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特開2024-74257積層シートの製造方法、及び積層シートの製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074257
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】積層シートの製造方法、及び積層シートの製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 59/04 20060101AFI20240523BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20240523BHJP
   B29C 51/10 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
B29C59/04 Z
B29C51/14
B29C51/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023190178
(22)【出願日】2023-11-07
(31)【優先権主張番号】P 2022185069
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】516351991
【氏名又は名称】ミドリオートレザー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】関野 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸人
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】金井 百合
(72)【発明者】
【氏名】湯川 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】林 健一
【テーマコード(参考)】
4F208
4F209
【Fターム(参考)】
4F208AA15
4F208AA42
4F208AC03
4F208AD17
4F208AD20
4F208AF01
4F208AG02
4F208AG03
4F208AG05
4F208AG20
4F208AJ06
4F208AR12
4F208MA01
4F208MB01
4F208MC01
4F208MG05
4F208MH06
4F208MK11
4F209AA15
4F209AA42B
4F209AD17
4F209AD20
4F209AF01
4F209AG02
4F209AG03
4F209AG05
4F209AG20
4F209AJ06
4F209AM28
4F209PA03
4F209PB02
4F209PG05
4F209PG06
4F209PH06
4F209PN03
4F209PN04
4F209PN06
4F209PN07
4F209PQ02
(57)【要約】
【課題】合成樹脂シートの裏面にクッション材が貼り付けられた積層シート材に微細な凹凸形状を含む凹凸形状パターンを成形型に忠実に付けることができる積層シートの製造方法を提供する。
【解決手段】合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造方法が、前記合成樹脂シートの裏側に前記クッション材を貼り付けて、積層シート材を作製する準備工程と、前記積層シート材を軟化させる軟化工程と、前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形工程と、を含む。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造方法であって、
前記合成樹脂シートの裏側に前記クッション材を貼り付けて、積層シート材を作製する準備工程と、
前記積層シート材を軟化させる軟化工程と、
前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形工程と、を含む、積層シートの製造方法。
【請求項2】
前記準備工程を、フレームラミネート加工によって行う、請求項1に記載の積層シートの製造方法。
【請求項3】
前記合成樹脂シートが、ポリ塩化ビニルを含む表皮層と、当該表皮層の表側に形成された表面処理層とを含む合成皮革である、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項4】
前記合成樹脂シートが、前記表皮層の裏側に基布層をさらに備える、請求項3に記載の積層シートの製造方法。
【請求項5】
前記成形工程を、前記成形型を冷却しながら行う、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項6】
前記軟化工程が、前記積層シート材の加熱温度を段階的に又は漸次上昇させることを含む、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項7】
前記成形型が多孔質セラミックによって形成されている、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項8】
前記クッション材が、ポリウレタンを含有する合成樹脂発泡体を含む、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項9】
前記積層シートが有する前記表側の凹凸には、
表側に盛り上がる隆起部と、前記隆起部間の溝と、を有する凹凸と、
前記溝の底部に当該溝に沿って延在する線状の微細凹凸と、が含まれる、請求項1又は2に記載の積層シートの製造方法。
【請求項10】
前記積層シートの裏側にも凹凸を有し、
前記裏側の凹凸には、前記隆起部に対応する位置における裏側から表側への凹みが含まれる、請求項9に記載の積層シートの製造方法。
【請求項11】
前記隆起部の高さが、3mm以上8mm以下である、請求項9に記載の積層シートの製造方法。
【請求項12】
前記微細凹凸に含まれる凸部の高さが、0.4mm以上1.2mm以下である、請求項9に記載の積層シートの製造方法。
【請求項13】
合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造装置であって、
合成樹脂シートの裏側にクッション材の表側を貼り付けて、積層シート材を作製する準備部と、
前記積層シート材を加熱して軟化させる軟化部と、
前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形部と、を含む、積層シートの製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層シートの製造方法、及び積層シートの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表地の裏面に合成樹脂発泡体を有するクッション材が貼り付けられた積層シート材を熱プレス加工し、積層シート材の表面に凹凸形状を付ける積層シートの製造方法が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
また、表面に凹凸形状が付されてなる積層シートの製造方法として、真空吸紋機(真空吸引機)を利用した方法も知られている(特許文献3及び特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-326598号公報
【特許文献2】特開2019-142231号公報
【特許文献3】中国特許出願公開第106192432号明細書
【特許文献4】中国特許出願公開第103114408号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1、2に記載されているような積層シートの製造方法では、熱プレス加工等によって積層シート材に凹凸形状を付けても、得ようとする凹凸形状によっては、積層シート材の表面が成形型の面に沿うことができず、成形型に忠実に対応した形状を得ることが難しい場合があった。例えば、凹凸形状の輪郭が、成形型に対応した所望の輪郭に比べてダレて(なだらかになって)しまい、シャープなエッジを得ることが難しかった。
【0006】
また、近年、積層シートの表面に付される凹凸形状のパターンとして、より複雑なものが求められており、その一例として、キルティング加工を模したパターン(キルティングパターンともいう)が挙げられる。キルティングパターンは、例えば、隆起部と当該隆起部間の溝とを含む比較的大きな凹凸形状と、当該比較的大きな凹凸形状における溝に形成された、縫い線(縫い目)を模した微細凹凸形状とを混在して含む。このような複雑な凹凸形状のパターンも、成形型に忠実に形成することが求められている。
【0007】
