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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024007455
(43)【公開日】2024-01-18
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 3/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B43K3/00 Z
B43K3/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023106515
(22)【出願日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2022107380
(32)【優先日】2022-07-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田村 誠
(72)【発明者】
【氏名】牧 貴之
(57)【要約】
【課題】 環境負荷の少ない熱変色性筆記具を提供する。
【解決手段】 筆記体を除く部材に海洋プラスチックを用い、海洋プラスチックの比率を少なくとも10%以上とした。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱変色性インクを筆記体に収容し、前記筆記体を軸筒内に備え、筆記体を除く各部材の材料に少なくとも海洋プラスチックを10%以上含有することを特徴とする熱変色性筆記具。
【請求項2】
各部材は海洋プラスチックと合成樹脂とを含み、海洋プラスチックと合成樹脂と比率を1:5~10とすることを特徴とする請求項1記載の熱変色性筆記具。
【請求項3】
筆記体以外の各部材を使用樹脂部材が全て同一な材質、グレードで構成されてなることを特徴とする請求項2記載の熱変色性筆記具。
【請求項4】
内面に複数の嵌合突起が形成された軸筒と、外面に環状嵌合部が形成された軸筒とによって、前記嵌合突起と前記環状嵌合部とが弾性変形を伴いながら互いを乗り越え、一方の後端面が他方の環状の面に当接することで軸筒の螺合及び嵌合が完成することを特徴とする請求項3記載の熱変色性筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の材料を用いた熱変色性筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の合成樹脂を用いた熱変色性筆記具においては、αオレフィン系コポリマーを用いた特許文献1のような技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2018/116767号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、大量に漂流するプラスチックごみによる海洋汚染の深刻化が懸念されており、海洋プラスチックごみの有効な処理方法を確立することが、世界中で喫緊の課題となっている。しかし、特許文献1に記載された発明は、そのような課題に対しての解決には至っていない。そこで、環境負荷を低減した熱変色性筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、熱変色性インクを筆記体に収容し、前記筆記体を軸筒内に備え、筆記体を除く各部材の材料に少なくとも海洋プラスチックを10%以上含有することを特徴とする熱変色性筆記具である。特に軸筒とすることが好ましい。なお、海洋プラスチックとは、海洋中に廃棄されたビニール片、ペットボトル及び漁具等のプラスチックごみをいう。
また、海洋プラスチックと合成樹脂とを1:5~10とすることが好ましく、安定した筆記具部品としての品質を得ることが容易となる。
また、筆記体以外の各部材を使用樹脂部材が全て同一な材質、グレードで構成されてなることにより、筆記具の回収、再利用を容易にすることができる。
また、各部品の表面には、下地処理がなされ、その上に文字等の装飾を施すことで、意匠性のあるものやギフト商材としての筆記具を提供することができる。下地処理は、ウレタン変性塩素化ポリプロピレンと、水酸基価が50~150、酸価が1~40そして数平均分子量が1300~8000のポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂及びポリエーテル樹脂を主成分とした塗料を塗布することが好ましい。
