(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000744
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】手術用シート
(51)【国際特許分類】
A61B 46/00 20160101AFI20231226BHJP
D04H 1/498 20120101ALI20231226BHJP
D04H 1/74 20060101ALI20231226BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B46/00
D04H1/498
D04H1/74
D04H1/435
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099617
(22)【出願日】2022-06-21
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】白武 拓磨
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA21
4L047AB02
4L047BA04
4L047BD02
4L047CA02
4L047CA06
4L047CB07
(57)【要約】
【課題】
本願発明は、手術用シートに関する。特には、手術時に人体(患者)の覆布として好適に使用できる他、患者が横たわる手術台のカバーとして、また、手術時の医療機器の汚染を防ぐための覆布や下敷きとしても好適に使用できる、手術用シートに関する。
【解決手段】
繊維層を備えた手術用シートについて、本願出願人は繊維層における各種構成と繊維層を備えた手術用シートが発揮する液体が床面へ滴り落ちるのを防止する能力との関係を探った。その結果、単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2より大きく35m2未満である繊維層を備えた手術用シートは、手術用シートに吸収された人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が、床面へ滴り落ち難いことを見出した。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2/mmより大きく35m2/mm未満である繊維層を備えた、手術用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維層とフィルム層とを有する積層体を備えた、手術用シートであって、
前記繊維層と前記フィルム層は部分的に接着一体化しており、
前記部分的に接着一体化している箇所は、一方向に配向を有して存在している、
手術用シート。
【請求項3】
前記フィルム層側を人体側へ向けると共に、前記部分的に接着一体化している箇所が配向する方向と、人体の上下方向とが略一致するように人体を覆って使用する、請求項2に記載の手術用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、手術用シートに関する。特には、手術時に人体(患者)の覆布として好適に使用できる他、患者が横たわる手術台のカバーとして、また、手術時の医療機器の汚染を防ぐための覆布や下敷きとしても好適に使用できる、手術用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から手術時には、手術を受ける患者の血液や体液等によって施術者等が感染又は汚染される危険を低減するために、また、患者の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が床面へ滴り落ちるのを回避するために、手術を受ける患者を人体の血液や体液等を吸液可能な布で覆った状態で手術することが行なわれている。
このような覆布として、例えば、特開2012-223379号公報(特許文献1)には、スパンボンド不織布とポリオレフィン系フィルムとを貼り合せた手術用資材が提案されている。しかしながら、このような手術用資材を用いたとしても、手術用資材に吸収された人体の血液や体液等が、手術用資材の重力方向へ垂れ下がった端部から床面へ滴り落ちることがあり、施術者等の感染又は汚染の危険に加えて手術時に施術者等が踏み滑る危険があった。
こういった問題を解決可能な手術用シートとして、例えば、特開2020-69298号公報(特許文献2)には、繊維が一方向に配向した一方向配向層を有する不織布由来の繊維層と、フィルム層とが接着一体化してなる手術用シートが提案されている。当該構成の不織布を備えた手術用シートを用いると共に、当該手術用シートにおける一方向配向層の繊維が配向する一方向と、患者の上下方向が略一致するようにして当該手術用シートで人体を覆い使用することで、人体の血液や体液等を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して床面へ滴り落ち難くできることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012-223379号公報
【特許文献2】特開2020-69298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に開示されている発明において、当該繊維の配向方向へ血液や体液等を誘導して血液や体液等が床面へ滴り落ちるのを防止するために、手術用シートは必ず一方向配向層を有する不織布(特定の一方向に繊維配向を有する不織布)を備えていなければならない。
【0005】