特許文献3、4に記載されている真空吸引を利用した加工法(真空エンボス法)は、表地のごく表面に凹凸を形成することに適した方法である。そのため、例えば、上記のキルティングパターンにおける微細凹凸形状(縫い線を模した形状)等は良好に形成できる。しかしながら、キルティングパターンにおける比較的大きな凹凸形状は、真空エンボス法を利用しただけでは所望通りに形成できない場合が多かった。例えば、真空エンボス法により表地(合成樹脂シート)を加工して凹凸形状を形成し、その後でクッション材を裏側に貼り付けたとしても、表地の凹凸形状にクッション材が追随できず、ふっくらと隆起しているべき隆起部に意図せぬ凹み(潰れ)が生じてしまうことがあった(図13)。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、合成樹脂シートの裏面にクッション材が貼り付けられた積層シート材の表面に、微細な凹凸形状を含む凹凸形状パターンを成形型に忠実に付けることができる積層シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造方法であって、前記合成樹脂シートの裏側に前記クッション材を貼り付けて、積層シート材を作製する準備工程と、前記積層シート材を軟化させる軟化工程と、前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
これにより、本発明の積層シートの製造方法は、合成樹脂シートの裏面にクッション材が貼り付けられた積層シート材の表面に、微細な凹凸形状を含む凹凸形状パターンを成形型に忠実に付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態による製造方法により製造される積層シートの写真である。
図2図2(a)は図1に示す積層シートを表側から見た平面図であり、図2(b)は図2(a)の部分IIIの拡大図である。
図3図1のI-I線断面図である。
図4図1のII-II線断面図である。
図5】積層シートの変形例の、図3に対応する断面図である。
図6】隆起部の高さが比較的大きい例の、図3に対応する断面図である。
図7】一実施形態による製造方法における準備工程を示す説明図である。
図8】準備工程にて作製された積層シート材を示す断面図である。
図9】一実施形態による製造方法における軟化工程、成形工程、硬化工程を示す説明図である。
図10】成形工程にて使用される真空吸引ロール機を模式的に示す断面図である。
図11】硬化工程にて使用される冷却ローラを模式的に示す断面図である。
図12】従来技術による製造方法を示す説明図である。
図13】従来技術による製造方法を示す説明図である。
図14】従来技術による製造方法により製造された積層シートであって、意図せぬ凹みが生じた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態による積層シートの製造方法を、図面に基づいて以下のように説明する。なお、以下の説明では、積層シート10の使用時に露出する側を「表側」とし、各部材の表側の面を「表面」とし、積層シートの使用時に露出しない側を「裏側」とし、各部材の裏側の面を「表面」とする。
される。
【0013】
<積層シート>
一実施形態によって得られる積層シートは、合成樹脂シートにシート状のクッション材が貼り付けられた積層シート材から形成される。また積層シートは、積層シート材の表面に、所定の凹凸形状(パターン)が付けられたものである。積層シートは、例えば、自動車、鉄道車両、航空機の内装部品(座席、インストルメントパネル、ドアトリム、天井等)用の表皮材として好適に用いられる。
【0014】
図1に、積層シートの一例を表側から撮影した写真を示す。図2に、図1中の部分IIIの上面拡大写真を模式的に描画した図を示す。また、図3に、図2におけるI-I線断面の模式図を示し、図4に、図1におけるII-II線断面の模式図を示す。
【0015】
図1図4に示すように、本実施形態による積層シート10は、合成樹脂シート20とクッション材30とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有するシートである。より具体的には、図3及び図4に示すように、積層シート10は、合成樹脂シート20の裏側にシート状のクッション材30が貼り付けられてなる積層シート材11によって形成されている。本発明のクッション材30は、合成樹脂発泡体31と裏基布層32とを含むものであってもよく、裏基布層32を用いずに合成樹脂発泡体31のみから形成されていてもよい。当該積層シート材11における合成樹脂シート20の全体の厚さは1mm以上5mm以下であってよく、クッション材30を構成する合成樹脂発泡体31の厚さは2mm以上10mm以下であり、好ましくは3mm以上8mm以下である。
【0016】
図3及び図4に示すように、合成樹脂シート20は、基布層21と、表皮層24と、表面処理層25とを、裏側から表側にこの順で積層して含むシートであってよい。本実施形態で用いられる合成樹脂シート20は、好ましくは合成皮革であってよい。なお、本明細書において、「合成皮革」とは、布地の表面に合成樹脂を設け、質感を天然皮革に似せた人工素材である。
【0017】
基布層21は、繊維を、不織布、織布、編布等の形状にした布地(繊維集合体)によって構成されていてよい。これらのうち、安価に入手可能であることから織布又は編布を用いることが好ましい。また、基布層21として、布地にポリウレタン系樹脂等の合成樹脂を含浸させて多孔質構造を有するシート材を用いてもよい。基布層21は、その表側に形成された層を支持し、補強する機能を有する。基布層21が設けられていることで、合成樹脂シート20の強度及び形状安定性を高めることができる。基布層21は、表皮層24の裏面に接着剤によって接着されていてよい。すなわち、積層シート材11においては、基布層21と表皮層24との間に接着剤層が形成されていてもよい。
【0018】
なお、本実施形態においては、合成樹脂シート20は必ずしも基布層21を有してなくともよい。例えば、図5に示す変形例のように、合成樹脂シート20が、表皮層24と表面処理層25とからなり、クッション材30が表皮層24の裏側に貼り付けられていてもよい。基布層21を設けない構成では、積層シート10が高い変形性を得られるので、大きなフレキシブルな変形が求められる用途において好ましい。
【0019】
表皮層24は、合成樹脂を含む層であってよい。表皮層24に含まれる合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂が挙げられる。これらのうち、耐久性や加飾加工が容易であるという理由から、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂が好ましい。表皮層24は、必要に応じて、可塑剤、安定剤、充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。表皮層24の厚さは、目的に応じて適宜選択することができるが、100μm以上1000μm以下が好ましく、200μm以上800μm以下がより好ましく、250μm以上450μm以下がさらに好ましい。
【0020】
表面処理層25は、上記の表皮層24を構成する樹脂とは異なる合成樹脂を含む層であり、合成樹脂含有液を塗布することによって形成できる。表面処理層25の厚さは、目的に応じて適宜選択することができるが、5μm以上20μm以下が好ましく、10μm以上20μm以下がより好ましい。表面処理層25を形成することによって、合成樹脂シート20の表面に、独特の風合いや手触り、特に合成樹脂シート20が合成皮革とする場合には、天然皮革様の風合い(光沢等)や手触りをもたらすことができる。上記合成樹脂としては、水性ポリウレタン(PU)樹脂が好ましく、ポリウレタン樹脂としては、ポリカーボネートポリウレタン、ポリエステルポリウレタン、ポリエーテルポリウレタン等が挙げられる。表面処理層25の形成に用いられる合成樹脂含有液は、合成樹脂シート20に求められる風合いや手触り、表面の摩擦特性等に応じて調合される。表面処理層25は、必要に応じて架橋剤、滑剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0021】
なお、表面処理層25は、図3等に示すように一層から構成されていてもよいし、複数の層、例えば二層から構成されていてもよい。表面処理層25が複数の層から構成されている場合、複数の層を構成する材料は同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、表面処理層25は、着色剤を含有してもよい。
【0022】
さらに、基布層21と表皮層24との間には、中間層がさらに設けられていてもよい。中間層は、基布層21の表側に接着剤層を介して接着することができる。中間層は、発泡体又は非発泡体によって構成されていてよいが、例えばポリ塩化ビニルを含有する合成樹脂発泡体によって構成されていてよい。中間層は、必要に応じて、可塑剤、安定剤、充填剤、発泡剤、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。また、中間層の材質及び厚さ等は、合成樹脂シート20の風合いや用途等を考慮して適宜設定できる。
【0023】
クッション材30は、図3及び図4に示すように、シート状の合成樹脂発泡体31と、合成樹脂発泡体31の裏側に積層された裏基布層32と、を有している。
【0024】
