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特開2024-74282酸化膜被覆鉄粉末、造形物の製造方法、積層造形方法及び酸化膜被覆鉄粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074282
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】酸化膜被覆鉄粉末、造形物の製造方法、積層造形方法及び酸化膜被覆鉄粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240523BHJP
   B22F 10/34 20210101ALI20240523BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20240523BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240523BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240523BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20240523BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240523BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240523BHJP
【FI】
B22F1/00 S
B22F10/34
B22F1/14 600
B22F1/16
C22C38/00 301Z
C22C38/38
C22C38/00 302Z
B33Y10/00
B33Y70/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195924
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022184611
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一實
(72)【発明者】
【氏名】新川 雅樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA24
4K018BA13
4K018BC28
4K018BC33
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
(57)【要約】
【課題】レーザー光の反射率が低い鉄系粉末、上記鉄系粉末を用いた造形物の製造方法、上記鉄系粉末を用いた積層造形方法、及び、上記鉄系粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】鉄粉末と、前記鉄粉末の表面を覆う酸化膜とを有する酸化膜被覆鉄粉末であって、前記酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、前記酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、10.5質量%未満である、酸化膜被覆鉄粉末、上記鉄系粉末を用いた造形物の製造方法、上記鉄系粉末を用いた積層造形方法、及び、鉄粉末を、250~400℃の温度範囲で加熱して、前記鉄粉末の表面に、膜厚500nm以下の酸化膜を形成する工程を含む、酸化膜被覆鉄粉末の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄粉末と、前記鉄粉末の表面を覆う酸化膜とを有する酸化膜被覆鉄粉末であって、
前記酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、
前記酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、10.5質量%未満である、酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項2】
前記酸化膜の膜厚が、100~300nmである、請求項1に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項3】
前記酸化膜被覆鉄粉末中の酸素元素の含有量が、3.0~9.5質量%である、請求項1に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項4】
波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、7~25%である、請求項1に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項5】
前記酸化膜被覆鉄粉末が、0.0~1.8質量%のクロム元素と、0.2~1.8質量%のマンガン元素と、0.1~2.2質量%のシリコン元素と、0.01~2.1質量%のモリブデン元素、ニッケル元素、銅元素、ニオブ元素及びバナジウム元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素と、3.5~7.3質量%の酸素元素と、0.01~0.12質量%の炭素元素、窒素元素、リン元素及び硫黄元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素とを含有し、残部が鉄元素及び不可避的不純物からなる、請求項1に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項6】
