(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074212
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】リチウムイオンバッテリーからのリチウム回収
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20240523BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240523BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240523BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240523BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240523BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240523BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/44 101Z
C22B3/22
H01M10/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022203624
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】63/426,651
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/990,517
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】522346431
【氏名又は名称】アセンド エレメンツ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】キム,キー-チャン
(72)【発明者】
【氏名】グラッツ,エリック
【テーマコード(参考)】
4K001
5H031
【Fターム(参考)】
4K001AA07
4K001AA16
4K001AA19
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA09
4K001CA11
4K001DB07
4K001DB16
4K001DB22
4K001GA07
5H031AA00
5H031BB00
5H031BB02
5H031HH00
5H031HH03
5H031HH06
5H031RR02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リチウムイオンバッテリーからのリチウム回収方法を提供する。
【解決手段】NMC(Ni、Mn、Co)バッテリーのための電荷材料の再循環は、カソード材料の熱還元に基づいた温度で部分的酸素環境中で再循環流からブラックマスを焙焼することと、アノード材料中の炭素をカソード材料中のリチウムと反応させることと、次いで、焙焼されたブラックマスからリチウムを浸出してリチウム浸出溶液を形成することとによって、バッテリーの再循環流からリチウムを回収する。リチウムは、リチウム浸出溶液を加熱して、上昇した温度における浸出された炭酸リチウムの減少した溶解性に基づいて炭酸リチウムを沈殿させることによって回収される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの再循環流からリチウムを回収するための方法であって、
カソード材料の熱還元に基づいた温度で部分的酸素環境中で前記バッテリーの再循環流からブラックマスを焙焼することと、
リチウムを前記ブラックマスから浸出してリチウム浸出溶液を形成することと、
前記リチウム浸出溶液を加熱して前記リチウムを沈殿物として回収することとを含む方法。
【請求項2】
前記部分的酸素環境が、空中酸素よりも低い酸素濃度及び空中窒素よりも大きい窒素濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記部分的酸素環境が2~10%の酸素を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記部分的酸素環境が3~5%の酸素を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記部分的酸素環境が80%超の不活性ガスを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記不活性ガスが窒素である