合成樹脂発泡体31を構成する材料は、特に限定されないが、発泡プラスチック、好ましくはポリウレタンを含有する発泡プラスチックであってよい。より具体的には、合成樹脂発泡体31として、気泡が連通して比較的柔らかく且つ復元性のある、いわゆる軟質ウレタンフォーム、脱膜ウレタンフォーム等を用いることができる。合成樹脂発泡体31は、発泡ポリウレタンを主剤として、触媒、発泡剤等の添加剤と一緒に混合し、泡化反応及び樹脂化反応を行わせて得られる発泡体によって構成される。ポリウレタンを含有する合成樹脂発泡体31は、作製時の条件を変えることで硬さの調整を容易に行うことができる。そのため、合成樹脂シート20の素材や硬度、積層シート10の用途や仕様の要求等に応じて、クッション材30の硬さを適切に調整して、表面11aに凹凸形状12を付けやすい積層シート材11を構成することが可能である。
【0025】
合成樹脂発泡体31の密度は、0.0200g/cm以上0.050g/cm以下の範囲であることが好ましい。さらに、合成樹脂発泡体31の厚さは、5.0mm以上が好ましく、5.0mm以上20.0mm以下であってよい。合成樹脂発泡体31の厚さが5.0mm以上であることで、積層シート10は明確な凹凸形状12(後に詳述)を得ることができる。本実施形態における合成樹脂発泡体31としては、密度0.030g/cm、厚さ5.0mmの発泡ポリウレタンシートが用いられる。なお、本明細書において「密度」は、4℃における値である。
【0026】
裏基布層32は、上述の基布層21と同様の材料から構成されていてよい。すなわち、繊維を、不織布、織布、編布等の形状にした布地(繊維集合体)によって構成されていてよい。なお、裏基布層32は必ずしも設けられなくてもよいが、裏基布層32によって、クッション材30、ひいては積層シート10の強度及び形状安定性を高めることができる。裏基布の厚さとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300μm以上1,300μm以下が好ましく、400μm以上700μm以下が最も好ましい。
【0027】
本実施形態による積層シートの製造方法によって、積層シート材11の表側に凹凸が形成され、これにより、所定の凹凸形状(凹凸パターン)12付きの積層シート10が得られる。積層シート10に付される凹凸形状は、特に限定されないが、厚さ方向に直交する少なくとも一方向に沿って見て、複数の凸部12aが形成され、凸部12a、12aの間が凹部12bになっているパターンであってよい。また、凹凸形状12としては、厚さ方向に直交する任意の方向に沿って見て、凹部12bの幅が凸部12aの幅よりも小さいものが好ましい。
【0028】
凹凸形状12は、図1図4に示す例では、キルティング加工を模したパターン(キルティングパターン)となっている。キルティング加工は、一般に、2枚のシート間にクッション性の層を挟んでなる積層体に縫製を施す(刺し縫いする)加工である。よって、キルティング加工された物品の表面では、糸により縫われた線状部分(縫い線若しくは糸目)で溝状に窪み、且つ縫い線間の部分が隆起して、凹凸形状が形成されている。積層シート10におけるキルティングパターンは、上記キルティング加工により得られる凹凸形状を模した凹凸パターン、別言すると、上記キルティング加工により得られる凹凸形状が積層シート材11にて縫製なしで再現された凹凸パターンであってよい。
【0029】
図1図4に示す例では、凹凸形状12は、比較的大きな凹凸形状(以下、大凹凸形状ともいう)G12を含む。この大凹凸形状G12は、表側に盛り上がる複数の比較的大きな隆起部G12aが面方向に並んで形成され、且つ隆起部G12a同士の間が溝(谷部)G12bとなっている形状である。溝G12bは、平面視で線状に延在する窪みと言える。さらに、大凹凸形状G12の溝G12bの底部には、より微細な凹凸(以下、微細凹凸形状ともいう)M12が形成されている。微細凹凸形状M12は、図2及び図4に示すように、細長の溝G12bの延在方向に沿って、凸部M12aと凹部M12bとが交互に配置されてなる形状である。積層シート10に形成された凹凸形状をキルティングパターンとする場合、溝G12bは、キルティング製品における刺し縫いによって形成された窪みを模した部分、微細凹凸形状M12は、刺し縫いにより形成された縫い目模様を模した部分となる。凸部M12aは糸が表面に露出した箇所を、凹部M12bは糸が内部に差し込まれた箇所を、それぞれ模した部分となる。本実施形態の製造方法により得られる積層シート10においては、当該積層シート10の表側に形成された凹凸形状12が、上記のようなサイズの異なる大凹凸形状G12と微細凹凸形状M12とを含む。そして、本実施形態によれば、このようにやや複雑な凹凸形状であっても、1つのプロセスで一気に形成できる。
【0030】
なお、大凹凸形状G12における隆起部G12aと微細凹凸形状M12における凸部M12aとを合わせて単に凸部12aと呼び、大凹凸形状G12における溝G12bと微細凹凸形状M12における凹部M12bとを合わせて単に凹部12bと呼ぶ場合がある。
【0031】
平面視で、大凹凸形状G12における溝G12bの幅W(図2)は、好ましくは0.5mm以上3mm以下、より好ましくは1.5mm以上2mm以下であってよい。また、溝G12bは、平面視で直線状であっても曲線状であってもよく、屈曲又は湾曲していてもよい。また、隆起部G12aは、1つ又は複数の溝G12bによって囲まれた又は挟まれた領域であるので、様々な形状を有し得る。例えば、1つの隆起部G12aの平面視形状(溝G12bを外輪郭とする平面視形状)は、図1に示すように略正方形であってよいし、正方形以外の四角形、四角形以外の多角形、又は円形、楕円形等であってもよい。また、複数の隆起部G12aが同じ平面視形状を有していてもよいし、互いに異なる平面視形状を有していてもよい。
【0032】
隆起部G12aの高さh1(図3)は、1mm以上10mm以下であってよく、好ましくは3mm以上8mm以下である。なお、隆起部G12aの高さh1は、溝G12bに微細凹凸形状M12が形成されている場合には、微細凹凸形状M12のうちの凹部M12bの表面から隆起部G12aの頂面までの高さとすることができる。なお、隆起部G12aの高さh1が、合成樹脂発泡体31の厚さに対して比較的大きい場合、例えば合成樹脂発泡体の厚さと同等であるかそれより大きい場合、積層シート10の表側における隆起部G12aの隆起に追随して、積層シート10の裏側においても凹凸が形成され得る。すなわち、図6に示すように、裏基布層32が、隆起部G12aに対応する位置で裏側から表側へ凹むように変形し得る。積層シート10の裏側にも凹凸が形成されていても、クッション材30が十分に厚いため積層シート10の弾力性には影響はない。また、積層シート10の裏側に凹凸を形成するようにした場合、他の押型成型では得られない大きな隆起部を形成でき、そのような隆起部の形状の経時的な安定性も高い。
【0033】
微細凹凸形状M12は、溝G12bの底部に形成されていてよい。凹凸形状12がキルティングパターンである場合、微細凹凸形状M12は、縫い糸に見えるパターン(糸目を再現したパターン)となる。凸部M12aは、縫い糸が表面に露出した部分に相当する。そして、凸部M12aの表面には、例えば図2に示すような、縫い糸の撚りを模した凹凸がさらに設けられていてもよい。なお、図2に例示する微細凹凸形状M12にて再現されている縫い糸の撚り模様(図4には図示せず)は、2本の糸が撚られてなる模様であるが、縫い糸の撚りを模した凹凸は、3本以上の糸が撚られてなる模様が再現されたものであってもよい。
【0034】
微細凹凸形状M12が縫い糸を再現したパターンである場合、微細凹凸形状M12に含まれる凸部M12aの幅wは、溝G12bの幅W以下、又は幅Wよりも小さくなっていてよい。凸部M12aの幅w(図2)は、0.4mm以上1.2mm以下であってよい。また、凸部M12aの高さh2(図3)は、0.4mm以上1.2mm以下であってよい。なお、凸部M12aの高さh2は、再現された縫い糸の太さに相当する寸法とも言える。
【0035】
なお、合成樹脂シート20を合成皮革とする場合、表皮層24の表面には、天然皮革の表面の不規則な皺(シボ)を模した地模様も形成されていてよい。地模様も合成樹脂シート20の表面に形成された凹凸であり、本明細書における微細凹凸M12に含まれる。例えば、シボを模した地模様の凹凸の高低差は、30μm以上1mm以下程度であり、上述の大凹凸形状G12の凹凸の高低差(隆起部G12aの高さh1)に比べて小さい。また、縫い糸の糸目を再現したパターンである微細凹凸形状M12の凹凸の高低差(凸部M12aの高さh2)に比べて小さい。
【0036】
<積層シートの製造方法>
本実施形態による積層シートの製造方法は、合成樹脂シートの裏側に前記クッション材を貼り付けて、積層シート材を作製する準備工程(S10)と、積層シート材を軟化させる軟化工程(S20)と、積層シート材の表側から多孔質セラミックス製の成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形工程(S30)と、を含む。さらに、成形工程(S30)の後には、任意に硬化工程(S40)を有していてよい。以下、各工程について説明する。
【0037】
(1)準備工程(S10、図7参照)
