(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074121
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】異材接合構造体の製造方法及び異材接合構造体
(51)【国際特許分類】
B23K 26/323 20140101AFI20240523BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240523BHJP
【FI】
B23K26/323
B23K26/21 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185208
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 恭兵
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA02
4E168BA53
4E168BA73
4E168BA83
4E168BA87
4E168BA89
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】溶接条件の特別な調整が不要であり、ブローホールの発生を抑制することができる異材接合構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金板11と鋼板21とを接合する、異材接合構造体の製造方法であって、アルミニウム合金板11の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜12を形成する工程と、低温溶射皮膜12と鋼板21とが対向するように、アルミニウム合金板11と鋼板21とを重ね合わせる工程と、鋼板21におけるアルミニウム合金板11に対向する面の反対側からレーザ溶接を実施する工程と、と有し、金属粉末は、真空又は不活性ガス雰囲気下にて溶湯から粉末化されたものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非鉄金属部材と鋼材とを接合する、異材接合構造体の製造方法であって、
前記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
前記低温溶射皮膜と前記鋼材とが対向するように、前記非鉄金属部材と前記鋼材とを重ね合わせる工程と、
前記鋼材における前記非鉄金属部材に対向する面の反対側からレーザ溶接を実施する工程と、と有し、
前記金属粉末は、真空又は不活性ガス雰囲気下にて溶湯から粉末化されたものであることを特徴とする、異材接合構造体の製造方法。
【請求項2】
前記金属粉末は、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法及びプラズマ回転電極法から選択された1種の方法により製造されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の異材接合構造体の製造方法。
【請求項3】
前記金属粉末中の水素含有量は、16ppm以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の異材接合構造体の製造方法。
【請求項4】
非鉄金属部材と鋼材とが接合されてなる異材接合構造体であって、
前記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末からなる低温溶射皮膜が形成されており、
前記低温溶射皮膜と前記鋼材とが対向するように、前記非鉄金属部材と前記鋼材とが重ね合わされ、
前記鋼材における前記非鉄金属部材側と反対側の表面から、前記鋼材と前記低温溶射皮膜とを接合する溶接金属が形成されており、
前記低温溶射皮膜中の水素含有量は、16ppm以下であることを特徴とする、異材接合構造体。
【請求項5】
非鉄金属部材と鋼材とが接合されてなる異材接合構造体であって、
前記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末からなる低温溶射皮膜が形成されており、
前記低温溶射皮膜と前記鋼材とが対向するように、前記非鉄金属部材と前記鋼材とが重ね合わされ、
前記鋼材における前記非鉄金属部材側と反対側の表面から、前記鋼材と前記低温溶射皮膜とを接合する溶接金属が形成されており、
前記低温溶射皮膜は、ガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びプラズマ回転電極法による粉末から選択された少なくとも1種の粉末からなることを特徴とする、異材接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異材接合構造体の製造方法及び異材接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両用の構造体の軽量化を目的として、軽量なアルミニウム又はアルミニウム合金材(以下、単にアルミニウム合金材ということがある)と、鋼材とを接合した異材接合構造体についての需要が高くなっている。異材同士を接合する方法としては、種々の方法があり、例えば、アルミニウム合金材の表面上に、あらかじめコールドスプレー皮膜(以下、低温溶射皮膜又はCS(Cold Spray)皮膜ということがある)を形成し、鋼と皮膜をレーザ溶接する方法が挙げられる。
【0003】
