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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074363
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/24 20060101AFI20240524BHJP
   B29C 39/10 20060101ALI20240524BHJP
   B29C 70/48 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
B29C39/24
B29C39/10
B29C70/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185466
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅村 康太
【テーマコード(参考)】
4F204
4F205
【Fターム(参考)】
4F204AA36
4F204AC05
4F204AD16
4F204AH26
4F204AM28
4F204AM32
4F204EA03
4F204EB01
4F204EB12
4F204EF27
4F204EK17
4F205AA36
4F205AC05
4F205AD16
4F205AH26
4F205AM28
4F205HA12
4F205HA27
4F205HA33
4F205HA35
4F205HB01
4F205HB12
4F205HF30
4F205HG02
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】目止め剤を用いた熱硬化を行うことなく、賦形後の補強繊維基材を成形型に形崩れしないよう移し替えることが可能な繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供すること。
【解決手段】シート状の補強繊維基材2に熱硬化性樹脂を含浸させて熱硬化させることで得られる繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、賦形工程において賦形した補強繊維基材2を賦形上型11の賦形面11Aに係合させて密着させたまま賦形上型11を成形下型22に移動させて型締めすることで、補強繊維基材2を成形下型22の成形面22A上に受け渡す型移動セット工程S3を有する。型移動セット工程S3の後、補強繊維基材2を成形面22A上に残して賦形上型11を成形下型22から型開きしし、成形型20のキャビティ内に熱硬化性樹脂を注入して熱硬化させる。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の補強繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させて熱硬化させることで得られる繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記補強繊維基材を賦形型にセットし型締めにより前記補強繊維基材を賦形する賦形工程と、
前記賦形型のうち前記熱硬化性樹脂を成形する成形型の下型である成形下型の成形面に適合する賦形面を有する移動対応型の型開き後に前記移動対応型の前記賦形面に前記補強繊維基材を係合部の係合により密着させたまま前記移動対応型を前記成形下型に型締めして前記補強繊維基材を前記成形下型の前記成形面上に受け渡す型移動セット工程と、
前記補強繊維基材を前記成形面上に残して前記移動対応型を前記成形下型から型開きしした後に前記成形型のキャビティ内に前記熱硬化性樹脂を注入して熱硬化させる樹脂成形工程と、を有する繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記補強繊維基材が、不織布である繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記賦形工程の後に前記賦形型を型締めしたまま前記補強繊維基材の端部を前記賦形型内に設けられた切断刃により切断する基材切断工程を更に有する繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
