(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074115
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法および酸化マグネシウム成分を含む無機材料
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2055 20180101AFI20240523BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
G01N23/2055 320
G01N33/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185196
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】市川 孝一
(72)【発明者】
【氏名】當房 博幸
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001KA01
2G001MA04
2G001NA03
2G001NA06
2G001RA01
(57)【要約】
【課題】無機材料に含まれる酸化マグネシウム相の含有量を簡便に測定して、土木材料としての酸化マグネシウム相による膨張性の合否を判定する方法を提案する。
【解決手段】土木材料向けの酸化マグネシウム成分を含む無機材料について、該無機材料中の酸化マグネシウム相による膨張性を判定する方法であって、前記無機材料について粉末X線回折測定を行なって回折パターンを取得し、取得した回折パターンにおいて酸化マグネシウム相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルから酸化マグネシウム相の含有量を算出するステップと、算出した前記酸化マグネシウム相の含有量をあらかじめ定めた閾値と比較し、該酸化マグネシウム相の含有量が上記あらかじめ定めた閾値以下の時に合格と判定するステップとを備える。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土木材料向けの酸化マグネシウム成分を含む無機材料について、該無機材料中の酸化マグネシウム相による膨張性を判定する方法であって、
前記無機材料について粉末X線回折測定を行なって回折パターンを取得し、取得した前記回折パターンにおいて酸化マグネシウム相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルから前記酸化マグネシウム相の含有量を算出するステップと、
算出した前記酸化マグネシウム相の含有量をあらかじめ定めた閾値と比較し、該酸化マグネシウム相の含有量が前記あらかじめ定めた閾値以下の時に合格と判定するステップと、
を備える、酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項2】
前記無機材料が鉄鋼スラグである、請求項1に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項3】
前記粉末X線回折測定がCuターゲットを用いるものであり、前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°または2θ=126°~128°である、請求項1または請求項2に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項4】
前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°である、請求項3に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項5】
前記酸化マグネシウム相の含有量は、酸化マグネシウム相を含まない無機材料に酸化マグネシウム相を既知の量だけ混合して調製した試料についてCuターゲットを用いた粉末X線回折測定を行ない、得られた回折パターンのうち回折角度が2θ=109°~111°における回折線の強度レベルに基づいて作成した検量線から決定する、請求項4に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項6】
前記あらかじめ定めた閾値が2質量%以下の値である、請求項1または請求項2に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【請求項7】
土木材料向けの酸化マグネシウムを含む無機材料であって、
前記無機材料は、Cuターゲットを用いた粉末X線回折測定において2θ=109°~111°または2θ=126°~128°の範囲の回折角度に現れる回折線の強度レベルから算出された前記酸化マグネシウム相の含有量が2質量%以下である、酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【請求項8】
前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°である、請求項7に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【請求項9】
