(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007454
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】ガラス組成物
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20240110BHJP
C03C 13/00 20060101ALI20240110BHJP
C03B 37/00 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C13/00
C03B37/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106513
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022105143
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 浩輔
【テーマコード(参考)】
4G021
4G062
【Fターム(参考)】
4G021AA00
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(57)【要約】
【課題】 耐アルカリ性に優れた新たなガラス組成物を提供する。
【解決手段】 質量%で表示して45≦SiO2≦65、2≦B2O3≦10、5≦Al2O3≦14、10≦CaO≦30、0≦(Li2O+Na2O+K2O)≦4、0≦ZrO2≦7、の成分を含有するガラス組成物を提供する。このガラス組成物は、ガラス繊維、ガラスフィラーなどとして使用することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で表示して、
45≦SiO2≦65、
2≦B2O3≦10、
5≦Al2O3≦14、
10≦CaO≦30、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)≦4、
0≦ZrO2≦7、
の成分を含有するガラス組成物。
【請求項2】
質量%で表示して、3≦B2O3≦7.5、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
質量%で表示して、8≦Al2O3≦13、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項4】
質量%で表示して、52≦(SiO2+B2O3+Al2O3)≦80、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項5】
質量%で表示して、0.1≦MgO≦3、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項6】
質量%で表示して、15≦CaO≦27、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項7】
質量%で表示して、0≦(Li2O+Na2O+K2O)<2、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項8】
質量%で表示して、0.2<(Li2O+Na2O+K2O)<2、の成分を含有する、請求項7に記載のガラス組成物。
【請求項9】
質量%で表示して、0.1≦ZrO2≦7、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項10】
質量%で表示して、0≦TiO2≦6、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項11】
質量%で表示して、0≦TiO2≦2、の成分を含有する、請求項10に記載のガラス組成物。
【請求項12】
質量%で表示して、0.1≦SrO≦10、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項13】
質量%で表示して、0≦ZnO≦10、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項14】
質量%で表示して、0.1≦T-Fe2O3<10、の成分を含有する、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項15】
粘度が1000dPa・secであるときの温度を作業温度としたとき、前記作業温度が1240℃以下である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項16】
粘度が1000dPa・secであるときの温度を作業温度としたとき、前記作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが0℃以上である、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項17】
アルカリ溶出量が0.01~0.40mgである、請求項1に記載のガラス組成物。
ただし、前記アルカリ溶出量は、標準ふるい420μmを通過し、かつ標準ふるい250μmを通過しない、質量を前記ガラス組成物の比重と同じ値のグラム数とした、ガラス粉末を100℃の蒸留水50mLに1時間浸漬し、前記蒸留水に溶出したアルカリ成分を0.01Nの硫酸で滴定して定量し、定量した前記アルカリ成分をNa2Oに換算して得た質量である。
【請求項18】
ΔWが0.1~3.0質量%である、請求項1に記載のガラス組成物。
ただし、前記ΔWは、補助ふるい710μmおよび標準ふるい600μmを通過し、かつ標準ふるい425μmを通過しない、質量を前記ガラス組成物の比重と同じ値のグラム数とした、ガラス粉末を80℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液100mLに72時間浸漬したときの質量減少率である。
【請求項19】
ヤング率が85~100GPaである、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のガラス組成物を含む、ガラスフィラー。
【請求項21】
鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズ、フラットファイバー、およびファインフレークからなる群から選ばれる少なくとも1種に該当する、請求項20に記載のガラスフィラー。
【請求項22】
請求項1~19のいずれか1項に記載のガラス組成物を含む、ガラス繊維。
【請求項23】
ガラス長繊維である請求項22に記載のガラス繊維。
【請求項24】
ガラス短繊維である請求項22に記載のガラス繊維。
【請求項25】
フィラメント、ストランド、ヤーン、ロービング、ガラステープ、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラスクロス、スライバー、ステープルヤーン、ガラスステープルクロス、およびガラスマットからなる群から選ばれる少なくとも1つに該当する、請求項22に記載のガラス繊維。
【請求項26】
請求項22に記載のガラス繊維を含み、
ゴム補強用コード、ゴム製品、不織布、積層体、プリプレグ、強化プラスチック、電子基板、無機硬化体、フィルター、断熱材、吸音材、およびバッテリーセパレータからなる群より選択される少なくとも1つに該当する、ガラス繊維含有製品。
【請求項27】
請求項20に記載のガラスフィラーを含み、
樹脂積層体、強化プラスチック、塗料、インク、電子基板、無機硬化体、および化粧品からなる群より選択される少なくとも1つに該当する、ガラスフィラー含有製品。
【請求項28】
請求項1~19のいずれか1項に記載のガラス組成物を熔融する工程と、熔融した前記ガラス組成物をガラス繊維へと成形する工程と、を含む、ガラス繊維の製造方法。
【請求項29】
請求項1~19のいずれか1項に記載のガラス組成物を熔融する工程と、熔融した前記ガラス組成物をガラスフィラーへと成形する工程と、を含む、ガラスフィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物に関し、さらには、ガラス組成物を含むガラス繊維およびガラスフィラーに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は各種製品において補強材として使用されている。ガラス繊維に限らず、ガラスフィラーも補強材として使用されている。ガラス繊維およびガラスフィラーは機能材料として使用されることもある。ガラス繊維は断熱材、フィルター、バッテリーセパレータなどにおいて、ガラスフィラーはインク、塗料などにおいて、その製品に必須の、または望ましい機能を奏しうる。
【0003】
ガラス繊維およびガラスフィラーには耐アルカリ性が要求されることがある。耐アルカリ性は、ガラス繊維補強セメントにおけるガラス繊維などの使用において特に重視されている。耐アルカリ性ガラス組成物としてはARガラスが知られている。ARガラスは、質量%表示で、16.8%の酸化ジルコニウム(ZrO2)と、14.5%のアルカリ金属酸化物とを含む。特許文献1には、ARガラスの類似組成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス繊維および/またはガラスフィラーにより補強および/または機能付与がなされた製品の種類および用途は拡大を続けている。これに伴い、ガラス組成物の耐アルカリ性は、セメント以外の用途においてもより重視されつつある。本発明は、耐アルカリ性に優れ、ガラス繊維および/またはガラスフィラーとして幅広い用途で使用することに適した新たなガラス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、二酸化ケイ素(SiO2)、三酸化二ホウ素(B2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化カルシウム(CaO)、アルカリ金属酸化物および酸化ジルコニウム(ZrO2)の含有量の範囲を適切に定めることにより、このようなガラス組成物が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、
質量%で表示して、
45≦SiO2≦65、
2≦B2O3≦10、
5≦Al2O3≦14、
10≦CaO≦30、
0≦(Li2O+Na2O+K2O)≦4、
0≦ZrO2≦7、
の成分を含有するガラス組成物を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐アルカリ性に優れ、ガラス繊維および/またはガラスフィラーとして幅広い用途で使用することに適した新たなガラス組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明するが、以下の説明は本発明を特定の実施形態に限定する趣旨ではない。本明細書において、「実質的に含有しない」および「実質的に含有されない」は、含有率が、0.1質量%未満、0.05質量%未満、0.01質量%未満、さらに0.005質量%未満、特に0.003質量%未満、場合によっては0.001質量%未満であることを意味する。「実質的に」は、ガラス原料、製造装置、成形装置などに由来する微量の不純物の含有を許容する趣旨である。「主成分」は、質量基準で含有率が最も大きい成分を意味する。「T-Fe2O3」は、三酸化二鉄(Fe2O3)に換算した全酸化鉄を意味する。「アルカリ金属酸化物」は、酸化リチウム(Li2O)、酸化ナトリウム(Na2O)および酸化カリウム(K2O)を意味する。以下に述べる含有率の上限および下限は、任意に組み合わせることができる。また、「ガラス繊維」は、ガラス繊維のみならずその加工品、例えば、ガラス繊維に由来する形状を有する粒体、ガラス繊維を含む成形体、およびガラス繊維の集合体を含む意味で使用する。
【0010】
以下、本実施形態においてガラス組成物を構成する各成分について説明する。
【0011】
<ガラス組成物の成分>
(SiO2)
