IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関西化学機械製作株式会社の特許一覧 ▶ Bio−energy株式会社の特許一覧

特開2024-7436散液デバイスならびにそれを用いた散液装置
<>
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図1
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図2
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図3
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図4
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図5
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図6
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図7
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図8
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図9
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図10
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図11
  • 特開-散液デバイスならびにそれを用いた散液装置 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007436
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】散液デバイスならびにそれを用いた散液装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/15 20220101AFI20240110BHJP
   B01F 23/41 20220101ALI20240110BHJP
   B01F 23/43 20220101ALI20240110BHJP
   B01F 27/112 20220101ALI20240110BHJP
   B01F 27/192 20220101ALI20240110BHJP
   B01F 27/90 20220101ALI20240110BHJP
【FI】
B01F27/15
B01F23/41
B01F23/43
B01F27/112
B01F27/192
B01F27/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023105579
(22)【出願日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022105944
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006264
【氏名又は名称】関西化学機械製作株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502059825
【氏名又は名称】Bio-energy株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼ 真司
(72)【発明者】
【氏名】向田 忠弘
(72)【発明者】
【氏名】野田 秀夫
【テーマコード(参考)】
4G035
4G078
【Fターム(参考)】
4G035AB38
4G035AB40
4G078AA07
4G078AB05
4G078AB11
4G078BA05
4G078DA01
4G078DC06
(57)【要約】
【課題】 処理液の蒸留や混合、撹拌のような各種操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置を提供すること。
【解決手段】 本発明の散液デバイスは、回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える。流液部材は、回転軸に沿って延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、一端が吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの吐出部分と、回転軸の回転半径方向に沿って延びており、かつ回転軸の回転に伴って回転可能である撹拌翼とを備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、
該回転軸に沿って延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、
一端が該吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ該吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの吐出部分と、
該回転軸の回転半径方向に沿って延びており、かつ該回転軸の回転に伴って回転可能である撹拌翼とを備える、散液デバイス。
【請求項2】
前記流液部材における前記吸液部分が、前記回転軸の軸方向と略平行に延びる一直線状の管である、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項3】
複数の前記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の前記下端のすべてが前記回転軸に対して同じ位置に設けられている、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項4】
前記吸液部分が1本の管で構成されており、かつ該吸液部分の前記上端に少なくとも2つの前記吐出部分を備える、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項5】
前記撹拌翼が前記吸液部分の外壁に固定されている、請求項1に記載の散液デバイス。
【請求項6】
処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている請求項1から6のいずれかに記載の散液デバイスと、該散液デバイスが装着された回転軸とを備える、散液装置。
【請求項7】
前記処理液が油相および水相から構成されている、請求項6に記載の散液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油脂は燃料や化学品へ変換するための原料としても注目されている。特に、化学反応によって動物性油脂および/または植物性油脂から長鎖脂肪酸エステルを合成し、これを軽油と代替可能なバイオディーゼル燃料として利用する試みが積極的になされている。