前記無機材料が鉄鋼スラグである、請求項7または8に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法および酸化マグネシウム成分を含む無機材料に関する。
【背景技術】
【0002】
土木材料には、種々の無機材料が用いられており、天然由来の石材に加え、例えば鉄鋼スラグや非鉄金属スラグなども用いられている。こうした土木材料は、道路の路盤や加熱アスファルト混合物、瀝青安定処理のみならず、鉄鋼スラグ水和固化体の骨材、カルシア改質土の改質材、サンドコンパクションパイルでの地盤改良などの用途に用いられている。
【0003】
これらの用途の中には、材料の膨張による容積変化に対して規制が必要なものがあり、先に挙げた道路の路盤や加熱アスファルト混合物、瀝青安定処理や鉄鋼スラグ水和固化体の骨材については、材料の膨張性を制御することが既に求められている。
【0004】
スラグを道路の路盤材に使用する場合、路盤材中に割れや破壊が発生する問題がある。これは、スラグの体積膨張によるものであり、その要因としては、酸化カルシウム相や酸化マグネシウム相による膨張が挙げられ、水和反応による水酸化カルシウムや水酸化マグネシウムの生成により、体積が2倍以上となることが知られている。なお、本明細書において、「酸化マグネシウム成分」または単なる「酸化マグネシウム」との記載は、成分としての酸化マグネシウムを意味している。また、「酸化マグネシウム相」との記載は、ペリクレース相の酸化マグネシウム成分を意味しており、「ペリクレース相」との記載は、マグネシウム(Mg)イオンおよび酸素(O)イオンが岩塩型(NaCl型)の結晶構造で並んだ酸化マグネシウム結晶の相を意味している。また、他の元素、化合物について、単なる元素名、化合物名の記載は、成分としての元素、化合物を意味している。
【0005】
このため、例えば鉄鋼スラグを路盤材に使用する場合には、JISA 5015(道路用鉄鋼スラグ)に準じて、6ヶ月以上の大気中でのエージングや蒸気による促進エージングを実施し、さらに水浸膨張比1.0%以下である条件を満足させることが要求されている。しかしながら、酸化マグネシウム相による膨張は発現が遅いため、現行の水浸膨張比の評価では、酸化マグネシウム相による膨張性を適正に評価することができない。
【0006】
鉄鋼スラグ水和固化体についても、非特許文献1において膨張性についての制限が規定されている。非特許文献1では、骨材に利用してよい製鋼スラグの酸化マグネシウム成分の含有量(化学成分値)および昇温して反応を促進した状態での粉化率の規定がされている。しかし、最終的な合否判断は、作製して養生した水和固化体供試体を、80℃の温水中に10日間浸漬養生して、供試体に有害なひび割れが発生しないことを条件としており、合否判断に曖昧さが残る。これは、長期に亘って膨張する酸化マグネシウム相の含有量が把握できないためであり、長時間反応を促進させて膨張経過状況を判定している点は、路盤材と同様である。
【0007】
これに対して、スラグ中に未反応状態で残留している酸化マグネシウム相の量を定量して、膨張の危険性を避けようとする試みがなされている。例えば、特許文献1には、試料をヨウ素含有アルコールと接触させて試料に含まれる酸化マグネシウム相および水酸化マグネシウムを溶解液中に溶解させて溶解したマグネシウム量を求め、次いで、試料に対して熱重量分析を行い、水酸化マグネシウムの脱水による質量減量から水酸化マグネシウム量を算出した後、溶解したマグネシウム量から、熱重量分析から算出されるマグネシウム量を差し引いて得られるマグネシウム量を基に、未反応状態で残留する酸化マグネシウム相の量を求める方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、固体25Mg-NMRを用いて酸化マグネシウム相(MgS外部標準)を直接測定する方法が記載されている。さらに、特許文献3には、重水(D2O)または重水酸化ナトリウム(NaOD)(inD2O)中にスラグを浸漬後、赤外吸収スペクトルを測定し、重水酸化マグネシウム(Mg(OD)2)による吸収ピークを基に、未反応状態で残留する酸化マグネシウム相の量を定量する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5835385号明細書
【特許文献2】特許第5494589号明細書
