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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074459
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】高調波フィルタ設備
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/01 20060101AFI20240524BHJP
   H03H 5/02 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
H02J3/01
H03H5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185603
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(74)【代理人】
【識別番号】100227673
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 光起
(72)【発明者】
【氏名】濱▲崎▼ 晃旗
(72)【発明者】
【氏名】黒田 和宏
【テーマコード(参考)】
5G066
5J024
【Fターム(参考)】
5G066EA01
5J024AA01
5J024CA01
5J024CA14
5J024EA03
5J024FA04
5J024KA02
(57)【要約】
【課題】電力ケーブルを利用した高調波フィルタ設備において所望の高調波成分を吸収する。
【解決手段】交流電源81に接続された連系点母線71の交流電圧に含まれる高調波成分とその拡大を抑制する高調波フィルタ設備100であって、連系点母線71に接続されたコイル素子11と、コイル素子11の低圧側に接続された電力ケーブル12とにより構成されるLC直列共振回路10と、コイル素子11及び電力ケーブル12の間に直列に接続された抵抗素子13と、抵抗素子10に並列に接続されるとともに、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22が直列に配置され、基本波周波数で共振するように構成された基本波共振回路20とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源系統に接続された母線の交流電圧に含まれる高調波成分とその拡大を抑制する高調波フィルタ設備であって、
前記母線に接続されたコイル素子と、前記コイル素子に対して前記母線とは反対側に接続された電力ケーブルとにより構成されるLC直列共振回路と、
前記コイル素子及び前記電力ケーブルの間に直列に接続された抵抗素子と、
前記抵抗素子に並列に接続されるとともに、リアクトル素子及びコンデンサ素子が直列に配置され、基本波周波数で共振するように構成された基本波共振回路とを備える、高調波フィルタ設備。
【請求項2】
前記コイル素子及び前記電力ケーブルによる直列共振が発生した場合に、前記リアクトル素子及び前記コンデンサ素子からなるインピーダンスは、前記抵抗素子のインピーダンスよりも大きく構成される、請求項1記載の高調波フィルタ設備。
【請求項3】
前記コイル素子は、インダクタンスが設定可能なリアクトル素子、又は、変圧器である、請求項1記載の高調波フィルタ設備。
【請求項4】
前記LC直列共振回路と並列に接続され、前記母線との電気的な接続を切り替えるスイッチ素子を有するバイパス回路をさらに備える、請求項1乃至3の何れか一項に記載の高調波フィルタ設備。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高調波フィルタ設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電源系統に接続された母線の交流電圧に含まれる高調波成分を抑制するために、高調波フィルタ設備が用いられている。この高調波フィルタ設備として、第3次、第5次、第7次といった高調波成分との共振を回避する高調波共振回避システムが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の高調波共振回避システムでは、図5に示すように、所定の値のインダクタンスを有する直列リアクトルが、主要変圧器と電力ケーブルとの間に直列に接続されている。この設備は、電源系統、主要変圧器、直列リアクトル、及び、電源ケーブルのインダクタンスの合成値と電力ケーブルの静電容量の合成値とに基づいて共振周波数を計算している。そして、この種の設備は、直列リアクトルのインダクタンスの値を設定することにより、共振周波数と奇数次の高調波成分とが重なることを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-074691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の設備は、高調波成分における共振を回避するシステムであり、電源系統から流入する高調波成分を積極的に抑制することを想定していない。