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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074154
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240523BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240523BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240523BHJP
   F16J 15/18 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16J15/3232 201
F16J15/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185252
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】小山 健人
【テーマコード(参考)】
3J006
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE04
3J006AE12
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE34
3J006AE41
3J006AE42
3J006CA02
3J043AA17
3J043CA02
3J043CB13
3J043DA20
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA07
3J216BA16
3J216CA01
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CB18
3J216CB19
3J216CC03
3J216CC35
3J216CC41
3J216DA22
3J216EA06
3J216FA05
3J216GA03
3J701AA03
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA78
3J701DA05
3J701FA38
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB26
3J701XB39
3J701XB50
(57)【要約】
【課題】回転体でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置を提供する
【解決手段】密封装置(1)は、外輪(31)に固定される芯金部材(11)と、内輪(34)に接触する、2つの接触リップ部(12a、12b)及び芯金部材(11)に支持されたリップ基部(12k)を有する密封リップ部材(12)と、を備える。2つの各接触リップ部(12a、12b)には、通気部(12e、12g)が形成され、かつ、最も外部空間(OK)の近くに配置された、接触リップ部(12a) の外部空間(OK)側の面には、撥水層(13)が設けられている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に回転可能な内側部材と外側部材との間の内部空間を密封する密封装置であって、
前記内側部材及び前記外側部材の一方に固定される芯金部材と、
前記内側部材及び前記外側部材の他方に接触する、少なくとも2つの接触リップ部及び前記少なくとも2つの接触リップ部に接続されるとともに、前記芯金部材に支持されたリップ基部を有する密封リップ部材と、を備え、
前記少なくとも2つの各接触リップ部には、通気部が形成され、かつ、
前記少なくとも2つの接触リップ部のうち、最も外部空間の近くに配置されたものを第1接触リップ部とすると、前記第1接触リップ部の外部空間側の面には、撥水層が設けられている、密封装置。
【請求項2】
前記第1接触リップ部における前記通気部は、通気孔であり、
前記撥水層は、撥水コーティングを用いて構成されている、請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記通気孔の直径は、0.1mm以上0.3mm以下である、請求項2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記撥水コーティングの水との接触角は、110°以上である、請求項2または3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記芯金部材に設けられた第1連通孔と、前記リップ基部に設けられた第2連通孔とが、互いに連通する、請求項1に記載の密封装置。
【請求項6】
前記第1連通孔及び前記第2連通孔のうち、前記外部空間側に設けられた前記第1連通孔または前記第2連通孔には、前記外部空間側の開口の上部または周辺を覆うように撥水層が設けられている、請求項5に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車軸などは、一般的に、相互に回転可能な内輪及び外輪を含んだ回転体としての転がり軸受によって回転自在に支持されている。このような転がり軸受は、通常、密封装置を設置して、軸受空間への泥水などの異物の侵入及び軸受空間からのグリース等の潤滑剤の漏出を抑制するよう構成されている。また、特許文献1に記載の密封装置は、内軸の軸方向の端面に摺動する2つの各アキシアルリップにおいて、連通孔を設けることにより、アキシアルリップの内軸への吸着を抑制して、当該アキシアルリップの摩耗を抑制可能であることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-230058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来技術は、密封装置の設置に起因する回転体でのトルクの低減及び密封性を両立する観点からさらなる改善の余地があった。
