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特開2024-74175接地荷重推定装置、サスペンション装置および接地荷重推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074175
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】接地荷重推定装置、サスペンション装置および接地荷重推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/015 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
B60G17/015 A
B60G17/015 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185296
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】松本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】榎本 大助
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA15
3D301AA69
3D301AB09
3D301DA33
3D301DA34
3D301DA38
3D301EA04
3D301EA06
3D301EA18
3D301EA19
3D301EA20
3D301EC01
3D301EC06
3D301EC55
3D301EC62
3D301EC68
(57)【要約】
【課題】低コストで接地荷重を精度よく推定可能な接地荷重推定装置、低コストで接地荷重を精度よく推定可能な接地荷重推定プログラムおよび低コストで接地荷重を制御可能なサスペンション装置を提供する。
【解決手段】接地荷重推定装置1は、車両におけるばね下部材Wの上下方向の速度と変位とを検知するばね下振動検知部2と、ばね下部材Wにおけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知部3と、ばね下部材Wの速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量として入力を受けて1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式に基づいてばね下部材Wの上下方向の推定速度と推定変位と、路面Rの推定変位変化率と推定変位とを出力するオブザーバ4と、オブザーバ4が推定したばね下部材Wの推定速度と推定変位と、路面Rの推定変位変化率と推定変位とに基づいてばね下部材Wの接地荷重fwを演算する接地荷重演算部5とを備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両におけるばね下部材の上下方向の速度および変位を検知するばね下振動検知部と、
前記ばね下部材におけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知部と、
前記ばね下部材の前記速度および前記変位と前記撓み量とを観測量として入力を受けて、1輪モデルの前記ばね下部材の状態方程式に基づいて前記ばね下部材の上下方向の推定速度および推定変位と、前記路面の推定変位変化率および推定変位とを出力するオブザーバと、
前記オブザーバが推定した前記ばね下部材の前記推定速度および前記推定変位と、前記路面の前記推定変位変化率および前記推定変位とに基づいて前記ばね下部材の接地荷重を演算する接地荷重演算部とを備えた
ことを特徴とする接地荷重推定装置。
【請求項2】
前記オブザーバは、前記車両の車体側から受ける力を全て外乱と看做す拡張系システムのオブザーバである
ことを特徴とする請求項1に記載の接地荷重推定装置。
【請求項3】
前記接地荷重演算部は、前記タイヤのばね定数および粘性抵抗定数とに基づいて前記接地荷重を求め、
前記ばね定数の値と前記粘性抵抗係数の値を設定する設定部を備えた
ことを特徴とする請求項1に記載の接地荷重推定装置。
【請求項4】
前記車両のばね上部材と前記ばね下部材との間に介装されて前記ばね上部材と前記ばね下部材との上下方向の相対移動を抑制する抑制力を発揮可能であって、前記抑制力を変更可能な抑制力発生装置と、
前記抑制力発生装置を制御するコントローラと、
請求項1から3のいずれか一項に記載の接地荷重演算装置とを備え、
前記コントローラは、前記接地荷重推定装置が求めた前記接地荷重に基づいて前記抑制力発生装置が発揮する前記抑制力を制御する
ことを特徴とするサスペンション装置。
【請求項5】
コンピュータに、
車両におけるばね下部材の上下方向の速度および変位を検知するばね下振動検知ステップと、
