(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074503
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/12 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
H02M7/12 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185708
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】中原 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 尊衛
(72)【発明者】
【氏名】武田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】相田 真
(72)【発明者】
【氏名】上井 雄介
【テーマコード(参考)】
5H006
【Fターム(参考)】
5H006BB05
5H006CA02
5H006CA07
5H006CB01
5H006CB04
5H006CB08
5H006CC02
5H006CC08
5H006DA04
5H006DB01
(57)【要約】
【課題】共振形倍電圧整流回路の共振インダクタのエネルギー蓄積期間を設け、直流電圧を2倍以上に昇圧可能な電力変換装置を提供する。
【解決手段】電力変換装置100の共振形倍電圧整流回路1は三相交流電源101と接続されたブリッジ103と、ブリッジ103の上アームカソード側のインダクタL1、ブリッジ103の下アームアノード側のインダクタL2、インダクタL1、L2の間に接続され、直列接続されたスイッチS1、S2、インダクタL1とスイッチS1の間にアノードが接続されたダイオードDc1、インダクタL2とスイッチS2の間にカソードが接続されたダイオードDc2、ダイオードDc1及びスイッチS1に並列接続されたコンデンサC1、ダイオードDc2及びスイッチS2に並列に接続されコンデンサC1と直列接続されたコンデンサC2、スイッチS1とS2の間に一方端がコンデンサC1とC2の間に他方端が接続されたインダクタL3を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相交流電源の交流電圧を倍電圧整流する共振形倍電圧整流回路を有する電力変換装置であって、
前記共振形倍電圧整流回路は、
前記三相交流電源と接続された補助三相ダイオードブリッジと、
前記補助三相ダイオードブリッジの上アームカソード側に接続された第1インダクタと、
前記補助三相ダイオードブリッジの下アームアノード側に接続された第2インダクタと、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間に接続され、互いに直列接続された第1スイッチおよび第2スイッチと、
前記第1インダクタと前記第1スイッチとの間にアノードが接続された第1ダイオードと、
前記第2インダクタと前記第2スイッチとの間にカソードが接続された第2ダイオードと、
前記第1ダイオードおよび前記第1スイッチに並列に接続される第1コンデンサと、
前記第2ダイオードおよび前記第2スイッチに並列に接続され、前記第1コンデンサと直列に接続される第2コンデンサと、
前記第1スイッチと前記第2スイッチとの間に一方端が接続され、前記第1コンデンサと前記第2コンデンサとの間に他方端が接続された第3インダクタと、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1インダクタと前記第2インダクタとが互いに磁気結合し、前記第1インダクタと前記第3インダクタとが互いに磁気結合し、前記第2インダクタと前記第3インダクタとが互いに磁気結合していることを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記第1インダクタの巻線と、前記第2インダクタの巻線と、前記第3インダクタL3の巻線は、同一の鉄心に巻かれていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力変換装置において、
前記第1インダクタのコイルの巻き始めが前記補助三相ダイオードブリッジ側に設定され、前記第2インダクタのコイルの巻き始めが前記補助三相ダイオードブリッジ側に設定され、前記第3インダクタのコイルの巻き始めが前記第1スイッチおよび前記第2スイッチ側に設定されていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電力変換装置において、