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、電力ケーブルを利用した高調波フィルタ設備において所望の高調波成分を抑制することを主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る高調波フィルタ設備は、電源系統に接続された母線の交流電圧に含まれる高調波成分とその拡大を抑制する高調波フィルタ設備であって、前記母線に接続されたコイル素子と、前記コイル素子の低圧側に接続された電力ケーブルとにより構成されるLC直列共振回路と、前記コイル素子及び前記電力ケーブルの間に直列に接続された抵抗素子と、前記抵抗素子に並列に接続されるとともに、リアクトル素子及びコンデンサ素子が直列に配置され、基本波周波数で共振するように構成された基本波共振回路とを備えることを特徴とする。
【0008】
このような高調波フィルタ設備であれば、誘導性のコイル素子及び容量性の電力ケーブルが直列に接続されているので、コイル素子及び電力ケーブルによる直列共振が発生した場合に、高調波成分をLC直列共振回路に引き込むことができる。また、容量性を有する電力ケーブルを用いて高調波成分を引き込んでいるので、LC直列共振回路にさらにコンデンサを設ける必要はなくなる。
また、抵抗素子がコイル素子と電力ケーブルとの間に直列に接続されているので、高調波成分がLC直列共振回路に引き込まれた場合に、抵抗素子によって対象とする高調波成分を積極的に抑制することができる。
さらに、基本波電流については、リアクトル素子及びコンデンサ素子が基本波周波数で共振するので、基本波はLC直列共振回路ではなく基本波共振回路を通過し、基本波損失を低減することができる。
【0009】
前記コイル素子及び前記電力ケーブルによる直列共振が発生した場合に、前記リアクトル素子及び前記コンデンサ素子からなるインピーダンスは、前記抵抗素子のインピーダンスよりも大きく構成されることが望ましい。
【0010】
このような構成であれば、コイル素子及び電力ケーブルによる直列共振が発生した場合に、高調波成分をLC直列共振回路へと流すことができる。
【0011】
前記コイル素子は、インダクタンスが設定可能なリアクトル素子、又は、降圧変圧器であることが挙げられる。
【0012】
このような構成であれば、コイル素子がリアクトル素子の場合には、リアクトル素子のインダクタンスを設定することによって、電力ケーブルの静電容量を用いて、任意の次数の高調波成分をLC直列共振回路に引き込むことができる。また、コイル素子が降圧変圧器である場合、降圧変圧器の低圧側の電圧を低下させることができる。その結果、降圧変圧器の低圧側に設けられる機器の耐電圧を小さくすることができ、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。
【0013】
前記高調波フィルタ設備は、前記LC直列共振回路と並列に接続され、前記母線との電気的な接続を切り替えるスイッチ素子を有するバイパス回路をさらに備えることが望ましい。
【0014】
このような構成であれば、LC直列共振回路、又は、基本波共振回路で異常が発生した場合、スイッチ素子を投入することで、バイパス回路を通じて母線と電力ケーブルが電気的に接続されるので、電力ケーブルの送電を継続させることができる。
【発明の効果】
【0015】
このように構成した本発明によれば、高調波フィルタ設備において、所望の高調波成分を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態における高調波フィルタ設備を示す模式図である。
図2】同実施形態における高調波フィルタ設備のインピーダンス特性を示すグラフである。
図3】本実施形態における(a)電力ケーブルの分布定数線路、(b)電力ケーブルの分布定数線路の等価回路である。
図4】他の実施形態における高調波フィルタ設備を示す模式図である。
図5】従来例における高調波フィルタ設備を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る高調波フィルタ設備の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に示すいずれの図についても、わかりやすくするために、適宜省略し、又は、誇張して模式的に描かれている場合がある。同一の構成要素については、同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0018】
<1.装置構成>
