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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074261
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】自浄性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240523BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240523BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240523BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240523BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20240523BHJP
   C09D 127/14 20060101ALI20240523BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20240523BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240523BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/63
C09D7/61
C09D183/04
C09D127/14
C09D127/16
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023192738
(22)【出願日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】22208237.2
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヨン ビン チョン
(72)【発明者】
【氏名】コン チン チュウ
(72)【発明者】
【氏名】ジャア ウェン ハー
(72)【発明者】
【氏名】マデリン クリスタベル
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CD091
4J038CD111
4J038CD121
4J038CG001
4J038CG142
4J038DB001
4J038DD001
4J038DG302
4J038DH002
4J038DL031
4J038DL032
4J038DL072
4J038DL172
4J038EA011
4J038HA216
4J038JB01
4J038JB34
4J038KA03
4J038KA08
4J038KA15
4J038KA20
4J038MA06
4J038MA14
4J038NA05
4J038NA07
4J038PA19
4J038PB05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な堅牢性を有し、使いやすく、複数のコーティング工程を必要としない、自浄性のコーティング組成物を提供する。
【解決手段】ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシ、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレア、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはそれらの混合物でできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、一次粒子径が5nm~50nmの範囲である無機酸化物でできた、2~12重量%のナノ粒子、前記ポリマーバインダーに対して反応性である、0~15重量%の架橋剤、0~20重量%の顔料および/または充填剤、ならびに40~60重量%の有機溶媒を含むコーティング組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシ、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、
(b)ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレア、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはそれらの混合物でできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、
(c)一次粒子径が5nm~50nmの範囲である無機酸化物でできた、2~12重量%のナノ粒子、
(d)前記成分(a)に対して反応性である、0~15重量%の架橋剤、
(e)0~20重量%の顔料および/または充填剤、
(f)40~60重量%の有機溶媒
を含むコーティング組成物。
【請求項2】
