(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074180
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】抗がん性高分子化合物
(51)【国際特許分類】
C08F 220/34 20060101AFI20240523BHJP
A61K 31/785 20060101ALI20240523BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C08F220/34
A61K31/785
A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185310
(22)【出願日】2022-11-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年11月10日に第44回日本バイオマテリアル学会大会の予稿集によって次のURLから公開した:http://www.kokuhoken.jp/jsb44/abstract.html http://www.kokuhoken.jp/jsb44/member/page_all.pdf http://www.kokuhoken.jp/jsb44/member/page_1A.pdf
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】松村 和明
(72)【発明者】
【氏名】ラジャン ロビン
(72)【発明者】
【氏名】クマール ニシャント
【テーマコード(参考)】
4C086
4J100
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086FA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB26
4J100AL03Q
4J100AL04Q
4J100AM21P
4J100BA32P
4J100BD17P
4J100CA04
4J100CA27
4J100JA53
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新規な抗がん性高分子化合物を提供する。
【解決手段】1級、2級、3級、又は4級アミンの1価基を有する(メタ)アクリルエステルまたはアミドから選ばれる第1モノマーと、C4~C12のアルキル基を有する(メタ)アクリルエステルまたはアミドから選ばれる第2モノマーとが共重合してなるカチオン性高分子化合物。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式Iで表されるモノマー:
(ただし、式Iにおいて、
R11は、メチル基、又は水素原子であり、
R12は、-NH-基、又は-O-基であり、
R13は、C2~C4のアルキレン基であり、
R14は、1級、2級、3級、又は4級アミンの1価基である)
と、
次の式IIで表されるモノマー:
(ただし、式IIにおいて、
R21は、メチル基、又は水素原子であり、
R22は、-NH-基、又は-O-基であり、
R23は、C4~C12のアルキル基である)
とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物。
【請求項2】
次の式IIIで表される、カチオン性ランダム共重合高分子化合物である、請求項1に記載のカチオン性高分子化合物:
poly[A-ran-B] 式III
(ただし、式IIIにおいて、
Aは、式Iで表されるモノマーであり、
Bは、式IIで表されるモノマーである)。
【請求項3】
式III中に導入されたモノマーAのモルとモノマーBのモル数について、次の式で表されるモノマーBの含有率(%):
[モノマーBのモル数]/[モノマーAのモル数 + モノマーBのモル数]×100(%)
が、5%~50%の範囲にある、請求項2に記載のカチオン性ランダム共重合高分子化合物。
【請求項4】
R14が、次の式IV:
(ただし、式IVにおいて、
R41、R42、及びR43は、それぞれ独立に、C1~C2のアルキル基である)
で表される4級アミンの1価基である、請求項1に記載のカチオン性高分子化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、医薬化合物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、抗がん剤。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物の、抗がん剤の製造のための使用。
【請求項8】
式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとを、ランダム共重合して、式IIIで表される、カチオン性ランダム共重合高分子化合物を、製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん性高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
