(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074520
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】地盤改良構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/04 20060101AFI20240524BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20240524BHJP
【FI】
E02D17/04 Z
E02D3/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185735
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉上 由貴
(72)【発明者】
【氏名】牛田 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松丸 貴樹
(72)【発明者】
【氏名】冨田 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武斗
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA06
(57)【要約】
【課題】土留め壁の変位抑止性能と盤ぶくれ抑止性能の両方を発揮することができるうえに、地盤改良の範囲を低減することが可能な地盤改良構造を提供する。
【解決手段】土留め壁に隣接する掘削底面より下方地盤に地盤改良部が設けられる地盤改良構造である。
そして、地盤改良部2は、土留め壁1に沿って設けられる壁隣接部21と、壁隣接部から離隔した位置に分散して設けられる柱状部22と、掘削底面の周辺深度に設けられて柱状部間を連結させる横連絡部23と、壁隣接部と柱状部とを連結させる縦連絡部24とを備え、壁隣接部と柱状部と横連絡部と縦連絡部とに囲まれた未改良の掘削底面が存在することになる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土留め壁に隣接する掘削底面より下方地盤に地盤改良部が設けられる地盤改良構造であって、
前記地盤改良部は、
前記土留め壁に沿って設けられる壁隣接部と、
前記壁隣接部から離隔した位置に分散して設けられる柱状部と、
前記掘削底面の周辺深度に設けられて前記柱状部間を連結させる横連絡部と、
前記壁隣接部と前記柱状部とを連結させる縦連絡部とを備え、
前記壁隣接部と前記柱状部と前記横連絡部と前記縦連絡部とに囲まれた未改良の掘削底面が存在することを特徴とする地盤改良構造。
【請求項2】
前記壁隣接部及び前記柱状部は、前記横連絡部及び前記縦連絡部よりも前記下方地盤の深部にまで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の地盤改良構造。
【請求項3】
前記柱状部は、前記壁隣接部よりも前記下方地盤の深部にまで形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤改良構造。
【請求項4】
前記壁隣接部と前記柱状部と前記横連絡部と前記縦連絡部とによって前記掘削底面の周辺深度が格子状に改良されることを特徴とする請求項1又は2に記載の地盤改良構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留め壁に隣接する掘削底面より下方地盤に地盤改良部が設けられる地盤改良構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下に構造物を構築したり、ボックスカルバートなどを埋設したりする際には、掘削面を保護する土留め壁を設けて地盤を掘り下げることが行われる。そして、建物や公共施設が密集する市街地においては、掘削によって周辺地盤が変形又は沈下するなどの影響を可能な限り抑えるために、様々な変位抑止対策が施される(特許文献1,2参照)。
【0003】
一方において、特許文献3に記載されているように、難透水層下において被圧地下水が想定される場合は、盤ぶくれに対する対策を施さなければならない。盤ぶくれに対する検討は、被圧面以浅の土塊重量、土留め壁の摩擦抵抗及び地盤のせん断抵抗と水圧との荷重バランスを考慮して行うことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-203347号公報