【0003】
他方、相間移動触媒やスラリー触媒を用いる2液相以上の反応系において、不斉合成反応などの反応を通じて様々な化合物を合成する技術が注目されている。こうした反応の多くでは、反応系を力強く撹拌することによって反応促進が行われる。
【0004】
2液相の反応は、例えばバイオディーゼル燃料の製造に採用されることがある。例えば、リパーゼのような酵素を触媒に用いた酵素触媒法によるエステル交換反応が挙げられる。こうした酵素接触法によるエステル交換反応では、酵素として、例えば、液体酵素やイオン交換樹脂などの担体に固定化された酵素(固定化酵素)が使用される。液体酵素は、培養液を濃縮かつ精製したものから構成されている点で、固定化酵素と比較して安価である。また、当該酵素は、上記エステル交換反応により生成する副生成物のグリセリン水に残存するため、これを次バッチの反応に用いることができる。これにより、液体酵素の繰り返し利用が可能となり、バイオディーゼル燃料の製造に要するコストの節減が可能となる(非特許文献1)。
【0005】
液体酵素を用いるエステル交換反応では、油層と水層との二相系が用いられ、例えば反応物を高速で撹拌する等によりエマルジョンが形成される。ここで、反応物の高速撹拌には、撹拌機への相当なエネルギーの負荷が必要である。一方、工業製品としての生産性を高めるためには、反応物の撹拌等の操作に要するエネルギーを低減させることが所望されている。しかし、そうすると上記反応物を用いるエマルジョン形成能が低下し、エステル交換反応を効果的に行うことができないという矛盾を生じる。
【0006】
あるいは、上記酵素に代えてアルカリ触媒を用いる方法もある。この場合も2液相の反応系が採用され、反応には力強い撹拌が必要とされる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M. Nordbladら、Biotechnology and Bioengineering, 2014, Vol.11, No.12, pp.2446-2453
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、処理液の蒸留や混合、撹拌のような各種操作に要するエネルギーを低減することのできる、散液デバイスならびにそれを用いた散液装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、回転軸に装着可能な少なくとも1つの流液部材を備える、散液デバイスであって、
該流液部材が、
該回転軸に沿って延びかつ下端に吸液口を有する、少なくとも1つの筒状の吸液部分と、
一端が該吸液部分の上端と連通し、そして他端に吐出口を備えかつ該吸液部分に対して傾斜して延びる、少なくとも1つの吐出部分と、
該回転軸の回転半径方向に沿って延びており、かつ該回転軸の回転に伴って回転可能である撹拌翼とを備える、散液デバイスである。
【0010】
1つの実施形態では、上記流液部材における上記吸液部分は、上記回転軸の軸方向と略平行に延びる一直線状の管である。
【0011】
1つの実施形態では、本発明の散液デバイスは複数の上記吸液部分を備え、かつ該吸液部分の上記下端のすべてが上記回転軸に対して同じ位置に設けられている。
【0012】
1つの実施形態では、上記吸液部分は1本の管で構成されており、かつ該吸液部分の上記上端に少なくとも2つの上記吐出部分を備える。
【0013】
1つの実施形態では、上記撹拌翼は上記吸液部分の外壁に固定されている。
【0014】
本発明はまた、処理液を収容するための処理槽と、該処理槽内に設けられている上記散液デバイスと、該散液デバイスが装着された回転軸とを備える、散液装置である。
【0015】
1つの実施形態では、上記処理液は油相および水相から構成されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の散液デバイスによれば、掬い上げた処理液を液面より上方に移動させて散液することができる。これにより、当該散液デバイスの周囲に配置された処理液について、鉛直方向の移動および循環を促すことができる。本発明の散液デバイスは、散液装置の一部として組み込むことができ、これにより、処理液の蒸留や、混合、撹拌などに要する物理的操作のエネルギーを減じることができる。例えば、本発明の散液装置に、処理液として油相と水相との2相で構成される反応液を収容させた場合、余分な動力を使用することなく、反応開始から反応終了にわたって効率良く反応液のエマルジョン化、および/または副生成物(例えばグリセリン)の水での抽出を促すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の散液デバイスの一例を示す概略図である。
図2図1に示す散液デバイスを構成する流液部材の一例を模式的に表す斜視図である。
図3】(a)は図1に示す散液デバイスのA-A方向における断面図であり、(b)は図1に示す散液デバイスのB-B方向における断面図であり、(c)は図1に示す散液デバイスのC-C方向における断面図である。
図4】様々な形態の撹拌翼を備える、本発明の散液デバイスの他の例を示す概略図である。
図5】本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
図6図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
図7図5に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
図8】比較例1で作製した試験装置(C1)の概略図である。
図9図8に示す試験装置(C1)に配置した邪魔板の斜視図である。
図10】比較例2で作製した試験装置(C2)の概略図である。
図11】実施例1で作製した試験装置(E1)の概略図である。
図12】(a)比較例1および2ならびに実施例1で作製した試験装置(C1)、(C2)および(E1)のそれぞれを用いてエステル交換反応(実施例2ならびに比較例3および4)を行った際の反応時間に対するメチルエステルの生成量を示すグラフであり、(b)は(a)に示すエステル交換反応を行った際の反応時間に対する油相の残存グリセリドの指標の対数値(ln(BG/BG))を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を、添付の図面を参照して説明する。なお、以下のすべての図面に共通して同様の参照番号を付した構成は、他の図面に示したものと同様である。
【0019】
(散液デバイス)
図1は、本発明の散液デバイスの一例を示す概略図である。
【0020】
図1に示す本発明の散液デバイス100は、回転軸121に装着可能な2つの筒状の流液部材120,120’を備える。さらに図1においては、回転軸121は鉛直方向に沿って1本配置されている。なお、図1では2つの流液部材が示されているが、本発明はこれに限定されず、少なくとも1つの筒状の流液部材を備えていればよい。
【0021】