前記成分(a)は、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される、請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
前記成分(a)は、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、請求項2記載のコーティング組成物。
【請求項4】
前記成分(b)は、ポリアミドまたはポリメチルメタクリレートでできている、請求項1~請求項3のいずれか一項記載のコーティング組成物。
【請求項5】
前記成分(c)は、SiO、Al、MgO、ZrOまたはZnOでできている、請求項1~請求項4のいずれか一項記載のコーティング組成物。
【請求項6】
前記成分(c)は、ポリシロキサン、アルキルシランおよびフッ素化アルキルシランからなる群から選択される疎水性材料で表面処理されている、請求項5記載のコーティング組成物。
【請求項7】
前記成分(c)は、ポリジメチルシロキサン、ジメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリメトキシシランおよびヘキサデシルトリメトキシシランからなる群から選択される疎水性材料で表面処理されている、請求項6記載のコーティング組成物。
【請求項8】
前記ナノ粒子に対する前記マイクロ粒子の重量比が15:1~3:1の範囲である、請求項1~請求項7のいずれか一項記載のコーティング組成物。
【請求項9】
前記成分(d)は、アミン、メラミンまたはブロックイソシアネートである、請求項1~請求項8のいずれか一項記載のコーティング組成物。
【請求項10】
コイルコーティング組成物である、請求項3記載のコーティング組成物。
【請求項11】
前記成分(a)は、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択され、
前記成分(b)は、ポリアミドまたはポリメチルメタクリレートからできており、
前記成分(c)は、SiOまたはZrOでできており、ポリシロキサンで表面処理されており、
前記成分(d)は、ブロックイソシアネートである、
請求項10記載のコーティング組成物。
【請求項12】
200℃~250℃のピーク金属温度(PMT)で金属コイルをコーティングするための、請求項10または請求項11記載のコーティング組成物の使用。
【請求項13】
請求項10または請求項11記載のコーティング組成物で金属コイルをコーティングする方法であり、
金属表面を下塗りし、金属コイルを200℃~250℃のピーク金属温度(PMT)まで加熱し、200℃~250℃のピーク金属温度(PMT)で前記コーティング組成物を適用し、前記コーティング組成物が硬化するまで前記ピーク金属温度を保持する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロサイズおよびナノサイズの粒子を含む自浄性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングとは、下にある基材を保護し、耐食性、装飾性および/または洗浄のしやすさなどのさまざまな機能に影響を与えるために使用される層またはフィルムを指す。コーティングは、さまざまな業界で広く使用されており、刷毛、吹き付け、浸漬およびローラーなどのさまざまな方法で適用され得る。
【0003】
用語「コイルコーティング」とは、連続ローラーコーティング法によって適用される金属板へのコーティングを指す。コイルコーティング法には、200℃(最高金属温度)を超える高温焼成工程と短い焼成持続時間(通常、60秒未満)とが必要である。コーティングされた金属基板は、さまざまな産業用または家庭用用途で必要とされる最終的なサイズおよび形状に成形される。
【0004】
米国特許第9,388,325号明細書は、着氷耐性を備え、ほぼ透明な、高耐久性であり超疎水性であり疎油性である表面を作り出す、疎水性および/または疎油性のエラストマー性コーティングを開示している。そのコーティング系は、2つの異なる成分で構成されている。1つめのエラストマー性成分は、1つまたは複数のスチレン系ブロックコポリマーと、大きさが約30μm~約225μmである粒子(0.01~5重量%)とを含んでいる。2つめの成分は、金属酸化物、ケイ酸塩、1つまたは複数のシラン化剤で処理された半金属の酸化物から構成される、大きさが約1nm~約200nmである粒子を含んでいる。第一のエラストマー性成分は、土台コーティングを形成するために適用でき、第二成分は、コーティングに疎水性と疎油性を与える。第二成分は、それが濡れていたり、粘ついていたり、触っても乾燥していたり、または完全に乾燥および硬化していたりする場合に、土台コーティングに適用される。コーティング系においてその二成分を組み合わせると、超疎水性の表面が得られる。土台コートがエラストマー性コーティングを含んでいるため、コーティング系全体のテーバー摩耗特性が乏しい可能性がある。二成分コーティング系/層のために、追加の工程および方法が必要となるが、これは多くの用途にとって望ましくない。
