(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074184
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】水電解セル用部材、水電解セル及び水電解セルスタック
(51)【国際特許分類】
C25B 9/65 20210101AFI20240523BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240523BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240523BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20240523BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20240523BHJP
【FI】
C25B9/65
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B11/032
C25B9/23
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185314
(22)【出願日】2022-11-18
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-12-05
(71)【出願人】
【識別番号】000220262
【氏名又は名称】東京瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内野 幸奈
(72)【発明者】
【氏名】宇根本 篤
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB31
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】コーティング材と、アノードガス拡散層の基材又はセパレータの基材との間で亀裂が低減され、貫通抵抗の小さい接合界面を形成して腐食が抑制可能な水電解セル用部材を提供する。
【解決手段】アノードガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方である水電解セル用部材であって、アノードガス拡散層の基材及びセパレータ基材の少なくとも一方の基材と、前記基材の表面上の少なくとも一部に位置する導電性セラミクスを含むコーティング材と、前記基材と前記コーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層と、を備え、前記酸素を含むチタン層の厚さは、78.7nm以下であり、前記コーティング材の厚さは、190nm以上4223nm以下である水電解セル用部材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方である水電解セル用部材であって、
アノードガス拡散層の基材及びセパレータ基材の少なくとも一方の基材と、
前記基材の表面上の少なくとも一部に位置する導電性セラミクスを含むコーティング材と、
前記基材と前記コーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層と、を備え、
前記酸素を含むチタン層の厚さは、78.7nm以下であり、
前記コーティング材の厚さは、190nm以上4223nm以下である水電解セル用部材。
【請求項2】
前記導電性セラミクスは、窒化物、炭化物及び炭窒化物の少なくともいずれかを含み、前記窒化物、前記炭化物及び前記炭窒化物は、それぞれ独立に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルを少なくとも1種類以上含む請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項3】
前記導電性セラミクスは、窒化チタンを含む請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項4】
前記酸素を含むチタン層の厚さは、45.5nm以下である請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項5】
前記酸素を含むチタン層の厚さは、10.9nm以下である請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項6】
前記コーティング材の厚さは、490nm以上4223nm以下である請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項7】
前記コーティング材の厚さは、2042nm以上4223nm以下である請求項1に記載の水電解セル用部材。
【請求項8】
セパレータと、アノードガス拡散層と、アノード触媒と、カソード触媒と、電解質膜と、を備える水電解セルであって、
前記水電解セルに含まれる前記セパレータ及び前記アノードガス拡散層の少なくとも一方は、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の水電解セル用部材から構成されている水電解セル。
【請求項9】
請求項8に記載の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水電解セル用部材、水電解セル及び水電解セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解(以下、「水電解」という場合がある。)は、電気分解によって水から水素及び酸素を生成する方法である。例えば、エネルギー源として水素を利用する技術において、水電解は、持続可能な水素生成のための有望な技術である。