積層造形用である、請求項1に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酸化膜被覆鉄粉末にレーザー光を照射して、前記鉄粉末を焼結又は溶融固化させて造形物を製造する、造形物の製造方法。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の酸化膜被覆鉄粉末を用いて3Dプリンタで造形する、積層造形方法。
【請求項9】
鉄粉末を、250~400℃の温度範囲で加熱して、前記鉄粉末の表面に、膜厚500nm以下の酸化膜を形成する工程を含む、酸化膜被覆鉄粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化膜被覆鉄粉末、造形物の製造方法、積層造形方法及び酸化膜被覆鉄粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属粉末を用いた積層造形法により造形物を製造する方法が注目されている。特に、金属粉末をレーザー光によって溶融しながら積層造形するL-PBF(Laser-Powder Bed Fusion)によって3次元形状の複雑な部材を一体で造形でき、新たな機能を発現できることが期待されている。
特許文献1~9には、積層造形法に用いることができる、銅又は銅合金からなる粉末や、アルミニウムからなる粉末が記載されている。
L-PBFは積み重ねられる金属粉末をレーザー光によって一層ごとに溶融しながら積層していくため、造形時間が長くなる傾向がある。更に、金属粉末がレーザー光を反射するため、レーザー光の入力エネルギーの溶融に寄与する割合が低下し、溶融にかかるエネルギーを多く消費してしまう。
特に、銅粉末はレーザー光の吸収率が低いため、銅粉末の表面に酸化被膜を形成して、吸収率を高くすることが知られている(特許文献1~4参照)。
なお、特許文献10には、鉄系材料である粉末状の基材を、酸素含有量が前記基材と比較して0.0025重量%ポイント以上0.0100重量%ポイント以下の範囲で増加するように、酸素含有雰囲気下で所定の温度範囲で加熱して、前記基材の表面に酸化皮膜を形成する、積層造形用の粉末材料の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/199110号
【特許文献2】特開2020-186429号公報
【特許文献3】特開2019-123920号公報
【特許文献4】国際公開第2019/017467号
【特許文献5】特表2021-529885号公報
【特許文献6】特開2018-178239号公報
【特許文献7】特開2017-66432号公報
【特許文献8】特開2020-94271号公報
【特許文献9】特開2016-211062号公報
【特許文献10】特開2020-59902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~9には、鉄を主成分とする粉末(鉄を60質量%以上含有する粉末。「鉄系粉末」ともいう。)については記載されていない。鉄系粉末は、銅粉末に比べてレーザー光の吸収率が高い(すなわち、レーザー光の反射率が低い)ことが知られているが、積層造形の速度をより速くするという観点などから、更にレーザー光の反射率を低くすることが望まれる。
特に、L-PBFによる積層造形では、金属粉末にレーザー光を照射して溶融させるものであるため、室温(例えば、25℃程度)の金属粉末のレーザー光の反射率が低いことと、これに加えて、高い温度に加熱された状態(例えば、250~350℃に加熱された状態)の金属粉末のレーザー光の反射率が低いことが重要である。
なお、特許文献10は、流動性を長期に渡って保つことができる積層造形用の粉末材料の製造方法に関するものであり、レーザー光の反射率については記載されていない。
本発明は、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供する。また、本発明は、上記鉄系粉末を用いた造形物の製造方法及び積層造形方法を提供する。更に、本発明は、上記鉄系粉末の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、鉄粉末と、前記鉄粉末の表面を覆う酸化膜とを有する酸化膜被覆鉄粉末であって、前記酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、前記酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、10.5質量%未満である、酸化膜被覆鉄粉末である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。また、本発明によれば、上記鉄系粉末を用いた造形物の製造方法及び積層造形方法を提供することができる。更に、本発明によれば、上記鉄系粉末の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】酸化膜被覆鉄粉末の一例の断面の模式図である。
図2】レーザー光のエネルギー密度と造形物の相対密度の関係を示すグラフである。
図3】引張試験片の外形形状を表す模式図である。
図4】レーザー光のエネルギー密度と引張強度の関係を示すグラフである。
図5】造形物の相対密度と引張強度の関係を示すグラフである。
図6】酸化膜被覆鉄粉末の表面組織のSEM画像である。
図7】酸化膜被覆鉄粉末の表面組織のSEM画像である。
図8】酸化膜被覆鉄粉末の表面組織のSEM画像である。
図9】酸化膜被覆鉄粉末の表面組織のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0009】
[酸化膜被覆鉄粉末]
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、鉄粉末と、前記鉄粉末の表面を覆う酸化膜とを有する酸化膜被覆鉄粉末であって、前記酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、前記酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、10.5質量%未満である、酸化膜被覆鉄粉末である。