【特許文献2】特開2011-202373号公報
【特許文献3】特開2003-171949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、盤ぶくれ対策として、地盤と土留め壁との摩擦抵抗を向上させるために掘削底面以深を全面的に地盤改良する工法を採用すると、改良範囲が広くなり工費が増加することになる。また、盤ぶくれと土留め壁の変位に対しては、一般的には個別に評価が行われて、その対策工も個別に検討されることになるが、実施工では、盤ぶくれと土留め壁の変位との両方が課題となることも多い。
【0006】
そこで、本発明は、土留め壁の変位抑止性能と盤ぶくれ抑止性能の両方を発揮することができるうえに、地盤改良の範囲を低減することが可能な地盤改良構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の地盤改良構造は、土留め壁に隣接する掘削底面より下方地盤に地盤改良部が設けられる地盤改良構造であって、前記地盤改良部は、前記土留め壁に沿って設けられる壁隣接部と、前記壁隣接部から離隔した位置に分散して設けられる柱状部と、前記掘削底面の周辺深度に設けられて前記柱状部間を連結させる横連絡部と、前記壁隣接部と前記柱状部とを連結させる縦連絡部とを備え、前記壁隣接部と前記柱状部と前記横連絡部と前記縦連絡部とに囲まれた未改良の掘削底面が存在することを特徴とする。
【0008】
ここで、前記壁隣接部及び前記柱状部は、前記横連絡部及び前記縦連絡部よりも前記下方地盤の深部にまで形成されている構成とすることができる。さらに、前記柱状部は、前記壁隣接部よりも前記下方地盤の深部にまで形成されている構成とすることができる。そして、前記壁隣接部と前記柱状部と前記横連絡部と前記縦連絡部とによって前記掘削底面の周辺深度が格子状に改良されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明の地盤改良構造では、土留め壁に沿って設けられる壁隣接部と、壁隣接部から離隔した位置に分散して設けられる柱状部と、柱状部間及び壁隣接部と柱状部との間を連結させる横連絡部及び縦連絡部とを備えた地盤改良部が設けられる。その一方で、壁隣接部と柱状部と横連絡部と縦連絡部とに囲まれた未改良の掘削底面が存在する。
【0010】
このため、壁隣接部と縦連絡部と柱状部とによって形成される控え壁状の改良体によって、土留め壁に必要とされる変位抑止性能が確保できる。さらに、土留め壁に沿って設けられる壁隣接部、柱状部、横連絡部及び縦連絡部による土留め壁や地盤との間の摩擦抵抗の増加によって、盤ぶくれの発生を抑えることができる。この際、壁隣接部と柱状部と横連絡部と縦連絡部とに囲まれた領域は地盤改良を行わなくてよいので、地盤改良の範囲を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施の形態の地盤改良構造の構成を説明する斜視図である。
【
図2】本実施の形態の地盤改良構造の構成を説明する断面図である。
【
図3】本実施の形態の別の地盤改良構造の構成を説明する断面図である。
【
図4】本実施の形態の別の地盤改良構造の構成を説明する断面図である。
【
図5】無対策のときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、(a)は解析モデル図、(b)は解析結果を示した図である。
【
図6】バットレス状の地盤改良をおこなったときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、(a)は解析モデル図、(b)は解析結果を示した図である。
【
図7】土留め壁に沿って地盤改良をおこなったときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、(a)は解析モデル図、(b)は解析結果を示した図である。
【
図8】本実施の形態の地盤改良構造を設けたときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、(a)は解析モデル図、(b)は解析結果を示した図である。
【
図9】本実施の形態の地盤改良構造の適用例を説明する断面図である。
【
