(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074198
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】坑内作業スコアリング装置及びスコアリング方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20240523BHJP
G06Q 50/08 20120101ALI20240523BHJP
【FI】
G06Q10/06
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185332
(22)【出願日】2022-11-18
(71)【出願人】
【識別番号】591284601
【氏名又は名称】株式会社演算工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】林 稔
(72)【発明者】
【氏名】松村 匡樹
(72)【発明者】
【氏名】土本 真史
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA06
5L049AA06
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】トンネル坑内作業の安全性について、リアルタイムに判定できるだけではなく、作業員自身が自己の作業内容や作業過程が正しく行えているかどうかを、事後的かつ客観的に把握できるスコアリング装置及び方法を提供する。
【解決手段】基本情報登録手段2、計測手段3、画像解析手段4、評価手段5、出力手段6及び記憶手段7で構成される。計測手段3は、撮像手段31、環境計測手段32及び計時手段33から成り、環境計測手段32は、騒音計測手段32a、粉塵計測手段32b及び振動計測手段32cから成る。画像解析手段4は、物体検出手段41、バウンディングボックス付与手段42及び学習モデル43を備える。評価手段5は、基礎スコア算出手段51、危険行為抽出手段52、危険度判定手段53、難易度判定手段54及びスコアリング手段55を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル坑内作業の安全性を評価する装置であって、
トンネル坑内を撮影する撮像手段と、
撮影開始時から撮影終了時までの時間を計測する計時手段と、
重機の形状及び旋回動作範囲を学習した学習モデルを用いて、撮像手段により撮像された画像から、少なくとも重機と作業員を対象物体として検出する物体検出手段と、
検出された対象物体にバウンディングボックスを付与するバウンディングボックス付与手段と、
重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、
前後の撮像画像との比較により得られる、重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度の変化、
を基準として危険行為を抽出し、前記危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化する評価手段と、
前記撮像手段による前記撮像画像を時間に関連付けて記憶する記憶手段と、
前記危険行為が抽出された撮像画像と前記スコアを出力する出力手段と、
を備えることを特徴とする坑内作業スコアリング装置。
【請求項2】
前記物体検出手段は、撮像手段により撮像された画像から、更に保安器具を対象物体として検出し、
前記評価手段は、更に、
重機と保安器具、又は、作業員と保安器具のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、
前後の撮像画像との比較により得られる、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具の接触又は重複の有無及び程度の変化、
を基準として危険行為を抽出し、前記危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化することを特徴とする請求項1に記載の坑内作業スコアリング装置。
【請求項3】
前記評価手段は、
抽出された前記危険行為について、危険度を判定する危険度判定手段と、
前記危険行為の時間帯における当該作業の難易度を判定する難易度判定手段と、
前記危険度及び前記難易度が判定された前記危険行為に関する情報に基づいて、最終スコアを算出するスコアリング手段と、を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の坑内作業スコアリング装置。
【請求項4】
前記坑内作業スコアリング装置は、トンネル坑内における環境レベルを計測する環境計測手段を更に含み、
前記環境計測手段は、トンネル坑内の音レベルを計測する騒音計測手段と、トンネル坑内における浮遊粒子状物質を計測する粉塵計測手段と、トンネル坑内における振動の大きさを測定する振動計測手段と、の少なくとも何れかが含まれ、
前記記憶手段は、前記環境計測手段による計測結果を、前記計時手段により計測される時間と関連付けて記憶することを特徴とする請求項1又は2に記載の坑内作業スコアリング装置。
【請求項5】
前記坑内作業スコアリング装置は、作業員、重機又は施工現場環境の少なくとも何れかに関する基本情報の登録を受け付ける基本情報登録手段を更に備え、
前記記憶手段は、前記基本情報登録手段において受け付けた前記基本情報を更に記憶するものであり、
前記評価手段は、前記基本情報登録手段が受け付けた前記基本情報に基づいて、当該作業全体の難易度を推定し、基礎スコアを算出する基礎スコア算出手段を更に備え、
前記スコアリング手段は、前記基礎スコアに対して、前記危険度及び前記難易度が判定された前記危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出することを特徴とする請求項3に記載の坑内作業スコアリング装置。
【請求項6】
前記評価手段において、抽出された前記危険行為は、計測時間内において、
初めて検出された前記撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の開始時とされ、
検出されなくなった前記撮像画像の1つ前の前記撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の終了時とされる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の坑内作業スコアリング装置。
【請求項7】
トンネル坑内作業の安全性を評価する方法であって、
トンネル坑内を撮影する撮像ステップと、
重機の形状及び旋回動作範囲を学習した学習モデルを用いて、撮像ステップにより撮像された画像から、少なくとも重機と作業員を対象物体として検出する物体検出ステップと、