一方、不織布はその種類によっては、特定の一方向に繊維配向を有していないものがある。具体的には、繊維をニードルを用いて絡合してなる乾式不織布、繊維を水流を用いて絡合してなる水流絡合不織布、繊維を湿式抄造してなる湿式不織布、静電紡糸法やメルトブロー法、スパンボンド法などを用いて調製した不織布などは、特定の一方向に繊維配向を有していないことがある。そのため従来技術を用いる限りでは、手術用シートを調製するために使用できる不織布の種類に制限があり、血液や体液等が床面へ滴り落ちるのを防止可能な手術用シートを提供し難いものであった。
【0006】
本願発明では、繊維層における繊維配向などの態様を問わず、床と平行をなし手術台などに寝た状態にある患者(以降、「人体」と称することがある)の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が床面へ滴り落ちるのを防止可能な、繊維層を備えた手術用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明は、
「(請求項1)単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2/mmより大きく35m2/mm未満である繊維層を備えた、手術用シート。
(請求項2)請求項1に記載の繊維層とフィルム層とを有する積層体を備えた、手術用シートであって、
前記繊維層と前記フィルム層は部分的に接着一体化しており、
前記部分的に接着一体化している箇所は、一方向に配向を有して存在している、
手術用シート。
(請求項3)前記フィルム層側を人体側へ向けると共に、前記部分的に接着一体化している箇所が配向する方向と、人体の上下方向とが略一致するように人体を覆って使用する、請求項2に記載の手術用シート。」
である。
【発明の効果】
【0008】
本願出願人は、繊維層における各種構成と、繊維層を備えた手術用シートが発揮する液体が床面へ滴り落ちるのを防止する能力との関係を探った。その結果、単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2より大きく35m2未満である繊維層を備えた手術用シートは、手術用シートに吸収された人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が、床面へ滴り落ち難いことを見出した。
【0009】
更に、本願出願人は、本願発明にかかる繊維層とフィルム層とを有する積層体を備えた手術用シートについて、その繊維層とフィルム層とが接着一体化している態様に着目した。そして、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化していると共に、その接着一体化している箇所が、一方向に配向を有する形状で存在している手術用シートは、吸収した人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、当該一方向へ効果的に誘導し拡散できることを見出した。
【0010】
そのため、前記部分的に接着一体化している箇所が配向を有する方向と、人体の上下方向が略一致するようにして、本願発明にかかる手術用シートで人体を覆い使用することで、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、より効果的に、床面へ滴り落ちるのを防止できることを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本願発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本願発明で説明する各種測定は特に記載や規定のない限り、常圧のもと25℃温度条件下で測定を行った。そして、本願発明で説明する各種測定結果は特に記載や規定のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。また、本願発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0012】
本願発明にかかる手術用シートが備える繊維層は、主に、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体(以降、液体と略すことがある)を吸収する役割を担う。
【0013】
繊維層は、その構成繊維同士が絡み合い形成されたシート状の層であって、繊維ウェブや不織布由来の構成繊維がランダムあるいは繊維配向を有するように絡み合ってなる繊維の層であっても、織物や編物由来の構成繊維が規則的に絡み合ってなる繊維の層であってもよい。しかし、より多量の液体を吸収できるよう、繊維層は繊維ウェブや不織布由来の構成繊維がランダムあるいは繊維配向を有するように絡み合ってなる繊維の層であるのが好ましい。
【0014】
繊維層が構成繊維として含む繊維の種類は適宜選択できる。しかし、より多量の液体を吸収できるよう、繊維層は構成繊維として、例えば、レーヨン、キュプラなどの再生繊維;アセテートなどの半合成繊維;ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)、ポリウレタンなどの単一樹脂からなる、又はこれら樹脂を2種類以上含む合成繊維;綿、麻などの植物繊維;羊毛、絹などの動物繊維;などを単独で、又は2種類以上を含むのが好ましい。これらの中でも、レーヨン、キュプラ、アセテート、ナイロン、ビニロン、綿、麻、羊毛、絹などの公定水分率が4%以上の親水性繊維を含んでいるのが好ましい。なお、公定水分率が4%未満の非親水性繊維(例えば、ポリエステル繊維)に親水性を付与した親水性繊維も好適に使用できる。例えば、スルホン化処理、フッ素ガス処理、ビニルモノマーのグラフト重合処理、放電処理、界面活性剤付与処理、或いは親水性樹脂付与処理等により、非親水性繊維を親水性繊維とできる。理由は定かではないが、界面活性剤付与処理において、イオン性の異なる2種類以上の界面活性剤が付与された親水性繊維は、体液等に含まれる様々なイオン成分とイオン的に馴染みやすいためか、血液や体液等を保持し易く好適である。界面活性剤はイオン性が異なるアニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性イオン系の中から選ばれる界面活性剤を1種類、又は2種類以上組み合わせて非親水性繊維へ付与し、親水性繊維とできる。