【0010】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、レーザー光の反射率が低いため、レーザー光が効率よく入射することで、溶融しやすい。これにより、積層造形の際の造形速度が速くなる。
【0011】
図1は、本発明の酸化膜被覆鉄粉末の一例の断面の模式図である。酸化膜被覆鉄粉末1は、鉄粉末2と、鉄粉末2の表面を覆う酸化膜3とからなる。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、鉄粉末をコアとし、コアの表面を酸化膜が被覆している。酸化膜被覆鉄粉末の形状は特に限定されず、球状でもよいし、略球状でもよいし、その他の形状でもよい。
酸化膜は、鉄粉末の表面の全部を覆っていてもよいし、一部のみを覆っていてもよい(すなわち、鉄粉末の表面に、酸化膜が存在しない部分があってもよい)。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、図1のように、1つの鉄粉(一次粒子)の表面に酸化膜を有するものであってもよいし、2つ以上の一次粒子が凝集してなる二次粒子の表面に酸化膜を有するものであってもよいが、一次粒子の表面に酸化膜を有するものであることが好ましい。
【0012】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末の化学組成について説明する。なお、各合金元素の含有量は、特に断りのない限り、酸化膜被覆鉄粉末を100質量%とする質量基準の値である。
【0013】
酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素(Cr)の含有量は、10.5質量%未満である。Crの含有量が10.5質量%以上であると、Crが不働態膜を形成して安定化するため積層造形しにくくなる。レーザー出力を高めて積層造形しようとすると、製造コストが高くなったり、スパッタが発生して、造形物内に欠陥が生じやすくなったりする。
酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.7質量%であることがより好ましく、0.0~1.8質量%であることが更に好ましい。
【0014】
酸化膜被覆鉄粉末中のマンガン元素(Mn)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.1~2.5質量%であることがより好ましく、0.2~1.8質量%であることが更に好ましい。Mnの含有量が2.5質量%以下であると、酸化膜被覆鉄粉末の表面にMnが偏析しにくいため、積層造形しやすく、得られる造形物(鉄合金)の特性にも優れる。
【0015】
酸化膜被覆鉄粉末中のシリコン元素(Si)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.05~2.5質量%であることがより好ましく、0.1~2.2質量%であることが更に好ましい。
【0016】
酸化膜被覆鉄粉末中のモリブデン元素(Mo)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.5質量%であることがより好ましい。Moの含有量は、0.01~2.1質量%であってもよい。
【0017】
酸化膜被覆鉄粉末中のニッケル元素(Ni)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.5質量%であることがより好ましく、0.00~0.06質量%であることが更に好ましい。Niの含有量は、0.01~2.1質量%であってもよい。
【0018】
酸化膜被覆鉄粉末中の銅元素(Cu)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.5質量%であることがより好ましく、0.00~0.03質量%であることが更に好ましい。Cuの含有量は、0.01~2.1質量%であってもよい。
【0019】
酸化膜被覆鉄粉末中のニオブ元素(Nb)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.5質量%であることがより好ましく、0.0~0.18質量%であることが更に好ましい。Nbの含有量は、0.01~2.1質量%であってもよい。
【0020】
酸化膜被覆鉄粉末中のバナジウム元素(V)の含有量は、0.0~5.0質量%であることが好ましく、0.0~2.5質量%であることがより好ましく、0.00~0.18質量%であることが更に好ましい。Vの含有量は、0.01~2.1質量%であってもよい。
【0021】
酸化膜被覆鉄粉末中の酸素元素(O)の含有量は、3.0~9.5質量%であることが好ましく、3.3~8.0質量%であることがより好ましく、3.5~7.3質量%であることが更に好ましい。
【0022】
酸化膜被覆鉄粉末中の炭素元素(C)の含有量は、0.0~2.0質量%であることが好ましく、0.0~1.0質量%であることがより好ましく、0.00~0.12質量%であることが更に好ましい。Cの含有量は、0.01~0.12質量%であってもよい。
【0023】
酸化膜被覆鉄粉末中の窒素元素(N)の含有量は、0.0~2.0質量%であることが好ましく、0.0~1.0質量%であることがより好ましく、0.00~0.10質量%であってもよい。Nの含有量は、0.01~0.12質量%であってもよい。
【0024】
酸化膜被覆鉄粉末中のリン元素(P)の含有量は、0.0~2.0質量%であることが好ましく、0.0~1.0質量%であることがより好ましく、0.00~0.01質量%であってもよい。Pの含有量は、0.01~0.12質量%であってもよい。
【0025】
