(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074349
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】軟質金属からなるフレーク紛同士を摩擦圧接で接合して形成した皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した厚みが10μm以下からなるフィルムを形成する方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/04 20060101AFI20240524BHJP
B22F 1/068 20220101ALI20240524BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240524BHJP
B22F 7/02 20060101ALI20240524BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20240524BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240524BHJP
C01B 32/19 20170101ALI20240524BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240524BHJP
B32B 5/16 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B32B15/04 B
B22F1/068
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 N
B22F7/02
B22F3/14 Z
C01B32/194
C01B32/19
B32B9/00 A
B32B5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185440
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4F100
4G146
4K018
【Fターム(参考)】
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4K018KA02
4K018KA33
4K018KA57
4K018KA70
(57)【要約】 (修正有)
【課題】グラフェンの面同士が接合したグラフェン接合体を形成し、また軟質金属のフレーク紛の集まりが面同士で接合した皮膜を形成し、皮膜をグラフェン接合体の表面に接合する。
【解決手段】最初に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する。次に、懸濁液を容器に注入し、懸濁液に3方向の振動加速度を加え、懸濁液中で面を上にしてグラフェンの集まりを並ばせ、この後、メタノールを気化する。さらに、平板をグラフェンの集まりに重ね合わせ、平板を圧縮してグラフェン接合体を作成する。この後、軟質金属のフレーク紛の集まりが、粘度が2-10mPa・秒からなるアルコールに分散した懸濁液を作成し、該懸濁液にグラフェン接合体を浸漬し、グラフェン接合体を取り出す。さらに、グラフェン接合体を2枚の平板の間隙に挟み、一方の平板を圧縮し、グラフェン接合体の双方の表面に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を接合する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質金属からなるフレーク粉同士を摩擦圧接で接合した皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した10μm以下の厚みからなるフィルムを形成する方法は、
2枚の平行平板電極を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該平行平板電極対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記平行平板電極対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記平行平板電極対の間隙を拡大し、該平行平板電極対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記平行平板電極対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記平行平板電極対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる第一の懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールを秤量した該アルコールの重量を、前記アルコールの密度に基づいて換算した体積と、軟質金属からなるフレーク粉の集まりを秤量した該フレーク紛の重量を、該フレーク紛を構成する軟質金属の密度に基づいて換算した体積との体積比が3対1になるように、前記アルコールと前記軟質金属からなるフレーク紛の集まりを秤量し、該秤量したアルコールと該秤量した軟質金属からなるフレーク粉の集まりを第二の容器に入れ、前記アルコールを撹拌し、前記軟質金属からなるフレーク粉の集まりが前記アルコール中に分散した第二の懸濁液を作成する第三の工程と、
容器の内側の大きさが、作成するフィルムの大きさからなる第三の容器の内側に、前記第一の懸濁液の予め決めた量を注入し、該第三の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、前記第一の懸濁液に、前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記第一の懸濁液中のグラフェンが、面を上にしてメタノール中にランダムに並んだ該グラフェンの集まりが、前記第三の容器内に作成される、この後、前記第三の容器を前記メタノールの沸点に昇温し、前記第一の懸濁液からメタノールを気化させ、前記第三の容器内に、面を上にしてランダムに並んだ前記グラフェンの集まりを形成する第四の工程と、
前記第三の容器の内側の大きさからなる平板を、前記第三の容器内の前記グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、さらに、該平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記面を上にして重なり合ったグラフェン同士が摩擦圧接で接合し、該摩擦圧接で接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、0.1μmより薄い厚みとして形成される、さらに、前記第三の容器の底面の複数個所に、衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記第三の容器の底面から引き剥がす、さらに、前記平板の一つの側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記平板から引き剥がし、該グラフェン接合体を取り出す第五の工程と、
容器の内側の大きさが、前記グラフェン接合体の大きさより大きい第四の容器の内側に、前記第三の容器に注入した第一の懸濁液の体積と同じ体積からなる前記第二の懸濁液を注入し、該第四の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、前記第二の懸濁液に、第四の工程で加えた振動加速度より大きい振動加速度を、前後、左右、上下方向に、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記第二の懸濁液中の軟質金属からなるフレーク粉が、該フレーク紛の面を上にして前記アルコール中にランダムに並んだ該フレーク紛の集まりからなる第三の懸濁液が前記第四の容器内に作成される第六の工程と、
前記第四の容器内の第三の懸濁液に、第五の工程で作成したグラフェン接合体の全体を浸漬させ、この後、該グラフェン接合体を前記第三の懸濁液から取り出し、該グラフェン接合体の大きさより大きく、同一の大きさと同一の厚みからなる2枚の平板の間隙に、前記グラフェン接合体を挟む、この後、該2枚の平板を前記アルコールの沸点に昇温し、前記第三の懸濁液から前記アルコールを気化させ、前記グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに並んだ前記軟質金属からなるフレーク紛の集まりを形成する第七の工程と、
前記2枚の平板の上方の平板の表面全体を、第五の工程でグラフェンの集まりに加えた圧縮応力の1/3以下の圧縮応力で均等に圧縮する、これによって、前記面を上にして重なり合った軟質金属からなるフレーク紛同士が摩擦圧接で接合し、該接合した軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜が、5μmより薄い厚みで形成されるとともに、該皮膜が前記グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合し、該皮膜が前記グラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムが形成される、さらに、前記2枚の平板の上方の平板の一つの側面の複数個所に、第五の工程で平板の一つの側面の複数個所に加えた同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、該上方の平板を前記フィルムから引き剥がし、さらに、前記2枚の平板の下方の平板の一つの側面の複数個所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、該下方の平板を前記フィルムから引き剥がし、該フィルムを取り出す第八の工程からなり、
前記した8つの工程を連続して実施することによって、軟質金属からなるフレーク粉同士を摩擦圧接で接合した皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した10μm以下の厚みからなるフィルムを形成する、該フィルムの形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載した軟質金属からなるフレーク紛が、金、銀、銅ないしはアルミニウムからなるフレーク紛であり、該フレーク紛を、請求項1に記載した軟質金属からなるフレーク紛として用い、請求項1に記載したフィルムの形成方法に従って、フィルムを形成する請求項1に記載したフィルムの形成方法。
【請求項3】
請求項1に記載した20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールが、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、ターシャルブチルアルコール、2-ペンタノール、3-メチル―1-ブタノール、ターシャルアミルアルコール、2-ペンタノール、3-メチル―1-ブタノール、ターシャルアミルアルコール、2-メチル-2-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-ヘプタノール、イソブチルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、1-ヘキサノール、3-ペンタノール、2-オクタノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ないしは、イソオクチルアルコールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該アルコールを、請求項1に記載した20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールとして用い、8段落に記載したフィルムの形成方法に従ってフィルムを形成する、8段落に記載したフィルムの形成方法。
【請求項4】
請求項1に記載した方法で形成したフィルムを、基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法は、請求項1に記載した方法でフィルムを形成し、該フィルムを基材ないしは部品の表面に接合する位置に配置させ、さらに、該フィルムの大きさと同じ大きさからなる平板を用意し、該平板を前記フィルムの表面に重ね合わせ、該平板の表面全体を均等に圧縮し、前記フィルムを、前記基材ないしは前記部品の表面に摩擦圧接で接合させる、この後、前記平板の1つの側面の複数個所に衝撃加速度を同時に加え、該平板を前記フィルムから分離させる、これによって、前記基材ないしは前記部品の表面に、摩擦圧接で接合した前記フィルムが形成される、請求項1に記載した方法で形成したフィルムを、基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンの集まりを面同士で重ね合わせ、該重ね合わせたグラフェン同士を摩擦圧接で接合し、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体を作成する。また、軟質金属からなるフレーク紛の集まりを面同士で重ね合わせ、重ね合わせたフレーク紛同士を摩擦圧接で接合し、厚みが5μmより薄い皮膜を形成する。さらに、該皮膜をグラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した10μm以下の厚みからなるフィルムを形成する方法に関わる。