前記補強繊維基材を前記移動対応型の前記賦形面に密着させる前記係合部が、成形後の前記繊維強化樹脂成形品の意匠面を構成する表層フィルムであり、前記補強繊維基材と共に前記賦形型にセットされて賦形後の真空引きにより前記補強繊維基材を前記移動対応型の前記賦形面に密着させる前記表層フィルムから成る繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。詳しくは、シート状の補強繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させて熱硬化させることで得られる繊維強化樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、RTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いた繊維強化樹脂成形品の製造方法が開示されている。具体的には、RTM成形法では、先ず、カーボン繊維やガラス繊維等の補強繊維から成るシート状の補強繊維基材を、賦形型にセットして所定形状に賦形する。次いで、賦形した補強繊維基材を成形型のキャビティ内にセットする。そして、キャビティ内に熱硬化性樹脂を注入して補強繊維基材に含浸させつつ熱硬化させる。それにより、補強繊維基材と一体化された樹脂成形品である繊維強化樹脂成形品が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4670313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、補強繊維基材の賦形後の形崩れを防止するため、賦形時に補強繊維基材を目止め剤を用いて熱硬化させている。それにより、賦形した補強繊維基材を賦形型から成形型に移し替える際の形崩れが防止されている。しかし、補強繊維基材に目止め剤が塗布されることで、樹脂成形時に熱硬化性樹脂が含浸しにくくなるおそれがある。また、成形に係る工数も増大する。そこで、本発明は、目止め剤を用いた熱硬化を行うことなく、賦形後の補強繊維基材を成形型に形崩れしないよう移し替えることが可能な繊維強化樹脂成形品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する手段として、本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法は、次の手段をとる。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明は、シート状の補強繊維基材に熱硬化性樹脂を含浸させて熱硬化させることで得られる繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、前記補強繊維基材を賦形型にセットし型締めにより前記補強繊維基材を賦形する賦形工程と、前記賦形型のうち前記熱硬化性樹脂を成形する成形型の下型である成形下型の成形面に適合する賦形面を有する移動対応型の型開き後に前記移動対応型の前記賦形面に前記補強繊維基材を係合部の係合により密着させたまま前記移動対応型を前記成形下型に型締めして前記補強繊維基材を前記成形下型の前記成形面上に受け渡す型移動セット工程と、前記補強繊維基材を前記成形面上に残して前記移動対応型を前記成形下型から型開きしした後に前記成形型のキャビティ内に前記熱硬化性樹脂を注入して熱硬化させる樹脂成形工程と、を有する繊維強化樹脂成形品の製造方法である。
【0007】
第1の発明によれば、型移動セット工程により、賦形後の補強繊維基材を移動対応型の賦形面に密着させたまま、成形下型に形崩れさせることなくセットすることができる。したがって、目止め剤を用いた熱硬化による形状固化を行うことなく、賦形後の補強繊維基材を成形型に適切に移し替えて繊維強化樹脂成形品の成形を行うことができる。
【0008】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明において、前記補強繊維基材が、不織布である繊維強化樹脂成形品の製造方法である。
【0009】