【0003】
水電解に用いる水電解セルは、セパレータ、アノードガス拡散層、アノード触媒層、電解質膜等をこの順番で備える(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アノードで発生する酸素ガスと接触する部材、例えば、ガス拡散層(GDL)、セパレータ等は、高酸化雰囲気にさらされる。そのため、ガス拡散層、セパレータ等は、腐食しやすく、その結果、水電解セルの抵抗が増加しやすくなり、水電解セルが短寿命化しやすい。
【0006】
触媒との接触抵抗低減及び腐食の抑制の観点から、特許文献1に記載の水電解セルにて、アノード触媒層とアノードガス拡散層との間を白金等の貴金属でめっき被覆する方法がある。しかし、アノードガス拡散層に亀裂が生じやすく、未被覆部が露出して腐食を抑制できないおそれがある。
【0007】
本開示の目的は、コーティング材と、アノードガス拡散層の基材又はセパレータの基材との間で亀裂が低減され、貫通抵抗の小さい接合界面を形成して腐食が抑制可能な水電解セル用部材、並びにこれを備える水電解セル及び水電解セルスタックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、以下の態様を含む。
<1> アノードガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方である水電解セル用部材であって、
アノードガス拡散層の基材及びセパレータ基材の少なくとも一方の基材と、
前記基材の表面上の少なくとも一部に位置する導電性セラミクスを含むコーティング材と、
前記基材と前記コーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層と、を備え、
前記酸素を含むチタン層の厚さは、78.7nm以下であり、
前記コーティング材の厚さは、190nm以上4223nm以下である水電解セル用部材。
<2> 前記導電性セラミクスは、窒化物、炭化物及び炭窒化物の少なくともいずれかを含み、前記窒化物、前記炭化物及び前記炭窒化物は、それぞれ独立に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルを少なくとも1種類以上含む<1>に記載の水電解セル用部材。
<3> 前記導電性セラミクスは、窒化チタンを含む<1>に記載の水電解セル用部材。
<4> 前記酸素を含むチタン層の厚さは、45.5nm以下である<1>~<3>のいずれか1つに記載の水電解セル用部材。
<5> 前記酸素を含むチタン層の厚さは、10.9nm以下である<1>~<4>のいずれか1つに記載の水電解セル用部材。
<6> 前記コーティング材の厚さは、490nm以上4223nm以下である<1>~<5>のいずれか1つに記載の水電解セル用部材。
<7> 前記コーティング材の厚さは、2042nm以上4223nm以下である<1>~<6>のいずれか1つに記載の水電解セル用部材。
<8> セパレータと、アノードガス拡散層と、アノード触媒と、カソード触媒と、電解質膜と、を備える水電解セルであって、
前記水電解セルに含まれる前記セパレータ及び前記アノードガス拡散層の少なくとも一方は、<1>~<7>のいずれか1つに記載の水電解セル用部材から構成されている水電解セル。
<9> <8>に記載の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタック。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、コーティング材と、アノードガス拡散層の基材又はセパレータの基材との間で亀裂が低減され、貫通抵抗の小さい接合界面を形成して腐食が抑制可能な水電解セル用部材、並びにこれを備える水電解セル及び水電解セルスタックが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は、実施例1~7及び比較例1~4に示したコーティング材付き基材の貫通抵抗と、酸素を含むチタン層の厚さの関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例1~7及び比較例1~4に示したコーティング材付き基材の貫通抵抗と、コーティング材の厚さの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0012】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値に置き換えられてもよく、ある数値範囲で記載された下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の下限値に置き換えられてもよい。本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えられてもよい。
【0014】
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
<水電解セル用部材>
以下、本開示の水電解セル用部材について説明する。
本開示の水電解セル用部材は、アノードガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方である水電解セル用部材であって、アノードガス拡散層の基材及びセパレータ基材の少なくとも一方の基材と、前記基材の表面上の少なくとも一部に位置する導電性セラミクスを含むコーティング材と、前記基材と前記コーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層と、を備え、前記酸素を含むチタン層の厚さは、78.7nm以下であり、前記コーティング材の厚さは、190nm以上4223nm以下である。