前記ばね下部材におけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知ステップと、
1輪モデルの前記ばね下部材の状態方程式に基づいて、前記ばね下部材の上下方向の推定速度および推定変位と、前記路面の推定変位変化率および推定変位とを出力するオブザーバに、前記ばね下部材の前記速度および前記変位と、前記撓み量とを観測量として入力し、前記ばね下部材の前記推定速度および前記推定変位と、前記路面の前記推定変位変化率および前記推定変位とを求める推定値演算ステップと、
前記ばね下部材の前記推定速度および前記推定変位と、前記路面の前記推定変位変化率および前記変位とに基づいて前記ばね下部材の接地荷重を演算する接地荷重演算ステップとを含む処理を実行させる
ことを特徴とする接地荷重推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接地荷重推定装置、サスペンション装置および接地荷重推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のサスペンション装置にあっては、たとえば、車両の急加速時における車輪の空転を防止するために、車輪の接地荷重を一時的に増大させるものがある。このようなサスペンション装置は、車両における車体と車輪との間に介装されるアクチュエータと、アクチュエータを制御するコントローラとを備えており、車両の急加速を検知すると、車輪が空転する状況にあるかを判定して、車輪が空転する可能性があるとアクチュエータを駆動して一時的に車輪の接地荷重を増大させて車輪の空転を防止している(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-297239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように、従来のサスペンション装置では、車輪が空転する可能性がある状況となると車輪の接地荷重を増大させるのであるが、車輪の接地荷重そのものを検知しておらず接地荷重を把握できないので、接地荷重を的確にコントロールすることができない。
【0005】
接地荷重は、図5に示した車体と車輪とを含んだ1輪モデルの運動方程式を解けば、理論上は、以下の式(1)を用いて求めることができる。式(1)中において、Mbは、車両における1つの車輪(ばね下部材)100が支持する車体101の質量を示しており、xbは、車体101の変位を示しており、Mtは、車輪100の質量を示しており、xtは車輪100の変位を示しており、xrは、車輪100が走行する路面の変位を示しており、fbは、車体101に作用する外力を示し、Csは、車体101と車輪100との間に介装される減衰力を調整可能な緩衝器102のベースの減衰係数を示し、Ksは、車体101と車輪100との間に介装される懸架ばね103のばね定数を示し、Ctは、車輪100におけるタイヤの粘性係数を示し、Ktは、前記タイヤのばね定数を示し、uは、前記緩衝器102のベースの減衰力に負荷する減衰力調整分を指示する制御指令を示している。本書の式中で、変数の上にドットが1つ付された変数は変数の微分値を、ドットが2つ付された変数は変数の2階微分値をそれぞれ示している。
【0006】
【数1】
【0007】
式(1)から接地荷重を求めるためには、車体101の加速度と車輪100の加速度、或いは、車輪100の加速度と緩衝器102が発生する減衰力と懸架ばね103が発生するばね力の情報が必要となる。車体101の加速度と車輪100の加速度とを得るには、車体101と車輪100を支持するサスペンションアームにそれぞれ加速度を取り付ける必要がある。また、緩衝器102が発生する減衰力と懸架ばね103のばね力を得るには、緩衝器102の伸縮速度の情報が必要となるため緩衝器102にストロークセンサを設置する必要がある。このように、接地荷重を求めるには、少なくとも2つ以上のセンサを要し、さらに、車体101に作用する外力についてセンサの設置によって検知できないため、接地荷重を正確に得ることができない。
【0008】
そこで、本発明は、低コストで接地荷重を精度よく推定可能な接地荷重推定装置、低コストで接地荷重を精度よく推定可能な接地荷重推定プログラムおよび低コストで接地荷重を制御可能なサスペンション装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の課題解決手段における接地荷重推定装置は、車両におけるばね下部材の上下方向の速度と変位とを検知するばね下振動検知部と、ばね下部材におけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知部と、ばね下部材の速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量として入力を受けて1輪モデルのばね下部材の状態方程式に基づいてばね下部材の上下方向の推定速度と推定変位と、路面の推定変位変化率と推定変位とを出力するオブザーバと、オブザーバが推定したばね下部材の推定速度と推定変位と、路面の推定変位変化率と推定変位とに基づいてばね下部材の接地荷重を演算する接地荷重演算部とを備えている。