準備工程(S10、貼り付け工程、若しくは積層シート材作製工程ともいう)では、まず、予め決められた素材からなる合成樹脂シート20と、シート状のクッション材30とを準備する。合成樹脂シート20及びクッション材30は、例えば、それぞれ所定幅の長尺帯状を有し、ロール状に巻回されていてよい。そして、合成樹脂シート20及びクッション材30を、バーナー101を備えた、例えば市販のフレームラミネート機100(積層シートを作製する準備部、図7)にセットする。
【0038】
次に、フレームラミネート機100を用いて、合成樹脂シート20の基布層21の裏面21bに、クッション材30の合成樹脂発泡体31の表面31aをフレームラミネート加工によって貼り付ける。これにより、図8に示す合成樹脂シート20とクッション材30とが一体化した積層シート材11を作成できる。図8に示すように、積層シート材11の表面11aは、合成樹脂シート20の表面(表面処理層25の表面)であり、積層シート材11の裏面11bは、クッション材30の裏面(裏基布層32の裏面)となる。そして、積層シート材11の表面11aは、平坦になっている。
【0039】
フレームラミネート加工は、クッション材30の合成樹脂発泡体31の表面31aをバーナー101等によって加熱して溶融し、他の基材である合成樹脂シート20と貼り合わせる加工法である。
【0040】
フレームラミネート加工において合成樹脂発泡体31の表側で溶融される部分の最表面からの深さは、2mm以下であってよい。合成樹脂発泡体31の表面31aのうち、平面視で、合成樹脂シート20が貼り付けられる領域(合成樹脂シート貼付領域ともいう)全体が溶融される。これにより、合成樹脂シート20とクッション材30との一体性が高まり、得られる積層シート10の品質(複雑な凹凸形状の再現性、柔軟性)が向上する。但し、原型製品若しくは成形型の凹凸形状、特に隆起部の再現が十分な可能であるならば、上記合成樹脂シート貼付領域は、必ずしも全体が溶融されていなくともよい。
【0041】
なお、準備工程(S10)における合成樹脂シート20とクッション材30との貼り合わせの方法としては、上述のフレームラミネート加工に限られず、接着剤を用いた方法を用いてもよい。接着剤を用いた方法には、合成樹脂シート20の裏面及びクッション材30の表面の少なくとも一方に流動性接着剤を塗布した後に両者を貼り合わせる方法、及び合成樹脂シート20とクッション材30との間にホットメルトシート等のシート状接着剤を間に配置した後に加熱してシート状接着剤を軟化又は溶融させることによって両者を貼り合わせる方法が含まれる。このように接着剤を別途設けて貼り合わせを行う場合、接着剤を適宜選択することで、合成樹脂シート20とクッション材30との強固な接着が可能になり、耐久性の高い積層シートを得ることができる。一方、上述のフレームラミネート加工は、異種材料である接着剤を介在させる必要がなく、接着剤の層が硬くなって積層シート材11の柔軟性が損なわれることを防止できるので、好ましい。
【0042】
また、他の方法として、発泡剤を含むポリウレタンエラストマーを加熱混練し、得られた樹脂組成物をカレンダー法によりシート化して未発泡樹脂シートを得て、次いで、加熱状態で合成樹脂シート20に貼り合わせ、200℃程度の高温で発泡剤を発泡させることにより合成樹脂シート20とクッション材30とが一体化した積層シート材11を作製することもできる。このように、本明細書における「クッション材」には、それ自体が高いクッション性を有するクッション材とともに、上記の未発泡樹脂シートのような加熱等の処理によって発泡するクッション材前駆体も含まれていてよい。
【0043】
更に別な方法としては、発泡ポリウレタンの接着面や基布の接着面をプラズマ処理などで軟化させて接着することもできる。
【0044】
(2)軟化工程(S20、図9参照)
軟化工程(S20)では、得られた積層シート材11を軟化して、後続の成形工程(S30)における凹凸形成を容易にする。積層シート材11の軟化は、積層シート材11を昇温させることによって行うことができる。その場合、積層シート11を直接的に昇温してもよいし、間接的に昇温させてもよい。例えば、準備工程(S10)にて積層シート材11をロール状に巻き取られた状態で得た場合には、積層シート材11を引き出し(繰り出し)、所定の温度に設定された加熱器(軟化部)102を通過させる。これにより、積層シート材11は、表面11a側から加熱され、少なくとも合成樹脂シート20の表皮層24及び表面処理層25が軟化する。つまり、積層シート材11のうち、加熱器102によって、少なくとも表皮層24まで表面11aが軟化される。そして、表面11aが軟化された積層シート材11は、巻き取られることなく連続して次工程へ送られる。
【0045】
ここで、加熱器102は、積層シート材11の搬送方向に沿って長い筐体102aと、筐体102a内に設置された複数(図示の実施形態では4機)のヒーター102b、102b、…と、を有している。筐体102aの長さは搬送方向で、例えば12mであり、筐体102aの長さに応じて、積層シート材11の加温長さが設定される。また、複数のヒーター102b、102b、…は、積層シート材11の搬送方向に沿って、それぞれ筐体102aの上部(例えば筐体102aの内側上面)に取り付けられ、これにより積層シート材11の表面11aを加熱できる。なお、ヒーター102b、102b、…は、積層シート材11の表面11aを加熱することができれば、筐体102aの下部(積層シート材11の裏面の側、例えば筐体102aの内側底面)に取り付けられてもよい。さらに、ヒーター102b、102b、…は、筐体102aの上部及び下部の双方に取り付けられ、積層シート材11の表裏を同時に加熱するものであってもよい。
【0046】
各ヒーター102bは、個別に温度設定が可能であり、筐体102aに設けられたシート搬入口102c側からシート搬出口102d側に向かって次第に設定温度が高くなるように設定できる。すなわち、本実施形態における軟化工程(S20)では、積層シート材11を加熱する温度が、積層シート材11の搬送方向に沿って次第に高くなるように設定されている。例えば、加熱温度は、段階的に又は漸次上昇するように設定できる。なお、各ヒーター102bの設定温度は、積層シート材11の表皮層24の軟化状態に応じて任意に設定される。当該設定温度は、一実施形態では、シート搬入口102c側からシート搬出口102dに向かって、順に120℃、140℃、150℃、180℃に設定できる。さらに、シート搬出口102dと、次工程である成形工程(S30)にて使用される真空吸引ロール機103との間には、保温用ヒーター102eが設置されている。保温用ヒーター102eは、積層シート材11が加熱器102のシート搬出口102dから搬出された後、積層シート材11の表面11aを加熱し、成形されるまでの間の積層シート材11の表面11aの温度低下を抑制する。なお、加熱器102が有するヒーター102b、102b、…は、120℃~200℃の温度範囲で用いられる。このようにして軟化された積層シート材11は、後続の真空吸引ロール機103へと搬送される。
【0047】
(3)成形工程(S30、図9及び図10参照)
成形工程(S30、凹凸付与工程ともいう)では、図9に示すように、軟化工程(S20)にて表皮層24を含む表面11aが軟化された積層シート材11を、表面11aを真空吸引ロール機(成形部)103に対向させ、その状態で積層シート材11の表側から真空吸引ロール機103によって真空吸引する。すなわち、真空吸引ロール機103は、多孔質材から構成されることで通気性を有する成形型105を介して表皮層24を含む積層シート材11の表面11aを真空吸引する。これにより、積層シート材11の表面11aには、真空成形によって、成形型105に対応した凹凸形状12が付けられる。
【0048】
真空吸引ロール機103は、図10に示すように、円筒状の支持ローラ104と、支持ローラ104の外側に設けられた円筒状の成形型105と、支持ローラ104と成形型105との間に配置された円筒状の中間ローラ106と、を有している。これらのローラは同軸に組み合わされ、その軸線が搬送方向に直交する方向に沿うように配置されている。
【0049】
支持ローラ104は、モータ(図示せず)から伝達される動力によって、所定の速度で回転可能である。支持ローラ104の周面には複数の吸引孔104aが貫通形成され、真空ポンプ(図示せず)によって吸引孔104aを介してローラ内部に空気を吸い込むことが可能である。
【0050】
成形型105は、所望の凹凸形状12が施された表皮材(例えば、キルティング加工を施した天然皮革製品)等を原型として形成され、外周面に凹凸形状12が反転した形状である凹凸105aが形成されている。図10では、凹凸105aの形状を簡略化して図示しているが、成形型105の外周面の凹凸105aは、積層シート材11の表面に形成されるすべての凹凸形状12に対応した形状となっている。積層シート材に形成したい凹凸形状が、比較的大きな凹凸形状と微細凹凸形状との組合せである場合には、成形型105の凹凸105aは、その組合せのパターンに対応した形状となっている。本実施形態における成形型105は、多孔質部材(多孔質材)、例えば多孔質セラミックによって形成され、外周面の全面にわたってほぼ均一な通気性を有している。セラミックは、金属よりも耐熱性及び硬度が高いため、成形型105の材料として好ましい。
【0051】