【0005】
本発明の一態様は、回転体でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る密封装置は、相互に回転可能な内側部材と外側部材との間の内部空間を密封する密封装置であって、前記内側部材及び前記外側部材の一方に固定される芯金部材と、前記内側部材及び前記外側部材の他方に接触する、少なくとも2つの接触リップ部及び前記少なくとも2つの接触リップ部に接続されるとともに、前記芯金部材に支持されたリップ基部を有する密封リップ部材と、を備え、前記少なくとも2つの各接触リップ部には、通気部が形成され、かつ、前記少なくとも2つの接触リップ部のうち、最も外部空間の近くに配置されたものを第1接触リップ部とすると、前記第1接触リップ部の外部空間側の面には、撥水層が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、回転体でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る密封装置が設置された転がり軸受の具体例を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態1に係る密封装置の具体例を説明する図であって、図1に示したII部を拡大した拡大図である。
図3図2に示した撥水層において、撥水コーティングを用いた場合での接触角を説明する図である。
図4】本発明の実施形態2に係る密封装置の具体例を説明する図であって、図1に示したIII部を拡大した拡大図である。
図5】本発明の変形例1に係る上記密封装置の具体例を説明する図である。
図6】本発明の変形例2に係る上記密封装置の具体例を説明する図である。
図7】本発明の変形例3に係る上記密封装置の具体例を説明する図である。
図8】実施例1及び比較例1~2における、検証試験の結果例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施形態1について図1乃至図3を参照しつつ説明する。図1は、本発明に係る密封装置1、2が設置された転がり軸受30の具体例を示す断面図である。図2は、本発明の実施形態1に係る密封装置1の具体例を説明する図であって、図1に示したII部を拡大した拡大図である。図3は、図2に示した撥水層13において、撥水コーティングを用いた場合での接触角θを説明する図である。なお、以下の説明では、転がり軸受30のアウターシールに本実施形態1の密封装置1を適用した場合を例示して説明する。
【0010】
〔密封装置の適用例〕
まず図1を用いて、本実施形態1の密封装置1及び後掲の実施形態2の密封装置2が適用される転がり軸受30について具体的に説明する。なお、以下の説明では、転がり軸受30として、自動車の車軸40を回転自在に支持するとともに、転動体としてのボール35a、35bのボール列を、例えば、2列備えた複列式のボール軸受を用いた場合を例示して説明する。
【0011】
図1に示すように、転がり軸受30は、外輪31と、内輪34と、ボール35a、35bと、保持器36a、36bと、を備えている。外輪31及び内輪34は、それぞれ外側部材及び内側部材の一例であり、これらの外輪31及び内輪34は、相互に回転可能に構成されている。換言すれば、転がり軸受30は、車軸40の回転に応じて、回転する回転体として構成されている。
【0012】
ボール35a、35bは、各々、車軸40の周囲に沿って複数設けられており、各々、ボール列を構成している。ボール35a、35bは、それぞれ保持器36a、36bにて保持された状態で外輪31及び内輪34の間を転動するように構成されている。
【0013】
外輪31は、ボール35aが転がる軌道面31aと、ボール35bが転がる軌道面31bと、図示しない自動車の車体側の第1内周面31cと、当該自動車の図示しない車輪側の第2内周面31dと、を備えている。
【0014】
内輪34は、ハブ輪32と、内輪部材33と、を備えている。ハブ輪32は、ボール35aが転がる軌道面32aと、ハブ輪本体部32bと、フランジ部32cと、を備えている。ハブ輪本体部32bには、上記自動車の車軸40が同軸的にスプライン嵌合されている。車軸40は、等速ジョイント41を介して上記自動車を駆動する駆動源(図示せず)に接続されている。車軸40はナット42によって、ハブ輪本体部32bと一体的に構成されている。フランジ部32cには、ボルト43及び図示しないナットを介して上記自動車の車輪が固定されている。内輪部材33は、ボール35bが転がる軌道面33aを備えている。
【0015】
以上の構成により、転がり軸受30は、ナット42によってハブ輪32の車軸40からの抜脱を抑制しつつ、車軸40を回転自在に支持して、車軸40の回転に応じて上記自動車の車輪を回動するようになっている。具体的にいえば、転がり軸受30は、車軸40がその中心軸C回りに回転した場合に、内輪34が外輪31に対して相対的に回転することにより、上記車輪の回転を許容する。
【0016】