【0005】
米国特許第8,202,614号明細書は、超疎水性の添加剤粒子、コーティング、ならびにその製造方法および使用方法に関する。十分な量のこれらの添加剤粒子をコーティングに組み込むことにより、あらゆる基材に適した多用途の超疎水性コーティングを作製できる。添加剤粒子は、添加剤粒子とコーティング材料との合計重量に対し約5~20重量%の量で、コーティング材料に組み込まれる。コーティングポリマー材料は、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマー、ならびにポリウレタンおよび市販のエポキシ塗料などの硬化性ポリマーから選択される。最終コーティング配合物への添加剤粒子の組み込みは、添加剤粒子を市販のコーティング材料に直接ブレンドすることにより行われる。あるいは、表面にコーティングを鋳造して約2分後、完全に硬化する前に、添加剤粒子をそのコーティングの上面に適用する。二重形態の添加剤粒子を作製する2つの方法が開示されている。第一に、アミノ官能化シリカナノ粒子とエポキシ官能化シリカマイクロ粒子とを反応させることにより添加剤粒子を生成する。第二に、陰イオン性シリカナノ粒子を陽イオン性マイクロシリカ担体粒子(例:アンモニウム官能化シリカ)に堆積させた。添加剤粒子をコーティング配合物に混合すると、それらは主にコーティングの露出表面に集中すると予想される。固体粒子と比較して密度が低い中空粒子を使用することにより、配合物が基材にコーティングされるときに、より多くのマイクロ粒子が表面に移動することができる。米国特許第8,202,614号明細書は、二重形態添加剤粒子の合成と、そのような粒子がそれらの粒子を含むコーティングの高水接触角にどう関係しているかと、に主に焦点を当てている。二重形態粒子の大きさに起因して、硬化したコーティングは、容易に損傷を受け得る粗雑な形態となる。二重形態粒子の合成には、多段階方法が必要である。そのコーティングには、自浄性はあるが、耐久性がない。さらに、二重形態粒子を製造するための多段階方法により、最終配合物のコストが増大し得る。市販の中空シリカマイクロ粒子は、外装建築用コイルコーティングといった多くの用途には大きすぎる。
【0006】
従来技術は、構造粒子で構造表面を作製すること、またはさまざまな粒子で複数のコーティング層を作製することに焦点を当てている。従来技術の主な欠点は、追加工程またはコーティング工程を必要とし、これらの配合物の全体コストが増大し得る点である。さらに、粗雑な形態によって高水接触角および/または疎水性を得ているが、粗雑な形態は、堅牢性を低下させることが当技術分野で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第9,388,325号明細書
【特許文献2】米国特許第8,202,614号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、従来技術のコーティングの欠点が少なくとも軽減され、良好な堅牢性を有し、使いやすく、複数のコーティング工程を必要としない、自浄性のコーティング組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本目的は、
(a)ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシ、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、
(b)ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレア、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはそれらの混合物でできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、
(c)一次粒子径が5nm~50nmの範囲である無機酸化物でできた、2~12重量%のナノ粒子、
(d)成分(a)に対して反応性である、0~15重量%の架橋剤、
(e)0~20重量%の顔料および/または充填剤、
(f)40~60重量%の有機溶媒
を含むコーティング組成物により達成される。
【0010】
成分(a)~成分(e)の重量パーセントは、溶媒を一切含まないこれらの成分の固形分を表す。
【0011】
組成物中の成分(a)~成分(f)の合計は、100重量%に等しい。
【0012】
平均粒径d50は、ISO13320-1に準拠して測定される。
【0013】
ナノ粒子の一次粒径は、ISO21363に準拠して測定される。一次粒径は、ナノ粒子そのものを表し、凝集したナノ粒子を表すものではない。
【0014】
用語「シリコーンハイブリッド」バインダーは、シリコーンと、他のポリマー(例えば、シリコーンエポキシ、シリコーンポリエステルまたはシリコーンアクリル)とを含むポリマーバインダーを意味する。
【0015】
