(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007414
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】立体造形物の製造方法、立体造形物、チタン含有中間立体造形物、チタン含有立体造形物
(51)【国際特許分類】
C22C 1/04 20230101AFI20240110BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240110BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20240110BHJP
B22F 10/32 20210101ALI20240110BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20240110BHJP
B22F 12/90 20210101ALI20240110BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240110BHJP
B22F 10/38 20210101ALI20240110BHJP
B22F 12/80 20210101ALI20240110BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20240110BHJP
B22F 10/68 20210101ALI20240110BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20240110BHJP
B33Y 40/20 20200101ALI20240110BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240110BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240110BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20240110BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240110BHJP
【FI】
C22C1/04 E
B22F1/00 R
B22F10/14
B22F10/32
B22F10/64
B22F12/90
B22F1/05
B22F10/38
B22F12/80
B22F3/02 L
B22F10/68
C22C14/00 Z
B33Y40/20
B33Y10/00
B33Y80/00
B33Y50/02
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104086
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022104271
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【弁理士】
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128141
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】木村 正宏
(72)【発明者】
【氏名】立花 悠介
(72)【発明者】
【氏名】山本 厚
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA06
4K018BA03
4K018BB04
4K018CA09
4K018DA03
4K018DA31
4K018DA32
4K018FA08
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】チタンを含む金属粉末を用いて立体造形物を造形可能とする製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の立体造形物の製造方法は、チタンを含む金属粉末に対して、結合流体を付与して、中間造形物を造形する造形工程と、前記中間造形物を焼結して立体造形物を生成する焼結工程と、を備え、前記造形工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われる。前記造形工程は、造形領域で行われており、前記造形工程の後、且つ、前記焼結工程よりも前に、前記造形領域と異なる硬化領域で、前記中間造形物に含まれる前記結合流体を硬化させる硬化工程を更に備える場合、前記硬化工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われる。また、前記造形工程を経た前記中間造形物を前記造形領域から前記硬化領域に移動させる移動経路は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に対して、結合流体を付与して、中間造形物を造形する造形工程と、
前記中間造形物を焼結して立体造形物を生成する焼結工程と、
を備え、
前記造形工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする、
立体造形物の製造方法。
【請求項2】
前記造形工程は、造形領域で行われており、
前記造形工程の後、且つ、前記焼結工程よりも前に、前記造形領域と異なる硬化領域で、前記中間造形物に含まれる前記結合流体を硬化させる硬化工程を備え、
前記硬化工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項3】
前記造形工程を経た前記中間造形物を前記造形領域から前記硬化領域に移動させる移動経路は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下にあることを特徴とする、
請求項2に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項4】
前記硬化工程よりも後、且つ、前記焼結工程よりも前に、前記中間造形物の周囲に付着する前記チタン含有金属粉末を除去する金属粉末除去工程を備え、
前記金属粉末除去工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする、
請求項2に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項5】
前記金属粉末除去工程は、前記硬化領域と異なる粉末除去領域で行われ、
