(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024074538
(43)【公開日】2024-05-31
(54)【発明の名称】昆虫の飼育方法及び飼育装置
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20240524BHJP
【FI】
A01K67/033 502
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022185765
(22)【出願日】2022-11-21
(71)【出願人】
【識別番号】722012006
【氏名又は名称】サンデン・リテールシステム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520420609
【氏名又は名称】FUTURENAUT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】角田 勝
(72)【発明者】
【氏名】永田 彌
(72)【発明者】
【氏名】飯島 明宏
(57)【要約】
【課題】従来技術に比べて清潔な飼育環境で昆虫を飼育することができ、且つそれに伴う飼育担当者の負担の増加や昆虫に与えるストレスの増加を抑制することのできる昆虫の飼育方法及び飼育装置を提供する。
【解決手段】昆虫の飼育方法は、昆虫を第1飼育領域で飼育すること、前記第1飼育領域と前記第1飼育領域に隣接する第2飼育領域との間に温度差を与え、この温度差によって前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動すること、前記第2飼育領域に移動した前記昆虫を前記第2飼育領域で飼育することを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫を第1飼育領域で飼育すること、
前記第1飼育領域と前記第1飼育領域に隣接する第2飼育領域との間に温度差を与え、この温度差によって前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動すること、
前記第2飼育領域に移動した前記昆虫を前記第2飼育領域で飼育すること、
を含む、昆虫の飼育方法。
【請求項2】
前記第1飼育領域で前記昆虫の卵を孵化させることをさらに含む、請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項3】
前記第2飼育領域が前記第1飼育領域より大きい、請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項4】
前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与えることは、前記第1飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温以外の温度とする一方、前記第2飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温とし又は成育適温に保持することを含む、
請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項5】
前記第1飼育領域で前記昆虫を飼育する際に、前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動しないように前記第1飼育領域と前記第2飼育領域とを仕切ること、
前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与える際に、前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動できるように前記第1飼育領域と前記第2飼育領域とを連通させること、
前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動した後に前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との連通を遮断すること、
をさらに含む、請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項6】
前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動した後に前記第1飼育領域を清掃することをさらに含む、請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項7】
前記温度差が5℃以上である、請求項1に記載の昆虫の飼育方法。
【請求項8】
前記昆虫が食品又は飼料用の食用昆虫である、請求項1~7のいずれか一つに記載の昆虫の飼育方法。
【請求項9】
昆虫を飼育可能な第1飼育領域と、
前記昆虫を飼育可能であり、前記第1飼育領域に隣接した第2飼育領域と、
前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与える温度差付与装置と、
を含み、
前記温度差付与装置によって前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与えることにより、前記第1飼育領域内の前記昆虫を前記第2飼育領域に誘導するように構成されている、
昆虫の飼育装置。
【請求項10】
前記第2飼育領域が前記第1飼育領域より大きい、請求項9に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項11】
前記温度差付与装置は、前記第1飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温以外の温度とする一方、前記第2飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温とし又は成育適温に保持することにより、前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与えるように構成されている、請求項9に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項12】
前記第1飼育領域及び前記第2飼育領域は、前記昆虫の成育適温に保持されており、
前記温度差付与装置は、前記第1飼育領域の温度を上昇又は下降させることが可能な第1温度調整機を含み、前記第1温度調整機によって前記第1飼育領域の温度を上昇又は下降させることによって前記第1飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温以外の温度とするように構成されている、