〔密封装置の構成例〕
本実施形態1の密封装置1は、転がり軸受30の外輪31と内輪34との間の内部空間としての軸受空間Kを密封する。具体的にいえば、密封装置1は、環状に構成された軸受空間Kの上記車輪側に設けられて、当該車輪側から軸受空間Kをシールするアウターシールを構成している。本実施形態1の密封装置1は、軸受空間Kへの泥水などの異物の侵入及び軸受空間Kからのグリース等の潤滑剤の漏出を抑制するようになっている。
【0017】
次に、図2を用いて、本実施形態1の密封装置1について具体的に説明する。なお、図2では、本実施形態1の密封装置1の構成を明確にするために、接触リップ部12a、12b及び撥水層13がハブ輪32によって弾性変形する前の状態を示している。
【0018】
本実施形態1の密封装置1は、芯金部材11と、密封リップ部材12と、撥水層13と、を備えている。芯金部材11は、所定の金属材料、例えば、鋼板を用いて構成されている。また、芯金部材11は、例えば、プレス加工を上記鋼板に施すことによって、図2に示す、所定の形状に形成されている。具体的にいえば、芯金部材11は、円筒状の筒部11aと、筒部11aに連続的に形成された略円板状の板部11bと、を有している。
【0019】
密封リップ部材12は、所定の弾性材料、例えば、ゴム材を使用して構成されている。また、密封リップ部材12は、例えば、加硫成型法を用いることによって、芯金部材11と一体的に固着されている。また、密封リップ部材12は、複数、例えば、2つの接触リップ部12a、12b及びこれらの2つの接触リップ部12a、12bに接続されたリップ基部12kと、を有している。
【0020】
本実施形態1の密封装置1では、リップ基部12kが筒部11a及び板部11bと一体化されることにより、リップ基部12kが芯金部材11に支持されている。また、本実施形態1の密封装置1では、リップ基部12kが、図2に例示するように、芯金部材11の外部空間OK側の表面を覆うように設けられているので、芯金部材11に錆が生じるのを抑えることができ、当該密封装置1によるシール性の低下を抑制することができる。
【0021】
また、本実施形態1の密封装置1は、芯金部材11の筒部11aが外輪31の第2内周面31dに嵌合されることにより、転がり軸受30に取り付けられる。このとき、本実施形態1の密封装置1では、接触リップ部12a、12b及び撥水層13が弾性変形をすることにより、ハブ輪32のハブ輪本体部32bとフランジ部32cとに連続的に形成された内周面32dに対して、これらの接触リップ部12a、12b及び撥水層13の各先端部が接触する。
【0022】
さらに、本実施形態1の密封装置1では、転がり軸受30の動作時において、接触リップ部12a、12b及び撥水層13の各先端部は、外輪31と内輪34との相対的な回転動作に応じて、ハブ輪32の内周面32dを摺動面として接触した状態で回転する。なお、密封装置1では、上記摺動面上に所定の稠度を有するグリース(不図示)が塗布されており、当該グリースによって転がり軸受30の動作時でのトルクの増大を抑えるようになっている。
【0023】
また、接触リップ部12aは、転がり軸受30において、軸受空間Kを車軸40の軸方向に封止するアキシアルリップ(サイドリップ)として機能する。また、この接触リップ部12aは、密封装置1において、最も外部空間OKの近くに配置された第1接触リップ部を構成している。一方、接触リップ部12bは、軸受空間Kを車軸40の軸方向と直交する方向に封止するラジアルリップとして機能する。換言すれば、接触リップ部12bは、最も軸受空間Kの近くに配置されたグリースリップを構成している。
【0024】
また、密封リップ部材12では、2つの各接触リップ部12a、12bにおいて、通気部が形成されている。具体的にいえば、接触リップ部12aには、その略中央部に通気部としての通気孔12eが形成されている。また、接触リップ部12bには、その先端部に通気部としての凹部状の切欠き12gが形成されている。
【0025】
また、接触リップ部12aにおいて、通気孔12eは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下の直径を有し、上記略中央部を貫通した、断面円形状の貫通孔によって構成されている。
【0026】
また、接触リップ部12aの外部空間OK側の面には、撥水層13が設けられている。撥水層13は、例えば、撥水コーティングを用いて構成されている。具体的にいえば、撥水層13には、例えば、シリコーンまたはフッ素系の撥水コーティングが用いられている。また、撥水層13は、図2に例示するように、外部空間OK側で通気孔12eの開口の上部または周辺を覆うように、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内の膜厚で形成されている。
【0027】
具体的にいえば、撥水層13を形成する場合において、例えば、接触リップ部12aを撥水コーティングの溶液に浸漬する場合は、撥水層13が通気孔12eの開口の上部を覆うように形成される。また、例えば、撥水コーティングを接触リップ部12aの外部空間OK側の面に吹きかけるように塗布する場合は、接触リップ部12aの外部空間OK側の面において通気孔12eの開口の周辺に撥水層13が形成される。
【0028】
このように接触リップ部12aへの撥水コーティングの塗布方法によって、通気孔12eへの塗布状態が異なることもあるが、いずれも通気孔12eへの水等の侵入を抑えることができる。
【0029】
