(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074259
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】フェヌグリーク種子加工品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 11/50 20210101AFI20240523BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20240523BHJP
A23L 27/10 20160101ALI20240523BHJP
C12N 1/14 20060101ALI20240523BHJP
【FI】
A23L11/50 209Z
A23L27/00 C
A23L27/10 C
C12N1/14 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023192499
(22)【出願日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2022184743
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000111487
【氏名又は名称】ハウス食品グループ本社株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130443
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 真治
(72)【発明者】
【氏名】武谷 圭子
(72)【発明者】
【氏名】青柳 守紘
【テーマコード(参考)】
4B020
4B047
4B065
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LB27
4B020LC02
4B020LG01
4B020LG07
4B020LG09
4B020LK01
4B020LK08
4B020LK09
4B020LK17
4B020LP18
4B047LB07
4B047LB09
4B047LG03
4B047LG37
4B047LG40
4B047LG41
4B047LG44
4B047LG56
4B047LP04
4B047LP19
4B065AA58X
4B065BB26
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】本発明の一以上の実施形態は、プロトジオスシンの含有量が低減されたフェヌグリーク種子加工品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一以上の実施形態は、フェヌグリーク種子と、植物の種子及び/又はその処理物が微生物により発酵された前記微生物を含む発酵産物とを混合して、混合物を得る工程、及び、前記混合物を、前記混合物中のプロトジオスシンが分解される温度条件に保持する工程を含む、フェヌグリーク種子加工品の製造方法に関する。本発明の別の一以上の実施形態は、プロトジオスシンの重量基準の含有量PDとプロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物の重量基準の含有量DGが、PD/(PD+DG)が0.78以下であるという関係を満たすフェヌグリーク種子加工品に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェヌグリーク種子と、植物の種子及び/又はその処理物が微生物により発酵された前記微生物を含む発酵産物とを混合して、混合物を得る工程、及び
前記混合物を、前記混合物中のプロトジオスシンが分解される温度条件に保持する工程、
を含む、フェヌグリーク種子加工品の製造方法。
【請求項2】
前記植物の種子及び/又はその処理物の糖質の含有量が65重量%以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物が、マメ科植物、イネ科植物及びゴマ科植物から選択される1以上である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記植物がフェヌグリーク及びダイズから選択される1以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記植物がフェヌグリークである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記植物がダイズであり、
前記処理物がオカラである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記植物がイネであり、
前記処理物が米糠である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記植物がコムギであり、
前記処理物が小麦ふすまである、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記植物がゴマである、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記微生物がアスペルギルス属に属する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項11】
前記温度条件が、10℃以上60℃以下の条件である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項12】
前記植物の種子及び/又はその処理物と、前記微生物とを混合して、発酵原料を得る工程と、
前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程と、
を含む、前記発酵産物を調製する工程、
を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項13】
前記植物の種子及び/又はその処理物が培地を含まない、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程が、前記発酵原料を10℃以上50℃以下に保持することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
プロトジオスシンの重量基準の含有量をPDとし、
プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物の、ジオスゲニンとして換算した重量基準の含有量をDGとしたとき、
PD/(PD+DG)が0.78以下である、フェヌグリーク種子加工品。
【請求項16】
プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ前記化合物が、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンから選択される1以上を含む、請求項15に記載のフェヌグリーク種子加工品。
【請求項17】
プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を産生する能力を有する微生物の死滅細胞又は生存細胞を含有する、請求項15又は16に記載のフェヌグリーク種子加工品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェヌグリーク種子加工品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェヌグリークはマメ科の一年草である。フェヌグリーク種子はカレー粉に含まれるなど、香辛料として古くから知られている。
【0003】
フェヌグリーク種子は苦味成分を有することが知られている。非特許文献1には、フェヌグリーク種子の苦味の主成分がフロスタノール型サポニンであるプロトジオスシンであることが報告されている。
【0004】
特許文献1では、苦味が低減されたフェヌグリーク種子の製造方法として、フェヌグリーク種子に水を加えて前記フェヌグリーク種子の成分を溶出させ、β-グルコシダーゼを添加して、β-グルコシダーゼ添加後に前記成分と前記β-グルコシダーゼとを前記フェヌグリーク種子に吸収させることを特徴とする方法が記載されている。特許文献1によれば、フェヌグリーク種子から水中に溶出したプロトジオスシン等のサポニン化合物が、β-グルコシダーゼにより分解される。特許文献1では、β-グルコシダーゼとして、β-グルコシダーゼを含む酵素製剤を用いることが記載されている。
【0005】
非特許文献2では、ツァペック・ドックス・ブロス培地(CDB)を吸収させたフェヌグリーク種子に、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)の胞子を接種して、25±2℃で7日間培養した、アスペルギルス発酵フェヌグリーク(AFF)が開示されている。非特許文献2には、アスペルギルス発酵フェヌグリークは、発酵5日目に、未発酵フェヌグリークと比較して、総フェノール含量、縮合型タンニン含量及び抗酸化能が増加したことが記載されている。
【0006】
非特許文献3では、食品製造に用いられる微生物によりフェヌグリーク由来サポニンを改変して得られた生成物の細胞毒性を確認したことが記載されている。具体的には、非特許文献3では、食品製造に用いられる微生物であるアスペルギルス・ニガーKCTC6906、アスペルギルス・ウサミKCTC6956、ビフィドバクテリウムsp.Int57、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ブレベYC2、ビフィドバクテリウム・セドカテヌラタムSJ32、ビフィドバクテリウムsp.SH5、及び、ロイコノストク・パラメセンテロイデスPRを培地中で培養し、細胞を破砕して分離した粗酵素と、フェヌグリーク種子の粉末の25%(v/v)エタノールによる抽出物とを混合し、45℃で24時間反応させたことが記載されている。そして非特許文献3では、アスペルギルス・ウサミ及びビフィドバクテリウム属細菌の粗酵素とフェヌグリーク種子抽出物との反応生成物は、未処理フェヌグリーク抽出物と比較して細胞毒性が高いのに対して、アスペルギルス・ニガーの粗酵素とフェヌグリーク種子抽出物との反応生成物は細胞毒性が低いことが記載されている。非特許文献3では更に、アスペルギルス・ウサミ及び上記のうちビフィドバクテリウム・セドカテヌラタムSJ32以外の細菌の粗酵素とフェヌグリーク種子抽出物との反応生成物はジオスシンを多く含むのに対して、アスペルギルス・ニガーの粗酵素とフェヌグリーク種子抽出物との反応生成物はジオスシンが少なく未特定の別の物質が増加したことが記載されている。