請求項11に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項13】
前記温度差付与装置は、前記第1飼育領域の温度を上昇又は下降させることが可能な第1温度調整機と、前記第2飼育領域の温度を上昇又は下降させることが可能な第2温度調整機とを含み、前記第1温度調整機によって前記第1飼育領域の温度を上昇又は下降させることによって前記第1飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温以外の温度とし、前記第2温度調整機によって前記第2飼育領域の温度を上昇又は下降させることによって前記第2飼育領域の温度を前記昆虫の成育適温とするように構成されている、
請求項11に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項14】
前記第1飼育領域と前記第2飼育領域とを区画すると共に前記昆虫が通過可能な開口部を有する隔壁部と、
前記温度差付与装置によって前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差が与えられる際に前記開口部を開放し、その後、前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動すると前記開口部を閉鎖するためのシャッタ部材と、
をさらに含む、請求項9に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項15】
前記温度差が5℃以上である、請求項9に記載の昆虫の飼育装置。
【請求項16】
前記昆虫が食品又は飼料用の食用昆虫である、請求項9~15のいずれか一つに記載の昆虫の飼育装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆虫の飼育方法及び飼育装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1にはコオロギの繁殖方法が記載されている。特許文献1に記載のコオロギの繁殖方法では、卵からの幼虫の孵化と、幼虫から飼料として出荷可能となるまでの飼育とが1つの飼育容器内で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コオロギの飼育においては清潔な飼育環境を維持することが好ましい。しかし、特許文献1に記載されたコオロギの繁殖方法では、コオロギの飼育が1つの飼育容器内で行われているため、清潔な飼育環境を維持するのが容易ではない。ここで、清潔な飼育環境を維持するために飼育容器を適宜清掃することが考えられるが、その場合、清掃の度に飼育容器内のコオロギを他の容器等に移さなければならない。このようなコオロギを他の容器等に移す作業は、飼育担当者にとっては大きな負担となる。また、このようなコオロギを他の容器等に移す作業は、コオロギにストレスを与えてしまい、コオロギの成長を妨げるおそれがある。
【0005】
なお、このような課題は、コオロギの飼育に限られるものではなく、コオロギ以外の昆虫の飼育にも共通するといえる。
【0006】
本発明は、従来技術に比べて清潔な飼育環境で昆虫を飼育することができ、且つそれに伴う飼育担当者の負担の増加や昆虫に与えるストレスの増加を抑制することのできる昆虫の飼育方法及び飼育装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、昆虫の飼育方法が提供される。この昆虫の飼育方法は、昆虫を第1飼育領域で飼育すること、前記第1飼育領域と前記第1飼育領域に隣接する第2飼育領域との間に温度差を与え、この温度差によって前記第1飼育領域内の前記昆虫が前記第2飼育領域に移動すること、前記第2飼育領域に移動した前記昆虫を前記第2飼育領域で飼育することを含む。
【0008】
本発明の他の側面によると、昆虫の飼育装置が提供される。この昆虫の飼育装置は、昆虫を飼育可能な第1飼育領域と、前記昆虫を飼育可能であり、前記第1飼育領域に隣接した第2飼育領域と、前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与える温度差付与装置とを含み、前記温度差付与装置によって前記第1飼育領域と前記第2飼育領域との間に温度差を与えることにより、前記第1飼育領域内の前記昆虫を前記第2飼育領域に誘導するように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術に比べて清潔な飼育環境で昆虫を飼育することができ、且つそれに伴う飼育担当者の負担の増加や昆虫に与えるストレスの増加を抑制することのできる昆虫の飼育方法及び飼育装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図6】実施形態に係る飼育装置を用いた食用昆虫の飼育方法の一例を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態に係る飼育装置を用いた食用昆虫の飼育方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】実施形態に係る飼育装置の飼育領域を上方から見た状態を模式的に示す図である。
【
図9】飼育装置の変形例1における飼育領域を上方から見た状態を模式的に示す図である。
【
図10】飼育領域の変形例2における飼育領域を上方から見た状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
[飼育装置]
図1~
図5は、本発明の実施形態に係る飼育装置1の概略構成を示している。
図1は、実施形態に係る飼育装置1の正面図であり、
図2は、実施形態に係る飼育装置1の上面図(平面図)であり、
図3は、実施形態に係る飼育装置1の右側面図である。
図4は、
図1のX-X断面概略図であり、
図5は、
図3のY-Y断面概略図である。
【0013】
実施形態に係る飼育装置1は、複数(多数)の昆虫を飼育するための装置である。昆虫は、特に限定されないが、好ましくは、食品又は飼料として用いられる食用昆虫であり得る。
【0014】
実施形態に係る飼育装置1は、通常、昆虫の成育に適した温湿度環境下に設置されて使用される。なお、以下では主に昆虫が食用昆虫である場合、特に昆虫がコオロギである場合について説明する。また、以下では食用昆虫の成育に適した温度を「食用昆虫の成育適温」といい、食用昆虫の成育に適した湿度を「食用昆虫の成育適湿」という。食用昆虫がコオロギである場合、前記食用昆虫の成育適温は28±5℃であり、前記食用昆虫の成育適湿は40±10%RHである。
