(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074145
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ガス吸着剤、その製造方法及び真空断熱材
(51)【国際特許分類】
B01J 20/18 20060101AFI20240523BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20240523BHJP
F16L 59/065 20060101ALI20240523BHJP
C01B 39/14 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/30
F16L59/065
C01B39/14
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185242
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祥平
(72)【発明者】
【氏名】山本 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 誠志
【テーマコード(参考)】
3H036
4G066
4G073
【Fターム(参考)】
3H036AB13
3H036AB14
3H036AB15
3H036AB23
3H036AB24
3H036AB34
4G066AA17B
4G066AA62B
4G066BA09
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA39
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4G066DA01
4G066EA20
4G066FA03
4G066FA21
4G066FA37
4G073BA10
4G073BA69
4G073BA75
4G073CZ02
4G073DZ09
4G073FB30
4G073FD08
4G073GA19
4G073UA06
4G073UB60
(57)【要約】
【課題】本発明は、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着することが可能なガス吸着剤、その製造方法及び該ガス吸着剤を備える真空断熱材を提供することを目的とする。
【解決手段】窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着するガス吸着剤であり、下記式(1)で表されるマグネシウムイオン交換率Rが25~40%であるマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを含むことを特徴とする。R(%)={(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト中のマグネシウムイオンのモル数×2)/(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれる各陽イオンのモル数に各陽イオンの価数を掛けた値の合計)}×100・・・(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着するガス吸着剤であり、
マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを含み、
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、下記式(1)で表されるマグネシウムイオン交換率Rが25~40%である
ことを特徴とする、ガス吸着剤。
マグネシウムイオン交換率R(%)={(前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれるマグネシウムイオンのモル数×2)/(前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれる各陽イオンのモル数に各陽イオンの価数を掛けた値の合計)}×100 ・・・(1)
【請求項2】
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが、ナトリウムイオン又はカルシウムイオンを含む、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項3】
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが、粉体、ペレット、又はタブレットの形態である、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項4】
水分吸着剤成分及び/又は前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト以外の他のガス吸着剤成分をさらに含む、請求項1に記載のガス吸着剤。
【請求項5】
前記水分吸着剤成分及び/又は前記他のガス吸着剤成分が、前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲を覆っている、請求項4に記載のガス吸着剤。
【請求項6】
以下のステップ(a)~(d)を含むマグネシウムイオン交換を行うことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のガス吸着剤の製造方法。
(a)A型ゼオライトを所定の濃度のマグネシウム水溶液と混合して混合液を得るステップ、
(b)前記ステップ(a)で得られた混合液を30~99℃で1~8時間、暗所で還流させて残留物を得ることを1~4回行うことにより、残留物を得るステップ、