【特許文献3】特許第4676891号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】鉄鋼スラグ水和固化体技術マニュアル-製鋼スラグの有効利用技術―(改訂版)平成20年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1に記載された技術は、溶解での酸化マグネシウム相の量および水酸化マグネシウム量の定量や、熱分解する相が多数混在する場合、熱重量測定での質量減量の温度域の設定で誤差を生じ、時間が掛かる上に精度に問題がある。また、特許文献2に記載された技術は、測定に大規模な設備と長時間を要し、汎用性が低い。さらに、特許文献3に記載された技術は、酸化マグネシウム相を完全に水和させて水酸化マグネシウムに変化させる必要があるため、評価に長時間を要し、実用的でない。そして、特許文献1~3に記載された技術のいずれも、酸化マグネシウム相の含有量がどれだけ減れば膨張性に危険性がないか判断する技術ではないため、路盤材の製造における品質管理に、酸化マグネシウム相の含有量に対して指針を与えることができない。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、無機材料に含まれる酸化マグネシウム相の含有量を簡便に測定して、土木材料としての酸化マグネシウム相による膨張性の合否を判定する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]土木材料向けの酸化マグネシウム成分を含む無機材料について、該無機材料中の酸化マグネシウム相による膨張性を判定する方法であって、
前記無機材料について粉末X線回折測定を行なって回折パターンを取得し、取得した前記回折パターンにおいて酸化マグネシウム相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルから前記酸化マグネシウム相の含有量を算出するステップと、
算出した前記酸化マグネシウム相の含有量をあらかじめ定めた閾値と比較し、該酸化マグネシウム相の含有量が前記あらかじめ定めた閾値以下の時に合格と判定するステップと、
を備える、酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0014】
[2]前記無機材料が鉄鋼スラグである、前記[1]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0015】
[3]前記粉末X線回折測定がCuターゲットを用いるものであり、前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°または2θ=126°~128°である、前記[1]または[2]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0016】
[4]前記粉末X線回折測定がCuターゲットを用いるものであり、前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°である、前記[3]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0017】
[5]前記酸化マグネシウム相の含有量は、酸化マグネシウム相を含まない無機材料に酸化マグネシウム相を既知の量だけ混合して調製した試料についてCuターゲットを用いた粉末X線回折測定を行ない、得られた回折パターンのうち回折角度が2θ=109°~111°における回折線の強度レベルに基づいて作成した検量線から決定する、前記[4]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0018】
[6]前記あらかじめ定めた閾値が2質量%以下の値である、前記[1]~[5]のいずれか一項に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法。
【0019】
[7]土木材料向けの酸化マグネシウムを含む無機材料であって、
前記無機材料は、Cuターゲットを用いた粉末X線回折測定において2θ=109°~111°または2θ=126°~128°の範囲の回折角度に現れる回折線の強度レベルから算出された前記酸化マグネシウム相の含有量が2質量%以下である、酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【0020】
[8]前記回折角度の範囲が2θ=109°~111°である、前記[7]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【0021】
[9]前記無機材料が鉄鋼スラグである、前記[7]または[8]に記載の酸化マグネシウム成分を含む無機材料。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、無機材料に含まれる酸化マグネシウム相の含有量を簡便に測定して、土木材料としての酸化マグネシウム相による膨張性の合否を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】供試体の膨張率の測定方法を説明する図である。
【
図2】酸化マグネシウム相の水和量と膨張比との関係を示す図である。
【
図3】酸化マグネシウム相およびマグネタイト相の回折角度(2θ)とピークの相対強度との関係を示す図である。
【
図4】粉末X線回折法による、酸化マグネシウム相試薬の添加率と回折角度110°での回折線のピーク強度との関係の例を示す図である。
【
図5】バックグラウンドの除去方法の例を示す図である。
【
