(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074249
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】円すいころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/50 20060101AFI20240523BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20240523BHJP
F16C 43/04 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
F16C33/50
F16C19/36
F16C43/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180301
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022185128
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】西田 雄太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智仁
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117HA03
3J117HA04
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA39
3J701BA45
3J701BA49
3J701BA50
3J701CA15
3J701EA02
3J701EA37
3J701EA47
3J701EA76
3J701FA46
3J701FA51
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB19
3J701XB24
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】ワイヤのような連結部材で内輪アッシを一体としつつも、軸受組み込み後に連結部材を取り外すことができ、かつころ案内を実現できる円すいころ軸受を提供する。
【解決手段】円すいころ軸受1は、保持器セグメント20の内径側に延びる第1案内爪を有するポケット16に収容された円すいころ15の外径側への脱落を防止する着脱可能な脱落防止部材32を備えている。脱落防止部材32は、保持器セグメント20の大径側弧状部22の外径面および大径側側面に係合している。保持器セグメント20および脱落防止部材32が、連結部材25により連結されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内外輪の間に介在された複数の円すいころと、前記円すいころを保持する保持器とを備え、前記保持器は周方向に分割された複数の保持器セグメントを有し、これら保持器セグメントが着脱可能な連結部材により連結された円すいころ軸受であって、
前記保持器セグメントは、前記円すいころを収納する周方向に並んだポケットを3つ以上有し、
前記保持器セグメントは、周方向に延びる大径側弧状部および小径側弧状部と、これら大径側および小径側弧状部を接続する複数の柱部とを有し、前記大径側弧状部、小径側弧状部および柱部により前記ポケットが構成され、
前記保持器セグメントは前記柱部から内径側に延びる第1案内爪を有するポケット、および前記柱部から外径側に延びる第2案内爪を有するポケットを有し、
さらに、前記第1案内爪を有するポケットに収容された前記円すいころの外径側への脱落を防止する着脱可能な脱落防止部材を備え、
前記脱落防止部材は、前記保持器セグメントの前記大径側弧状部の外径面および大径側側面に係合し、
前記保持器セグメントおよび前記各脱落防止部材が、前記連結部材により連結されている円すいころ軸受。
【請求項2】
請求項1に記載の円すいころ軸受において、前記脱落防止部材は前記柱部または前記第2案内爪に沿って設けられ、
前記脱落防止部材が、前記内輪の大端面側から挿通されている円すいころ軸受。
【請求項3】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、さらに、前記保持器セグメントの前記大径側弧状部における周方向端部に、前記脱落防止部材の周方向の移動を制限する脱落防止部材案内部を備える円すいころ軸受。
【請求項4】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記脱落防止部材は、前記連結部材が係合される案内部を有している円すいころ軸受。
【請求項5】
請求項4に記載の円すいころ軸受において、前記案内部は、前記連結部材が挿通される挿通孔、または前記連結部材が係合される係合溝である円すいころ軸受。
【請求項6】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記脱落防止部材は、前記内輪の大端面に係合する内輪係合部を有している円すいころ軸受。
【請求項7】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、さらに、前記保持器セグメントにおける大径側弧状部の大径側側面の両端側に、前記連結部材との係合部を有する大径側突出部を備えた円すいころ軸受。
【請求項8】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記連結部材の両端部が、締結部または締結部材により連結されている円すいころ軸受。
【請求項9】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記連結部材が複数に分割され、各連結部材の端部が締結部または締結部材により連結されている円すいころ軸受。
【請求項10】
請求項9に記載の円すいころ軸受において、複数の前記締結部または前記締結部材が、周方向に等間隔に配置されている円すいころ軸受。
【請求項11】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、さらに、前記保持器セグメントにおける前記小径側弧状部の小径側側面に、環状治具が嵌合可能な小径側突出部を備えた円すいころ軸受。
【請求項12】
