(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074485
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】既存建物の外付け鉄骨造補強架構
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
E04G23/02 E
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185664
(22)【出願日】2022-11-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-02-26
(71)【出願人】
【識別番号】591165919
【氏名又は名称】株式会社新井組
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】蘓鉄 盛史
(72)【発明者】
【氏名】東 健二
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA02
2E176BB28
(57)【要約】 (修正有)
【課題】外付け鉄骨造補強架構の基礎を新設しなくても済むようにする外付け鉄骨造補強架構を提供する。
【解決手段】鉄骨造補強架構100は、既存建物Aの互いに隣接する一対の躯体柱の外側において上下方向に接合して組み上げる一対の鉄骨柱10aと、一対の鉄骨柱10aから既存建物A側に向かって水平に張り出してその先端部が一対の既存建物の躯体柱と接合可能な一対の第1鉄骨梁と、一対の第1鉄骨梁の基端側を水平方向に連結する第2鉄骨梁と、一対の第1鉄骨梁の先端側を水平方向に連結する第3鉄骨梁と、を有し、既存建物Aの1階部分の外側に設置される鉄骨造ユニット補強架構の一対の鉄骨柱10aの下端部に形成された一対の第1ノード部17と、第2ノード部18が、一対のブレース材19で連結され、第1ノード部17から下方に延びる鉄骨柱10aの下端部が、既存建物Aの杭基礎に支持された基礎フーチングFに連結されている。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造架構を有する複数階の既存建物の外壁に沿って、鉄骨造ユニット補強架構を複数段組み上げて構成する外付け鉄骨造補強架構であって、前記鉄骨造ユニット補強架構は、
既存建物の互いに隣接する一対の躯体柱の外側において上下方向に接合して組み上げて垂直力を基礎に伝達する一対の鉄骨柱と、
当該一対の鉄骨柱から既存建物側に向かって水平に張り出してその先端部が既存建物の前記一対の躯体柱と接合可能な一対の第1鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁の基端側を水平方向に連結する第2鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁の先端側を水平方向に連結する第3鉄骨梁と、を有し、
既存建物の1階部分の外側に設置される前記鉄骨造ユニット補強架構の前記一対の鉄骨柱の下端部に形成された一対の第1ノード部と、前記第2鉄骨梁の長手方向中央部に形成された第2ノード部が、一対のブレース材で連結され、
前記第1ノード部から下方に延びる前記鉄骨柱の下端部が、既存建物の杭基礎に支持された基礎フーチングに連結されていることを特徴とする外付け鉄骨造補強架構。
【請求項2】
前記鉄骨柱の1階部分の外周がコンクリートで柱巻き補強されていることを特徴とする請求項1の外付け鉄骨造補強架構。
【請求項3】
前記鉄骨柱の1階部分が既存建物の1階部分の建物躯体柱と、鉄骨構造壁、鉄筋コンクリート構造壁又は鉄骨鉄筋コンクリート構造壁を介して連結されていることを特徴とする請求項1の外付け鉄骨造補強架構。
【請求項4】
前記鉄骨柱と既存建物の前記杭基礎を同軸状に配置したことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項の外付け鉄骨造補強架構。
【請求項5】
前記柱巻きを前記基礎フーチングまで延長したことを特徴とする請求項2の外付け鉄骨造補強架構。
【請求項6】