図10】本実施の形態の地盤改良構造を施工する手順を説明する図であって、(a)は土留め壁を構築する工程を示した図、(b)は地盤改良部となる改良体を造成する工程を示した図である。
【
図11】本実施の形態の地盤改良構造を施工する手順を説明する図であって、(a)は地盤改良部が完成した状態を示した図、(b)は地盤掘削を行う工程を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の地盤改良構造の構成を説明する斜視図である。また、
図2は、本実施の形態の地盤改良構造の構成を説明する断面図である。
【0013】
土留め壁1は、地盤Gをそのまま掘削した際に現れる鉛直の掘削面を保護するために設けられる。ここで、土留め壁1の掘削側に露出する壁面11は、ほぼ鉛直面となる。土留め壁1の構成としては、鋼矢板、親杭横矢板、鋼管矢板、ソイルセメント柱列壁、地下連続壁、泥水固化壁など様々な形態のものを適用することができる。
【0014】
本実施の形態の地盤改良構造は、土留め壁1の根入れ部分の掘削底面S側に設けられる。地盤Gを掘り下げたときの掘削空間の底となる掘削底面Sより深い部分が土留め壁1の根入れとなる。
【0015】
本実施の形態の地盤改良構造は、土留め壁1の根入れの水平方向の変位(変位量)を抑える変位抑止性能と、掘削底面Sの隆起(隆起量)を抑える盤ぶくれ抑止性能との両方を備えている。
【0016】
本実施の形態の地盤改良構造は、
図1,2に示すように、土留め壁1に隣接する掘削底面Sより下方地盤に地盤改良部2が設けられる地盤改良構造である。この地盤改良部2は、連続した一体に設けられるが、以下のように部分に分けて構成の説明を行う。
【0017】
すなわち、地盤改良部2は、土留め壁1に沿って設けられる壁隣接部21と、壁隣接部21から離隔した位置に分散して設けられる柱状部22と、掘削底面Sの周辺深度に設けられて柱状部22,22間を連結させる横連絡部23と、壁隣接部21と柱状部22とを連結させる縦連絡部24とを備えている。
【0018】
地盤改良部2は、地盤に例えばセメント系の固化材を混入しながら撹拌することによって構築される。例えば、オーガーや撹拌翼によって地盤を撹拌しながらセメントミルクを注入することで造成されるソイルセメント柱によって、地盤改良部2となる改良体を設けることができる。また、固化材を高圧ジェット噴射させながら地盤と混合する噴射撹拌工法によっても、地盤改良部2となる改良体を設けることができる。
【0019】
そして、壁隣接部21は、土留め壁1の壁面11に接するように板状に形成される。例えば
図2に示すように、掘削対象となる地盤Gに、難透水層G1とその下層となる被圧水層G2とが存在する場合に、被圧水層G2まで根入れされた土留め壁1の難透水層G1の範囲に、厚みのある板状(壁状)に壁隣接部21を設ける。
【0020】
ここで、土留め壁1の壁面11と壁隣接部21とは密着しているので、
図1に示すように、摩擦による抵抗を得ることができる摩擦抵抗部M1が面状に生成される。この摩擦抵抗部M1は、盤ぶくれを抑止するために機能することになる。
【0021】
一方、柱状部22は、壁隣接部21から離隔した位置に、例えば深度方向に長い直方体状に形成される。
図1には、掘削底面Sから被圧水層G2まで連続する長尺状の3体の柱状部22が、土留め壁1の幅方向に間隔をおいて造成された構成を例示している。
【0022】
そして、3体の柱状部22の頭部間は、例えば掘削底面Sから難透水層G1の上部にかけての掘削底面Sの周辺深度において、横連絡部23によって連結される。すなわち、3体の柱状部22と2体の横連絡部23とによって、2連の門形の改良体が形成される。
【0023】
ここで、柱状部22の横連絡部23より下方に垂下した部分と難透水層G1及び被圧水層G2とは密着しているので、
図1に示すように、摩擦による抵抗を得ることができる摩擦抵抗部M2が生成される。この摩擦抵抗部M2は、盤ぶくれを抑止するために機能することになる。
【0024】
また、横連絡部23と土留め壁1側の掘削底面Sに露出する未改良の難透水層G1とも密着しているので、
図1に示すように、摩擦による抵抗を得ることができる摩擦抵抗部M3が生成される。この摩擦抵抗部M3も、未改良部分の盤ぶくれを抑止するために機能することになる。
【0025】