(c)前記ステップ(b)で得られた残留物をろ過した後、マグネシウムイオンがなくなるまで水洗するステップ、及び
(d)前記ステップ(c)で水洗した残留物を空気中において30~120℃で乾燥し、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを得るステップ。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載のガス吸着剤と、芯材と、ガスバリア性を有する外被材とを備え、前記ガス吸着剤と前記芯材とを前記外被材で覆い、前記外被材の内部を減圧してなることを特徴とする、真空断熱材。
【請求項8】
水分吸着剤及び/又は前記ガス吸着剤以外の他のガス吸着剤をさらに備える、請求項7に記載の真空断熱材。
【請求項9】
前記水分吸着剤が、前記ガス吸着剤よりも速く水分を吸着する、請求項8に記載の真空断熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着剤、その製造方法及び該ガス吸着剤を備える真空断熱材に関するものであり、特に、アルゴンを吸着するガス吸着剤、その製造方法及び該ガス吸着剤を備える真空断熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーを推進する動きが活発化し、家電製品や設備機器で優れた断熱効果を有する真空断熱材(VIP)が求められている。真空断熱材としては、グラスウールやシリカ粉末などの微細空隙を有する芯材を、ガスバリア性を有する外被材で覆い、外被材の内部を減圧して密封したものが知られている。
真空断熱材の断熱原理は、熱を伝える空気を可能な限り排除し、気体による熱伝導を低減することである。従って、真空断熱材の断熱性能を向上するためには、内部圧力を可能な限り低圧とし、分子の衝突による気体熱伝導を抑制する必要がある。
また、真空断熱材内部から発生するガスや、外部から経時的に真空断熱材へ透過浸入してくる空気成分も真空断熱材の経時的な断熱性能の劣化を招く要因となる。よって、これらの気体、すなわち空気中の窒素、酸素、水分、水素等を吸着除去することにより、初期断熱性能を向上させ、経時的な断熱性能を維持することが可能となる。
【0003】
真空断熱材に搭載される代表的な水分吸着剤として、酸化カルシウムが知られているが、例えば、特許文献1には、酸化カルシウム中に一酸化パラジウムを分散させたガス吸着材が記載されており、一酸化パラジウムにより水素が水に変換され、その水を酸化カルシウムが吸着することにより、水分だけでなく水素も吸着する吸着材となっている。
特許文献2には、銅イオン交換されたZSM-5型ゼオライトからなる気体吸着材が記載されており、特に窒素に対する吸着容量が向上しただけでなく、酸素、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素も吸着可能であることが記載されている。
特許文献3には、酸化セリウム、酸化銅及び金属パラジウムの混合物からなる水素及び一酸化炭素の吸着剤が記載されている。
その他、窒素吸着剤としてリチウムバリウム、水素吸着剤として酸化コバルト等が知られている。
このように、主要なガス種に対する吸着剤の開発が進む中、真空断熱材内部に存在するガス成分においてアルゴンが大きな割合を占めるようになり、真空断熱材の更なる性能向上には、アルゴンの吸着が必要となっている。
【0004】
アルゴンの吸着剤としては、極低温でアルゴンを吸着する吸着剤のほか、例えば、特許文献4には、銀イオン交換されたゼオライトAが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-000906号公報
【特許文献2】特開2008-064135号公報
【特許文献3】特開2015-509827号公報
【特許文献4】特許第3978060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献4に記載の銀イオン交換されたゼオライトAでは、イオン交換種として銀イオンを使用しているため、高価な銀水溶液を用いる必要があり、コストの面で課題がある。また、実施例で評価されているのは酸素、窒素、アルゴンのそれぞれ単一ガスの吸着量のみであり、混合ガス下でのアルゴン吸着能力については評価されていない。
そこで、本発明は、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着することが可能なガス吸着剤、その製造方法及び該ガス吸着剤を備える真空断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討を重ねた結果、特定の割合でマグネシウムイオン交換された特定のA型ゼオライトとすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着するガス吸着剤であり、
マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを含み、
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、下記式(1)で表されるマグネシウムイオン交換率Rが25~40%である
ことを特徴とする、ガス吸着剤。
マグネシウムイオン交換率R(%)={(前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれるマグネシウムイオンのモル数×2)/(前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれる各陽イオンのモル数に各陽イオンの価数を掛けた値の合計)}×100 ・・・(1)
[2]
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが、ナトリウムイオン又はカルシウムイオンを含む、[1]に記載のガス吸着剤。