前記硬化工程を経た前記中間造形物を前記硬化領域から前記粉末除去領域に移動させる移動経路は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下にあることを特徴とする、
請求項4に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項6】
前記造形工程において、雰囲気中の酸素濃度を測定することを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項7】
前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、45μm以下であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項8】
前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、25μm以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項9】
前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.0g/cm3以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項10】
前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.2g/cm3以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項11】
前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、3.5g/cm3以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項12】
前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以下であり、
前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.5g/cm3以上であり、
前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、4.0g/cm3以上であることを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項13】
前記焼結工程後の前記立体造形物は、前記立体造形物の重量を基準とした際、0.06重量%以下の炭素を含有することを特徴とする、
請求項1に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項14】
前記造形工程は、
平面状となる領域に前記チタン含有金属粉末を供給して金属粉末層を設ける金属粉末層形成工程と、
前記立体造形物を所定の方向に沿って複数の層(以下、立体造形側層と呼ぶ。)に分けた際における該立体造形側層の平面形状に基づいて、前記金属粉末層の一部領域に対して前記結合流体を付与し、前記一部領域の前記チタン含有金属粉末を結合させて前記中間造形物における層(以下、中間造形側層と呼ぶ。)を設ける結合流体付与工程と、
を有し、
前記金属粉末層形成工程及び前記結合流体付与工程が順に繰り返し行われることにより、前記中間造形側層が順次積層されて前記中間造形物が設けられることを特徴とする、
請求項1~13のいずれか一項に記載の立体造形物の製造方法。
【請求項15】
請求項14に記載の製造方法で製造されることを特徴とする立体造形物。
【請求項16】
請求項14に記載の立体造形物の製造方法で製造された該立体造形物であって、
前記造形工程において積層された前記立体造形物の最上の前記立体造形側層を含む表層近傍領域は、内部側の芯部領域よりも空孔率が大きいことを特徴とする、
立体造形物。
【請求項17】
請求項14に記載の立体造形物の製造方法で製造された該立体造形物であって、
前記立体造形物は、複数の前記立体造形側層の積層方向に対して傾斜する傾斜面を表面に有し、
前記傾斜面は、隣接する前記立体造形側層のそれぞれの間の段差が傾斜方向に沿って連続して階段状に形成され、
前記段差は、隣接する前記立体造形側層の境界を表す積層痕であることを特徴とする、
立体造形物。
【請求項18】
チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、
密度は、3.5g/cm3以上であることを特徴とする、
チタン含有立体造形物。
【請求項19】
チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、
前記立体造形物の重量を基準とした際、0.06重量%以下の炭素を含有することを特徴とする、
チタン含有立体造形物。
【請求項20】
チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、
前記立体造形物の表層近傍領域は、内部側の芯部領域よりも空孔率が大きいことを特徴とする、
チタン含有立体造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物の製造方法、立体造形物、チタン含有中間立体造形物、及びチタン含有立体造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体造形物を造形する方法として、バインダージェット方式が注目されている。バインダージェット方式では、例えば、平面領域の全体に対して粉末を供給してから、リコータによってその粉末を均すことで粉末層を形成する。その後、所望する立体造形物の二次元画像データ(スライスデータ)に基づいて、スライスデータに対応するその粉末層の一部領域に対して液体(バインダ)を付与して粉末を固める。そして、以上の粉末層の形成と、液体の付与による部分固化を繰り返すことで、立体造形物が設けられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、チタンを含む金属粉末を用いて上記バインダージェット方式により立体造形物を製造することは、ほとんど行われていない。
【0005】
本発明は、斯かる実情に鑑み、チタンを含む金属粉末を用いて立体造形物を造形可能とする製造方法、その立体造形物、チタン含有中間立体造形物、及びチタン含有立体造形物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の立体造形物の製造方法は、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に対して、結合流体を付与して、中間造形物を造形する造形工程と、前記中間造形物を焼結して立体造形物を生成する焼結工程と、を備え、前記造形工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする。