第2の発明によれば、目止め剤を用いた熱硬化処理が現実的でない不織布を用いて繊維強化樹脂成形品を適切に成形することが可能となる。また、不織布は、織物や編み物よりもスプリングバックが生じにくいことから、賦形後の補強繊維基材をより形崩れさせにくくすることができる。また、補強繊維基材を不織布とすることで、織物や編み物よりも裁断面の解れにくい構成とすることができる。したがって、補強繊維基材の賦形及び賦形後の端部の切断を適切に行うことができる。
【0010】
本発明の第3の発明は、上記第2の発明において、前記賦形工程の後に前記賦形型を型締めしたまま前記補強繊維基材の端部を前記賦形型内に設けられた切断刃により切断する基材切断工程を更に有する繊維強化樹脂成形品の製造方法である。
【0011】
第3の発明によれば、繊維強化樹脂成形品の成形後に端部を切断する構成と比べて、端部の切断を簡便かつ適切に行うことができる。詳しくは、不織布は、織物等と異なり、型締めによる圧縮前後で厚さ寸法が大きく変化する構成とされるが、このような特性を持つ不織布を補強繊維基材として用いても、賦形後の端部の切断を適切に行うことが可能となる。
【0012】
本発明の第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記補強繊維基材を前記移動対応型の前記賦形面に密着させる前記係合部が、成形後の前記繊維強化樹脂成形品の意匠面を構成する表層フィルムであり、前記補強繊維基材と共に前記賦形型にセットされて賦形後の真空引きにより前記補強繊維基材を前記移動対応型の前記賦形面に密着させる前記表層フィルムから成る繊維強化樹脂成形品の製造方法である。
【0013】
第4の発明によれば、成形後の繊維強化樹脂成形品の意匠面を構成する表層フィルムを用いて、賦形時に補強繊維基材を移動対応型の賦形面に合理的かつ適切に密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1の実施形態に係る繊維強化樹脂成形品の概略構成を示す斜視図である。
図2】繊維強化樹脂成形品の製造方法を示すフローチャートである。
図3】補強繊維基材を賦形型にセットする工程を示す図である。
図4】賦形工程を示す図である。
図5】賦形型を型締めしたまま補強繊維基材の端部を切断する工程を示す図である。
図6】型開き後に補強繊維基材を賦形上型に密着させたまま成形下型へと移動させる工程を示す図である。
図7】賦形上型を成形下型に型締めする工程を示す図である。
図8】賦形上型を成形下型から型開きする工程を示す図である。
図9】成形上型を成形下型に型締めする工程を示す図である。
図10】成形型のキャビティ内を減圧する工程を示す図である。
図11】キャビティ内に熱硬化性樹脂を充填する工程を示す図である。
図12】上流側の開閉弁が開弁される工程を示す図である。
図13】その次の開閉弁が開弁される工程を示す図である。
図14】更にその次の開閉弁が開弁される工程を示す図である。
図15】開閉繰り返し工程によりキャビティ内の空気が排出される様子を示す図である。
図16】成形上型を成形下型から型開きして製品を脱型する工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
《第1の実施形態》
(繊維強化樹脂成形品1の製造方法)
始めに、本発明の第1の実施形態に係る繊維強化樹脂成形品(以下、成形品)1及びその製造方法(以下、本製造方法)について、図1図16を用いて説明する。以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、図1図16のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0017】
図1に示すように、成形品1は、車両用シート100のシートバック101のフレームとして構成される。具体的には、成形品1は、着席者の背部を包み込むように支持することが可能な凹形状に湾曲したシェル状のフレームとして構成される。上記シェル状のフレームである成形品1の前面には、着席者の背部を弾性的に支持するためのクッション材である不図示のバックパッドが設けられる。
【0018】
成形品1は、シート状の補強繊維基材2に、熱硬化性樹脂3を含浸させて一体的に熱硬化させて成形した複合材料から成る。成形品1は、全体が緩やかに凹形状に湾曲すると共に、周縁部が反り返るように曲げられた形状とされる。
【0019】
