(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007445
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】活性物質または活性成分を保存および放出する保存場所を有する、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の頭蓋顔面インプラント。
(51)【国際特許分類】
A61L 27/18 20060101AFI20240110BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20240110BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240110BHJP
A61F 2/28 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/40
A61L27/54
A61F2/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023105974
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】63/367,226
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】01955-2022
(32)【優先日】2022-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CL
(71)【出願人】
【識別番号】523247153
【氏名又は名称】アルコシステム エスピーエイ
【氏名又は名称原語表記】Arcosystem SpA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100230891
【弁理士】
【氏名又は名称】里見 紗弥子
(72)【発明者】
【氏名】イラン ベルナルド ローゼンバーグ ヴァイザー
(72)【発明者】
【氏名】マルコス アルフレッド スカーメタ シウヴァ
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB04
4C081BA14
4C081BB06
4C081CA181
4C081CE01
4C081CE02
4C081DA16
4C097AA01
4C097BB01
4C097BB10
4C097CC01
4C097DD02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】頭蓋や顔面の修復、再建術で用いられる頭蓋顔面インプラントにおいて、抗生物質等の薬理活性成分をインプラント部位に一定かつ長期的な方法で放出でき、術後の感染症関連リスクを軽減できる、頭蓋顔面インプラントを提供する。
【解決手段】ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料で構成される頭蓋顔面インプラントであって、インプラント部位に漸次的かつ長期的な方法で放出されるように、液体又は液体形態の活性成分を保存する、厚さ2.5~4mmの壁を有する1つまたは複数の卵形の内部チャンバまたはリザーバー(1)と、前記内部チャンバ又はリザーバーと入口開口(3)及び出口開口(4)とを相互接続するチューブ(2)と、を備える、頭蓋顔面インプラント。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントであって、
インプラント部位に漸次的かつ長期的な方法で放出されるように、液体または液体形態の活性成分を保存する、厚さ2.5~4mmの壁を有する1つまたは複数の卵形の内部チャンバまたはリザーバー(1)と、
前記内部チャンバまたはリザーバーと入口開口および出口開口とを相互接続するチューブ(2)であり、
a)前記入口開口(3)を前記リザーバー(1)に接続する入口チューブであり、この接続は、直径1.5~2.0mmの液体入口または流入口があり、その後に幅2.0~3.0mmのチューブに広がってリザーバーに続く漏斗システムを含めるようにして行う、該入口チューブ、
b)チャンバまたはリザーバー(1)を前記出口開口(4)に接続し、前記出口開口(4)の直径に応じて、上部が幅0.7~2.0mm、下部が幅0.7~1.5mmの移行漏斗システムを含む出口チューブ
として画定される、該チューブ(2)と、
インプラントの上部における、リザーバーの個数に応じた1つまたは複数の入口開口(3)であり、該開口は、前記液体が1つ又は複数の前記リザーバー(1)に到達するための入口または流入口である、また該開口部は、幅1.5~2.0mmである、そしてPEEKフィラメントプラグまたはチタンねじによって塞がれている、該入口開口(3)と、
インプラントの下部における、液体または活性成分をインプラント部位に漸次的かつ長期的に放出するものとしたリザーバーの個数に応じて1つまたは複数の出口開口であり、幅が0.7~1.5mmである、またインプラントがまだ適切にセットされていないときにインプラントを封止して前記液体の漏れを防ぐプラグまたはシステムを有している、該出口開口(4)と、
を備える、頭蓋顔面インプラント。
【請求項2】
請求項1に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントにおいて、前記入口開口の直径は1.5mmであることを特徴とする、頭蓋顔面インプラント。
【請求項3】
請求項1に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントにおいて、前記液体または活性成分のための前記出口開口の直径は0.75mmであることを特徴とする、頭蓋顔面インプラント。
【請求項4】
請求項1に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントにおいて、前記チャンバまたはリザーバーの厚さは3.5mmであることを特徴とする、頭蓋顔面インプラント。
【請求項5】
請求項1に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントにおいて、システム全体の前記チューブは、入口システムおよび出口システムの両方で、少なくとも長さ10mmであり、長さ15mm以下でなくてはならないことを特徴とする、頭蓋顔面インプラント。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントにおいて、液体形態の物質または活性成分の長期的かつ持続的な放出を可能にすることを特徴とする、頭蓋顔面インプラント。
【請求項7】
請求項6に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントの使用であって、薬学的に容認される媒体に可溶な少なくとも1つの活性成分の長期的かつ持続的な放出を可能にすることを特徴とする、頭蓋顔面インプラントの使用。
【請求項8】
請求項7に記載の物質または活性成分の放出のためのPEEK材料で構成される頭蓋顔面インプラントの使用において、鎮痛剤、抗生物質、抗ウイルス剤、化学治療剤、抗炎症剤または薬学的に容認可能な媒体に可溶な任意の物質もしくは活性成分の長期的かつ持続的な放出を可能にすることを特徴とする、頭蓋顔面インプラントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学分野に関する。より具体的には、物質または活性成分を保存し、インプラント部位に分配するためのリザーバーを有する、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料製の頭蓋顔面インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
外科処置の過程において、感染症はしばしば緊急事態に発展し、処置の失敗または成功を決定し得る。人工関節の挿入を伴う手術では、周縁処置の合併症が重大な懸念として残る。最も一般的かつ複雑な合併症の一つが細菌性外科感染症であり、創傷治癒の遅延だけでなく、患者の金銭的負担の増加、重症の場合は死亡を引き起こし得る(Chengzhe et al, 2021)。この種の感染症は、院内感染症の15~30%を占め、死亡率は0.6~1.9%である(Hernandez et al.)
