(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007417
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】薄膜付き基板の製造方法、薄膜付き基板、多層反射膜付き基板の製造方法、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/38 20120101AFI20240110BHJP
G03F 1/84 20120101ALI20240110BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20240110BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20240110BHJP
H01L 21/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
G03F1/38
G03F1/84
G03F1/24
H01L21/66 J
H01L21/66 Z
H01L21/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023104244
(22)【出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022105149
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】岩本 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】笑喜 勉
(72)【発明者】
【氏名】塚越 健太
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雅広
【テーマコード(参考)】
2H195
4M106
【Fターム(参考)】
2H195BA02
2H195BA10
2H195BC19
2H195BC24
2H195BC26
2H195BD02
2H195BE04
2H195BE07
2H195CA07
2H195CA20
2H195CA23
4M106AA09
4M106CA39
4M106DJ21
4M106DJ40
(57)【要約】
【課題】薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに識別記号の検出を行うことができ、薄膜付き基板の個体識別と、薄膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能な、薄膜付き基板の製造方法を提供する。
【解決手段】基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有する前記薄膜付き基板に対して、欠陥検査を行うときに、前記薄膜の欠陥情報及び前記識別記号を検出する。これにより、前記薄膜付き基板の個体識別と、検出された前記薄膜の欠陥情報と前記識別記号との対応付けを行う。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板の製造方法であって、
前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有し、
前記薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに、前記薄膜の欠陥情報及び前記識別記号を検出し、
前記薄膜の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることを特徴とする薄膜付き基板の製造方法。
【請求項2】
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする請求項1に記載の薄膜付き基板の製造方法。
【請求項3】
前記基板は、6インチ角の基板であり、
前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜付き基板の製造方法。
【請求項4】
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜付き基板の製造方法。
【請求項5】
前記薄膜は2層以上の積層膜からなり、前記積層膜の各層の成膜後のうち2回以上の欠陥検査を行い、各欠陥検査を行うときに前記識別記号を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜付き基板の製造方法。
【請求項6】
基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板であって、
前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜の欠陥検査を行うときに検出可能な前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有することを特徴とする薄膜付き基板。
【請求項7】
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする請求項6に記載の薄膜付き基板。
【請求項8】
前記基板は、6インチ角の基板であり、
前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜付き基板。
【請求項9】
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする請求項6又は7に記載の薄膜付き基板。
【請求項10】
基板と、該基板上に形成されたEUV光を反射する多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板の製造方法であって、
前記多層反射膜付き基板の前記多層反射膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記多層反射膜付き基板に固有の識別記号を形成し、
前記多層反射膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに、前記多層反射膜の欠陥情報及び前記識別記号を検出し、
前記多層反射膜の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることを特徴とする多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項11】
前記多層反射膜付き基板は、前記多層反射膜上にさらに保護膜を有することを特徴とする請求項10に記載の多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項12】
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする請求項10又は11に記載の多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項13】
前記基板は、6インチ角の基板であり、
前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする請求項10又は11に記載の多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項14】
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする請求項10又は11に記載の多層反射膜付き基板の製造方法。
【請求項15】
基板と、該基板上に形成された多層反射膜とを含む多層反射膜付き基板であって、
前記多層反射膜付き基板の前記多層反射膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記多層反射膜の欠陥検査を行うときに検出可能な前記多層反射膜付き基板に固有の識別記号を有することを特徴とする多層反射膜付き基板。
【請求項16】
前記多層反射膜付き基板は、前記多層反射膜上にさらに保護膜を有することを特徴とする請求項15に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項17】
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする請求項15又は16に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項18】
前記基板は、6インチ角の基板であり、
前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする請求項15又は16に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項19】
