状部または柱部のうちポケットを構成する面は、金型を抜く方向A2(図4)に広がるように勾配を設ける。この勾配を利用して前記隅部CrのR形状を容易に設けることができる。
【0026】
<連結部材等について>
図1のように、本実施形態では、複数個の保持器セグメント20を連結する連結部材25,33が各保持器セグメント20に着脱自在に設けられている。図2のように、セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側には、突出部26が軸方向に突出するように設けられている。突出部26は、図1の連結部材25を係合する係合部27を有する。環状に配置した各セグメント20の大径側に配置される連結部材25が、係合部27に着脱自在に設けられる。
小径側弧状部21の小径側側面に、小径側係合部(係合部)32を設け、小径側係合部32に、環状に配置した各セグメント20の小径側に巻き回される連結部材33を通す。さらにこの連結部材33の端部相互を図示外の締結部材により着脱可能に結束するようにしている。
【0027】
<作用効果>
以上説明した円すいころ軸受1によると、図3のように、ポケット16における隅部Crの一部または全部に、内径側ISに向かうに従って大きくなるR形状を有するため、一般的な保持器セグメントよりも応力集中が低減される。ポケット16の隅部Crは、軸受稼働時に大きな応力が発生する部分であり、隅部Crの応力集中を低減することで、一般的な保持器セグメントよりも保持器セグメント20の強度が向上する。これにより軸受運転時の異常リスクが低減される。また保持器セグメント20の強度が向上するため保持器セグメント20の薄肉化が実現できる。これにより、一般的な保持器セグメントよりも保持器材料を低減し、製造原価を低減することが可能となる。
【0028】
保持器セグメント20は樹脂製であるため、各保持器セグメント20を金型等により成形することができ、円すいころ軸受の大型化および量産化に容易に対応し得る。
保持器セグメント20は、炭素繊維またはガラス繊維を含む樹脂製である。炭素繊維またはガラス繊維は繊維状であるため、効率的に熱による線膨張係数、すなわち熱膨張係数を低下させることができる。したがって、膨張時にセグメント同士の隙間が零になることを防止し得る。これにより図1の保持器17の不具合を未然に防止することができる。
【0029】
図4のように、円すいころ15を保持器セグメント20の内径側ISからポケット16内に挿入可能な案内爪24が、隣り合う柱部23の外径側に設けられ、図1のように、複数個の保持器セグメント20を連結する連結部材25が、各保持器セグメント20にそれぞれ設けられた係合部27に着脱自在に設けられている。この場合、内輪11、円すいころ15および保持器17を一体化した内輪アッシーの状態で外輪12に組む込む際に、内輪アッシーを反転させても、環状に配列された各保持器セグメント20が連結部材25によって連結されている。このため、各保持器セグメント20がばらけることがなく円すいころ軸受1の組立てを容易に行うことができる。
【0030】
<他の実施形態について>
以下の説明においては、各実施形態で先行して説明している事項に対応している部分には同一の参照符号を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、特に記載のない限り先行して説明している実施形態と同様とする。同一の構成は同一の作用効果を奏する。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0031】
[第2の実施形態:図5図6
図5のように、柱部23の内径側および外径側に、案内爪24が設けられた保持器セグメント20としてもよい。具体的には、図6のように、複数の柱部23のうち、周方向両端の柱部23a,23aと、柱部23a,23aに隣り合う柱部23b,23bの内径側ISには、円すいころ15を保持器セグメント20の外径側OSからポケット16内に挿入可能な案内爪24a,24aが設けられている。周方向中間に位置するポケット16を形成する柱部23c,23cの内径側ISにも、円すいころ15を保持器セグメント20の外径側OSからポケット16内に挿入可能な案内爪24a,24aが設けられている。案内爪24aはポケット16に収容された円すいころ15と内径側ISで接触する。この案内爪24aは、ポケット16に挿入した円すいころ15の内径側ISへの抜け出しを防止する。
【0032】