しかし、上記接合方法によると、CS皮膜内のガスに起因して溶接金属内にブローホールが発生することがあり、このブローホールが継手強度を低下させる原因となる。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、ブローホールが少なく、継手強度に優れた異材接合構造体を製造することができる製造方法が提案されている。上記異材接合構造体の製造方法は、アルミニウム合金材の表面の少なくとも一部に、所定の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、低温溶射皮膜と鋼材とが対向するように、アルミニウム合金材と鋼材とを重ね合わせる工程と、鋼材側からのレーザ溶接によりアルミニウム合金材と鋼材とを接合する工程と、を有する。そして、接合工程は、鋼材、低温溶射皮膜、及びアルミニウム合金材のいずれにおいても溶融部が形成される溶接条件にて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の製造方法は、アルミニウム合金材まで溶融させる溶接条件にて接合工程が行われるため、レーザ溶接時の条件を適切に制御する必要があり、下材であるアルミニウム合金材を溶融させるための溶接条件が限定されている。また、下材となるアルミニウム合金材がダイキャスト材のような多数の気孔を含む材料の場合に、アルミニウム合金材を多量に溶融させることによるブローホール発生が懸念される。したがって、溶接条件の許容範囲を広く設定した場合であっても、ブローホールの発生を抑制することができる異材接合構造体の製造方法について、開発が要求されている。
【0007】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、特別な溶接条件の調整が不要であり、ブローホールの発生を抑制することができる異材接合構造体の製造方法、及び該接合方法により得られ、優れた接合強度を有する異材接合構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、異材接合構造体の製造方法に係る下記(1)の構成により達成される。
【0009】
(1) 非鉄金属部材と鋼材とを接合する、異材接合構造体の製造方法であって、
上記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成する工程と、
上記低温溶射皮膜と上記鋼材とが対向するように、上記非鉄金属部材と上記鋼材とを重ね合わせる工程と、
上記鋼材における上記非鉄金属部材に対向する面の反対側からレーザ溶接を実施する工程と、と有し、
上記金属粉末は、真空又は不活性ガス雰囲気下にて溶湯から粉末化されたものであることを特徴とする、異材接合構造体の製造方法。
【0010】
また、異材接合構造体の製造方法に係る本発明の好ましい実施形態は、下記(2)及び(3)の構成に関する。
【0011】
(2) 上記金属粉末は、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法及びプラズマ回転電極法から選択された1種の方法により製造されたものであることを特徴とする、(1)に記載の異材接合構造体の製造方法。
【0012】
(3) 上記金属粉末中の水素含有量は、16ppm以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の異材接合構造体の製造方法。
【0013】
また、本発明の上記目的は、異材接合構造体に係る下記(4)又は(5)の構成により達成される。
【0014】
(4) 非鉄金属部材と鋼材とが接合されてなる異材接合構造体であって、
上記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末からなる低温溶射皮膜が形成されており、
上記低温溶射皮膜と上記鋼材とが対向するように、上記非鉄金属部材と上記鋼材とが重ね合わされ、
上記鋼材における上記非鉄金属部材側と反対側の表面から、上記鋼材と上記低温溶射皮膜とを接合する溶接金属が形成されており、
上記低温溶射皮膜中の水素含有量は、16ppm以下であることを特徴とする、異材接合構造体。
【0015】
(5) 非鉄金属部材と鋼材とが接合されてなる異材接合構造体であって、
上記非鉄金属部材の表面の少なくとも一部に、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末からなる低温溶射皮膜が形成されており、
上記低温溶射皮膜と上記鋼材とが対向するように、上記非鉄金属部材と上記鋼材とが重ね合わされ、
上記鋼材における上記非鉄金属部材側と反対側の表面から、上記鋼材と上記低温溶射皮膜とを接合する溶接金属が形成されており、
上記低温溶射皮膜は、ガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びプラズマ回転電極法による粉末から選択された少なくとも1種の粉末からなることを特徴とする、異材接合構造体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特別な溶接条件の調整が不要であり、ブローホールの発生を抑制することができる異材接合構造体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該接合方法により得られ、優れた接合強度を有する異材接合構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法において、低温溶射皮膜を形成する工程を示す断面図である。
【
図1B】