さらに、柱状部22の頭部と壁隣接部21の頭部との間は、例えば掘削底面Sから難透水層G1の上部にかけての掘削底面Sの周辺深度において、縦連絡部24によって連結される。すなわち、壁隣接部21と縦連絡部24と柱状部22とによって、門形の改良体が形成される。
【0026】
ここで、縦連絡部24と掘削底面Sに露出する未改良の難透水層G1とも密着しているので、
図1に示すように、摩擦による抵抗を得ることができる摩擦抵抗部M4が生成される。この摩擦抵抗部M4は、未改良部分の盤ぶくれを抑止するために機能することになる。
【0027】
さらに、壁隣接部21の上部と掘削底面Sに露出する未改良の難透水層G1とも密着しているので、
図1に示すように、摩擦による抵抗を得ることができる摩擦抵抗部M5が生成される。この摩擦抵抗部M5も、未改良部分の盤ぶくれを抑止するために機能することになる。
【0028】
要するに、離散的に配置される柱状部22同士を横連絡部23によって連結するとともに、縦連絡部24によって壁隣接部21とも連結することで、平面視格子状の地中梁構造が形成されて、未改良部分を含む広い範囲の掘削底面Sの盤ぶくれを抑えることができるようになる。
【0029】
そして、壁隣接部21と縦連絡部24と柱状部22とによって門形に形成された改良体は、土留め壁1の控え壁となる。すなわち土留め壁1の下部となる根入れ部分を、掘削空間側から支える控え壁(バットレス)として機能する。
【0030】
土留め壁1は、掘削によって掘削面側に作用する圧力が開放されると、不安定な状態になって傾きやすくなる。土留め壁1の代表的な変形パターンは、上記圧力の不均等性が要因となり、土留め壁1が掘削底面S側にはらみ出すことによって起きる。このため、土留め壁1の根入れの移動方向に控え壁状の改良体を設けておくことで、その抵抗によって土留め壁1の変位を抑止することができる。
【0031】
図2に示すように、難透水層G1の下方に被圧地下水のある被圧水層G2の存在が想定される場合は、盤ぶくれに対する検討を行わなければならない。地盤改良部2を設けない無対策の盤ぶくれに対する検討は、土塊重量、土留め壁1との摩擦及び地盤のせん断抵抗と水圧との荷重バランスを考慮して、以下の式による検討がされる。
W/F
1+ C
1/F
2 + C
2/F
3 ≧ U
ここに、Wは被圧面以浅の土塊重量、C
1は根入れ部分の土留め壁1と地盤との摩擦抵抗、C
2は難透水層G1のせん断抵抗、Uは水圧、F
1,F
2,F
3は安全率を示す。
【0032】
これに対して、本実施の形態では、掘削底面Sより下方地盤に地盤改良部2が設けられる。この地盤改良部2は、柱状部22や壁隣接部21が地盤(G1,G2)や土留め壁1との摩擦抵抗として働き、より盤ぶくれが起きにくい状態にすることができる。
【0033】
さらに、荷重バランス法では考慮されていない掘削幅の影響をFEM解析によって検討した結果によれば、掘削幅Bと難透水層G1の層厚Hとの比(B/H)が小さいほど、掘削底面Sを上面とする地盤(底盤)の安定性が高くなることが判明している。
【0034】
そして、本実施の形態の地盤改良構造であれば、見かけ上の掘削幅Bを小さくすることができる。すなわち、地盤改良部2が設けられていなければ、掘削幅は対向する土留め壁1,1間の距離となるが、被圧水層G2まで根入れされた改良体を有する地盤改良部2を設けることによって、見かけの掘削幅Bを、
図2に示すように、柱状部22と地盤改良部2が設けられていない側の土留め壁1との距離とすることができる。要するに、難透水層G1の層厚Hは変えることができないが、見かけの掘削幅Bを低減して比(B/H)を小さくすることで、底盤の安定性を高めることができる。
【0035】
こうした土留め壁1の変位抑止性能と盤ぶくれ抑止性能の両方を発揮する地盤改良部2の構造は、
図1,2で例示した形態以外でも得ることができる。
図3,4は、本実施の形態の別の地盤改良構造の構成を説明する断面図である。
【0036】
図3に示した地盤改良部2Aは、壁隣接部21と柱状部22Aの根入れ長さがほぼ同じである。この地盤改良部2Aでは、壁隣接部21の地盤改良によって剛性が上がっているので、少なくとも
図3に示したように見かけの掘削幅Bが小さくなり、盤ぶくれを抑制する効果がある。
【0037】
一方、
図4に示した地盤改良部2Bは、縦連絡部24より下方に向けての壁隣接部21Bの根入れはほとんどないが、柱状部22Bは被圧水層G2の内部まで深く根入れされている。このように柱状部22Bが長くなれば、