【0007】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記造形工程は、造形領域で行われており、前記造形工程の後、且つ、前記焼結工程よりも前に、前記造形領域と異なる硬化領域で、前記中間造形物に含まれる前記結合流体を硬化させる硬化工程を備え、前記硬化工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする。
【0008】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記造形工程を経た前記中間造形物を前記造形領域から前記硬化領域に移動させる移動経路は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下にあることを特徴とする。
【0009】
本発明の立体造形物の製造方法は、更に前記硬化工程よりも後、且つ、前記焼結工程よりも前に、前記中間造形物の周囲に付着する前記チタン含有金属粉末を除去する金属粉末除去工程を備え、前記金属粉末除去工程は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で行われることを特徴とする。
【0010】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記金属粉末除去工程は、前記硬化領域と異なる粉末除去領域で行われ、前記硬化工程を経た前記中間造形物を前記硬化領域から前記粉末除去領域に移動させる移動経路は、真空下又は不活性ガスの雰囲気下にあることを特徴とする。
【0011】
本発明の立体造形物の製造方法では、前記造形工程において、雰囲気中の酸素濃度を測定することを特徴とする。
【0012】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、45μm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、25μm以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.0g/cm3以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.2g/cm3以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.5g/cm3以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、3.5g/cm3以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、3.75g/cm3以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、4.0g/cm3以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以下であり、前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.5g/cm3以上であり、前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、4.0g/cm3以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以上であり、前記硬化工程後、且つ、前記焼結工程よりも前の前記中間造形物の密度は、2.5g/cm3以上であり、前記焼結工程後の前記立体造形物の密度は、4.0g/cm3以上であることを特徴とする。
【0024】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記焼結工程後の前記立体造形物は、前記立体造形物の重量を基準とした際、0.06重量%以下の炭素を含有することを特徴とする。
【0025】
本発明の立体造形物の製造方法において、前記造形工程は、平面状となる領域に前記チタン含有金属粉末を供給して金属粉末層を設ける金属粉末層形成工程と、前記立体造形物を所定の方向に沿って複数の層(以下、立体造形側層と呼ぶ。)に分けた際における該立体造形側層の平面形状に基づいて、前記金属粉末層の一部領域に対して前記結合流体を付与し、前記一部領域の前記チタン含有金属粉末を結合させて前記中間造形物における層(以下、中間造形側層と呼ぶ。)を設ける結合流体付与工程と、を有し、前記金属粉末層形成工程及び前記結合流体付与工程が順に繰り返し行われることにより、前記中間造形側層が順次積層されて前記中間造形物が設けられることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の立体造形物の製造方法において、不活性ガスには、窒素、及び希ガスの少なくとも一方が含まれることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の立体造形物は、上記に記載の製造方法で製造されることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の立体造形物は、上記に記載の立体造形物の製造方法で製造された該立体造形物であって、前記造形工程において積層された前記立体造形物の最上の前記立体造形側層を含む表層近傍領域は、内部側の芯部領域よりも空孔率が大きいことを特徴とする。
【0029】
また、本発明の立体造形物は、上記に記載の立体造形物の製造方法で製造された該立体造形物であって、前記立体造形物は、複数の前記立体造形側層の積層方向に対して傾斜する傾斜面を表面に有し、前記傾斜面は、隣接する前記立体造形側層のそれぞれの間の段差が傾斜方向に沿って連続して階段状に形成され、前記段差は、隣接する前記立体造形側層の境界を表す積層痕であることを特徴とする。
【0030】
また、本発明のチタン含有中間立体造形物は、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結される前の状態となるチタン含有中間立体造形物であって、密度は、2.0g/cm3以上であることを特徴とする。
【0031】
また、本発明のチタン含有立体造形物は、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、密度は、3.5g/cm3以上であることを特徴とする。
【0032】