【0010】
また、本発明の接地荷重推定プログラムは、コンピュータに車両におけるばね下部材の上下方向の速度と変位とを検知するばね下振動検知ステップと、ばね下部材におけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知ステップと、1輪モデルのばね下部材の状態方程式に基づいてばね下部材の上下方向の推定速度と推定変位と、路面の推定変位変化率と推定変位とを出力するオブザーバに、ばね下部材の速度および変位と、撓み量とを観測量として入力し、ばね下部材の推定速度および推定変位と、路面の推定変位変化率および推定変位とを求める推定値演算ステップと、推定速度および前記推定変位と路面の推定変位変化率および推定変位とに基づいてばね下部材の接地荷重を演算する接地荷重演算ステップとを含む処理を実行させる。
【0011】
このように構成された接地荷重推定装置および接地荷重推定プログラムでは、ばね下部材の速度および変位とタイヤの撓み量とをオブザーバに入力して接地荷重を求めるのに際して必要な路面の変位変化率および路面の変位を求めるので、接地荷重を求めるのに必要なセンサは、ばね下部材の速度および変位の検知に必要なばね下部材の加速度を検知する加速度センサのみとなる。また、接地荷重推定装置および接地荷重推定プログラムでは、ばね上部材に作用する外力の情報を必要とせず精度よく接地荷重を求め得る。
【0012】
また、接地荷重推定装置におけるオブザーバは、車両のばね上部材側から受ける力を全て外乱と看做す拡張系システムのオブザーバとされてもよい。このように構成された接地荷重推定装置によれば、ばね上部材側から受ける懸架ばねのばね力および減衰力可変ダンパの減衰力をばね上部材に作用する空力等の外乱に含めることにより、制御入力をオブザーバへ入力する必要がなくなるので、制御入力による応答遅れが生じなくなり、より一層精度よく接地荷重を求めることができる。
【0013】
さらに、接地荷重推定装置では、接地荷重演算部がタイヤのばね定数および粘性抵抗定数とに基づいて接地荷重を求め、ばね定数と粘性抵抗係数とを設定する設定部を備えてもよい。このように構成された接地荷重推定装置によれば、車両のばね下部材に利用されているタイヤに応じてばね定数と粘性抵抗係数とを接地荷重の演算に最適な値に設定できるので、より一層精度よく接地荷重を求めることができる。
【0014】
そして、サスペンション装置は、車両のばね上部材とばね下部材との間に介装されてばね上部材とばね下部材との上下方向の相対移動を抑制する抑制力を発揮可能であって、抑制力を変更可能な抑制力発生装置と、抑制力発生装置を制御するコントローラと、接地荷重演算装置とを備え、コントローラは、接地荷重推定装置が求めた接地荷重に基づいて抑制力発生装置が発揮する抑制力を制御してもよい。このように構成されたサスペンション装置によれば、低コストで接地荷重を推定できる接地荷重推定装置を備えているので、低コストで接地荷重を制御可能である。
【発明の効果】
【0015】
以上より、本発明の接地荷重推定装置および接地荷重推定プログラムによれば低コストで接地荷重を精度よく推定でき、本発明のサスペンション装置によれば低コストで接地荷重を制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施の形態における接地荷重推定装置を利用するサスペンション装置を示した図である。
図2】一実施の形態の接地荷重推定装置の構成を示した図である。
図3】1輪モデルにおける車両のばね下部材を示した図である。
図4】一実施の形態の接地荷重推定装置の処理手順の一例を示したフローチャートである。
図5】1輪モデルにおけるばね上部材とばね下部材とを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1に示すように、本実施の形態における接地荷重推定装置1は、車両Vにおける懸架ばねSで弾性支持される車体等のばね上部材Bと車輪を備えたばね下部材Wとの間に介装されたサスペンション装置10におけるコントローラCへ入力する接地荷重fwを推定する。接地荷重fwは、車両Vにおけるばね下部材Wに対して路面Rから作用する鉛直方向の力であり、コントローラCは、サスペンション装置10における減衰力可変ダンパDに発生させる抑制力を求めるために当該接地荷重fwを利用する。
【0018】