驚くべきことだが、ポリマーマイクロ粒子と無機ナノ粒子を併用すると、単一のコーティング工程で自浄性が得られるだけでなく、マイクロ粒子およびナノ粒子を含まないコーティングと比較して、耐引掻性および耐化学性も保たれる。
【0016】
ポリマーマイクロ粒子と無機ナノ粒子がコーティング組成物中に別々に存在すること、すなわち、別個の成分として存在し、複合材料(例えば、無機酸化物ナノ粒子が添加されたポリマーの溶融物から製造されたもの)として存在しないことに留意することが重要である。
【0017】
各種の粒子は、本発明によるコーティング組成物中に独立に分散され、これにより、自浄性の驚くべき相乗効果が生じる。
【0018】
別々のマイクロ粒子とナノ粒子とを本発明に従って使用すると、特徴的な粗さを持つ独特の構造表面が形成され、それにより、汚れを簡単に洗い流すことができる撥水層のみならず、優れた機械的および化学的耐性も生み出される。
【0019】
好ましくは、本発明によるコーティング組成物中の成分(a)は、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される。より好ましくは、本発明によるコーティング組成物中の成分(a)は、フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択されるフルオロポリマーである。
【0020】
好ましくは、本発明によるコーティング組成物中の成分(b)は、ポリアミドまたはポリメチルメタクリレートでできたマイクロ粒子である。最も好ましくは、本発明によるコーティング組成物中の成分(b)は、ポリアミドでできたマイクロ粒子である。
【0021】
予期せぬことに、本発明によるコーティング組成物がポリアミドでできたマイクロ粒子を含む場合に、コイルコーティングに通常使用される、メチルエチルケトン(MEK)などの溶媒に対する耐化学性が大幅に向上することが分かった。
【0022】
成分(b)の別の好ましい実施形態では、マイクロ粒子は、5μm~60μmの範囲の平均粒径d50を有する。より好ましくは、本発明によるコーティング組成物に使用されるマイクロ粒子の平均粒径d50は、5μm~40μmの範囲である。
【0023】
成分(c)は、無機酸化物でできたナノ粒子である。好ましいナノ粒子は、SiO、Al、MgO、ZrOまたはZnOから選択される。最も好ましくは、ナノ粒子はSiOでできている。
【0024】
本発明によるコーティング組成物の別の好ましい実施形態では、ナノ粒子は、ポリシロキサン、アルキルシランまたはフッ素化アルキルシランから選択される疎水性材料で表面処理されている。アルキルシランまたはフッ素化アルキルシランは、好ましくは1~40個の炭素原子を含む。より好ましくは、成分(c)のナノ粒子は、ポリジメチルシロキサン、ジメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルトリメトキシシランおよびヘキサデシルトリメトキシシランからなる群から選択される疎水性材料で表面処理されている。
【0025】
したがって、本発明によるコーティング組成物は、以下を含むことが好ましい。
(a)ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシ、シリコーン、シリコーンハイブリッドおよびフルオロポリマーからなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、
(b)ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレア、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレンまたはそれらの混合物でできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、
(c)SiO、Al、MgO、ZrOまたはZnOから選択され、一次粒子径が5nm~50nmの範囲であり、ポリシロキサン、アルキルシランまたはフッ素化アルキルシランから選択される疎水性材料で表面処理された、2~12重量%のナノ粒子、
(d)成分(a)に対して反応性である、0~15重量%の架橋剤、
(e)0~20重量%の顔料および/または充填剤、
(f)40~60重量%の有機溶媒。
【0026】
成分(a)~(e)の重量パーセントは、溶媒を含まないこれらの成分の固形分を表し、組成物中の成分(a)~成分(f)の合計は、100重量%に等しい。
【0027】
好ましくは、本発明による組成物は、2~10重量%のナノ粒子、2~8重量%のナノ粒子、2~7重量%のナノ粒子、または最も好ましくは2~6重量%のナノ粒子を含む。ナノ粒子に対するマイクロ粒子の重量比は、好ましくは15:1~3:1の範囲、より好ましくは12:1~3:1の範囲、最も好ましくは10:1~3:1の範囲である。
【0028】