なお、軟質金属からなる扁平紛を、一般的にフレーク紛と呼ぶため、本発明ではフレーク紛として記載する。
【背景技術】
【0002】
黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊して製造したグラフェンの大きさは小さく、また、グラフェンの大きさに1-300μmのバラツキがある。しかし、黒鉛粒子を原料とするため、第一に、最も安価なグラフェンの集まりが製造でき、第二に、黒鉛結晶からなる真性なグラフェンのみが製造でき、第三に、莫大な数からなるグラフェンの集まりが同時に製造できる。これに対し、化学気相成長法や熱分解法によって製造するグラフェンは、グラフェンの大きさは大きいが、第一に、グラフェンの大きさが大きくなるほど、第二に、真性なグラフェンのみを製造するには、第三に、製造するグラフェンの数が多くなるほど、グラフェンの製造費用が高価になる。従って、本発明のフィルムを安価に製造するには、安価なグラフェン接合体を製造する必要があり、高価なグラフェンを用いることは適切でない。この理由から、本発明では、黒鉛粒子をグラフェンの原料とした。なお、JISの包装用語では、厚みが250μm以下の板状体をフィルムと称し、厚みが250μmより厚い板状体をシートと称するため、本発明で形成する板状体をフィルムと記した。
【0003】
本発明のフィルムは、軟質金属のフレーク紛の集まりを摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に、摩擦圧接で接合させたため、グラフェン接合体の性質がフィルムに付与される。
すなわち、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、グラフェンの厚み方向の導電率は極めて小さく、面方向に電子が優先して移動するため、面方向の導電率が高い。従って、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、面方向に電子が優先して伝わる。このため、グラフェン接合体の導電率は、グラフェンの導電率に近い。なお、グラフェンの体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が小さい銀の体積固有抵抗率は1.6μΩcmである。また、グラフェンの導電率は7.5×107S/mで、金属の中で最も導電率が高い銀の導電率は6.1×107S/mである。
さらに、グラフェンの厚みが極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。従って、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接で接合したグラフェン接合体は、面方向に熱が優先して伝わる。このため、グラフェン接合体の熱伝導率は、グラフェンの熱伝導率に近い。なお、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。
このように、グラフェンの性質の異方性によって、グラフェン接合体の性質は、グラフェンの性質に近くなる。いっぽう、本発明のフィルムは、フレーク紛の集まりを摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に、摩擦圧接で接合させるため、フィルムの性質にグラフェン接合体の性質が付与され、フィルムの導電性と熱伝導性は、軟質金属からなるフレーク紛の導電性と熱伝導性より優れる。
さらに、グラフェンは、破断強度が42N/mで、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。いっぽう、面同士を重ね合わせたグラフェンの集まりを、摩擦圧接でグラフェンの面同士を、異物を介さず直接面同士で接合させたグラフェン同士の接合強度は極めて大きい。このため、グラフェン接合体は、グラフェンの面が有する機械的強度に近い強度を持つ。いっぽう、軟質金属のフレーク紛の集まりを摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜は、厚みが5μmより薄く、皮膜の機械的強度は、グラフェン接合体に比べ著しく小さい。これに対し、グラフェン接合体の厚みが0.1μmより薄い。このため、本発明のフィルムの厚みと重量は、2枚の皮膜の厚みと重量と殆ど変わらない。いっぽう、グラフェン接合体の双方の表面に、皮膜を摩擦圧接で接合させたフィルムは、グラフェン接合体の性質が付与され、フィルムの機械的強度は、皮膜の機械的強度より著しく高まる。従って、本発明のフィルムは、フィルムの双方の表面は、軟質金属からなるフレーク紛の光沢を発する厚みが10μm以下のフィルムであるが、著しく大きな機械的強度を持つ。このため、フィルムの機械的強度を活かし、フィルムを新たな用途に用いることができる。また、皮膜を摩擦圧接でグラフェン接合体に接合させるため、フィルムを構成する軟質金属からなるフレーク紛の材質の制約はない。
【0004】
なお、本発明者は、グラフェン接合体の双方の表面に、金属ないしは合金からなる箔を、摩擦圧接で接合したフィルムを形成する方法を、特願2022-177729として先行出願している。これに対し、本発明のフィルムは、グラフェン接合体の双方の表面に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を、摩擦圧接で接合させる。従って、本発明のフィルムと、先願のフィルムとでは、グラフェン接合体に接合させる物質が、一方が軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜であるのに対し、他方が金属ないしは合金からなる箔である。従って、グラフェン接合体の表面に摩擦圧接で接合させる皮膜と箔の方法が異なる。
【0005】
従来技術における軟質金属からなるフレーク紛は、軟質金属からなるフレーク紛の集まりを、有機ビヒクル中に分散した導電性ペーストの原料として用いられている。こうした従来技術として、特許文献1-3がある。
いっぽう、本発明において、軟質金属のフレーク紛の集まりを面同士で重ね合わせ、重ね合わせたフレーク紛同士を摩擦圧接で接合し、厚みが薄い皮膜を形成する技術は、これまでのところ存在しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-079725号公報
【特許文献2】特開2015-069877号公報
【特許文献3】特開2015-065139号公報
【特許文献4】特許第6166860号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、軟質金属のフレーク紛の集まりを摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の表面に接合させる目的は、皮膜にグラフェンの優れた性質を付与させることにある。いっぽう、グラフェンの性質は異方性を持つ。また、軟質金属からなるフレーク紛は、厚みがサブミクロンで、扁平面の大きさがミクロンサイズであり、ないしは、厚みがミクロンサイズで、扁平面の大きさが数十ミクロンサイズである。このため、厚みに対する扁平面の大きさの比率であるアスペクト比が大きい微細な扁平粉である。従って、グラフェン接合体の双方の表面に皮膜を接合させるには、第一に、グラフェンの面同士を接合させ、第二に、接合したグラフェンの集まりが、直接、軟質金属のフレーク紛の集まりと接合し、第三に、接合したグラフェンの集まりと、軟質金属のフレーク紛の集まりとが、一体化できれば、軟質金属のフレーク紛の集まりに、グラフェンの優れた性質が付与できる。
さらに、グラフェン接合体の双方の表面に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を接合したフィルムが、安価に製造できれば、フィルムが汎用的に用いることができる。従って、安価な材料を用いて、簡単な製造方法でフィルムを形成することが必要になる。
このため、発明が解決しようとする課題として、以下の課題がある。
第一に、グラフェンの集まりを面同士で直接接合させ、グラフェンの面同士が接合したグラフェン接合体を形成する技術を見出す。
第二に、軟質金属のフレーク紛の集まりを面同士で直接接合させ、軟質金属のフレーク紛の面同士が接合した皮膜を形成する技術を見出す。
第三に、皮膜を、直接、グラフェン接合体の表面に接合する技術を見出す。
第四に、グラフェン接合体を形成する方法と、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を形成する方法と、皮膜を、直接、グラフェン接合体に接合する方法とが、簡単な処理方法であり、また、用いる原料が全て安価である。
発明が解決しようとする課題は、上記した4つの課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
軟質金属からなるフレーク粉同士を摩擦圧接で接合した皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した10μm以下の厚みからなるフィルムを形成する方法は、
2枚の平行平板電極を構成する一方の電極板の表面に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを平坦に敷き詰め、該一方の電極板を、第一の容器に充填したメタノール中に浸漬させ、他方の電極板を、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりを介して、前記一方の電極板の上に重ね合わせ、前記一方の電極板と前記他方の電極板とからなる平行平板電極対を、前記メタノール中に浸漬させる、この後、該平行平板電極対の間隙に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加する、これによって、該電位差の大きさを前記平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、前記鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは前記塊状黒鉛粒子の集まりに印加され、該電界の印加によって、前記鱗片状黒鉛粒子ないしは前記塊状黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊され、前記平行平板電極対の間隙に前記基底面からなるグラフェンの集まりが析出する、この後、前記平行平板電極対の間隙を拡大し、該平行平板電極対を前記メタノール中で傾斜させ、さらに、前記第一の容器に左右、前後、上下の3方向の振動加速度を順番に繰り返し加え、前記グラフェンの集まりを、前記平行平板電極対の間隙から前記メタノール中に移動させる、この後、前記第一の容器から前記平行平板電極対を取り出す、前記第一の容器内に、前記メタノールに分散したグラフェンの集まりを作成する第一の工程と、
前記第一の容器内で超音波方式のホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して前記グラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加え、該グラフェンの集まりを、前記メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離させる、この後、前記第一の容器から前記ホモジナイザー装置を取り出し、前記メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる第一の懸濁液を、前記第一の容器内に作成する第二の工程と、
20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールを秤量した該アルコールの重量を、前記アルコールの密度に基づいて換算した体積と、軟質金属からなるフレーク粉の集まりを秤量した該フレーク紛の重量を、該フレーク紛を構成する軟質金属の密度に基づいて換算した体積との体積比が3対1になるように、前記アルコールと前記軟質金属からなるフレーク紛の集まりを秤量し、該秤量したアルコールと該秤量した軟質金属からなるフレーク粉の集まりを第二の容器に入れ、前記アルコールを撹拌し、前記軟質金属からなるフレーク粉の集まりが前記アルコール中に分散した第二の懸濁液を作成する第三の工程と、
容器の内側の大きさが、作成するフィルムの大きさからなる第三の容器の内側に、前記第一の懸濁液の予め決めた量を注入し、該第三の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、前記第一の懸濁液に、前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記第一の懸濁液中のグラフェンが、面を上にしてメタノール中にランダムに重なり合った該グラフェンの集まりが、前記第三の容器内に作成される、この後、前記第三の容器を前記メタノールの沸点に昇温し、前記第一の懸濁液からメタノールを気化させ、前記第三の容器内に、面を上にしてランダムに重なり合った前記グラフェンの集まりを形成する第四の工程と、