抗がん剤は、がん治療のための優れた手段であるが、使用にあたっての困難も多い。例えば、がんが抗がん剤に対する耐性を獲得してしまうこと、投与した抗がん剤が腫瘍組織へ必ずしも蓄積されないこと、抗がん剤の水溶性が低く効果的に投与することが難しいこと、投与した抗がん剤が比較的に短時間で体内から排出・分解等されてしまうこと、抗がん剤はしばしば標的とするがん細胞以外の正常細胞に対しても毒性を示すこと、などが知られている。
【0003】
このような抗がん剤の使用にあたっての困難とされる事項は、実のところ、抗がん剤が低分子の物質であることに起因していることが多いと考えられる。そこで、近年、高分子の物質による抗がん剤の開発が試みられている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0004】
非特許文献1は、MDR癌細胞を死滅させ、腫瘍の転移を抑制する特徴的な抗癌機構を持つ高分子を開示している。非特許文献1で開示されている高分子は、親水性のポリエチレングリコール(PEG)とカチオン性高分子、疎水性高分子の3元ブロック共重合体である。最内部に疎水性ブロック、中間層にカチオン性ブロック、外層がPEGのミセルを形成することが開示されている。この中間層部位のカチオン性部位が細胞膜のマイナスと相互作用して抗がん活性を示すとされている。
【0005】
非特許文献2は、高分子化学療法剤による癌の薬剤耐性への対策を開示している。非特許文献2で開示されている高分子は、親水性のポリエチレングリコールとカチオン性の高分子のジブロック共重合体であり、ミセルを形成する。カチオン性ブロックが疎水性で有り、コアとなるが、ガン細胞表面でカチオンが細胞膜のアニオンと相互作用するというものである。
【0006】
非特許文献3は、休眠状態の前立腺癌細胞を死滅させるために設計された抗癌剤高分子を開示している。非特許文献3で開示されている高分子は、カチオン性モノマーと疎水性のモノマーのランダム共重合体である。細胞膜がよりネガティブ名電位のガン細胞の表面に吸着し、抗がん活性を示す。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Guansheng Zhonga et al.,“Polymers with distinctive anticancer mechanism that kills MDR cancer cells and inhibits tumor metastasis”,Biomaterials,2019,Vol.199,pp.76-87
【非特許文献2】Nathaniel H.Park et al.,“Addressing Drug Resistance in Cancer with Macromolecular Chemotherapeutic Agents”,J.Am.Chem.Soc.,2018,Vol.140,pp.4244-4252
【非特許文献3】Haruko Takahashi1 et al.,“Anticancer polymers designed for killing dormant prostate cancer cells”,Scientific reports,(2019)9:1096
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、これまでの抗がん性の低分子化合物にかわって、新規な抗がん性の高分子化合物が求められてきた。
したがって、本発明の目的は、新規な抗がん性高分子化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、新規な抗がん性の高分子化合物を鋭意探索してきたところ、後述する構造を備えた新規な高分子化合物によって上記課題が解決できることを見いだして、本発明に到達した。
【0010】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
次の式Iで表されるモノマー:
(ただし、式Iにおいて、
R11は、メチル基、又は水素原子であり、
R12は、-NH-基、又は-O-基であり、
R13は、C2~C4のアルキレン基であり、
R14は、1級、2級、3級、又は4級アミンの1価基である)
と、
次の式IIで表されるモノマー:
(ただし、式IIにおいて、
R21は、メチル基、又は水素原子であり、
R22は、-NH-基、又は-O-基であり、
R23は、C4~C12のアルキル基である)
とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物。
(2)
次の式IIIで表される、カチオン性ランダム共重合高分子化合物である、(1に記載のカチオン性高分子化合物:
poly[A-ran-B] 式III
(ただし、式IIIにおいて、
Aは、式Iで表されるモノマーであり、
Bは、式IIで表されるモノマーである)。
(3)
式III中に導入されたモノマーAのモルとモノマーBのモル数について、次の式で表されるモノマーBの含有率(%):
[モノマーBのモル数]/[モノマーAのモル数 + モノマーBのモル数]×100(%)
が、5%~50%の範囲にある、(2)に記載のカチオン性ランダム共重合高分子化合物。