以下、接地荷重推定装置1と、接地荷重推定装置1を利用するサスペンション装置10について詳細に説明する。まず、サスペンション装置10は、車両Vのばね上部材Bとばね下部材Wとの間に介装されてばね上部材Bとばね下部材Wとの上下方向の相対移動を抑制する抑制力を発揮可能であって、抑制力を変更可能な抑制力発生装置として減衰力可変ダンパDと、減衰力可変ダンパDを制御するコントローラCと、接地荷重推定装置1とを備えている。車両Vは、ばね上部材Bとばね下部材Wとの間に減衰力可変ダンパDに並列して介装されてばね上部材Bを弾性支持する懸架ばねSを備えている。
【0019】
減衰力可変ダンパDは、詳しくは図示しないが筒状のアウターシェルと、アウターシェル内に移動可能に挿入されるピストンと、アウターシェル内に軸方向へ移動可能に挿入されてピストンに連結されるピストンロッドとを備える他、アウターシェルに対してピストンロッドが軸方向へ移動する際に当該ピストンロッドの移動を抑制する抑制力として減衰力を発生できるとともに、コントローラCからの指令に応じて当該減衰力を調整する減衰力調整バルブを備えている。減衰力調整バルブには、たとえば、電流の供給によって開弁圧や流路面積を変更可能なバルブが利用される。
【0020】
なお、減衰力可変ダンパDにおけるアウターシェル内に充填される液体が電気粘性流体や磁気粘性流体である場合、減衰力可変ダンパDは、減衰力調整バルブの代わりに液体に対して電界或いは磁界を作用させて液体の粘度を変化させる装置を利用して減衰力を高低調整してもよい。さらに、抑制力発生装置は、減衰力可変ダンパDの他にもばね上部材Bとばね下部材Wの上下方向の相対移動を抑制する抑制力の発揮が可能であれば油圧アクチュエータや電動アクチュエータとされてもよく、テレスコピック型のダンパやアクチュエータに限られずロータリ型のダンパやアクチュエータであってもよい。また、懸架ばねSは、ばね上部材Bとばね下部材Wとの間に減衰力可変ダンパDと並列に介装されており、ばね上部材Bを弾性支持している。
【0021】
なお、サスペンション装置10における減衰力可変ダンパDは、図1中では一つのみ示されているが、車両Vが4輪自動車であれば4輪各輪と車体との間の4か所に設けられる。コントローラCは、減衰力可変ダンパD毎に設けられる必要はなく、1つのコントローラCで複数の減衰力可変ダンパDを制御してもよい。また、コントローラCは、減衰力可変ダンパDと対を成して1つの減衰力可変ダンパDを制御してもよい。なお、図1中でばね下部材Wと路面Rとの間に記載されているばねは、ばね下部材Wにおける図外のタイヤが持つばね要素を示している。なお、接地荷重推定装置1およびサスペンション装置10が適用される車両Vは、4輪自動車に限られず、たとえば、2輪車や3輪車であってもよい。
【0022】
コントローラCは、接地荷重推定装置1が推定した接地荷重fwの入力を受けて減衰力可変ダンパDが発生すべき目標減衰力を指示する指令を生成する制御部11と、制御部11からの指令を受けて減衰力調整バルブへ電流供給する駆動回路12とを備えている。制御部11は、たとえば、接地荷重fwに基づいて接地荷重fwが所定荷重以下になるのを防止するためのばね下制御指令を生成する。また、制御部11は、車両Vに設置された加速度センサ13が検知するばね上部材Bの上下方向の加速度からばね上部材Bの上下方向の振動を抑制するために減衰力可変ダンパDが発生すべき抑制力を指示するばね上制御指令を生成する。そして、制御部11は、ばね下制御指令とばね上制御指令とを加算して目標減衰力を求め、求めた目標減衰力通りに減衰力可変ダンパDが減衰力を発生するために減衰力調整バルブに供給すべき電流を指示する電流指令を生成して駆動回路12へ出力する。なお、後述する接地荷重推定装置1は、本実施の形態では、図2に示すように、加速度センサ21を備えていて、コントローラCにおける駆動回路12とともにユニット化されており、駆動回路12とともに1つのユニットとして、減衰力可変ダンパDの図外のアウターシェルに取り付けられる。減衰力可変ダンパDは、アウターシェルがばね下部材Wに連結されてばね上部材Bとばね下部材Wとの間に介装されている。このように接地荷重推定装置1は、減衰力可変ダンパDのばね下部材Wに連結されるアウターシェルに取り付けられるので、加速度センサ21によってばね下部材Wの上下方向の加速度を検知できる。このように、接地荷重推定装置1が加速度センサ21を備えているので、制御部11は、加速度センサ21からばね下部材Wの加速度の情報を得て、ばね上部材Bの加速度に加えてばね下部材Wの加速度を利用して前記ばね上制御指令を求めてもよい。
【0023】
駆動回路12は、減衰力調整バルブに流れる電流をフィードバックして、制御部11から入力された電流指令が指示する電流通りに減衰力調整バルブに電流を供給する。なお、コントローラCの構成は、任意に設計変更でき、前述した制御部11の処理も一例であって接地荷重fwを利用して目標減衰力を指示する指令を生成する限りにおいて任意に設計変更可能である。