なお、多孔質部材(又は多孔質材)からなる成形型105は、例えば、粉体を原材料とした製造方法により作製され、原材料の選定、配合等により、気孔率、気孔径、気孔形状等を調整できる。例えば、成形型105は、平板状の原型を基に平板状のシリコーン製凹型を形成し、当該シリコーン製凹型を基に平板状のシリコーン製凸型を形成した後、当該シリコーン製凸型に、セラミックパウダーを所定の溶剤に溶かしたセラミック溶液を吹き付けてから、シリコーン製凸型ごと円筒状に丸めた状態で乾燥させることで作製できる。
【0052】
成形型105の、気孔率(開気孔率)は、好ましくは20%以上85%以下、より好ましくは30%以上60%以下であってよい。成形型の外周面の全面からの均等な吸引がより確実になり、クッション材が合成樹脂シートの変形に追随して変形できるとの効果を向上できる。なお、上記気孔率はアルキメデス法により測定できる。また、成形型105の平均気孔径は、好ましくは5μm以上55μm以下、より好ましくは5μm以上40μm以下であってよい。このような平均気孔径により、真空吸引の効率を向上できるとともに、成形型の強度も確保できる。なお、上記平均気孔径は水銀ポロシメータによって測定できる。
【0053】
図10に示すように、中間ローラ106は、支持ローラ104に接触する内管106aと、成形型105に接触する外管106bとを有し、内管106aと外管106bの間に空間が設けられた金属製のローラである。内管106a及び外管106bには、いずれも径方向に貫通する通気孔(図示せず)が形成されており、支持ローラ104に吸い込まれる空気が通過するようになっている。また、中間ローラ106には、内管106aと外管106bとの間に、冷却水が通る冷却管106cが配置されていてよい。冷却水は、冷却水供給装置(図示せず)から供給され、冷却管106cを通って循環する。なお、支持ローラ104の内側に第2冷却管を配置し、冷却管106cと第2冷却管に連結して、支持ローラ104の内側にも冷却水が循環するようにしてもよい。このように、成形型105は、冷却管106cを通る冷却水によって冷却される。なお、冷却水の温度は、15℃~20℃に設定されることが好ましい。
【0054】
積層シート材11は、表面11aが成形型105に対向する状態で搬送され、回転している成形型105に接触する。真空ポンプは空気を、支持ローラ104、中間ローラ106、及び成形型105を順に介して、支持ローラ104の内部へと吸引する。空気が吸引されることで、成形型105と、成形型105に接した積層シート材11の表面11aとの間が減圧状態若しくは真空状態になるので、積層シート材11の表面11aが成形型105の外周面に密着する。このため、軟化している表皮層24を含む積層シート材11の表面11aが成形型105に形成された凹凸105aに沿って変形し、積層シート材11の表側に凹凸形状12が付けられる。なお、支持ローラ104が回転することで積層シート材11は真空吸引されながら搬送される。また、支持ローラ104のさらなる回転によって積層シート材11が成形型105から離型する。
【0055】
上述のように、本実施形態における真空吸引ロール機103では、積層シート材11を真空吸引する間、冷却管106cに冷却水が循環され、成形型105が冷却水によって冷却される。つまり、真空吸引ロール機103は、成形型105を冷却しながら積層シート材11を真空吸引する。これにより、成形型105に密着した積層シート材11は、真空吸引されると同時に成形型105と熱交換により冷却される。積層シート材11は、80℃以下に冷却されることが好ましい。
【0056】
なお、図10に示す真空吸引ロール機103は、中空円筒状の成形型105を有しており、長尺帯状の積層シート材11に連続して凹凸形状12を付けることが可能である。しかしながら、成形型105の形状はこれに限定されず、例えば、平板状の成形型を有することもできる。その場合、長尺帯状の積層シート材11は、予め平板状の成形型に合わせて吸引可能な大きさに裁断することが好ましい。そして、裁断された所定の大きさの積層シート材11を、一枚ずつ断続的に真空成形する。
【0057】
(4)硬化工程(S40、図9及び図11参照)
硬化工程(S40)では、成形工程(S30)で昇温した、表面11aに凹凸形状12が付けられた積層シート材11の温度を低下させ、凹凸形状12を安定させる。硬化工程(S40)では、例えば積層シート材11を冷却する。より具体的には、成形工程(S30)を経た積層シート材11を複数(図9では3本)の冷却ローラ(硬化部)107、107、…に掛け、これらの複数の冷却ローラ107、107、…に順に接触させながら搬送しつつ冷却する。これにより、積層シート材11は硬化されて積層シート10となる。
【0058】
冷却ローラ107、107、…は、図9に示すように、積層シート材11の搬送方向に沿って設置されていてよい。凹凸形状12が付けられた積層シート材11は、複数の冷却ローラ107、107、…に表面11aと裏面11bが順に接するように搬送されることで、表面11a及び裏面11bがそれぞれ順に冷却される。なお、冷却ローラ107の設置数は、積層シート材11を構成する材料、成形工程までの装置の温度設定等に応じて設定することができる。また、積層シート材11の硬化完了時の状態等に応じて、稼働中に冷却ローラ107の設置数の増減、或いは積層シート材11が接触する冷却ローラ107の数の増減を調整可能な構造としてもよい。例えば、積層シート材11の表面の温度を測定すること等によって、積層シート材11が十分に硬化されないと判断された場合は、積層シート材11を冷却する冷却ローラ107の数を増加して硬化を促進することができる。また、積層シート材11が硬化されすぎると判断された場合には、積層シート材11を冷却する冷却ローラ107の数を低減して、積層シート材11の冷却を抑制し、積層シート材11の硬化しすぎを抑えることができる。
【0059】
なお、各冷却ローラ107は、図11に示すように、円筒状の支持ローラ107aと、支持ローラ107aの外側に設けられた冷却管107bと、支持ローラ107aと冷却管107bとの間に形成された冷媒通路107cと、を有している。支持ローラ107aは、モータ(図示せず)から伝達される動力によって、所定の速度で回転可能である。また、冷却管107bは、例えばステンレス等の金属管であり、当該冷却管107bの表面に、凹凸形状12が形成された積層シート材11が押し付けられる。この際、冷却管107bに対向するのは、積層シート材11の表面(凹凸形状12が形成された側)11aであっても裏面11bであってもよいが、積層シート材11の表面11aが冷却管107bに対向するようにすると、表面の冷却が促進され、凹凸形状12が迅速に安定化するため、好ましい。なお、冷却管107bの外周面は、鏡面加工が施されていてよい。冷媒通路107cには、冷却水供給装置(図示せず)から冷却水が供給される。
【0060】
このように冷却ローラ107において、冷却管107bを介して冷却水と積層シート材11との間で熱交換が行われ、積層シート材11が冷却される。冷却された積層シート材11は硬化して積層シート10となり、ロール状に巻き取られ、積層シート10の製造は完了する。
【0061】
なお、従来技術による積層シートの製造としては、予め合成樹脂シート20にクッション材30を貼り付けてなる積層シート材11の表面11aに、単に熱プレスによって凹凸形状12を付ける方法(以下、「第1従来技術による製造方法」という)がある。第1の従来技術による製造方法では、図12に示されるように、軟化した積層シート材11の表面11aに熱プレス用の成形型110が押し付けられることで、表面11aに凹凸形状12が付けられ、積層シート10’が得られる。
【0062】
しかしながら、第1従来技術による製造方法では、成形型110を押し付ける際、成形型110に形成された凹部110と積層シート材11との間には隙間Sが生じて空気が残ってしまうことがある。そのため、凹凸形状12の凸部12aの隅角部Kは、成形型110に密着することができない。その場合、隅角部Kがだれてしまい、成形型110の凹部110aの形状に忠実な形状を得ることが難しい。特に、成形型110の凹部110aの断面形状の輪郭が鋭い頂点を有する形状である場合には、積層シート材11の表面11aがそのような輪郭に沿うことができず、隅角部Kが、凹部110aの鋭い輪郭に沿ってシャープなエッジを得ることが難しい。また、第1従来技術による製造方法では、凹凸形状12のサイズ(幅等)が小さい場合、例えば細かい縫い目形状等の微細な凹凸形状を含む場合も、所望の凹凸形状を付けることが難しかった。このように、第1従来技術による製造方法では、成形型の凹凸に忠実に対応する凹凸形状12を付与することは困難であった。
【0063】
これに対し、本実施形態による積層シートの製造方法では、積層シート材11を表側から成形型を介して真空吸引する。このため、成形型の凹凸がサイズの小さなものであっても又は複雑な形状であっても、成形型と積層シート材11の表面11aとを隙間なく密着させることができるので、成形型に忠実に対応した凹凸形状12を得ることができる。例えば、凹凸形状12に含まれる凸部12aの高さが高い場合、凸部12aの断面形状の輪郭が鋭い頂点を有するような場合、又は凹凸のサイズが微細である場合であっても、所望の凹凸形状を得ることができる。
【0064】