請求項11に記載の円すいころ軸受において、前記環状治具は、着脱自在である円すいころ軸受。
【請求項13】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記保持器セグメントは、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンである円すいころ軸受。
【請求項14】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記脱落防止部材は、樹脂製または金属製である円すいころ軸受。
【請求項15】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記内輪の大端面を下にして内輪の軌道面に円すいころを配置した状態で、前記内輪の大鍔部が前記内輪の中心軸に対して直交する角度をI、前記大鍔部の先端の面取り幅をH、前記内輪の中心軸から前記円すいころの重心までの距離をy1、前記大鍔部の径をJとしたとき次の条件を満たす円すいころ軸受。
(J/2)-H・cosI>y1
【請求項16】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記連結部材により前記保持器セグメントを連結した状態で、前記内輪の小鍔部の径をM、前記小鍔部が前記内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、前記小鍔部の先端の面取り幅をK、前記円すいころを前記内輪の大鍔部の先端を中心にして回転させた際に前記小鍔部の側面と前記円すいころの小径側端面が接触する接触点Cから前記中心軸までの距離をy3としたときに次の条件を満たす円すいころ軸受。
(M/2)-K・cosL>y3
【請求項17】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、さらに、前記保持器セグメントにおける前記小径側弧状部の小径側側面に、着脱可能な小径側連結部材との小径側係合部を備えた円すいころ軸受。
【請求項18】
請求項1または2に記載の円すいころ軸受において、前記保持器は、外径が1m以上の大型円すいころ軸受用の保持器である円すいころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置の主軸受用の円すいころ軸受や、産業機械用の円すいころ軸受、特に外径1mを超えるような大型の円すいころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
円すいころ軸受には、一般的に鋼板の保持器が使用される。鋼板の保持器は、例えば、プレス加工により製作されるが、外径が1mを超えるような大型のものでは、設備上の都合によりプレス加工が難しくなる。一方、削り出しで製作される保持器では、プレス加工品と比較して、大幅なコストアップとなり、マテリアルロスの観点からも無駄が多くなる。コストを抑えるために、樹脂の射出成型により複数の保持器セグメントを成形し、これらを組み立てたセグメント保持器がある(例えば、特許文献1)。なお、樹脂の射出成型では、1mを超える大型の一体リングを成形することは難しい。
【0003】
このようなセグメント保持器の場合、例えば、ユーザにて単列円すいころ軸受を風車に組み込む際、小端面を下にした状態で内輪アッシを取り扱う工程がある。このとき、保持器からころが脱落しないないように、セグメント保持器をワイヤのような連結部材で連結し、一体とする手法が考案されている(例えば、特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4342512号公報
【特許文献2】特許2011-137530号公報
【特許文献3】WO2013/092217
【特許文献4】特開2018-080747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなワイヤで一体化したセグメント保持器では、軸受にワイヤを取り付けた状態で風車が運転されることが課題である。風車の組立後にワイヤを取り外したとしても、保持器はころ転動面および内外輪軌道面で案内され、ころ案内とはならない。また、従来のワイヤを用いない“ころ案内セグメント保持器”をワイヤで連結して一時的に一体化しても、内輪アッシ反転時にころが脱落する恐れがある。ワイヤを取り付けた状態で風車を運転した場合、ワイヤによる摩耗、異音等の発生が危惧される。また、保持器が軌道面で案内される場合、保持器の軌道面との接触部および軌道面の摩耗が危惧される。
【0006】
本発明の目的は、ワイヤのような連結部材で内輪アッシを一体としつつも、軸受組み込み後に連結部材を取り外すことができ、かつころ案内を実現できる円すいころ軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の円すいころ軸受は、内外輪の間に介在された複数の円すいころと、前記円すいころを保持する保持器とを備え、前記保持器は周方向に分割された複数の保持器セグメントを有し、これら保持器セグメントが着脱可能な連結部材により連結された円すいころ軸受である。前記保持器セグメントは、前記円すいころを収納する周方向に並んだポケットを3つ以上有している。前記保持器セグメントは、周方向に延びる大径側弧状部および小径側弧状部と、これら大径側および小径側弧状部を接続する複数の柱部とを有し、前記大径側弧状部、小径側弧状部および柱部により前記ポケットが構成されている。 前記保持器セグメントは前記柱部から内径側に延びる第1案内爪を有するポケット、および前記柱部から外径側に延びる第2案内爪を有するポケットを有する。円すいころ軸受は、さらに、前記第1案内爪を有するポケットに収容された前記円すいころの外径側への脱落を防止する着脱可能な脱落防止部材を備えている。前記脱落防止部材は、前記保持器セグメントの前記大径側弧状部の外径面および大径側側面に係合している。前記保持器セグメントおよび前記各脱落防止部材が、前記連結部材により連結されている。前記連結部材は、例えば、ワイヤである。前記保持器は、例えば、外径が1m以上の大型円すいころ軸受用の保持器である。
【0008】
この構成によれば、連結部材および脱落防止部材が着脱可能であるので、連結部材および脱落防止部材で内輪アッシを一体としつつも、軸受組み込み後に連結部材を取り外すことができる。また、保持器は第1および第2案内爪により、運転時に円すいころだけで案内されるので、ころ案内を実現できる。