二酸化ケイ素(SiO2)は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラス組成物の主成分である。また、SiO2は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分であり、耐酸性を向上させる成分である。SiO2の含有率が45質量%以上65質量%以下では、ガラスの製造が難しくなるようなガラスの失透温度の上昇が抑えられるとともに、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が高くなる。また、この範囲ではガラスの融点が過度に高くなることがなく、原料を熔融する際の均一性が増す。SiO2の含有率の下限は、46質量%以上、47質量%以上、48質量%以上でありうるし、49質量%以上、50質量%以上、50.5質量%以上、51質量%以上、52質量%以上、53質量%以上、54質量%以上、55質量%以上、56質量%以上、57質量%以上、58質量%以上、59質量%超でありうる。SiO2の含有率の上限は、64質量%以下でありうるし、63質量%以下、62質量%以下、61質量%以下、60質量%以下、59質量%以下、58質量%以下、57質量%以下、56質量%以下、55質量%以下でありうる。
【0012】
(B2O3、Al2O3)
三酸化二ホウ素(B2O3)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、B2O3は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもある。一方で、過度のB2O3の含有は、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性を低下させる。B2O3の含有率が2質量%以上10質量%以下では、ガラスの製造が難しくなるようなガラスの失透温度の上昇が抑えられるとともに、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が高くなる。B2O3の含有率の下限は、2.5質量%以上、3質量%以上、3質量%超、3.1質量%以上でありうる。B2O3の含有率の上限は、9質量%以下でありうるし、8質量%以下、7.5質量%以下、7質量%以下、6質量%以下、5.5質量%以下、5質量%以下、4.5質量%以下、4質量%以下でありうる。
【0013】
酸化アルミニウム(Al2O3)は、ガラスの骨格を形成する成分である。また、Al2O3は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分でもあり、ガラスの耐水性を向上させる成分である。一方で、過度のAl2O3の含有は、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性を低下させる。Al2O3の含有率が5質量%以上14質量%以下では、ガラスの製造が難しくなるようなガラスの失透温度の上昇が抑えられるとともに、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が高くなる。また、ガラスの融点が過度に高くなることがなく、原料を熔融する際の均一性が増す。Al2O3の含有率の下限は、6質量%以上でありうるし、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、さらには10質量%以上でありうる。Al2O3の含有率の上限は、13.9質量%以下、13.5質量%以下、13質量%以下、12.9質量%以下、12.6質量%以下、12.5質量%以下でありうるし、さらには12質量%未満、11.9質量%以下、11.5質量%以下、11質量%以下でありうる。Al2O3の含有率の上限は、10.5質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。
【0014】
B2O3およびAl2O3の含有率の和(B2O3+Al2O3)が8質量%以上20質量%以下では、失透温度の過度な上昇を抑制しながら熔融ガラスの失透温度および粘度を、ガラスの製造に適した範囲とすることができる。また、この範囲ではガラスの耐アルカリ性を向上させることも可能となる。(B2O3+Al2O3)の下限は、9質量%以上でありうるし、10質量%以上、11質量%以上、さらには12質量%以上でありうる。(B2O3+Al2O3)の上限は、19質量%以下でありうるし、さらには18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下でありうる。
【0015】
(CaO)
酸化カルシウム(CaO)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。CaOの含有率が10質量%以上30質量%以下では、失透温度の過度な上昇を抑制しながらガラスの失透温度および熔融時の粘度を、ガラスの製造に適した範囲とすることができる。CaOの含有率の下限は、11質量%以上でありうるし、12質量%以上、13質量%以上、14質量%以上、15質量%以上、16質量%以上、17質量%以上、さらには18質量%以上でありうる。CaOの含有率の上限は、29質量%以下、28質量%以下でありうるし、27質量%以下、26質量%以下、25質量%以下、さらには24質量%以下、23質量%以下、22質量%以下でありうる。
【0016】
(Li2O、Na2O、K2O)
アルカリ金属酸化物(Li2O、Na2O、K2O)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。アルカリ金属酸化物の含有率の合計(Li2O+Na2O+K2O)の値が0質量%以上4質量%以下では、失透温度の過度な上昇を抑制しながら熔融ガラスの失透温度および粘度を、ガラスの製造に適した範囲とすることができる。また、ガラスの融点の上昇を抑え、ガラス原料のより均一な熔融を実施できながらも、ガラス転移温度が過度に低下することなく、高いガラスの耐熱性を確保できる。さらに、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性が高くなる。一方で、過度のアルカリ金属酸化物の含有は、ガラスのヤング率やガラスフィラーの弾性率を低下させる。(Li2O+Na2O+K2O)の下限は、0質量%より大きくてもよいし、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.2質量%超、さらには0.3質量%以上でありうる。(Li2O+Na2O+K2O)の上限は、3質量%以下でありうるし、2質量%未満、1.5質量%以下、1.2質量%以下、さらに1質量%未満でありうる。ガラス組成物はアルカリ金属酸化物を実質的に含有しなくてもよい。Li2O、Na2O、およびK2Oのそれぞれは任意成分である。言い換えるとこれら各成分の含有率の下限は0であってもよい。
【0017】