(4)
R14が、次の式IV:
(ただし、式IVにおいて、
R41、R42、及びR43は、それぞれ独立に、C1~C2のアルキル基である)
で表される4級アミンの1価基である、(1)に記載のカチオン性高分子化合物。
(5)
(1)~(4)のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、医薬化合物。
(6)
(1)~(4)のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、抗がん剤。
(7)
(1)~(4)のいずれかに記載のカチオン性高分子化合物の、抗がん剤の製造のための使用。
(8)
式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとを、ランダム共重合して、式IIIで表される、カチオン性ランダム共重合高分子化合物を、製造する方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、抗がん性の高分子化合物を提供する。本発明の抗がん性高分子化合物は、高分子構造を備えていて、これが抗がん性を発揮することから、低分子化合物による抗がん剤に対して、原理的な優位性を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1はPoly[3-(acrylamido)propyl]-trimethylammonium chloride (AMPTMA) (Poly-AMPTMA)の合成の流れを示す説明図である。
【
図2】
図2はPoly-(AMPTMA-ran-BuMA)の合成の流れを示す説明図である。
【
図3A】
図3Aは合成したAMPTMAのホモポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
【
図4A】
図4Aは合成したAMPTMA-ran-BuMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
【
図5】
図5は合成したAMPTMA-ran-BuMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルであって、BuMAの含有量が増加することに伴う変化を比較した図である。
【
図6A】
図6Aは合成したAMPTMA-ran-HexMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
【
図7A】
図7Aは合成したAMPTMA-ran-OctMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施他の形態に限定されるものではない。
【0014】
[抗がん性高分子化合物]
本発明の抗がん性高分子化合物は、次の式Iで表されるモノマーと、次の式IIで表されるモノマーとが、共重合してなるカチオン性高分子化合物にある。
【0015】
【0016】
式Iにおいて、
R11は、メチル基、又は水素原子であり、
R12は、-NH-基、又は-O-基であり、
R13は、C2~C4のアルキレン基であり、
R14は、1級、2級、3級、又は4級アミンの1価基である。
【0017】
好適な実施の態様において、R13は、例えばC2~C4のアルキレン基、好ましくはC2~C3のアルキレン基、あるいは好ましくはC3~C3のアルキレン基、さらに好ましくはC3のアルキレン基とすることができる。
【0018】
好適な実施の態様において、R14は、例えば1級、2級、3級、又は4級アミンの1価基、好ましくは3級、又は4級アミンの1価基、さらに好ましくは4級アミンの1価基とすることができる。
【0019】
好適な実施の態様において、R14は、次の式IVで表される4級アミンの1価基とすることができる。
【0020】
【0021】
式IVにおいて、
R41、R42、及びR43は、それぞれ独立に、C1~C2のアルキル基である。
【0022】
好適な実施の態様において、R41、R42、及びR43は、メチル基とすることができる。
【0023】
【0024】
式IIにおいて、
R21は、メチル基、又は水素原子であり、
R22は、-NH-基、又は-O-基であり、
R23は、C4~C12のアルキル基である。
【0025】
好適な実施の態様において、R23は、例えばC4~C12のアルキル基、好ましくはC4~C11のアルキル基、さらに好ましくはC4~C10のアルキル基、さらに好ましくはC4~C9のアルキル基、さらに好ましくはC4~C8のアルキル基とすることができ、あるいはC5~C8のアルキル基、あるいはC6~C8のアルキル基、あるいはC4~C7のアルキル基、あるいはC4~C6のアルキル基、あるいはC5~C7のアルキル基とすることができる。アルキル基は、疎水性を付与する基であればよく、直鎖又は分枝のアルキル基とすることができる。好適な実施の態様において、アルキル基として、直鎖のアルキル基を使用することができる。好適な実施の態様において、直鎖のC4~C8のアルキル基を使用することができる。
【0026】
[カチオン性ランダム共重合高分子化合物]