前記第三の容器の内側の大きさからなる平板を、前記第三の容器内の前記グラフェンの集まりの表面に重ね合わせ、さらに、該平板の表面全体を均等に圧縮する、これによって、前記面を上にして重なり合ったグラフェン同士が摩擦圧接で接合し、該摩擦圧接で接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、0.1μmより薄い厚みとして形成される、さらに、前記第三の容器の底面の複数箇所に、衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記第三の容器の底面から引き剥がす、さらに、前記平板の一つの側面の複数箇所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、前記グラフェン接合体を前記平板から引き剥がし、該グラフェン接合体を取り出す第五の工程と、
容器の内側の大きさが、前記グラフェン接合体の大きさより大きい第四の容器の内側に、前記第三の容器に注入した第一の懸濁液の体積と同じ体積からなる前記第二の懸濁液を注入し、該第四の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、前記第二の懸濁液に、第四の工程で加えた振動加速度より大きい振動加速度を、前後、左右、上下方向に、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に上下方向の振動加速度を加える、これによって、前記第二の懸濁液中の軟質金属からなるフレーク粉が、該フレーク紛の面を上にして前記アルコール中にランダムに重なり合った該フレーク紛の集まりからなる第三の懸濁液が前記第四の容器内に作成される第六の工程と、
前記第四の容器内の第三の懸濁液に、第五の工程で作成したグラフェン接合体の全体を浸漬させ、この後、該グラフェン接合体を前記第三の懸濁液から取り出し、該グラフェン接合体の大きさより大きく、同一の大きさと同一の厚みからなる2枚の平板の間隙に、前記グラフェン接合体を挟む、この後、該2枚の平板を前記アルコールの沸点に昇温し、前記第三の懸濁液から前記アルコールを気化させ、前記グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った前記軟質金属からなるフレーク紛の集まりを形成する第七の工程と、
前記2枚の平板の上方の平板の表面全体を、第五の工程でグラフェンの集まりに加えた圧縮応力の1/3以下の圧縮応力で均等に圧縮する、これによって、前記面を上にして重なり合った軟質金属からなるフレーク紛同士が摩擦圧接で接合し、該接合した軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜が、5μmより薄い厚みで形成されるとともに、該皮膜が前記グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合し、該皮膜が前記グラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムが形成される、さらに、前記2枚の平板の上方の平板の一つの側面の複数箇所に、第五の工程で平板の一つの側面の複数箇所に加えた同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、該上方の平板を前記フィルムから引き剥がし、さらに、前記2枚の平板の下方の平板の一つの側面の複数箇所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、該下方の平板を前記フィルムから引き剥がし、該フィルムを取り出す第八の工程からなり、
前記した8つの工程を連続して実施することによって、軟質金属からなるフレーク粉同士を摩擦圧接で接合した皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合した10μm以下の厚みからなるフィルムを形成する、該フィルムの形成方法。
【0009】
簡単な処理からなる次の8つの工程を、連続して実施することによって、本発明のフィルムが形成される。
第一の工程は、第一の容器内にグラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液を作成する工程である。このため、2枚の平行平板電極対を、配置させることができる大きさを持つ第一の容器を用意する。最初に、2枚の平行平板電極対を浸漬させることができる量のメタノールを、第一の容器に注入する。次に、2枚の平行平板電極対の間隙に、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりを敷き詰める。この後、2枚の平行平板電極対をメタノール中に浸漬させ、さらに、2枚の平行平板電極間に予め決めた大きさからなる直流の電位差を印加させる。これによって、電位差を2枚の平行平板電極の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりないしは塊状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生する。この電界は、黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与える。これによって、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。つまり、π電子に作用するクーロン力が、π軌道の相互作用より大きな力としてπ電子に与えられると、π電子はπ軌道の拘束から解放されて自由電子になる。この結果、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子が、π軌道上に存在しなくなり、黒鉛粒子の全てについて、黒鉛粒子を形成する黒鉛結晶からなる基底面の層間結合の全てが同時に破壊される。これによって、2枚の平行平板電極対の間隙に、基底面の集まり、すなわちグラフェンの集まりが瞬時に作成される。作成されたグラフェンは、黒鉛結晶のみからなる真性なグラフェンである。いっぽう、グラフェンは、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるが、2枚の平行平板電極対がメタノール中に浸漬しているため、平行平板電極対の間隙に析出したグラフェンの集まりは飛散しない。なお、電界の印加で、鱗片状黒鉛粒子または塊状黒鉛粒子における黒鉛結晶の層間結合を同時に破壊してグラフェンの集まりを製造する技術は、本発明者による特許文献4に記載されている。
すなわち、絶縁体であるメタノール中に浸漬した2枚の平行平板電極間に、電位差を印加させると、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する。この電界が、黒鉛粒子の全てに対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与え、π電子はπ軌道上の拘束から解放され、全てのπ電子がπ軌道から離れて自由電子となる。なお、メタノールは比抵抗が3MΩ・cm以上で、誘電率が33の絶縁体である。また、エタノールも誘電率が24からなる絶縁体である。なお、エタノールの電気導電率は7.5×10-6S/mで、鱗片状黒鉛粒子の電気伝導度が43.9S/mである。従って、エタノールは、導電体である鱗片状黒鉛粒子に比べ、電気導電度が1.7×107倍低い絶縁体である。
なお、黒鉛粒子は、鉱物としての天然の黒鉛結晶を用い、黒鉛粒子として精製する。こうした黒鉛粒子に、鱗片状黒鉛粒子、塊状黒鉛粒子(鱗状黒鉛粒子とも言う)、土状黒鉛粒子の3種類が存在する。土状黒鉛粒子は、他の2種類の黒鉛粒子に比べ、黒鉛結晶の結晶性が劣るため、土状黒鉛粒子の層間結合を破壊して得られるグラフェンの量が、他の2種類の黒鉛粒子に比べ少ない。また、鱗片状黒鉛粒子は、塊状黒鉛粒子に比べ、アスペクト比が大きい扁平状の粒子である。このため、鱗片状黒鉛粒子の層間結合を破壊すると、塊状黒鉛粒子よりアスペクト比が大きいグラフェンが得られる。いっぽう、塊状黒鉛粒子は、鱗片状黒鉛粒子に比べ、粒子が大きい。このため、塊状黒鉛粒子の層間結合を破壊すると、鱗片状黒鉛粒子より多くのグラフェンが得られる。この理由から、黒鉛粒子として、鱗片状黒鉛粒子ないしは塊状黒鉛粒子を用いた。
次に、グラフェンの集まりを、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動させる。このため、2枚の平行平板電極対の間隙を、メタノール中で拡大させ、さらに、メタノール中で傾斜させ、この後、メタノールが充填された第一の容器に、容器の大きさに応じて、0.1-0.2Gからなる3方向の振動加速度を順番に繰り返し加える。これによって、グラフェンの集まりが、2枚の平行平板電極対の間隙からメタノール中に移動する。この後、2枚の平行平板電極対を第一の容器から取り出す。この結果、第一の容器内に、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液が作成される。
第二の工程は、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる第一の懸濁液を、第一の容器内に作成する工程である。このため、グラフェンの集まりがメタノールに分散した懸濁液中で、ホモジナイザー装置を稼働させる。つまり、メタノールを介してグラフェンの集まりに衝撃波を繰り返し加える。これによって、グラフェンが、質量を殆ど持たない極めて軽量な物質であるため、グラフェンの集まりが、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離され、分離されたグラフェンの集まりがメタノールに分散する。つまり、超音波方式のホモジナイザー装置を懸濁液中で稼働させると、グラフェンの扁平面よりさらに1桁以上小さい極微細で莫大な数からなる気泡の発生と消滅とが、超音波の振動周波数の周期に応じてメタノール中で連続して繰り返され(この現象をキャビテーションという)、気泡がはじける際の衝撃波が、殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに繰り返し加わり、グラフェンの集まりが、短時間で1枚1枚のグラフェンにメタノール中で分離する。この結果、1枚1枚のグラフェンンに分離されたグラフェンの集まりが、メタノール中に分散する。すなわち、ホモジナイザー装置によって、低粘度で低密度のメタノールに加えた衝撃波は、密度が小さいメタノールの分子振動に消費される割合は少なく、多くの衝撃波が殆ど質量を持たないグラフェンの集まりに加わる。いっぽう、重なり合ったグラフェン同士の接合力が極めて小さいため、重なり合ったグラフェンに衝撃波が加わると、メタノール中で短時間に、かつ、確実に、グラフェン同士の重なり合いが解除され、1枚1枚のグラフェンに分離される。これによって、グラフェンの集まりを摩擦圧接で接合したグラフェン接合体の一部が、グラフェン同士の重なり合い部分で剥がれることがなくなる。この結果、1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンがメタノールで覆われた該グラフェンの集まりが、メタノール中に分散した第一の懸濁液となる。
第三の工程は、軟質金属のフレーク紛の集まりをアルコール中に分散した第二の懸濁液を作成する工程である。このため、20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールを秤量した該アルコールの重量を、アルコールの密度に基づいて換算した体積と、軟質金属のフレーク紛の集まりを秤量した該軟質金属のフレーク紛の重量を、軟質金属のフレーク紛を構成する金属の密度に基づいて換算した体積との体積比が3対1になるように、アルコールと軟質金属のフレーク紛の集まりを秤量し、該秤量したアルコールと該秤量した軟質金属のフレーク紛の集まりを第二の容器に入れ、アルコールを撹拌し、軟質金属のフレーク紛の集まりがアルコール中に分散した第二の懸濁液を作成する。
つまり、軟質金属のフレーク紛の密度は、フレーク紛を構成する金属の材質によって大きく変わる。また、軟質金属のフレーク紛の密度は、アルコールの密度より大きい。さらに、アルコールの密度は、アルコールの粘度の違いに関わらず、略同一の密度に近い密度を持つ。従って、軟質金属のフレーク紛の重量は、フレーク紛を構成する金属の密度に準じて大きく変わる。このため、フレーク紛の密度が相対的に大きいフレーク紛は、相対的に粘度が高いアルコールに分散させ、フレーク紛の密度が相対的に小さいフレーク紛は、相対的に粘度が低いアルコールに分散させる。これによって、密度が相対的に大きいフレーク紛とアルコールとの吸着力が増え、第四の工程において、密度が相対的に大きいフレーク紛、つまり、重量が相対的に大きいフレーク紛がアルコールに吸着し、フレーク紛の集まりがアルコール中に分散した第二の懸濁液が、グラフェン接合体の表面に吸着する。このため、軟質金属のフレーク紛を、軟質金属のフレーク紛の密度の幅に応じて、20℃における粘度が2-10mPa・秒の幅を持つアルコールに分散させた。