また、別の従来技術として、予め合成樹脂シート20に対して真空成形によって凹凸形状12を付けた後、合成樹脂シート20の裏面(基布層21の裏面21b)に合成樹脂発泡体31を有するクッション材30を貼り付ける方法(以下、「第2従来技術による製造方法」という)がある。第2従来技術による製造方法では、図13に示すように、平坦なクッション材30の表面30aに、凹凸形状12が付けられた合成樹脂シート20を貼り付ける必要がある。
【0065】
しかしながら、クッション材30の表面30aに合成樹脂シート20を乗せた際、合成樹脂シート20に付けられた凹凸形状12の凸部12aの裏側は中空となり、隙間Sが生じる。このため、合成樹脂シート20とクッション材30とを接着するために、合成樹脂シート20をクッション材30に押し付ける必要が生じるが、その際、凸部12aが潰れてしまうことがある。そのため、第2従来技術による製造方法では、凹凸形状12が、所望される凹凸に比べて平たくなってしまう(凹凸の高さが低くなってしまう)ことがあった。
【0066】
これに対し、本実施形態による積層シートの製造方法では、合成樹脂シート20とクッション材30とを貼り合わせて一体化して積層シート材を作製した後に、凹凸形状を付与する。そのため、合成樹脂シート20とクッション材30とが一体的に同時に凹凸変形できる。よって、クッション材30が合成樹脂シート20の変形に追随して変形できるので、クッション材30の貼り付けのために合成樹脂シート20の厚さ方向に圧力を受け、合成樹脂シート20の凹凸形状が損なわれることを防止できる。高さの高い凸部を含む形状も成形型に忠実に形成することができる。
【実施例0067】
<積層シートの製造>
[実施例1]
まず、積層シートの製造に用いられる成形型を、次の方法により作成した。コロイダルシリカを20質量部、ガラスフリット80質量部、及びメチルセルロース5質量部からなる混合物に、水35質量部をさらに加えた混合物を、押出機で混練してスラリー状の混合物を得た。このスラリー状の混合物を、成形型の形状に成形して焼成して、多孔質セラミックス成形型を製造した。成形型は、図1図4を参照して説明したような表面の凹凸形状を有する本革製品を原型(ポジ)として、シリコーン樹脂に忠実に転写し(ネガ)、更にエポキシ樹脂、PVC等に転写を繰り返し、多孔質セラミックスに転写することで、多孔質セラミックス成形型(ネガ)を作製した。
【0068】
本革製品の原型は、縫い糸により縦方向及び横方向それぞれ一定のピッチで直線状に縫われ、縫い線同士の間が隆起して隆起部が形成されたパターンであった。多孔質セラミックス成形型における、縫い糸を転写した部位は、5.0cmのピッチ(図3におけるPに相当)で、原型の隆起部高さに対応する寸法(図3におけるh1に相当)は3.0mmであり、原型の縫い糸の太さに対応する寸法(図3におけるh2に相当)は0.4mmであった。
【0069】
一方、合成樹脂シートとして厚さ1mmのPVC製シートを準備した。また、クッション材として、厚さ5.0mmの発泡ウレタンフォームの裏側に厚さ500μmの基布(裏基布層)を貼り合わせたものを準備した。これら合成樹脂シートとクッション材とをフレームラミネート加工で貼り合わせた。PVC製シートの表面は、膜厚20μmのポリウレタンで表面処理されていた。上記フレームラミネート加工では、発泡ウレタンフォームの、PVC製シートが貼り付けられる領域全面を、バーナーを用いて溶融して、PVC製シートを貼り合わせ、積層シート材を得た。
【0070】
得られた積層シート材を、図9に示すような加熱器を用いて加熱することにより軟化し、さらに、上述の成形型が装着された図9及び図10に示すような真空吸引ロール機103を用いて、真空成型した。さらに、図9及び図11に示すような冷却ローラを用いて冷却した。これにより、表面に凹凸形状が形成された積層シートを得た。
【0071】
[実施例2~実施例6]
原型を変更し、成形型のサイズを変更した(表1)こと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。
【0072】
[比較例1]
積層シートの製造工程の順序を変更したこと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。具体的には、比較例1では、実施例1で作製したものと同様の成形型を用いたが、積層シートの製造において、まずPVC製シート(合成樹脂シート)単独に対して成形型により成形加工を行い、当該成形加工後にウレタンフォーム(合成樹脂発泡体)を貼り合わせた。すなわち、フレームラミネート加工を利用しなかった。
【0073】
<得られた製品の評価>
得られた製品(積層シート)を以下のように評価した。評価結果を表1に示す。
【0074】
(隆起部の再現)
得られた積層シートのキルティングパターンを取った元の本革製品(原型製品)と比較し、積層シートにおける隆起部(図3等におけるG12a)によって、原型製品の隆起部が再現されているかについて評価した。評価基準は次の通りである:
◎:隆起部が忠実に再現されている。隆起部の触感も弾性があり問題がない。
○:隆起部の形状は忠実に再現されているが、隆起部の触感について弾力性がやや劣る。
△:隆起部に部分的に凹みが生じている。
×:隆起部に複数の凹みが生じている。
なお、「隆起部が忠実に再現されている」とは、隆起部における凹みが、原型製品と同様に全く観察されないことを指す。
【0075】
(隆起部の経時変化)
得られた積層シートを100℃で100時間保管した後、保管前の状態と比べた変化について評価した。評価基準は以下の通りである:
◎:外観にも触感にも変化が無い。
○:外観に変化が無いが触感に差異がある(押し込んだ際の応力が保管前のサンプルと比較して弱いと感じられる)。
△:わずかな凹みが生じている。
×:複数の凹みが生じている。
【0076】
(谷間における糸目の再現)
得られた積層シートのキルティングパターンを取った元の本革製品(原型製品)と比較し、隆起部間の谷間(溝、図1等におけるG12b)に存在する微細凹凸形状(図1等におけるM12)が、原型製品の縫い糸の糸目を再現しているか(縫い糸らしく見えるか)について評価した。具体的な評価基準は以下の通りである:
◎:肉眼でも30倍のルーペで拡大して観察した場合でも、縫い糸の撚りまでが明瞭に再現されている
○:肉眼では◎と差が無いが、30倍のルーペで拡大した場合に、縫い糸の撚りの一部に欠落が認められる。
△:肉眼の観察で、縫い糸の撚りの一部に欠落が認められる。
×:肉眼の観察で、縫い糸の太さが均一ではなく欠陥が認められるか、又は肉眼の観察で縫い糸の撚りの複数箇所に欠落が認められる。
【0077】



【表1】
【0078】
表1に示すように、合成樹脂シートの裏側に合成樹脂発泡体を貼り付けて得た積層シート材に対し、真空吸引により凹凸形成を行った例(実施例1~実施例6)では、成形型の形状を忠実に再現でき、所定時間経過後の隆起部の状態も良好であった。実施例1~実施例7の積層シートのいずれにも、裏側にも凹凸が観察され、全体としては表側の凸に反っていた。
【0079】
以下、本発明の具体的な態様を作用効果と共に説明する。
【0080】
第一の態様は、合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造方法であって、前記合成樹脂シートの裏側に前記クッション材を貼り付けて、積層シート材を作製する準備工程と、前記積層シート材を加熱して軟化させる軟化工程と、前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形工程と、を含む。
【0081】
上記第一の態様によれば、予め合成樹脂シートにクッション材が貼り付けて積層シート材を得た後に、その表面に凹凸形状を付与する。このため、真空吸引時、合成樹脂シートの変形に伴い、クッション材が追随して変形し、隆起する凸部の裏側にもクッション材が密着し当該クッション材を十分に充填することができる。よって、凸部の所望の立体感が損なわれず、鮮明な凹凸形状を形成することができる。より具体的には、得られる最終製品(積層シート)における、特に大凹凸形状の隆起部の裏側全体にクッション材が万遍なく密着して充填された状態となり、ふっくらとした仕上がりが得られる。また、合成樹脂シートとクッション材とが、凹凸形状の付与前に、すなわち平面状態にある状態で予め貼り合わせておくことで、隙間ない貼り合わせが可能となり両者の接合強度が高まるので、得られる積層シートの耐久性は高く、ふっくらとした見た目及び弾力性を継続して維持することができる。
【0082】
また、本態様によれば、成形工程において凹凸形状の付与のために、真空吸引する真空成形が用いられる。そのため、積層シート材の表面が成形型に隙間なく良好に密着した状態で、凹凸形状を付与できる。これにより、例えば、成形型の凹凸が複雑であっても、或いは成形型の表面の凹凸のサイズが小さくとも、成形型に忠実に対応した、或いは成形型を取った元の原型製品の凹凸形状を忠実に再現した凹凸形状を得ることができる。例えば、断面で見て凹部と凸部との境界がシャープなエッジになっている凹凸形状が所望される場合であっても、その所望の形状に忠実な形状を付与できる。また、高さの高い凸部や、微細な凹凸形状も忠実に付けることができる。また、成形型が、多孔質材によって形成されているので、成形型の外周面の全面からほぼ均等に空気を吸引することができる。そのため、積層シート材をより均等に成形型に密着させることができ、クッション材が合成樹脂シートの変形に追随して変形して成形型の凹凸を忠実に反映した凹凸パターンを形成できる等の効果を向上できる。