図1Bは、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法により製造された異材接合構造体を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ガスアトマイズ法により製造されたガスアトマイズ粉末を示す図面代用写真である。
【
図3】
図3は、水アトマイズ法により製造された水アトマイズ粉末を示す図面代用写真である。
【
図4】
図4は、発明例及び比較例の方法により製造された異材接合構造体の接合部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る異材接合構造体及びその製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0019】
本発明者は、非鉄金属部材と鋼材との異材接合を実施する際に、低温溶射皮膜を形成する材料として、従来の金属粉末とは異なる製造方法で製造された、水素含有量が低い金属粉末を使用することにより、ブローホールの発生を抑制することができることを見出した。
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法及び異材接合構造体について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
[異材接合構造体の製造方法]
図1Aは、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法において、低温溶射皮膜を形成する工程を示す断面図である。
図1Bは、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法により製造された異材接合構造体を示す断面図である。
図1A及び
図1Bを参照して、まず、本発明の実施形態に係る異材接合構造体の製造方法について説明する。
【0022】
<材料の準備>
本実施形態において、異材接合構造体を製造するための材料としては、非鉄金属部材と、鋼材とを使用する。
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態においては、非鉄金属部材としてアルミニウム合金板11を使用し、鋼材として鋼板21を使用する。なお、非鉄金属部材とは、非鉄金属からなる部材を表し、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム又はマグネシウム合金、及び、チタン又はチタン合金から選択された1種からなる部材を使用することができる。
鋼材の種類は特に限定されず、要求される構造体の性能に応じて、鉄以外の成分の含有量を種々に設計することができる。
【0023】
<低温溶射皮膜を形成する工程>
まず、
図1Aに示すように、アルミニウム合金板11の表面の少なくとも一部に、不図示の金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜12を形成する。低温溶射する際に使用する金属粉末としては、鋼板21と同質であるか、又は鋼板21に接合されやすい材質からなる低温溶射皮膜が形成されるものを選択すればよい。具体的には、純鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金、コバルト及びコバルト合金から選択された少なくとも1種を含む金属粉末を使用する。また、本実施形態において、金属粉末としては、真空又は不活性ガス雰囲気下にて溶湯から粉末化されたものを使用する。このような金属粉末の性状については後に詳述する。
【0024】
<アルミニウム合金板と鋼板とを重ね合わせる工程>
次に、
図1Bに示すように、低温溶射皮膜12と鋼板21とが対向するように、アルミニウム合金板11と鋼板21とを重ね合わせる。
【0025】
<レーザ溶接を実施する工程>
その後、アルミニウム合金板11における低温溶射皮膜12が形成された領域に対して、鋼板21におけるアルミニウム合金板11に対向する面の反対側からレーザ溶接を実施する。これにより、鋼板21と低温溶射皮膜12とを接合する溶接金属23が形成されて、異材接合構造体を製造することができる。
【0026】
アルミニウム合金板11と鋼板21のような異材同士を接合する際に、アルミニウム合金板11の表面に、鋼板21と接合されやすい材料からなる低温溶射皮膜12を形成し、低温溶射皮膜12と鋼板21とをレーザ溶接により接合する方法については公知である。しかし、一般的な方法によりアルミニウム合金板11の表面に形成された低温溶射皮膜は、レーザ溶接を実施する工程において、レーザ熱によりガス化して、このガスが溶接金属内に侵入し、ブローホールが発生する。
本実施形態においては、特定の低温溶射皮膜12を形成しているため、その後のレーザ溶接を実施する工程において、ブローホールの発生を抑制することができる。本実施形態において使用する金属粉末及びこの金属粉末により形成される低温溶射皮膜について、従来の金属粉末及び低温溶射皮膜との相違点を挙げつつ、さらに詳細に説明する。
【0027】
(金属粉末)
一般的に、低温溶射皮膜を形成する際には、水アトマイズ法により製造された金属粉末(水アトマイズ粉末)が使用される。本発明者は、低温溶射皮膜中の水素が、レーザ溶接時の熱により気化して、ブローホールの発生の原因となっていることを見出し、低温溶射皮膜中の水素含有量を低減できる方法について、種々検討を行った。その結果、上記のとおり、真空又は不活性ガス雰囲気下にて溶湯から粉末化された金属粉末を使用することが効果的であることを見出した。このような金属粉末を製造する方法としては、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法及びプラズマ回転電極法等が挙げられる。