【0015】
飼育装置1は、飼育容器2を有する。飼育容器2内には、複数(多数)の食用昆虫を飼育するための3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B及び飼育領域3C)が設けられている(
図4、
図5参照)。飼育領域3A、飼育領域3B及び飼育領域3Cは、飼育装置1(飼育容器2)の前部側から後部側に向かってこの順に配置されている。飼育領域3Aと飼育領域3Bとは隣接しており、飼育領域3Bと飼育領域3Cとは隣接している。
【0016】
具体的には、本実施形態において、飼育容器2は、例えば合成樹脂で形成されており、第1直立壁2a~第10直立壁2jを有する。特に限定されないが、第1直立壁2a~第10直立壁2jの全部又は一部は、透明であり得る。
【0017】
第1直立壁2a、第4直立壁2d、第7直立壁2g及び第10直立壁2jは、左右方向に延びている。第1直立壁2a、第4直立壁2d、第7直立壁2g及び第10直立壁2jは、それぞれ前後方向に離隔している。第1直立壁2aは、飼育装置1(飼育容器2)の前部に位置し、第10直立壁2jは、飼育装置1(飼育容器2)の後部に位置する。本実施形態において、第1直立壁2aの左右方向の寸法は、第4直立壁2dのそれよりも小さく設定され、第4直立壁2dの左右方向の寸法は、第7直立壁2gのそれにより小さく設定されている。第7直立壁2gの左右方向の寸法と第10直立壁2jのそれとは同じに設定されている。
【0018】
第2直立壁2b及び第3直立壁2cは、前後方向に延びている。第2直立壁2b及び第3直立壁2cは、第1直立壁2aと第4直立壁2dとの間に配置され、左右方向に離隔している。本実施形態において、第2直立壁2bの前後方向の寸法と第3直立壁2cのそれとは同じに設定されている。
【0019】
第5直立壁2e及び第6直立壁2fは、前後方向に延びている。第5直立壁2e及び第6直立壁2fは、第4直立壁2dと第7直立壁2gとの間に配置され、左右方向に離隔している。本実施形態において、第5直立壁2eの前後方向の寸法と第6直立壁2fのそれとは同じに設定されている。
【0020】
第8直立壁2h及び第9直立壁2iは、前後方向に延びている。第8直立壁2h及び第9直立壁2iは、第7直立壁2gと第10直立壁2jとの間に配置され、左右方向に離隔している。第8直立壁2hの前後方向の寸法と第9直立壁2iのそれとは同じに設定されている。
【0021】
そして、本実施形態において、飼育領域3Aは、第1直立壁2a、第2直立壁2b、第3直立壁2c及び第4直立壁2dによって囲まれた領域として形成されている。また、飼育領域3Bは、第4直立壁2d、第5直立壁2e、第6直立壁2f及び第7直立壁2gによって囲まれた領域として形成されている。さらに、飼育領域3Cは、第7直立壁2g、第8直立壁2h、第9直立壁2i及び第10直立壁2jによって囲まれた領域として形成されている。ここで、第4直立壁2dは、飼育領域3Aと飼育領域3Bとを区画する第1隔壁部41としての機能を有し、第7直立壁2gは、飼育領域3Bと飼育領域3Cとを区画する第2隔壁部42としての機能を有する。
【0022】
飼育領域3A、飼育領域3B及び飼育領域3Cの大きさは、飼育装置1(飼育容器2)で飼育される食用昆虫の種類や数、及び/又は、各飼育領域で飼育される食用昆虫の大きさなどに応じて任意に設定され得る。本実施形態においては、飼育領域3Aよりも飼育領域3Bの方が大きく形成され、飼育領域3Bよりも飼育領域3Cの方が大きく形成されている。換言すれば、飼育領域3Bは、飼育領域3Aの底面積よりも大きな底面積を有し、飼育領域3Cは、飼育領域3Bの底面積よりも大きな底面積を有している。
【0023】
飼育領域3Aの天井部には、飼育領域3Aの温度を調整可能な温度調整機5Aが設置されている。但し、これに限られるものではなく、温度調整機5Aは、飼育領域3Aの任意の位置に設置され得る。温度調整機5Aは、例えば、空気加温器、空気冷却器及び送風機(いずれも図示省略)を含み、外気を加温又は冷却して飼育領域3Aに供給することで飼育領域3Aの温度を上昇又は下降させることが可能である。好ましくは、温度調整機5Aは、飼育領域3Aの温度を検出する温度センサ(図示省略)と、飼育領域3Aの目標温度を設定する温度設定部(図示省略)とをさらに含み、前記温度センサによって検出される飼育領域3Aの温度が前記温度設定部によって設定された目標温度となるように、外気を加温又は冷却して飼育領域3Aに供給するように構成される。
【0024】
飼育領域3Aの側面を構成する第2直立壁2b及び/又は第3直立壁2cには、飼育領域3A内の食用昆虫のための給水場や給餌場などを出し入れする開閉扉6Aが設けられている(
図4には第2直立壁2bに設けられた開閉扉6Aが示されている)。また、飼育領域3Aの天井部及び/又は側面には、飼育領域3Aの内部と飼育容器2の外側空間とを連通する少なくとも一つの通気口(図示省略)が設けられている。通気口は、食用昆虫が通過できないように構成されている。
【0025】
飼育領域3Aの下部には、床板7Aと、床板7Aの下側に配置されたトレイ8Aとが設けられている(
図4、
図5参照)。トレイ8Aは、例えば上面開口の箱型に形成されている。床板7A及びトレイ8Aは、飼育容器2に対して着脱可能に構成されている。本実施形態において、床板7A及びトレイ8Aは、
図5における白抜き矢印方向に移動させることで飼育容器2(飼育領域3A)に対して着脱可能である。床板7A上には必要に応じて適切な飼育床材(食用昆虫が隠れる場所となり得る部材等を含む。以下同じ。)が敷設され得る。トレイ8Aは、主に床板7Aが取り外されるときに床板7Aから落下する飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを回収可能に構成されている。
【0026】
飼育領域3Bは、飼育領域3Aと同様の構成を有する。すなわち、飼育領域3Bの天井部には、飼育領域3Bの温度を調整可能な温度調整機5Bが設置されている。温度調整機5Bは、温度調整機5Aと同様の構成を有し、飼育領域3Bの温度を上昇又は下降させることが可能である。また、飼育領域3Bの側面を構成する第5直立壁2e及び/又は第6直立壁2fには、飼育領域3B内の食用昆虫のための給水場や給餌場を出し入れする開閉扉6Bが設けられている(