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする請求項15又は16に記載の多層反射膜付き基板。
【請求項20】
請求項10又は11に記載の多層反射膜付き基板の製造方法により製造された多層反射膜付き基板と、該多層反射膜付き基板の上に形成されたEUV光を吸収する吸収体膜とを含むことを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項21】
請求項20に記載の反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜をパターニングして、吸収体膜パターンを形成することを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の反射型マスクの製造方法により製造された反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を有する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造に用いられる薄膜付き基板の製造方法、薄膜付き基板、多層反射膜付き基板の製造方法、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィ法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚ものフォトマスクと呼ばれている転写用マスクが使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィ法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィ法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す描画工程と、描画後、前記レジスト膜を現像して所望のレジストパターンを形成する現像工程と、このレジストパターンをマスクとして前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存するレジストパターンを剥離除去する工程とを経て行われている。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し所望のパターン描画を施した後に現像液を供給して、現像液に可溶なレジスト膜の部位を溶解し、レジストパターンを形成する。また、上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンの形成されていない薄膜が露出した部位を除去し、これにより所望のマスクパターンを透光性基板上に形成する。こうして、転写用マスクが出来上がる。
【0004】
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光膜パターンを有するバイナリ型マスクのほかに、位相シフト型マスクが知られている。
また、近年、半導体産業において、半導体装置の高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターン形成を可能とする技法として、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィがある。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィにおいて用いられるマスクとして反射型マスクがある。このような反射型マスクは、基板上に露光光であるEUV光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。
【0005】
以上のように、リソグラフィ工程でのパターン微細化に対する要求が高まっているが、新たな課題も発生している。その一つが、顧客先での受け入れ検査時のマスクブランク基板管理の問題である。
従来、例えば特許文献1には、マスクブランクス用ガラス基板表面における転写に影響のない領域であって、かつ鏡面状の表面に、レーザ光の照射により形成された上記ガラス基板及び/又は上記ガラス基板上にマスクパターンとなるマスクパターン用薄膜を形成したマスクブランクスを識別、又は管理するためのマーカとして用いられる凹部を備えるマスクブランクス用ガラス基板が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-309143号公報
【特許文献2】特開2015-043100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されているレーザ光で上記マーカを形成すると発塵が生じて欠陥の原因となるため、実際には適用が困難であった。特に、EUV光を用いる多層反射膜付き基板又は反射型マスクブランクでは、欠陥に対する要求が非常に厳しいため、上記の従来技術を適用することが難しく、多層反射膜付き基板又は反射型マスクブランクにおいてその個体識別を行う場合には、反射型マスク作製前に欠陥マップと照合して個体識別を行っていた。しかし、欠陥数が少ない又はゼロの場合には、欠陥マップとの照合ができないため多層反射膜付き基板又は反射型マスクブランクの個体識別が困難であった。
特許文献2には、ガラス基板の側面に読取装置で光学的に読取可能なID(識別子)がコード化されて形成されたマスク基板を用いて描画管理を行うことが提案されている。しかしながら、特許文献2では、簡易なプロセスで多層反射膜の成膜段階から多層反射膜付き基板又は反射型マスクブランクの個体識別管理を行うことが困難であった。
【0008】
そこで本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、第1に、多層反射膜付き基板、マスクブランク等の薄膜付き基板に固有の識別記号(ID)を設け、この薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに識別記号の検出を行うことができ、これにより、薄膜付き基板の個体識別と、薄膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能な、薄膜付き基板の製造方法、薄膜付き基板、多層反射膜付き基板の製造方法、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法を提供することである。
本発明の目的とするところは、第2に、この反射型マスクを使用する半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の課題を解決するべく鋭意研究を続けた結果、以下の発明を完成した。
(構成1)
基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板の製造方法であって、前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有し、前記薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに、前記薄膜の欠陥情報及び前記識別記号を検出し、前記薄膜の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることを特徴とする薄膜付き基板の製造方法である。
【0010】
(構成2)
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする構成1に記載の薄膜付き基板の製造方法である。
(構成3)
前記基板は、6インチ角の基板であり、前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする構成1又は2に記載の薄膜付き基板の製造方法である。
【0011】
(構成4)
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする構成1乃至3の何れか1つに記載の薄膜付き基板の製造方法である。
(構成5)
前記薄膜は2層以上の積層膜からなり、前記積層膜の各層の成膜後のうち2以上の欠陥検査を行い、各欠陥検査を行うときに前記識別記号を検出することを特徴とする構成1乃至4の何れか1つに記載の薄膜付き基板の製造方法である。
【0012】
(構成6)
基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板であって、前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜の欠陥検査を行うときに検出可能な前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有することを特徴とする薄膜付き基板である。
【0013】
(構成7)
前記識別記号の大きさは、10μm~500μmであることを特徴とする構成6に記載の薄膜付き基板である。
(構成8)