前記第1インダクタと前記第3インダクタの磁気結合強度および前記第2インダクタと前記第3インダクタの磁気結合強度が、前記第1インダクタと前記第2インダクタの磁気結合強度よりも大きいことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記第1スイッチと前記第2スイッチが双方ともオン状態になる期間の長さを制御する制御回路を備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、計算したスイッチング周波数と予め決定した下限スイッチング周波数との差分に基づいて、前記第1スイッチと前記第2スイッチが双方ともオン状態になる期間の長さを計算することを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記第1スイッチまたは前記第2スイッチを、それぞれが接続される前記第1インダクタまたは前記第2インダクタに流れる電流が予め定めた設定電流値以下になってからターンオンすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項9】
請求項6に記載の電力変換装置において、
前記制御回路は、前記第1スイッチまたは前記第2スイッチを、それぞれの両端電圧が予め設定した閾値以下になってからターンオンすることを特徴とする電力変換装置。
【請求項10】
請求項1に記載の電力変換装置において、
前記補助三相ダイオードブリッジの前記上アームカソード側と、前記補助三相ダイオードブリッジの前記下アームアノード側とに接続された補助コンデンサを備えることを特徴とする電力変換装置。
【請求項11】
請求項1~10のうちのいずれか一項に記載の電力変換装置において、
前記三相交流電源と接続され、かつ前記補助三相ダイオードブリッジと並列に接続された主三相ダイオードブリッジと、
前記第1ダイオードのカソードと前記第2ダイオードのアノードとの間に接続されたDCリンクコンデンサと、
を備えることを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力を三相交流電力へ変換するインバータ装置は、モータの可変速制御を目的として広く使用されている。これらのインバータ装置では、商用電源(三相200V等)を整流回路によって直流電力に変換し、後段のインバータで任意の電圧や周波数をもつ交流電力を出力することが一般的である。
【0003】
インバータ装置が備えるダイオード整流回路では、三相交流を全波整流することが多く、直流電圧はダイオード整流回路に入力される各線間電圧のおよそ√2倍となる。
【0004】
一般的に、インバータの出力電圧は直流電圧によって、その上限が決まり、それ以上の電圧を出力することはできなかった。このため、例えば、負荷のモータを高速回転させるために必要な電圧をインバータが出力できないことがあった。一般的なモータでは、回転数が上昇すると誘起電圧が高くなるため、モータが要求する電流を流すためにはインバータがより高い電圧を出力する必要がある。
【0005】
この課題に対して、従来技術においては、三相倍電圧整流回路による直流電圧の昇圧が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、特許文献1で課題となっていた三相倍電圧整流回路の部品点数削減および受動部品の小型化を実現する方式として、共振形倍電圧整流回路が提案されている(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された方法では、直流電圧が最大で全波整流電圧の2倍が上限になっており、それ以上の電圧を出力することはできない。モータの仕様によっては、2倍以上の直流電圧が要求されることも有り得るため、さらなる昇圧が可能な手法が必要であった。
【0008】
これに対し、三相倍電圧整流回路が備える複数のスイッチング素子(以下、スイッチと呼称する)のオン状態をオーバーラップさせ、三相系統から三相倍電圧整流回路が備えるインダクタにエネルギーを蓄積する期間を設けることで直流電圧を2倍以上に昇圧する手法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-184397号公報
【特許文献2】特開2022-119139号公報
【特許文献3】WO2015/186229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3に記載されている手法は、いわゆる昇圧チョッパと同様の動作を実現するものであるが、この手法を特許文献2の共振形倍電圧整流回路に適用するため、共振形倍電圧整流回路が備えるスイッチ2個を両方ともオン状態にしても、三相電源からインダクタに直接電流を流す経路ができないため、インダクタにエネルギーを蓄積する期間を設けることができない。このため、共振形倍電圧整流回路では、直流電圧を2倍以上に昇圧することができなかった。
【0011】
本発明の目的は、共振形倍電圧整流回路の共振インダクタにエネルギーを蓄積する期間を設けることができ、直流電圧を2倍以上に昇圧することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、次のように構成される。
【0013】