[3]
前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが、粉体、ペレット、又はタブレットの形態である、[1]又は[2]に記載のガス吸着剤。
[4]
水分吸着剤成分及び/又は前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト以外の他のガス吸着剤成分をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載のガス吸着剤。
[5]
前記水分吸着剤成分及び/又は前記他のガス吸着剤成分が、前記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲を覆っている、[4]に記載のガス吸着剤。
[6]
以下のステップ(a)~(d)を含むマグネシウムイオン交換を行うことを特徴とする、[1]~[5]のいずれかに記載のガス吸着剤の製造方法。
(a)A型ゼオライトを所定の濃度のマグネシウム水溶液と混合して混合液を得るステップ、
(b)前記ステップ(a)で得られた混合液を30~99℃で1~8時間、暗所で還流させて残留物を得ることを1~4回行うことにより、残留物を得るステップ、
(c)前記ステップ(b)で得られた残留物をろ過した後、マグネシウムイオンがなくなるまで水洗するステップ、及び
(d)前記ステップ(c)で水洗した残留物を空気中において30~120℃で乾燥し、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを得るステップ。
[7]
[1]~[5]のいずれかに記載のガス吸着剤と、芯材と、ガスバリア性を有する外被材とを備え、前記ガス吸着剤と前記芯材とを前記外被材で覆い、前記外被材の内部を減圧してなることを特徴とする、真空断熱材。
[8]
水分吸着剤及び/又は前記ガス吸着剤以外の他のガス吸着剤をさらに備える、[7]に記載の真空断熱材。
[9]
前記水分吸着剤が、前記ガス吸着剤よりも速く水分を吸着する、[8]に記載の真空断熱材。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着することが可能なガス吸着剤、その製造方法及び該ガス吸着剤を備える真空断熱材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例及び比較例で得られたガス吸着剤について、30℃におけるアルゴン吸着量の測定結果を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例で得られた真空断熱材について、加速試験中の熱伝導率の測定結果を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例で得られた真空断熱材について、真空断熱材内部に含まれるアルゴン量の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0012】
〈ガス吸着剤〉
本実施形態のガス吸着剤は、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを含む。マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、下記式(1)で表されるマグネシウムイオン交換率Rが25~40%である。
マグネシウムイオン交換率R(%)={(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれるマグネシウムイオンのモル数×2)/(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれる各陽イオンのモル数に各陽イオンの価数を掛けた値の合計)}×100 ・・・(1)
本実施形態のガス吸着剤は、上記マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを含むことにより、常温下で、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から、窒素及び酸素と比較してアルゴンを多く選択的に吸着することができる。これにより、例えば、本実施形態のガス吸着剤を備えた真空断熱材において、真空断熱材の内部に大気成分として透過浸入したアルゴンガス及び初期に内包されたアルゴンガスを吸着することができるため、真空断熱材の真空保持性を向上させ、長期性能を向上させることができる。
なお、「常温下」とは、20~30℃環境を意味するものとする。
【0013】
〈〈マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト〉〉
A型ゼオライトは、一般に、M2/nO・Al2O3・2SiO2・mH2O(M:アルカリ金属又はアルカリ土類金属、n:Mの電荷、m:水分子のモル数)で表される化学組成を有するゼオライトであり、SiO4四面体とAlO4四面体が3次元的に結合した網目状構造を有する多孔性結晶である。AlO4四面体の電荷不足をアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンが補うことで安定化している。
本実施形態のマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、A型ゼオライトに内包されるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの一部がマグネシウムイオン(Mg2+)に交換されたA型ゼオライトである。A型ゼオライトに含まれる(一部がマグネシウムイオンに交換される)アルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとしては、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、カルシウムイオン(Ca2+)等が挙げられる。