【0009】
本発明において、前記脱落防止部材は、前記内輪の大端面側から挿通され、前記柱部または前記第2案内爪に沿って、配置されてもよい。この構成によれば、脱落防止部材により、円すいころの径方向の移動を抑制できる。
【0010】
本発明において、さらに、前記保持器セグメントの前記大径側弧状部における周方向端部に、前記脱落防止部材の周方向の移動を制限する脱落防止部材案内部を備えてもよい。この構成によれば、脱落防止部材の保持器セグメントへの着脱が容易になる。
【0011】
本発明において、前記脱落防止部材は、前記連結部材が係合される案内部を有していてもよい。この場合、前記案内部は、前記連結部材が挿通される挿通孔、または前記連結部材が係合される係合溝であってもよい。この構成によれば、連結部材により保持器セグメントおよび各脱落防止部材を一体化し易い。
【0012】
本発明において、前記脱落防止部材は、前記内輪の大端面に係合する内輪係合部を有していてもよい。この構成によれば、内輪係合部により、連結部材の締め付けによる保持器セグメントの小径側の広がりを防止することができる。
【0013】
本発明において、さらに、前記保持器セグメントにおける大径側弧状部の大径側側面の両端側に、前記連結部材との係合部を有する大径側突出部を備えていてもよい。この構成によれば、連結部材により保持器セグメントおよび各脱落防止部材を一体化し易い。
【0014】
本発明において、前記連結部材の両端部が、締結部または締結部材により連結されていてもよい。この構成によれば、連結部材の取り扱いが容易である。
【0015】
本発明において、前記連結部材が複数に分割され、各連結部材の端部が締結部または締結部材により連結されていてもよい。この場合、複数の前記締結部または締結部材が、周方向に等間隔に配置されていてもよい。この構成によれば、締結部または締結部材により、連結部材全体に均等に締結力を加えることができる。
【0016】
本発明において、さらに、前記保持器セグメントにおける前記小径側弧状部の小径側側面に、環状治具が嵌合可能な小径側突出部を備えていてもよい。この構成によれば、環状治具により、環状に配置された保持器セグメントの小径側の広がりを防止できる。
【0017】
本発明において、前記保持器セグメントは、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンであってもよい。また、前記脱落防止部材は、樹脂製または金属製であってもよい。
【0018】
本発明において、前記内輪の大端面を下にして内輪の軌道面に円すいころを配置した状態で、前記内輪の大鍔部が前記内輪の中心軸に対して直交する角度をI、前記大鍔部の先端の面取り幅をH、前記内輪の中心軸から前記円すいころの重心までの距離をy1、前記大鍔部の径をJとしたとき以下の条件を満たしてもよい。
(J/2)-H・cosI>y1
この構成によれば、内輪に円すいころを組み込む際に、円すいころが自重により脱落するのを防ぐことができる。
【0019】
本発明において、前記連結部材により前記保持器セグメントを連結した状態で、前記内輪の小鍔部の径をM、前記小鍔部が前記内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、前記小鍔部の先端の面取り幅をK、前記円すいころを前記内輪の大鍔部の先端を中心にして回転させた際に前記小鍔部の側面と前記円すいころの小径側端面が接触する接触点Cから前記中心軸までの距離をy3としたときに以下の条件を満たしてもよい。
(M/2)-K・cosL>y3
この構成によれば、円すいころの小径側の端面が小鍔部の側面の接触点Cに接触する。ので、円すいころの回転が抑制される。
【0020】
本発明において、さらに、前記保持器セグメントにおける前記小径側弧状部の小径側側面に、着脱自在な小径側連結部材との小径側係合部を備えていてもよい。この構成によれば、小径側連結部材により、環状に配置された保持器セグメントの小径側の広がりを防止できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の円すいころ軸受によれば、ワイヤのような連結部材で内輪アッシを一体としつつも、軸受組み込み後に連結部材を取り外すことができ、かつころ案内を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る円すいころ軸受を示す断面図である。
【
図2】同円すいころ軸受の内輪アッシを軸方向から見た正面図である。
【
図4】同円すいころ軸受の保持器の保持器セグメントを示す断面図である。
【
図5】同保持器セグメントを径方向外側から見た平面図である。
【
図7】同内輪アッシの脱落防止部材の変形例を示す斜視図である。
【
図8】同内輪アッシの脱落防止部材の別の変形例を示す斜視図である。
【
図9】同内輪アッシの脱落防止部材のさらに別の変形例を示す斜視図である。
【
図10】同脱落防止部材を用いた内輪アッシを示す断面図である。
【
図11】同脱落防止部材を用いた内輪アッシを示す断面図である。
【
図13】内輪の大端面を下にした状態で内輪に円すいころを配置した際における円すいころと内輪の大鍔部との関係を示す模式図である。
【
図14】円すいころを保持器セグメントに挿入する状態を示す斜視図である。
【
図15】保持器セグメントを内輪に挿入する状態を示す斜視図である。
【
図16】保持器セグメントを内輪に挿入する状態を示す断面図である。
【
図17】保持器セグメントに脱落防止部材を挿入する状態を示す斜視図である。
【
図18】保持器セグメントを環状に並べた状態を示す斜視図である。
【
図19】内輪アッシに環状治具および連結部材を取り付けた状態を示す斜視図である。
【
図20】内輪の軌道面に配置した円すいころの回転状態を示す模式図である。
【
図21】内輪の軌道面に配置した円すいころの回転させたときの内輪の小鍔部の高さと円すいころのとの関係を示す模式図である。
【
図22】内輪アッシを外輪に組み込む状態を示す断面図である。
【
図23】内輪アッシを外輪に組み込む状態を示す断面図である。
【
図24】本発明の第2実施形態に係る円すいころ軸受を示す断面図である。
【
図25】
図24の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントを示す平面図である。