【0007】
非特許文献4では、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を、麦芽抽出物及びヤマノイモ水抽出物(酵素誘導剤)を含む培地中で培養した培養物から得た粗酵素と、ヤマノイモの乾燥根から単離したトータルステロイドサポニンとを、50℃で24時間反応させたことが記載されている。非特許文献4では、前記粗酵素による処理前のヤマノイモのトータルステロイドサポニンは、プロトジオスシン、プロトグラシリン及びジオスシンを含むのに対して、前記粗酵素とヤマノイモのトータルステロイドサポニンとの反応物は、プロゲニンIII(プロサポゲニンA)を含むことが記載されている。非特許文献4ではまた、ヤマノイモ水抽出物を含まない培地中で培養したアスペルギルス・オリゼの粗酵素は、トータルステロイドサポニンからプロゲニンIIIを生成する活性がほとんどないことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】1999年日本香辛料研究会発表「フェヌグリーク苦味主成分(正村)」
【非特許文献2】J Food Sci Technol(May 2021)58(5):1927-1936
【非特許文献3】J. Korean Soc. Appl. Biol. Chem. 53(4), 470-477(2010)
【非特許文献4】J Ind Microbiol Biotechnol 40:427-436(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の一以上の実施形態は、フェヌグリーク種子の苦味成分であるプロトジオスシンの含有量が低減されたフェヌグリーク種子加工品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書は、下記の本発明の一以上の実施形態を開示する。
【0012】
(1)フェヌグリーク種子と、植物の種子及び/又はその処理物が微生物により発酵された前記微生物を含む発酵産物とを混合して、混合物を得る工程、及び
前記混合物を、前記混合物中のプロトジオスシンが分解される温度条件に保持する工程、
を含む、フェヌグリーク種子加工品の製造方法。
(2)前記植物の種子及び/又はその処理物の糖質の含有量が65重量%以下、(1)に記載の方法。
(3)前記植物が、マメ科植物、イネ科植物及びゴマ科植物から選択される1以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記植物がフェヌグリーク及びダイズから選択される1以上である、(3)に記載の方法。
(5)前記植物がフェヌグリークである、(4)に記載の方法。
(6)前記植物がダイズであり、
前記処理物がオカラである、(4)に記載の方法。
(7)前記植物がイネであり、
前記処理物が米糠である、(3)に記載の方法。
(8)前記植物がコムギであり、
前記処理物が小麦ふすまである、(3)に記載の方法。
(9)前記植物がゴマである、(3)に記載の方法。
(10)前記微生物がアスペルギルス属に属する、(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
(11)前記温度条件が、10℃以上60℃以下の条件である、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記植物の種子及び/又はその処理物と、前記微生物とを混合して、発酵原料を得る工程と、
前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程と、
を含む、前記発酵産物を調製する工程、
を更に含む、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記マメ科植物の種子及び/又はその処理物が培地を含まない、(12)に記載の方法。
(14)前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程が、前記発酵原料を10℃以上50℃以下に保持することを含む、(12)又は(13)に記載の方法。
(15)プロトジオスシンの重量基準の含有量をPDとし、
プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物の、ジオスゲニンとして換算した重量基準の含有量をDGとしたとき、
PD/(PD+DG)が0.78以下である、フェヌグリーク種子加工品。
(16)プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ前記化合物が、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンから選択される1以上を含む、(15)に記載のフェヌグリーク種子加工品。
(17)プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を産生する能力を有する微生物の死滅細胞又は生存細胞を含有する、(15)又は(16)に記載のフェヌグリーク種子加工品。
(18)重量基準での、ジオスシンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい、(15)~(17)のいずれかに記載のフェヌグリーク種子加工品。
(19)重量基準での、ジオスシンの含有量が、プロサポゲニンの含有量及びジオスゲニンの含有量よりも大きい、(18)に記載のフェヌグリーク種子加工品。
(20)重量基準での、プロサポゲニンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい、(15)~(17)のいずれかに記載のフェヌグリーク種子加工品。
(21)重量基準での、プロサポゲニンの含有量が、ジオスシンの含有量及びジオスゲニンの含有量よりも大きい、(20)に記載のフェヌグリーク種子加工品。
(22)重量基準での、ジオスゲニンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい、(15)~(17)のいずれかに記載のフェヌグリーク種子加工品。
(23)重量基準での、ジオスゲニンの含有量が、ジオスシンの含有量及びプロサポゲニンの含有量よりも大きい、(22)に記載のフェヌグリーク種子加工品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一以上の実施形態によれば、プロトジオスシンの含有量が低減されたフェヌグリーク種子加工品及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、試験1における、40℃で4日間、8日間、19日間及び61日間処理後の、食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、食塩無添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品、並びに、オカラ麹を添加しないフェヌグリーク種子(比較例)の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の測定結果を示す。
【
図2】
図2は、試験2における、3種類の市販のアスペルギルスの種麹を用いて調製したオカラ麹と、フェヌグリーク種子抽出液とを55℃で18時間及び3日間反応させた反応液の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の測定結果を示す。
【
図3】
図3は、試験3における、市販のアスペルギルスの種麹を用いて調製した米糠麹、豆麹、フェヌグリーク麹、小麦ふすま麹及びゴマ麹と、フェヌグリーク種子抽出液とを55℃で3日間反応させた反応液の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の測定結果を示す。
【
図4】
図4は、試験4における、40℃で3日間、12日間、20日間及び31日間処理後の、食塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、食塩無添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の測定結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<1.フェヌグリーク種子>
本発明の一以上の実施形態において材料として使用するフェヌグリーク種子について説明する。フェヌグリーク種子は、フェヌグリーク(学名Trigonella foenum-graecum)の種子である。フェヌグリーク種子の形態は特に限定されず、種子自体の形態を保持した種子(ホール種子)、破砕した種子、粉末化した種子等の任意の形態であることができる。フェヌグリーク種子は、胚部分を少なくとも含む種子であればよく、種皮及びガラクトマンナン層を更に含んでいても含んでいなくてもよいが、好ましくは、胚部分とガラクトマンナン層とを含み、より好ましくは、胚部分とガラクトマンナン層と種皮とを含む。フェヌグリーク種子は、蒸煮及び/又は吸水により水分が調整されたフェヌグリーク種子であることができる。
【0016】
<2.発酵産物>
続いて、本発明の一以上の実施形態において材料として使用する、植物の種子及び/又はその処理物が微生物により発酵された前記微生物を含む発酵産物について説明する。
【0017】
前記発酵産物の原料として用いる前記植物の種子及び/又はその処理物は、好ましくは、下記の(A)~(E)のうち1以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち2以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち3以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち4以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち少なくとも(A)を含む1以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち少なくとも(A)を含む2以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち少なくとも(A)を含む3以上の特徴を有し、より好ましくは(A)~(E)のうち少なくとも(A)を含む4以上の特徴を有し、特に好ましくは(A)~(E)の全ての特徴を有する。