【0014】
本実施形態のマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、下記式(1)で表されるマグネシウムイオン交換率Rが25~40%であり、好ましくは28~40%、より好ましくは30~40%である。
マグネシウムイオン交換率R(%)={(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれるマグネシウムイオンのモル数×2)/(マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれる各陽イオンのモル数に各陽イオンの価数を掛けた値の合計)}×100 ・・・(1)
マグネシウムイオン交換率Rが上記範囲であると、アルゴンの吸着量が多く、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを選択的に吸着することができる。
なお、マグネシウムイオン交換率Rは、マグネシウムイオンに交換される前の陽イオンをすべて1価の陽イオンとみなし、2つの1価の陽イオンあたり1つのマグネシウムイオン(Mg2+)で交換されることを前提とした計算値である。
マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトに含まれるマグネシウムイオン及びすべての陽イオンのモル数は、蛍光X線分析により求めることができ、具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
マグネシウムイオン交換率Rは、例えば、後述の製造方法のステップ(b)において、還流の温度及び時間、回数を調整することにより調整することができ、同じ温度及び時間であれば、還流回数が多くなるほど、マグネシウムイオン交換率Rが増加する。
【0015】
マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの形態は、特に限定されず、例えば、粉体、ペレット、又はタブレット等であってもよい。
【0016】
本実施形態のガス吸着剤中のマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの含有量は、例えば、1~100質量%であってよく、1~50質量%であってよく、3~20質量%であってよい。
【0017】
本実施形態のガス吸着剤は、水分吸着剤成分及び/又は上述のマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト以外の他のガス吸着剤成分をさらに含んでいてもよい。
水分吸着剤成分としては、特に限定されず、例えば、酸化カルシウム、塩化カルシウム、酸化アルミニウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、ゼオライト等が挙げられる。中でも、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトよりも速く水分を吸着する(水分吸着性能が高い)水分吸着剤成分(酸化カルシウム、ゼオライト等)であることが特に好ましい。マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトもある程度の水分を吸着するが、より速く水分を吸着する水分吸着剤成分が含まれていると、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが吸着する水分量が低減され、アルゴンをより多く効率よく吸着することができる傾向にある。
他のガス吸着剤成分としては、特に限定されず、例えば、リチウムバリウム、酸化コバルト、Cu―ZSM5ゼオライト等が挙げられる。
上記水分吸着剤成分及び他のガス吸着剤成分は、それぞれ1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0018】
本実施形態のガス吸着剤は、水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分を含む場合、水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分を含む混合物であってもよく、また、例えば、水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分がマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲の一部又は全部を覆った状態であってもよい。水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分がマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲の一部又は全部を覆った状態であると、水分やアルゴン以外の他のガスが先に吸着され、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトがアルゴンをより多く効率よく吸着することができる傾向にある。
本実施形態のガス吸着剤中の水分吸着剤成分の含有量は、例えば、30~95質量%であってよく、40~90質量%であってよく、50~80質量%であってよい。
また、本実施形態のガス吸着剤中の他のガス吸着剤成分の含有量は、例えば、1~50質量%であってよく、2~40質量%であってよく、3~30質量%であってよい。
【0019】
本実施形態のガス吸着剤は、必要に応じて成形・加工のためのバインダー、アルミナ、リン酸カルシウム等の添加剤を含んでいてもよい。
本実施形態のガス吸着剤中の添加剤の含有量は、例えば、40質量%以下であってよく、35質量%以下であってよく、30質量%以下であってよい。