【0015】
また、非親水性繊維に界面活性剤を付与した親水性繊維の中でも、非親水性繊維がポリエステル繊維であると、耐熱性、耐候性、耐薬品性などに優れているため、手術用シートの使用環境や保管環境の影響を受けることなく、液体の吸収性等の品質を維持しやすい。また、ポリエステル繊維はレーヨン繊維などの原始的に親水性を有する繊維のように繊維中に血液や体液等を取り込まず、長時間の手術において手術用シートが吸収と乾燥を繰り返しても、シワなどが発生しにくく、形態を維持でき、良好な使用感が得られるため好適である。
【0016】
上述した効果に優れるように、繊維層の構成繊維の質量中に占める、親水性繊維(非親水性繊維に親水性を付与した親水性繊維を含む、以下同様)の質量の百分率は、30mass%以上であるのが好ましく、60mass%以上であるのがより好ましく、90mass%以上であるのがより好ましく、100mass%であるのが最も好ましい。
【0017】
繊維層を構成する繊維の繊度や繊維長は、適宜調整できる。繊維層を構成する繊維の繊度は、繊維間空隙に富み多量の液体を吸収できる繊維層を備えた手術用シートを実現できるよう、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのがより好ましい。他方で、繊度が大き過ぎると、液体を保液し難い傾向があることから、12dtex以下であるのが好ましく、10dtex以下であるのがより好ましく、8dtex以下であるのがより好ましい。
【0018】
また、SMS不織布のように、複数の異なる繊度の繊維を、複合した繊維層とすることもできる。あるいは、繊度の異なる複数種類の繊維を混綿してなる繊維層とすることもでき、この場合、吸液性に加え単位面積あたりの液体保持能力に優れる繊維層を備えた手術用シートであることによって、液体が床面へ滴り落ち難い手術用シートを提供でき好ましい。
【0019】
繊維層を構成している繊維の繊度の平均値は、繊維層を構成している各繊維の繊度と、繊維層を構成している繊維の質量に占める各繊維の質量の百分率から算出できる。具体的には、繊度1.6dtexの繊維Aと、繊度6.6dtexの繊維Bとが等質量(50質量%:50質量%)で混綿してなる繊維層の平均繊度は、4.1dtexであると算出できる。
【0020】
繊維長は、繊維層としての形態を保持し、より多量の液体を吸収できるよう25mm以上であるのが好ましく、35mm以上であるのがより好ましい。短繊維を用いる場合には、繊維長が長過ぎると地合いが悪くなり液体の吸収にムラがでる傾向があることから、110mm以下であるのが好ましく、80mm以下であるのがより好ましい。なお、メルトブロー法やスパンボンド法などの長繊維も用いる事ができる。
【0021】
本願発明にかかる繊維層の構成繊維は、例えば、水流などの流体流やニードルによる絡合、構成繊維の融着やバインダによる接着により結合していることができる。これらの中でも、絡合により構成繊維同士が結合していると、繊維層表面に微細な凹凸が形成されていることから光を乱反射しやすく、手術時における施術者等の目の疲れを低減させることができる手術用シートを実現でき好適である。特に、水流などの流体流により絡合してなる繊維ウェブあるいは不織布由来の繊維層は、繊維に付着した汚染物質が洗い流されているため衛生的に優れており、手術用シートの繊維層として好適である。
【0022】
繊維層の繊維配向は適宜選択できる。例えば、一方向(例えば、搬送方向と平行を成す方向)へ繊維が配向している繊維層(例えば一方向ウェブ由来の繊維層)、繊維が配向している層が複数積層してなる繊維層(例えばクロスレイウェブ由来の繊維層やクリスクロスウェブ由来の繊維層)、特定の繊維配向を有していない繊維層(例えばランダムウェブ由来の繊維層)であることができる。特に、繊維の配向が揃っていないことで、繊維が立体的に構成され、より多量の液体を吸収できると共に、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、床面へ液体が滴り落ちるのを防止できるよう、繊維が配向している層が複数積層してなる繊維層、あるいは、特定の繊維配向を有していない繊維層を備えた手術用シートであるのが好ましい。
【0023】
繊維層の目付や厚さは、本願発明にかかる物性を有する繊維層となるものであれば特に限定するものではないが、目付や厚さが大き過ぎるとドレープ性を損なって使用感が低下する傾向にある。一方で、目付や厚さが小さ過ぎると多量の液体を吸収し保持し難くなる恐れがある。そのため、目付は15~200g/m2であるのが好ましく、30~100g/m2であるのがより好ましい。本願発明における、「目付」は最も広い面である主面1m2あたりの質量であり、JIS L1085:1998、6.2「単位面積当たりの質量」に規定する方法により得られる。また、厚さは0.1~3.0mmであるのが好ましく、0.2~1.5mmであるのがより好ましい。「厚さ」は、基材の主面に対して、面積5cm2あたり厚さ方向へ0.98N(=100gf)を荷重して行う荷重領域における厚さの測定を、無作為に選択した5カ所で実施し、それら厚さを算術平均した値を意味する。このような厚さの測定は、例えば、高精度デジタル測長機(株式会社ミツトヨ社製、ライトマチック(登録商標))により実施できる。
【0024】
手術用シートが備える繊維層の繊維表面積は、特に限定するものではない。しかし、繊維表面積の大きい繊維層であるほど、液体が床面へ滴り落ち難い手術用シートを実現できる傾向にあることから、繊維層における繊維表面積は、6m2以上であるのが好ましく、7m2以上であるのが好ましく、8m2以上であるのが好ましく、9m2以上であるのが好ましい。上限値は適宜調整できるが、30m2以下であるのが現実的である。
