(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074283
(43)【公開日】2024-05-30
(54)【発明の名称】ゲル、及びゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/28 20060101AFI20240523BHJP
【FI】
C08J9/28 101
C08J9/28 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195989
(22)【出願日】2023-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2022185228
(32)【優先日】2022-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100226023
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 崇仁
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 沙織
(72)【発明者】
【氏名】多喜川 良
(72)【発明者】
【氏名】宮内 翔子
【テーマコード(参考)】
4F074
【Fターム(参考)】
4F074AA42
4F074CB47
4F074CC28Y
4F074CC57Y
4F074DA08
4F074DA23
4F074DA53
(57)【要約】
【課題】
破断応力と破断歪率の両方に優れるゲル及びゲルの製造方法を提供すること。
【解決手段】
ビニルアルコール単位を含むポリマーを含有するゲルであって、25℃±3℃において飽和含水量のゲルに対し、JIS K6251(2010)に従って5.0mm/秒の引張速度で測定された破断応力が1.5MPa以上であり、破断歪率が1.5以上である、ゲル。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール単位を含むポリマーを含有するゲルであって、
25℃±3℃において、飽和含水量の前記ゲルに対してJIS K6251(2010)に従って5.0mm/秒の引張速度で測定された破断応力が1.5MPa以上であり、破断歪率が1.5以上である、ゲル。
【請求項2】
シート状である、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
0.3mm以上の厚みを有する、請求項2に記載のゲル。
【請求項4】
前記破断応力が4.5MPa以下である、請求項1又は2に記載のゲル。
【請求項5】
前記破断歪率が4.5以下である、請求項1又は2に記載のゲル。
【請求項6】
ビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥してゲルを得る工程を備える、ゲルの製造方法。
【請求項7】
前記凍結乾燥の前に前記溶液を冷凍し凍結物を得る工程を更に備える、請求項6に記載のゲルの製造方法。
【請求項8】
ビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥して得られる、ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゲル、及びゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子ハイドロゲルは、毒性が低く、生体適合性である等の多くの利点を有することから、創傷被覆材、人工関節等の医療用品、オムツ等の衛生用品など、様々な分野で使用されてきた(特許文献1~4、非特許文献1~4)。特にポリビニルアルコールは、水溶液を乾燥、凍結等することによりゲルを製造することが可能であることから、実質的にポリビニルアルコールと水しか含まないゲルを製造することができるため、特に有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開第2012-16887号公報
【特許文献2】特開第2015-4059号公報
【特許文献3】特許第3971260号公報
【特許文献4】特許第6388530号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Macromolecules 2004, 37, 1921-1927
【非特許文献2】Journal of Applied Polymer Science, Vol. 114, 10-16 (2009)