(A)糖質の含有量が65重量%以下である。
(B)タンパク質の含有量が8重量%以上である。
(C)脂質の含有量が3重量%以上である。
(D)炭水化物の含有量が75重量%以下である。
(E)食物繊維の含有量が10重量%以上である。
【0018】
このような原料の微生物による発酵産物は、フェヌグリーク種子に由来するプロトジオスシンを分解する活性が特に高い。
【0019】
前記(A)において、糖質の含有量はより好ましくは60重量%以下、より好ましくは55重量%以下、特に好ましくは40重量%以下である。前記(A)における糖質の含有量の範囲は、例えば0重量%~65重量%、2重量%~60重量%、好ましくは3重量%~55重量%、より好ましくは5重量%~40重量%であることができる。
前記(B)において、タンパク質の含有量はより好ましくは10重量%以上、特に好ましくは12重量%以上である。前記(B)におけるタンパク質の含有量の範囲は、例えば、8重量%~50重量%、好ましくは10重量%~40重量%、より好ましくは12重量%~30重量%であることができる。
前記(C)において、脂質の含有量はより好ましくは5重量%以上である。前記(C)における脂質の含有量の範囲は、例えば3重量%~60重量%、好ましくは5重量%~30重量%であることができる。
前記(D)において、炭水化物の含有量はより好ましくは70重量%以下、特に好ましくは65重量%以下である。前記(D)における炭水化物の含有量の範囲は、例えば10重量%~75重量%、好ましくは15重量%~70重量%、より好ましくは15重量%~65重量%であることができる。
前記(E)において、食物繊維の含有量はより好ましくは15重量%以上、特に好ましくは18重量%以上である。前記(E)における食物繊維の含有量の範囲は、例えば10重量%~70重量%、好ましくは15重量%~50重量%、特に好ましくは18重量%~50重量%であることができる。
【0020】
なおここで各成分の含有量は、植物の種子及び/又はその処理物の、水や微生物等の、発酵産物の製造のための他の材料と混合する前の状態の重量に対する割合である。このような特性を有する前記植物の種子及び/又はその処理物としては、マメ科植物、イネ科植物及びゴマ科植物から選択される1以上の種子及び/又はその処理物が例示できる。
【0021】
前記植物としては、マメ科植物、イネ科植物及びゴマ科植物から選択される1以上が好ましい。マメ科植物、イネ科植物及びゴマ科植物から選択される1以上の植物の種子又はその処理物の微生物による発酵産物は、フェヌグリーク種子に由来するプロトジオスシンを分解する活性が特に高い。
【0022】
マメ科植物としては、マメ亜科植物が好ましく、フェヌグリーク、ダイズ、及び落花生から選択される1以上がより好ましく、フェヌグリーク及びダイズから選択される1以上が特に好ましい。
【0023】
イネ科植物としてはイネ及びコムギから選択される1以上が特に好ましい。
【0024】
ゴマ科植物としてはゴマが特に好ましい。
【0025】
植物の種子は、種子自体の形態を保持した種子(ホール種子)、破砕した種子、粉末化した種子等の任意の形態であることができる。また、植物の種子は、蒸煮及び/又は吸水により水分が調整された種子であることができる。
【0026】
植物の種子の処理物としては、植物がダイズである場合、オカラ、豆乳、豆腐等のダイズ種子処理物が例示でき、特にオカラが好ましい。植物の種子の処理物の別の例としては、植物がイネである場合、米糠が好ましい。米糠とは、一般的に、イネ種子の表皮、果皮及び胚芽を含む。植物の種子の処理物の更に別の例としては、植物がコムギである場合、小麦ふすまが好ましい。小麦ふすまとは、一般的にコムギ種子の表皮を含む。
【0027】
植物の種子及び/又はその処理物は、好ましくは、マメ科植物の種子、マメ科植物の種子の処理物、米糠、小麦ふすま及びゴマ科植物の種子から選択される1以上であり、より好ましくはフェヌグリーク種子、ダイズ種子、オカラ、米糠、小麦ふすま又はゴマ種子であり、特に好ましくは、フェヌグリーク種子又はオカラである。これらの植物の種子及び/又はその処理物を基質とする発酵産物は、プロトジオスシンを分解する活性が特に高い。なお、これらの原料における水、タンパク質、脂質、炭水化物、糖質、食物繊維の含有量の一例を下記表に示す。炭水化物は、糖質と食物繊維とからなる。ここで各成分の含有量は、米糠、ダイズ種子、乾燥オカラ、ゴマ種子については文部科学省の食品成分データベース(https://fooddb.mext.go.jp/)、フェヌグリーク種子、小麦ふすまについては米国農務省のデータベースFoodData Central(https://fdc.nal.usda.gov/fdc-app.html#/food-details/171324/nutrients、及び、https://fdc.nal.usda.gov/fdc-app.html#/food-details/169722/nutrients)から入手できる情報に基づく。
【0028】
【0029】
前記微生物は、植物の種子及び/又はその処理物を炭素源及び窒素源として利用して繁殖する(すなわち、植物の種子及び/又はその処理物を発酵する)能力を有する微生物であればよい。前記微生物の好ましい例としては、プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を産生する能力を有する微生物が挙げられ、特に、アスペルギルス(Aspergillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属又はロイコノストク(Leuconostoc)属に属する微生物が好ましく、アスペルギルス属に属する微生物(すなわち麹菌)が特に好ましい。アスペルギルス属に属する微生物(麹菌)としては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等の黄麹、アスペルギルス・ルチェンシス(Aspergillus luchensis)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus mut.kawachii)等の白麹、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus var.awamori)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等の黒麹を使用することができ、特に黄麹が好ましい。黄麹としてはアスペルギルス・オリゼが特に好ましい。ビフィドバクテリウム属に属する微生物としては、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)又はビフィドバクテリウム・セドカテヌラタム(Bifidobacterium pseducatenulatum)に属する微生物が好ましく、例えば、非特許文献3に記載のビフィドバクテリウム属に属する微生物が好ましい。ロイコノストク属に属する微生物としては、ロイコノストク・パラメセンテロイデス(Leuconostoc paramesenteroides)に属する微生物が好ましく、例えば、非特許文献3に記載のロイコノストク属に属する微生物が好ましい。
【0030】
麹菌を含む前記発酵産物を「麹」と称する場合がある。「麹」は、基質となる植物の種子及び/又はその処理物がフェヌグリーク種子であるとき「フェヌグリーク麹」、ダイズであるとき「豆麹」、オカラであるとき「オカラ麹」、米糠であるとき「米糠麹」、小麦ふすまであるとき「小麦ふすま麹」、ゴマ種子であるとき「ゴマ麹」と称する場合がある。
【0031】
前記発酵産物は、プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を含み、苦味の低減されたフェヌグリーク種子加工品の製造に利用することができる。前記発酵産物は前記微生物を含む。このため前記発酵産物をフェヌグリーク種子と混合した混合物を、前記微生物の生存温度条件に保持する実施形態では、前記微生物がフェヌグリーク種子の種皮及びガラクトマンナン層を通過して胚部分に侵入できるため、フェヌグリーク種子内のプロトジオスシンを分解する作用を効果的に奏することができる。一方、特許文献1に記載されているように、β-グルコシダーゼ含有酵素製剤を用いる場合、フェヌグリーク種子内のプロトジオスシンに作用させるためには、フェヌグリーク種子を過剰量の水に浸漬して、プロトジオスシンを水に溶出させる必要があった。
【0032】
前記発酵産物は、例えば、
前記植物の種子及び/又はその処理物と、前記微生物とを混合して、発酵原料を得る工程(以下「第1工程」と称する場合がある)と、
前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程(以下「第2工程」と称する場合がある)と、
を含む方法により調製することができる。
【0033】
前記第1工程において、前記植物の種子及び/又はその処理物或いは前記発酵原料は、培地を含まないことが好ましい。すなわち、前記発酵原料は、前記第2工程での培養において炭素源及び窒素源として前記微生物が利用することができる培地成分を含まないことが好ましい。この態様により得られる前記発酵産物は、人為的に添加された培地成分を含まないため食品としての安全性が高い。
【0034】
前記第1工程において混合する前記微生物は、予め蒸米等の培養基材上に繁殖させた微生物や、前培養(種培養)した微生物であってよい。例えば、前記微生物がアスペルギルス属に属する麹菌である態様では、予め蒸米等の培養基材上に麹菌を繁殖させた形態であるか或いは麹菌の胞子の形態である「種麹」を、前記植物の種子及び/又はその処理物と混合することで前記発酵原料を得ることができる。種麹としては、市販品を購入して使用することができる。
【0035】
前記第1工程において得られる前記発酵原料は、前記植物の種子及び/又はその処理物並びに前記微生物に加えて、水、無機塩等を更に含むことができる。無機塩の例としては食塩が挙げられる。
【0036】