【0003】
術後感染症の発生率は部位に依存し、関節置換術では1%未満~2%、脊椎手術では最大10%である。さらに、感染率は患者の健康にも依存し、リスク患者(高齢、糖尿病、肥満、ならびにメタボリックシンドロームおよび免疫不全患者)では増加することが予想される(Delaney et al.,2019)。
【0004】
チリでは、外科創傷感染症は依然として3番目に最も一般的な感染症であり、その指標は外科部位創傷感染症を有する特定の手術患者を考慮したものであり、人工関節インプラント手術もその中に含まれる(MINSAL, 2019)。
【0005】
インプラントに関連する術後外科部位感染現象については、いくつかの研究が総説している。1118例の感染症が報告された227の論文のメタ分析を含む総説研究では、全体の感染率は4.87%であり、この割合は脳神経外科処置においてより深刻であった。この研究では、黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌およびアクネ菌などのグラム陽性菌の存在が同定された(Chen, Y., et al., 2019)。
【0006】
Kwarcinski J.氏らによるレビュー文献では、頭蓋修復における異なる材料の感染症リスクの報告に、大きな差異があることが強調されている。これらの複合材料は、天然骨を模倣し、ヒトの(構造的および審美的)機能回復を補助するものであるが、潜在的な感染症リスクがないわけではないことが指摘されている。レビューの結果(合計41の論文が著者の包含基準を満たした)によると、材料ごとの平均感染率は2.04%と10.98%との間の範囲であった。結果は、感染症リスクの合計に関して材料間に差異があることを示唆しているが、比較された材料によっては、この値は重要でないことが証明されるかもしれない。手術時間、再手術および既往感染症を含む、感染症に関連する代替的な危険因子は、感染症の可能性に材料の差異よりも大きな影響を与える。製作方法の比較から、平均感染率に顕著な効果があることが強調された。表面相互作用のレベルが高く、組織の内部成長の支援が活発な材料ほど、高い感染症抵抗性を示したという傾向が観察され得る。PEEK材料の場合、感染率は0.00%~14.29%の間で変動し、平均感染率は7.89%、標準偏差は5.16%、相対リスクは0.75であった(Kwarcinski et al.,2017)。インプラントの存在に起因する手術部位の炎症もまた、別の困難として観察される。
【0007】
人工関節は継続的に更新され、そのため感染症に関連するリスクは低減している。例えば、骨セメントが機械的特性および抗菌特性を有するように改良されたため、感染症のリスクは減少した。しかし、非セメント人工関節はそうではなく、現在のところ、細菌感染症を予防および治療するための特性は限定的であり、利用可能な方針は基本的に再手術を伴うものである(Chengzhe et al, 2021)。
【0008】
PEEKのような材料の使用は、臨床応用におけるインプラント製造のための代替材料となる。この材料は、生体適合性、化学的安定性、および放射線透過性を有し、天然骨と同様の弾性率を持つ(Gu et al., 2021)。患者に埋め込んだ後に抗微生物活性を示し、術後の感染症リスクを低減するPEEK材料を用いて製造された人工関節の使用を評価する研究がある。
【0009】
例えば、2019年にDelaneyらは、脊椎インプラントとして患者に組み込むことが可能なPEEK抗生物質リザーバーについて記載した。このインプラントは、超音波を適用する際に、抗生物質の制御された徐放が達成されるように、前記リザーバーが多孔質材料製だったため、抗生物質および/または他の化合物の徐放を達成することができた (Hernandez et al., 2020)。
【0010】
ナノ粒子でコーティングされた、または抗菌活性を示し得る他の材料と合金化されたPEEK材料製の人工関節に関する研究が行われている。2018年のYanらの文献には、多孔性PEEK表面に銀ナノ粒子および硫酸ゲンタマイシンコーティングを構築したものが記載されている(Yan et al., 2018)。このコーティングは、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対する殺菌効率を大きく改良し、さらに、このコーティングされたPEEKに付着した生菌数は、コーティングされていないPEEKサンプルに付着した生菌数よりも少なかった(Yan et al., 2018)。
【0011】
Xueらは2020年に、サイクルを制御した交互(LBL)積層法を開発し、PEEK上に硫酸ゲンタマイシン(GS)を含有するブラッシュ石(CaHPO4・2H2O)(CaP)層を迅速に構築して、CaP-and-GS修飾PEEK(PEEK/CaP-GS)を得た(Xue et al., 2020)。著者らは、インビトロ抗菌実験により、すべてのPEEK/CaP-GSサンプルが優れた持続的な抗菌特性を有することが示され、一方、細胞増殖実験により、容認可能な生体適合性および細胞の骨形成分化が明らかになったと記載している(Xue et al., 2020)。一方で、2016年のLazarらの文献では、抗微生物特性を有する頭蓋顔面再建用インプラント用の、ゲンタマイシンでコーティングされた繊維強化複合材料が開発された。この研究の結果、細菌はゲンタマイシンコーティングと直接接触することで効率的に不活性化されることが示された(Lazar et al.,2016)。
【0012】
Chengzheらは、2021年に発表した文献で、ポリドーパミン(PDA)でコーティングされた多孔性スルホン化PEEK(SPK)表面から、モキシフロキサシン塩酸塩(MOX)および骨形成成長ペプチド(OGP)を持続的に放出することによって、細菌汚染を抑制すると同時に骨結合を促進するPEEKインプラントを開発した研究を提示している(Chengzheら、2021)。結果から、MOX/OGP PDA修飾SPK(SPD-MOX/OGP)表面は、インビトロ(体外)で浮遊性/付着性の黄色ブドウ球菌および大腸菌に対して耐久性のある優れた抗菌効果を示したことが示唆されている。加えて、SPD-MOX/OGP基質では、OGPおよびPDA分子に起因して、他のすべてのグループと比較して、特異的な細胞接着、増殖、および骨形成の顕著な改良が観察された。(Chengzhe et al, 2021)。
【0013】
インプラント部位における細菌制御のためのインプラントも特許文献に記載されている。例えば、特許文献1(CN101432030B)の文献には、1つまたは複数の埋め込み型の物質を含む三次元体またはリザーバーが記載されている。前記リザーバーは一定量の液体を受け入れることができる。リザーバーおよび液体は、パテのような適合性のある埋め込み型の材料を形成することができる。特許文献2(WO2007001624A2)などの他の文献には、骨壊死の治療に使用するための埋め込み型医療デバイスが明らかにされている。埋め込み型デバイスは、骨組織内の1つまたは複数のチャネルまたは空隙に挿入するように適合され、少なくとも1つのインプラント装置本体の表面に位置する複数の個別のリザーバー、および複数のリザーバーのうちの1つまたは複数に配置された少なくとも1つの放出系を備え、放出系は、骨成長促進剤、血管新生促進剤、鎮痛剤、麻酔剤、抗生物質、およびそれらの組み合わせより成る群から選択される少なくとも1つの薬物を含む。
【0014】
特許文献3(US20170056565A1)には、外科部位感染症の治療用の、インプラントに取り付けられるPEEK製の生体適合性クリップが明らかにされている。このクリップは、リザーバーおよびリザーバー開口部を備え、リザーバー開口部は、材料に力が加わると破裂し得る圧力応答性材料で密封されている。前記リザーバーは、抗生物質、抗ウイルス薬、鎮痛薬、成長因子、抗真菌薬、抗抗酸菌化学治療薬、骨形成無毒性因子または代謝産物、例えば骨形成を増加させるアスコルビン酸塩、副甲状腺ホルモン、ペプチド、ペプトイド、NSAID、鎮痛剤、またはそれらの組み合わせより成る群から選択される治療薬で満たされる。
【0015】
特許文献4(US8821912B2)には、PEEKを用いて製造可能な、抗微生物特性を有する埋め込み型医療デバイスの製作方法が記載されている。これらの装置の抗微生物効果は、抗微生物性金属陽イオンを含有するセラミック粒子を溶融PEEK樹脂に組み込むことによって生じ、その後、射出成形、切断および機械加工または他の技術によって達成される最終形状に冷却および固化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】中国特許第101432030号明細書
【特許文献2】国際公開第2007001624号パンフレット
【特許文献3】米国特許公開第20170056565号明細書
【特許文献4】米国特許第8821912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