前記基板は、6インチ角の角型基板であり、前記パターン転写に影響のない領域は、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域であることを特徴とする構成6又は7に記載の薄膜付き基板である。
【0014】
(構成9)
前記パターン転写に影響のない領域に、基準マークを有することを特徴とする構成6乃至8の何れか1つに記載の薄膜付き基板である。
【0015】
前記薄膜は、EUV光を反射する多層反射膜であり、前記薄膜付き基板は、多層反射膜付き基板とすることができる。
【0016】
前記多層反射膜付き基板と、該多層反射膜付き基板の上に形成されたEUV光を吸収する吸収体膜とを含む反射型マスクブランクとすることができる。
【0017】
前記反射型マスクブランクにおける前記吸収体膜をパターニングして、吸収体膜パターンを形成する反射型マスクの製造方法とすることができる。
【0018】
前記反射型マスクの製造方法により製造された反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を有する半導体装置の製造方法とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、多層反射膜付き基板、マスクブランク等の薄膜付き基板に固有の識別記号(ID)を設け、この薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに識別記号の検出を行うことができる。これにより、薄膜付き基板の個体識別と、薄膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、薄膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク等の適切な枚葉管理を行うことができる。また、この反射型マスクを使用する半導体装置の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板を示す平面図である。
【
図2】
図1に示す多層反射膜付き基板の概略断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランク及び反射型マスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を詳述する。
本発明の薄膜付き基板の製造方法は、上記のとおり、基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板の製造方法であって、前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有し、前記薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに、前記薄膜の欠陥情報及び前記識別記号を検出し、前記薄膜の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることを特徴とするものである。
【0022】
また、本発明の薄膜付き基板は、上記のとおり、基板と、該基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板であって、前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜の欠陥検査を行うときに検出可能な前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有することを特徴とするものである。
【0023】
ここでいう薄膜とは、本発明の薄膜付き基板が、例えばEUV露光用の反射型マスクブランクである場合、下地層、多層反射膜、保護膜、吸収体膜、ハードマスク膜(エッチングマスク膜)、及び/又は裏面導電膜等である。また、本発明の薄膜付き基板が、例えば、紫外光露光用のフォトマスクブランクである場合、上記薄膜とは、遮光膜、位相シフト膜、及び/又はハードマスク膜(エッチングマスク膜)等である。
【0024】
本発明では、薄膜付き基板の薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号(ID)を有することが重要である。
【0025】
この識別記号(ID)は、個々の基板を識別する情報を付与できる形状のものである。具体的には、この識別記号(ID)として、QRコード(登録商標)などの二次元コードや、バーコード、英数字、ドットマークの配列などの記号を適用することができる。
【0026】
さらに、この識別記号(ID)は、薄膜付き基板の欠陥検査を行うときに検出可能なものである。つまり、使用する欠陥検査装置の検査光で検出可能な識別記号である。そのためには、識別記号の大きさは、使用する欠陥検査装置の検査光源波長にもよるが、概ね10μm~500μmであることが好適である。また、「欠陥検査を行うときに欠陥情報及び識別記号を検出する」又は「欠陥検査を行うときに検出可能」とは、1つの欠陥検査装置によって薄膜を走査したり撮像したりして欠陥情報を検出する一連の動作の中で、識別記号(ID)も検出することを意味する。すなわち、欠陥情報を取得するための走査・撮像領域(欠陥検査領域)内に識別記号(ID)を設けて、欠陥情報と識別記号(ID)を一度に検出することができる。また、欠陥情報を取得するための走査・撮像領域とは別の領域に、識別記号(ID)を設ける構成としてもよい。この場合には、欠陥検査装置によって、識別記号(ID)を検出した後に引き続き欠陥情報を取得する、又は欠陥情報を取得した後に引き続き識別記号(ID)を検出することができる。
【0027】
また、欠陥情報とは、欠陥の位置、寸法及び/又は種類に関する情報を含むものである。また、識別記号に対応付ける情報としては、上記欠陥情報に加えて、薄膜情報及び/又は基板情報とすることができる。薄膜情報は、薄膜の物理的特性、化学的特性、電気的特性、光学的特性、薄膜表面の表面形態、材料、成膜条件のうち少なくとも何れか一つを含む情報である。基板情報は、ガラス基板の物理的特性、化学的特性、光学的特性、基板表面の表面形態、形状、材料、欠陥のうち少なくとも何れか一つを含む情報とする。薄膜表面又は基板表面の表面形態としては、表面粗さ、うねり、平坦度(フラットネス)、平行度、凸形状、凹形状などが挙げられる。
【0028】
また、薄膜付き基板の薄膜が形成されている側の表面に上記識別記号(ID)を設ける場合、上記のパターン転写に影響のない領域とは、基板の大きさが約152.0mm×約152.0mm(6インチ角)の場合、例えば、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と148mm×148mmの大きさの領域との間の帯状領域とすることができる。また、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と、142mm×142mmの大きさの領域との間の帯状領域とすることができる。
【0029】
また、上記のパターン転写に影響のない領域には、欠陥検査装置で薄膜上の欠陥を検査した際に欠陥座標の基準として使用できる基準マーク(アライメントマーク(AM)とも呼ばれる)や、電子線描画装置によるパターン描画の際に欠陥座標の基準として使用できる基準マーク(フィデュシャルマーク(FM)とも呼ばれる)を有してもよい。なお、アライメントマーク(AM)、フィデュシャルマーク(FM)の詳細は後述する。
【0030】
また、薄膜付き基板の薄膜が2層以上の積層膜からなる場合、例えば、上記の反射型マスクブランクのように、基板上に多層反射膜および吸収体膜を少なくとも有する場合、これら積層膜の各層の成膜後のうち2回以上の欠陥検査を行い、各欠陥検査を行うときに前記識別記号を検出することができる。つまり、多層反射膜を成膜後に欠陥検査を行い、欠陥情報及び識別記号を検出した後、多層反射膜上に吸収体膜を成膜し、吸収体膜の欠陥検査を行い、欠陥情報及び識別記号を検出することができる。
【0031】
本発明によれば、多層反射膜付き基板、マスクブランク等の薄膜付き基板に固有の識別記号(ID)を設け、この薄膜付き基板に対して欠陥検査を行うときに識別記号の検出を行うことができる。これにより、薄膜付き基板の個体識別と、薄膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、薄膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク等の適切な枚葉管理を行うことができる。
【0032】
また、本発明は、マスクブランク用基板と、該マスクブランク用基板上に形成された薄膜とを含む薄膜付き基板の製造方法であって、前記薄膜付き基板の前記薄膜が形成されている側の表面であって、パターン転写に影響のない領域に、前記薄膜付き基板に固有の識別記号を有し、前記薄膜の欠陥検査における検査光と同じ波長で前記識別記号を検出し、前記マスクブランク用基板の欠陥検査で得られた基板の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることを特徴とする薄膜付き基板の製造方法についても提供するものである。