前記第2工程は、前記発酵原料中で前記微生物を培養する工程である。前記第2工程は前記微生物の培養が可能な条件で行うことができ、例えば前記発酵原料を、好ましくは10℃以上50℃以下、より好ましくは20℃以上45℃以下、より好ましくは30℃以上45℃以下、より好ましくは30℃以上40℃以下の温度条件に保持することを含む。前記第2工程は、より好ましくは前記発酵原料を、前記温度条件に、好ましくは30時間以上120時間、より好ましくは40時間以上100時間以下の期間、保持することを含む。
【0037】
前記第2工程において前記発酵原料中で前記微生物を培養して得られた発酵産物は、前記微生物を除去せず含んだ状態で、フェヌグリーク種子加工品の製造方法に供することができる。フェヌグリーク種子加工品の製造方法に供する時点において、前記発酵産物は、前記微生物の死滅細胞又は生存細胞を含むことができる。
【0038】
<3.フェヌグリーク種子加工品の製造方法>
本発明の一以上の実施形態は、
フェヌグリーク種子と、植物の種子及び/又はその処理物が微生物により発酵された前記微生物を含む発酵産物とを混合して、混合物を得る工程(以下「混合工程」と称する場合がある)、及び
前記混合物を、前記混合物中のプロトジオスシンが分解される温度条件に保持する工程(以下「反応工程」と称する場合がある)、
を含むフェヌグリーク種子加工品の製造方法に関する。
【0039】
本実施形態に係る方法によれば、β-グルコシダーゼ含有酵素製剤の使用を必要とせずに、未処理のフェヌグリーク種子と比較してプロトジオスシン含有量が低減され苦味が低減されたフェヌグリーク種子加工品を効率良く製造することができる。本実施形態に係る方法により製造されたフェヌグリーク種子加工品は、調味料等の食品として利用することができる。なお、前記混合物中のプロトジオスシンは、前記フェヌグリーク種子に由来するプロトジオスシンを少なくとも含み、前記発酵産物がプロトジオスシンを含む場合は、前記発酵産物に由来するプロトジオスシンを更に含む。
【0040】
前記混合工程において、前記フェヌグリーク種子と前記発酵産物との混合割合は特に限定されないが、前記フェヌグリーク種子(フェヌグリーク種子の、水を加えない状態での乾燥重量換算)100重量部に対して、前記発酵産物(前記発酵産物の原料として用いた植物の種子及び/又はその処理物の、水を加えない状態での乾燥重量換算)を例えば20重量部以上500重量部以下、好ましくは50重量部以上200重量部以下の割合で混合することができる。
【0041】
前記混合工程では、前記フェヌグリーク種子と前記発酵産物に加えて、水、無機塩等の他の成分を更に混合してもよく、特に水及び食塩を更に混合することが好ましい。食塩は、前記フェヌグリーク種子(フェヌグリーク種子の、水を加えない状態での乾燥重量換算)100重量部に対して、例えば5重量部以上100重量部以下、好ましくは20重量部以上60重量部以下の割合で混合することができる。前記混合物中の水(前記フェヌグリーク種子及び前記発酵産物からの水も含む、加えた水の総量)が、前記フェヌグリーク種子(フェヌグリーク種子の、水を加えない状態での乾燥重量換算)100重量部に対して、例えば200重量部以上、好ましくは300重量部以上となるように水を混合することができる。前記混合物中の水の量の上限は特に限定されず、前記反応工程によるプロトジオスシンの分解が可能な範囲に調整すればよい。例えば、前記フェヌグリーク種子(フェヌグリーク種子の、水を加えない状態での乾燥重量換算)100重量部に対して10000重量部以下の水を混合することができる。
【0042】
本実施形態に係る方法において、前記混合工程に用いる前記発酵産物は別途購入して使用できるが、より好ましくは、本実施形態に係る方法は、前記第1工程及び前記第2工程を含む発酵産物を調製する工程を更に含み、この工程により調製した前記発酵産物を、前記混合工程に用いることができる。
【0043】
前記反応工程における前記温度条件は、前記混合物中において、前記発酵産物が有する酵素活性により、プロトジオスシンが分解される温度条件であればよく、好ましくは10℃以上60℃以下、より好ましくは15℃以上60℃以下、より好ましくは20℃以上60℃以下、より好ましくは30℃以上60℃以下、より好ましくは35℃以上57℃以下である。前記反応工程において、前記混合物中の前記発酵産物からの微生物の生存は必須ではないが、微生物が生存している場合、上記の通り、フェヌグリーク種子内のプロトジオスシンを分解する作用が特に高いため好ましい。前記微生物を生存させて前記反応工程を行う場合、前記反応工程の前記温度条件は好ましくは10℃以上50℃未満、より好ましくは15℃以上50℃未満、より好ましくは20℃以上50℃未満、より好ましくは30℃以上50℃未満、より好ましくは30℃以上45℃以下、最も好ましくは35℃以上45℃以下の条件である。一方、前記微生物が生存できない条件で前記反応工程を行う場合、前記反応工程の前記温度条件は好ましく50℃以上60℃以下、より好ましくは50℃以上57℃以下の条件である。
【0044】
前記反応工程において、前記混合物を前記温度条件に保持する時間は、目的とする、前記混合物中のプロトジオスシンの分解の程度に応じて適宜調節することができる。例えば、前記混合物中のプロトジオスシンを、前記混合物の調製直後のプロトジオスシンの含有量を100重量%とした場合に、好ましくは50重量%以下、より好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下となるように、前記反応工程を行うことができる。また、前記反応工程後の前記混合物中のプロトジオスシンの含有量の目標値としては、前記混合物の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよい。このような水準までプロトジオスシンを分解するために、前記反応工程における前記混合物を前記温度条件に保持する時間は、例えば2日間以上、好ましくは3日間以上、より好ましくは10日以上、より好ましくは15日以上である。前記反応工程における前記混合物を前記温度条件に保持する時間の上限は特に限定されないが、好ましくは2年以下、より好ましくは1年以下であることができる。すなわち前記反応工程における前記混合物を前記温度条件に保持する時間は例えば2日間~2年間、好ましくは3日間~2年間、より好ましくは10日間~1年間、より好ましくは15日間~1年間であることができる。
【0045】
前記反応工程を経た前記混合物は、味噌のようなペースト状物であることができ、それ自体をフェヌグリーク種子加工品として、調味料等の食品の用途に用いることができる。
【0046】
前記反応工程を前記微生物が生存する条件で行う場合は、前記反応工程の終了後に前記混合物を加熱処理して前記微生物を死滅させることが好ましい。
【0047】
前記反応工程を経た前記混合物に対して、更に乾燥、濃縮、希釈、造粒等の処理を施したものを、フェヌグリーク種子加工品として利用することもできる。
【0048】
<4.フェヌグリーク種子加工品>
本発明の別の一以上の実施形態は、
プロトジオスシンの重量基準の含有量をPDとし、
プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物の、ジオスゲニンとして換算した重量基準の含有量をDGとしたとき、
PD/(PD+DG)が0.78以下である、
フェヌグリーク種子加工品に関する。
【0049】
未加工のフェヌグリーク種子は、苦味の原因物質であるプロトジオスシンを多く含み、プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物をほとんど含まないため、(PD/(PD+DG)は1.0に近い。これに対し、PD/(PD+DG)が0.78以下である本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、未加工のフェヌグリーク種子と比較して、プロトジオスシンの重量基準の含有量が小さく、且つ、プロトジオスシン以外の、生理機能が期待されるフィトステロイドであるジオスゲニン骨格を持つ化合物の重量基準の含有量が大きいため、調味料等の食品の用途に特に適している。
【0050】
プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物としては、ジオスゲニン及び加水分解によりジオスゲニンを生じる化合物から選択される1以上が挙げられ、典型的には、ジオスゲニン及びジオスゲニン配糖体から選択される1以上が挙げられ、具体的には、ジオスシン、プロサポゲニン、ジオスゲニン等が例示できる。プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物は、好ましくは、ODSカラムを用いた逆相液体クロマトグラフィーのクロマトグラムにおいて、プロトジオスシンよりも保持時間が長い、ジオスゲニンまでのピークに対応する化合物のうち、質量分析においてジオスゲニン骨格に特有のフラグメントが検出される化合物である。
【0051】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、好ましくは、ジオスシン、ジオスゲニン等のジオスゲニン骨格を持つ化合物に基づく生理作用、特に、抗糖尿病作用、認知機能改善作用、及び、更年期障害改善作用から選択される1以上の生理作用、を有することができる。
【0052】
ジオスシンが有する生理作用としては、抗尿酸血症、抗真菌・ウィルス作用、抗腫瘍、肝保護(線維症、急性肝障害、NAFLD、胆汁うっ滞、肝虚血再潅流障害)、肺保護、腎保護、心肺機能保護、大脳保護、抗アテローム性動脈硬化、抗炎症、抗関節炎、抗肥満・抗糖尿病、抗酸化ストレス、抗骨粗しょう症、メラニン生成抑制、成長ホルモン放出、抗乳がん、抗胃がん、抗肝がん、抗骨髄性白血病、抗肺がん、抗腎臓がん、抗黒色腫腫瘍、抗前立腺がん、抗慢性肝障害、肝臓再生、心血管・脳血管保護、胃虚血再潅流障害保護等の生理作用、並びに、非アルコール性脂肪性肝疾患、II型糖尿病等の疾患を予防又は治療する生理作用が知られている。ジオスゲニンが有する生理作用としては、抗ガン、抗真菌、抗ウィルス、抗血栓、抗酸化、神経保護、免疫調節等の生理作用、心血管疾患、心筋障害、血管障害、高脂血症、II型糖尿病、炎症、更年期障害、肌老化、骨粗しょう症等の疾患を予防又は治療する生理作用、並びに、ガン細胞増殖とアポトーシス、腫瘍侵入・転移・血管新生、皮質ニューロンに対する生理作用が知られている。本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、好ましくは、ジオスシン、ジオスゲニン等のジオスゲニン骨格を持つ化合物が持つこれらの生理作用を奏することができる。
