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  • 特開-遮音壁点検システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000745
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】遮音壁点検システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/04 20060101AFI20231226BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20231226BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N29/04
G01M7/02 C
G01N29/12
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099618
(22)【出願日】2022-06-21
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-12-20
(71)【出願人】
【識別番号】593153428
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング東京株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】長船 寿一
(72)【発明者】
【氏名】安田 英明
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047AB04
2G047BA04
2G047BC04
2G047CA03
2G047GG28
2G047GG32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高所作業車の使用とそのための車線規制を不要とし、かつ遮音壁の状態の定量的な判定を可能とする。
【解決手段】所定の間隔を空けて設置した支柱と、前記支柱の間に嵌め込み配置された遮音パネルとで構成される遮音壁において、前記支柱の路面から所定の高さ範囲の部位に前記支柱に対し着脱可能な加振手段と測定手段を備える。そして、前記加振手段により前記支柱に加振力を与え、前記支柱への加振の応答振動に関する情報を前記測定手段により取得し、前記応答振動に関する情報から算出される、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅に基づき、前記遮音壁の状態を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔を空けて設置した支柱と、前記支柱の間に嵌め込み配置された遮音パネルとで構成される遮音壁において、前記支柱の路面から所定の高さ範囲の部位に前記支柱に対し着脱可能な加振手段と測定手段を備え、
前記加振手段により前記支柱に加振力を与え、前記支柱への加振の応答振動に関する情報を前記測定手段により取得し、
前記応答振動に関する情報から算出される、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅に基づき、前記遮音壁の状態を判定することを特徴とする遮音壁点検システム。
【請求項2】
前記加振手段は、前記支柱に衝突して加振力を与える頭部と、所定の長さを有し前記頭部が一方の端部に固定される支持部と、前記支持部の前記頭部が固定されていない端部が支軸を介して取り付けられる基部と、で構成され、前記支持部が前記支軸を中心とする扇形を描き動くことにより、前記頭部が前記支柱の表面から所定の距離に配置される加振準備状態から、前記頭部が前記支柱の表面に衝突する加振状態へ移る請求項1に記載の遮音壁点検システム。
【請求項3】
前記頭部の前記支柱に衝突する面に緩衝材が配置されている請求項2に記載の遮音壁点検システム。
【請求項4】
前記基部に前記測定手段が配置されている請求項2または3に記載の遮音壁点検システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路に沿って設けられた遮音壁の状態を点検するための点検システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
周囲に人の利用する施設が存在する道路の多くには、車両の走行により生じる騒音が道路周辺へ伝搬することを防止するために、その道路に沿って遮音壁が設けられている。また、遮音壁には、所定の間隔を空けて設置した支柱の間に、吸音機能または透光性能を備えた遮音パネルを嵌め込み配置する構造が広く採用されている。
【0003】
ところが、遮音壁を構成する支柱の支持力は、支柱の基端部を支持する基台の損傷、支柱の基端部を基台に固定するアンカボルトの損傷や締め付け力の低下など、支柱の基端部を支持する部位が変状を来すことにより低下する。そして、支柱の支持力が低下した遮音壁の状態は不安定なものとなり、倒壊等の事故の発生する危険性が高まることから、遮音壁の状態についての定期的な点検が行われている。
【0004】
この遮音壁の定期点検は、人手により実施されているが、その点検を機械的に支援する手法の提案もなされている。例えば、国際公開2020/090393公報では、映像を使用し遮音パネルの動きを解析する点検装置及び点検方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2020/090393公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、画像解析に必要な条件を満たす映像を取得することは難しく、現実的には、人手による近接目視点検や遮音壁上端部の揺らし点検(触診)が実施されている。そして、これらの点検には、高所作業車の使用とそのための車線規制が必要となり、しかも遮音壁の状態を定量的に判定することが難しかった。