【0028】
ガスアトマイズ法とは、低温溶射皮膜を形成するための所望の成分からなる金属材料を溶融させ、この溶湯に不活性ガスを高圧で噴射することにより粉末化する方法である。また、ディスクアトマイズ法は、金属材料を溶融させた溶湯を、回転している円盤に接触させ、遠心力によって飛散させて粉末化する方法である。プラズマアトマイズ法は、所望の成分からなる金属ワイヤにプラズマを噴射して金属を溶融させ、この溶湯を粉末化する方法である。プラズマ回転電極法は、所望の成分からなる金属材料を高速回転させて、この金属材料にプラズマを照射することによって金属材料を溶融させ、得られた溶湯が遠心力によって飛散させて粉末化する方法である。
【0029】
本明細書では、ガスアトマイズ法により製造された金属粉末をガスアトマイズ粉末といい、ディスクアトマイズ法により製造された金属粉末をディスクアトマイズ粉末ということがある。また、プラズマアトマイズ法により製造された金属粉末をプラズマアトマイズ粉末といい、プラズマ回転電極法により製造された金属粉末を、PREP(Plasma Rotating Electrode Process)粉末ということがある。
【0030】
上記ガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びPREP粉末については、いずれも、溶融及び凝固が真空又は不活性ガス雰囲気下で行われるため、水アトマイズ粉末と比較して、水素含有量を著しく低減することができる。したがって、ガスアトマイズ法、ディスクアトマイズ法、プラズマアトマイズ法及びプラズマ回転電極法から選択された1種の方法により製造された金属粉末を、アルミニウム合金板11の表面に低温溶射することにより、水素含有量が低減された低温溶射皮膜12を形成することができる。
【0031】
レーザ溶接時に溶接金属23にブローホールが発生することを抑制するためには、低温溶射皮膜12を形成する際に使用する金属粉末中の水素含有量は、16ppm以下であることが好ましく、14ppm以下であることがより好ましく、12ppm以下であることがさらに好ましく、10ppm以下であることが特に好ましい。
【0032】
なお、上記方法により製造されたガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びPREP粉末の外観も、水アトマイズ粉末の外観と異なる。
図2は、ガスアトマイズ法により製造されたガスアトマイズ粉末を示す図面代用写真であり、
図3は、水アトマイズ法により製造された水アトマイズ粉末を示す図面代用写真である。
図2に示すガスアトマイズ粉末及び
図3に示す水アトマイズ粉末は、いずれも成分及び平均粒径が互いに同一のものである。
【0033】
図2に示すように、ガスアトマイズ粉末1は、ガスの噴射により溶湯を切りつつ溶湯を粉末化するため、製造過程における冷却速度が遅くなり、表面張力により滑らかな略球形状となっている。また、それぞれのガスアトマイズ粉末1が独立しており、表面に微粒子が固着されていない。ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びPREP粉末も同様の形状となる。これに対して、
図3に示すように、水アトマイズ粉末2は、溶湯に高圧で水を噴射することにより粉末化されたものであり、急冷凝固されるため、球形状にはならず、表面に凹凸を有するものとなる。
【0034】
(低温溶射皮膜)
本実施形態に係る方法により形成される低温溶射皮膜12は、上記特定の方法により製造された金属粉末を使用するため、水アトマイズ粉末を使用して得られた低温溶射皮膜と比較して、水素含有量が低いものとなる。したがって、アルミニウム合金板11と鋼板21とを重ね合わせた後に、鋼板21の上面からレーザ溶接を実施する工程において、レーザ熱により低温溶射皮膜12が高温となった場合であっても、低温溶射皮膜12から発生するガスを著しく低減することができる。その結果、得られる溶接金属23にブローホールが発生することを抑制することができる。
【0035】
レーザ溶接時に溶接金属23にブローホールが発生することを抑制するためには、低温溶射皮膜12中の水素含有量は、金属粉末の水素含有量と同様に、16ppm以下とし、14ppm以下であることが好ましく、12ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
なお、ガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びPREP粉末から選択された少なくとも1種の粉末を低温溶射することにより得られる低温溶射皮膜12の表面は、金属粉末の形状が残った状態となる。すなわち、低温溶射皮膜12の最表面を電子顕微鏡等により観察すると、特徴的な球形状の粒子を確認することができる。
【0037】
以上詳述したように、本実施形態に係る異材接合構造体の製造方法によると、従来の方法と比較して水素含有量が低い低温溶射皮膜を形成することができるため、レーザ溶接を実施する工程において、ブローホールが低減された溶接金属を形成することができる。なお、本実施形態に係る製造方法により形成される溶接金属の溶込み深さは、低温溶射皮膜12を貫通してアルミニウム合金板11に到達していても、アルミニウム合金板11に到達していなくてもよい。したがって、ブローホールの発生を抑制するためにレーザ溶接条件を厳密に調整する必要はなく、製造条件の許容範囲を大きくすることができる。
