(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074358
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】摩擦試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 19/02 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
G01N19/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185456
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布野 宏樹
(57)【要約】
【課題】試験工数を削減することができる摩擦試験方法を提供する。
【解決手段】タイヤと路面との摩擦係数を計測する摩擦試験方法であって、第1タイヤの第1試験片W1と実路面R1との摩擦係数を計測し、第1試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数を計測し、第1試験片W1と実路面R1との摩擦係数と、第1試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数との相関を模擬路面補正係数αとして算出し、第2タイヤの第2試験片W2と模擬路面R2との摩擦係数を計測し、第2試験片W2と模擬路面R2との摩擦係数と、模擬路面補正係数αと、を用いて第2試験片W2と実路面R1との摩擦係数を算出する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤと路面との摩擦係数を計測する摩擦試験方法であって、
第1タイヤの第1試験片と実路面との摩擦係数を計測し、
前記第1試験片と模擬路面との摩擦係数を計測し、
前記第1試験片と前記実路面との摩擦係数と、前記第1試験片と前記模擬路面との摩擦係数との相関を模擬路面補正係数として算出し、
第2タイヤの第2試験片と前記模擬路面との摩擦係数を計測し、
前記第2試験片と前記模擬路面との摩擦係数と、前記模擬路面補正係数と、を用いて前記第2試験片と前記実路面との摩擦係数を算出する、
摩擦試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦試験方法であって、
前記実路面には、氷上路面または雪上路面も含まれる、
摩擦試験方法。
【請求項3】
請求項1に記載の摩擦試験方法であって、
前記第1試験片と前記実路面との摩擦係数を計測するときには、前記第1試験片の厚さまたは前記第1試験片の前記実路面との接地面積が異なる場合をそれぞれ計測し、
前記模擬路面補正係数を算出するときには、前記第1試験片の厚さまたは前記第1試験片の前記実路面との接地面積が異なる場合をそれぞれ算出し、
前記第2試験片と前記模擬路面との摩擦係数と、それぞれの前記模擬路面補正係数と、を用いて前記第2試験片と前記実路面との摩擦係数を算出する、
摩擦試験方法。
【請求項4】
請求項1に記載の摩擦試験方法であって、
前記第1試験片と前記実路面との摩擦係数を計測するときには、前記第1試験片の前記実路面への押圧力が異なる場合をそれぞれ計測し、
前記模擬路面補正係数を算出するときには、前記第1試験片の前記実路面への押圧力が異なる場合をそれぞれ算出し、
前記第2試験片と前記模擬路面との摩擦係数と、それぞれの前記模擬路面補正係数と、を用いて前記第2試験片と前記実路面との摩擦係数を算出する、
摩擦試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤと路面との摩擦係数を計測する摩擦試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの材料である試験片と路面との動摩擦係数(以下、単に摩擦係数)を計測する摩擦試験に関する技術が開示されている。例えば、特許文献1には、摩擦係数の標準偏差を測定し、基準値に達するまで計測を行う技術が開示されている。また、特許文献2には、第1ゴムと第2ゴムとを使用し、第1ゴムを複数測定した場合の変動を利用して第2ゴムの摩擦係数を補正する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6672921号公報
【特許文献2】特開2015-172552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、摩擦試験で用いる路面は実際のアスファルトを用いる場合が多く、試験を繰り返すうちにアスファルトに試験片が付着する、アスファルトが削られる等の理由によってアスファルトの均一な粗さを維持することが困難である。そこで、摩擦試験では、アスファルトを頻繁に交換するようにしているものの、試験工数が増加することになる。
【0005】