複数の柱部23のうち、周方向両端の柱部23a,23aに隣り合う柱部23b,23bと、周方向中間に位置するポケット16を形成する柱部23c,23cの外径側OSには、円すいころ15を保持器セグメント20の内径側ISからポケット16内に挿入可能な案内爪24b,24bが設けられている。案内爪24bはポケット16に収容された円すいころ15と外径側OSで接触する。この案内爪24bは、ポケット16に挿入した円すいころ15の外径側OSへの抜け出しを防止する。
【0033】
案内爪24bが外径側OSに伸びているポケット16では、内径側ISに向けて柱部間の間隔が広がるように勾配αが設けられ、案内爪24aが内径側ISに伸びているポケット16では、外径側(径方向他方)OSに向けて柱部間の間隔が広がるように勾配αが設けられる。内径側ISに向けて柱部間の間隔が広がるように勾配αが設けられるポケッ16では、内径側ISに向かうに従って大きくなるR形状を有する。外径側OSに向けて柱部間の間隔が広がるように勾配αが設けられるポケット16では、外径側OSに向かうに従って大きくなるR形状を有する。
この保持器セグメント20においても、ポケット16における隅部Crの一部または全部に、内径側ISまたは外径側OSに向かうに従って大きくなるR形状を有するため、一般的な保持器セグメントよりも応力集中が低減される。その他前述と同様の構成を有し前述と同様の作用効果を奏する。
【0034】
[第3の実施形態:図7図22
図7のように、本実施形態では、複数個の保持器セグメント20を連結する連結部材25が、各保持器セグメント20にそれぞれ設けられた係合部27に着脱自在に設けられている。
本実施形態では、図8のように、柱部23を1つのセグメント20に6つ設け、隣り合う柱部23間に円すいころ15(図7)を収納する5つのポケット16を設けている。各ポケット16を形成する隣り合う柱部23の対向面の外径側には、ポケット16に挿入した円すいころ15(図7)の外径側への抜け出しを防止する案内爪24を設けている。
【0035】
セグメント20を環状に並べて形成される保持器17(図7)は、外輪案内方式である。柱部23の軸方向両端部つまり軸方向の両端外面には、円弧状の案内突起(突起)29を設けている。案内突起29は、両端の柱部29を含む任意の柱部23のみに設けてもよい。
セグメント20は、小径側弧状部21と大径側弧状部22の端面部同士が突き合わされた状態で環状に配置される。
【0036】
セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側には、突出部26が軸方向に突出するように設けられている。突出部26は、連結部材25を係合する係合部27を有する。図7のように、環状に配置した各セグメント20の大径側に配置される連結部材25が、係合部27に着脱自在に設けられる。図8のように、大径側弧状部22の両端側にある突出部26は、隣接するセグメント20間の突出部26同士の接触を避けるように設けることが好ましい。
【0037】
<環状治具について>
図17に示すように、環状治具31は、内輪11の小径側の端面に当接するリング部31aと、リング部31aの軸方向の端部から外径側に向かって突設されたL字形の係合部31bとを有する。環状に配置した各セグメント20の大径側を連結部材25で連結する際に、リング部31aを内輪11の小径側の端面に当接させた状態で、係合部31bをセグメント20のウィング部28に嵌めるようにしている。
【0038】
<連結部材等>
図10のように、各セグメント20の大径側に巻き回される連結部材25は、ターンバックル等の締結部材30によって結束される。締結部材30がターンバックルで構成される場合、ターンバックルは、雌ねじが形成された胴部を有し、この胴部に締結部材30の端部に設けた雄ねじ部をねじ込むことにより、連結部材25の端部相互を連結することができる。前記胴部の回転により、連結部材25に張力を与えることができ、締め付け方向と逆方向に胴部を回転させることにより、連結部材25の両端の結束を解除し得る。連結部材25の端部相互の連結は、連結部材25の端部に締結部を設けて連結部材25同士を巻き付け、または結束バンドを用いて連結するようにしてもよい。
【0039】
連結部材25としては、ワイヤーまたはベルトを使用し得る。連結部材25としてワイヤーを使用する場合、締結部材30としては、着脱可能なフックまたはターンバックルを使用し得る。ターンバックルは、着脱可能であり、締め付け力が緩まず、締め付け力が調整可能であるため、最も好ましい。連結部材25としてベルトを使用する場合、締結部材30としては、着脱可能なバックルを使用すると、締め付け力が緩まないので好ましい。