【0038】
さらに、下材となるアルミニウム合金板11(非鉄金属部材)が多数の気孔を含む場合に、溶接金属の溶込み深さをアルミニウム合金板11に到達させないように設計すると、ブローホールの発生をより一層抑制することができる。
【0039】
[異材接合構造体]
次に、本実施形態に係る異材接合構造体について、
図1Bを用いて以下に説明する。本実施形態に係る異材接合構造体は、上記本実施形態に係る異材接合構造体の製造方法により製造することができるものである。したがって、上記製造方法における説明と重複する部分については、説明を省略又は簡略化する。
【0040】
図1Bに示すように、異材接合構造体10は、アルミニウム合金板11と鋼板21とが接合されることにより製造されている。具体的には、アルミニウム合金板11の表面の一部に、低温溶射皮膜12が形成されており、低温溶射皮膜12と鋼板21とが対向するように、アルミニウム合金板11と鋼板21とが重ね合わされている。そして、溶接金属23は、鋼板21におけるアルミニウム合金板11側と反対側の表面から、鋼板21を貫通して低温溶射皮膜12に到達しており、鋼板21と低温溶射皮膜12とを接合するように形成されている。
【0041】
また、本実施形態において、低温溶射皮膜12中の水素含有量は16ppm以下である。低温溶射皮膜12については上述したとおりであり、その水素含有量は14ppm以下であることが好ましく、12ppm以下であることがより好ましく、10ppm以下であることがさらに好ましい。なお、本実施形態に係る異材接合構造体10は、製造された後に塗料が塗布される等、別の工程が実施された場合に、低温溶射皮膜12中の水素含有量が上昇することがある。したがって、本実施形態に係る異材接合構造体10における低温溶射皮膜12中の水素含有量は、異材接合構造体10に、低温溶射皮膜12中の水素含有量が変化するような工程が実施される前であって、製造後90日以内に測定された値とする。
【0042】
また、他の実施形態に係る異材接合構造体10は、低温溶射皮膜12が、ガスアトマイズ粉末、ディスクアトマイズ粉末、プラズマアトマイズ粉末及びPREP粉末から選択された少なくとも1種の粉末からなるものである。低温溶射皮膜12の材料となる金属粉末については、上述のとおりである。なお、上記所定の金属粉末を用いて低温溶射皮膜12を形成し、異材接合構造体10を製造した後に、仮に鋼板21をアルミニウム合金板11から引き剥がした場合に、低温溶射皮膜12の表面において、特徴的な球形状の金属粉末を確認することができる。
【実施例0043】
以下に、本発明に係る異材接合構造体の製造方法について、発明例及び比較例を挙げて具体的に説明する。
【0044】
<異材接合構造体の製造>
まず、アルミニウム合金板11と鋼板21とを準備し、アルミニウム合金板11の表面の一部に、以下に示す条件にて鉄粉を低温溶射することにより低温溶射皮膜12を形成した。次に、低温溶射皮膜12と鋼板21とが対向するように、アルミニウム合金板上に鋼板を重ね合わせて配置した。その後、鋼板の上方から、以下に示す条件にてレーザ溶接を実施し、アルミニウム合金板11と鋼板21とを接合した。
【0045】
(低温溶射条件)
装置:高温高圧タイプ
アルミニウム合金板の材質:7204アルミニウム合金(板厚3mm)
金属粉末:ガスアトマイズ鉄粉(平均粒径43μm)、又は水アトマイズ鉄粉(平均粒径43μm)
ガス種:窒素
ガス圧力:5MPa
ガス温度:1000℃
低温溶射皮膜の膜厚:2mm
【0046】
(レーザ溶接条件)
上板:1470MPa級鋼板(板厚1.4mm)
下板:上記低温溶射皮膜を形成したアルミニウム合金板
溶接機:ファイバーレーザ(IPG photonics製 YLS-6000)
レーザ出力:2750W
溶接速度:4(m/min)
スポット径:0.3mm
【0047】
<異材接合構造体の評価方法>
得られた継手に対して断面写真を撮影し、溶接金属中のブローホールを観察した。また、解析ソフト(Image J)を用いて、以下の式によりブローホール率を算出した。
ブローホール率(%)=ブローホール総面積×100/溶接金属面積
使用した金属粉末の種類及びブローホール率の算出結果を下記表1に示し、撮影した断面写真を
図4に示す。
【0048】
【0049】
上記表1及び
図4に示すように、発明例は、ガスアトマイズ鉄粉を使用して低温溶射皮膜12を形成したため、低温溶射皮膜12中の水素含有量が本発明で規定する範囲内であった。したがって、低温溶射皮膜12と鋼板21とを接合する溶接金属23中に発生するブローホール率が著しく低減して、健全な溶接金属を得ることができ、その結果、優れた接合強度を有する異材接合構造体を得ることができた。
【0050】
一方、比較例は、水アトマイズ鉄粉を使用して低温溶射皮膜12を形成したため、低温溶射皮膜12中の水素含有量が本発明で規定する範囲から外れ、高い値となった。したがって、溶接金属23中にブローホール30が発生し、優れた接合強度を有する異材接合構造体を得ることができなかった。
【0051】
なお、発明例及び比較例ともに、金属粉末中の水素含有量と低温溶射皮膜中の水素含有量との間に差異が生じているが、理論上、金属粉末を低温溶射することにより低温溶射皮膜を形成した場合に、低温溶射前後の水素含有量は変化しないものと考えられる。したがって、これらの差異は測定誤差によるものと考えられる。