抗菌特性を有する人工関節の制作が進歩し、技術水準に記載されているが、インプラント部位での感染症の発症を長期的かつ制御された方法で回避する必要性は依然として存在する。臨床実務において、インプラント挿入手術後最初の48~72時間が重要であることが認識されており、感染症の発症を回避するためにこの時間帯に抗微生物環境を長時間持続させることが可能なインプラント代替物が必要とされている。
【0018】
現在までの提案では、密着瞬間抗微生物作用を有するインプラントまたは、ナノ粒子による機能化を必要とするインプラントに言及しているが、この場合、インプラントの製作が技術的に複雑かつより高価になる。他の場合においては、インプラントの表面にクリップまたは外部デバイスが取り付けられるが、この場合、製作および複雑な頭蓋インプラントを患者に装着する際の空間調整の複雑化を伴う。
【0019】
したがって、目的の臨床的に関連する活性成分を、インプラント部位に一定かつ長期的な方法で放出できる頭蓋顔面インプラントの必要性がある。これによって、いくつかの場合においては、インプラント固定後の最初の数時間の間、感染症の発症を回避するために、長期的かつ制御された抗微生物環境を与えるまたは促進することが可能になり、また、製作および作業コストが低く、シンプルなインプラントとなる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本出願は、インプラント、特にPEEK製の頭蓋顔面インプラントであって、重力制御された漸次的な方法で骨置換部位に放出できる活性成分または物質を、液体形態または液体形式でその中に保持できる、1つもしくは複数の保存リザーバーまたはチャンバを備えるインプラントを記載する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、活性物質または成分を保存および分配するリザーバーを有する、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製の頭蓋顔面インプラントに関し、この頭蓋顔面インプラントは、
インプラント部位に漸次的かつ長期的な方法で放出されるように、液体または液体形態の活性物質を保存する、厚さ2.5~4mmの壁を有する1つまたは複数の卵形の内部チャンバまたはリザーバー(1)と、
内部チャンバまたはリザーバーと入口開口および出口開口とを相互接続するチューブ(2)であり、
a)入口開口(3)をリザーバー(1)に接続する入口チューブであり、この接続は、直径1.5~2.0mmの液体入口または流入口があり、その後に幅2.0~3.0mmのチューブに広がってリザーバーに続く漏斗システムを含めるようにして行う、該入口チューブ、
b)チャンバまたはリザーバー(1)を出口開口(4)に接続し、出口開口(4)の直径に応じて、上部が幅0.7~2.0mm、下部が幅0.7~1.5mmの移行漏斗システムを含む出口チューブ、
として画定される、該チューブ(2)と、
インプラントの上部における、リザーバーの個数に応じた1つまたは複数の入口開口(3)であり、該開口は、液体が1つ又は複数のリザーバー(1)に到達するための入口または流入口である、また該開口は、幅1.5~2.0mmである、そしてPEEKフィラメントプラグまたはチタンねじによって塞がれている、該入口開口(3)と、
インプラントの下部における、液体または活性成分をインプラント部位に漸次的かつ長期的に放出するものとしたリザーバーの個数に応じた1つまたは複数の出口開口(4)であって、幅が0.7~1.5mmである、またインプラントがまだ適切にセットされていないときにインプラントを封止して液体の漏れを防ぐプラグまたはシステムを有している、該出口開口(4)と、
を備える。
【0022】
本発明に記載の頭蓋顔面インプラントは、インプラント後の感染症、特に細菌感染症を回避する。この効果は、液体、液体形態の活性物質または成分の持続的で制御された長期的な放出結果として達成される。
【0023】
本発明者らは、とくに、インプラント内の各構成要素の設計および空間的配置を規定し、相当量の液体または液体形態の活性物質もしくは活性成分を蓄積するのに十分な大きさのチャンバまたはリザーバーが利用可能であり、同時にインプラントがその構造的特徴および特性を失わないようにした。
【0024】
本発明者らは、一連の実験的反復を行って、本発明の頭蓋顔面インプラントの各部分または構成要素のサイズ、長さおよび直径について最良の構造条件を規定した。1つまたは複数のチャンバまたはリザーバーシステム、またはむしろ適正な容量を有するマルチリザーバー内部液体ストレージを有するインプラントを製作することは、技術的および設計的な課題であった。より複雑かつ重要なことは、目的の液体をどのようにしてインプラントから患者に添加し、放出するかである。
【0025】
そのため、リザーバーは、保存された液体の放出要件に応じて、1つまたは複数の保存チャンバまたはリザーバーを収納し得ることが、反復によって経験的に規定された。特に、充填容量が5.0mLのリザーバーを有するインプラント、および液体形態または液体形式の活性物質または成分を少なくとも2.5mL含む2つ以上のリザーバーを有するインプラントが規定された。
【0026】
当初、2つ以上のチャンバを持つインプラントでは、液体の流れならびに入口開口および出口開口を制御して、制御された持続的な放出を達成することが複雑であることが観察されたときも、本発明者らは、各入口開口および出口開口の直径の規定を、インプラントがまだ使用されていないときに液体の放出を防止し、その適切な性能を可能にする封止構成要素(プラグ)の長さおよび空間的配置とともに、実験的反復に含めた。
【0027】
本発明者らは、入口開口および出口開口の直径を評価したとき、リザーバー内に保存される液体または活性物質を適切かつ持続的に放出するための異なる問題領域にも直面した。本発明において、リザーバーまたはカプセルの条件ならびに入口開口および出口開口のサイズは、出口またはリザーバーからその周囲への活性液体もしくは液体形態の活性物質の放出の調節と相関する。
【0028】
実験的反復の一環として、本発明者らは、液体または活性物質を充填するインプラント上部の入口開口は、液体または活性成分をインプラントに注入可能な注射器と連結できるように、適正な直径を有さなければならないことを規定した。また、オリフィスが潰れたり、液体の漏れまたは溢れを生じさせるものであったりしてはならない。その意味で、本発明者らは、入口開口(3)とリザーバー(1)とを接続する入口チューブは、液体の注入または流入のための1.5~2.0mmの直径を含む漏斗システムを含み、幅2.0~3.0mmのチューブに広がって、その後、入口オリフィスが幅1.5~2.0mmである前記チューブを通じてリザーバーに到達することを、規定した。
【0029】
改善の一環として、インプラントの入口オリフィスに、プラグとして機能させるためのフィラメント片を挿入する追加セクションが付加さられた。このプラグは、PEEK材料から製造することができる、またはチタンねじで構成することもできる。
【0030】
液体または活性物質のインプラント部位への漸次的かつ長期的な流出のための開口としてのインプラント下部にある出口開口の場合、本発明者らは、実施例で実施された試験において、周囲またはインプラント部位における効果的な放出および露出時間が改良されるように、リザーバーまたはカプセルからの液体の流出をさらに調節する必要性があることを観察した。本発明者らは、液体形式の活性物質を長期的に放出できるように、インプラントの設計内の、漏斗システムのすべての条件、入口および出口の直径、ならびに各構造の最小の長さおよび幅を規定したことに留意することが重要である。
【0031】
このように、本発明者らは、インプラントは、液体または活性成分をインプラント部位に漸次的かつ長期的に放出するために、リザーバーの個数に応じてインプラントの下部に1つまたは複数の出口開口(4)を有しなければならず、出口開口は幅0.7~1.5mmであり、インプラントがまだ適切にセットされていないときにインプラントを封止して液体の漏れを防ぐプラグまたはシステムを有することを規定した。出口開口のサイズおよび直径、ならびに本発明者らがインプラント内の各構造について規定した残りの寸法を調節することにより、液体または液体形式にある活性物質の漸次放出を可能にする。
【0032】
チャンバまたはリザーバーに相互接続するチューブの場合、それらはチャンバまたはリザーバーの上部のチューブとして配置され、液体をリザーバーに取り込むための入口オリフィスとなり、また、保存場所からインプラントの下部または底部に向かうチューブとして配置され、直径が制御され、本明細書ですでに記載したように規定された出口開口となる。すべてのシステムのチューブは、入口システムおよび出口システムの両方で、少なくとも長さ10mmであり、長さ15mm以下でなくてはならず、この最小の長さは、液体がチャンバまたは保存場所に適正な方法で入るために開発された試験の結果である。
【0033】