また、筆記具のクリップを備え、平面視から波状の段差部を形成することが好ましい
また、内径の拡径の傾斜角が軸線に対して45°未満とすることが好ましい。
また、熱変色性インクは、(a)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(b)電子受容性化合物からなる成分と(c)前記(a)成分および(b)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とを含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、合成層状シリケートと、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩と、剪断減粘性付与剤と、水とを含んでなり、前記合成層状シリケートが、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であることを特徴とするなお、熱変色性インクは、合成層状シリケートが、ヘクトライトであり、 1価の陽イオンの無機塩含有量が、水性インク組成物の総質量を基準として、1~10質量%である、グリセリンの含有量が1価の陽イオンの無機塩の含有量より質量基準で多く含まれてなる前記1価の陽イオンの無機塩がアルカリ金属の塩である前記剪断減粘性付与剤が多糖類であり、EL型粘度計、回転速度1rpm、20℃にて測定した時の粘度が、100~400mPa・sであることが好ましい。
また、内面に複数の嵌合突起が形成された軸筒と、外面に環状嵌合部が形成された軸筒とによって、前記嵌合突起と前記環状嵌合部とが弾性変形を伴いながら互いを乗り越え、一方の後端面が他方の環状の面に当接することで軸筒の螺合及び嵌合が完成することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、各部材の材料に海洋プラスチックを10%以上含有することにより、環境負荷の低い熱変色性筆記具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態を示す筆記具の全体図である。
図2】実施形態を示す筆記具の軸筒の部品図である。
図3】実施形態を示す筆記具の内筒の部品図である。
図4】実施形態を示す筆記具の軸筒と内筒の嵌合部を示す部品図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0009】
図1は、本発明の第1実施形態による筆記具1の非筆記状態である。図1(a)は平面図、図1(b)は正面図、図1(c)は図1(b)の縦断面図である。なお、本明細書中では、筆記具1の軸線方向において、筆記部側を「前」側と規定し、筆記部とは反対側を「後」側と規定する。さらに、筆記具1では、ノック機構によって、リフィル20が軸筒10内を前後方向に移動する。このとき、筆記部が軸筒10内に没入した状態を非筆記状態(図1)と称し、筆記部が軸筒10から突出した状態を筆記状態と称す。
【0010】
筆記具は、筒状に形成された軸筒10と、軸筒10内に配置され且つ一端に筆記部であるボールペンチップ21を備えた筆記体であるリフィル20と、リフィル20を後方へ付勢するスプリング5と、軸筒10の後部に配置されたノック機構とを有する。ノック機構10は、それぞれ筒状に形成されたクリップ4を備えた内筒3と操作部1と回転子2とを有する。
【0011】
操作部1の前側の外周面には、8つの突起部が周方向に等間隔に設けられている。突起部の各々は、ノック操作によって、内筒3に形成されたガイド溝内を前後方向に移動するように構成されている。また、操作部1の前端面にはカム面が形成され、カム面は8つの山部及び谷部を有する。さらに操作部1は、後端部が熱変色性インクの消去部として機能する。
【0012】