図4には第5直立壁2eに設けられた開閉扉6Bが示されている)。さらに、飼育領域3Bの天井部及び/又は側面には、飼育領域3Bの内部と飼育容器2の外側空間とを連通する少なくとも一つの通気口(図示省略)が設けられている。さらにまた、飼育領域3Bの下部には、床板7B,7Bと、床板7B,7Bの下側に配置されたトレイ8B,8Bとが設けられている。床板7B,7B及びトレイ8B,8Bは、
図5における白抜き矢印方向に移動させることで飼育容器2(飼育領域3B)に対して着脱可能である。床板7B,7B上には必要に応じて適切な飼育床材が敷設され得る。トレイ8B,8Bは、対応する床板7Bが取り外されるときに、対応する床板7Bから落下する飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを回収可能に構成されている。
【0027】
飼育領域3Cも飼育領域3Aと同様の構成を有する。すなわち、飼育領域3Cの天井部には、飼育領域3Cの温度を調整可能な温度調整機5Cが設置されている。温度調整機5Cは、温度調整機5Aと同様の構成を有し、飼育領域3Cの温度を上昇又は下降させることが可能である。また、飼育領域3Cの側面を構成する第8直立壁2h及び/又は第9直立壁2iには、飼育領域3C内の食用昆虫のための給水場や給餌場を出し入れする開閉扉6Cが設けられている(
図4には第8直立壁2hに設けられた開閉扉6Cが示されている)。さらに、飼育領域3Cの天井部及び/又は側面には、飼育領域3Cの内部と飼育容器2の外側空間とを連通する少なくとも一つの通気口(図示省略)が設けられている。さらにまた、飼育領域3Cの下部には、床板7C,7Cと、床板7C,7Cの下側に配置されたトレイ8C,8Cとが設けられている。床板7C,7C及びトレイ8C,8Cは、
図5における白抜き矢印方向に移動させることで飼育容器2(飼育領域3C)に対して着脱可能である。床板7C,7C上には必要に応じて適切な飼育床材が敷設され得る。トレイ8C,8Cは、対応する床板7Cが取り外されるときに、床板7Cから落下する飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを回収可能に構成されている。
【0028】
飼育領域3Aと飼育領域3Bとを区画する第1隔壁部41(=第4直立壁2d)には、飼育領域3Aと飼育領域3Bとを連通させると共に食用昆虫が通過可能な第1開口部11が形成されている。第1開口部11は、第1シャッタ部材12によって開閉される。第1シャッタ部材12は、例えば、モータ等の駆動源(図示省略)により上下方向に移動して第1開口部11を開放し又は閉鎖するように構成されている。
【0029】
飼育領域3Bと飼育領域3Cとを区画する第2隔壁部42(=第7直立壁2g)には、飼育領域3Bと飼育領域3Cとを連通させると共に食用昆虫が通過可能な第2開口部13が形成されている。第2開口部13は、第2シャッタ部材14によって開閉される。第2シャッタ部材14は、第1シャッタ部材12と同様に、例えば、モータ等の駆動源(図示省略)により上下方向に移動して第2開口部13を開放し又は閉鎖するように構成されている。
【0030】
飼育領域3Cの飼育領域3B側とは反対側の側面を構成する第10直立壁2jには、食用昆虫が通過可能な第3開口部15が形成されている。第3開口部15は、第3シャッタ部材16によって開閉される。第3シャッタ部材16は、第1シャッタ部材12と同様、例えば、モータ等の駆動源(図示省略)により上下方向に移動して第3開口部15を開放し又は閉鎖するように構成されている。
【0031】
ここで、食用昆虫は、自身の成育適温の領域に集まる習性がある。換言すれば、食用昆虫は、自身が今いる領域の温度が自身の成育適温以外の温度である一方、自身が今いる領域に隣接する領域の温度が自身の成育適温である場合、今いる領域から隣接する領域に移動する習性がある。実施形態に係る飼育装置1は、このような食用昆虫の習性を利用して、飼育容器2内において食用昆虫を自身が今いる領域から隣接する領域に誘導することができるように構成されている。
【0032】
例えば、飼育装置1は、飼育領域3Aとこれに隣接する飼育領域3Bとの間に温度差を与えることにより、飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに誘導することができる。具体的には、飼育装置1は、飼育領域3Aの温度調整機5Aによって飼育領域3Aの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とする一方、飼育領域3Bの温度調整機5Bによって飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温とすることにより、飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに誘導することができる。
【0033】
あるいは、飼育領域3Aの温度及び飼育領域3Bの温度が食用昆虫の成育適温に保持されている場合、飼育装置1は、飼育領域3Aの温度調整機5Aによって飼育領域3Aの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とすることにより、飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに誘導することができる。
【0034】
同様に、飼育装置1は、飼育領域3Bとこれに隣接する飼育領域3Cとの間に温度差を与えることにより、飼育領域3B内の食用昆虫を飼育領域3Cに誘導することができる。具体的には、飼育装置1は、飼育領域3Bの温度調整機5Bによって飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とする一方、飼育領域3Cの温度調整機5Cによって飼育領域3Cの温度を食用昆虫の成育適温とすることにより、飼育領域3B内の食用昆虫を飼育領域3Cに誘導することができる。
【0035】
あるいは、飼育領域3Bの温度及び飼育領域3Cの温度が食用昆虫の成育適温に保持されている場合、飼育装置1は、飼育領域3Bの温度調整機5Bによって飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とすることにより、飼育領域3B内の食用昆虫を飼育領域3Cに誘導することができる。
【0036】
[飼育方法]
次に、飼育装置1を用いた食用昆虫の飼育方法について説明する。
図6及び
図7は、食用昆虫の飼育方法の一例を示すフローチャートである。
【0037】
なお、以下の説明において、飼育装置1は、食用昆虫の成育適温(28±5℃)及び成育適湿(40±10%RH)の環境下に設置されており、飼育領域3A、3B、3Cの温度及び湿度は、それぞれ食用昆虫の成育適温及び成育適湿に保持されているものとする。