酸化膜被覆鉄粉末中の硫黄元素(S)の含有量は、0.0~2.0質量%であることが好ましく、0.0~1.0質量%であることがより好ましく、0.00~0.01質量%であってもよい。Sの含有量は、0.01~0.12質量%であってもよい。
【0026】
酸化膜被覆鉄粉末中の上記元素以外の残部は、鉄元素及び不可避的不純物からなることが好ましい。
酸化膜被覆鉄粉末中の鉄元素(Fe)の含有量は、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、88.0~96.0質量%であることが更に好ましく、89.0~92.0質量%であることが特に好ましい。
不可避的不純物とは、本発明の酸化膜被覆鉄粉末を製造する際に、原料や環境から不可避的に混入し得る成分である。不可避的不純物の含有量は、通常、数ppm~数百ppm程度である。
【0027】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、0.0~1.8質量%のクロム元素と、0.2~1.8質量%のマンガン元素と、0.1~2.2質量%のシリコン元素と、0.01~2.1質量%のモリブデン元素、ニッケル元素、銅元素、ニオブ元素及びバナジウム元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素と、3.5~7.3質量%の酸素元素と、0.01~0.12質量%の炭素元素、窒素元素、リン元素及び硫黄元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素とを含有し、残部が鉄元素及び不可避的不純物からなることが好ましい一態様である。
【0028】
酸化膜被覆鉄粉末の化学組成は、SEM-EDS(Scanning Electron Microscope-Energy Dispersive x-ray Spectrometry、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析)により測定することができる。
【0029】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末における酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、0.1~450nmであることが好ましく、10~400nmであることがより好ましく、100~300nmであることが更に好ましく、150~300nmであることが特に好ましい。
酸化膜の膜厚が500nmを超えると、L-PBFでの造形中にスパッタが発生しやすくなる。
酸化膜の膜厚が100~300nmであり、かつ酸化膜被覆鉄粉末中の酸素元素の含有量が、3.0~9.5質量%であることが特に好ましい。
酸化膜の膜厚は、SEM-EDSにより測定することができる。
【0030】
酸化膜は、少なくとも鉄酸化物を含むことが好ましい。酸化膜は、更に、クロム酸化物及びマンガン酸化物の少なくともどちらか一方を含んでいてもよい。
酸化膜中の酸素元素の含有量(質量基準の含有量)は、コアである鉄粉末中の酸素元素の含有量(質量基準の含有量)の2倍以上であることが好ましい。
酸化膜中の酸素元素の含有量は、SEM-EDSにより測定することができる。
【0031】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、12~25%であることが好ましい。波長1080nmのレーザー光は、L-PBFで一般的に使用されているレーザー光である。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、7~25%であることが好ましい。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、室温(例えば、25℃程度)におけるレーザー光の反射率が低いことと、これに加えて、高い温度に加熱された状態(例えば、250~350℃に加熱された状態)におけるレーザー光の反射率が低いことが好ましい。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、温度250~350℃において、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、12~25%であることが好ましい。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、温度250~350℃において、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、7~25%であることが好ましい。
また、本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、温度25~350℃において、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、12~25%であることが好ましい。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、温度25~350℃において、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、7~25%であることが好ましい。
酸化膜被覆鉄粉末の温度25~350℃における波長1080nmのレーザー光に対する反射率は、Specim社製ハイパースペクトルカメラFX17を用い、硝子製シャーレに満たした酸化膜被覆鉄粉末の表面の光反射率を測定することで求めることができる。このとき、温度はホットプレート等で調節することができる。また、温度は熱電対等で測定することができる。
【0032】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末は、積層造形用であることが好ましく、L-PBFによる造形用(例えば3Dプリンタによる造形用)であることがより好ましい。