図8のセグメント20は、樹脂製である。セグメント20を形成する樹脂としては、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンを使用し得る。
【0040】
<セグメントを使用した円すいころ軸受の組立てについて>
図7の外輪12に円すいころ等を組込む前に、図10および図11に示すように、内輪11、円すいころ15および保持器17を一体化した内輪アッシーを組立てる。
内輪アッシーを組立てるには、まず、図12および図13に示すように、内輪11の大端面を下にした状態で、内輪11の軌道面13に円すいころ15を並べる。
【0041】
内輪11の大端面を下にした状態で、円すいころ15を軌道面13上に配置していくと、円すいころ15が自重により内輪11から脱落する可能性がある。円すいころ15の内輪11からの脱落を防止するために、内輪11の中心軸から大鍔部19の先端までの距離を、内輪11の中心軸から円すいころ15の重心までの距離よりも大きくしており、大鍔部19の径Jは次式を満足する。
(J/2)-HCOSI>y1
【0042】
すなわち図14に示すように、内輪11の大端面を下にして軌道面13に円すいころ15を配置した状態で、大鍔部19の円すいころ15と接触する側面が内輪11の中心軸に対して直交する直線に対する角度をI、大鍔部19の先端の面取り幅をH、内輪11の中心軸から円すいころ15の重心までの距離をy1、大鍔部19の径をJとしたとき、上記の式を満たせば、円すいころ15の脱落を防止し得る。図14において、Dは円すいころ15の大端面の径、Gは円すいころ15の小端面の径、Fは円すいころ15の長さ、Eは中心軸から軌道面13の大鍔部19側の端部までの距離を示している。
【0043】
円すいころ15を内輪11の軌道面13上に並べた後、図15に示すように、各セグメント20を順次外径側から被せると、各セグメント20の内径側から円すいころ15がポケット16(図12)内に挿入される。
この後、図16および図17に示すように、環状に配列されたセグメント20の小径側側面に突出するウィング部28に環状治具31を嵌め、大径側側面に突出する突出部26の係合部27に連結部材25を通す。さらにセグメント20の外径側に巻き回した連結部材25の端部相互を締結部材30によって結束する。この締結部材30によって連結部材25を締め付けて、環状に配置した複数のセグメント20を一体化する。
【0044】
締結部材30は、大径側弧状部22の大径側の側面両端側に突出する突出部26の間に位置し、両端側の突出部26の間が締結部材30の収容部になっている。
連結部材25は、周方向に連続する一本でもよいが、周方向に複数に分割され、分割された各連結部材25の端部相互をそれぞれ締結部材30により連結するようにしてもよい。連結部材25を複数の分割する場合、締結部材30は、円周状に等分に配置することが好ましい。
【0045】
環状に配置されたセグメント20の外周に連結部材25を巻き回し、連結部材25を締結部材30で締め付けると、環状に配置されたセグメント20の小径側が開こうとする。前記小径側の開きを抑制するために、連結部材25を締め付ける際には、環状に配置されたセグメント20の小径側のウィング部28に環状治具31を嵌めている。
【0046】
環状治具31は、図17に示すように、環状に配置されたセグメント20の小径側弧状部21のウィング部28に軸方向から被せられ、内輪アッシーを組立てた後に、中心軸に沿って移動させることによって取外せるようになっている(図18
次に、内輪アッシーの外輪12への組込みは、図19に示すように、内輪アッシーの小径側を下に向けた反転状態にして行う。
【0047】
この内輪アッシーを外輪12へ組込む際に、内輪アッシーを、小径側を下に向けた反転状態にしても環状に配置されたセグメント20は外周側が連結部材25によって連結されているので、セグメント20がばらけることはない。
各セグメント20のポケット16内に挿入された円すいころ15も、ポケット16を形成する柱部23の外径側に設けた案内爪24(図8)によってポケット16から抜け出さない。
【0048】
内輪アッシーを組立てる際に使用した環状治具31(図17)は、外輪12へ組込む際には取り除くようにする。
環状治具31(図17)を取り除いた状態で、内輪アッシーを、小径側を下に向けた反転状態にしても、連結部材25によって連結された各セグメント20は、各セグメント20のポケット16に挿入保持された円すいころ15が、内輪11の軌道面13の軸方向両側に位置する大鍔部19と小鍔部18との間に挟まり、円すいころ15が内輪11の小鍔部18に引っ掛かっているため、各セグメント20の脱落が防止される。