【0053】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品のPD/(PD+DG)は、より好ましくは0.70以下、より好ましくは0.50以下、より好ましくは0.40以下、より好ましくは0.30以下、より好ましくは0.20以下、より好ましくは0.10以下、より好ましくは0.05以下、より好ましくは0.01以下である。本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、PDが検出限界以下でPD/(PD+DG)が0である場合も包含する。すなわちPD/(PD+DG)は、例えば0~0.78、好ましくは0~0.70、より好ましくは0~0.50、より好ましくは0~0.40、より好ましくは0~0.30、より好ましくは0~0.20、より好ましくは0~0.10、より好ましくは0~0.05、より好ましくは0~0.01であることができる。
【0054】
フェヌグリーク種子加工品におけるPD及びDGは、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)を用いて測定することができる。LC-MSを用いた測定方法の具体例は実施例に記載の通りである。PDの決定のための検量線は既知濃度のプロトジオスシン標品を含む試料を用いて作成することができる。DGは、プロトジオスシン以外の、LC-MS測定においてジオスゲニン骨格に特有のフラグメントを生じる化合物を、ジオスゲニンとして換算した重量基準の含有量である。DGの決定のための検量線は既知濃度のジオスゲニン標品を含む試料を用いて作成することができる。
【0055】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品において、プロトジオスシンの重量基準の含有量PDの値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよい。すなわちPDは、例えば0ppm~5000ppm、好ましくは0ppm~3000ppm、より好ましくは0ppm~1500ppm、より好ましくは0ppm~300ppm、より好ましくは0ppm~100ppm、より好ましくは0ppm~10ppmであることができる。
【0056】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品において、プロトジオスシン以外のジオスゲニン骨格を持つ化合物の、ジオスゲニンとして換算した重量基準の含有量DGの値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば500ppm以上、好ましくは600ppm以上、より好ましくは900ppm以上、より好ましくは1200ppm以上、より好ましくは1500ppm以上であり、上限は特に限定されないが、例えば20000ppm以下である。すなわちDGは、例えば500~20000ppm、好ましくは600ppm~20000ppm、より好ましくは900ppm~20000ppm、より好ましくは1200ppm~20000ppm、より好ましくは1500ppm~20000ppmであることができる。
【0057】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、好ましくは、微生物の細胞を含み、より好ましくは、プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を産生する能力を有する微生物の死滅細胞又は生存細胞を含み、特に好ましくは、プロトジオスシンを分解する活性を有する酵素を産生する能力を有する微生物の死滅細胞を含む。微生物の細胞を含む本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、<3.フェヌグリーク種子加工品の製造方法>において説明した実施形態に係る方法により製造することができる。前記微生物の具体例としては、<2.発酵産物>に記載の微生物が挙げられる。
【0058】
本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品は、典型的には、味噌のようなペースト状物であることができ、それ自体を調味料等の食品の用途に用いることができる。
【0059】
上記の通り、未加工のフェヌグリーク種子は、苦味の原因物質であるプロトジオスシンを多く含む。本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品の好ましい実施形態は、未加工のフェヌグリーク中のプロトジオスシンの少なくとも一部、好ましくは全部が、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンから選択される1以上に変換されていることを特徴とする。ここでプロサポゲニンとは、プロサポゲニンAとプロサポゲニンBとの総称であり、プロサポゲニンAとプロサポゲニンBの一方又は両方を指す。本実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品の更に好ましい実施形態は、下記(i)、(ii)又は(iii)の特徴を有する:
(i)重量基準での、ジオスシンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい。好ましくは更に、重量基準での、ジオスシンの含有量が、プロサポゲニンの含有量及びジオスゲニンの含有量よりも大きい;
(ii)重量基準での、プロサポゲニンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい。好ましくは更に、重量基準での、プロサポゲニンの含有量が、ジオスシンの含有量及びジオスゲニンの含有量よりも大きい;或いは
(iii)重量基準での、ジオスゲニンの含有量が、プロトジオスシンの含有量よりも大きい。好ましくは更に、重量基準での、ジオスゲニンの含有量が、ジオスシンの含有量及びプロサポゲニンの含有量よりも大きい。
【0060】
本発明者らは、<3.フェヌグリーク種子加工品の製造方法>において説明した実施形態に係る方法により製造されたフェヌグリーク種子加工品が、前記(i)、(ii)又は(iii)の特徴を有すること見出し、前記好ましい実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品を完成させた。
【0061】
前記好ましい実施形態に係るフェヌグリーク種子加工品において、プロサポゲニンの重量基準の含有量は、プロサポゲニンA、プロサポゲニンB、プロサポゲニンAとプロサポゲニンBとの総量であり、且つ、ジオスシンの検量線を使用して算出したジオスシンとしての換算量である。
【0062】
前記(i)、(ii)及び(iii)のいずれかの特徴を有するフェヌグリーク種子加工品において、プロトジオスシンの重量基準の含有量の値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよい。すなわち、前記フェヌグリーク種子加工品において、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対するプロトジオスシンの含有量は、例えば0~5000ppm、好ましくは0~3000ppm、より好ましくは0~1500ppm、より好ましくは0~300ppm、より好ましくは0~100ppm、より好ましくは0~10ppmであることができる。
【0063】
前記(i)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品において、ジオスシンの重量基準の含有量の値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば300ppm以上、好ましくは1000ppm以上、好ましくは1500ppm以上、より好ましくは3000ppm以上であり、好ましくは15000ppm以下であり、例えば300ppm~15000ppm、好ましくは1000ppm~15000ppm、好ましくは1500ppm~15000ppm、より好ましくは3000ppm~15000ppmであることができる。前記(i)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品では更に好ましくは、プロサポゲニン及びジオスゲニンの重量基準の含有量はそれぞれ、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよく、例えば0~10000ppm、好ましくは0~5000ppm、好ましくは0~3000ppm、より好ましくは0~1500ppm、より好ましくは0~300ppm、より好ましくは0~100ppm、より好ましくは0~10ppmであることができる
【0064】
前記(ii)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品において、プロサポゲニンの重量基準の含有量の値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば300ppm以上、好ましくは1000ppm以上、好ましくは1500ppm以上、より好ましくは3000ppm以上であり、好ましくは30000ppm以下、より好ましくは15000ppm以下であり、例えば300ppm~30000ppm、好ましくは300ppm~15000ppm、好ましくは1000ppm~15000ppm、好ましくは1500ppm~15000ppm、より好ましくは3000ppm~15000ppmであるころができる。前記(ii)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品では更に好ましくは、ジオスシン及びジオスゲニンの重量基準の含有量はそれぞれ、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよく、例えば0~10000ppm、好ましくは0~5000ppm、好ましくは0~3000ppm、より好ましくは0~1500ppm、より好ましくは0~300ppm、より好ましくは0~100ppm、より好ましくは0~10ppmであることができる。
【0065】