回転子2は、操作部1内に挿入される小径部と、小径部の前方に形成された中径部と、中径部の前方に形成された大径部とから成る。中径部は小径部よりも大きな直径を有し、大径部は中径部よりも大きな直径を有する。中径部の後端面には、操作部1の先端カム面と相補的な形状のカム受け面が形成されている。カム受け面は操作部1のカム面と同様に8つの山部及び谷部を有する。中径部の外周面には、前後方向に延在する4つの内カムが周方向に等間隔に設けられている。内カムは、ノック操作によって回転子2が周方向に回転すると、内筒3に形成された外カムと係合し又は外カム間のガイド溝内に収容される。内カムが外カム間のガイド溝内に収容されるとき、外カムは内カム間の溝内に収容される。操作部1のカム面及び回転子2のカム受け面は、内カムが外カムと係合し又は外カム間のガイド溝内に収容されるとき、カム面の山部が、周方向において、カム受け面の隣接する山部と谷部との間の斜面上に位置するように構成されている。このため、ノック操作によってカム面の斜面がカム受け面の斜面を押圧すると、この操作荷重及びスプリング5による付勢力に起因し、回転子2は周方向の分力を受けて周方向に回転する。回転子2の大径部の前端面には、リフィル20との当接面が形成されている。また、前記当接面にはリフィル20の通気を確保するために中心から外周方向にかけて細溝が形成されている。
【0013】
図2は、実施形態に係る軸筒10の部品図である。図2(a)は縦断面図、図2(b)は後方からの斜視図である。
軸筒10の前端部は外径が拡径するテーパー状に形成され、リフィル20のボールペンチップ21を突出させるための貫通孔11が形成されている。軸筒10の後端部内面は雌ネジ12が形成され、内筒3の前端部との螺合によって嵌合する。軸筒10の前端側内面はスプリング5を固定する複数のリブ13が形成される。前記貫通孔11の後端と前記リブ13の後部、及び雌ネジ12の前側には徐々に縮径する傾斜面14が形成されている。傾斜面14は、軸筒10の内径を拡径しており、材料の成形性、特に離型時の容易さを確保するために軸筒10の長手方向である軸線に対して45°未満の傾斜角とすることが好ましい。
【0014】
また、スプリング5を軸筒10の後端部から内部に挿入する組立時には、複数のリブ13の傾斜面14によってスプリング5の前端部が案内される。その結果、スプリング5の前端部が、複数のリブ13によって包囲されることによって位置決めされ、スプリング5は座屈することなく伸縮が可能となる。
【0015】
雌ネジ12の後方には、複数の嵌合突起15が周方向に沿って等間隔に形成されている。嵌合突起15は、本実施形態では4箇所形成されているが、少なくとも2~8箇所を形成することが好ましい。
【0016】
軸筒10の表面には、更に下地処理がなされ、その上に文字等の装飾を施すことで、装飾が軸筒10から安易に剥がれること無く意匠性のあるものを持続して提供することができる。下地処理は、ウレタン変性塩素化ポリプロピレンと、水酸基価が50~150、酸価が1~40そして数平均分子量が1300~8000のポリエステル樹脂と、エポキシ樹脂及びポリエーテル樹脂を主成分とし、更に導電性物質を配合した塗料を塗布する。その後、文字や模様を前記塗料上に塗布される。
【0017】
ウレタン変性塩素化ポリプロピレンは、塩素化ポリプロピレンとポリウレタン樹脂とを、混合するもしくは付加反応せしめることによって得られる。このうち、塩素化ポリプロピレンは、例えばプロピレン単独重合体もしくはこれと他のオレフィン系モノマー等との共重合体を塩素化したものであり、塩素含有率は1~60質量%が好ましい。また、該塩素化ポリプロピレンの数平均分子量は5000~200000が適している。ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート化合物とポリオール成分とのウレタン化反応生成物であって、その分子中に遊離の水酸基及び/又はイソシアネート基を有していることが好ましい。該ポリイソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有している化合物で、それ自体既知の脂肪族系、芳香族系及び脂環族系のポリイソシアネートが使用できる。該ポリオール成分は1分子中に2個以上の水酸基を有するもので、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、低分子量多価アルコール等が挙げられる。なお、両成分の比率は目的に応じて任意に選択できるが、該両成分の合計固形分質量に基づいて、塩素化ポリプロピレンは5~95%、ポリウレタン樹脂は95~5%が適している。
【0018】