【
図26】
図24の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントを示す斜視図である。
【
図27】
図24の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントの断面図である。
【
図28】
図24の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントの他の例を示す断面図である。
【
図29】
図24の円すいころ軸受の外輪を外した状態を示す斜視図である。
【
図30】
図24の円すいころ軸受の外輪を外した状態の正面図である。
【
図31】
図24の円すいころ軸受の連結部材を結束した後の状態を示す断面図である。
【
図32】本発明に係る円すいころ軸受の第3実施形態を示す断面図である。
【
図33】本発明に係る円すいころ軸受の第4実施形態を示す斜視図である。
【
図34】本発明の第5実施形態に係る円すいころ軸受の内輪アッシを軸方向から見た正面図である。
【
図36】同円すいころ軸受の保持器の保持器セグメントを示す断面図である。
【
図37】同保持器セグメントを径方向外側から見た平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。以下の説明において、軸受中心軸AXの方向を「軸方向」といい、軸受中心軸AXに直角する方向を「径方向」といい、軸受中心軸AX回りの円周方向を「周方向」という。また、軸受中心軸AXに向かう側を「内径側」といい、軸受中心軸AXから離れる側を「外径側」という。さらに、軸方向において外輪12の軌道面14の径が小さくなる方向を「小径側」といい、軌道面14の径が大きくなる方向を「大径側」という。
【0024】
<第1実施形態>
図1に示すように、本実施形態の円すいころ軸受1は、内輪11と、外輪12と、内外輪11,12の間に介在された複数の円すいころ15と、円すいころ15を一定間隔に保持する保持器17とを備えている。保持器17は、径方向に開口したポケット16を有し、このポケット16に円すいころ15が保持されている。
【0025】
外輪12は、その内周に、円すいころ15が転動する軌道面14を有している。内輪11は、その外周に円すいころ15が転動する軌道面13と、この軌道面13を挟んで軸方向の両側に円すいころ15の端面が接触する大鍔部19と小鍔部18とを有している。
【0026】
本実施形態の円すいころ軸受1は、例えば、風力発電の主軸等の支持に用いられる大型の円すいころ軸受である。このような円すいころ軸受1の場合、円すいころ15の平均径は40mm以上で、軸受の外径は1m以上である。ただし、円すいころ軸受1の用途は、これに限定されない。
【0027】
図2は、内輪11、保持器17および円すいころ15からなる内輪アッシAsを軸方向から見た正面図である。同図に示すように、保持器17は、周方向に分割された複数の保持器セグメント20を有するセグメント保持器である。詳細には、複数の保持器セグメント20が、後述の連結部材25により連結されて保持器17を構成している。本実施形態の保持器セグメント20は樹脂製である。詳細には、保持器セグメント20は、例えば、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンである。ただし、保持器セグメント20の材質はこれに限定されない。
【0028】
図3は内輪アッシAsの斜視図で、
図4は保持器セグメント20の断面図で、
図5は保持器セグメント20を径方向外側から見た平面図で、
図6は保持器セグメント20の斜視図である。なお、
図3は、1つの保持器セグメント20のみを示している。以下の説明において、保持器セグメント20を単に「セグメント20」と呼ぶことがある。
【0029】
セグメント20は、
図5に示すように、周方向に延びる大径側弧状部22および小径側弧状部21と、これら大径側および小径側弧状部22,21を接続する複数の柱部23とを有している。つまり、小径側弧状部21と大径側弧状部22は所定間隔離れて対向しており、小径側弧状部21と大径側弧状部22の間に複数の柱部23が架設されている。
【0030】
隣り合う2つの柱部23、23と小径側弧状部21と大径側弧状部22とによって囲まれる空間により、円すいころ15を収容するポケット16が構成されている。本実施形態では、1つのセグメント20に6つの柱部23が設けられ、周方向に並んで5つのポケット16が設けられている。ただし、ポケット16の数は、これに限定されず、1つのセグメント20に周方向に3個以上設ければよい。
【0031】
図4に示すように、この5つのポケット16のうち、周方向両端のポケット16,16は柱部23から内径側に延びる第1案内爪24aを有し、両端以外の中央の3つのポケット16は柱部23から外径側に延びる第2案内爪24bを有している。第1案内爪24aは円すいころ15の内径側への抜け出しを防止し、第2案内爪24bは円すいころ15の外径側への抜け出しを防止する。
【0032】
第1および第2案内爪24a,24bの内周面であるころ案内面24aa,24baは、円すいころ15の形状に沿って湾曲した凹形状を有している。これらの案内爪24a,24bにより、運転時に保持器17は円すいころ15だけで案内される。つまり、本実施形態の円すいころ軸受1は、ころ案内を実現できる。
【0033】
中央の3つのポケット16には、セグメント20の内径側から円すいころ15が挿入可能である。第2案内爪24bにより円すいころ15は外径側へ抜け出さない。また、
図3の内輪アッシAsの状態では、内径側に内輪の軌道面13が位置しているので、円すいころ15は内径側にも抜け出さない。
【0034】
図4のように、周方向の端部に位置するポケット16には、円すいころ15が外径側から挿入可能である。
図3に示す内輪アッシAsの状態では、内径側に内輪の軌道面13が位置しているので、円すいころ15は内径側には抜け出さないが、
図4に示す両端のポケット16に収容された円すいころ15は外径側へ脱落する恐れがある。本実施形態では、
図3のように、セグメント20の両端の柱部23の外径面23aに沿って、脱落防止部材32が設けれている。この脱落防止部材32により、円すいころ15の外径側への脱落が防止されている。
【0035】