検出された対象物体にバウンディングボックスを付与するバウンディングボックス付与ステップと、
重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、
前後の撮像画像との比較により得られる、重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度の変化、
を基準として危険行為を抽出し、前記危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化する評価ステップと、
前記危険行為が抽出された撮像画像と前記スコアを出力する出力ステップと、
を備えることを特徴とする坑内作業スコアリング方法。
【請求項8】
前記物体検出ステップは、撮像ステップにより撮像された画像から、更に保安器具を対象物体として検出し、
前記評価ステップは、更に、
重機と保安器具、又は、作業員と保安器具、のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、
前後の撮像画像との比較により得られる、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具の接触又は重複の有無及び程度の変化、
を基準として危険行為を抽出し、前記危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化することを特徴とする請求項7に記載の坑内作業スコアリング方法。
【請求項9】
前記評価ステップは、
抽出された前記危険行為について、危険度を判定する危険度判定ステップと、
前記危険行為の時間帯における当該作業の難易度を判定する難易度判定ステップと、
前記危険度及び前記難易度が判定された前記危険行為に関する情報に基づいて、最終スコアを算出するスコアリングステップと、を備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の坑内作業スコアリング方法。
【請求項10】
前記坑内作業スコアリング方法は、トンネル坑内における環境レベルを計測する環境計測ステップを更に含み、
前記環境計測ステップは、トンネル坑内の音レベルを計測する騒音計測ステップと、トンネル坑内における浮遊粒子状物質を計測する粉塵計測ステップと、トンネル坑内における振動の大きさを測定する振動計測ステップと、の少なくとも何れかが含まれることを特徴とする請求項7又は8に記載の坑内作業スコアリング方法。
【請求項11】
前記坑内作業スコアリング方法は、作業員、重機又は施工現場環境の少なくとも何れかに関する基本情報の登録を受け付ける基本情報登録ステップを更に備え、
前記評価ステップは、前記基本情報登録ステップにおいて受け付けた前記基本情報に基づいて、当該作業全体の難易度を推定し、基礎スコアを算出する基礎スコア算出ステップを更に備え、
前記スコアリングステップは、前記基礎スコアに対して、前記危険度及び前記難易度が判定された前記危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出することを特徴とする請求項9に記載の坑内作業スコアリング方法。
【請求項12】
前記評価ステップにおいて、抽出された前記危険行為は、計測時間内において、
初めて検出された前記撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の開始時とされ、
検出されなくなった前記撮像画像の1つ前の撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の終了時とされる、
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の坑内作業スコアリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルなどの坑内において、重機や作業員が安全に作業できているかを評価する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事などの作業現場においては、掘削機、ホイールローダー、ダンプトラック、ホイールジャンボ、吹付機など多数の重機が用いられ、同時に多数の作業員が重機の周辺で作業するのが一般であり、重機と作業員との接触事故を防止する必要がある。そのためには、作業中において、事故の危険性が高いと判断される場合に警報を発するなどして、事故を防止することが有益である。
また、重機と作業員との接触事故の防止のためには、そのような危険性の発生自体を防止することも重要である。しかしながら、作業員は、作業中においては、自身がどれだけ安全性に配慮した作業が行えているかを客観的に認識するのは困難である。そこで、作業員自身が自己の作業内容や作業過程が正しく行えているかどうかを、事後的かつ客観的に把握することのできる技術が望まれている。
【0003】
作業員を管理する技術としては、ウェアラブルデバイスを用いて労働者の労働場所を管理するシステムが知られている(特許文献1を参照)。これは、ヘルメットなどの、作業員の身に着けたウェアラブルデバイスから得られる情報を用いて、当該作業員の勤務状態、作業状態、健康状態又は環境安全リスクを判断することで、労働者を管理するものである。
しかしながら、特許文献1の労働場所管理システムは、作業員が、専用のウェアラブルデバイスを身に着けることが必要であり、当該ウェアラブルデバイスを身に着けていない作業員が重機等に接近した場合には、危険を検知できないという問題がある。
また、特許文献1の労働場所管理システムでは、作業員自身が自己の作業内容や作業過程が正しく行えているかどうかを、事後的かつ客観的に把握することで、将来の事故を未然に防ぐといった効果は得られないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況に鑑みて、本発明は、トンネル坑内作業の安全性について、リアルタイムに判定できるだけではなく、作業員自身が自己の作業内容や作業過程が正しく行えているかどうかを、事後的かつ客観的に把握できるスコアリング装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明の坑内作業スコアリング装置は、トンネル坑内作業の安全性を評価する装置であって、下記各手段を備える。
1)トンネル坑内を撮影する撮像手段。
2)撮影開始時から撮影終了時までの時間を計測する計時手段。
3)重機の形状及び旋回動作範囲を学習した学習モデルを用いて、撮像手段により撮像された画像から、少なくとも重機と作業員を対象物体として検出する物体検出手段。
4)検出された対象物体にバウンディングボックスを付与するバウンディングボックス付与手段。
5)重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度の変化、を基準として危険行為を抽出し、危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化する評価手段。