【0033】
次に、本発明の薄膜付き基板の製造方法および薄膜付き基板の一実施形態に係る多層反射膜付き基板の製造方法、多層反射膜付き基板について説明する。
[多層反射膜付き基板の製造方法、多層反射膜付き基板]
図1は、本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板を示す平面図であり、
図2は、
図1に示す多層反射膜付き基板の概略断面図である。
【0034】
図1、
図2に示されるように、本発明の一実施形態に係る多層反射膜付き基板20は、ガラス基板10(以下、基板と称する)上に、露光光であるEUV光を反射する多層反射膜21が少なくとも形成されている。この多層反射膜付き基板20の主表面上のパターン形成領域(
図1に破線Aで示す領域内)と走査・撮像領域(欠陥検査領域)(
図1に破線Bで示す領域内)との間の帯状領域100内の4つのコーナー近傍のうちの1箇所に、当該多層反射膜付き基板20に固有の識別記号(ID)24を有している。この帯状領域100は、多層反射膜付き基板20の多層反射膜21が形成されている側の主表面であって、パターン転写に影響のない領域である。なお、上記パターン形成領域は、後述の吸収体膜31(
図6)において転写パターンを形成する領域であり、6インチ角の基板では、例えば132mm×132mmの領域である。また、上記走査・撮像領域(欠陥検査領域)は、6インチ角の基板では、例えば148mm×148mmの領域である。
【0035】
また、同じく帯状領域100内の4つのコーナー近傍には、多層反射膜の欠陥情報の基準となる第1の基準マーク22(前出のアライメントマーク(AM))が形成されている。
【0036】
本実施形態の多層反射膜付き基板20は、基板10上に、露光光の例えばEUV光を反射する多層反射膜21を成膜することにより作製される(
図2参照)。
【0037】
EUV露光用の場合、基板としては基板10が好ましく、特に、露光時の熱によるパターンの歪みを防止するため、0±1.0×10-7/℃の範囲内、より好ましくは0±0.3×10-7/℃の範囲内の低熱膨張係数を有するものが好ましく用いられる。この範囲の低熱膨張係数を有する素材としては、例えば、SiO2-TiO2系ガラス、多成分系ガラスセラミックス等を用いることが出来る。
【0038】
上記基板10の転写パターンが形成される側の主表面は、少なくともパターン転写精度、位置精度を向上させる観点から高平坦度となるように表面加工されている。EUV露光用の場合、基板10の転写パターンが形成される側の主表面142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下であることが好ましく、特に好ましくは0.05μm以下である。また、転写パターンが形成される側と反対側の主表面は、露光装置にセットする時に静電チャックされる面であって、142mm×142mmの領域において、平坦度が0.1μm以下、好ましくは0.05μm以下である。
【0039】
また、上記基板10としては、上記のとおり、SiO2-TiO2系ガラスなどの低熱膨張係数を有する素材が好ましく用いられるが、このようなガラス素材は、精密研磨により、表面粗さとして例えば二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.1nm以下の高平滑性を実現することが困難である。そのため、基板10の表面粗さの低減、若しくは基板10表面の欠陥を低減する目的で、基板10の表面に下地層を形成してもよい。このような下地層の材料としては、露光光に対して透光性を有する必要はなく、下地層表面を精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好となる材料が好ましく選択される。例えば、Si又はSiを含有するケイ素化合物(例えばSiO2、SiONなど)は、精密研磨した時に高い平滑性が得られ、欠陥品質が良好なため、下地層の材料として好ましく用いられる。下地層の材料は、特にSiが好ましい。
【0040】
下地層の表面は、反射型マスクブランク用基板として要求される平滑度となるように精密研磨された表面とすることが好適である。下地層の表面は、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.15nm以下、特に好ましくは0.1nm以下となるように精密研磨されることが望ましい。また、下地層の表面は、下地層上に形成する多層反射膜21の表面への影響を考慮すると、最大高さ(Rmax)との関係において、Rmax/Rqが2~10であることが良く、特に好ましくは、2~8となるように精密研磨されることが望ましい。下地層の膜厚は、例えば10nm~300nmの範囲が好ましい。
【0041】
上記多層反射膜21は、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させた多層膜であり、一般的には、重元素又はその化合物の薄膜と、軽元素又はその化合物の薄膜とが交互に40~60周期程度積層された多層膜が用いられる。
例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜としては、Mo膜とSi膜を交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましく用いられる。その他に、EUV光の領域で使用される多層反射膜として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、Si/Ru/Mo/Ru周期多層膜などがある。露光波長に応じて、材質を適宜選択すればよい。
【0042】
通常、吸収体膜のパターニング或いはパターン修正の際に多層反射膜を保護する目的で、上記多層反射膜21上には、保護膜(キャッピング層あるいはバッファ膜とも呼ばれることがある。)を設けることが好ましい。このような保護膜は、例えば、ルテニウムを主成分として含む材料により形成される。ルテニウムを主成分として含む材料としては、Ru金属単体、Ruにチタン(Ti)、ニオブ(Nb)、ロジウム(Rh)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、ホウ素(B)、ランタン(La)、コバルト(Co)及びレニウム(Re)から選択される少なくとも1つの金属を含有したRu合金、及びそれらに窒素を含む材料が挙げられる。また、保護膜の膜厚としては、例えば1nm~5nm程度の範囲が好ましい。
【0043】
以上の下地層、多層反射膜21、及び保護膜の成膜方法は特に限定されないが、通常、イオンビームスパッタリング法や、マグネトロンスパッタリング法などが好適である。
【0044】
なお、
図1、
図2では、上記多層反射膜付き基板20の一実施形態として、上記のとおり、基板10上に多層反射膜21を成膜したものについて示しているが、本発明では、多層反射膜付き基板は、基板10上に、上記多層反射膜21、及び保護膜を順に成膜した態様や、基板10上に、上記下地層、多層反射膜21、及び保護膜をこの順に成膜した態様を含むものとする。
【0045】
上記の識別記号24は、前述したように、個々の基板を識別する情報を付与できる形状のものである。この識別記号24として、例えば、QRコード(登録商標)などの二次元コード、バーコード、英数字、
図3に示すようなライン間の幅の異なるラインの配列、又は
図4に示すようなドットマークの配列などの記号を適用することができる。例えば、
図3では、短ラインでアルファベットを示し、長ライン間の幅で数字を定義することができる。また、
図4では、短ラインでアルファベットを示し、長ラインを基準として、ドットマークの縦横の配列で数字を定義することができる。上記の識別記号24は、個々の基板を識別する情報を付与できる形状のものであればよいので、上記の例示には限定されない。
【0046】
また、この識別記号24は、使用する欠陥検査装置の検査光で検出可能な識別記号である。例えば、反射型マスクや、その原版である反射型マスクブランク、多層反射膜付き基板、及び基板(サブストレート)の欠陥検査装置としては、検査光源波長が266nmであるレーザーテック社製のEUV露光用のマスク・サブストレート/ブランク欠陥検査装置「MAGICS M7360」、検査光源波長が355nmであるレーザーテック社製のEUV露光用のマスク・サブストレート/ブランク欠陥検査装置「MAGICS M8650」、検査光源波長が213nmであるレーザーテック社製のEUV露光用のマスク・サブストレート/ブランク欠陥検査装置「MAGICS M9650」、検査光源波長が193nmであるKLA-Tencor社製のマスク/ブランク欠陥検査装置「Teron600シリーズ、例えばTeron610」などが普及している。そして、多層反射膜付き基板の欠陥検査装置としては、検査光源波長を露光光源波長の13.5nmとするABI(Actinic Blank Inspection)装置が好適である。また、欠陥の表面の凹凸情報を得ることができる原子間力顕微鏡(AFM)、走査電子顕微鏡(SEM)、又はEUV光顕微鏡を用いることができる。さらに、波長365nmのレーザで座標計測を行うKLA-Tencor社製の座標計測器「LMS-IPRO4」、波長193nmのレーザで座標計測を行うCarl Zeiss社製の座標計測器「PROVE」を用いることもできる。