前記鉄骨構造壁、鉄筋コンクリート構造壁又は鉄骨鉄筋コンクリート構造壁を前記基礎フーチングまで延長したことを特徴とする請求項3の外付け鉄骨造補強架構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造架構を有する複数階の既存建物を耐震補強する外付け鉄骨造補強架構に係り、特に外付け鉄骨造補強架構の鉄骨柱の下端部を地中に延長して既存建物の基礎フーチングに連結した補強架構に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造架構を有する複数階の既存建物を、耐震補強のために外側から補強する外付け補強架構として、例えば特許文献1(特許第4128517号公報)の補強架構が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の外付け補強架構は、
図13、
図14A、
図14Bに示すように、既存建物Aの外壁に沿って立設される複数本の補強柱200と、これら補強柱200の鉛直荷重を支持する補強基礎210を有する。補強柱200と補強基礎210との間は、傾斜した複数本の緊張材220で連結される。
【0005】
しかしながら、当該補強架構は、
図14A~
図16に示すように、既存建物Aの基礎240とは別に補強基礎210を施工する必要がある。また、この補強基礎210を支持するために杭基礎230も施工する必要がある。
【0006】
したがって、特許文献1の補強架構は耐震補強工事の施工期間が長くなり、施工費用も高くつく。また、杭基礎230を構築するためにはパイルドライバや回転掘削機などの大型重機が不可欠であるが、このような大型重機は杭基礎上方であって既存建物と干渉しないように一定距離だけ建物からセットバックした位置に設置する必要がある。また、大型重機から発する騒音対策も不可欠である。したがって、既存建物の敷地状況によっては大型重機の使用が困難な場合もある。
【0007】
そこで本発明の目的は、外付け補強架構の基礎を新設しなくても済むようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明の外付け鉄骨造補強架構は、鉄筋コンクリート造架構を有する複数階の既存建物の外壁に沿って、鉄骨造ユニット補強架構を複数段組み上げて構成する外付け鉄骨造補強架構であって、前記鉄骨造ユニット補強架構は、既存建物の互いに隣接する一対の躯体柱の外側において上下方向に接合して組み上げて垂直力を基礎に伝達する一対の鉄骨柱と、当該一対の鉄骨柱から既存建物側に向かって水平に張り出してその先端部が既存建物の前記一対の躯体柱と接合可能な一対の第1鉄骨梁と、前記一対の第1鉄骨梁の基端側を水平方向に連結する第2鉄骨梁と、前記一対の第1鉄骨梁の先端側を水平方向に連結する第3鉄骨梁と、を有し、既存建物の1階部分の外側に設置される前記鉄骨造ユニット補強架構の前記一対の鉄骨柱の下端部に形成された一対の第1ノード部と、前記第2鉄骨梁の長手方向中央部に形成された第2ノード部が、一対のブレース材で連結され、前記第1ノード部から下方に延びる前記鉄骨柱の下端部が、既存建物の杭基礎に支持された基礎フーチングに連結されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外付け鉄骨造補強架構の鉄骨柱の鉛直荷重を既存建物の基礎フーチングで支持することができ、補強架構のための新たな基礎を施工しなくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の実施形態に係る外付け鉄骨造補強架構を斜め上側から見た斜視図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係る外付け鉄骨造補強架構を斜め下側から見た斜視図である。
【
図1C】本発明の実施形態に係る外付け鉄骨造補強架構を下側から見た拡大斜視図である。
【
図2A】ユニット補強架構の組み上げ工程の第1段階を示す立面図である。
【
図2B】ユニット補強架構の組み上げ工程の第2段階を示す立面図である。
【
図2C】ユニット補強架構の組み上げ工程の第3段階を示す立面図である。
【
図2D】ユニット補強架構の組み上げ工程の第4段階を示す立面図である。
【
図2E】ユニット補強架構の組み上げ工程の第5段階を示す立面図である。
【