また、本発明のチタン含有立体造形物は、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、前記立体造形物の重量を基準とした際、0.06重量%以下の炭素を含有することを特徴とする。
【0033】
また、本発明のチタン含有立体造形物は、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)に結合流体を付与して立体造形且つ硬化され、かつ、焼結された後のチタン含有立体造形物であって、前記立体造形物の表層近傍領域は、内部側の芯部領域よりも空孔率が大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明の立体造形物の製造方法によれば、チタンを含む金属粉末を用いて立体造形物を造形できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の立体造形物製造方法のフローチャートである。
【
図2】(A)は、本発明の立体造形物の製造方法で製造した中間造形物の写真である。(B)は、本発明の立体造形物製造方法で製造した立体造形物の写真である。
【
図3】(A)~(D)は、本発明の立体造形物製造方法の一例を説明するための概略図を時系列に並べたものである。
【
図4】(A)~(D)は、本発明の立体造形物製造方法の一例を説明するための概略図を時系列に並べたものである。
【
図5】(A)は、本発明の立体造形物の製造方法が行われる装置の配置を表す平面概略図である。(B)は、本発明の硬化工程で用いられる硬化装置を表す平面概略図である。
【
図6】(A)は、本発明の立体造形物の製造方法で製造された立体造形物の斜視図である。(B)は、
図6(A)のE-E矢視断面の点線領域Fを拡大した模式図である。
【
図7】(A)は、本発明の立体造形物の製造方法で製造された立体造形物の斜視図である。(B)は、
図7(A)のJ-J矢視断面における点線領域Nを拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1~
図7は発明を実施する形態の一例であって、図中、
図3と同一の符号を付した部分は同一物を表わす。
【0037】
<立体造形物の製造方法の構成>
本発明の実施形態における立体造形物の製造方法では、まず、チタンを含む金属粉末(以下、チタン含有金属粉末と呼ぶ。)を用いて中間造形物100(
図2(A)参照)を設け、中間造形物100から最終の立体造形物200(
図2(B)参照)を設ける。なお、本明細書において、中間造形物100は、チタンを含有する完成前の立体造形物であり、その意味で、適宜、チタン含有中間立体造形物100と呼んでもよい。また、立体造形物200は、チタンを含有する立体造形物という意味で、適宜、チタン含有立体造形物200と呼んでもよい。以下、本実施形態における立体造形物の製造方法について詳細に説明する。本実施形態における立体造形物の製造方法は、
図1に示すように、造形工程(S100)と、硬化工程(S110)と、金属粉末除去工程(S120)と、焼結工程(S130)とを備える。
【0038】
<造形工程>
造形工程では、造形領域において、チタン含有金属粉末を用いて中間造形物100を造形する。チタン含有金属粉末は、純チタンの粒子(純チタン粒子)のみで構成される粉末であってもよい。また、チタン以外の金属が含まれるが主成分がチタンとなる金属粒子(主チタン含有金属粒子)で構成される粉末であってもよい。更に、チタンが含まれるが主成分がチタン以外の金属となる金属粒子(副チタン含有金属粒子)で構成される金属粉末であってもよい。また、チタン含有金属粉末は、上記純チタン粒子、主チタン含有金属粒子、副チタン含有金属粒子以外に、チタンが含まれていない金属粒子(非チタン金属粒子)が混ざっていても良い。更に、金属以外の粒子(非金属粒子)が混ざっていてもよい。非チタン金属粒子が混ざっている場合、粉末全体として、この非チタン金属が主成分となってもよい。非金属粒子が混ざっている場合、粉末全体として、非金属成分が主成分となってもよい。
【0039】
更に、チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、60μm以下であることが好ましく、45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることが更に好ましい。また、チタン含有金属粉末の平均粒径D50は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、40μm以上であることが更に好ましい。以上からチタン含有金属粉末の平均粒径D50は、20~60μmの範囲内にあることが好ましく、20~45μmの範囲内にあることがより好ましく、20~40μmの範囲内にあることが更に好ましい。なお、本明細書において平均粒径D50とは、測定対象となる粉体の集団の全体積を100%として求められた体積基準の粒子径分布を表す累積カーブにおいて累積体積が50%となる時の粒径を指し、メディアン径(中央径)とも呼ばれる。平均粒径D50は、具体的には、レーザ回折・散乱法を用いた測定装置により測定される。これらのように、平均粒径D50の小さいチタン含有金属粉末を利用して造形すると、中間造形物100又は後述する立体造形物を高密度に生成できる。一方で、平均粒径D50が小さいため、造形工程における周囲の雰囲気中にこれらの粒子が飛散・浮遊しやすいが、後述するように、真空下又は不活性ガスの雰囲気下で造形するため、粉塵爆発等のリスクも同時に低減できる。なお、製造効率を高める観点では、チタン含有金属粉末の平均粒径D50を40μm以上にすることも好ましく、より好ましくは50μm以上、更に望ましくは60μm以上とする。平均粒径D50が大きいため、後述する結合流体を素早く浸透させることも可能となる。
【0040】
図2(A)に示す中間造形物100は、造形工程において生成される立体物である。一方、
図2(B)に示す立体造形物200は、中間造形物100を焼結処理した立体物である。
図2(A),(B)に示すように、本実施形態において立体造形物200は、中間造形物100が縮小した態様となる。
【0041】
チタン含有金属粉末は、例えば、周囲において帯電される静電気により着火してしまう危険がある。そして、造形工程の雰囲気中にチタン含有金属粉末が飛散した状態で、このチタン含有金属粉末が酸素の雰囲気下に存在すると、雰囲気中で着火したチタン含有金属粉末の燃焼が促進され、粉塵爆発に至るおそれがある。一方、造形工程における雰囲気が、不活性ガスである窒素ガスで満たされていれば、その雰囲気中にチタン含有金属粉末が飛散・浮遊しても、燃焼が抑制されるため、粉塵爆発が生じない。このため、本実施形態において造形工程は、窒素ガスの雰囲気下で行われることが好ましい。具体的には、チタン含有金属粉末が供給される造形領域をカバーで取り囲むことで、窒素ガスの雰囲気下にすることが好ましい。