流液部材120,120’は、筒状の吸液部分122,122’と、一端が当該吸液部分122,122’の上端と連通し、そして他端に吐出口125,125’を備える吐出部分123,123’とで構成されている。
【0022】
流液部材120,120’はまた、回転軸121の回転半径方向に沿って延びており、かつ回転軸121の回転に伴って回転可能である撹拌翼128,128’を備える。
【0023】
図2は、図1に示す流液部材120を模式的に表す斜視図である。一方、図1に示す散液部材120’は、流液部材120と同様であるため省略する。
【0024】
散液部材120を構成する吸液部分122には、下端が開口した吸液口124が設けられている。図2において、吸液部分122は、上端から下端の吸液口124に向かって外径および内径のいずれもが略一直線状に延びる管で構成されている。
【0025】
吸液部分122は筒状である限り、その断面形状は特に限定されない。吸液部分122を構成し得る断面形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。本発明の散液デバイスは、断面形状が互いに異なる複数の吸液部分で構成されていてもよい。本発明においては、後述する処理液内での移動の際の抵抗を減らすため、吸液部分122は円形または楕円形の断面形状を有することが好ましい。あるいは、吸液部分は、図2に示すものに代えて、回転軸121の軸周りに捻じって配置された管で構成されていてもよい。
【0026】
吸液部分122の大きさは特に限定されないが、例えば、吸液部分122が円形の断面形状を有する場合、その外径は、例えば5mm~100mmである。
【0027】
吸液口124の形状もまた特に限定されない。上記吸液部分122の断面形状と同じまたは異なる形状のいずれであってもよい。吸液口124の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、吸液口124は、吸液部分122の内部により多くの処理液を導入できるように、吸液部分122の軸に対して斜め方向から切断して開口面積を拡張したものであってもよい。
【0028】
吸液部分122の一直線の構造(長さ)は、図1に示す回転軸121と略平行となるものであり、後述する散液装置の処理槽110内に貯留される処理液116の深さに応じて設計されている。この一直線の構造を構成する吸液部分122の下端(吸液口124)から、吸液部分122と吐出部分123との接合部分のうち最も下方に位置する部分(散液部材120の屈曲点P)までの距離tは、特に限定されない。例えば、距離tは使用する処理槽110の容量に応じて当業者によって適宜調節され得る。
【0029】
吐出部分123は、一端が吸液部分122の上端と連通するとともに、当該吸液部分122に対して傾斜して設けられている。また、吐出部分123の他端は、吐出部分123の筒内を通過した処理液を外部に排出するための吐出口125が設けられている。さらに図2に示す吐出部分123は筒状の形態を有する。
【0030】
本発明において、吸液部分122の軸方向に対する吐出部分123の傾斜角θは当業者によって任意の角度に設定され得るが、例えば10°~89°、好ましくは15°~45°である。傾斜角θが10°を下回ると、吸液部分122から吸い上げられた処理液が、吐出部分123と通って吐出口125から排出されるためには散液部材120をより高速で回転させる必要があり、得られる散液デバイスの操作に伴って多くのエネルギーを必要とすることがある。傾斜角θが89°を上回ると、吐出部分123が処理液の液面を超えて内部に浸り、散液の機能を適切に発揮できないことがある。なお、吐出部分123の傾斜角θと、これに対応する図1に示す吐出部分123’の傾斜角は互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0031】
吐出部分123の吐出口125の形状もまた特に限定されない。上記吸液部分122の断面形状と同じまたは異なる形状のいずれであってもよい。吐出口125の形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、本発明において吐出部分123は、吸液部分122と連通する側から吐出口125にかけて、内径が一定であってもよく、あるいは緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよい。
【0032】
吐出部分123の長さ(例えば、散液部材120の屈曲点Pから吐出口125までの最短距離)は特に限定されず、当業者によって任意の長さが設定され得る。
【0033】
図2に示す撹拌翼128は吸液部分122の外壁に固定されている。図2に示す撹拌翼128は所定の厚みを有する矩形の板片で構成されているが、その形状に特にされない。例えば、所定の薄片を捩じった構造や所定の形状を有するパドルやスクリュー状のものであってもよい。なお、撹拌翼128が図2に示すような矩形の板片で構成される場合、当該撹拌翼128は散液部材120の回転方向に対して所定の角度で傾斜して設けられていることが好ましい。散液部材120の回転によって、撹拌翼128が例えば吸液口124の周辺に位置する処理液を上方に移動させることを促し得るからである。このような観点において、当該撹拌翼128と水平方向との間の角度θは好ましくは0°~90°、より好ましくは0°~60°に設定されている。
【0034】
図2において、撹拌翼128は吸液部分123の底部(吸液口124)と屈曲点Pとの間に設けられており、例えば、当該底部から所定の距離tをおいて配置されている。距離tは特に限定されず、散液部材120の全体的な大きさや、撹拌翼128の形状および大きさ、撹拌翼128の高さtおよび幅s等に応じて、適切な長さが当業者によって選択され得る。
【0035】
再び図1を参照すると、吸液部分122,122’の吸液口124,124’は水平方向に略一直線となるように端部が揃えられている。このような形態の場合、散液デバイス100を構成する散液部材120,120’はいずれも、貯留された処理液の略同じ深さの部分から、吸液口124,124’を通じて当該処理液を吸液できる。
【0036】
本発明の散液デバイス100において、散液部材120,120’は例えば回転軸121に(例えば回転軸121の軸周りに)固定されている。なお、散液部材120,120’は回転軸121のできる限り近くに位置するように密集して設けられていることが好ましい。散液部材120,120’の全体が密集することにより、回転軸121に対する散液部材120,120’の水平断面はより小さくなる。その結果、回転軸121を介して散液部材120,120’が回転する際の処理液中の抵抗をできる限り低減することができる。
【0037】
図3の(a)、(b)および(c)は、図1に示す本発明の散液デバイスの断面図である。
【0038】
図3の(a)および(b)に示すように、本発明において撹拌翼128,128’は、散液部材120,120’の回転方向に対して略垂直な方向に延びている。これにより、図1のB-B方向における断面近傍では、散液デバイス100の周囲に存在する処理液は、回転軸121の回転に伴って撹拌翼128,128’により撹拌され易くなる(図3の(b))。一方、図1のC-C方向における断面近傍では、撹拌翼128,128’は存在しないため(図3の(c))、流液部材120,120’の回転により周囲の処理液が激しく撹拌されることは回避され得る。