酸化リチウム(Li2O)の含有率の下限は、0.1質量%以上でありうるし、0.2質量%以上、0.3質量%以上、さらには0.4質量%以上でありうる。Li2Oの含有率の上限は、4質量%以下でありうるし、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、さらには0.8質量%以下でありうる。
【0018】
酸化ナトリウム(Na2O)の含有率の下限は、0.1質量%以上でありうるし、0.2質量%以上でありうる。Na2Oの含有率の上限は、4質量%以下でありうるし、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、さらには0.8質量%以下でありうる。
【0019】
酸化カリウム(K2O)の含有率の下限は、0.1質量%以上でありうるし、0.2質量%以上でありうる。K2Oの含有率の上限は、4質量%以下でありうるし、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、1.2質量%以下、1質量%以下、1質量%未満、さらには0.8質量%以下でありうる。
【0020】
(SiO2+B2O3+Al2O3)
ガラスの耐アルカリ性に関し、SiO2、B2O3およびAl2O3の含有率の合計(SiO2+B2O3+Al2O3)の値が重要となる。ガラスの耐アルカリ性が向上する観点からは、(SiO2+B2O3+Al2O3)の下限は、52質量%以上でありうるし、56質量%以上、58質量%以上、60質量%以上、61質量%以上、62質量%以上、63質量%以上、64質量%以上、65質量%以上、66質量%以上、67質量%以上、68質量%以上、69質量%以上、70質量%以上であってもよい。また、(SiO2+B2O3+Al2O3)の上限は、80質量%以下でありうるし、79質量%以下、78質量%以下、77質量%以下、76質量%以下、75質量%以下、74質量%以下、73質量%以下、72質量%以下、71質量%以下、70質量%以下であってもよい。
【0021】
(MgO)
ガラス組成物は酸化マグネシウム(MgO)をさらに含有しうる。MgOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。一方で、過度にMgOを含有させるとガラスの失透温度が上昇し、耐アルカリ性が低下する。MgOの含有率の下限は、0.1質量%以上でありうるし、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上、さらには2質量%以上でありうる。MgOの含有率の上限は、10質量%以下でありうるし、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2.8質量%以下、2.5質量%以下でありうる。
【0022】
(SrO)
ガラス組成物は酸化ストロンチウム(SrO)をさらに含有しうる。SrOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。一方で、過度のSrOの含有はガラスのヤング率やガラスフィラーの弾性率を低下させ、またガラスの耐酸性を低下させる。SrOの含有率の下限は、0.1質量%以上でありうるし、0.5質量%以上、1質量%以上、さらには2質量%以上、5質量%以上、さらには8質量%以上でありうる。SrOの含有率の上限は、10質量%以下でありうるし、9質量%以下、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、さらには3.5質量%以下でありうる。SrOの含有率の上限は、2質量%以下であってもよく、1質量%以下、0.5質量%以下、さらには0.1質量%以下であってもよい。ガラス組成物はSrOを実質的に含有しなくてもよい。
【0023】
(BaO)
ガラス組成物は酸化バリウム(BaO)をさらに含有しうる。BaOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。一方で、過度のBaOの含有はガラスのヤング率やガラスフィラーの弾性率を低下させ、またガラスの耐酸性を低下させる。BaOの含有率の上限は、10質量%以下でありうるし、5質量%以下、2質量%以下、さらには0.1質量%未満でありうる。ガラス組成物はBaOを実質的に含有しなくてもよい。
【0024】
(ZnO)
ガラス組成物は酸化亜鉛(ZnO)をさらに含有しうる。ZnOは、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。ただしZnOは、その原料が相対的に高価でもあるため、多量に含有させると原料コストの上昇を招く。ZnOの含有率の上限は、10質量%以下でありうるし、5質量%以下、2質量%以下、さらには0.1質量%以下でありうる。ガラス組成物はZnOを実質的に含有しなくてもよい。ZnOの含有率の下限は、0.1質量%以上であってもよく、0.5質量%以上、1質量%以上であってもよい。
【0025】
(TiO2)
ガラス組成物は二酸化チタン(TiO2)をさらに含有しうる。TiO2は、ガラスの熔融性および化学的耐久性を向上させ、ガラスの紫外線吸収特性を向上させる成分である。また、適量のTiO2は、ガラスの耐酸性や耐水性を向上させる。ただしTiO2は、その原料が相対的に高価でもあるため、多量に含有させると原料コストの上昇を招く。また、過度にTiO2を含有させるとガラスの失透温度が上昇する。TiO2の含有率の下限は、0.1質量%以上でありうる。TiO2の含有率の上限は、10質量%以下でありうるし、8質量%以下、6質量%以下、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下、1.5質量%以下、1質量%以下、さらには0.5質量%以下でありうる。ガラス組成物はTiO2を実質的に含有しなくてもよい。
【0026】
(ZrO2)
酸化ジルコニウム(ZrO2)は、ガラス形成時の失透温度および粘度を調整する成分である。また、ZrO2は、ガラスの耐酸性や耐アルカリ性を向上させる成分である。ただしZrO2は、その原料が相対的に高価でもあるため、多量に含有させると原料コストの上昇を招く。また、過度にZrO2を含有させるとガラスの失透温度が上昇する。ZrO2の含有率の下限は、0.1質量%以上、0.5質量%以上、さらには1質量%以上でありうる。ZrO2の含有率の上限は、7質量%以下でありうるし、6質量%未満、5質量%以下、4質量%以下、3質量%以下、2質量%以下でありうる。ZrO2の含有率の上限は、1質量%以上であってもよく、0.5質量%以下、さらに0.1質量%以上であってもよい。ガラス組成物はZrO2を実質的に含有しなくてもよい。