本実施形態における高調波フィルタ設備100は、図1に示すように、電源系統である交流電源81に接続された連系点母線71の交流電圧に含まれる例えば5次高調波、7次高調波などの高調波成分を抑制するものである。なお、連系点母線71及び交流電源81の間には、抵抗とリアクトルとにより構成される背後インピーダンス91が設けられる。
【0019】
具体的にこの高調波フィルタ設備100は、連系点母線71に接続されるコイル素子11と、コイル素子11の低圧側に設けられた電力ケーブル12とにより構成されるLC直列共振回路10と、コイル素子11及び電力ケーブル12の間に直列に接続された抵抗素子13と、抵抗素子13に並列に接続され、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22が直列に配置された基本波共振回路20と、LC直列共振回路10と並列に接続されるバイパス回路30とを備える。以下、各部について詳細に説明する。
【0020】
LC直列共振回路10は、コイル素子11及び電力ケーブル12により直列共振を発生させるものである。具体的にLC直列共振回路10は、図1に示すように、コイル素子11及び電力ケーブル12がこの順で直列に接続されている。本実施形態においてコイル素子11は、例えば直列リアクトルであり、直列リアクトルのインダクタンスが設定可能に構成される。
【0021】
電力ケーブル12は、所定の周波数においてコイル素子11とともに直列共振を発生させて、高調波成分をLC直列共振回路10に引き込むものである。具体的に電力ケーブル12は、コイル素子11よりも低圧側に設けられており、直列共振が発生した場合に、電力ケーブル12の静電容量を用いてLC直列共振回路10に高調波成分を引き込む。
【0022】
本実施形態において、電力ケーブル12の静電容量は定数なので、コイル素子11のインダクタンスLによって、直列共振の周波数を調整する。コイル素子11のインダクタンスLは、コイル素子11のインピーダンスZを用いて、Z=ωLと表される。また、電力ケーブル12のインピーダンスZと等しい場合に、コイル素子11及び電力ケーブル12による共振が発生する。したがって、電力ケーブル12を図3(a)に示す分布定数線路、及び、図3(b)に示す電力ケーブル12の等価回路で模擬した場合、電力ケーブル12のインピーダンスZは(1)式で表され、(1)式に基づいて、コイル素子11のインダクタンスLは(2)式で表される。
【0023】
【数1】
【0024】
【数2】
【0025】
【数3】
【0026】
【数4】
【0027】
なお、fは共振周波数、Lは電力ケーブル12のインダクタンス、Cは電力ケーブル12の静電容量、Zはサージインピーダンス、lは電力ケーブル12の長さ、Vは電力ケーブル12の入力電圧、Iは電力ケーブル12の入力電流、Vは電力ケーブル12の出力電圧、Iは電力ケーブル12の出力電流である。
【0028】
抵抗素子13は、LC直列共振回路10に高調波成分が通過した場合に、高調波成分を低減するものである。具体的に抵抗素子13は、図1に示すように、コイル素子11と電力ケーブル12との間に設けられ、コイル素子11及び電力ケーブル12と直列に接続される。これにより、高調波成分がコイル素子11を通過すると、図2に示すように、抵抗素子13のインピーダンスの分だけ抵抗素子13が高調波成分を低減させて、低減された高調波成分が電力ケーブル12へと送られる。
【0029】
また、抵抗素子13の抵抗値Rは、コイル素子11及び電力ケーブル12のインダクタンスをL、共振次数をn、尖鋭度をQとすると、(5)式により算出される。
【0030】
【数5】
【0031】
基本波共振回路20は、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22を基本波で共振させるものである。具体的に基本波共振回路20は、図1に示すように、抵抗素子13と並列に接続され、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22が直列に接続される。
【0032】
また、基本波共振回路20は、コイル素子11及び電力ケーブル12による直列共振が発生した場合に、高調波成分がLC直列共振回路10を通過するように構成される。具体的には、コイル素子11及び電力ケーブル12による直列共振が発生する場合に、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22からなるインピーダンスが抵抗素子13のインピーダンスよりも大きくなるように構成される。
【0033】
具体的には、リアクトル素子21のインダクタンスL及びコンデンサ素子22のキャパシタンスCは、抵抗素子13の抵抗値Rに基づいて定められる。リアクトル素子21のリアクタンスをXL2とすると、n次におけるリアクタンスnXL2は、抵抗値Rより例えば10倍大きいとして、以下の(6)式が得られる。なお、リアクタンスnXL2は、抵抗値Rよりも10倍以上大きくてもよい。