【0038】
また、飼育領域3Aは、食用昆虫の卵を孵化させると共に主に初令~3令の食用昆虫を飼育する領域として使用され、飼育領域3Bは、主に3令~6令の食用昆虫を飼育する領域として使用され、飼育領域3Cは、主に6令~成虫までの食用昆虫を飼育する領域として使用されるものとする。但し、これに限定されるものではない。飼育される食用昆虫の令数、つまり、食用昆虫の脱皮回数(=食用昆虫のサイズ)が飼育領域3A→飼育領域3B→飼育領域3Cの順に大きくなっていればよく、飼育領域3A、3B、3Cのそれぞれで飼育される食用昆虫の令数は、任意に設定され得る。
【0039】
飼育装置1を用いて食用昆虫を飼育する場合、飼育担当者は、まず飼育領域3Aで食用昆虫の卵を孵化させると共に、孵化して誕生した食用昆虫を飼育する(ステップS1)。
【0040】
例えば、飼育担当者は、食用昆虫の産卵床(好ましくは孵化直前の産卵床)を飼育領域3Aに置いて食用昆虫の卵の孵化を待つ。そして、卵が孵化して食用昆虫が誕生すると、飼育担当者は、食用昆虫のための給水場及び給餌場を飼育領域3Aに設置し、及び、設置された給水場及び給餌場を適宜新しい給水場及び給餌場に交換する。これにより、複数(多数)の食用昆虫(の幼虫)が飼育領域3Aで飼育される。
【0041】
ここで、飼育担当者は、食用昆虫の産卵床を飼育領域3Aに置く際に、必要に応じて飼育領域3Aの床板7A上に適切な飼育床材を敷設してもよい。また、食用昆虫が飼育領域3Aで飼育されている間、第1隔壁部41の第1開口部11は、第1シャッタ部材12によって閉鎖されており、飼育領域3Aと飼育領域3Bとは、飼育領域3A内の食用昆虫が飼育領域3Bに移動しないように仕切られている。
【0042】
飼育領域3Aで食用昆虫が3令まで成長すると(ステップS2;YES)、飼育担当者は、飼育領域3Aと飼育領域3Bとを連通させる(ステップS3)。具体的には、飼育担当者は、第1シャッタ部材12を動作させて第1開口部11を開放することにより、飼育領域3A内の食用昆虫が飼育領域3Bに移動できるように飼育領域3Aと飼育領域3Bとを連通させる。
【0043】
次いで、飼育担当者は、飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に温度差を与えて飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに移動させる(ステップS4)。より正確に言えば、以下のようにして飼育領域3A内の食用昆虫に対して飼育領域3Bに移動するように促す。
【0044】
飼育担当者は、飼育領域3A内の食用昆虫に対して飼育領域3Bに移動するように促すことのできる温度差を飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に与える。換言すれば、飼育担当者は、飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに誘導するように飼育装置1を動作させる。具体的には、飼育担当者は、飼育領域3Aの温度調整機5Aを動作させ、飼育領域3Aの温度調整機5Aによって飼育領域3Aの温度を上昇又は下降させることにより、飼育領域3Aの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とする。食用昆虫の成育適温以外の温度は、例えば食用昆虫の成育適温よりも5℃以上高い温度又は5℃以上低い温度である。他方、飼育担当者は、飼育領域3Bの温度調整機5Bについては動作させない。上述のように、本実施形態において、飼育領域3Bの温度は食用昆虫の成育適温に保持されているからである。但し、必要であれば、飼育担当者は、飼育領域3Bの温度調整機5Bを動作させ、飼育領域3Bの温度調整機5Bによって飼育領域3Bの温度を上昇又は下降させることにより、飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温としてもよい。
【0045】
つまり、飼育担当者は、食用昆虫が現在いる飼育領域3Aの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とし、及び、飼育領域3Aに隣接して食用昆虫の移動先となる飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温に保持する(又は成育適温とする)。これにより、飼育担当者は、飼育領域3A内の食用昆虫に対して飼育領域3Bに移動するように促すことのできる温度差を飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に与えることができる。与えられる温度差は5℃以上であり、5℃以上の温度差が飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に与えられることで飼育領域3A内の食用昆虫が第1開口部11を通過して飼育領域3Bに移動する。
【0046】
なお、飼育担当者は、飼育領域3A内の食用昆虫に対して飼育領域3Bに移動するように促す(飼育領域3A内の食用昆虫を飼育領域3Bに移動させる)際に、必要に応じて飼育領域3Bの床板7B,7B上に適切な飼育床材を敷設してもよい。また、ステップS3とステップS4の順序を逆にして、飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に温度差を与えてから飼育領域3Aと飼育領域3Bとを連通させるようにしてもよい。
【0047】
飼育領域3A内の食用昆虫が飼育領域3Bに移動すると(ステップS5;YES)、飼育担当者は、第1シャッタ部材12を動作させて第1開口部11を閉鎖し、飼育領域3Aと飼育領域3Bとの連通を遮断する(ステップS6)。これにより、飼育領域3Bに移動した食用昆虫が飼育領域3Aに戻ることが防止される。また、飼育担当者は、飼育領域3Aの温度調整機5Aを停止させる。
【0048】
そして、飼育担当者は、飼育領域3Aで3令まで飼育された(3令まで成長した)食用昆虫を飼育領域3Bで飼育する(ステップS7)。
【0049】
具体的には、飼育担当者は、食用昆虫のための給水場及び給餌場を飼育領域3Bに設置し、及び、設置された給水場及び給餌場を適宜新しい給水場及び給餌場に交換する。これにより、飼育領域3Aで飼育され、且つ飼育領域3Aから飼育領域3Bに移動してきた複数(多数)の食用昆虫が飼育領域3Bで飼育される。
【0050】