脱落防止部材32は、例えば、樹脂製、金属製である。ただし、脱落防止部材32の材質は、これに限定されない。
図6に示すように、脱落防止部材32は、セグメント20の外径面に沿って延びる柱状部32aと、セグメント20の大径側側面に沿って延びる基部32bと、セグメント20の内径面に係合するセグメント係合部32cとを有している。
【0036】
本実施形態では、柱状部32aは、大径側弧状部22の外径面22a、柱部23の外径面23aおよび小径側弧状部21の外径面21aに沿って延びている。ただし、柱状部32aは、少なくとも大径側弧状部22の外径面22aに沿って延びていればよい。柱状部32aは、大径側弧状部22の外径面22aおよび円すいころ15(
図3)に当接して、円すいころ15(
図3)の脱落を防止する。本実施形態では、柱状部32aにおける円すいころ15(
図3)との接触面32aaは、円すいころ15(
図3)の外形に沿って湾曲した凹形状である。
【0037】
基部32bは、大径側弧状部22の大径側側面22bに当接する。セグメント係合部32cは、基部32bから小径側に延びる爪状の部材で、大径側弧状部22の内径面22cに係合する。
【0038】
このように、脱落防止部材32は、セグメント20の大径側弧状部22の外径面22a、大径側側面22bおよび内径面22cに係合している。詳細には、脱落防止部材32の柱状部32aが大径側弧状部22の外径面22aに係合し、セグメント係合部32cが大径側弧状部22の内径面22cに係合している。これにより、脱落防止部材32の径方向の移動が制限される。
【0039】
本実施形態の脱落防止部材32は、連結部材25が係合される案内部35を有している。案内部35は、脱落防止部材32の基部32bに設けられている。詳細には、脱落防止部材32の基部32bにおけるセグメント20と当接する面の反対側に、案内部35が設けられている。
【0040】
本実施形態では、案内部35は、連結部材25(
図1)が係合される係合溝である。詳細には、案内部35は、径方向外側に開口した溝である。ただし、案内部35の形状は、これに限定されない。例えば、
図7の変形例に示すように、案内部35は、連結部材25が挿通される挿通孔であってもよい。
【0041】
また、
図8の変形例に示すように、溝形状の案内部35の入口の幅W1が、連結部材25の幅W2よりも小さく形成されていてもよい。入口以外の係合溝(案内部)35の幅は、連結部材25の幅W2よりも大きい(W1<W2<W3)。この場合、案内部35を弾性変形させて、連結部材25が係合溝(案内部)35に挿入される。したがって、組立時に連結部材25が係合溝(案内部)35から抜け出るのが抑制される。
【0042】
図9の変形例では、脱落防止部材32は、基部32bから径方向内側に延びる内輪係合部34を有している。
図10に示すように、脱落防止部材32がセグメント20に取り付けられた状態で、内輪係合部34は内輪11の大端面11aに係合する。これにより、連結部材25の締め付けによるセグメント20の小径側の広がりを防止することができる。
【0043】
図5に示すように、セグメント20の大径側弧状部32の周方向端部に、脱落防止部材案内部33が設けられている。脱落防止部材案内部33は、脱落防止部材32が周方向に移動するのを制限する。本実施形態では、脱落防止部材案内部33は、大径側弧状部32の外径面22aにおける周方向端部から径方向外側に突出する突部および大径側弧状部32の内径面22cにおける周方向端部から径方向内側に突出する突部である。ただし、脱落防止部材案内部33の形状は、これに限定されない。
【0044】
図5および
図6に示すように、脱落防止部材32は、脱落防止部材案内部33に沿って内輪11の大端面11a(
図1)側からセグメント20に抜き差し可能になっている。つまり、脱落防止部材32はセグメント20に着脱可能である。
【0045】
保持器セグメント20における大径側弧状部22の大径側側面22bの両端側に、大径側突出部26が設けられている。大径側突出部26は、大径側弧状部22の大径側側面22bから軸方向に突出する。大径側突出部26は、連結部材25との係合部27を有している。本実施形態では、係合部27は、連結部材25が嵌合される係合溝である。
【0046】
大径側突出部26は、脱落防止部材32や脱落防止部材案内部33に干渉しないように配置される。本実施形態では、
図3に示す内輪アッシAsの状態で、周方向における大径側突出部26と脱落防止部材案内部33との間に脱落防止部材32が取り付けられている。つまり、大径側突出部26と脱落防止部材32が周方向に並んで位置し、大径側突出部26の係合部27(
図5)と、脱落防止部材32の案内部35(
図6)が連なっている。この係合部27(
図5)と案内部35(
図6)に連結部材25(
図1)を係合して締め付けることにより、各保持器セグメント20および各脱落防止部材32が連結されている。
【0047】
つぎに、
図1の連結部材25について説明する。連結部材25はセグメント20および脱落防止部材32(
図3)に対して着脱可能であり、環状に配置されたセグメント保持器17がばらけることを防止する。連結部材25は、例えば、ワイヤである。ただし、連結部材25は、ワイヤに限定されず、ベルト等であってもよい。
【0048】
本実施形態では、連結部材25の両端部が、締結部または締結部材により連結されている。連結部材25を保持器17の
図5に示す大径側弧状部22の近くに配置することで、軸受組立後に、手または工具によって連結部材25を取り外すことができる隙間が確保される。また、締結部または締結部材は、セグメント20の大径側弧状部22の両端の大径側突出部26,26の間に配置されることが好ましい。
【0049】
連結部材25は連続する一本でもよいが、連結部材25が複数に分割され、各連結部材25の端部が締結部または締結部材42(
図19)により連結されていてもよい。この場合、複数の締結部と締結部材42(
図19)が、円周上に等間隔に配置されることが好ましい。締結部または締結部材42(
図19)により、連結部材25全体に均等に締結力を加えることができる。
【0050】
連結部材25としてワイヤを用いる場合、締結部材42としてフックまたはターンバックル(
図19)を使用することができる。ターンバックルは、着脱可能であり、締め付け力が緩まず、締め付け力が調整可能であるので、好適である。連結部材25としてワイヤを用いる場合、着脱可能なバックルが、締め付け力が緩まないので好ましい。