図3】ユニット補強架構を最終段まで組み上げた状態の側方立面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るユニット補強架構の斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るユニット補強架構の3面図であって、(a)は正面立面図、(b)は右側面図、(c)は平面図である。
【
図6A】クレーンを使用してユニット補強架構を組み上げる状態を示す立面図である。
【
図6B】クレーンを使用してユニット補強架構を建物側に吊り込む状態を示す平面図である。
【
図7A】クレーンを使用してユニット補強架構を建物側に吊り込む状態を示す側面図である。
【
図8】ユニット補強架構と建物躯体の接合部を示す平面図である。
【
図9】(a)は
図8のIX-IX線矢視断面図、(b)は(a)の平面図である。
【
図11】第1段補強架構の模式的正面立面図である。
【
図13】従来の既存建物の外付け補強架構の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る外付け鉄骨造補強架構について説明する。
(鉄骨造ユニット補強架構)
図1A-
図1Cは、本発明の実施形態に係る外付け鉄骨造補強架構100の斜視図である。この鉄骨造補強架構100は、
図4及び
図5に示す鉄骨造ユニット補強架構10を、複数階の既存建物Aの外壁に沿って複数段組み上げて構成することができる。鉄骨造ユニット補強架構10の左右一対の鉄骨柱10aは、既存建物Aの互いに隣接する一対の躯体柱の外側に配設される。
【0012】
各ユニット補強架構10は、工場で複数本のH形鋼を溶接することで一体形に構成される。各ユニット補強架構10は、左右一対の鉄骨柱10aと、これら一対の鉄骨柱10aの高さ方向中間部からそれぞれ水平方向片側(建物側)に張り出した一対の第1鉄骨梁10bと、これら一対の第1鉄骨梁10bの基端側を水平方向に連結する第2鉄骨梁10cと、一対の第1鉄骨梁10bの先端側(建物側)を水平方向に連結する第3鉄骨梁10dとを有する。
【0013】
ユニット補強架構10は、正面視では
図5(a)のようにH形状、側面視では
図5(b)のように横向きT形状である。またユニット補強架構10は平面視では
図5(c)のように横長矩形枠状である。
【0014】
第2鉄骨梁10cと第3鉄骨梁10dの両端部は、
図5(c)のように左右方向に所定長で突出し、この突出部分に後述のユニット間連結部材31、32の端部をボルト結合可能に構成されている。なお、第3鉄骨梁10dと第2ユニット間連結部材32のH形鋼のウェブの外側面には、後述する
図8~
図10に示すように、水平方向に突出した複数のスタッド51が等間隔で固定されている。
【0015】
左右一対の鉄骨柱10aの上端部に、第1鉄骨梁10bの張り出し方向(建物側)に突出した吊り金具20が溶接付けされている。この吊り金具20は、
図2A~
図2Eに示すように、吊りビームBに吊り下げるワイヤーロープR3を玉掛けするためのもので、ユニット補強架構10を吊り金具20を使って吊りビームBに吊り下げ、この吊り下げ状態でクレーンCを操作してユニット補強架構10を目的階の所定高さまで移動させる。
【0016】
鉄骨柱10aと第2鉄骨梁10bが交叉する角部に、ノード部となる垂直な第1ガセットプレート11が溶接付けされている。第2鉄骨梁10bの中間部上面に、ノード部となる垂直な第2ガセットプレート12が溶接付けされている。鉄骨柱10aと第1鉄骨梁10bが交叉する角部に、ノード部となる水平な第3ガセットプレート13が溶接付けされている。第3鉄骨梁10dの中間部の内側面に、ノード部となる水平な第4ガセットプレート14が溶接付けされている。
【0017】
第3ガセットプレート13と第4ガセットプレート14との間に傾斜ブレース15が配設されている。また第4ガセットプレート14と第2鉄骨梁10bの中央部との間に垂直ブレース16が配設されている。なお、これら傾斜ブレース15と垂直ブレース16は、ユニット補強架構10を組み上げた後の後施工でボルト連結又は溶接付けすることも可能である。
【0018】
傾斜ブレース15と垂直ブレース16を後施工にすることで、ユニット補強架構10のクレーン吊り上げ時の重量を軽減すると共に、吊り姿勢でのユニット補強架構10の重心位置を可及的に鉄骨柱10a寄りにすることができる。これにより、吊り金具20から上方に延びたワイヤーロープR1~R3とベランダスラブ40との干渉を回避しつつ、第1鉄骨梁10bの張り出し長さを最短化することができる。第1鉄骨梁10bの最短化は補強架構100の全体重量軽減と部材コストの低減に有効であり、さらに補強架構100の強度向上にもつながる。