【0016】
本開示の水電解セル用部材は、アノードガス拡散層及びセパレータ(好ましくはアノード用のセパレータ)の少なくとも一方であり、水電解セルの構成部材として用いられる。本開示の水電解セル用部材では、導電性セラミクスを含むコーティング材と基材との間に酸素を含むチタン層が存在することでコーティング材と基材との間で残留応力が緩和され、アノードガス拡散層又はセパレータの腐食が抑制され、その結果、低貫通抵抗を実現することができる。
【0017】
さらにコーティング材の厚さを薄くすることで、アノードガス拡散層の基材又はセパレータの基材との間で亀裂が低減され、貫通抵抗の小さい接合界面を形成することができる。また、酸素を含むチタン層の厚さを薄くすることで貫通抵抗のさらに小さい接合界面を形成することができる。
【0018】
アノードガス拡散層は、水電解セルにおいてアノードに配置されるガス拡散層である。セパレータは、ガス拡散層において電解質膜とは反対側の面に配置される部材である。
【0019】
水電解セルは、水の電気分解によって水素及び酸素を生成する機能を有する最小単位である。ガス拡散層は、水電解装置に適用されてもよい。水電解装置は、水の電気分解によって水素及び酸素を生成する装置である。水電解装置は、水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタックを備えていてもよい。
【0020】
(基材)
本開示の水電解セル用部材は、アノードガス拡散層の基材及びセパレータ基材の少なくとも一方の基材を備える。水電解セル用部材がアノードガス拡散層である場合、基材はアノードガス拡散層の基材であり、水電解セル用部材がセパレータである場合、基材はセパレータ基材である。
【0021】
基材の材質としては特に限定されず、チタン、ステンレス等の金属、カーボンなどが挙げられる。後述の水電解によって基材とコーティング材との間に酸素を含むチタン層が形成されやすくなる観点、並びにコーティング材の亀裂発生及び電気抵抗を抑制する観点から、基材は、チタンを含むことが好ましい。
【0022】
基材内を流体が流通可能となる観点から、基材は、多孔質体、粉末焼結体、繊維焼結体、金属メッシュ、フェルト等から構成されていてもよい。
【0023】
(コーティング材)
本開示の水電解セル用部材は、基材の表面上の少なくとも一部に位置する導電性セラミクスを含むコーティング材を備える。コーティング材は、1種又は2種以上の導電性セラミクスを含んでいればよく、導電性セラミクスからなる層又は膜であってもよい。
【0024】
コーティング材に含まれる導電性セラミクスは、窒化物、炭化物及び炭窒化物の少なくともいずれかを含むことが好ましく、窒化物、炭化物及び炭窒化物は、それぞれ独立に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルを少なくとも1種類以上含むことが好ましい。
【0025】
導電性セラミクスは、窒化物、炭化物又は炭窒化物のいずれかであってもよく、窒化物であってもよい。窒化物、炭化物及び炭窒化物は、少なくともチタンを含んでいてもよく、チタンと共にその他の金属(例えば、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びタンタルの少なくともいずれか1種)を含んでいてもよい。
【0026】
コーティング材に含まれる導電性セラミクスとしては、例えば、窒化チタン、炭窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化バナジウム、窒化ニオブ、窒化タンタル等が挙げられる。中でも、水電解により酸素を含むチタン層が形成されやすいため、窒化チタンを含むことが好ましく、窒化チタンからなることがより好ましい。
【0027】
基材上に導電性セラミクスを含むコーティング材を形成する方法は特に限定されない。例えば、AIP(アークイオンプレーティング)法、PLD(パルスレーザーデポジション)法、ガス窒化法等によりコーティング材を形成することが可能である。表面を粗化してコーティング材との密着性を高めるため、基材に対してブラスト処理を実施してもよい。
【0028】
コーティング材の厚さが薄いと、アノードガス拡散層の基材又はセパレータの基材との間で亀裂が低減され、内部抵抗が小さくなる傾向にある。このため、コーティング材の厚さは、190nm以上4223nm以下であり、490nm以上4223nm以下であることが好ましく、2042nm以上4223nm以下であることがより好ましく、2042nm以上3000nm以下であることがさらに好ましい。
コーティング材の厚さを調整することで、コーティング材の亀裂の発生、進展等を抑制することができるため、コーティング材と基材界面に形成する酸素を含むチタン層の厚さを薄くすることができる。コーティング材の厚さを薄くすることで、亀裂の発生、進展等を抑制できる傾向にある。コーティング材の厚さを大きくすることで、貫通抵抗の増加を抑制できる傾向にある。
【0029】
(酸素を含むチタン層)
本開示の水電解セル用部材は、基材とコーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層を備える。導電性セラミクスを含むコーティング材と基材との間に酸素を含むチタン層が存在することでコーティング材と基材との間で高密着な接合界面が形成されて腐食が抑制可能となる。例えば、基材及びコーティング材近傍を収束イオンビームで断面加工した後、走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光器で分析することで、酸素を含むチタン層の厚さを評価することができる。