本発明における電力変換装置は、三相交流電源の交流電圧を倍電圧整流する共振形倍電圧整流回路を有する電力変換装置であって、前記共振形倍電圧整流回路は、前記三相交流電源と接続された補助三相ダイオードブリッジと、前記補助三相ダイオードブリッジの上アームカソード側に接続された第1インダクタと、前記補助三相ダイオードブリッジの下アームアノード側に接続された第2インダクタと、前記第1インダクタと前記第2インダクタとの間に接続され、互いに直列接続された第1スイッチおよび第2スイッチと、前記第1インダクタと前記第1スイッチとの間にアノードが接続された第1ダイオードと、前記第2インダクタと前記第2スイッチとの間にカソードが接続された第2ダイオードと、前記第1ダイオードおよび前記第1スイッチに並列に接続される第1コンデンサと、前記第2ダイオードおよび前記第2スイッチに並列に接続され、前記第1コンデンサと直列に接続される第2コンデンサと、前記第1スイッチと前記第2スイッチとの間に一方端が接続され、前記第1コンデンサと前記第2コンデンサとの間に他方端が接続された第3インダクタと、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、共振形倍電圧整流回路の共振インダクタにエネルギーを蓄積する期間を設けることができ、直流電圧を2倍以上に昇圧することが可能な電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1における電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図2】本発明の実施例1における制御ブロックの一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1における制御のフローチャートの一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施例1における制御の概念の一例を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2における電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例2における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施例3における電力変換装置の回路構成の一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施例4における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【実施例0017】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1による電力変換装置100の回路構成の一例である。
【0018】
図1において、電力変換装置100は、三相交流電源の交流電圧を倍電圧整流する共振形倍電圧整流回路1を備えている。共振形倍電圧整流回路1は、三相系統(三相交流電源)101を受電し、主三相ダイオードブリッジ102と、三相系統101に対して主三相ダイオードブリッジ102と並列に接続される補助三相ダイオードブリッジ103と、補助三相ダイオードブリッジ103のカソード側出力に一方が接続される第1インダクタL1と、第1インダクタL1のもう一方にアノードが接続され、カソードが直流部Pに接続される第1ダイオードDc1と、を備える。
【0019】
さらに、電力変換装置100の共振形倍電圧整流回路1は、第1ダイオードDc1のアノードと並列にドレインが接続された第1スイッチS1と、第1スイッチS1のソースにドレインが接続された第2スイッチS2と、第2スイッチS2のソースにカソードが接続され、アノードが直流部Nに接続される第2ダイオードDc2と、第2ダイオードDc2のカソードと並列に一方が接続され、もう一方が補助三相ダイオードブリッジ103のアノード側出力に接続された第2インダクタL2と、第1スイッチS1のソースおよび第2スイッチS2のドレインと一方が接続された第3インダクタL3と、を備える。
【0020】
さらに、共振形倍電圧整流回路1は、第3インダクタL3のもう一方と直流部Pとの間に接続された第1コンデンサC1と、第1コンデンサC1と直流部Nとの間に接続された第2コンデンサC2と、直流部Pと直流部Nの間に接続された平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)Cdcと、直流部Pと直流部Nの間の直流電圧を検出する電圧センサ104と、ハーフブリッジ106を構成する第1スイッチS1と第2スイッチS2のスイッチングを制御する制御回路105と、を備える。
【0021】
電力変換装置100の共振形倍電圧整流回路1は、三相系統101から三相交流電力を受電し、ハーフブリッジ106が備える第1スイッチS1と第2スイッチS2とをスイッチングすることで第1コンデンサC1と第2コンデンサC2とを交互に充電し、合計の電圧である直流電圧を昇圧する。
【0022】