また、飼育担当者は、飼育領域3Aを清掃する(ステップS8)。具体的には、飼育担当者は、飼育領域3Aの床板7Aを飼育容器2から取り外し、床板7A上の飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを除去(廃棄)する。また、飼育担当者は、トレイ8Aを飼育容器2から取り外し、トレイ8Aに回収された飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを除去(廃棄)する。そして、飼育担当者は、必要に応じて床板7A及びトレイ8Aを洗浄等した後、床板7A及びトレイ8Aを飼育容器2に再び装着する。
【0051】
その後、飼育領域3Bで食用昆虫が6令まで成長すると(ステップS9;YES)、飼育担当者は、飼育領域3Bと飼育領域3Cとを連通させる(ステップS10)。具体的には、飼育担当者は、第2シャッタ部材14を動作させて第2開口部13を開放することにより、飼育領域3B内の食用昆虫が飼育領域3Cに移動できるように飼育領域3Bと飼育領域3Cとを連通させる。
【0052】
次いで、飼育担当者は、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に温度差を与えて飼育領域3B内の食用昆虫を飼育領域3Cに移動させる(ステップS11)。より正確に言えば、飼育担当者は、以下のようにして飼育領域3B内の食用昆虫に対して飼育領域3Cに移動するように促す。
【0053】
飼育担当者は、飼育領域3B内の食用昆虫に対して飼育領域3Cに移動するように促すことのできる温度差を飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に与える。換言すれば、飼育担当者は、飼育領域3B内の食用昆虫を飼育領域3Cに誘導するように飼育装置1を動作させる。具体的には、飼育担当者は、飼育領域3Bの温度調整機5Bを動作させ、飼育領域3Bの温度調整機5Bによって飼育領域3Bの温度を上昇又は下降させることにより、飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とする。食用昆虫の成育適温以外の温度は、例えば食用昆虫の成育適温よりも5℃以上高い温度又は5℃以上低い温度である。他方、飼育担当者は、飼育領域3Cの温度調整機5Cについては動作させない。上述のように、本実施形態において、飼育領域3Cの温度は食用昆虫の成育適温に保持されているからである。但し、必要であれば、飼育担当者は、飼育領域3Cの温度調整機5Cを動作させ、飼育領域3Cの温度調整機5Cによって飼育領域3Cの温度を上昇又は下降させることにより、飼育領域3Cの温度を食用昆虫の成育適温としてもよい。
【0054】
つまり、食用昆虫を飼育領域3Aから飼育領域3Bに移動させる場合と同様に、飼育担当者は、食用昆虫が現在いる飼育領域3Bの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とし、及び、飼育領域3Bに隣接して食用昆虫の移動先となる飼育領域3Cの温度を食用昆虫の成育適温に保持する(又は成育適温とする)。これにより、飼育担当者は、飼育領域3B内の食用昆虫に対して飼育領域3Cに移動するように促すことのできる温度差を飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に与えることができる。与えられる温度差は5℃以上であり、5℃以上の温度差が飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に与えられることで飼育領域3B内の食用昆虫が第2開口部13を通過して飼育領域3Cに移動する。
【0055】
なお、ステップS10とステップS11の順序を逆にして、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に温度差を与えてから飼育領域3Bと飼育領域3Cとを連通させるようにしてもよい。また、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に与えられる温度差は、飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に与えられる温度差と同じでもよいし、異なってもよい。
【0056】
飼育領域3B内の食用昆虫が飼育領域3Cに移動すると(ステップS12;YES)、飼育担当者は、第2シャッタ部材14を動作させて第2開口部13を閉鎖し、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの連通を遮断する(ステップS13)。これにより、飼育領域3Cに移動した食用昆虫が飼育領域3Bに戻ることが防止される。また、飼育担当者は、飼育領域3Bの温度調整機5Bを停止させる。
【0057】
そして、飼育担当者は、飼育領域3Bで6令まで飼育された(6令まで成長した)食用昆虫を飼育領域3Cで飼育する(ステップS14)。
【0058】
具体的には、飼育担当者は、食用昆虫のための給水場及び給餌場を飼育領域3Cに設置し、及び、設置された給水場及び給餌場を適宜新しい給水場及び給餌場に交換する。これにより、飼育領域3Bで飼育され、且つ飼育領域3Bから飼育領域3Cに移動してきた複数(多数)の食用昆虫が飼育領域3Cで飼育される。
【0059】
また、飼育担当者は、飼育領域3Bを清掃する(ステップS15)。具体的には、飼育担当者は、飼育領域3Bの床板7B,7Bを飼育容器2から取り外し、床板7B,7B上の飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを除去(廃棄)する。また、飼育担当者は、トレイ8B、8Bを飼育容器2から取り外し、トレイ8B、8Bに回収された飼育床材、食用昆虫の死骸及び/又は食用昆虫の糞などを除去(廃棄)する。そして、飼育担当者は、必要に応じて床板7B,7B及びトレイ8B、8Bを洗浄等した後、床板7B,7B及びトレイ8B,8Bを飼育容器2に再び装着する。
【0060】
その後、飼育領域3Cで食用昆虫が成虫まで成長すると(ステップS16;YES)、飼育担当者は、例えば、以下のようにして飼育領域3C内の食用昆虫を出荷する(ステップS17)。
【0061】
