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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074487
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/50 20060101AFI20240524BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
F16C33/50
F16C19/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185666
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】福留 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】堀 径生
(72)【発明者】
【氏名】西田 雄太
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA45
3J701BA49
3J701BA50
3J701EA37
3J701FA15
3J701FA32
3J701GA24
3J701XB03
3J701XB11
3J701XB14
3J701XB16
(57)【要約】
【課題】ポケットでの潤滑性と保持器の強度とを両立したころ軸受を提供する。
【解決手段】 保持器17は、複数の樹脂製のセグメント20を軸受周方向に並べることで形成される。セグメント20は、軸受周方向に延びる第一弧状部21と、第一弧状部からころ軸方向に離間すると共に、軸受周方向に延びる第二弧状部22と、第一弧状部21と第二弧状部22の間に介在する複数の柱部23とを一体に備える。ポケット16を形成する柱部23の外径側に、ころと接触して当該ころの外径側への移動を規制する爪部24が設けられる。セグメント20の複数の柱部23のうち、周方向両端に位置する2つの柱部を第一柱部231とし、2つの第一柱部の間に位置する柱部を第二柱部232として、第二柱部232の内径面に凹部40を設ける。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道面を有する内輪と、軌道面を有する外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に介在する複数のころと、前記ころを収容する複数のポケットを備えた保持器とを有し、
前記保持器は、複数の樹脂製のセグメントを軸受周方向に並べることで形成され、前記セグメントは、軸受周方向に延びる第一弧状部と、前記第一弧状部からころ軸方向に離間すると共に、軸受周方向に延びる第二弧状部と、第一弧状部と第二弧状部の間に介在する複数の柱部とを一体に備え、前記第一弧状部、第二弧状部、および隣り合う2つの柱部で囲まれた空間を前記ポケットとし、前記ポケットを形成する柱部の外径側に、前記ころと接触して当該ころの外径側への移動を規制する爪部が設けられたころ軸受において、
前記セグメントの複数の柱部のうち、周方向両端に位置する2つの柱部を第一柱部とし、前記2つの第一柱部の間に位置する柱部を第二柱部として、前記第二柱部の内径面に凹部が設けられていることを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記第一弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第一領域、前記2つの第一領域の間に位置する領域を第二領域として、前記第二領域に、前記第一領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部が設けられている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記第二弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第三領域、前記2つの第三領域の間に位置する領域を第四領域として、前記第四領域に、前記第三領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部が設けられている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項4】
前記第一弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第一領域、前記2つの第一領域の間に位置する領域を第二領域として、前記第二領域に、前記第一領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部が設けられ、
前記第二弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第三領域、前記2つの第三領域の間に位置する領域を第四領域として、前記第四領域に、前記第三領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部が設けられている請求項1に記載のころ軸受。
【請求項5】
前記セグメントを形成する樹脂が、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンである請求項1に記載のころ軸受。
【請求項6】
前記ころを円すいころとし、前記第一弧状部を小径側弧状部とし、前記第二弧状部を前記小径側弧状部よりも曲率半径を大きくした大径側弧状部とし、