本発明の態様の1つにおいて、液体または液体形態の活性物質の放出は、患者の体内への封入後におけるインプラント部位への活性成分送達に直接関係する。その意味で、インプラントからインプラント部位への液体形式の活性物質の放出は、外科処置の後、インプラント部位で持続的に特定の効果が生じることを可能にする。本発明の態様の1つにおいては、インプラント後の最初の数日間からの長期的かつ持続的な放出は、術後感染症を回避または減少させることを可能にする。抗生物質および抗炎症物質のような、外科処置後の最初の数時間における活性物質の持続的な放出は、インプラント部位における感染の原因となり得る細菌定着を回避するのに役立つ。実施例、特に
図1に、実施例1の一部として示すように、インプラント点滴が液体を放出する。本発明者らは、インプラントゾーン上の長期的放出メカニズムの一部として、滴下放出のための特定のサイズを規定した。
【0034】
本発明の態様の1つにおいて、インプラントからの液体形態の活性物質または成分の放出により、抗生物質、抗炎症剤、鎮痛剤または他の活性物質に限定されることなく、活性物質の種類に応じて局所的な臨床効果を得ることができる。化学治療剤、または溶液を構成し得る任意の他の可溶性活性物質も、活性物質として含まれる。本発明の範囲の一環として、少なくとも1つの活性物質が含まれてもよく、複数の活性物質が含まれる可能性があり、前記物質は同じリザーバー内に含まれてもよく、あるいは別々のリザーバー上に含まれてもよい。
【0035】
本発明者らは、本発明の範囲内であるインプラントは、インプラントの内部構造内に含まれる1つまたは複数のチャンバもしくはリザーバーまたはカプセルから、液体または液体形態の活性成分を長期的に放出できることを実施例2および3で示した。各インプラント構成要素の物理的、空間的およびサイズの配列により、液体形式の任意の物質を組み込んだ後、24時間から最大11日間、液体物質を放出することが可能になる。模擬運動条件下(患者の頭部運動模擬実験)でも、インプラントから周囲へのこの持続的かつ長期的な放出が数日間観察された。
【0036】
これらの結果は、本発明に記載されるインプラントが機能的であり、またインプラントの1つ又は複数のチャンバ内に含まれる液体または液体形態の物質を持続的かつ長期的に放出することを示している。
【0037】
実施例1~6、特に実施例5および6で示された結果は、活性物質としてバンコマイシンを使用して試験を実施したことは事実であるが、試験および結果の両方が有効であり、任意の適正な溶媒、この場合は薬学的に容認可能な溶媒または媒体に可溶化できる、任意の他の活性物質についても推定できることを強調することが重要である。溶媒の例としては、水、生理的食塩水、二塩基性リン酸カリウム緩衝液、食塩リン酸緩衝液、または生体、特にヒトへの投与が容認可能な、任意の他の緩衝液もしくは媒体が挙げられる。その意味で、先に述べたことに従って、薬学的に容認可能な媒体に溶解できる任意の活性物質を含む可能性は、本発明の範囲に含まれる。
【0038】
実施例5では、放出濃度および放出速度の分析を示す。最初の1時間に放出されたバンコマイシンの量は13087.5μgであった。その後、2時間目には放出量は活性物質548.5μgとなり、放出量の減少を観察することができ、その後、4時間目には放出量は活性物質1232.5μgとなり、放出量が増加する。8時間および12時間のアッセイでは、それぞれ3505.5μgおよび4309.4μgの増加が観察された。
【0039】
最初の1時間の放出速度に関しては、平均値218μg/mLという高いバンコマイシン放出速度が観察され、その後1時間目から2時間目への経過時間内に減少し、その後増加し、長期的な放出が維持される。この放出速度論(release kinetic)によって、活性物質の最初の速いまたは高い放出があり、その後、着実かつ長期的な放出を保つことを示唆することができる。
【0040】
実施例6では、1つ又は複数のリザーバー内に充填された活性物質は安定なままであり、その構造を失うことも分解されることもないため、機能的なままであることが実証されている。この特定の場合では、バンコマイシン溶液の安定性がインプラント内で24時間評価され、活性物質の有意な分解の兆候は示されなかったため、リザーバーは放出される活性物質の安定性に影響しない。
【0041】
この情報により、頭蓋顔面インプラントゾーンにおける活性物質または医薬品の放出に適正な放出速度論で活性物質が適切に放出され、そこでは治療効果を達成する最初の速い放出が観察され、その後減少し、少なくとも43~48時間にわたって着実な放出が観察されることを報告することが可能である。さらに、リザーバー内の活性物質またはその溶液の保存は、その安定性に影響しない。
【0042】
本発明に記載のインプラントは、カスタマイズされたPEEK材料を用いて3D印刷により製造された頭蓋顔面インプラントを指す。前記インプラントは、本発明について記載されているように、放出される物質の充填および流出をそれぞれ可能にする、上部に1つおよび底部にもう一方の、2つの開口またはオリフィスを備える。
【0043】
本発明の実施態様において、インプラントに記載された容器または保存場所またはチャンバもしくはリザーバーは、液体形式または液体形態の物質もしくは薬剤もしくは活性物質を取り込むことができ、これらは骨置換処置が実施された部位に放出することができる。
【0044】
本発明の実施態様において、保存場所またはチャンバもしくはリザーバーを有するインプラントは、前記インプラントの組み込みを成功させるために、抗生物質および/または抗炎症剤および/または鎮痛剤のような薬剤または活性物質を特に含む。薬物または活性物質が、化学治療剤または溶解して液体溶液として得ることができる任意の他の物質に対応することも本発明の範囲内に含まれる。また、インプラントが複数のリザーバーを有し得るため、これも本発明の範囲内に含まれることを指摘することも重要である。
【0045】
本発明に記載されたPEEK製のカスタマイズされたインプラントのリザーバー、チャンバまたは保存場所を通じた物質の放出は、重力の作用を利用した結果であり、これにより前記化合物を漸次的に放出することができる。放出は、出口開口の直径およびインプラントの他の構造のサイズに依存する。
【0046】
本発明の実施態様のうち、カスタマイズされたインプラントの開発は、内部チャンバまたはリザーバーおよび相互接続されたチューブシステムを含み、前記リザーバーは、重力によって放出可能な液体物質を保存することができる。特に、重力を利用して物質が流れることを可能にする上部チャンバまたはリザーバーを有するインプラントが提示され、前記物質は抗生物質および/または抗炎症剤および/または鎮痛剤とすることができる。
【0047】
本発明の実施態様において、液体物質は、外科用針の使用を介してインプラントの内部リザーバーに取り込むことができることが記載されている。
【0048】
(定義)
本明細書では、頭蓋顔面インプラントについて記載するが、インプラントは、患者の頭蓋および/または顔面領域に置かれ得る任意のインプラントを指す。
【0049】
本発明に記載された頭蓋顔面インプラントは、活性物質または成分、特に液体形態のものを長期的かつ持続的に放出することを可能にし、インプラント部位における特定の治療効果を可能にする。鎮痛剤、抗炎症剤もしくは抗生物質効果、化学治療剤、または溶液に含ませることができる任意の活性物質を追求するために、数種類の物質または活性成分が含まれる。本発明の態様の1つは、インプラント後の感染症、特に細菌感染症を回避することを可能にする。この効果は、細菌数の減少によって測定される。その意味で、細菌数の減少に言及する場合、UFCまたはUFC/mLの細菌数の減少に言及している。
【0050】
本書でカスタマイズされたPEEKに言及する場合、本発明に記載されたインプラントがPEEKから製造され、患者が受けようとするインプラントの特徴に応じて個別化されることを述べている。
【0051】
本明細書において、用語「レセプタクル(receptacle)」、「チャンバ(chamber)」、「保存場所(deposit)」、「リザーバー(reservoir)」および/または「内部チャンバ(internal chamber)」および/または「カプセル(capsule)」に言及する場合、その内部に物質を含むかまたは含む可能性のある空洞について述べている。
【0052】
用語「術後(postoperative)」は、外科処置の後、患者のリハビリとともに終了する期間を指す。用語「周術期(perioperative)」とは、患者の準備からその回復までにわたる外科処置の時間に対応する。
【0053】
本明細書において「活性液体(active liquid)」、「活性物質(active substance)」または「活性成分(active ingredient)」が示される場合、医薬製品の組成物において機能および/または特定の活性を有する、全ての物質または物質の混合物について言及する。
【0054】