6)撮像手段による撮像画像を時間に関連付けて記憶する記憶手段。
7)危険行為が抽出された撮像画像とスコアを出力する出力手段。
【0007】
撮像画像の解析結果に基づいて作業の安全性を評価することにより、作業員が専用の端末などを持たない場合でも安全性の評価が可能となる。また、スコアとして、定量的に評価されることにより、安全性や危険性の程度を作業員が実感し易くなる。
1)撮像手段としては、公知の幅広いカメラを適用可能であり、単眼のRGBカメラに限られず、複眼のRGBカメラを用いてもよい。複眼のRGBカメラを用いることで、重機又は作業員の3次元位置を算出しやすくなり、高精度の判定が可能となる。撮影は、動画像を撮影することでもよいし、静止画像を所定の間隔で撮影することでもよい。
2)計時手段において、計測する時間には、時刻も含まれる。計時手段は、合計撮影時間を計測するために用いられると共に、撮像手段による撮像画像等について、時刻と関連付けて記憶手段に記憶するためにも用いられる。計時手段は、撮影開始時から撮影終了時までの全ての時間を評価対象となる時間とすることができるが、これとは異なり、撮影開始時から撮影終了時までの間の特定の時点を計測開始時又は計測終了時として設定できることでもよい。これにより、総撮影時間中における実際の作業時間を正確に反映できる。したがって、本明細書において、撮影時間、計測時間及び作業時間は、基本的には同義であるが、計測開始時及び計測終了時を設定した場合には、計測時間が作業時間とされ、計測時間及び作業時間は、撮影時間とは異なるものとなる。
【0008】
3)物体検出手段は、重機の形状及び旋回動作範囲を学習した学習モデルを用いて、撮像手段により撮像された画像から、重機と作業員を対象物体として検出するものである。ここで、重機の旋回動作範囲とは、旋回だけを意味するものではなく、前後左右への移動に関する動作も含まれる。また、学習モデルは、深層ニューラルネットワークモデル(DNN)や畳み込みニューラルネットワーク(CNN)などコンピュータが機械学習を行うコンピュータプログラムである。本明細書における学習モデルの場合、重機の形状と旋回動作範囲を学習したものであるが、重機の種別やサイズ、旋回又は移動以外の動作についても含まれることでもよい。また、重機に限らず、作業員や後述する保安器具の判別や、粉塵がトンネル内に舞い上がっている様子を背景画像から判別できるものでもよい。作業員の平均的な体型などから作業員であるか否か、また、保安器具については、保安器具の種別、サイズ、他の保安器具との連結状態から危険か安全かを判別することが可能である。また、施工現場環境については、画像の背景の粗さなどから粉塵の有無や程度、画像のブレなどから、振動の有無や程度を画像から判別することが可能である。
4)バウンディングボックス付与手段において、重機へのバウンディングボックスの付与の仕方は、当該重機の種類や状態によって異なる。例えば、旋回動作が多い重機の場合は、バウンディングボックスは左右により広く設けられる。また、直進的な移動が多い重機については、バウンディングボックスは移動方向に広く設けられる。バウンディングボックス付与手段においては、バウンディングボックスの付与は、リアルタイムに行うものでもよいし、間欠的に行うものでもよい。
【0009】
5)評価手段において、バウンディングボックスの接触とは、バウンディングボックスの縁部が相互に触れているが、重なり合っているとはいえない場合のことであり、接触の程度とは、相互に触れている箇所の多寡により決せられる。
また、重複の程度とは、重複した面積の広さにより決せられるが、更に重複した部位の重要性の程度を含めて決することでもよい。例えば、重機に付与されたバウンディングボックスと作業員に付与されたバウンディングボックスが重複した場合、重機に付与されたバウンディングボックスの内、重機のアーム先端などの可動部が位置する部位が重複している場合は、重複の程度が大きいと判定できる。
なお、作業員のバウンディングボックス同士については、重複等があったとしても危険性は低いと考えられるため、評価には用いられていない。
【0010】
バウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度の変化は、前後の撮像画像との比較により得られるが、ここでの前後の撮像画像とは、1つ前又は1つ後の撮像画像のみを意味するのではなく、更に前又は後の複数の撮像画像を含む趣旨である。したがって、ここでの変化は、連続する複数の撮像画像に亘ってバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度を比較することで検出するものである。
【0011】
6)記憶手段が、撮像画像とスコアを時間に関連付けて記憶することにより、撮像画像中の行為が、どの程度危険な行為であったかを、客観的に把握できる。
7)出力手段は、ディスプレイ等に評価結果を出力するものでもよいし、他の端末にデータを送信するものでもよい。ディスプレイ上に評価結果を表示する場合は、スコアについては、当該作業全体の総合スコア、作業項目毎のスコア、作業員毎又は作業グループ毎のスコア、各スコアの経時的な変化を示すグラフ、当該グラフ中の特定の時点の撮像画像と関連するスコアなどを表示できる。また、撮像画像については、特に危険と判定された撮像画像を強調表示してもよい。
【0012】
本発明の坑内作業スコアリング装置において、物体検出手段は、撮像手段により撮像された画像から、更に保安器具を対象物体として検出し、評価手段は、更に、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具、のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具の接触又は重複の有無及び程度の変化、を基準として危険行為を抽出し、危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化することが好ましい。保安器具が検出でき、スコア化に用いられることにより、作業員による立入禁止区域への侵入といった危険行為についても検出でき、より正確な評価が可能になる。
保安器具とは、立入禁止区域を設定し、若しくは作業員に注意喚起するために設けられる器具のことであり、パイロンや、パイロンに取り付けられる安全棒、保安灯、立て看板等が含まれる。
【0013】
本発明の坑内作業スコアリング装置において、評価手段は、抽出された危険行為について、危険度を判定する危険度判定手段と、危険行為の時間帯における当該作業の難易度を判定する難易度判定手段と、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報に基づいて最終スコアを算出するスコアリング手段と、を備えることが好ましい。危険度判定手段及び難易度判定手段を備えることにより、難易度に応じた危険度の判定が可能になり、より正確な評価が可能となる。ここで危険行為とは、重機同士の接触若しくはその危険性の高い行為、重機と作業員の接触若しくはその危険性の高い行為、又は、重機若しくは作業員が立入禁止区域に侵入することにより重機操作者を含む作業員の生命・身体に危険が及ぼされる行為のことである。