【0019】
(鉄骨柱の支持構造)
次に、
図11~
図12Bを参照して鉄骨柱10aの支持構造を説明する。本実施形態の鉄骨造補強架構100は、鉄骨造ユニット補強架構10を複数段組み上げて構成することで、従来のコンクリートスラブを使用した補強架構に比べて大幅な重量低減(軽量化)を図ることができる。この軽量化により、補強架構100の鉄骨柱10aの鉛直荷重を、
図12A、
図12Bのように既存建物の基礎(基礎フーチングF)で支持することが可能になった。
【0020】
すなわち、既存建物の1階部分の外側に設置される最下段の鉄骨造ユニット補強架構10(第1段補強架構S1)の鉄骨柱10aの下端部を、
図12A(a)(b)のように下方に延長する。そして、この下方に延長した鉄骨柱10aの下端部を、既存建物の杭基礎PFで支持されている基礎フーチングFの上面に連結する。鉄骨柱10aの下端部と基礎フーチングFは、例えばベースプレートとアンカーボルトを使用する等して連結することができる。当該連結部分をRC柱で覆って補強することも可能である。
【0021】
このように鉄骨柱10aの下端部を既存建物の基礎フーチングFに連結することで、鉄骨造補強架構100のための基礎を新設しなくても済み、施工期間の大幅短縮と施工費用の大幅低減が可能になる。なお、基礎フーチングFは地中梁F1を介して他の基礎フーチングFと連結されている。
【0022】
鉄骨柱10aの軸線の延長線は、好ましくは杭基礎PFに同軸状に重なるようにする。鉄骨柱10aの軸線の延長線が杭基礎PFから離間(偏心)すると、基礎フーチングFに大きな曲げ力が作用するの、これを回避するためである。ここで「同軸状」とは、鉄骨柱10aの軸線の延長線が杭基礎PFの上端部を通過する状態をいう。
【0023】
最下段の鉄骨造ユニット補強架構10(第1段補強架構S1)は、
図11のようにブレース材19を逆V字状に配設することで、鉄骨柱10aと第2鉄骨梁10cのフレーム構造を補強する。左右一対の鉄骨柱10aの下端部に第1ノード部(ガセットプレート)17が形成され、第2鉄骨梁10cの長手方向中央部に第2ノード部(ガセットプレート)18が形成される。左右の第1ノード部17と第2ノード部18の間が傾斜したブレース材19で連結される。
【0024】
第2段補強架構S2以上はブレース材19をV字状に配設することができる。しかし、第1段補強架構S1においては左右の第1ノード部17間に鉄骨梁を配置すると建物の出入りの邪魔になる。このため、第1段補強架構S1を左右一対の鉄骨柱10aと第2鉄骨梁10cで門型に構成し、第1段補強架構S1を逆V字状に配置したブレース材19で補強する。
【0025】
(鉄骨柱の補強構造)
鉄骨造補強架構100の高さ(階数)ないし重量に対応して、必要に応じ、
図12A(a)に示すように鉄骨柱10aの1階部分(第1段補強架構S1)の外周に、鉄筋コンクリート(RC造)による柱巻き60を構成することができる。この柱巻き60による補強により、鉄骨柱10aの耐荷重を増大することができる。
【0026】
柱巻き60は
図12A(a)のように第1段補強架構S1の鉄骨柱10aにのみ施工してもよいが、耐座屈性をさらに向上させるために
図12A(b)のように基礎フーチングFまで延長してもよい。柱巻き60の下端部と基礎フーチングFは、例えばアンカーボルト等で連結することができる。
【0027】
また、
図12B(a)に示すように、鉄骨柱10aの1階部分(第1段補強架構S1)を、既存建物の1階部分の建物躯体柱70と構造壁80を介して連結することができる。この構造壁80により、鉄骨柱10aの耐荷重を増大することができ、また建物躯体柱70に作用する水平方向の剪断力を構造壁80と鉄骨柱10aで受け止めることができる。
【0028】
構造壁80は
図12B(b)のように基礎フーチングFまで延長してもよい。構造壁80の下端部と基礎フーチングFは、例えばアンカーボルト等で連結することができる。
【0029】
そして、鉄骨造補強架構100が地震水平力を負担したことによって鉄骨柱10a(あるいは柱巻き60を含む)が負担する付加軸力のみが、構造壁80を通じて建物躯体柱70に伝達される。当該付加軸力は、最終的に基礎フーチングFおよび杭基礎PFで支持される。