軸受周方向に延びる可撓性の連結部材と係合可能な係合部を前記セグメントに設けた請求項1に記載のころ軸受。
【請求項7】
前記係合部を各セグメントの大径側弧状部の大径側側面に設けた請求項6に記載のころ軸受。
【請求項8】
前記セグメントの大径側弧状部の大径側側面の両端側に、前記係合部を有する突出部を設けた請求項7に記載のころ軸受。
【請求項9】
前記小径側弧状部の小径側側面に、小径側に突き出すウィング部を設けた請求項6に記載のころ軸受。
【請求項10】
前記内輪の大端面を下にして内輪の軌道面に円すいころを配置した状態で、円すいころの大径側の端面と接触する内輪の大鍔部が内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をI、前記大鍔部の先端の面取り幅をH、前記内輪の中心軸から円すいころの重心までの距離をy1、前記大鍔部の径をJとしたときに、次の条件を満たす請求項6に記載のころ軸受。
(J/2)-H cos I>y1
【請求項11】
隣り合うセグメント同士を突き合わした状態で、前記内輪の小鍔部の径をM、円すいころの小径側の端面と接触する内輪の小鍔部が内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、前記小鍔部の先端の面取り幅をK、円すいころを内輪の大鍔部の先端を中心にして回転させた際に、小鍔部の側面と円すいころの小径側の端面とが接触する接触点Cから中心軸までの距離をy3としたときに、次の条件を満たす請求項6に記載のころ軸受。
(M/2)-K cos L>y3
【請求項12】
風力発電装置に使用され、外径寸法1m以上を有する請求項1~11何れか1項に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図24の断面図に示すように、円すいころ軸受100は、内輪101と、その外周に同芯状に配置された外輪102と、これら内輪101及び外輪102との間に配設される円すいころ103と、円すいころ103を周方向に一定間隔で保持する保持器104とによって構成される。円すいころ軸受100は、内輪101、円すいころ103、および保持器104を一体に組み込んで内輪アッシーと呼ばれるものを組み立てた後、内輪アッシーに外輪102を組み込むことで組み立てられる。
【0003】
円すいころ軸受100の保持器104は、一般的に鋼板製である。鋼板製の保持器104は、風力発電装置に使用されるような大型の円すいころ軸受100の場合、円すいころ103も大型で使用本数も多いため、自重や保持した円すいころ103の重量により変形することがある。また、鋼板製の保持器104は、通常プレス加工によって製作されるが、外径寸法が1mを超えるような大型のものになると、設備上の問題によって加工が困難になる。また、鋼板製の保持器104は、その板厚を大きくすることで強度を確保することができるものの、一般に、大型の部品は製造設備上の問題によりプレス加工が難しく、加工上の制約からプレス加工することができる板厚には限界がある。一方、保持器104を削り出しにより製造すると、プレス品と比較して大幅なコストアップとなり、材料の無駄も多くなる。
【0004】
これらの問題を解決するために、保持器104を図25に示すような複数のセグメント104Aに分割し、セグメント104Aを環状に組合せたセグメント保持器がある(特許文献1)。セグメント104Aとしては樹脂製のものが主流になっている。セグメント104Aを組合せた従来のセグメント保持器は、転動体案内方式であり、円すいころ103と外径側で接触する外径側の案内爪105を有するポケットと、円すいころ103と内径側で接触する内径側の案内爪106を有するポケットとを、周方向に交互に設けた構成になっており、円すいころ103は、セグメント104Aのポケットに内径側と外径側から挿入されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5010353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セグメント保持器では、その強度確保のために必要とされる剛性を確保しようとすると、軸受内の保持器の占有スペースが大きくなる。これにより、ころと保持器のポケット内面との間でのグリースの流動性が低下し、良好な潤滑状態を維持することが難しくなる。また、保持器の重量が増加し、軸受運転中に保持器に負荷される衝撃力、慣性力が増加するため、異音や振動の発生要因となる。高強度化のため、セグメント保持器の材料としてPEEK材などを使用するのが好ましいが、PEEK材は高価であるため、製造コスト低減のために使用する重量を抑える必要がある。
【0007】
このようにセグメント保持器を使用した円すいころ軸受では、ポケットでの潤滑性と保持器の強度はトレードオフの関係にある。同様の課題は、転動体として、円筒形のころを使用する円筒ころ軸受でも生じる。
【0008】
そこで、本発明は、ポケットでの潤滑性と保持器の強度とを両立したころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明は、軌道面を有する内輪と、軌道面を有する外輪と、前記内輪の軌道面と前記外輪の軌道面との間に介在する複数のころと、前記ころを収容する複数のポケットを備えた保持器とを有し、前記保持器は、複数の樹脂製のセグメントを軸受周方向に並べることで形成され、前記セグメントは、軸受周方向に延びる第一弧状部と、前記第一弧状部からころ軸方向に離間すると共に、軸受周方向に延びる第二弧状部と、第一弧状部と第二弧状部の間に介在する複数の柱部とを一体に備え、前記第一弧状部、第二弧状部、および隣り合う2つの柱部で囲まれた空間を前記ポケットとし、前記ポケットを形成する柱部の外径側に、前記ころと接触して当該ころの外径側への移動を規制する爪部が設けられたころ軸受において、前記セグメントの複数の柱部のうち、周方向両端に位置する2つの柱部を第一柱部とし、前記2つの第一柱部の間に位置する柱部を第二柱部として、前記第二柱部の内径面に凹部が設けられていることを特徴とする。