ポリエステル樹脂は、多塩基酸成分と多価アルコール成分とをエステル反応せしめることによって得られる。該多塩基酸成分は1分子中にカルボキシル基を2個以上有する化合物で、脂肪族系、脂環族系及び芳香族系等の多塩基酸から選ばれた1種もしくは2種以上が使用できる。このうち脂環族系の多塩基酸を含んでいることが好ましい。これらの多塩基酸成分は既知のものが使用できる。特に脂環族系多塩基酸として、例えば1,4-シクロヘキシレン構造を有するヘキサヒドロテレフタル酸、メチルヘキサヒドロテレフタル酸及びこれらの低級アルキルエステル等を使用すると仕上り外観、耐溶剤性及び塗膜柔軟性等の優れた塗膜を得ることができる。多価アルコール成分は、1分子中に水酸基を2個以上有する化合物で、脂肪族系、脂環族系及び芳香族系等の多価アルコールから選ばれた1種もしくは2種以上が使用でき、このうち脂環族系多価アルコールを含んでいることが特に好ましい。これらの多価アルコール成分は既知のものが使用でき、このうち脂環族系多価アルコールとして、例えば1,4-シクロヘキシレン構造を有する1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA及び水添ビスフェノールF等を使用すると仕上り外観、耐溶剤性及び塗膜柔軟性等の優れた塗膜を容易に得ることができるので好ましい。脂環族系の多塩基酸及び/又は多価アルコール成分の含有率は目的に応じて任意に選べるが、該ポリエステル樹脂固形分中10~65質量%が好ましい。ウレタン変性ポリエステル樹脂を調製するためのポリエステル樹脂とポリイソシアネート化合物との比率は、ポリエステル樹脂100質量部あたり、0.5~20質量部が適しており、ポリエステル樹脂中の水酸基がポリイソシアネート化合物中のイソシアネート基より過剰であることが好ましい。ポリエステル樹脂成分は、水酸基価が50~150、酸価が1~40、特に3~40、そして数平均分子量が1300~8000であることが好ましい。水酸基価が50より小さくなると上塗塗膜との付着性が低下し、一方、150より大きくなると耐水付着性が低下するのでいずれも好ましくない。また、酸価が1より小さくなると上塗塗膜との付着性が低下し、一方、40より大きくなると上塗塗膜の平滑性が低下するのでいずれも好ましくない。そして、数平均分子量が1300より小さくなると塗膜表面が粘着性となり、一方、8000より大きくなると他の成分との相溶性が低下するのでいずれも好ましくない。
【0019】
エポキシ樹脂は、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ樹脂であって、例えば、ビスフェノール型のグリシジルエーテル、グリシジル基含有アクリル樹脂等があげられ、これらは数平均分子量が1500~5000、エポキシ当量が150~300である。
【0020】
ポリエーテル樹脂は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド及びテトラメチレンオキサイド等から選ばれた1種以上のアルキレンオキサイドによるポリエーテルポリオールが好適である。これらの数平均分子量は約1000~200000の範囲が好ましく、その分子中に1個以上の水酸基を有してもよい。
【0021】
導電性物質は、塗面への上塗塗料の静電塗装性を向上させるのに有利である。具体的には、導電性カーボンブラック、銀、ニッケル、銅及びグラファイト等から選ばれた1種もしくは2種以上が挙げられ、これらは粉末もしくは粒子状であることが好ましく、その粒径は0.1~500μmが適している。
【0022】
更にセルロースアセテートブチレートを含有し、セルロースの部分アセチル化物をブチルエーテル化して得られるセルロース誘導体であり、好適にはアセチル化度が一般に1~34質量%;ブチル基含有率が一般に16~60質量%;ASTM-D-1343154に記載された測定法による粘度が一般に0.005~5秒の範囲内に包含されるものが好ましい。
【0023】
前記下地処理の塗料の各成分の配合比率は、固形分質量に基づいてウレタン変性塩素化ポリプロピレンの100質量あたり、ポリエステル樹脂成分は3~50質量部、エポキシ樹脂成分は3~20質量部、ポリエーテル樹脂成分は3~20質量部がそれぞれ好ましい。さらに、導電性物質成分は100質量部未満、セルロースアセテートブチレート成分は100質量部未満とすることが好ましい。そして上記各成分を通常の塗料用有機溶剤に混合・分散せしめ、固形分含有率10~60質量%に調整することによって得られる。
【0024】
軸筒10への装飾は、前記塗料を軸筒への塗装膜厚は5~30μm程度の範囲が好ましく、該塗膜は80~150℃程度に加熱することによって硬化し、更にアクリル樹脂/アミノ樹脂又はポリイソシアネート系、アルキド樹脂又はポリエステル樹脂/アミノ樹脂又はポリイソシアネート系等の塗料により所定の模様や文字等により装飾を完成させることができる。
【0025】