成形品1は、RTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いて成形される。具体的には、図2に示すように、成形品1は、賦形工程S1、基材切断工程S2、型移動セット工程S3、減圧工程S4、樹脂注入工程S5、開閉繰り返し工程S6、及び脱型工程S7の順に従って成形される。減圧工程S4、樹脂注入工程S5、及び開閉繰り返し工程S6が、樹脂成形工程SRに相当する工程となる。
【0020】
賦形工程S1は、図3図4に示すように、シート状の補強繊維基材2を賦形型10を用いて製品形状に賦形する工程である。賦形型10は、補強繊維基材2を製品形状に合わせた形に賦形することができる賦形面11A,12Aを備えた賦形上型11と賦形下型12とを備える。基材切断工程S2は、図5に示すように、賦形された補強繊維基材2の端部を賦形型10内に設けられた切断刃13により切断して製品形状にする工程である。
【0021】
型移動セット工程S3は、図6図8に示すように、賦形型10を型開きした後に、賦形した補強繊維基材2を賦形型10の上型である賦形上型11に密着させたまま樹脂成形の成形型20の下型である成形下型22へと移動させてセットする工程である。減圧工程S4は、図9に示すように成形型20を型締めした後、図10に示すように補強繊維基材2がセットされたキャビティC内をベント21Cを介して真空引きする工程である。
【0022】
樹脂注入工程S5は、図11に示すように、減圧されたキャビティC内に熱硬化性樹脂3を注入して充填する工程である。開閉繰り返し工程S6は、図12図14に示すように、樹脂注入工程S5の最中に、ベント21Cの閉弁と開弁とを繰り返すことで、ベント21Cを介したキャビティC内の保圧と減圧とを反復的に行う工程である。この工程により、図15に示すように、キャビティC内の空気(気泡)が押し潰されながら次第に外部へと排出される。脱型工程S7は、図16に示すように、上記成形型20の加熱による熱硬化により成形された成形品1を成形型20の型開きと共に脱型する工程である。
【0023】
図6図8に示すように、成形型20は、そのキャビティC内にセットされた補強繊維基材2を賦形された製品形状に合わせた形に樹脂成形することのできる成形面21A,22Aを備えた成形上型21と成形下型22とを備える。賦形上型11の賦形面11Aは、成形上型21の成形面21Aに対応した面形状、すなわち略同一の面形状に形成されている。また、賦形下型12の賦形面12Aは、成形下型22の成形面22Aに対応した面形状、すなわち略同一の面形状に形成されている。
【0024】
本製造方法によれば、型移動セット工程S3(図6図8参照)により、賦形した補強繊維基材2を賦形上型11に密着させたまま成形下型22へと移動させて成形下型22にセットすることができる。すなわち、賦形した補強繊維基材2を賦形上型11から取り外すことなく、密着させたままの状態で、成形下型22上へと移し替えることができる。したがって、目止め剤を用いて補強繊維基材2を賦形した形に熱硬化させなくとも、補強繊維基材2を形崩れさせることなく成形下型22上へと移し替えることができる。
【0025】
また、本製造方法によれば、開閉繰り返し工程S6(図12図14参照)により、キャビティC内の空気を適切に排出した状態で熱硬化性樹脂3を補強繊維基材2に含浸させて熱硬化させることができる。したがって、成形品1にボイドが発生することを適切に抑制することができる。
【0026】
以下、上述した各工程の詳細について、順に説明する。先ず、図3図4を参照しながら、賦形工程S1について説明する。図3に示すように、賦形工程S1では、先ず、シート状の補強繊維基材2を、薄膜状の表層フィルム4と共に、賦形型10の下型である賦形下型12の賦形面12A上にセットする。
【0027】
補強繊維基材2は、炭素繊維不織布を複数層に重ね合わせた積層体から成る。補強繊維基材2は、炭素繊維の他、ガラス繊維又はアラミド繊維から成るものであっても良い。また、補強繊維基材2は、不織布の他、織物又は編物から成るものであっても良い。表層フィルム4は、成形品1の表面に薄膜状の意匠面を形成する合成樹脂膜である。表層フィルム4は、補強繊維基材2より先に賦形下型12の賦形面12A上にセットされ、その上に補強繊維基材2が積層状に重ね合わされるようにセットされる。
【0028】