【0027】
(Fe)
ガラス組成物は酸化鉄をさらに含有しうる。鉄(Fe)は、通常、Fe2+またはFe3+の状態で存在する。Fe3+はガラスの紫外線吸収特性を高める成分であり、Fe2+はガラスの熱線吸収特性を高める成分である。Feは、意図的に含ませなくとも、工業用原料により不可避的に混入する場合がある。Feの含有量が少なければ、ガラスの着色を防止することができる。Feの含有率の上限は、T-Fe2O3により表示して10質量%未満でありうるし、8質量%以下、6質量%以下、4質量%以下、2質量%以下、1質量%未満、0.5質量%未満、0.4質量%以下、0.3質量%以下でありうる。Feの含有率の下限は、T-Fe2O3により表示して0.1質量%以上、0.15質量%以上、さらに0.2質量%以上でありうる。Feの含有率の上限は、T-Fe2O3により表示して0.2質量%以下であってもよく、さらに0.1質量%以下であってもよい。ガラス組成物はT-Fe2O3を実質的に含有しなくてもよい。Feの含有率の下限は、T-Fe2O3により表示して0.8質量%以上であってもよく、0.9質量%以上、1質量%以上、1.1質量%以上、1.2質量%以上であってもよい。特にアルカリ金属酸化物の含有率が低いガラス組成において、微量の酸化鉄はガラスの清澄の促進に寄与しうる。
【0028】
(F2、Cl2)
ガラス組成物はフッ素(F2)および塩素(Cl2)をさらに含有しうる。F2は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。F2の含有率の上限は、5質量%以下でありうるし、2質量%以下、1質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、0.6質量%以下、0.5質量%以下、0.45質量%以下、0.4質量%以下、0.35質量%以下、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.15質量%以下、さらには0.1質量%以下でありうる。ガラス組成物はF2を実質的に含有しなくてもよい。
【0029】
Cl2は、揮発し易いため、溶融時に飛散する可能性があるとともに、ガラス中の含有量を管理し難いという問題もある。Cl2の含有率の上限は、5質量%以下でありうるし、2質量%以下、1質量%以下、0.5質量%以下、0.2質量%以下、さらには0.1質量%以下でありうる。ガラス組成物はCl2を実質的に含有しなくてもよい。
【0030】
(その他の成分)
ガラス組成物は、その他の成分として、P2O5、Hf2O3、Ga2O3、La2O3、CeO2、Pr2O3、Nd2O3、Pm2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3、WO3、Nb2O5、Sc2O3、Y2O3、MoO3、Ta2O5、MnO2およびCr2O3から選ばれる少なくとも1種を、それぞれ0質量%以上5質量%以下の含有率で含有しうる。これらの成分の許容される含有率は、それぞれについて2質量%未満でありうるし、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、さらには0.01質量%未満でありうる。これらの成分の許容される含有率の合計は、5質量%以下でありうるし、2%質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、さらには0.1質量%未満でありうる。ただし、上記その他の成分は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。また、ライタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の酸化物は、実質的に含有されていなくてもよい。
【0031】
また、ガラス組成物は、添加物として、SO3、Br2、I2、SnO2、As2O3およびSb2O3から選ばれる少なくとも1種を、それぞれ0質量%以上1質量%以下の含有率で含有しうる。これらの成分の許容される含有率は、それぞれについて0.5質量%未満でありうるし、0.2質量%未満、さらには0.1質量%未満でありうる。これらの成分の許容される含有率の合計は、1質量%以下でありうるし、0.5%質量%未満、0.2質量%未満、さらには0.1質量%未満でありうる。ただし、上記その他の成分は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。なお、SnO2の含有率は、T-SnO2により表示した値である。
【0032】
ガラス組成物は、H2O、OH、H2、CO2、CO、He、Ne、ArおよびN2を、それぞれ0質量%以上0.1質量%以下の含有率で含有しうる。これらの成分の許容される含有率は、それぞれについて0.05質量%未満でありうるし、0.03質量%未満、さらには0.01質量%未満でありうる。これらの成分の許容される含有率の合計は、0.1質量%以下でありうるし、0.05%質量%未満、0.03質量%未満、さらには0.01質量%未満でありうる。ただし、上記その他の成分は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。
【0033】
ガラス組成物は、微量の貴金属元素を含有していてもよい。例えば、Pt、Rh、Au、Osなどの貴金属元素を、それぞれ0質量%以上0.1質量%以下の含有率で含むことができる。これらの成分の許容される含有率は、それぞれについて0.1質量%未満でありうるし、0.05質量%未満、0.03質量%未満、さらには0.01質量%未満でありうる。これらの成分の許容される含有率の合計は、0.1質量%以下でありうるし、0.05%質量%未満、0.03質量%未満、さらには0.01質量%未満でありうる。ただし、上記その他の成分は、それぞれ実質的に含有されていなくてもよい。
【0034】
ガラス組成物は、CuOを実質的に含有しない組成でありうる。また、ガラス組成物は、CoOを実質的に含有しない組成でありうる。ガラス組成物は、BaOを実質的に含有しない組成でありうる。ガラス組成物は、P2O5を実質的に含有しない組成でありうる。ガラス組成物は、BaOおよびP2O5を実質的に含有しない組成でありうる。BaOおよびP2O5を実質的に含有しない場合、P2O5の含有率は0.01質量%未満であってもよく、さらにAl2O3の含有率は13質量%以下であってもよい。