【0033】
本発明の酸化膜被覆鉄粉末の粒径は特に限定されず、積層造形用(好ましくは3Dプリンタによる造形用)に好適な公知の粒径(例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した体積基準の50%平均粒子径(D50)で10~200μmなど)とすることができる。本発明の酸化膜被覆鉄粉末の粒径(D50)は、10~100μmでもよいし、10~50μmでもよい。
【0034】
[酸化膜被覆鉄粉末の製造方法]
本発明の酸化膜被覆鉄粉末の製造方法は、特に限定されないが、鉄粉末を、250~350℃の温度範囲で加熱して、前記鉄粉末の表面に、膜厚500nm以下の酸化膜を形成する工程を含むことが好ましい。
また、本発明の酸化膜被覆鉄粉末の製造方法は、鉄粉末を、250~400℃の温度範囲で加熱して、前記鉄粉末の表面に、膜厚500nm以下の酸化膜を形成する工程を含むことが好ましい。
鉄粉末の加熱は、大気(空気)下で行うことができる。大気下以外の条件で加熱してもよいが、少なくとも酸素が存在する状況下で加熱することが好ましい。加熱は、例えばホットプレートで行うこともできるし、電気炉(大気雰囲気)で行うこともできるが、これらに限定されない。加熱の際の昇温速度は特に限定されないが、常温(25℃)から350℃までステップ状に30分~150分かけて昇温することが好ましく、60分~100分かけて昇温することがより好ましい。加熱をステップ状とすることで、粉末の温度分布を均一化することができる。ステップ状の加熱としては、例えば、ある温度から、10秒間~5分間で25~75℃昇温させ、その温度で3分間~30分間維持するという工程を3~12回繰り返す方法が挙げられる。
【0035】
酸化膜被覆鉄粉末の原料である鉄粉末の化学組成の好ましい範囲は、酸素元素の含有量を除いて、前述した酸化膜被覆鉄粉末の化学組成の好ましい範囲と同じである。
鉄粉末中の酸素元素の含有量は、0~2.0質量%であることが好ましく、0.5~1.9質量%であることがより好ましく、1.0~1.8質量%であることが更に好ましい。
本発明の酸化膜被覆鉄粉末中の酸素元素の含有量は、原料である鉄粉末中の酸素元素の含有量と比較して、1.0~9.5質量%ポイント多いことが好ましい。
酸化膜中の酸素元素の含有量は、SEM-EDSにより測定することができる。
【0036】
酸化膜被覆鉄粉末の原料である鉄粉末の製造方法は特に限定されず、公知の方法(例えば、ガスアトマイズ法、プラズマアトマイズ法、遠心力アトマイズ法など)を採用することができる。
【0037】
[造形物の製造方法]
本発明は、上記酸化膜被覆鉄粉末にレーザー光を照射して、前記鉄粉末を焼結又は溶融固化させて造形物を製造する、造形物の製造方法にも関する。
レーザー光としては、波長1080nmのレーザー光を用いてもよい。
【0038】
[積層造形方法]
本発明は、上記酸化膜被覆鉄粉末を用いて3Dプリンタで造形する、積層造形方法にも関する。
上記積層造形方法は、3Dプリント造形であり、レーザー又は電子ビームの照射により酸化膜被覆鉄粉末を焼結又は溶融固化させて造形することができる。
3Dプリンタは公知のものを用いることができる。
積層造形の方式は特に限定されないが、例えば、粉末床溶融結合法、指向エネルギー堆積法などが好ましい。
【0039】
本発明の積層造形方法により製造された造形物は、例えば、自動車部品など様々な用途に利用可能である。
【実施例0040】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
下記表1に示す組成及び粒径(D50)の鉄粉末を使用した。表1において、各元素の含有量の単位は「質量%」である。「Bal.」は「残部」を表す。各鉄粉末は市販の鉄合金を用い、ガスアトマイズ法により作製した。各実施例及び比較例で用いた鉄合金の種類と粒径(D50)は以下のとおりである。
実施例1:Hoeganaes製 ANCOR DP600 (D50=31.6μm)
実施例2:GKN製 20MnCr5 (D50=31.0μm)
実施例3:Hoeganaes製 AISI 5120 (D50=33.4μm)
実施例4:Hoeganaes製 FSLA (D50=13.5μm)
比較例1:EOS製 SUS316L (D50=32.0μm)
【0042】
【表1】
【0043】
表1の各鉄粉末を、大気下で25℃から350℃まで加熱し、鉄粉末の表面に酸化膜を形成することで、酸化膜被覆鉄粉末を製造した。加熱には、アズワン社製ホットプレート(HP-2SA)を用いた。加熱は、25℃から350℃までステップ状に80分かけて昇温した。より具体的には、25℃から、10秒~1分かけて25~50℃程度昇温させ、その温度で8分間~20分間維持するという工程を7回繰り返して、350℃まで昇温し、350℃で10分間維持した。
【0044】
各酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚、及び化学組成を下記表2に示す。表2において、各元素の含有量の単位は「質量%」である。「Bal.」は「残部」を表す。なお、比較例1の試料(鉄系粉末)は酸化膜を有していなかったため、酸化膜の膜厚の欄には「-」と記載した。ただし、表2及び表3では、便宜的に、比較例1の試料も、「酸化膜被覆鉄粉末」の欄に記載した。比較例1では、使用した原料の鉄粉末中のクロム元素の含有量が多かったため、表面に不働態膜が形成されており酸化膜が形成されなかったものと推定される。
酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、SEM-EDSを用いた表面分析(面分析又は線分析)により、サンプルの10か所を測定し、その平均値として求めた。
【0045】
【表2】
【0046】