本明細書において、用語「反復(iterations)」が示されるが、本用語は、特定の目的のためのステップの繰り返しについて言及する。本発明の特定の場合、反復とは、インプラントの製造およびそれに対する試験の実施を繰り返して、必要とされる機能性を有するインプラントを得ることについて言及する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】インプラント開発のための反復1プロトタイプの画像である。複数の保存場所リザーバーから構成されるプロトタイプ1が提示されている。リザーバーからの滴下不良および液体漏れ。A)はインプラントプロトタイプの構造を示す図である。B)はプロトタイプのパーツを示す図であって、(1)は総容量3mLの液体または活性成分を含むリザーバー、(3)は幅0.8、1.25および1.5mmの注射器を介した液体または活性成分の流入口、ならびに(4)は幅0.5、0.7および1mmの液体または活性物質の出口開口を指す。
【
図2】インプラント開発のための反復2プロトタイプの画像である。A)単一チャンバまたはリザーバーのプロトタイプ2インプラントを示す図である(1)。B)は、長さ26mmのチューブ(2)を通じた液体または活性成分の注入、および太い黒色矢印で厚さ4.7mmのプロトタイプを示す図である。プロトタイプ2は、インプラント内部構造の脆弱化により、インプラントが機械的能力を失ったため、失敗した。
【
図3】インプラント開発のための反復3プロトタイプの画像である。プロトタイプ3インプラントは、活性液体または成分保存場所の2つの独立したリザーバーを有する。本プロトタイプは、一方のリザーバーの出口チューブ直径に問題が見られたため失敗した。(1)は液体または活性物質のリザーバー、(3)は注射器を介した液体または活性物質の入口開口、(4)液体または活性物質の出口開口を示す。
【
図4】インプラント開発のための反復4プロトタイプの画像である。チャンバまたはリザーバー(1)の両側で少なくとも2.5mmの厚さになるように、内側部分に材料が追加される。(2)は直径1.4mmのチューブ、(3)は直径1.5mmの注射器のための入口開口、(4)は直径0.75mmまたは0.5mmの出口開口である。
【
図5】インプラント開発のための反復5プロトタイプの画像である。厚さ3.5の分離対を持ち、液体の入口および出口開口が画定された2つの内部チャンバまたはリザーバーを有するインプラントが設けられる。A)はインプラントのデジタル画像図である。B)はインプラントの成形型を示す図である。
【
図6a】インプラント改善のための反復6プロトタイプ(インプラントへの液体入口開口および漏斗状システムのチューブ上のプラグ)の画像である。A)は、インプラント上部の画像を示す図であり、入口チューブと入口開口部が認められ、PEEKの断片または小片が、インプラント内に含まれる液体が入口開口部に漏れる、または逆流するのを防ぐプラグとして機能するように置かれている。
【
図6b】液体注入用の漏斗状システムのような改善を組み込んだインプラントを示す図であり、本システムは、インプラントに液体を供給する注射針用の幅1.5mmの開口が、チャンバまたはリザーバーに向かって直径3.0mmの管に広がっている画像に示されたものに従って、各管について様々な直径を取り得る。前記インプラントでは、入口開口は、漏斗状システムを有し、その後出口開口では直径が1.3mmに狭まる、直径2.0mmの出口開口チューブを示す。画像に示されたインプラントは、壁の厚さが幅2.5mmの単一の5mLリザーバーを有する。
【
図6c】使用されていないときに液体の漏れを防ぐ、出口開口におけるインプラントのプラグまたは密封システムを示す図である(
図6C参照)。
【
図7A】インプラント改善のための反復6プロトタイプ(インプラントへの液体入口開口および出口漏斗状システムのチューブ上のプラグ)の画像である。リザーバーの寸法が幅52.2mm、高さ52.86mmのインプラントのプロトタイプを示す図である。
【
図7B】幅24.43mm、高さ46.7mmの左側リザーバーおよび幅24.47mm、高さ46.84mmの右側リザーバーを備える、2つのリザーバーまたはチャンバを有するインプラントのプロトタイプを示す図である。
【
図8】本発明のインプラントからの流体放出試験の写真である(実施例2)。インプラントを容器に並べると、水で希釈したメチレンブルーの放出と一致して、異なる青色の色調が観察される。放出タイミングは左から1時間、2時間、3時間、4時間および6時間で評価した。
【
図9A】インプラントリザーバー(実施例3)の排出時間検証の写真である。A)は、24時間、72時間、96時間、120時間、および144時間の時間枠で得られたサンプルの観察で得られた結果の写真を示す図である。左から右へ、24時間では、周囲の着色またはインプラントからの液体放出はほとんど観察されない。中間の時間枠、すなわち72時間、96時間および120時間では、液体の放出の増加が観察され、周囲(容器)の薄青色の色調の着色を示し、その後144時間では色調が強い薄青色の色調に変化する。168時間の評価では、インプラントのリザーバーまたはカプセル内の内容物の、周囲(容器)への放出はより大きい。
【
図9B】インプラント内に含まれる液体の出口または排出開口の写真を示す図であり、この場合、液体は水で希釈したメチレンブルーである。出口開口部からの液体の放出が、より強い色調の青色で示されている。
【
図10】液体または活性物質を脳に段階的に放出するためのリザーバーおよびチューブを有するインプラントの画像である。AおよびBは、患者の頭蓋骨に組み入れたインプラントの画像を示す図である。Aでは、インプラントの詳細な内側部分が観察される。Bでは、頭蓋骨の内側部分からインプラントを見ており、リザーバーの出口開口部がその内側部分および脳に向かって液体を放出する。
【
図11】評価した時間帯におけるインプラントからのバンコマイシン放出量(μg)のグラフである。0、2、4、8、および12時間のサンプリング期間における放出量μgを考慮した、この放出速度論の代表的なグラフを示す。
【
図12】サンプリング期間ごとのインプラントからのバンコマイシン放出速度を示す図である。評価された0、2、4、8、および12時間のサンプリング期間に従った放出速度(μg/分)のグラフ。
【実施例0056】
(実施例1)
〔液体または活性物質の制御された放出のためのリザーバーおよびチューブを有するインプラントのプロトタイプの開発〕
インプラントのプロトタイプの開発は、本実施例の一部であり、この実施例は、液体または活性物質をその中に保存できるが、患者へのインプラントの組み込み後の最初の24~48時間の間、その長期的な放出を可能にするようにして、チューブを用いて相互接続された内部チャンバまたはリザーバーで構成されるインプラントを得るための、反復および対応する実験分析を考慮するものである。
【0057】
事前に設計した3Dインプラントを試験に使用し、そこに1つまたは複数の内部保存チャンバまたはリザーバーを追加した。
【0058】
[第1の試験反復:複数のチャンバまたはリザーバーシステムを有するインプラント]
最初に開発したインプラントのプロトタイプは、いくつかの内部チャンバまたはリザーバーおよび相互接続したチューブシステムを有し、そのため各リザーバーは内部に液体を保存することができ(試験は抗生物質を用いて行われた)、液体は重力によって液体の多いチャンバから少ないチャンバへと移動することができた。
【0059】
このプロトタイプは、幅0.8mm、1.25mmおよび1.5mmの直線状チューブを通して3つの液体注入口を有する。その意味で、本発明者らは、入口開口の直径が重要であることを観察した。なぜなら、注入口は、インプラント内部に注射器で液体を適切に充填できるように十分な大きさでなければならないが、同時に、充填プロセス中に液体が溢れて放出されるような大きさであってはならないからである。このプロトタイプに行われた試験によると、最良の直径は1.5mmであった。
【0060】
この第1のプロトタイプは、液滴の流出をいくつか観察したため、液体の流出または放出に関しては機能したが、チューブシステムが非常に広範のもので、直径が小さかったため、これらの出口のいくつかは機能しなかった。試験した出口の直径は、0.5mm、0.7mmおよび1mmであった。この場合、インプラントは完全に適正には機能しなかったが、0.7mmの出口開口によって制御された滴下による液体の放出が可能になることを観察した。0.5mmの出口は塞がれ、1mmの出口は非常に高い流出流を示す(
図1Aおよび1B)。表1において、インプラントの挿入部位において放出できるように、インプラントに含めるべき液体の入口開口および出口開口の直径規定の結果が明確になる。
【0061】
【0062】
[第2の試験反復:1つのチャンバまたはリザーバーを有するインプラント]
事前に設計した3Dインプラントを試験に使用し、そこに1つまたは複数の内部保存チャンバまたはリザーバーを追加した。
【0063】
最初に、チューブシステムおよびチャンバまたはリザーバーとの接続または相互作用のタイプを設計した。リザーバーに向かって移動する液体注入口だけでなく、その上方にある排出口を設け、この排出口はピラミッド型をしているため、保存された液体の速度および量を制御することができる。
【0064】
そして、もう一つの設計課題は、チャンバまたはリザーバーの総内部容量を規定することであった。
【0065】