飼育担当者は、図示省略の出荷用容器を飼育容器2の第10直立壁2j側に連結し、第3シャッタ部材16を動作させて第3開口部15を開放し、飼育領域3C内の食用昆虫が前記出荷用容器に移動できるように、第3開口部15を介して飼育領域3Cと前記出荷用容器の内部とを連通させる。そして、飼育担当者は、飼育領域3Cの温度調整機5Cを動作させ、飼育領域3Cの温度調整機5Cによって飼育領域3Cの温度を上昇又は下降させることにより、飼育領域3Cの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度とし、飼育領域3C内の食用昆虫を前記出荷用容器に移動させる。なお、飼育担当者は、飼育領域3Cの温度を食用昆虫の成育適温以外の温度としてから飼育領域3Cと前記出荷用容器の内部とを連通させるようにしてもよい。また、前記出荷用容器と飼育領域3Cとの間に生じる温度差は、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間に与えられる温度差及び飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間に与えられる温度差のいずれか一方又は両方と同じでもよいし、それらの両方と異なってもよい。
【0062】
飼育領域3C内の食用昆虫が前記出荷用容器に移動すると、飼育担当者は、第3シャッタ部材16を動作させて第3開口部15を閉鎖し、飼育領域3Cの温度調整機5Cを停止させ、前記出荷用容器を所定の出荷場所に移送する。
【0063】
そして、飼育担当者は、飼育領域3Cを清掃して(ステップS18)、飼育装置1を用いた食用昆虫の飼育を終了する。なお、飼育領域3Cの清掃は、飼育領域3Aの清掃及び飼育領域3Bの清掃と同様に行われるので、ここでの説明は省略する。
【0064】
実施形態に係る飼育装置1及びこれを用いた飼育方法によれば、飼育容器2内において食用昆虫を飼育する場所を飼育領域3A→飼育領域3B→飼育領域3Cと変更して食用昆虫を飼育することができる。このため、従来技術に比べて清潔な飼育環境で食用昆虫を飼育することが可能である。また、飼育領域の変更は、隣接する飼育領域の間(具体的には、飼育領域3Aと飼育領域3Bとの間、飼育領域3Bと飼育領域3Cとの間)に温度差を与えることで食用昆虫が自ら移動することによって、行われる。このため、飼育担当者が食用昆虫をある飼育領域から別の飼育領域に移し替える必要はない。したがって、飼育担当者の負担の増加や食用昆虫に与えるストレスの増加も抑制される。
【0065】
さらに、食用昆虫の飼育が飼育領域3A→飼育領域3B→飼育領域3Cの順に行われ、その順序で飼育領域が大きくなっている。すなわち、飼育領域3Bは飼育領域3Aよりも大きく形成され、飼育領域3Cは飼育領域3Bよりも大きく形成されている。つまり、飼育装置1は、食用昆虫の成長に合わせて飼育領域を大きくすることが可能に構成されている。このため、食用昆虫を適切な大きさの飼育領域で飼育することができ、食用昆虫が過密状態になることが防止される。
【0066】
なお、上述の実施形態は、主に昆虫が食用昆虫である場合、特に昆虫がコオロギである場合を対象としている。しかし、これに限られるものではない。飼育装置1で飼育される昆虫は、観賞用の昆虫、愛玩用の昆虫、実験・研究用の昆虫など、各種の用途に使用可能な昆虫であり得る。これらの場合、上記「食用昆虫」が単に「昆虫」又は「・・・用の昆虫」と読み替えられればよい。
【0067】
また、上述の実施形態において、飼育装置1は、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)を有している。しかし、これに限られるものではない。飼育装置1は、2つの飼育領域を有してもよいし、4つ以上の飼育領域を有してもよい。
【0068】
また、上述の実施形態においては、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)の大きさが異なっている。しかし、これに限られるものではない。全ての飼育領域の大きさが同じであってもよい。この場合、飼育領域の大きさは、食用昆虫の成虫の大きさを考慮して設定されるのが好ましい。あるいは、一部の飼育領域の大きさのみが異なっていてもよい。例えば、飼育領域3Aと飼育領域3Bとが同じ大きさであり、飼育領域3Cが飼育領域3A及び飼育領域3Bよりも大きくてもよい。
【0069】
また、上述の実施形態においては、温度調整機(温度調整機5A、温度調整機5B、温度調整機5C)が3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)のそれぞれに設置されている。しかし、これに限られるものではない。温度調整機(温度調整機5A、温度調整機5B、温度調整機5C)に加えて湿度調整機が3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)のそれぞれに設置されてもよい。あるいは、温度調整及び湿度調整が可能な空調機が3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)のそれぞれに設置されてもよい。
【0070】
また、上述の実施形態において、温度調整機5A、温度調整機5B及び温度調整機5Cは、外気を加温又は冷却して自身が設置された飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)に供給するように構成されている。すなわち、飼育装置1は、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)の雰囲気温度を上昇又は下降させるように構成されている。しかし、これに限られるものではない。飼育装置1は、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)の温度を上昇又は下降させるように構成されていればよく、3つの飼育領域の雰囲気温度に代えて又は加えて3つの飼育領域の他の場所等の温度を上昇又は下降させるように構成されてもよい。
【0071】
例えば、飼育装置1は、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)の床板(7A、7B,7B、7C,7C)の温度を上昇又は下降させるように構成されてもよい。この場合、飼育装置1において、飼育領域3Aには、床板7Aを加温又は冷却する床加温/冷却装置が温度調整機5Aに代えて又は加えて設置され得る。また、飼育領域3Bには、床板7B,7Bを加温又は冷却する床加温/冷却装置が温度調整機5Bに代えて又は加えて設置され得る。さらに、飼育領域3Cには、床板7C,7Cを加温又は冷却する床加温/冷却装置が温度調整機5Cに代えて又は加えて設置され得る。
【0072】
前記床加温/冷却装置は、特に限定されないが、例えば、温水供給部と、温水が流れる加温用配管と、冷水供給部と、冷水が流れる冷却用配管とを含み、加温用配管及び冷却用配管が床板の内部又は表面に配置されるように構成され得る。好ましくは、床加温/冷却装置は、床板の温度を検出する温度センサと、床板の目標温度を設定する温度設定部(図示省略)とをさらに含み、前記温度センサによって検出される床板の温度が前記目標設定部によって設定された目標温度となるように、温水を前記加温用配管に流し又は冷水を前記冷却用配管に流すように構成され得る。