図4に示したように見かけの掘削幅Bが小さくなり、盤ぶくれを抑制する効果がある。
【0038】
上述した本実施の形態の地盤改良部2,2A,2Bは、いずれも盤ぶくれの揚圧力に対する抵抗力を確保するために、地盤条件や掘削条件に応じて壁隣接部21と柱状部22の根入れ長さを調整し、離散的に配置される柱状部22を横連絡部23及び縦連絡部24によって壁隣接部21に連結させることで、平面視格子状の地中梁構造で一体化された地盤改良部2,2A,2Bになっている。
【0039】
図5-
図8は、本実施の形態の地盤改良構造を設けたことによる効果を、数値解析によって確認した結果を説明する図である。まず
図5は、無対策のときに発生する盤ぶくれを説明する図である。
図5(a)に示したような土留め壁1のみを設けた解析モデルを使って掘削解析を行うと、
図5(b)に示すように2.5mm以上の隆起が掘削底面Sの広範囲に発生する解析結果となった。
【0040】
一方
図6は、切欠き状のバットレスとなるように地盤改良を行ったバットレス改良体a1を設けたときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、
図6(a)は解析モデル図である。
図6(b)の解析結果を見ると、無対策よりは隆起量が抑えられるものの2.5mm近くの隆起が掘削底面Sに発生していることがわかる。
【0041】
これらに対して、
図7は、土留め壁1に沿って地盤改良をおこなって壁状改良体a2を設けたときに発生する盤ぶくれを説明する図である。
図7(a)の解析モデル図に示したように、見かけの掘削幅Bを壁状改良体a2の壁厚に相当する分だけ減少させることができる。この結果、
図7(b)の解析結果に示したように、無対策(
図5(a))の半分程度まで隆起量を抑えることができるようになった。
【0042】
そして、
図8が本実施の形態の地盤改良構造を設けたときに発生する盤ぶくれを説明する図であって、
図8(a)は解析モデル図を示している。
図8(b)の解析結果に示すように、本実施の形態の地盤改良部2を設けることによって、未改良部分が露出する領域を含めた掘削底面Sの全面において、隆起量を1mm以下に抑えることができた。要するに、地盤改良部2によって見かけの掘削幅Bが減少できるうえに、掘削底面Sの周辺深度に格子状の地中梁改良体が設けられることで、盤ぶくれと言われる隆起が発生しない状態にすることができる。
【0043】
図9は、本実施の形態の地盤改良構造の適用例を説明する断面図である。
都市部の施工では、掘削箇所の両側が同じ条件ではなく、
図9に示すように、周辺構造物の配置により、掘削箇所の左右で制限値が異なることが多い。例えば、図の左側に示すようにビル群が隣接している場所では、土留め壁1の変位の制限値が厳しいことから、バットレスに相当する変位抑止対策が必要となるが、右側に示したように道路のみで制限値が緩ければ、バットレスによる土留め壁1Aの変位抑止対策が不要になることもある。
【0044】
そこで、図示したように、制限が厳しいビル群側の土留め壁1に隣接して本実施の形態の地盤改良部2を設け、制限が緩い土留め壁1A側では地盤改良を行わないという片側改良とすることも可能である。
【0045】
まったく地盤改良を行わないときには左右の土留め壁1,1A間の距離が掘削幅になるが、片側改良であれば、地盤改良部2を設けた土留め壁1側は壁隣接部21と柱状部22との距離を見かけの掘削幅B1とすることができる。一方、改良を行わなかった土留め壁1A側では、地盤改良部2と土留め壁1Aとの距離が見かけの掘削幅Bとなる。要するに、片側改良であっても、無対策のときよりも掘削幅を低減させることができるので、盤ぶくれ抑止対策として寄与していることになる。
【0046】
また、土留め壁1付近を改良して壁隣接部21を設けたことによって発生する付着力の大きい摩擦抵抗部M1により、土留め壁1との間の摩擦力を増加させることができる。さらに、掘削底面Sの周辺深度を格子状に連結した地中梁構造の改良体(壁隣接部21の上部、柱状部22の上部、横連絡部23、縦連絡部24)及び難透水層G1や被圧水層G2まで根入れされた改良体(壁隣接部21の下部、柱状部22の下部)を設けたことによって発生する摩擦抵抗部M2によって、地盤改良部2と掘削原地盤(難透水層G1や被圧水層G2)との摩擦力の向上を図ることができる。
【0047】
次に、本実施の形態の地盤改良構造の構築方法と、それが構築された際の掘削工事の工程について、