図3は、実施形態に係る内筒3の部品図である。図3(a)は平面視であり、図3(b)は正面図である。
内筒3は、内面には4つの外カムが周方向に等間隔に設けられ、回転子2及び操作部1を前後方向に摺動可能な構造となっている。外面には筒状に形成され、その一端には、クリップ4が内筒と一体に形成されている。クリップ4は平面視から波状の段差部4aにより軸筒10との螺合による接続の際に指が引っかかりやすいように形成されている。また段差部4aは、持続可能性(サステナブル)をしめすS字状の模様となり、海洋プラスチック製品との結びつきを強くする効果を奏している。内筒3の前側は外周より細い筒状の外径に形成され、細い筒状の外径の外周には雄ネジ4bが形成され、軸筒10の雌ネジと螺合可能とするように形成されている。また、雄ねじ部4bの後方には、環状の突起である環状嵌合部4cが形成されている。
【0026】
操作部1、回転子2、内筒3、軸筒10のリフィル20及びスプリング5を除く各部材については、少なくとも海洋プラスチックを10%以上と合成樹脂とを含有した材料を用いる。また、各部材の使用樹脂部材を全て同一な材質、グレードで構成されてなることにより、筆記具の回収、再利用を容易にすることができる。なおスプリング5も操作部1等と同じ材質、グレードで構成してもよい。
合成樹脂は、環境負荷低減から再生プラスチックとすることが好適である。再生プラスチックとは分別回収プラスチックを溶融、混練して成形用プラスチック原料として再生されたプラスチック、およびこの成形用プラスチック原料を成型してプラスチック成形品として再生されたプラスチックをいう。具体的な再生プラスチックとしては、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の再生品が挙げられる。
海洋プラスチックと再生プラスチックとの比率は1:5~10であり、より好ましくは1:7である。ゴムのような粘弾性を有さず、表面のべたつきがないため操作部1をノック操作と共に熱変色性インクの摩擦具としても好適に用いることができる。また、操作部1だけでなく、直方体形状等に形成して摩擦具のみとしての使用をすることができる。
添加剤は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、相溶化剤などのプラスチック製造による品質安定を目的としている。特に耐光性に優れた添加剤を用いることが好ましい。
着色剤は、バラツキのある樹脂表面の外観を安定させることができる。
【0027】
図4は、図3における軸筒10の嵌合突起15と内筒4の環状嵌合部4cとの嵌合を示す断面拡大図である。軸筒10の後端部の内部に対して、内筒4の前端部を挿入してねじ込むと、軸筒10の雌ねじ部12と内筒4の雄ねじ部4bとが徐々に螺合する。ねじ込みを続けることで軸筒10の内部に内筒4が徐々に挿入されると、最終的には、軸筒10の嵌合突起15と内筒4の環状嵌合部4cとが弾性変形を伴いながら互いを乗り越え、軸筒10の後端面が内筒4の環状の面に当接することで螺合及び嵌合が完成する。その結果、軸筒10と内筒4とは、軸筒10の雌ねじ部14と内筒4の雄ねじ部4bとによって、軸線方向に係止している。
【0028】
一般に筆記具は、筆記動作によって筆記具全体に振動が加わり、その振動によって螺合部分において螺合が徐々に緩む場合がある。特にねじ部の材料に海洋プラスチックを用いた場合は、既存のプラスチック材料より緩みやすいため、軸筒10の嵌合突起15と内筒4の環状嵌合部4cとが軸線方向に係止することで、軸筒10と内筒4との螺合が緩むことが防止される。なお、軸筒10の嵌合突起15と内筒4の環状嵌合部4cとは、逆に、軸筒10側に環状嵌合部が設けられ、内筒4側に嵌合突起が設けられていてもよく、軸筒10側及び内筒4側の両方に環状嵌合部が設けられていてもよい。また、軸筒10側及び内筒4側の一方に突起状の凸部が形成され、軸筒10側及び内筒4側の他方に凸部に嵌合する凹部が形成されていてもよい。
【0029】
上述した実施形態における筆記体であるリフィル20は、筆記部であるボールペンチップ21と、インク25を収容するインク収容管22と、ボールペンチップ21とインク収容管とを接続する継手24とで構成される。インク収容管22は、インク25が充填される薄肉部26と継手24と嵌合する厚肉部23からなり一体に形成されている。薄肉部26の肉厚を0.5~1mm未満とし、圧肉部23を1mm以上と肉厚差を設けることで、インク25の収容量を増やして筆記可能距離を増やすことが可能となる。