<波長1080nmのレーザー光に対する反射率の測定>
表2の各酸化膜被覆鉄粉末の温度25~350℃における、波長1080nmのレーザー光に対する反射率を測定した。
具体的には、200mm×400mmの電動テーブル上に、アズワン社製ホットプレート(HP-2SA)を載せ、ホットプレート上に載せたガラス製シャーレ(直径46mm×高さ18mm)の中に各酸化膜被覆鉄粉末を投入した。ホットプレートで温度を25~350℃に調節しながら(温度は熱電対で測定した)、Specim社製ハイパースペクトルカメラFX17を用い、そのレンズ面を電動テーブルの表面から350mmに配置した。測定条件はSpecim社製ハイパースペクトルカメラFX17の測定波長域が900~1700nm、レンズFOV38°、露光時間3ms、フレームレート50Hzにて計測した。計測ソフトはSpecim社製(LUMO Scanner)、データ解析ソフトにはSpecim社製(Insight)を用いた。
結果を下記表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3から、実施例1~4の酸化膜被覆鉄粉末の250~350℃における波長1080nmのレーザー光に対する反射率は、比較例1の酸化膜を有しない鉄系粉末の反射率よりも低いことが分かる。また、実施例2~4の酸化膜被覆鉄粉末は、25~350℃でレーザー光に対する反射率が比較例1よりも低いことが分かる。
本発明により、酸化膜被覆鉄粉末のレーザー光に対する反射率を従来よりも低くすることができるため、造形速度が向上し、コストの低減や、二酸化炭素削減が期待できる。
【0049】
[実施例A 酸化膜被覆鉄粉末製造時の加熱温度の影響]
上記実施例1~4では、酸化膜被覆鉄粉末製造時の加熱における最高到達温度(「熱処理温度」ともいう。)を350℃としたが、以下の実施例では、熱処理温度を400℃、500℃及び600℃とした場合の影響を調べた。
【0050】
<酸化膜被覆鉄粉末の製造>
原料の鉄粉末として、上記実施例2で使用した、「GKN製 20MnCr5 (D50=31.0μm)」を使用した。
アルミナ製の坩堝に、鉄粉末を入れ、マッフル炉(KDF P90)で、熱処理温度を350℃、400℃、500℃及び600℃とし、それぞれの温度で1時間保持した。このようにして、熱処理温度350℃、400℃、500℃及び600℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末を得た。
【0051】
各酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚について以下に示す。各酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、SEM-EDSを用いた表面分析(面分析又は線分析)により、サンプルの10か所を測定した。
熱処理温度350℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、150~300nm程度であった。
熱処理温度400℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、150~300nm程度であった。
熱処理温度500℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、500nm程度であったが、剥離が発生している場合は1000nm程度であった。
熱処理温度600℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸化膜の膜厚は、500nm以上1000nm程度であった。
【0052】
<波長1080nmのレーザー光に対する反射率の測定>
得られた各酸化膜被覆鉄粉末の温度350℃における、波長1080nmのレーザー光に対する反射率を測定した。
具体的には、200mm×400mmの電動テーブル上に、アズワン社製ホットプレート(HP-2SA)を載せ、ホットプレート上に載せたガラス製シャーレ(直径46mm×高さ18mm)の中に各酸化膜被覆鉄粉末を投入した。ホットプレートで温度を350℃に調節しながら(温度は熱電対で測定した)、Specim社製ハイパースペクトルカメラFX17を用い、そのレンズ面を電動テーブルの表面から350mmに配置した。測定条件はSpecim社製ハイパースペクトルカメラFX17の測定波長域が900~1700nm、レンズFOV38°、露光時間3ms、フレームレート50Hzにて計測した。計測ソフトはSpecim社製(LUMO Scanner)、データ解析ソフトにはSpecim社製(Insight)を用いた。
結果を下記表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4に示した結果から、熱処理温度が高いほど、得られた酸化膜被覆鉄粉末のレーザー光に対する反射率は低下した。
【0055】
<試料表面観察>
熱処理温度350℃、400℃、500℃及び600℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の表面組織をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察したところ、熱処理温度350℃及び400℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の粒子表面には、酸化膜の亀裂や剥離の痕跡は無かった。熱処理温度500℃及び600℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の粒子表面には、酸化膜の亀裂及び剥離の痕跡が認められた。SEM画像を図6~9に示す。図6は熱処理温度350℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の表面組織である。図7は熱処理温度400℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の表面組織である。図8は熱処理温度500℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の表面組織である。図9は熱処理温度600℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の表面組織である。