好適な実施の態様において、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとが、共重合してなるカチオン性高分子化合物は、次の式IIIで表されるカチオン性ランダム共重合高分子化合物とすることができる。
poly[A-ran-B] 式III
【0027】
式IIIにおいて、
Aは、式Iで表されるモノマーであり、
Bは、式IIで表されるモノマーである。
【0028】
好適な実施の態様において、
式III中に導入されたモノマーAのモルとモノマーBのモル数について、次の式で表されるモノマーBの含有率(%):
[モノマーBのモル数]/[モノマーAのモル数 + モノマーBのモル数]×100(%)
を、後述する範囲とすることができる。
【0029】
好適な実施の態様において、上記式で表されるモノマーBの含有率(%)は、例えば5%~50%の範囲、好ましくは7.5%~50%の範囲、さらに好ましくは10%~50%の範囲とすることができ、あるいは例えば5%~40%の範囲、好ましくは7.5%~40%の範囲、さらに好ましくは10%~40%の範囲とすることができ、あるいは例えば5%~35%の範囲、好ましくは7.5%~35%の範囲、さらに好ましくは10%~35%の範囲とすることができ、あるいは例えば5%~30%の範囲、好ましくは7.5%~30%の範囲、さらに好ましくは10%~30%の範囲とすることができる。
【0030】
好適な実施の態様において、上記式で表されるモノマーBの含有率(%)は、例えば10%~50%の範囲、あるいは15%~50%の範囲、あるいは20%~50%の範囲、あるいは25%~50%の範囲、あるいは30%~50%の範囲とすることができ、あるいは10%~40%の範囲、あるいは15%~40%の範囲、あるいは20%~40%の範囲、あるいは25%~40%の範囲、あるいは30%~40%の範囲とすることができる。
【0031】
好適な実施の態様において、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとが、共重合してなるカチオン性高分子化合物は、モノマーの重合度を、例えば10~1000、好ましくは10~500、さらに好ましくは10~200、あるいは10~150の範囲とすることができる。
【0032】
好適な実施の態様において、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとが、共重合してなるカチオン性高分子化合物は、数平均分子量を、例えば1000~100000、好ましくは1000~50000、さらに好ましくは1000~20000、あるいは1000~15000の範囲とすることができる。
【0033】
好適な実施の態様において、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとが、共重合してなるカチオン性高分子化合物は、式Iで表されるモノマーの複数の種類の分子と、式IIで表されるモノマーの複数の種類の分子とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物であってもよく、式Iで表されるモノマーの1種類の分子と、式IIで表されるモノマーの複数の種類の分子とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物であってもよく、式Iで表されるモノマーの複数の種類の分子と、式IIで表されるモノマーの1種類の分子とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物であってもよく、式Iで表されるモノマーの1種類類の分子と、式IIで表されるモノマーの1種類の分子とが、共重合してなるカチオン性高分子化合物であってもよい。
【0034】
[医薬化合物及び抗がん剤]
本発明は、上記カチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、医薬化合物及び医薬組成物にもある。本発明は、上記カチオン性高分子化合物を有効成分として含有する、抗がん剤及び抗がん組成物にもある。本発明は、上記カチオン性高分子化合物の、抗がん剤及び抗がん組成物の製造のための使用にもある。
【0035】
本発明のカチオン性高分子化合物が、がん細胞に対して、優れた抗がん作用を示す理由は不明であるが、後述する実施例の結果から、高分子鎖へ導入したアミン基によるカチオン性に対して、さらに高分子鎖へ導入したアルキル基による疎水性が相乗的に作用して、優れた抗がん作用を示していると、本発明者は考えている。
【0036】
[カチオン性高分子化合物の製造]
本発明のカチオン性高分子化合物は、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとを、共重合して、製造することができる。好適な実施の態様において、本発明のカチオン性高分子化合物は、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとを、ランダム共重合して、製造することができる。好適な実施の態様において、式Iで表されるモノマーと、式IIで表されるモノマーとを、ランダム共重合して、式IIIで表される、カチオン性ランダム共重合高分子化合物を、製造することができる。