【0007】
そこで、本発明は、高所作業車の使用とそのための車線規制を不要とし、かつ遮音壁の状態の定量的な判定を可能とする遮音壁点検システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る遮音壁点検システムは、所定の間隔を空けて設置した支柱と、前記支柱の間に嵌め込み配置された遮音パネルとで構成される遮音壁において、前記支柱の路面から所定の高さ範囲の部位に前記支柱に対し着脱可能な加振手段と測定手段を備える。そして、前記加振手段により前記支柱に加振力を与え、前記支柱への加振の応答振動に関する情報を前記測定手段により取得し、前記応答振動に関する情報から算出される、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅に基づき、前記遮音壁の状態を判定する。
【0009】
前記加振手段は、前記支柱に衝突して加振力を与える頭部と、所定の長さを有し前記頭部が一方の端部に固定される支持部と、前記支持部の前記頭部が固定されていない端部が支軸を介して取り付けられる基部と、で構成され、前記支持部が前記支軸を中心とする扇形を描き動くことにより、前記頭部が前記支柱の表面から所定の距離に配置される加振準備状態から、前記頭部が前記支柱の表面に衝突する加振状態に遷移するものであってもよい。
【0010】
前記頭部の前記支柱に衝突する面に緩衝材が配置されてもよい。
【0011】
前記基部に前記測定手段が配置されてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る遮音壁点検システムは、所定の間隔を空けて設置した支柱と、支柱の間に嵌め込み配置された遮音パネルとで構成される遮音壁において、支柱の路面から所定の高さ範囲の部位に加振手段と測定手段を取り付けることにより、遮音壁の状態の判定に必要な情報を得ることができる。そして、加振手段と測定手段を取り付ける、支柱の路面から所定の高さ範囲を、人の身長程度とすることにより、高所作業車を使用することなくそれらの取り付け作業を行うことができる。従って、高所作業車の使用とそのための車線規制が不要となる。
【0013】
しかも、本発明に係る遮音壁点検システムでは、測定手段により取得した、支柱への加振の応答振動に関する情報から算出される、支柱の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、支柱の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅に基づき、遮音壁の状態を判定するため、定量的な判定が可能となる。
【0014】
また、加振手段を、支柱に衝突して加振力を与える頭部と、所定の長さを有し頭部が一方の端部に固定される支持部と、支持部の頭部が固定されていない端部が支軸を介して取り付けられる基部と、で構成し、頭部が支柱の表面から所定の距離に配置される加振準備状態から、頭部が支柱の表面に衝突する加振状態に遷移させることにより、誰でも、支柱に対し同じ強さの加振力を与えることが可能となる。従って、判定の精度を向上させることができる。
【0015】
更に、加振手段の頭部の支柱に衝突する面に緩衝材を配置することにより、高周波の発生を防ぎ、判定に必要な周波数を測定する精度を高めることができる。従って、判定の精度を更に向上させることができる。
【0016】
更にまた、加振手段の基部に測定手段を配置することにより、加振手段と測定手段の取扱いが容易となり、測定に要する時間を短縮でき、また、持ち運びが容易となり、測定可能となる対象が広がることになる。従って、測定個数を増やし、判定の精度を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に係る遮音壁点検システムにおいて遮音壁の状態の判定に用いられる第一の周波数の振幅と第二の周波数の振幅の一例を示し、(a)は支柱の支持力が正常な場合に得られる周波数特性と支柱の支持力が低下した場合に得られる周波数特性を重ねて示す図、(b)は支柱の支持力が正常な場合に得られる周波数特性を示す図である。
図2図1に示す支柱の支持力が低下した場合に得られる周波数特性を支持力の低下度合い毎に支持力が正常な場合に得られる周波数特性と重ねて示し、(a)は4個のアンカボルトのうち1個を緩めた場合を示す図、(b)は4個のアンカボルトのうち2個を緩めた場合を示す図、(c)は4個のアンカボルトのうち3個を緩めた場合を示す図である。
図3】本発明に係る遮音壁点検システムの加振手段の実施形態を示し、(a)は加振準備状態を示す側面図、(b)は加振状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図を参照しながら、本発明に係る遮音壁点検システムの実施形態を説明する。
この実施形態では、支柱に打撃を与えることにより加振する加振手段と、加振の応答振動を測定するための測定手段が一体化された測定器1が使用されている。
【0019】
測定器1は、点検対象となる支柱10に取り付けられる基部2を有している。基部2の、支柱10の表面へ接触する面には磁石が設置され、基部2は、鋼製の支柱10に対し離脱可能な状態で固着するものとなっている。すなわち、測定器1は、支柱10に対し着脱可能となっている。
【0020】
基部2は、また、支柱10への加振の応答振動を測定するための振動測定装置を内包している。振動測定装置は本発明の測定手段に相当するものである。加振の応答振動に関する情報を取得し記憶できるものであればよく、公知の測定装置を使用することができる。ただし、測定器1の取扱い易さを考慮した場合、基部2の寸法が過度に大きくなるものは好ましくない。