【0030】
インク収容管22には熱変色性インク25を収容する。この場合、筆記具1は熱変色性筆記具であり、消去部である操作部1によって擦過した際に生じる摩擦熱によって、筆跡を熱変色可能である。なお、筆記体として、熱変色性インクでないボールペンリフィルとしてもよい。
【0031】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば65℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば-15℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクを言う。熱変色性インクを用いた筆記具1では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して消去材としての摩擦具によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお第2色を無色以外の有色とする場合、第1色より淡い色とすることで描線に摩擦熱を生じさせたかが容易に判別することができる。
【0032】
熱変色性インクを具体的に説明すると、マイクロカプセル顔料と、特定の合成層状シリケート、グリセリン、1価の陽イオンの無機塩、剪断減粘性付与剤、水とを含んでなる。
特に(a)電子供与性呈色性有機化合物からなる成分と(b)電子受容性化合物からなる成分と(c)前記(a)成分および前記(b)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体とを含んでなる可逆熱変色性組成物を内包する可逆熱変色性マイクロカプセル顔料と、グリセリンと、1価の陽イオンの無機塩と、剪断減粘性付与剤と、水と、合成層状シリケートとを含んでなり、前記合成層状シリケートが、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であることを特徴とする可逆熱変色性ボールペン用水性インク組成物とすることで、マイクロカプセル顔料と比重調整剤を含んだインクビヒクルの比重を近似させることができ、マイクロカプセル顔料がインク組成物中で均一に分散することが可能となり、安定的にインクを保つことがとなる。
【0033】
合成層状シリケートは、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満である合成層状シリケートを含んでなる。本発明に用いる合成層状シリケートは、マイクロカプセルの表面に作用するもので有り、マイクロカプセル顔料を、安定的に均一に分散を保つことを可能とするものであり、これらは、2種以上用いてもよい。前記合成層状シリケートは、B型粘度計、回転速度30rpm、20℃にて測定した時の2%濃度水溶液の粘度が20mPa・s未満であるが、20mPa・s以上のものを用いると、インク粘度が高くなりすぎるため筆記性が低下するだけでなく、剪断減粘性付与剤と共に用いると、マイクロカプセル顔料の凝集が非常に強くなり、剪断減粘性付与剤の3次元的な構造の中から水が排出され、保持されている水分が分離して液状にしみ出してくる、いわゆる離奬を起こすことが有り、インク組成物としての経時安定性を損なうことや、ボールペンの保管状態の違いで、筆跡が薄くなることや、筆記できなくなる恐れがある。前記合成層状シリケートの配合割合としては、インク組成物の総質量に対して、0.01質量%~1.0質量%であることが好ましい。この範囲より少ないと所望するマイクロカプセル顔料の安定性が得られ難く、この範囲より多く配合しても更なるマイクロカプセル顔料安定性の向上は得られない。
【0034】
グリセリンは、インク組成物の比重調整剤の他、保湿剤として働く。グリセリンを用いることにより、後述する1価の陽イオンの無機塩が析出することを抑制する働きを有する。さらに、保湿剤として、インク組成物を筆記具に用いた際に、筆記先端が乾燥するドライアップに対しての効果も有する。グリセリンの配合割合としては、インク組成物の総質量に対して、1質量%~30質量%であることが好ましい。この範囲より少ないと後述する無機塩の析出を抑制し難しくなり、この範囲より多いとインク粘度が高くなって吐出を阻害するだけでなく、筆跡が乾きにくくなる傾向がある。前記範囲であると、適切なインク粘度を保ちつつ無機塩の析出を抑制でき、インクビヒクルの比重調整にも寄与することができる。
【0035】