【0030】
構造壁80は、基礎フーチングFまで延長する必要性は必ずしもない。1階部分の鉄骨柱10aの耐座屈性と耐剪断力は、地盤G上の構造壁80だけでも十分に強化することができる。
【0031】
構造壁80は、鉄骨構造壁(S造壁)、鉄筋コンクリート構造壁(RC造壁)又は鉄骨鉄筋コンクリート構造壁(SRC造壁)で構成することができる。構造壁80は建物の出入りの邪魔にならないので容易に施工することができる。
【0032】
(鉄骨造補強架構とその施工方法)
ユニット補強架構10は以上のように構成され、工場で仕上げられたユニット補強架構10は工事現場にトラックで搬送される。そしてユニット補強架構10を1つずつクレーンCで吊り上げて
図2A~
図2Eのように鉄筋コンクリート造架構の既存建物Aの外壁に沿って段階的に組み上げることで鉄骨造補強架構Sを構築する。
【0033】
補強架構Sは補強を必要とする躯体壁面に部分的に構築され、その架構重量が従来のスラブ接合による補強架構よりも大幅に軽量化される。これにより、補強架構Sの支持ための杭基礎を地盤Gに増設することなく、
図12A、
図12Bのように、既存建物Aの杭基礎PFと基礎フーチングFによって補強架構Sの垂直力を支持することができる。以下、鉄骨造補強架構Sの施工方法を順番に説明する。
【0034】
まず、補強架構Sの最下段として第1段補強架構S1を構築する。第1段補強架構S1は1階部分の階高に対応した高さを有し、基礎フーチングFの上に直接構築する。そしてこの第1段補強架構S1の上に第2段補強架構S2のユニット補強架構10を組み上げる。
【0035】
ユニット補強架構10は1つずつクレーンCによって吊り上げて第1段補強架構S1の上に配置する。クレーンCによる作業のため、クレーンCのワイヤーロープR1の下端に取り付けられたフックHKに、ワイヤーロープR2を介して吊りビームBを水平に吊り下げる。そしてこの吊りビームBの両端部から平行に降ろされたワイヤーロープR3の下端部を、ユニット補強架構10の吊り金具20に玉掛けする。
【0036】
補強架構Sの組み上げ高さに合わせて、当該補強架構Sの外側、すなわち
図2A~
図2Eの補強架構Sの建物外部側に、ユニット補強架構10間の連結作業を行うための足場FLを組み上げる。この足場FLは転倒防止のため複数の壁つなぎ材で建物Aの躯体又はベランダスラブ40と連結する。
【0037】
第2段補強架構S2を組み上げた後、
図4、
図6Aに示すように、第1段補強架構S1と第2段補強架構S2との間に傾斜ブレース33を配設する。この傾斜ブレース33の下端部は第1段補強架構S1のスパン間中央部上面にボルト連結し、傾斜ブレース33の上端部は第2段補強架構S2のユニット補強架構10の第2ガセットプレート12にボルト連結する。
【0038】
当該第2段補強架構S2から上は、同じ構造のユニット補強架構10を順次組み上げて補強架構Sを上方に伸ばしていく。なお、
図3に示すように最上段の第8段補強架構S8は半階高となるため、ユニット補強架構10の鉄骨柱10aの上半分を切除したものを使用する。
【0039】
ユニット補強架構10を組み上げる際、後述する
図7A、
図7Bのように、ユニット補強架構10をベランダスラブ40の先端に近接させ、かつ、建物外壁のスパン間に合わせて間欠配置する。そして柱間スパンを挟んで左右に隣り合うユニット補強架構10相互間を、
図2Bのように第1ユニット間連結部材31と第2ユニット間連結部材32でボルト連結する。
【0040】
これらユニット間連結部材31、32もクレーンCで吊ってユニット補強架構10間に配置し、吊り治具に受渡してユニット補強架構10との位置合わせを行う。ユニット間連結部材31、32はユニット補強架構10相互を連結すると共に、ボルト連結の位置を修正することでユニット補強架構10相互間の寸法誤差を吸収することができる。
【0041】
また、上下に隣り合うユニット補強架構10相互間は傾斜ブレース33で連結する。また上下に隣り合う第1ユニット間連結部材31相互間も同一の傾斜ブレース33で連結する。これら傾斜ブレース33もクレーンCで吊って所定位置に配置し、吊り治具に受渡してユニット補強架構10との位置合わせを行う。傾斜ブレース33はボルト連結であり、ボルト連結の位置を修正することでユニット補強架構10相互間の寸法誤差を吸収することができる。