【0030】
酸素を含むチタン層の厚さは、コーティング材の接触抵抗を抑制する観点から、酸素を含むチタン層の厚さは、78.7nm以下であり、45.5nm以下であることが好ましく、10.9nm以下であることがより好ましい。酸素を含むチタン層の厚さを薄くすることで、貫通抵抗が低減可能である。
【0031】
基材とコーティング材との間に位置する酸素を含むチタン層を形成する方法としては特に限定されない。例えば、基材にスパッタリング法などにより酸化チタン、窒化チタン等を積層してもよい。コーティング材を備える基材をアノードガス拡散層及びセパレータの少なくとも一方として水電解セル、水電解セルを積層してなる水電解スタック等に組み込み、当該水電解セル、水電解スタック等を用いて水電解を行うことでコーティング材を備える基材を酸素雰囲気下にさらしてもよい。
【0032】
前述のように水電解を行うことでコーティング材を備える基材を酸素雰囲気下にさらす場合、水電解時のセル温度、水の流量、電流密度、水電解時間等を調整することで酸素を含むチタン層の厚さを調整することができる。
【0033】
<水電解セル>
以下、本開示の水電解セルについて説明する。
本開示の水電解セルは、セパレータと、アノードガス拡散層と、アノード触媒と、カソード触媒と、電解質膜と、を備える水電解セルであって、前記水電解セルに含まれるセパレータ及びアノードガス拡散層の少なくとも一方は、前述の本開示の水電解セル用部材から構成されている。
【0034】
本開示の水電解セルでは、セパレータ(好ましくはアノード用のセパレータ)及びアノードガス拡散層の少なくとも一方は、前述の本開示の水電解セル用部材から構成されている。
【0035】
例えば、本開示の水電解セルは、前述の本開示の水電解セル用部材から構成されたアノード用のセパレータを備えていてもよく、前述の本開示の水電解セル用部材から構成されたアノードガス拡散層を備えていてもよく、その両方を備えていてもよい。
【0036】
前述の本開示の水電解セル用部材以外から構成され得るセパレータ及びアノードガス拡散層、アノード触媒、カソード触媒、電解質膜等としては、従来公知の水電解セルにて使用されるセパレータ及びアノードガス拡散層、アノード触媒、カソード触媒と電解質膜等を適用してもよい。
【0037】
水電解セルは、他の構成要素を更に含んでいてもよい。他の構成要素は、公知の水電解セルの構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、カソードガス拡散層、ガスケット、シール材等が挙げられる。
【0038】
例えば、電解質膜は、水電解に使用される公知の電解質膜(イオン交換膜であってもよい)から選択されてもよい。電解質膜は、プロトン(H+)を選択的に透過する性質を有することが好ましい。電解質膜としては、例えば、高分子電解質膜(PEM)が挙げられる。高分子電解質膜としては、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜が挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン膜としては、例えば、ナフィオン膜が挙げられる。
【0039】
電解質膜は、イオン性基を有することによりプロトン伝導性を有するポリマーであり、例えば、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質のいずれであってもよい。
【0040】
ここで、フッ素系高分子電解質とは、ポリマー中のアルキル基及び/又はアルキレン基における水素の大部分又は全部がフッ素原子に置換されたものを意味する。イオン性基を有するフッ素系高分子電解質の代表例としては、“ナフィオン”(登録商標)(ケマーズ(株)製)、“アクイビオン”(登録商標)(ソルベイ社製)、“フレミオン”(登録商標)(AGC(株)製)及び“アシプレックス”(登録商標)(旭化成(株)製)などの市販品が挙げられる。
【0041】
炭化水素系電解質としては、主鎖に芳香環を有する芳香族炭化水素系ポリマーが好ましい。ここで、芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン骨格等の炭素原子と水素原子のみからなる炭化水素系芳香環だけでなく、ピリジン環、イミダゾール環、チオール環等のヘテロ環などを含んでいてもよい。また、芳香環ユニットと共に一部脂肪族系ユニットがポリマーを構成していてもよい。
【0042】
芳香族炭化水素系ポリマーの具体例としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンオキシド、ポリエーテルホスフィンオキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホンから選択される構造を芳香環とともに主鎖に有するポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合等を有している構造の総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含む。芳香族炭化水素系ポリマーは、これらの構造を複数有していてもよい。これらのなかでも、芳香族炭化水素系ポリマーとして特にポリエーテルケトン骨格を有するポリマー、すなわちポリエーテルケトン系ポリマーが好ましい。
【0043】
電解質膜は、補強材と組み合わせてもよい。補強材を用いることで、例えば、ホットプレス法により電解質膜と電極を接合する際に膜が破損することによるガスのリーク、電極内の短絡等が生じにくくなる。
【0044】