図6】実施例の試験体を路盤材として使用したモデル路盤を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。本発明による酸化マグネシウム成分を含む無機材料の膨張性判定方法は、土木材料向けの酸化マグネシウム成分を含む無機材料について、該無機材料中の酸化マグネシウム相による膨張性を判定する方法であって、無機材料について粉末X線回折測定を行なって回折パターンを取得し、取得した回折パターンにおいて酸化マグネシウム相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルから酸化マグネシウム相の含有量を算出するステップと、算出した酸化マグネシウム相の含有量をあらかじめ定めた閾値と比較し、該酸化マグネシウム相の含有量が上記あらかじめ定めた閾値以下の時に合格と判定するステップとを備える。
【0025】
まず、無機材料について粉末X線回折測定を行なって回折パターンを取得し、取得した回折パターンにおいて酸化マグネシウム(以下、単に「MgO」とも言う。)相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルからMgO相の含有量を算出する。
【0026】
本発明においてMgO相による膨張性の合否を判定する対象は、MgO成分を含む無機材料である。こうした無機材料としては、特に、製鉄プロセスで製造されるスラグが挙げられる。「製鉄プロセスで製造されるスラグ」とは、鉄鋼の製造過程で発生するスラグであり、高炉スラグと製鋼スラグとに大別される。これらのうち、路盤材や鉄鋼スラグ水和固化体等の土木材料が主な用途になるのは、製鋼スラグである。
【0027】
「高炉スラグ」とは、高炉から排出された後に、水を吹きかけて急冷した高炉水砕スラグ、高炉から排出された後にドライピットなどで徐冷された高炉徐冷スラグ等を意味する。高炉水砕スラグは、主にセメント材料に利用される一方、高炉徐冷スラグは、固く、路盤材料にも使用される。高炉徐冷スラグは、高炉において鉄鉱石に含まれるシリカなどの鉄以外の成分と、副原料の石灰石やコークス中の灰分とが結合したものであり、酸化カルシウム(CaO)、二酸化シリコン(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、MgOを主成分としている。ここでのMgOはMg含有量を酸化物換算している。
【0028】
高炉スラグは、高炉内で完全に溶解して融液状態で排出されるが、成分バランス的に、凝固過程でもMgO相を析出しないため、高炉スラグ中にはMgO相は通常、存在しない。
【0029】
一方、「製鋼スラグ」とは、溶銑やスクラップ等を精錬して鋼を製造する際に同時に製造される転炉スラグ、電気炉スラグ及びそのほか製鋼工程で製造される溶銑予備処理スラグ(溶銑を転炉に装入する前に溶銑の脱硫、脱珪、脱燐等の処理をする際に生成されるスラグであり、予備処理の内容に応じて生成されるスラグを脱硫スラグ、脱珪スラグ、脱燐スラグ等と称する)、二次精錬スラグ(転炉等から出鋼した溶鋼に脱硫、脱燐、脱ガス等の処理をする際に生成されるスラグ)、スロッピングスラグ(転炉吹錬中に炉内から飛び出し、炉下に落下したスラグ)、鋳造スラグ(溶鋼を鋳型又は連続鋳造機に注入した後、溶鋼鍋に残留したスラグ)、及び混銑炉スラグ(混銑炉から排出されたスラグ)等を意味する。より具体的には、「製鋼スラグ」は、鉄鋼製造プロセスにおいて生成されるものであり、CaO、SiO2、酸化第一鉄(FeO)、酸化第二鉄(Fe2O3)、MgO、酸化マンガン(MnO)、五酸化二リン(P2O5)を主成分、酸化アルミニウム(Al2O3)、硫黄(S)等を副成分として含有するものである。
【0030】
製鋼スラグは、高炉スラグより高温で精錬されるため、耐火物にMgO相を含むことが多く、耐火物が溶解しないようにスラグ成分を調節していることから、溶けなかったMgO相がスラグ中に残ることがある。また、成分的に冷却過程で他元素を固溶しながら析出するMgO相も多く存在する。そして、製鋼スラグを土木材料として使用した際に、スラグ中に残ったMgO相が水とゆっくり反応するため、膨張を引き起こす。本発明では、対象となる無機材料として、こうした製鋼スラグを好適に用いることができる。
【0031】
本発明では、上述のようなMgO成分を含む無機材料に対して、粉末X線回折測定を行って回折パターンを取得し、取得した回折パターンにおいてMgO相に対応する回折角度に現れる回折線の強度レベルからMgO相の含有量を算出する。
【0032】
粉末X線回折測定は、MgO相の代表的な定量方法であるが、この方法では、1質量%未満のMgO相を検出できないことが知られている。しかしながら、本発明者らは、MgO成分を含む無機材料を土木材料として使用できるか否かの判断において、粉末X線回折測定をMgO相の含有量の定量する際に好適に用いることができることを見出した。以下、この知見を得るに至った実験について説明する。
【0033】
上述したJIS A 5015に定められた水浸膨張比の合否判断の基準は、水浸10日目での膨張比が1.0%以下である。しかしながら、水浸10日目では、全ての膨張材料が膨張していないため、水浸を継続すれば、最終的な膨張量は水浸10日目時点での膨張量の数倍に達する。つまり、JISA 5015の規定での水浸膨張比は、膨張材料の一部だけが反応した途中経過での膨張比である。