【0042】
なお、造形工程の雰囲気を満たす不活性ガスは、窒素以外のガスであってもよい。窒素以外の不活性ガスとして、例えば、アルゴン等の希ガスが一例として挙げられる。そして、「不活性ガスで満たされる雰囲気」とは、換言すると、例えば、同雰囲気の酸素濃度の割合が1.0%以下であることが好ましく、更に0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。同雰囲気の酸素濃度は、造形工程(S100)で中間造形物100が造形される処理が行われている間は、継続して、又は一定時間毎に、酸素濃度測定部(図示省略)により測定されることが好ましい。造形工程(S100)における酸素濃度の測定は、硬化工程(S110)と、金属粉末除去工程(S120)においても同様に採用されることが好ましい。
【0043】
次に、造形工程の詳細について説明する。ここでは、バインダージェット方式により造形工程を実現する場合を例示するが、これに限定されるものではなく、造形工程は、その他の立体造形物の造形方式により実現されてもよい。
図1に示すように、本実施形態において造形工程は、金属粉末層形成工程(S101)と、結合流体付与工程(S102)と、仮硬化工程(S103)と、を有する。そして、本実施形態において造形工程は、
図3(A)に示す造形装置1により行われる。
【0044】
なお、造形装置1は、
図3(A)に示すように、自身の開口111が上方側を向く凹部11を有する造形槽10と、金属粉末を収容し、且つ金属粉末を下方側に供給する収容部12と、ローラー13と、結合流体を吐出するノズル140を有する結合流体吐出部14と、加熱部15と、振動部16と、相対移動部(図示省略)と、昇降部(図示省略)と、を有する。造形槽10の凹部11の底部を構成するステージ17は、昇降部により凹部11の深さ方向に昇降する。結果、ステージ17の昇降動作により凹部11の幅及び奥行きは維持しつつ、凹部11の深さを変更して、凹部11内におけるステージ17上の空間を、上下方向に拡張、又は縮小することができる。そして、凹部11内の空間は、中間造形物100が設けられる造形領域Vを成す。なお、造形装置1には、造形領域Vを含み、更に上方の収容部12、ローラー13、結合流体吐出部14を取り囲む造形空間Kが存在している。
【0045】
また、本実施形態において、造形装置1におけるチタン含有金属粉末が粉塵爆発する危険性を無くすため、少なくとも造形領域Vが不活性ガスで満たされるようになっている。望ましくは造形空間Kが不活性ガスで満たされる。造形領域V、又は造形空間Kを覆う覆いを設けることによって、造形領域V、又は造形空間Kを不活性ガスの雰囲気下にすることが好ましい。この覆いにより、造形領域V又は造形空間Kは、外部空間から分離される。
【0046】
収容部12は、下方側にメッシュ部120を有する。なお、本実施形態においてメッシュ部120の目開きは、100~200μmの範囲内にあることが好ましく、130~160μmの範囲内にあることがより好ましい。振動部16は、メッシュ部120、又は収容部12に振動を与えるものである。これにより、収容部12に収容される金属粉末にメッシュ部120を通過させて下方側に落下させることができる。振動部16は、例えば、メッシュ部120に対して超音波振動を加える超音波発振器により構成されることが想定されるが、これに限定されるものではなく、その他のもので構成されてもよい。また、収容部12は、金属粉末を外部に供給するための開口(図示省略)と、開口を開閉する開閉弁(図示省略)を有するように構成されてもよい。また、メッシュ部120に開閉弁(図示省略)を設けてもよい。
【0047】
相対移動部は、収容部12、ローラー13、結合流体吐出部14、及び加熱部15のそれぞれを造形槽10に対して水平方向に相対移動させる。
図3(A)に示すように、本実施形態において収容部12、ローラー13、及び振動部16は、それぞれ連結される。本明細書では、これらの集合体を適宜、リコータと呼ぶこととする。また、リコータには、加熱部15も連結される。このため、リコータ(収容部12、ローラー13、振動部16)及び加熱部15は、相対移動部により一体となって移動する。なお、ここでは
図3及び
図4の左右方向となる移動方向A,Bや移動方向A,Bに直交する方向の単一軸方向に相対移動させる場合を例示するが、平面を構成する二軸方向に相対移動させてもよい。なお、
図3(B)~(D)及び
図4(A)~(D)では、造形装置1のうち、必要な部分だけが描かれ、その他は省略されている。なお、リコータ及び加熱部15のそれぞれ、又は、収容部12、ローラー13及び加熱部15のそれぞれが独立して相対移動するような構成も本発明の範囲に含まれる。
【0048】
<金属粉末層形成工程>
金属粉末層形成工程S101では、造形装置1の造形槽10の凹部11内の造形領域Vにチタン含有金属粉末を供給して、表面が平坦となる第二金属粉末層23を設ける。
図3(A)では、直前の造形工程により造形槽10の凹部11には、第一金属粉末層21中に中間造形物100の第一層101が既に設けられている。なお、第一層101を含む中間造形物100の各層は、中間造形側層と呼ばれてもよい。そして、第一層101の上面が凹部11の開口111よりも凹部11の深さ方向Dの下方側になるようにステージ17を下降させた状態となっている。結果、凹部11の造形領域Vには、第一層101の上面と凹部11の開口111の間に、新たなチタン含有金属粉末を収容可能な収容領域112が設けられた状態になる。なお、収容領域112は、造形領域V(凹部11)の深さ方向Dに沿って造形領域Vを層状に分割した際の一層分の単位領域である。そして、収容領域112の厚みは、例えば、30~200μmの範囲程度である。なので、収容領域112は、平面状となる領域と見做せる。また、この造形槽10及びステージ17は、可搬可能となっており、下工程への搬送容器を兼ねるようになっている。
【0049】
次に、
図3(B)に示すように、相対移動部により、リコータを、凹部11の開口111に平行な移動方向Aに沿って凹部11の上方側(真上)に位置させつつ、移動方向Aにおける凹部11の一端から他端に向かって移動させる。この際、ローラー13は、メッシュ部120よりもリコータの進行方向(移動方向A)の後方側で、且つ、造形領域V(凹部11)の深さ方向Dにおいてローラー13の周面の下端が凹部11の上端(開口111)と同一となる位置に位置する。なお、移動方向Aは、凹部11の深さ方向Dに直交する方向であり、例えば、凹部11を平面視した際の凹部11の所定の一辺に平行な方向(