【0073】
このように、飼育領域の雰囲気温度に代えて又は加えて飼育領域の床板の温度を上昇又は下降させることにより、隣接する飼育領域の間に温度差を与えるようにすると、食用昆虫の移動がさらに促進される可能性がある。
【0074】
[変形例]
次に、飼育装置1の変形例について説明する。まず、
図8は、実施形態に係る飼育装置1の飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)を上方から見た状態を模式的に示す図である。
図8に示されるように、実施形態に係る飼育装置1では、3つの飼育領域(飼育領域3A、飼育領域3B、飼育領域3C)が一列に並んで配置されており、飼育される食用昆虫が矢印A方向に移動する。
【0075】
(変形例1)
図9は、飼育装置の変形例1における飼育領域を上方から見た状態を模式的に示す図である。飼育装置の変形例1においては、3つの飼育領域30A,30A,30Aと、3つの飼育領域30B,30B,30Bと、飼育領域30Cとが設けられている。変形例1における飼育領域30Aは飼育装置1の飼育領域3Aに相当し、変形例1における飼育領域30Bは飼育装置1の飼育領域3Bに相当し、変形例1における飼育領域30Cは飼育装置1の飼育領域3Cに相当する。
【0076】
飼育装置の変形例1において、飼育領域3Cは、上面視で略三角形に形成されており、その各辺に飼育領域30Bが結合され、飼育領域3Cに結合された飼育領域30Bにさらに飼育領域30Aが結合されている。そして、例えば、各飼育領域30Aで主に初令~3令の食用昆虫が飼育され、各飼育領域30Bで主に3令~6令の食用昆虫が飼育され、飼育領域30Cで6令~成虫までの食用昆虫が飼育される。
【0077】
飼育装置の変形例1では、隣接する飼育領域の間に温度差が与えられることにより、食用昆虫が矢印B方向に移動し、食用昆虫が矢印C方向に移動し、及び、食用昆虫が矢印D方向に移動する。つまり、飼育装置の変形例1では、食用昆虫を3つのグループ(G1、G2、G3)に分けて飼育することが可能である。飼育領域30Cは、3つのグループ(G1、G2、G3)で共用される。
【0078】
飼育装置の変形例1においては、3つのグループ(G1、G2、G3)の食用昆虫の飼育(開始)時期を適切にずらすことにより、3つのグループ(G1、G2、G3)の食用昆虫を順次成虫まで成長させて出荷することができる。したがって、食用昆虫の効率的な出荷が可能である。
【0079】
(変形例2)
図10は、飼育装置の変形例2における飼育領域を上方から見た状態を模式的に示す図である。飼育装置の変形例2においては、複数の飼育領域、ここでは6つの飼育領域31A~31Fが設けられている。複数(6つ)の飼育領域31A~31Fの大きさは、同じであり、食用昆虫の成虫の大きさを考慮して設定されている。複数(6つ)の飼育領域31A~31Fは、上面視で環状に配置されている。
【0080】
飼育装置の変形例2では、隣接する飼育領域の間に温度差が与えられることにより、飼育される食用昆虫が矢印E方向に移動する。また、飼育装置の変形例2では、複数(6つ)の飼育領域31A~31Fのうちの一つの飼育領域を除いた5つの飼育領域で食用昆虫が飼育され、前記一つの飼育領域は順次変更される。
【0081】
例えば、飼育装置の変形例2においては、飼育領域31Fを除いた飼育領域31A~31Eで主に初令~3令の食用昆虫が飼育される。このとき、飼育領域31Fは、食用昆虫の飼育に使用されない空き領域になっている。
【0082】
飼育領域31A~31Eで食用昆虫が3令まで成長すると、まず飼育領域31F(空き領域)と飼育領域31Eとの間に温度差を与えられ、飼育領域31E内の食用昆虫が飼育領域31Fに移動する(飼育領域31Eが空き領域になる)。食用昆虫の移動後に飼育領域3Eが清掃される。次に飼育領域31Eと飼育領域31Dとの間に温度差が与えられ、飼育領域31D内の食用昆虫が飼育領域31Eに移動する(飼育領域31Dが空き領域になる)。食用昆虫の移動後に飼育領域31Dが清掃される。・・・最後に、飼育領域31Bと飼育領域31Aとの間に温度差が与えられ、飼育領域31A内の食用昆虫が飼育領域31Bに移動する(飼育領域31Aが空き領域になる)。また、食用昆虫の移動後に飼育領域31Aが清掃される。こうして飼育領域31Fを除いた飼育領域31A~31Eで3令まで成長した食用昆虫は、隣接する飼育領域31B~31Fに移動する。そして、今度は(最終的に空き領域となった)飼育領域31Aを除いた飼育領域31B~31Fで主に3令~6令の食用昆虫が飼育される。
【0083】
飼育領域31B~31Fで食用昆虫が6令まで成長すると、まず飼育領域31A(空き領域)と飼育領域31Fとの間に温度差が与えられ、飼育領域31F内の食用昆虫が飼育領域31Aに移動する(飼育領域31Fが空き領域になる)。食用昆虫の移動後に飼育領域3Fが清掃される。次に飼育領域31Fと飼育領域31Eとの間に温度差が与えられ、飼育領域31E内の食用昆虫が飼育領域31Fに移動する(飼育領域31Eが空き領域になる)。食用昆虫の移動後に飼育領域31Eが清掃される。・・・最後に、飼育領域31Cと飼育領域31Bとの間に温度差が与えられ、飼育領域31B内の食用昆虫が飼育領域31Cに移動する(飼育領域31Bが空き領域になる)。また、食用昆虫の移動後に飼育領域31Bが清掃される。こうして飼育領域31Aを除いた飼育領域31B~31Fで6令まで成長した食用昆虫は、隣接する飼育領域31C~31Aに移動する。そして、今度は(最終的に空き領域になった)飼育領域31Bを除いた飼育領域31C~31Aで主に6令~成虫までの食用昆虫が飼育される。そして、飼育領域31C~31Aで食用昆虫が成虫まで成長すると、食用昆虫が出荷される。
【0084】
飼育装置の変形例2においては、一つの飼育装置によって複数(=飼育領域の数-1)のグループの食用昆虫を成虫まで成長させて出荷することができる。したがって、食用昆虫のさらに効率的な出荷が可能である。
【0085】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0086】
1…飼育装置、2…飼育容器、3A,3B,3C…飼育領域、5A,5B,5C…温度調整機、6A,6B,6C…開閉扉、7A,7B,7C…床板、8A,8B,8C…トレイ、11…第1開口部、12…第1シャッタ部材、13…第2開口部、14…第2シャッタ部材、15…第3開口部、16…第3シャッタ部材、41…第1隔壁部、42…第2隔壁部