【0020】
本実施形態のガス吸着剤の形態は、特に限定されず、例えば、粉体、ペレット、又はタブレット等であってもよい。
本実施形態のガス吸着剤が上述の水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分を含む場合、水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分を含む混合物の粉体、ペレット、又はタブレット等であってもよい。また、例えば、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲の一部又は全部を水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分で覆った後、ペレット化やタブレット化したもの(例えば、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトをコアとしてその周りを水分吸着剤成分の層が取り囲んだ構造のペレットやタブレット)等であってもよい。
【0021】
〈ガス吸着剤の製造方法〉
本実施形態のガス吸着剤は、例えば、以下のステップ(a)~(d)を含むマグネシウムイオン交換を行うことを特徴とする製造方法等により製造することができる。
(a)A型ゼオライトを所定の濃度のマグネシウム水溶液と混合して混合液を得るステップ、
(b)ステップ(a)で得られた混合液を30~99℃で1~8時間、暗所で還流させて残留物を得ることを1~4回行うことにより、残留物を得るステップ、
(c)ステップ(b)で得られた残留物をろ過した後、マグネシウムイオンがなくなるまで水洗するステップ、及び
(d)ステップ(c)で水洗した残留物を空気中において30~120℃で乾燥し、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを得るステップ。
【0022】
ステップ(a)では、A型ゼオライトを所定の濃度のマグネシウム水溶液と混合して混合液を得る。
マグネシウムイオンで交換する前の原料であるA型ゼオライト及び所定の濃度のマグネシウム水溶液は、市販品を用いることができる。
マグネシウム水溶液は、特に限定されず、例えば、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウム化合物の水溶液が挙げられる。
A型ゼオライトとマグネシウムとのモル比(A型ゼオライト:マグネシウム)は、1:1~1:10であることが好ましく、より好ましくは1:3~1:10、さらに好ましくは1:3~1:5である。
マグネシウム水溶液の「所定の濃度」は、所望するマグネシウムイオン交換率Rやステップ(b)での還流条件に応じて適宜定めればよいが、0.001~0.01Mであることが好ましく、より好ましくは0.002~0.008M、さらに好ましくは0.003~0.005Mである。
【0023】
ステップ(b)では、ステップ(a)で得られた混合液を30~99で1~8時間、暗所で還流させて残留物を得ることを1~4回行うことにより、残留物を得る。
還流温度及び時間は、より好ましくは60~99℃で4~8時間、さらに好ましくは95℃で6時間である。
還流の温度及び時間、回数を調整することにより、マグネシウムイオン交換率Rを調整することができる。同じ還流温度及び時間であれば、還流回数が多くなるほど、マグネシウムイオン交換率Rが増加する。
なお、暗所とは、遮蔽物等により外光が遮蔽されることで照度が比較的低くなっている場所を意味し、直射日光を遮ることができれば完全に遮光されていなくてもよい。
【0024】
ステップ(c)では、ステップ(b)で得られた残留物をろ過した後、マグネシウムイオンがなくなるまで水洗する。
ろ過方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。水洗には、蒸留水を用いることが好ましい。
なお、マグネシウムイオンがなくなった状態とは、チタンエロー比色法で検査したときに0mg/Lとなった状態とする。
【0025】
ステップ(d)では、ステップ(c)で水洗した残留物を空気中で30~120℃で乾燥する。これにより、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトが得られる。
乾燥温度は、より好ましくは50~110℃、さらに好ましくは80~100℃である。乾燥時間は、特に制限されない。
【0026】
ステップ(d)で得られたマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、窒素や水、酸素、アルゴンガスに触れることなく、高真空下又は不活性ガス雰囲気下で粉末化、ペレット化、タブレット化等により取り扱い容易な形状に成形し、そのまま本実施形態のガス吸着剤としてもよい。その際に、必要に応じて成形・加工のためのバインダー等を使用してもよい。
また、ステップ(d)で得られたマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトは、窒素や水、酸素、アルゴンガスに触れることなく、高真空下又は不活性ガス雰囲気下で、上述の水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分と混合する、或いは水分吸着剤成分及び/又は他のガス吸着剤成分によりマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトの周囲の一部又は全部を覆うなどした後、粉末化、ペレット化、タブレット化等により取り扱い容易な形状に成形し、本実施形態のガス吸着剤としてもよい。その際に、必要に応じて成形・加工のためのバインダー等を使用してもよい。
得られたガス吸着剤は、不活性ガスを充填した気体不透過性容器等にこれを封入し、使用時まで保管することが望ましい。