【0051】
図19のように、締結部材42としてターンバックルを用いる場合、締結部材42は雌ネジ部を備えた胴部を有し、この胴部に連結部材25の端部に設けた雄ネジ部をねじ込み、連結部材25の端部同士を連結することができる。ターンバックル42の胴部の回転により、連結部材25に張力を与えることができ、逆回転により連結部材25の両端の結束を解除することができる。
【0052】
本実施形態では、
図5に示すように、セグメント20の小径側弧状部21に、小径側突出部28が設けられている。小径側突出部28は、小径側弧状部21の小径側側面から軸方向に突出している。本実施形態では、小径側突出部28は、小径側弧状部21における周方向の両端部に設けられている。
【0053】
図11に示すように、小径側突出部28に環状治具31が嵌合可能である。各セグメント20の大径側を連結部材25で結束する際に、小径側突出部28に嵌合された環状治具31により、連結部材25の締め付けによるセグメント20の小径側の広がりが抑制される。環状治具31は、着脱自在である。
【0054】
図12の変形例では、小径側突出部28(
図11)に代えて、保持器セグメント20における小径側弧状部21の小径側側面に、小径側係合部36が設けられている。
図12の例では、小径側係合部36は、小径側連結部材37が係合される係合溝である。ただし、小径側係合部36は、小径側連結部材37を係合できればよく、係合溝に限定されない。
【0055】
小径側連結部材37は、例えば、ワイヤであり、セグメント20に対して着脱可能である。小径側連結部材37により保持器セグメント20が連結されていてもよい。各セグメント20の大径側を連結部材25で結束する際に、小径側係合部36に嵌めた小径側連結部材37の締め付けにより、セグメント20の小径側の広がりが抑制される。
【0056】
つぎに、本実施形態の円すいころ軸受の組立手順を説明する。最初に、
図3のように、内輪11と、円すいころ15と、保持器17とを一体化した内輪アッシAsを組立てる。内輪アッシAsを組み立てるには、まず、内輪11の大端面11a(
図13)を下にした状態で、セグメント20の両端以外のポケット16(
図1)に入る円すいころ15を内輪11の軌道面上に並べる。
【0057】
内輪11の大端面11a(
図13)を下にした状態で円すいころ15を内輪11の軌道面13上に配置すると、円すいころ15が自重により脱落する可能性がある。この脱落を防止するために、
図13のように、内輪11の中心軸AX1から大鍔部19の先端までの距離は、内輪11の中心軸AX1から円すいころ15の重心C1までの距離よりも大きくする。
【0058】
詳細には、内輪11の大端面11aを下にして内輪11の軌道面13に円すいころ15を配置した状態で、内輪11の大鍔部19が内輪11の中心軸AX1に対して直交する角度をI、大鍔部19の先端の面取り幅をH、内輪11の中心軸AX1から円すいころ15の重心C1までの距離をy1、大鍔部19の径をJとしたとき以下の式(1)を満たす。
(J/2)-H・cosI>y1 ・・・(1)
【0059】
つぎに、
図14に示すように、セグメント20の両端のポケット16に円すいころ15を挿入する。この状態で、
図15および
図16に示すように、円すいころ15が並べられた内輪11にセグメント20を被せる。これにより、両端以外のポケット16に、内径側から円すいころ15が挿入される。
【0060】
つづいて、
図17に示すように、セグメント20の両端に収納された円すいころ15の大径側への脱落を防止するために、大径側弧状部22の両端部の脱落防止部材案内部33に沿って、内輪11の大端面側から脱落防止部材32が挿入される。
【0061】
つぎに、
図18に示す環状に配置されたセグメント20の小径側に突出する小径側突出部28にL字形の環状治具31(
図19)を嵌め込む。
図18は、環状治具31(
図19)が嵌め込まれる前の状態を示し、
図19は、環状治具31が嵌め込まれた状態示す。
【0062】
さらに、
図19に示すように、セグメント20の大径側側面22b(
図5)の大径側突出部26の係合部27と、脱落防止部材32の案内部35に連結部材25を係合する。セグメント20の外径側に配置した連結部材25の端部を締結部材42によって結束し、さらに、締結部材42によって連結部材25を締め付ける。これにより、環状に配置した複数のセグメント20が一体化される。以上により、内輪アッシAsの組立が完了する。環状治具31は、内輪アッシAsを組み立てた後に、中心軸に沿って移動させることで取り外すことができる。
【0063】
内輪アッシAsの組立完了後、
図22および
図23に示すように、内輪アッシAsを外輪12に組み込む。内輪アッシAsの外輪12への組み込みは、内輪アッシAsの小径側を下に向けた反転状態で行うことができる。反転状態においても、環状に配置されたセグメント20は外周側が連結部材25により連結されているので、セグメント20がばらけることはない。
【0064】
また、各セグメント20の両端以外のポケット16に挿入された円すいころ15は、外径側に設けた第2案内爪24b(
図3)により脱落が防止され、両端のポケット16(
図14)に挿入された円すいころ15は脱落防止部材32(
図17)により脱落が防止される。外輪12への組み込みは、環状治具31(
図19)を取り除いた後に行われる。
【0065】
環状治具31(
図19)を取り除いた状態で内輪アッシAsを反転状態にしても、円すいころ15は大鍔部19と小鍔部18の間に挟まっており、円すいころ15が小鍔部18に引っかかることで、各セグメント20の脱落が防止される。
【0066】
円すいころ15が大鍔部19に接していないときは、
図20に示すように、軌道面13上の点Aを中心に矢印AR1方向に回転する。円すいころ15が大鍔部19に接しているときは、
図21に示すように、大鍔部19の内面の点Bを中心に矢印AR2方向に回転する。
【0067】
図21に示す円すいころ15が点Bを中心に回転する場合、円すいころ15の小径側の端面が、小鍔部18の側面の点Cに接触する。このため、円すいころ15の回転が抑制される。ここで、点Cは、円すいころ15を内輪11の大鍔部18の先端を中心にして回転させた際に小鍔部18の側面と円すいころ15の小径側端面が接触する接触点である。換言すれば、接触点Cは、円すいころ15が回転した時の円すいころ15の小端面角部の軌跡を描いたスプライン曲線と小鍔部18の側面との交点である。