【0039】
なお、本発明において、撹拌翼は例えば以下のようにして様々な流液部材に取り付けられていてもよい。
【0040】
例えば、図4の(a)に示すように、撹拌翼128a,128’a,128a,128’aは流液部材120,120’の中段および下段に分離して設けられていてもよい。特に図4の(a)では、流液部材120,120’の中段に設けられた撹拌翼128a,128’aと比較して、流液部材120,120’の下段(底部近傍)に設けられた撹拌翼128a,128’aが長くなるように設計されている。この場合、流液部材120,120’の下段は中段よりも撹拌翼128a,128’aによって一層効果的な撹拌が行われ得る。
【0041】
あるいは、図4の(b)に示すように撹拌翼128,128’は、吐出口125a,125’aが例えば水平方向に、または水平方向(0°)を基準にして下方90°~上方20°(すなわち-90°~20°)の方向に指向した流液部材120a,120’aに設けられていてもよい。
【0042】
あるいは、図4の(c)に示すように撹拌翼は、流液部材120,120’の中段または下段において回転軸121の軸方向に対して垂直方向に延びる薄板(例えば円盤状の板片)130d,130d’上に設けられた複数の爪129を有する形状を有していてもよい。図4の(c)に示すような撹拌翼128d,128’dは、薄板130d,130’dおよび複数の爪129によって、周囲の処理液に対して剪断下での撹拌を可能にする。
【0043】
図5は、本発明の散液デバイスの別の例を示す概略図である。
【0044】
図5に示す散液デバイス100eは、1つの散液部材120eから構成されている。
【0045】
図5に示す散液部材120eは、1本の回転軸121の軸方向に沿って一直線状に延びる吸液部分122eを含み、その上端に2本の吐出部分123e,123’eがそれぞれ傾斜して設けられている。回転軸121の軸方向に対する吐出部分123e,123’eの傾斜角は同一であっても異なっていてもよい。
【0046】
吸液部分の下端には1つの吸液口124eが設けられており、吸液口124eの形状は特に限定されない。吸液口124eの形状の例としては、円形、楕円形、三角形、矩形、およびその他の多角形が挙げられる。なお、本発明において吸液部分122は、下端から上端にかけて、内径が一定であってもよく、緩やかにまたは段階的に縮径するものであってもよく、緩やかにまたは段階的に拡径するものであってもよい。また、図5において吸液部分122の内径は、吐出部分123e,123’eの内径よりも大きく記載されているが、特にこの大きさに限定されない。吸液部分122の内径は、吐出部分123e,123’eの内径よりも小さくてもよく、あるいは吸液部分122、および吐出部分123e,123’eの各内径は互いに略同一であってもよい。
【0047】
一方、図5において撹拌翼128,128’は、流液部材120eの吸液部分122の所定の位置に、例えば上記と同様にして設けられている。
【0048】
図5に示す実施形態では、回転軸121の回転により1本の吸液部分122が回転することにより、例えば図1に示すような場合と比較して、回転する吸液部分122の周囲で撹拌翼128,128’以外によって処理液の乱流が生じることが低減され得る。その結果、処理液は比較的静かに撹拌されながら、吸液部124eを通じて吸液され、吐出部分123e,123’eの吐出口125,125’eから吐出される。これにより、吸液された処理液を静かな状態で混合および/または撹拌することが可能となる。
【0049】
本発明の散液デバイスを構成する上記散液部材および固定具はいずれも十分な強度を有し、かつ処理液に対して適切な耐久性を有する材料から構成されている。散液部材および固定具を構成し得る材料としては、必ずしも限定されないが、例えば、鉄、ステンレススチール、ハステロイ、チタンなどの金属;ポリ乳酸、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリレート樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、テフロン(登録商標)などの合成樹脂;およびこれらの組合せ;でなる材料から構成されている。これらは、耐薬品性を高めるために、テフロン(登録商標)やグラスライニング、ゴムライニングのような当該分野において公知のコーティングが付与されていてもよい。
【0050】
(散液装置)
図6は、図1に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置の一例を示す概略図である。図6では、散液装置200が、処理液116として油相116aおよび水相116bで構成される二相系反応液が使用される反応装置として使用される場合を用いて説明する。
【0051】
本発明の散液装置200は、処理液を有用するための処理槽110と、処理槽110内に配置された図1に示す散液デバイス100と、散液デバイス100が装着された回転軸121とを備える。
【0052】
処理槽110は、処理液116を収容して撹拌することができる密閉可能な槽であり、例えば、平底、丸底、円錐底または下方に向かって傾斜する底部109を有する。
【0053】
処理槽110の大きさ(容量)は、散液装置200の用途(例えば、これを用いて行われる反応や蒸留等の操作の種類)や、処理液の処理量などによって適宜設定されるため、必ずしも限定されないが、例えば、0.1リットル~1,000,000リットルである。
【0054】
1つの実施形態では、処理槽110はまた、処理液供給口112および生成物等出口114を備える。処理液供給口112は、処理槽110内に処理液116を新たに供給するための入口である。処理液供給口112は、例えば処理槽110の上方(例えば、上蓋)に設けられている。あるいは、処理液供給口112は、処理槽110の側面部に設けられていてもよい。処理槽110に設けられる処理液供給口112の数は1個に限定されない。例えば、複数個の処理液供給口が処理槽110に設けられていてもよい。
【0055】
生成物等出口114は、処理槽110内で得られた生成物や濃縮物(本明細書では、これらをまとめて「生成物等」という)を処理槽110から取り出すための出口である。生成物等出口114は、生成物等に加えて反応残渣や廃液等も排出可能であり、当該排出は、例えば生成物等出口114の下流側に設けられたバルブ115の開閉によって調節され得る。生成物等出口114はまた、例えば処理槽110内の底部109の中央に連通して設けられている。
【0056】
処理槽110の上部は、例えば、蓋体またはメンテナンス・ホールのような開閉可能な構造を有していてもよい。さらに、処理槽110の上部には、処理槽110内の圧力を調節するための圧力調節口(図示せず)が設けられていてもよい。さらに、圧力調節口は例えば図示しない減圧ポンプに接続されていてもよい。