従って、識別記号24の大きさは、使用する欠陥検査装置の検査光源波長にもよるが、概ね、縦10μm~500μm、好ましくは10μm~200μm、より好ましくは80μm~120μm、横10μm~500μm、好ましくは10μm~200μm、より好ましくは80μm~120μmの矩形内に収まる大きさであることが好適である。
【0047】
本実施形態では、上記識別記号24は、例えばレーザ光、集束イオンビーム、フォトリソ法、微小圧子によるインデンテーション(パンチ)、ダイヤモンド針を走査しての加工痕やインプリント法による型押し等で、多層反射膜21に所望の深さを持つ、凹形状(断面形状)を形成している。識別記号24は、半導体レーザを用いて形成することが好ましい。識別記号24の断面形状が凹形状の場合、欠陥検査光による検出精度を向上させる観点から、凹形状の底部から表面側へ向かって広がるように形成された断面形状であることが好ましい。なお、識別記号24の断面形状は、凹形状に限られず、凸形状でもよく、欠陥検査装置で精度良く検出可能な断面形状であればよい。
【0048】
また、本実施形態では、上記識別記号24は、多層反射膜21の表面に設けているが、前述したように、該多層反射膜21の上に前述の保護膜を成膜する場合は、保護膜の表面に上記識別記号24を設けるようにしてもよい。
【0049】
本実施形態では、上記識別記号24は、転写に影響のない上記帯状領域100内のコーナー近傍の1箇所に設けているが、2~4箇所に設けるようにしてもよい。また、コーナー近傍でなくてもよい。
【0050】
また、本実施形態のように、同じく帯状領域100内に、多層反射膜21の欠陥情報の基準となる上記第1の基準マーク22を有する場合、つまり、識別記号24と第1の基準マーク22が同じ領域内に含まれる位置関係にある場合、識別記号24は、少なくとも1箇所の第1の基準マーク22と近接する位置であって、第1の基準マーク22と混同しない位置に設けることが好ましい。例えば、識別記号24と第1の基準マーク22とは、3×3mmで囲まれる領域内に設けられることが好ましい。
【0051】
本実施形態では、上記識別記号24は、上記多層反射膜21の表面に設けているが、上記基板10の表面または側面に形成してもよい。また、基板10と多層反射膜21との間に下地層を有する場合には、下地層の表面に形成してもよい。識別記号24を基板10又は下地層の表面に形成した場合には、識別記号24の形状が上記多層反射膜21に転写されることとなる。
【0052】
次に、上記第1の基準マーク22について説明する。
図5は、第1の基準マーク22の形状を示す図である。
上述の実施形態では、転写に影響のない上記の帯状領域100内のコーナー近傍の4箇所に、多層反射膜21の欠陥情報の基準となる第1の基準マーク22が形成されている。
【0053】
上記第1の基準マーク22は、欠陥情報における欠陥位置の基準となるものである。そして、上記第1の基準マーク22は、点対称の形状であることが好ましい。さらには、例えば100nmよりも短い短波長光を欠陥検査光とする前述のABI装置などを欠陥検査に用いる場合、第1の基準マーク22は欠陥検査光の走査方向に対して30nm以上1000nm以下の幅の部分を有することが好ましい。
【0054】
図5には、第1の基準マーク22のいくつかの形状を示しているが、
図5(a)のような円形の基準マークが代表的な例である。また、例えば
図5(b)に示すような菱型、
図5(c)に示すような八角形の形状や、
図5(d)に示すような十字形状であってもよい。また、図示していないが、上記第1の基準マーク22は、正方形や正方形の角部が丸みを帯びた形状とすることもできる。
【0055】
上記第1の基準マーク22は点対称の形状を有することで、例えば欠陥検査光の走査によって決定される欠陥位置の基準点のずれを小さくすることができ、第1の基準マーク22を元に検査した欠陥検出位置のばらつきを小さくすることができる。
【0056】
上記第1の基準マーク22は、前述の識別記号24と同様、例えば半導体レーザ等のレーザ光、集束イオンビーム、フォトリソ法、微小圧子によるインデンテーション(パンチ)、ダイヤモンド針を走査しての加工痕やインプリント法による型押し等で、多層反射膜21に所望の深さを持つ、凹形状(断面形状)を形成している。第1の基準マーク22の断面形状が凹形状の場合、欠陥検査光による検出精度を向上させる観点から、凹形状の底部から表面側へ向かって広がるように形成された断面形状であることが好ましい。なお、第1の基準マーク22の断面形状は、凹形状に限られず、凸形状でもよく、欠陥検査装置で精度良く検出可能な断面形状であればよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態によれば、多層反射膜付き基板20に、欠陥検査装置で検出可能な、該多層反射膜付き基板20に固有の識別記号24を設けることにより、この多層反射膜付き基板20に対して欠陥検査を行うときに識別記号の検出を行うことができ、多層反射膜付き基板20の個体識別と、多層反射膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、多層反射膜付き基板20の適切な枚葉管理を行うことができる。また、多層反射膜の欠陥情報に加えて、例えば前述した基板のフラットネス等の基板情報と識別記号との対応付けも容易に行うことが可能である。さらに、多層反射膜の欠陥情報に加えて、前述した薄膜情報と識別記号との対応付けも容易に行うことが可能である。また、識別情報と対応付けられた欠陥情報、基板情報又は薄膜情報は、顧客に提供することができる。
【0058】
[反射型マスクブランク、反射型マスクの製造方法]
次に、本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランク、該反射型マスクブランクを用いる反射型マスクの製造方法について説明する。
図6は、本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランク及び反射型マスクの製造工程を示す概略断面図であり、
図8は、本発明の一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す平面図である。
【0059】
図6(a)は、上述の多層反射膜付き基板20を示す。この多層反射膜付き基板20は、上述したように、多層反射膜21の表面の転写に影響のない領域内に、上記識別記号24と上記第1の基準マーク22を有している。この多層反射膜付き基板20の構成や、識別記号24と第1の基準マーク22についてはすでに詳しく説明したとおりであるので、ここでは重複説明は省略する。
【0060】
次に、上記識別記号24および上記第1の基準マーク22を有する多層反射膜付き基板20に対して欠陥検査を行う。すなわち、多層反射膜付き基板20に対して、欠陥検査装置により、上記第1の基準マーク22を含めて欠陥検査を行い、欠陥検査により検出された欠陥と位置情報とを取得し、第1の基準マーク22を含めた欠陥情報を得る。また、この場合の欠陥検査は、少なくともパターン形成領域の全面に対して行う。これにより、上記第1の基準マーク22を基準とした欠陥情報(第1の欠陥マップ)を作成する。
【0061】
上述したように、この多層反射膜付き基板20に対する欠陥検査の一連の動作の際に上記識別記号24を検出することができる。この識別記号24は当該多層反射膜付き基板20に固有のものであり、多層反射膜付き基板20に対して欠陥検査を行って多層反射膜の欠陥情報及び識別記号24を同時に検出できることで、多層反射膜付き基板20の個体識別と、多層反射膜の欠陥情報(欠陥マップ)と識別記号24との対応付けを容易に行うことが可能である。
また、多層反射膜付き基板20に対して、波長の異なる欠陥検査装置を用いて、複数の欠陥検査を行ってもよい。この場合、各欠陥検査において、欠陥検査と同時に上記識別記号24を検出することができる。多層反射膜付き基板20に対して複数の欠陥検査を行って多層反射膜の各欠陥情報及び識別記号24を同時に検出することで、より高精度な欠陥管理を行うことが可能となる。
また、多層反射膜付き基板20表面の欠陥検査については、全面検査ではなく、検査時間を短縮した部分検査を行うことも可能である。
【0062】