【0035】
<特性>
本実施形態のガラス組成物がとりうる特性について、以下、説明する。
(熔融特性)
熔融ガラスの粘度が1000dPa・sec(1000poise)となるときの温度は、当該ガラスの作業温度と呼ばれ、ガラスの成形に最も適する温度である。ガラス繊維およびガラスフィラーを製造する場合、ガラスの作業温度が1000℃以上であれば、ガラス繊維径等の寸法のばらつきを小さくできる。作業温度が1240℃以下であれば、ガラスを熔融する際の燃料費を低減でき、ガラス製造装置が熱による腐食を受け難くなり、装置寿命が延びる。作業温度の下限は、1000℃以上でありうるし、1050℃以上、1080℃以上、1100℃以上、1120℃以上、さらには1140℃以上でありうる。作業温度の上限は、1240℃以下でありうるし、1230℃以下、1220℃以下、1210℃以下、さらには1200℃以下でありうる。
【0036】
作業温度から失透温度を差し引いた温度差ΔTが大きいほど、ガラス成形時に失透が生じ難く、均質なガラスを高い歩留りで製造できる。ΔTは0℃以上でありうるし、10℃以上、20℃以上、30℃以上、40℃以上、さらには50℃以上でありうる。一方、ΔTが200℃以下であれば、ガラス組成の調整が容易になる。ΔTは200℃以下でありうるし、180℃以下、さらには160℃以下でありうる。なお、失透温度は、熔融ガラス素地中に結晶が生成し、成長しはじめるときの温度である。
【0037】
(ガラス転移温度)
ガラス転移温度(ガラス転移点)は、ガラスの耐熱性の指標となる。ガラスを含有する樹脂組成物が熱処理に供される場合には、高いガラス転移温度が望まれる。ガラス転移温度の下限は、550℃以上、580℃以上、600℃以上、さらに610℃以上でありうる。ガラス転移温度の上限は、800℃以下、780℃以下、760℃以下、750℃以下、さらに740℃以下でありうる。
【0038】
(ヤング率)
ガラス繊維およびガラスフィラーはガラス組成物のヤング率が高いほど弾力性が良く、補強された製品の機械特性が向上する。機械特性の向上は、補強以外を主目的としてガラス繊維およびガラスフィラーを配合する製品においても望ましいことがある。ここで、ヤング率(GPa)は、通常の超音波法により、ガラス中を伝播する弾性波の縦波速度と横波速度とを測定し、別にアルキメデス法により測定したガラスの密度とから求めることができる。このヤング率の下限は85GPa以上でありうるし、86GPa以上、87GPa以上、88GPa以上、さらには89GPa以上でありうる。ヤング率の上限は好ましくは100GPa以下でありうるし、99GPa以下、98GPa以下、97GPa以下、96GPa以下、さらには95GPa以下でありうる。本実施形態のガラス組成物は、後述する実施例および比較例から把握できるとおり、EガラスやARガラスと比較して、高いヤング率を有しうる。
【0039】
(化学的耐久性)
ガラス組成物が含有する各成分の含有率が上述で規定した組成範囲内にあれば、ガラスは耐水性、耐アルカリ性などの化学的耐久性に優れる。耐水性の指標としては、後述するアルカリ溶出量が採用され、このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。ガラス組成物がセメントの補強材として用いられる場合、ガラス組成物のアルカリ溶出量が0.40mg以下であれば、性能の低下が引き起こされることがない。したがって、ガラス組成物のアルカリ溶出量は、0.40mg以下が好ましく、0.35mg以下がより好ましく、0.30mg以下が最も好ましい。本実施形態により実現できるアルカリ溶出量は、例えば、0.01~0.40mgである。
【0040】
耐アルカリ性の指標としては、後述する質量減少率ΔWが採用され、このΔWが小さいほど耐アルカリ性が高いことを示す。高い耐アルカリ性が必要なセメントの補強材として用いられる場合においてさえ、ガラス組成物のΔWが3.0質量%以下であれば、性能の低下が引き起こされることがない。ガラス組成物のΔWは、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下が最も好ましい。その他の用途においても、この程度の耐アルカリ性は実用性のあるガラス組成物を提供する目安となる。本実施形態により実現できるΔWは、例えば、0.1~3.0質量%である。
【0041】
<ガラスフィラー>
本実施形態のガラスフィラーは、本実施形態のガラス組成物を含む。本実施形態のガラスフィラーは、本実施形態のガラス組成物により構成されていてもよい。ガラスフィラーは、ガラス繊維に相当しないものであってもよく、例えば、鱗片状ガラス、ガラス粉末、ガラスビーズ、およびファインフレークからなる群から選ばれる少なくとも1種に該当する。ガラスフィラーは、その形状によっては上記の呼び名の2種またはそれ以上に該当することがある。ガラスフィラーは、ガラス繊維を所望の形状および/またはサイズに成形したものでもよく、例えば、チョップドストランド、ミルドファイバー、フラットファイバーなどであってもよい。
【0042】
以上より、ガラスフィラーは、鱗片状ガラス、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラス粉末、ガラスビーズ、フラットファイバー、およびファインフレークからなる群から選ばれる少なくとも1種に該当するものであってもよい。
【0043】
<ガラス繊維>
本実施形態のガラス繊維は、本実施形態のガラス組成物を含む。本実施形態のガラス繊維は、本実施形態のガラス組成物により構成されていてもよい。ガラス繊維は、長繊維(continuous glass fiber)であってもよく、短繊維(glass wool)であってもよい。ガラス繊維は、例えばガラス長繊維が切断された粒体、より具体的にはガラス長繊維に由来する柱状の粒体であってもよい。粒体としては、チョップドストランドおよびミルドファイバーが挙げられる。ガラス繊維は、例えば、複数のガラス長繊維および/またはガラス短繊維の集合体であってもよく、複数のガラス長繊維および/またはガラス短繊維を含む成形体であってもよい。集合体および成形体としては、ストランド、ヤーン、ロービング、ガラステープ、スライバー、ステープルヤーン、ステープルクロス、ガラスマットなどが挙げられる。