【0024】
接地荷重推定装置1は、図2に示すように、車両Vにおけるばね下部材Wの上下方向の速度および変位を検知するばね下振動検知部2と、ばね下部材Wにおけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知部3と、ばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と路面Rの推定変位変化率および推定変位とを出力するオブザーバ4と、オブザーバ4が推定したばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と路面Rの推定変位変化率および推定変位とに基づいてばね下部材Wの接地荷重fwを演算する接地荷重演算部5とを備えている。
【0025】
ばね下振動検知部2は、ばね下部材Wの上下方向の加速度を検知する加速度センサ21と、加速度センサ21が検知したばね下部材Wの上下方向の加速度を積分してばね下部材Wの上下方向の速度を出力する積分器22と、積分器22が出力するばね下部材Wの上下方向の速度を積分してばね下部材Wの上下方向の変位を出力する積分器23とを備えている。なお、積分器22,23は、それぞれハイパスフィルタで構成される擬似積分フィルタであってもよいし、加速度センサ21が検知した加速度を順次加算する演算を行って積分値を求めるものであってもよい。
【0026】
撓み量検知部3は、ばね下部材Wにおける車輪の回転速度と、車両Vの走行速度とに基づいてばね下部材Wにおけるタイヤの撓み量を求める。具体的には、撓み量検知部3は、車両Vにおける図外のECU(Electronic Control Unit)からCAN(Controller Area Network)バスを介して所定の周期でばね下部材Wの回転速度と車両Vの走行速度との情報を得て、タイヤの撓み量を求める。ECUから得られるばね下部材Wの回転速度と車両Vの走行速度との情報が更新される更新周期が接地荷重推定装置1の演算周期に比較して長いため、撓み量検知部3は、回転速度と走行速度とが得られた時刻から次に回転速度と走行速度とが更新されるまでの間は、演算周期毎のばね下部材Wの回転速度と車両Vの走行速度とを、それまでの回転速度と走行速度とを線形補間することによって現在時刻の回転速度と走行速度とを推定する。より詳細には、更新周期が演算周期のN倍であるとすると、前回得られた回転速度(走行速度)から前々回の回転速度(走行速度)を差し引いた値をNで除して求めた値を前回の回転速度(走行速度)に対して演算周期毎に加算して、撓み量検知部3でタイヤの撓み量を求める演算を実行する際に使用する回転速度(走行速度)を求める。このようにして求めた回転速度をω、走行速度をVとし、ばね下部材Wである車輪の基準半径をRとし、タイヤの撓み量の変化率をdXtrとし、タイヤの撓み量をXtrとすると、Xtr(k)=Xtr(k-1)+dXtr(k)を演算して求める。ただし、dXtr(k)=-R{ω(k)-ω(k-1)}/V(k)。なお、kは時刻を示している。
【0027】
また、撓み量検知部3は、演算周期毎に、前述の演算式で求めた撓み量Xtr(k)をハイパスフィルタで処理して撓み量に含まれる低周波成分を除去して演算して求めた撓み量Xtr(k)に含まれるオフセットやドリフトを取り除いて撓み量Xtrを求める。
【0028】
オブザーバ4は、ばね下振動検知部2が検知したばね下部材Wの上下方向の速度および変位と、撓み量検知部3が検知した撓み量とを観測量として入力されると、図3に示した1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式と出力方程式とに基づいて、ばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率と推定変位とを出力する。このようにオブザーバ4がばね下部材Wにおける接地荷重を求める上で、センサでは直接観測できない路面Rの変位変化率と路面Rの変位を推定する。図3中で、Mtはばね下部材Wにおけるばね下質量、Ctはタイヤの粘性抵抗係数、Ktはタイヤのばね定数、ftはばね下部材Wに入力される外力、uは制御入力、xtはばね下部材Wの変位、xrは路面変位をそれぞれ示している。
【0029】
図3に示した1輪モデルにおけるばね下部材Wの状態方程式は、以下の式(2)で表すことができる。
【0030】
【数2】
【0031】
ここでは、懸架ばねSのばね力および制御入力uを含む減衰力可変ダンパDの減衰力を外乱と看做して、制御入力uを0とする。
【0032】
また、観測量をばね下部材Wの上下方向の速度および変位と、撓み量検知部3が検知した撓み量とすると、出力方程式は、以下の式(3)で表される。
【0033】
【数3】
【0034】