【0027】
〈真空断熱材〉
本実施形態の真空断熱材は、上述の本実施形態のガス吸着剤と、芯材と、ガスバリア性を有する外被材とを備え、ガス吸着剤と芯材とを外被材で覆い、外被材の内部を減圧してなる。
本実施形態の真空断熱材は、製造時の真空排気手段及び本実施形態のガス吸着剤の作用によりガスバリア性を有する外被材の内部空間が減圧され、真空状態(1~10Pa)となっている。本実施形態の真空断熱材は、本実施形態のガス吸着剤を備えることにより、真空断熱材の内部に大気成分として流入したアルゴンガス及び初期に内包されたアルゴンガスを吸着することができるため、真空保持性が向上し、それにより長期性能が向上した真空断熱材となっている。本実施形態のガス吸着剤により、真空断熱材の劣化につながる主要なガス成分すべての吸着方法に目途が立ち、各ガス成分の吸着剤を適当量搭載することで、理論的には性能劣化しない真空断熱材が実現可能となった。
【0028】
〈〈芯材〉〉
芯材は、真空断熱材の骨格となり、真空空間を形成する。
芯材としては、例えば、ポリスチレンやポリウレタンなどのポリマー材料の連通気泡体、無機材料の連通気泡体、無機及び有機化合物の粉末(シリカ等)、無機及び有機繊維材料(グラスウール、ロックウール、アルミナ繊維等)、並びにこれらの混合物等が挙げられる。中でも、繊維自体の弾性が高く、また繊維自体の熱伝導率が低く、かつ工業的に安価であるため、グラスウールが好ましい。
上記芯材は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
芯材が無機及び有機繊維材料である場合、芯材の密度ムラの観点から、目付が600~10000g/m2であることが好ましく、より好ましくは1000~6000g/m2である。
また、無機及び有機繊維材料の平均繊維径は、断熱性の観点から、3~12μmであることが好ましく、より好ましくは3~4μmである。
無機及び有機繊維材料は、成形・加工のためのバインダー等を含んでいてもよい。
【0030】
〈〈外被材〉〉
外被材は、芯材を空気及び水分等から隔離する役割を果たす。
外被材としては、ガスバリア性を有するものであれば特に限定されず、例えば、アルミ箔及び銅箔等の金属箔、ガスバリア性を有するフィルム(金属蒸着層や透明シリカ蒸着層を含むフィルム等)、金属容器、ガラス容器、樹脂と金属とが積層されたガスバリア容器など、気体の浸入を阻害可能な種々の材料及び複合材料が挙げられる。
外被材は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0031】
外被材の厚み(複数の材料を重ねてなる場合はその合計厚み)は、特に限定されないが、ガスバリア性及び加工性の観点から、10μm以上であることが好ましい。
【0032】
本実施形態の真空断熱材は、水分吸着剤及び/又は本実施形態のガス吸着剤以外の他のガス吸着剤をさらに備えていてもよい。
水分吸着剤としては、特に限定されず、例えば、酸化カルシウム、塩化カルシウム、酸化アルミニウム、シリカゲル、モレキュラーシーブス、ゼオライト等が挙げられる。中でも、本実施形態のガス吸着剤よりも速く水分を吸着する(水分吸着性能が高い)水分吸着剤(酸化カルシウム、ゼオライト等)であることが特に好ましい。本実施形態のガス吸着剤もある程度の水分を吸着するが、より速く水分を吸着する水分吸着剤が備えられていると、本実施形態のガス吸着剤が吸着する水分量が低減され、アルゴンガスをより効率よく吸着することができる傾向にある。
他のガス吸着剤としては、特に限定されず、例えば、リチウムバリウム、酸化コバルト、Cu―ZSM5ゼオライト等が挙げられる。
上記水分吸着剤及び他のガス吸着剤は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0033】
本実施形態の真空断熱材において、上述の本実施形態のガス吸着剤、水分吸着剤及び他のガス吸着剤は、ガスの吸着を効率良く行う観点から、それぞれ、通気性を有する包装に収容されていることが好ましい。
包装に収容された本実施形態のガス吸着剤、水分吸着剤及び他のガス吸着剤は、それぞれ1個のみであっても、複数個であってもよい。
【0034】
本実施形態の真空断熱材のサイズは、特に限定されず、目的に応じて適宜設定されてよい。
【0035】
〈真空断熱材の製造方法〉
本実施形態の真空断熱材は、例えば、以下の方法により製造することができる。
本実施形態のガス吸着剤と、必要に応じて水分吸着剤及び他のガス吸着剤とを、それぞれ通気性を有する包装に収納する。次いで、芯材と各吸着剤とを外被材に収納し、外被材の内部を減圧して封止することにより、真空断熱材が得られる。外被材の内部は、真空チャンバー等により極真空状態(1~2Pa)に減圧することが好ましい。また、各ガス吸着剤を大気中に暴露してから外被材内を真空状態とするまでの時間は、15分以内であることが好ましい。
【実施例0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
実施例及び比較例で用いた測定・評価方法は、以下のとおりである。
【0038】
[アルゴン吸着量]
容積法吸着装置を用いて、30℃におけるガス吸着剤に対するアルゴンの吸着量(mL/g)を測定した。
【0039】
[加速評価(熱伝導率)]
真空断熱材を90℃雰囲気にて2ヶ月間置き、加速試験を実施した。ヒートフローメータ(英弘精機株式会社製「HC-074」)を用いて、真空断熱材の熱伝導率(mW/m・K)の変化を測定した。
【0040】
[内部ガス分析(アルゴン量)]
真空断熱材を90℃雰囲気にて7日間置き、加速試験を実施した。加速試験後、23℃の密閉系で真空断熱材に穴を開けて真空断熱材内部のガスを吸引し、ガスクロマトグラフィ質量分析装置(株式会社アルバック製「Gulee」)を用いてアルゴン量を測定した。
【0041】
[実施例A1]