【0037】
好適な実施の態様において、ランダム共重合は、公知の手段によって行うことができ、好ましくはRAFT剤を使用して行うことができる。好適な実施の態様において、RAFT剤は、RAFT剤のモル数に対する使用するモノマーのモル数の比:
[モノマーのモル数]/[RAFT剤のモル数]
を、例えば100:0.1~100:10、好ましくは100:0.3~100:5、さらに好ましくは100:0.3~100:4の範囲とすることができる。
【0038】
好適な実施の態様において、RAFT剤として、例えば4-Cyano-4-[(dodecylsulfanylthiocarbonyl)-sulfanyl]pentanoic acid、2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic Acid 、4-Cyano-4-[(phenylcarbonothioyl)thio]pentanoic Acid、 Methyl 2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropanoate、Cyanomethyl Dodecyl Trithiocarbonate、2-Phenylpropan-2-yl Benzodithioate、及びBenzyl Benzodithioateから選択されたRAFT剤を使用することができ、好ましくは4-Cyano-4-[(dodecylsulfanylthiocarbonyl)-sulfanyl]pentanoic acid、2-(Dodecylthiocarbonothioylthio)-2-methylpropionic Acid、及び4-Cyano-4-[(phenylcarbonothioyl)thio]pentanoic Acidから選択されたRAFT剤を使用することができる。
【実施例0039】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
[Poly[3-(acrylamido)propyl]-trimethylammonium chloride (AMPTMA) (Poly-AMPTMA)の合成]
モノマーAMPTMA、RAFT剤(4-Cyano-4-[(dodecylsulfanylthiocarbonyl)-sulfanyl]pentanoic acid)、及び開始剤4,4′-Azobis(4-cyanovaleric acid)(ACVA)を、モル比で100:1:0.2(AMPTMP1.5g(7.25mmol)、RAFT剤29.26mg(0.725mmol)、開始剤4.06mg(0.0145mmol))で混合し、25mLのpH5.3のメタノール/酢酸バッファー(7:3v/v)に溶解した。その溶液に窒素バブリングを30分行い、70℃で16時間重合反応を行った。その後、分画分子量3500の透析膜で3日間蒸留水に対し透析を行い、凍結乾燥後高分子を回収した。得られた高分子は1H-NMR(ブルカー社ABANCEIII)にて構造解析を行った。
【0041】
このようにして、Poly[3-(acrylamido)propyl]-trimethylammonium chloride (AMPTMA) (Poly-AMPTMA)の合成を行った。この合成の流れを示す説明図を、
図1に示す。
【0042】
[実施例2]
[Poly-(AMPTMA-ran-BuMA),Poly-(AMPTMA-ran-HexMA),Poly-(AMPTMA-ran-OctMA)の合成]
AMPTMAとブチルメタクリレート(BuMA)、ヘキシルメタクリレート(HexMA)、オクチルメタクリレート(OctMA)のランダム共重合体の合成を行った。
共重合比は、AMPTMA:BuMAは95:5、90:10、80:20、70:30(mol/mol)とした。重合度は基本的にはモノマーのモル数/RAFT剤のモル数で表される。重合度が100の場合、モノマー:RAFT剤:開始剤は(100:1:0.2)である。
例えばPoly-(AMPTMA-ran-BuMA)でBuMAの共重合比が10%の場合、AMPTMA1g(4.837mmol)にBuMA76.42mg(0.537mmol)を添加し、RAFT剤19.53mg(0.048mmol)、開始剤2.71mg(0.0096mmol)と混合して、25mLのpH5.3のメタノール/酢酸バッファー(7:3v/v)に溶解した。その溶液に窒素バブリングを30分行い、70℃で16時間重合反応を行った。その後、分画分子量3500の透析膜で3日間蒸留水に対し透析を行い、凍結乾燥後高分子を回収した。得られた高分子は1H-NMR(ブルカー社ABANCEIII)にて構造解析を行った。
同様にして、BuMAをHexMAおよびOctMAに変えた90:10のランダム共重合体も合成した。
【0043】