【0068】
詳細には、
図22に示す連結部材25により保持器セグメント20を連結した状態で、
図21に示す内輪11の小鍔部18の径をM、小鍔部18が内輪11の中心軸AX1に対して直交する直線に対する角度をL、小鍔部18の先端の面取り幅をK、接触点Cから中心軸AX1までの距離をy3としたときに以下の式(2)を満す。
(M/2)-K・cosL>y3 ・・・(2)
【0069】
図23に示す円すいころ軸受1の組立完了後に締結部材42(
図19)を緩めることで、連結部材25と脱落防止部材32(
図19)を取り外すことができる。円すいころ軸受1の組立後は、連結部材25と脱落防止部材32(
図19)を取り外しても、各セグメント20がばらけることはない。
【0070】
このように、本実施形態によれば、
図19に示す連結部材25および脱落防止部材32が着脱可能であるので、連結部材25および脱落防止部材32で内輪アッシAsを一体としつつも、軸受組み込み後に連結部材25および脱落防止部材32を取り外すことができる。また、
図4に示す保持器17は第1および第2案内爪24a,24bにより、運転時に円すいころ15だけで案内されるので、ころ案内を実現できる。
【0071】
<第2実施形態>
つぎに、本発明の第2実施形態を説明する。以下の説明において、第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付し、詳細な説明を省略することがある。
【0072】
第2実施形態に係る円すいころ軸受1は、
図24に示すように、内輪11と、その外周に同芯状に配置される外輪12と、内輪11及び外輪12の間に配置される複数の円すいころ15と、円すいころ15を一定間隔に保持するポケット16を有する保持器17とを備える。
【0073】
外輪12は、内周に各円すいころ15が転動する軌道面14を有する。
【0074】
内輪11は、外周に各円すいころ15が転動する軌道面13と、この軌道面13を挟む軸方向の両側に円すいころ15の端面が接触する大鍔部19と小鍔部18とを有する。
【0075】
風力発電の主軸等の支持に用いられる大型の円すいころ軸受1の場合、円すいころ15の平均径は40mm以上、軸受の外径は1m以上である。
【0076】
保持器17は、
図25に示すように、複数のセグメント20からなるセグメント保持器である。
【0077】
セグメント20は、
図25、
図26および
図27に示すように、所定間隔離して対向させた一対の小径側弧状部21及び大径側弧状部22と、この小径側弧状部21及び大径側弧状部22の間に架設した複数の柱部23とを有し、隣り合う2つの柱部23と小径側弧状部21と大径側弧状部22とによって囲まれる空間を、円すいころ15を収容するポケット16にしている。
【0078】
円すいころ15を収容するポケット16は、一つのセグメント20に周方向に3個以上設けられている。この実施形態では、柱部23を1つのセグメント20に6つ設け、隣り合う柱部23間に円すいころ15を収納する5つのポケット16を設けている。
【0079】
この5つのポケット16のうち、周方向の端部以外に位置するポケット16、この実施形態では、中央部の3個のポケット16の対向する柱部23の外径側に、円すいころ15の外径側への抜け出しを防止する案内爪24を設け、
図27に示すように、円すいころ15をセグメント20の内径側からポケット16内に挿入可能としている。
【0080】
周方向の端部に位置するポケット16は、対向する柱部23の内径側に案内爪24を設けて円すいころ15を外径側からポケット内に挿入可能とし、両端のポケット16に収容された円すいころ15の外径側への脱落を、
図26および
図27のように、セグメント20の両端に位置する柱部23の外径面に沿って設けた脱落防止部材32によって防止している。脱落防止部材32は、小径側弧状部21及び大径側弧状部22の周方向両端側の外径面に設けた脱落防止部材固定部33に対して内輪11の大端面側から抜き差し可能になっている。
【0081】
円すいころ15を収容するポケット16のうち、周方向の端部に位置するポケット16には、柱部23の内径側に案内爪24を設けているので、この端部のポケット16に収容された円すいころ15によって、保持器17が転動体案内になる。
【0082】
図24および
図26のように、前記脱落防止部材32の内輪11の大端面側の端部には、脱落防止部材32を小径側弧状部21及び大径側弧状部22の両端側外径面に設けた脱落防止部材固定部33に対し内輪11の大端面側から差し込んだ状態で、内輪11の大端面に係合する内輪係合部34を備えている。
【0083】
前記脱落防止部材32の円すいころ15と接する面は、R面に形成されている。
【0084】
前記小径側弧状部21及び大径側弧状部22の両端側外径面に設ける脱落防止部材固定部33は、
図26および
図27に示すような、脱落防止部材32が挿通される穴を設けたもの以外に、
図28に示すような、隣り合うセグメント20に向かって互いに開口する溝形形状に形成したものでもよい。脱落防止部材固定部33を
図28に示すような互いに開口する溝形形状に形成した場合、この隣り合うセグメント20の対向する溝形形状の脱落防止部材固定部33に対して共通する一本の脱落防止部材32(
図26)を挿通し、この共通する一つの脱落防止部材32(
図26)によって、隣り合うセグメント20の両端のポケット16に収容された円すいころ15(
図24)の外径側への脱落を防止することができるので、部品点数の削減になる。
【0085】
図26のように、セグメント20は、小径側弧状部21と大径側弧状部22の端面部同士が突き合わされた状態で環状に配置される。
【0086】
セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側には、環状に配置した各セグメント20の大径側に配置される連結部材25(
図24)の係合部27を有する突出部26が軸方向に突出するように設けられている。セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側にある突出部26は、隣接するセグメント20間の突出部26同士の接触を避けるように設けることが好ましい。
【0087】