共振形倍電圧整流回路1では、第1コンデンサC1と第2コンデンサC2とは、第1インダクタL1、第2インダクタL2および第3インダクタL3と直列共振を起こすための共振用コンデンサとしての役割を担っており、ここでは電圧平滑を行わず、平滑コンデンサCdcにおいて直流電圧の平滑を行う。平滑コンデンサCdcの後段には、不図示のインバータ等の任意の電力変換器または負荷が接続され、電力が送られる。
【0023】
次に、実施例1における電力変換装置100の詳細な動作について説明する。まず、昇圧比が2倍以下の領域においては、公知の制御手法で直流電圧を制御する。
【0024】
つまり、第1スイッチS1と第2スイッチS2とのスイッチング周波数を操作して出力を制御することで、直流電圧が外部から制御回路105に入力された直流電圧指令値と一致するように制御する。第1スイッチS1と第2スイッチは相補にスイッチングし、デッドタイムを無視するとオン状態とオフ状態の時間が等しくなるduty比(オン時間/スイッチング周期)0.5となる。この制御手法では、スイッチング周波数が第1インダクタL1、第2インダクタL2、第3インダクタL3と、第1コンデンサC1、第2コンデンサC2とで決まる共振周波数にほぼ等しくなる点で昇圧比が約2倍となる。
【0025】
昇圧比を2倍以上にする場合、スイッチング周波数を共振周波数近傍に固定し、第1スイッチS1および第2スイッチS2のオン状態がオーバーラップするようにduty比を0.5から増加させる。
【0026】
このように、制御回路105は、直流電圧指令値が2倍電圧よりも大きい場合は第1スイッチS1と第2スイッチS2が双方ともオン状態になる期間の長さを制御し、直流電圧指令値が2倍電圧以下の場合は第1スイッチS1と第2スイッチS2のスイッチング周波数を制御する。つまり、制御回路105は、計算したスイッチング周波数Fsw‘と予め決定した下限スイッチング周波数Fswminとの差分に基づいて、第1スイッチS1と第2スイッチS2が双方ともオン状態になる期間の長さを計算し、第1スイッチS1と第2スイッチS2制御する。
【0027】
第1スイッチS1と第2スイッチS2が両方ともオン状態の期間では、第1インダクタL1と第2インダクタL2が直列に接続され、三相系統101から第1インダクタL1と第2インダクタL2へエネルギーが蓄積される。具体的には三相系統101から第1インダクタL1と第2インダクタL2に電流が流れる。
【0028】
次に、第1スイッチS1もしくは第2スイッチS2のいずれかをターンオフすることにより、第1インダクタL1と第2インダクタL2に蓄積されたエネルギーが直流部の平滑コンデンサCdcへ送られる。
【0029】
次に、例えば第2スイッチS2をターンオフした場合を考えると、第1スイッチS1がオン状態を維持しているため、通常の共振形倍電圧整流回路の動作が開始し、第1インダクタL1と第3インダクタL3が直列に接続され、第1コンデンサC1および第2コンデンサC2と直列共振を起こす。
【0030】
以上のように、インダクタを分散配置させることで、通常の倍電圧動作と昇圧比2倍以上(以下、高昇圧比)の動作を両立できる。
【0031】
図2は、実施例1における制御ブロック図の一例を示したものである。なお、ここではスイッチング周波数は共振周波数以上の領域で操作されることとする。
【0032】
図2において、外部から制御回路105に入力された直流電圧指令値Vdc
*から電圧センサ104で検出した直流電圧Vdcを減算器200にて、引くことで電圧偏差Verrを計算する。電圧偏差VerrはPI制御器201に入力され、PI制御器201はスイッチング周波数計算値Fsw′を出力する。スイッチング周波数計算値Fsw′はduty比演算器202に入力される。
【0033】
duty比演算器202は、入力されたスイッチング周波数計算値Fsw′が不図示の下限スイッチング周波数Fswmin未満の場合には、スイッチング周波数計算値Fsw′と下限スイッチング周波数Fswminの差分に基づいてduty比加算分ΔDを計算し、duty比D=0.5+ΔDを出力する。スイッチング周波数計算値Fsw′が下限スイッチング周波数Fswmin以上の場合は、duty比D=0.5を出力する。
【0034】
また、スイッチング周波数計算値Fsw′はスイッチング周波数リミッタ203に入力される。スイッチング周波数リミッタ203ではスイッチング周波数計算値Fsw′が下限スイッチングFswmin未満の場合はスイッチング周波数出力Fsw=Fswminに制限して主回路204(電力変換装置100の主回路(補助三相ダイオードブリッジ103、ハーフブリッジ106等を形成する回路))へ出力する。
【0035】
制御回路105は、減算器200と、PI制御器201と、duty比演算器202と、スイッチング周波数リミッタ203と、を備えている。
【0036】
なお、下限スイッチング周波数Fswminは共振周波数とほぼ等しく設定されるのが望ましい。
【0037】
以上のような制御ブロックにすることで、高昇圧比、すなわちスイッチング周波数Fsw′が下限スイッチング周波数Fswmin未満となる時にのみduty比Dを操作する動作を実現できる。
【0038】
なお、