【0025】
なお、繊維層における繊維表面積は、以下の方法で算出できる。
(繊維層における繊維表面積の算出方法)
手術用シートの製造工程が判明している場合には、当該製造工程において把握している繊維層を構成する各繊維の、繊維層の主面1m2辺りに存在する繊維の質量(単位:g)、繊維半径(単位:μm)、繊度(dtex)などの値から、繊維層における繊維表面積を算出できる。
また、手術用シートの製造工程が不明である場合には、繊維層の顕微鏡写真を撮影し観察すると共に、当該繊維層から抜き出した各構成繊維を観察することで、繊維層を構成する各繊維の、繊維層1m2辺りに存在する繊維の質量(A、単位:g)、繊維半径(B、単位:μm)、繊度(C、単位:dtex)などの値を求め、繊維層における繊維表面積を算出できる。
具体的には、上述のようにして得られた各値を用いて以下の計算から算出された値を、繊維層における繊維表面積(単位:m2)とする。
繊維層における繊維表面積(m2)=2π×(B÷1,000,000)×(A÷C×10000)
【0026】
なお、構成繊維に異形断面繊維(フィブリル繊維、横断面形状が円形や略円形でない繊維、繊維表面に凹凸を有する繊維など)を備える繊維層である場合、当該繊維層(不織布など)をガス吸着法などの一般的な比表面積を測定する手法へ供することで比表面積(単位:m2/g)を求め、求められた比表面積に繊維層の主面1m2辺りに存在する繊維の質量(単位:g)を乗することで算出値を得て、得られた算出値を繊維層における繊維表面積(単位:m2)としてもよい。
【0027】
なお、手術用シートが繊維層のみで構成されている場合には、当該手術用シート(繊維層単体)を(繊維層における繊維表面積の算出方法)へ供することで、各種測定値を得ることができる。
【0028】
また、後述するように、手術用シートが繊維層とフィルム層とを有する積層体を備えている場合には、当該積層体からフィルム層を除去した残りの繊維層を(繊維層における繊維表面積の算出方法)へ供することで、手術用シートを構成する繊維層の各種測定値を得ることができる。なお、この際、積層体が備える繊維層の値となるよう、フィルム層を除去した残りの繊維層の測定値から換算して得ることができる。
【0029】
本願発明にかかる繊維層は、単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2/mmより大きく35m2/mm未満であることを特徴としている。
【0030】
後述する実施例の結果からも明らかなように、本願出願人は、吸液性(後述する吸水量で評価可能)に富む繊維層を備えている手術用シートであるからといって、必ずしも、液体が床面へ滴り落ち難い手術用シートとはならないものであることを見出した。つまり、手術用シートが備える繊維層の吸液性を評価するのみでは、手術用シートの発揮する液体を床面へ滴り落ち難くできる能力を、正しく評価できないことを見出した。
【0031】
この理由として、手術用シートの使用時において、手術用シートに重力方向へ垂れ下がっている部分が存在しているため、当該部分に吸収された液体は重力の作用を受け手術用シートの重力方向の端部へ向かい移動し易いためだと考えられる。つまり、吸収した液体が床面へ滴り落ち難い手術用シート、具体的には、手術用シートの重力方向へ垂れ下がった端部から、吸収した液体が床面へ滴り落ち難い手術用シートを提供するためには、手術用シートにおける液体の吸液性よりも、手術用シートが備える繊維層中での液体の移動し難さを評価する必要がある。
【0032】
この知見をもとに、本願出願人は検討の結果、繊維層における厚み1mmあたりの繊維表面積(単位:m2)を求めることによって、手術用シートにおける吸収されている液体を床面へ滴り落ち難くできる能力を正しく評価できることを見出した。つまり、手術用シートが備える繊維層の前述した値と、手術用シートにおける吸収した液体が床面へ滴り落ち難さとの間に相関性があることを見出した。
【0033】
当該値の算出方法は、上述した方法で得られた手術用シートを構成している、繊維層における繊維表面積(単位:m2)を繊維層の厚み(単位:mm)で割り算出できる。単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)の値は、5m2/mmより大きく35m2/mm未満であれば良く、適宜調整できるが、6~34m2/mmの範囲であることができ、10~33m2/mmの範囲であることができ、15~32m2/mmの範囲であることができる。
【0034】
本願発明にかかる繊維層のみを用いて手術用シートを構成してもよい。しかし、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、より効果的に、床面へ滴り落ちるのを防止できる手術用シートを提供できるよう、本願発明にかかる構成を備える繊維層と、フィルム層とを有する積層体を備えた手術用シートであるのが好ましい。
【0035】
このような手術用シートが備えるフィルム層は、主に、液体が手術用シートにおけるフィルム層側に漏出し人体と接触することがないようにする役割を担う。フィルム層はフィルム由来の層であっても、繊維層を構成可能な布帛(繊維ウェブや不織布、織物や編物)の主面に溶融した樹脂や樹脂溶液が付与されることで形成されてなる、繊維層上に形成された薄膜状の樹脂由来の層であってもよい。
【0036】
このフィルム層を構成する素材は特に限定するものではないが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどのポリエステル系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリエーテルエーテルケトン、塩素化ポリ塩化ビニル等の樹脂等のフィルムに形成可能な有機高分子から構成できる。また、シリコーン樹脂のような、無機成分を含有する樹脂から構成することもできる。