次に、図4に示すように、賦形型10の上型である賦形上型11を賦形下型12に型締めする。それにより、賦形下型12上にセットされた表層フィルム4及び補強繊維基材2が、賦形下型12の賦形面12Aと賦形上型11の賦形面11Aとの間に押し挟まれて、これら賦形面12A,11Aに沿った形に賦形される。
【0029】
次に、図5に示すように、基材切断工程S2において、賦形型10を型締めしたまま、賦形型10内にある補強繊維基材2及び表層フィルム4の端部を、賦形型10内に設けられた切断刃13により切断する。切断刃13は、具体的な図示は省略されているが、賦形上型11内にセットされて、型締めと共に賦形下型12の賦形面12Aに向かって押下されることにより補強繊維基材2及び表層フィルム4の端部を製品形状に切断する構成とされる。
【0030】
上記基材切断工程S2において補強繊維基材2及び表層フィルム4の端部の切断を行うことで、樹脂成形後に端部を切断する構成と比べて、端部が硬化していない分、切断を簡便に行うことができる。また、補強繊維基材2が不織布より成ることから、裁断面の解れにくい構成とすることができる。
【0031】
次に、図6図8を参照しながら、型移動セット工程S3について説明する。図6に示すように、型移動セット工程S3では、先ず、賦形上型11を賦形下型12から型開きする。その際、不図示の真空ポンプを用いて、賦形上型11に形成された不図示の通気孔から補強繊維基材2及び表層フィルム4を賦形上型11の賦形面11Aに密着させるように真空引きしながら賦形上型11を型開きする。
【0032】
それにより、表層フィルム4が気密性を高めるシール材となって、補強繊維基材2及び表層フィルム4が、賦形上型11の賦形面11Aの形に沿って密着されたまま、すなわち賦形された形を崩すことなく保持したまま、賦形上型11と共に賦形下型12から取り出される。ここで、表層フィルム4が、本発明の「係合部」に相当する。
【0033】
次に、型開きした賦形上型11を、型開き状態にある成形型20の成形下型22上へと移動させて、図7に示すように、成形下型22に型締めする。具体的には、賦形上型11の成形下型22への型締めは、これらのうちの一方に設けられた位置決め用のピンを他方の孔に通す位置決めを伴って行われる。上記型締めにより、賦形上型11にくっついている補強繊維基材2及び表層フィルム4が、成形下型22の成形面22A上にセットされる。
【0034】
賦形上型11の賦形面11Aは、成形上型21の成形面21Aと略同一の面形状とされている。したがって、賦形上型11を成形下型22に型締めすることで、その賦形面11Aに密着されている補強繊維基材2及び表層フィルム4が、成形下型22の成形面22Aに沿って配置された状態にセットされる。ここで、賦形上型11が、本発明の「移動対応型」に相当する。
【0035】
次に、賦形上型11を成形下型22に型締めしたまま、賦形上型11に掛けている真空引きを解除する。それにより、賦形上型11の賦形面11Aに密着されていた補強繊維基材2及び表層フィルム4が、成形下型22の成形面22A上に落とされる。次に、図8に示すように、賦形上型11を成形下型22から型開きする。それにより、補強繊維基材2及び表層フィルム4が、成形下型22の成形面22A上に残されたまま、賦形上型11のみが成形下型22から型開きされる。
【0036】
上記型開き後、補強繊維基材2及び表層フィルム4は、成形下型22の成形面22Aから浮き上がることなく、成形面22Aの形に沿った製品形状の形、すなわち賦形された形のまま保持される。その理由は、炭素繊維不織布から成る補強繊維基材2は、型開きにより除荷されても、賦形された形状を維持しやすいスプリングバックしにくい性質を備えるからである。
【0037】
なお、表層フィルム4は、その薄膜状の軟質なフィルムから成る構成により、補強繊維基材2と比べて復元力が弱く、補強繊維基材2を変形させるほどの弾発力は作用させないようになっている。したがって、この型移動セット工程S3により、賦形した補強繊維基材2及び表層フィルム4を賦形上型11に密着させたまま、成形下型22に形崩れさせることなくセットして受け渡すことができる。
【0038】
次に、図9図14を参照しながら、樹脂成形工程SR(減圧工程S4、樹脂注入工程S5、及び開閉繰り返し工程S6)について説明する。図9に示すように、先ず、減圧工程S4では、成形上型21を、補強繊維基材2及び表層フィルム4がセットされた成形下型22に型締めする。