次に、上記多層反射膜付き基板20における上記多層反射膜21(多層反射膜の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)上の全面に、EUV光を吸収する吸収体膜31を成膜し、反射型マスクブランクを作製する(
図6(b)参照)。
なお、図示していないが、基板10の多層反射膜等が形成されている側とは反対側に裏面導電膜を設けてもよい。この裏面導電膜を設ける場合は、上記基板10の裏面導電膜が形成される表面又は裏面導電膜に上記識別記号24を設けてもよい。識別記号24を基板10の表面に形成した場合には、識別記号24の形状が上記裏面導電膜に転写されることとなる。これは、特に、裏面導電膜に対しても欠陥検査を行う場合には好適である。
【0063】
上記吸収体膜31は、露光光である、例えばEUV光を吸収する機能を有するもので、反射型マスクブランクを使用して作製される反射型マスク40(
図6(d)参照)において、上記多層反射膜21(多層反射膜の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン31aによる反射光との間で所望の反射率差を有するものであればよい。例えば、EUV光に対する吸収体膜31の反射率は、0.1%以上40%以下の間で選定される。また、上記反射率差に加えて、上記多層反射膜21(多層反射膜の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン31aによる反射光との間で所望の位相差を有するものであってもよい。なお、上記多層反射膜21(多層反射膜の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン31aによる反射光との間で所望の位相差を有する場合、反射型マスクブランクにおける吸収体膜31を位相シフト膜と称する場合がある。上記多層反射膜21(多層反射膜の表面に上記保護膜を有する場合には、その保護膜)による反射光と、吸収体膜パターン31aによる反射光との間で所望の位相差を設けて、コントラストを向上させる場合、位相差は170度から260度の範囲に設定するのが好ましく、吸収体膜31の反射率は、3%以上40%以下に設定するのが好ましい。
【0064】
上記吸収体膜31は、単層でも積層構造であってもよい。積層構造の場合、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜でもよい。積層膜は、材料や組成が膜厚方向に段階的及び/又は連続的に変化したものとすることができる。
【0065】
上記吸収体膜31の材料としては、EUV光を吸収する機能を有し、エッチング等により加工が可能(好ましくは塩素(Cl)系ガス及び/又はフッ素(F)系ガスのドライエッチングでエッチング可能)であり、保護膜に対してエッチング選択比が高い材料である限り、特に限定されない。そのような機能を有するものとして、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、ハフニウム(Hf)、鉄(Fe)、銅(Cu)、テルル(Te)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、及びケイ素(Si)から選ばれる少なくとも1つの金属、2以上の金属を含む合金又はこれらの化合物を好ましく用いることができる。化合物は、上記金属又は合金に、酸素(O)、窒素(N)、炭素(C)及び/又はホウ素(B)を含んでもよい。
上記吸収体膜31の膜厚としては、例えば30nm~100nm程度の範囲が好ましい。吸収体膜31の成膜方法は特に限定されないが、通常、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などが好適である。
【0066】
上記吸収体膜31を成膜することにより、上記多層反射膜21の表面に有する識別記号24および第1の基準マーク22は、吸収体膜31の表面にも転写される(
図6(b)参照)。本実施形態では、上記識別記号24および第1の基準マーク22はいずれも断面形状が凹形状に形成されているため、吸収体膜31の表面には、断面が凹状に窪んで転写された識別記号24aおよび第1の基準マーク22aが形成される。
【0067】
次に、上記吸収体膜31の表面に第2の基準マーク42を形成する(
図6(c)参照)。本実施形態では、吸収体膜31の表面に転写された第1の基準マーク22aの近傍に第2の基準マーク42を形成している(
図8参照)。前述したように、この第2の基準マーク42は、電子線描画装置によるパターン描画の際に欠陥座標の基準として使用できる基準マーク(フィデュシャルマーク(FM)とも呼ばれる)である。
【0068】
図7には、第2の基準マーク42のいくつかの形状を示しているが、
図7(a)のような十字形の基準マークが代表的な例である。また、例えば
図7(b)に示すようなL字形状や、
図7(c)に示すようにメインマーク42aの周囲に90度の角度間隔を置いて4つの補助マーク42b~42eを配置したものや、
図7(d)に示すようにメインマーク42aの周囲に90度の角度間隔を置いて2つの補助マーク42b,42cを配置した基準マークとすることもできる。なお、本発明はこのような第2の基準マークの実施形態に限定されるわけではない。
【0069】
また、
図7(a)の十字形状や
図7(b)のL字形状、
図7(c)や
図7(d)のように上記メインマーク42aの周囲に配置される補助マーク42b~42e(42b、42c)は、欠陥検査光又は電子線描画装置の走査方向に沿って配置されることが好ましく、特に欠陥検査光又は電子線描画装置の走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状を含むことが好適である。第2の基準マークが、欠陥検査光又は電子線の走査方向に対して垂直な長辺と平行な短辺を有する矩形状を含むことにより、欠陥検査装置又は電子線描画装置の走査により第2の基準マークを確実に検出できるため、第1の基準マークに対する第2の基準マークの位置を容易に特定することができる。この場合、第2の基準マークの長辺は、欠陥検査装置又は電子線描画装置のできるだけ最小回数の走査により検出可能な長さであることが望ましく例えば、100μm以上1500μm以下の長さを有することが望ましい。
【0070】
また、本実施形態では、上記第2の基準マーク42は、例えば半導体レーザ等のレーザ光、フォトリソ法、又は集束イオンビームで吸収体膜31に所望の深さを持つ、凹形状(断面形状)を形成している。しかし、第2の基準マーク42の断面形状は、凹形状に限られず、凸形状でもよく、欠陥検査装置や電子線描画装置で精度良く検出可能な断面形状であればよい。
本発明においては、第1及び第2の基準マークの個数は特に限定されない。第1及び第2の基準マークについては、最低3個必要であるが、3個以上であっても構わない。
【0071】
本実施形態では、上記識別記号24は、転写に影響のない上記帯状領域100内のコーナー近傍の1箇所に設けているが、2~4箇所に設けるようにしてもよい。また、上記識別記号24の設置箇所はコーナー近傍でなくてもよい。また、本実施形態のように、帯状領域100内に、上記識別記号24、上記第1の基準マーク22、上記第2の基準マーク42を有する場合、つまり、識別記号24と第1の基準マーク22と第2の基準マーク42が同じ領域内に含まれる位置関係にある場合、第2の基準マーク42は、少なくとも1箇所の第1の基準マーク22と近接する位置であって、識別記号24と混同しない位置に設けることが好ましい。
なお、第1の基準マーク22は、第2の基準マーク42を兼ねることが可能であり、その場合には、第2の基準マーク42を吸収体膜31上に設ける必要はない。
【0072】
このようにして、転写に影響のない帯状領域100内に、上記識別記号24(24a)、上記第1の基準マーク22(22a)及び上記第2の基準マーク42を有する反射型マスクブランク30が得られる(
図6(c)、
図8参照)。
【0073】
次に、前述の座標計測器を用いて、上記第2の基準マーク42及び上記第1の基準マーク22aを検査し、第2の基準マーク42を基準とする第1の基準マーク22aの位置座標を検出する。その後、上記第2の基準マーク42を基準とした第1の基準マーク22aの座標を用いて、上記欠陥情報(第1の欠陥マップ)を、第2の基準マーク42を基準とした欠陥情報(第1’の欠陥マップ)に変換する。これにより高精度な欠陥管理を行うことが可能であり、その結果、欠陥位置情報を含む精度の良い欠陥情報を取得することができる。この第1の基準マーク22aと第2の基準マーク42は、前述のLMS-IPRO4のような座標計測器を用いて検査を行うことが好適である。このとき、座標計測器で識別記号24aを検出することにより、相対座標管理の際においても、反射型マスクブランク30の枚葉管理を行うことが可能となる。
【0074】