【0083】
さらに、本態様によれば、成形加工時に、合成樹脂シート及びクッション材の接着位置で応力が発生し接着部分が損傷したり、クッション材の一部に応力が集中して内部の気泡が破壊されたりすることも防止できる。積層シートにダメージがあると、その箇所からの経年劣化が早まってしまうが、本態様によってそのようなダメージの生成が抑制されることで、従来のものよりも長期間使用しても、経時的な変化(劣化)が低減される。また、常温よりも高い温度下で保管した場合であっても、経時的な変化(劣化)を遅らせることができる。
【0084】
第二の態様では、前記準備工程を、フレームラミネート加工によって行う。
【0085】
上記第二の態様によれば、接着剤を用いることなく、合成樹脂シートとクッション材とを貼り付けることができる。これにより、接着面(合成樹脂シートの裏面及びクッション材の表面)が硬くなり、積層シート材、ひいては最終製品である積層シートが硬くなることを抑制できる。また、積層シート内に硬い接着剤の層が存在することで成形工程(凹凸付与工程)にて所望通りに凹凸変形できなくなることを防止できる。例えば、複雑な、特に微細な凹凸形状を付与したい場合に、硬くなった接着剤の層があるとその層内又はその層付近で断裂が生じ、合成樹脂シートの変形にクッション材が追随できない状況が生じ得るが、本態様によれば、そのような状況も防止できる。
【0086】
第三の態様では、前記合成樹脂シートが、ポリ塩化ビニルを含む表皮層と、当該表皮層の表側に形成された表面処理層とを含む合成皮革である。
【0087】
上記第三の態様によれば、例えば合成樹脂シートが、表皮層にポリウレタンを含有する合成皮革である場合と比べて、積層シート材の表面を硬くすることができる。これにより、成形工程において凹凸形状を付ける際、合成樹脂シートが、表皮層にポリウレタンを含有する合成皮革である場合よりも、シャープなエッジを有する凹凸形状の形状もより確実に形成でき、鮮明な凹凸形状を付けることが可能となる。また、このような比較的硬い材料を用いた合成樹脂シートであっても、本態様では成形工程で真空吸引を利用しているので、合成樹脂シートが成形型に密着でき、積層シート材の表面のより確実な凹凸形成が可能となる。
【0088】
第四の態様では、前記合成樹脂シートが、前記表皮層の裏側に基布層をさらに備える。
【0089】
上記第四の態様によれば、合成樹脂シートの強度及び形状安定性を高めることができる。合成樹脂シートが基布層を備えた構成は、継続的に力を受ける必要のある用途で、例えば車両用座席(カーシート)の被覆材として好適に用いられる。
【0090】
第五の態様では、前記成形工程を、前記成形型を冷却しながら行う。
【0091】
上記第五の態様によれば、成形工程において、積層シート材の表面の温度低下を促進できる。そのため、凹凸形状のダレが抑制され、所望される凹凸形状がシャープなエッジを含むものであっても、成形型の形状をより確実に反映した凹凸形状を得ることが可能となる。
【0092】
第六の態様では、前記軟化工程が、前記積層シート材の加熱温度を段階的に又は漸次上昇させることを含む。
【0093】
上記第六の態様によれば、積層シート材の温度を、搬送されるにしたがって次第に高くできるので、加熱ムラの発生を抑えることができる。これにより、合成樹脂シートの部分的な軟化を抑制でき、表面にシワ等が生じることを抑えて、表面を平滑に維持したまま積層シート材の全体を均等に軟化させることができる。
【0094】
第七の態様では、前記成形型が多孔質セラミックによって形成されている。
【0095】
セラミックスは、金属及び樹脂等の他の材料に比べて、耐熱性及び硬度の高い材料である。よって、上記第七の形態によれば、成形型が高温になっても熱膨張等が起きにくく形状安定性が高く、衝撃等によっても変形しにくい。また、成形型の材料をセラミックスとすることで微細な多孔を材料全体にわたって形成することが容易であるので、成形型全体にわたる均一な通気性を得やすい。
【0096】
第八の態様では、前記クッション材が、ポリウレタンを含有する合成樹脂発泡体を含む。
【0097】
上記第八の態様によれば、積層シート材を真空吸引する際、合成樹脂シートの変形に伴ってクッション材を円滑に変形させることができる。このため、クッション材は、凸部の裏側を適切に支持することができる。
【0098】
さらに、クッション材が表側にポリウレタン発泡樹脂体を備えていることで、準備工程においてフレームラミネート加工において表面を容易に溶融させることができる。また、合成樹脂シートとクッション材とを貼り合わせた後も、両者の界面での弾力性を維持できる。そのため、成形工程にて、成形型に合わせてフレキシブルな変形が可能であり、複雑な凹凸形状であっても成形型の凹凸を忠実に積層シートの表面に反映できる。
【0099】
第九の態様では、前記積層シートが有する前記表側の凹凸には、表側に盛り上がる隆起部と、前記隆起部間の溝と、有する凹凸と、前記溝の底部に当該溝に沿って延在する線状の微細凹凸と、が含まれる。
【0100】
上記第九の態様によれば、審美性のより高いデザイン、例えばキルティング加工を模したパターンを実現できる。
【0101】
第十の態様では、前記積層シートの裏側にも凹凸を有し、前記裏側の凹凸には、前記隆起部に対応する位置における裏側から表側への凹みが含まれる。
【0102】
上記第十の態様によれば、他の押型成型では得られない大きな隆起部を形成でき、弾力性が十分維持された積層シートが得られる。また、上記隆起部の経時的な形状安定性も高い。
【0103】
第十一の態様では、前記隆起部の高さが、3mm以上8mm以下である。
【0104】
上記第十一の態様によれば、製造される積層シートにおいて、内装部品用の表皮材として好ましいふっくらとした隆起部を有する、審美性のより高いデザインが得られる。
【0105】
第十二の態様では、前記微細凹凸に含まれる凸部の高さが、0.4mm以上1.2mm以下である。
【0106】
上記第十二の態様によれば、製造される積層シートにおいて、キルティング加工を模したパターンにおいて、審美性のより高い糸目の模様が再現されたデザインが得られる。
【0107】
第十三の態様は、合成樹脂シートとクッション材とを表側から裏側へこの順で積層して含み、且つ少なくとも表側に凹凸を有する積層シートの製造装置であって、合成樹脂シートの裏側にクッション材の表側を貼り付けて、積層シート材を作製する準備部と、前記積層シート材を加熱して軟化させる軟化部と、前記積層シート材の表側から多孔質部材からなる成形型を介して真空吸引することによって凹凸を付与する成形部と、を含む。
【0108】
上記第十三の態様によれば、上記付記1に係る態様により得られる効果と同様の効果が得られる。
【0109】
本発明の具体的な態様をさらに付記し、その作用効果についても説明する。
【0110】
[1]基布層の表面に合成樹脂からなる表皮層が設けられた合成樹脂シートの前記基布層の裏面に、フレームラミネート加工によって、合成樹脂発泡体を有するクッション材を貼り付けて積層シート材を作成する準備工程と、
前記積層シート材を加熱して少なくとも前記表皮層を含む前記積層シート材を軟化させる軟化工程と、
通気性を有する成形型を介して前記表皮層を含む前記積層シート材の表面を真空吸引し、前記積層シート材の表面に凹凸形状を付ける成形工程と、
前記凹凸形状が付けられた前記積層シート材を冷却して硬化させる硬化工程と、を有する
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0111】
[2]上記項目[1]に記載された積層シートの製造方法において、
前記合成樹脂シートは、前記表皮層にポリ塩化ビニルを含有する合成皮革である
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0112】
[3]上記項目[1]又[2]に記載された積層シートの製造方法において、
前記成形工程では、前記成形型を冷却しながら前記積層シート材を真空吸引する
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0113】
[4]上記項目[1]又は[2]に記載された積層シートの製造方法において、
前記軟化工程では、前記積層シート材を加熱する温度が、前記積層シート材の搬送方向に沿って次第に高くなるように設定されている
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0114】
[5]上記項目[1]又は[2]に記載された積層シートの製造方法において、前記成形型は、多孔質セラミックによって形成されている
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0115】
[6]上記項目[1]又は[2]に記載された積層シートの製造方法において、
前記クッション材が有する前記合成樹脂発泡体が、ポリウレタンを含有している
ことを特徴とする積層シートの製造方法。