【0057】
処理槽110に収容される処理液116は、例えば、水溶液、スラリーなどの液体である。散液装置200が例えば後述するエステル交換反応による脂肪酸エステルの製造に使用されるような場合、処理液116は、例えば油相116aおよび水相116bの二相系で構成されており、油相116aおよび水相116bのそれぞれには出発材料などの反応物および溶媒などの媒体が含有されている。
【0058】
処理槽110は、例えば上記散液部材と同様の材料で構成されている。必要に応じて散液部材と同様の表面処理が行われていてもよい。
【0059】
回転軸121は所定の剛性を有するシャフトであり、例えば、円筒状または円柱状の形状を有する。回転軸121は、処理槽110内で、通常、鉛直方向に配置されている。回転軸121の太さは、必ずしも限定されないが、例えば、8mm~200mmである。回転軸121の長さは、使用する処理槽110の大きさ等によって変動し、当業者によって適切な長さが選択され得る。
【0060】
回転軸121の一端は、処理槽110の上部でモータ140などの回転手段に接続されている。例えば、回転軸121の他端は、処理槽110の底部109に接続されておらず、処理槽110の底部109から一定の間隔を開けて配置されている。これにより、回転軸121が反応液116に接触する面積を低減できる。あるいは、回転軸の他端は処理槽の底部109に設けられた所定の軸受に収容されていてもよい。
【0061】
回転軸121は、例えば上記散液部材と同様の材料で構成されている。必要に応じて散液部材と同様の表面処理が行われていてもよい。
【0062】
図6に示す実施形態では、散液デバイス100は、回転軸121の軸周りに直接固定されている。
【0063】
図6に示す散液装置200によれば、モータ140により回転軸121を回転させることにより、散液デバイス100内の流液部材120,120’が吸液口124,124’から処理液116を吸液する(すなわち、取り込まれる)。吸液された処理液は、当該回転軸121の回転に伴う遠心力により、吸液部分122,122’および吐出部分123,123’内の流路を介して吐出口125,125’まで移動し、当該吐出口125,125’から処理槽110内に、具体的には処理槽110内の処理液116の液面132よりも上方に吐出される。これにより、処理液116は、処理槽110の内壁111や液面132への衝突とともに、処理槽110の底部109から上方への移動が可能となり、処理槽110の高さ方向での処理液116の混ぜ返し(例えば、鉛直方向における撹拌または循環)や内壁111への衝突後の流下を促すことができる。一方、流液部材120,120’の吸液部分122,122’の外壁に固定された撹拌翼128,128’は、回転軸121の回転によって処理液116の内部を直接撹拌することができる。その結果、例えば、処理液として所定の反応液を使用した場合には、散液装置200内で行われる反応生成物の製造をより効果的に進行させることができる。
【0064】
本発明の散液装置200では、回転軸121の回転による散液デバイス100からの処理液116の吐出を効率良く行うために、処理槽110内で処理液116が所定量にて収容されていることが好ましい。具体的には、回転軸121の回転有無のいずれの場合においても、処理液116の液面132が、散液デバイス100を構成する吸液部分122,122’と吐出部分123,123’との接合部分、より詳細には、吸液部分122の下端(吸液口124)から、吸液部分122と吐出部分123との接合部分のうち最も下方に位置する部分(すなわち、散液部材120の屈曲点P)よりも上方に位置するように、処理槽110内に処理液116が収容されていることが好ましい。散液デバイス100と処理液116の液面132とがこのような関係を満たす場合、処理液116は吸液部分122,122’とともに吐出部分123,123’の下端方向の一部まで存在することになる。こうした関係において、回転軸121を介して散液デバイス100を回転させると、処理液116は散液デバイス100の回転に伴ってボルテックス(渦流)を形成し、吐出部分123,123’の内部の傾斜した流路を当該回転に基づく遠心力によって吐出口125,125’まで上昇することができる。そして、最終的に上昇した処理液116が吐出口125,125’から散液部材120,120’の外に効果的に吐出することができる。
【0065】
上記において処理液116が吐出口125,125’から散液部材120,120’の外への吐出が効果的に行われるためには、散液デバイス100の回転に伴って上記ボルテックスが形成されている際も、処理液116の液面(ボルテックス面)が散液部材120の屈曲点Pよりも上方に位置しているが好ましい。
【0066】
なお、図6に示す散液装置200を構成する散液デバイス100では、2つの散液部材120,120’が回転軸121を介して対称的に配置される例について説明したが、本発明はこのような散液部材の数および配置に特に限定されない。散液デバイスは1つの散液部材のみで構成されていてもよく、複数(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ)の散液部材で構成されていてもよい。複数の散液部材を用いる場合は、回転軸が円滑に回転できるようにするために、各散液部材の間の間隔(例えば角度)は略一定に保持されていることが好ましい。
【0067】
図6に示す実施形態では、油相116aよりも水相116bが下方に配置されている場合について説明しているが、本発明の散液装置は、このような油相116aおよび水相116bの配置にのみ限定されない。例えば、水相にメタノールが添加されたような系では、油相と水相との配置が逆転し、水相よりも油相が下方に配置されることがある。本発明の散液装置は、このように配置された油相および水槽を含む二相系反応液についても使用できる。
【0068】
図7は、図5に示す散液デバイスが組み込まれた散液装置(反応装置)の一例を示す概略図である。
【0069】
図7に示す散液装置200eでは、散液デバイス100eを構成する散液部材120eの吸液口124eが撹拌槽110の底部109側に指向している。図7において、散液部材120eの吸液口124eは、処理液116の油相116aと水相116bとの界面付近に配置されているが、特にこのような配置に限定されない。処理液116の静置状態において、散液部材120eの吸液口124eは、油相116a側または水相116b側のいずれに配置されていてもよい。
【0070】
このような構成において、モータ140を通じて回転軸121を回転させると、散液デバイス100eの回転により油相116aおよび水相116bが混合した状態で散液部材120eの吸液口124eから吸液される。吸液口124eから吸液された処理液116は、散液部材120eの吐出口125e,125’eから、例えば、それぞれ液面132上や処理槽110の内壁111に向けて吐出することができる。一方、流液部材120,120’の吸液部分122,122’の外壁に固定された撹拌翼128,128’は、回転軸121の回転によって処理液116の内部を直接撹拌することができる。