前記(iii)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品において、ジオスゲニンの重量基準の含有量の値としては、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば300ppm以上、好ましくは1000ppm以上、好ましくは1500ppm以上、より好ましくは3000ppm以上であり、好ましくは30000ppm以下、より好ましくは15000ppm以下であり、例えば300ppm~30000ppm、好ましくは300ppm~15000ppm、好ましくは1000ppm~15000ppm、好ましくは1500ppm~15000ppm、より好ましくは3000ppm~15000ppmであるころができる。前記(iii)の特徴を有するフェヌグリーク種子加工品では更に好ましくは、ジオスシン及びプロサポゲニンの重量基準の含有量はそれぞれ、フェヌグリーク種子加工品の全重量(乾燥重量基準)に対して、例えば10000ppm以下、好ましくは5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、より好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下であり、検出限界以下(すなわち0ppm)であってもよく、例えば0~10000ppm、好ましくは0~5000ppm、好ましくは0~3000ppm、より好ましくは0~1500ppm、より好ましくは0~300ppm、より好ましくは0~100ppm、より好ましくは0~10ppmであることができる。
【実施例0066】
<1.試験1>
<1.1.オカラ麹の調製方法>
乾燥オカラ(株式会社やまみ)10gと水6gとを均一に混合した。得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0067】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記混合物に、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を含む市販の種麹(商品名「白麹1号菌」、株式会社秋田今野商店)80mgを接種し、撹拌して均一に混合して、オカラ麹原料を得た。
【0068】
前記オカラ麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記オカラ麹原料の発酵を行い、オカラの麹菌による発酵産物(以下「オカラ麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記オカラ麹原料を撹拌した。
【0069】
<1.2.フェヌグリーク麹の調製方法>
フェヌグリーク種子10gと水15gとを混合し、室温で18時間静置し、フェヌグリーク種子に水を吸収させた。得られた吸水フェヌグリーク種子を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0070】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水フェヌグリーク種子に、麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を含む市販の種麹(商品名「白麹1号菌」、株式会社秋田今野商店)200mgを播種し撹拌して均一に混合して、フェヌグリーク麹原料を得た。
【0071】
前記フェヌグリーク麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記フェヌグリーク麹原料の発酵を行い、フェヌグリーク種子の麹菌による発酵産物(以下「フェヌグリーク麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記フェヌグリーク麹原料を撹拌した。
【0072】
<1.3.オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品>
粗粉砕したフェヌグリーク種子10gと水15gとを混合し、室温で2時間~18時間静置して、粗粉砕したフェヌグリーク種子に水を吸収させた。得られた吸水粗粉砕フェヌグリーク種子を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0073】
オカラ麹約16gと食塩4gとを予め混合した。得られた混合物を、オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子約25g及び水20gと練るように混ぜ、容器に収容した。前記容器を40℃の恒温器中に、61日後まで静置して発酵させ、食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品を得た。4日後、8日後、19日後及び61日後の各時点でサンプル採取した。
【0074】
食塩無添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品は、オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子約25gと、オカラ麹約16gと、水20gとを、練るように混ぜ、容器に収容し、前記容器を40℃の恒温器中に、61日後まで静置して発酵させることにより調製した。4日後、8日後、19日後及び61日後の各時点でサンプル採取した。
【0075】
比較例の試料(オカラ麹を添加しないフェヌグリーク種子)は、乾燥オカラ(株式会社やまみ)10gと水6gとを混合し、得られた混合物をオートクレーブ滅菌し、続いてこの混合物に、オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子約25gと、水20gとを、練るように混ぜて調製した。
【0076】
上記手順により40℃で4日間、8日間、19日間及び61日間処理後の、食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、食塩無添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品の試料中の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物を、以下の手順により分析した。
【0077】
(1)測定試料の調製
分析対象試料1gを15mL容試験管に採取し、脱イオン水を9mL添加した。試験管を振とう器で30分間撹拌した後、80%メタノールにて1000倍希釈した。希釈液を0.2μmフィルターに通し、バイアルに入れ、測定試料とした。
【0078】
(2)検量線用試料の作成
プロトジオスシン(Protodioscin)(ChromaDex)標品、ジオスゲニン(Diosgenin)(富士フイルム和光純薬)標品を80%メタノールで段階希釈し、検量線用試料を作成した。
【0079】
(3)LCMS分析条件
LC:Ultimate 3000(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
MS:Q Exactive Focus(サーモフィッシャーサイエンティフィック)
分析カラム:Unison UK-C18,150mm×3mm,3μm(Imtakt)
カラム温度:40℃、注入量:2μL、流速0.5mL/min
移動相A:0.1%ギ酸水(ギ酸、富士フイルム和光純薬)
移動相B:メタノール(LCMSグレード、関東化学)
【0080】
【表2】
MS条件:スプレー電圧3.5kV、キャピラリー温度270℃、MS scan range m/z 67-1005、イオン化モード ESIポジティブ、コリジョンエネルギー(CE)50eV、PRM測定(プリカーサーイオンを下表に示す)
【0081】
【0082】
(4)LCMSデータの解析
LCMSのPRM測定結果から、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物のプロダクトイオンを抽出し、ピーク面積を算出した。各ピークは、異性体を含む。プロトジオスシンのLCでの保持時間は15.7分、ジオスゲニンのLCでの保持時間は24分であった。ジオスゲニン骨格を持つ化合物は、LCでの保持時間がプロトジオスシンよりも長い、ジオスゲニンの保持時間までの成分のうち、LCMSのPRM測定において、ジオスゲニン骨格に特有の下記のプロダクトイオンが検出された成分である。
【0083】
【0084】
プロトジオスシン標品及びジオスゲニン標品を用いて検量線を作成した。得られた検量線に基づき、試料中のプロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度(ppm)を算出した。従って、ジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度は、ジオスゲニンとしての換算濃度である。
【0085】
オカラ麹を添加しないフェヌグリーク種子(比較例)、及び、オカラ麹の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度も同様に測定した。
【0086】
(5)結果
40℃で4日間、8日間、19日間及び61日間処理後の、食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、食塩無添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品、並びに、オカラ麹を添加しないフェヌグリーク種子(比較例)の試料中の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度(単位:ppm)を下記表及び
図1に示す。
【0087】
【0088】
オカラ麹ではプロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物は検出されなかった。
【0089】
フェヌグリーク種子には苦味の原因となるプロトジオスシンが含まれ、ジオスゲニン骨格を持つ化合物は含まれない(比較例)。オカラ麹によるフェヌグリーク種子の発酵により、プロトジオスシン濃度が低減し、苦味が抑制されることが確認された。オカラ麹によるフェヌグリーク種子の発酵では、プロトジオスシン濃度の低減に伴い、ジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度が上昇した。ジオスゲニン骨格を持つ化合物は、プロトジオスシンの分解により生じるジオスシン、プロサポゲニン、ジオスゲニン等であると推定される。
食塩を添加しないオカラ麹は、食塩を添加したオカラ麹よりも、フェヌグリーク種子のプロトジオスシンを分解する活性が高いことが確認された。
【0090】