【0039】
そして、図10に示すように、型締めされた成形上型21の成形面21Aと成形下型22の成形面22Aとによって形成されるキャビティC内を、吸引管41を介して接続された真空ポンプ40を用いて真空引きする。真空ポンプ40は、成形上型21に形成されたベント21C及びその先に接続された吸引管41を介して外部からキャビティC内に吸引圧を掛けてキャビティC内を減圧するようになっている。吸引管41には、その流れ方向の4箇所の位置に開閉弁V1~V4が設けられている。各開閉弁V1~V4は、互いの間を空けて設けられており、不図示の制御装置を介して個別に開閉切り替えされるようになっている。
【0040】
次に、図11に示すように、上記減圧されたキャビティC内に、樹脂供給装置30を用いて液体状態の熱硬化性樹脂3を注入する。樹脂供給装置30は、液体状態の熱硬化性樹脂3を、成形上型21に形成された注入孔21Bからノズル31を介してキャビティC内に注入する。
【0041】
本実施形態で用いられる熱硬化性樹脂3は、主剤と硬化剤とから成る二液混合型のエポキシ樹脂とされる。樹脂供給装置30は、不図示のミキシングヘッドにおいてエポキシ樹脂の主剤と硬化剤とを所定の配合比で衝突混合させたものをミキシングヘッドの先端にあるノズル31から注入孔21Bを介してキャビティC内に注入する。
【0042】
熱硬化性樹脂3は、エポキシ樹脂の他、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、又はウレタン樹脂から成るものであっても良い。成形上型21の下面の周縁には、図示は省略されているが、型締め時に成形下型22の上面との間に押し挟まれてキャビティCの周縁を密封するシール部材が設けられている。
【0043】
図10に示す減圧工程S4では、成形上型21を成形下型22に型締めした後、先ず、真空ポンプ40を用いてキャビティC内のガス(空気)をベント21C及び吸引管41を介して外部に排出し、キャビティC内を所定の負圧まで減圧する。その際、4つの開閉弁V1~V4は、それぞれ開弁させた状態としておく。
【0044】
そして、キャビティC内が所定の負圧まで減圧されたところで、4つの開閉弁V1~V4を閉弁する。それにより、キャビティCに加え、4つの開閉弁V1~V4で仕切られた各空間も所定の負圧に減圧された気密状態に保たれる。上記4つの開閉弁V1~V4を閉弁した後、真空ポンプ40の作動を停止させる。
【0045】
その後、図11に示す樹脂注入工程S5において、上記減圧されたキャビティC内に樹脂供給装置30から液体状態の熱硬化性樹脂3を注入する。この減圧環境下における注入により、液体状態の熱硬化性樹脂3がキャビティC内に広く行き渡った状態に充填される。また、それに伴い、キャビティC内に注入された液体状態の熱硬化性樹脂3が、キャビティC内の補強繊維基材2に含浸すると共に、補強繊維基材2に残る気泡を押し出しながらキャビティC内を流動する。
【0046】
キャビティC内に注入される熱硬化性樹脂3は、エポキシ樹脂から成ることから、液体状態における粘性が低い。したがって、樹脂供給装置30による注入圧力が低くても、熱硬化性樹脂3がキャビティC内に広く行き渡るように充填され、かつ、補強繊維基材2に適切に含浸される。キャビティC内に液体状態の熱硬化性樹脂3が充填されていくと、キャビティC内の気泡が浮上していき、ベント21Cに向かって移動する。
【0047】
キャビティC内に熱硬化性樹脂3が充填されることで、各開閉弁V1~V4の閉弁により保圧されたキャビティC内に熱硬化性樹脂3の注入圧が掛けられ、キャビティC内の内圧が上昇する。その結果、図15に示すように、キャビティC内に気泡が残っている場合に、この気泡がキャビティCの内圧により押し潰される。しかし、気泡が押し潰されるのに伴い、キャビティCの内圧も徐々に上昇していくことから、内圧が一定以上となった時点で、樹脂供給装置30による注入圧力だけでは気泡がそれ以上押し潰されない状態となる。
【0048】
そこで、次に、図12図14に示すように、開閉繰り返し工程S6として、樹脂供給装置30による熱硬化性樹脂3の注入を継続したまま、各開閉弁V1~V3をキャビティCに近い上流側(開閉弁V1)から順に開弁する。それにより、キャビティC内の保圧と減圧とが繰り返し行われて、キャビティC内に残存する気泡が、熱硬化性樹脂3の注入圧により押し退けられる形でベント21Cへと次第に排出される。