合成A型ゼオライト(富士フイルム和光純薬株式会社製「A-4」)10gを、Mg(NO
3)
2・6H
2O(99%、富士フイルム和光純薬株式会社製)の0.003M水溶液500mLと混合し、混合液を得た。得られた混合液を95℃で6時間、暗所で還流させて残留物を得た。この環流を1回行った。得られた残留物をろ過した後、マグネシウムイオンがなくなるまで蒸留水で水洗した。マグネシウムイオンがなくなったことは、チタンエロー比色法で検査し、検出されなくなったことで判断した。水洗した残留物を、空気中で90℃で乾燥させ、粉末状のマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライト10gを得た。
得られたマグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを、そのままガス吸着剤とした。
マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトのマグネシウムイオン交換率Rを表1に示す。また、ガス吸着剤のアルゴン吸着量の測定結果を
図1に示す。
【0042】
[実施例A2、A3、比較例A1~A3]
環流の条件を表1に示すとおりに変更したこと以外は実施例A1と同様にして、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトを製造し、ガス吸着剤とした。
各例について、マグネシウムイオン交換されたA型ゼオライトのマグネシウムイオン交換率Rを表1に示す。また、ガス吸着剤のアルゴン吸着量の測定結果を
図1に示す。
【0043】
【0044】
図1に示すガス吸着剤のアルゴン吸着量の測定結果より、マグネシウムイオン交換率Rが34%である実施例A1のアルゴン吸着量が飛躍的に高いことがわかる。これにより、マグネシウムイオン交換率Rが34%近辺であるときのA型ゼオライトの細孔容積がアルゴン吸着に最適であると示唆される。
【0045】
[実施例B1]
以下の吸着剤、芯材及びガスバリア性を有する外被材を備える真空断熱材(180mm×180mm×厚み18mm、密度:210kg/m
3)を製造した。
(吸着剤)
・実施例A1で得られたガス吸着剤1g
・水分吸着剤(酸化カルシウム)10g
・窒素ガス吸着剤(サエス・ゲッターズ社製「COMB3」、Φ30mm)1個
(芯材)
・短繊維グラスウールの集合体(180mm×180mm×厚み、目付:1590g/m
2を2層積層、平均繊維径:4μm)
(ガスバリア性を有する外被材)
・アルミ箔フィルム(180mm×180mm×厚み94μm):表面保護層(延伸ナイロン、厚み25μm)、基材(ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み12μm)、ガスバリア層(アルミ箔、厚み7μm)、熱シール層(ポリエチレンフィルム、厚み50μm)をこの順に積層し、ドライラミネートして貼り合わせたラミネートフィルム。
・アルミ蒸着フィルム(180mm×180mm×厚み99μm):表面保護層(延伸ナイロン、厚み25μm)、ガスバリア層(シリカアルミナ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム、厚み12μm)、ガスバリア層(アルミニウム蒸着エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム、厚み12μm)、熱シール層(ポリエチレンフィルム、厚み50μm)をこの順に積層し、ドライラミネートして貼り合わせたラミネートフィルム。
まず、実施例A1で得られたガス吸着剤、水分吸着剤及び窒素ガス吸着剤を、通気性を有する包装にそれぞれ別個に収納した。次いで、表面保護層を下面にしてアルミ蒸着フィルムを置いた後、アルミ蒸着フィルムの中央にグラスウール、各吸着剤(吸着剤同士が重ならないように配置)、表面保護層を上面にしたアルミ箔フィルムをこの順に積層して積層体を得た。続いて、真空チャンバー内に積層体を設置し、アルミ蒸着フィルムの4辺(グラスウール、各吸着剤及びアルミ箔フィルムが積層されていない部分)を上方に折り曲げてアルミ箔フィルムに重ね合わせ、重ね合わせた部分をヒートシールした後、真空チャンバーから取り出すことにより、アルミ蒸着フィルムとアルミ箔フィルムとでグラスウール及び各吸着剤を封入した真空断熱材を得た。なお、各吸着剤を大気中に暴露してから外被材内で真空状態とするまでの時間は15分以内であった。
加速試験中の熱伝導率の測定結果を
図2に、真空断熱材内部に含まれるアルゴン量の測定結果を
図3に示す。
【0046】
[比較例B1]
実施例A1で得られたガス吸着剤を搭載しなかったこと以外は実施例B1と同様にして、真空断熱材を製造した。
加速試験中の熱伝導率の測定結果を
図2に、真空断熱材内部に含まれるアルゴン量の測定結果を
図3に示す。
【0047】
図2に示す真空断熱材の加速試験中の熱伝導率の測定結果より、実施例A1で得られたガス吸着剤を搭載した実施例B1は、同ガス吸着剤を搭載しなかった比較例B1と比較して加速(熱伝導率のの増加)の傾きが小さいことから、真空断熱材の内部の圧力上昇が穏やかで、耐久性が向上したことが分かる。
また、
図3に示す真空断熱材内部に含まれるアルゴン量の測定結果から、実施例A1で得られたガス吸着剤を搭載した実施例B1では、同ガス吸着剤を搭載しなかった比較例B1と比較して真空断熱材内部のアルゴンが少なく、実施例A1で得られたガス吸着剤によりアルゴンが吸着されたことが確認された。
本発明のガス吸着剤は、窒素、酸素及びアルゴンを含むガス状混合物から常温下でアルゴンを吸着することが可能であるため、真空断熱材に好適に用いることができる。また、本発明の真空断熱材は、冷蔵庫、冷凍庫、給湯容器、自動車用断熱材、建造物用断熱材、自動販売機、保冷箱、保温庫、保冷車等のあらゆる断熱用途に適用できる。