(6)ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの測定
更に、上記のオカラ麹によるフェヌグリーク種子加工物の、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの含有量を以下の手順で測定した。プロトジオスシンの測定方法及び測定結果は上記(5)と同じである。
【0091】
ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンはいずれもプロトジオスシンの分解に伴い生じる、ジオスゲニン骨格を持つ化合物である。測定は以下の手順で行った。試料から、上記(1)に記載の手順で測定試料を調製し、(3)に記載の条件でLCMS分析を行った。プロトジオスシン、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの前駆体イオン(プリカーサーイオン)及びプロダクトイオンを下記表に示す。
【0092】
【0093】
【0094】
検量線用の試料は、プロトジオスシン(Protodioscin)(ChromaDex)標品、ジオスシン(Dioscin)(ChromaDex)標品、ジオスゲニン(Diosgenin)(富士フイルム和光純薬)標品を80%メタノールで段階希釈し、調製した。
【0095】
LCMSのPRM測定結果から、プロトジオスシン、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンのプロダクトイオンを抽出し、ピーク面積を算出した。各ピークは、異性体を含む。プロサポゲニンはプロサポゲニンA及びプロサポゲニンBの一方又は両方を含み、プロサポゲニン量はそれらの総量である。
【0096】
前記検量線用試料を用いて作製したプロトジオスシン、ジオスシン及びジオスゲニンの検量線に基づき、試料中のプロトジオスシン、ジオスシン及びジオスゲニンの濃度(ppm)を算出した。また、プロサポゲニンの濃度(ppm)は、ジオスシンの検量線を用いて、プロサポゲニンのプロダクトイオンのピーク面積値から算出した。
【0097】
【0098】
<1.4.フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品>
粗粉砕したフェヌグリーク種子10gと水15gとを混合し、室温で2時間~18時間静置して、粗粉砕したフェヌグリーク種子に水を吸収させた。得られた吸水粗粉砕フェヌグリーク種子を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0099】
フェヌグリーク麹約25gと食塩4gとを予め混合した。得られた混合物を、オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子約25g及び水20gと練るように混ぜ、容器に収容した。前記容器を40℃の恒温器中に3日間静置して発酵を行い、食塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品を得た。なお、後述する試験4では、前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子のオートクレーブ滅菌後に60℃程度以下となるまで放冷したのに対し、本試験における放冷温度は試験4よりも高い。
【0100】
上記の手順により40℃で3日間処理後の食塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、上記1.3.に記載の手順により40℃で3日間処理後の食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工品の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度を測定した。各成分の測定方法は上記1.3.に記載の通りである。
【0101】
比較のため、フェヌグリーク麹の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度(麹中の濃度)も同様に測定した。
【0102】
測定結果を下記表に示す。
【0103】
【0104】
フェヌグリーク麹には、苦味の原因となるプロトジオスシンが含まれることが確認された。一方、上記1.3.の比較例で確認された通りフェヌグリーク種子にもプロトジオスシンが含まれる。
【0105】
食塩を添加したフェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子の発酵により、プロトジオスシン濃度が低減し、ジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度が上昇したことが確認された。3日間処理後の時点ではフェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工物ではプロトジオスシンは残存していたが、長期間発酵を行った場合は、上記1.3.でのオカラ麹を用いた試験と同様に、プロトジオスシン濃度は検出限界以下になることが、試験4において確認された。
【0106】
更に、上記の40℃で3日間処理後のフェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工物の、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの含有量を以下の手順で測定したところ、ジオスシンが33ppm、プロサポゲニンが707ppm、ジオスゲニンが58ppmであった。なお上記の通りプロトジオスシン含有量は462ppmであった。本試験での各成分の含有量の、試験4での3日間処理後の各成分の含有量との違いは、上記の放冷温度の違いによるものである可能性がある。
【0107】
更に、上記の40℃で3日間処理後の食塩添加オカラ麹によるフェヌグリーク種子加工物の、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの含有量を以下の手順で測定したところ、ジオスシンが591ppm、プロサポゲニンが45ppm、ジオスゲニンが33ppmであった。なお上記の通りプロトジオスシン含有量は534ppmであった。
【0108】
ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの測定方法は、上記1.3.(6)に記載の通りである。
【0109】
<2.試験2>
<2.1.オカラ麹の調製方法>
乾燥オカラ(株式会社やまみ)10gと水6gとを均一に混合した。得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0110】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記混合物に、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む市販の種麹80mgを接種し、撹拌して均一に混合して、オカラ麹原料を得た。ここで、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む市販の種麹として、「白麹1号菌」(商品名、株式会社秋田今野商店)、「雪こまち」(商品名、株式会社秋田今野商店)、及び、「アグリコン」(商品名、株式会社秋田今野商店)のいずれかを用いた。
【0111】
前記オカラ麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記オカラ麹原料の発酵を行い、オカラの麹菌による発酵産物(以下「オカラ麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記オカラ麹原料を撹拌した。
【0112】
<2.2.フェヌグリーク抽出液の調製方法>
フェヌグリーク種子を粗砕し、胚部分を選別し、得られた胚10gに温水90mLを添加した混合液中で抽出を行った。前記混合液を遠心し、上清部分を回収し、フェヌグリーク抽出液を得た。
【0113】
<2.3.オカラ麹による、苦味成分プロトジオスシンの分解活性>
上記2.1.で調製したオカラ麹0.5gを15mL容試験管に秤取り、上記2.2.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLを混合して、反応液とした。得られた反応液を、55℃の恒温器内で18時間もしくは3日間静置した。
【0114】
ポジティブコントロール試験:β-グルコシダーゼを含む市販の酵素製剤(商品名「セルラーゼSS」、ナガセケムテックス株式会社)18.75μLと、上記2.2.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLとを混合した反応液を、55℃の恒温器内で18時間もしくは3日間静置した。
【0115】
ネガティブコントロール試験:上記2.2.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLを、55℃の恒温器内で18時間もしくは3日間静置した。
【0116】
各試験区の反応液の試料1gを15mL容試験管に採取し、メタノールを9mL添加した。試験管を振とう器で30分間撹拌した後、80%メタノールにて1000倍希釈した。希釈液を0.2μmフィルターに通し、バイアルに入れ、LC-MS測定のための測定試料とした。
【0117】
上記1.3.の(2)~(4)に記載の手順により、前記測定試料中のプロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度を測定した。
【0118】
各試験区の反応液中の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度の測定結果(単位:ppm)を下記表及び
図2に示す。
【0119】
【0120】
上記表及び
図2の結果から、オカラ麹は、市販の3種の種麹のいずれを用いて調製した場合でも、フェヌグリーク抽出液中のプロトジオスシンを分解する活性が高いことが確認された。
【0121】
<3.試験3>
<3.1.フェヌグリーク麹の調製方法>