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ブラックマスを焙焼するための前記温度が500℃~700℃である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ブラックマスを焙焼するための前記温度が575℃~650℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ブラックマスが10~120分間焙焼される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ブラックマスが30~60分間焙焼される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記ブラックマスが水で浸出される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記ブラックマス及び前記水が5~40の重量比である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記重量比が15~20である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ブラックマスが5℃~40℃の温度で浸出される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ブラックマスが5℃~25℃の温度で浸出される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記沈殿物が炭酸リチウムである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
二酸化炭素と回収されたリチウム沈殿物とを組み合わせ、高溶解性炭酸水素リチウムを水中で変換して炭酸溶液を形成することによって炭酸リチウムを選択的に溶解することと、
不溶解不純物固体を濾過することによって、回収されたリチウム沈殿物を精製することを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記炭酸溶液が炭酸水素リチウムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記炭酸溶液を90℃超の温度に加熱して、精製された炭酸リチウム固体を形成することと、
濾過して前記精製された炭酸リチウム固体を取り除くことを更に含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リチウム浸出溶液を加熱することが上昇した温度における浸出されたリチウムの減少した溶解性に基づいてリチウムを沈殿させる、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
精製されたバッテリー銘柄炭酸リチウムをLiイオンバッテリーの再循環流のブラックマスから製造する方法であって、
窒素によってバランスをとられた3~5%の酸素を含有する部分的酸素環境中で前記再循環流からのブラックマスを575℃~650℃の間の温度で15~60分間の時間加熱して焙焼されたブラックマスを生じることと、
前記焙焼されたブラックマスを、20~60分間撹拌しながら15~20の間の水の比率で5℃~25℃の間の温度の脱イオン水中で浸出してリチウム浸出溶液を形成することと、
前記リチウム浸出溶液を濾過して浸出されない固体を取り除くことと、
少なくとも30分間90℃超の温度に加熱することによって前記リチウム浸出溶液から炭酸リチウムを採取して、より高い温度における減少した溶解性に基づいてLi2CO3固体を分離することと、
分離されたLi2CO3固体を炭酸の脱イオン水溶液中に溶解して不純物を固体として濾過することと、
濾過された、炭酸の脱イオン水溶液を加熱して、温度が90℃超に上昇するときに精製された炭酸リチウムを沈殿することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
背景
リチウムイオン(Liイオン)バッテリーは、電動機が急速な加速を求められる電気自動車(EV)及び電動工具などの高い放電用途における二次(再充電可能)バッテリーのための好ましい化学作用である。Liイオンバッテリーは、集電装置、典型的に銅又はアルミニウムの平面シートに適用又は上に堆積される電荷材料、導電性粉末及びバインダーを含む。電荷材料は、Liイオンセルのいわゆる「バッテリー化学」を画定する、アノード材料、典型的に黒鉛又は炭素と、予め決められた比の、例えばリチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、アルミニウム、鉄及びリンなどの金属を含むカソード材料を含む。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