【0010】
セグメントの強度に対する第二柱部の寄与度は小さい。従って、第二柱部の内径面に凹部を設けることで第二柱部を減肉したとしても、セグメントに求められる強度を確保することができる。その一方で、凹部を設けることにより、グリースの流通性(特に軸受周方向の流通性)が増すため、ポケット内面ところとの間の潤滑性を高めることができる。従って、ポケットでの潤滑性と保持器の強度とを両立することができる。また、セグメントの軽量化を図ることもできるので、軸受運転中に保持器に負荷される衝撃力、慣性力が低下し、異音や振動の発生頻度を低減することができる。
【0011】
このころ軸受においては、前記第一弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第一領域、前記2つの第一領域の間に位置する領域を第二領域として、前記第二領域に、前記第一領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部を設けることができる。
【0012】
このように第一弧状部に薄肉部を設けることで、グリースの流通性(特にころ軸方向の流通性)を高めることができる。従って、ポケットでの潤滑性をさらに向上させることができる。また、セグメントのさらなる軽量化を図ることもできる。薄肉部を設けた第二領域はセグメントの強度に対する寄与度が小さいため、薄肉部を設けたとしてもセグメントの強度低下を回避することができる。従って、ポケットでの潤滑性と保持器の強度との両立が可能となる。
【0013】
同様の観点から、前記第二弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第三領域、前記2つの第三領域の間に位置する領域を第四領域として、前記第四領域に、前記第三領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部を設けてもよい。
【0014】
あるいは、前記第一弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第一領域、前記2つの第一領域の間に位置する領域を第二領域として、前記第二領域に、前記第一領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部を設け、前記第二弧状部のうち、軸受周方向両端の柱部と対向する2つの領域を第三領域、前記2つの第三領域の間に位置する領域を第四領域として、前記第四領域に、前記第三領域よりも半径方向肉厚を小さくした薄肉部を設けることもできる。
【0015】
前記セグメントを形成する樹脂としては、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンを用いることができる。
【0016】
このころ軸受においては、前記ころを円すいころとし、前記第一弧状部を小径側弧状部とし、前記第二弧状部を前記小径側弧状部よりも曲率半径を大きくした大径側弧状部とし、軸受周方向に延びる可撓性の連結部材と係合可能な係合部を前記セグメントに設けることができる。
【0017】
前記係合部は各セグメントの大径側弧状部の大径側側面に設けることができる。
【0018】
前記セグメントの大径側弧状部の大径側側面の両端側に、前記係合部を有する突出部を設けることができる。
【0019】
前記小径側弧状部の小径側側面に、小径側に突き出すウィング部を設けることができる。
【0020】
前記内輪の大端面を下にして内輪の軌道面に円すいころを配置した状態で、円すいころの大径側端面と接触する内輪の大鍔部が内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をI、前記大鍔部の先端の面取り幅をH、前記内輪の中心軸から円すいころの重心までの距離をy1、前記大鍔部の径をJとしたときに、前記大鍔部の径は次の条件を満たすようにする。
(J/2)-H cos I>y1
【0021】
前記連結部材の端部相互を締結部または締結部材により連結して隣り合うセグメント同士を突き合わして固定した状態で、前記内輪の小鍔部の径をM、円すいころの小径側の端面と接触する内輪の小鍔部が内輪の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、前記小鍔部の先端の面取り幅をK、円すいころを内輪の大鍔部の先端を中心にして回転させた際に、小鍔部の側面と円すいころの小径側の端面とが接触する接触点Cから中心軸までの距離をy3としたときに、小鍔部の高さは次の条件を満たすようにする。
(M/2)-K cos L>y3
【0022】
以上に説明したころ軸受は風力発電装置に使用することができる。この場合、ころ軸受の外径寸法は1m以上となる。
【0023】
前記連結部材の端部相互は、連結部材自体に締結部を設けて連結しても、ターンバックル、結束バンドのような締結部材により連結してもよい。
【0024】
環状に配置した各セグメントの大径側を連結部材で連結する際に、環状に配置した各セグメントの小径側の前記ウィング部に環状治具を嵌めることが好ましい。
【0025】