【0037】
フィルム層の目付や厚さは特に限定するものではないが、目付や厚さが大き過ぎるとドレープ性を損なって使用感が低下する傾向にある。一方で、目付や厚さが小さ過ぎると、液体が手術用シートにおけるフィルム層側に漏出する恐れがある。そのため、目付は5~60g/m2であることができ、10~40g/m2であることができる。また、厚さは0.005~1mmであることができ、0.01~0.5mmであることができ、0.015~0.1mmであることができる。
【0038】
手術用シートが備える積層体において、繊維層とフィルム層との接着一体化している態様は、適宜調整できる。繊維層におけるフィルム層側の主面全面と、フィルム層における繊維層側の主面全面とが接着一体化していても、当該主面間で繊維層とフィルム層とが部分的に接着一体化していてもよい。しかし、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、より効果的に、床面へ滴り落ちるのを防止できる手術用シートを提供し易いことから、手術用シートが備える積層体において、繊維層とフィルム層は部分的に接着一体化しているのが好ましい。
【0039】
繊維層とフィルム層とが接着一体化してなる積層体を調製する方法は適宜選択可能だが、例えば、ドライラミネート法、押出しラミネート法、ホットメルトラミネート法、ウェットラミネート法、ワックスラミネート法、或いはサーマルラミネート法を採用できる。例えば、繊維層を構成可能な布帛の主面上に、フィルム層を構成可能な樹脂を溶融させた状態や当該樹脂の溶液の状態で、繊維層と当該薄膜状の樹脂が部分的に接触しているようにして、薄膜状に付与することで本願発明にかかる積層体を調製できる。あるいは、繊維層を構成可能な布帛と、フィルム層を構成可能なフィルムとを、樹脂溶液や樹脂分散液あるいは溶融した樹脂を用いて部分的に接着一体化してなる積層体や、ヒートシールや超音波溶着などの接着処理などを用いて部分的に接着一体化してなる積層体あってもよい。
【0040】
ホットメルトラミネート法は、繊維層とフィルム層とが接着一体化している箇所の形状(例えば、直線状、波線状、破線状、など)を変える事が比較的容易であり、また、サーマルラミネートなどと比較して、繊維層側の形態(例えば、厚み、繊維配向など)に影響を与えずに、接着一体化ができるため、好ましい。
【0041】
繊維層とフィルム層とを接着一体化している、ホットメルトラミネート法で使用するホットメルト樹脂などの樹脂の量も適宜調整可能であるが、当該樹脂量が多過ぎると、繊維層側の繊維空隙や、全体的な風合いに影響する為、30g/m2以下が好ましく、20g/m2以下が好ましく、10g/m2以下が好ましい。また、当該樹脂量が少な過ぎると、十分な接着力が得られない為、0.1g/m2以上が好ましく、0.5g/m2以上が好ましく、1g/m2以上が好ましい。
【0042】
本願発明にかかる積層体は、繊維層とフィルム層が対面している層間において、繊維層とフィルム層が接着一体化している箇所を有している。そして、積層体における繊維層とフィルム層が対面している層間の全てにおいて、繊維層とフィルム層とが接着一体化しているものではなく、当該層間には繊維層とフィルム層とが接着一体化している箇所と、接着一体化していない箇所が存在しているのが好ましい。そして、当該繊維層とフィルム層の接着一体化している箇所が、一方向に配向を有する形状で存在しているのが好ましい。
【0043】
ここでいう、繊維層とフィルム層とが接着一体化している箇所が、一方向(例えば、手術用シートの使用時における人体の上下方向と平行をなす方向)に配向を有する形状であるか否かは、以下の方法で判断できる。
(1)繊維層とフィルム層を有する積層体を備えた手術用シートであって、前記繊維層と前記フィルム層が部分的に接着一体化している箇所を有する手術用シートを用意する。あるいは、手術用シートを構成する繊維層とフィルム層を有する積層体であって、前記繊維層と前記フィルム層が部分的に接着一体化している箇所を有する積層体を用意する。
(2)用意した手術用シートあるいは積層体から、一辺20cmの正方形形状の試料を採取する。
(3)試料における繊維層が露出している主面、あるいは、当該試料から繊維層を剥がした後の主面に対し、当該主面と垂直を成す方向側から当該主面の写真を撮影する。このとき、試料における一方の主面全てが写るように写真を撮影する。
(4)撮影した写真上に、当該主面を横断する複数の直線を引く。
(5)当該引いた複数の直線のうち、撮影した写真上から確認できる、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している箇所と交わる部分の長さが、最も長い直線Aを選出する。
(6)このとき、測定に使用した手術用シート、あるいは、測定に使用した積層体を備えた手術用シートが有する、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している箇所は、当該直線Aと平行を成す方向に対して配向を有している(一方向に配向を有する形状で存在している)と判断できる。
【0044】
このような、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している箇所の形状として、直線形状、波線形状、直線や波線の破線状、それ以外にも、四角形(長方形や正方形など)や円形(円や楕円形)あるいは不定形などの図柄が一方向へ並んでいる図形などを挙げることができる。
【0045】