概要
リチウムイオン(Liイオン)バッテリーの再循環流からのリチウム回収は、混じり合った電荷材料のブラックマスを部分的酸素環境中で焙焼することを含み、その間、ブラックマス中のアノード材料からの炭素がブラックマス中のカソード材料からのリチウムと化合して炭酸リチウムを形成する。後続の精製は、リサイクルされる炭酸リチウムを工業製品からバッテリー銘柄まで品質を高める。焙焼温度と有効酸素とのバランスによって、最初に焙焼温度において酸化リチウムを形成する反応と、炭酸リチウムの製造を補うために活性炭などの別個の炭素源を加えることを必要とせずにLiが酸素及びアノード炭素と化合する第2の反応とを順次に引き起こさせる。
【0003】
本明細書における構成は、部分的には、高純度リチウムの精製原料を供給するのとは対照的に、リチウム回収はコスト低減のためのバッテリーのリサイクルに有利であるという観察に基づいている。残念なことに、Li回収の従来の手法は、Liを生じるために、再循環流のアノード材料中にすでにすぐに利用可能な炭素が活性炭などの炭素の付加的な供給源で補われるという欠点がある。これは、Liを抽出するための付加的な炭素供給源を必要とし、後続の再循環工程において取り除かれる必要がある付加的な炭素を再循環流中に残す。したがって、本明細書における構成は、アノード材料からのブラックマス中にすでに存在している炭素を消費するが炭酸リチウムとしてリチウムをリサイクルするためのカソード材料の熱還元を妨げない部分的な酸素焙焼によって、従来の付加的炭素手法の欠点を実質的に克服する。
【0004】
実施例の構成は、NMC(Ni、Mn、Co)バッテリーを使用して再循環流からリチウムを回収するために、カソード材料の還元分解のために選択される温度で部分的酸素環境中で再循環流からのブラックマスを焙焼し、アノード材料中の炭素をカソード材料中のリチウムと反応させ、次に、焙焼されたブラックマスからリチウムを浸出してリチウム浸出溶液を形成する。Liは上昇した温度でLi2CO3として溶液から沈殿するので、リチウム浸出溶液を加熱して、上昇した温度における浸出されたリチウムの減少した溶解性に基づいてリチウムを沈殿させることによってリチウムを回収する。
【0005】
図面の簡単な説明
前述の及び他の特徴は、添付した図面において説明されるように、本明細書に開示される特定の実施形態の以下の説明から明白であり、そこで同じ参照符号は異なった図面の全体にわたり同じ部分を指す。図面は必ずしも縮尺通りではなく、むしろ、本発明の原理の説明に重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本明細書に開示されるLi回収のための部分的酸素焙焼の流れ作業図である。
【
図2】
図1の浸出液からのLiの精製の流れ作業図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
しばしば、様々な比のニッケル、マンガン、コバルト及びアルミニウムなどの複数のバッテリー化学物質の再循環流から、Liイオンバッテリーなどのバッテリーをリサイクルするための実施例の方法及び手法が以下に説明される。一般的には、現在の二次(再充電可能)バッテリーは、カソード材料としてバインダー及び導電材料、並びにアノード材料として黒鉛又は炭素の同様な形態と共にNi、Mn、Co及びAlなどの金属を使用する。リサイクルは典型的に、放電及び物理的分解、圧潰、及び/又はバッテリーケーシング構造物の撹拌で開始され、カソード、アノード、及び様々なケーシング及び導体材料などの「ブラックマス」と称される粒状の、混じり合った原料をもたらす。廃棄された又は不良品の電気自動車(EV)バッテリーはしばしば、それらの大量の原料電荷材料としてリサイクルするために求められている。
【0008】
リチウムのリサイクルのための従来の焙焼方法は、不活性又は還元ガス環境を使用し、アノード材料からの炭素の比較的豊富さにもかかわらず、活性炭などの炭素供給源を加えることを含む。対照的に、本明細書における構成は、炭素供給源としてブラックマス中にすでに存在している炭素を利用するがカソード材料の熱還元及び分解を妨げない部分的酸素環境を使用する。以下に考察される構成は、部分的O2環境内の少量の酸素が、NMCカソード材料の熱還元/分解を損なわずにアノード材料供給源中の炭素を有効に活性化し、それによって追加の活性炭の必要をなくすことを実証する。
【0009】