第四の工程は、第三の容器内に、面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりを形成する工程である。このため、容器の内側の大きさが、作成するフィルムの大きさからなる第三の容器を用意する。また、加振機を用意する。最初に、第一の懸濁液の予め決めた量を、第三の容器の内側に注入する。次に、第三の容器を加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、第一の懸濁液に、第一の懸濁液の量に応じて、0.1-0.2Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.1-0.2Gからなる上下方向の振動加速度を加える。これによって、第一の懸濁液中のグラフェンが、面を上にしてメタノール中にランダムに重なり合った該グラフェンの集まりが、第三の容器内に作成される。この後、第三の容器をメタノールの沸点に昇温し、第一の懸濁液からメタノールを気化させ、第三の容器内に、面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりを形成する。
つまり、メタノールで覆われ、メタノール中で1枚1枚のグラフェンに分離したグラフェンに振動加速度を加えると、質量を殆ど持たないグラフェンが、メタノールとともに振動方向に移動する。いっぽう、グラフェンは、厚みが0.332nmと極めて薄く、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が極めて大きい。このため、グラフェンがメタノール中で振動加速度を受けると、面を上にしてメタノール中を移動するのが、グラフェンに最も負荷が加わらないため、グラフェンは面を上にしてメタノール中を移動する。従って、グラフェンの集まりに3方向の振動加速度を繰り返し受けると、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに並ぶ。最後に、上下方向の振動加速度を加え、1枚1枚のグラフェンが、懸濁液中で面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりを、確実に形成させる。この後、第一の懸濁液からメタノールを気化させると、面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりが、第三の容器に形成される。
第五の工程は、グラフェン接合体を形成する工程である。このため、第三の容器の内側の大きさからなる平板を用意する。最初に、第三の容器内に形成されたグラフェンの集まりの表面に、平板を重ね合わせる。さらに、平板の表面全体を均等に圧縮する。この際、平板の大きさに応じて40kg重以上の圧縮荷重を、平板の表面全体に均等に加える。これによって、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりの全体が均等に圧縮され、面を上にして重なり合ったグラフェン同士が摩擦圧接で接合し、摩擦圧接で接合したグラフェンの集まりからなるグラフェン接合体が、0.1μmより薄い厚みとして、第三の容器の底面に形成される。つまり、面を上にして重なり合ったグラフェン同士には、極めて僅かな間隙が形成されている。従って、面を上にして重なり合ったグラフェン同士を接合する際に、過大な圧縮応力をグラフェンの集まりに加えると、重なり合ったグラフェンが、極めて僅かな間隙を埋めるように、極めて僅かな距離を滑り、グラフェンの面同士が間隙を形成せずに直接重なり合う。グラフェンが極めて僅かな距離を滑る際に、重なり合うグラフェン同士の面に摩擦熱が発生し、重なり合うグラフェン同士の面が瞬間的に高温状態になり、グラフェンの面から全ての不純物が気化し、清浄化されたグラフェン同士が摩擦熱で強固に接合する。つまり、グラフェンが、異物を介さず直接面同士で接合するため、グラフェン同士の接合力は極めて大きい。さらに、グラフェンは、殆ど質量を持たず、極めて厚みが薄い。従って、一度摩擦圧接で接合したグラフェンを引き剥がすのは困難になる。いっぽう、面を上にして重なり合ったグラフェンの集まりに加える圧縮応力が足りないと、重なり合ったグラフェンが、極めて僅かな間隙を埋めるように、極わずかな距離を滑らないため、グラフェン同士が摩擦熱で接合しない。
この後、第三の容器の底面の複数箇所に、第三の容器の大きさに応じて、0.3-0.4Gからなる衝撃加速度を同時に加え、グラフェン接合体を第三の容器の底面から引き剥がす。つまり、第三の容器の底面の平坦度は、グラフェン接合体の平坦度に比べて著しく劣る。このため、第三の容器の底面の凸部が、平坦度に優れたグラフェン接合体と接触し、極めて多くの接触部が形成され、この接触部でグラフェン接合体が摩擦熱で接合する。いっぽう、圧縮応力を受けた際に、第三の容器の底面が形成する接触部は、弾性変形および塑性変形しないため、接触部の面積は著しく小さく点に近い。このため、第三の容器の底面の接触部で、グラフェン接合体が接合する接合強度は小さい。従って、第三の容器の底面の複数箇所に、衝撃加速度を同時に加えると、第三の容器の底面が形成する全ての接触部に衝撃加速度が直接加わり、接触部の面積が極めて小さいため、全ての接触部における第三の容器の底面とグラフェン接合体の接合が破壊され、グラフェン接合体が第三の容器の底面から引き剥がされる。
さらに、平板の一つの側面の複数箇所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、グラフェン接合体を平板から引き剥がし、グラフェン接合体を取り出す。つまり、前記した第三の容器の底面と同様に、平板の底面の平坦度は、グラフェン接合体の平坦度に比べて著しく劣る。このため、平板の底面の凸部が、平坦度に優れたグラフェン接合体と接触し、極めて多くの接触部を、平板の底面の凸部が形成し、この平板の底面が形成する接触部でグラフェン接合体が平板に接合する。いっぽう、圧縮応力を受けた際に、平板の底面の接触部は弾性変形および塑性変形しないため、接触部の面積は著しく小さく点に近い。このため、平板の底面の接触部で、グラフェン接合体が接合する接合強度は小さい。従って、平板の側面の複数箇所に、衝撃加速度を同時に加えると、全ての接触部に対し、圧縮方向に対して直角の方向に衝撃加速度が直接加わり、平板の底面が形成する接触部の面積が極めて小さいため、接触部における平板の底面とグラフェン接合体の接合が破壊され、グラフェン接合体が平板の底面から引き剥がされる。
第六の工程は、面を上にしてアルコール中にランダムに重なり合った軟質金属のフレーク紛の集まりを、第四の容器内に作成する工程である。このため、容器の内側の大きさが、グラフェン接合体の大きさより大きい第四の容器を用意する。最初に、第四の容器の内側に、第三の容器に注入した第一の懸濁液の体積と同じ体積からなる第二の懸濁液を注入する。第四の容器を、第四の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、第二の懸濁液に、軟質金属のフレーク紛の密度に応じて、第四の工程で加えた振動加速度より大きい0.3-0.6Gからなる振動加速度を、前後、左右、上下方向に、各々の方向に順番に繰り返し加え、最後に0.3-0.6Gからなる上下方向の振動加速度を加える。つまり、第二の懸濁液のアルコールの粘度は、第一の懸濁液のメタノールの粘度の3-17倍の粘度を持つため、第四の工程で加えた振動加速度より大きい振動加速度を加えて、第二の懸濁液のアルコールを振動加速度方向に移動させた。これによって、第二の懸濁液中の軟質金属のフレーク紛が、フレーク紛の面を上にしてアルコール中にランダムに重なり合った第三の懸濁液が、第四の容器内に作成される。つまり、前記したように、フレーク紛を構成する金属の材質によってフレーク紛の密度が大きく変わる。このため、フレーク紛の密度が相対的に大きいフレーク紛は、相対的に粘度が高いアルコールに分散させ、フレーク紛の密度が相対的に小さいフレーク紛は、相対的に粘度が低いアルコールに分散させた。これによって、密度が相対的に大きいフレーク紛、つまり、重量が相対的に大きいフレーク紛とアルコールとの吸着力が増える。いっぽう、アルコール中に分散した軟質金属のフレーク紛に、振動加速度を加えると、フレーク紛がアルコールとともに、振動方向に移動する。いっぽう、フレーク紛は、薄片状の粉体で、厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が大きい。このため、フレーク紛がアルコール中で振動加速度を受けると、面を上にしてアルコール中を移動するのが、フレーク紛に最も負荷が加わらないため、フレーク紛は面を上にしてアルコール中を移動する。従って、フレーク紛の集まりが3方向の振動加速度を繰り返し受けると、フレーク紛が、懸濁液中で面を上にしてランダムに重なる。最後に、上下方向の振動加速度を加え、フレーク紛が、懸濁液中で面を上にしてランダムに重なり合ったフレーク紛の集まりを、確実に形成させる。なお、前記したように、アルコールの粘度は、メタノールの粘度の3-17倍の粘度を持つため、軟質金属のフレーク紛とアルコールとの吸着力は、グラフェンとメタノールとの吸着力より大きい。このため、フレーク紛の密度に応じて、相対的に大きな振動加速度を加え、フレーク紛をアルコールとともに、振動方向に移動させる。この結果、懸濁液中で面を上にしてランダムに重なり合ったフレーク紛の集まりが、第三の懸濁液として形成される。
第七の工程は、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った軟質金属のフレーク紛の集まりを形成する工程である。このため、第四の容器内の第三の懸濁液に、第五の工程で作成したグラフェン接合体の全体を浸漬させる。この後、グラフェン接合体を第三の懸濁液から取り出す。これによって、グラフェン接合体の表面に、アルコールの粘度に応じた厚みで、第三の懸濁液が吸着する。なお、アルコールの粘度が2-10mPa・秒であるため、グラフェン接合体の表面に吸着した第三の懸濁液の厚みは、アルコールの粘度に応じて2-10μmになる。さらに、グラフェン接合体の大きさより大きく、同一の大きさと同一の厚みからなる2枚の平板を用意する。この後、フレーク紛の集まりが表面に吸着したグラフェン接合体を、2枚の平板の間隙に挟む。さらに、2枚の平板をアルコールの沸点に昇温し、第三の懸濁液からアルコールを気化させ、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った軟質金属からなるフレーク紛の集まりを形成する。
第八の工程は、軟質金属からなるフレーク紛同士が摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したフィルムを形成する工程である。このため、面を上にしてランダムに重なり合ったフレーク紛の集まりが表面に吸着したグラフェン接合体を、2枚の平板の間隙に挟み、2枚の平板の上方の平板の表面全体を、第五の工程でグラフェンの集まりに加えた圧縮応力の1/3より小さい圧縮応力で均等に圧縮する。つまり、フレーク紛は、軟質金属を扁平加工する際に、ミクロンレベルのうねりがフレーク紛の表面に形成され、表面の平坦度は、グラフェン接合体の平坦度より著しく低い。従って、平面度が著しく高い重なり合ったグラフェンの集まりを摩擦圧接で接合させる際に必要な圧縮応力より、平坦度に劣るフレーク紛をグラフェン接合体に摩擦圧接で接合させる圧縮応力は1/3以下と小さい。また、平坦度に劣るフレーク紛同士を摩擦圧接で接合する圧縮応力はさらに小さい。いっぽう、面を上にしてランダムに重なり合ったフレーク紛の集まりを圧縮すると、フレーク紛の表面の凸部が、グラフェン接合体の表面と数多くの接触部を形成する。また、フレーク紛の表面の凸部は、フレーク同士の接触によって、数多くの接触部を形成する。従って、平板の表面全体を均等に圧縮すると、フレーク紛の集まりが表面に吸着したグラフェン接合体が均等に圧縮され、面を上にしてランダムに重なり合ったフレーク粉の集まりが圧縮される。この際、最初に、フレーク紛の表面の凸部でフレーク紛同士が接触する。次いで、フレーク紛が軟質金属から構成されているため、フレーク紛同士の接触部が圧縮応力の大きさに応じて弾性変形する。これによって接触部の面積が増える。さらに、接触部に摩擦熱が発生し、摩擦熱によってフレーク紛同士の接触部が接合し、接合したフレーク紛の集まりからなる皮膜が、5μmより薄い厚みで形成される。と同時に、フレーク紛の表面の凸部が、平坦度に優れたグラフェン接合体の表面と接触する。さらに、フレーク紛が軟質金属から構成されているため、フレーク紛の表面が形成するグラフェン接合体の表面との接触部が、圧縮応力の大きさに応じて弾性変形する。これによって、接触部の面積が増える。さらに、接触部に摩擦熱が発生し、フレーク紛の表面の接触部がグラフェン接合体の双方の表面に接合する。この結果、皮膜がグラフェン接合体の双方の表面に接合したフィルムが形成される。なお、フレーク紛同士の接合と、フレーク紛のグラフェン接合体の表面への接合は、いずれも、フレーク紛の弾性変形によって、フレーク紛の表面の凸部が形成する接触部が点ではなく、面になるため、接合部の面積が増え、フレーク紛同士の接合力と、フレーク紛のグラフェン接合体の表面への接合力は、接合部の面積に応じて大きくなる。