図3(B)の左右方向)を指す。そして、収容部12が凹部11の上方側(真上)に位置しつつ、凹部11の一端から他端に向かって移動する間、メッシュ部120に対して振動部16によって振動を加える。結果、
図3(B)に示すように、チタン含有金属粉末20がメッシュ部120を通過して、
図3(B)における前後方向(
図3(B)の紙面奥行方向)に延びるライン状(カーテン状)に収容領域112に落下して、収容領域112にチタン含有金属粉末20が溜まる。この際、チタン含有金属粉末20は、開口111を超えて凹部11(収容領域112)の上方に盛り上がる程度まで溜まる。なお、チタン含有金属粉末20が開口111まで充填される領域を適宜、充填粉末領域22Aと呼び、チタン含有金属粉末20が開口111を超えて凹部11(充填粉末領域)の上方に盛り上がる領域を適宜、余剰粉末領域22Bと呼ぶ。
【0050】
メッシュ部120が凹部11の他端を通過すると、振動部16による振動を停止させることで、メッシュ部120からのチタン含有金属粉末20の落下が止まる。これにより、収容部12からの収容領域112に対するチタン含有金属粉末20の供給処理が終了する。上記供給処理が終了すると、
図3(C)に示すように、ローラー13がローラー駆動部(図示省略)により時計回りに回転して余剰粉末領域22Bを均しながら、収容部12と共に移動方向Aに沿って移動する。
図3(C)に示すように、ローラー13が通過した余剰粉末領域22Bは、ローラー13に均されて無くなり、充填粉末領域22Aのみが残る。
図3(D)に示すように、ローラー13が凹部11の他端に達するまで間に以上の均し処理が行われることにより、充填粉末領域22Aのみが残り、収容領域112に第二金属粉末層23が設けられる。なお、ローラー13が凹部11の他端を通過すると、ローラー13の回転は停止する。その後、リコータは、更に移動方向Aに進行して造形槽10の左側で待機する。ちなみに、本実施形態では、上記供給処理が終了した後に上記均し処理が開始されるが、これに限定されるものではなく、上記供給処理が実行中で終了する前に、上記均し処理が開始されるようにリコータ及びリコータの制御は構成されてもよい。
【0051】
<結合流体付与工程>
結合流体付与工程S102では、金属粉末層形成工程S101で設けられた第二金属粉末層23の一部領域(付与領域)に対して、チタン含有金属粉末20を結合させる結合流体(バインダ)24を付与(塗布、充填)する。結合流体24は、所望する立体造形物200を所定の方向に沿って複数の層に分けた際における任意の層の平面形状に基づいて、第二金属粉末層23の対応する領域に付与される。なお、立体造形物200を構成する複数の層のそれぞれは、中間造形物100の中間造形側層と区別するために、立体造形側層と呼ばれてもよい。詳細に説明すると、結合流体24の付与領域は、後述する焼結工程による縮小分だけ予め拡大した立体造形物(ここでは中間造形物100と一致する)の三次元データを、所定の方向(ここでは深さ方向D)に複数の層に分けることで得られる二次元画像データ(スライスデータ)によって決定される。
【0052】
図4(A)に示すように、本実施形態において結合流体吐出部14は、ノズル140を通じて結合流体24を上方側から下方に向かって第二金属粉末層23に吐出する。結合流体吐出部14は、相対移動部により初期位置から第二金属粉末層23の上方側(真上)に相対移動し、第二金属粉末層23の表面と平行で移動方向Aと直交する直交方向C(
図4(A)の紙面奥行方向)における凹部11の一端から他端までの間を第二金属粉末層23に対して相対往復移動する。この際、結合流体吐出部14は、上記付与領域に対して、ノズル140を通じて結合流体24を吐出する。結合流体吐出部14の相対往復移動は、1回のみ行われてもよいし、複数回行われてもよい。また、相対往復移動する方向は、移動方向Aに平行な方向であってもよい。結合流体吐出部14による結合流体24の吐出処理が終了すると、結合流体吐出部14は、相対移動部により初期位置に復帰する。結合流体24が付与された領域が中間造形物100の第二層102となる。その後、
図4(B)に示すように、昇降部によりステージ17を凹部11の深さ方向Dの下方側に下降させて、凹部11に新たな収容領域112を設けておく。
【0053】
<仮硬化工程>
仮硬化工程S103では、第二金属粉末層23に付与された結合流体24を、その場で仮硬化させる。付与された結合流体24を仮硬化させることで第二層102に含まれるチタン含有金属粉末20が結合する。本実施形態において結合流体24は、加熱することにより硬化が促進される熱硬化性のバインダとなる。加熱温度は、結合流体24(バインダ)の熱硬化に関する特性に応じたものになるが、例えば、50℃が一例として挙げられる。このことを利用して、本実施形態では、加熱部15により第二層102を加熱して結合流体24(バインダ)を仮硬化させる。上記説明したように加熱部15は、リコータと共に造形槽10の左側で待機した状態にある。仮硬化工程S103では、
図4(B),(C)に示すように、この状態の加熱部15は、リコータと共に、相対移動部により第二金属粉末層23の上方側(真上)において移動方向Aとは反対方向の移動方向Bに、凹部11の他端から一端に向かって第二金属粉末層23に対して相対移動され、初期位置に復帰する。結果、第二金属粉末層23が加熱されて結合流体24が仮硬化し、
図4(D)に示すように、中間造形物100の第二層102が完成する。なお、結合流体24が加熱しなくてもすぐに仮硬化する性質を有するものである場合、又は、自然乾燥の方が好ましい場合、加熱部15による仮硬化工程はなくてもよい。
【0054】
中間造形物100の第二層102が完成すると、判定ステップS104に進んで、全層が完成したか否かを判定し、第三層が必要な場合はNOに進んで、再度、金属粉末層形成工程S101(
図3(A)~(D)参照)、結合流体付与工程S102(
図4(A)参照)、仮硬化工程S103(
図4(B),(C)参照)が順に行われて、第二層102の隣接上層となる第三層(図示省略)が設けられる。なお、ここでは、
図4(B)の通り、仮硬化工程S103の前に、昇降部によりステージ17を凹部11の深さ方向Dの下方側に下降させて凹部11に収容領域112を設ける場合を例示したが、仮硬化工程S103の後にステージ17を下降させてもよい。
【0055】
以上のことが繰り返し行われることにより、中間造形物100の層が順次積層され、判定ステップS104において全層が完成したと判定されたら(YES)、硬化工程S110に進む。
【0056】
<硬化工程>