また、撥水層13の撥水コーティングには、図3に示すように、例えば、当該撥水コーティングの表面Sに対する、水(水滴)Wとの接触角が110°以上の接触角を有するものが用いられている。
【0030】
以上のように構成された本実施形態1の密封装置1では、接触リップ部12a、12bには、それぞれ通気孔12e及び切欠き12gが形成されているので、軸受空間(内部空間)Kを密封したときに、接触リップ部12a、12bの間の空間が閉空間となるのを抑制することができる。このため、本実施形態1の密封装置1では、内輪(内側部材)34と外輪(外側部材)31とが相互に回転して、接触リップ部12a、12bと内周面32dとの間に生じた摩擦エネルギーに起因する温度上昇が発生したときでも、軸受空間Kからの圧力または接触リップ部12a、12b間の圧力を外部空間OKに逃がすことができる。この結果、本実施形態1の密封装置1では、接触リップ部12a、12bが内周面32dに押し当てられることによるトルクの増大を抑えることができる。また、本実施形態1の密封装置1では、撥水層13が接触リップ部(第1接触リップ部)12aの外部空間OK側の面に設けられているので、外部空間OKからの水分等の侵入する可能性を低減することができる。この結果、本実施形態1では、転がり軸受(回転体)30でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置1を構成することができる。
【0031】
〔実施形態2〕
本発明の実施形態2について、図4を用いて具体的に説明する。本発明の実施形態2に係る密封装置2の具体例を説明する図であって、図1に示したIII部を拡大した拡大図である。なお、図4では、本実施形態2の密封装置2の構成を明確にするために、接触リップ部22a、22b、22c及び撥水層23がスリンガ37によって弾性変形する前の状態を示している。
【0032】
本実施形態2と上記実施形態1との主な相違点は、転がり軸受30のインナーシールに適用した点である。換言すれば、本実施形態2の密封装置2は、軸受空間Kの上記車体側に設けられて、当該車体側から軸受空間Kをシールするインナーシールを構成している。本実施形態2の密封装置2は、実施形態1の密封装置1と同様に、軸受空間Kへの泥水などの異物の侵入及び軸受空間Kからのグリース等の潤滑剤の漏出を抑制するようになっている。
【0033】
〔密封装置の構成例〕
図4に示すように、本実施形態2の密封装置2は、芯金部材21と、密封リップ部材22と、撥水層23と、を備えている。芯金部材21は、所定の金属材料、例えば、鋼板を用いて構成されている。また、芯金部材21は、例えば、プレス加工を上記鋼板に施すことによって、図4に示す、所定の形状に形成されている。具体的にいえば、芯金部材21は、円筒状の筒部21aと、筒部21aに連続的に形成された略円板状の板部21bと、を有している。
【0034】
密封リップ部材22は、所定の弾性材料、例えば、ゴム材を使用して構成されている。また、密封リップ部材22は、例えば、加硫成型法を用いることによって、芯金部材21と一体的に固着されている。また、密封リップ部材22は、複数、例えば、3つの接触リップ部22a、22b、22c及びこれらの3つの接触リップ部22a、22b、22cに接続されたリップ基部22kと、を有している。
【0035】
本実施形態2の密封装置2では、リップ基部22kが筒部21a及び板部21bと一体化されることにより、リップ基部22kが芯金部材21に支持されている。また、本実施形態2の密封装置2では、リップ基部22kが、図4に例示するように、芯金部材21の外部空間OK側の表面を覆うように設けられているので、芯金部材21に錆が生じるのを抑えることができ、当該密封装置2によるシール性の低下を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態2の密封装置2は、芯金部材21の筒部21aが外輪31の第1内周面31cに嵌合されることにより、転がり軸受30に取り付けられる。このとき、本実施形態2の密封装置2では、接触リップ部22a、22b、22c及び撥水層23が弾性変形をすることにより、内輪部材33に取り付けられたスリンガ37の軸受空間K側の表面に対して、これらの接触リップ部22a、22b、22c及び撥水層23の各先端部が接触する。
【0037】
具体的にいえば、内輪部材33の内周面33bには、スリンガ37が当該内輪部材33に一体的に取り付けられており、当該スリンガ37は、内側部材として機能する。また、スリンガ37は、円筒状部37aと、円筒状部37aに連続的に設けられた円板状部37bとを備えている。スリンガ37は、円筒状部37aが内周面33bに嵌合されることにより、内輪部材33に取り付けられる。本実施形態2の密封装置2が転がり軸受30に取り付けられたときに、接触リップ部22a及び撥水層23の各先端部は、円板状部37bの表面によって弾性変形して当該表面に接触し、接触リップ部22b、22cの先端部は、円筒状部37aの表面によって弾性変形して当該表面に接触する。なお、本実施形態2の密封装置2は、芯金部材21とスリンガ37とを組み合わせた、パックシールタイプのインナーシールを構成している。
【0038】
さらに、本実施形態2の密封装置2では、転がり軸受30の動作時において、接触リップ部22a、22b、22c及び撥水層23の各先端部は、外輪31と内輪34との相対的な回転動作に応じて、スリンガ37の円筒状部37a及び円板状部37bの対応する表面を摺動面として接触した状態で回転する。なお、本実施形態2の密封装置2では、上記摺動面上に所定の稠度を有するグリース(不図示)が塗布されており、当該グリースによって転がり軸受30の動作時でのトルクの増大を抑えるようになっている。