この後、2枚の平板の上方の平板の一つの側面の複数箇所に、第五の工程で平板の一つの側面の複数箇所に加えた同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、フィルムを上方の平板から引き剥がす。さらに、2枚の平板の下方の平板の一つの側面の複数箇所に、前記衝撃加速度と同じ大きさの衝撃加速度を同時に加え、フィルムを下方の平板から引き剥がし、該フィルムを取り出す。つまり、平板の表面と皮膜とは、平板の表面の平坦度とフレーク紛の平坦度に応じて、数多くの接触部を形成し、接触部で、平板の表面とフレーク紛とが摩擦熱で接合する。いっぽう、圧縮応力を受けた際に、平板の表面の凸部は、弾性変形および塑性変形しないため、接触部の面積が著しく小さく点に近い。これに対し、皮膜を構成するフレーク紛の接触部は弾性変形するが、平板の表面の凸部が変形しないため、弾性変形量は、フレーク紛同士が接合する際の弾性変形量より少ない。このため、平板の表面とフレーク紛との接合力は、フレーク紛同士の接合力より小さい。このため、平板の側面の複数箇所に、衝撃加速度を同時に加えると、平板の表面が形成する全ての接触部に対し、圧縮応力を加えた方向に対して直角の方向に衝撃加速度が直接加わり、平板の表面が形成する接触部の面積が極めて小さいため、最初に、平板の表面が形成する接合部が破壊される。これによって、平板の表面と皮膜との接合力が低下されるため、次いで、フレーク紛が平板の表面に形成する接合部の全ての接触部に対し、圧縮応力を加えた方向に対して直角の方向に衝撃加速度が直接加わるため、フレーク紛が平板の表面に形成する接合部が破壊され、皮膜が平板の表面から引き剥がされる。この結果、フィルムが平板から引き剥がされる。
【0010】
以上に説明した方法で作成したフィルムの作用効果を説明する。
フィルムは、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが5μmより薄い軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を、摩擦圧接で接合させた厚みが10μm以下のフィルムである。このフィルムは、フィルムの材料の構成とフィルムの構造とが、これまでは存在しなかった。従って、これまでのフィルムでは実現しなかった作用効果を、フィルムが発揮する。
最初に、フィルムの材料構成とフィルムの構造から、フィルムの作用効果を説明する。
軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜は、金属の材質に応じた導電性と熱伝導性とを持つ。また、フィルムの外観は、金属の光沢を発する。いっぽう、グラフェン接合体は、グラフェンの性質を反映し、軟質金属のフレーク紛より、導電性と熱伝導性とに優れる。このため、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜が、電子が移動する経路をフィルムに形成するとともに、グラフェン接合体も、電子が移動する経路をフィルムに形成する。従って、フィルムに、3つの電子が移動する経路が形成される。いっぽう、グラフェン接合体は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜より、導電性に優れるため、フィルムにおける導電性は、グラフェン接合体の導電性が優勢になる。また、熱伝導性についても、フィルムに、熱が伝導する3つの経路が形成される。いっぽう、グラフェン接合体は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜より、熱伝導性に優れるため、フィルムにおける熱伝導性は、グラフェン接合体の導電性が優勢になる。
また、グラフェン接合体の双方の表面に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜が摩擦圧接で接合したフィルムの厚みは10μm以下であるが、フィルムの機械的強度は、グラフェン接合体の性質が付与され、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の機械的強度より著しく高い。従って、外観は金属の光沢を発する厚みが薄いフィルムであるが、フィルムの機械的強度を活かし、フィルムを部品や基材として用いることができる。
次に、グラフェン接合体の固有の性質と、軟質金属からなるフレーク紛の固有の性質に基づいて、フィルムの作用効果を説明する。
第一に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜より熱伝導性に優れるグラフェン接合体の熱伝導性が、フィルムに付与される。すなわち、グラフェンの熱伝導率は1880W/(m・K)で、金属の中で最も熱伝導率が高い銀の熱伝導率の4.5倍に相当する熱伝導率を持つ。また、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の熱伝導率は極めて小さく、面方向に熱が優先して伝わるため、面方向の熱伝導率は高い。従って、全てのグラフェンが面同士で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い熱伝導率を持つ。いっぽう、軟質金属からなるフレーク紛も熱伝導性である。このため、本発明のフィルムにおける熱が伝導する経路は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜において熱が伝導する2つの経路と、グラフェン接合体において熱が伝導する経路とからなる3つの経路が形成され、フィルムにおいては、3つの経路が熱の伝導する経路として同時に作用する。いっぽう、グラフェン接合体の熱伝導率は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の熱伝導率より高いため、フィルムにおける熱の伝導は、グラフェン接合体における熱の伝導が優勢になる。このため、本発明のフィルムは、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜より優れた熱伝導率を持つ。例えば、相対的に熱伝導率が低い金属からなるフレーク紛を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、相対的に熱伝導率が高い金属の熱伝導率を持つ作用効果がもたらされる。この結果、本発明のフィルムは、フィルムの優れた熱伝導性を活かして、放熱フィルムとして用いることができる。
第二に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜より導電性に優れるグラフェン接合体の導電性が、フィルムに付与される。すなわち、グラフェンの体積固有抵抗率は1.3μΩcmで、金属の中で最も体積固有抵抗率が低い銀の体積固有抵抗率である1.6μΩcmよりさらに低い。また、グラフェンの導電率は7.5×107S/mで、金属の中で最も導電率が高い銀の導電率は6.1×107S/mである。いっぽう、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、グラフェンの厚み方向の導電率は極めて小さく、面方向に電子が優先して移動するため、面方向の導電率は高い。従って、全てのグラフェンが面同士で接合したグラフェン接合体は、グラフェンに近い導電率を持つ。いっぽう、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜も導電性である。このため、本発明のフィルムにおける電子が移動する経路は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜において電子が移動する2つの経路と、銀より優れた導電率を有するグラフェン接合体において電子が移動する経路とからなる3つの経路が形成され、フィルムにおいて、3つの経路が電子の移動する経路として同時に作用する。いっぽう、グラフェン接合体の導電率は、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の導電率より高いため、フィルムにおける電子の移動は、グラフェン接合体における電子の移動が優勢になる。このため、本発明のフィルムは、フレーク紛を構成する金属の導電率より優れた導電率を持つ。例えば、相対的に導電率が低い金属からなるフレーク紛を用いて、本発明のフィルムを形成すると、フィルムは、相対的に導電率が高い金属の導電率を持つ作用効果がもたらされる。なお、本発明のフィルムは、フィルムの優れた導電性を活かして、電気回路の配線、電極、電磁波シールドフィルム、帯電防止フィルムとして用いることができる。
第三に、極めて強靭なグラフェンの性質が、フィルムに付与される。すなわち、グラフェンは、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。従って、全てのグラフェンが、面同士で摩擦圧接によって接合したグラフェン接合体に、グラフェンの面の性質が付与され、グラフェン接合体はグラフェンに近い強度を持つ。従って、重なり合ったグラフェン同士を摩擦圧接で接合する際に、グラフェンは破壊しない。いっぽう、厚みが5μmより薄い軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の表面の全体が、グラフェン接合体に摩擦圧接で接合するため、皮膜がグラフェン接合体で補強され、外観は金属の光沢を発する厚みが薄いフィルムであるが、皮膜より著しく大きな衝撃強度を持ち、また、皮膜より著しく大きな曲げ強度を持つ作用効果をもたらす。このため、本発明のフィルムは厚みが10μm以下の金属の光沢を発するフィルムであるが、高強度の部品ないしは基材として用いることができる。
第四に、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜と、グラフェン接合体との接合強度が大きい。また、軟質金属のフレーク紛同士の接合強度も大きい。このため、金属の光沢を発する厚みが薄いフィルムが、高強度の部品ないしは基材として用いることができる。
つまり、面を上にして重なり合ったグラフェンの表面は、グラフェンの厚みからなる段差が形成されるが、グラフェンの厚みが0.332nmと極めて薄いため、表面は極めて平坦度が高い。従って、平坦度が高いグラフェン同士を接合するには、過大な圧縮応力をグラフェンの集まりに加える必要がある。つまり、過大な圧縮応力をグラフェンの集まりに加えると、面を上にして重なり合ったグラフェンが、極めて僅かな間隙を埋めるように、極めて僅かな距離を滑り、間隙を形成せずに直接グラフェンの面同士が重なり合う。この際に、重なり合ったグラフェンの面に摩擦熱が発生し、重なり合ったグラフェンの面が瞬間的に高温状態になり、グラフェンの面から全ての不純物が気化し、清浄化されたグラフェン同士が摩擦熱で強固に接合する。つまり、グラフェンの厚みが極めて薄いため、重なり合ったグラフェンの集まりに、過大な圧縮応力を加えないと、重なり合ったグラフェンが、極めて僅かな間隙を埋めるように、僅かな距離を滑らないため、グラフェン同士が摩擦熱で接合しない。グラフェンの面同士が、異物を介さず、直接面同士で接合するため、接合力は極めて大きい。従って、グラフェン接合体に、圧縮応力や曲げ応力が加わっても、グラフェン接合体は破壊せず、グラフェンに近い機械的強度を持つ。
また、軟質金属のフレーク紛は、軟質金属を扁平加工する際に、ミクロンサイズのうねりが表面に形成され、フレーク紛の表面は平坦でない。従って、面を上にした軟質金属のフレーク紛の集まりの表面全体が均等に圧縮されると、最初に、フレーク紛の表面の凸部が、平坦度に優れたグラフェン接合体の表面と接触する。さらに、フレーク紛の表面の凸部が弾性変形し、この直後に、弾性変形で接触部の面積が増えた接触部に摩擦熱が発生する。この際、接触部に存在する不純物が瞬間的に気化し、接触部が清浄化される。清浄化した数多くの接触部が、摩擦圧接でグラフェン接合体に接合するため、軟質金属のフレーク紛の表面とグラフェン接合体との接合力は大きい。また、面を上にして重なり合った軟質金属のフレーク紛同士に、圧縮応力が加わると、フレーク紛の表面に形成された凸部が、フレーク紛の面と接触する。さらに、フレーク紛の表面の凸部が弾性変形し、この直後に、弾性変形で接触部の面積が増えた接触部に摩擦熱が発生する。この際、接触部に存在する不純物が瞬間的に気化し、接触部が清浄化される。清浄化した数多くの接触部が、摩擦圧接でフレーク紛の面に接合するため、軟質金属のフレーク紛同士の接合力も大きい。なお、接触部の接合力は、接触部の面積に応じて増える。従って、フレーク紛同士の接合力は、フレーク紛とグラフェン接合体との接合力より大きい。この結果、フィルムに衝撃力や曲げ応力が加わっても、フレーク紛同士の接合は破壊されず、また、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜は、グラフェン接合体の表面から剥がれない。従って、本発明のフィルムは、金属の光沢を発する厚みが薄いフィルムであるが、高強度の部品ないしは基材として用いることができる。
第五に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが5μmより薄い軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を、摩擦圧接で接合するため、フィルムの重量と厚みは、2枚の皮膜の重量と厚みと殆ど変わらない。いっぽう、フィルムはグラフェン接合体に近い機械的強度を持つ。このため、本発明のフィルムは、厚みが10μm以下の金属の光沢を放つフィルムであるが、高強度の部品ないしは基材として用いることができる。