また、上述した方法で求めた直線Aと平行をなす方向、あるいは、当該直線Aと0°より大きく30°以下の鋭角を成す方向へ向かい伸び存在する態様で、他にも繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している他の箇所を有していてもよい。このような態様で存在する繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している他の箇所もまた、当該直線Aと平行を成す方向に対して配向を有している(一方向に配向を有する形状で存在している)と判断できる。
【0046】
このような、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化している他の箇所の形状として、直線形状、波線形状、直線や波線の破線状、それ以外にも、四角形(長方形や正方形など)や円形(円や楕円形)あるいは不定形などの図柄が一方向へ並んでいる図形などを挙げることができる。
【0047】
なお、上述のようにして撮影した写真上から確認した際に、主面全てで繊維層とフィルム層が接着一体化している場合や、繊維層とフィルム層が接着一体化している箇所が主面上で均等に分布して存在している場合(ピンドット状に分布して存在している場合など)、これらの手術用シートあるいは積層体は、本願発明の構成(部分的に接着一体化している箇所は、一方向に配向を有して存在している)を満足するものではない。
【0048】
繊維層とフィルム層が接着一体化している箇所の総数に占める、一方向に配向を有する形状で存在している箇所の数の百分率は、適宜調整できる。しかし、液体を当該一方向へ効果的に誘導し拡散できるよう、いずれの箇所も一方向に配向を有する形状で存在しているのが好ましい。
【0049】
また、本願発明にかかる構成の積層体では、繊維層の主面全面が接着一体化することなくフィルム層と接着一体化しているため、フィルム層との接着一体化により生じる、繊維層が有する液体の吸収性能の低下が発生し難い。その結果、本願発明にかかる構成の積層体を備えた手術用シートは、液体の吸収量に富む。
【0050】
積層体における繊維層とフィルム層が対面している部分に存在する、繊維層とフィルム層とが接着一体化していない箇所の分布態様は適宜調整できる。液体を手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、床面へ滴り落ちるのを防止できる手術用シートを提供できるよう適宜調整するが、一方向に配向を有して存在する、繊維層とフィルム層とが部分的に接着一体化している箇所同士の間隔が、平行を成しているなど等間隔を成し存在しているのが好ましい。
【0051】
本願発明にかかる構成の積層体を備えた手術用シートは、繊維層のみで構成されているものであっても、繊維層とフィルム層を有する積層体のみで構成されているものであっても良いが、別途用意したカバー材や支持体あるいは機能性材などを積層して手術用シートを調製してもよい。カバー材や支持体あるいは機能性材として、布帛、フィルム(多孔あるいは無孔)、発泡体(多孔あるいは無孔)あるいは機能剤粒子などを用いることができる。
【0052】
例えば、不織布とフィルムおよび支持体からなる手術用シートの場合、不織布層/フィルム層/支持体由来の層、の順に積層配置してなる積層体を備える手術用シートであることができる。このような積層状態にあると、新たに設けた支持体由来の層によってフィルム層が人体と接触しないため患者の不快感を抑制できる。この場合、新たに設けた支持体由来の層の組成は適宜調整でき、本願発明にかかる不織布層と同じであっても異なっていても良い。なお、カバー材や支持体などとの積層態様は適宜調整でき、ただ重ね合わせた態様であっても、バインダやホットメルトウェブあるいは繊維接着によって、または、ヒートシールや超音波溶着などの接着処理へ供することによって層間接着してなる態様であっても良い。
【0053】
更に、別の態様として、不織布層とフィルム層の間に高吸水性パウダーなどの機能剤粒子などが存在していてもよい。これらの存在によって、機能性に富んだ手術用シートを提供できる。
【0054】
また、手術用シートの外形は適宜調整でき、特に限定するものではないが、切り抜かれた部分や切れ込みのある部分を有する外形、当該切り抜かれた部分が透明なフィルムに置き換えられた形状などであることができる。例えば、手術用シートの所望箇所を部分的に透明なフィルムで構成することによって、透明なフィルム箇所を通して手術用機器を操作できる。そのため、患者に加えて手術用機器を一緒に覆うことによって、床面に加えて手術用機器を汚染することなく、手術を実施できる。
【0055】
本願発明にかかる構成の積層体を備えた手術用シートで人体を覆い使用する際に、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化してなる箇所の配向している一方向と、人体の上下方向が略一致するようにすることで、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、床面へ滴り落ちるのを防止できる。ここでいう、「略一致」とは、前記一方向と人体の上下方向(頭と足先を結ぶ方向)のなす角度(鋭角)が30°以内であることを意味する。
【0056】
また、人体を覆って使用する場合には、手術の操作を実施しやすいように、所望箇所に開口を設けることができ、開口の形状や数は手術内容により適宜調整できる。本願発明の手術用シートはフィルム層を備えているため開口を形成しても、その開口から繊維層の構成繊維が解れにくく、発塵性が低い特徴を有する。
【実施例0057】
以下に、本願発明の実施例を記載するが、本願発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0058】
(比較例1~2、実施例1~4)
アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を合計で0.3mass%付与したポリエステル短繊維A(繊度:1.6dtex、繊維長:51mm)を用意した。また、アニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を合計で0.3mass%付与したポリエステル短繊維B(繊度:6.6dtex、繊維長:51mm)を用意した。