【0039】
また、接触リップ部22aは、転がり軸受30において、軸受空間Kを車軸40の軸方向に封止するアキシアルリップ(サイドリップ)として機能する。また、接触リップ部22aは、密封装置2において、最も外部空間OKの近くに配置された第1接触リップ部を構成している。一方、接触リップ部22b、22cは、軸受空間Kを車軸40の軸方向と直交する方向に封止するラジアルリップとして機能する。また、接触リップ部22cは、最も軸受空間Kの近くに配置されたグリースリップを構成している。
【0040】
また、密封リップ部材22では、3つの各接触リップ部22a、22b、22cにおいて、通気部が形成されている。具体的にいえば、接触リップ部22aには、その略中央部に通気部としての通気孔22eが形成されている。また、接触リップ部22bには、その先端部に通気部としての凹部状の切欠き22fが形成されている。また、接触リップ部22cには、その先端部に通気部としての凹部状の切欠き22gが形成されている。
【0041】
また、接触リップ部22aにおいて、通気孔22eは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下の直径を有し、対応する上記略中央部を貫通した、断面円形状の貫通孔によって構成されている。
【0042】
また、接触リップ部22aの外部空間OK側の面には、撥水層23が設けられており、通気孔22eの開口の上部または周辺を覆うように形成されている。撥水層23は、例えば、撥水コーティングを用いて構成されている。具体的にいえば、撥水層23には、例えば、シリコーンまたはフッ素系の撥水コーティングが用いられている。また、撥水層23は、図4に例示するように、外部空間OK側で通気孔22eの開口の上部または周辺を覆うように、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内の膜厚で形成されている。
【0043】
また、撥水層23の撥水コーティングには、図3に示したように、例えば、当該撥水コーティングの表面Sに対する、水(水滴)Wとの接触角が110°以上の接触角を有するものが用いられている。
【0044】
以上のように構成された本実施形態2の密封装置2では、接触リップ部22a、22b、22cには、それぞれ通気孔22e及び切欠き22f、22gが形成されているので、軸受空間Kを密封したときに、接触リップ部22a、22bの間の空間及び接触リップ部22b、22cの間の空間が閉空間となるのを抑制することができる。このため、本実施形態2の密封装置2では、内輪34と外輪31とが相互に回転して、接触リップ部22a、22b、22cとスリンガ37の対応する表面との間に生じた摩擦エネルギーに起因する温度上昇が発生したときでも、軸受空間Kからの圧力または接触リップ部22a、22b間の圧力及び接触リップ部22b、22cの間の圧力を外部空間OKに逃がすことができる。この結果、本実施形態2の密封装置2では、接触リップ部22a、22b、22cがスリンガ37の対応する表面に押し当てられることによるトルクの増大を抑えることができる。また、本実施形態2の密封装置2では、撥水層23が接触リップ部22aの外部空間OK側の面に設けられているので、外部空間OKからの水分等の侵入する可能性を低減することができる。この結果、本実施形態2では、転がり軸受30でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置2を構成することができる。
【0045】
〔変形例1〕
本発明の変形例1について、図5を用いて具体的に説明する。図5は、本発明の変形例1に係る上記密封装置2の具体例を説明する図である。なお、図5では、本変形例1の密封装置2の構成を明確にするために、接触リップ部25a、25b及び撥水層26がスリンガ47によって弾性変形する前の状態を示している。本変形例1と上記実施形態2との主な相違点は、接触リップ部の設置数を変更した点である。
【0046】
〔密封装置の構成例〕
図5に示すように、本変形例1の密封装置2は、芯金部材24と、密封リップ部材25と、撥水層26と、を備えている。芯金部材24は、所定の金属材料、例えば、鋼板を用いて構成されている。また、芯金部材24は、例えば、プレス加工を上記鋼板に施すことによって、図5に示す、所定の形状に形成されている。具体的にいえば、芯金部材24は、円筒状の筒部24aと、筒部24aに連続的に形成された略円板状の板部24bと、を有している。
【0047】
密封リップ部材25は、所定の弾性材料、例えば、ゴム材を使用して構成されている。また、密封リップ部材25は、例えば、加硫成型法を用いることによって、芯金部材24と一体的に固着されている。また、密封リップ部材25は、複数、例えば、2つの接触リップ部25a、25b及びこれらの2つの接触リップ部25a、25bに接続されたリップ基部25kと、を有している。
【0048】
本変形例1の密封装置2では、リップ基部25kが筒部24a及び板部24bと一体化されることにより、リップ基部25kが芯金部材24に支持されている。また、本変形例1の密封装置2では、リップ基部25kが、図5に例示するように、芯金部材24の外部空間OK側の表面を覆うように設けられているので、芯金部材24に錆が生じるのを抑えることができ、当該密封装置2によるシール性の低下を抑制することができる。