そこで、本発明は、試験工数を削減することができる摩擦試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る摩擦試験方法は、タイヤと路面との摩擦係数を計測する摩擦試験方法であって、第1タイヤの第1試験片と実路面との摩擦係数を計測し、第1試験片と模擬路面との摩擦係数を計測し、第1試験片と実路面との摩擦係数と、第1試験片と模擬路面との摩擦係数との相関を模擬路面補正係数として算出し、第2タイヤの第2試験片と模擬路面との摩擦係数を計測し、第2試験片と模擬路面との摩擦係数と、模擬路面補正係数と、を用いて第2試験片と実路面との摩擦係数を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の摩擦試験方法によれば、試験工数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の一例である摩擦試験装置を示す模式図である。
【
図2】実施形態の一例である摩擦試験工程の流れを示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。
【0010】
[摩擦試験装置]
図1を用いて、実施形態の一例である摩擦試験装置10について説明する。
【0011】
摩擦試験装置10は、本発明の摩擦試験方法において用いられる装置である。摩擦試験装置10は、タイヤと路面との摩擦係数を計測する装置である。摩擦試験装置10では、試験片Wを評価路面Rに擦ることによって、試験片Wと評価路面Rとの動摩擦係数(以下、単に摩擦係数)を計測する。
【0012】
摩擦試験装置10は、それぞれ図示しない、押圧機構と、移動機構と、摩擦係数センサーとを有している。押圧機構は、試験片Wを評価路面Rに向けて押圧する機構である。移動機構は、試験片Wに対し評価路面Rを所定方向に移動する機構である。摩擦係数センサーは、試験片Wと評価路面Rとの摩擦係数を測定するセンサーである。
【0013】
摩擦試験装置10は、演算装置と、出力装置とを有していてもよい。演算装置は、例えばコンピュータであって、測定された摩擦係数を演算処理するものであってもよい。出力装置は、例えばディスプレイであって測定された摩擦係数を表示するものであってもよい。
【0014】
本発明の摩擦試験方法において用いられる摩擦試験装置は、上述した摩擦試験装置10に限定されない。本発明の摩擦試験装置は、試験片Wを評価路面Rに擦ることによって、試験片Wと評価路面Rとの摩擦係数を計測する装置であれば、他のどのような構成の装置であってもよい。
【0015】
試験片Wは、評価の対象となるタイヤから切り出したゴム片である。本実施形態の試験片Wは、円盤形状とされている。本発明の試験片は、円盤形状に限定されない。本発明の試験片は、例えば、平面視にて矩形状であってもよく、立方体であってもよい
【0016】
評価路面Rは、評価の対象となる路面と同じものである。本実施形態の評価路面Rは、平板状に形成されて容易に交換可能である。評価路面Rには、実路面R1と、模擬路面R2とが含まれている。実路面R1は、実際の路面であって、例えばアスファルトの路面、氷上の路面、雪上の路面等が含まれている。
【0017】
模擬路面R2は、路面を模したものであって、本実施形態ではサンドペーパーとされている。本発明の模擬路面は、サンドペーパーに限定されない。本発明の模擬路面は、粗さが均一であって安価かつ入手可能のものであれば、他のどのようなものであってもよい。例えば、模擬路面は、粗目地の布、粗目地の紙等であってもよい。
【0018】
[摩擦試験方法]
図2を用いて、実施形態の一例である摩擦試験工程S10について説明する。
【0019】
摩擦試験方法としての摩擦試験工程S10は、上述した摩擦試験装置10を用いてタイヤと路面との摩擦係数を計測する工程である。より具体的には、摩擦試験工程S10では、試験片Wを評価路面Rに擦ることによって、試験片Wと評価路面Rとの摩擦係数を計測する。摩擦試験工程S10によれば、詳細は後述するが、試験工数を削減することができる。
【0020】
摩擦試験工程S10では、第1試験片としてのマスター試験片W1と、第2試験片としてのターゲット試験片W2とを用意する。マスター試験片W1は、詳細は後述する模擬路面補正係数αを取得するための試験片であって、実路面R1と、模擬路面R2とにおいてそれぞれ摩擦係数が計測される。ターゲット試験片W2は、評価対象となる試験片であって、模擬路面R2において摩擦係数が計測され、模擬路面補正係数αを用いて実路面R1での摩擦係数が算出される。
【0021】
図2に示すように、摩擦試験工程S10は、それぞれ詳細は後述する、マスター実路面試験工程S11と、マスター模擬路面試験工程S12と、模擬路面補正係数算出工程S13と、ターゲット模擬路面試験工程S14と、ターゲット摩擦係数算出工程S15とを有している。
【0022】
マスター実路面試験工程S11では、摩擦試験装置10によってマスター試験片W1と実路面R1との摩擦係数を計測する。このとき、下記に示すように、複数のパターンのマスター試験片W1と複数のパターンの実路面R1との摩擦係数を計測することが好ましい。複数の実路面R1には、例えば、アスファルトの路面、氷上の路面、雪上の路面等が含まれていることが好ましい。
【0023】
マスター実路面試験工程S11では、複数のマスター試験片W1には、例えば、厚さが異なるマスター試験片W1が含まれることが好ましい。ここで、表1に、例えば直径が20mmであって、厚さがそれぞれ異なるマスター試験片W1と複数の実路面R1との摩擦係数μを計測した結果を示す。計測時の実路面R1に対するマスター試験片W1への押圧力は、例えば100kpaとする。
【0024】
【0025】