【0056】
<試料の組成分析>
熱処理前の原料の鉄粉末と、熱処理温度350℃、400℃及び500℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末中の軽元素(炭素、窒素及び酸素)の定量分析を行った。炭素は高周波燃焼-赤外線吸収法(LECO;CSLS600)、窒素は不活性ガス融解-熱伝導度法(LECO;ON836)、酸素は不活性ガス融解-赤外線吸収法(LECO;ON836)を用いて分析した。
その結果、炭素及び窒素の含有量については、全ての試料で顕著な差異は認められなかった。
熱処理温度350℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸素の含有量は、原料の鉄粉末の酸素の含有量の4倍であった。
熱処理温度400℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸素の含有量は、原料の鉄粉末の酸素の含有量の6倍であった。
熱処理温度500℃で製造した酸化膜被覆鉄粉末の酸素の含有量は、原料の鉄粉末の酸素の含有量の36倍であった。
【0057】
以上より、大気雰囲気下の熱処理温度が高いほど酸化が進行し、レーザー光の反射率が低下する(レーザー光の吸収率が高まる)ことが分かった。しかしながら、熱処理温度を500℃以上にすると、酸化膜被覆鉄粉末の酸素含有量は極端に増加し、かつ、粉末表面の酸化膜は厚くなり部分剥離が発生した。
酸化膜被覆鉄粉末を用いて造形物を製造する場合、造形物の品質への影響を考慮すると、酸化膜被覆鉄粉末の酸素含有量の極端な増加は無い方が好ましく、酸化膜の剥離も無い方が好ましいと考えられる。
【0058】
[実施例B レーザー光のエネルギー密度と造形物の相対密度の関係]
酸化膜被覆鉄粉末にレーザー光を照射して、鉄粉末を焼結又は溶融固化させて造形物を製造できるが、以下の実施例では、その際のレーザー光のエネルギー密度と造形物の相対密度の関係を調べた。
【0059】
<造形物の製造>
上記実施例Aで製造した、熱処理温度400℃の酸化膜被覆鉄粉末(以下、単に、「酸化膜被覆鉄粉末」ともいう。)を用いた。また、比較のため、熱処理前の鉄粉末である、「GKN製 20MnCr5 (D50=31.0μm)」(以下、「20MnCr5」ともいう。)も用いた。
小型L-PBF装置(TruPrint 1000)を利用して、下記の条件で造形を行った。下記のように、レーザー出力を5種、スキャン速度を6種の計30種の造形物を製造した。
レーザー径(μm):55
レーザー出力(W):120、140、160、180、200
スキャン速度(mm/s):200、350、500、650、800、950
積層厚み(μm):30
ハッチ距離(μm):55
造形物の形状:立方体
造形物の寸法:5mm×5mm×5mm
サポート寸法(mm):3
【0060】
<レーザー光のエネルギー密度と造形物の相対密度>
製造した造形物の中央部断面(積層面との直交断面)の光学顕微鏡画像を撮影し、欠陥部と緻密部で二値化し、緻密部の面積率を算出した。緻密部の面積率は、緻密部の面積/視野の面積×100で求めた。各造形物について、2視野で算出した緻密部の面積率の平均値を相対密度とした。
求めた相対密度を、造形条件から算出したレーザー光のエネルギー密度に対してプロットした。結果を図2に示す。
図2に示すとおり、酸化膜被覆鉄粉末は本実験の範囲内でいずれのエネルギー密度条件でも99%以上の相対密度を示したのに対し、20MnCr5は特にエネルギー密度の低い領域で、相対密度の顕著な低下が認められた。
以上より、酸化膜被覆鉄粉末は、レーザー光の反射率が低いため、造形時のレーザー光のエネルギー密度を下げても溶融又は焼結しやすく、欠陥の割合が小さく、緻密な造形物を形成しやすいという効果を奏することが分かった。
【0061】
[実施例C 造形物の物理特性]
以下の実施例では、造形物の物理特性(強度)を調べた。
【0062】
<引張試験片の作製>
上記実施例Bで相対密度99%以上が得られた条件で、酸化膜被覆鉄粉末及び20MnCr5を用いて、引張試験片の造形を行った。引張試験片の外形形状を図3に示す。図3中の各部の寸法の単位は「mm」である。得られた引張試験片は、評価部(Φ3mm部)の表面粗度がRz=1.6~6.3μmとなるように、ショットブラストを施した。
【0063】
<引張試験>
得られた引張試験片に対して、島津製作所製オートグラフを用い、室温で1mm/minの引張速度で引張試験を行った。引張強度は最大荷重値で算出した。
レーザー光のエネルギー密度と引張強度の関係を図4に示す。図4に示すように、相対密度が99%以上の造形条件では、酸化膜被覆鉄粉末及び20MnCr5の引張強度に差異は認められなかった。図4中、レーザー光のエネルギー密度が高くなるにつれて引張強度は緩やかに低くなる傾向が認められた。
【0064】
[実施例D 低エネルギー密度での造形物の物理特性]
上記実施例Cでは、相対密度99%以上の造形物が得られる条件で評価を行ったが、酸化膜被覆鉄粉末の効果を確認するため、以下の実施例では、20MnCr5を用いて製造した造形物の相対密度が99%未満となった造形条件(レーザー光のエネルギー密度が200J/mm未満の領域)で、造形物の物理特性(強度)を比較した。
【0065】
<引張試験片の作製>