補強材の具体例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)、FEP(テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素系高分子又はPE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン)等の熱可塑性樹脂、PI(ポリイミド)、PSF(ポリスルホン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PPSS(ポリフェニレンスルフィドスルホン)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PEK(ポリエーテルケトン)、PBI(ポリベンズイミダゾール)、PPS(ポリフェニレンスルフィド)、PPP(ポリパラフェニレン)、PPQ(ポリフェニルキノキサリン)、ポリベンゾオキサゾール(PBO)、ポリベンゾチアゾール(PBT)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)等のエンジニアリングプラスチックなどからなる均質な多孔質膜が挙げられる。
【0045】
アノード触媒及びカソード触媒は、水電解に使用される公知の触媒から選択されてもよい。触媒の成分としては、例えば、白金、金、銀、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、タングステン、バナジウム、これらの合金及びこれらの酸化物が挙げられる。触媒の形態は、粒子であってもよい。また、アノード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。アノード触媒の担体としては、例えば、酸化チタン、酸化スズ等の金属酸化物が挙げられる。カソード触媒は、担体に担持された触媒を含んでいてもよい。カソード触媒の担体としては、例えば、カーボンブラック等の導電性炭素材料が挙げられる。
【0046】
水電解セルは、アノード触媒(好ましくはアノード触媒粒子)及びアイオノマーを含むアノード触媒層を備えていてもよく、カソード触媒(好ましくはカソード触媒粒子)及びアイオノマーを含むカソード触媒層を備えていてもよい。これにより、触媒層内での触媒とアイオノマーの接触面積が増えるため、反応が促進される傾向にある。アイオノマーは、プロトン伝導体として機能する材料である。アノード触媒層及びカソード触媒層は、それぞれ独立に、電解質膜に塗布されて形成される層であってもよく、基材フィルムに塗布された層が電解質膜に熱転写されて形成される層であってもよい。
【0047】
水電解セルにおける各構成要素の配置は、公知の水電解セルを参考に決定されてもよい。例えば、水電解セルの断面の少なくとも一部において、電解質膜がアノード触媒とカソード触媒との間に位置していてもよい。水電解セルにおいて、電解質膜並びにアノード触媒及びカソード触媒は、アノードガス拡散層とカソードガス拡散層との間に位置することが好ましい。水電解セルにおいて、電解質膜、アノード触媒及びカソード触媒並びにガス拡散層は、2つのセパレータの間に位置することが好ましい。
【0048】
水電解セルの一例を
図1に示す。
図1は、水電解セルの概略断面図である。
図1に示すように、水電解セル100は、
図1の上側から順にアノードセパレータ60と、アノードガス拡散層20と、触媒層付き電解質膜(Catalyst Coated Membrane:CCM)10と、カソードガス拡散層30と、カソードセパレータ70と、を備える。触媒層付き電解質膜10は、アノード触媒12、電解質膜11及びカソード触媒13から構成されている。さらに、アノードセパレータ60と電解質膜11との間にガスケット40が配置されており、カソードセパレータ70と電解質膜11との間にガスケット50が配置されている。
【0049】
アノードセパレータ60及びアノードガス拡散層20の少なくとも一方が、前述の本開示の水電解セル用部材から構成されていることが好ましい。アノードセパレータ60が前述の本開示の水電解セル用部材から構成されている場合、コーティング材がアノードガス拡散層20側に位置することが好ましく、アノードガス拡散層20が前述の本開示の水電解セル用部材から構成されている場合、コーティング材がアノード触媒12側に位置することが好ましい。
【0050】
<水電解装置>
以下、本開示の水電解装置について説明する。
本開示の水電解装置は、前述の本開示の水電解セルを複数積層してなる水電解セルスタックであってもよく、当該水電解セルスタック又は本開示の水電解セルと他の構成要素とを備える装置であってもよい。
【0051】
他の構成要素は、公知の水電解装置の構成要素から選択されてもよい。他の構成要素としては、例えば、パワーコンディショナー、水ポンプ、イオン交換樹脂、熱交換器及び除湿器などの補機類が挙げられる。
【実施例0052】
以下、実施例により本開示を詳細に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例に制限されるものではない。以下の実施例に示される事項は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されてもよい。
【0053】
<実施例1>
基材として、繊維径が20μm、厚さが200μm、空隙率が56%、縦と横の長さがそれぞれ5cmであるTi繊維焼結体(べカルトジャパン社製)からなる基材(Ti繊維基材)を準備し、コーティング材作製用のコーティング材として窒化チタンを準備した。Ti繊維基材にブラスト処理した後、ガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンで構成されたコーティング材(窒化チタンコーティング材)をTi繊維基材上に形成した。ガス通気が可能なチャンバー内にTi繊維基材を設置、試料温度が650℃となるよう加熱した後、窒素ガスをチャンバー内に導入し、窒化処理を20時間実施した。