【0034】
【数6】
【0035】
コンデンサ素子22のリアクタンスをXC1とすると、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22は共振するので、XL2=XC1となる。したがって、リアクトル素子21のインダクタンスL及びコンデンサ素子22のキャパシタンスCは、抵抗素子13の抵抗値Rを用いて、以下の(7)式及び(8)式により表される。
【0036】
【数7】
【0037】
【数8】
【0038】
バイパス回路30は、LC直列共振回路10、又は、基本波共振回路20で異常が発生した場合に、連系点母線71からの電流を電力ケーブル12に送るものである。具体的にバイパス回路30は、LC直列共振回路10と並列に接続されており、本実施形態において、高圧側の接続点はコイル素子11よりも高圧側に位置し、低圧側の接続点は抵抗素子13及び電力ケーブル12の間に位置する。
【0039】
また、バイパス回路30は、連系点母線71との電気的な接続を切り替えるスイッチ素子31を有する。スイッチ素子31は、LC直列共振回路10、又は、基本波共振回路20で異常が発生した場合に投入されて、連系点母線71と電力ケーブル12とを電気的に接続する。スイッチ素子31は、制御装置(不図示)が異常を検出し、その信号に基づいて閉止するものであってもよいし、例えば機械式スイッチといった、異常をユーザが検出して、機械的に閉止されるものであってもよい。
【0040】
<2.本実施形態の効果>
このような高調波フィルタ設備100であれば、誘導性のコイル素子11及び容量性の電力ケーブル12が直列に接続されているので、コイル素子11及び電力ケーブル12による直列共振が発生した場合に、高調波成分をLC直列共振回路10に引き込むことができる。また、容量性を有する電力ケーブル12を用いて高調波成分を引き込んでいるので、LC直列共振回路10にさらにコンデンサを設ける必要はなくなる。
【0041】
また、抵抗素子13がコイル素子11と電力ケーブル12との間に直列に接続されているので、高調波成分がLC直列共振回路10に引き込まれた場合に、抵抗素子13によって対象とする高調波成分を積極的に抑制することができる。
【0042】
さらに、基本波電流については、リアクトル素子21及びコンデンサ素子22が基本波周波数で共振するので、基本波はLC直列共振回路10ではなく基本波共振回路20を通過することとなる。その結果、基本波損失を低減することができる。
【0043】
さらに、LC直列共振回路10、又は、基本波共振回路20で異常が発生した場合、バイパス回路30のスイッチ素子31を投入することで、交流電流はバイパス回路30を通じて電力ケーブル12へと流れるので、電力ケーブル12の送電を継続させることができる。
【0044】
<3.その他の実施形態>
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0045】
本実施形態において、高調波フィルタ設備100は、抵抗素子13、基本波共振回路20、及び、バイパス回路30を備えるものであったが、高調波成分をLC直列共振回路10に引き込むためにはこれらを備えなくともよい。すなわち、容量性を有する電力ケーブル12を高調波フィルタ設備100の容量と考えることによって、高調波フィルタ設備100は、コイル素子11及び電力ケーブル12のみで高調波成分を引き込むことができる。
【0046】
本実施形態において、電力ケーブル12に流入する高調波成分を抑制するためには、コイル素子11を設けない構成としてよい。すなわち、高調波成分が低減されるためには、LC直列共振回路10において抵抗素子13が備えられていればよい。
【0047】
本実施形態において、コイル素子11は直列リアクトルであったが、コイル素子11は、図4に示すように、降圧変圧器としてもよい。この場合、降圧変圧器は高圧側母線M1と低圧側母線M2との間に設けられ、高圧側母線M1に含まれる高調波成分を降圧変圧器及び電力ケーブル12によって引き込むこととなる。コイル素子11が降圧変圧器である場合、降圧変圧器の低圧側の電圧を低下させることができる。その結果、降圧変圧器の低圧側に設けられる機器の耐電圧を小さくすることができ、装置の小型化及び低コスト化を図ることができる。なお、降圧変圧器のリアクタンスでは不足する場合、低圧側母線M2の低圧側にコイル素子11としての直列リアクトルをさらに設けてもよい。
【0048】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0049】
100・・・高調波フィルタ設備
10 ・・・LC直列共振回路
11 ・・・コイル素子
12 ・・・電力ケーブル
13 ・・・抵抗素子
20 ・・・基本波共振回路
21 ・・・リアクトル素子
22 ・・・コンデンサ素子
30 ・・・バイパス回路
31 ・・・スイッチ素子

図1
図2
図3
図4
図5