図10及び
図11を参照しながら説明する。
まず
図10(a)に示すように、掘削地盤の地表から土留め壁1を構築する。例えば鋼矢板で土留め壁1を構築する場合は地盤Gに鋼矢板を打ち込み、ソイルセメント柱列壁を土留め壁1とする場合は、地盤Gをオーガーで掘削しながらセメントミルクを注入することで構築する。土留め壁1は、幅方向となる
図10(a)の紙面直交方向に連続して設けられる。
【0048】
続いて、地表の土留め壁1に隣接する位置に地盤改良機を据え付け、
図10(b)に示すように、掘削した際に形成される掘削底面Sより下方地盤に、地盤改良部2となる柱状の改良体20を造成する。この改良体20は、例えば地盤改良機によって地表から地盤Gを先行削孔した後に、オーガーの先端からセメントミルクを注入しながら引き上げることで構築される。
【0049】
ここで、改良体20は、予定される掘削底面Sより下方地盤に設けられるため、セメントミルクの注入は、掘削底面S以下の深度で行われる。改良体20は、隣接するソイルセメント柱に側面をラップさせることで連続して設けられる。
【0050】
すなわち、壁隣接部21、柱状部22、横連絡部23及び縦連絡部24となる改良体20が、隣接する位置では一部がラップするように連続して設けられる。
図11(a)は、壁隣接部21、柱状部22、横連絡部23及び縦連絡部24からなる一体の地盤改良部2が、難透水層G1と被圧水層G2とにまたがって構築された状態を示している。
【0051】
こうして土留め壁1と、その下部を支持する地盤改良部2とを構築した後に、地盤Gの掘削を開始する。地盤Gの掘削は、必要に応じて切梁を設置しながら、
図11(b)に示すように、予定した掘削底面Sまで行われる。ここで、掘削底面Sの深度は、地盤改良部2の上端面の深度とほぼ同じ位置になる。
【0052】
次に、本実施の形態の地盤改良構造の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の地盤改良構造では、土留め壁1に沿って設けられる壁隣接部21と、壁隣接部21から離隔した位置に分散して設けられる柱状部22と、柱状部22,22間及び壁隣接部21と柱状部22との間を連結させる横連絡部23及び縦連絡部24とを備えた地盤改良部2が設けられる。その一方で、壁隣接部21と柱状部22と横連絡部23と縦連絡部24とに囲まれた未改良の掘削底面Sが存在する。
【0053】
このため、壁隣接部21と縦連絡部24と柱状部22とによって形成される控え壁状の改良体によって、土留め壁1に必要とされる変位抑止性能が確保できる。さらに、土留め壁1に沿って設けられる壁隣接部21、柱状部22、横連絡部23及び縦連絡部24による土留め壁1や地盤との間の摩擦抵抗の増加によって、盤ぶくれの発生を抑えることができる。すなわち、土留め壁1の変位抑止対策と盤ぶくれ対策が個別に検討されていた従来と比べて、地盤改良部2を設けることで、土留め壁1の変位抑止性能と盤ぶくれ抑止性能の両方を得ることができる合理的な対策を行うことができる。
【0054】
また、本実施の形態の地盤改良部2であれば、壁隣接部21と柱状部22と横連絡部23と縦連絡部24とに囲まれた領域は地盤改良を行わなくてよいので、地盤改良の範囲を低減することができ、低減できた分だけ工費と工期を削減することができる。
【0055】
さらに、壁隣接部21及び柱状部22を、掘削底面Sの周辺深度に設けられる横連絡部23及び縦連絡部24よりも深部となる難透水層G1の下部や被圧水層G2まで設けることで、少ない改良範囲で、壁隣接部21及び柱状部22の根入れによる摩擦力の向上を図ることができる。
【0056】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0057】
例えば前記実施の形態では、壁隣接部21と縦連絡部24と柱状部22と横連絡部23とに囲まれた平面視長方形の未改良部分が発生する地盤改良部2を例に説明したが、これに限定されるものではなく、壁隣接部21と縦連絡部24と柱状部22と横連絡部23とが連続して一体に構築されていれば、囲まれた未改良部分の形状がどのようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 :土留め壁
2,2A,2B:地盤改良部
21,21B:壁隣接部
22,22A,22B:柱状部
23 :横連絡部
24 :縦連絡部
G :地盤
S :掘削底面