硬化工程S110では、中間造形物100に含まれる結合流体を完全に硬化させる。硬化工程は、造形領域V(造形空間K)とは異なる硬化領域W(硬化空間L)(
図5(A)参照)で実施される。なお、硬化領域Wは、中間造形物100を収容し、硬化処理を施す領域である。硬化空間Lは、硬化装置25として機能する硬化炉(乾燥炉)内の炉内空間を指し、硬化領域Wを含む。本実施形態における硬化処理では、中間造形物100を所定温度(例えば、200℃)で所定時間加熱する。なお、硬化処理での所定温度は、100℃以上が好ましい。これにより、中間造形物100に含まれる結合流体24は乾燥して完全に硬化する。なお、硬化処理は、結合流体の特性に応じて、その他の方法で行われてもよい。ちなみに、硬化工程S110後で焼結工程S130前の中間造形物100に含まれる結合流体の残留成分は、中間造形物100を基準とした重量比で1~6%の範囲内であることが好ましく、1~4%の範囲内であることがより好ましい。
【0057】
造形工程S100から硬化工程S110への遷移は、
図5(A),(B)に示すように、造形装置1で用いた造形槽10及びステージ17を、その内部の中間造形物100と周囲に残存する未硬化のチタン含有金属粉末20と一緒に、造形装置1から硬化装置25に移動させることで実現する。なお、
図5(A)に示すように、本実施形態において造形槽10は、中間造形物100とチタン含有金属粉末20を収容する凹部11を有し、可搬可能に構成されている。
【0058】
また、
図5(B)に示すように、硬化装置25は、炉内の温度(硬化空間Lの温度)を、中間造形物100に含まれる水溶性の結合流体を乾燥させて結合流体が硬化できる温度に調整可能な温度調整部27を有する。硬化装置25として、例えば、恒温炉が挙げられるが、これに限定されるものではなく、その他のものであってもよい。
【0059】
また、本実施形態では、硬化領域W(硬化空間L)でも、未硬化のチタン含有金属粉末20が存在していることから、このチタン含有金属粉末20が飛散して粉塵爆発する危険性を無くすため、この硬化領域W(硬化空間L)を不活性ガスで満たすことが好ましい。また、造形装置1から硬化装置25まで、造形槽10に収容される中間造形物100及びチタン含有金属粉末20を移動させる最中は、チタン含有金属粉末20が飛散しやすいことから、静電気等により着火してチタン含有金属粉末20が粉塵爆発する危険性がある。このため、
図5(A)に示すように、造形装置1から硬化装置25(硬化領域W)までの造形槽10の移動経路31(
図5(A)の点線で囲まれた領域)を、造形槽10の移動経路31を覆う覆いを設けることによって、不活性ガスの雰囲気下にすることが好ましい。この覆いにより、移動経路31は、外部空間から分離される。
【0060】
<金属粉末除去工程>
金属粉末除去工程S120では、中間造形物100の周囲に残存する、未硬化のチタン含有金属粉末20を除去する。金属粉末除去工程は、
図5(A)に示すように、粉末除去領域Xで実行される。なお、粉末除去領域Xは、中間造形物100を収容し、金属粉末除去処理を施す領域である。粉末除去領域Xは、造形領域V及び硬化領域Wとは別の領域である。粉末除去空間Mは、粉末除去装置30の内部の処理空間を意味し、粉末除去領域Xを含む。硬化工程S110から金属粉末除去工程S120への遷移は、
図5(A)に示すように、硬化装置25で用いた造形槽10及びステージ17を、その内部の中間造形物100と周囲に残存する未硬化のチタン含有金属粉末20と一緒に、硬化装置25から粉末除去装置30に移動させることで実現する。粉末除去領域Xでは、中間造形物100を取り出し、噴射ノズルを利用して不活性ガスを中間造形物100に対して噴射したり、ハケを用いたりして、中間造形物100に付着している未硬化のチタン含有金属粉末20を除去する。
【0061】
なお、中間造形物100からチタン含有金属粉末20を除去する際、チタン含有金属粉末20が飛散し、静電気等により着火して粉塵爆発する危険性がある。このため、金属粉末除去工程S120は、不活性ガスの雰囲気下で行われることが好ましい。本実施形態では、特に、粉末除去処理が行われる粉末除去領域Xが不活性ガスの雰囲気下にあることが好ましい。望ましくは粉末除去空間M全体を不活性ガスの雰囲気下にする。なお、金属粉末除去工程S120で除去されたチタン含有金属粉末20は、立体造形物200を設けるために回収・再利用される。
【0062】
また、硬化装置25(硬化領域W)から、金属粉末除去工程を行う粉末除去領域Xに、造形槽10及びステージ17を移動させる最中は、チタン含有金属粉末20が飛散しやすいことから、静電気等により着火してチタン含有金属粉末20が粉塵爆発する危険性がある。このため、硬化装置25から粉末除去装置30までの造形槽10等の移動経路32(
図5(A)の一点鎖線で囲まれた領域)を、造形槽10等の移動経路32を覆う覆いを設けることによって、不活性ガスの雰囲気下にすることが好ましい。この覆いにより、移動経路32は、外部空間から分離される。
【0063】
以上の各工程で説明したように、未硬化のチタン含有金属粉末20が存在する間は、常に、粉塵爆発の危険性を無くすため、上記各工程(造形工程、硬化工程、金属粉末除去工程)、及びこれらの間の移動経路31,32は、可能な限り、不活性ガスの雰囲気下とすることが好ましい。また、造形装置1、硬化装置25、及び粉末除去装置30を含む全体領域33(
図5(A)参照)を、まとめて、不活性ガスの雰囲気下にしてもよい。また、各工程で用いられる不活性ガスは、同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。
【0064】
なお、以上では不活性ガスの雰囲気下にする場合を例示しているが、その全部又は一部を、真空環境下(真空雰囲気下)にしても良い。本発明における真空環境(真空雰囲気)としては、酸素濃度が1.0%以下となることが好ましく、更に0.5%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましい。真空環境を構築するためには、各空間(各領域)に真空チャンバを設けるようにし、真空ポンプで吸引すれば良い。
【0065】
<焼結工程>
焼結工程S130では、金属粉末除去工程S120を経た中間造形物100を焼結して、立体造形物200を生成する。本実施形態では、例えば、中間造形物100を、真空焼結炉に投入して焼結を行う。焼結温度は、例えば、1000℃~1400℃の範囲内が好ましく、1200℃~1400℃がより好ましい。なお、この焼結工程は、中間造形物100内で硬化済みとなっている結合流体24(バインダ)を気化・除去する脱脂工程を含み処理をしている。
【0066】