【0034】
そこで、本発明者らは、上記JISA 5015に規定された方法よりも水和反応を促進すべく、MgO相を含む無機材料試料を蒸気で100℃に昇温して水和による膨張反応を促進することに想到した。そして、本発明者らは、MgO相を含まない高炉徐冷スラグに、原料のMgO相材を150μm未満の粒度に粉砕して10質量%添加し、JISA 5015に定められた水浸膨張比測定と同様にして供試体を突き固め、蒸気で100℃に昇温して40日間保持し、水和による膨張反応を促進しつつ、膨張比を測定した。また、これとは別に、150μm未満の粒度に粉砕したMgO相材10質量%と残部を高炉徐冷スラグとして同様に充填した供試体を作製し、100℃蒸気の環境下で水和反応を促進しつつ、中途で一部試料を順次抜き出して、MgO相の水和反応率を測定した。
【0035】
図1は、膨張比を測定する方法を説明する図である。まず、供試体をろ紙および軸付き有孔板で挟み込み、供試体が膨張によって鉛直方向に沿って配置された軸方向に膨張できるように構成されている。また、軸の上方には膨張センサーが設けられている。この状態で、供試体の下方から100℃の蒸気を40日間供給し、膨張センサーによって測定された供試体の膨張量から膨張比を求める。
【0036】
MgO相の反応率(すなわち、MgO相の水和量)は、X線回折法(X-ray Diffraction、XRD)により測定した。測定用試料として、出発時を想定した高炉徐冷スラグ90質量%に10質量%のMgO相試薬を混合したものを調製した。他に、10質量%のMgO相の一部が順次Mg(OH)
2に変化したことを想定した質量比での高炉徐冷スラグ-MgO相-Mg(OH)
2混合物を調製した。それらを粉砕した試料を用いて、MgO相反応率測定用のXRDでの検量線を作成した。算出したデータから作成したMgO相(単味分)の水和量と膨張比との関係を
図2に示す。
【0037】
上記本発明者による評価では、100℃の蒸気環境下でMgO相の水和反応が促進され、試料に含まれるMgO相の全てが水和反応し、測定される膨張比は、試料に含まれるMgO相の全てが反応した時点での膨張比となる。
図2によれば、MgO相の含有量が1.8質量%であれば、全てのMgO相が反応しても膨張比は0.15%であり、JIS A 5015での水浸膨張比基準である水浸10日目での膨張比1.0%以下と比べても、圧倒的に低い膨脹比である。よって、MgO相の含有量が1.8質量%の材料を路盤材に使用しても、MgO相の膨張が路盤を破壊する原因とはならない。
【0038】
このように、本発明者らによる評価方法によって測定された膨張比を基準にして、測定された膨張比があらかじめ定められた膨潤比の閾値を超えるか否かによって、MgO成分を含む無機材料の膨張性の合否を判定することができる。後述する実施例に示すように、MgO相の含有量が2質量%以下であれば、MgO成分を含む無機材料を路盤材などの土木製品として好適に利用することができる。
【0039】
上述のように、粉末X線回折測定では、1質量%未満のMgO相を検出できない。しかしながら、本発明者の知見によれば、MgO相の含有量が1質量%以上の値で設定された閾値に基づいて、MgO成分を含む無機材料を土木材料として利用できるか否かの合否判断ができるため、MgO相の定量方法として、粉末X線回折測定を好適に用いることができる。このように、本発明においては、MgO相の含有量の算出に、粉末X線回折測定を用いる。これにより、MgO相の定量を簡便に行うことができる。
【0040】
MgO相の回折ピークは、Fe酸化物を含む無機材料が含有しうるマグネタイト(Fe
3O
4)相の酸化鉄(以下、単に「マグネタイト(Fe
3O
4)相」とも言う。)の回折ピークと多くが重複している。粉末X線回折法は、一般的にはCuをターゲットとして発生するX線を用いる。MgO相およびFe
3O
4相の回折角度(2θ)とピークの相対強度との関係を
図3に示す。
【0041】
図3において、重複したFe
3O
4相の回折ピークおよびMgO相の回折ピークは、リートベルト法などによって分離して定量することができるが、そのためには、より時間を掛けた精密な測定が必要であり、効率的ではない。そこで、本発明者らは、
図3に示すように、回折角度110°付近に現れるMgO相の3番目の強度の回折ピーク、および回折角度127°付近に現れるMgO相の4番目の強度の回折ピークに着目した。これらの回折ピークは、Fe
3O
4相の回折ピークから分離されており、本発明者らの検討の結果、MgO相の簡易な定量判定に使用可能であることが分かった。さらに、本発明者らは、MgO相にFeOなどが固溶すると回折ピークの位置がシフトするため、対象とする回折角度範囲を拡大して、109°~111°または126°~128°の回折角度での回折ピークを測定するのが適当であることを見出した。このように、2θ=109°~111°の回折角度または2θ=126°~128°の回折角度に現れる回折線の強度レベル(ピーク値)を用いて、MgO相の含有量を算出することが好ましい。回折ピークの強度がより高いことから、2θ=109°~111°の回折角度に現れる回折線の強度レベル(ピーク値)を用いて、MgO相の含有量を算出することがより好ましい。