前記環状治具は、内輪、円すいころ及び保持器を一体化した内輪アッシーを外輪に組込む前に取外すことができる。
【0026】
前記連結部材は、内輪アッシーを外輪に組込んだ後に、取外すことができる。
【0027】
前記連結部材を複数に分割し、分割された各連結部材の端部相互のそれぞれを前記締結部または締結部材により連結するようにしてもよい。
【0028】
複数の前記締結部または締結部材は、円周状に等分に配置することが好ましい。前記小径側弧状部の小径側側面に、小径側連結部材と、前記小径側連結部材との小径側係合部を設け、前記小径側係合部に前記小径側連結部材を着脱可能に係合することで環状に配置した各セグメントを連結するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ポケットでの潤滑性と保持器の強度とを両立したころ軸受を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】この発明に係る円すいころ軸受の実施形態を示す断面図である。
図2図1の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントを外径側から見た斜視図である。
図3図2のセグメントをIII方向から見た側面図である。
図4図1の円すいころ軸受に使用するセグメント保持器のセグメントを内径側から見た斜視図である。
図5図3中のV-V断面を示す断面図である。
図6】評価試験結果を示す表である。
図7】評価試験結果を示す表である。
図8】セグメントの他例を示す斜視図である。
図9図8のセグメントに円すいころを挿入した状態を示す断面図である。
図10】外輪を外した状態の円すいころ軸受の斜視図である。
図11】外輪を外した状態の円すいころ軸受の正面図である。
図12】円すいころ軸受の組立て手順を示す斜視図である。
図13図12の組立て手順を別角度から見た斜視図である。
図14】内輪の大端面を下にした状態で内輪に円すいころを配置した際における円すいころと内輪の大鍔部との関係を示す模式図である。
図15】円すいころ軸受の組立て途中の状態を示す斜視図である。
図16】円すいころ軸受の組立て途中の状態を示す斜視図である。
図17図16の断面図である。
図18図16の状態から環状治具を外した断面図である。
図19】内輪アッシーを反転させて外輪に組込む状態を示す断面図である。
図20】内輪アッシーを外輪に組込んだ状態を示す断面図である。
図21】内輪の軌道面に配置した円すいころの回転状態を示す模式図である。
図22】内輪の軌道面に配置した円すいころを回転させたときの内輪の小鍔部の高さと円すいころとの関係を示す模式図である。
図23】円すいころ軸受の他の例を示す断面図である。
図24】従来の円すいころ軸受の断面図である。
図25】従来の円すいころ軸受に使用されている保持器セグメントを構成するセグメントに円すいころを挿入する状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係るころ軸受の実施形態を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0032】
この実施形態に係るころ軸受1は、図1に示すように、外周に軌道面13を有する内輪11と、内周に軌道面14を有し、内輪11の外径側に内輪11と同芯状に配置される外輪12と、内輪11の軌道面13と外輪12の軌道面14との間に配置される複数の転動体としてのころ15と、ころ15を収容する複数のポケット16を備えた保持器17とを有する。
【0033】
本実施形態のころ軸受は、転動体として円すいころ15を用いた円すいころ軸受である。円すいころ軸受では、円すいころ15の転動面と、内輪11の軌道面13および外輪12の軌道面14の各円錐角の頂点が、円すいころ軸受の中心軸上の一点で一致する。内輪11の軌道面13を挟む軸方向の両側の領域には、外径方向に突出し、円すいころ15の端面と接触する小鍔部18と大鍔部19とが形成されている。
【0034】
風力発電の主軸等の支持に用いられる大型の円すいころ軸受1の場合、円すいころ15の平均径は40mm以上であり、軸受の外径寸法は1m以上である。
【0035】
保持器17として、図2に示す樹脂製のセグメント20を軸受周方向Xに複数個並べることで形成されたセグメント保持器が使用される。セグメント20を形成する樹脂材料としては、線膨張係数が1.7×10-5℃以下のものが好ましい。例えば、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンが樹脂材料として好適である。セグメント20は、以上に述べた樹脂材料を射出成形することで形成される。
【0036】
複数のセグメントを周方向に無間隙に配置した場合に、最初に配置されるセグメントと最後に配置されるセグメントとの間にすき間を有する。ここで、室温において、すき間の周方向の寸法は、保持器セグメントの中央を通る円の円周の0.12%よりも小さい。なお、最初のセグメントとは、複数のセグメントを周方向に順次連ねて配置する際に、最初に配置されるセグメントをいい、最後のセグメントとは、隣接するセグメントを当接させ、周方向に順次連ねて配置していった際に、最後に配置されるセグメントをいう。複数の保持器セグメントが周方向に連なって円すいころ軸受に組み込まれ、一つの環状の保持器を構成する。
【0037】
前記樹脂材料中の充填材の充填比率は20重量%以上、40重量%以下として、セグメント間の周方向のすき間を上記した範囲とすることにより、セグメント同士の衝突による強度的な不具合等や、セグメント同士の周方向の突っ張りあいによる変形等を防止することができる。