本発明による組成物の成分(d)は、成分(a)に対して反応性の架橋剤である。一部のポリマーバインダーは、架橋剤(例:PVDF)を必要としないため、成分(d)は任意の成分である。成分(d)は、好ましくは、アミン、メラミンおよびブロックイソシアネートから選択される。イソシアネートは、メチルエチルケトキシム、アセトンオキシム、ジメチルマロネートまたはカプロラクタムなどの化学薬品でブロック化できる。最も好ましくは、架橋剤はブロックイソシアネートである。架橋剤/バインダーのモル比は、好ましくは、バインダーの反応性基に対する架橋剤の反応性基が0.8~1.3当量の範囲である。
【0029】
本発明による組成物の成分(e)は、顔料および/または充填剤である。このような顔料および/または充填剤は、配合されたコーティングの色要件に応じて、二酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、硫酸バリウムおよび他の金属酸化物であり得る。顔料および充填剤は、粒子形態であってもよいが、そのような顔料または充填剤はナノ粒子ではないため、成分(c)とは異なる。顔料および充填剤はマイクロ粒子であってもよいが、そのようなマイクロ粒子はポリマーではないため、成分(b)とは異なる。
【0030】
本発明による組成物の成分(f)は、有機溶媒、または酸素化溶媒と炭化水素溶媒との両方を含む有機溶媒の混合物であり、いずれにせよ、最終的なコーティング配合物に適したものである。適切な有機溶媒の例は、ナフサ、アルキルベンゼン、イソホロン、シクロヘキサノンまたはグリコールエーテルである。
【0031】
好ましくは、本発明によるコーティング組成物はコイルコーティング組成物であり、成分(a)はフルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される。
【0032】
本発明によるコーティング組成物は、コイルコーティング産業に、乏しい耐汚れ付着性を解決するための全く新しい技術を提供する。驚くべきことに、本発明は、疎水性コーティング組成物だけでなく、親水性コーティング組成物でも機能する。
【0033】
本発明によるコイルコーティング組成物は、好ましくは以下を含む。
(a)フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、
(b)ポリアミド、ポリメチルメタクリレートまたはそれらの混合物でできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、
(c)SiO、Al、MgO、ZrOまたはZnOから選択され、一次粒子径が5nm~50nmの範囲であり、ポリシロキサン、アルキルシランまたはフッ素化アルキルシランから選択される疎水性材料で表面処理された、2~12重量%のナノ粒子、
(d)成分(a)に対して反応性である、0~15重量%の架橋剤、
(e)0~20重量%の顔料および/または充填剤、
(f)40~60重量%の有機溶媒。
【0034】
成分(a)~(e)の重量パーセントは、溶媒を一切含まないこれらの成分の固形分を指し、組成物の成分(a)~(f)の合計は100重量%に等しい。
【0035】
このようなコーティング系は高価格で販売されており、優れた耐候性を備えているにもかかわらず、主に外装建築用途向けの高性能フルオロポリマーセグメントでの満足のいく自浄性コイルコーティング系は知られていない。本発明によるコイルコーティング組成物は、フルオロポリマーバインダー系にマイクロ粒子とナノ粒子を組み込むことにより、そのような自浄性コイルコーティング系を提供することができる。本発明によるコイルコーティング組成物は、一段階法で適用され、金属コイルに優れた自浄性を付与する。
【0036】
本発明によるコイルコーティング組成物は、好ましくは、成分(a)がフルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択され、成分(b)がポリアミドまたはポリメチルメタクリレートでできており、成分(c)がポリシロキサンで表面処理されたSiOまたはZrOでできており、成分(d)がブロックイソシアネートであることを特徴とする。本発明によるコイルコーティング組成物は、以下を含むことが好ましい。
(a)フルオロエチレンビニルエーテル(FEVE)およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群から選択される、5~15重量%のポリマーバインダー、
(b)ポリアミドまたはポリメチルメタクリレートでできており、平均粒径d50が5μm~60μmの範囲である、20~40重量%のマイクロ粒子、
(c)一次粒子径が5nm~50nmの範囲であるSiOまたはZrOから選択され、ポリシロキサンで表面処理された、2~12重量%のナノ粒子、
(d)成分(a)に対して反応性であり、ブロックイソシアネートから選択される、0~15重量%の架橋剤、
(e)0~20重量%の顔料および/または充填剤、
(f)40~60重量%の有機溶媒。
成分(a)~(e)の重量パーセントは、溶媒を一切含まないこれらの成分の固形分を指し、組成物の成分(a)~(f)の合計は100重量%に等しい。
【0037】
本発明によるコイルコーティング組成物は、200℃~250℃の最高金属温度(PMT)で金属コイルをコーティングするために使用することができる。
【0038】