【0042】
実際の回折線のピーク値の算出は、回折パターンからバックグラウンドの除去を行った上で行うことが好ましい。2θ=109°~111°の回折角度の場合を例として、バックグラウンドの除去方法の例を
図4に示す。
図4に示した例では、まず、例えば105°~108°および112°~115°の回折角度範囲での信号強度について、各回折角度範囲について平均値(B
LおよびB
H)を求める。次いで、求めた各回折角度範囲の平均値から、さらに両範囲の平均値(B=(B
L+B
H)/2)を求め、求めた平均値(B)をバックグラウンド値とする。そして、109°~111°の最大強度から求めたバックグラウンド値を差し引き、得られた値をピーク値(A)とする。上記方法において、バックグラウンドを求めるための回折角度範囲は、特に限定されるものではなく、Fe
3O
4相とMgO相とが混在する回折ピークにおいて、109°~111°の回折角度範囲の近傍領域での回折ピークの存在状況に応じて適宜決定すればよい。2θ=126°~128°の回折角度の場合についても同様に、回折パターンからバックグラウンドの除去を行うことができる。
【0043】
また、
図4に示した方法以外の別の方法として、コンピュータソフトを用いて回折パターンに対してスムージング処理やバックグラウンド除去処理を施し、処理後の109°~111°または126°~128°の回折角度範囲での最大強度をピーク値としてもよい。
【0044】
次いで、上述のように算出したMgO相の含有量をあらかじめ定めた閾値と比較し、該MgO相の含有量が上記あらかじめ定めた閾値以下の時に合格と判定する。
【0045】
後述する実施例に示すように、上記予め定めた閾値は、2質量%以下の値に設定することが好ましい。これにより、MgO相の膨張についてはJIS A 5015よりもさらに低い膨張比に抑制することになり、MgO成分を含む無機材料を土木材料として好適に使用することができる。上記予め定めた閾値は、2質量%に設定することがより好ましい。
【0046】
粉末X線回折測定で得られた回折パターンのピーク強度は、測定装置や測定条件によって変化するため、MgO相の含有量の多少を判定する上記閾値は、装置ごとに決める必要がある。
図5は、MgO相試薬の添加量と、回折角度110°でのピーク強度との関係の一例を示している。
図5に示した関係は、高炉徐冷スラグにMgO相試薬の含有量を変えて試料を作り、各含有量の試料毎に109°~111°の回折角度での回折ピークのピーク強度(最大強度値CPS)を測定し、近似式を求めて決定した。
図5の関係を得た装置については、合否判定のMgO相の含有量の閾値を2質量%とすると、対応するピーク強度は170CPSとなる。
【0047】
道路用鉄鋼スラグは、1種類のスラグだけでなく、先に挙げた複数の種類のスラグを混合したものであることが多いため、混合後の材料に対してMgO相の含有量を判定してもよい。しかし、混合後のスラグでは、スラグ中に存在する相が増え、粉末X線回折パターンにおけるピークが複雑化して、特にバックグラウンドの除去に誤差を含みやすくなる可能性がある。また、どのスラグにMgO相が存在するかを把握することが困難である。こうしたことから、混合前の各スラグ種についてMgO相の含有量を測定することが好ましい。非鉄スラグの場合についても、混合する場合には同様である。
【0048】
<JIS法と合わせた評価>
上述のように、道路用鉄鋼スラグ製品について、JISA 5015において水浸膨張比を1.0%以下とすることが規定されている。そのため、本発明による合否判定と、JISA 5015に規定された水浸膨張比測定に基づく判定とを合わせて実施することが好ましい。
【0049】
これまで、土木材料のうち、路盤材用途向けについて説明した。アスファルト混合向けについても、JISA 5015において規定されており、エージング期間および水浸膨張比規定値は路盤材の場合とは異なる。しかし、MgO相による長期膨張の危険性は路盤材の場合と同様であり、MgO成分を含む無機材料の膨張性を判定できる方法が求められているため、上述した本発明による方法によって対応することができる。膨張性の判定の際の閾値についても、2質量%以下の値に設定することが好ましく、2質量%に設定することがより好ましい。
【0050】
さらに、鉄鋼スラグ水和固化体の場合におけるMgO相の含有量についても、同様に、粉末X線回折測定により算出することができる。鉄鋼スラグ水和固化体に適用可能な製鋼スラグの品質については、非特許文献1の「付録 表2.3.7」に記載されているように、最大粒径を25mm以下とし、MgO成分の含有量を8.5質量%以下、粉化率を2.5%以下とする規定があるが、本発明によりMgO相の含有量の合否判定を併用すれば、さらに膨張に対する安全性を向上させることができる。
【0051】
鉄鋼スラグ水和固化体の場合には、配合や混錬以前の段階で、スラグの粉末X線回折測定を行って、MgO相の含有量を算出し、そのロット材の使用の是非を判定することができる。または、配合比を増減して膨張の影響を調整してもよい。