【0071】
例えば本発明の散液装置が反応装置として使用される場合、当該装置は反応液(反応物)の撹拌が所望される種々の反応生成物の製造において有用である。特に、油相と水相とで構成されるような二相系(不均一反応系)や、多相(例えば2相)の化学物質から構成される反応系において、従来の撹拌機を用いる場合よりも効果的に反応生成物を得ることができる。例えば二相系の例としては、脂肪酸エステルを製造するためのエステル交換反応が挙げられる。
【0072】
本発明において、散液デバイスを構成する散液部材の吸液部分が鉛直方向に延びており、装着された回転軸よって吸液部分は比較的小さい回転半径で回転することができる。一方、吐出部分は所定の角度で傾斜しているため、内部の流路を通過して処理液は回転に伴う遠心力を利用して容易に外部に排出できる。さらに、撹拌翼が回転軸の回転に伴って回転可能であることにより、散液部材の周囲に存在する処理液を直接撹拌することができる。結果として、本発明の散液デバイスは処理液内でより少ないエネルギーで回転できるとともに、効率良く処理液の排出、すなわち処理液の混合や撹拌、反応、蒸発、蒸留などの各種操作を行うことができる。
【0073】
(反応生成物の製造方法)
次に、本発明の散液デバイスが組み込まれた散液装置を用いて所定の反応生成物を製造する方法について説明する。
【0074】
本発明の製造方法では、上記散液デバイスが組み込まれた散液装置内で処理液を循環させることにより撹拌が行われる。ここで、本明細書において、用語「循環による撹拌」とは、対象となる液体(例えば反応液)に対して、水平方向の回転を加えることによる撹拌と、上記散液装置を用いる場合のように、鉛直方向の当該液体の移動かつ循環を通じて当該液体全体の混ぜ返し(またはミキシング)との両方を包含していう。
【0075】
本発明に用いられる処理液は、無機または有機系の液体媒体を含有し、一般に撹拌機等による撹拌を通じて化学反応を進行させかつ制御され得るものである。例えば処理液は不均一系の反応液である。例えば、油相および水相から構成されている反応液は、上記循環による撹拌を通じて、反応液の乳化を向上かつ促進することができる点で有用である。
【0076】
処理液が不均一系の反応液である場合、当該処理液には、例えば原料油脂と、液体酵素と、炭素数1から8を有するアルコール、および水が含有されている。
【0077】
原料油脂は、例えばバイオディーゼル燃料用の脂肪酸エステルの製造において使用され得る油脂である。原料油脂は、予め精製された油脂、または不純物を含む未精製油脂のいずれであってもよい。原料油脂の例としては、食用油脂およびその廃食用油脂、原油、および他の廃棄物系油脂、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用油脂およびその廃食用油脂の例としては、植物油脂、動物油脂、魚油、微生物生産油脂、およびこれらの廃油、ならびにこれらの混合物(混合油脂)が挙げられる。植物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、大豆油、菜種油、パーム油、およびオリーブ油が挙げられる。動物油脂の例としては、必ずしも限定されないが、牛脂、豚脂、鶏脂、鯨油、および羊脂が挙げられる。魚油としては、必ずしも限定されないが、イワシ油、マグロ油、およびイカ油が挙げられる。微生物生産油脂の例としては、必ずしも限定されないが、モルティエレラ属(Mortierella)またはシゾキトリウム属(Schizochytrium)などの微生物によって生産される油脂が挙げられる。
【0078】
原油は、例えば、従来の食用油脂の搾油工程から得られる未精製または未加工の油脂であり、例えば、リン脂質および/またはタンパク質などのガム状不純物、遊離脂肪酸、色素、微量金属および他の炭化水素系の油可溶性不純物、ならびにこれらの組合せを含有し得る。原油に含まれる当該不純物の含有量は特に限定されない。
【0079】
廃棄物系油脂としては、例えば、食品油脂の製造過程で生じる粗油をアルカリの存在下で精製することにより得られる油滓、熱処理油、プレス油、および圧延油、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0080】
原料油脂は、油脂本来の性質を阻害しない範囲において任意の量の水分を含有していてもよい。さらに、原料油脂は、別途脂肪酸エステルの生成反応において使用した溶液中に残存する未反応の油脂を用いてもよい。
【0081】
液体酵素としては、脂肪酸エステルの生成反応に使用され得る任意の酵素触媒のうち、室温において液体の性状を有するものが挙げられる。液体酵素の例としては、リパーゼ、クチナーゼ、およびそれらの組合せが挙げられる。ここで、本明細書中に用いられる用語「リパーゼ」とは、グリセリド(アシルグリセロールともいう)に作用して、当該グリセリドをグリセリンまたは部分グリセリドと脂肪酸とに分解する能力を有し、かつ直鎖低級アルコールの存在下ではエステル交換により脂肪酸エステルを生成する能力を有する酵素を言う。
【0082】
リパーゼは1,3-特異的であっても、非特異的であってもよい。脂肪酸の直鎖低級アルコールエステルを製造することができるという点においては、当該リパーゼは、非特異的であることが好ましい。リパーゼの例としては、リゾムコール属(リゾムコール・ミーハエ(Rhizomucor miehei))、ムコール属、アスペルギルス属、リゾプス属、ペニシリウム属などに属する糸状菌に由来するリパーゼ;キャンディダ属(カンジダ・アンタルシティカ(Candida antarcitica),カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa),カンジダ・シリンドラセア(Candida cylindracea))、ピヒア(Pichia)などに属する酵母に由来するリパーゼ;シュードモナス属、セラチア属などに属する細菌に由来するリパーゼ;および豚膵臓などの動物に由来するリパーゼが挙げられる。液体リパーゼは、例えば、これらの微生物が産生したリパーゼを含む該微生物の培養液を濃縮かつ精製することによって、あるいは粉末化したリパーゼを水に溶解することによって得ることができる。市販の液体リパーゼもまた用いられ得る。
【0083】
上記液体酵素の使用量は、例えば、原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、使用する原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは0.2質量部~30質量部である。液体酵素の使用量が0.1質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を触媒することができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。液体酵素の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0084】