【0054】
窒化チタンコーティング材を備えるTi繊維基材の断面加工をした後、走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光器(日本電子株式会社製・JSM-6510A)を併用し、窒化チタンコーティング材の厚さ(nm)を測定した。窒化チタンコーティング材の厚さは、無作為に選択した10点の平均値とした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.46であった。
【0055】
次に、窒化チタンコーティング材を備えるTi繊維基材からなるアノードガス拡散層と、アノード側のセパレータ(アノードセパレータ)と、アノード触媒と、カソード触媒と、電解質膜と、カソードガス拡散層と、カソード側のセパレータ(カソードセパレータ)と、アノード側のエンドプレートと、アノード側の集電板と、アノード側のエンドプレートと、集電板の間に配置する絶縁シートと、カソード側のエンドプレートと、カソード側の集電板と、カソード側のエンドプレートと集電板の間に配置する絶縁シートと、を備える水電解セルを作製した。アノードセパレータとしては、電極設置部の縦と横の長さがそれぞれ5cmであり、一辺5cmの範囲で溝と山の幅がそれぞれ1mm、深さが2mmである流路が26本並列で配置された、Ptめっき処理したチタン製のセパレータを使用した。カソードセパレータとしては、電極設置部の縦と横の長さがそれぞれ5cmであり、一辺5cmの範囲で溝と山の幅がそれぞれ1mm、深さが2mmである流路が26本並列で配置されたカーボン製のセパレータを使用した。カソードガス拡散層は、カーボン材(SGLカーボンジャパン株式会社製)のものを使用し、縦と横の長さがそれぞれ5cmとなるよう切り取った。触媒層付き電解質膜はエフシー開発株式会社製の市販品を使用した。アノードとカソードの縦と横の長さはそれぞれ5cmであり、アノード触媒は、酸化イリジウムを含む触媒粉末とアイオノマーからなる混合物、カソード触媒は、Pt/C触媒とアイオノマーからなる混合物で構成される。アノードとカソードのガスケットはそれぞれ、電極設置部を切り取ったポリテトラフルオロエチレン(テフロンTM)のシートを使用した。ガスケットの電極設置部を切り取った部分に電極層が配置され、さらに電極設置部と、アノードとカソードの流路部分が重なるよう、アノードセパレータと、窒化チタンコーティング材を備えるTi繊維基材からなるアノードガス拡散層と、触媒層付き電解質膜と、カソードガス拡散層と、カソードセパレータとを積層した。アノードとカソードそれぞれのセパレータを、集電板と絶縁シートとエンドプレートの順に積層し、ボルトで締結することで水電解セルを作製した。アノード側のセパレータには水の入口と、発生した酸素と未反応の水が排出される配管を、カソード側のセパレータには発生した水素が排出される配管をそれぞれ設置した。アノードとカソードの集電板をそれぞれ外部電源(菊水電子工業株式会社製・PWR2001L)に接続した。
【0056】
以下の条件で前述の水電解セルに電流を印加して水電解を行った。
セル温度:60℃
水の流量:100mL/min
電流密度:2000mA/cm2
水電解時間:25時間
【0057】
水電解後に水電解セルを解体し、窒化チタンコーティング材を備えるTi繊維基材からなるアノードガス拡散層を取り出した。収束イオンビーム(FEI社製・Versa3D)で薄膜断面加工した後、走査透過型電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分光器(日本電子株式会社・JEM-ARM200F)を併用して、Ti繊維基材及び窒化チタンコーティング材の界面にチタン及び酸素を含む薄い層が形成されていることを確認した。この層は、窒化チタンコーティング材中の粒界を介して酸素が拡散することで形成された酸素を含むチタン層である、と推測される。酸素を含むチタン層の厚さは、無作為に抽出した5点の平均値とした。酸素を含むチタン層の厚さは5nmであった。
【0058】
<実施例2>
実施例1と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を15時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.28であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、水電解時間120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは19nmであった。
【0059】
<実施例3>
実施例1と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を8時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.02であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、水電解時間を200時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは32nmであった。
【0060】
<実施例4>
実施例1と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=2.73であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、電流密度を4000mA/cm2に、水電解時間を120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは48nmであった。