中間造形物100を焼結すると、中間造形物100を構成する粒子同士が結合し、中間造形物100は全体が収縮し、立体造形物200となる。焼結温度を高くすることで、立体造形物200の密度を上げることができるので、その点を考慮して焼結温度は決定される。
【0067】
<立体造形物>
図6及び
図7を参照して、立体造形物200について説明する。
図6及び
図7の立体造形物200は、積層方向Pに沿って形成されたものである。立体造形物200を積層方向Pに沿って切った
図6(A)のE-E矢視断面の点線領域Fを拡大した模式図を
図6(B)に示す。
図6(B)に描かれる模式図にある複数の微小な領域は、立体造形物200の内部に形成される空孔210である。
【0068】
図6(B)から明らかなように、造形工程S100において積層された立体造形物200の最上層G(点線よりも上方側の領域)を含む立体造形物200の全表面の近傍の表層近傍領域H(
図6(A)の外側の斜線領域参照)は、表層近傍領域Hよりも立体造形物200の内部側の芯部領域I(
図6(A)の内側斜線領域参照)よりも単位体積あたりの空孔の数が多い。また、表層近傍領域Hは、芯部領域Iよりも空孔率が大きい。なお、空孔率とは、立体造形物200に含まれる基準となる領域(表層近傍領域H、または芯部領域I)における空孔の体積割合を指し、(空孔の体積/立体造形物200に含まれる基準となる領域(表層近傍領域H、または芯部領域I)の体積)で表すことができる。従って、表層近傍領域Hにおける空孔率は、(表層近傍領域Hの空孔の体積/表層近傍領域Hの体積)で表すことができ、芯部領域Iにおける空孔率は、(芯部領域Iの空孔の体積/芯部領域Iの体積)で表すことができる。焼結工程S130において中間造形物100が焼結される過程で、中間造形物100の各領域の結合流体24(バインダ)は、立体造形物200の表面を通じて外部に移動する。そして、中間造形物100の各領域の結合流体24(バインダ)は、中間造形物100の表層近傍領域Hを通過するので、焼結工程の過程で、中間造形物100の表層近傍領域Hにおける結合流体24(バインダ)の単位体積あたりの密度は、他の領域と比べて大きくなる。結果、中間造形物100の表層近傍領域Hでは、中間造形物100を構成する粒子同士は、間に隙間がある状態で接合するものが多くなる。結果、立体造形物200の表層近傍領域Hでは、空孔210が他の領域に比べて多く形成される。また、立体造形物200の表面にも多数の凹凸220が形成される。
【0069】
なお、立体造形物200の表層近傍領域Hは、本実施形態の造形工程S100において最後に積層される中間造形物100の最上層のみならず、その他の全ての立体造形物200の表層に近傍な領域を含む。立体造形物200の表層近傍領域Hの深さ(厚み)は、立体造形物200の最上層G深さ(厚み)Tと同じであってもよいし、異なっていてもよい。ちなみに、
図6では、立体造形物200の表層近傍領域Hの深さ(厚み)は、立体造形物200の最上層G深さ(厚み)Tと同じとなっている。
【0070】
また、本実施形態の造形工程S100を経た立体造形物200の傾斜面230には、隣接する各層の境界を表す積層痕が表れる。その説明のため、立体造形物200を積層方向Pに沿って切った
図7(A)のJ-J矢視断面における傾斜面230を含む点線領域Nを拡大した模式図を
図7(B)に示す。
図7(B)に示すように、立体造形物200の傾斜面230は、積層方向Pに対して傾斜するものである。そして、立体造形物200の傾斜面230は、滑らかな傾斜面とはなっておらず、本実施形態の造形工程S100で積層され、隣接する各層240の間のそれぞれの段差が傾斜面230の傾斜方向に沿って連続して階段状に形成されて設けられる。つまり、立体造形物200において各層240は、隣接する層240の端面241がずれた位置に位置するように形成され、結果、隣接する層240のそれぞれの間には段差が設けられる。この段差は、立体造形物200の積層痕となる。
【実施例0071】
本願発明者は、バインダージェット方式を採用した3Dプリンタ装置を用いてチタン含有金属粉末により立体造形物を作成した。この際、チタン含有金属粉末としてチタンで構成される純チタン粉末を用いた第一立体造形物と、チタン含有金属粉末としてTi64(Ti-6Al-4V)で構成される64チタン粉末を用いた第二立体造形物を作成した。なお、第一立体造形物と第二立体造形物は、同じ形状及びサイズを有するものである。そして、純チタン粉末、64チタン粉末は、粒度範囲として粒径が45μm以下、かつ、平均粒径D50が30μmとなるものを用いた。また、上記3Dプリンタ装置の収容部は、目開きが略150μmのメッシュ部を利用した。また、焼結工程における焼結温度は、1200℃とした。
【0072】
そして,本願発明者は、焼結工程を経た第一立体造形物、第二立体造形物のそれぞれの密度、及び、第一立体造形物に対応し、硬化工程を経た第一中間造形物、第二立体造形物に対応し、硬化工程を経た第二中間造形物のそれぞれの密度を測定した。その結果、第一中間造形物の密度は、2.55g/cm3で、第二中間造形物の密度は、2.55g/cm3で、第一立体造形物の密度は、4.24g/cm3で、第二立体造形物の密度は、4.16g/cm3であった。以上の結果から、硬化工程を経た中間造形物の密度は、2.6g/cm3以下であり、立体造形物の密度は、4.0g/cm3以上であることがわかる。結果、平均粒径D50が30μmの純チタン粉末、64チタン粉末を用いても高密度の立体造形物を製造可能なことが確認できた。また、硬化工程後、且つ焼結工程前の中間造形物に含まれる結合流体の残留成分は、硬化工程後、且つ焼結工程前の中間造形物を基準とした重量比で3.5%程度の量であった。
【0073】
以上の結果を考慮すると、硬化工程後、且つ、焼結工程よりも前の中間造形物100の密度は、2.0g/cm3以上であることが好ましく、2.2g/cm3以上であることがより好ましく、2.5g/cm3以上であることが更に好ましい。また、焼結工程後の立体造形物200の密度は、3.5g/cm3以上であることが好ましく、3.75g/cm3以上であることがより好ましく、4.0g/cm3以上であることが更に好ましい。そして、以上のような中間造形物100及び立体造形物200の材料であるチタン含有金属粉末の平均粒径D50は、40μm以下であることが好ましい。
【0074】
また、第二立体造形物の重量を基準とした第二立体造形物における炭素含有濃度は、0.0573重量%であった。この結果を考慮すると、立体造形物200における炭素含有濃度は、0.06重量%以下であることが好ましい。
【0075】
尚、本発明の立体造形物の製造方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。