さらに、1価の陽イオンの無機塩を含んでなる。前記無機塩は、インク組成物の比重調整剤として働く。1価の陽イオンの無機塩を配合することで、比較的比重の大きいマイクロカプセル顔料に対しても沈降を抑制することができる。本発明に用いる1価の陽イオンの無機塩としては、陽イオンがアルカリ金属であることが好ましい。具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。より具体的な1価の陽イオンの無機塩としては、前記アルカリ金属のハロゲン化物や、硫酸塩などが挙げられ、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化セシウム、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ルビジウム、硫酸セシウムなどが挙げられる。2価以上の陽イオンの無機塩はそれ自体の水溶性が高くなく、また水和した状態でも特定の陰イオンと難水溶性の塩を形成して析出を生じやすいため、比重調整を目的とした多量の添加には不適切である。1価の陽イオンの無機塩の配合割合としては、インク組成物の総質量に対して、1質量%~10質量%であることが好ましい。この範囲より少ないと所望のビヒクル比重に調整することが困難であり、この範囲より多いと筆記具としたときにペン先の僅かな乾燥でも析出を生じやすくなる傾向がある。前記範囲であると、前記グリセリンとの組み合わせにより析出することなく所望のビヒクル比重に調整できる。
【0036】
剪断減粘性付与剤としては、架橋型アクリル酸重合体や、多糖類、会合型増粘剤が挙げられる。剪断減粘性付与剤は、インク組成物全量中、0.05~0.2質量%とすることにより、インク組成物中でマイクロカプセル顔料が凝集、浮遊、沈降することを抑制する効果と、ペン先の乾燥に起因するカスレや筆記不能の発生を抑制する効果を共に満たす。
【0037】
熱変色性インク25は、20℃でEL型粘度計を用いて1rpmで測定したインク粘度が100~400mPa・sである。
【0038】
インク収容管には,熱変色性インク25と前記熱変色性インク25の後端には、逆流防止体が充填される。前記逆流防止体は不揮発性液体及び/又は難揮発性液体からなり、具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等を挙げることができる。これらは、一種を単独で、又は二種以上を併用することもできる。前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体には、ゲル化剤を添加して、好適な粘度まで増粘させることが好ましい。ゲル化剤は、特に限定されず、表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイト等の粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等を挙げることができる。更に、前記液状のインク逆流防止体組成物と、固体の逆流防止体を併用することもできる。
【実施例0039】
実施形態に係る筆記具の各部材、軸筒10、操作部1、回転子2、内筒3の構成を以下に示す。
海洋プラスチック:ポリエチレン(Beachylene) 12.5質量部
再生プラスチック:再生ポリプロピレン 87.5質量部
海洋プラスチックと再生プラスチックとの比率 1:7
添加剤:BYK4372 0.5質量部
着色剤:1.2質量部
上記の材料を混練させ、射出成形により各部材を形成した。
【0040】
なお、リフィル20に収容する熱変色性インクの構成を以下に示す。
可逆熱変色性マイクロカプセル顔料A 17.0質量部
塩化ナトリウム(1価の陽イオンの無機塩) 3.0質量部
グリセリン 22.5質量部
合成層状シリケート(LAPONITE S-482) 0.1質量部
剪断減粘性付与剤(多糖類、キサンタンガム) 0.1質量部
糖混合物(三和澱粉工業(株)製、商品名:サンデック#100)2.5質量部
潤滑剤(リン酸エステル系界面活性剤) 1.0質量部
防腐剤(プロキセルXL-2) 0.2質量部
水 52.8質量部
上記組成物をPRIMIX社製ホモディスパーにより撹拌混合を行い、熱変色性水性インクを得た。なお前記インクの粘度は294mPa・sであった。
【符号の説明】
【0041】
1 操作部
2 回転子
3 内筒
4 クリップ
5 スプリング
10 軸筒
20 リフィル(筆記体)
25 熱変色性インク


図1
図2
図3
図4