表1に記載の質量百分率となるようにしてポリエステル短繊維AおよびBの比率を変更して混綿した後、ローラーカード機によって開繊して、搬送方向に繊維が配向した一方向性繊維ウェブを形成した。
また、上述のようにして形成した一方向性繊維ウェブをクロスラッパーへ供し、繊維ウェブの搬送方向に対して交差させるように繊維ウェブを積層して、多方向性繊維ウェブを2枚形成した。
次いで、一方向性繊維ウェブ/多方向性繊維ウェブ/多方向性繊維ウェブの順で、一方向性繊維ウェブの搬送方向と多方向性繊維ウェブが搬送されてきた方向とが一致するように積層し、積層体を形成した後、当該積層体の両主面側から各々圧力13MPaの水流を噴出して繊維同士を絡合し、親水性を有する水流絡合不織布を製造した。
なお、このようにして製造した水流絡合不織布は、一方向性繊維ウェブの繊維配向と平行を成す方向(特定の一方向)に繊維配向を有する、一方向配向層(一方向性繊維ウェブ由来の繊維層)を有するものであった。
その後、水流絡合不織布を、水流絡合不織布の搬送方向(一方向配向層の配向方向と平行を成す方向、長手方向)における長さが320cm、当該搬送方向と直交する方向(短手方向)の長さが210cmの大きさを有する、長方形形状に切断した。
このようにして用意した、長方形形状の水流絡合不織布単体(繊維層単体)を、手術用シートとした。
【0059】
(吸水量の評価)
(1)手術用シートから一辺10cm角の正方形形状の試料を採取し、当該試料の重量Aを測定する。
(2)当該試料を0.9%食塩水中に浸漬し3分間放置した後、食塩水中から当該試料を引き上げ、10メッシュの金網に乗せ5分間自然条件下で放置し水を切る。水を切った後の試料の重量Bを測定する。
(3)以下の計算式から吸水量を求める。
吸水量(g/m2)=(B-A)×100
【0060】
なお、算出された吸水量が多いほど、多くの液体を吸液可能な手術用シートであることを意味する。
【0061】
(液垂れ性の評価)
(1)長方形形状の手術用シートを、端部にR30mmのカーブを有する作業台の天面となる上部で固定し作業台から垂れ下げる。この時、手術用シートにおける作業台から垂れ下がっている部分では、手術用シートの長手方向は重力方向と垂直をなし、短手方向は重力方向と平行をなし、作業台の端部から30cm垂れ下げる。このとき、作業台の天面において、重力方向と反対側に繊維層(比較例1~2および実施例1~4ではいずれか一方の主面、比較例3および実施例5~6においては水流絡合不織布由来の繊維層)が露出する態様とする。
(2)手術用シートにおける作業台の端部側から、シリンジを用いて蒸留水5mLを垂らす。
(3)蒸留水を垂らしてから10秒経過した後における、手術用シートの短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さを確認する。
【0062】
なお、手術用シートの短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さが短い手術用シートであるほど、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が床面へ滴り落ちるのを防止可能な手術用シートであることを意味する。
【0063】
そして、本評価では、比較例1で調製した手術用シートの短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さを確認し、その結果を基準として「×」と評価した。また、比較例1で調製した手術用シートと同等、あるいは、比較例1の手術用シートよりも短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さが長かった手術用シートもまた「×」と評価した。
【0064】
一方、比較例1で調製した手術用シートよりも短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さが短かった手術用シートを「○」と評価した。
【0065】
以上のようにして調製した各手術用シートの諸構成と諸物性を表1にまとめた。
【0066】
【0067】
比較例1~2と実施例1~4とを比較した結果から、単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2/mmより大きく35m2/mm未満である繊維層を備えていることによって、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が床面へ滴り落ちるのを防止可能な、手術用シートを提供できたことが明らかとなった。
【0068】
なお、比較例1の手術用シートは、いずれの実施例よりも吸水量が多く吸液性に富むものであった。それにも関わらず、比較例1の手術用シートは、いずれの実施例よりも液体を床面へ滴り落ち難くできる能力に劣るものであった。このことから、手術用シートにより吸収された液体を床面へ滴り落ち難くできる能力を正しく評価するためには、繊維層における厚み1mmあたりにおける繊維表面積(単位:m2)を求める必要があることが判明した。
【0069】
(比較例3)
比較例2で調製した水流絡合不織布の一方の主面に対し、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂を用いたホットメルトラミネート法により、全面に溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を塗布(塗布量:3g/m2)した。そして、溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を間に介し、水流絡合不織布の一方の主面上にポリエチレンフィルム(目付:18g/m2、厚さ:0.02mm)を貼り合わせ、積層体を調製した。