【0038】
各セグメント20は、図2に示すように、軸受周方向Xに延びる第一弧状部21と、第一弧状部からころ軸方向Yに離間すると共に、軸受周方向Xに延びる第二弧状部22と、第一弧状部21と第二弧状部22との間に介在する複数の柱部23とを一体に備える。本実施形態で説明する円すいころ軸受では、保持器17のころ軸方向Yの一端が他端よりも大径となるため、一対の弧状部21,22のうち、一方の弧状部の曲率半径が他方の弧状部の曲率半径よりも大きくなる。これに関連して、以下の説明では、第一弧状部21を小径側弧状部と称し、第二弧状部22を大径側弧状部と称する。大径側弧状部22の曲率半径は、小径側弧状部の曲率半径よりも大きい。
【0039】
大径側弧状部22の外径側側面の両端には、係合部27を有する突出部26がころ軸方向に突出するように設けられる。小径側弧状部21の小径側側面には、軸受軸方向(小径側)に突き出すウィング部28が設けられている。突出部26、係合部27、およびウィング部28の役割や機能は後で述べる。
【0040】
柱部23は、ころ軸方向Yに延びている。小径側状部21、大径側弧状部22、および隣り合う2つの柱部23で囲まれた空間が円すいころ15を収容するポケット16となる。各セグメント20は、複数のポケット16を備えており、本実施形態では、5つのポケット16を設けたセグメント20が例示されている。
【0041】
各ポケット16を形成する隣り合う柱部23の外径側には、図2および図3に示すように、ポケット16よりも外径側の領域に張り出した爪部24が形成される。爪部24は、円すいころ15の外周面(転動面)と接触可能である。この爪部24により、全てのポケット16(保持器17の全てのポケット16)で、円すいころ15の外径側への移動が規制される。
【0042】
本実施形態では、保持器17として、保持器17を外輪12の内周面に接触させて案内する外輪案内方式のものが採用されている。外輪案内方式に対応して、軸受周方向Xの両端のポケット16を形成する柱部23(231)の外径側には、外輪12の内径面と接触可能な案内突部29が設けられる。なお、保持器17の案内方式は、外輪案内に限らず、転動体案内や内輪案内であってもよい。
【0043】
以上に述べたセグメント20を軸受周方向に複数個並べ、各セグメント20の軸受周方向の端面同士を突き合わせることで、概ね環状をなすセグメント保持器17が形成される(図11参照)。
【0044】
本実施形態においては、図2図4、および図5に示すように、2以上のポケット16を備えるセグメント20の柱部23のうち、軸受周方向Xの両端に位置する2つの柱部23を第一柱部231とし、2つの第一柱部231の間に位置する柱部を第二柱部232として、各第二柱部232の内径面に、凹部40が設けられる。凹部40は、図5に示すように、第二柱部232の内径面を、小径側弧状部21の内径面21aおよび大径側弧状部22の内径面22aよりも外径側に後退させることで形成される。また、凹部40は、第二柱部232を軸受周方向に貫通するように設けられている。そのため、この凹部40で形成される空間を介して、隣接するポケット16間で、軸受内部に封入されたグリースを流通させることができる。凹部40のころ軸方向の両端にはテーパ面が形成されている。このテーパ面を介して、凹部40が第二柱部232の凹部のない内径面につながっている。テーパ面を小径側弧状部21の内径面21aあるいは大径側弧状部22の内径面22aに直接つなげてもよい。
【0045】
セグメント20の強度に対する第二柱部232の寄与度は小さい。従って、第二柱部232の内径面に凹部40を設けることで第二柱部232を減肉したとしても、セグメント20に求められる強度を確保することができる。その一方で、凹部40を設けることにより、グリースの流通性(特に軸受周方向の流通性)が増すため、ポケット内面と円すいころ15との間の潤滑性を高めることができる。従って、ポケット16での潤滑性とセグメント20の強度とを両立することができる。また、セグメント20の軽量化を図ることもできるので、軸受運転中に保持器に負荷される衝撃力、慣性力が低下し、異音や振動の発生頻度を低減することができる。
【0046】
また、小径側弧状部21および大径側弧状部22のうち、何れか一方または双方において軸受周方向の中央部に、軸受周方向の両端よりも半径方向の肉厚を小さくした薄肉部41が形成される。例えば、大径側弧状部22に薄肉部41を設ける場合には、図2に示すように、大径側弧状部22のうち、軸受周方向Xの両端の第一柱部231と対向する領域(より好ましくは軸受周方向Xの両端のポケット16と対向する領域)を第一領域、2つの第一領域の間に位置する領域を第二領域として、第二領域に第一領域よりも半径方向の肉厚を小さくした薄肉部41が設けられる。図3に示すように、薄肉部41は、大径側弧状部22の内径面22aおよび外径面22bに、それぞれ凹部42を設けることで形成される。凹部42を内径面22aと外径面22bの双方に設ける他、何れか一方にのみ凹部42を設けることで薄肉部41を形成してもよい。なお、セグメント20に設けるポケット16の数は3つ以上とする。また、薄肉部41は、少なくとも一つのポケット16の軸受周方向Xの幅よりも大きな範囲に形成する。
【0047】
以上に述べた薄肉部41は、大径側弧状部22のみに設ける他、小径側弧状部21のみに設けることもできる。具体的には、小径側弧状部21のうち、軸受周方向Xの両端の第一柱部231と対向する領域(より好ましくは軸受周方向Xの両端のポケット16と対向する領域)を第三領域、2つの第三領域の間に位置する領域を第四領域として、第四領域に第三領域よりも半径方向の肉厚を小さくした薄肉部41を設ける。大径側弧状部22と小径側弧状部21の双方に薄肉部41を設けても良い。