アルコールは、直鎖または分岐鎖の低級アルコール(例えば、炭素数1~8のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール)である。直鎖の低級アルコールが好ましい。直鎖の低級アルコールの例としては、必ずしも限定されないが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、およびn-ブタノール、ならびにこれらの組合せが挙げられる。
【0085】
上記アルコールの使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは5質量部~100質量部、好ましくは10質量部~30質量部である。アルコールの使用量が5質量部を下回ると、効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。アルコールの使用量が100質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0086】
本発明に用いられる水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、純水のいずれであってもよい。当該水の使用量は、例えば、使用する原料油脂の種類および/または量によって変動するため必ずしも限定されないが、原料油脂100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~50質量部、好ましくは2質量部~30質量部である。水の使用量が0.1質量部を下回ると、反応系内に形成される水層の量が不足し、上記原料油脂、液体酵素およびアルコールによる効果的なエステル交換反応を行うことができず、所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率を低下させるおそれがある。水の使用量が50質量部を上回ると、もはやエステル交換反応を通じて得られる所望の脂肪酸エステルの収量および/または収率に変化が見られず、むしろ製造効率を低下させるおそれがある。
【0087】
本発明の方法では、上記処理液に対して所定の電解質が添加されていてもよい。電解質を構成するアニオンとしては、必ずしも限定されないが、例えば、炭酸水素イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、水酸化物イオン、クエン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、およびリン酸イオンならびにこれらの組合せが挙げられる。電解質を構成するカチオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、およびアルカリ土類金属イオンならびにそれらの組合せが挙げられ、より具体的な例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、およびカルシウムイオン、ならびにそれらの組合せが挙げられる。電解質の例としては、炭酸水素ナトリウム(重曹)、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化ナトリウム、およびリン酸三ナトリウム、ならびにそれらの組合せが好ましい。汎用性に富み、入手が容易である等の理由から、炭酸水素ナトリウム(重曹)がより好ましい。
【0088】
上記原料油脂、触媒、およびアルコール、および水は、例えば図6に示す散液装置200の処理槽110に処理液供給口112を通じて同時または任意の順序で添加され、油相116aおよび水相116bで構成される処理液116が構成される。その後、回転軸121の回転を通じて散液デバイス100の流液部材120,120’を処理槽110内で回転させることにより、上述の通り、流液部材120,120’から処理液116が吸液され、吸液された処理液は吸液部分122,122’および吐出部分123,123’内の各流路を通じて上方に移動し、流液部材120,120’の吐出口125,125’から吐出される。一方、流液部材120,120’の吸液部分122,122’の外壁に固定された撹拌翼128,128’は、回転軸121の回転によって処理液116の内部を直接撹拌することができる。
【0089】
このような処理液116の移動や直接撹拌によって、処理液116にはより複雑な撹拌が促され、反応生成物である脂肪酸エステルの生成が行われる。処理槽110内に付される温度は、必ずしも限定されないが、例えば、5℃~80℃、好ましくは15℃~80℃、より好ましくは25℃~50℃である。
【0090】
なお、散液装置200内の回転軸の回転は必ずしも高速(例えば、600rpm以上)で行われなくてもよい。例えば、低速(例えば、80rpm以上300rpm未満)または中速(例えば、300rpm以上600rpm未満)に設定されてもよい。さらに、反応時間は、使用する原料油脂、触媒、アルコール、および水の各量によって変動するため、必ずしも限定されず、任意の時間が当業者によって設定され得る。
【0091】
反応の終了後、生成物および反応残渣は散液装置200の処理槽110から取り出され、例えば、当業者に周知の手段を用いて脂肪酸エステルを含む層と、副生成物グリセリンを含む層とに分離される。その後、脂肪酸エステルを含む層はさらに、必要に応じて当業者に周知の方法を用いて脂肪酸エステルが単離かつ精製され得る。
【0092】
上記のようにして得られた脂肪酸エステルは、例えばバイオディーゼル燃料またはその構成成分として使用され得る。
【実施例0093】
以下、実施例により本発明を詳述する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0094】
(比較例1:試験装置(C1)の作製)
図8に示す試験装置(C1)300を以下のようにして作製した。具体的には、内径130mmの丸底の処理槽310内に、邪魔板320を配置し、邪魔板320の上に、一端に1つのパドル翼330を取付けた回転軸340を挿入した(なお、邪魔板320は図9に示すように、「コ」の字状の2つの部材を十字状に組み合わせた形状を有するものである)。回転軸340の他端を図示しないモータに接続した。このパドル翼330は回転軸340の回転方向に向かって水平方向から45°傾斜した状態で、回転方向に均等に配置された4つの翼部分334が設けられているものであった。試験装置(C1)300について、この処理槽310内に後述する反応液を収容した際の液面332(回転軸340が回転する直前の静置状態の液面を表す)と各部品との位置関係および長さは図8の通りであった。
【0095】
(比較例2:試験装置(C2)の作製)
図10に示す試験装置(C2)400を以下のようにして作製した。具体的には、パドル翼330の上方に、比較例1で使用したものと同一形状で構成される第2のパドル翼330’を設けたこと以外は比較例1と同様にして試験装置(C2)400を作製した。試験装置(C2)400について、この処理槽310内に後述する反応液を収容した際の液面432(回転軸340が回転する直前の静置状態の液面を表す)と各部品との位置関係および長さは図10の通りであった。