第1の試験は、内部容量2mLのリザーバーを含むインプラントのプロトタイプを用いて実施した。唯一のチャンバまたはリザーバーと、それに接続された長さ26mmのチューブからなる、85.62mm×99.7mm、厚さ4.7mmのインプラントを設けた(
図2Aおよび2B参照)。
【0066】
インプラントの性能、特に液体または活性物質の放出を評価するため、注射器を使用してインプラントに液体の水を加える試験を実施した。単一の容量2mLのチャンバは、インプラントの内部構造の脆弱化によって機械的能力を失うため、大きすぎることを観察した。
【0067】
この問題を解決し、インプラントが適切な機械的特性を示すことを可能にするために、各チャンバの壁の厚さを少なくとも2.5mmにするべきであることを述べた。これらの考察を組み込んだインプラントを試験したところ、これらのインプラントは機械的特性を保った。
【0068】
[第3の試験反復:複数のチャンバまたはリザーバーシステムを有するインプラントの改善]
第2のインプラントのプロトタイプまたは改善は、それぞれに液体の注入口および出口を有する、2つの独立したチャンバまたはリザーバーで実施した。各チャンバの総容量は少なくとも2mLであるため、両チャンバを考慮した液体容量の総量は最大5mLに達し得る。
【0069】
試験したインプラントは、先のものよりも約20%大きいため、インプラントの機械的特性を減少させることなくより大きな保存液体容量を可能にするために、より大きな面積が必要である。このインプラントは、各リザーバーに接続されたチューブを備え、該チューブには直径1.2mmの注射器状の注入開口がある。インプラントはまた、一方のリザーバーには直径0.5mmの出口チューブを、もう一方のリザーバーには直径0.35mmの出口チューブを有する(
図3)。
【0070】
この場合、滴下するように液体が流れるという目的を満たしているのは一方のチャンバだけで、他方の注入口は製造プロセス上、直径が小さいために完全に塞がれているため、試験の成功は部分的であった。
【0071】
[第4の試験反復]
第3の反復は、前回と同じプロトタイプに基づいているが、大きな違いがあり、チャンバまたは保存場所の両側の壁の厚さが少なくとも2.5mmになるように、内側部分に材料を追加した。このことは、2回目の反復試験で何が観察されたか従って、インプラントの機械的条件および特性を改善する。
【0072】
このプロトタイプの一部として、液体出口チューブの直径を増加させたが、制御された液体放出の要件を満たすために、その上部に漏斗システムを含めた(
図4)。
【0073】
このインプラントは、0.75mmおよび0.5mmの2つの異なる出口直径を有する。最良の出口直径は0.75mmであることを観察した。出口の直径が0.5mmの場合では、液体が単純に流れず、液体の放出を制御するのが難しい。
【0074】
リザーバー領域に材料を追加すると、インプラントの品質および完全性に影響することなく、両方のチャンバで優れた保存容量を示しながら、機械的能力を保つという意図した効果は満たされた。
【0075】
[第5の試験反復]
その後、先のプロトタイプに続く反復において、リザーバーとインプラントの外側部分との間の厚さを少なくとも3.5mmに保ちながら、保存チャンバをインプラントの内側部分に配列した。インプラントの内側でも同じ厚さを得るため、チャンバ肉厚化プロセスを行って、少なくとも3.5mmの厚さとし、この試験は大成功した(
図5)。
【0076】
したがって、インプラントは、壁の厚さが2.5~4mm、好ましくは3.5mmの1つの保存リザーバーからなるものとすることができる。
【0077】
[第6の試験反復:液体の流入出システムの最終規定]
液体の流入およびインプラント部位における放出の制御に関して、先の反復で観察された各問題を考慮し、プロトタイプインプラントに対していくつかの改善が実施された。
【0078】
<インプラント内に液体を保存するための流入開口部内のプラグ>
インプラントを構築するのと同じ材料(PEEK)で作られた小片または断片を、液体がインプラントに入る、チューブの開始部分に加え、インプラント内に保存された液体が注入オリフィスから漏れたり溢れたりするのを防ぐプラグとして機能できるようにした。使用したフィラメントの直径は1.75mmだが、熱可塑性プラスチックは膨張し得るため、フィラメントの開始部分はフィラメント自体よりも0.25mm太い。したがって、このフィラメントで出口を塞ぐのに適当な直径は2.0mmである(
図6A参照)。
【0079】
インプラントを設置するとき、この断片またはフィラメントは簡単に廃棄(除去、取り去り、押し出し)することができ、インプラントを適切な部位に置くと、この開口はインプラント部位の骨によって覆われる。
【0080】
この場合、出口に配置される1.5mmのチタンねじを含めて、プラグまたはシールとして機能させることも、技術的に可能である。
【0081】
<液体注入開口におけるチューブ内の漏斗システム>
液体注入開口に漏斗状システムを組み込んだ。このシステムは各チューブの直径を変化させ、インプラント内部の液体が開口に溢れないように設計した。これは、液体が注入開口を通じてチューブシステムから漏れないようにするための第2の方法である。漏斗システムは、インプラント内部に液体を充填する注射器の挿入のために、注入チューブの直径が1.5mmでなければならず、その後3.0mmのチューブに広がることを意味する。言い換えれば、漏斗状ポイントまたは遷移部が存在し、液体が開口へ漏れるのを回避する(
図6B参照)。
【0082】
<インプラント部位に液体放出するための出口チューブにおける流出システム>
インプラントの形状に応じて、液体出口開口の直径を0.7mm~1.5mmと規定することによって、流出システムを改善した。この新しいプロトタイプにおいては、液体放出用の最終チューブに漏斗システムを組み込んでおり、その目的は、チャンバの排出をより制御しやすくし、長期的にすることである(
図6B参照)。
【0083】
さらに、この試験において、プラグまたは封止システムをインプラントに追加し、液体が漏れるのを防いだ(
図6C参照)。手術室内でインプラントが設置されるとき、外科スタッフは、液体を体内に放出できるように、出口オリフィスが露出するシリンダーの一部を切断しなければならない。
【0084】
<インプラントおよびリザーバーの一般的な寸法>
全体的な寸法に関しては、インプラントを完全に伸ばした状態での寸法は、インプラント部位および各患者に依存する。チャンバまたはリザーバーのサイズについては、いくつかの一般的な寸法およびサイズを定義した。
【0085】
1つのチャンバまたはリザーバーを有するプロトタイプインプラント(実施例3として使用)の寸法は、リザーバーの幅52.2mm、長さ52.86mmであった(
図7A)。
【0086】
2つのリザーバーまたはチャンバを有する、評価したインプラントのプロトタイプは、幅24.43mm、高さ46.7mmの左リザーバー、及び幅24.47mm、高さ46.84mmの右リザーバーを備えていた(
図7B)。
【0087】
すべてのシステムのチューブは、入口システムおよび出口システムの両方で、少なくとも長さ10mmであり、長さ15mm以下でなくてはならず、この最小の長さは、液体がチャンバまたは保存場所に適正な方法で入るために開発された試験の結果である。
【0088】
(実施例2)
〔本発明インプラントからの流体放出試験の写真〕
チャンバまたはリザーバーの排出時間を推測する目的で、3D印刷を介して、液体の漏れを防ぐための2.0mmのフィラメント注入口シール、直径1.5mmの注射器挿入口付き漏斗システムを有する入口チューブ、およびそれに続く直径3.0mmの出口から構成されるインプラントを製作した。試験したインプラントは、厚さ2.5mmの壁を持つ容量5mLのチャンバまたはリザーバーを有する。排出チューブは、1.3mmの排出口に移行する直径2.0mmのチューブを持つ漏斗または制御放出システムを持つ、出口オリフィスを有する(
図6b)。
【0089】
この実験においては、インプラントの内部を5.1mLの液体で満たし、試験液体は水4部及びメチレンブルー1部の溶液であった。
【0090】
プロトコルは、5.1mLの溶液をすでに規定されたインプラントの注入口に注入し、その後インプラントを水の入った容器に沈め、人工関節として設置されるような幾何学的配置を維持することから構成された。その後、インプラントを容器に入れたまま不特定時間放置し、1時間ごとに水が着色剤で変化しているかどうかを確認した。試験条件としては、静的条件すなわちインプラントが動かない条件、または患者の頭部の運動を模倣した動的条件で試験を実施した。この最後の試験により、この条件がインプラント内部からの液体放出速度に影響するか否かを確認することが可能になる。
【0091】
最初の1時間、容器から収集した液体はほとんど透明で、非常に薄い青色の色合いまたは着色を呈していることを観察した。2時間目および3時間目には、薄青色の色調として、青色の色調の増加が観察される。4時間後には、強い青色の色調が観察され、インプラント内に保存されていた液体の放出が示された。最終的に、この時点までに実施された試験において、静的排出時間は約6時間であった(
図8および表2参照)。
【0092】