図2に示した例では電圧制御のみを行う構成であるが、本発明ではこれに限定せず、例えばマイナーループに電流制御器を備える構成であっても良い。
【0039】
図3は、実施例1における制御のフローチャートの一例を示す図である。
【0040】
図3において、本発明の実施例1による制御の一連のフローを開始する(ステップ301)。
【0041】
まず、スイッチング周波数計算値Fsw′が下限スイッチング周波数Fswmin未満か否かを判定する(ステップ302)。
【0042】
ステップ302でYESの場合、高昇圧比制御を行う。すなわち、スイッチング周波数出力Fsw=Fswminに固定し、duty比加算分ΔDを操作することで直流電圧Vdcを制御する(ステップ303)。
【0043】
ステップ302でNOの場合、通常制御を行う。すなわち、duty比=0.5に固定し、スイッチング周波数出力Fswを操作することで直流電圧Vdcを制御する(ステップ304)。
【0044】
ステップ303またはステップ304の処理を行い、一連のフローを終了する(ステップ305)。
【0045】
以上のフローにより、通常制御である周波数制御と高昇圧比制御であるPWM制御とをシームレスに切り替えることができる。
【0046】
図4は、実施例1における制御概念の一例を示す図である。
【0047】
図4では、縦軸にduty比D、横軸に昇圧比をとっている。昇圧比2以下ではduty比Dは0.5で固定されるが、昇圧比2以上ではduty比Dが昇圧比に応じて増加していく関係となる。なお、
図4では昇圧比2以上の領域では昇圧比とduty比Dが比例関係であるが、本発明ではこれに限定せず、二次関数等の非線形な関係であっても良い。
【0048】
図5は、実施例1における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【0049】
図5では、1スイッチング周期における波形を示している。Vg-S1は第1スイッチS1のゲート信号、Vg-S2は第2スイッチS2のゲート信号、IL1(実線)は第1インダクタL1の電流、IL2(破線)は第2インダクタL2の電流、Id-S2(実線)は第2スイッチS2のドレイン電流を示す。各電流の向きは
図1に記載した方向とする。
【0050】
時刻T1で第1スイッチS1がターンオンし、第1スイッチS1と第2スイッチS2が両方ともオン状態となる。この時、第1インダクタL1と第2インダクタL2には三相系統101の三相交流電圧を全波整流した電圧が印加されるため、電流IL1と電流IL2の両方が増加し、各インダクタにエネルギーが蓄積される。
【0051】
時刻T2で第2スイッチS2がターンオフすると、各インダクタL1、L2に蓄積されたエネルギーが直流部に放出され始めることで、第1インダクタL1の電流IL1と第2インダクタL2の電流IL2が両方とも減少する。なお、第2インダクタL2の電流IL2は第2スイッチS2がターンオフするため、第2ダイオードDc2に転流する。ここで、オン状態を維持している第1スイッチS1に接続される第1インダクタL1と第3インダクタL3とが直列に接続され、第1コンデンサC1および第2コンデンサC2と直列共振を起こす。厳密には第1インダクタL1の電流IL1が第3インダクタL3の電流と等しくなると共振動作に移行する。
【0052】
時刻T2とT3の間では、上述の共振動作により、電流IL1は正弦波状になる一方で、第2インダクタL2は直流部へのエネルギー放出を継続するため、電流IL2は徐々に減少していく。この減少の度合いは昇圧比に依存する。
【0053】
時刻T3で再び第2スイッチS2がターンオンし、再び第1インダクタL1と第2インダクタL2にエネルギーを蓄積する期間となる。時刻T4で第1スイッチS1がターンオフし、時刻T2とT3の間と同じ動作が電流IL1と電流IL2が入れ替わる形で行われる。
【0054】
以上の回路動作から、共振形倍電圧整流回路1としての動作と高昇圧比動作とが共存していることが分かる。
【0055】
本発明の実施例1による電力変換装置100は、共振形倍電圧整流回路1を備える。そして、共振形倍電圧整流回路1は、三相交流系統(三相交流電源)101と接続される補助三相ダイオードブリッジ103と、補助三相ダイオードブリッジ103の上アームカソード側に接続している第1インダクタL1と、補助三相ダイオードブリッジ103の下アームアノード側に接続している第2インダクタL2と、第1インダクタL1と第2インダクタL2との間に接続している第1スイッチS1および第2スイッチS2と、第1インダクタL1と第1スイッチS1との間にアノードが接続している第1ダイオードDc1と、第2インダクタL2と第2スイッチS2との間にカソードが接続している第2ダイオードDc2と、第1ダイオードDc1のカソードと第2ダイオードDc2のアノードとの間に接続しているDCリンクコンデンサCdcと、DCリンクコンデンサCdcと並列に接続している第1コンデンサC1および第2コンデンサC2と、第1スイッチS1と第2スイッチS2との間に位置し、第1コンデンサC1と第2コンデンサC2のそれぞれ一方の端子と接続している第3インダクタL3と、を備える。