リサイクルされるLiイオンバッテリーからのブラックマスは、アノード及びカソード電荷材料並びに典型的には、バッテリーパックを使用するEVと係合する形状の、個々のセルを相互接続する物理的バッテリーケーシング及び接点において使用される銅、アルミニウム及び鉄などの不純物の混合物を含有する。したがってこのブラックマスは、供給源の再循環流におけるバッテリーの形態及びタイプに基づいてある程度可変比で電荷材料金属、炭素/黒鉛、リチウム及び電解質などのバッテリー材料の粒状形態を含有する。バッテリー化学及び/又は車の製造元による形態は、明確であっても又は明確でなくてもよい。しかしながら、厳密なバッテリー化学に関係なく、カソードからのリチウムの相当な量及びアノードからの炭素の相当な量の存在が予想され得る。
【0010】
リサイクルされるリチウムイオンバッテリーからのブラックマスを焙焼することによって、使用済みバッテリーからのLi、Ni、Mn及びCoなどの高価な金属の回収を容易にする。しかしながら、従来の方法は、カソード材料の活性遷移金属イオンを還元するために不活性環境(N2又はAr)又は還元ガス環境(H2又はCH4)を使用する。不活性環境において、還元を完了するためにより高い焙焼温度がしばしば必要とされ、また、ブラックマスはすでにアノード黒鉛からの十分な炭素を有するが、炭素熱還元を促進するために活性炭が添加され、エネルギー消費量及び運転費用を増加させる。還元環境において、爆発性又は高引火性ガス成分は、厳しい安全制御を必要とし、環境ガス組成物のための追加のコストを課す。また、不活性又は還元環境雰囲気中でブラックマスを焙焼することはしばしば、それらの合金を形成する遷移金属の更なる還元を引き起こし、それは電荷材料金属を目標とする下流の再循環における遷移金属の回収のために問題が多い。
【0011】
以下に説明される構成は、ブラックマスの焙焼のために部分的酸素環境雰囲気を使用することによって上記の問題に対処する。焙焼環境における部分的酸素は、ブラックマス中の比較的熱的に安定な黒鉛を活性化し、黒鉛が炭素熱還元のための炭素供給源になることを可能にすると考えられる。第二に、部分的酸素環境は、金属又は合金状態への遷移金属イオンの完全な還元を妨げ、もっと言えば希釈酸性水溶液中で遷移金属イオンをより可溶性のより低い酸化状態に還元する(主に+2、例えばNiO、CoO、及びMnO)。第三に、部分的酸素環境は黒鉛を活性化するので、これはまた、カソードからのリチウム材料が炭酸リチウムを形成することを可能にし、同様な焙焼温度及び時間について従来の不活性環境と比べてリチウム回収収率を増加させる。更に、部分的酸素環境中のブラックマスの焙焼は、ブラックマス中の黒鉛のたった9~12%など、15%未満を消費すると考えられ、したがって、黒鉛の大部分はまだ、カソード金属イオンの浸出後にリチウムイオンバッテリーのためのリサイクルされるアノード材料として回収され得る。言い換えれば、炭酸リチウムの回収は、下流の炭素及び電荷材料の回収の有効性にごくわずかしか影響を与えない。不活性ガス環境を上回る部分的酸素焙焼環境の有効性は表1に示される。
【0012】
【0013】
図1は、本明細書に開示されるLi回収のための部分的酸素焙焼の方法の実施形態の流れ作業図である。
図1を参照して、焙焼プロセス100は、工程102において、500℃を超える温度で部分的酸素環境中で、リチウムイオンバッテリーの再循環流から提供されるブラックマスを焙焼することを含む。温度は、カソード材料の熱還元/分解とアノード材料中の炭素をカソード材料中のリチウムと反応させることに基づくことができる。ブラックマスは典型的に、Ni、Mn、Co(NMC)バッテリーの再循環流の結果として得られる。焙焼は、ブラックマス中のリチウムをアノード材料からのブラックマス中の有効炭素から炭酸リチウムに変換する。
【0014】
部分的酸素環境は、空中酸素よりも低い酸素濃度及び空中窒素よりも高い窒素濃度を有する酸素環境によって定義される。特定の構成において、部分的酸素の百分率は2~10%、好ましくは3~5%であり、周囲大気(すなわち、空気)よりも少ない酸素及び多い窒素(又は他の不活性ガス)を有する環境を画定する、窒素又はアルゴンなどの不活性ガスでバランスをとられる。焙焼温度は550℃~700℃の間、好ましくは575℃~650℃の間であり得、それによってアノードからすでに存在している炭素は酸素と反応し始める(500℃未満で、炭素不活性のままであることが予想される)。ブラックマスの焙焼は、追加の活性炭なしに部分的酸素環境中の酸素との炭素熱反応を引き起こすと考えられる。カソード材料が>500℃に暴露されるとき、カソード材料中の遷移金属もまた熱還元及び分解され、カソード中のリチウムは初期に酸化リチウムに変化させられる。炭素及び酸素が有効であるとき、Li2OはLi2CO3に変換される。反応(1)及び(2)は非常に迅速であり、おそらくほとんど同時に起こる:
LiNixMnyCozO2+熱→