前記脱落防止部材32の内輪の大端面に係合する構造部34にも、大径側の側面に、環状に配置した各セグメント20の大径側に巻き回される連結部材25(
図24)が係合する溝形状の案内部35を設けている。
【0088】
セグメント20の小径側弧状部21の小径側側面には、小径側に突出するウィング部28が設けられ、環状に配置した各セグメント20の大径側を連結部材25(
図24)で結束する際に、
図31に示すように、環状に配置した各セグメント20の小径側突出部に環状治具31を嵌め、連結部材25の締め付けによるセグメント20の小径側の広がりを抑制している。
【0089】
前記環状治具31は、内輪11の小径側の端面に当接するリング部31aと、このリング部31aの軸方向の端部から外径側に向かって突設された係合部31bとからなり、リング部31aを内輪11の小径側の端面に当接させた状態で、係合部31bを前記セグメント20の小径側突出部28に嵌めるようにしている。
【0090】
各セグメント20の大径側に巻き回される連結部材25の端部は、ターンバックルなどの締結部材42(
図19)によって結束される。締結部材42(
図19)がターンバックルで構成される場合は、雌ねじ部を有する胴部を有し、このターンバックルの胴部に連結部材25の端部に設けた雄ねじ部をねじ込むことにより、連結部材25の端部相互を連結することができる。ターンバックルの胴部の回転により、連結部材25に張力を与えることができ、締め付け方向と逆方向に胴部を回転させることにより、連結部材25の両端の結束を解除することができる。
【0091】
連結部材25としては、ワイヤまたはベルトを使用することができる。連結部材25として、ワイヤを使用する場合、締結部材42(
図19)としては、着脱可能なフックあるいはターンバックルを使用することができる。ターンバックルは、着脱可能であり、締め付け力が緩まず、また、締め付け力が調整可能であるため、最も好ましい。連結部材25として、ベルトを使用する場合、締結部材42(
図19)としては、着脱可能なバックルを使用すると、締め付け力が緩まないので、好ましい。
【0092】
セグメント20は、樹脂製または鋼製である。セグメント20を形成する樹脂としては、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンを使用することができる。
【0093】
第2実施形態のセグメント20を使用した円すいころ軸受1の組立手順は、
図13~23を用いて説明した第1実施形態と同じであるから、説明を省略する。
【0094】
第2実施形態の円すいころ軸受1も、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0095】
<第3実施形態>
第2実施形態では、小径側弧状部21の小径側側面に、小径側に突き出す小径側突出部28が設けられ、環状に配置した各セグメント20の大径側を連結部材25で結束する際に、環状に配置した各セグメント20の小径側突出部28にL字形の環状治具31が嵌合されていた。
図32に示す第3実施形態では、環状治具31に代えて、小径側弧状部21の小径側側面に小径側係合部36が設けられ、この小径側係合部36に、環状に配置した各セグメントの小径側に巻き回される小径側連結部材37が係合されている。この小径側連結部材37の端部が締結部または締結部材(図示省略)により着脱可能に結束することで、連結部材25の締め付けによるセグメント20の小径側の広がりを抑制している。
【0096】
<第4実施形態>
第2および第3実施形態では、脱落防止部材32における内輪11の大端面11aに係合する内輪係合部34に、連結部材25が係合する溝形状の案内部35が設けているが、
図33に示す第4実施形態のように、この案内部35の形状を、連結部材25が通過する孔形状にすることもできる。
【0097】
<第5実施形態:
図34~
図38>
図34~
図36のように、各セグメント20は、各ポケット16において隣り合うポケット16の案内爪と逆方向に案内爪が延びるようにしてもよい。詳細には、
図36のように、周方向両端のポケット16,16および周方向中間に位置するポケット16は、柱部23から外径側に延びる第2案内爪24bを有する。周方向両端および周方向中間のポケット以外の2つのポケット16,16は、柱部23から内径側に延びる第1案内爪24aを有する。
【0098】
柱部23から内径側に延びる第1案内爪24aを有するポケット16,16では、円すいころ15はセグメント20の外径側から挿入される。柱部23から外径側に延びる第2案内爪24bを有する各ポケット16では、円すいころ15はセグメント20の内径側から挿入される。第2案内爪24bを有する各ポケット16では、第2案内爪24bにより円すいころ15が外径側へ抜け出さない。
【0099】
図35および
図37のように、脱落防止部材32は、第1案内爪24aを有する2つのポケット16,16に収容された円すいころ15の外径側への脱落を防止する。
図37および
図38のように、脱落防止部材32は、両端のポケット16,16の中央側の第2案内爪の外径面に沿って内輪大端面側から抜き差し可能になっている。
【0100】
脱落防止部材32は、第1実施形態の構造に加えて、セグメント20の大径側突出部26の端面に係合する第2のセグメント係合部32dを有する。
図35および
図38のように、脱落防止部材32の周方向の移動は、円すいころ15、両端のポケット16,16の中央側の第2案内爪、および第2のセグメント係合部32dに係合する大径側突出部26によって制限される。これにより脱落防止部材案内部を省くことができ、他の実施形態と比較して、保持器セグメント20の軽量化、円すいころ軸受の潤滑性の向上を図ることが可能である。
【0101】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0102】
1 円すいころ軸受
11 内輪
12 外輪
15 円すいころ
16 ポケット
17 保持器
20 保持器セグメント(セグメント)
21 小径側弧状部
22 大径側弧状部
23 柱部
24a 第1案内爪
24b 第2案内爪
25 連結部材
26 大径側突出部
27 係合部
28 小径側突出部
31 環状治具
32 脱落防止部材
33 脱落防止部材案内部
34 内輪係合部
35 案内部(挿通孔、係合溝)
36 小径側係合部
37 小径側連結部材