【0049】
また、本変形例1の密封装置2は、芯金部材24の筒部24aが外輪31の第1内周面31cに嵌合されることにより、転がり軸受30に取り付けられる。このとき、本変形例1の密封装置2では、接触リップ部25a、25b及び撥水層26が弾性変形をすることにより、内輪部材33に取り付けられたスリンガ47の軸受空間K側の表面に対して、これらの接触リップ部25a、25b及び撥水層26の各先端部が接触する。
【0050】
具体的にいえば、内輪部材33の内周面33bには、スリンガ47が当該内輪部材33に一体的に取り付けられており、当該スリンガ47は、内側部材として機能する。また、スリンガ47は、第1円筒状部47aと、第1円筒状部47aに連続的に設けられた円板状部47bと、軸受空間K側に突出するように円板状部47bに連続的に設けられた第2円筒状部47cを備えている。スリンガ47は、第1円筒状部47aが内周面33bに嵌合されることにより、内輪部材33に取り付けられる。本変形例1の密封装置2が転がり軸受30に取り付けられたときに、接触リップ部25a及び撥水層26の各先端部は、円板状部47bの表面によって弾性変形して当該表面に接触し、接触リップ部25bの先端部は、第1円筒状部47aの表面によって弾性変形して当該表面に接触する。なお、本変形例1の密封装置2は、芯金部材24とスリンガ47とを組み合わせた、パックシールタイプのインナーシールを構成している。
【0051】
さらに、本変形例1の密封装置2では、転がり軸受30の動作時において、接触リップ部25a、25b及び撥水層26の各先端部は、外輪31と内輪34との相対的な回転動作に応じて、スリンガ47の第1円筒状部47a及び円板状部47bの対応する表面を摺動面として接触した状態で回転する。なお、本変形例1の密封装置2では、上記摺動面上に所定の稠度を有するグリース(不図示)が塗布されており、当該グリースによって転がり軸受30の動作時でのトルクの増大を抑えるようになっている。
【0052】
また、接触リップ部25aは、転がり軸受30において、軸受空間Kを車軸40の軸方向に封止するアキシアルリップ(サイドリップ)として機能する。また、接触リップ部25aは、密封装置2において、最も外部空間OKの近くに配置された第1接触リップ部を構成している。一方、接触リップ部25bは、軸受空間Kを車軸40の軸方向と直交する方向に封止するラジアルリップとして機能する。換言すれば、接触リップ部25bは、最も軸受空間Kの近くに配置されたグリースリップを構成している。
【0053】
また、密封リップ部材25では、2つの各接触リップ部25a、25bにおいて、通気部が形成されている。具体的にいえば、接触リップ部25aには、その略中央部に通気部としての通気孔25eが形成されている。また、接触リップ部25bには、その先端部に通気部としての凹部状の切欠き25gが形成されている。
【0054】
また、接触リップ部25aにおいて、通気孔25eは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下の直径を有し、対応する上記略中央部を貫通した、断面円形状の貫通孔によって構成されている。
【0055】
また、接触リップ部25aの外部空間OK側の面には、撥水層26が設けられており、通気孔25eの開口の上部または周辺を覆うように形成されている。撥水層26は、例えば、撥水コーティングを用いて構成されている。具体的にいえば、撥水層26には、例えば、シリコーンまたはフッ素系の撥水コーティングが用いられている。また、撥水層26は、図4に例示するように、外部空間OK側で通気孔25eの開口の上部または周辺を覆うように、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内の膜厚で形成されている。
【0056】
また、撥水層26の撥水コーティングには、図3に示したように、例えば、当該撥水コーティングの表面Sに対する、水(水滴)Wとの接触角が110°以上の接触角を有するものが用いられている。
【0057】
以上のように構成された本変形例1の密封装置2は、実施形態2のものと同様な効果を奏する。
【0058】
また、本変形例1では、第2円筒状部47cがスリンガ47に設けられているので、外部空間OKからの水分等の侵入をより容易に抑えることができる。さらに、本変形例1では、第2円筒状部47cを設けたことにより、内輪(内側部材)34の回転に伴い、密封装置2の内部に一旦侵入した水分等が外部空間OKへ排出され易くすることができる。
【0059】
〔変形例2〕
本発明の変形例2について、図6を用いて具体的に説明する。図6は、本発明の変形例2に係る上記密封装置1の具体例を説明する図である。なお、図6では、本変形例2の密封装置1の構成を明確にするために、接触リップ部12a、12b及び撥水層13がハブ輪32によって弾性変形する前の状態を示している。また、説明の便宜上、上記実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0060】
図6に示すように、本変形例2の密封装置1では、第1連通孔11rが芯金部材11の板部11bに設けられている。また、第2連通孔12rが密封リップ部材12のリップ基部12kに設けられている。これらの第1連通孔11r及び第2連通孔12rは、互いに連通している。また、これらの第1連通孔11r及び第2連通孔12rは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下の直径を有し、板部11b及びリップ基部12kをそれぞれ貫通した、断面円形状の貫通孔によって構成されている。