Li2O+x[NiO/Ni]+y[MnO/Mn2O4]+z[CoO/Co3O4/Co] (1)
ここで、1≧x+y+z≧0.9であり;0.99≧x≧0.33であり;0.33≧y≧0.01であり;0.33≧z≧0.01であり、
Li2O+C(黒鉛)+pO2→Li2CO3+(1-p)C(黒鉛)+q(CO2/CO) (2)
ここで、環境雰囲気中0.1≧p≧0.01であり、0.1≧q≧0.01である。
【0015】
ブラックマスは黒鉛を有するアノード材料とリチウム及び電荷材料金属などのカソード材料とを含有するので、焙焼によって、黒鉛からの炭素を部分的酸素環境中の酸素と化合させてCO及びCO
2を形成し、それらがリチウムと化合して水溶性炭酸リチウムを形成することを式(1)及び(2)は実証する。焙焼の熱処理時間は、典型的には10分~120分、好ましくは30~60分で変化し得る。
図1に示されるように焙焼後、リチウム化合物は、工程104に示されるように、それを脱イオン水中で撹拌することによって、焙焼されたブラックマスから浸出され得、リチウム浸出水溶液を形成することができる。
【0016】
開示された手法において使用されるリチウムは、リサイクル源において電荷材料金属と組み合わせられたリチウム塩であり、生じたリチウム生成物としてリチウム塩として沈殿する。本明細書における実施例は、より高い温度ではなくより低い温度で増加した溶解性によって促進された、得られたリチウム塩として炭酸リチウムを表わすが、しかしながら他のリチウム生成物を得ることができる。
【0017】
リチウム生成物、Li2CO3は焙焼されたブラックマス中で唯一の水浸出性化合物であり、残部は水に可溶性ではない。したがって、炭酸リチウムは、脱イオン水を使用して、焙焼されたブラックマスから選択的に浸出され得る。リチウム浸出溶液の濾過は、不溶性材料を溶解したリチウム塩から分離する。
【0018】
更に、電解質、典型的にLiPF6は、焙焼中にフッ化リチウムとフッ化リン化合物(PF
5、PF
3、OPF
3、HF等)に分解される。炭酸リチウム浸出溶液は弱塩基性溶液(pH=11~12)である。したがって、このpHでの溶解性生成物をベースとした、浸出溶液中の唯一の主不純物である、極微量の副生成物(例えばNiO、CoO及びLiF等)及びLi
2CO
3結晶生成物と共に、著しい量のアルミニウムがリチウム浸出溶液中に溶解される。ナトリウム及び硫黄不純物は、環境条件から生じ得、それらは環境を制御することによって避けることができる。浸出液及び生成物の分析は以下の
図3に示される。
【0019】
工程106に示されるように、浸出のために加えられる脱イオン水の量を変化させることができる。例えば、水対熱処理されたブラックマスの比は、約5~40重量比、好ましくは15~20である。リチウム浸出温度は約5~40℃、好ましくは約20~30℃に維持され、攪拌時間は10~240分、好ましくは20~60分である。
【0020】
Li
2CO
3の溶解性は、大部分の溶質とは対照的に、温度とは逆に変化する。したがって、リチウムの回収は、リチウム浸出溶液を加熱して、それによって上昇した温度における浸出された炭酸リチウムの減少した溶解性に基づいて炭酸リチウムを沈殿させることによって行うことができる。例えば、
図1に示されるように、浸出されたLi
2CO
3は、工程108において、濾過によって浸出されない固体を分離除去することと、その後に、工程114に示されるように、濾液を10~120分間、好ましくは30~60分間>90℃に加熱することとによって採取される。浸出溶液の加熱前の濾過された浸出されない固体は、工程110において開示されるように、脱リチウム化NMC、典型的に、NiO、MnO、Mn
3O
4、CoO、Co
3O
4等の分解されたNMC酸化物及び未反応の黒鉛を含有する。次に、工程112に示されるように、濾過された固体をNMC及び黒鉛回収流に供給し、更なる処理を行うことができる。
【0021】
工程116に示されるように、濾過は、所望のリチウム生成物、
図1の実施例において炭酸リチウムを採取する。水性濾液を浸出サイクルのために工程104に再循環することができる。工程118に示される、得られた濾過された炭酸リチウム固体を、工程120に示されるように、粒状形態に乾燥させる。次に、乾燥された炭酸リチウムを必要ならば更に精製することができ、その実施例を
図2に示す。
【0022】
例えば、
図1の工程120からの炭酸リチウム生成物は、少なくとも工業銘柄(>99%純度)であり、簡単な精製200によってバッテリー銘柄に改良され得る。炭酸リチウムが炭酸水溶液中に溶解されるとき、炭酸リチウムの溶解性は、より溶解性が小さい炭酸リチウムの、高溶解性炭酸水素リチウムへの変換のために5倍以上増加する。しかしながら、式3:
Li
2CO
3(s)+CO
2(g)+H
2O