【0056】
よって、本発明の実施例1は、共振形倍電圧整流回路1の共振インダクタにエネルギーを蓄積する期間を設けることができ、直流電圧を2倍以上に昇圧することが可能な電力変換装置100を提供することができる。
【0057】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0058】
本発明における実施例2は、実施例1における第1インダクタL1と、第2インダクタL2と、第3インダクタL3と、を互いに磁気結合させたものである。以下では、実施例1との差分について述べ、実施例1と同様である点については説明を省略する。
【0059】
図6は、実施例2における回路構成100の一例を示した図である。
【0060】
実施例2では、第1インダクタL1と第3インダクタL3は、
図6の回路記号上の点で示す極性に磁気結合し、第2インダクタL2と第3インダクタL3も、同様に回路記号上の点で示す極性に磁気結合するように構成されている。また、第1インダクタL1と第2インダクタL2も、互いに磁気結合するように構成されている。
【0061】
このような構成にすることで、第1スイッチS1と第2スイッチS2のオン状態がオーバーラップした後、オフ状態になるスイッチ側のインダクタに共振電圧を印加することができる。共振電圧は電流を減少させる方向に印加されるため、次にターンオンする時刻よりも前にインダクタの電流をゼロにすることができ、ゼロ電流スイッチング(ZCS)することが可能になる。
【0062】
以上から、実施例1と比較して高昇圧比動作を実現しつつ、電力変換効率を向上することができる。さらに、第1インダクタL1の巻線と、第2インダクタL2の巻線と、第3インダクタL3の巻線を、同一の鉄心(コア)に巻かれているように構成し、磁気結合インダクタとすることで、鉄心1個で3つのインダクタL1、L2、L3を構成できるため、回路の小型化や低コスト化も望める。
【0063】
また、3つのインダクタL1、L2、L3の磁気結合については、
図6に示すインダクタ回路記号上の右側に点を配置する極性でも良い。
【0064】
磁気結合インダクタを用いることによる効果について詳細に説明する。
【0065】
第1インダクタL1と第3インダクタL3、第2インダクタL2と第3インダクタL3が
図6に示す極性に磁気結合することで、第1スイッチS1がオン状態となる期間と第2スイッチS2がオン状態となる期間における電流経路上のインダクタンスを等しくできるため、電流のアンバランスを生じにくくできる。
【0066】
さらに、
図6に示す磁気結合の極性では、第1スイッチS1と第2スイッチS2のオン状態がオーバーラップする期間において、第1インダクタL1と第2インダクタL2の磁束が互いに打ち消す方向となる。このため、実装する際には、第1インダクタL1と第3インダクタL3の磁気結合強度、および第2インダクタL2と第3インダクタL3の磁気結合強度は、第1インダクタL1と第2インダクタL2の磁気結合強度より大きくなるように設計することが望ましい。
【0067】
図7は、実施例2における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
【0068】
実施例2では、時刻T2とT3の間において、第2インダクタL2にも共振電圧が印加されることで電流IL2が急減し、時刻T3の直前にゼロになる。この状態で時刻T3に第2スイッチS2がターンオンすると、第2スイッチS2と第2インダクタL2は直列に接続されているので第2スイッチS2のドレイン電流Id-S2が徐々に増加するZCS動作になる。
【0069】
例えば、不図示の電流センサで各インダクタの電流を検出しておき、第1スイッチS1及び第2スイッチS2のターンオン時刻を、第1インダクタL1又は第2インダクタL2がゼロ電流になった後に設定することでZCS動作を実現できる。これにより、第1スイッチS1および第2スイッチS2で発生する損失のうち、ターンオン損失を低減できる。
【0070】
なお、上記ではインダクタの電流を検出してZCS動作を行うとしたが、本発明においてはこれに限定せず、例えば共振周波数からインダクタの電流がゼロになる時刻を推定しても良い。
【0071】
また、第1スイッチS1または第2スイッチS2を、第1インダクタL1又は第2インダクタL2が予め定めた設定電流値以下になってからターンオンするように構成してもよい。
【0072】
以上のように、本発明の実施例2によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、ZCS動作を行うことができ、高昇圧比動作を実現しつつ、電力変換効率を向上することができる。さらに、コア1個で3つのインダクタを構成できるので、回路の小型化および低コスト化を図ることができる。
【0073】
(実施例3)
次に、本発明の実施例3について説明する。
【0074】
本発明における実施例3では、実施例1および実施例2で示した電力変換装置100の変形例である。以下では、実施例1および実施例2との差分について述べ、実施例1および実施例2と同様である点については説明を省略する。