次に、上記識別記号24aおよび上記第1の基準マーク22aを有する反射型マスクブランク30に対して、例えば上記多層反射膜上の欠陥検査を行った検査装置による検査光とは異なる検査光を用いて欠陥検査を行う。すなわち、反射型マスクブランク30に対して、欠陥検査装置により、上記第1の基準マーク22aを含めて欠陥検査を行い、欠陥検査により検出された欠陥と位置情報とを取得し、第1の基準マーク22aを含めた欠陥情報を得る。また、この場合の欠陥検査は、少なくともパターン形成領域の全面に対して行う。これにより、上記第1の基準マーク22aを基準とした欠陥情報(第3の欠陥マップ)を作成する。
【0075】
その後、第2の基準マーク42を基準とした第1の基準マーク22aの座標を用いて、上記欠陥情報(第3の欠陥マップ)を第2の基準マーク42を基準とした欠陥情報(第3’の欠陥マップ)に変換する。この反射型マスクブランク30に対する欠陥検査の一連の動作の際に上記識別記号24aを検出することができる。反射型マスクブランク30に対して欠陥検査を行って反射型マスクブランク30の欠陥情報及び識別記号24aを同時に検出できることで、反射型マスクブランク30の個体識別と、欠陥情報(第3の欠陥マップ又は第3’の欠陥マップ)と識別記号24aとの対応付けを容易に行うことが可能である。
なお、反射型マスクブランク30表面の欠陥検査については、行わなくてもよい。また、反射型マスクブランク30表面の欠陥検査については、全面検査ではなく、検査時間を短縮した部分検査を行うことも可能である。
【0076】
また、本実施形態に係る反射型マスクブランク30には、上記吸収体膜31上に、ハードマスク膜(エッチングマスク膜とも言う。)を形成した態様も含まれる。ハードマスク膜は、吸収体膜31をパターニングする際にマスク機能を有するものであり、吸収体膜31の最上層の材料とエッチング選択性が異なる材料により構成する。例えば、吸収体膜31がTa単体又はTaを含む材料の場合、ハードマスク膜は、クロムやクロム化合物、若しくはケイ素やケイ素化合物などの材料を使用することができる。クロム化合物としては、Crと、N、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。ケイ素化合物としては、Siと、N、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料や、ケイ素やケイ素化合物に金属を含む金属ケイ素(金属シリサイド)や金属ケイ素化合物(金属シリサイド化合物)などの材料が挙げられる。金属ケイ素化合物としては、金属と、Siと、N、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。また、吸収体膜31が、Crを含む材料の場合、ハードマスク膜の材料は、Crを含む材料に対してエッチング選択性を有するケイ素、ケイ素化合物、金属シリサイド、金属シリサイド化合物、タンタル化合物などを選択することができる。タンタル化合物としては、Taと、N、O、C、Hから選ばれる少なくとも一つの元素とを含む材料が挙げられる。
【0077】
また、本実施形態に係る反射型マスクブランク30は、吸収体膜を、互いにエッチング選択性が異なる材料からなる最上層とそれ以外の層との積層膜で構成し、最上層がそれ以外の層に対するハードマスク膜としての機能を有するようにした構成とすることもできる。
【0078】
以上のとおり、本実施形態に係る反射型マスクブランク30における吸収体膜31は、単層膜には限られず、同一材料の積層膜、異種材料の積層膜で構成することができ、さらには、上記のような積層膜あるいは単層膜の吸収体膜とハードマスク膜との積層膜の構成とすることができる。
また、本実施形態に係る反射型マスクブランク30には、上記吸収体膜31上にレジスト膜を形成した態様も含まれる。このようなレジスト膜は、反射型マスクブランクにおける吸収体膜31をフォトリソ法によりパターニングする際に用いられる。
【0079】
また、吸収体膜31上に上記ハードマスク膜を介して又は介さずにレジスト膜を設けた場合、第2の基準マーク42及び識別記号24aの形状は、レジスト膜に転写されることになる。そして、電子線描画を行う際に、レジスト膜に転写された識別記号24aを検出することによって、個体識別を行うことができる。また、レジスト膜に転写された第2の基準マーク42は、電子線描画装置による電子線走査に対してコントラストを有し、電子線にて検出することができる。このとき、第1の基準マーク22と第2の基準マーク42とで相対座標の管理を行っているため、第2の基準マーク42よりも相対的に小さい第1の基準マーク22(22a)の形状がレジスト膜に転写されなくても高精度の描画が可能となる。
なお、電子線走査に対するコントラストをより向上させるために、また検出を容易にするために、第2の基準マーク42及び識別記号24aを含む領域の上にレジスト膜を形成しない、又は第2の基準マーク42を含む領域の上のレジスト膜を除去する構成としてもよい。
【0080】
本発明は、上記反射型マスクブランクを用いた反射型マスクの製造方法も提供するものである。
反射型マスクブランク30における、転写パターンとなる上記吸収体膜31をパターニングする方法は、フォトリソ法が最も好適である。すなわち、上述の反射型マスクブランク30上に電子線描画用レジストを塗布し、ベーキングすることによりレジスト膜を形成し、電子電描画装置を用いてレジスト膜を描画、現像し、レジスト膜に、転写パターンに対応したレジストパターン形成する。その後、レジストパターンをマスクにして吸収体膜31をパターニングして吸収体膜パターン31aを形成することにより反射型マスク40が作製される(
図6(d)参照)。
なお、上述のハードマスク膜を含む構成の反射型マスクブランクを用いて反射型マスクを製造する場合、ハードマスク膜は最終的には除去してもよいが、残存していても反射型マスクとしての機能に影響がなければ、特に除去しなくてもよい。
【0081】
本実施形態においては、上記反射型マスクブランク30の表面に、識別記号24が転写されているため、マスク製造工程における反射型マスクブランク30の枚葉管理が可能となる。また、上記反射型マスクブランク30の表面に、マスク製造における電子線描画工程においてアライメントを行うための第2の基準マーク42が形成されている。上述した第2の基準マーク42を基準とした欠陥情報(第1’の欠陥マップ及び/又は第3’の欠陥マップ)に基づいて、第2の基準マーク42を基準として、吸収体膜31をパターニングすることができる。
【0082】
すなわち、本発明では、上述したように、反射型マスクブランクの枚葉管理を行いながら、多層反射膜における欠陥位置情報を含む精度の良い欠陥情報を取得し、反射型マスクブランクの欠陥管理を高精度に行うことができる。このため、反射型マスクの製造においては、この欠陥情報に基づいて、予め設計しておいた描画データ(マスクパターンデータ)と照合し、欠陥による影響が低減するように描画データを高い精度で修正(補正)することが可能になり、その結果として、最終的に製造される反射型マスクにおいて欠陥を低減させたものが得られる。
【0083】
さらに、上述の本発明の反射型マスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写することにより、欠陥の少ない高品質の半導体装置を製造することができる。
【0084】
以上は、本発明の一実施形態として、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランクについて説明したが、これに限らず、例えば、紫外光を露光光源とするフォトマスクブランクにおいても本発明を好ましく適用することができる。ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えばクロムやクロム化合物などのクロム系材料からなる遮光膜、ケイ素やケイ素化合物などの材料からなる位相シフト膜)を有するマスクブランクにおいて、前記薄膜が形成されている側の表面であって、転写に影響のない領域に、前記マスクブランクに固有の識別記号を設け、前記マスクブランクに対して欠陥検査を行って前記薄膜の欠陥情報及び前記識別記号を同時に検出することで、前記薄膜の欠陥情報に、前記識別記号を対応付けることができる。すなわち、上記マスクブランクの欠陥検査装置で検出可能な、該マスクブランクに固有の識別記号を該マスクブランクに設けることにより、このマスクブランクに対して欠陥検査と同時に識別記号の検出を行うことができる。これにより、上記マスクブランクの個体識別と、上記薄膜の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、マスクブランクの適切な枚葉管理を行うことができる。
【実施例0085】
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明する。
(実施例1)