【0042】
図2Cは、第1段補強架構S1の上に第2段補強架構S2を組み上げた状態を示している。以後、
図3に示す最終第8段補強架構S8まで、同じ手順でユニット補強架構10を組み上げていく。
【0043】
図2Dは第3段補強架構S3のユニット補強架構10の配置を示し、
図2Eは第4段補強架構S4のユニット補強架構10の配置を示す。これら補強架構S3、S4においても、ユニット補強架構10をクレーンによって同様に吊り上げて1スパン置きに配置する。
【0044】
(ユニット補強架構の水平吊り込み)
図6A~
図7Bは、ユニット補強架構10の第1鉄骨梁10bから先をベランダスラブ40の下側に水平に吊り込む際の状態を示している。
図6Aのように吊りビームBで水平に吊ったユニット補強架構10を、
図7Aのようにベランダスラブ40と干渉しないように目的階の所定高さまで移動させる。その後、クレーンCを操作してユニット補強架構10を建物側に向けて矢印方向に水平移動させ、第1鉄骨梁10bから先を
図7Bのようにベランダスラブ40の下側に挿入する。
【0045】
一方、ベランダスラブ40上には予めピティ枠41を設置しておき、このピティ枠41の上にレベル調整ジャッキ42を低位置に調節して左右一対で設置する。またベランダスラブ40の先端部下側に、一対のレベル調整ジャッキ42に対応する位置で出入調整用の定規アングル43をアンカーで固定しておく。
【0046】
そして、水平に吊り込んだユニット補強架構10の第1鉄骨梁10bの先端部を低位置に調節したレベル調整ジャッキ42の上まで移動させ、定規アングル43の先端にユニット補強架構10の鉄骨柱10aのフランジ部を当接させる。この状態で第1鉄骨梁10bの先端部をレベル調整ジャッキ42の上に静かに仮置きする。
【0047】
その後、左右のレベル調整ジャッキ42をそれぞれ上昇調整して、第1鉄骨梁10bとベランダスラブ40との間の垂直隙間Hを例えば150mmに調整する。これで、建物Aに対するユニット補強架構10の水平方向と垂直方向が位置決めされる。この位置決め作業の間、必要に応じてクレーンCを操作してユニット補強架構10の高さ位置を微調節する。
【0048】
このようにしてユニット補強架構10を位置決めした状態で、左右一対の鉄骨柱10aの下端部を、下側のユニット補強架構10の左右一対の鉄骨柱10aの上端部にそれぞれボルト連結する。また、上下に隣り合うユニット補強架構10相互間を傾斜ブレース33で連結する。また上下に隣り合う第1ユニット間連結部材31相互間も、同一の傾斜ブレース33で連結する。作業者Wが乗る足場FLは、この連結作業が可能な高さまで組み上げる。
【0049】
(補強架構と建物躯体との接合)
前述した方法で2段より上の各段補強架構S2…を組み上げる毎に、
図8~
図10のように、ユニット補強架構10の第3鉄骨梁10dと第2ユニット間連結部材32を、建物躯体の梁部材45と接合する。この接合のために、建物躯体の梁部材45にあと施工アンカー50を左右方向等間隔で水平に設置する。
【0050】
当該あと施工アンカー50を設置する前工程として、まず梁部材45に所定径・所定深さの孔を削孔ドリルで形成する。そして当該孔の中に、あと施工アンカー固定用接着剤を挿入・充填する。
【0051】
その後、当該孔の中にあと施工アンカー50を回転・挿入することで、あと施工アンカー50が接着剤によって梁部材45に固定される。当該あと施工アンカー50は、第3鉄骨梁10dと第2ユニット間連結部材32のH形鋼のウェブに取り付けたスタッド51を、あと施工アンカー50相互間に挟み込むように配置する。
【0052】
そして第3鉄骨梁10dと第2ユニット間連結部材32の上下に型枠52、53を施工し、型枠52、53の内側にスパイラル筋54を挿入する。この状態で型枠52、53内に固化材としての無収縮モルタル55を注入する。
【0053】
このモルタル注入は、上側型枠52の上方又は下側型枠53の下方から行うことが可能である。上側型枠の上方から充填する場合は、ベランダスラブ40にモルタル充填用の穴56をドリルで形成するか、第1鉄骨梁10bとベランダスラブ40との間の垂直隙間Hを利用してモルタル充填用のホース57を導入する。
【0054】