第六に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが5μmより薄い軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を、摩擦圧接で接合するため、皮膜は衝撃によって破壊されず、また、曲げ応力でも破壊されない。つまり、軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の厚みが薄いほど、皮膜が形成する厚みに対する表面積のアスペクト比が大きくなり、アスペクト比が大きい程、皮膜とグラフェン接合体との接合力が増大する。このため、厚みが5μmより薄い皮膜であっても、フィルムに衝撃が加わった際に、衝撃が皮膜を介して、グラフェン接合体に伝わり、皮膜は破壊されない。また、形成されたフィルムに曲げ応力が加わった際に、曲げ応力が皮膜を介して、グラフェン接合体に伝わり、皮膜は破壊されない。従って、外観は金属の光沢を発するが、高強度の部品ないしは基材として用いることができる。
第七に、厚みが0.1μmより薄いグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが5μmより薄い軟質金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を、摩擦圧接で接合するため、フレーク紛の材質に関わらず、皮膜をグラフェン接合体に摩擦圧接で接合きる。これによって、本発明のフィルムの表面は、様々な金属の光沢を発するとともに、様々なフレーク紛の性質を発揮する。
第八に、フィルムを形成する前記した8つの工程は、いずれも極めて簡単な処理からなる。また、用いる原料はいずれも汎用的な原料である。すなわち、黒鉛粒子は汎用的な工業用素材で、また、メタノールと粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールとは汎用的なアルコールである。さらに、軟質金属からなるフレーク紛は、汎用的な工業用基材である。従って、本発明のフィルムは、画期的な様々な作用効果をもたらすが、安価に製造できる。
以上に説明したように、本発明のフィルムは、構成と構造とが従来のフィルムと異なる。このため、従来の金属ないしは合金からなるフィルムや合成樹脂のフィルムとは全く異なり、フレーク紛とグラフェン接合体とが持つ固有の作用効果が相乗効果としてフィルムに発揮される。これによって、7段落に記載した全ての課題が解決される。
【0011】
8段落に記載した軟質金属からなるフレーク紛が、金、銀、銅ないしはアルミニウムからなるフレーク紛であり、該フレーク紛を、8段落に記載した軟質金属からなるフレーク紛として用い、8段落に記載したフィルムの形成方法に従って、フィルムを形成する、8段落に記載したフィルムの形成方法。
【0012】
すなわち、軟質金属からなるフレーク粉は、アルミニウムを除く金、銀、銅、錫ないしは亜鉛から軟質金属の粉体を、主にスタンプミルを用いて搗き砕くことで原料粉が扁平加工され、薄片状のフレーク粉が製造される。このフレーク粉は、表面が滑らかであるため、表面の摩擦係数は、0.20-0.25と小さい。このため、軟質金属からなるフレーク紛は、表面が潤滑性を持つとともに、軟質金属の材質に基づく導電性と熱伝導性を兼備する。さらに、粉体の厚みに対する面積の比率であるアスペクト比が大きい。従って、面を上にしてフレーク紛同士を重ね合わせれば、少ない量のフレーク粉の集まりで、潤滑性と導電性と熱伝導性を兼備する皮膜が形成できる。なお、アルミニウムのフレーク粉は、アルミニウム微粒子の活性度が高いため、アトマイズ法で製造したアルミニウムの微粒子を、湿式ボールミルで扁平処理する。
いっぽう、軟質金属からなるフレーク紛は、ガラス、マイカ、アルミナ、シリカ、酸化鉄などの金属酸化物や、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛などの無機化合物や、鱗状黒鉛ないしは鱗片状黒鉛と呼ばれる黒鉛粒子からなる潤滑性を持つ扁平粉と比べると、耐熱性、耐寒性、耐荷重性、熱伝導性、導電性の5項目の性質が、いずれも他の材質に比べると相対的に優れる特徴を持つ。つまり、金属酸化物と無機化合物とからなる扁平粉の多くは、耐熱性に優れるが、電気的には絶縁性である。また、黒鉛粒子は、耐熱性、熱伝導性及び導電性が、軟質金属より劣る。
すなわち、金属の熱伝導性と導電性は、銀、銅、金、アルミニウムの順で優れる。これらの金属の熱伝導率と導電率は、合金の熱伝導率と導電率より優れる。いっぽう、軟質金属からなる金属は、密度が大きく異なる。すなわち、金の密度は19.32g/cm3で、銀の密度は10.49g/cm3で、銅の密度は8.96g/cm3で、アルミニウムの密度は2.70g/cm3である。従って、金の密度は、アルミニウムの密度の7.2倍と大きい。これに対し、アルコールの密度は、アルコールの粘度の違いに関わらず、略同一の粘度を持つ。このため、軟質金属からなるフレーク紛の重量は、フレーク紛を構成する金属の密度に準じて大きく変わる。従って、8段落に記載した第三の工程において、フレーク紛の密度が相対的に大きいフレーク紛は、相対的に粘度が高いアルコールに分散させ、フレーク紛の密度が相対的に小さいフレーク紛は、相対的に粘度が低いアルコールに分散させる。これによって、密度が相対的に大きいフレーク紛とアルコールとの吸着力が増え、第四の工程において、密度が相対的に大きいフレーク紛、つまり、重量が相対的に大きいフレーク紛がアルコールに分散した第二の懸濁液が、グラフェン接合体の表面に吸着できる。このため、軟質金属からなるフレーク紛の密度の幅に応じて、軟質金属のフレーク紛を、20℃における粘度が2-10mPa・秒の幅を持つアルコールに分散させた。
いっぽう、錫の融点が232℃で、-40℃付近からで低温脆性を起こす。このため、錫のフレーク紛は、耐熱性と耐寒性とを兼備する皮膜を形成するフレーク粉として適切でない。また、亜鉛の融点は420℃で、錫と同様に低温脆性を起こす。このため、亜鉛のフレーク紛は、耐寒性の皮膜を形成するフレーク粉として適切でない。なお、アルミニウムの溶融点は660℃で、銀の溶融点は962℃で、銅の溶融点は1085℃で、金の溶融点は1064℃と高く、これら4種類の金属は、低温脆性を起こさない。
従って、錫と亜鉛を除く軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる皮膜を接合したフィルムは、油潤滑が適用できない高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。さらに、錫を除く軟質金属の耐荷重性は600MPaと高い。このため、フィルムを形成する際に、フレーク粉の集まりが圧縮されるが、フレーク紛の扁平面は圧縮応力に耐える。なお、軟質金属からなるフレーク紛は、表面が滑らかであるが、表面は平面ではなく、原料粉を扁平加工する際に、固有の表面粗さが形成される。
これに対し、グラフェン接合体を構成するグラフェンは、融点が3000℃を超える単結晶材料で、耐熱温度が高い。さらに、破断強度が42N/mであり、鋼の100倍を超える強度を持ち、ヤング率が1020GPaと極めて大きい強靭な素材である。また、全ての酸およびアルカリと反応しないない極めて安定した物質である。
従って、金、銀、銅ないしはアルミニウムからなるフレーク粉の集まりからなる皮膜が、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したフィルムは、高温、極低温、超真空、超高圧下など、過酷な環境でも使用できる。
さらに、軟質金属は、金属間の相互溶解度が低い金属との組み合わせが可能になり、本発明のフィルムを摺動部材として用いた場合、摺動面における摩耗量が激減する。例えば、銅のフレーク紛の表面を、メッキによって銀をコーティングした銀コート銅フレーク紛は、ないしは、銀のフレーク紛は、鉄、ニッケル、コバルトないしはクロムと、銀との相互溶解度がゼロに近いため、これらの金属からなる摺動部材と、銀コート銅フレーク紛、ないしは、銀フレーク紛からなる皮膜をフィルムの摺動面とした場合は、摺動面における滑り特性がさらに優れ、摺動面の摩耗量が少なくなる。また、クロム、モリブデン、タングステンないしはニオブと、銅との相互溶解度が小さく、これらの金属からなる摺動部材と、銅フレーク紛からなる皮膜をフィルムの摺動面とした場合は、摺動面における滑り特性が優れ、皮膜の摩耗量が少ない。
また、軟質金属は、電磁波のシールド性に優れるため、本発明のフィルムを電磁波シールドフィルムとして用いることができる。すなわち、銅の導電率を1とした場合の導電率を比導電率aとし、銅の透磁率を1とした場合の透磁率を比透磁率bとすると、a/bは電磁波の反射損失の度合いを示し、a・bは電磁波の吸収損失の度合いを示す。電磁波の反射損失の度合いが高い金属として、a/bが1.06の銀と、a/bが1.00の銅と、a/bが0.78の金と、a/bが0.63のアルミニウムがある。なお、ニッケルはa/bが0.23と低く、鉄はa/bが0.0017と更に低い。また、電磁波の吸収損失の度合い高い金属として、a・bが1.06の銀と、a・bが1.00の銅と、a・bが0.78の金と、a・bが0.63のアルミニウムとがある。なお、ニッケルはa・bが0.23と低く、鉄はa・bが17と高い。従って、銀と銅と金とアルミニウムからなる軟質金属からなるフレーク紛は、電磁波のシールド性能が高い。従って、亜鉛と錫を除く軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる皮膜を接合したフィルムは、電磁波シールドフィルムとして作用する。また、銀、銅、金、アルミニウムからなる軟質金属は、導電性に優れるため、軟質金属からなるフレーク粉の集まりからなる皮膜を接合したフィルムは、帯電防止フィルムとして用いることができる。
以上に説明したように、金、銀、銅ないしはアルミニウムからなるフレーク粉は、導電性、熱伝導性、潤滑性、電磁波シールド性、帯電防止性、耐熱性及び耐寒性を兼備するフィルムを形成する際に用いる好適なフレーク紛になる。従って、フィルムに求められる仕様に応じて軟質金属の材質を選択することで、本発明におけるフィルムは汎用性を持つ。
【0013】
8段落に記載した20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールが、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、ターシャルブチルアルコール、2-ペンタノール、3-メチル―1-ブタノール、ターシャルアミルアルコール、2-ペンタノール、3-メチル―1-ブタノール、ターシャルアミルアルコール、2-メチル-2-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-ブタノール、2-ヘプタノール、イソブチルアルコール、4-メチル-2-ペンタノール、1-ヘキサノール、3-ペンタノール、2-オクタノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、ないしは、イソオクチルアルコールからなるいずれか1種類のアルコールであり、該アルコールを、8段落に記載した20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールとして用い、8段落に記載したフィルムの形成方法に従ってフィルムを形成する、8段落に記載したフィルムの形成方法。
【0014】
つまり、以下に記載するアルコールは、20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有し、沸点が200℃より低く、汎用的なアルコールである。このため、8段落に記載した20℃における粘度が2-10mPa・秒の性質を有するアルコールとして好適である。従って、12段落に記載したように、軟質金属の密度の大きさに準じて、適切な粘度を持つアルコールを選択し、8段落に記載した第三の工程における第二の懸濁液を作成する。また、秤量したアルコールの重量を密度に基づいて換算した体積と、秤量したフレーク粉の重量を密度に基づいて換算した体積との体積比とによって、第二の懸濁液の粘度が調整できる。すなわち、8段落の第三の工程で、体積比を3対1とすると記載したが、体積比は2.5-3.5対0.5-1.5の幅を持つため、体積比の幅によって、第二の懸濁液の粘度が変わる。
2-プロパノール(CH3)2CH(OH)は、20℃における粘度が1.8mPa・秒であり、沸点が82℃と低い。
1-プロパノールCH3(CH2)2OHは、20℃における粘度が1.9mPa・秒であり、沸点が98℃と低い。
1-ブタノールCH3(CH2)3OHは、20℃における粘度が3.0mPa・秒であり、沸点が117℃と低い。
1-ペンタノールCH3(CH2)4OHは、20℃における粘度が3.3mPa・秒であり、沸点が138℃である。
ターシャルブチルアルコール(CH3)3C(OH)は、30℃における粘度が3.4mPa・秒であり、沸点が82℃と低い。
2-ペンタノールCH3(CH2)CH(OH)CH3は、20℃における粘度が3.5mPa・秒であり、沸点が119℃と低い。
3-メチル―1-ブタノール(CH3)2CH(CH2)2OHは、20℃における粘度が3.7mPa・秒であり、沸点が131℃である。
ターシャルアミルアルコールCH3CH2COH(CH3)2は、25℃における粘度が3.8mPa・秒であり、沸点が103℃と低い。
2-メチル-2-ブタノール(CH3)2C(OH)CH2CH3は、25℃における粘度が3.8mPa・秒であり、沸点が103℃と低い。
2-ブタノールCH3CH2CH(OH)CH3は、20℃における粘度が3.9mPa・秒であり、沸点が99℃と低い。
2-メチル-1-ブタノールCH3CH2CH(CH3)CH2OHは、20℃における粘度が4.0mPa・秒であり、沸点が108℃と低い。
2-ヘプタノールCH3(CH2)4CH(OH)CH3は、20℃における粘度が4.0mPa・秒であり、沸点が159℃である。