【0061】
また、本変形例2の密封装置1では、外部空間OK側に設けられた第2連通孔12rにおいて、外部空間OK側の開口の上部または周辺を覆うように撥水層14が設けられている。この撥水層14は、撥水層13と同様に、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内の膜厚及び水との接触角θが110°以上である、シリコーンまたはフッ素系の撥水コーティングが用いられている。
【0062】
以上のように構成された本変形例2の密封装置1は、実施形態1のものと同様な効果を奏する。また、第1連通孔11r及び第2連通孔12rが互いに連通するように芯金部材11及び密封リップ部材12に設けられているので、軸受空間Kからの圧力を外部空間OKに容易に逃がすことができる。従って、本変形例2の密封装置1では、上記トルクの増大を容易に抑えることができる。さらに、本変形例2の密封装置1では、撥水層14が第2連通孔12rの開口の上部または周辺を覆うように設けられているので、外部空間OKからの水分等の侵入する可能性を低減することができる。
【0063】
〔変形例3〕
本発明の変形例3について、図7を用いて具体的に説明する。図7は、本発明の変形例3に係る上記密封装置2の具体例を説明する図である。なお、図7では、本変形例3の密封装置2の構成を明確にするために、接触リップ部22a、22b、22c及び撥水層23がスリンガ37によって弾性変形する前の状態を示している。また、説明の便宜上、上記実施形態2にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0064】
図7に示すように、本変形例3の密封装置2では、第1連通孔21rが芯金部材21の板部21bに設けられている。また、第2連通孔22rが密封リップ部材22のリップ基部22kに設けられている。これらの第1連通孔21r及び第2連通孔22rは、互いに連通している。また、これらの第1連通孔21r及び第2連通孔22rは、例えば、0.1mm以上0.3mm以下の直径を有し、板部21b及びリップ基部22kをそれぞれ貫通した、断面円形状の貫通孔によって構成されている。
【0065】
また、本変形例3の密封装置2では、外部空間OK側に設けられた第2連通孔22rにおいて、外部空間OK側の開口の上部または周辺を覆うように撥水層27が設けられている。この撥水層27は、撥水層23と同様に、例えば、0.1mm以上1.0mm以下の範囲内の膜厚及び水との接触角θが110°以上である、シリコーンまたはフッ素系の撥水コーティングが用いられている。
【0066】
以上のように構成された本変形例3の密封装置2は、実施形態2のものと同様な効果を奏する。また、第1連通孔21r及び第2連通孔22rが互いに連通するように芯金部材21及び密封リップ部材22に設けられているので、軸受空間Kからの圧力を外部空間OKに容易に逃がすことができる。従って、本変形例3の密封装置2では、上記トルクの増大を容易に抑えることができる。さらに、本変形例3の密封装置2では、撥水層27が第2連通孔22rの開口の上部または周辺を覆うように設けられているので、外部空間OKからの水分等の侵入する可能性を低減することができる。
【0067】
〔実施例〕
以下、本発明の密封装置について、図8も用いて、実施例と比較例1~2とを挙げてさらに詳細に説明する。図8は、実施例1及び比較例1~2における、検証試験の結果例を示す表である。しかしながら、本発明は下記の実施例のみに制限されるものではない。
【0068】
〔検証試験の評価結果〕
本検証試験では、例えば、図2に示した実施形態1の密封装置1と同等の構成を有するものを準備した。また、本検証試験では、図8に示すように、通気孔の直径及び撥水層での水との接触角が互いに異なる、実施例と比較例1~2とを準備した。そして、本検証試験では、上記通気孔の撥水層側の表面に水滴を垂らして、その水滴の水分が当該通気孔の内部に浸入するか否かについて検証した。
【0069】
図8から明らかなように、比較例1~2では、上記直径が0.1mm及び0.3mmのいずれの場合でも、水滴の水分が撥水層を通過して通気孔の内部に浸入していることが確かめられた。つまり、上記接触角が60°または90°である撥水コーティングを用いた場合、直径の大きさに関わらず、その撥水性が不足して、水分の通気孔側への浸入を許容したと考察される。
【0070】
一方、実施例では、水滴の水分が通気孔の内部側への浸入が確認されていなかった。換言すれば、上記接触角を110°以上とすることにより、撥水層の撥水コーティングによる撥水性、つまり水に対する密封性が十分であることが実証された。つまり、実施例から明らかなように、通気孔の直径を0.3mmと大きくした場合でも、適切な密封性が確保されていることが確認された。
【0071】
なお、通気孔の直径が0.3mmを超える値である場合には、通気孔の内部への水滴の水分が浸入する可能性を低減するために、例えば、撥水層の撥水コーティングの厚みを厚くしたり、上記接触角を110°よりも大きくなるように撥水コーティングを構成したりする必要が生じるおそれがある。また、通気孔の直径が0.1mm未満の値である場合には、当該通気孔の通気性が著しく低下することがあり、回転体の回転時での圧力を外部空間に適度に逃がすことができずに、上記トルクの低減を図ることが十分に行えないおそれがある。
【0072】