(l)⇔2LiHCO
3(l)(pH=7~8) (3)
によって示されるように、不純物は溶解せず、固体状態のままであり、濾過によって分離する。
【0023】
式3は、二酸化炭素と回収された炭酸リチウムとを組み合わせ、精製された炭酸リチウムを沈殿させることを表わす。工程202において、回収された炭酸リチウムを水中に溶解して溶液を形成する。バッテリー銘柄炭酸リチウムへの炭酸リチウムの精製のために、工程204に図示されるように、Li2CO3を炭酸化によってDI(脱イオン)水に溶解し(CO2を溶液に溶解する)、炭酸溶液を形成する。しかしながら、炭酸リチウム中の不純物は固体のままである。工程206に示されるように不純物固体は、0.1~0.45μmの間のフィルター膜を使用して、精密濾過によって取り除くことができる。次に、工程208に示されるように、よりいっそう可溶性のLiHCO3を90℃超の熱で、例えば95℃以上の温度まで1時間の間よりいっそう溶解性が小さいLi2CO3に変換することによってLi2CO3を回収する。炭酸化は、浸出された炭酸リチウムの水溶液に二酸化炭素を通気することによって又は二酸化炭素を加圧し、撹拌し、炭酸と不溶解固体を形成することによって行うことができる。炭酸化が完了すると、炭酸水素リチウムの水溶液は、7.0~8.5の間のpHを達成する。工程210に示されるように、炭酸水素リチウム溶液を加熱することによって沈殿したLi2CO3を濾過し、工程212において濾過された収量を乾燥させて、工程214において開示されるようにバッテリー銘柄炭酸リチウムを形成する。得られた炭酸リチウムは、リサイクルされるセルのためのカソード材料のリチウム供給源としてすぐに使用することができる。
【0024】
図3は、
図1の浸出液の分析結果の表である。少量のナトリウム、硫黄及びアルミニウムを
図2の精製によって取り除くことができる。
図1及び2のプロセスの順序は、NMCのブラックマス又は同様なリサイクルされるバッテリーから炭酸リチウムの形態のバッテリー銘柄リチウム生成物をもたらすことは明らかであるはずである。残りのブラックマスは、残留炭素(15%未満が消費される)とNi、Mn、及びCoなどの脱リチウム化電荷材料金属とを含有する。
【0025】
上記の手法の実施例は
図4及び5に図示される。実施例の構成において、パイロットロータリーキルンを用いて、N
2でバランスを取った3.5~4.5%O
2を使用して20Kgのブラックマスを30分間の間610℃で焙焼する。
【0026】
図4及び5の実施例において、50gの焙焼されたブラックマスを1Lの脱イオン水に添加し、混合物を周囲温度(約20℃)で30分間撹拌した。次に、1μm濾紙を使用して真空濾過によって固体を取り除いた。濾液を1時間の間>90℃に加熱した。濾液を加熱する間、このより高い温度における低い溶解性のためにLi
2CO
3が溶液から沈殿した。0.45μmフィルター膜を使用して真空濾過によってLi
2CO
3生成物を採取する。サイクルの間に失われる少量の脱イオン水を加えることによって同じ量の焙焼されたブラックマスを使用して濾液を後続の浸出プロセスに供給した。このサイクルを10回繰り返した。
【0027】
図2に示されるように、上で採取されたLi
2CO
3生成物を精製した。したがって、12.6gのLi
2CO
3を200mLのDI水中に分散させ、5~20℃の混合物を機械的撹拌しながらCO
2を溶液中に通気した。溶液pHが7.5~8.0に達するまでCO
2通気及び撹拌を続けた。次に、0.1~0.2μmフィルター膜を用いて不溶解固体を真空濾過によって取り除いた。濾液を>90℃に加熱して、高溶解性LiHCO
3をよりいっそう溶解性が小さいLi
2CO
3に変換した。次いで、高純度(≧99.5%)Li
2CO
3が溶液から沈殿し、生成物が真空濾過によって採取された。濾液は次の精製溶液に再循環された。
【0028】
図4は
図2のLi精製の結果の表である。見ることができるように、かなりの不純物が特にアルミニウム及びナトリウムの精製プロセスによって取り除かれる。
図5は、
図2における精製前の中間炭酸リチウム生成物を生じるための、
図1におけるLi回収の10回の反復サイクルの結果を示す。
【0029】
本明細書において規定されるシステム及び方法はその実施形態を参照して特に示されて説明されたが、添付した請求の範囲によって包含される本発明の範囲から逸脱せずに形態及び詳細において様々な変更をそこに加えることができることは当業者によって理解されるであろう。
【符号の説明】
【0030】
100 焙焼プロセス
102、104、106、108、110、112、114、116、118、120、202、204、206、208、210、212、214 工程
200 精製プロセス
【外国語明細書】