イソブチルアルコール(CH3)2CHCH2OHは、20℃における粘度が4.0mPa・秒であり、沸点が108℃と低い。
4-メチル-2-ペンタノール(CH3)2CHCH2CHOHCH3は、20℃における粘度が4.1mPa・秒であり、沸点が132℃である。
1-ヘキサノールCH3(CH2)5OHは、20℃における粘度が5.3mPa・秒であり、沸点が157℃である。
3-ペンタノールCH3CH2CH(OH)CH2CH3は、20℃における粘度が6.4mPa・秒であり、沸点が116℃である。
2-オクタノールCH3(CH2)5CH(OH)CH3は、20℃における粘度が6.2mPa・秒であり、沸点が178℃である。
1-ヘプタノールCH3(CH2)6OHは、25℃における粘度が5.8mPa・秒であり、沸点が176℃である。
1-オクタノールCH3(CH2)7OHは、25℃における粘度が7.3mPa・秒であり、沸点が194℃である。
2-エチル-1-ヘキサノールCH3(CH2)3CH(C2H5)CH2OHは、25℃における粘度が9.8mPa・秒であり、沸点が185℃である。
イソオクチルアルコールCH3(CH2)7OHは、15℃における粘度が10.6mPa・秒であり、沸点が188℃である。
【0015】
8段落に記載した方法で形成したフィルムを、基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法は、8段落に記載した方法でフィルムを形成し、該フィルムを、接合させる基材ないしは部品の表面の位置に配置させ、さらに、該フィルムの大きさと同じ大きさからなる平板を用意し、該平板を前記フィルムの表面に重ね合わせ、該平板の表面全体を均等に圧縮し、前記フィルムを前記基材ないしは前記部品の表面に摩擦圧接で接合させる、この後、前記平板の1つの側面の複数箇所に衝撃加速度を同時に加え、該平板を前記フィルムから分離させる、これによって、前記基材ないしは前記部品の表面に、摩擦圧接で接合した前記フィルムが形成される、8段落に記載した方法で形成したフィルムを、基材ないしは部品の表面に摩擦圧接で接合する方法。
【0016】
つまり、基材ないしは部品の表面と、平板の表面には、加工に伴うミクロンサイズの凹凸が形成されている。このため、基材ないしは部品の表面にフィルムを配置させ、さらに、フィルムの表面に平板を重ね合わせ、この後、平板の表面全体を均等に圧縮すると、最初に、基材ないしは部品の表面の凸部が、フィルムの表面のフレーク紛に接触し、また、フィルムの表面のフレーク紛の凸部が、基材ないしは部品の表面に接触し、と同時に、フィルムの表面のフレーク紛の凸部が、平板の表面と接触し、また、平板の表面の凸部が、フィルムの表面のフレーク紛に接触する。さらに、基材ないしは部品の表面の凸部と、フィルム表面のフレーク紛の凸部に、また、平板の表面の凸部と、フィルム表面のフレーク紛の凸部に、極めて短い時間であるが、高温の摩擦熱が発生する。この際、接触部に存在する不純物が瞬間的に気化し、接触部が清浄化される。清浄化した数多くの接触部が、基材ないしは部品の表面とフィルムの表面とを摩擦圧接で接合し、また、フィルムの表面と平板の表面とを摩擦圧接で接合する。接合部が異物を介しないため、摩擦圧接による接合力は大きい。従って、基材ないしは部品が圧縮応力に耐えられれば、基材ないしは部品の材質と形状との制約はない。
次に、平板の1つの側面の複数箇所に衝撃加速度を同時に加え、平板をフィルムから分離させる。つまり、圧縮応力を受けた際に、基材ないしは部品の表面の凸部と、平板の表面の凸部は、弾性変形および塑性変形しないため、基材ないしは部品の表面の凸部と、平板の表面の凸部とが、フィルムの表面に形成する接合部の面積が著しく小さく点に近い。これに対し、フィルムの表面を構成するフレーク紛が、基材ないしは部品の表面と平板の表面とに形成する接触部は弾性変形するため、フレーク紛が、基材ないしは部品の表面と平板の表面とに形成する接合部は点でなく面になる。従って、基材ないしは部品の表面の凸部と、平板の表面の凸部とが、フィルムの表面に接合する接合力は、フレーク紛が、基材ないしは部品の表面と平板の表面とに接合する接合力より小さい。つまり、接合力の大きさは、接合部の面積に応じて変わるため、点に近い接合部の接合力は、面を形成する接合部の接合力より小さい。このため、平板の側面の複数箇所に、衝撃加速度を同時に加えると、平板の表面が形成する全ての接触部に対し、圧縮応力を加えた方向に対して直角の方向に衝撃加速度が直接加わり、平板の表面が形成する接合部の面積が極めて小さいため、最初に、平板の表面が形成する接合部が破壊される。これによって、平板の表面とフィルムの表面との接合力が低下する。次いで、フレーク紛が平板の表面に形成する全ての接合部に対し、圧縮応力を加えた方向に対して直角の方向に衝撃加速度が直接加わり、フレーク紛が平板の表面に形成する接合部が破壊され、フィルムが平板の表面から引き剥がされる。
【0017】
以上に説明した方法で作成した基材ないしは部品の表面に、8段落に記載した方法で形成したフィルムを摩擦圧接で接合することによって、基材や部品の表面にフィルムの性質が付与できる。つまり、10段落に記載したフィルムの熱伝導性、導電性と、12段落に記載したフィルムの表面のフレーク紛の性質に基づく潤滑性、電磁波シールド性、帯電防止性が、基材や部品の表面にもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】グラフェン接合体の双方の表面に、銀のフレーク紛の集まりからなる皮膜を形成したフィルムについて、フィルムの側面の一部を拡大して説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施例1
本実施例は、8段落の第一と第二の工程で記載した方法に従って、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を容器内に作成する実施例である。
最初に、5リットルのメタノールを、2.2m×2.2mの底面をもち、底が浅い容器に充填した。
次に、2枚の平行平板電極の間隙に電界が発生する電極の有効面積が、2m×2mである平行平板電極を用意し、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で重ね合わせ、この間隙に黒鉛粒子を満遍なく敷き詰め、メタノール中に析出させた。なお、黒鉛粒子を粒径が25μmの球と仮定し、2枚の平行平板電極で作られる100μmの間隙に、黒鉛粒子を満遍なく敷き詰めた場合、2.6×108個の黒鉛粒子が存在する。この黒鉛粒子の集まりに、10.6キロボルト以上の直流電圧を印加すると、全ての黒鉛粒子の基底面の層間結合が同時に破壊される。この際、7.6×1013個のグラフェンの集まりが得られ、用いる黒鉛粒子の集まりは、僅かに4.72gである。
電界が発生する電極の有効面積が2m×2mである平行平板電極の表面に、鱗片状黒鉛粒子(例えば、伊藤黒鉛工業株式会社のXD100)の50gを重ねて敷き詰めた。この平行平板電極を、メタノールが充填された容器に浸漬し、さらに、もう一方の平行平板電極を前記の平行平板電極の上に重ね合わせ、2枚の平行平板電極を100μmの間隙で離間させ、12キロボルトの直流電圧を電極間に加えた。次に、2枚の平行平板電極の間隙を拡大し、さらに、2枚の平行平板電極をメタノール中で傾斜させ、0.2Gからなる3方向の振動加速度を容器に繰り返し加え、この後、容器から2枚の平行平板電極を取り出した。さらに、容器内のメタノールに、超音波ホモジナイザー装置(ヤマト科学株式会社の製品LUH300)によって20kHzの超音波振動を2分間加えた。この後、超音波ホモジナイザー装置を、容器から取り出した。この後、容器内にあるメタノール中に分散したグラフェンの集まりを撹拌し、メタノール中で1枚1枚に分離したグラフェンの集まりからなる懸濁液を作成した。
次に、作成した試料の一部を取り出し、電子顕微鏡を用いて、試料の観察と分析を行なった。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、試料に導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を持つ。
試料の表面からの反射電子線の900-1000ボルトの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行った。メタノール中に分散した物質は、厚みが極めて薄い扁平な物質であることが確認できた。さらに、特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理した結果、炭素原子のみ存在した。このため、物質は、グラフェンであることが確認できた。
これによって、2枚の平行平板電極の間隙に、鱗片状黒鉛粒子の集まりを敷き詰め、電極間に直流の電位差を与え、この電位差を2枚の平行平板電極対の間隙の大きさで割った値に相当する電界が、鱗片状黒鉛粒子の集まりが存在する電極間隙に発生し、この電界によって、全ての黒鉛粒子に対し、黒鉛結晶からなる基底面の層間結合を破壊させるのに十分なクーロン力を、基底面の層間結合の担い手である全てのπ電子に同時に与えられ、この結果、黒鉛結晶の層間結合の全てが同時に破壊され、黒鉛結晶からなる基底面、すなわち、グラフェンの集まりが製造できることが確認された。
【0020】
実施例2
本実施例は、8段落の第三の工程で記載した方法に従って、軟質金属からなるフレーク紛の集まりを、アルコールに分散させた第二の懸濁液を作成する第一の実施例である。
軟質金属からなるフレーク紛として、銀のフレーク紛(山本貴金属地金株式会社の銀フレークYFS-2)を用いた。また、アルコールとして、20℃における粘度が5.3mPa・秒であり、沸点が157℃である1-ヘキサノールCH3(CH2)5OHを用いた。なお、銀のフレーク紛は、長軸径の平均の大きさが3.85μmで、短軸径の平均の大きさが2.72μmで、平均の厚みが0.26μmで、アスペクト比の平均が14.76である薄片状のフレーク粉である。
1-ヘキサノールの100gに、銀のフレーク紛の430gを混合し、撹拌して、第二の懸濁液を作成した。なお、1-ヘキサノールの100gは、1-ヘキサノールが持つ0.8153g/cm3の密度によって体積に換算すると、122.7cm3の体積を占める。また、銀のフレーク紛の430gは、銀が持つ10.49g/cm3の密度によって体積に換算すると、41cm3の体積を占める。従って、1-ヘキサノールの100gと、銀のフレーク紛の643gの体積比は、3.0対1.0になる。
【0021】
実施例3
本実施例は、8段落の第三の工程で記載した方法に従って、軟質金属からなるフレーク紛の集まりを、アルコールに分散させた第二の懸濁液を作成する第二の実施例である。
軟質金属からなるフレーク紛として、銅フレーク粉(福田金属箔粉工業株式会社の製品MS-800)を用いた。また、アルコールとして、20℃における粘度が4.0mPa・秒で、沸点が159℃である2-ヘプタノールCH3(CH2)4CH(OH)CH3を用いた。なお、銅フレーク粉の粒度分布は、+75μmが4%より多く、+45μmが25%より多く、-45μmが75%より少ない。フレーク粉としては比較的粒径が大きい。
2-ヘプタノールの100gに、銅のフレーク紛の365gを混合し、撹拌して、第二の懸濁液を作成した。なお、2-ヘプタノールの100gは、2-ヘプタノールが持つ0.817g/cm3の密度によって体積に換算すると、122.4cm3の体積を占める。また、銅のフレーク紛の365gは、銅が持つ8.96g/cm3の密度によって体積に換算すると、40.8cm3の体積を占める。従って、1-ヘキサノールの100gと、銀のフレーク紛の365gの体積比は、3.0対1.0になる。
【0022】
実施例4
本実施例は、8段落の第四の工程で記載した方法に従って、面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりを容器内に形成する実施例である。
最初に、容器の内側が、10cm×10cm×2cm(厚み)の大きさからなる容器を用意する。また、加振機を用意する。次に、容器内に、実施例1で作成した懸濁液を、容器の3mmの高さまで注入する。さらに、容器を加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、懸濁液に、0.1Gからなる前後、左右、上下方向の振動加速度を、各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に0.1Gからなる上下方向の振動加速度を加える。この後、容器をメタノールの沸点に昇温し、懸濁液からメタノールを気化させ、容器内に、面を上にしてランダムに重なり合ったグラフェンの集まりを形成する。
【0023】
実施例5
本実施例は、8段落の第五の工程で記載した方法に従って、グラフェン接合体を形成する実施例である。
最初に、10cm×10cm×3cm(厚み)の大きさからなる平板を用意する。さらに、実施例4で作成した容器内のグラフェンの集まりの表面に、平板を重ね合わせる。この後、平板の上方の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、該5箇所のうちの対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4箇所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、40kg重に相当する圧縮荷重を同時に加え、グラフェン接合体を作成した。