マスター実路面試験工程S11では、複数のマスター試験片W1には、例えば、実路面R1との接地面積が異なるマスター試験片W1が含まれることが好ましい。ここで、表2に、例えば厚さが3mmであって直径が異なるマスター試験片W1と複数の実路面R1との摩擦係数μを計測した結果を示す。計測時の実路面R1に対するマスター試験片W1への押圧力は、例えば100kpaとする。
【0026】
【0027】
マスター実路面試験工程S11では、例えば、マスター試験片W1を実路面R1に押圧する押圧力を複数のパターンに分け、複数の押圧力のパターンによってマスター試験片W1と実路面R1との摩擦係数を計測することが好ましい。ここで、表3に、例えば直径が20mm、厚さが3mmであって試験時の負う圧力が異なるマスター試験片W1と複数の実路面R1との摩擦係数μを計測した結果を示す。
【0028】
【0029】
マスター模擬路面試験工程S12では、摩擦試験装置10によってマスター試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数を計測する。このとき、1つのパターンのマスター試験片W1と実路面R1との摩擦係数を計測する。本実施形態では、例えば、直径が20mm、厚さが3mmであって試験時の模擬路面R2に対するマスター試験片W1への押圧力が100kpaの場合のマスター試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数μ1000を計測する。
【0030】
模擬路面補正係数算出工程S13では、マスター実路面試験工程S11によって計測されたマスター試験片W1とそれぞれの実路面R1との摩擦係数μと、マスター模擬路面試験工程S12によって計測されたマスター試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数μ1000との相関であるそれぞれの模擬路面補正係数αを算出する。より具体的には、マスター試験片W1と複数の実路面R1との摩擦係数μからマスター模擬路面試験工程S12によって計測されたマスター試験片W1と模擬路面R2との摩擦係数μ1000を除したそれぞれの模擬路面補正係数αを算出する。ここで、表4に、それぞれの模擬路面補正係数αを示す。
【0031】
【0032】
ターゲット模擬路面試験工程S14では、摩擦試験装置10によってターゲット試験片W2と模擬路面R2との摩擦係数を計測する。このとき、上述したマスター模擬路面試験工程S12と同様のパターンのターゲット試験片W2と模擬路面R2との摩擦係数を計測する。本実施形態では、上述した直径が20mm、厚さが3mmであって試験時の模擬路面R2に対するターゲット試験片W2への押圧力が100kpaの場合のターゲット試験片W2と模擬路面R2との摩擦係数μ2000を計測する。
【0033】
ターゲット摩擦係数算出工程S15では、ターゲット模擬路面試験工程S14で計測した摩擦係数μ2000と、模擬路面補正係数算出工程S13で算出したそれぞれの模擬路面補正係数αと、を用いてターゲット試験片W2のそれぞれの摩擦係数μを算出する。具体的には、ターゲット模擬路面試験工程S14で計測した摩擦係数μ2000に模擬路面補正係数算出工程S13で算出したそれぞれの模擬路面補正係数αを乗じてターゲット試験片W2のそれぞれの摩擦係数μを算出する。ここで、表5に、ターゲット試験片W2のそれぞれの摩擦係数μを示す。
【0034】
【0035】
[効果]
摩擦試験工程S10によれば、試験工数を削減することができる。より詳細には、摩擦試験工程S10では、マスター試験片W1のみについて実路面R1において試験を行い、ターゲット試験片W2について模擬路面R2においてのみ試験を実施すれば、模擬路面補正係数αを用いてターゲット試験片W2のそれぞれの摩擦係数μを算出することができる。これにより、実際に摩擦試験装置10によって実際に試験を実施する回数を低減することができる。
【0036】
換言すれば、マスター試験片W1のみについて実路面R1において試験を行い、模擬路面補正係数αを算出しておけば、ターゲット試験片W2について模擬路面R2においてのみ試験を実施すれば、路面状況、試験片Wのサイズ、押圧力の違い等の複数のパターンの摩擦係数を算出することができる。
【0037】
また、マスター試験片W1のみについて実路面R1において試験を行い、模擬路面補正係数αを算出しておけば、その後のタイヤ摩擦試験においても試験片Wについて模擬路面R2においてのみ試験を実施すれば、路面状況、試験片Wのサイズ、押圧力の違い等の複数のパターンの摩擦係数を算出することができる。
【0038】
さらに、摩擦試験工程S10によれば、模擬路面R2としてサンドペーパーを用いることによって、安定した粗さによって摩擦試験を実施することができる。また、サンドペーパーは、安価かつ入手容易であるため、サンドペーパーに試験片Wが付着する、サンドペーパーが削られる等の場合であっても、新しいサンドぺーパーに容易に交換することができる。
【0039】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0040】
10 摩擦試験装置、R 評価路面、R1 実路面、R2 模擬路面、S10 摩擦試験工程、S11 マスター実路面試験工程、S12 マスター模擬路面試験工程、S13 模擬路面補正係数算出工程、S14 ターゲット模擬路面試験工程、S15 ターゲット摩擦係数算出工程、W 試験片、W1 マスター試験片、W2 ターゲット試験片