【0052】
鉄鋼スラグ水和固化体の場合には、MgO相への金属酸化物の固溶量によって膨張安定性評価試験でのひび割れ発生状況が異なることが非特許文献1で述べられている。ここでは、スラグ中のfree-MgO(MgO相)の含有率が1質量%以上でも、金属酸化物の固溶量が65%以上であれば、ひび割れが生じないとされている。また、実際に供試体にひびが入り始めるのは、供試体の伸びが0.3%~0.4%に達した頃とされている。本発明者らは、先にMgO相試薬を混合して水浸膨張比を測定した結果とも合わせ考えて検討した結果、MgO相の含有量が2質量%以下であれば、膨張安定性評価試験において安定的に合格することを見出した。よって、鉄鋼スラグ水和固化体の場合についても、MgO相の含有量の閾値は、2質量%以下とすることが好ましい。上記閾値は、2質量%とすることがより好ましい。
【0053】
(酸化マグネシウムを含む無機材料)
本発明による酸化マグネシウム成分を含む無機材料は、土木材料向けの酸化マグネシウム成分を含む無機材料であり、上記無機材料は、Cuターゲットを用いた粉末X線回折測定において2θ=109°~111°または2θ=126°~128°の範囲の回折角度に現れる回折線の強度レベルから算出された酸化マグネシウム相の含有量が2質量%以下であることを特徴とする。
【0054】
上述のように、本発明によるMgO成分を含む無機材料の膨張性判定方法によって、MgO成分を含む無機材料を土木材料の使用に適しているか否かを判定することができる。よって、本発明による方法によって合格と判定された材料は、土木材料としての利用に適したものである。上記回折角度の範囲は、2θ=109°~111°であることが好ましい。
【0055】
上記無機材料として、鉄鋼スラグを好適に用いることができる。
【実施例0056】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0057】
(発明例1~3、比較例1~3)
まず、実施例に用いる試料を用意した。試料のための材料として、非鉄スラグおよび鉄鋼スラグのエージング材を用いた。これらの材料を破砕して、粒度がJISA 5015に定められたCS-40の範囲内となるように調整した。また、エージングは、2年以上屋外に静置する大気エージング、あるいは蒸気で100℃に昇温して2日以上保持する蒸気エージングを実施した。非鉄金属スラグについては、破砕による粒度調整のみ実施して、エージングは実施しなかった。こうして、試験材を得た。
【0058】
粉末X線回折用の試料は、以下のように調製した。まず、上述のように得た試験材の一部を採取して2kg程度に縮分し、破砕して4.75mm篩を全通させ、再度、縮分して50g程度としたものを振動ミルで粉砕した。さらに縮分して5g程度としたものを、メノウ乳鉢を用いて指頭に粒を感じないレベルまで粉砕した。こうして得られた粉末を、粉末X線回折測定用の試料とした。
【0059】
本発明による評価に先立って、上述のように用意した試料について、JISA 5015に定められた水浸膨張試験を実施し、比較例1~3、発明例1~3のいずれについても、基準の1.0%以下の膨張であることを確認した。
【0060】
次いで、粉末X線回折測定において、MgO相試薬の配合時の109°~111°の回折角度範囲における回折線のピーク高さを調べ、閾値以下の場合に合格と判定した。その際にMgO相の含有量の閾値は、2質量%とした。
【0061】
また、比較例1~3、発明例1~3の材料を路盤材として使用した場合の路面の隆起挙動を確認するために、上述のように得た各試験材を、
図6に示す、2m×10mのモデル路盤に敷設した。モデル路盤は、各工区の周囲を、鉄筋コンクリート製の躯体2で拘束し、山砂を25cm厚に締め固めて構築路床4を形成した後、20cm層厚で各試験材を路盤材3として敷設し、その上に密粒度アスファルト1を5cm厚で敷設して得た。こうして得られたモデル路盤を屋外で10年間、現場養生した後、路面の表面を3Dレーザースキャンして、元の表面の高さ位置からの隆起量を測定した。そして、元の表面の高さ位置から10mm以上隆起した箇所を有する工区の試験材については、不合格と判定した。10mmの隆起量を合否判定基準にしたのは、長期間の養生により水浸膨張比の数倍の量だけ隆起したとしても、それよりも高い隆起量であること、および隆起量が10mm以上の場合には、一部でひび割れを生じ、さらに路面上を歩行する際に足に引っ掛かるなどして、安全な歩行の妨げとなる可能性があるためである。得られた結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
比較例1および発明例1は非鉄スラグであり、水浸膨張率に大差はないが、発明例1については、109°~111°の回折角度でのMgO相の回折線のピーク値が閾値以下であり、10年後においても隆起量は10mmに達しなかった。一方、比較例1については、109°~111°の回折角度でのMgO相の回折線のピーク値が閾値を超えており、10年後の隆起量が10mmを超えた。
【0064】