その後、積層体を、積層体を構成している水流絡合不織布の搬送方向(一方向配向層の配向方向と平行を成す方向、長手方向)における長さが320cm、当該搬送方向と直交する方向(短手方向)の長さが210cmの大きさを有する、長方形形状に切断した。
このようにして用意した長方形形状の積層体を、手術用シートとした。
なお、当該手術用シートにおける繊維層とフィルム層が対面している部分(層間)において、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂はその層間全面に存在しており、両層を接着一体化していた。
【0070】
(実施例5)
実施例3で調製した水流絡合不織布の一方の主面に対し、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂を用いたホットメルトラミネート法により、全面に溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を塗布(塗布量:3g/m2)した。そして、溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を間に介し、水流絡合不織布の一方の主面上にポリエチレンフィルム(目付:18g/m2、厚さ:0.02mm)を貼り合わせ、積層体を調製した。
その後、積層体を、積層体を構成している水流絡合不織布の搬送方向(一方向配向層の配向方向と平行を成す方向、長手方向)における長さが320cm、当該搬送方向と直交する方向(短手方向)の長さが210cmの大きさを有する、長方形形状に切断した。
このようにして用意した長方形形状の積層体を、手術用シートとした。
なお、当該手術用シートにおける繊維層とフィルム層が対面している部分(層間)において、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂はその層間全面に存在しており、両層を接着一体化していた。
【0071】
(実施例6)
実施例3で調製した水流絡合不織布の一方の主面に対し、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂を用いたホットメルトラミネート法により、当該主面の一方向(水流絡合不織布を構成する一方向性繊維ウェブの繊維配向と平行を成す方向)と平行をなす複数の直線となるようにして、溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を塗布(塗布量:3g/m2)した。そして、溶融したポリオレフィン系ホットメルト樹脂を間に介し、水流絡合不織布の一方の主面上にポリエチレンフィルム(目付:18g/m2、厚さ:0.02mm)を貼り合わせ、積層体を調製した。
その後、積層体を、積層体を構成している水流絡合不織布の搬送方向(一方向配向層の配向方向と平行を成す方向、長手方向)における長さが320cm、当該搬送方向と直交する方向(短手方向)の長さが210cmの大きさを有する、長方形形状に切断した。
このようにして用意した長方形形状の積層体を、手術用シートとした。
なお、当該手術用シートにおける繊維層とフィルム層が対面している部分(層間)において、ポリオレフィン系ホットメルト樹脂は、手術用シートにおける長辺方向に対し平行を成すと共に、等間隔で存在する複数の直線となる態様で存在しており、両層を接着一体化していた。
【0072】
以上のようにして調製した各手術用シートの諸構成と諸物性を表2にまとめた。
【0073】
なお、比較例3および実施例5~6における液垂れ性を評価する際に、比較例3で調製した手術用シートの短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さを確認し、その結果を基準として「×」と評価した。一方、比較例3で調製した手術用シートよりも短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さが短かった手術用シートを「○」と評価し、「○」と評価された手術用シートよりも短手方向(重力方向)へ拡散した蒸留水の重力方向の長さが短かった手術用シートを「○○」と評価した。
【0074】
【0075】
比較例3と実施例5~6とを比較した結果から、単位厚み(単位:mm)あたりの繊維表面積(単位:m2)が5m2/mmより大きく35m2/mm未満である繊維層を備えていることによって、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体が床面へ滴り落ちるのを防止可能な、手術用シートを提供できたことが明らかとなった。
【0076】
また、実施例6の手術用シートは実施例5の手術用シートよりも、液体を床面へ滴り落ち難くできる能力に富むものであった。このことから、本願発明にかかる繊維層とフィルム層とを有する積層体を備えた手術用シートについて、繊維層とフィルム層が部分的に接着一体化していると共に、その接着一体化している箇所が、一方向に配向を有する形状で存在している手術用シートは、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、当該一方向へ効果的に誘導し拡散できるものであった。
【0077】
そのため、前記部分的に接着一体化している箇所が配向を有する方向と、人体の上下方向が略一致するようにして、本願発明にかかる手術用シートで人体を覆い使用することで、人体の血液や体液等および手術に使用する薬液等の液体を、手術用シートにおける人体の上下方向へ誘導し拡散して、より効果的に、床面へ滴り落ちるのを防止できるものであった。
本願発明の手術用シートは、手術時に人体(患者)の覆布として好適に使用できる他、患者が横たわる手術台のカバーとして、また、手術時の医療機器の汚染を防ぐための覆布や下敷きとしても好適に使用できる。