【非特許文献3】Soft Matter, 2012, 8, 8129-8136
【非特許文献4】Proceedings of the Institution of Mechanical Engineers, Part H, Journalof Engineering in Medicine, Vol. 229(12), 828-844
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の高分子ハイドロゲルでは、破断応力と破断歪率がトレードオフの関係となっており、破断応力と破断歪率を共に高水準で有する高分子ハイドロゲルが望まれている。
【0006】
本開示は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、破断応力と破断歪率の両方に優れるゲル及びゲルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の実施形態[1]~[8]を含む。
[1]ビニルアルコール単位を含むポリマーを含有するゲルであって、
25℃±3℃において、飽和含水量の前記ゲルに対してJIS K6251(2010)に従って5.0mm/秒の引張速度で測定された破断応力が1.5MPa以上であり、破断歪率が1.5以上である、ゲル。
[2]シート状である、[1]のゲル。
[3]0.3mm以上の厚みを有する、[2]に記載のゲル。
[4]破断応力が4.5MPa以下である、[1]~[3]のいずれか一つのゲル。
[5]破断歪率が4.5以下である、[1]~[4]のいずれか一つのゲル。
[6]ビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥してゲルを得る工程を備える、ゲルの製造方法。
[7]凍結乾燥の前に溶液を冷凍し凍結物を得る工程を更に備える、[6]のゲルの製造方法。
[8]ビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥して得られる、ゲル。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、破断応力と破断歪率の両方に優れるゲル及びゲルの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施例1のゲルの赤外スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(ゲル)
本実施形態のゲルは、ビニルアルコール単位を含むポリマーを含有し、25℃±3℃において、飽和含水量の前記ゲルに対してJIS K6251(2010)に従って5.0mm/秒の引張速度で測定された破断応力が1.5MPa以上であり、破断歪率が1.5以上である。このようなゲルは、柔軟で伸びやすく、丈夫である。
【0011】
本実施形態のゲルの破断応力は、1.55MPa以上であってよく、1.6MPa以上であってよく、1.65MPa以上であってよく、1.7MPa以上であってよく、1.75MPa以上であってよい。また、本実施形態のゲルの破断応力は、4.5MPa以下であってよく、4MPa以下であってよく、3.5MPa以下であってよく、3MPa以下であってよく、2.5MPa以下であってよい。本実施形態のゲルの破断応力は、1.5~4.5MPaであってよく、本実施形態のゲルの破断応力は、1.6~4MPaであってよく、1.65~3.5MPaであってよく、1.7~3MPaであってよく、1.75~2.5MPaであってよい。なお、破断応力の測定は、ゲルから作製されたJIS K6251(2010)に規定されるダンベル状3号形試験片に対して行ってよい。
【0012】
本実施形態のゲルの破断歪率は、1.6以上であってよく、1.7以上であってよく、1.8以上であってよく、1.9以上であってよく、2以上であってよい。また、本実施形態のゲルの破断歪率は、4.5以下であってよく、4以下であってよく、3.5以下であってよく、3以下であってよく、2.5以上であってよい。また、本実施形態のゲルの破断歪率は、1.5~4.5であってよく、1.6~4であってよく、1.7~3.5であってよく、1.8~3であってよく、1.9~2.5であってよく、2~2.5であってよい。なお、破断歪率の測定は、ゲルから作製されたJIS K6251(2010)に規定されるダンベル状3号形試験片に対して行ってよい。
【0013】