本発明は、本発明によるコーティング組成物で金属コイルをコーティングする方法も包含する。このような方法は、金属表面を下塗りし、金属コイルを200℃~250℃の最高金属温度(PMT)まで加熱し、200℃~250℃の最高金属温度(PMT)でコーティング組成物を適用し、コーティング組成物が硬化するまでその最高金属温度を保持する工程を含む。
【0039】
標準的なコイルコーティングと比較して、本発明による粒子系コイルコーティング組成物は、自然耐候試験(ASTM G7)により示される優れた耐汚れ付着性を有する。優れた耐汚れ付着性とは別に、鉛筆硬度(ASTM D3363)などの粒子系コイルコーティングの機械的特性は、標準フルオロポリマーコイルコーティングの機械的特性と同様である。
【0040】
当技術分野で知られている液体疎水性添加剤をこれらのコーティングに添加しても、耐汚れ付着性が乏しいという課題は改善されなかった。液体疎水性添加剤を使用すると、水接触角が大きくなるが、必ずしも自浄性が向上するとは限らない。液体疎水性添加剤を使用したコーティング組成物に自浄効果がある場合でも、液体疎水性添加剤は時間の経過とともに浸出し得るので、自浄効果は持続しない。
【0041】
超疎水性の表面は撥水性が高く、自浄性を発揮する。超疎水性表面を作製する最も一般的な技術には、エッチング、リソグラフィー、およびゾルゲル法がある。しかし、このような方法は通常、拡張性がなく、高価であるか、または厳格なプロセス制御が必要である。他の従来技術とは異なり、本発明は、機械的に堅牢で拡張性があり、そして多くの工業コーティング用途に適した粒子系組成物によるアプローチに焦点を当てている。このアプローチは、優れた機械的および化学的耐性とともに、優れた自浄性を備えたコーティング配合物を実現できることも示している。
【0042】
本発明による粒子系コイルコーティングの自浄性により、外装建築用コーティングなどの高性能フルオロポリマーコイルコーティング用途に必要な洗浄およびメンテナンスが少なくなり、低コストでの長期耐久性が示される。構造表面は、別の深みのあるマットな触感も提供する。
【0043】
本発明は、乏しい耐汚れ付着性が依然として未解決の既存の課題である、外装建築コーティング用の高性能コイルコーティングセグメントに使用することができる。さらに、粒子系コーティングの概念は、自浄性を備えた構造表面を作製するために、工業用、輸送用および装飾用コーティングなどの他用途にも適用され得る。
【0044】
従来技術は、合成構造粒子、またはさまざまなマイクロ粒子とナノ粒子を使用する複数のコーティング工程により、構造表面を作製することに焦点を当てている。主な欠点として、これらの配合物の全体コストを増大させ得る追加工程がある。さらに、粗雑形態は堅牢性が低いことが当技術分野で知られているため、高い水接触角または超疎水特性は持続しない。
【0045】
本発明によるこのコーティング組成物は、コイルコーティング産業に、乏しい耐汚れ付着性を解決するための全く新しい技術を提供する。
【実施例0046】
本発明による粒子系コイルコーティング配合物は、表1に示す内容で配合された。追加の溶媒を使用して配合物の粘度を調整し、コーティング適用を容易にしてもよい。
【0047】
【表1】
【0048】
平均粒径d50は、ISO13320-1に準拠して測定した。
【0049】
ナノ粒子の大きさは、凝集したナノ粒子の大きさではなく、一次粒子の大きさで表される。一次粒子径は、ISO21363に準拠して測定した。
【0050】
コーティング工程は次の条件で実施した。
以下のすべての実験例では、最高金属温度(PMT)224℃の焼成条件下、厚さ7~10μmの市販のポリエステル下塗りコーティングをアルミニウム基板に適用した。
【0051】
表2に示すコーティング配合物を、最高金属温度(PMT)232℃の焼成条件下、下塗りコーティング上にコーティングした。粒子系コイルコーティング層の最終的な厚さは25~35μmであった。
【0052】
【表2】
【0053】
ポリマーバインダーについて示された重量パーセントは、バインダー固形分を指す。マイクロ粒子またはナノ粒子が溶媒中に存在する場合、重量パーセントは固形分を指す。同様に、架橋剤と顔料の重量パーセントも固形分を指す。
【0054】
【表3】
【0055】
水接触角はASTM D7334に準拠して測定した。
コーティングの厚さは、ASTM B244に準拠して測定した。
MEK摩擦試験は、ASTM D7835に準拠して実施した。
鉛筆硬度は、ASTM D3363に準拠して測定した。
3ヵ月の自然暴露試験は、ASTM G7に準拠して実施した。
【0056】
コーティング組成物1は、マイクロ粒子もナノ粒子も含まない対照として機能する。コーティング組成物2~6は、本発明による様々な種類および量のマイクロ粒子およびナノ粒子を含んでいる。コーティング組成物7は、マイクロ粒子のみを含み、ナノ粒子を含まない比較例である。ナノ粒子のみを含み、マイクロ粒子を含まないコーティング組成物8は、コーティングに適さないことが分かった。得られたコーティング層は脆く、剥がれ落ち、表3に示すパラメータを測定できなかった。