【0049】
具体的には、図12に示すように、開閉繰り返し工程S6では、先ず、最も上流側の開閉弁V1が開弁される。それにより、開弁された開閉弁V1と閉弁されている開閉弁V2との間の負圧の作用により、キャビティC内が減圧される。
【0050】
その後、樹脂供給装置30による熱硬化性樹脂3の注入が継続されていることから、キャビティCの内圧が再び一定以上に上昇して保圧状態となる。その間、キャビティC内に充填された熱硬化性樹脂3の一部がベント21Cから吸引管41に漏出するが、熱硬化性樹脂3の漏出は、閉弁されている上流側から2番目の開閉弁V2の手前までに留められる。
【0051】
続いて、図13に示すように、上流側から2番目の開閉弁V2が開弁される。それにより、開弁された開閉弁V2と閉弁されている開閉弁V3との間の負圧の作用により、キャビティC内が減圧される。その後、樹脂供給装置30による熱硬化性樹脂3の注入が継続されていることから、キャビティCの内圧が再び一定以上に上昇して保圧状態となる。そしてその間、キャビティC内に充填された熱硬化性樹脂3の一部がベント21Cから吸引管41に漏出するが、熱硬化性樹脂3の漏出は、閉弁されている上流側から3番目の開閉弁V3の手前までに留められる。
【0052】
続いて、図14に示すように、上流側から3番目の開閉弁V3が開弁される。それにより、開弁された開閉弁V3と閉弁されている開閉弁V4との間の負圧の作用により、キャビティC内が減圧される。その後、樹脂供給装置30による熱硬化性樹脂3の注入が継続されていることから、キャビティCの内圧が再び一定以上に上昇して保圧状態となる。そしてその間、キャビティC内に充填された熱硬化性樹脂3の一部がベント21Cから吸引管41に漏出するが、熱硬化性樹脂3の漏出は、閉弁されている上流側から4番目の開閉弁V4の手前までに留められる。
【0053】
上記開閉弁V1~V3の段階的な開弁により、キャビティC内の減圧と保圧とが繰り返される。そして、上記開閉繰り返し工程S6を経てキャビティC内に熱硬化性樹脂3が充填された後、樹脂供給装置30による熱硬化性樹脂3の注入を停止し、キャビティC内を保圧状態にする。そして、この状態で、成形型20の加熱に伴いキャビティC内の熱硬化性樹脂3を熱硬化させることにより、表層フィルム4及び補強繊維基材2と熱硬化性樹脂3とが一体化された成形品1が成形される。
【0054】
その後、図16に示す脱型工程S7において、成形型20を型開きし、成形した成形品1を成形下型22から取り出す。以上の工程により、表面にボイドのない成形品1を成形することができる。
【0055】
以上をまとめると、本実施形態に係る繊維強化樹脂成形品1の製造方法は、次のような構成とされている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0056】
すなわち、繊維強化樹脂成形品(1)の製造方法は、シート状の補強繊維基材(2)に熱硬化性樹脂(3)を含浸させて熱硬化させることで得られる繊維強化樹脂成形品(1)の製造方法である。繊維強化樹脂成形品(1)の製造方法は、賦形工程(S1)と、型移動セット工程(S3)と、樹脂成形工程(SR)と、を有する。賦形工程(S1)は、補強繊維基材(2)を賦形型(10)にセットし型締めにより補強繊維基材(2)を賦形する工程である。
【0057】
また、型移動セット工程(S3)は、賦形型(10)のうち熱硬化性樹脂(3)を成形する成形型(20)の下型である成形下型(22)の成形面(22A)に適合する賦形面(11A)を有する移動対応型(11)の型開き後に、移動対応型(11)の賦形面(11A)に補強繊維基材(2)を係合部(4)の係合により密着させたまま移動対応型(11)を成形下型(22)に型締めして補強繊維基材(2)を成形下型(22)の成形面(22A)上に受け渡す工程である。樹脂成形工程(SR)は、補強繊維基材(2)を成形面(22A)上に残して移動対応型(11)を成形下型(22)から型開きしした後に成形型(20)のキャビティ(C)内に熱硬化性樹脂(3)を注入して熱硬化させる工程である。
【0058】