ゲルの形状は特に限定されないが、シート状、柱状、球状、粉末(顆粒を含む)等、用途に合わせていずれの形状とすることができ、シート状であってよい。ゲルがシート状である場合、ゲルの厚みは、0.3mm以上であってよく、0.5mm以上であってよく、0.7mm以上であってよく、1mm以上であってよく、1.2mm以上であってよい。ゲルの厚みは、飽和含水量のゲルの厚みであってよい。
【0014】
ゲルの長軸方向の長さ(ゲルの表面の二点間を直線的に結んだ長さのうち最も長い方向の長さ)は、15mm以上であってよく、20mm以上であってよく、50mm以上であってよく、60mm以上であってよく、80mm以上であってよい。ゲルの長軸方向の長さは、飽和含水量のゲルの長軸方向の長さであってよい。
【0015】
ゲルの飽和含水時の体積は、0.05cm3以上であってよく、0.1cm3以上であってよく、1cm3以上であってよく、5cm3以上であってよく、10cm3以上であってよい。また、ゲルの飽和含水時の質量は、0.01g以上であってよく、0.1g以上であってよく、1g以上であってよく、5g以上であってよく、10g以上であってよい。
【0016】
ゲルの飽和含水量は、ゲルの総質量に対して50質量%以上であってよく、55~90質量%であってよく、60~80質量%であってよく、62~75質量%であってよく、65~70質量%であってよい。なお、本明細書においてゲルの飽和含水量は、ゲルが純水により飽和(膨潤)した際の質量(Wt)と当該ゲルを乾燥させた際の質量(Wd)との差をWtに対する割合(%)で表したものである。
【0017】
ゲルは、乾燥ゲルであってもよい。乾燥ゲルにおける含水量は、乾燥ゲルの総量に対して10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよく、3質量%以下であってよく、1質量%以下であってよく、0.5質量%以下であってよい。
【0018】
25℃±3℃における、ゲルのJIS K 6252-1に規定されるトラウザ型引き裂き強度は、2000J・m-2以上、2200J・m-2以上、2400J・m-2以上、2600J・m-2以上、2800J・m-2以上、又は3000J・m-2以上であってよく、5000J・m-2以下、4500J・m-2以下、又は4000J・m-2以下であってよい。トラウザ型引き裂き試験は、飽和含水量のゲルに対して行ったものであってよい。
【0019】
本実施形態のゲルは、破断応力及び破断歪率に優れるため、様々な分野に応用可能である。用途としては、例えば、人工関節、創傷被覆材、コンタクトレンズ、医療用添加剤、吸水材等が挙げられる。
【0020】
(ビニルアルコール単位を含むポリマー)
本実施形態のゲルは、ビニルアルコール単位を含むポリマーを含有する。ビニルアルコール単位は、下記化学式(I)で表される構造単位である。ポリマーにおけるビニルアルコール単位の含有量は、例えば、ポリマーに含まれる全構造単位に対して、95モル%以上、96モル%以上、97モル%以上、又は98モル%以上であってよく、99.9モル%以下であってよく、99.5モル%以下であってよい。また、ポリマーにおけるビニルアルコール単位の含有量は、例えば、ポリマーに含まれる全構造単位に対して、95~99.9モル%であってよく、97~99.9モル%であってよく、98~99.9モル%であってよい。
【化1】
(*は、化学式(I)で表される単位と他の構造単位との結合を表す。)
【0021】
ポリマーにおけるビニルアルコール単位の含有量は、例えば、ポリマーの総質量に対して、95質量%以上、96質量%以上、97質量%以上、又は98質量%以上であってよく、99.9質量%以下であってよく、99.5質量%以下であってよい。また、ポリマーにおけるビニルアルコール単位の含有量は、例えば、ポリマーの総質量に対して、95~99.9質量%であってよく、97~99.9質量%であってよく、98~99.9質量%であってよい。
【0022】
ポリマーは、下記化学式(II)で表されるビニルエステル単位を含有していてもよい。
【化2】
(Rは、1~6個の炭素原子を有する炭化水素基であり、*は、化学式(II)で表される単位と他の構造単位との結合を表す。)
【0023】
Rが有する炭素原子の個数は、1~4個であってよく、1~3個であってよく、1又は2個であってよく、1個であってよい。ビニルエステル単位としては、酢酸ビニル単位(R=CH3)が挙げられる。ポリマーは、酢酸ビニル単位を含んでいてよい。
【0024】
ポリマーにおけるビニルエステル単位の含有量は、ビニルアルコール単位とビニルエステル単位との合計量に対して3モル%以下、2モル%以下、1モル%以下、又は0.5モル%以上であってよく、0.01モル%以上、0.05モル%以上、又は0.1モル%以上であってよい。