【0048】
このように第二柱部232に凹部40を形成することに加え、小径側孤状部21と大径側弧状部22のいずれか一方または双方に薄肉部41を設けることで、グリースの流通性(特にころ軸方向の流通性)を高めることができる。従って、ポケットでの潤滑性をさらに向上させることができる。また、セグメント20の更なる軽量化を図ることもできる。薄肉部41を設けた領域はセグメント20の強度に対する寄与度が小さいため、薄肉部41を設けたとしてもセグメント20の強度低下を回避することができる。従って、ポケット16での潤滑性とセグメント20の強度との両立が可能となる。
【0049】
図6に、第二柱部232に設けた凹部40の深さsと、第二柱部232の凹部のない部分の半径方向の肉厚Sとの比P(P=s/S)を変えながら潤滑性とセグメント20の強度について評価した結果を示す。×→△→〇→◎の順で特性が良好であることを表す。×は必要な特性値に満たないことを意味し、△は必要な特性値を超えていることを意味する(図7でも同じ)。
【0050】
図6から、10%≦P≦30%の範囲が潤滑性および強度を両立できることが理解できる。従って、第二柱部232の凹部40の深さsと第二柱部232の凹部のない部分の半径方向肉厚Sとの比P(=s/S)は、10%≦P≦30%の範囲が好ましい。
【0051】
図7に、大径側弧状部22の内径面22aおよび外径面22bに設けた凹部42の深さt1、t2図3参照)を変えて潤滑性とセグメント20の強度について評価した結果を示す。図中の“Q”は、凹部42の深さの合算値(t1+t2)と、大径側弧状部22の凹部42のない部分(第一領域)の半径方向の肉厚Tとの比を表す[Q=(t1+t2)/T]。
【0052】
図7から、10%≦Q≦30%の範囲が潤滑性および強度を両立できることが理解できる。従って、大径側弧状部22の凹部42の深さ(t1+t2)と凹部のない部分(第一領域)の半径方向肉厚Tとの比Q(=(t1+t2)/T)は、10%≦Q≦30%の範囲が好ましい。内径面に設けた凹部の深さt1、および外径面に設けた凹部の深さt2の個々については、上記数値範囲の半分である5%以上、15%以下の範囲が好ましい(5%≦t1/T≦15%、5%≦t2/T≦15%)。また、小径側弧状部21に薄肉部41を設ける場合は、小径側弧状部21の凹部42の深さ(t1+t2)と凹部のない部分(第三領域)の半径方向肉厚Tとの比Q(=(t1+t2)/T)は、10%≦Q≦30%の範囲が好ましい。また、小径側弧状部21の内径面に設けた凹部の深さt1、および外径面に設けた凹部の深さt2の個々については、5%≦t1/T≦15%、5%≦t2/T≦15%の範囲が好ましい。
【0053】
以下、円すいころ軸受の組立手順を図1図8図23に基づいて説明する。なお、以下の説明における円すいころ軸受1においても、既に述べた凹部40、42を形成することにより、ポケットでの潤滑性と保持器強度との両立を図る。
【0054】
この実施形態に係る円すいころ軸受1は、図1に示すように、内輪11と、その外周に同芯状に配置される外輪12と、内輪11及び外輪12の間に配置される複数の円すいころ15と、円すいころ15を一定間隔に保持するポケット16を有する保持器17とを備える。
【0055】
外輪12は、内周に各円すいころ15が転動する軌道面14を有する。
【0056】
内輪11は、外周に各円すいころ15が転動する軌道面13と、この軌道面13を挟む軸方向の両側に円すいころ15の端面が接触する大鍔部19と小鍔部18とを有する。
【0057】
風力発電の主軸等の支持に用いられる大型の円すいころ軸受1の場合、円すいころ15の平均径は40mm以上、軸受の外径は1m以上である。
【0058】
保持器17は、図8に示すように、複数のセグメント20からなるセグメント保持器である。
【0059】
セグメント20は、図8に示すように、所定間隔離して対向させた一対の小径側弧状部21及び大径側弧状部22と、この小径側弧状部21及び大径側弧状部22の間に架設した複数の柱部23とを有し、隣り合う2つの柱部23と小径側弧状部21と大径側弧状部22とによって囲まれる空間を、円すいころ15を収容するポケット16としている。
【0060】
この実施形態では、柱部23を1つのセグメント20に6つ設け、隣り合う柱部23間に円すいころ15を収納する5つのポケット16を設けている。
【0061】
各ポケット16を形成する隣り合う柱部23の対向面の外径側には、図9に示すように、ポケット16に挿入した円すいころ15の外径側への抜け出しを防止する爪部24を設けている。
【0062】
また、セグメント20を環状に並べて形成される保持器17は、外輪案内方式であり、柱部23の軸方向の両端外面に、円弧状の案内突部29を設けている。案内突部29は、両端の柱部23を含む任意の柱部23のみに設けてもよい。
【0063】
セグメント20は、小径側弧状部21と大径側弧状部22の端面部同士が突き合わされた状態で環状に配置される。
【0064】
セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側には、環状に配置した各セグメント20の大径側に配置される連結部材25の係合部27を有する突出部26が軸方向に突出するように設けられている。セグメント20の大径側弧状部22の大径側側面の両端側にある突出部26は、隣接するセグメント20間の突出部26同士の接触を避けるように設けることが好ましい。
【0065】