【0057】
粒子を含まない組成物1を用いたコーティングの水接触角は、92°であり、したがって、水接触角が130°~145°の範囲である本発明による組成物2~6よりも著しく低かった。より高い水接触角は、粒子を含まない組成物1と比較して、本発明による組成物の疎水性がより高いことを示している。
【0058】
マイクロ粒子のみを含み、ナノ粒子を含まないコーティング組成物7は、組成物1と類似の水接触角を示した。
【0059】
本発明によるコーティング組成物2~6の厚さは、粒子を含まないコーティング組成物1と同じ範囲内である。コーティング組成物に粒子を加えても、より厚いコーティングが必要となるわけではない。
【0060】
MEK摩擦は、溶媒に対する耐化学性の尺度である。それについては、ASTM D7835に準拠して、メチルエチルケトン(MEK)を使用して試験した。本発明によるコーティング組成物2~6を使用したコーティング表面のMEK摩擦値は、マイクロ粒子がポリアミド12であり、平均粒径範囲d50が5μm~40μmである場合、コーティング組成物1と同じレベルであるか、または、非常に驚くべきことだが、劇的に向上するかのいずれかである。
【0061】
鉛筆硬度は、コーティングの耐引掻性を示す。コーティング組成物2~6に添加された粒子は、耐引掻性を低下させない。本発明による組成物でコーティングされた試料の耐引掻性は、コーティング組成物1と同じレベルに留まるか、またはコーティング組成物1よりも著しく良くなる。
【0062】
3ヵ月の自然暴露-dLは、白色コーティングでコーティングされた検体の明るさの変化を測定する。試料のコーティングに汚れが蓄積すると、コーティングの色が暗くなる。これは、ASTM G7 に準拠して分光光度計で測定できる。より高い-dL値は、より多くの汚れが付着していることを示す。したがって、より低い-dL値ほど、汚れの付着が少ないことを示す。-dL値8~9またはそれ以上の領域では、目に見える汚れの付着が生じている。
【0063】
3ヵ月の自然暴露の結果から、粒子を一切含まない対照コーティング組成物1、またはマイクロ粒子のみを含みナノ粒子を含まない比較コーティング組成物7と比べ、コーティング組成物2~6がより優れた自浄性能を有することは明らかである。機械的および化学的特性が維持されるか、または大幅に改善されると同時に、汚れの付着が少ないというこの驚くべき効果が達成されている。
【0064】
コーティング組成物1、2および4の結果を比較すると、コーティングの特性に対するマイクロ粒子のタイプによる影響がわかる。実施例2は、d50が6μmであるポリアミド12でできたマイクロ粒子Aを使用し、コーティング組成物4は、d50が28μmであるポリメチルメタクリレートでできたマイクロ粒子Cを含んでいる。組成物2および組成物4は両方とも、ポリジメチルシロキサンで処理されたヒュームドシリカナノ粒子を含んでいた。
【0065】
表3に示すように、ポリアミド12のマイクロ粒子とヒュームドシリカナノ粒子とを含むコーティング組成物2は、粒子を含まないコーティング組成物1よりもはるかに高い接触角を示し、また、マイクロ粒子のみを含みナノ粒子を含まないコーティング組成物7よりもはるかに高い接触角を示す。コーティング組成物4の水接触角はさらに大きくなり、コーティング組成物1の92°およびコーティング組成物7の93°と比較して、140°に達する。
【0066】
3ヵ月の自然暴露の結果によれば、本発明によるコーティング組成物2~6は、自浄性能の点ではるかに良好な結果を示している。コーティング組成物1では汚れの跡が非常に目立ち、その結果、-dL値が12.0と非常に高くなるが、コーティング組成物2~6は比較的きれいなままであり、?dL値は0.2~3.8の範囲と著しく低い。PA12マイクロ粒子とヒュームドシリカナノ粒子とを含むコーティング組成物2の自浄性能は、ポリメチルメタクリレートマイクロ粒子とヒュームドシリカナノ粒子とを含むコーティング組成物4と同じレベルである。
【0067】
コーティング組成物2~6に使用されたナノ粒子は、ポリジメチルシロキサンで官能化されたヒュームドシリカを含む。コーティング組成物において、そのようなナノ粒子の量を増加させると、水接触角からわかるように、コーティングの疎水性がさらに増大し得る。実施例2、5および6を比較すると、ナノ粒子に対するマイクロ粒子の比率が減少するにつれて、疎水性が増大することが明らかである。コーティング組成物2は、マイクロ粒子対ナノ粒子の比が9.3:1である。コーティング組成物5での比率は9:1である。コーティング組成物6は、マイクロ粒子対ナノ粒子の比が4.2:1である。コーティング組成物6は、これら4つの実施例の中で最も大きな接触角と最も低い汚れ付着性を示す。
【0068】
コーティングのMEK摩擦に基づく耐化学性と機械的特性とは、これらのマイクロ粒子の中で最も小さいマイクロ粒子Aを用いたコーティングで大幅に向上する。さらに、自然暴露試験の結果は、対照コーティング組成物1またはマイクロ粒子Aのみを含む比較コーティング組成物7と比ベ、著しく向上した。
【外国語明細書】