【0025】
ポリマーが酢酸ビニル単位を含む場合、ビニルアルコール単位と酢酸ビニル単位との合計量に対するビニルアルコール単位の含有量は、97モル%以上、98モル%以上、99モル%以上、又は99.5モル%以上であってよく、99.99モル%以下であってよく、99.95モル%以下であってよく、99.9モル%以下であってよい。
【0026】
ポリマーは、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位は、エチレン性不飽和基を有するモノマーに由来する構造単位であってよい。なお、本明細書においてエチレン性不飽和基を有するモノマーに由来する構造単位とは、当該モノマーをラジカル付加重合することによって得られる単位を意味する。その他の構造単位としては、エチレン等のαオレフィン化合物に由来する構造単位、ビニルエーテルに由来する構造単位、アクリル酸等の不飽和カルボン酸に由来する構造単位等、アクロレイン等の不飽和アルデヒドに由来する構造単位等が挙げられる。なお、不飽和カルボン酸に由来する構造単位は、不飽和カルボン酸のエステル又は塩に由来する構造単位であってよい。
【0027】
ポリマーにおけるその他の構造単位の含有量は、ビニルアルコール単位100モル%に対して10モル%以下、7モル%以下、5モル%以下、3モル%以下、2モル%、1モル%以下又は0.5モル%以下であってよい。また、ポリマーに含まれるその他の構造単位の含有量は、ポリマーの総質量に対して5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%、又は0.5質量%以下であってよい。ポリマーは、その他の構造単位を実質的に含まなくてもよい。
【0028】
ポリマーにおけるビニルアルコール単位以外の構造単位の含有量は、ビニルアルコール単位100モル%に対して10モル%以下、7モル%以下、5モル%以下、3モル%以下、2モル%、1モル%以下又は0.5モル%以下であってよい。また、ポリマーに含まれるビニルアルコール単位以外の構造単位の含有量は、ポリマーの総質量に対して5質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1質量%、又は0.5質量%以下であってよい。
【0029】
ポリマーは化学架橋されていてもよい。すなわち、ポリマーは、架橋剤に由来する構造単位を有していてもよい。架橋剤としては、内部架橋剤及び外部架橋剤のいずれであってもよく、例えば、グルタルアルデヒド等の多価カルボン酸が挙げられる。
【0030】
ポリマーにおける架橋剤に由来する構造単位の含有量は、ポリマーの総質量に対して10質量%以下、8質量%以下、7質量%以下、5質量%以下、2質量%、又は1質量%以下であってよい。ポリマーは、架橋剤に由来する構造単位を実質的に含まなくてもよい。架橋剤の含有量がポリマーの総質量に対して5質量%以下であると、ゲルの引裂き強度又は破断歪率を向上する傾向にある。
【0031】
ポリマーの数平均重合度は、1000以上であってよく、1200以上であってよく、1500以上であってよく、4000以下であってよく、3000以下であってよく、2500以下であってよく、2000以下であってよい。数平均重合度が1000以上であるとゲルを水に浸漬した際に再溶解が起こりにくく、安定である傾向がある。
【0032】
20℃におけるポリマーの4質量%水溶液の粘度は5~60mPa・sであってよく、10~50mPa・sであってよく、25~45mPa・sであってよく、25~40mPa・sであってよい。
【0033】
ポリマーは、ポリビニルアルコールであってよい。ポリビニルアルコールのけん化度は、95%以上、96.5%以上、97%以上、98%以上、99%以上、又は99.5%以上であってよく、99.99%以下であってよく、99.95%以下であってよく、99.9%以下であってよい。けん化度が97%以上であるとゲルを水に浸漬した際に再溶解が起こりにくく、ゲルが安定である傾向がある。
【0034】
ポリビニルアルコールとしては、市販品を使用することもできる。市販品としては、JF-17(日本酢ビ・ポバール株式会社製)等が挙げられる。
【0035】