【0049】
各セグメント20の脱落を防止する内輪11の小鍔部18の高さは、次の条件を満たしている。
内輪11の大鍔部19と小鍔部18との間に嵌められた円すいころ15が回転する場合、円すいころ15の大端面が大鍔部19に接していないときは、図21の模式図に示すように、円すいころ15は点Aを中心に回転する。円すいころ15の大端面が大鍔部19に接しているときは、円すいころ15は点Bを中心に回転すると考えられる。
【0050】
円すいころ15の大端面が大鍔部19に接し、点Bを中心に回転する場合、図22の模式図に示すように、内輪11の小鍔部18の径Mが十分に大きければ、円すいころ15の小径側の端面が、小鍔部18の側面の点Cに接触する。このため、円すいころ15の回転が抑制され、円すいころ15が内輪11の小鍔部18に引っ掛かる。
円すいころ15が引っ掛かる小鍔部18の側面の点Cは、円すいころ15が回転したときの円すいころ15の小端面角部の軌跡を描いたスプライン曲線と小鍔部18の側面との交点であり、このとき、内輪11の小鍔部18の径Mは、次の条件を満たしている。
(M/2)-KcosL>y3
【0051】
ここで、内輪11の小鍔部18の径をM、内輪11の小鍔部18の点C側の側面が内輪11の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、小鍔部18の先端の面取り幅をK、円すいころ15を内輪11の大鍔部19の先端のB点を中心にして回転させた際に、小鍔部18の側面と円すいころ15の小径側の端面とが接触する接触点Cから中心軸までの距離をy3としている。
【0052】
以上のように、内輪アッシーの小径側が下に向くように反転させて外輪12に組込むことにより、図20に示すように、円すいころ軸受1を組立てることができる。
円すいころ軸受1の組立てが完了すると、円すいころ軸受1を装置に組込んだ後に、各セグメント20の外周を締め付けている連結部材25を取り外しておくことができる。円すいころ軸受1の組立て完了後は、締結部材30(図10)を緩めて取外しても各セグメント20はばらけることがないからである。
【0053】
第3の実施形態では、小径側弧状部21の小径側側面に、小径側に突き出すウィング部28を設け、環状に配置した各セグメント20の大径側を連結部材25で結束する際に、環状に配置した各セグメント20の小径側のウィング部28に環状治具31を嵌めるようにしている。この保持器セグメント20においても、ポケット16における隅部Crの一部または全部に、内径側または外径側に向かうに従って大きくなるR形状を有するため、一般的な保持器セグメントよりも応力集中が低減される。その他前述と同様の構成を有し前述と同様の作用効果を奏する。
【0054】
樹脂製の保持器セグメントは、金型等により成形されるが、機械加工または3Dプリンタにより成形することも可能である。
各実施形態の円すいころ軸受は、外径が1m以下の円すいころ軸受に適用することも可能である。各実施形態の円すいころ軸受を風力発電装置または産業機械の用途以外に適用してもよい。
各実施形態の円すいころ軸受を複列の円すいころ軸受に適用してもよい。
【0055】
<風力発電装置への適用例>
図23は、いずれかの実施形態に係る円すいころ軸受1を用いた風力発電装置の例を示す。この風力発電装置は、支柱50の上端に水平旋回自在に設置されたナセル51に、プロペラ形の風車52の主軸53が、主軸軸受である円すいころ軸受1によって回転自在に支持されている。主軸軸受は、外径1m以上の大型軸受である。主軸53は発電機54に増速機55を介して連結されている。この風力発電装置における主軸軸受に、実施形態に係る円すいころ軸受1が用いられている。
この場合、保持器セグメントの強度が向上する円すいころ軸受1を、風力発電装置に使用される大型軸受に適用することができ、円すいころ軸受1のメンテナンス費用等を抑制することができる。
【0056】
以上、本発明の実施形態を説明したが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
1…円すいころ軸受、11…内輪、12…外輪、15…円すいころ、16…ポケット、17…保持器、20…保持器セグメント、21,22…弧状部、23…柱部、24…案内爪、25…連結部材、27…係合部、32…小径側係合部(係合部)、33…連結部材、
隅部…Cr、sf…面
図1
図2
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