環状治具31は、図17に示すように、内輪11の小径側の端面に当接するリング部31aと、このリング部31aの軸方向の端部から外径側に向かって突設されたL字形の係合部31bとからなり、リング部31aを内輪11の小径側の端面に当接させた状態で、L字形の係合部31bを前記セグメント20のウィング部28に嵌めるようにしている。
【0066】
各セグメント20の大径側に巻き回される連結部材25は、ターンバックルなどの締結部材30によって結束される。締結部材30がターンバックルで構成される場合、雌ねじ部を有する胴部を有し、このターンバックルの胴部に連結部材25の端部に設けた雄ねじ部をねじ込むことにより、連結部材25の端部相互を連結することができ、胴部の回転により、連結部材25に張力を与えることができ、締め付け方向と逆方向に胴部を回転させることにより、連結部材25の両端の結束を解除することができる。なお、連結部材25の端部相互の連結は、連結部材25の端部に締結部を設けて連結部材25同士を巻き付け、あるいは結束バンドを用いて連結するようにしてもよい。
【0067】
連結部材25としては、可撓性を有する長尺あるいは無端状の部材、例えばワイヤーまたはベルトを使用することができる。連結部材25として、ワイヤーを使用する場合、締結部材30としては、着脱可能なフックあるいはターンバックルを使用することができる。ターンバックルは、着脱可能であり、締め付け力が緩まず、また、締め付け力が調整可能であるため、最も好ましい。連結部材25として、ベルトを使用する場合、締結部材30としては、着脱可能なバックルを使用すると、締め付け力が緩まないので、好ましい。
【0068】
セグメント20は、樹脂製または鋼製である。セグメント20を形成する樹脂としては、炭素繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンまたはガラス繊維を配合したポリエーテルエーテルケトンを使用することができる。
【0069】
セグメント20を使用した円すいころ軸受1の組立ては、次のようにして行う。
【0070】
まず、外輪12に組込む前に、図10及び図11に示すように、内輪11、円すいころ15及び保持器17を一体化した内輪アッシーを組立てる。
【0071】
この内輪アッシーを組立てるには、まず、図12及び図13に示すように、内輪11の大端面を下にした状態で、内輪11の軌道面13に円すいころ15を並べる。
【0072】
内輪11の大端面を下にした状態で、円すいころ15を軌道面13上に配置していくと、円すいころ15が自重により内輪11から脱落する可能性がある。この円すいころ15の内輪11からの脱落を防止するために、内輪11の中心軸から大鍔部19の先端までの距離を、内輪11の中心軸から円すいころ15の重心までの距離よりも大きくしており、大鍔部19の径Jは次式を満足する。
【0073】
(J/2)-H cos I>y1
【0074】
すなわち、図14に示すように、内輪11の大端面を下にして内輪11の軌道面13に円すいころ15を配置した状態で、内輪11の大鍔部19の円すいころ15と接触する側面が内輪11の中心軸に対して直交する直線に対する角度をI、大鍔部19の先端の面取り幅をH、内輪11の中心軸から円すいころ15の重心までの距離をy1、大鍔部19の径をJとしたとき、上記の式を満たせば、円すいころ15の脱落を防止することができる。
なお、図14において、Dは円すいころ15の大端面の径、Gは円すいころ15の小端面の径、Fは円すいころ15の長さ、Eは中心軸から軌道面13の大鍔部19側の端部までの距離を示している。
【0075】
円すいころ15を内輪11の軌道面13上に並べた後、図15に示すように、各セグメント20を順次外径側から被せると、各セグメント20の内径側から円すいころ15がポケット16内に挿入される。
【0076】
この後、図16に示すように、環状に配列されたセグメント20の小径側側面に突出するウィング部28に環状治具31を嵌め、大径側側面に突出する突出部26の係合部27に連結部材25を通し、セグメント20の外径側に巻き回した連結部材25の端部相互を締結部材30によって結束し、締結部材30によって連結部材25を締め付けて、環状に配置した複数のセグメント20を一体化する。
【0077】
締結部材30は、大径側弧状部22の大径側の側面両端側に突出する突出部26の間に位置し、両端側の突出部26の間が締結部材30の収容部になっている。
【0078】
前記連結部材25は、周方向に連続する一本でもよいが、周方向に複数に分割され、分割された各連結部材25の端部相互をそれぞれ締結部材30により連結するようにしてもよい。連結部材25を複数に分割する場合、締結部材30は、円周状に等分に配置することが好ましい。
【0079】
環状に配置されたセグメント20の外周に連結部材25を巻き回し、連結部材25を締結部材30で締め付けると、環状に配置されたセグメント20の小径側が開こうとするので、この開きを抑制するために、連結部材25を締め付ける際には、環状に配置されたセグメント20の小径側のウィング部28に環状治具31を嵌めている。
【0080】
環状治具31は、図17に示すように、環状に配置されたセグメント20の小径側弧状部21のウィング部28に軸方向から被せられ、内輪アッシーを組立てた後に、中心軸に沿って移動させることによって取外せるようになっている(図18)。
【0081】
次に、この内輪アッシーの外輪12への組込みは、図19に示すように、内輪アッシーの小径側を下に向けた反転状態にして行う。
【0082】
この内輪アッシーを外輪12へ組込む際に、内輪アッシーを、小径側を下に向けた反転状態にしても環状に配置されたセグメント20は外周側が連結部材25によって連結されているので、セグメント20がばらけることはない。