本実施形態のゲルの結晶化度は、0.3以上であってよく、0.35以上であってよく、0.38以上であってよく、0.4以上であってよい。ゲルの結晶化度は、ゲルの赤外スペクトルから算出されたものであってよい。結晶化度が高いほどゲルが水に溶解しにくくなる。赤外スペクトルから結晶化度を算出する方法としては、例えば、Journal of Applied Polymer Science, Vol. 126, E233-E241 (2012)に記載されている。具体的には、まず、ゲルがポリビニルアルコールを含む場合、ゲルの赤外スペクトルにデコンボリューションを行ってピーク位置が853±3cm-1のピーク(ポリビニルアルコールの主鎖のCH2変角(ロッキング)振動に対応するピーク)及びピーク位置が1143±3cm-1のピーク(ゲルの架橋点に由来するピーク)を他のピークと分離する。853±3cm-1のピーク及び1143±3cm-1のピークのそれぞれのピーク面積を算出する。得られたピーク面積を用いて以下の式から結晶化度を算出する。赤外スペクトルの測定は室温(例えば、25±3℃)で行ってよい。なお、赤外スペクトルの縦軸は吸光度、横軸は波数であってよい。
(結晶化度)=(1143±3cm-1のピーク面積)/(853±3cm-1ピーク面積)
【0036】
ゲルの結晶化の度合いは、X線回折法によっても知ることができる。例えば、広角X線散乱(WAXS)の測定を行い、2θでの回折線幅の広がりβを求める。そして、以下のシェラーの式を用いて微結晶粒径Dを求めて、結晶化の度合いを見積もることができる。
D=(kλ)/(βcosθ)
ここで、kはシェラーの定数であり、微結晶を球形と仮定して1とみなしてよい。λはX線の波長である。なお、回折線幅の広がりβは、回折線の半値全幅であってよい。X線回折測定は、室温(例えば、25±3℃)で行ってよい。
本実施形態のゲルでは、シェラーの式を用いて求められたDは、3nm以上であってよく、3.4nm以上であってよく、3.45~5nmであってよく、3.7~4.5nmであってよく、3.8~4nmであってよい。
【0037】
(ゲルの製造方法)
本実施形態のゲルの製造方法は、ビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥してゲルを得る工程を備える(凍結乾燥工程)。
【0038】
従来のビニルアルコール単位を含むポリマーを含有するゲルの製造方法としては、凍結融解(FT)法、凍結融解乾燥(FTD)法、キャストドライ(CD)法が頻繁に用いられてきた。凍結融解乾燥法及び凍結融解法では、凍結時にポリマーと高分子と水が相分離し、ポリマーを含む相におけるポリマーの濃度が上昇したところで架橋点(物理架橋点)が形成され、解凍時にポリマーの微結晶が形成される。しかしながら、凍結融解乾燥法及び凍結融解法では、解凍過程で架橋点が壊れやすく、ゲル内にポリマーが密な部分と疎な部分が形成されてしまう。密な部分は、強度に優れるため、引張強度等の物理的強度が大きい傾向にあるが、疎な部分は物理的強度が小さい。そのため、ゲル全体としては、破断しやすい傾向にある。
【0039】
また、キャストドライ法で作製したゲルは、ポリマーを含む溶液を乾燥する際にポリマー濃度が上昇して架橋点が形成され、均一に乾燥させれば均一に微結晶を作ることができる。そのため、凍結融解乾燥法で製造したゲルよりも破断しにくい傾向にあるものの、ゲル全体における架橋点の密度を高めることが困難であり、物理的強度が低い。
【0040】
一方、本実施形態のゲルの製造方法では、凍結融解乾燥法及び凍結融解法と異なり、解凍過程を経ずにビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を凍結乾燥させるため、凍結過程で形成された架橋点が壊れにくく、架橋点の密度を維持したままゲルを得ることができる。そのため、本実施形態の製造方法で得られたゲルは、強度が高く、破断せずに伸びやすい。
【0041】
また、凍結融解乾燥法及び凍結融解法では、ゲルの結晶構造を破壊しないよう、ゆっくりと解凍する必要があり、数時間から十数時間かかる場合がある。また、安定なゲルを作成するためには、凍結と解凍を例えば4サイクル等、数回繰り返す必要がある。また、キャストドライ法では、非特許文献2の
図1にも記載されるとおり、均一に乾燥させるために溶液をゆっくりと乾燥させなければならず、乾燥に2~3日程度を要する。一方、本実施形態のゲルの製造方法は、1回の凍結乾燥により安定なゲルを得られるため、従来よりも短時間でゲルを作製することが可能である。
【0042】