【0075】
図8は、実施例3における電力変換装置100の一例を示した図である。
【0076】
実施例3では、補助三相ダイオードブリッジ103の出力側中間直流部に補助コンデンサCsubを追加している。つまり、補助三相ダイオードブリッジ103の上アームカソード側と、補助三相ダイオードブリッジ103の下アームアノード側とに補助コンデンサCsubが接続されている。
【0077】
補助コンデンサCsubを設けることにより、三相系統101が有する系統インピーダンスの共振周波数への影響を軽減することができ、共振形倍電圧整流回路1の設計マージンを小さくすることができる。
【0078】
また、系統電圧の急変など過渡的な電圧変動による出力電圧への影響を軽減できる。
【0079】
次に、実施例1および実施例2では第1スイッチS1および第2スイッチS2にMOSFETを用いていたが、実施例3ではIGBTを用いている。本発明においては第1スイッチS1および第2スイッチS2にIGBT等任意のスイッチを用いて良い。
【0080】
以上のように、本発明の実施例3によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、上述したように、補助コンデンサCsubを設けることにより、系統インピーダンスの共振周波数への影響を軽減することができ、共振形倍電圧整流回路1の設計マージンを小さくすることができる。さらに、系統電圧の急変など過渡的な電圧変動による出力電圧への影響を軽減できる。
【0081】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4について説明する。
【0082】
本発明における実施例4では、実施例3で示した回路構成において、第1スイッチS1および第2スイッチS2のゼロ電圧スイッチング(ZVS)を実現するものである。以下では、実施例1~実施例3との差分について述べ、実施例1~実施例3と同様である点については説明を省略する。
【0083】
図9は、実施例4における電圧および電流の波形の一例を示す図である。
図9に示す電圧および電流の波形は、
図2に示したduty比演算器202による演算により実現することができる。
【0084】
図9は、第2ダイオードDc2のリカバリ動作を考慮した波形であり、時刻T3とT4の前後を拡大したものである。第2インダクタL2の電流IL2が時刻Treでゼロになると、それまで導通していた第2ダイオードDc2をオフするためにカソードからアノードへ電流が流れる。
【0085】
このため、時刻Tre以降は電流IL2が負の向きに流れる。時刻Tcmで第2ダイオードDc2のリカバリが完了してオフする。第2ダイオードDc2がオフすると、電流IL2はオフ状態の第2スイッチS2に転流する。
【0086】
具体的には、第2スイッチS2の出力容量に蓄積されたエネルギーを放電する方向に電流が転流する。出力容量の放電により第2スイッチS2の両端電圧Vds-S2が低下し、両端電圧Vds-S2が第2スイッチS2のボディーダイオードもしくは逆並列ダイオードの順方向電圧VF以下になると、第2スイッチS2のボディーダイオードもしくは逆並列ダイオードに電流が転流する。
【0087】
この期間に、第2スイッチS2をターンオンすることでZVS動作が可能であり、さらなる効率の向上が見込める。制御においては、例えば、時刻Treから一定時間後に第2スイッチS2がターンオンするように制御することでZVS動作を実現できる。
【0088】
なお、本発明においては、これに限定せず、例えば、第2スイッチS2の両端電圧Vds-S2を検出し、両端電圧Vds-S2が予め設定した閾値以下になってから第2スイッチS2をターンオンするように制御しても良い。同様に、第1スイッチS1の両端電圧を検出し、検出した両端電圧が予め設定した閾値以下になってから第1スイッチS1をターンオンするように制御しても良い。
【0089】
本発明の実施例4によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、ゼロ電圧スイッチングを実現することができるので、スイッチング損失を低減することができる。
1・・・共振形倍電圧整流回路、100・・・電力変換装置、101・・・三相系統(三相交流電源)、102・・・主三相ダイオードブリッジ、103・・・補助三相ダイオードブリッジ、104・・・電圧センサ、105・・・制御回路、106・・・ハーフブリッジ、200・・・減算器、201・・・PI制御器、202・・・duty比演算器、203・・・スイッチング周波数リミッタ、204・・・主回路、L1・・・第1インダクタ、L2・・・第2インダクタ、L3・・・第3インダクタ、S1・・・第1スイッチ、S2・・・第2スイッチ、Dc1・・・第1ダイオード、Dc2・・・第2ダイオード、C1・・・第1コンデンサ、C2・・・第2コンデンサ、Cdc・・・平滑コンデンサ(DCリンクコンデンサ)、Csub・・・補助コンデンサ、P、N・・・直流部、Vdc*・・・直流電圧指令値、Verr・・・電圧偏差