危険度判定手段は、危険行為についての危険度を判定するものであり、撮像画像中の重機の数や作業員の人数、危険行為の種類、危険行為を行った重機の数や作業員の人数、危険行為の程度、計測時間中における危険行為の時間割合、等に基づいて判定を行う。また、保安器具が検出される場合は立入禁止区域の有無・数・広さも判定に用いられる。
難易度判定手段は、画像解析手段により解析された撮像画像等に基づいて判定を行う。
【0014】
本発明の坑内作業スコアリング装置は、トンネル坑内における環境レベルを計測する環境計測手段を更に含み、環境計測手段は、トンネル坑内の音レベルを計測する騒音計測手段と、トンネル坑内における浮遊粒子状物質を計測する粉塵計測手段と、トンネル坑内における振動の大きさを測定する振動計測手段と、の少なくとも何れかが含まれ、記憶手段は、環境計測手段による計測結果を、計時手段により計測される時間と関連付けて記憶することが好ましい。
騒音レベルが高い、粉塵が多い、振動が大きいといった、作業現場の環境によっては、作業の難易度が上がる場合が存在するため、環境計測手段を備え、そのような現場の環境の変化を評価に加味することで、現場の状態に応じた正確な評価が可能となる。環境計測手段により計測されたトンネル坑内における騒音、粉塵又は振動の程度は、難易度判定手段における難易度の判定に利用できる。
なお、本発明の坑内作業スコアリング装置は、環境計測手段を備えない構成でもよく、作業現場の環境を計測せずに作業の安全性を評価することも可能である。
【0015】
本発明の坑内作業スコアリング装置は、作業員、重機又は施工現場環境の少なくとも何れかに関する基本情報の登録を受け付ける基本情報登録手段を更に備え、記憶手段は、基本情報登録手段において受け付けた基本情報を更に記憶するものであり、評価手段は、基本情報登録手段が受け付けた基本情報に基づいて、当該作業全体の難易度を推定し、基礎スコアを算出する基礎スコア算出手段を更に備え、スコアリング手段は、基礎スコアに対して、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出することが好ましい。
基本情報登録手段を備えることにより、作業員や、重機、施工現場環境の状況を踏まえたより正確な安全性評価が可能となる。基本情報登録手段が受け付けた基本情報は、基礎スコアの算出だけではなく、難易度判定手段における難易度の判定にも利用できる。
なお、本発明の坑内作業スコアリング装置は、基本情報登録手段を備えない構成でもよく、基本情報を登録せずに作業の安全性を評価することも可能である。
【0016】
本発明の坑内作業スコアリング装置の評価手段において、抽出された危険行為は、計測時間内において、初めて検出された撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の開始時とされ、検出されなくなった撮像画像の1つ前の撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の終了時とされることが好ましい。これにより、危険行為が行われた時間を高精度に判定できる。
【0017】
本発明の坑内作業スコアリング方法は、トンネル坑内作業の安全性を評価する方法であって、下記各ステップを備える。
A)トンネル坑内を撮影する撮像ステップ。
B)重機の形状及び旋回動作範囲を学習した学習モデルを用いて、撮像ステップにより撮像された画像から、少なくとも重機と作業員を対象物体として検出する物体検出ステップ。
C)検出された対象物体にバウンディングボックスを付与するバウンディングボックス付与ステップ。
D)重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機のバウンディングボックス同士、又は、重機と作業員のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度の変化、を基準として危険行為を抽出し、危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化する評価ステップ。
E)危険行為が抽出された撮像画像とスコアを出力する出力ステップ。
【0018】
本発明の坑内作業スコアリング方法において、物体検出ステップは、撮像ステップにより撮像された画像から、更に保安器具を対象物体として検出し、評価ステップは、更に、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具、のバウンディングボックスの接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具の接触又は重複の有無及び程度の変化、を基準として危険行為を抽出し、危険行為に基づいてトンネル坑内作業の安全性をスコア化することが好ましい。
【0019】
本発明の坑内作業スコアリング方法において、評価ステップは、抽出された危険行為について、危険度を判定する危険度判定ステップと、危険行為の時間帯における当該作業の難易度を判定する難易度判定ステップと、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報に基づいて、最終スコアを算出するスコアリングステップと、を備えることが好ましい。
【0020】
本発明の坑内作業スコアリング方法は、トンネル坑内における環境レベルを計測する環境計測ステップを更に含み、環境計測ステップは、トンネル坑内の音レベルを計測する騒音計測ステップと、トンネル坑内における浮遊粒子状物質を計測する粉塵計測ステップと、トンネル坑内における振動の大きさを測定する振動計測ステップと、の少なくとも何れかが含まれることが好ましい。
【0021】
本発明の坑内作業スコアリング方法は、作業員、重機又は施工現場環境の少なくとも何れかに関する基本情報の登録を受け付ける基本情報登録ステップを更に備え、評価ステップは、基本情報登録ステップにおいて受け付けた基本情報に基づいて、当該作業全体の難易度を推定し、基礎スコアを算出する基礎スコア算出ステップを更に備え、スコアリングステップは、基礎スコアに対して、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出することが好ましい。
【0022】