【0083】
また、各セグメント20のポケット16内に挿入された円すいころ15も、ポケット16を形成する柱部23の外径側に設けた爪部24によってポケット16から抜け出さない。
【0084】
内輪アッシーを組立てる際に使用した環状治具31は、外輪12へ組込む際には取り除くようにする。
【0085】
環状治具31を取り除いた状態で、内輪アッシーを、小径側を下に向けた反転状態にしても、連結部材25によって連結された各セグメント20は、各セグメント20のポケット16に挿入保持された円すいころ15が、内輪11の軌道面13の軸方向両側に位置する大鍔部19と小鍔部18との間に嵌まり、円すいころ15が内輪11の小鍔部18に引っ掛っているため、各セグメント20の脱落が防止される。
【0086】
この各セグメント20の脱落を防止する内輪11の小鍔部18の高さは、次の条件を満たしている。
【0087】
内輪11の大鍔部19と小鍔部18との間に嵌められた円すいころ15が回転する場合、円すいころ15の大端面が大鍔部19に接していない時は、図21の模式図に示すように、点Aを中心に回転し、円すいころ15の大端面が大鍔部19に接している時は、点Bを中心に回転すると考えられる。
【0088】
円すいころ15の大端面が大鍔部19に接し、点Bを中心に回転する場合、図22の模式図に示すように、内輪11の小鍔部18の径Mが十分に大きければ、円すいころ15の小径側の端面が、小鍔部18の側面の点Cに接触するため、円すいころ15の回転が抑制され、円すいころ15が内輪11の小鍔部18に引っ掛かる。
【0089】
この円すいころ15が引っ掛かる小鍔部18の側面の点Cは、図22に示すように、円すいころ15が回転した時の円すいころ15の小端面角部の軌跡を描いたスプライン曲線と小鍔部18の側面との交点であり、このとき、内輪11の小鍔部18の径Mは、次の条件を満たしている。
【0090】
(M/2)-K cos L>y3
【0091】
ここで、内輪11の小鍔部18の径をM、内輪11の小鍔部18の点C側の側面が内輪11の中心軸に対して直交する直線に対する角度をL、小鍔部18の先端の面取り幅をK、円すいころ15を内輪11の大鍔部19の先端のB点を中心にして回転させた際に、小鍔部18の側面と円すいころ15の小径側の端面とが接触する接触点Cから中心軸までの距離をy3としている。
【0092】
以上のように、内輪アッシーの小径側が下に向くように反転させて外輪12に組込むことにより、図21に示すように、円すいころ軸受1を組立てることができる。
【0093】
図20に示すように、円すいころ軸受1の組立てが完了すると、各セグメント20の外周を締め付けている連結部材25を、締結部材30を緩めて取外しても各セグメント20がばらけることがないので、円すいころ軸受1を装置に組込んだ後に、連結部材25は取外しておくことができる。
【0094】
以上の実施形態は、小径側弧状部21の小径側側面に、小径側に突き出すウィング部28を設け、環状に配置した各セグメント20の大径側を連結部材25で結束する際に、環状に配置した各セグメント20の小径側の前記ウィング部に環状治具31を嵌めるようにしているが、図23に示す実施形態のように、小径側弧状部21の小径側側面に、小径側係合部32を設け、この小径側係合部32に、環状に配置した各セグメントの小径側に巻き回される連結部材33を通し、この連結部材25の端部相互を締結部材(図示省略)により着脱可能に結束するようにして、環状治具31を使用しないようにしてもよい。
【0095】
以上に述べた円すいころ軸受の組立手順では、内輪、円すいころ及び保持器を一体化した内輪アッシーの状態で外輪に組込む際に、内輪アッシーを反転させても、環状に配置した各セグメントの大径側が連結部材によって連結されているため、各セグメントがばらけることがない。
【0096】
また、セグメントのポケットを形成する柱部の外径側に爪部を設け、円すいころをポケットの内径側から挿入しているため、内輪アッシーを反転させても、円すいころがポケットから脱落しない。
【0097】
環状に配置した各セグメントの大径側を連結部材によって連結する際に、環状に配置した各セグメントの小径側のウィング部に環状治具を嵌めることによって、各セグメントの小径側の開きを抑制することができる。
【0098】
環状に配置した各セグメントの大径側の連結部材の端部相互は、締結部または締結部材により連結されているので、内輪アッシーを外輪に組込んだ後に、締結部または締結部材を外すことにより、連結部材を取り外すことができるので、運転中に連結部材が外れて故障するということを防止できる。
【0099】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【0100】
例えば、以上の実施形態の説明では、円すいころ軸受を例に挙げたが、円筒ころ軸受等のころ軸受に広く本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 円すいころ軸受
11 内輪
12 外輪
13 軌道面
14 軌道面
15 円すいころ
16 ポケット
17 保持器
20 セグメント
21 第一弧状部(小径側弧状部)
22 第二弧状部(大径側弧状部)
23 柱部
231 第一柱部
232 第二柱部
24 爪部
40 凹部
41 薄肉部
42 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
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