【0044】
ガラス繊維は、フィラメント(単繊維)、ストランド、ヤーン、ロービング、ガラステープ、チョップドストランド、ミルドファイバー、ガラスクロス、スライバー、ステープルヤーン、ガラスステープルクロス、およびガラスマットからなる群から選ばれる少なくとも1つに該当するものであってもよい。
【0045】
<ガラスフィラーまたはガラス繊維に相当する粒体>
以下、ガラスフィラーまたはガラス繊維に相当する粒体について、その用語の範囲を明確にするべく、説明を追加する。粒体も、その形状によっては2種またはそれ以上の呼び名に該当することがある。
【0046】
鱗片状ガラスは、典型的には、平均厚さが0.1~15μm、平均粒子径が0.2~15000μm、アスペクト比(平均粒子径/平均厚さ)が2~1000の薄片状の粒子である。鱗片状ガラスの平均厚さは、少なくとも100枚の鱗片状ガラスを抜き出し、抜き出した各々の鱗片状ガラスについて走査型電子顕微鏡(SEM)等の拡大観察手段を用いて厚さを測定し、測定した厚さの平均値を算出して評価できる。鱗片状ガラスの平均粒子径は、レーザ回折散乱法により測定された粒度分布において累積体積百分率が50%に相当する粒子径(D50)により定めることができる。
【0047】
チョップドストランドは、ガラス繊維を短く切断した形状を有する。チョップドストランドの繊維径は、例えば1~50μmであり、アスペクト比(繊維長さ/繊維径)は、例えば2~1000である。チョップドストランドの断面の形状は、円形、楕円、楕円以外の扁平形状等であってもよい。チョップドストランドの繊維径は、当該ストランドの断面と同じ面積を有する円の直径として定められる。
【0048】
ミルドファイバーは、ガラス繊維を粉末状に切断した形状を有する。ミルドファイバーの繊維径は、例えば1~50μmであり、アスペクト比(繊維長さ/繊維径)は、例えば2~500である。ミルドファイバーの断面の形状は、円形、楕円、楕円以外の扁平形状等であってもよいよい。ミルドファイバーの繊維径は、当該ファイバーの断面と同じ面積を有する円の直径として定められる。
【0049】
ガラス粉末は、粉末状のガラスであり、通常、ガラスを粉砕して製造される。ガラス粉末の平均粒子径は、例えば1~500μmである。ガラス粉末の粒子径は、ガラス粉末の粒子と同じ体積を有する球体の直径として定められる。ガラス粉末の平均粒子径は、上記D50により定めることができる。
【0050】
ガラスビーズは、球形または略球形の形状を有する。ガラスビーズの平均粒子径は、例えば1~500μmである。ガラスビーズの平均粒子径も、上記D50により定めることができる。
【0051】
フラットファイバーは、断面が楕円等の偏平な形状であるガラス繊維を切断した形状を有する。フラットファイバーの断面の短径D1にする長径D2の比D2/D1は、例えば1.2以上である。短径D1は、例えば0.5~25μmである。長径D2は、例えば0.6~300μmである。フラットファイバーの長さLは、例えば10~1000μmである。フラットファイバーの断面は、中央が括れた形状であってもよい。言い換えると、フラットファイバーの断面形状は、長径D2に沿って延びる表面が端部よりも中央部において後退した凹形状を有していてもよい。この断面は、長径D2に沿った方向の中央部が両側から後退した略瓢箪形または略砂時計形である。
【0052】
ファインフレークは、厚さが薄い鱗片状ガラスである。ファインフレークは、例えば、平均厚さ0.1~2.0μmの鱗片状ガラスで構成されていてもよく、また例えば、厚さ0.01~2.0μmの範囲にある鱗片状ガラスを90質量%以上の割合で含有していてもよい。この程度に平均厚さが薄く、厚さのバラツキが小さいファインフレークは、被補強体の補強に優れた効果を発揮することがある。
【0053】
上記各ガラスフィラーおよびガラス繊維は、公知の方法により製造できる。ガラスフィラーおよびガラス繊維は、本実施形態のガラス組成物を熔融する工程と、熔融したガラス組成物をガラスフィラーへと成形する工程と、を含む方法により、製造されうる。ガラスフィラーの成形にはその形状に応じて公知の方法が適用される。例えば、鱗片状ガラスは、公知のブロー法、カップ法等により製造される。また、ガラス長繊維は、粘度を制御したガラス融液をノズルから流出させ、巻き取り機によって巻き取って製造される。ガラス長繊維の製造方法の具体例として、ガラス棒を加熱溶融しながらその一端を高速で引張って巻取る、いわゆる「ロッド法」、あるいはガラス素地を坩堝中で再溶融して、その底部に設けられた多数の小孔から流出させて、これを集め高速で巻取る、いわゆる「ポット法」がある。ガラス短繊維は、例えば、回転円盤による遠心力を利用した遠心法、または高圧蒸気、圧搾空気、火炎などによる吹付法により製造される。
【0054】
<ガラスフィラー含有製品およびガラス繊維含有製品>
本実施形態のガラスフィラー含有製品およびガラス繊維含有製品は、各種の製品において所望の機能を奏し得る。ガラスフィラー含有製品は、樹脂積層体、強化プラスチック、塗料、インク、電子基板、無機硬化体、および化粧品からなる群より選択される少なくとも1つに該当するものであってもよい。ガラス繊維含有製品は、ゴム補強用コード、ゴム製品、不織布、積層体(例えば、ガラスまたはその他無機物、もしくは樹脂を主体とする積層体)、プリプレグ、強化プラスチック、電子基板、無機硬化体、フィルター、断熱材、吸音材、およびバッテリーセパレータからなる群より選択される少なくとも1つに該当するものであってもよい。これらの製品は公知であるが、そのいくつかについて以下で説明する。
【0055】
無機系硬化体は、例えば、セメント、モルタル、コンクリート、ケイ酸カルシウム板、石膏である。ただし、無機系硬化体は、硬化を伴う製法によって製造されうるものであれば、上記以外であってもよい。硬化は、例えば、原料に水を加えて調製したスラリーを混錬することにより、或いはオートクレーブを用いて実施される。無機系硬化体は、ガラス繊維を除く残余が無機物を主成分とする限り、有機物を含んでいてもよい。
【0056】