そして、前述の式(2)および式(3)のシステムを状態量に加えて外乱を状態の1つとして含めた系に拡張して、拡張系を新たなシステムとみなして、ばね下部材Wの上下方向の速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量として使用して、状態量に加えて外乱を推定するオブザーバ4を構成する。外乱を含む拡張系のシステムの状態方程式及び出力方程式は以下の式(4)、式(5)で示すことができる。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、式(2)および式(3)のシステムが可観測であり、可制御性行列がランク条件を満たせば、式(4)および式(5)の拡張系のシステムも可観測となり、極の指定が可能となり、以下の式(6)および式(7)で示すように、拡張系におけるオブザーバ4を構成することができる。
【0037】
【数5】
【0038】
このように構成されたオブザーバ4に対して、ばね下部材Wの上下方向の速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量として入力すると、オブザーバ4は、ばね下部材Wの上下方向の速度および変位と、路面Rの変位変化率および変位とを推定して、それぞれ、ばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを出力できる。
【0039】
接地荷重演算部5は、オブザーバ4が推定したばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と路面Rの推定変位変化率および推定変位とに基づいてばね下部材Wの接地荷重fwを演算する。
【0040】
具体的には、接地荷重演算部5は、以下の式(8)にばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と路面Rの推定変位変化率および推定変位とを代入して、式(8)の演算を行ってばね下部材Wの接地荷重fwを求める。
【0041】
【数6】
【0042】
接地荷重演算部5は、式(8)に示すように、タイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗定数Ctとに基づいて接地荷重fwを求めているが、タイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctは、製品仕様によって製品毎に異なっている。よって、本実施の形態の接地荷重推定装置1では、タイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctを設定する設定部6を備えている。前述した通り、タイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctは、製品仕様によって製品毎に異なっており、設定部6は、タイヤにおけるばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctとを製品名に関連付けした図外のテーブルと、製品名や製品番号といったタイヤを識別できる情報(識別情報)の入力を可能とする図外の入力装置とを備えており、車両Vのユーザがばね下部材Wにおけるタイヤの識別情報を入力すると、テーブルを参照して、接地荷重演算部5の演算で利用するタイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctを識別情報に関連付けられた値に更新する。よって、車両Vのユーザがタイヤを交換した場合、交換後のタイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗係数Ctを利用して接地荷重fwを演算できるようになるので、接地荷重推定装置1は、正確に接地荷重fwを求めることができる。なお、設定部6が前述のテーブルを保有しない場合、ばね定数Ktの値と粘性抵抗係数Ctとについてユーザが数値で入力してもよい。
【0043】
このように構成された接地荷重推定装置1は、図4に示すように、ばね下振動検知ステップとして車両Vが走行中に加速度センサ21によりばね下部材Wの上下方向の加速度を検知し(ステップF1)、加速度センサ21が検知したばね下部材Wの上下方向の加速度を積分および2階積分してばね下部材Wの上下方向の速度と変位とを求める(ステップF2)。つづいて、接地荷重推定装置1は、撓み量検知ステップとして車両VにおけるECUからばね下部材Wにおける車輪の回転速度と車両Vの走行速度との情報を取り込み(ステップF3)、車輪の回転速度と車両Vの走行速度とを線形補間し、線形補間後の車輪の回転速度と車両Vの走行速度とを前述の撓み量を求める式に代入し、撓み量を求める(ステップF4)。
【0044】