本発明の坑内作業スコアリング方法の評価ステップにおいて、抽出された危険行為は、計測時間内において、初めて検出された撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の開始時とされ、検出されなくなった撮像画像の1つ前の撮像画像に関連付けられた時間が当該危険行為の終了時とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のスコアリング装置及び方法によれば、トンネル坑内作業の安全性について、リアルタイムに判定できるだけではなく、作業員自身が自己の作業内容や作業過程が正しく行えているかどうかを、事後的かつ客観的に把握でき、将来の事故を未然に防止することができるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1の坑内作業スコアリング装置の機能ブロック図
【
図2】実施例1の坑内作業スコアリング装置の使用イメージ図
【
図3】実施例1の坑内作業スコアリング方法の概略フロー図
【
図6】実施例1の坑内作業スコアリング装置の出力イメージ図(1)
【
図7】実施例1の坑内作業スコアリング装置の出力イメージ図(2)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0026】
図1は、実施例1の坑内作業スコアリング装置の機能ブロック図を示している。
図1に示すように、坑内作業スコアリング装置1は、基本情報登録手段2、計測手段3、画像解析手段4、評価手段5、出力手段6及び記憶手段7で構成される。
基本情報登録手段2は、作業員、重機又は施工現場環境の少なくとも何れかに関する基本情報の登録を受け付けるものである。
作業員に関する基本情報とは、当該施工現場で作業予定の作業員の人数、作業員個々人や作業グループ全体の経験度、予定作業内容等に関する情報のことである。ここで予定作業内容には、掘削、土砂搬送などの具体的な作業内容だけではなく、高所作業・低所作業などの属性情報も含まれる。
重機に関する基本情報には、重機の種別(旋回系や直進系など)及び台数に関する情報だけではなく、当該重機を操縦する作業員に関する情報が含まれる。重機の種別には、具体的な重機の名前だけではなく、旋回系や直進系といった可動特性に関する属性情報なども含まれる。
施工現場環境に関する基本情報とは、坑内の広さ、気温、粉塵の有無、立入禁止区域の有無・数・広さ等に関する情報のことである。
【0027】
計測手段3は、撮像手段31、環境計測手段32及び計時手段33から成り、環境計測手段32は、騒音計測手段32a、粉塵計測手段32b及び振動計測手段32cから成る。
撮像手段31は、トンネル坑内を撮影するものである。撮像手段31としては、単眼のRGBカメラに限られず、複眼のRGBカメラを用いてもよい。複眼のRGBカメラを用いることで、重機又は作業員の3次元位置を算出しやすくなり、高精度の判定が可能となる。
環境計測手段32は、トンネル坑内における騒音、粉塵又は振動の程度を計測するものである。騒音計測手段32aは、トンネル坑内の音レベルを計測するものであり、公知の騒音計が好適に用いられる。粉塵計測手段32bは、トンネル坑内における浮遊粒子状物質(粉塵)を計測するものであり、公知の粉塵計が好適に用いられる。振動計測手段32cは、トンネル坑内における振動の大きさを測定するものであり、公知の振動計が好適に用いられる。環境計測手段32による計測は、リアルタイムに行ってもよいし、1秒毎など間欠的に行ってもよい。また、環境計測手段32として、トンネル坑内の温度を計測する手段を更に設けてもよい。
計時手段33は、撮影開始時から撮影終了時までの時間・時刻を計測するものである。計時手段33は、合計撮影時間を計測するために用いられると共に、撮像手段31により撮像された画像や、環境計測手段32により計測された数値について、時刻と関連付けて記憶手段7に記憶するためにも用いられる。
【0028】
画像解析手段4は、撮像手段31により撮像された画像を解析するものであり、解析結果は作業員の安全性評価に用いられる。画像解析手段4は、物体検出手段41、バウンディングボックス付与手段42及び学習モデル43を備える。
物体検出手段41は、学習モデル43を用いて、撮像手段31により撮像された画像から、重機、作業員又は保安器具を対象物体として検出するものである。
バウンディングボックス付与手段42は、検出された対象物体に、バウンディングボックスを付与するものである。バウンディングボックス付与手段42において、重機へのバウンディングボックスの付与の仕方は、当該重機の種類や状態によって異なる。例えば、旋回動作が多い重機の場合は、バウンディングボックスは左右により広く設けられる。また、直進的な移動が多い重機については、バウンディングボックスは移動方向に広く設けられる。バウンディングボックス付与手段42においては、バウンディングボックスの付与は、リアルタイムに行うものでもよいし、1秒毎など間欠的に行うものでもよい。
学習モデル43は、重機の形状及び旋回動作範囲を学習したものである。旋回動作範囲とは、旋回だけを意味するものではなく、前後左右への移動に関する動作も含まれる。
【0029】
評価手段5は、基本情報登録手段2において受け付けた基本情報と、画像解析手段4による撮像画像の解析結果、具体的には、重機と重機、重機と作業員、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具に関するバウンディングボックス同士の接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機と重機、重機と作業員、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具に関するバウンディングボックス同士の接触又は重複の有無及び程度の変化と、環境計測手段32による環境計測結果と、に基づいて、作業の安全性をスコア化するものである。評価手段5は、基礎スコア算出手段51、危険行為抽出手段52、危険度判定手段53、難易度判定手段54及びスコアリング手段55を備える。
基礎スコア算出手段51は、基本情報登録手段2が受け付けた基本情報に基づいて、当該作業全体の難易度を推定し、基礎スコアを算出するものである。
危険行為抽出手段52は、解析後の撮像画像に基づき、作業中における危険行為を抽出するものであり、具体的には、上述のように、重機と重機、重機と作業員、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具に関するバウンディングボックス同士の接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機と重機、重機と作業員、重機と保安器具、又は、作業員と保安器具に関するバウンディングボックス同士の接触又は重複の有無及び程度の変化を基準として、危険行為を抽出する。なお、本実施例とは異なり、バウンディングボックス同士の接触又は重複の程度と、それらの変化については、危険行為抽出手段52における処理を簡便にすべく、危険行為を抽出するための基準としては用いず、危険度判定手段53における判定基準としてのみ用いることでもよい。