両面研磨装置を用い、酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカ砥粒により段階的に研磨し、低濃度のケイフッ酸で基板表面を表面処理したSiO2-TiO2系のガラス基板(大きさが約152.0mm×約152.0mm、厚さが約6.35mmの6インチ角の基板)を準備した。得られたガラス基板の表面粗さは、二乗平均平方根粗さ(Rq)で0.25nmであった。なお、表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM)にて測定し、測定領域は1μm×1μmとした。
【0086】
次に、ガラス基板の主表面に、イオンビームスパッタリング装置を用いて、Si膜(膜厚:4.2nm)とMo膜(膜厚:2.8nm)を一周期として、40周期積層し、最後にSi膜(膜厚:4nm)を形成し、さらにその上に、Ruからなる保護膜(膜厚:2.5nm)を成膜して、多層反射膜付き基板を得た。
【0087】
次に、上記多層反射膜付き基板の多層反射膜表面の所定の箇所に、断面形状が凹形状の複数のドットで構成されるQRコード(登録商標)からなる識別記号を形成した。具体的には、転写に影響のない、132mm×132mmの大きさのパターン形成領域と140mm×140mmの大きさの欠陥検査領域との間の帯状領域内に、レーザ加工により識別記号を形成した。この識別記号は、この多層反射膜付き基板に固有の情報を付与できるものであって、かつ多層反射膜付き基板の欠陥検査に使用する欠陥検査装置で検出可能な形状、サイズとした。レーザ加工の条件は、以下の通りであった。
レーザの種類:波長405nmの半導体レーザ
レーザの出力:7mW(連続波)
スポットサイズ:430nmφ
【0088】
この識別記号のサイズは、欠陥検査装置として、例えば、検査光源波長が13.5nmであるレーザーテック社製のABI装置を使用することを前提として、縦100μm、横100μmの矩形内に収まるサイズとした。
【0089】
次に、同じく上記の帯状領域内の4つのコーナー近傍に、断面形状が凹形状の第1の基準マークをレーザ加工により形成した。第1の基準マークとして、前述の
図5(a)に示す形状とし、大きさが直径1.5μmの円形、深さは40nmとした。
以上の識別記号及び第1の基準マークの形成後、洗浄を行った。
【0090】
以上のようにして、多層反射膜の表面に、上記識別記号及び上記第1の基準マークを有する多層反射膜付き基板を作製した。
【0091】
次に、ABI装置を用いて、上記多層反射膜付き基板表面の上記識別記号及び上記第1の基準マークを検出すると共に、140mm×140mmの領域に対して欠陥検査を行った。この欠陥検査では、凸部、凹部の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、第1の基準マークを含めた欠陥情報(第1の欠陥マップ)を得た。これにより、上記多層反射膜付き基板の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、多層反射膜付き基板の枚葉管理を適切に行うことができた。従来の反射型マスク作製前に欠陥マップと照合して個体識別を行う方法では、欠陥数が少ない又はゼロの場合には、欠陥マップとの照合ができないという問題があったが、本発明によれば、たとえ欠陥数が少ない又はゼロの場合でも、識別記号の検出により多層反射膜付き基板の欠陥情報と識別記号との対応付けを行い、多層反射膜付き基板の枚葉管理を適切に行うことができる。
【0092】
(実施例2)
実施例2では、実施例1のABI装置による欠陥検査に加えて、検査光源波長が355nmであるレーザーテック社製のEUV露光用のマスク・サブストレート/ブランク欠陥検査装置「MAGICS M8650」による欠陥検査を行った。
すなわち、実施例1と同様にして、多層反射膜の表面に、上記識別記号及び上記第1の基準マークを有する多層反射膜付き基板を作製した。
【0093】
次に、ABI装置を用いて、上記多層反射膜付き基板表面の上記識別記号及び上記第1の基準マークを検出すると共に、140mm×140mmの領域に対して第1の欠陥検査を行った。この第1の欠陥検査では、凸部、凹部の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、第1の基準マークを含めた第1の欠陥情報(第1の欠陥マップ)を得た。
【0094】
次に、上記欠陥検査装置MAGICS M8650を用いて、上記多層反射膜付き基板表面の上記識別記号及び上記第1の基準マークを検出すると共に、140mm×140mmの領域に対して第2の欠陥検査を行った。この第2の欠陥検査では、凸部、凹部の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、第1の基準マークを含めた第2の欠陥情報(第2の欠陥マップ)を得た。これにより、上記多層反射膜付き基板の第1の欠陥情報及び第2の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、多層反射膜付き基板の枚葉管理を適切に行うことができた。また、多層反射膜付き基板に対して、異なる波長の欠陥検査を行うことにより、より高精度な欠陥情報を識別記号と対応付けて枚葉管理することが可能となる。
【0095】
(実施例3)
DCマグネトロンスパッタリング装置を用いて、上記実施例1で得られた多層反射膜付き基板の保護膜上に、TaBN膜(膜厚:56nm)とTaBO膜(膜厚:14nm)の積層膜からなる吸収体膜を形成した。また、多層反射膜付き基板の裏面にTaB導電膜(膜厚:70nm)を形成して反射型マスクブランクを得た。
【0096】
次に、上記反射型マスクブランクの表面の所定の4箇所に、フォトリソ法で第2の基準マークを形成した。第2の基準マークとして、前述の
図7(a)に示す十字形状を形成した。第2の基準マークは、大きさが幅5μmで長さが1mmの十字形状、深さは約70nmとした。
【0097】
得られた反射型マスクブランクに対して、検査光源波長が193nmであるKLA-Tencor社製のマスク/ブランク欠陥検査装置「Teron610」を用いて、上記反射型マスクブランク表面の識別記号及び第1の基準マークを検出すると共に、140mm×140mmの領域に対して第3の欠陥検査を行った。この第3の欠陥検査では、凸部、凹部の欠陥位置情報と、欠陥サイズ情報を取得し、第1の基準マークを含めた第3の欠陥情報(第3の欠陥マップ)を得た。これにより、上記反射型マスクブランクの第3の欠陥情報と識別記号との対応付けを容易に行うことが可能となり、反射型マスクブランクの枚葉管理を適切に行うことができた。
【0098】
次に、波長365nmのレーザで座標計測を行うKLA-Tencor社製の座標計測器「LMS-IPRO4」を用いて、第1の基準マーク及び第2の基準マークを測定した。第1の基準マークと第2の基準マークとの相対位置座標に基づいて、第2の基準マークを基準とする第1の基準マークの位置座標を検出した。第2の基準マークと第1の基準マークの相対座標の管理を行うことで、多層反射膜上の欠陥を第2の基準マーク基準で、高精度に管理できる。
【0099】
こうして、第2の基準マークを基準にした多層反射膜付き基板の欠陥情報(第1’の欠陥マップ)及び反射型マスクブランクの欠陥情報(第3’の欠陥マップ)を得た。
【0100】
次に、この識別情報を有する反射型マスクブランクを用いて、反射型マスクを作製した。
まず、反射型マスクブランク上に電子線描画用レジストをスピンコーティング法により塗布し、ベーキングしてレジスト膜を形成した。このレジスト膜にも識別記号が転写されていた。これにより、レジスト膜付きの反射型マスクブランクの枚葉管理が可能となる。
【0101】
その後、第2の基準マークに基づいてアライメントを行った。そして、反射型マスクブランクの欠陥情報(第1’の欠陥マップ及び第3’の欠陥マップ)に基づいて、予め設計しておいたマスクパターンデータと照合し、露光装置を用いたパターン転写に影響のないマスクパターンデータに修正するか、パターン転写に影響があると判断した場合には、例えば欠陥をパターンの下に隠すように修正パターンデータを追加したマスクパターンデータに修正するかして、上述のレジスト膜に対して電子線によりマスクパターンを描画、現像を行い、レジストパターンを形成した。
【0102】
このレジストパターンをマスクとし、吸収体膜に対してフッ素系ガス(CF4ガス)によりTaBO膜を、塩素系ガス(Cl2ガス)によりTaBN膜をエッチング除去して、保護膜上に吸収体膜パターンを形成した。
さらに、吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを熱硫酸で除去し、反射型マスクを得た。
【0103】
こうして得られた反射型マスクを露光装置にセットし、レジスト膜を形成した半導体基板上へのパターン転写を行ったところ、反射型マスク起因の転写パターンの欠陥も無く、良好なパターン転写を行うことができた。