【0021】
基部2の、支柱10の表面へ接触する面と反対側の部位には、支柱10に衝突して加振力を与える頭部3を支持する支持部4が取り付けられている。支持部4は、所定の長さを有し、一方の端部には頭部3が固定され、頭部3の固定されていない端部が支軸5を介し基部2に取り付けられ、支軸5を中心とする扇形を描き動くものとなっている。
【0022】
頭部3の支柱10に衝突する面には、緩衝材6が配置されている。緩衝材6は、振動測定装置の測定周波数領域から外れる高周波の発生を防ぐことができるものであればよい。例えば、公知のゴム材やウレタン材を使用してもよい。
【0023】
この測定器1を使用した測定作業では、まず、測定を行う者が支持部4を支柱10に対し起立させて保持し、頭部3が支柱10の表面から所定の距離に配置される加振準備状態(図3(a)に示す状態)とする。この際、支持部4の支柱10に対する起立角度Rを予め設定された通りとすることより、加振力を、測定を行う者によらず同じ強さとすることができる。また、起立角度Rを90°に設定することで、測定現場において起立角度Rを計測することなく目視による設定が可能となる。
【0024】
続いて、測定を行う者が支持部4の保持を止め、支持部4が支軸5を中心とする扇形を描き動くことを許容し、頭部3が支柱10の表面に衝突する加振状態とする。そして、頭部3が支柱10の表面に衝突した瞬間の、支柱10への加振の応答振動に関する情報を、振動測定装置により取得する。
【0025】
取得した情報は、振動測定装置から出力させ、別に用意された演算処理装置により解析する。そして、支柱10の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、支柱10の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅を算出する。このとき算出される第一の周波数の振幅と第二の周波数の振幅の一例を図1に示す。
【0026】
図1において、横軸上で数値の大きい周波数F1が第一の周波数、小さい周波数F2が第二の周波数である。図1(b)に示すように、支柱10の支持力が正常な場合には、第一の周波数F1の振幅が、第二の周波数F2の振幅よりも大きくなっている。
【0027】
一方、図1(a)に示すように、支柱10の支持力の低下に伴い、第一の周波数F1の振幅は縮小し、第二の周波数F2の振幅は伸長する。従って、支柱10の支持力が正常なときに、例えば、設置直後や補修直後に、第一の周波数F1及び第二の周波数F2の夫々の振幅を取得しておき、それらを基準値とし、後の点検作業時に得られる第一の周波数F1及び第二の周波数F2の夫々の振幅を基準値と比較することにより、支持力低下の有無を判定することができる。すなわち、遮音壁の状態を定量的に判断することができる。
【実施例0028】
高さ3mの支柱を、コンクリートの基台(高さ1m)の上に2mの間隔で4本設置し、支柱の間隔に、高さが50cm、幅が196cm、厚みが9.5cmの吸音性能を備える遮音パネルを6枚積み重ねて試験用に構築した遮音壁について、以下に示す条件で模擬的な点検を実施した。
【0029】
<模擬変状の形成>
支柱の基端部をなすベースプレートを基台に押し付けるナットを緩め、模擬的に、支持力の低下した状態(模擬変状)とした。なお、点検対象とした遮音壁では、支柱のベースプレートを基台に押し付けるために、4個のナットが使用されていることから、緩めるナットの数を変えて支持力の低下の度合いが異なる3つの形態の変状を形成した。なお、図1及び図2において、何れのナットも緩められていない場合、すなわち、支持力が正常な形態が「00」、1個のナットが緩められた形態が「01」、2個のナットが緩められた形態が「02」、3個のナットが緩められた形態が「03」で示されている。
【0030】
<応答振動測定位置>
図3に示す測定器1を、基台側から数えて2段目に配置される遮音パネルの高さ方向の略中央の高さ位置(基台から約75cmの位置)が加振点(頭部3の衝突点)となる位置(基台側から数えて2段目に配置される遮音パネルの上端の高さ位置)に取り付けた。また、支柱の、基台側から数えて1段目に配置される遮音パネルの上端の高さ位置、及び、基台に可能な限り近い高さ位置に、振動測定装置を取り付けた。なお、測定対象は、両側に遮音パネルの配置されている2本の支柱とした。
【0031】
測定の結果、周波数256Hzの振幅が支柱の支持力の低下に伴い小さくなり、周波数52Hzの振幅が支柱の支持力の低下に伴い大きくなることが確認された。また、加振手段と測定手段を、支柱の、地表面(実用される遮音壁では路面)から人の身長程度の高さ範囲に取り付けても、有効な結果を得られることが確認された。
【符号の説明】
【0032】
1 測定器
2 基部
3 頭部
4 支持部
5 支軸
6 緩衝材
10 支柱
F1 第一の周波数
F2 第二の周波数
R 起立角度
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2022-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
所定の間隔を空けて設置した支柱と、前記支柱の間に嵌め込み配置された遮音パネルとで構成される遮音壁において、前記支柱の路面から所定の高さ範囲の部位に前記支柱に対し着脱可能な加振手段と測定手段を備え、
前記加振手段により前記支柱に加振力を与え、前記支柱への加振の応答振動に関する情報を前記測定手段により取得し、
前記応答振動に関する情報から算出される、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が小さくなる第一の周波数の振幅と、前記支柱の支持力の低下に伴い振幅が大きくなる第二の周波数の振幅に基づき、前記支柱の支持力低下の有無を判定することを特徴とする遮音壁点検システム。