下側型枠53の下方からモルタル注入を行う場合は、型枠53に穴を開けて当該穴にモルタル充填用の注入ホース57を連結する。この場合は、型枠内でモルタル液面が静かに上昇するのでモルタル充填効率を高めることができる。なお、第3鉄骨梁10dのH形鋼の下側の片側フランジは、第2ユニット間連結部材32の連結作業に使用するボルト回転用治具を挿入するために、部分的に切り欠いておく。
【0055】
以上のようにして複数のユニット補強架構10により構築した補強架構Sを建物躯体に接合する。補強架構Sは接合スラブを使用しないので従来よりも大幅軽量化が可能である。このため、補強架構Sを支える杭基礎の新規打設を低減又は不要化し、既存建物の杭基礎PFによって補強架構Sの垂直力を支持することも可能である。このように、本実施形態では杭基礎の新規打設を不要化することができるので、パイルドライバや回転掘削機などの大型重機やその騒音対策も不要となる。
【0056】
(まとめ)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。例えば前記実施形態ではユニット補強架構10を既存建物の柱間スパンに合わせて間欠配置したが、補強する建物の状態によっては、ユニット補強架構10を間欠配置ではなく連続配置とすることも可能である。また、前記ユニット補強架構10は基本的に鉄骨柱10aと第1~第3鉄骨梁10b~10dとを有するものであればよく、前述の実施形態で示した構造に限られるものではない。
【符号の説明】
【0057】
10:鉄骨造ユニット補強架構 10a:鉄骨柱
10b:第1鉄骨梁 10c:第2鉄骨梁
10d:第3鉄骨梁 11:第1ガセットプレート
12:第2ガセットプレート 13:第3ガセットプレート
14:第4ガセットプレート 15:傾斜ブレース
16:垂直ブレース 17:第1ノード部
18:第2ノード部 19:ブレース材
20:吊り金具 31:第1ユニット間連結部材
32:第2ユニット間連結部材 33:傾斜ブレース
40:ベランダスラブ 41:ピティ枠
42:レベル調整ジャッキ 43:定規アングル
45:建物躯体の梁部材 50:あと施工アンカー
51:スタッド 52:上側型枠
53:下側型枠 54:スパイラル筋
55:無収縮モルタル 56:穴
57:注入ホース 60:柱巻き
70:建物躯体柱 80:構造壁
100:鉄骨造補強架構 200:補強柱
210:補強基礎 220:緊張材
230:杭基礎 240:基礎
A:既存建物 B:吊りビーム
C:クレーン F:基礎フーチング
F1:地中梁 FL:足場
G:地盤 H:垂直隙間
HK:フック PF:杭基礎
R1~R3:ワイヤーロープ S:鉄骨造補強架構
S1~S8:第1段補強架構~第8段補強架構 W:作業者
【手続補正書】
【提出日】2023-12-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造架構を有する複数階の既存建物の外壁に沿って、鉄骨造ユニット補強架構を複数段組み上げて構成する外付け鉄骨造補強架構であって、前記鉄骨造ユニット補強架構は、
既存建物の互いに隣接する一対の躯体柱の外側において上下方向に接合して組み上げて垂直力を基礎に伝達する一対の鉄骨柱と、
当該一対の鉄骨柱から既存建物側に向かって水平に張り出してその先端部が既存建物の前記一対の躯体柱と接合可能な一対の第1鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁の基端側を水平方向に連結する第2鉄骨梁と、
前記一対の第1鉄骨梁の先端側を水平方向に連結する第3鉄骨梁と、を有し、
既存建物の1階部分の外側に設置される前記鉄骨造ユニット補強架構の前記一対の鉄骨柱の下端部に形成された一対の第1ノード部と、前記第2鉄骨梁の長手方向中央部に形成された第2ノード部が、一対のブレース材で連結され、
前記第1ノード部から下方に延びる前記鉄骨柱の下端部が、既存建物の杭基礎に支持された基礎フーチングに連結され、
前記鉄骨柱の1階部分が既存建物の1階部分の建物躯体柱と、鉄骨構造壁、鉄筋コンクリート構造壁又は鉄骨鉄筋コンクリート構造壁を介して連結されると共に、当該鉄骨構造壁、鉄筋コンクリート構造壁又は鉄骨鉄筋コンクリート構造壁が前記基礎フーチングまで延長されていることを特徴とする外付け鉄骨造補強架構。
【請求項2】
前記鉄骨柱と既存建物の前記杭基礎を同軸状に配置したことを特徴とする請求項1の外付け鉄骨造補強架構。