【0030】
危険度判定手段53は、危険行為抽出手段52により抽出された危険行為について、危険度を判定するものであり、撮像画像中の作業員の人数や重機の数、立入禁止区域の有無・数・広さ、危険行為の種類、危険行為を行った人数、危険行為の程度、計測時間中における危険行為の時間割合、等に基づいて判定を行う。
難易度判定手段54は、危険行為の時間帯における当該作業の難易度を判定するものであり、基本情報登録手段2が受け付けた基本情報や、画像解析手段4により解析された撮像画像、環境計測手段32により計測されたトンネル坑内における騒音、粉塵又は振動の程度、等に基づいて判定を行う。
スコアリング手段55は、基礎スコアに対して、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出するものである。
【0031】
出力手段6は、評価手段5による作業の安全性に関する評価結果を出力するものであり、具体的には、危険行為が抽出された撮像画像とスコアを出力する。
記憶手段7は、基本情報登録手段2において受け付けた基本情報と、撮像手段31による撮像画像と、画像解析手段4による撮像画像の解析結果と、環境計測手段32による環境計測結果と、評価手段5による作業の安全性に関するスコアと、を記憶するものである。撮像手段31による撮像画像、環境計測手段32による環境計測結果、及び、評価手段5によるスコアについては、計時手段33により、撮影開始後何分といった時間や、時刻に関連付けて記憶される。したがって、評価手段5は、安全性評価に当たって、時刻に関連付けて記憶された環境計測結果を参照しながら、危険度や難易度の判定を行うことができ、また、評価結果であるスコアについても時間や時刻に関連付けて記憶される。
【0032】
図2は、実施例1の坑内作業スコアリング装置の使用イメージ図を示している。
図2に示すように、坑内作業スコアリング装置1は、トンネル工事などの作業現場において使用される。トンネル16の坑内においては、重機(11a,11b)及び作業員(9a,9b)がそれぞれの作業を行っている。
また、トンネル16の坑内には、パイロン(12a~12c)が設置され、パイロン12aとパイロン12bには安全棒13aが取り付けられ、パイロン12bとパイロン12cには安全棒13bが取り付けられ、全体として保安器具14を構成し、これにより立入禁止区域が設定されている。
なおここでは2つの重機(11a,11b)と2人の作業員(9a,9b)を図示するのみであるが、実際にはより多数の重機や作業員による現場作業が行われ、かつ頻繁に重機や作業員が出入りする。また、保安器具14についても、より多くのパイロンや安全棒が設けられ、或いは、その他の保安器具が用いられる場合がある。
【0033】
撮像手段31は、トンネル16の坑内において開口側から切羽面16a側に向けて画像を撮影する。撮像手段31により撮像された撮像画像は、坑内作業スコアリング装置本体10に送信され、画像解析が行われ、安全性の評価に用いられる。安全性の評価結果は、ディスプレイ60に表示される。なおここでは、撮像手段31、坑内作業スコアリング装置本体10及びディスプレイ60は全て有線で接続されているが、無線により接続されるものでもよい。
坑内作業スコアリング装置本体10には、図示しないが、騒音計測手段32a、粉塵計測手段32b及び振動計測手段32cが設けられ、トンネル16の坑内環境を測定する。
【0034】
図3は、実施例1の坑内作業スコアリング方法の概略フロー図を示している。
図3に示すように、まず、計測の前に、基本情報登録手段2において、基本情報の登録を受け付ける(ステップS01)。ここで受け付けた基本情報は、画像解析手段4による画像解析と、評価手段5による作業の安全性評価の両方に用いられる。
【0035】
次に、撮像手段31を用いてトンネル坑内の画像を撮影する(ステップS02)。撮影は、リアルタイムに行うものでもよいし、1秒毎など間欠的に行うものでもよい。
また、騒音計測手段32a、粉塵計測手段32b及び振動計測手段32cから成る環境計測手段32を用いてトンネル坑内の環境を計測する(ステップS03)。ステップS02とステップS03は、同時的に行われることが好ましい。
【0036】
学習モデル43に基づき、撮像手段31による撮像画像から、対象物体を検出する(ステップS04)。対象物体に対して、バウンディングボックスを付与する(ステップS05)。
図4は、トンネル坑内の撮像画像解析イメージ図を示している。
図4に示すように、撮像画像8ではトンネル16の坑内が撮像され、重機(11a,11b)、作業員(9a~9c)及び保安器具14が、物体検出手段41により検出されている。そして、バウンディングボックス付与手段42により、重機11aにはバウンディングボックス15d、重機11bにはバウンディングボックス15eが付与されている。また、作業員9aにはバウンディングボックス15a、作業員9bにはバウンディングボックス15b、作業員9cにはバウンディングボックス15cが付与されている。重機(11a,11b)に付与されるバウンディングボックスは、重機の旋回可能性や移動可能性を加味した上で付与される。
ここでは説明の便宜上、重機に付与されたバウンディングボックスは実線で表示され、作業員に付与されたバウンディングボックスは破線で表示されている。また、危険性有りと判定された作業員に付与されるバウンディングボックスは太字の破線で表示されている。
【0037】
次に、評価手段5を用いて、作業員による作業の安全性をスコア化する(ステップS06)。
図5は、作業の安全性評価フロー部を示している。作業員による作業の安全性のスコア化については、
図5に示すように、まず、基礎スコア算出手段51を用いて、基本情報登録手段2により受け付けた、作業員、重機及び施工現場環境に関する基本情報に基づき、基礎スコアを算出する(ステップS61)。基礎スコアは、総合スコアに関してのみ設定してもよいし、作業員毎、作業グループ毎又は作業内容毎に設定してもよい。なお、ステップS61の基礎スコアの算出は、基本情報の登録の受け付け(ステップS01)後であればよく、例えば、撮影開始前に行ってもよい。
【0038】
基礎スコアの算出方法については、難易度が高いと判定されると、基礎スコアが高く設定され、これとは逆に難易度が低いと判定されると、相対的に基礎スコアが低く設定される。
例えば、作業員に関する基本情報については、高所作業が含まれるといったように、予定作業内容の難易度が高い場合は基礎スコアが高く設定される。また、当該施工現場で作業予定の作業員の人数や重機の数が多い場合や、作業員個々人若しくは作業グループ全体の経験度が低い場合についても、難易度が高いと判定され、基礎スコアが高く設定される。なお、経験度については、基礎スコアの算出に用いず、経験度を考慮しない絶対的な評価を行うことも可能である。