凍結乾燥に要する時間は、作製しようとするゲルのサイズ(溶液の量)及び形に依存するため、特に制限されないが、1~30時間程度であってよく、2~20時間程度であってよい。凍結乾燥に要する乾燥時間は、10時間以上であってよく、12~30時間であってもよい。凍結乾燥時の真空度は、500Pa以下であってよく、300Pa以下であってよく、100Pa以下であってよく、70Pa以下であってよく、60Pa以下であってよく、50Pa以下であってよく、30Pa以下であってよい。また、乾燥時間の指標として含水量を使用することもできる。例えば、(ゲルの重量-使用したポリマーの重量(乾燥重量))×100(%)を指標として用いた場合、凍結乾燥は、含水量が60%以下となるまで行ってよく、40%以下となるまで行ってよく、10%以下となるまで行ってよい。
【0043】
本実施形態の製造方法におけるポリマーを含む溶液に含まれる溶媒としては、十分にポリマーを溶解させることができるものであれば特に限定されず、水、及び有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、親水性の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒であってよい。
【0044】
ポリマーを含む溶液は、水溶液であってよい。水溶液におけるポリマーの含有量は、水溶液の総量に対して10~25質量%であってよく、12~20質量%であってよい。水溶液におけるポリマーの含有量が10~25質量%であると、得られたゲルが水に再溶解しにくく、また、ポリマーの溶け残りを防止できる。
【0045】
溶液は、水及びポリマー以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、上述の有機溶媒が挙げられる。溶液における有機溶媒の含有量は、溶液の総量に対して10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。溶液は、実質的に水以外の溶媒を含まなくてよい。また、溶液におけるその他の成分の含有量は、溶液の総量に対して10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。溶液は、実質的に水及びポリマー以外の成分を含まなくてよい。
【0046】
本実施形態の製造方法は、凍結乾燥工程の前に溶液を冷凍し凍結物を得る工程(予備凍結工程)を更に備えていてよい。予備凍結工程を備えることにより、乾燥前に溶液を十分に凍結させ、乾燥時にゲル内に気泡が生じることを防ぐことができる。冷凍時間は、作製しようとするゲルのサイズ(溶液の量)及び形に依存するため、特に制限されないが、例えば、0.1~2時間程度とすることができる。
【0047】
本実施形態の製造方法は、以下の物品の製造にも応用できる。
まず、本実施形態のゲル物品(ゲルを含む物品)の製造方法は、基材にビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を塗布して溶液の層を形成する工程と、溶液の層の所定の部分を凍結させる工程と、溶液の層の凍結させていない部分(未凍結部)を除去する工程と、未凍結部を除去した後、溶液の層の凍結させた部分を凍結乾燥してゲル層を形成する工程と、を備えていてよい。基材に溶液を塗布する方法としては、ディスペンサー(例えば、岩下エンジニアリング株式会社製、商品名:AD2200C)で塗布することが挙げられる。
また、本実施形態のゲル物品の他の製造方法は、基材にビニルアルコール単位を含むポリマーを含む溶液を塗布して溶液の層を形成する工程と、溶液の層を凍結乾燥してゲル層を形成する工程と、得られたゲル層上において更に溶液を塗布して溶液の層を形成する工程及び溶液の層を凍結乾燥する工程を繰り返し行い3次元物品を得る工程を備えていてよい。かかる方法において、溶液の層を凍結させる各工程において、溶液の層の所定部分のみを凍結させ、凍結乾燥を行う前に溶液の層の凍結させていない部分を除去する工程を行ってもよい。基材に溶液を塗布する方法としては、ディスペンサー(例えば、岩下エンジニアリング株式会社製、商品名:AD2200C)で塗布することが挙げられる。
【実施例0048】
(実施例1:凍結乾燥(FD)ゲルの作製)
ポリビニルアルコール粉末(JF-17、日本酢ビ・ポバール株式会社製、重合度1700、けん化度:98.0~99.0%)を濃度が15質量%となるように純水と混合し、90℃で湯煎して完全に溶解させて溶液を得た。得られた溶液30gを湯煎しながら、3時間かけて直径90mm(Φ90)のポリスチレンシャーレに流し込んだ。シャーレ内の水溶液が乾燥しないように密封し、冷凍庫(-20℃)内のアルミ板に載せて1時間予備凍結を行って凍結物を得た。凍結乾燥器 FDU-12ASを用い真空度30 Pa以下で18時間凍結乾燥を行った。乾燥後、得られたフィルム状のゲルを十分な量の純水中にて膨潤した。Φ90のシャーレに30gの水溶液を入れて作製したゲルは膨潤時の厚みが1.5~2.0mm程度であった。