また、比較例2および比較例3は鉄鋼スラグであるが、MgO成分の含有量が異なるものの、水浸膨張比は同レベルだった。しかし、109°~111°の回折角度でのMgO相の回折ピークが閾値を超えており、10年後の隆起量は10mmを超えた。
【0065】
さらに、発明例2および発明例3については、109°~111°の回折角度でのMgO相の回折線のピーク値が閾値以下であり、10年後の隆起量が10mmを超えた箇所は無かった。
【0066】
表2は、合否判断の閾値を変更した場合の影響を示している。高炉徐冷スラグにMgO相の2質量%試薬および3質量%試薬をそれぞれ配合した比較例4、比較例5および発明例4の試料を用意し、これらの試料を用いて粉末X線回折測定で109°~111°の回折角度での回折線のピーク値を求めた。そして、求めたピーク値と閾値を2質量%とした場合、3質量%とした場合のそれぞれについて合否判定を行うとともに、モデル路盤を用いて隆起挙動を調べた。得られた結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
比較例4の試験材は、MgO相の含有量の閾値を2質量%とした場合にも3質量%とした場合にも不合格となるものであり、モデル路盤を用いた隆起評価でも10年後の隆起量は10mmを超えた。また、比較例5の試験材については、MgO相の含有量の閾値が3質量%の場合については合格であるが、閾値が2質量%の場合には不合格となるものである。この試験材のモデル路盤においても、10年後の隆起量は10mmを超えた。
【0069】
一方、発明例4の試験材では、MgO相の含有量の閾値を2質量%の場合にも合格したものであり、モデル路盤を用いた隆起評価においても、10年後の隆起量は10mmに達しなかった。このように、スラグを路盤材として用いる場合には、MgO相の含有量の閾値を2質量%とすることにより、路面の隆起に対して安全な判定を行うことができる。
【0070】
なお、ここでは、例としてMgO相の含有量の閾値を2質量%に設定したが、2質量%ではなく1.5質量%に設定してもよい。これよりも小さい閾値での合否判定は、隆起に対して厳しい判定となるため、実製品の歩留りなどを考慮して適切な閾値を設定することが好ましい。上記閾値の下限値は、粉末X線回折測定においてピークの有無の判定が可能なレベルまでであり、粉末X線回折の条件にもよるが、おおむね1質量%である。
【0071】
次に、本発明を鉄鋼スラグ水和固化体に適用した場合の例を示す。表3に示した配合で、表4に示した比較例6および7、発明例5および6の各製鋼スラグについて、直径100mm、高さ200mmの円柱供試体を6本ずつ作製した。作製方法は、非特許文献1中の附属書「2 鉄鋼スラグ水和固化体の膨張安定性評価試験方法」に従って行い、その後の手順もこれに準じた。すなわち、供試体の型枠を打込み後48時間後に外し、さらに20℃で5日間の湿潤養生を行った後、80℃の温水中に10日間連続浸漬した。その後、温水中から取り出し、室温まで湿潤状態で冷却した後、表面に有害なひび割れが発生しているか否かを観察した。
【0072】
【0073】
【0074】
なお、非特許文献1では、使用する膨張性を抑制した製鋼スラグを用いるために、MgO成分の含有量、粉化率および最大粒径の標準値(すなわち、MgO成分の含有量8.5質量%以下、粉化率2.5%以下、最大粒径25mm以下)が規定されているが、この規定から外れていても、膨張安定性試験に合格すれば、最終的にそのスラグを適用可能としている。
【0075】
表4に、比較例6および7、発明例5および6について、製鋼スラグの性状、粉末X線回折測定によるMgO相の含有量2質量%の閾値での合否判定結果、および有害な亀裂が発生した供試体の本数を示す。表4に示すように、比較例6については、MgO成分の含有量および粉化率が鉄鋼スラグ水和固化体の標準を超えて大きく、粉末X線回折測定の閾値を超えており、また膨張安定性試験の供試体についても、5本にひび割れが生じ、不合格となった。また、比較例7については、鉄鋼スラグ水和固化体の標準に適合しているが、上記標準値の境界に近く、粉末X線回折測定による評価については、閾値を超えて不合格となった。また、膨張安定性試験の供試体についても、2本がひび割れを起こし、不合格となった。つまり、粉末X線回折測定の評価により、不適合なスラグを検出することができた。
【0076】
一方、発明例5については、比較例7に近い性状の製鋼スラグであるが、粉末X線回折測定による評価に合格しており、膨張安定性試験でも供試体にひび割れは発生せず、鉄鋼スラグ水和固化体に適用可能なスラグと判定された。また、発明例6については、MgO成分の含有量も低く、粉末X線回折測定による評価および膨張安定性試験の双方ともに問題なく合格した。
【0077】
このように、粉末X線回折測定によるMgO相の含有量の閾値に基づく判定によって、より膨張安定性試験の判定に近い結果を簡易に判定することが可能となる。
ここでは、粉末X線回折測定での閾値を2質量%としたが、製鋼工場の操業状況や、鉄鋼スラグ水和固化体の配合に応じて、閾値を適宜変化することは可能である。
本発明によれば、無機材料に含まれる酸化マグネシウム相の含有量を簡便に測定して、土木材料としての酸化マグネシウム相による膨張性の合否を判定することができる。