さらに、平板の表面の角部を結ぶ対角線上の5箇所に相当する容器の底面の5箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、グラフェン接合体を容器の底面から引き剥がした。さらに、平板の一つの側面の3箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、グラフェン接合体を平板から引き剥がし、グラフェン接合体を取り出した。
実施例1で用いた電子顕微鏡でグラフェン接合体の厚みを観察した結果、グラフェン接合体の厚みは、60nmの厚みであった。
【0024】
実施例6
本実施例は、8段落の第六の工程で記載した方法に従って、実施例2で作成した銀のフレーク紛が1-ヘキサノール中に分散した懸濁液に対し、銀のフレーク紛が面を上にして1-ヘキサノール中にランダムに重なり合った銀のフレーク紛の集まりを、容器内に作成する実施例である。
最初に、12cm×12cm×5cm(厚み)の大きさからなる容器を用意する。次に、容器の内側に、実施例4で容器に注入した懸濁液の体積と同じ体積からなる実施例2で作成した懸濁液を注入した。この後、容器を、実施例4で用いた加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、懸濁液に、0.3Gからなる振動加速度を、前後、左右、上下方向に、各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に0.3Gからなる上下方向の振動加速度を加え、銀のフレーク紛が面を上にして1-ヘキサノール中にランダムに重なり合った銀のフレーク紛の集まりを、容器内に作成した。
【0025】
実施例7
本実施例は、8段落の第七の工程で記載した方法に従って、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った銀のフレーク紛の集まりを形成する実施例である。
実施例6において、銀のフレーク紛が面を上にして1-ヘキサノール中にランダムに重なり合った銀のフレーク紛の集まりを形成した容器内に、実施例5で作成したグラフェン接合体の全体を浸漬させた。この後、グラフェン接合体を容器から取り出した。
さらに、12cm×12cm×2cm(厚み)の大きさからなる平板を2枚用意する。この後、取り出したグラフェン接合体を、2枚の平板の間隙に挟む。さらに、2枚の平板を1-ヘキサノールの沸点である185℃に昇温し、実施例6で作成した懸濁液から1-ヘキサノールを気化させ、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った銀のフレーク紛の集まりを形成した。
【0026】
実施例8
本実施例は、8段落の第八の工程で記載した方法に従って、銀のフレーク紛同士が摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したフィルムを形成する実施例である。
実施例7において、2枚の平板の間隙に挟んだグラフェン接合体に対し、2枚の平板の上方の平板の表面に対し、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、該5箇所のうちの対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4箇所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、12kg重に相当する圧縮荷重を同時に加えた。
この後、2枚の平板の上方の平板の一つの側面の3箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加えた。さらに、2枚の平板の下方の平板の一つの側面の3箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、2枚の平板の間隙に形成したフィルムを取り出した。
最初に、作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。厚みが60nmからなるグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが4μmからなる銀の皮膜が形成されていた。
図1に、フィルムの側面の一部を拡大して模式的に示す。1は銀のフレーク紛の集まりからなる皮膜で、2はグラフェン接合体である。
次に、フィルムの表面の表面抵抗を表面抵抗計によって測定した(シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗値は1×10
3Ω/□未満であったため、フィルムは銀に近い表面抵抗を有した。
さらに、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率の測定は、非定常法の一種である周期加熱法に基づく周期加熱法拡散率測定装置(アドバンス理工社製FTC-1)を用いた。フィルムの20℃における熱伝導率は、610±20W/(m・K)であった。銀より優れた熱伝導率を持った。
さらに、フィルムの表面の摩擦係数を、測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-Xからなる摩擦係数測定装置)によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を繰り返し測定した。静止摩擦係数が0.18±0.05で、動摩擦係数が0.12±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、銀のフレーク粉に近い摩擦係数を持った。従って、フィルムは、摩擦係数が小さい潤滑性フィルムとしてのみならず、撥水性や防汚性のフィルムとして用いることができる。
さらに、フィルムの衝撃強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持った。
次に、インストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。6.5×10
4MPaの強度を持った。なお、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の74倍の曲げ強度を持った。また、銀のヤング率は83GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0027】
実施例9
本実施例は、8段落の第六の工程で記載した方法に従って、実施例3で作成した銅のフレーク紛が2-ヘプタノール中に分散した懸濁液に対し、銅のフレーク紛が面を上にして2-ヘプタノール中にランダムに重なり合った銅のフレーク紛の集まりを、容器内に作成する実施例である。
最初に、12cm×12cm×5cm(厚み)の大きさからなる容器を用意する。次に、容器の内側に、実施例3で作成した銅のフレーク紛が2-ヘプタノール中に分散した懸濁液を、実施例4で容器に注入した懸濁液の体積と同じ体積を注入した。この後、容器を、実施例4で用いた加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、懸濁液に、0.3Gからなる振動加速度を、前後、左右、上下方向に、各々の方向に順番に3回繰り返し加え、最後に0.3Gからなる上下方向の振動加速度を加え、銅のフレーク紛が面を上にして2-ヘプタノール中にランダムに重なり合った銅のフレーク紛の集まりを、容器内に作成した。
【0028】
実施例10
本実施例は、8段落の第七の工程で記載した方法に従って、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った銅のフレーク紛の集まりを形成する実施例である。
実施例9において、銅のフレーク紛が面を上にして2-ヘプタノール中にランダムに重なり合った銅のフレーク紛の集まりを形成した容器内に、実施例5で作成したグラフェン接合体の全体を浸漬させた。この後、グラフェン接合体を容器から取り出した。
さらに、12cm×12cm×2cm(厚み)の大きさからなる平板を2枚用意する。この後、取り出したグラフェン接合体を、2枚の平板の間隙に挟む。さらに、2枚の平板を2-ヘプタノールの沸点である159℃に昇温し、実施例9で作成した懸濁液から2-ヘプタノールを気化させ、グラフェン接合体の双方の表面に、面を上にしてランダムに重なり合った銅のフレーク紛の集まりを形成した。
【0029】
実施例11
本実施例は、8段落の第八の工程で記載した方法に従って、銅のフレーク紛同士が摩擦圧接で接合した該フレーク紛の集まりからなる皮膜を、グラフェン接合体の双方の表面に摩擦圧接で接合したフィルムを形成する実施例である。
実施例10において、2枚の平板の間隙に挟んだグラフェン接合体に対し、2枚の平板の上方の平板の表面に対し、上方の平板の表面の角部を結ぶ対角線上に、等間隔で離間した5箇所と、該5箇所のうちの対角線上の角部に最も近い2箇所の中央部に相当する4箇所とからなる合計9箇所に、直径が2cmで、厚みが2cmの円柱を配置させ、9個の円柱に、12kg重に相当する圧縮荷重を同時に加えた。
この後、2枚の平板の上方の平板の一つの側面の3箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加えた。さらに、2枚の平板の下方の平板の一つの側面の3箇所に、0.3Gからなる衝撃加速度を同時に加え、2枚の平板の間隙に形成したフィルムを取り出した。
最初に、作成したフィルムの側面を、実施例1で用いた電子顕微鏡で観察した。厚みが60nmからなるグラフェン接合体の双方の表面に、厚みが3μmからなる銅の皮膜が形成されていた。
次に、フィルムの表面の表面抵抗を表面抵抗計によって測定した(シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗値は1×103Ω/□未満であったため、フィルムは銅に近い表面抵抗を有した。
さらに、フィルムの熱伝導率を測定した。フィルムの熱伝導率の測定は、非定常法の一種である周期加熱法に基づく周期加熱法拡散率測定装置(アドバンス理工社製FTC-1)を用いた。フィルムの20℃における熱伝導率は、550±20W/(m・K)であった。銀より優れた熱伝導率を持った。
さらに、フィルムの表面の摩擦係数を、測定装置(島津製作所の卓上形精密万能試験器オートグラフAGS-Xからなる摩擦係数測定装置)によって、静止摩擦係数と動摩擦係数を繰り返し測定した。静止摩擦係数が0.20±0.05で、動摩擦係数が0.15±0.03であった。いずれの摩擦係数も小さく、銅のフレーク粉に近い摩擦係数を持った。従って、フィルムは、摩擦係数が小さい潤滑性フィルムとしてのみならず、撥水性や防汚性のフィルムとして用いることができる。
さらに、フィルムの衝撃強度を、落下衝撃から測定した。フィルムを2mの高さから繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。さらに、4mの高さからフィルムを繰り返し3回自然落下させたが、フィルムの変化は認められなかった。このため、フィルムは優れた衝撃強度を持った。
次に、インストロン万能試験機を用いて、3点曲げ試験によって、フィルムの屈折強度を測定した。9.0×104MPaの強度を持った。なお、熱間圧延鋼板は、曲げ強度が980MPaの鋼板が市販されている。従って、フィルムは熱間圧延鋼板の92倍の曲げ強度を持った。また、銅のヤング率は117GPaで、グラフェンのヤング率は1020GPaである。
【0030】
実施例では、銀と銅とからなる金属のフレーク紛を用いたが、金とアルミニウムとからなるフレーク紛も用いることができる。また、グラフェン接合体の厚みと、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の厚みは、実施例で形成された厚みに限定されない。さらに、グラフェン接合体の大きさと、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の大きさは、実施例で形成された大きさに限定されない。つまり、グラフェン接合体の厚みと大きさは、容器の大きさと、容器に注入する第一の懸濁液の量によって、自在に変えられる。また、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の厚みと大きさは、用いるアルコールの粘度と、容器の大きさと、容器に注入する第二の懸濁液の量によって、自在に変えられる。従って、グラフェン接合体の双方の表面に、摩擦圧接によって、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜を接合するため、グラフェンの厚みと大きさと、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の厚みと大きさとに関わらず、グラフェン接合体の双方の表面に、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜が接合されたフィルムが形成できる。このため、フィルムの用途に応じて、グラフェンの厚みと大きさと、金属のフレーク紛の材質と、金属のフレーク紛の集まりからなる皮膜の厚みと大きさを決める。
【符号の説明】
【0031】
1 銀のフレーク紛の集まりからなる皮膜 2 グラフェン接合体