【0049】
(破断応力及び破断歪率)
得られたゲルを打ち抜き、JIS K6251(2010)に規定されるダンベル状3号形試験片を得た。試験片に対して、ZTS-50N(株式会社イマダ製)を用いてダンベルの長尺方向の破断応力及び破断歪率を測定した。測定は、空気中、25℃±3℃において、5.0mm/秒の引張速度で行われた。なお、破断応力は、実測値を引張方向に垂直な断面積で除することによって求めた。結果を表1に示す。なお、表1の値は、13個のサンプルについての平均値である。
【0050】
(トラウザ型引き裂き試験)
フィルム状のゲルを75mm×30mmに打ち抜き、短辺の中央から長辺に平行に25mmの切れ込みを入れ試験片を作製した。試験片に対して、JIS K 6252-1の方法に従い、トラウザ型引き裂き試験を行った。試験結果から引き裂きに要するエネルギー(G)(最大引き裂き強度)を求めた。結果を表1に示す。なお、表1の値は、3個のサンプルについての平均値である。
【0051】
(比較例1)
凍結融解乾燥(FTD)法によりフィルム状のゲルを得た。具体的には、まず、実施例1と同様に調製したポリビニルアルコールの15質量%水溶液を直径90mm(Φ90)のポリスチレンシャーレに流し込んだ。次いで、ポリスチレンシャーレを密封し、冷蔵庫内で-20℃で8時間凍結し、4℃で16時間かけて解凍した。解凍後、ゲルを4℃の冷蔵庫内で重量減少が見られなくなるまで3日(72時間)程度乾燥させた。得られた乾燥ゲルを純水により膨潤させた。得られたゲルに実施例1と同様に各種測定を行った。結果を表1に示す。なお、破断応力及び破断歪率は、5個のサンプルについての平均値であり、最大引き裂き強度は、8個のサンプルについての平均値である。
【0052】
(比較例2)
キャストドライ(CD)法によりフィルム状のゲルを得た。具体的には、まず、実施例1と同様に調製したポリビニルアルコールの15質量%水溶液を直径90mm(Φ90)のポリスチレンシャーレに流し込んだ。ポリスチレンシャーレ内の水溶液を4℃Cの冷蔵庫内で重量減少が見られなくなるまで7日(168時間)程度乾燥させた。得られたゲルに実施例1と同様に各種測定を行った。結果を表1に示す。なお、破断応力及び破断歪率は、9個のサンプルについての平均値であり、最大引き裂き強度は、4個のサンプルについての平均値である。なお、比較例2のゲルをCD4とも呼ぶ。
【0053】
【0054】
(比較例3)
乾燥温度を4℃から30℃に変更したこと以外は、比較例2と同様にゲルを作製し、破断応力及び破断歪率の測定を行った。結果を表2に示す。なお、比較例2のゲルをCD30とも呼ぶ。
【0055】
(比較例4)
乾燥温度を4℃から40℃に変更したこと以外は、比較例2と同様にゲルを作製し、破断応力及び破断歪率の測定を行った。結果を表2に示す。なお、比較例2のゲルをCD40とも呼ぶ。
【0056】
【0057】
(実施例2)
凍結乾燥時の真空度を50Paとしたこと以外は、実施例1と同様にゲルを作製し、破断応力を測定した。破断応力は、1.86MPaであった。
【0058】
(結晶化度の測定)
フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR-610、日本分光株式会社製)を用いて、25±3℃で実施例1、比較例1及び比較例2のゲルの結晶化度を測定した。測定は、1~2mmのZnSeプリズムを用いた全反射測定法(ATR法)により行った。実施例1、比較例1及び比較例2のそれぞれについて2つずつ試料を用意し、2つの試料について2点又は3点の合計5点の測定を行った。
図1に実施例1の試料の赤外スペクトルを示す。得られた各赤外スペクトルにデコンボリューションを行ってピーク位置が853cm
-1及び1143cm
-1にあるピークを分離し、面積を算出した。以下の式から結晶化度を算出した。
(結晶化度)=(1143cm
-1のピーク面積)/(853cm
-1ピーク面積)
結晶化度は、5つの測定点について平均をとることにより得られた。得られた結晶化度を表3に示す。
【0059】
(広角X線散乱測定)
X線回折装置(RINT-2000、株式会社リガク社製、電圧:40kV、電流:200mA、λ=0.1542nm)を用いて25±3℃で実施例1、比較例1及び比較例2のゲルの広角X線散乱(WAXS)の測定を行った。シェラーの式において、測定された回折線幅の半値幅(半値全幅)を用い、微結晶を球形(すなわち、k=1)とみなして、ゲルに含まれる微結晶の微結晶粒径Dを算出した。表3に結果を示す。
【0060】