【0116】
本発明の一態様によれば、積層シート10は、準備工程と、軟化工程と、成形工程と、硬化工程とを順に経て製造される。ここで、準備工程は、合成樹脂シート20にフレームラミネート加工によってクッション材30を貼り付けて積層シート材11を作製する工程である。軟化工程は、表皮層24を含む積層シート材11の表面11aを軟化させる工程である。成形工程は、軟化した表皮層24を含む積層シート材11の表面11aを真空吸引することで、積層シート材11の表面11aに凹凸形状12を付ける工程である。硬化工程は、表面11aに凹凸形状12が付けられた積層シート10を冷却して硬化させる工程である。
【0117】
上記態様による積層シート10の製造方法では、予め合成樹脂シート20にクッション材30が貼り付けられた積層シート材11を、成形型105を介して真空吸引し、凹凸形状12を積層シート材11の表面11aに付ける。このため、真空吸引すること(真空成形)により表面11aに付けられる凸部12aの裏側には、予めクッション材30が充実されることになる。これにより、真空吸引時、合成樹脂シート20の変形に伴って突出する凸部12aは、クッション材30によって支持される。この結果、上記態様による積層シート10の製造方法は、凸部12aの立体感が損なわれず、鮮明な凹凸形状12を形成することができる。
【0118】
また、上記態様による積層シート10の製造方法では、真空吸引すること(真空成形)によって、積層シート材11に凹凸形状12が付けられる。つまり、積層シート材11の表面11aが成形型105に密着することで凹凸形状12が積層シート材11に付けられる。これにより、実施例1の積層シート10の製造方法は、凹部12bと凸部12aとの境界をシャープなエッジとすることができ、凹凸形状12のつぶれを抑制することができる。この結果、合成樹脂シート20の裏面に合成樹脂発泡体31を有するクッション材30が貼り付けられた積層シート材11の表面11aに微細な凹凸形状12を付けることができる。
【0119】
また、上記態様による積層シート10の製造方法では、準備工程において、フレームラミネート加工によって合成樹脂シート20の裏面にクッション材30が貼り付けられる。そのため、本実施形態による積層シート10の製造方法は、接着剤を用いることなく合成樹脂シート20とクッション材30とを貼り付けることができ、積層シート材11が硬くなることを抑制できる。
【0120】
また、上記態様による積層シート10の製造方法では、合成樹脂シート20が、表皮層24にポリ塩化ビニルを含有する合成皮革である。そのため、例えば合成樹脂シート20が、表皮層24にポリウレタンを含有する合成皮革である場合と比べて、積層シート材11の表面11aを硬くすることができる。これにより、成形工程において凹凸形状12を付ける際、合成樹脂シート20が、表皮層24にポリウレタンを含有する合成皮革である場合よりも、凹凸形状12のエッジをシャープにし、鮮明な凹凸形状12を付けることが可能となる。
【0121】
また、本発明の一態様による積層シート10の製造方法では、成形工程において、成形型105を冷却しながら積層シート材11の表面11aを真空吸引する。そのため、積層シート材11の表面11aは、真空吸引されて変形すると同時に成形型105を介して冷却される。これにより、凹凸形状12の形成しつつ、積層シート材11の表面11aの温度低下を促進することができる。そして、凹凸形状12のダレが抑制され、積層シート10は、シャープなエッジの凹凸形状12を得ることが可能となる。
【0122】
また、本発明の一態様による積層シート10の製造方法では、軟化工程において、積層シート材11を加熱する温度が、積層シート材11の搬送方向に沿って次第に高くなるように設定されている。このため、積層シート材11は、搬送されるにしたがって次第に温度が高くなるため、加熱ムラの発生を抑えることができる。これにより、合成樹脂シート20の部分的な軟化を抑制でき、表面11aにシワ等が生じることを抑えて、表面11aを平滑に維持したまま積層シート材11の全体を均等に軟化させることができる。
【0123】
また、本発明の一態様による積層シート10の製造方法では、成形工程にて使用される成形型105が、多孔質セラミックによって形成されている。これにより、成形工程において、成形型105の外周面の全面からほぼ均等に空気を吸引することができる。この結果、積層シート材11を均等に成形型105に密着させることができ、積層シート材11の表面11aに付けられる凹凸形状12をシャープなエッジとすることができる。
【0124】
さらに、本発明の一態様による積層シート10の製造方法では、クッション材30が有する合成樹脂発泡体31が、ポリウレタンを含有している。このため、実施例1の積層シート材11は、積層シート材11を真空吸引する際、合成樹脂シート20の変形に伴ってクッション材30を円滑に変形させることができる。このため、クッション材30は、凸部12aの裏側を適切に支持することができ、シャープなエッジの凹凸形状12を積層シート材11の表面11aに付けることができる。
【0125】
本発明の一態様による積層シート10の製造方法では、成形工程にて使用する真空吸引ロール機103が、中空円筒状の成形型105を有しており、帯状の積層シート材11に連続して凹凸形状12を付けることが可能である。しかしながら、成形型105の形状はこれに限らない。例えば、平板状の成形型を有する真空吸引機を用いて、積層シート材11に凹凸形状12を付けてもよい。
【0126】
なお、平板状の成形型を有する真空吸引機を使用する場合は、帯状の積層シート材11は、予め平板状の成形型で吸引可能な大きさに裁断される。そして、裁断された所定の大きさの積層シート材11は、一枚ずつ断続的に真空成形される。
【0127】
また、本発明の一態様により製造される積層シート10は、クッション材30が有する合成樹脂発泡体31がポリウレタンを含有している。ここで、ポリウレタンを含有する合成樹脂発泡体31は、一般的に硬さの調整を容易に行うことができる。そのため、合成樹脂シート20の素材や硬度、積層シート10の用途や仕様の要求等に応じて、クッション材30の硬さを適切に調整し、表面11aに微細な凹凸形状12を付けやすい積層シート材11とすることが可能となる。
【0128】
しかしながら、クッション材30が有する合成樹脂発泡体31の材質は、ポリウレタンを含有するものに限らず、任意に選択することが可能である。
【0129】
また、本発明の一態様により製造される積層シート10は、合成樹脂シート20が、基布層21と表皮層24との間に、接着性を有する接着剤層と、合成樹脂発泡体からなる中間層23とが、基布層21側から表皮層24に向かって順に積層されている。そのため、風合いや手触り等を、中間層23の材質を調整することで、所望の状態に容易に設定することができる。
【0130】
しかしながら、積層シート材11を真空吸引した際、中間層23に含まれる気泡が、積層シート材11の厚さ方向に伸びて大きくなり、積層シート10の耐摩耗性が低下する懸念が考えられる。そのため、中間層23を有しない合成樹脂シート20を用いたり、表面処理層25(表面処理層25が2層の場合には表側の第1表面処理層及び/又は裏側の第2表面処理層)の耐摩耗性を高くしたりしてもよい。
【0131】
また、実施形態により製造される積層シート10が有する合成樹脂シート20は、表皮層24にポリ塩化ビニルを含有する合成皮革である。しかしながら、合成樹脂シート20の材質はこれに限らない。合成樹脂シート20は、積層シート10の用途や必要耐久性、コスト等に応じて、例えば表皮層24にポリウレタンを含有する合成皮革であってもよい。さらに、合成樹脂シート20は、基布層21に不織布を用いた人工皮革であってもよい。
【0132】
また、実施形態による積層シート10の製造方法では、成形工程において用いる真空吸引ロール機103が、多孔質セラミック製の成形型105を有する。しかしながら、成形型105は、通気性を有し、積層シート材11を真空吸引できれば、多孔質セラミック製に限らない。すなわち、成形工程において、例えば、脱気穴を適宜設けたアルミニウム等の金属製の成形型を用いてもよい。
【0133】
以上、本発明を具体的な実施形態及び実施例に基づいて説明したが、これらの実施形態及び実施例は例として提示したものにすぎず、本発明は上記実施形態及び実施例によって限定されるものではない。本発明の開示の範囲内において、様々な変更、修正、置換、削除、付加、及び組合せ等が可能である。
【符号の説明】
【0134】
10 積層シート
11 積層シート材
11a 積層シート材の表面
11b 積層シート材の裏面
12 凹凸形状
12a 凸部
12b 凹部
20 合成樹脂シート
21 基布層
21b 基布層の裏面
24 表皮層
25 表面処理層
30 クッション材
31 合成樹脂発泡体
32 裏基布層
100 フレームラミネート機(準備部)
102 加熱器(軟化部)
103 真空ロール機(成形部)
105 成形型
107 冷却ローラ(硬化部)
G12 大凹凸形状
G12a 隆起部
G12b 溝
M12 微細凹凸形状
M12a 微細凹凸形状の凸部
M12b 微細凹凸形状の凹部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14