このようにして、AMPTMAとブチルメタクリレート(BuMA)のランダム共重合体、AMPTMAとヘキシルメタクリレート(HexMA)のランダム共重合体、AMPTMAとオクチルメタクリレート(OctMA)のランダム共重合体の合成を、それぞれ行った。AMPTMAとブチルメタクリレート(BuMA)のランダム共重合体であるPoly-(AMPTMA-ran-BuMA)の合成の流れを示す説明図を、
図2に示す。
【0044】
[実施例3]
[抗がん活性評価]
ガン細胞として、肝がん細胞HepG2、結腸ガン細胞Colon26、メラノーマB16F10を用いた。各細胞は10%のウシ胎児血清を添加したDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM培地)にて培養を行った。培養は37℃インキュベータ中、5%CO2濃度下で行った。
細胞は96wellプレートに3000個播種し、24時間インキュベート後、各ポリマーの培地溶液を添加し、最終ポリマー濃度が0-2000μg/mLとなるように調整し、48時間培養を行った。その後、3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-2,5-diphenyltetrazolium bromide(MTT)アッセイを行い、細胞の生存率を評価し、50%増殖抑制濃度(IC50)を求め毒性の指標とした。MTTアッセイは、採取濃度100μg/mLとなるようにMTTを添加し、37℃インキュベータ中で3時間培養し、その後、上清を捨てた後、100μLのジメチルスルホキシドを添加して色素を溶出し、540nmの吸光度を測定することにより行った。薬物を添加しなかった系の吸光度を生存率100%とし、吸光度の減少から生存率を算出した。
【0045】
[実施例4]
[1H-NMRの測定の結果]
合成した各ポリマーの1H-NMRを測定した結果を以下に説明する。
【0046】
図3Aは、合成したAMPTMAのホモポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
図3Bは、
図3A中の構造式の拡大図である。
【0047】
図4Aは、合成したAMPTMA-ran-BuMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
図4Bは、
図4A中の構造式の拡大図である。
【0048】
図5は、合成したAMPTMA-ran-BuMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルであって、BuMAの含有量が増加することに伴う変化を比較した図である。
【0049】
図6Aは、合成したAMPTMA-ran-HexMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
図6Bは、
図6A中の構造式の拡大図である。
【0050】
図7Aは、合成したAMPTMA-ran-OctMAのコポリマーの1H-NMRのスペクトルを示す図である。
図7Bは、
図7A中の構造式の拡大図である。
【0051】
図3A~
図7Bに示すように、各ポリマーは想定している通りの構造を持っていることが確認できた。
【0052】
[実施例5]
[抗がん活性評価の結果]
表1に各ポリマーの抗がん活性評価の結果を示す。
【0053】
【0054】
表1中のa.は、MTTアッセイによる結果である。表1中のb.は、最大濃度である2mg/mLを用いても結果が得られなかったことを示す。
【0055】
表1に示されるように、P0としたPoly AMPTMAは、Colon26に対して402μg/mLのIC50を示したが、HepG2およびB16F10に対しては2000μg/mLまでの濃度範囲ではIC50は見られなかった。P1としたP(AMPTMA-ran-BuMA(5%))もColon26にのみ315μg/mLのIC50を示した。P2としたP(AMPTMA-ran-BuMA(10%))はColon26に対して118μg/mL、B16F10に対して359μg/mLのIC50を示したが、HepG2には2000μg/mLまでの濃度範囲でIC50を示さなかった。P3としたP(AMPTMA-ran-BuMA(20%))は、HepG2に対して582μg/mL、Colon26に対して41μg/mL、B16F10に対して89μg/mLのIC50を示した。P4としたP(AMPTMA-ran-BuMA(30%))は、HepG2に対して210μg/mL、Colon26に対して24μg/mL、B16F10に対して43μg/mLのIC50を示した。これらの結果から、疎水性基であるBuMAの導入量が増えるに従ってすべてのガン細胞への毒性が向上したことが確認できた。次に、P5としたP(AMPTMA-ran-HexMA(10%))は、HepG2に対して167μg/mL、Colon26に対して22μg/mL、B16F10に対して16μg/mLのIC50を示した。P6としたP(AMPTMA-ran-OctMA(10%))はHepG2に対して60μg/mL、Colon26に対して7μg/mL、B16F10に対して16μg/mLのIC50を示した。P2、P5、P6を比較すると、同じ10%の導入量であっても疎水性アルキル鎖が長いほどガン細胞への毒性が向上することが確認された。