この時間が経過した後でも、1週間の制限を過ぎた後でさえも、システムを動かせば、インプラントはまだ溶液を放出できることは留意するに値する。
【0093】
【0094】
(実施例3)
〔1つのリザーバーを有するインプラントの排出時間検証試験〕
リザーバーが1つのプロトタイプインプラント内に収納された5mLカプセルの排出時間を検証するため、複数の試験を行った。さらに、静的試験および運動試験を実施した。
【0095】
分析のために、以下の技術的特徴を有するインプラントを規格化し、製作した。
・直径2.2mmのプラグ
・挿入部直径1mm(注射器挿入部直径)
・インプラント注入口における液体の溢れを低減する漏斗システム
・5mLカプセル
・各カプセルまたは保存場所領域における少なくとも厚さ2.5mmの壁
・1.4mmの出口
・カプセルまたは保存場所の排出時間を増加させる漏斗形状の出口
【0096】
[静的アッセイ]
実験は、その第一段階において、カプセルまたはリザーバーを、5:1の割合に水で希釈したメチレンブルー溶液で満たし、この液体をインプラントに挿入し、チャンバまたはリザーバーの総容量がその全範囲まで適切に満たされていることを検証することから構成されるものとした。
【0097】
次に、プラスチック容器を水で満たし、内部に液体を入れたインプラントを容器内に置き、このインプラントの実際の配置を模して、垂直な位置を保つことができるようにプラスチック容器内にセットした金属製のフックで固定する。
【0098】
以下の時間を評価した:実験開始24時間後(第1のサンプル)、実験開始72時間後(第2のサンプル)、実験開始96時間後(第3のサンプル)、実験開始120時間後(第4のサンプル)、実験開始144時間後(第5のサンプル)、実験開始168時間後(第6のサンプル)。
【0099】
各時点で回収したサンプルを観察した結果から、周囲、この場合は容器に長期的に放出された液体の濃度が明らかに増加していることが一目で知ることができる(
図9Aおよび9B)。
【0100】
各時点で得られたサンプルの観察結果を表3に記載する。24時間では、周囲の着色またはインプラントからの液体放出はほとんど観察されない。中間の時間枠、すなわち72時間、96時間および120時間では、液体の放出の増加が観察され、周囲(容器)の薄青色の色調の着色を示し、その後144時間では色調が強い薄青色の色調に変化する。168時間の評価では、インプラントのリザーバーまたはカプセル内の内容物の、周囲(容器)への放出はより大きい。11日目において、インプラントの出口からまだ弱い滴下があり、プラスチック容器の水中のメチレンブルー濃度が依然として変化していることに留意すべきである。
【0101】
【0102】
[動的試験(インプラントを動かす)]
静的条件下で試験を実施した後、このインプラント状医療デバイスが患者に使用されたときにどのような挙動を示すかを、より正確に再現することを目的とした新たな試験を実施した。その意味で、人の典型的な運動(頭を回す、起き上がる、歩く)が再現された。そのために、プラットフォームを水平方向に移動させられる3Dマシンを使用した。先に記載したメチレンブルー溶液で満たしたインプラント(実施例2)を内部に入れた、水で満たした容器をこのマシンの上に置いた。試験で使用したインプラントの種類も、実施例2において記載した特徴を持つインプラントに対応する。
【0103】
実験の特徴:
・運動距離:23cm
・運動速度:3.3(cm/s)または0.1188(km/h)
・1サイクルは、開始位置から最終位置(23cm)まで運動し、そして開始位置に戻る、46cmの移動距離に対応する。
・サイクル/分:3
・作動期間:48時間。
【0104】
48時間経過後、試験を中止した。この時間が経過した後のメチレンブルー濃度は、静的試験において72時間後の時点で周囲に観察したものと比較して、48時間後の方が高いことを観察した(実施例2)。
【0105】
(実施例4)
〔インプラント後の感染症を回避する頭蓋顔面インプラント〕
実施例1において提案した反復の後、目的の液体(抗生物質および/または鎮痛剤)の適切かつ漸次的な放出を可能にする、より良いインプラント条件、サイズおよび寸法を規定した。
【0106】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)材料から製作され、インプラント部位における術後感染症を回避および低減する頭蓋顔面インプラントを設け、この頭蓋顔面インプラントは、
インプラント部位に漸次的かつ長期的な方法で放出されるように、液体または液体形態の活性成分を保存する、厚さ2.5~4mmの壁を有する1つまたは複数の卵形の内部チャンバまたはリザーバー(1)と、
内部チャンバまたはリザーバーと入口開口および出口開口とを相互接続するチューブ(2)であって、
a)入口開口(3)をリザーバー(1)に接続する入口チューブであり、この接続は、直径1.5~2.0mmの液体入口または流入口があり、その後に幅2.0~3.0mmのチューブに広がってリザーバーに続く漏斗システムを含めるようにして行う、該入口チューブ、
b)チャンバまたはリザーバー(1)を出口開口(4)に接続し、出口開口(4)の直径に応じて、上部が幅0.7~2mm、下部が幅0.7~1.5mmの移行漏斗システムを含む出口チューブ、
として画定される、該チューブ(2)と、
インプラントの上部における、リザーバーの個数に応じた1つまたは複数の入口開口であって、該開口は、液体が1つ又は複数のリザーバーに到達するための入口または流入口である、また該開口は、幅1.5~2.0mmである、そしてPEEKフィラメントプラグまたはチタンねじによって塞がれている、該入口開口(3)と、
インプラントの下部における、液体または活性成分をインプラント部位に漸次的かつ長期的に放出するものとしたリザーバーの個数に応じた1つまたは複数である出口開口(4)であって、幅が0.7~1.5mmである、またインプラントがまだ適切にセットされていないときにインプラントを封止して液体の漏れを防ぐプラグまたはシステムを有している、該出口開口部(4)と、
を備える。
【0107】
患者の頭蓋骨に組み入れたインプラントは、その後連結し、重力の影響およびインプラントの設計により、チャンバまたはリザーバー内に含まれる液体を持続的に放出する。出口開口は液体をリザーバーから脳に放出する(
図10Aおよび10B)。
【0108】
(実施例5)
〔頭蓋顔面インプラントからのバンコマイシン放出の分析研究〕
この研究では、本発明の頭蓋顔面インプラント部分としてのリザーバーからのバンコマイシン溶液の放出をレビューし、評価した。このアッセイは、37℃に設定し、20rpmの振盪運動が可能なインキュベーター上で実施したが、これは、この種の手術後に患者が示す運動を模することを意図したものであった。
【0109】
インプラントから放出されるバンコマイシンの放出速度および濃度を検出するために、PDA検出器と連結した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用した。標準物質として、生理的食塩水中の公称濃度0.01mg/mLの塩酸バンコマイシンを使用した。クロマトグラムに存在する各ピークの保持時間および面積値とともに検量線(calibration curve)を作成し、バンコマイシン濃度対標準物質を決定した。インプラントから放出された溶液のサンプリングでは、0.5mLのサンプルを収集し、0.1mLの生理的食塩水で希釈して、pH7.4に調整した0.2M二塩基性リン酸カリウム緩衝液を入れた100mLフラスコに移した。その後これを分析装置に注入した。
【0110】
保持時間および面積値を使用して分析分画中のバンコマイシン濃度を決定し、容器内の総累積バンコマイシン量(容器内μg)を算出した。測定は1、2、4および8時間目に実施し、結果を表4に示した。
【0111】
【0112】
このサンプリングおよび初期検定により、時間枠ごとの放出されたバンコマイシン量の分析を実施した。表5に、評価された時間帯におけるインプラントから放出されたバンコマイシンの量(μg)を示す。
図11に、この速度論放出の代表的なグラフを示す。この結果に従って、インプラントからのバンコマイシンの放出は、最初の1時間の枠内でより多いことを観察した。2時間目以降は、時間とともに着実かつ持続的な放出が観察される。この放出速度論は、治療濃度に迅速に到達するための、ゾーンにおけるより高い活性物質量の初期露出、およびその後、時間とともに調節された漸次的な活性物質の放出を可能にする。
【0113】
最初の1時間の放出速度に関しては、平均値218μg/mLという高いバンコマイシン放出速度が観察され、その後1時間目から2時間目への経過時間内に減少し、その後増加し、長期的な放出が維持される。
図12に、表5に記載したサンプリング期間におけるインプラントからのバンコマイシン放出速度の代表的なグラフを示す。
【0114】
【0115】
2時間、4時間、8時間および12時間のサンプリングから、インプラントが活性物質を放出する時間の長さを決定できる線形方程式または関数を決定した:f(x)=911.6x+11,465.1。