【0096】
(実施例1:試験装置(E1)の作製)
本発明の散液装置に相当するものとして、図11に示す試験装置(E1)500を以下のようにして作製した。具体的には、内径130mmの丸底の処理槽310内に、比較例1と同様の邪魔板320を配置し、邪魔板320の上に、取付具512を介して散液デバイス560を取付けた回転軸540を挿入した。回転軸340の他端を図示しないモータに接続した。
【0097】
この散液デバイス560は、内径10mmのポリ乳酸製の円筒管を、回転軸540の軸方向に対して30°傾斜しかつ点Pで屈曲するように繋ぎ合わせた管体562,562’から構成されるものであった。さらに、散液デバイス560の下端近傍にはパドル翼530を取付けた。このパドル翼530は回転軸540の回転方向に向かって水平方向から45°傾斜した状態で、回転方向に均等に配置された2つの翼部分534が設けられているものであった。試験装置(E1)500について、この処理槽310内に後述する反応液を収容した際の液面532(回転軸540が回転する直前の静置状態の液面を表す)と各部品との位置関係および長さは図11の通りであった。
【0098】
(実施例2:試験装置(E1)を用いるメチルエステルの製造)
図10に示す実施例1で得られた試験装置(E1)500の処理槽310に、0.423mg-KOH/gの酸価を有するパーム油1100g、液体酵素(液体リパーゼ;Callera Trans L、ノボザイム社製)11g、蒸留水165g、およびメタノール5M当量をそれぞれ添加し、処理槽810内を40℃に保持して回転軸850の回転速度を300rpmに設定してエステル交換反応を行った。当該反応中、処理槽810内の反応液を定期的にサンプリングし、反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量を、ガスクロマトグラフィー(株式会社島津製作所製GC-2030)により測定した。得られた結果を図12の(a)に示す。
【0099】
また、このサンプリングした反応液から、ガスクロマトグラフィーを用いて各種グリセリドの測定値を入力値とすることにより、油相の残存グリセリドの指標の対数値(ln(BG/BG))を算出した。ここで、BGは、サンプリングした反応液の油相に含まれるモノグリセリド(MAG)、ジグリセリド(DAG)、トリグリセリド(TAG)の濃度を使って
BG=0.2591MAG+0.1488DAG+0.1044TAG
で示される数値であり、BGは反応ゼロ時間(酵素反応が開始される前の油相)におけるBGを指す。得られた結果を図12の(b)に示す。
【0100】
(比較例3:試験装置(C1)を用いるメチルエステルの製造)
試験装置(E1)の代わりに比較例1で作製した試験装置(C1)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてメチルエステルの製造を行った。反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量の測定結果を図12の(a)に示し、当該反応液における油相の残存グリセリドの指標の対数値(ln(BG/BG))の算出した結果を図12の(b)に示す。
【0101】
(比較例4:試験装置(C2)を用いるメチルエステルの製造)
試験装置(E1)の代わりに比較例2で作製した試験装置(C2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてメチルエステルの製造を行った。反応液中に含まれるメチルエステル(ME)含量の測定結果を図12の(a)に示し、当該反応液における油相の残存グリセリドの指標の対数値(ln(BG/BG))の算出した結果を図12の(b)に示す。
【0102】
図12の(a)に示すように、実施例1の試験装置(E1)を用いて得られたメチルエステルの結果(実施例2)は、比較例1および2の試験装置(C1)および(C2)を用いて得られたメチルエステルの結果(比較例3および4)と比較して、反応初期(例えば反応開始後5時間以内)では、より多くのメチルエステルを生成していた。また、反応後期(例えば22~24時間)でも、実施例1の試験装置(E1)を用いた場合(実施例2)により多くのメチルエステルを生成していた。
【0103】
これに対し、これらの反応系を油相の残存グリセリドの指標の対数値(ln(BG/BG)の観点から評価すると、図12の(b)に示すように、実施例1の試験装置(E1)を用いて得られた当該対数値の結果(実施例2)は、比較例1および2の試験装置(C1)および(C2)を用いて得られた当該対数値の結果(比較例3および4)と比較して、反応を長く続けるほど高くなっており、反応後段において反応速度が速まり、高品質のメチルエステルを生成できたことがわかる。
【0104】
なお、一般に対数表記によって略直線近似が可能となる関係性(グラフ)が得られた場合、その「傾き」が反応速度(速度定数)を示す。ここで、図12の(b)の各グラフを直線近似すると、実施例2(実施例1の試験装置(E1)を使用)のグラフの傾きは0.1826であり、比較例4(比較例2の試験装置(C2)を使用)のグラフの傾きは0.1606であり、比較例3(比較例1の試験装置(C1)を使用)のグラフの傾きは0.1409であった。このことから、実施例1の試験装置(E1)を使用した場合の速度定数が最も大きく、実施例1の試験装置(E1)は、比較例1および2の試験装置(C1)および(C2)よりも上記反応系において優れるものであったことがわかる。
【0105】
また、図12の(b)において、トリグリセリド濃度が0.2質量%(バイオディーゼル燃料の上限規格値)を下回るときのln(BG0/BG)の値が概ね4であるとの理由から、ln(BG/BG)は少なくとも4以上である場合、高品質なメチルエステルを生成することができたとの指標となる。ここで、実施例1の試験装置(E1)を用いた実施例2の反応系のみが、反応時間24時間でln(BG/BG)の値が4を超えており、上記反応系において優れるものであったことがわかる。
【符号の説明】
【0106】
100,100e,560 散液デバイス
109 底部
110,310 処理槽
111 内壁
112 処理液供給口
114 生成物等出口
115 バルブ
116 処理液
116a 油相
116b 水相
120,120’,120e 流液部材
121,340,540 回転軸
122,122’ 吸液部分
123,123’123e,123’e 吐出部分
124,124’124e 吸液口
125,125’,125a,125’a,125e,125’e 吐出口
128,128’,128a,128’a,128a,128’a,128d,128’d 撹拌翼
129 爪
130d,130’d 薄板
132 液面
140 モータ
200,200e 散液装置
300,400,500 試験装置
320 邪魔板
330,330’,530 パドル翼
332,432,532 液面
334,534 翼部分
512 取付具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12