上記構成によれば、型移動セット工程(S3)により、賦形後の補強繊維基材(2)を移動対応型(11)の賦形面(11A)に密着させたまま、成形下型(22)に形崩れさせることなくセットすることができる。したがって、目止め剤を用いた熱硬化による形状固化を行うことなく、賦形後の補強繊維基材(2)を成形型(20)に適切に移し替えて繊維強化樹脂成形品(1)の成形を行うことができる。
【0059】
また、補強繊維基材(2)が、不織布から成る。上記構成によれば、目止め剤を用いた熱硬化処理が現実的でない不織布を用いて繊維強化樹脂成形品(1)を適切に成形することが可能となる。また、不織布は、織物や編み物よりもスプリングバックが生じにくいことから、賦形後の補強繊維基材(2)をより形崩れさせにくくすることができる。また、補強繊維基材(2)を不織布とすることで、織物や編み物よりも裁断面の解れにくい構成とすることができる。したがって、補強繊維基材(2)の賦形及び賦形後の端部の切断を適切に行うことができる。
【0060】
また、繊維強化樹脂成形品(1)の製造方法が、賦形工程(S1)の後に賦形型(10)を型締めしたまま補強繊維基材(2)の端部を賦形型(10)内に設けられた切断刃(13)により切断する基材切断工程(S2)を更に有する。上記構成によれば、繊維強化樹脂成形品(1)の成形後に端部を切断する構成と比べて、端部の切断を簡便かつ適切に行うことができる。詳しくは、不織布は、織物等と異なり、型締めによる圧縮前後で厚さ寸法が大きく変化する構成とされるが、このような特性を持つ不織布を補強繊維基材(2)として用いても、賦形後の端部の切断を適切に行うことが可能となる。
【0061】
また、補強繊維基材(2)を移動対応型(11)の賦形面(11A)に密着させる係合部(4)が、成形後の繊維強化樹脂成形品(1)の意匠面を構成する表層フィルム(4)であり、補強繊維基材(2)と共に賦形型(10)にセットされて賦形後の真空引きにより補強繊維基材(2)を移動対応型(11)の賦形面(11A)に密着させる表層フィルム(4)から成る。上記構成によれば、成形後の繊維強化樹脂成形品(1)の意匠面を構成する表層フィルム(4)を用いて、賦形時に補強繊維基材(2)を移動対応型(11)の賦形面(11A)に合理的かつ適切に密着させることができる。
【0062】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態の他、各種の形態で実施することができるものである。
【0063】
1.本発明の繊維強化樹脂成形品の製造方法は、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding)成形法を用いるものであれば良く、VaRTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)成形法を用いるものであっても良い。また、繊維強化樹脂成形品は、自動車や鉄道等の車両用のシートに適用されるものの他、航空機や船舶等の車両以外の乗物用のシートに適用されるものであっても良い。また、乗物の内装部品に適用されても良い。
【0064】
2.移動対応型は、成形下型の成形面に適合する賦形面を有する型であれば良く、賦形上型に限らず賦形下型から成るものであっても良い。すなわち、賦形下型を型開き後に上下反転させて、成形下型への型締めにより補強繊維基材を成形下型の成形面上に受け渡すという構成である。
【0065】
3.賦形した補強繊維基材を移動対応型の賦形面に係合させる係合部は、移動対応型に真空引きされる表層フィルムの他、補強繊維基材を移動対応型に固定するクランプやマグネットとすることもできる。
【符号の説明】
【0066】
1 繊維強化樹脂成形品
2 補強繊維基材
3 熱硬化性樹脂
4 表層フィルム(係合部)
10 賦形型
11 賦形上型(移動対応型)
11A 賦形面
12 賦形下型
12A 賦形面
13 切断刃
20 成形型
21 成形上型
21A 成形面
21B 注入孔
21C ベント
22 成形下型
22A 成形面
C キャビティ
30 樹脂供給装置
31 ノズル
40 真空ポンプ
41 吸引管
V1~V4 開閉弁
S1 賦形工程
S2 基材切断工程
S3 型移動セット工程
S4 減圧工程
S5 樹脂注入工程
S6 開閉繰り返し工程
S7 脱型工程
SR 樹脂成形工程
100 車両用シート
101 シートバック
図1
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