フェヌグリーク種子10gと水15gとを混合し、室温で18時間静置し、フェヌグリーク種子に水を吸収させた。得られた吸水フェヌグリーク種子を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0122】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記吸水フェヌグリーク種子に、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む市販の種麹(商品名「白麹1号菌」、株式会社秋田今野商店)200mgを播種し撹拌して均一に混合して、フェヌグリーク麹原料を得た。
【0123】
前記フェヌグリーク麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記フェヌグリーク麹原料の発酵を行い、フェヌグリーク種子の麹菌による発酵産物(以下「フェヌグリーク麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記フェヌグリーク麹原料を撹拌した。
【0124】
<3.2.豆麹の調製方法>
一晩吸水させた大豆30gを121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0125】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記大豆に、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む、上記3.1.で用いた市販の種麹300mgを接種し、撹拌して均一に混合して、豆麹原料を得た。
【0126】
前記豆麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記豆麹原料の発酵を行い、大豆の麹菌による発酵産物(以下「豆麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記豆麹原料を撹拌した。
【0127】
<3.3.米糠麹の調製方法>
米糠10gと水6gとを混合し、得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0128】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記混合物に、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む、上記3.1.で用いた市販の種麹80mgを播種し撹拌して均一に混合して、米糠麹原料を得た。
【0129】
前記米糠麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記米糠麹原料の発酵を行い、米糠の麹菌による発酵産物(以下「米糠麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記米糠麹原料を撹拌した。
【0130】
<3.4.小麦ふすま麹の調製方法>
小麦ふすま10gと水6gとを混合し、得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0131】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記混合物に、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む、上記3.1.で用いた市販の種麹80mgを播種し撹拌して均一に混合して、小麦ふすま麹原料を得た。
【0132】
前記小麦ふすま麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記小麦ふすま原料の発酵を行い、小麦ふすまの麹菌による発酵産物(以下「小麦ふすま麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記小麦ふすま麹原料を撹拌した。
【0133】
<3.5.ゴマ麹の調製方法>
ゴマ10gと水6gとを混合し、得られた混合物を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0134】
オートクレーブ滅菌後に放冷させた前記ゴマに、麹菌アスペルギルス・オリゼを含む、上記3.1.で用いた市販の種麹80mgを接種し、撹拌して均一に混合して、ゴマ麹原料を得た。
【0135】
前記ゴマ麹原料を収容した容器を、2日間、35℃の恒温器内に置き、麹菌を培養して前記ゴマ麹原料の発酵を行い、ゴマの麹菌による発酵産物(以下「ゴマ麹」と称する)を得た。発酵の途中で一回、前記ゴマ麹原料を撹拌した。
【0136】
<3.6.フェヌグリーク抽出液の調製方法>
上記2.2.に記載の手順によりフェヌグリーク抽出液を調製した。
【0137】
<3.7.各種麹による、苦味成分プロトジオスシンの分解活性>
上記3.1.~3.5.で調製した麹0.5gを15mL容試験管に秤取り、上記3.6.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLを混合して、反応液とした。得られた反応液を55℃の恒温器内で3日間静置した。
【0138】
ポジティブコントロール試験:β-グルコシダーゼを含む市販の酵素製剤(商品名「セルラーゼSS」、ナガセケムテックス株式会社)18.75μLと、上記3.6.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLとを混合した反応液を、55℃の恒温器内で3日間静置した。
【0139】
ネガティブコントロール試験:上記3.6.で調製したフェヌグリーク抽出液4.5mLを、55℃の恒温器内で3日間静置した。
【0140】
各試験区の反応液中のプロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度を、上記2.3.に記載の手順により測定した。
【0141】
各試験区の反応液中の、プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度の測定結果を下記表及び
図3に示す。ポジティブコントロール試験の反応液と、フェヌグリーク麹とフェヌグリーク種子抽出液との反応液では、プロトジオスシンは検出限界以下であった。
【0142】
【0143】
上記表及び
図3の結果から、豆麹、米糠麹、フェヌグリーク麹、小麦ふすま麹及びゴマ麹は、フェヌグリーク抽出液中のプロトジオスシンを分解し、ジオスゲニン骨格を持つ化合物を生成する活性が高く、なかでもフェヌグリーク麹は前記活性が特に高いことが確認された。
【0144】
更に、上記の3日間処理後の各試験区の反応液の、プロトジオスシン、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの含有量を上記1.3.(6)に記載の手順により測定した。結果を下記表に示す。
【0145】
【0146】
ポジティブコントロール試験の反応液、及び、米糠麹、豆麹、小麦ふすま麹又はゴマ麹とフェヌグリーク種子抽出液との反応液では、プロトジオスシンの分解物としてはジオスシンが検出され、プロサポゲニン及びジオスゲニンは検出限界以下であった。これに対し、フェヌグリーク麹とフェヌグリーク種子抽出液との反応液では、プロトジオスシンの分解物としてはプロサポゲニンが検出されジオスシン及びジオスゲニンは検出限界以下であった。
【0147】
<4.試験4>
<4.1.フェヌグリーク麹の調製方法>
上記1.2.に記載の手順により、フェヌグリーク種子の麹菌による発酵産物(フェヌグリーク麹)を調製した。
【0148】
<4.2.フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品>
粗粉砕したフェヌグリーク種子10gと水15gとを混合し、室温で2時間~18時間静置して、粗粉砕したフェヌグリーク種子に水を吸収させた。得られた吸水粗粉砕フェヌグリーク種子を121℃で15分間オートクレーブ滅菌した。
【0149】
上記4.1.に記載のフェヌグリーク麹約25gと食塩4gとを予め混合した。得られた混合物を、オートクレーブ滅菌後に60℃程度以下まで放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子約25g及び水20gと練るように混ぜ、容器に収容した。前記容器を40℃の恒温器中にて31日後まで静置して発酵を行い、食塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品を得た。3日後、12日後、20日後及び31日後の各時点でサンプル採取した。
【0150】
一方、上記4.1.に記載のフェヌグリーク麹25gを、オートクレーブ滅菌後に60℃程度以下まで放冷させた前記吸水粗粉砕フェヌグリーク種子25g及び水20gと練るように混ぜ、容器に収容した。前記容器を40℃の恒温器中にて31日後まで静置して発酵を行い、食無塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品を得た。3日後、12日後、20日後及び31日後の各時点でサンプル採取した。
【0151】
上記の食塩添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品、及び、食塩無添加フェヌグリーク麹によるフェヌグリーク種子加工品の、各時点で採取したサンプルの、プロトジオスシン、ジオスゲニン骨格を持つ化合物、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの濃度を測定した。各成分の測定方法は上記1.3.に記載の通りである。
【0152】
プロトジオスシン及びジオスゲニン骨格を持つ化合物の測定結果を下記表及び
図4に示す。
【0153】
【0154】
プロトジオスシン、ジオスシン、プロサポゲニン及びジオスゲニンの測定結果を下記表に示す。プロトジオスシンの測定結果は上記表及び
図4に示したものである。
【0155】
【0156】
試験1では、フェヌグリーク種子にはプロトジオスシンが含まれ、ジオスゲニン骨格を有する化合物は検出限界以下であることが確認されている。
【0157】
試験4では、フェヌグリーク麹によりフェヌグリーク種子を処理する反応において、経時的にプロトジオスシン濃度が低減し、ジオスゲニン骨格を持つ化合物の濃度が上昇したことが示された。プロトジオスシンがジオスゲニン骨格を持つ化合物に転換される速度は、食塩を添加した場合と比較して、食塩を添加しない場合に高い傾向が見られた。また、ジオスゲニン骨格を持つ化合物のうちジオスシンは、31日間の反応の初期に検出されたが、後期には検出限界以下となったのに対し、プロサポゲニン及びジオスゲニンの濃度は、31日間の反応の初期に増加し、後期においても維持された。