この情報によって、後の時間帯に放出されるバンコマイシンの量を推定し、理論的に決定した。表6に、24時間、36時間および43時間の時間枠について規定された累積放出バンコマイシン量を示す。この模擬実験では、12時間目の時点以降は速度が減少し、したがって送達時間が増加する可能性を考慮していない。
【0116】
【0117】
(実施例7)
〔インプラント内の活性物質溶液の安定性〕
この分析では、バンコマイシンを再び活性物質とみなし、前記分析を他の活性物質に限定しない。
このアッセイは、バンコマイシンがインプラント内にセットされ、インプラント内に含まれている間は分解しないこと、したがって機能的放出を可能にすることを示すことを意図している。このため、インプラント内で24時間静置したサンプルとともに、再構成後すぐに分析したサンプルに対応する時間ゼロ(To)サンプルを分析した。このようにして、24時間の時間枠の結果を、24時間目のサンプル面積および分解率として、時間ゼロの結果と比較した。
【0118】
時間ゼロ(To)におけるサンプル溶液の調製は、500mgのバンコマイシンのアンプルを取ること、および5mLの生理的食塩水を加えることから構成されるものとした。凍結乾燥粉末の完全溶液まで振盪し、前記アンプルから0.5mLを取り、生理的食塩水で最終容量5mLまで希釈した。この5mLの溶液をインプラントのリザーバーに注入する。24時間後のサンプルの場合、500mgのバンコマイシンアンプルを5mLの生理的食塩水で再構築した溶液を0.5mL取った。前記0.5mLを、pH7.4に調整した0.2M二塩基性リン酸カリウム緩衝液を使用して最終容量5mLまで希釈した。その後、注射器を使用して、前記容量をインプラントのリザーバーまたはカプセルに充填し、インプラントを封止して空のビーカーに組み込んだ。リザーバー内の溶液の公称濃度は10mg/mLである。
【0119】
24時間後、チャンバまたはリザーバーを開け、中に含まれる0.5mLの溶液を抽出した。リザーバーから抽出された0.5mLのうち、0.1mLの分画を取り、その後、先の実施例について記載したものと同じ検量線および標準曲線を考慮して、HPLCを使用した分析用に100mLフラスコに移した。
【0120】
表7にこのアッセイの結果を示す。24時間目においては、バンコマイシンの分解は顕著でないことが観察される。この結果は、本発明で提示されたインプラントの1つ又は複数のリザーバー内に収容される活性物質が、その放出に対して安定に保たれていることを示している。
【0121】
【0122】
【非特許文献1】(Kwarcinski, Jeremy & Boughton, Philip & Ruys, Andrew & Doolan, Alessandra & van Gelder, James. (2017). Cranioplasty and Craniofacial Reconstruction: A Review of Implant Material, Manufacturing Method and Infection Risk. Applied Sciences. 7. 276. 10.3390/app7030276).
【非特許文献2】Chen Y, Zhang L, Qin T, Wang Z, Li Y, Gu B. (2019). Evaluation of neurosurgical implant infection rates and associated pathogens: evidence from 1118 postoperative infections. Neurosurg Focus. 47(2):E6. doi: 10.3171/2019.5.FOCUS18582.
【非特許文献3】Chengzhe Gao, Zongliang Wang, Zixue Jiao, Zhenxu Wu, Min Guo, Yu Wang, Jianguo Liu, Peibiao Zhang. (2021). Enhancing antibacterial capability and osseointegration of polyetheretherketone (PEEK) implants by dual-functional surface modification, Materials & Design, Volume 205, 109733. https://doi.org/10.1016/j.matdes.2021.109733
【非特許文献4】Delaney, LJ, MacDonald, D., Leung, J., Fitzgerald, K., Sevit, AM, Eisenbrey, JR, Patel, N., Forsberg, F., Kepler, CK, Fang, T., Kurtz, SM, & Hickok, Nueva Jersey (2019). Liberacion de antibioticos activada por ultrasonido de los clips de PEEK para prevenir la infeccion por fusion espinal: evaluaciones iniciales. Acta biomaterialia , 93 , 12-24. https://doi.org/10.1016/j.actbio.2019.02.041
【非特許文献5】Gu Xinming, Sun Xiaolin, Sun Yue, Wang Jia, Liu Yiping, Yu Kaixuan, Wang Yao, Zhou Yanmin. (2021). Bioinspired Modifications of PEEK Implants for Bone Tissue Engineering. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, Vol. 8, doi:10.3389/fbioe.2020.631616.
【非特許文献6】Hernandez Cantu, Enoc Isai; Esparza Davila, Sandra Paloma; Reyes Silva, Alan Karim Sayeg. (2020). Eficacia de un modelo de prevencion de infeccion de sitio quirurgico en un hospital de segundo nivel de atencion. Index Enferm, Granada, v. 29, n. 1-2, p. 9-12.
【非特許文献7】Lazar, M. A., Vodnar, D., Prodan, D., Rotaru, H., Roman, C. R., Sorcoi, L. A., Baciut, G.; Campian, R. S. (2016). Antibacterial coating on biocomposites for cranio-facial reconstruction.Clujul medical (1957),89(3), 430-434. https://doi.org/10.15386/cjmed-599
【非特許文献8】MINSAL. Ministerio de Salud de Chile. Departamento de Calidad y Seguridad en la atencion, Programa de control de IAAS. (2017). Informe de vigilancia de infecciones asociadas a la atencion de salud. https://www.minsal.cl/wp-content/uploads/2015/09/informe-vigilancia-2017.pdf
【非特許文献9】Xue, Z., Wang, Z., Sun, A., Huang, J., Wu, W., Chen, M., et al. (2020). Rapid construction of polyetheretherketone (PEEK) biological implants incorporated with brushite (CaHPO4.2H2O) and antibiotics for anti-infection and enhanced osseointegration. Mater. Sci. Eng. C Mater. Biol. Appl. 111:110782. doi: 10.1016/j.msec.2020.110782
【非特許文献10】Yan, J., Zhou, W., Jia, Z., Xiong, P., Li, Y., Wang, P., et al. (2018). Endowing polyetheretherketone with synergistic bactericidal effects and improved osteogenic ability. Acta Biomater. 79, 216-229. doi: 10.1016/j.actbio.2018.08.037