つづいて、接地荷重推定装置1は、推定値演算ステップとしてステップF2とステップF4で求めたばね下部材Wの上下方向の速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量としてオブザーバ4に入力してばね下部材Wの推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを求める(ステップF5)。さらに、接地荷重演算ステップとして、接地荷重推定装置1は、ばね下部材Wの推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを接地荷重fwを求める式に代入して接地荷重fwを求める(ステップF6)。
【0045】
接地荷重推定装置1は、ステップF1およびステップF2における処理と、ステップF3およびステップF4における処理とを実行する順番を逆にして処理を行ってもよい。つまり、ばね下振動検知ステップと撓み量検知ステップとは順番を逆にして処理されてもよい。接地荷重推定装置1は、車両Vの走行中、前述のステップF1からステップF6までの処理を繰り返し実行して、接地荷重fwを演算周期毎に求める。
【0046】
なお、加速度センサ21を除き、接地荷重推定装置1のハードウェア資源としては、図示はしないが具体的にはたとえば、加速度センサ21および図外のECUからの信号を取り込むためのインターフェースと、設定部6における入力装置と、接地荷重fwを求めるのに必要な処理に使用されるプログラムが格納されるROM(Read Only Memory)等の記憶装置と、前記プログラムに基づいた処理を実行するCPU(Central Processing Unit)等の演算装置と、前記CPUに記憶領域を提供するRAM(Random Access Memory)等の記憶装置とを備えたコンピュータとしてて構成されればよく、接地荷重推定装置1における各部は、CPUの前記プログラムの実行により実現できる。また、コントローラCは、接地荷重推定装置1のハードウェア資源の利用で実現されてもよく、その場合、コントローラCにおける処理に必要なプログラムを前記記憶装置に格納して前記CPUのブログラムの実行によって前記コントローラCの各部を実現すればよい。
【0047】
以上、本実施の形態の接地荷重推定装置1は、車両Vにおけるばね下部材Wの上下方向の速度と変位とを検知するばね下振動検知部2と、ばね下部材Wにおけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知部3と、ばね下部材Wの速度および変位とタイヤの撓み量とを観測量として入力を受けて1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式に基づいてばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを出力するオブザーバ4と、オブザーバ4が推定したばね下部材Wの推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とに基づいてばね下部材Wの接地荷重fwを演算する接地荷重演算部5とを備えている。
【0048】
このように構成された接地荷重推定装置1では、ばね下部材Wの速度および変位とタイヤの撓み量とをオブザーバ4に入力して接地荷重fwを求めるのに際して必要な路面の変位変化率および路面の変位を求める。タイヤの撓み量の検知に必要なばね下部材Wにおける車輪の回転速度と車両Vの速度とについては車両Vから得ることができ、接地荷重推定装置1で必要なセンサは、ばね下部材Wの速度と変位の検知に必要なばね下部材Wの加速度を検知する加速度センサ21のみとなる。したがって、本実施の形態の接地荷重推定装置1によれば、低コストで製造できる。また、接地荷重推定装置1では、接地荷重fwの演算に必要なばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式に基づいて推定するオブザーバ4を利用しているので、ばね上部材Bに作用する外力の情報を必要とせず、精度よく接地荷重fwを求め得る。以上より、本実施の形態の接地荷重推定装置1によれば、低コストで接地荷重を精度よく推定できる。
【0049】
また、本実施の形態の接地荷重推定プログラムは、コンピュータに車両Vにおけるばね下部材Wの上下方向の速度および変位とを検知するばね下振動検知ステップと、ばね下部材Wにおけるタイヤの上下方向の撓み量を検知する撓み量検知ステップと、1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式に基づいてばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを出力するオブザーバ4に、ばね下部材Wの速度および変位と、撓み量とを観測量として入力し、ばね下部材Wの推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを求める推定値演算ステップと、ばね下部材Wの推定速度および推定変位と路面Rの推定変位変化率および推定変位とに基づいてばね下部材Wの接地荷重fwを演算する接地荷重演算ステップとを含む処理を実行させる。