また、上記接触角が110°未満の値である場合には、比較例1~2に例示したように、撥水層の撥水コーティングの表面に対する、水分の水滴の濡れ性が高く、つまり水滴が当該表面上を広がり易くなって、通気孔の内部への浸入がし易くなる。
【0073】
なお、上記の説明では、撥水コーティングを用いて撥水層を構成した場合について説明した。しかしながら、本発明の撥水層はこれに限定されるものではなく、通気性を確保しつつ、水分やグリース等の潤滑剤などの液体の流入出を抑えることができるものであれば何等限定されない。
【0074】
また、上記の説明では、自動車の車軸を回転自在に軸支する転がり軸受に本発明の密封装置を適用した場合について説明した。しかしながら、本発明の密封装置は相互に回転可能な内側部材と外側部材との間の内部空間を密封するものであれば何等限定されない。
【0075】
〔まとめ〕
本発明の第1態様の密封装置は、相互に回転可能な内側部材と外側部材との間の内部空間を密封する密封装置であって、前記内側部材及び前記外側部材の一方に固定される芯金部材と、前記内側部材及び前記外側部材の他方に接触する、少なくとも2つの接触リップ部及び前記少なくとも2つの接触リップ部に接続されるとともに、前記芯金部材に支持されたリップ基部を有する密封リップ部材と、を備え、前記少なくとも2つの各接触リップ部には、通気部が形成され、かつ、前記少なくとも2つの接触リップ部のうち、最も外部空間の近くに配置されたものを第1接触リップ部とすると、前記第1接触リップ部の外部空間側の面には、撥水層が設けられている。
【0076】
上記構成によれば、通気部が少なくとも2つの各接触リップ部に形成されているので、内部空間を密封したときに、隣接する2つの接触リップ部の間が閉空間となるのを抑制することができる。このため、内側部材と外側部材とが相互に回転し温度が上昇した際に、内部空間からの圧力または接触リップ部間の圧力を外部空間に逃がすことができ、接触リップ部が相手面に押し当てられることによるトルクの増大を抑えることができる。また、撥水層が第1接触リップ部の外部空間側の面に設けられているので、外部空間からの水分等の侵入する可能性を低減することができる。この結果、回転体でのトルクの低減及び密封性に優れる密封装置を構成することができる。
【0077】
本発明の第2態様は、第1態様の密封装置であって、前記第1接触リップ部における前記通気部は、通気孔であり、前記撥水層は、撥水コーティングを用いて構成されてもよい。
【0078】
上記構成によれば、第1接触リップ部において、通気部は通気孔によって構成されているので、内部空間からの圧力または接触リップ部間の圧力を確実に外部空間に逃がすことができる。また、撥水層に撥水コーティングが用いられているので、外部空間からの水分等の侵入する可能性を確実に低減することができる。
【0079】
本発明の第3態様は、第2態様の密封装置であって、前記通気孔の直径は、0.1mm以上0.3mm以下であってもよい。
【0080】
上記構成によれば、外部空間からの水分等の侵入する可能性を確実に低減することができる。
【0081】
本発明の第4態様は、第2態様または第3態様の密封装置であって、前記撥水コーティングの水との接触角は、110°以上であってもよい。
【0082】
上記構成によれば、110°以上の接触角を有する撥水コーティングが用いられているので、外部空間からの水分等の侵入する可能性をより確実に低減することができる。
【0083】
本発明の第5態様は、第1態様から第4態様のいずれかの態様の密封装置であって、前記芯金部材に設けられた第1連通孔と、前記リップ基部に設けられた第2連通孔とが、互いに連通してもよい。
【0084】
上記構成によれば、内部空間と外部空間とは第1連通孔及び第2連通孔を介して連通することとなり、内部空間からの圧力を外部空間に容易に逃がすことができる。従って、上記トルクの増大を容易に抑えることができる。
【0085】
本発明の第6態様は、第5態様の密封装置であって、前記第1連通孔及び前記第2連通孔のうち、前記外部空間側に設けられた前記第1連通孔または前記第2連通孔には、前記外部空間側の開口の上部または周辺を覆うように撥水層が設けられてもよい。
【0086】
上記構成によれば、第1連通孔及び第2連通孔を設けた場合でも、外部空間からの水分等の侵入する可能性を低減することができる。
【0087】
本開示は上述した各実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、各実施形態及び各変形例に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる構成についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、転がり軸受等の密封装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1、2 密封装置
11、21、24 芯金部材
12、22、25 密封リップ部材
12a、22a、25a 接触リップ部(第1接触リップ部)
12b、22b、22c、25b 接触リップ部
12k、22k、25k リップ基部
12e、22e、25e 通気孔(通気部)
12g、22f、22g、25g 切欠き(通気部)
13、14、23、26、27 撥水層
31 外輪(外側部材)
34 内輪(内側部材)
K 軸受空間(内部空間)
OK 外部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8