重機に関する基本情報については、重機の種別や台数に応じて難易度が判定され基礎スコアが設定される。例えば、重機の数が多い場合は、難易度が高いと判定され、基礎スコアが高く設定される。
施工現場環境に関する基本情報については、坑内が狭い、気温が高い、粉塵が多い、立入禁止区域が設けられている、といった場合は、難易度が高いと判定され、基礎スコアが高く設定される。立入禁止区域については、立入禁止区域の数が多い、立入禁止区域が広いといった場合は、より難易度が高いと判定される。
【0039】
次に、危険行為抽出手段52を用いて、解析後の撮像画像に基づき、計測中における危険度の高い行為すなわち危険行為を抽出する(ステップS62)。
危険行為は、重機に付与されたバウンディングボックス相互間、重機に付与されたバウンディングボックスと作業員に付与されたバウンディングボックスの間、又は、保安器具に付与されたバウンディングボックスと重機若しくは作業員に付与されたバウンディングボックスの間、における接触又は重複の有無及び程度と、前後の撮像画像との比較により得られる、重機に付与されたバウンディングボックス相互間、重機に付与されたバウンディングボックスと作業員に付与されたバウンディングボックスの間、又は、保安器具に付与されたバウンディングボックスと重機若しくは作業員に付与されたバウンディングボックスの間、における接触又は重複の有無及び程度の変化、を基準として抽出される。
図4に示すように、まず、撮像画像8上では、重機11aに付与されたバウンディングボックス15dと作業員9aに付与されたバウンディングボックス15aは接触していないため、危険行為として検出されないが、保安器具14に付与されたバウンディングボックス15fと作業員9cに付与されたバウンディングボックス15cは重複しているため、危険行為として検出され、太字で破線表示されている。なお、このような撮像画像解析イメージは、施工管理者などがリアルタイムにディスプレイ上で確認できるものでもよいし、ディスプレイ表示せず、内部的に処理するのみの構成でもよい。
【0040】
同一の危険行為が、連続する複数の撮像画像において検出された場合、当該複数画像において抽出された当該危険行為は、全体として1つの危険行為として扱われる。1つの危険行為が、単一の撮像画像において検出された場合は、当該撮像画像に検出された危険行為が、抽出された危険行為となる。また、1つの危険行為が、連続する複数の撮像画像において検出された場合は、全体として1つとして扱われた危険行為が、抽出された危険行為となる。
【0041】
そして、連続する複数の撮像画像において危険行為が検出され、全体として1つとして扱われた場合、当該危険行為が、計測時間内において、初めて検出された撮像画像に関連付けられた時間が、当該危険行為の開始時とされ、検出されなくなった撮像画像の1つ前の撮像画像に関連付けられた時間が、当該危険行為の終了時とされる。
図8は、危険行為の抽出イメージ図を示している。
図8の例では、横軸は撮影時間の経過を示しており、当該計測における全撮像画像の中から、危険行為A
1と危険行為A
2が抽出される場合について説明する。図中の危険行為A
1と危険行為A
2は実際に危険行為が行われた時間を表している。なお、撮像画像(8a~8h)は全撮像画像中の一部を示したものであり、図示しないが実際には、撮像画像8bと撮像画像8cの間、撮像画像8cと撮像画像8dの間、撮像画像8dと撮像画像8eの間、又は、撮像画像8fと撮像画像8gの間にも画像が撮像されている。また、撮像画像8aの前や、撮像画像8hの後においても継続的に画像が撮像されている。
【0042】
図8に示すように、例えば、撮像画像8bにおいては危険行為A
1のみが検出され、撮像画像8fにおいては危険行為A
2のみが検出されている。これに対して、撮像画像8dにおいては、危険行為A
1と危険行為A
2の両方が検出されている。
危険行為A
1については、計測時間内において、撮像画像8aにおいては未だ検出されず、初めて検出された撮像画像8bに関連付けられた時間が、危険行為A
1の開始時とされ、検出されなくなった撮像画像8fの1つ前の撮像画像8eに関連付けられた時間が、危険行為A
1の終了時とされる。また、危険行為A
2については、計測時間内において、初めて検出された撮像画像8cに関連付けられた時間が、危険行為A
2の開始時とされ、検出されなくなった撮像画像8hの1つ前の撮像画像8gに関連付けられた時間が、危険行為A
2の終了時とされる。
このように、1つの撮像画像に複数の危険行為が検出される場合でも、複数の撮像画像を併せた上で、危険行為を抽出することで、時間的データが関連付けられた形で個々の危険行為を抽出することが可能である。
なお、危険行為A
2では、開始時及び終了時とされるタイミングが、危険行為の厳密な開始時及び終了時と一致しているのに対して、危険行為A
1では厳密には一致していないが、本実施例の手法を用いることで、危険行為が行われた時間を高精度に判定できる。
また、抽出された危険行為とその後に抽出された危険行為が、同一の重機、作業員又は保安器具と関連し、時間的に近接している場合には、それらを1つの危険行為と看做してもよい。時間的な近接とは、例えば、一方の危険行為の終了後、数秒以内(例えば、10秒以内)に他方の危険行為が開始された場合などのことである。このような場合には、危険行為の一時的な中断が生じたに過ぎないと判断できるからである。
【0043】
また、危険行為抽出手段52が、重機の画像上の変化の有無から、所定時間内における重機の動きの有無を検出し、所定時間内において動きが検出されない重機が存在する場合は、当該重機は停止中の重機と判定され、抽出対象から除外される。
図4に示すように、重機11bに付与されたバウンディングボックス15eと作業員9bに付与されたバウンディングボックス15bは重複しているが、重機11bについては、所定時間内において動きが検出されないため、停止中の重機と判定され、抽出対象から除外されている。
【0044】
抽出された危険行為について、危険度判定手段53を用いて、危険度を判定する(ステップS63)。危険度の判定は、危険行為の種類、危険行為を行った重機・作業員の数、危険行為の程度、危険行為が行われた時間、等に基づいて行われる。
ここで、危険行為の種類とは、重機相互間の接触の危険、重機と作業員との間の接触の危険、又は、重機若しくは作業員による立入禁止区域への侵入、等のことである。作業員の身体に対する危険性が高いと考えられる種類の危険行為については、危険度が高いと判定されやすくなる。