【0061】
<実施例5>
実施例1と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を2時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=2.33であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、セルの温度を80℃、電流密度を4000mA/cm2、水電解時間を120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは65nmであった。
【0062】
<実施例6>
実施例1に記載のTi繊維基材に対してアークイオンプレーティング(AIP)法により窒化チタンを蒸着させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。Ti繊維焼結体からなる基材をチャンバーに配置し、バイアス電源とプロセスガスの窒素をそれぞれチャンバーに接続した。基材を200℃に加熱し、処理時間5時間で窒化チタンを堆積した。窒化チタンコーティング材の厚さは、実施例1に記載の方法で評価したところ、log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.01であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、水電解時間を120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは20nmであった。
【0063】
<実施例7>
縦と横の長さがそれぞれ5cmとなるよう、厚さが1mmのTi板(ニラコ社製)を切り出した。実施例1に記載のアノードセパレータの流路の溝と山の幅で、深さが300μmとなるようエッチング処理により流路を形成し、基材(Ti基材)とした。Ti基材に対してAIP法により窒化チタンを蒸着させ、窒化チタンで構成されたコーティング材(窒化チタンコーティング材)をTi基材上に形成した。基材を650℃に加熱し、処理時間を8時間とした以外は実施例6と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.02であった。
次に、水電解セルを作製した。実施例1に記載のアノードセパレータとして、流路が形成されておらず、深さ1mmで窒化チタンが形成されたTi基材が配置できるよう、縦と横の長さをそれぞれ5mmとしたセパレータを使用し、アノードガス拡散層は、実施例1に記載の窒化チタンコーティング材を備えるTi繊維焼結体とし、水電解時間を120時間に変更した以外は、実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは20nmであった。
【0064】
<比較例1>
実施例6と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を40時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.63であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、水電解時間を120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは112nmであった。
【0065】
<比較例2>
実施例6と同様にして、SUS316L板からなる基材(SUS基材)に対してAIP法により窒化チタンを蒸着させ、窒化チタンで構成されたコーティング材(窒化チタンコーティング材)をSUS316L基材上に形成した。処理時間を25時間とした以外は実施例6と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=3.64であった。
窒化チタンコーティング材を備えるSUS基材を用い、水電解時間を120時間とした以外は実施例6と同様にして水電解セルを作製した。
【0066】
水電解後の水電解セルについて、実施例1と同様にしてSUS基材及び窒化チタンコーティング材の界面に薄い層が形成されていることを確認した。この層は、窒化チタンコーティング材中を酸素が拡散することで形成された酸素を含むチタン層(Tiは窒化チタンコーティング材由来)である、と推測される。酸素を含むチタン層の厚さは94nmであった。
【0067】
<比較例3>
実施例1と同様にTi繊維基材を準備し、コーティング材作製用のコーティング材として白金(Pt)を準備した。Ti繊維基材に対してめっき法によりPtで被覆した。log{コーティング材の厚さ(nm)}=2.29であった。
Ptコーティング材を備えるTi繊維基材を用いて、アノードガス拡散層とし、セルの温度を80℃、水電解時間を120時間とした以外は、実施例1と同様にして水電解セルを作製した。酸素を含むチタン層の厚さは95nmであった。
【0068】
<比較例4>
実施例1と同様にして、Ti繊維基材に対してガス窒化法により窒化チタンを成長させ、窒化チタンコーティング材をTi繊維基材上に形成した。窒化処理時間を1時間とした以外は、実施例1と同様にした。log{コーティング材の厚さ(nm)}=1.97であった。
次に、実施例1と同様にして水電解セルを作製し、セル温度を80℃、水電解時間を120時間に変更した以外は実施例1と同様にして水電解を行った。酸素を含むチタン層の厚さは108nmであった。
【0069】
(コーティング材のはく離有無の評価)