上記実施例Bにおいて20MnCr5を用いて製造した造形物の相対密度が99%未満になった条件で、酸化膜被覆鉄粉末及び20MnCr5を用いて、引張試験片の造形を行った。引張試験片の外形形状は上記実施例Cと同じく図3に示すものとした。
【0066】
<引張試験>
得られた引張試験片に対して、島津製作所製オートグラフを用い、室温で1mm/minの引張速度で引張試験を行った。引張強度は最大荷重値で算出した。
造形物の相対密度と引張強度の関係を図5に示す。図5に示すように、相対密度が99%未満の20MnCr5を用いた造形物は、密度の低下に伴い引張強度の漸減が認められた。一方、同一の造形条件で得られた酸化膜被覆鉄粉末を用いた造形物では、99%以上の相対密度が得られており、その引張強度は840~920MPaを示した。
以上の結果から、同一の造形条件下で、酸化膜被覆鉄粉末は20MnCr5に比較してより高い相対密度が得られることで、より高い引張強度を示すことが確認された。したがって、酸化膜被覆鉄粉末は、熱処理を行わない鉄粉末よりも、低いエネルギー密度のレーザー照射でも、相対密度の高い造形物を製造することができる。また、造形時の入力エネルギーを低下させても、酸化膜被覆鉄粉末は、熱処理を行わない鉄粉末よりも高い機械特性を得ることができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【0068】
また、本明細書には少なくとも以下の事項が記載されている。
【0069】
(1) 鉄粉末と、前記鉄粉末の表面を覆う酸化膜とを有する酸化膜被覆鉄粉末であって、
前記酸化膜の膜厚は、500nm以下であり、
前記酸化膜被覆鉄粉末中のクロム元素の含有量は、10.5質量%未満である、酸化膜被覆鉄粉末。
【0070】
(1)によれば、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。レーザー光の反射率が低いことで、積層造形の造形速度を速くすることができ、かつ造形の際に溶融にかかるエネルギーを低減できるため、造形時の二酸化炭素排出量の低減、省資源、及び環境負荷低減の観点からも好ましい。また、積層造形中のスパッタの発生が少ない鉄系粉末を提供することができる。
【0071】
(2) 前記酸化膜の膜厚が、100~300nmである、(1)に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【0072】
(2)によれば、積層造形中のスパッタの発生を更に低減できる。
【0073】
(3) 前記酸化膜被覆鉄粉末中の酸素元素の含有量が、3.0~9.5質量%である、(1)又は(2)に記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【0074】
(3)によれば、レーザー光の反射率をより低減しやすい。
【0075】
(4) 波長1080nmのレーザー光に対する反射率が、7~25%である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【0076】
(4)によれば、波長1080nmのレーザー光に対する反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。
【0077】
(5) 前記酸化膜被覆鉄粉末が、0.0~1.8質量%のクロム元素と、0.2~1.8質量%のマンガン元素と、0.1~2.2質量%のシリコン元素と、0.01~2.1質量%のモリブデン元素、ニッケル元素、銅元素、ニオブ元素及びバナジウム元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素と、3.5~7.3質量%の酸素元素と、0.01~0.12質量%の炭素元素、窒素元素、リン元素及び硫黄元素からなる群より選択される少なくとも一種類の元素とを含有し、残部が鉄元素及び不可避的不純物からなる、(1)~(4)のいずれか1つに記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【0078】
(5)によれば、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。
【0079】
(6) 積層造形用である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の酸化膜被覆鉄粉末。
【0080】
(6)によれば、積層造形に用いられる、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。
【0081】
(7) (1)~(6)のいずれか1つに記載の酸化膜被覆鉄粉末にレーザー光を照射して、前記鉄粉末を焼結又は溶融固化させて造形物を製造する、造形物の製造方法。
【0082】
(7)によれば、造形速度が速い造形物の製造方法を提供することができる。また、造形の際に溶融にかかるエネルギーを低減できるため、造形時の二酸化炭素排出量の低減、省資源、及び環境負荷低減の観点からも好ましい。また、積層造形中のスパッタの発生を低減することができる。
【0083】
(8) (1)~(6)のいずれか1つに記載の酸化膜被覆鉄粉末を用いて3Dプリンタで造形する、積層造形方法。
【0084】
(8)によれば、造形速度が速い造形物の製造方法を提供することができる。
【0085】
(9) 鉄粉末を、250~400℃の温度範囲で加熱して、前記鉄粉末の表面に、膜厚500nm以下の酸化膜を形成する工程を含む、酸化膜被覆鉄粉末の製造方法。
【0086】
(9)によれば、レーザー光の反射率が低い鉄系粉末を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
1 酸化膜被覆鉄粉末
2 鉄粉末
3 酸化膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9