危険行為を行った重機・作業員の数とは、当該危険行為に関与した重機・作業員の数のことである。例えば、作業員が2人で1台の重機を操縦し、かつ当該重機に3人の作業員が危険と判断される程度に近接している場合は、重機の数は1台、作業員の数は3人となる。危険行為が一定時間継続している場合は、その継続中において、危険と判断される程度に近接した作業員は全てカウントされる。これに対して、例えば、同一の撮像画像中に複数の作業員が撮像されていたとしても、当該危険行為に関与していない作業員についてはカウントされない。また、同一の撮像画像中において、複数の危険行為が行われている場合は、危険行為毎に重機・作業員の数がカウントされることになる。したがって、1人の作業員が同時に複数の危険行為に関与する場合は、1人で複数カウントされる場合も存在する。また、危険行為を行った重機・作業員の数を、危険度評価に絶対的に用いることも可能であるが、総重機数や総作業員数との関係で相対的に評価することが好ましい。すなわち例えば、危険行為を行った作業員の数が多い場合には、危険度が高いと判定されやすくなるが、総作業員数が多い場合には、相対的に危険度は低いと判定されやすくなる。
【0045】
なお、画像解析手段4による撮像画像の解析により、ある危険行為において、帰責性が無い又は著しく低いと判定される重機や作業員を抽出し、危険行為を行った重機・作業員の数から除外してもよい。例えば、作業員が1人で重機を操縦し、かつ当該重機に2人の作業員が危険と判断される程度に近接している場合において、重機側に帰責性が無いと判定される場合、当該危険行為に関して、重機の数は0台、作業員の数は2人となる。
【0046】
危険行為の程度は、重機に付与されたバウンディングボックス相互間、重機に付与されたバウンディングボックスと作業員に付与されたバウンディングボックスの間、又は、保安器具に付与されたバウンディングボックスと重機若しくは作業員に付与されたバウンディングボックスの間、における接触又は重複の程度と、それらの変化を基準として判定される。具体的には、バウンディングボックスの接触又は重複の程度が大きい場合には、危険度が高いと判定されやすくなる。
危険行為が行われた時間には、危険行為の継続時間だけではなく、総計測時間中における危険行為の時間割合、等が含まれる。危険行為の継続時間は、危険度評価に絶対的に用いることも可能であるが、総計測時間との関係で相対的に評価することが好ましい。すなわち、危険行為の継続時間が長い場合には、危険度が高いと判定されやすくなるが、総計測時間が長い場合には、相対的に危険度は低いと判定されやすくなる。
【0047】
次に、当該危険行為が行われた状態での難易度を判定する(ステップS64)。ここでの難易度の判定は、重機の動き、作業員の動き、環境の変化、及び撮影開始後の経過時間、等に基づいて行われる。
計測手段3には、計時手段33が設けられ、撮像手段31による撮像画像には全て撮像時間・時刻が関連付けられ、記憶手段7に記憶されている。したがって、画像解析手段4による解析後の撮像画像や、更に危険行為抽出手段52を用いて抽出された危険行為についても全て撮像時間・時刻が関連付けられて記憶されている。また、環境計測手段32による計測結果についても、計時手段33により、全て計測時間・時刻と関連付けて記憶手段7に記憶されている。
したがって、当該危険行為が行われた状態での難易度の判定は、危険行為が行われたタイミングでの、重機の動き、作業員の動き、環境の変化、及び撮影開始後の経過時間、等に基づいて行われる。
【0048】
重機又は作業員の動きについては、画像解析手段4による解析後の撮像画像から、重機又は作業員の動きを検出し、計測時間当たりの重機又は作業員の動きの量が多い場合には、接触事故等の危険が高くなるため、難易度が高いと判定されやすくなる。
環境の変化には、環境計測手段32による計測結果だけではなく、土砂の堆積状態など撮像画像中に現れた変化も含まれる。例えば、一定の場所に土砂が堆積したことにより、作業員の通路が狭くなった場合には、難易度が高いと判定されやすくなる。
環境計測結果については、危険行為が行われたタイミングにおける環境計測手段32による計測結果を参照し、トンネル坑内の音レベルが高い、粉塵の量が多い又は振動が大きいといった場合には、視界が遮られやすかったり、周りとのコミュニケーションがとりにくくなったりするため、難易度が高いと判定されやすくなる。
撮影開始後の経過時間については、経過時間が長くなればなるほど、作業員の疲労が蓄積するため、難易度が高いと判定されやすくなる。
【0049】
スコアリング手段55を用いて、基礎スコアに対して、危険度及び難易度が判定された危険行為に関する情報を適用し、最終スコアを算出する(ステップS65)。最終スコアは、当該作業全体における総作業員の総合スコアとして算出してもよいし、作業員毎、又は作業グループ毎に算出してもよい。また、作業項目ごとに最終スコアを算出してもよい。
【0050】
最後に、ディスプレイ等にスコアを出力する(ステップS07)。
図6及び7は、実施例1の坑内作業スコアリング装置の出力イメージ図を示している。
図6に示すディスプレイ60上の表示は、最終スコアに関するものではなく、撮像画像群中において、危険行為と判定された画像について、事後的に確認できるものである。撮像画像は全部を表示してもよいし、一部を表示してもよい。
図6に示すように、ディスプレイ60上には、24個の縮小画像80が表示されている。ここでは図示していないが、画面を上下にスクロールすることでより多数の縮小画像80を確認できる。例えば、縮小画像80aに示すように、各画像の下部には画像説明部81が設けられ、当該画像が撮像された時刻などが表示される。また、縮小画像(80a,80b)とは異なり、縮小画像(80c~80e)には、太枠で強調表示が施されている。かかる強調表示は、危険性の高い行為として判定された画像について、事後的に確認しやすくするために施されたものである。
【0051】
図7に示すディスプレイ60上の表示は、最終スコアの出力イメージである。
図7に示すように、ディスプレイ60上には、重機旋回範囲作業スコア表示部60a、立入禁止措置スコア表示部60b、高所作業スコア表示部60c、総合スコア表示部60d及び危険作業表示部60eが設けられている。表示項目は上記項目に限られない。重機旋回範囲作業スコアとは、旋回を伴う重機による作業の安全性を評価したスコアである。立入禁止措置スコアとは、立入禁止区域への侵入の有無等に関して安全性を評価したスコアである。高所作業スコアとは、高所作業を行う作業員に関して安全性を評価したスコアである。総合スコアとは、当該計測における全重機及び全作業員に関する総合的なスコアである。本実施例では、重機旋回範囲作業スコア表示部60aには、最終スコアとして72点と表示され、立入禁止措置スコア表示部60bには82点、高所作業スコア表示部60cには78点と表示されている。また、総合スコア表示部60dはアーチ状円グラフで表示され、かつ78点と数値でも表示されている。
危険作業表示部60eは、当該作業において最も危険と判定された危険行為に関する画像が抽出され表示されたものである。かかる画像の抽出は、各危険行為の内、危険度と難易度の相関から決定される。ここでは、
図6において強調表示されていた縮小画像(80c~80e)が抽出され表示されている。
このように、最終スコアだけではなく、危険な作業を視覚的に確認できるため、作業後の教育や研修において、効果的に利用できる。