水電解試験後に水電解セルを解体し、アノード触媒層の表面を走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光器(日本電子株式会社製・JSM-6510A)を併用して微細構造観察と元素分析を実施することで、基材からコーティング材が剥離してコーティング材がアノード触媒層表面に転写されたか否かを確認した。転写されていなければ、基材とコーティング材の密着性が良好であると判断した。
【0070】
(亀裂評価)
各実施例及び各比較例についてコーティング材に亀裂が生じているか否かを以下のようにして評価した。水電解試験後に水電解セルを解体し、アノード触媒層の表面を走査透過型電子顕微鏡とエネルギー分散型X線分光器(日本電子株式会社製・JSM-6510A)を併用して微細構造観察と元素分析を実施することで、コーティング材に亀裂が生じているか否かを確認した。
【0071】
(貫通抵抗の測定)
各実施例及び各比較例について貫通抵抗の測定を以下のようにして行った。
まず、測定サンプルとして、各実施例及び各比較例で得られた水電解後であるコーティング材を備える基材を準備した。デジタル低抵抗計(鶴賀電機株式会社・3566)と電気的に接続した2つの上下電極(白金箔、面積3.14cm2)の間に各測定サンプル(面積3.14cm2、厚さ0.2mm)を挟み、デジタルフォースゲージ(型番:ZTA-1000N、株式会社イマダ製)により1MPaに加圧した。この時の抵抗値をデジタル低抵抗計から読み取り、貫通抵抗とした。
【0072】
各実施例及び各比較例におけるコーティング材のはく離有無の評価、亀裂評価及び貫通抵抗の測定の結果を表1に示す。
【0073】
【0074】
表1に示すように、コーティング材に窒化チタンを使用したTi繊維焼結体又はTi板を使用した実施例1~7、比較例1、比較例2及び比較例4では、基材における窒化チタン未被覆部はほとんど確認されなかった。さらに、水電解セル解体後もコーティング材のはく離が見られず、コーティング材と基材の密着性は良好であった。これに対し、コーティング材にPtを使用した比較例3では、コーティング後もPt未被覆部が多く確認された。水電解後には、コーティング材の基材からのはく離が見られ、コーティング材と基材の密着性が不十分であることがわかった。
【0075】
さらに、実施例1~7及び比較例4では、コーティング材に亀裂が確認されなかったが、比較例1及び比較例2では、基材の種類に依らず、コーティング材に亀裂が発生していることを確認した。このことから、コーティング材の厚さを厚くすることで、コーティング材内に発生する応力が大きくなり、亀裂が発生したことを示している。亀裂が発生した、比較例1のコーティング材の厚さは4223nmであったことから、これよりも薄い方が亀裂の発生が抑制できることが分かった。
【0076】
実施例1~7及び比較例1~4に示したコーティング材付き基材の貫通抵抗と、酸素を含むチタン層の厚さの関係を評価した結果を
図2に示す。貫通抵抗をY、酸素を含むチタン層の厚さをXとし、原点を通る二次関数で近似したところ、以下の式(1)が得られた。
Y=0.0052X
2 + 0.8627X・・・(1)
コーティング材に亀裂のあった比較例1と比較例2、水電解試験前に未被覆があり、密着性が不十分であった比較例3では、酸素を含むチタン層の厚さが厚く、貫通抵抗が大きかった。このことは、実施例1~7では、貫通抵抗の増加を誘発する酸素を含むチタン層の厚さを薄く抑制できているのに対し、比較例1~3では、亀裂、未被覆部等で、高抵抗な酸素を含むチタン層が優先的に形成されて酸素を含むチタン層の厚さが厚くなり、貫通抵抗の増加を誘発したことを示している。比較例4では、コーティング材に亀裂及びはく離は見られなかったが、酸素を含むチタン層の厚さが厚く、貫通抵抗が大きかった。窒化チタンは、電気抵抗が小さい材料であるが、水電解によって大部分が酸素を含むチタン層となり、コーティング材の電気抵抗が大きくなったことが要因として考えられる。このことから、酸素を含むチタン層の厚さは、貫通抵抗が100mΩ・cm
2以下となる78.7nmとすることが好ましい。水電解セルの抵抗を低減するため、貫通抵抗が50mΩ・cm
2以下となる45.5nm以下とすることがより好ましく、貫通抵抗が10mΩ・cm
2以下となる10.9nm以下とすることがさらに好ましいことが分かった。
【0077】
実施例1~7及び比較例1~4に示したコーティング材付き基材の貫通抵抗と、コーティング材の厚さの関係を評価した結果を
図3に示す。このうち、コーティング材にはく離や亀裂がなかった実施例1~7と比較例4について、貫通抵抗をY、log{コーティング材の厚さ(nm)}をZとし、二次関数で近似したところ、以下の式(2)が得られた。
Y=55.594Z
2-398.13Z+718.78・・・(2)
コーティング材の厚さが薄すぎると、コーティング材に占める高抵抗な酸素を含むチタン層が占める割合が大きくなるため、貫通抵抗が増加する。一方、比較例1と比較例2に示したように、コーティング材の厚さが厚すぎると、亀裂が発生し、高貫通抵抗を誘発する。このことから、コーティング材の厚さは、貫通抵抗が100mΩ・cm
2以下となる190nm以上4223nm以下とすることが好ましい。水電解セルの抵抗を低減するため、貫通抵抗が50mΩ・cm
2以下となる490nm以上4223nm以下とすることがより好ましく、貫通抵抗が10mΩ・cm
2以下となる2042nm以上4223nm以下とすることがさらに好ましいことが分かった。
前記導電性セラミクスは、窒化物、炭化物及び炭窒化物の少なくともいずれかを含み、前記窒化物、前記炭化物及び前記炭窒化物は、それぞれ独立に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、タンタルを少なくとも1種類以上含む請求項1に記載の水電解セル用部材。