【0050】
このように構成された接地荷重推定プログラムによれば、ばね下部材Wの速度および変位とタイヤの撓み量とをオブザーバ4に入力して接地荷重fwを求めるのに際して必要な路面の変位変化率および路面の変位を求める。タイヤの撓み量の検知に必要なばね下部材Wにおける車輪の回転速度と車両Vの速度とについては車両Vから得ることができ、接地荷重推定装置1で必要なセンサは、ばね下部材Wの速度と変位の検知に必要なばね下部材Wの加速度を検知する加速度センサ21のみとなる。よって、本実施の形態の接地荷重推定プログラムを使用して接地荷重fwを求めるようにすれば接地荷重fwを求める接地荷重演算装置1を低コストで製造できる。また、接地荷重推定プログラムでは、接地荷重fwの演算に必要なばね下部材Wの上下方向の推定速度および推定変位と、路面Rの推定変位変化率および推定変位とを1輪モデルのばね下部材Wの状態方程式に基づいて推定するオブザーバ4を利用しているので、ばね上部材Bに作用する外力の情報を必要とせず、精度よく接地荷重fwを求め得る。以上より、本実施の形態の接地荷重推定プログラムによれば、低コストで接地荷重を精度よく推定できる。
【0051】
また、本実施の形態の接地荷重推定装置1では、オブザーバ4が車両Vのばね上部材B側から受ける力を全て外乱と看做す拡張系システムのオブザーバとされている。このように構成された接地荷重推定装置1によれば、ばね上部材B側から受ける懸架ばねSのばね力および減衰力可変ダンパDの減衰力をばね上部材Bに作用する空力等の外乱に含めることにより、制御入力をオブザーバ4へ入力する必要がなくなるので、制御入力による応答遅れが生じなくなり、より一層精度よく接地荷重fwを求めることができる。
【0052】
また、本実施の形態の接地荷重推定装置1では、接地荷重演算部5がタイヤのばね定数Ktおよび粘性抵抗定数Ctとに基づいて接地荷重fwを求め、ばね定数Ktと粘性抵抗係数Ctを設定する設定部6を備えている。このように構成された接地荷重推定装置1によれば、車両Vのばね下部材Wに利用されているタイヤに応じてばね定数Ktと粘性抵抗係数Ctとを接地荷重fwの演算に最適な値に設定できるので、より一層精度よく接地荷重fwを求めることができる。
【0053】
さらに、本実施の形態におけるサスペンション装置10は、車両Vのばね上部材Bとばね下部材Wとの間に介装されてばね上部材Bとばね下部材Wとの上下方向の相対移動を抑制する抑制力を発揮可能であって、抑制力を変更可能な減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置)Dと、減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置)Dを制御するコントローラCと、接地荷重演算装置1とを備え、コントローラCは、接地荷重推定装置1が求めた接地荷重fwに基づいて減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置)Dが発揮する前記抑制力を制御する。
【0054】
このように構成されたサスペンション装置10によれば、低コストで接地荷重fwを推定できる接地荷重推定装置1を備えているので、低コストで接地荷重を制御可能である。
【0055】
また、サスペンション装置10によれば、接地荷重fwに基づいて減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置)Dが発揮する抑制力を制御するので、減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置)Dに接地荷重fwが所定荷重以下にならないように抑制力を発揮させて、ばね下部材Wにおける車輪が車両Vの走行中に空転するのを抑制できる。また、このように構成されたサスペンション装置によれば、接地荷重fwが所定荷重以下になるのを防止できるので、車両Vが急旋回、急制動或いは急加速する場合にばね上部材Bにおける車体の姿勢の傾きを低減して車両における乗心地を向上できる。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0057】
1・・・接地荷重推定装置、2・・・ばね下振動検知部、3・・・撓み量検知部、4・・・オブザーバ、5・・・接地荷重演算部、6・・・設定部、C・・・コントローラ、D・・・減衰力可変ダンパ(抑制力発生装置),V・・・車両
図1
図2
図3
図4
図5