ゴム補強用コードは、ガラス長繊維が束ねられてなるストランドを含んでいてもよい。ゴム製品は、ゴム補強用コードで補強されていてもよい。ゴム製品の例には、ゴムベルト、ゴムタイヤ、ゴムホースが含まれる。ゴムベルトの一例は伝動ベルトである。伝動ベルトの例には、噛み合い伝動ベルト、摩擦伝動ベルトが含まれる。噛み合い伝動ベルトの一例は、自動車用タイミングベルトに代表される歯付きベルトである。摩擦伝動ベルトの例には、平ベルト、丸ベルト、Vベルト、Vリブドベルトが含まれる。ゴムタイヤは、典型的には、自動車用タイヤまたは自転車用タイヤである。
【0057】
樹脂積層体は、例えばガラス繊維を含む成形体と樹脂材料とを含む積層体であり、また例えばプリント配線板用積層体および集積回路用積層体である。強化プラスチックは、例えばガラス繊維強化熱硬化性プラスチック製品(GFRP)およびガラス繊維強化熱可塑性プラスチック製品(GFRTP)である。
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明の実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1~27および比較例1~8)
表1~3に示した組成となるように、珪砂等の通常のガラス原料を調合し、実施例および比較例毎にガラス原料のバッチを作製した。電気炉を用いて、各バッチを1500~1600℃まで加熱して溶融させ、組成が均一になるまで約4時間そのまま維持した。その後、溶融したガラス(ガラス溶融物)の一部を鉄板上に流し出し、電気炉中で室温まで徐冷し、バルクとしてのガラス組成物(板状物、ガラス試料)を得た。
【0059】
特性の評価法を以下に説明する。
(作業温度)
得られたガラス組成物について、通常の白金球引き上げ法により粘度と温度との関係を調べ、その結果から作業温度を求めた。ここで、白金球引き上げ法とは、溶融ガラス中に白金球を浸し、その白金球を等速運動で引き上げる際の負荷荷重(抵抗)と、白金球に働く重力および浮力などとの関係を、微小の粒子が流体中を沈降する際の粘度と落下速度との関係を示したストークス(Stokes)の法則にあてはめることにより、粘度を測定する方法である。
【0060】
(失透温度)
粒子径1.0~2.8mmの大きさに粉砕したガラス組成物を白金ボートに入れ、温度勾配(800~1400℃)を設けた電気炉中で2時間保持し、結晶の出現した位置に対応する電気炉の最高温度から失透温度を求めた。ガラスが白濁して結晶が観察できない場合は、白濁の出現した位置に対応する電気炉の最高温度を失透温度とした。ここで、粒子径は、ふるい分け法により測定された値である。なお、電気炉内の場所に応じて異なる温度(電気炉内の温度分布)は、予め測定されており、電気炉内の所定の場所に置かれたガラス組成物は、予め測定された、当該所定の場所の温度で加熱される。温度差ΔTは、作業温度から失透温度を差し引いた温度差である。
【0061】
(ガラス転移温度)
得られたガラス組成物について、市販の膨張計〔(株)リガク、熱機械分析装置、TMA8510〕を用いて平均線膨張係数を測定し、TMA装置から得た熱膨張曲線に基づいて、ガラス転移温度Tgを得た。
【0062】
(ヤング率)
ヤング率は、通常の超音波法により、ガラス中を伝播する弾性波の縦波速度vlと横波速度vtを測定し、別にアルキメデス法により測定したガラスの密度ρから、E=3ρ・vt
2・(vl
2-4/3・vt
2)/(vl
2-vt
2)の式により求めた。
【0063】
(アルカリ溶出量)
アルカリ溶出量の測定は、日本産業規格(JIS)の「化学分析用ガラス器具の試験方法 R 3502‐1995」に準拠した方法により行った。ガラス試料を粉砕して得たガラス粉末をJIS Z 8801に規定の標準網ふるいにかけ、目開き420μmの標準網ふるいを通過し、目開き250μmの標準網ふるいにとどまったガラス粉末を、ガラスの比重と同じグラム数量秤り取った。このガラス粉末を100℃の蒸留水50mLに1時間浸漬した後、この水溶液中のアルカリ成分を0.01Nの硫酸で滴定した。滴定に要した0.01Nの硫酸のミリリットル数に0.31を乗じることにより、Na2Oに換算したアルカリ成分のミリグラム数を求め、このミリグラム数をアルカリ溶出量とした。このアルカリ溶出量が小さいほど耐水性が高いことを示す。
【0064】
(耐アルカリ性)
ΔWの測定は、日本光学硝子工業会規格(JOGIS)の「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)06-2009」に準拠した方法により行った。ガラス試料を粉砕して得たガラス粉末を日本産業規格(JIS)Z 8801に規定される補助網ふるい710μmおよび標準網ふるい600μmを通過させ、標準網ふるい425μmを通過しない大きさのガラス粉末をガラスの比重と同じグラム数量り取った。このガラス粉末を80℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液100mLに72時間浸漬した場合の質量減少率を求め、この質量減少率をΔWとした。ここでは、JOGISの測定方法で用いられる0.01N(mol/L)硝酸水溶液の代わりに、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いている。また、水酸化ナトリウム水溶液の温度は80℃とし、液量は、JOGISの測定方法における80mLの代わりに、100mLとしている。さらに、処理時間は、JOGISの測定方法における60分間の代わりに、72時間としている。
【0065】
これらの測定結果を表1~3に示した。なお、表中のガラス組成は、すべて質量%で表示した値である。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
実施例1~27で得られたガラス組成物のヤング率は、87~93GPaであった。実施例1~27で得られたガラス組成物のガラス転移温度は619~736℃であり、作業温度は1133~1207℃ であり、温度差ΔT(作業温度-失透温度)は1~77℃であった。実施例1~27で得られたガラス組成物のアルカリ溶出量は0.09~0.38mgであり、ΔWは0.76~2.64質量%であった。
【0070】
比較例1~8のガラス組成物は総合的な観点から特性において相対的に劣っていた。なお、比較例3および4に示すガラス組成物は、失透のために均質なガラスが得られず、特性を評価できなかった。また、比較例1のガラス組成物はEガラス組成を、比較例2のガラス組成物はARガラス組成をそれぞれ有する。